のび太の家に集まったいつものメンバー5人。
ジャイアンの強引な決定により、宇宙旅行をすることになった。
ドラえもん「しょうがないなぁ、宇宙救命ボート!」
<宇宙救命ボート>
プリン型の宇宙船。
口で条件を伝えれば、それだけで条件を満たした星に連れて行ってくれる。
ドラえもん「どこにいく?」
のび太「面白いとこ」
しずか「私達と容姿が近い人の星がいいわね」
ジャイアン「危険がわんさかある場所に行きたいぞ」
スネ夫「行った事がない星がいいかな」
ドラえもん「えぇと、面白くて住んでる人たちの外見が地球人に近くて
危険があってぼくらが行った事がない星!」
宇宙救命ボートは地球を飛び出し、瞬く間にある惑星に到着した。
元スレ
のび太「……ハンター試験?」
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1324124173/
ドラえもん「よし、ついたよ。念のため、体をテキオー灯を照らして
ほんやくコンニャクを食べとこう」
<テキオー灯>
懐中電灯型の道具。
これで体を照らすと、24時間はどんな環境にも適応する事ができる。
<ほんやくコンニャク>
コンニャク型の道具。
食べるだけで、あらゆる言語に対応できるようになる。
ジャイアン「ようし、みんな俺様についてこい!」
4人「おおー!」
着陸地点は大きな都市の郊外だった。
しずか「ずいぶん地球と似てるわね」
ドラえもん「うん、おそらく文明は地球と同じくらいだね」
ジャイアン「ちぇ、つまんねぇの。もっとバケモノとか出てくる星がよかったぜ」
スネ夫「ホッ……(よかった、どうやら平和な星らしいな)」
のび太「とりあえず、あの大きな街に行ってみようよ」
ドラえもん「この街はザバン市っていうみたいだ」
五人はしばらくザバン市を観光した。
しかし、これまで体験した星と違い、文化も非常に似通っていたため
さほど大きな驚きには出会えなかった。
ツバシ町というところの大きなビルに差しかかった時、
ジャイアンがぼやく。
ジャイアン「あーあ、つまんねー。大きいけどふっつーな街だな。
おいドラえもん、腹減っちまったし、メシ食ったら他の星いこーぜ」
スネ夫「うん、もっと面白い星に行こうよ。
こう地球と似てると海外旅行とあまり変わらないよ」
のび太「ぼくもお腹へった……」
ドラえもん「……んもう。じゃあグルメテーブルかけで──」
ジャイアン「お、あそこに定食屋があるぜ。行くぞ、スネ夫!」
スネ夫「えぇ~、もっとぼくに相応しい高級なレストランの方が」
ゲンコツ。
ジャイアン「行くぞ」
スネ夫「わ、分かったよ。トホホ……」
ドラえもん「ちょっと待ってよ、この星のお金なんか持ってないのに」
しずか「あぁ、入っちゃったわ……」
のび太「ぼくらも入ろうよ、しずちゃん。ドラえもんがなんとかしてくれるよ」
ドラえもん(逃げる道具を探しておくか)
5人に店主が尋ねる。
店主「いらっしぇーい! ご注文は?」
ジャイアン「(肉がいいな)ステーキ定食!」
店主「──焼き方は?」
のび太「(あまり焦げたのは嫌だな)弱火でじっくりで」
店員「お客さん、奥の部屋へどうぞー!」
ジャイアン「お、なんか特別扱いみたいだぞ」
のび太「やったあ!」
店主「ん? ちょっと待ちな、お前たちは申し込みをしてなかったな」
のび太「え?」
しずか「もしかして予約制の定食屋なんじゃないかしら」
ジャイアン「何とかしろよ、ドラえもん!」
ドラえもん「(ムチャクチャな……)ソノウソホント~!」
<ソノウソホント>
クチバシ型の道具。
これをつけてしゃべると、どんなウソでも本当になる。
ドラえもん「ぼくたち全員、ちゃんと申し込みしてます」
店主「あ、そういやそうだった。すまんすまん」
5人は奥の部屋へ連れて行かれた。
中にはジュージューと音を立てて焼ける肉があった。
ドアが閉まる際、5人は店員から人数分のプレートを手渡された。
ドラえもん「406、407……? 410まで5人分ある。なんだこれ」
スネ夫「クジかなんかの番号でしょ。キャンペーンでもやってるんだよ」
ジャイアン「どうでもいいよ、んなもん。さっさと食べようぜ」
のび太「いっただきまぁす」
しずか(できれば野菜の方がよかったわ、太っちゃう)
すると、5人はふわりと宙に浮く感覚に襲われた。
のび太「ん、なんかこの部屋動いてない?」
スネ夫「あそこ見てよ! 数字が動いてる、この部屋はエレベータなんだ!」
ジャイアン「なんだとぉ!?」
表示されている数字は、部屋が地下へ地下へ潜っている事を示している。
スネ夫「げぇ、B49、50、51、52……。止まる気配がないよ!
このままぼくら、地中に埋められちゃうんじゃないの!?」
しずか「私たち、異星人だってバレて、捕まったのかしら……」
ドラえもん「ぼくらはテキオー灯を浴びてるからたとえ星の中心に行っても
大丈夫だけど……いざとなったら脱出しよう!」
ジャイアン「だらしないな、お前ら。俺たちはこういう冒険を待っていたんだろ!?」
のび太「そうさ、どんな困難があってもぼくらなら大丈夫さ!」
スネ夫(ジャイアンはともかくのび太まで、らしくなく頼もしいこといっちゃって……)
まもなくB100でエレベーターは止まった。
ドアが開くと、薄暗い地下道に大勢がたむろしていた。ざっと数百人はいる。
その数百の視線が、一斉に5人に向かう。
ドラえもん(なんだここは!?)
のび太(うわ、おっかなそうな人ばっかり……)
しずか(なんの集まりなのかしら?)
スネ夫(ひぃ~~ママぁ~~)
ジャイアン(なんだか面白そうなことになってきやがったぜ!)
スネ夫「ねぇ逃げ──」
ジャイアン「冒険はこうでなくっちゃ! なぁ、みんな?」
のび太「(怖いけど、しずちゃんの前だし)うん!」
しずか「さっきのプレート、みんな胸につけてるわね。私たちもつけましょう」
406.剛田武。
407.骨川スネ夫。
408.源静香。
409.ドラえもん。
410.野比のび太。
しずか「ドラちゃん、この番号は多分──」
ドラえもん「うん、おそらく来た順に渡されてるんだろうね。
つまりここにはぼくらを含めて410人いるんだろう」
トンパ「よう、君たちハンター試験は初めてだね?」
のび太「……ハンター試験?」
ジャイアン「なんだよおっさん」
トンパ「俺はトンパっていうんだ。10歳から35回ハンター試験を受けてるベテランさ」
のび太「つまりおじさんは、25歳か」
ジャイアン「違うぞのび太、55歳だぞ」
トンパ(なんだこのバガガキどもは……)
トンパ「君たちは何歳だい?」
のび太「10歳です。小学4年生」
トンパ「奇遇だね、俺の初受験の歳と一緒か。この会場にたどり着けただけでも大したもんだ。
ま、分からない事があったら何でも聞いてくれ」
のび太「どうもありがとう!」
ジャイアン「助かるぜ、おっさん!」
トンパ(4人の子供と……タヌキかなんかの魔獣か。
体も頭も弱そうなのに、よくここまで来れたもんだ。
ま、こういう奴らこそ俺様の絶好のカモなんだがな)
トンパ「君らもステーキ食ったんだろ? だったらノドが渇いてるだろ──」
トンパが缶ジュースを取り出そうとした瞬間、悲鳴が上がった。
「ぎゃあああああ! 俺の腕があああああ!!」
ヒソカ「ククク、人にぶつかったら謝らなくちゃね」
58番「ひいいいいい!!」
ドラえもん「なんてひどい事を……」
しずか「許せないわ!」
のび太「ドラえもん、なんとかならない?」
ドラえもん「ようし、少し懲らしめなくちゃ」
トンパ(オイオイ、懲らしめるって……こいつら死ぬつもりか?)
ドラえもん「どくさいスイッチ~!」
<どくさいスイッチ>
消したいと思った相手を一時的に消すことができる道具。
なお、のび太はこれで世界中の人間を消して後悔したことがある。
ドラえもん「トンパさん、あの44番の人の名前は?」
トンパ「え、ヒソカだけど」
ドラえもん「ヒソカ、消えろ!」
ドラえもんがスイッチを押すと、ヒソカは消えてしまった。
ドラえもん「これで半日くらいはもう出てこれない」
トンパ(な、な、なんだこいつら!?)
のび太「あの人の腕も治してあげようよ」
ドラえもん「そうだね、タイムふろしき~」
<タイムふろしき>
被せた物の時間を進めたり戻したりできる道具。
ドラえもん「はい、元に戻したよ」
58番「──!? ど、どうも」
(あれ、たしかに斬られたのに。きっとヒソカの手品だったんだな、うん。
ヒソカが消えたのも手品だろう、きっとそうだ)
トンパ(こいつら、よく分からんがやべェな! 早めにツブしておかねぇと……)
トンパが改めて缶ジュースを取り出す。
トンパ「君たち、どうだい? お近づきの印にジュースでも」
5人「どうもありがとう!」
トンパ(これでこいつらはリタイアだ、ククク。中には超強力な下剤が入ってるのさ!
土石流みてェに下痢を垂れ流しやがれェ~!)
ちなみに5人はテキオー灯がかかっているので、大抵の毒は無効化する。
トンパ(素性を探ってみるか……)
「ところで君たち、変わったメンバーだね」
のび太「照れるなぁ、えへへ」
トンパ(な、なんで照れるんだよ)
トンパ「君は昔、ハンター試験で見かけた奴と似ているな。
もしかしてゴレイヌって兄とかいない?」
ジャイアン「俺のとこは妹だけだぜ、ジャイ子ってんだ」
トンパ「君は見たところタヌキの魔獣だけど──」
ドラえもん「タヌキ!?」
トンパ(ゲ、怒らせたか!?)
ドラえもん「許せぬ!」
ドラえもんは木こりの泉を取り出した。
<木こりの泉>
子供用の風船プールのような道具。
泉の中には女神ロボットが設置されており、イソップ童話の金の斧の物語を再現できる。
ドラえもんは129.3馬力のパワーでトンパを泉に放り込んだ。
泉の精「あなたが落としたのはこのきれいなトンパですか?」
ドラえもん「いいえ、もっと汚いの」
泉の精「正直者よ、あなたにはきれいなトンパをあげましょう」
トンパ「た、助け……ゴボゴボ」
泉の精「沈みなさい」
こうして汚いトンパは泉に引きずり込まれ、きれいなトンパだけが残った。
トンパ「よろしく! 一緒にハンター試験頑張ろう!」
ドラえもん「こちらこそ」
しずか「なんだか汚いトンパさんが可哀想だわ」
のび太「仕方ないよ」
まもなく試験官のサトツがやってきた。
サトツ「私、一次試験を担当するサトツと申します」
サトツは歩き始めた。徐々に、ペースを上げながら。
サトツ「一次試験の内容は“二次試験会場まで私についてくること”でございます」
トンパ「いよいよ始まりか。行こう、ドラエモン君たち!」
妙に目がキラキラしたトンパに率いられ、のび太たちも走る。
ジャイアン「ようし、やってやるぜ!」
スネ夫「トホホ、なんでこうなるの? っていうかハンター試験って何なの?」
しずか「ちゃんと運動用の服も持ってくればよかったわね」
ドラえもん「行くよ、のび太君」
のび太「うぇ~昼寝したいのに……」
バカな! バカな…! バカな…! バカな…!
ぼくがハンター試験合格…? そんなバカな!
ぼくにかなわない奴なんて一人もいなかった!
勉強も! スポーツも! 全てビリだった!
ぼくなんてただのクズ!
みんなに利用されて捨てられるだけのガラクタだったはず!
──という夢を、のび太は見ていた。
のび太「……やっぱり夢かぁ、合格なんておかしいと思った」
ドラえもん「のび太、起きろ!」
のび太「もうつかれたぁ~走れない~」
ドラえもん「まだ50メートルも走ってないじゃないか!」
のび太「いいのいいの、ご飯食べたら眠くなっちゃった。試験が終わったら
どこでもドアで迎えに来てね」
ドラえもん「SLえんとつ~!」
<SLえんとつ>
煙突型の道具。水と石炭を煙突に入れて頭に被れば、
SLのパワーを手に入れることが出来る。
のび太「これなら一日中だって走り続けられるよ!」
スネ夫「のび太ばかりずるいや!」
ジャイアン「俺にも出せよ!」
ドラえもん「分かったよ、みんなで被ろう」
しずか(私はもっと別の道具がいいわ……)
SLえんとつのパワーで、5人は他の受験生をゴボウ抜きにする。
トンパ「君たちすごいね! 俺も負けてられないな!」
ドラえもん(他の人は自力で走ってるだろうに、ぼくらだけ道具に頼っていいのだろうか……)
5人は驚いた。
サトツのすぐ後ろ、つまりトップにいるのも子供だったのだ。
キルア「あれ? 俺らの他にも子供いたんだ」
ゴン「ホントだ! 5人ともすごい煙だね」
のび太「これはSLえんとつっていって──」
後ろからスネ夫がのび太を小突いた。そして小声でささやく。
のび太「な、なんだよ」
スネ夫「相変わらずマヌケだなぁ。
正直に道具に頼ってる、なんて話したら失格になるに決まってるじゃん。
すぐ前に試験官の人もいるんだぞ」
のび太「あ、あぁそうか」
のび太「……えぇと、ぼくたち走ると煙が出るんだよ」
スネ夫(なんてウソがヘタな奴だ)
ゴン「へぇ~スゴイや!」
キルア「ま、世界は広いし、そういう奴もいるんだろうな」
スネ夫(信じるの!? 信じたのにその程度の驚きなの!?)
スネ夫はもしかしてとんでもない惑星に来たのでは……とうすうす気づき始めた。
サトツ(持ち込みは自由ですから失格にはなりませんが、
不思議な道具ですねぇ。私も初めて見ましたよ)
一方、最後尾では──
ニコル(ち、ちくしょう……この俺が……ここまでか……)
トンパ「ニコル君、大丈夫か!?」
ニコル(こいつ……トンパ! なんでこんなところに──)
トンパ「まだ走れるか!?」
ニコル「う……うるせェ!
新人潰しさんよォ、俺をあざ笑いにきたんだろ!? えェ!?」
トンパ「かつての俺だったら、そうしていたかもしれん。
が、今の俺は君の才能と将来性を買っている」
ニコル「な、にィ……?」
トンパ「ルーキーの合格率は君も知っているだろうが、
ハンター試験は一度の受験ではなかなか受からない試験だ。
俺のことまで知っていたデータ収集力、この距離を走るスタミナ、
今はまだ未熟だが十分ハンターになれる器だ」
ニコル「ふざ……けるな、俺は、まだ、やれる!」
トンパ「いい顔だ」
90km地点、ニコルが再び倒れた。
ニコル「もう……走れない……」
トンパ「………」
ニコル「行ってくれ。アンタまで置いていかれちまう」
トンパ「……分かった」
ニコル「……ありがとう、アンタにさっき褒められて
たとえお世辞だとしても少しだけ報われた。あのまま脱落してたら
俺はもう立ち直れなかっただろう」
トンパ「また……来れるか?」
ニコル「あぁ、また来年来るよ──必ず。天狗の鼻は折れたが、心は折れていない。
アンタは……ハンターになって待っていてくれ」
トンパ「──ああ」
ニコル、脱落(リタイア)──
マラソンの次なる関門は、巨大な階段であった。
ゴン「俺はゴンっていうんだ」
キルア「俺、キルア。君は?」
のび太「ぼくはのび太」
キルア「ノビタか、年は?」
のび太「10歳」
キルア(俺らの一個か二個下か……)
ゴン「後ろを走ってる4人はノビタの友達だよね?
君はなんでハンター試験を受けようと思ったの?」
のび太「(なんでっていわれてもなぁ……)なんとなく、かなぁ」
キルア「ふーん、俺と同じようなもんか」
暗殺者としての性か、のび太らの戦力分析を行うキルア。
キルア(ノビタと他の4人──3人と一匹かもしれないけど。
スキだらけだし、鍛えている様子も全くない。
にもかかわらず俺たちに劣らないスタミナ……。
それにいくつも修羅場を越えてきたような目をしている。
なかなか面白そうな連中だな)
階段に入ってから脱落者が続出していた。
心臓破りの急勾配と──SLえんとつの煙のせいである。
レオリオ「ゲホッ、ゲホッ! さっきから気になってたけどよ、
なんなんだ、この煙は!?」
クラピカ「あの前方を走っている少年たちの頭から出ているものだ。
コースが階段になって後ろの我々に降りかかるようになってきたな」
レオリオ「おいクラピカ、あいつらに注意してくれよ。煙の出しすぎだって。こりゃ妨害もいいとこだぜ」
クラピカ「断る」
レオリオ「あん?」
クラピカ「試験は持ち込み自由だからな。他人にとやかく言うつもりはない」
レオリオ「ケッ、わーったよ! じゃあ俺がいってきてやる!
おいそこの青いの!」
ドラえもん「えっ、ぼく?」
レオリオ「お前ら煙出しすぎだ!
俺らの目や鼻に入って苦しいから──後ろに行け!」
ドラえもん「ご、ゴメンなさい……」
レオリオ(あれ、意外に素直じゃねェか。ちょっと強く言いすぎたかな)
ドラえもんは他の4人に最後尾を走るよう伝えた。
スネ夫「はいはい」
ジャイアン「ちぇ、しかたねぇな(あのサングラスのオッサンこえーしな)」
しずか「じゃあ私たちは後ろを走りましょ」
のび太「分かったよドラえもん。
ってことだから、ゴンさん、キルアさん、後ろを走ることにするよ」
ゴン「分かった、気をつけてね! あ、あとゴンでいいよ」
キルア「またな。俺もキルアでいいぜ」
のび太「うん、またね!」
煙に対してクレームをつけたくとも、
・子供に対して大人気ない
・もっと脱落者を増やしてくれそう
という二つの理由でなかなか言えなかった受験生たちは、内心レオリオに感謝した。
ハンター試験はヌメーレ湿原に差しかかった。
サトツ「第二次試験会場へはここを通らなければいけません。
ただし、ここの生物はあらゆる方法で獲物をあざむこうとします。
だまされると、死にますよ」
「だまされるな!」
ジャイアン「なんだなんだ」
試験官「そいつは人面猿が化けたニセ試験官だ!
集まった受験生を一網打尽にする気だ!」
受験生の間で混乱が生じる。
しずか「ドラちゃん、どちらがホンモノか分かる道具ってない?」
ドラえもん「さとりヘルメット~!」
<さとりヘルメット>
これを被ると、半径30メートル以内の心の声を読む事が出来る。
ドラえもん「煙突を外して、さっそく被ってみよう」
心を読むドラえもん。
サトツ(さっそく出てきましたか。試験官になりすまし、
何人かを連れ去ろうという魂胆ですな)
試験官(ケケケッ、何人かは俺の言葉を信じてやがる……ボンクラが。
10人……いやつられて20人は騙せるかもな?
人肉はうめェ~からなァ)
ドラえもん「そっちがニセモノだ!」
試験官「──!? なんだと、このタヌキ! 何を根拠に」
ドラえもん「ぼくはタヌキじゃない!」
ドラえもんはポケットからショックガンを取り出し、試験官(?)を撃った。
<ショックガン>
未来の光線銃。気絶させるだけで殺傷能力はない。
試験官「ギャッ!」
あっさり気絶した試験官(?)を見て、きれいなトンパが語る。
トンパ「決まりだな。ハンター試験の試験官はプロハンターが無償で行っている。
プロハンターならば、今の攻撃くらい軽くよけられるはず。
つまり、ニセモノは気絶しているアイツだ」
サトツ(光線銃まで持っているとは、つくづく不思議な受験生だ)
「それではまいりましょう」
マラソン再開。
試験官サトツを先頭に、ヌメーレ湿原をひた走る受験生たち。
のび太「うわ、すごいぬかるみ」
しずか「いやだわ、お洋服が汚れちゃう」
ドラえもん「あとで着せ替えカメラで着替えさせてあげるよ」
スネ夫「ん?」
ジャイアン「どうしたスネ夫?」
スネ夫「だんだん霧が濃くなってきたよ!」
のび太「まずいなぁ、このままだと前の人を見失っちゃうよ」
ドラえもん「こんな時は、お天気ボックス~」
<お天気ボックス>
専用のカードを差し込むと、自由自在に天気を変えられる道具。
ドラえもん「晴れにしよう」
太陽のマークが描かれたカードを差し込むと、
ヌメーレ湿原から霧がなくなりさわやかな青空が広がった。
しかし、危機は去っていなかった。
霧がなくなり混乱したキリヒトノセガメが、手当たり次第に受験生を襲い始めた。
のび太「ひぃぃ~怪獣!?」
しずか「大きな亀だわ!」
ジャイアン「甲羅にでっかいイチゴがついてるぜ」
スネ夫「ママァ~!」
ドラえもん「桃太郎印のきび団子~!」
<桃太郎印のきび団子>
この団子を食べさせた動物は、人間に従順になる。
ドラえもんらはキリヒトノセガメを一頭手なずけ、その背中に乗っていく事にした。
ジャイアン「こりゃあラクでいいぜ」
のび太「このイチゴは硬いや。食べられないよ」
サトツ(信じられん、ヌメーレ湿原の動物が人になつくとは)
一行はビスカ森林公園に到着した。
サトツ「みなさんお疲れ様でした。こちらが二次試験会場となります」
ドラえもん「あ、もうゴールみたいだね」
ジャイアン「こいつのおかげでラクチンだったぜ」
しずか「ええ、ありがとうね」
のび太「じゃあお戻り、カメ助」
スネ夫(こいつ、いつの間に名前をつけてたんだ)
カメ助、ことキリヒトノセガメは名残惜しそうにヌメーレ湿原に戻っていった。
大長編ドラえもん のび太の大亀
~おわり~
キルア「すげーな、あんなでかいのを手なずけるなんて」
(ウチにもミケいるけど)
ゴン「俺の知ってるハンターが、いいハンターは動物に好かれるって言ってたよ。
ノビタはいいハンターになれるよ!」
のび太「えへへ、ありがとう(道具の力だけどね)」
レオリオ「カメに乗ってるのは誰かと思ったら、煙出してたガキんちょどもだったか。
さっきは悪かったな、怒鳴ったりして」
クラピカ「驚かされたよ。とても人になつく生物には見えなかったが、
あんな攻略方法があったとは」
ドラえもん「いやいや、とんでもない(道具の力だし)」
しずか「なんだか、みんないい人そうね」
ジャイアン「ああ、また心の友が増えたぜ」
スネ夫(帰りたい……ママ……)
のび太たちとゴンたちはすっかり意気投合した(スネ夫除く)。
二次試験会場の扉が開く。中には2人の試験官が待ち受けていた。
のび太「うわっ、あの人大きいな~。あ、女の人もいる」
ジャイアン「俺の母ちゃんよりでけぇ」
ドラえもん「ビッグライトでも浴びたのかな」
メンチ「二次試験は料理よ! あたし達に『美味しい』といわせたら合格よ」
ブハラ「まずは俺の指定する料理を作ってもらい」
メンチ「そこで合格した者だけがあたしの指定する料理を作れるわ」
スネ夫「なるほど、前半と後半に分かれた試験なんだ」
しずか「お料理なら私、自信あるわ」
ブハラ「俺の料理は、ブタの丸焼き! 大好物!
森林公園に生息する豚なら、種類は自由だよ」
ジャイアン「みんな、森の中に入っちゃったぞ」
しずか「豚の丸焼きなんて作ったことないわ」
スネ夫「いくらグルメなぼくでも、さすがに豚の丸焼きは食べた事ないや」
のび太「どうしよう? ドラえもん」
ドラえもん「グルメテーブルかけ~!」
<グルメテーブルかけ>
どんな料理も生み出す未来のテーブルかけ。
ドラえもん「豚の丸焼きを、五皿!」
5人はブハラにそれを持っていった。
ブハラ「あれぇ、ずいぶん小さい豚だな。
この公園にはグレイトスタンプしかいないはずだけど……。
バリバリガツガツ
ま、いいや。美味いし、合格!」
5人(ブタの丸焼き五皿が5秒で消えた……)
ブハラの課題は70名が合格した。
クラピカ「おかしい! 明らかに奴の体積より食べた量が多い!」
のび太「どういう事だろう?」
ドラえもん「もしかしたら、あの人のお腹も四次元なのかも……」
メンチ「それじゃ二次試験後半、あたしのメニューは、スシよ!」
ジャイアン「スシ……って、あの寿司か?」
スネ夫「そうじゃない?」
しずか「この星にも寿司があるのね」
ドラえもん「じゃあもう一回。グルメテーブルかけ~」
ドラえもんはグルメテーブルかけからトロを取り出した。
のび太「まずは、ぼくが持っていくよ」
メンチ「あらずいぶん早いわね。どれどれ、形も完璧じゃない。
もしかしてあんた、スシを知ってたの?」
のび太「えへへ、一応……」
メンチ(たしかにジャポン出身って感じの顔つきね)
「それじゃさっそく……」
のび太「ゴクリ」
メンチ「──へぇ。シャリもネタも高水準、レベル自体は高いわ。
でも惜しいわね、機械が作ったみたいで寿司独特の色気に欠けるわ」
のび太「トホホ……(道具使ったのなんでバレたんだろ)」
メンチ「………」
(まさかスシを知ってるのがいるとは思わなかったし、
ちょっと辛口すぎたかしら)
ブハラ「メンチ、今のは厳しすぎたんじゃない?
あの基準じゃはっきりいって誰も受からないよ」
メンチ「そうね。またすぐ来るだろうし、次は合格にしてあげるわ。
あの子、名のある料理人の息子か何かかしら?」
のび太「ダメだったよ」
ドラえもん「なんだって!?」
ジャイアン「ドラえもんの道具も大した事ねぇんだな」
スネ夫「ほんとほんと」
ドラえもん「うぬぬ~」
しずか「あ、ドラちゃん、どこいくの?」
ドラえもん「あのメンチって人に抗議してくる!」
スネ夫「やめた方がいいよ。おっかなそうだし」
ドラえもん「うるさい! ぼくの道具にケチつけられて、黙ってられるか!」
のび太「ぼく知~らない」
メンチ「あら、これまた早いわね」
ドラえもん「さっきの寿司のことなんですけど」
メンチ「さっきのって──メガネの子のスシのこと?」
ドラえもん「はい。あなたの舌が未来の科学力より優れてるとは思えない!
のび太は合格のはずだ!」
メンチ「……ふぅん」
ドラえもん「分かってもらえました?」
メンチ「分かってないのはアンタよ」
ドラえもん「なんだって?」
メンチ「科学だかなんだか知らないけど、
アンタみたいなドラ焼きばっか食ってそうな
タヌキよりはよっぽど味のことを分かってるつもりよ!」
ドラえもん「な、なんで分かったの!?
──い、いや、タヌキだと!? この味オンチ!」
メンチ「誰が味オンチだァ!? このフーセンダヌキ!」
ゴン「けっこう色んな魚が獲れたね」
クラピカ「レオリオのせいで受験生は全員魚を獲りに出ていたようだな」
レオリオ「うるせー」
キルア「いや、残ってたのもいたみたいだぜ。ノビタたちだ。
ほら、ドラエモンってのが試験官の女とすげーやり合ってる」
ドラえもん「この分からず屋!」
メンチ「分かりたくもないわ!」
ドラえもん「あんたにゃジャイアンシチューがお似合いだよ!」
メンチ「なんだそりゃ? 包丁で解体して狸汁にしちまうぞコラ!」
ハンゾー(せっかく作ったのに、割って入るスキがない……!)
メンチ「なに見てんだ、ハゲ!」
ドラえもん「星ごと破壊してやろうか、ハゲ!」
ハンゾー「ご、ごめんなさい……」
結局、ドラえもんの抗議は受け付けられなかった。
ドラえもん「うぬ~、こんなに腹が立ったのは久しぶりだよ!」
のび太「みんな二人の喧嘩を見てたよ。ぼく、恥ずかしいよ」
ドラえもん「こうなったら……味のもとのもと~!」
<味のもとのもと>
これをかければ、どんな物も美味になるという最強の調味料。
のび太「そこまでするか」
ドラえもん「こうなったら手段は選んでいられないよ。
どんな事してでもメンチって人に『美味しい』といわせてみせる」
レオリオ「お、なんだその調味料。ちょっと貸してくれよ」
ドラえもん「あ」
レオリオ「やべっ、蓋が開いて……うわっ、全部俺にかかった!」
ドラえもん「………」
レオリオ「あちゃ~ドラエモン、すまねぇ!」
ドラえもん「おいしそう……」
レオリオは周囲の視線が自分に集中している事に気付いた。
レオリオ「ん、なんだ? なんだよ?」
ゴン「おかしいな……レオリオがすっごく美味しそう」
レオリオ「え?」
クラピカ「ああ、私もだ。お前に対して食欲を抑え切れない」
キルア「分けてくんない? ほんのちょっとでいいからさ」
右手を筋肉操作するキルア。
レオリオ「おいおい、お前ら目つきがおかしいぜ」
まもなくほとんどの受験生がレオリオに突撃した。
逃げるレオリオ、追う受験生たち。会場内はパニックになった。
ただでさえブチ切れていたメンチがキレる。
メンチ「いい加減にしなさいあんた達! 二次試験後半の合格者は──0よ!」
クラピカ(正直、妥当な判断といわざるをえない)
ビーンズ「──というわけです。会長」
ネテロ「こりゃまた珍妙な事態じゃのう。ま、行ってみるとしよう」
二次試験会場にネテロがやって来た。
ネテロ「試験自体がメチャクチャになった事じゃし、
まぁおぬしの判断も無理ないかもしれんのう」
メンチ「いえ、私もタヌ──受験生と口論になったりして
熱くなっていました。もう一度やらせて頂けないでしょうか」
ネテロ「よかろう」
メンチ「会長、私達をあの山まで連れて行ってくれませんか」
ネテロ「──なるほど、もちろんいいとも」
マフタツ山の深い谷に到着した一行。
メンチ「今の私みたいに、谷の間にあるクモワシの卵をとってきて
ゆで卵を作ってちょうだい」
ジャイアン「すっげぇな、谷を飛び降りてよじ登ってきたぜ」
のび太「ゴンとキルアたちも行っちゃったね」
スネ夫(やっぱりこの星は地球と似てるようで絶対おかしい!
ぼくらも重力が低い星だとスーパーマンだったけど
あれの逆なんだ、きっと!)
ドラえもん「ぼくらはこれで行こう、タケコプタ~!」
<タケコプター>
漫画最多登場数を誇る、説明不要の空飛ぶ道具。
トードー「(なんだあいつら、飛んでやがるのか!?)おいお前ら、俺にもそれを貸せ」
ドラえもん「はい、どうぞ。頭につけて」
トードー「どれどれ……うわぁ~!」
トードーはどこかに飛んでいった。
二次試験通過者は42名だった。
試験官と受験生は飛行船で次の場所へ。
サトツ「ルーキーがいいですね、今年は」
メンチ「あーやっぱり!」
サトツ「私は99番が断然いいですね」
メンチ「身のこなしは294番もなかなかだったわ。ブハラは?」
ブハラ「んー気になるといえば、
スシを作った410番とメンチと喧嘩した409番かな」
メンチ「そうね、410番の子のスシは一流の域に達してたし、
(超一流とまではいかないけど)
協力して作ったんだろうけど、タヌキの気持ちも今なら分かるわ」
サトツ「彼らはたしかに気になりますねぇ。
煙を出して走ったり、湿原の動物に好かれたり、
先ほどの試験も不思議な道具でクリアしていた」
メンチ「えぇ、肉体的な能力はさほどでもなさそうだけど
みんな死線をくぐり抜けてきた目をしてたし、あなどれないわ」
ブハラ「台風の目、になるかもしれないね」
スネ夫「ねぇ、帰ろうよ! ハンターってすごい資格みたいだけど
ぼくたちこの星の人間じゃないし、受かっても意味ないじゃん!
今まではなんとかなったけど、このままじゃ死んじゃうよ!」
ジャイアン「うるさいぞ、スネ夫! 男はこうやって試練を乗り越えて生きていくんだ。
な、しずちゃん」
しずか「私は女なんだけど……私も少し楽しくなってきたわ。
ドラちゃんがいればなんとかなるわよ」
ドラえもん「まぁ道具さえあればなんとかクリアできるよ。
せっかくここまで来たし、最後まで受けてみようよ。
タイムマシンを使えば家のことは心配いらないしね」
スネ夫(分かってない……みんな分かってない。
この星の、いやこの星の人たちの恐ろしさを)
しずか「あら? そういえばのび太さんがいないわ」
ジャイアン「どーせ飛行船の中ほっつき歩いてんだろ? 先に寝ようぜ」
ゴン「ノビタの父さんと母さんは?」
のび太「普通の主婦とサラリーマン。
ママは、昼寝したり0点とるといっつもガミガミうるさくって!」
ゴン「(きっとミトさんみたいな人なんだろうな)キルアの父さんと母さんは?」
キルア「んー? 殺人鬼」
のび太(さ、さ、殺人!?)
ゴン「両方?」
キルア「あははははっ!
面白いなーお前。マジ面でそんな事聞き返されたの初めてだぜ」
のび太「あ、あのさ、キルア」
キルア「ん?」
のび太「ほ、ほ、本当に?」
キルア「うん、オレん家暗殺稼業やってんだ」
のび太「あ、暗殺……」
キルア(あーあビビらせちったか。多少ぼかしておけばよかったかな)
のび太「あのさ……それってやめることはできないの?」
キルア「やめる?」
のび太「やめて、普通の会社で働く、とか……」
キルア「ぷははっ!
お前も面白いなー、そんな事いわれるのも初めてだぜ」
のび太「え……」
キルア「安心しろよ、俺は殺し屋になんかなるつもりないし
ハンターになったら逆にあいつらとっ捕まえてやるんだ。
いい値段で売れるぜー、きっと」
のび太「ほっ」
ゴン「あ、そういえばノビタに聞きたかったんだけど」
のび太「なに?」
ゴン「一次試験での煙や、二次試験でも空を飛んでたし、あれはなに?」
キルア「ナイス、ゴン。俺もそれ聞きたかったんだ」
のび太「え、えぇ~っと……あれは──」
その瞬間、ネテロが三人に背後から強烈な視線を送った。
キルア「!」
ゴン「!?」
のび太「(ママ? 先生!? いやもっとすごい!)ごめんなさい!」
ネテロ(おお、あの二人はいい反応じゃ。
メガネの少年はよっぽど日頃から怒られてるようじゃな)
キルア「じいさん、何か用?」
ネテロ「ゲームをせんかね? もしワシに勝てたらハンターの資格をやろう」
ゴン「うん、いいよ!」
キルア「やってやろうじゃん」
のび太「ぼくはそろそろ寝──」
ネテロ「決まりじゃな、三人ともついてきなさい」
ネテロ「ルールは簡単。三人がかりでこの球をワシから奪えば勝ちじゃ。
そっちはどんな攻撃も自由、こっちは手を出さん」
キルア「(なめやがって)ゴン、ノビタ、さっさと終わらせようぜ」
ゴン「よし!」
のび太「(眠いけど)うん!」
キルア(肢曲で攻めるか)
ゴン「俺はスピードとジャンプで勝負だ!」
のび太「や、やるぞ~」
三対一の攻防はしばらく続いた。
ネテロ「おっと、惜しい!」
ゴン「くそっ!」
のび太「んぎゃ!」
ネテロ(キルアの残像! ゴンのバネ! ノビタとやらの異常なドジっぷり!
なぜか予測のつかんところで転ぶからやり辛いのう)
キルア(あの爺さん、明らかにノビタにペースを乱されてる!
このままやってれば俺かゴンがボールをかすめ取るくらいは──)
のび太「も、もうダメ……走れない……」
のび太、ダウン。
ゴン&キルア&ネテロ「………」
その頃──
ヒソカ「おや、どうやら戻ってこれたようだ」
どくさいスイッチで消されていたヒソカが、一次試験スタート地点に復帰した。
ヒソカ「彼に電話してみるか。もしもし」
ギタラクル『ヒソカか』
ヒソカ「やぁ」
ギタラクル『どこにいたの? 今年は真面目にやるっていってたのに、もう三次試験だよ』
ヒソカ「ボクもそのつもりだったんだけどね、消されちゃった」
ギタラクル『消された?』
ヒソカ「消えた瞬間のあの感じ……念能力じゃなかった。
ねェ、受験生の中に妙な力を持ったヒトはいなかったかい?」
ギタラクル『心当たりはあるね』
ヒソカ「ありがとう。では、ボクもそちらに向かうよ。
適宜場所を教えてくれ、四次試験までには追いつく」
ギタラクル『追いついたらどうするの?』
ヒソカ「ハンター試験を楽しめなかった代わりに、他のゲームを楽しまなきゃね。
ボクを消したヒトを──狩る」
翌朝──
ゴン「あ、目が覚めた?」
のび太「わっ、遅刻だ! 早く学校に行かないと!」
ゴン「落ち着いて! ここは飛行船だよ」
のび太「ああゴン、なんだ寝ぼけてた。あ、そういえばボール取りは?」
ゴン「俺とキルアで頑張ってみたけど、ダメだったよ。あの人スゴイよ!」
のび太「君ら二人でも!? そっかぁ……残念だったね」
しずか「あ、のび太さん! どこに行ってたの?」
ドラえもん「探そうかと思ったけどぼくらも疲れててね。無事でよかった」
スネ夫「まったくノロマなんだから」
ジャイアン「一人がドジだと、みんなが困るんだぞ!」
のび太「ごめ~ん、みんな」
飛行船内に、機内アナウンスが響き渡る。
ビーンズ『お待たせしました。目的地に到着です』
ビーンズ「ここはトリックタワーという塔のてっぺんです。
第三次試験の内容は、生きて下までたどり着くことです。
制限時間は72時間以内!」
スネ夫「なんだ楽勝じゃない、タケコプターで降りちゃおうよ」
ジャイアン「スネ夫、それじゃつまんねーじゃんか!」
スネ夫「つまんなくたっていいよ! きっと塔の中にはワナがわんさかあるんだ!
外から行こう、外から!」
キルア「やめた方がいいぜ」
のび太「キルア」
キルア「さっき外壁つたって降りてったオッサンが怪鳥に狙い撃ちにされてたから」
トンパ「ハンター試験は一見楽そうなルートに、より困難な罠が
待ち受けていることが多い。
塔に入らずに降りようとするのはかえって危険だろう」
スネ夫「ママァ~!」
しずか「入り口はどこにもないけど、きっとどこかに隠れてるのね」
ジャイアン「宝探しみたいじゃん! 俺様が見つけてやるぜ!」
ドラえもん「のび太くんはじっとしてな。トリックタワーなんて名前だし
もし落とし穴とかがあったら大変だ」
のび太「ひどいなあ。ぼくはそんなのに引っかからないよ!」
スポッ! ガタン!
のび太「うわっ!」
ドラえもん「落ちちゃった……」
ジャイアン「あのバカ!」
のび太が落ちた場所をいくらいじっても、ビクともしない。
ジャイアン「くそっ、どうなってんだ!」
しずか「どうしましょ……のび太さん一人じゃ心配だわ」
レオリオ「どうかしたか? お前ら」
ドラえもん「あ、レオリオさん。のび太君が床の落とし穴に
引っかかって落ちちゃったんです。でも開かなくて……」
レオリオ「落とし穴?」
クラピカ「おそらく塔の入り口だろう。この頂上にはいくつも
そういう入り口があるにちがいない。
そして一度使われた入り口は、ロックがかかるのだろう」
しずか「だから開かなかったのね」
ジャイアン「ちくしょう、このままじゃのび太が!」
クラピカ「彼が落ちた入り口の近くに、もしかすると
彼と同行できるようなルートがあるかもしれない。探してみよう」
レオリオ「袖すり合うも……ってやつだ。俺も手伝うぜ」
ゴン「どうしたの?」
ドラえもん「かくかくしかじか」
ゴン「俺たちも探すよ!」
キルア「あいつじゃ簡単な罠でも死にかねないしな……」
ゴン、キルア、クラピカ、レオリオの4人は、
あっという間にのび太が落ちた場所の周辺にある
入り口を見つけて降りてしまった。
ジャイアン「すげえなぁ」
スネ夫「やっぱりハンター試験を受ける人は普通じゃないんだよ」
ドラえもん「う~ん、どうしよう?」
しずか「ドラちゃん、通り抜けフープを使ったら?」
ドラえもん「あ、そうか」
<通り抜けフープ>
リング型の道具。
壁や床につけると、異次元を通して「その先」に行くことができる。
ドラえもん「ぼくらも降りよう!」
ジャイアン「待ってろよ、のび太!」
しずか「えいっ!」
スネ夫「しょうがないなぁ、行けばいいんでしょ!」
ドラえもんたちが降りると、下にはのび太とゴンたち4人がいた。
ドラえもん「のび太君!」
のび太「ドラえもぉ~ん!」
レオリオ「……お前ら、今どうやって降りて来たんだ?」
ドラえもん「通り抜けフープで」
クラピカ「本来ここは5人で進むはずのコースなのだが、9人になってしまったな」
スネ夫「どういうこと?」
キルア「この部屋は多数決の道っていう5人で進むルートのスタート地点なんだ。
ノビタ、ゴン、クラピカ、リオレオ、俺と揃ったところに
お前たちが降りて来たんだ」
レオリオ「レオリオだ!」
スネ夫「5人用のゲームを9人でプレイするようなもんか」
ジャイアン「なら話は簡単だ。のび太、俺と代われ!」
のび太「そ、そんなぁ~」
モニター室──
試験官「リッポー、どうする?」
リッポー「こんな事態は想定していなかったからな……仕方あるまい」
リッポーは多数決の道メンバーにアナウンスする。
リッポー『9人になってしまったのは我々のミスだ。
したがって9人全員で進む事を許可しよう。
ただし、多数決に参加できるのは、今タイマーをはめている5人のみ!
交換は一切認めない!』
要約すると、こうだ。
・多数決に参加できるのは、のび太、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオのみ。
・他のメンバーは同行、多数決以外の協力OK。
リッポー「ま、こんなところだろう。そろそろ試練官を配置につかせるか」
無限四刀流「クックック、ヒソカにリベンジしてやるぜ」
リッポー「ヒソカは一次試験で行方不明になって失格したって聞いたぞ」
無限四刀流「えっ」
ジャイアン「なんでぇなんでぇ、俺らはついてくだけかよ!
のび太! 変なことして迷惑かけたらメタメタのギタギタだぞ!」
スネ夫「そうだそうだ!」
のび太「ひぃぃ……」
『このドアを開ける⇒○ 開けない⇒×』
○4 ×1
レオリオ「誰だ!? ×を押したのは!?」
のび太「ぼ、ぼくです。ごめんなさい! 緊張して手が滑って……」
ジャイアン「ドガア!」
顔面めり込みパンチを食らうのび太。
レオリオ「おいやめろ! 友達は大切にするもんだ。
ある日突然いなくなっちまうかもしれないしな」
ジャイアン「ご、ごめんなさい。レオリオさん」
レオリオ(俺とした事が、昔を思い出しちまったぜ)
『どっちに行く? 右⇒○ 左⇒×』
○2 ×3
ゴン「やっぱり左だよね!」
のび太「うん! こっちのが落ち着くもん!」
レオリオ「お前らとは将来うまい酒が飲めそうだぜ」
キルア「ちぇっ」
クラピカ(試験官が左の法則を知らなければいいが)
結論からいうと、左の道はハズレだった。
5時間以上罠だらけの道を歩き、たどり着いたのはスタート地点だった。
ゴン「………」
のび太「………」
レオリオ「………」
クラピカ「やはりな」
キルア「さ、今度は右に行こうぜ」
右に行くと、9人は試練官の待ち受けるリングにたどり着いた。
ベンドット「お前たちは我々試練官5人と戦い、3勝しなければここを通れない!
勝負は一対一、順番も自由! ただし各自一度のみ!」
のび太(いっぺんに言わないでよ~覚えきれない)
ベンドット「お前たちは9人とのことだが、戦いはタイマーを持たない
4人の中から選ぶことも認める!
受けるなら○を、受けないなら×を押されよ!」
のび太(どうしよう~! どっちを押せばいいんだ!?)
ドラえもん「のび太君、○押しときな」
○5 ×0
ベンドット「こちらの一番手は俺だ! そちらも選ばれよ!」
スネ夫「どうすんのさ、あいつメチャクチャ強そうだよ!」
レオリオ(ガキ共に相手させるわけにゃいかねェな)
「俺がいくぜ」
ベンドットからの提案はデスマッチ、受けるレオリオ。
ベンドット「勝負!」
レオリオ「来やがれ!」
戦いの主導権はベンドットが握った。
根性で食らいつくレオリオを、ベンドットの戦闘技術が上回る。
馬乗りになり、ベンドットが笑う。
ベンドット「想像つくだろうがムショってのは娯楽もねェし規則ががんじがらめで
ストレスが溜まるんだ。じっくりいたぶってやる」
レオリオ「ケッ、やってみやがれ!」
ゴッ! ガッ! バキッ! ガスッ! ガンッ!
振り下ろされる鉄槌の嵐、しかしレオリオも降参をしない。
キルア「相手のが一枚上手だな」
ゴン「レオリオ!」
レオリオ「ぐ……ぜってー参ったなんざしねェ!」
ベンドット「生きがいいな若造、ノドを潰さず正解だったぜ。
もっとわめいてみせろ!」
レオリオのやられる姿を、ビデオで撮るドラえもん。
クラピカ「こんな時に何を!?」
のび太「そうだよドラえもん、レオリオさんが……」
すると、試合が一変する。
レオリオは馬乗りから脱出、逆にベンドットを一方的に攻め始める。
ベンドットもなかなかタフだったが、ついに──
ベンドット「ぐ、ぐふぅ……参った……!」
レオリオ(あれ? いつの間にか俺が勝ってる?)
ドラえもんはすぐにカメラをポケットにしまった。
ドラえもん(レオリオさんの性格からして、道具の力で勝ったなんて知ったら
絶対怒るだろうしな)
<カチカチカメラ>
このカメラで勝負を撮ると、指定した方を勝たせることが出来る。
受験生 1-0 試練官
次の相手はセドカン、受験生チームはゴン。
セドカン「互いにローソクを持ち、先に火が消えた方が負け。
君らには長い方がいいか、短い方がいいか、多数決で決めてもらおう」
クラピカ「これは不自由な二択──」
のび太&ジャイアン「あははははっ!」
ジャイアン「あいつバッカじゃねーの! 長い方にするに決まってんじゃん!」
のび太「だよねぇ、学校のテストよりよっぽど簡単だよ」
ゴン「俺もそう思ってたところだよ! やるじゃん二人とも!」
クラピカ(不自由な二択の解説をしたかった……)
『長いローソク⇒○ 短いローソク⇒×』
○5 ×0
セドカン「じゃあ、君は長い方、ぼくは短い方」
同時に火をつける二人。
火薬が仕込まれているのか、ゴンの長いローソクが激しく燃え上がる。
ジャイアン「きったねえ、インチキだ!」
のび太「ずるいずるい!」
クラピカ(もはや何も言うまい)
ドラえもん「バショー扇~!」
<バショー扇>
ダイヤル次第で色んな風を吹かせる事が出来る道具。
ゴン(このローソクを置いて、あの人の火を吹き消せば……)
ドラえもん「これで向こうの人のローソクの火を消しちゃおう」
ジャイアン「俺にやらせろ!」
ドラえもん「あっ」
ビュオッ!
ジャイアンが適当にふかせた風は、不運にもゴンのローソクに命中した。
ゴン「あっ! 俺の火が……!」
ジャイアン(お、俺、知~らね……)
受験生 1-1 試練官
クラピカ「次は私が行こう」
マジタニ「クックック、俺はデスマッチを提案する!」
スネ夫「なんなのあのバケモノ! ママァ~!」
しずか「クラピカさん、大丈夫かしら……」
レオリオ「俺とやった奴よりはるかにヤバそうだぜ!」
キルア(あーあ、あんなハッタリ野郎にビビっちゃって……)
クラピカ「始めようか」
マジタニ(くそっ、こいつなんでビビらねぇ!? ええい構うか!)
「ひゃおっ!」
ドガッ!
マジタニの鉄拳がリングを砕く。
のび太「ひぃ~すごい! ドラえもん、クラピカさん殺されちゃう!」
ドラえもん「う、うん」
ドラえもん「平和アンテナ~!」
<平和アンテナ>
どんな争いをもしずめる平和電波を出す道具。
マジタニ「俺は旅団四天王マジタニ! 負けを認めるならば今の内だぜ」
クラピカの眼が、緋色に変わる。
マジタニ「ひっ、なんだお前!?」
逆上したクラピカの一撃がヒットする寸前、平和電波が2人に届いた。
クラピカ「同胞を殺された怒りと憎しみを、無関係の人間にぶつけるところだった。
非礼を詫びよう」
マジタニ「いやこちらこそ、旅団の名を騙って勝ちを得ようなんてすまなかったな」
クラピカ「私の負けだ」
マジタニ「いや、俺の負けだ」
タッチの差で、クラピカ敗北。
受験生 1-2 試練官
クラピカ「すまん……(なぜ私は負けたんだろう……)」
へこむクラピカ。
ドラえもん(なんだか悪い事しちゃったなあ)
キルア「じゃあ次は俺行くよ」
レルート「(ガキじゃないの)私の勝負は、賭けよ。チップは時間!
互いの持ち時間は50で、10時間ずつ賭けられるわ。0になったら負けよ」
キルア「賭けの内容は?」
レルート「アンタが先に決めていいわよ」
キルア「ふーん……じゃあ」
レルート(せいぜい楽しませて頂戴よ)
キルア「俺がアンタを5秒以内に殺せるか賭けようよ」
レルート「え!?」
キルア「どっちに賭ける?」
レルート「そ、そんな勝負は認められないわ!」
キルア「受けてくんないのか。じゃあ面倒だしアンタを殺そう」
レルート「ちょっ……もし勝負内容が不確定な時点で私を殺したら、
アンタの負け! こっちの3勝が確定して、アンタらは失格よ!」
キルア「いいよ別に」
レルート(この殺気……本物……!)
キルア「分かった? アンタが生き残るにはさっきの勝負を受けて
“殺せる”に50時間賭けるしかない」
レルート「う……」
死など恐れていないし、冷静になれば打つ手はあったかもしれない。
しかしレルートにとって、キルアが放つ殺気は荷が重すぎた。
暗殺者(プロ)に、賭博師(プロ)は屈した。
レオリオ「ハッタリとは思えねェ迫力だったぜ……。あいつ……何者なんだ」
ゴン「暗殺一家のエリートだって」
ジャイアン「へっ、俺だって店番のエリートだぜ!」
スネ夫(暗殺一家……。ママ……ぼくは帰れないかもしれません)
受験生 2-2 試練官
のび太「最後はぼくか……」
のび太の相手が姿を現す。
ジョネス「久々にシャバの肉をつかめる……」
のび太「ひぃ~! 壁を素手でむしった!」
レオリオ「ノビタ! 俺たちの負けでいい、アイツとは戦うな!
奴は解体屋ジョネス! ザバン市最悪の殺人鬼だ!」
キルア「ち……」
(こんなのが控えてるなら、さっきの女をノビタに回すべきだったな)
のび太「ド、ドラえもん……あの人を落ち着かせるような道具ない?
シャバの肉つかませ機とか……」
ドラえもん「あるわけないだろ!」
クラピカ「私もレオリオに賛成だ。むざむざ死にに行くことはない」
ジャイアン「なんでぇなんでぇ、俺が出てもいいんだろ? やってやる!」
勝手に橋を渡るジャイアン。もう追いつけない。
レオリオ「おいっ! くそっ、バカヤロウ!」
のび太「ああ、ジャイアンが! ドラえもん何とかして!」
ドラえもん「あれでもない、これでもない~!」
ジャイアン「いくぜぇ! メタメタのギタギタにしてやらぁ!」
ジョネス「つかみがいがありそうな肉だ……」
キルア(無理だ──殺られる)
スネ夫「(そうだ!)ジャイアン一曲歌って~!」
ジャイアン「そうか、俺様の歌なら殺人鬼もメロメロだぜ!」
ボ エ ~ ~ ~ ~
ジョネス「ぐわぁぁぁ! やめろオォォォォ! もうシャバの肉いいから、
まいったああアアアア!」
悲鳴の後、ジョネス失神。
受験生 3-2 試練官 受験生の勝利
のび太「……お、お疲れ、ジャイアン」
ジャイアン「歌ったらスカッとしたぜ! もう一曲歌いたいぞ」
スネ夫「ジャ、ジャイアン、こんなところじゃもったいないよ。
ハンター試験に合格したら盛大に披露してよ」
しずか「そ、そうよ。もっと武さんに相応しい舞台があるわよ」
ジャイアン「ん? それもそうだな」
キルア(なんて破壊力だ。あんな技があるなんて)
ゴン(まだ耳がズキズキする……。吐き気も……)
クラピカ「ジャイアン、さっきの技はどうやったんだ?」
ジャイアン「俺、歌手めざしてんだ。シンガーソングライターってやつを」
レオリオ「フン、たのもしい限りだな」
クラピカ(味方のうちは……な)
幾度も待ち受ける多数決と罠──。
いちいちのび太が足を引っぱりまくったが、ドラえもんの道具でフォローして
ついに出口直前まで到着した。
石像『全員で行けるが困難な道、2人は行けないが短く簡単な道。
前者は45時間程、後者は2分程でゴールです。
長く困難な道なら○、短く簡単な道なら×を押してください』
残り時間は20時間。
石像『×の場合、壁の手錠に2人が繋がれた時点で扉が開きます』
しずか「短い道だと、9人中7人しかゴールできないって事ね」
レオリオ「……おめェらにゃ悪いが俺は×を押す。そして7人の中に残る」
ゴン「俺は○を押すよ、まだ20時間もあるんだし。みんなで通過したい」
キルア「俺は×を押すぜ。戦うしかないとしても」
クラピカ「私は○だ」
のび太「ぼくは──」
トリックタワー1階。
トンパ「よう」
のび太「トンパさん!」
トンパ「とうとうここまで来たか、まだ子供なのに大したもんだ」
のび太「どうもありがとう」
レオリオ「ドラエモン、あんな輪っかがあるなら言えよな!」
クラピカ「しかし、助けられたよ。ありがとう」
ドラえもん「ど、どうも(タワーに入る時使ったのに、すっかり忘れてた……)」
最後の多数決は『○3 ×2』で長く困難な道に決定した。
9人はゴンの提案で短い道へ出るため壁を壊し始める。
その途中、ドラえもんが「通り抜けフープ」を思い出したのだった。
かくして9人は、52時間15分でトリックタワーを攻略した。
スネ夫「ぼくらより早くゴールした人も多いね」
ジャイアン「ん。なんだあいつ、こっち見てるぜ」
スネ夫「ホントだ、気持ち悪いなぁ」
ギタラクル「カタカタカタカタカタ……」
ジャイアン「うわっ!」
スネ夫「ひっ!」
ギタラクル「カタカタカタカタカタ……」
ジャイアン「い、行こうぜ」
スネ夫「うん!」
ギタラクル(ヒソカを消したのは……やはり“あの5人”だな。
もうすぐ彼も追いつく頃だろうし、
次の試験の場所も見当つくし、連絡しておくか)
『タイムアップ~!』
第三次試験通過人数、29名。
(内1名は重体で、ドラえもんの道具で一命を取り留めるもリタイア)
リッポー「諸君、タワー脱出おめでとう。残る試験は第四次試験と最終試験のみ」
しずか「あと二つね」
スネ夫(もう危険なのはコリゴリだ!)
リッポー「四次試験はゼビル島にて行われる。君たちにはこれからクジをひいてもらい、
狩る者と狩られる者を決定してもらう」
ジャイアン「面白そうじゃん!」
のび太「借り物競走かぁ」
リッポー「この中には28枚のナンバーカードが入っている。
タワーを脱出した順にひいてもらおう」
リッポー「全員ひきおわったね。今ひいたカードに書かれた番号が、君たちの獲物だ」
リッポー「自分のナンバープレートと獲物のプレートは3点、それ以外は1点、
最終試験に進むには6点必要だ」
しずか「受験生同士の対決というわけね」
スネ夫(そうだ! ぼくのナンバーを他の受験生が記憶してるとは限らない。
ナンバープレートを隠さないと!)
のび太「あれ、スネ夫なにやってんの?」
スネ夫「次の試験の話、聞いてただろ! プレートをポケットに隠せよ!」
のび太「借り物競走じゃないの?」
スネ夫(んもう、バカにモノを教えるのは大変だ)
「いいからとにかく隠せ!」
のび太「わ、わかったよ」
のび太「なんだいスネ夫の奴、ピリピリしちゃって……あ、ゴン、キルア!」
ゴン「あ、ノビタ」
キルア「よ」
のび太「何番だった? ぼく、384番だった」
キルア「お、おい! あまり大声でいわない方がいいぞ」
のび太「え、この番号の人からプレート借りる試験でしょ?」
ゴン(ち、近いような遠いような……)
キルア「ふー……まぁ俺らだけ教えないわけにもいかないな。
せーので見せ合おうぜ」
ゴン「うん」
ゴン⇒89 キルア⇒197 のび太⇒384
のび太「2人の番号って誰だっけ?」
キルア「やっぱわかんねー? みんな隠しちゃったからなー」
ゴン「俺も誰だったか分からないや」
のび太「でも、ドラえ──」
キルア「ま、なんとか探してみせるさ。生き残れよ」
ゴン「うん! 絶対突破してみせる!」
のび太「う、うん……!」
のび太は羨ましかった。
少し年上なだけなのに、あまりにも自分より前を進んでいる2人が。
のび太は恥ずかしかった。
そんな2人に「ドラえもんに頼めば~」と提案しかけた自分が。
のび太(ぼくにはあの2人みたいに、ドラえもんに頼らず、ってのは無理だ)
のび太(でも……ほんの少しでもいい、このハンター試験で
ぼく自身の力を出したい!)
四次試験開始──
森の中を半ばピクニック気分で歩くのび太たち。
ジャイアン「よーっし、ハンティング開始だぜい!」
しずか「一週間もあるし、まずは雨風をしのげる場所を探した方がいいわね。
この島のどこかにほら穴があるはずよ」
のび太「さすがしずちゃん!」
ドラえもん「ひとまずはほら穴探しだね」
ジャイアン「どうしたスネ夫? 元気ないじゃんか」
スネ夫「よくそんなにのんきでいられるね、君たち」
ジャイアン「なんだとぉ!?」
スネ夫「いつどこで他の受験生に狙われるか──」
ガサッ!
スネ夫「うわぁぁぁぁっ!」
アゴン「大人しくしな、刺しちまうぜ」
チャキッ
スネ夫「マ、ママァ~!」
のび太「スネ夫!」
アゴン「俺の獲物は409番。たしかお前らのどれかだろ?」
ドラえもん「ぼ、ぼくだ!」
アゴン「よし、そいつをよこしな。俺も手荒なマネはしたくねェ。
ついでに3点くらい余裕が欲しいからな。他の3人もプレート出しな」
ジャイアン「ふっざけんな!」
アゴン「こいつがどうなってもいいのか?」
スネ夫「た、た、助け……」
ジャイアン「くっ……」
のび太「分かった、ぼくのプレートをあげるよ」
ジャイアン「ちくしょう、俺のもだ!」
しずか「私も」
アゴン「よしよし、いっとくが全員のプレートを奪わないだけ俺は良心的だぜ?
プレートが一枚でもありゃ審査委員会からの助けを期待できるってハナシだ」
トンパ「そりゃあァ~!」
アゴン「!?」
ガゴッ!
トンパの不意打ちキックで、アゴンは気絶した。
のび太「トンパさん!」
トンパ「君たち、大丈夫か?」
ドラえもん「助かった……」
しずか「ありがとうございます。でも、どうして私たちを?」
トンパ「正義の味方、といいたいところだが
281番(アゴン)が俺の獲物だっただけさ。
君たちには変なジュースを飲ませた借りもあるしな」
ドラえもん「本当に助かりました」
トンパ「なぁに、まともにやり合ったらアゴンは手強かったし
ある意味俺も君らに助けられたようなもんだ」
ジャイアン「ちくしょう、あんな急に出てこなきゃ俺だって──」
トンパ「ジャイアン君。この試験、不意打ちは卑怯でもなんでもない。
アゴンがもし君らを殺しにかかってたら、
人質にされた彼の首が飛んでてもおかしくはなかった」
ジャイアン「うっ……」
スネ夫「ぼくの首が……」
トンパ「あまりしゃべってると他の受験生にも見つかるかもしれない。
俺はそろそろ去るが、くれぐれも油断しないようにな」
きれいなトンパのおかげで、5人はプレートを失わずに済んだ。
しずか「あっ、あそこにほら穴があるわ!」
ジャイアン「よし入ろうぜ!」
ほら穴内部──
のび太「奥に明りがついてるよ、誰かいる!」
バーボン「ようこそ。悪いがお前たちはもうここから出られんぞ。
私にプレートを渡すまではな」
ジャイアン「なんだとぉ!」
ジャイアンがバーボンに詰め寄ろうとすると、
ヘビがボタボタ落ちてきた。
しずか「キャアアアアア!」
バーボン「可愛いだろう? ちなみに私に近づいたりさわったりすると
襲いかかるよう仕向けてある」
スネ夫「ひぃっ、こんなとこにいられるか!」
出口を塞ぐように群がる無数のヘビ。
バーボン「おっと出ようとしても、同じ運命だ」
バーボン「分かったかね? お前たちの持ってるプレートを全て渡せば
出口のヘビの命令は一時的に解除してやろう」
ジャイアン「くっ、くそう!」
バーボン(こいつらは獲物ではないが、これで一気に5点獲得……。
三次試験は頂きだな)
のび太「ドラえもん! 桃太郎印のきび団子は?」
ドラえもん「あんなたくさんのヘビに食べさせる数はないよ!」
スネ夫「もういいじゃん! プレートあげちゃおうよ、あの人に!」
ジャイアン「スネ夫、おまえっ!」
しずか「武さん、スネ夫さん、ケンカはやめて!」
バーボン「ま、ゆっくり決めてもらってかまわんよ。もっともどう議論しても、
私にプレートを渡すという結論にしかならんだろうがね」
のび太「あの人、道具もないのになんでヘビを操れるんだろう」
しずか「きっとヘビ使いなんだわ」
ドラえもん「(ヘビ使い……そうか!)なりきりプレート~!」
<なりきりプレート>
このプレートになりたいもの(職業など)を書き、首から下げると
なりきる事ができる。
ドラえもんはなりきりプレートに『ヘビ使い』と書き、首から下げた。
ドラえもん「このほら穴にいるヘビたち! みんな外へ出ろ!」
次々と外に出ていくバーボンのヘビ。
バーボン「バカな……。完璧に仕込んだはずの私のヘビが……おのれェッ!」
ジャイアン「させっかよ!」
ジャイアンが勇敢に立ち向かうが、大人と子供である。
あっさりバーボンに押さえつけられてしまう。
のび太「ドラえもん、ショックガンを!」
ドラえもん「頼んだ!」
ズバッ!
ショックガンの光線は、見事バーボンに命中した。
気絶しているバーボンをロープで縛り上げる。
ジャイアン「よし、このオッサンのプレートはいただきだぜ!」
しかし喜びも束の間、ほら穴にまたも異変が起こる。
白い煙が穴の入り口からどんどん侵入してきたのだ。
シュウウウウ……
のび太「なにこれ!」
スネ夫「毒ガスじゃないの!?」
ドラえもん「大丈夫、ぼくらはテキオー灯を浴びてるから──あ」
効力切れ。24時間は試験中にとっくに過ぎていた。
のび太「眠くなってきた……」
ジャイアン「俺も……」
スネ夫「も、もうダメ……」
ドラえもん「な、なにか道具を……目が……」
しずか「み、みんなナンバープレートを……」
5人は深い眠りについた。
目を覚ますと、ほら穴にいた全員のナンバープレートが奪われていた。
ジャイアン「ちっくしょう! 眠らされるなんて!」
しずか「ドラちゃん、ポケットは?」
ドラえもん「無事だよ! しずちゃんのおかげかもしれないね」
眠りに落ちる寸前のしずかのファインプレー。
彼女は全員のプレートを集め、わざと目立つところに置いた。
こうしなければ、敵にプレートを『探す』という選択肢が発生し
四次元ポケットをついでに持っていかれたかもしれない。
万が一そうなっていたら、もうどうしようもなかった。
ドラえもん「とりよせバッグ~!」
<とりよせバッグ>
遠くにある物を取り寄せることができるカバン。
ドラえもん「ようし、やられたら仕返しはちゃんとしないとね。
奪われたプレートと、奪った人のプレートを取り寄せちゃおう」
同時刻──
ポンズ「あら、さっき奪った6枚と私のプレートがないわ! どうして!?」
103番(バーボン)はスネ夫の、246番(ポンズ)はしずかの獲物だった。
これで2人は四次試験クリア条件を満たした事になる。
ドラえもん「壁紙ハウス~!」
<壁紙ハウス>
家の絵が描いてある紙だが、ドアの中には空間が広がっている。
壁などに貼り付けて使用する。
ほら穴の中に、さらに家を作ったのである。
しずか「あとは3人がターゲットのプレートを手に入れれば、クリアね」
スネ夫「ジャイアンたちも、さっさと獲物のプレートを取り寄せちゃいなよ」
ドラえもん「そうだね、ぼくは118番だ。……よし取り寄せたぞ」
ジャイアン「俺の獲物は198番だ!」
ドラえもん「はい、198番のプレート」
ジャイアン「よっしゃあ!」
ドラえもん「次、のび太君のターゲットは?」
のび太「……ぼくはいいや」
ドラえもん「え?」
のび太「ドラえもん、ぼくはショックガンだけでやるよ」
ジャイアン「何言ってんだ、のび太のくせに!」
スネ夫「ショックガンだけじゃどうにもならないよ!」
のび太「ぼく、ゴンやキルア、クラピカさんやレオリオさんを見て思ったんだ。
とてもあの人たちみたいになるのはムリだけど、
少しでも近づきたい、マネしたいって」
スネ夫「お前、正気か!? ねぇジャイ──」
ジャイアン「のび太、よくいったぜ」
スネ夫「は……?」
ジャイアン「俺にも手伝わせてくれ」
しずか「私もやるわ」
スネ夫「しずちゃんまで!」
ドラえもん「分かったよ、のび太君。ただし、ぼくも手伝わせてもらう」
スネ夫「みんなどうかしちゃったんじゃないの!?
ぼくが剣突きつけられたり、ガスで眠らされた事忘れたの!?」
のび太「うん、どうかしちゃったのかもしれない」
スネ夫「──ふん、バカバカしい! いっとくけどぼくは参加しないからね。
一週間絶対ここから出ない!」
のび太「分かってるよ」
ドラえもん「もう日が暮れたし、グルメテーブルかけで夕食にしよう」
ジャイアン「明日からは、のび太のターゲット探しだ!」
スネ夫「……ふん」
翌朝、ドラえもんはメモリーディスクでのび太の記録を掘り起こした。
<メモリーディスク>
CDのような形状の道具。頭から記憶を読み取り、専用の機械で再生可能。
のび太の記憶映像には、384番が映っていた。
吹き矢を扱う猟師、ゲレタである。
のび太「このサングラスの人だね」
ドラえもん「じゃあみんな、石ころ帽子をかぶって手分けして探そう。
見つけたら糸なし糸電話で知らせること」
<石ころ帽子>
これを被ると、石ころのような存在感になり周囲から気づかれなくなる。
<糸なし糸電話>
糸のない糸電話。多分圏外なし。
ドラえもん「スネ夫も念のため石ころ帽子を被っときな。
壁紙ハウスはカモフラージュしておいたけど、一応ね」
スネ夫「当然だよ。ぼくは死にたくないからね」
ほら穴の壁紙ハウスを拠点とし、留守番のスネ夫を除く4人はゲレタ捜索を開始した。
~
アモリ「てめェ、自分のプレートなくしたとかアホか!」
ウモリ「ったく、いつもいつもドジ踏みやがって!」
イモリ「ひィ~ごめんよ兄ちゃん!」
ジャイアン(俺のターゲットだったやつかな)
~
ソミー「くそ~なんで俺のプレートがなくなったんだ?」
猿「キキ~ッ」
ドラえもん(多分ぼくのターゲットだった人……と猿だ)
~
このように他の受験生は見かけるものの、なかなか本命には出会えなかった。
試験六日目──
のび太「じゃあスネ夫、行ってくるよ」
4人を見送り、スネ夫がひとりつぶやく。
スネ夫「あいつも強情なやつだよな。とりよせバッグ使えばいいのに」
スネ夫「それに付き合うみんなもどうかしてるよ」
スネ夫「ぼくみたいなブルジョア育ちには理解できないね」
ゾ ク ッ ・ ・ ・
スネ夫「な、なんだ、今のいや~な感じは」
スネ夫「もしや、みんなの危険が危ないんじゃ……」
スネ夫「……知るか! ぼくはあれだけ忠告したんだ!」
六日目にして、ついにのび太はゲレタを発見した。
このままショックガンで撃てば楽勝だが、あえて石ころ帽子を脱ぎ、正体を明かす。
のび太「384番の人!」
ゲレタ「!?」
のび太「ぼくと勝負をしませんか?」
ゲレタ「(こいつ、いつの間に後ろに……!?)勝負?」
のび太「手持ちのプレートを賭けてぼくと勝負して下さい!
ぼくはこのショックガンを使います。
当たれば気を失うけど、死なないしケガもしません」
ゲレタ「ボウヤ、お前の番号は?」
のび太「410番!」
ゲレタ「奇遇だな、俺の獲物もお前だ。いいだろう、受けよう。
俺の武器はこの吹き矢だ。ま、死ぬことはあるまい」
ゲレタの獲物は384番(のび太)ではなかった。真っ赤な嘘である。
ゲレタ(ククク、俺はすでに6点分持っているが、
余分にプレートを集めれば最終試験で有利になるかもしれん)
ゲレタはトリックタワー攻略時間が四次試験の有利不利(出発順)に影響した事を
思い返していた。
ゲレタ(どうやって俺の後ろを取ったかは知らんが、今はスキだらけだ。
万が一にも敗れる事はないはず)
ゲレタ「勝負の方法は?」
のび太「この石を投げて地面についたら開始、で」
ゲレタ「ふっ、まるでガンマンだな」
ゲレタ(俺のウソを信じ込み、互いに3点プレートを賭けた真剣勝負!
……ってツラだな)
のび太は石を拾い、前に放り投げる。
ゲレタ(ボウヤ、悪いが勝負をするつもりはないぜ)
まだ石は落ちていない。
が、ゲレタは吹き矢を構え、のび太に照準を合わせる。
のび太「え!?」
ゲレタ(狩りに正々堂々なんてないんだぜ!)
フッ!
放たれる矢。
矢じりには筋弛緩系の毒が塗っており、のび太なら一ヶ月間は影響が出るシロモノ。
ゲレタ(もらった!)
のび太「───!」
バシュッ!
ゲレタ「なっ!」
(こいつ、俺の矢を狙い撃ちに──!?)
ゲレタが二発目を撃つ前に、
ズバッ!
のび太の二発目がゲレタに命中した。
──石が地面に落ちた。
興奮冷めやらぬ様子で、気絶したゲレタに駆け寄るのび太。
のび太「やった、やったぞ!」
ゲレタの所持プレートは、384番と405番。
のび太「これでえ~っと……何点だっけ? まぁいいや」
糸なし糸電話で他の3人を呼び出す。石ころ帽子を取り、盛り上がる。
ドラえもん「すごいじゃないか!」
ジャイアン「やるじゃん、見直したぜ!」
しずか「おめでとう、のび太さん!」
のび太「ありがとう、みん──」
突如皆を包み込む、祝福ムードを丸ごとかき消す瘴気。
その場にいた4人から、とたんに笑みが消える。
ヒソカ「見ィ~つけた」
悪魔が現れた。
ドラえもん(この人は……ぼくがどくさいスイッチで消した人だ)
ドラえもん(名前はたしかヒソカ)
ドラえもん(ハンター試験はとっくに失格したはずなのになんでここに)
ヒソカ「ボクを消したのは君たちだろ?」
ドラえもん「な、なんのこと?」
ヒソカ「とぼけてもダメ。ボクの仲間から君らのことは教えてもらってる。
なんでも奇妙な道具を使うんだってね?」
ドラえもん(マズイ……道具のことがバレてる……!)
ヒソカ「こう見えてもボク、借りは返さないと気が済まないタチでね。
借りは狩りで返させてもらう」
ぞっ
小学生が浴びるには重すぎる殺気に晒され、
ドラえもん、のび太、ジャイアン、しずかは瞬時に同じ行動を選択した。
手に持っていた石ころ帽子をかぶり、逃げる。
ヒソカの殺気が、かえって4人に最適な行動を取らせる結果となった。
──しかし。
ヒソカ「残念」
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
4枚のトランプが、4つの石ころ帽子を丁寧に切り裂いた。
頭や髪は傷つけぬよう。まさに神業、いや悪魔の業。
のび太「石ころ帽子が通じない……!?」
ヒソカ「まるで道ばたに転がる石のような存在感だったよ、見事だ。
その帽子の力かい? あいにく今のボクは感度ビンビンでねェ……」
ジャイアン(なんなんだコイツ……!)
しずか(あ、悪魔だわ……)
ヒソカを倒すため、ポケットに手をかけようとするドラえもん。
だがすかさず、トランプがドラえもんの足元に刺さった。
ドラえもん「うわっ!」
ヒソカ「新しく道具を出させるほど、ボクはお人よしじゃないよ」
ヒソカ「ちなみにもう一度ポケットに手を入れようとしたら、分かるだろ?
ボクなら一瞬で終わらせられる」
ドラえもん「うっ」
毎日のように繰り返してきた、危機⇒道具⇒解決、のサイクル。
命懸けの大冒険でさえ成立した無敵の方程式が──通用しない。
ヒソカ「もし君たちが道具に頼らなければ何もできないようなコなら、
わざわざ実るのを待つまでもないからね」
のび太「うわあああっ!」
バシュッ!
ヒソカ「おっと」
のび太「え」
ドラえもん(ショックガンをかわした!?)
しずか(のび太さんが外した!?)
ジャイアン(ウソだろ!?)
ヒソカ「狙いはお見事、でもバレバレ。とても合格点はあげられないね」
のび太「あ、あわわ……」
ジャイアン「ちくしょおおおっ!」
ドラえもん「ジャ、ジャイアン!」
ジャイアンが飛びかかる。よける必要すらない攻撃だが、軽々とかわすヒソカ。
ジャイアン「き、消えた!?」
ヒソカ「こっちだよ。それじゃそろそろ──」
しずか「武さん、歌よ!」
ジャイアン「あ、そうか!」
ドラえもん(ナイスしずちゃん!)
ホ ゲ ~ ~ ~ ~
ヒソカ「うん、なかなかの歌だ」
ジャイアン「俺の歌がなかなか、だって!? ゆるせねえ!」
のび太(ジャイアンの歌が通じない人間がいたなんて!)
ため息をつくヒソカ。
ヒソカ「う~ん、どうやら君たちは美味しく実りそうもない。
やはりここで狩るしかなさそうだね」
4人(こ、殺される!)
ゴッ!
4人が死を覚悟した直後、釣り竿の錘がヒソカの顔面を直撃した。
攻撃があった方向を振り返ると、そこにはゴンが立っていた。
のび太「ゴン!(なんでここに!?)」
ヒソカ「へぇ……」
ゴン「ノビタたちから離れろ!」
ヒソカ「ボウヤ、なかなかいい一撃だったよ」
のび太(そうだ、さっき倒した人が持ってた405番のプレート。
あれはゴンの番号だったはず。多分ゴンはあの人に一度奪われて
取り返しにきていたんだ!)
ヒソカ「お友達を助けに来たのかい? いいコだね~」
ゴン(怖い! でもやらなきゃノビタたちが殺される!)
ゴンは果敢にヒソカに挑むが、健闘空しく捕まってしまう。
ゴン「ううっ!」
ヒソカ「君はいい使い手になりそうだ……楽しみにしているよ」
ガゴッ!
ヒソカの拳がゴンにめり込む。小さな体が10メートルは飛んだ。
ヒソカ「強くなりなよ。今みたく、ボクの顔に一発ぶち込めるくらい」
のび太「ゴンッ!」
ジャイアン「この野郎~! ぜってぇ許さねぇぇ!」
ジャイアン、怒りの突進。通じるはずもないが、気迫だけは凄まじかった。
しずか「こうなったら、私だって……」
ドラえもん「ぼくも頭突きという最終兵器があるんだ!」
ヒソカ「ククク、動きこそ常人レベルだが、少しはいい顔になったね」
ヒソカ(あのメガネのボウヤの一撃に賭けているのだろうね。
いいだろう、もしボクに当てる事ができたなら──)
ドラえもん、ジャイアン、しずかの攻撃をひらりひらりとかわすヒソカ。
のび太(みんな! 必ず当ててみせる!)
ヒソカは遊んでいる。のび太の肉眼でも十分とらえられる速さだ。
もし本気の速さを出されたら、打つ手はない。チャンスは今だけ。
のび太(アイツの動きを見破る!)
のび太の両目は図らずも、念の技術の一つ“凝”に近い状態になっていた。
ヒソカ(へぇ……素質はあるのかもね)
ジャイアン「うりゃあっ!」
しずか「えーいっ!」
ドラえもん「このぉっ!」
のび太(ジャイアンのパンチ……しずちゃんのビンタ……当たらない。
ドラえもんの頭突き……ハズレ……。
──ここだっ!)
バシュッ!
のび太はショックガンの引き金を引いた。
ショックガンは電撃のような光線を撃ち出す道具である。
ゆえに発射から着弾まで、会話を交わす時間などあるはずがない。
──なのに、のび太は聴いた。
ヒソカ「いいタイミングだけど、惜しかったねェ」
のび太はかわされると分かった。分かってしまった。
自分たちは殺されると分かってしまった。
──が。
ヒソカは自分の右足に、何かがくっついている事に気づく。一瞬の戸惑い。
これがわずかにヒソカの動きを鈍らせた。
ズ バ ァ ッ !
ショックガンの光線はヒソカを完璧に直撃した──。
のび太「や、やった!」
ヒソカ「……ふぅん。けっこうシビれちゃったよ」
のび太「なっ!?(直撃したはずなのに!?)」
ヒソカ「もう一人いたのかい。そういえば君らは5人いると聞いていたなァ。
やられたよ」
ヒソカの足元には、ヒソカと一緒にショックガンを喰らった人間がいた。
ショックガンで石ころ帽子が破れ、姿が現れていた。
スネ夫「ピクピク」
のび太「スネ夫っ!? 来てたの!?」
ヒソカ「このコもあの気配を消す帽子をかぶっていたようだねぇ。
いつの間にかボクの足にしがみついていたようだ」
のび太「………」
ヒソカ「いいだろう、合格だ。勇敢にもボクに立ち向かってきた3人、
素晴らしい集中力でボクの動きを読んだ君、
ひっそりと行動し見事なアシストをなしとげた彼、
熟せばモノになるかもしれない」
ヒソカ「じゃ、ボクはこれで……」
ヒソカはそう言い残すと、不気味に笑いながら森の奥へと消えた。
のび太「はっ、はっ、はっ……。た、助かった……?」
ドラえもん「のび太君、大丈夫!?」
ジャイアン「やったぜぇっ!」
しずか「そうだわ、ゴンさんとスネ夫さんを……」
ドラえもん「お医者さんごっこカバン~!」
<お医者さんごっこカバン>
患者の病気を自動で診断し、適切な治療法を用意してくれるカバン。
ゴン「うっ……あれ、あいつは?」
のび太「ぼくらは合格だとかなんとかいって、どっか行っちゃったよ。
ゴンが来なかったらみんな殺されてたよ、ありがとう」
ゴン「そっか、よかった……」
ジャイアン「スネ夫、大丈夫か? ったくおいしいトコ持っていきやがって!」
スネ夫「ま、君たちだけじゃ不安だったからね」
ジャイアン「こいつぅ。──にしても、よく場所が分かったな」
スネ夫(あんなオンチな歌、ジャイアンしかいないからね)
のび太「ところでゴン、これなんだけど」
ゴン「これは……俺のプレート?」
のび太「さっき、ぼくがあの人を倒して手に入れたんだ」
ゴン「………」
のび太「ぼくなんかから受け取りたくないかもしれないけど……」
ゴン「──ううん、ありがと!」
ゴンは快く、のび太からプレートを受け取った。
ゴン「? ……ノビタ?」
のび太「え?」
のび太の目からは涙がこぼれていた。
しずか「どうしたの!?」
ジャイアン「どっか痛むのか!?」
のび太「いや、そんなんじゃないよ。ただ……ほっとしたというか。
プレートを奪って、みんなであの変なやつを追い払って、
ゴンに“ありがと”っていわれて……」
のび太「なんていうか、やっとハンター試験を受けてるみんなに並べた
って気になったんだ」
ゴン「……ノビタは俺の友達で、ライバルだよ。最初っから」
のび太「……えへへ。ねぇ、みんな。ゴンには話してもいいかな?」
4人の答えは同じだった。
ドラえもん「もっちろん!」
ジャイアン「いいぜ!」
スネ夫「ま、いいんじゃない」
しずか「もちろんよ」
ゴン「?」
のび太は全てを打ち明けた。
自分たちが、この星の人間ではないこと。
不思議な道具を持っていること。
なりゆきでハンター試験に参加してしまったこと。
のび太「信じてくれるかい?」
ゴン「もちろん! むしろ今までの妙な出来事に説明がついてスッキリしたよ」
のび太「どう思った?」
ゴン「どう……って、別に。どこから来ようと何を持ってようと、
ノビタたちはノビタたちだよ」
のび太「ありがとう」
ゴン「今の話、他の3人にしても大丈夫?」
のび太「もちろんいいとも!」
その後、ゴンはクラピカとレオリオを探すというので別れた。
のび太たちはどっと疲れが出たのか、クリア条件を満たしていることもあり、
残り時間を安全な壁紙ハウスで過ごした。
長かった四次試験もついに終了。最終試験に残ったのは以下のメンバーとなった。
16.トンパ、53.ポックル、99.キルア、191.ボドロ、294.ハンゾー
301.ギタラクル、403.レオリオ、404.クラピカ、405.ゴン
406.ジャイアン、407.スネ夫、408.しずか、409.ドラえもん、410.のび太
ネテロ「14名中11名がルーキーか。ほっほっほ、豊作すぎじゃのう」
ブハラ「すごいですね、今年は」
メンチ「あのタヌキも残ってるようね」
ビーンズ「うち5名は試験に申し込みした形跡がまったくないのに
申し込みしたことになってるんですよね。実に不思議です」
ネテロ「ま、この際細かいことは言いっこなしじゃ」
サトツ「ところで会長、最終試験は何を?」
ネテロ「一風変わった決闘をしてもらうつもりじゃ。まず全員と話をしたいのう」
ネテロ「なぜハンターになりたいと?」
~
のび太「ハンターを目指してる人がとてもかっこいいから」
ドラえもん「のび太君が成長してくれればと思って……」
ジャイアン「ガキ大将はハンターくらいにはならないとな!」
スネ夫「別になりたくないけど、みんなに巻き込まれちゃって……」
しずか「とてもいい経験になると思ったので」
~
ネテロ「受験生の中でもっとも注目しているのは?」
~
のび太「405番と99番かな」
ドラえもん「16番の人です。助けてもらったので」
ジャイアン「403番だ! 俺の歌を『たのもしい』って褒めてくれたしな」
スネ夫「301番! なんなのアイツ、気持ち悪い!」
しずか「404番です。3次試験で一緒だったんですけど、とても頭がよくて」
~
ネテロ「受験生の中でもっとも戦いたくないのは?」
~
のび太「できればだれとも戦いたくないなぁ……ケンカ弱いし」
ドラえもん「294番、頭がテカテカなので」
ジャイアン「俺はだれとだって戦うぜ!」
スネ夫「301番! 絶対イヤだ!」
しずか「191番の人です。とても強そうだもの」
~
最終試験当日──
ネテロ「試験は一対一のトーナメント形式で行う。組合せはこうじゃ!」
・一回戦はのび太vsハンゾー(ゴンは一つ上)
・ヒソカの位置にトンパ
・のび太以外の4人は原作受験生と別ブロックに固まっている
ネテロ「このトーナメントは負けた者が上に上がるシステムじゃ。
つまりたった一勝で合格、不合格者はたった一人である」
スネ夫「のび太、不合格おめでとう」
ジャイアン「残念だったな、のび太」
しずか「気を落とさないで、のび太さん」
のび太「ひ、ひどい。しずちゃんまで……」
ネテロ「組合せは今までの成績で決めておる。成績の多い者の方がチャンスは多い」
スネ夫「ってことは成績よかったんだな。のび太のくせに」
ジャイアン「まぁ意味ないけどな。のび太だし」
しずか「何回も負けるのは辛いと思うけど、頑張って」
のび太(ぼ、ぼくだって……)
↓トーナメント表
http://up3.viploader.net/jiko/src/vljiko064778.png
ネテロ「武器OK、反則なし、相手に『まいった』といわせれば勝ち。
相手を死に至らしめたら即失格! その時点で残りの者が合格じゃ」
マスタ「第一試合、ハンゾーvsノビタ!」
のび太はショックガン装備、ハンゾーは武器を持っていない。
スネ夫「ジャイアン、のび太は何秒で負けると思う?」
ジャイアン「10秒ってとこじゃねえか?」
マスタ「始め!」
のび太「いけぇっ!」
バシュッ!
火を噴くショックガン。だが惜しくも、肩当てにかすっただけだった。
ハンゾー「射撃に自信アリってとこか。認めるぜ」
ガッ!
ハンゾーの軽い手刀で、のび太いきなりのダウン。
ハンゾー「もっともそれだけだがな」
試合開始わずか2秒であった。
ゴン「ノビタ!」
キルア「ちっ(最初の光線をかわされた時点で勝負ありだ)」
ハンゾー「ほれ、さっさとギブアップしちまいな」
のび太「い、いやだ!」
ベシッ!
のび太「ゲホッ!」
ハンゾー「今なら次の試合への影響は少ない。意地はってもいいことないぜ」
のび太「まだまだ、勝負はこれからだ!」
バシッ!
のび太「うぐっ!」
ハンゾー「いっとくが俺はお前なんていつでも殺せるんだぜ」
のび太「ぜ、絶対いわないぞ……!」
ドッ!
執拗に繰り返される、ハンゾーによる一方的な暴力。
常人未満ののび太の肉体に、最大限の苦痛を味わわせ続ける。
のび太「げほっ、ごほっ」
ハンゾー「さっきの銃がなきゃ、万に一つもお前に勝ち目はねェ」
レオリオ「いい加減にしやがれ! んな子供をいたぶりやがって!」
ジャイアン「てめぇ、俺の子分を! 俺様が相手になってやらぁ!」
ハンゾー「だったら消えろよ。これからもっとひどくなるぜ」
マスタ「試合への手出しは禁止です。もし手を出せば、失格になるのはノビタ選手ですよ」
スネ夫「あいつ、さっさと降参すりゃいいのに! 死んじゃうよ!」
しずか「ドラちゃん、どうにかして試合を止めて!」
ドラえもん「分かってるよ……ぼくももう限界だ!」
四次元ポケットから道具を取り出そうとするドラえもん。
のび太「ま、待って……ドラえもん……」
ハンゾー「……こいつ!」
ドカッ!
のび太「ま、まだまだ……」
ハンゾー「いい加減にしろ! お前は俺に絶対勝てないんだよ!」
のび太「それでも……」
ボロボロの体で、ハンゾーにしがみつくのび太。
のび太「ぼくだけの力であなたに勝たないと……」
ハンゾー「………」
のび太「ハンターとして……みんなに……」
ハンゾー「………!」
のび太「胸を張れないんだ!」
ハンゾー(理屈じゃねーんだな……)
のび太を体から引き離し、ハンゾーは審判に宣言した。
ハンゾー「まいった、俺の負けだ」
最終試験第一試合、ハンゾーvsのび太。
のび太の勝利。
真っ先に駆けつけたドラえもんに、のび太は今にも死にそうな声で言った。
のび太「勝ったよ、ぼく」
のび太「ドラえもん。ぼく、少しはかっこよかった?」
ドラえもん「うん」
ドラえもんは泣きながら、のび太を介抱するのだった。
お医者さんカバン『ひどく痛めつけられていますが、後遺症が残らないやられ方です。
湿布を貼ってしばらく寝かせておけば大丈夫でしょう』
しずか「よかったわ……」
スネ夫「ほっ」
ジャイアン「あのハゲ忍者め、のび太をいじめやがって! 許せねぇ!」
スネ夫(おいおい)
ゴン「ノビタ、おめでとう! ──って眠っちゃってるか」
レオリオ「命に別状はねェようだな。ひとまずよかったぜ……」
クラピカ「ああ、彼がハンター一番乗りだ」
ハンゾー「ふぅ」
キルア「ねぇ、なんでわざと負けたの?」
ハンゾー「……わざと?」
キルア「ずいぶん責め方が生ぬるかったし、あんたならもっとエゲつない責め方を
心得てるはずだろ?」
ハンゾー「あんな虚弱な奴を拷問するのは初めての経験だったしな。
あれ以上やってたらマジで殺しちまうところだったし、
幸い俺はまだチャンスが残ってる。そんなに間違った判断とは思ってねーぜ」
キルア「ふうん」
ハンゾー「………」
キルア「?」
ハンゾー「──ってのは建前で、気に入っちまったんだ、あいつが」
ハンゾー「あえて敗因をあげるならそんなところだ」
キルア「………!(気に入った……?)」
【クラピカvsトンパ】
トンパも健闘するが、クラピカ優勢で試合は進む。試合開始15分でトンパが降参。
クラピカ(このトンパという男。第一印象と違い、クリーンな戦い方だったな……)
【ジャイアンvsしずか】
試合開始早々、ジャイアンがギブアップ。のび太に続き、しずかも晴れてハンターに。
ジャイアン「しずちゃんと喧嘩するわけにゃいかねーからな」
【ハンゾーvsゴン】
のび太とは比較にならない程いたぶられるゴン。
右腕を折られても、刃を突きつけられても退かぬ心に、ハンゾーまさかの連敗。
ハンゾー「まいった。どうも俺はガキに弱いのかもしれねェ」
【ボドロvsトンパ】
体格と経験で勝るボドロが、ややダメージの残るトンパに勝利。
ボドロ「お互い万全であったら、勝負はどうなっていたか分からぬ」
【ジャイアンvsドラえもん】
ジャイアンの本領発揮。ボコボコにされ、ドラえもん惨敗。
ドラえもん「ひ、ひどい……」
【ハンゾーvsポックル】
あっさり押さえ込まれたポックルが、ハンゾーの殺気にギブアップ。
ハンゾー「悪いがあんたにゃ遠慮しねーぜ」
【レオリオvsトンパ】
トンパに合わせ、レオリオも素手で挑む。激闘の末、レオリオが勝利。
レオリオ「トンパとはまた手合わせしたいぜ。気持ちのいい奴だった」
【ドラえもんvsスネ夫】
スネ夫がネズミの鳴き真似をすることで、あっという間に勝利。
ただし試合終了後、暴走したドラえもんにボコボコにされる。
スネ夫「ゆ、許してぇ~! ヒィ~!」
ドラえもん「てめえ、ぶっ殺してやる!」
【ポックルvsキルア】
開始と同時にキルアが戦線離脱。
キルア「悪いけど、あんたとは戦う気がしないんでね」
第11試合──
審判「キルア対ギタラクル! 両者、前へ!」
スネ夫「うわぁ、ついにあの気持ち悪い奴だ」
しずか「大丈夫かしら、キルアさん」
ジャイアン「あいつは俺様と同じくらい強いから楽勝だろ!」
ドラえもん(いやいやぼくらよりずーっと強いから……)
審判「始め!」
ギタラクル「久しぶりだね、キル」
キルア「!?」
ギタラクルが自ら顔面に刺さった針を抜く。すると顔が変形し──
ビキビキ…
スネ夫「なにあれ! もっととんでもないバケモノになるんじゃ!? ママァ~!」
キルア「兄……貴!」
ギタラクルの正体は、キルアの兄イルミだった。
ドラえもん「髪の毛が伸びて、骨格まで変わった! 信じられない……!
未来の道具もなしに、あんな変身ができるなんて……」
ジャイアン「なんでぇ、案外ふつうの顔じゃん」
しずか「でもすごく冷たい眼だわ。まるで平気で人を殺しそうな……」
向かい合う兄弟。
イルミ「奇遇だね。まさかキルがハンターになりたかったとはね」
キルア「……別になりたかったわけじゃないよ」
イルミ「安心したよ、心おきなく忠告できる。お前はハンターには向かないよ。
お前の天職は殺し屋なんだから。なにも求めず欲しがらず、
俺と親父の命令通り仕事をこなしていればいい」
キルア「……俺にだって望んでいることくらいある!」
イルミ「ふうん、言ってごらん」
キルア「ゴンやノビタと……友達になりたい」
イルミ「無理だね、お前に友達なんてできっこないよ。
お前はいつか必ず2人を殺したくなる」
レオリオ「キルア! 兄貴だか知らねーがそんな奴の話は聞く耳持つな!
とっくにお前らダチ同士だろーがよ!
少なくともあいつらはそう思ってるはずだぜ!」
ジャイアン「そうだそうだ! のび太なんてお前やゴンのマネしたいって
弱っちいくせに戦ったくらいだぞ!」
イルミ「そうなの?」
レオリオ&ジャイアン「たりめーだ、バーカ!」
イルミ「へぇ、まいったな……じゃあ」
イルミ「2人とも殺そう」
キルア「!」
イルミ「殺し屋に友達なんて必要ないからね」
ジャイアン「なんだとぉ!?」
スネ夫「ひっ! こ、こ、殺すって!?」
しずか「ド、ドラちゃん……のび太さんとゴンさんが!」
ドラえもん「なんてやつだ!」
ドラえもん「コベアベ~!」
<コベアベ>
この笛の音を聞くと、対象となった者は考えている事と逆の行動をしてしまう。
ドラえもん「ピ~ヒャラ~♪」
イルミ「?」
イルミは突然、キルアの元に歩き出した。
レオリオ「どうしたんだ?」
クラピカ「様子がおかしい」
イルミ「キル、すまなかった。2人は殺すのはやめておこう。
お前も今日から自由だ。ハンターになって好きなように生きなよ。
──ってわけで俺の負けだ」
キルア「え!?」
レオリオ「どうなってんだ!?」
ジャイアン「やったぜ!」
ハンター協会会長、ネテロが動く。
ネテロ「最終試験終了じゃ」
ネテロ「悪質な試合介入とみなし、409番ドラエモンは失格!
この時点で残りは合格じゃ」
ドラえもん(あ、やっぱりバレたか)
イルミ「ん……操られていたのか」
キルア「ちょっと待てよ!」
ネテロ「なんじゃ?」
キルア「助けられたのは俺だ。だったら失格になるのは俺の方だろ!?」
ネテロ「うむ。今の試合、まともにやっていればギタラクルに分があったじゃろう」
キルア「だろ!?」
ネテロ「じゃが残るおぬし、トンパ、ドラエモンの中で力が劣るのはドラエモンじゃ。
おぬしを助けて不合格にし、合格しようとしたと見ることもできる。
あと2回もチャンスを残すおぬしを助けるのも不自然じゃしな」
キルア「でも──」
ネテロ「悪いが、覆すつもりはない」
ドラえもん(これでよかったんだ)
元々ドラえもんは決勝でわざとギブアップするつもりでいた。
イルミを操り、キルアを助けたのも失格覚悟の行為。
ここでキルアを助けないと、取り返しのつかない事態になると直感したのだ。
ネテロは知ってか知らずか、ドラえもんの意志を汲んだ形になった。
キルア「……ごめん」
ドラえもん「いやぁ、ぼくの力じゃどうせ君にもトンパさんにも勝てないし」
ジャイアン「そう、気にすんなって! ドラえもんは残念だったけどな!」
しずか「キルアさん合格おめでとう!」
スネ夫(はっきりいって、ぼくらはハンターになったって意味ないしね)
一方、コベアベにしてやられたイルミも心中穏やかではなかった。
イルミ(キルをハンターにしてしまったか……。まぁこれは仕方ない)
イルミ(キルの精神を崩すつもりだったが、邪魔が入った。
それにしても俺すら操作することができるとは、少し油断してたかな)
イルミ(ヒソカから『彼らもオモチャ箱入りした』とメールが来てたけど、
できれば試験が終わったらあの5人は始末しておきたい……)
ハンター試験合格者講習会──
ビーンズ「……以上が、ハンターライセンスの効力です。質問はありますか?」
のび太「……ぐう」
しずか「のび太さん!」
ジャイアン「こいつ、眠ってんのかよ!」
スネ夫「信じられないよ、まったく」
クラピカ「彼が眠りに落ちるスピードはすさまじいな」
レオリオ「俺なんて合格の喜びで疲れもぶっ飛んだってのに、すげータマだな」
ゴン「ノビタはきっとすごいハンターになるよ」
ハンゾー(こいつを気に入った俺の目に狂いは、あったのかも……)
トンパ「ま、あとで説明してあげればいいさ」
ボドロ「ふむ。すごいのかすごくないのか、よく分からぬ少年だな」
ポックル「まったくだ。それにしても、幸せそうな寝顔してるな」
のび太「……すやすや」
合格者講習会中──
ドラえもん「ただ待ってるのもつまんないから、ドラ焼きでも……」
ネテロ「さっきは残念じゃったのう」
ドラえもん「(ハンター協会の偉い人だ)あ、どうも」
ネテロ「せっかく2人きりじゃから単刀直入にうかがおう。
おぬしと、残り4人はこの世界の人間ではないじゃろう?」
ドラえもん「ど、どうしてそれを……」
ネテロ「なんとなくじゃよ。ほっほっほ」
ドラえもん「騙していてごめんなさい」
ネテロ「なあに、一度合格したからには彼らはもうハンターじゃ。
たとえ自分の世界に戻るとしても、な」
ドラえもん「……ありがとうございます」
ネテロ「またおぬしらが来るのを楽しみに待っておるよ。ハンターとして」
ドラえもん「はい!」
講習会終了後──
キルア「兄貴」
イルミ「なに?」
キルア「あの5人に手を出すのはやめろ」
イルミ「……へぇ、よく分かったね」
キルア「兄貴の性格と、あいつらに放ってた殺気を考えれば、誰だって分かる」
イルミ「なるほど」
キルア「俺はあんたの望み通り、一度家に戻る。これは『取引』だ」
イルミ「俺と取引できる立場かい? まぁいいや、ここで彼らを殺ることはしないよ」
キルア「絶対だぞ」
イルミ「ああ」
トンパ「ドラえもん君」
ドラえもん「あっ、トンパさん」
トンパ「俺を元の俺に戻してくれないか?」
ドラえもん「(忘れるとこだった……)はいはい」
ドラえもんは泉の精を呼び出し、汚いトンパを呼び戻すことにした。
ドラえもん「きれいなトンパさんが、帰りたいっていうから……」
泉の精「分かりました。仕方ありませんね」
ボコボコ…
トンパ「ゲホッ、ゲホッ!」
泉の精「さっさと出なさい!」
トンパ「いてて、ひっぱるな!」
トンパ(汚)「ふぅ、やっと出られたぜ! てめぇ、よくもこんな目に!」
ドラえもん「うわっ!」
トンパ(麗)「やめないか、もう一人の俺!」
トンパ(汚)「なにがもう一人の俺、だ。妙にキラキラした目をしやがって!」
トンパ(麗)「お前にこれを託す」
きれいなトンパは汚いトンパにハンターライセンスを手渡した。
トンパ(汚)「これは──!」
トンパ(麗)「お前──いや俺たちが長年取りたかったハンターライセンスだ。
俺とお前の能力は、心根以外はまったく同じだった。
“新人潰し”なんて誰かみたいに下らんことに労力を費やさなかったから、
こうして手に入れることができたよ。もちろん、運もあったがな」
トンパ(汚)「くっ……!」
トンパ(麗)「もう俺が現れることはないだろう。好きにするといい」
トンパ(汚)「礼なんて……いわねぇぞ」
トンパ(麗)「自分に礼をいわれても嬉しくないよ。じゃあな」
きれいなトンパは泉の中に消えた。
ドラえもん「え、と……トンパさん、ぼくはこれで」
トンパ「ええい、さっさと行け!」
トンパ「クソッ!」
元々トンパは優秀だった。
しかし10歳でのハンター試験初受験以降、試験の過酷さを、
それを難なくパスする真の天才というものを、存分に味わわされた。
いつしかトンパは初心を忘れ、忘れ去られた心は腐り──
“新人潰し”と呼ばれるようになっていた。
トンパ「ち、ちくしょう……!」
かつて忘れ去ったはずの自分自身に、とうの昔に諦めた夢を叶えられてしまった。
新人潰しを糧に人生を楽しもうと心に決めていた自分を、完全否定された。
トンパは新人潰しの手前、道化を演じることもあるがプライドは決して低くない。
言いようのない歯がゆさがトンパに押し寄せた。
トンパ「これから……どうすっかなァ」
トンパはどういうハンターになるのか?
おそらくまだ、トンパ自身にも分からない。
別れの時──
ドラえもん「じゃあ皆さん、ぼくらはこれで」
のび太「さようなら、みんな」
ジャイアン「疲れたけど、楽しかったぜ!」
スネ夫「いやぁ~もうヘトヘト……」
しずか「色々とありがとうございました」
ゴン「みんな、元気でね!」
レオリオ「ゴンから聞いてるぜ。お前ら、なんでも違う星から来たんだとか。
ま、あれだけ妙な出来事を見せられたら信じるっきゃねーしな」
クラピカ「君たちの故郷は我々では到底たどり着けぬほど遠い場所なのだろうが、
どんなに離れていても私たちはハンター仲間だ」
ドラえもん「はい!」
のび太「うん!」
ジャイアン「おう!」
スネ夫「はい!」
しずか「ええ!」
ドラえもん「宇宙救命ボート~!」
レオリオ「おおっ、すげぇな」
クラピカ「あれで星の海を渡って来たのか……」
のび太「ゴン、本当にありがとう! 絶対また来るからね!」
ゴン「うん、立派なハンターになって待ってるよ!」
のび太「あ、あとゴン、キルアは? 探したけどどこにもいなくて……」
ゴン「それが、講習会の後“家に戻る”っていっていなくなっちゃって……。
これから俺たち、キルアの家に行ってみるつもり」
のび太「そっかぁ……。じゃあキルアにも伝えて! 絶対また会おうって!」
ゴン「うん、必ず伝えるよ!」
5人が乗り込んだボートは、あっという間に大気圏を脱出した。
クラピカ「行ってしまったな」
レオリオ「ああ、不思議な奴らだったぜ」
ゴン「また会えるといいね」
同時刻、宇宙に飛び去る宇宙救命ボートに気づいた数名。
~
ネテロ「ほっほっほ、行ったか。いやはや、なかなか面白い子供らじゃった。
今年は豊作じゃったし、ワシもうかうかしてはおれんのう」
~
ヒソカ「さすがにあれには追いつけないね。ま、いつかまた来るだろうし。
まずはあのゴンをじっくりと──」
~
イルミ「うーん、やっぱり始末しておくべきだったかな」
~
キルア「……じゃあな。絶対また来いよ」
~
宇宙救命ボート内──
のび太「えぇ~!? ハンターライセンスを売れば一生遊んで暮らせるの!?
じゃあぼく、ずっと昼寝してようかなぁ」
スネ夫「バーカ、あの星だけの話だろ。それともお前、ずっとあそこに住むのか?」
しずか「たしか、一年以内に5人に1人が失くしちゃうっていってたわね。
やっぱり盗まれたりするんでしょうね」
ジャイアン「のび太なんか一年どころか三日くらいで失くしそうだな」
のび太「バカにしないでよ! ……あれ?」
スネ夫「おいおい、まさか」
のび太「講習会の会場に忘れてきちゃった……。えぇ~ん、ドラえもぉ~ん!」
ドラえもん「んもう、あとでとりよせバッグで取り寄せよう」
ジャイアン「まったくドジだな、お前は」
しずか(せっかく試験中はかっこよかったのに……)
ドラえもん「ところで君らは一応ハンターになったわけだけど、
どういうハンターになるつもり?」
のび太「あやとりハンター! 昼寝ハンターも悪くないけど」
4人(はぁ……)
スネ夫「ぼくはレアハンターかな。パパのコネで希少品をコレクションするんだ」
しずか「私はお人形を集めたりするハンターがいいわね」
ドラえもん「ジャイアンは?」
ジャイアン「決まってんだろ。音楽(ミュージック)ハンターだ!」
スネ夫「え」
ジャイアン「そういや、合格したのに歌ってなかったな。じゃあさっそく」
ドラえもん「ちょっと待──」
ボ エ ~ ~ ~
地球に戻った5人は、タイムマシンでハンター試験開始日までさかのぼった。
ドラえもん「これでぼくらは一日も家を空けてないことになる」
ジャイアン「じゃあな、のび太、ドラえもん!」
スネ夫「今回はホント死ぬかと思ったよ……。じゃあね」
しずか「楽しかったわ、のび太さん、ドラちゃん」
ドラえもん「うん、またね! みんな!」
のび太「じゃあねー!」
玉子「あんたたち、短い時間でずいぶん顔つきが変わったけど。なにかあったの?」
のび太「べっつにぃ~、ねぇドラえもん?」
ドラえもん「はい、なんにもなかったです」
玉子「?」
ある日の午後、のび太は相変わらず寝転がっていた。
ドラえもん「のび太、寝てないで宿題しろ!」
のび太「分かったよ」
ドラえもん(おや、めずらしい)
机の上には写真立てに入れたハンターライセンスが飾ってある。
地球上ではなんの価値もないが、のび太はこれを見ると不思議とやる気が出るのである。
のび太「ゴンやキルアやみんなは、すっごいハンターになってるだろうなぁ。
ぼくもぼくなりに頑張らないと!」
ドラえもん「ふふふ、少しは成長したかな」
のび太「ドラえもん、いつかまたゴンたちに会いに行こうね」
ドラえもん「そうだね」
ハンター協会史上初、地球出身のハンターは今日も元気に暮らしている。
大長編ドラえもん のび太のハンター試験
~ お わ り ~