女店員「はい。落とさないでね」
幼女「ありがとです」
女店員「お遣い? こんな時間に出歩くと危ないからお家まで送ってあげようか?」
幼女「心配無用だし。 1人で余裕だし」
女店員「……そう。怪しいおじさんとかに気を付けてね」
幼女「ありがとです。店員さんも気を付けてね」
女店員「う、うん。ありがとね」
幼女「ばいばい」
女店員「ばいばーい…………心配だなぁ。誘拐とかされないといいけど」
元スレ
幼女「釣りか」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1344861234/
2 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/08/13 21:34:32.69 U0v+mAWa0 2/160なんだ釣りか
4 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/08/13 21:34:57.79 MzNpF2Fl0 3/160確かに釣りなんだけどさぁ・・・思ったのと違うじゃん釣られに来たのに・・・
良いぞ続けろください
5 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/08/13 21:38:45.94 a7g19MS30 4/160釣りだけど、釣りじゃなかった!
スレ見失って焦ったわ 危うく釣りになるところだった
幼女「……寒いし。ママのコート大きいから風入ってくるし。……くしゅっ」
男「ちょっと君」
幼女「ひんっ?!」
男「君一人でこんな時間に出歩いてるの? 危ないよ」
幼女「こっちくるなしっ! 怪しいおじさんこっちくるなし!!」
男「まだおじさんと呼ばれる年齢じゃないわ。人が心配して声かけてやったのに怪しいってのは言ってくれるな」
幼女「……(ビクビク)」
男「家は近いのか? 送るぞ」
幼女「ひ、一人で帰れるから! 余計な気遣いとかいらないからこっち来ないで!」
男「ほう……人の親切を野獣から溢れ出る肉欲と勘違いする失礼なガキには熱いお灸が必要だな」
幼女「ひっ?!」
男「怖がる必要はないよ。今から優しいお兄さんたちを呼んでやっからな」
幼女「ど、どこに電話するの?」
男「お・ま・わ・り・さ・ん」
幼女「っ!?」
男「警察に電話すればすぐにお母さんやお父さんが迎えにきっおまっ! 携帯電話返せ!!」
幼女「ちゃ、ちゃんと話し合うことが大切だと思うし!! なんでも誰かの力に頼るのはよくない癖だし!!」
男「どう考えてもお前のためだろ。俺のためでもあるからさっさと返せ」
幼女「…………よし」
バキンッ
男「」
幼女「はい」
男「『はい』じゃねえだろ!! なんで躊躇してから真っ二つにへし折ってんだよ!!」
幼女「た、たまたまだし。たまたま無理な方向に力込めたら折れたんだし」
男「無理やり折り曲げようとした時点で確信犯じゃねぇか!! 買い換えてまだ3日目だったのに……」
幼女「そんなことより私のことどうするの? 連れ去る?」
男「家に送り届けてやるよ。まだ警察に捕まるようなことはしたくないからな」
幼女「連れ去らないの?」
男「連れ去るわけないだろ」
幼女「なんで?」
男「だから捕まりたくないからだって」
幼女「そうなんだ」
男「おう」
幼女「……」
男「……」
幼女「すぅ……むぐっ」
男「待てよ! なんで大声出す準備してんだよ!!」
幼女「むっむんむんむ……チロチロ」
男「手の平舐められても離さないからな。頷くか首振るかで答えろ」
幼女「(コクコク)」
男「この時間に出歩いてるのは親は知ってるんだよな?」
幼女「(フルフル)」
男「警察に連れてったら困るか?」
幼女「(コクコク)」
男「家に帰りたいんだよな?」
幼女「(フルフル)」
男「お前を連れ帰った後の俺の未来を考えてるか?」
幼女「(フルフル)」
男「行く当てはあるのか?」
幼女「(フルフル)」
男「…………俺の家に来たいか?」
幼女「(コクコク)……ぷはぁ」
男「俺がお前を連れ帰ったらどうなるか分かってんのか?」
幼女「青年は持て余した性欲を抑えることができず、まだ熟れる気配さえ見せない若い果実を」
男「勝手に罪を増やすな。そんな言葉どこで覚えんだよ」
幼女「お家の棚にあった小説」
男「とんでもない家庭だな」
幼女「で、お家に連れて行ってくれるんだよね?」
男「はぁ……来いよ。騒ぐなよ」
幼女「そんなこと分かってるし。あと…………ありがとです」
──────────────
男「なんで警察に行くのが嫌なんだよ。見ず知らずの男には積極的に付いて行けって教育でもされたか?」
幼女「そんな常識外れな教育されたことないし。警察はなんか怖いから近付きたくないだけだし」
男「お前の感性が全く分からん。ほら、着いたぞ」
幼女「この部屋?」
男「一人暮らし前提の広さだから文句は言うなよ」
ガチャリ
幼女「……これはさすがに汚部屋にも限度があるし」
男「アパート住まい独身男の部屋なんてこんなもんだから気にするな」
男「物色せずとも大切なものはそこらへんに転がってる」
幼女「べつに家探し趣味なんてないし。そう言えばさっき玄関扉に貼ってあった電話番号は」
男「気にするな。そんなものはなかった」
幼女「いや、ちゃんと見」
男「特別に一晩だけ居させてやっからな! 明日朝一番で帰れよ」
幼女「(バ゙ツン)りょーか」
男「貴様今何しくさりやがった」
幼女「たぶん電話使えなくした。はさみ返すし」
男「籠城のつもりだろうけどお前の行動全てが俺を破滅に追い込んでるのを忘れるなよ」
幼女「もうちょっと大丈夫」
男「どこ目指してんの?!」
幼女「騒ぐと近所迷惑なるし。あとお腹すいた」
男「この状況で悲鳴上げない家主はどこにもいねえ……。傍若無人なんてもんじゃないな……」
幼女「食べ物欲しいし」
男「これ以上何かしないって約束すれば食わしてやる」
幼女「するから早く」
男「わーったよ。ちょっと待ってろ準備してやっから」
幼女「食材ある?」
男「明日の朝が質素になるだけだ」
幼女「可哀想」
男「ほらよ。朝起きて娘がいなかったらご両親は大層心配するだろ。通報されないといいなマジで」
幼女「大丈夫。たぶん気付かない」
男「可能性を言うだけなら誰だって簡単にお手軽予言はできるっての……はぁ」
幼女「マヨネーズ使っていいの?」
男「青虫みたいに自然の美味しさそのままに食べたいならべつに」
幼女「マヨ美味しい」
男「野菜とマヨの比率狂ってっぞ。ほら、魚も食え」
幼女「小骨邪魔だし」
男「細かいのだったら噛んで飲め。お前の骨になるぞ」
幼女「刺さって痛い」
男「刺さったらご飯で流し込め」
幼女「……(モグモグモグモキュンッ)?!」
男「飯は逃げないから慌てて食うなよ。ほら味噌汁」
幼女「っ!! (ゴキュンッ)?!」
男「救いようがないなお前。まず落ち着け」
幼女「っ……(ゴクゴクゴクゴク)ぷふぅ。し、死ぬかと思ったし。焦ったし」
男「拉致監禁過失致死の三犯にリーチかかって俺も焦ったわ」
幼女「ごちそうさま。死ぬほど美味しかった」
男「比喩無く死ぬぐらいだったな。朝飯は味わって食えよ」
幼女「そのつもりだし」
男「満足したなら寝るぞ。そこに洗面台あるから歯磨いてこい」
幼女「歯ブラシは?」
男「新品が隣の棚に入ってるから好きなの選んで使え」
幼女「りょーか」
ガチャッ
幼女「これ? だね」
キュポッニュルンパクン
ゴシゴシワシャワシャ
男『どうすっかなぁ』
シャコシャコカコカコ
男『大家にバレたらなんて言い訳っすっかなぁ』
ワシュワシュカシャカシャ
男『めんどくっせぇ』
シュコシュコ……
男『……』
…………カシュカシュカシィカシィ、もきゅもきゅガラガラっぺ
幼女「……ねぇ」
男「磨き終わったか。どうした浮かない表情して」
幼女「私邪魔?」
男「別に……邪魔と言えば邪魔だが騒がなきゃあまり気にはならないな」
幼女「もしかしなくてもいない方がよかった?」
男「行き場所がないんだからいろよ。もう追い出すつもりもねえし」
幼女「……うん」
男「じゃあ寝るぞ。明日起きたら朝飯食って謝罪の準備だ」
幼女「うん」
女『カタカタカタガッ!「いーたーいー!! かーきゅぅぅーん!!いたいよぉー!!」』
男「階段で盛大に転ぶ音……完全に忘れてた」
幼女「呼ばれたの?」
男「お前風呂場に隠れてろ。呼ぶまで絶対に出てくんなよ」
幼女「お湯入ってる?」
男「かもしれないから浴槽は使えないからな」
幼女「りょーか」
ガチャガチャガチャガチャ!!
女『かーきゅぅーん。お姉ちゃんだよー。いるんでしょ? お姉ちゃん知ってるんだから』
幼女「……怖い」
男「いつものことだ。ほら早く行け」
幼女「う、うん」
男「今開けるから待ってろ」
女『私知ってるんだよぉぉ。かーきゅんが朝にシャワー浴びたからまだお風呂入ってないこと』
男「怖いわ!! そこまで観察してる奴を部屋にあげられるかよ!!」
女『うっへへぇ。じょーだんだから開けてー。今日はいつもと違ってもうお風呂入ったんだよね』
男「そこを訂正するとなお怖いわ! なんでバイト中の出来事なのに知ってんだよ!!」
女『愛だからだよ。だから、ね? あーけーてー』
ガチャガチ
男「ほらよ」
女「ありがとー。愛してるよ」
男「未来の旦那見つけて言ってやれ」
女「愛してるよ」
男「俺のこと見んじゃねぇよ」
女「んー」
男「しねぇから」ペチン
女「うきゃんっ。冷たいなぁかーきゅんは」
男「いつも通りだろ。鬱陶しいからちゃっちゃと男作れ」
女「かーきゅんは男の子が欲しんだね。私も頑張るよ」
男「そういう意味じゃないからな?!」
女「はてさて、冗談はここまでにして。恒例となりました『かーきゅんの残り物チェーック』!」
女「今回のテーマは残飯です」
男「待てよ」
女「急に肩掴んでどしたの? せっかく止めるなら後ろから抱きすくめて欲しいな」
男「俺は1人分しか作ってないだろ。前からずっと言ってるが姉貴が勝手に残飯と称して食ってるのは作り置きだ」
女「……そうなの?」
男「とぼけはいらないから。これ以上嫌がらせが続くなら出禁も視野に入れるから」
女「じゃあ抱きすくめて欲しいな」
男「そして今晩は自分の部屋でご飯を食べてくれ」
女「優しく抱きすくめて欲しいな」
男「次回から何かが鍋の中にあってもそれは姉貴の分じゃない」
女「優しくそっと抱きすくめて欲しいな」
男「執着しすぎだろ!? 触れないようにしてんだから嫌がってんだって気付けよ!!」
女「かーきゅんのご飯食べれないなんてさびしいな。毎晩のお楽しみだったのに」
男「それは本当に申し訳ないと思ってるんだ。だから明日にまたな」
女「じゃあかーきゅんを食べる前にお風呂で綺麗にしようね」
男「半目で俺のこと見るんじゃねぇ。頭が沸いたような戯言ほざいてないで帰れ」
女「お風呂いただきマース! 突撃隣部屋の洗面台!!」
男「おまっ! 待ちやがれ! 待ってください!」
男女「おわっ!」「きゃっ!」
男「…………ごめん」
女「そんな押し倒さなくてもかーきゅんなら私いつでもいいのに」
男「熱っぽい眼差し向けんな」
女「ベッド・・・・・・行く?」
男「……そうだな。行こうか」
女「え?」
男「俺の部屋だといろいろあるから姉貴の部屋だな」
女「う、うん。ほんとに?」
男「姉貴は俺を信用しないのか」
女「そ、そんなことないよ! ただ、その……さっきとは言ってることが急に変わって・・・・・・・・ほんとに?」
男「行くなら早い方がいいだろ? しゃべってる時間がもったいない」
女「うん……」
男「ほら起きろ。鞄持って」
女「ありがと」
男「財布とか持ってくからちょっと先に部屋行って待っててくれ」
女「あ、分かった! そんなこと言って追い出すつもりだね! そんな姑息な手には」
男「忘れられない夜にしてやるよ」
女「私待ってるね」
男「おう。じゃ」
女「うん。あとでね」
ガチャッ
ガチャンカチッ
女『…………』
男「…………おやすみ」
女『…………次はないからね』
男「おやすみ!! ……さて、悪は去った。おい幼女。出てきてもいいぞ」
ガチャリンコ……ソローリコン
幼女「だい……じょーぶ?」
男「大丈夫だ。たぶんバレてない。明日どうなるかは分からないが」
幼女「ごしゅーしょー」
男「やめろ。冗談にもならない」
幼女「ね」
男「なんだ?」
幼女「そろそろ眠いし」
男「ああ、姉貴が入ってきたせいですっかりタイミング逃したな。布団敷いたら寝るぞ」
幼女「うん」
男「朝は7時起きだからな」
幼女「今1時」
男「俺のためだ。協力しろ」
幼女「うん」
──────────────
幼女「朝だし! さっさと起きろし!」
男「おかしい。絶対まだ起きる時間じゃない」
幼女「5時だし! もうお日様だって昇る時間だし!」
男「太陽より早起きするガキなんか聞いたことないぞ」
幼女「カーテン開けて。洗濯物ない? テレビ付けて時間とニュースの確認しろし」
男「なんで俺よりも一人暮らしが板についてんだよ」
幼女「パンと牛乳あったし。 コーヒーどこだし」
男「食器棚の右にある箱の中」
幼女「砂糖も見つけたし。あとはジャムだし」
男「上の籠の中……主婦かよ」
女『ガチャガチャッ! ガタン!!バタン!! ヒャンッ!!』
幼女「あ、隣も起きだしたし。昨日の人?」
男「そうだよ。女って早起きなんだな」
幼女「お兄さんがルーズなだけだし」
男「どう考えても俺が普通な……いいか。コーヒーに砂糖はいらないからな」
幼女「苦いのが好きな男の人って……はい」
男「ありがと。まさかこんな時間に叩き起こされるとは思わなかった。7時出発でいいか?」
幼女「うん」
男「あーあ、どうやって弁解すっかな」
幼女「たぶん怒られないから心配いらないし」
男「怒られて済めばそっちのほうがいいわ。優しいを通り越して無関心の域だぞ」
幼女「大らかだから」
男「娘を誘拐されて笑って過ごす親は大らかじゃなくて人としておかしい」
幼女「もう一泊していい?」
男「いいわけないだろ。お前の親の許可が降りたとしても俺が断る」
幼女「いじわる」
男「誰だって同じこと言うわ。こちとら人生がかかってるんだ」
幼女「ふうん」
男「他人事だからってこいつ……」
幼女「シャワー使う?」
男「寝癖気になるからな」
幼女「ついでにお風呂掃除もしておいてほしいし」
男「主婦かよ……」
──────────────
男「準備できたか?」
幼女「……(ムゴムグムゴ)」
男「人に朝飯早くから食わせておいてお前は……」
幼女「……(モグモグムギュンッ)?!」
男「またか。ほい水」
幼女「(ゴキュンッ)?!」
男「つくづく期待を裏切らないな」
幼女「ゴクゴク……はぁはぁ。死ぬかと思ったし。焦ったし」
男「お前が死んだら俺も社会的に死ぬんだからな。家に帰すまでが容疑者なんだ」
幼女「犯罪者予備軍」
男「誰のせいだゴラ」
幼女「準備できたし」
男「よし、行くぞ」
ガチャッガタン
大家「あらあらうふふ。おはよう」
男「…………」
幼女「おはようだし」
大家「あらら? かわいい女の子ね」
大家「アパートにゆーちゃんが来た時はそんな元気も無かったのに今ではそんな、うふふふふ」
幼女「ゆーちゃん?」
男「そ、そうなんですよ! 毎晩寝させてくれなくて大変なんですよ! おかげで朝から疲れが溜まって」
大家「あらあらあらら。かーくんもここに入ったばかりはよく手を出されて泣いてたのにね」
大家「今じゃ逆にゆーちゃんに手を出しちゃって。あ、出してたのは手じゃなくて……うふふふふ」
男「あの、真っ昼間なんでそういう話は」
大家「おばさんね、かーくんがゆーちゃんのこといっつも冷たくあしらってるから不安だったのよ」
大家「でも、裏ではしっかり繋がってだなんて。絆もそうだけど肉体て」
男「そうですね! 仲が良いっていいですよね!!」
大家「若いっていいわねぇ。私もあの人が単身赴任から帰ってきてくれてれば頑張れたのに」
幼女「あの人? 頑張る?」
男「ほ、ほら! 小さい子もいるのでそういう話は! ね! 大家さん!」
大家「そうね。そんな素振りなんて全然見せないんだからおばさん気付かなかったわ。うふふふふ」
男「え、ええ」
幼女「つまりどういうことだし……」
男「お前にはまだ先の話だ」
大家「あ、その子はなんてお名前なの?」
男「え? 名前ですか?」
大家「そうそう。お名前」
男「えっと……ほら、大家さんに自己紹介してごらん」
幼女「(あとで絶対殴ってやるし)マキだし」
大家「マキちゃんって言うのね。可愛いわ」
幼女「イザルナ・マキ・ベリューナ。略してマキだし」
男「なんで横文字になるんだよ!? 血縁関係完全に切れてんだろそれ!?」
大家「あらあら。素敵なお名前ね。さすかーくんだわ。その……センスしか感じないわ」
男「言葉を詰まらせてまで無理矢理褒める必要はないですから」
幼女「今からお兄さんとお出かけだし。ばいばい」
大家「はい、気を付けてね。そうそうねえ、かーくん」
男「…………はい」
大家「今晩は……寝させないわよ?」
男「言い訳だけはさせてください……」
大家「じゃあね。うふふふふ」
幼女「おばさんいい人だった」
男「土下座じゃすまなくなったぞちくしょうが」
──────────────
幼女「さっきおばさんの言ってたゆーちゃんって誰のことだし」
男「ゆうちゃんってのは昨日部屋に襲撃してきた女のことだよ」
男「俺よりも先にアパートに入ってきてたってのと昔のいざこざが相まって、俺があまり強く言えないせいか連日あんな調子」
幼女「嫌いなの?」
男「嫌いというか苦手というか。接し方が分からな……お前には関係ないことだ」
幼女「把握したし」
男「なあ、近いって言ってたがあとどれくらいなんだ?」
幼女「そこの角を右に曲がった先のマンション」
男「なんだ、思った程遠くないんだな」
幼女「コンビニのために電車使うとかありえないし」
男「それくらい知ってら。お前みたいな子供が遠くまで行けるわっきゃねぇだろ」
幼女「失礼だし。新幹線乗れるし」
男「はいはい。偉い子偉い子」
幼女「…………」
男「何怖い顔してんだよ。からかっただけだろ」
幼女「……1人暮らしって寂しくない?」
男「いきなり何言ってんだ?」
幼女「おばさんやお姉さんがいるから1人じゃない? 同じ部屋に誰もいなくても怖くない?」
男「考えたこともないわ。少なくとも今は1人で寂しいと感じたことはないな」
幼女「そうなんだ」
男「俺がお前くらいの時はあの場所がすごく嫌な場所だったぜ」
男「阿呆な姉貴に叩かれて大家さんは知らんぷり……ではないけど、俺を慰めるだけで姉貴の暴力を咎めることもなかったし」
幼女「大変だったんだね」
男「何が姉貴を変えたなんか知る由もないけどな」
男「昔のことなんかとうに忘れてんのか今じゃ懐いた猫みたいにじゃれてきやがるわ」
男「虐げられてきたやつの気持ちなんか興味ないってか。とんだ気分屋だ」
幼女「ふーん」
男「なんだよ。聞いてきたくせに興味無さげだな」
幼女「だってそこまで聞いてないし」
男「そうかいよ。んで、チビっ子の家は何階だ?」
幼女「4階の403号室。私のおうち」
男「ちゃんと場所を覚えてるなら、アパートの前で見送れるな」
幼女「やだし」
男「は? まだ帰りたくないとか言い出すつもりかお前」
幼女「部屋の前まで付いてきてくれたっていいと思うし」
男「下手したら親に見つかって捕まるって言ってんだろ。俺の立場も考えて言え」
幼女「やだし」
男「あのなぁ」
幼女「いやっ! ……なんだし」
男「…………そうかい。部屋の前までだぞさびしんぼが」
幼女「ありがとう」
男「ずっとそのしおらしさを貫けば可愛げもあるってのにな」
幼女「可愛かったらずっと一緒?」
男「それはない。何があってもない」
幼女「…………」
男「怖い顔すんな」
幼女「ここ」
男「ほう。ここか……木造じゃないんだな」
幼女「貧乏人」
男「張っ倒すぞ。あそこでも十分暮らせっから問題ねーよ」
幼女「見栄っ張り」
男「付いていくのやめっぞ?」
幼女「やだ。絶対一緒だから」
男「分かったから服引っ張るな。伸びるだろ」
幼女「絶対だよ?」
男「約束すかっから離せ」
幼女「うん」
男「階段はどこだ?」
幼女「左突き当り。でも、エレベーターの方が楽。こっち」
男「はいよ。エレベーターとは生意気だな」
幼女「木造2階建てより大きいから必要だし」
男「あのアパートはお前よりも長生きしてんだから馬鹿にすんな。割と風通しいい」
幼女「隙間風かわいそう」ウエムキサンカクポチッ
男「うっせ」
チーン グワワー
男「ほら、4階押してみろチビッ子」
幼女「お、押せるし」
男「ジャンプしてだろ?」
幼女「ぐぬぬ。押せればいいんだし」
男「ほら無様に跳ねろよ」
幼女「えいっ!」
男「……」
幼女「よっ!!」
男「…………」
幼女「そおい!!!」
男「………………悪かった。俺が悪かった」
幼女「助走あれば押せてたし……ぐすっ」
男「今後に期待すっから強く生きろよ。そら」
幼女「?! な、なにを!」
男「抱きかかえてやれば届くだろ? ほら押せよ」
幼女「く、屈辱……っ!!」ヨンカイポチーン
男「よくできました。よいしょ」
幼女「ぜ、絶対許さないし」
男「悔しかったら大きく育て」
幼女「ぐぬぬ。いつか必ずやり返すし」
男「俺のこと抱っこしてくれるのか? ……えろいな」
幼女「なにがだし?」
男「なんでもない」
チーン グワワー
男「ほら出るぞ。案内しろ」
幼女「一本道だから案内いらないし。迷ってみろし」
男「うっせ。さっさと案内しろ」
幼女「403……403…………ここ」
男「ここか」
幼女「開けるから待ってて」
男「おう」
ガチガチガチャッ
幼女「はい」
男「はい」
幼女「……」
男「……」
幼女「開いたし」
男「開いたな。ほら入れ。そしたら逃げ帰る。一秒でも早く帰る」
幼女「うん」
男「もう夜中出歩くんじゃねぇぞ。俺が増えるからな」
幼女「何それ怖いし」
男「そのままの意味じゃねぇよ。被害者が増えるって言ってんだよ。……じゃあな、それなりに楽しかったぞ」
幼女「……ばいばい」
…………がちゃん
幼女『ただいまー!!』
──────────────
男「ふぁ~あ……もうこんな時間か。大家さんに言い訳してたら日が暮れるなんてもんじゃないな」
男「思い出話や雑談に長々付き合わされて疲れたしもう寝るか」
女『カタカタカタガッ!』
女「ところがどっこいかーきゅんた―――つぅっ……」ガチャンッ!
男「ぶつけたところが痛いなら無理すんな。自分の部屋で手当して大人しくしてろ」
女「ようやくお仕事終わったの! だから寝る前に一緒にお風呂入ろうね!」
男「鍵かかってないからって勝手に乗り込んでくんじゃねえぞ」
女「どーしたのかーきゅん? いつもみたいに冷たいけど何かあったの?」
男「いつも通りならおかしくないだろ。俺だけの時間を邪魔される前にお前を追い出したいだけだ」
女「…………」
男「分かったら出てってくれ。ここは俺の部――」
女「うん、それくらい知ってる知ってる。それでそれで今日ね」
男「おい、俺の話を」
女「あのねかーきゅん」
男「なんだよ」
女「かーきゅんは嫌々でもちゃんとお姉ちゃんと会話してくれるでしょ?」
女「お姉ちゃんのことがどんなに嫌いでもかーきゅんはお姉ちゃんに優しくしてくれるから大丈夫」
男「いや、大丈夫じゃなくて」
女「それでね。またお遣いなのかな? お店来たんだよ」
男「そうかよ。よかったな」
女「ちゃんと聞いてよー。お姉ちゃん悩んでるんだから」
男「知らんわ。1人で悶々としてろ」
女「かーきゅんは小さい女の子が夜中コソコソ出歩いてても何も思わない冷血さんなの?」
男「は? なんだそれ」
女「なんだそれってそのままだよ。小さい女の子が2日も続けて深夜のコンビニに買い物来たの」
女「これって変だと思わない?」
男「……それいつの話だよ?」
女「バイト上がる前だからちょうど1時過ぎくらい。……顔怖いよかーきゅん」
男「どこで見た」
女「普通にお店に来たから。サンドイッチとジュース買ってお釣りと睨めっこしてたよ」
男「ちょっと出てくる。部屋から出るなら戸締りしとけよ」
女「あ~ん! かーきゅんどこ行くの!? かーきゅんのお布団で一晩モフモフムラムラしてやるんだから!!」
ガチャンバタンッ
女「ねぇ、かーきゅん。もう……お姉ちゃんは許してもらえないの?」
──────────────
男(どういうことだよ! なんであいつがまた1人で出歩いてんだよ!)
男(しかもサンドイッチとジュースだぁ? 二日も続けて夜中にコンビニ食とかおかしいだろ!
男(幼女の親は何考えてんだよ!)
男「ふざけんなよクソが!」
男「4階403……4階403……403403403……ここだな」
ピンポンピンポンピポピンポーン……ピポピポピンポンピンポ-ン…………
男「不在かご就寝中か――」ガチャ
男「開いてんのかよ。不用心な」
男「靴がない。下駄箱の中は……空か。幼女ー? お邪魔するぞー」
シーン
男「お願いだから靴履きながら寝ててくれてろよ」
ガサガサグシャ
男「なんだここ……足の踏み場ねーぞ。俺の部屋馬鹿にできないくらい荒れてんじゃん」
男「どっかに電気のスイッチ……これか」
カチッ
男「うわっ……幼女の家散らかりすぎ……? 立派な1LDKがものの見事な汚部屋じゃねえかよ」
男「ベッドも衣類でこんもり埋まっちまって……」
ワシャポイボフ
男「おーい幼女? トイレで寝てんのか?」
ワシャワシャガチャ
男「いるわけねーよな……風呂場は」
ガチャ……シーン
男「いない? また買い物から帰ってないのか?」
男「俺の部屋に行ってる可能性はないと思うが確認するだけ……ケータイは壊されたんだっけ。電話借りるか」
ピピピポパ……ツーツー
男「電話線切られたのもすっかり忘れてたわ。部屋のは息してないし姉貴のケータイにかけるしかないな」
男「きっとまだ部屋にいうだろうし」
ピピポピパ……p
女『もしもし?』
男「うお!? 早いな」
女『あれ? かーきゅん? 見覚えない番号だったけど』
男「いつもそんな反応速度なのか」
女『たまたま手に持ってたから早いだけだよ。かーきゅんどこにいるの?』
男「ちょっと知り合いの電話借りてて……日記?」
女『日記が何? かーきゅん観察日記なんてつけてないよ?』
男「いや、なんでもな……くはない。帰ったら一晩尋問してやる。そんなことより姉貴は今どこにいる?」
女『今ね、かーきゅんの布団でむらむらきゅんきゅんっん、してるよ。えへへぇ。すっごくいい匂いなの。ふあっ』
男「そうか。そこに姉以外誰かいるか? 訪ねてきたとか」
女『誰もいないし来てないよ。来たらんんっ……はぁはぁ、来たら電話すればいい?』
男「それでよろしく。戻ったらマジで説教してやるから」
女『そんなかーきゅんひど、んあっあぁ! もうイ』プツ
男「どんなに泣き付かれようとも出禁にしてやる。それは後でいいとして、とりあえず今はこの日記……」
男「幼女には申し訳ないがちょっと読ませてもらってから探すか」
──────────────
幼女「おじさん誰だし。何のようだし」
おじさん「お嬢ちゃんだけで出歩くと危ないから一晩だけおじさんのお家に来ない?」
幼女「知らないおじさんには付いて行くなって言われてるし」
おじさん「でも冷たい木枯らしが吹く季節に出歩くのも難儀でしょ?」
おじさん「あったかいココアもあるしちょっとだけでもいいからおじさんの部屋で温まっていこうよ」
幼女「ココア……だ、ダメだし。おじさんは得体の知れない怪しいおじさんだし」
おじさん「人の親切を無下にするものじゃないよお嬢ちゃん」
おじさん「パパやママにはおじさんがちゃんと連絡しておくから、ね?」
幼女「連絡するの?」
おじさん「ああ、心配いらないさ。ちゃんと怒られないように話をして」
幼女「じゃあ行かないし。ココアもいらない」
おじさん「お嬢ちゃん?」
幼女「私はコンビニのおでんで温まるし。ついでにココアも買って帰るし」
おじさん「お嬢ちゃん」
幼女「ばいばいおじさん」
幼女「私はこっちだからもう会わないようにお願いするって痛いし!! そんな強く掴んだ――ひっ?!」
おじさん「いいかいお嬢ちゃん。おじさんは聞き分けのない子は嫌いなんだ」
幼女「は、刃物はずるいし」
おじさん「お嬢ちゃんは素直に心優しきおじさんの誘いを受け入れればいい。分かるかい?」
幼女「い、嫌だし。そんなこと……ひんっ」
おじさん「首は切られると命に関わるのは言うまでもないよね? おじさんは君みたいな頭のいい子が好きなんだよ」
おじさん「痛いのだって好きじゃないだろう?」
幼女「……」コクコク
おじさん「よーしよし。じゃあ一緒に帰ろうね?」
幼女「…………うん」
おじさん「お家で暖かくて楽しいことしてあげるから。きっと君もすぐ虜になるだろうよ。ふふふ」
──────────────
男「ハァハァ……っぜぇぜぇ……」
男店員「こんばんは。いらっしゃーませー」
男「ハァハァ……よ、幼女」
男店員「え?」(ヒキギミエガオ)
男「幼女!!」
男店員「お、お客様?! とりあえず息を落ち着かせてから」
男「そんな余裕ないんだよ! 幼女はどこだ!!」
男店員「ひっ?! いくら品揃えが自慢のコンビニでもそこまでは網羅して」
男「ここに幼女が来なかったか?!」
男店員「けけけけっ警察呼びますよ?!」
男「あぁ……いきなり怒鳴ってすまん。人探しなんだ。通報はやめてくれ」
男店員「は、はい……人探しですか」
男「ここに何十分か前に小さな女の子が来たと思うんだが」
男店員「え、ええ。来ましたよ。夜中に一人だけなんて危ないと思ったんですけどね」
男「どこに行くとか聞いてないか?」
男店員「いえ、何も言わずに飲み物と軽食だけ買ってましたけど」
男「ここ出た後どこに向かったとかは?」
男店員「そこまでは見てません。家に帰られたとかは確認しましたか?」
男「ついさっき帰ってないのを確認してここに来たんだ」
男店員「じゃあ入れ違いですかね。ここじゃ人さらいなんて話聞きませんからもう一度家に帰ってみては?」
男「そうか……ありがと」
男店員「お客様は女の子のご家族ですか?」
男「いやー……兄です。冬の星空見たいなんて言い出すもんで一緒に眺めてたんですけど、ちょっと目を離した隙に」
男「特別今日だけってわけじゃなくていつもちょこちょこどっか行っちゃうんですよ」
男店員「ちゃんと食べさせてあげてるんですよね?」
男「あ、ああ」
男店員「いつも1人で食べ物買いにきてるので心配してるんですよ。育児放棄や虐待をね」
男「それは」
男店員「今後同じようなことが続くなら通報も視野に入れますので。世話役を務めるなら頭の隅にでもおいてください」
男「……気を付ける」
シャー ティロリロリロン アリッシャッター
男「俺だって知ってたらさっさと馬鹿親から引き剥がしてやってるってのっ!」
男「絶対に見つけてやる」
──────────────
幼女「もう歩き疲れたし」
おじさん「止まらずにさっさっ歩け。公園で休憩させてやる」
幼女「どこに連れて行くつもりだし」
おじさん「少しだけ公園で時間潰す。この時間帯だとまだアパートを出入りするやつがいるからな」
幼女「……トイレ行きたいし」
おじさん「我慢しろ」
幼女「も、もう十分頑張ったし。無理だし」
おじさん「めんどくせぇな。あの公園にトイレあるからもう少し辛抱しっと、何勝手に走り出そうとしてんだお嬢ちゃん」
幼女「だからトイレに行きたいんだし」
おじさん「言うこと聞けないならここでさせるぞ」
幼女「……変態?」
おじさん「お前は置かれてる立場を理解して言葉選べよ」ハモノスッ
幼女「ひんっ……わ、分かったし。もうちょっとだけ堪えるし」
おじさん「賢明だ。お前は世間を渡るのが上手くなるな」
幼女「男性恐怖症の人間不信になるし」
おじさん「安心しろ。お前ほど賢い奴はすぐに気持ちよさに溺れるから後悔なんて言葉も出てこなくなる」
幼女「微塵も安心できないし」
おじさん「黙って心構えだけしてればいい。ああ、トイレには付いて行くが俺は扉の前で待ってるからな」
幼女「うぇ……」
おじさん「折角の後々のお楽しみなのにありがた味が薄れちまう」
幼女「……うぅ」
──────────────
男「ったく、雪も降ってきたってのにあいつどこ行ったんだよ。そろそろ姉貴に電話するか」
男「毎日玄関に電話番号貼られれば嫌でも覚えるよな。まさかこんな使い方をするとは思わなかったが」
パピポッパポッピポッパポイェイェイ……p
女『なあにかーきゅん?』
男「確信持って俺の名前を呼ぶんだな」
女『えへへ。かーきゅんの電話が来る前って決まって胸がドキドキするの』
男「キまってドキドキしてるのか。明日にでも病院で診てもらえ」
女『電話しておいてそれは酷いよ。かーきゅん今どこ?』
男「コンビニ近くの公衆電話」
女『お腹空いたの? デザート食べたくなった?』
男「ちょっとだけ小腹がな」
女『そっか。じゃあ仕方ないね。おねーちゃんも甘くて美味しいもの欲しくなっちゃったなぁ』
男「明日な」
女『かーきゅんひどぉい』
男「あれから誰か来たりとかないか?」
女『ううん。誰も来てないし何も連絡もないよ』
男「そうか、今から帰るから。じゃあ切るな」
女『ねぇ、今からかーきゅんのところ行くね』
男「は?」
女『待ち合わせしよ?』
男「いや、帰るから」
女『帰ったらお姉ちゃん雪の中でぼーっと待ちぼうけだよ』
男「……じゃあコンビニで待ってる」
女『やだ。店長さんに見つかりたくないし』
男「外は寒いだろ」
女『いいの』
男「はぁ……急いでるんだ」
女『えっとね。昔懐かしの』
──────────────
おじさん「おい。まだか?」
幼女「待って欲しいんだし。私だってこんな汚い場所で長居したくないし」
おじさん「そんなこと言って朝まで籠るつもりじゃないだろうな?」
幼女「寒いからもう暖かい場所行きたいし」
おじさん「じゃあ出てこいよ」
幼女「だから待つし。よし」
ガチャ
おじさん「時間かけすぎだ」
幼女「女の子だから仕方ないんだし。喉乾いた」
おじさん「我儘だな。さっき飲み物買ってただろ」
幼女「これは明日の分だし。寝起きに飲むとすっきり」
おじさん「しょうがないお子様だな。そこで買ってやるから選べ」
幼女「優しいおじさん嫌いじゃないし」
おじさん「俺もガキが好きだからちょうどいいな。次何が欲しいって言っても出せるのは俺の家にあるものだけだからな」
幼女「もう思い残すことないし」
おじさん「予想以上に素直になったな。お前は将来大成するぞ」
幼女「あ、自販機あったかい」
おじさん「自販機に張り付くな。目立つ」
幼女「でもこんな時間に出歩いてる時点でもう目立ってるし」
おじさん「そうだな。……誰かと会っても親子で通せよ。お前の親を知ってるやつならお父さんって言え」
おじさん「断るのは無しだ。いや、断ってもいいがそのときは」
幼女「お父さんって呼ぶし」
おじさん「従順なのは育ちがいい証拠だ。親に感謝すべきだな。ほら選べ」
幼女「150円でもいい?」
おじさん「ボタンに手が届くなら好きにしろ」
幼女「……似たような嫌がらせ昨日もあった気がするし」
おじさん「届かないなら抱きかかえてやろうか?」
幼女「……120円で十分だし。ココア押して」
おじさん「一番下くらい自分で押せるだろ。ほれよ」
ガタガタゴトン
幼女「ありがとうお父さん」
おじさん「…………満足したろ? ほら、行くぞ」
幼女「……」
おじさん「ほら」
幼女「……やっぱりやだ」
おじさん「あのな、手荒な真似はしたくないって何回言わせるんだ」
幼女「……」
おじさん「諦めたほうが楽な時もあるんだぞ。そろっと時間も丁度いいし帰るぞ」
幼女「…………」
おじさん「途端に往生際が悪くなったな。さっさと諦め」
男「幼女!!」
幼女「ひぅっ?!」
──────────────
男「幼女?」
女「かーきゅんどうしたの?」
男「見つけた……幼女!!」
幼女「ひぅっ?! ま、また会ったし!!」
おじさん「おや? 知り合いかい?」
幼女「あ……うん。知り合いのお兄さん」
おじさん「そうか。娘がお世話になったみたいで」
男「幼女。そいつ誰だ?」
おじさん「そいつとは失礼だな。この子は私の娘だ。馬鹿じゃなきゃこれで私が誰かだなんて分かるだろう」
幼女「……お、お父さん」
男「……本当か?」
女「どうしたの? かーきゅん?」
男「本当にお前の父親か?」
幼女「うん」
おじさん「不快だな。君は何を疑ってるんだい?」
男「本当だな幼女」
幼女「…………」
女「幼女ちゃん?」
幼女「お、お父さんだし」
おじさん「そいうことだ。私たちはこれから帰るから君たちも早めに帰っ――」
ドゴッ
おじさん「ガッ!?」
幼女「?!」
女「かーきゅん?!」
男「抑えてるのが阿呆らしくなったわ。一発目は幼女に折られた俺のケータイの分な」
おじさん「い、いきなりな――」
ドスッ
おじさん「ぐぁっ?!」
男「これが切られた電話線の分」
女「かーきゅん?! 何してるの!?」
男「次は幼女を独りにしてた分だぞ」
幼女「ひっ!! や、やめ!!」
女「やめてかーきゅん!!」
男「うるせぇ!! 姉貴は知らねえかもしれないけどな!」
男「この親は何ヶ月も幼女のことを放ったらかしにしてたんだぞ!!」
女「え?」
幼女「な、なんでそれ」
男「全部見た! 家の中も幼女が置いて行かれる前からずっと書き続けてた日記もな!」
幼女「うそ……」
男「後先なんか関係ねぇ! 今の今までネグレクトしてやがってきたくせに!」
男「そのくせしていきなり帰ってきて、さも当然のような口振りで親気取りだあ?! ふざけんじゃねぇぞ!!」
おじさん「わっ悪かった!! 俺が悪かったから!!」
男「悪いって自覚してんだな?! だったら覚悟できてんだろ! 最後の一発はより一層歯くいしばれよ!!」
おじさん「ひっ?! 許し――」
幼女「やめて!! もうやめて!! このおじさん本当はお父さんじゃないし!! だから暴力はやめて!!」
女「え? お父さんじゃないの?」
おじさん「そ、そうだよ! 俺は別にこのガキの親でもなんでもねぇよ!!」
男「じゃあお前誰だよ」
幼女「ずっと脅されて嘘ついてただけだし……この人はお父さんじゃなくて」
女「……じゃなくて?」
幼女「その……包丁持った……ゆ、誘拐犯……だし」
男「死にさらせ!!」
おじさん「ばぼふ!!」
──────────────
幼女「あったかい」
女「ココア美味しい?」
幼女「美味しいです」
女「よかった」
幼女「なんで都合よくあの公園に来てたし」
男「都合よくとか言うな。姉貴に呼び出されたのがあの公園だっただけだ」
女「まさか仕事中に見かけた女の子が幼女ちゃんだったなんて思わなくて驚いたよ」
女「幼女ちゃんはかなり大変なことになってたんだね……」
幼女「もう大変なのに慣れたし」
男「幼女はこのまま同じ生活を続けたいのか? 警察に」
幼女「警察には絶対頼らないし。お母さんが怒られるし」
男「怒られるとかそういう問題じゃ」
幼女「私はお母さんとちゃんと会って話したいし。本当に捨てられてたなら新しい道を探す。ただそれだけだし」
男「でもな」
幼女「いいんだし。警察に連絡したらむしろ私が刺すし」
男「小さいくせに芯だけしっかりしてんだな」
幼女「身長関係ないし」
男「背丈のことじゃねえよ」
女「それにしてもおばさんが可哀想だなぁ」
女「結果オーライだったにしてもいきなり手をあげるような教育をおばさんはしてなかったんだけど」
女「おばさんに言ってやりましょうかかーきゅんのこと」
男「今までのことを棚に上げてよく言う。殴ったのが親か誘拐犯の違いだからヒーローは責められる道理はない」
女「その活躍するっていう前提がおかしいの」
男「やけに突っかかるな」
女「おばさんが可哀相だからです」
幼女「でも助かったから少しは感謝してるし」
男「なあ、幼女」
幼女「なに?」
男「お金はどうやって受け取ってるんだ?」
幼女「月の最初に郵便受けにお札が入れられるし」
男「一応はちゃんと貰ってるんだな」
幼女「詮索とかしないでもらいたいし。勝手に日記も読むとか乙女のプライバシー踏みにじりだし」
男「だったら目に付く場所じゃなくて引き出しの中にでも片付けておけ」
女「ねえ幼女ちゃん。パパとママが帰ってくるまで一緒にここで暮らさない?」
幼女「いいの?」
男「何言ってんだよ。これ以上空き部屋と収入源減らしたら困るのは大家さんだろ」
女「幼女ちゃんくらいなら私の部屋でも一緒に住めるからどうにかなるでしょ」
女「それともかーきゅんは幼女ちゃんに寂しい思いをさせたい鬼畜さんなの?」
男「そんなことあるわけ」
女「でしょ。幼女ちゃんが寂しいって言えばお姉ちゃんもかーきゅんのお部屋で末永く一緒に暮らすから安心してね」
男「それはさせねぇよ」
女「けちだなぁかーきゅんは」
男「保身のためだ。……眠そうだな幼女」
幼女「疲れたし。いつもなら寝てる時間だし」
女「怖い思いしたもんね。明日お休みだけど私ももう寝ようかな」
女「幼女ちゃんはお兄ちゃんとお姉ちゃんどっちのお部屋で寝たい?」
幼女「……」ムギュッ
女「幼女ちゃん?」
幼女「い、一緒に寝たいし」
女「……」チラッ
男「……なんだよ」
幼女「ぱ、パパとママと一緒に寝たことないから一緒に寝てみたいし」
女「……」チラチラ
男「……」
幼女「……だめ?」
女「……」チラチラッ
男「だー! いちいち見るな鬱陶しい!! 今日だけ許すけどその代わり狭いとか文句言うんじゃねぇぞ」
女「ありがとうかーきゅん! 大好き!!」
幼女「……ありがとです」
女「かーきゅんの意地悪。うりうり」
男「頬ぐりぐりすんじゃねぇ。姉貴もさっさと寝ろよ」
女「ちょっとくらいお話してくれてもいいじゃない。一緒に寝るの久しぶりなんだよ?」
男「そうかよ」
女「嬉しいなぁお姉ちゃん。またかーきゅんと一緒の布団に入れるんだもん」
男「俺は嫌だった」
女「だよね。幼女ちゃんが一緒がいいって言い出さなきゃ絶対に寝てくれなかったもんね」
男「幼女寝付いたんだし部屋戻れよ」
女「ねぇ、かーきゅん。公園でお姉ちゃんが言えなかったこと聞いてくれる?」
男「寝る」
女「だーめ。ちゃんと聞いてください。かーきゅん覚えてるかな? お姉ちゃんがかーきゅんのこといじめてたの」
男「忘れるとでも思ってるのか?」
女「お姉ちゃんも忘れられないの」
女「いくらなかったことにしようと頑張っても寝るときに目を瞑るといつも怯えたかーきゅんが出てくるの」
男「人のこと痛めつけておいて忘れようだなんて随分勝手なんだな」
女「うん。お姉ちゃんの中ではなかったことにしたかった」
女「かーきゅんと仲良くなった記憶だけあればいいのにってずっと思ってた」
女「どんなにかーきゅんに甘えても冷たくされるたびに昔のお姉ちゃんが心の中で「今更お前にそんな資格はない。諦めろ」って言うの」
男「同情してもらって仲良くなってもらう作戦か? 加害者が悲劇のヒロイン気取りかよ」
女「あー、そうなっちゃうね。それじゃダメだね。何も進展しないや」
男「だから諦めろ。離れたほうがお互いのためだ」
女「嫌です。お姉ちゃんは絶対にかーきゅんと仲良くなるんだもん」
男「意地になってじゃねえぞ。姉貴にとっては俺への罪滅ぼしかもしれないが俺にとっては」
女「じゃあ昔話しよ」
男「聞けよ」
女「かーきゅんが姉ちゃんのことが心底嫌いならもう布団から追い出されてるもん。お喋りしていいってことだよね」
男「…………好きにしろ」
女「お姉ちゃんもね、かーきゅんみたいにおばさんとおじさんに助けられてここに来たの。お父さんとお母さんもう居ないんだ」
男「は?」
女「ただの交通事故。家でお買い物のお留守居番してたらお父さんもお母さんもいなくなってたの」
女「最後に見たのが嬉しそうに手を繋いで行ってきますって笑顔。最後の最後まで仲良しさんだったんだ」
男「そりゃ夫婦円満でなによりだな」
女「そうだよね。そしてお姉ちゃんね、一緒に暮らせる人いないから最初はお爺ちゃんとお婆ちゃんの家に連れて行かれたの」
女「最初はお祖父ちゃんもお祖母ちゃんも優しかった。でも月日が経つにつれて元気がなくなってね」
女「私を見ると特に泣き出しそうな悲しい表情するの」
女「お母さんの親戚の家に預けられる直前にお祖母ちゃんが「お前を見るたびに死んだ我が子を思い出すから切ない」って」
女「お姉ちゃんが居るだけで心苦しい思いさせちゃったんだね」
男「……」
女「次に連れて行かれたお家は大家族だったよ。夫婦に子供4人の大家族……でもないのかな?」
女「そこのお家は元々子供が多すぎて手が回らなかったのか一週間くらいで次のお家に移動することになったんだ」
女「行く先々で家庭の事情は違えど「世話が追いつかない」に似たような理由で何件もたらい回し」
女「どんなに長くても二週間も持たなかったよ」
男「どこもかしこも大変なんだな」
女「そして最後の家。このお家も駄目だったらこっそり抜け出して誰にも迷惑かけずにひっそり暮らそうって決心したの」
女「13歳少女の大決心」
男「高校生なら分かるけど中学生はまだ無理だろ」
女「誰かと暮らすことにそれくらい引け目があったんだから」
女「出迎えるときはどの家族も笑顔で「いらしゃい」って言うんだけど、そこの家は違った」
女「おばさんが「いつまでも居ていいんだよ」って言ってくれたおかげで背負ってる重いものがすっと消えた気がして気持ちが楽になったの」
男「よかったじゃん。なんでそこを捨ててここにいるんだよ」
女「最初はよかったよ。おじさんもおばさんも私を見るとニコニコして、特におじさんは優しくしてくれたんだ」
女「いつも一緒にいてくれてなんでもお手伝いしてくれるの」
女「着替えもそうだしお風呂も一緒。寝るときもそばでナデナデしてくれたの」
男「理想的な親だな。他人の子でも愛情を持って接してくれるだなんて」
女「でもその優しさはどこかおかしかったの。中学生とお風呂に入る時点で気づくべきだった」
女「布団の中で撫でられる場所も頭じゃなくて顔だって事に違和感を覚えるべきだった」
女「気付いたときにはもう遅かったの。お姉ちゃんおじさんに虐められた」
男「それって」
女「かーきゅんのえっち。そこまでしてないもん」
男「まだ何も言ってねえし。しかも、そうじゃねぇ」
女「せいぜい触らせたり咥えさせようとしてきたくらいだけどね。気持ち悪くなって嫌がれば叩かれた」
女「でもね、またどこかに行かされるのにも辟易してたからどんなに苦しくても辛くても耐えようって決めてたの」
女「他に人には考えられない過酷な場所でも追い出されないだけで私にとっての安住の地」
男「逃げればよかったじゃん」
女「そうなんだけど寂しさと習慣ってすごいんだよ。どんなに辛い毎日でも暮らしていけるって心の支えは大きかったの」
女「えっちなことを強要されることを除けばお姉ちゃんにとっては理想の家だった」
女「今ならかーきゅんの言うとおり絶対逃げてるけど、その時は色んな事で心がいっぱいいっぱいだったんだ」
女「もしかしたら逃げるって選択肢を無意識に諦めてその生活を受け入れてたのかもしれない」
男「考えられない」
女「おやおや、えっちな話になってからかーきゅん興味出てきたね」
男「寝る」
女「やぁん、拗ねないで。それでねそんな毎日だったからとうとう心が許容量超えちゃって毎晩泣くようになったの」
女「すぐ近くにはおじさんやおばさんがいるのにすごくすごく寂しかった」
女「毎夜毎夜泣くものだから家族の人もさすがに限界だったらしくて、原因を探すために病院に連れて行きますと言うおばさんにおじさんが猛反対して結局また移ることになったの」
女「病院連れて行って痴態をバラされたらおじさんの生活がなくなっちゃうもんね。当たり前」
女「とうとう手がつけられなくなって捨てるために必死に親探しをしてくれて、快く申し出てくれたのが」
男「ここの大家さんと」
女「そうだよ。大家さんに初めて会った時何も言わずに優しく抱きしめてくれたの。それに堪えられなくてわんわん泣いちゃった」
女「夜泣きの寂しさじゃなくて包み込まれた安心感。中学生が泣き疲れて眠って起きたら心の中が軽くなってぽけーっとして平和なの」
女「朝昼夜毎日私が大家さんとちゃんと会話できるようになるまでずっと傍にいてくれた時は、本当のお母さんみたいだった」
女「忘れてた幸せな生活を取り戻して、またお母さん独り占めできる幸福に浸ってた」
女「ずっとこんな暖かい毎日が続けばいいなって願ってたそんな矢先だった。大家さんが違う子を連れてきたのは」
男「……」
女「誰かは言わなくても分かると思うよね」
男「……」
女「かーきゅんだった。それからだよ。大家さんがお姉ちゃんの事を前よりも見なくなったのは」
女「お姉ちゃんよりも優先してかーきゅんに付きっきりになったのは。たぶん嫉妬してたんだと思う」
女「かーきゅんがどこでどんな生活をしていたかは新しい家族との顔合わせの時点で大家さんから教えてもらってた」
女「だから、形は違うけどお姉ちゃんと同じで独りだった知ってた」
女「でも、お姉ちゃんだけしかいられない場所に、お姉ちゃんだけしかいちゃいけない世界に入ってきたかーきゅんが悪いんだよ?」
男「横暴なんてものじゃないじゃん。なんだよそれ。意味が分からない」
女「だよね。だってそう思ってたんだもん。かーきゅんが優しい大家さんをお姉ちゃんから奪った」
女「それがお姉ちゃんの中ではどれだけの重罪か。大家さんは優しいからかーきゅんを追い出すなんてことは絶対にしない」
女「じゃあどうしようか。あ、いじめれば逃げちゃうかな?」
男「最低だな」
女「まったくだよ。散々いじめられても動けなかった子が何考えてるんだろうね。阿呆みたい」
女「でもね、そうまでもしないとかーきゅんに盗られた大家さんが返ってこない気がしたの」
女「お姉ちゃんにはまだまだ大家さんが必要だったの。大家さんが私の全てだったから」
女「お姉ちゃんがかーきゅんを虐めてたのは独占欲から生まれた醜い嫉妬」
男「手を出さなくなったのは満足したからか?」
女「ううん。かーきゅんが大きくなっていじめることができなくなったときに仕返しが怖くなったの」
女「叩いた分、蹴った分、罵った分、虐げた分がそのまま全部。もしかしたら倍よりももっと多くなって返ってくるかもしれない」
女「そう思ったらまた毎日が怖くなった」
女「でもね、かーきゅんはお姉ちゃんの想像よりも人が出来てて賢ったから目に見えて復讐はしてこなかった」
女「何日も何ヶ月も怯えるお姉ちゃんに何もしてこなかった」
男「だわな。何もしなかった」
女「そう、お姉ちゃんに何もしなかった。会話ごとに罵倒されるかもって怯えてたのに喋らなかったもんね」
女「暮らしてる上でかーきゅんに接する必要がなくて、それである日ふと思ったの」
女「もしかしてかーきゅんの中でお姉ちゃんが居ないことになってるかもって。勇気出して話しかけても返事がない」
女「間違ってぶつかっても何も言わない。視線が合わない。それで確信した」
女「お姉ちゃんを避けてるんじゃなくて、かーきゅんの中からお姉ちゃんがいなくなってる」
男「自業自得」
女「本当にね。大家さんは私と喋ってくれるのにかーきゅんにはお姉ちゃんが見えてないみたいで」
女「大家さんがまたお姉ちゃんと会話するようになって楽しい日々が戻って幸せだったはずのに、何かが足りなくて悲しくなったの」
女「それでようやく犯した罪の大きさに気付けたんだ。でもね、気付いたところで」
男「もう遅い」
女「何年もかーきゅんを痛めつけてきたのに『ごめんね』の言葉だけで済まそうだなんて思ってないよ」
女「だからね、お姉ちゃんこれからずっとかーきゅんの傍で償っていきたい」
女「たとえかーきゅんが許してくれなくても、お姉ちゃんがそうしないとまた心に押し潰されちゃうよ……」
男「あのさ、俺も黙ってたんだけどさ。大家さんに言われてたんだよ」
男「ここに来たとき『ゆうちゃんはかーくん以上に心が弱くなってる』って」
女「え?」
男「『家族になって早々押し付けるようで悪いとは思ってるけど、ゆうちゃんがかーくんを支えとして頼れなくなったらゆうちゃんの心は簡単に壊れちゃう』」
男「『どんなに苦しくてもかーくんが誰よりもゆうちゃんを信じてあげて』って」
女「あ、うぅ……」
男「姉貴の態度が急に丸くなった理由は薄々勘づいてたし、姉貴がどれだけの勇気を振り絞って俺に近づいてきたかも知ってた……つもりだった」
男「俺も姉貴に接する勇気がなかったんだよ。ちょっとやり返したつもりだったのにそこから心を開くのが予想以上に難しかった」
男「素直に仲直りするきっかけが作れないなら弱者を演じて貫いて、そうすれば悪いのは姉貴だけ」
男「姉貴の気持ちを知ってた分弱者のフリをしていじめてきた俺の方が阿呆だったよ」
女「えぅ、ぐす……あうぅ」
男「俺もな。姉貴に許してもらえるとは思って」
女「許す! おねーちゃんかーきゅんのこと許すもん!!」
男「お、おう。だかさ姉貴」
女「えぐ、ぐずっ……ねぇ、かーきゅん」
男「なんだ?」
女「こ、これからずっと隣にいていい?」
男「意地張る事しかできなかった俺なんかでよければいくらでも」
女「ありがと……」ギュウウ
──────────────
男「ずっと隣にいるんじゃないのかよ」
女「今晩だけかーきゅんの上だよ」
男「なんだそれ。泣いてたくせにすぐいつも通りかよ」
女「いつも通りじゃないよ。これからはさっきまでの物足りない寂しい関係じゃないもん、んん」
男「んっ?! ……ぷは」
女「それにね……もう、私はかーきゅんのお姉ちゃんじゃないよ。……なんであのしんみりした会話で硬くなってるの?」
男「散々胸を押し付けてきてたくせにジト目で見てんじゃねえ」
女「もう1回キスさせてくれたら許してあげる」
男「どの口が言うか。ほらよ」
女「んん……ぷふぅ。だって好きだから、かーきゅんが」
男「そうかい」
女「私ね、やっとかーきゅんに本心から甘えられるのが嬉しいの。だから今だけたくさんかーきゅんで満足させてね」
男「臆面もなく恥ずかしい言葉をよく……」
女「えへへ、あのね。かーきゅんにならどこいじられてもひっ?! い、いきなり触るのずるいと思うよ」
男「好きにしろて言っただろ? どこのエロ漫画のセリフだよ」
女「ああ、あ……んふっ」
男「痛くないか?」
女「大丈夫、ん」
男「柔らかいな脂肪分。こことか」
女「ひんっ!! あ、そこっ!」
男「先っぽがいいのか」
女「はぁはぁ、こりこりされるの……だめぇ……っ!!」
男「胸だけですごい息乱れてんな」
女「だ、だっていじられるの、いいっんだもんっ! ふぁっかーきゅんん、気持ちいいよぉ」
男「あまり声出すなよ。幼女が起きるぞ。……よだれ垂れてる」
女「うんっ! 抑えるけ、どっ! あぁっ……あふぅ……ふぅっ」
男「なぁ、幼女がいない時にしないか?」
女「こ、声出さないからやめないで」
男「下も……いじるぞ」
女「うん、あっ。で、できれば膝くらいまでは脱がしてほしいなぁ」
男「フェチ?」
女「汚れるからです!!」
男「なら下ろすぞ」
女「ひぁ?!」
男「擦れただけで結構な反応。敏感?」
女「あうぅぅ……不意打ちずるい」
男「ただの事故だ。これからが本番だから」
女「ふぁっやぁぁ……上からだとこそばゆいよぉ」
男「ぴくぴく腰浮いてるな。上部分の突起がいいんだっけ?」
女「くひっ! そこっだめっ!! ふぁひっ?!」
男「耳の甘噛みも弱いのか」
女「首も舐めちゃやあぁ……はふぅ……」
男「いじめがいあるな。ねえ、下いじられながら胸の先摘まれてどんな気分?」
女「気持ちよくてよくわかんなく、ぁふぅっ、ああっ乳首舐めちゃっ!!」
男「下の感想が無いのは物足りないからか。直接触るぞ」
女「あっ!! いきなりそんなあ、あっあああっ!!」
男「もう溢れてる。指入れるぞ」
女「やっ、だめ! だから……っ!! かーきゅんにいじられておかしくなっちゃうからぁああん!!」
男「抱きつくのはいいけどちょっと力入れすぎ。動かすぞ」
女「あっ! ああっ!! ひんっ!!」
男「絡みつき方がすごいな。こことか特に」
女「あ、あぁんっ! そこ掻いちゃっ!! かーきゅぅん!! あぁぁあああぁっ!!」
男「……大丈夫か?」
女「はぁはぁ……んっ、はぁはぁ……くふぅ。かーきゅん意地悪したでしょ?」
男「いい声が聞けるものだからつい。でもよかっただろ?」
女「そういうことじゃ、んん……キスで誤魔化すのずるい」
男「どうする? ズボン全部脱いじゃう?」
女「……うん」
男「……挿れるぞ」
女「うん。……あ、いっう……んんつっ! んあっ!」
男「……初めて?」
女「あぐぅ……ふぅ、今まで彼氏がいるように見えてた? ずっとかーきゅんのために」
男「とっておいたってわけじゃないだろ」
女「えへへ、自分のことで精一杯だったからね。昔だとありえなかったけど今は一番最初がかーきゅんで嬉しいよ……」
男「俺もな」
女「は、始めはゆっくりだからね」
男「慣れたら教えろよ。極力合わせるから」
女「ありがとうかーきゅん。んくっ、ふぅ……ん!」
男「痛くないか?」
女「んあっ! ん~~っ! はぁはぁ、かーきゅんは私のんんっ! な、中気持ちいい?」
男「気持ちいいよ。でもちょっと既に締め付け過ぎ」
女「あひっ! ひぅっ! か、かーきゅんが気持ちいいならっわ、私も気持ちいいからっひゃんっ!?」
男「ちょっと無理させるかもしれない。足抱えるから横向いて」
女「そんあ! かーきゅん強引だよぉ! んぐぅっ! ふぁああっ!! この、格好恥ずかしよぅ!!」
男「かなり声蕩けてきたな」
女「ら、らってかーきゅんがっ! あぅっ! ああぁんっ! ふぁあぁぁあんっ!! これっ声我慢できなっ!! ああっ!!」
男「抑えめに鳴かないと幼女が起きちゃうぞ。それとも見てもらうか?」
女「やらぁ! かーきゅんと繋がってるの見られちゃっやらぁああ!」
女「でも、かーきゅんのが壁に擦れてす、すごいの! すごいよおお!!」
男「指でいじくり回してた時よりもたくさん溢れてきたな。このまま最後までイくのもいいけど、よっ」
女「ひぁっ?!」
男「やっぱり終わる時はしっかり顔見ておきたいからな。っと、顔は隠さなくていいぞ」
女「ひくっ! ら、らって、こんあ顔かーきゅんに恥ずかしくて見せられ、んあっ!」
男「やっぱり向かい合ったほうが深く入るな」
女「かーきゅんの奥にきてっるぅぅ! 気持ちよくてすごいよぉお!! ああああんっ!!」
男「いいのか? どんどん声が大きくなってくぞ?」
女「いじわりゅぅ! こんあの我慢なんて無理だよお!」
女「もっと! 幼女ちゃんに見られちゃってもいいからっ! もっとかーきゅんが欲しいのっ!!」
幼女「無意識に腰動かすくらい夢中になってるし」
男「だな。こんだけ乱れてればバレるのも時間の問題か!」
女「くひっ! ひゃあんっ!! 激しくておかしくな、なっちゃうからあっ!!」
男「手も下も締め付けすごいな。俺ももうちょっとで! って足絡ませんな!」
女「かーきゅんっ! かーきゅううんっ! もう私イッちゃうよぉっ!」
男「ちょっと待てよ! 俺もだけどその前にお前っ! ぐぁっ!!」
女「ふあっ! ああんっ! ああっイっ!! ああああっ!! ふあぁぁああぁあ~~~~~っ!!」
幼女「……素敵な夜食ごちそうさまだし」
──────────────
幼女「朝食ごちそうさまでした。ふりかけ美味しかったし」
女「そう、幼女ちゃんのお口に合ってよかった。あまり料理津作らないから心配だったんだぁ」
男「ごちそうさま」
女「ん」
幼女「喉が渇いたし」
女「もうすぐお茶が沸くから待ってね。お皿もらっていくよ」
男「あ、俺もお茶が」
女「ん」
幼女「熱いなら氷欲しいし」
女「はいはい。でも数少ないから温めで我慢してね」
男「俺も氷欲しいな……」
女「ん」
幼女「やかんが熱を帯びて本気を出し始めたし」
女「お皿洗ってるから手が離せないや。幼女ちゃんお願い」
幼女「りょーか」
男「俺も何か手伝える……こと……」
女「ん」
男「…………」
女「…………」
ピー タタタ ピッ ガチャ トポポポ トポトポ タタタ コトン
幼女「はい、お茶だし」
男「ああああ! もう俺が悪かったよ!! 嫌がってたのに調子乗ってごめんなさいね!!」
男「気持ちよかったよ!! だが、幼女がいるけどやめたくないって言ったのは姉貴だからな!!」
女「見られたの気にしてるんだから今はそっとしておいてよ!! もうやだあああ!!」
幼女「気持ち良さそうだったし。楽しかった? 鮮明に思い出せる? ねえ、どんな気持ち?」
女「やめて幼女ちゃん! あの時の私は私だけど私じゃない私だったの!!」
幼女「自分を見失う程良かったって解釈するし」
女「そうだけど違うのよおおお!! うわああああん!!」
幼女「若いなら誰だって同じことしてるし恥ずかしがる必要ないし」
女「もう、幼女ちゃんもかーきゅんも嫌い……嫌いだけど大好き……ぐすん」
男「どうする幼女?」
幼女「お姉ちゃんに嫌われたこと?」
男「違う。明日が月初めだから今日1日だけ暇だぞ」
女「かーきゅんと幼女ちゃんでどこかに出かけるの?」
男「姉貴はバイト入ってる?」
女「ううん。今日はないよ」
幼女「じゃ、じゃあ! じゃあ……」
女「ん?」
幼女「さ、3人でお買い物……したい……です」
男「大声出したのが恥ずかしかったか」
女「か、かーきゅん!!」
男「姉貴のことじゃねえよ!」
──────────────
女「ねえ、かーきゅん。出てくるときにすれ違った大家さんなんであんなに変な笑顔してたの?」
女「嬉しそうっていうよりはニヤニヤって感じの」
男「き、きっと珍しい組み合わせだったからだろ? 俺と姉貴に幼女だし」
女「何も変な事吹き込んでないわよね?」
男「言ったけどちゃんと弁解したからセーフ」
女「一体何を大家さんに」
男「それはまあいいだろ! 楽しく遊ぼうぜ! な?」
女「…………」ジトー
幼女「寒いし」
男「だわな。冬真っ只中だし寒いのは当たり前だ」
女「だから幼女ちゃんにもふわふわのコート貸すよって言ったのに」
幼女「これくらい平気だし。全然寒くないし。ずびっ」
男「変な見栄張って風邪ひくのはやめてくれよ」
幼女「大丈夫だし。あ、アイス屋さん」
女「幼女ちゃん……」
男「食欲は偉大だな」
幼女「め、目に付いたから言っただけだし! そんな目で見られる筋合いないし!」
男「2段積みできるってよ」
幼女「なにっ?!」
女「ぷふっ」
幼女「うっ……ぐぅっ、罠に嵌めるとか人間のやることだと思えないし!!」
男「食いに行くぞ。たまには昼飯前のおやつだって欲しいだろ?」
女「苺いいかも。レモンと重ねちゃおうかな。ね、食べようよ幼女ちゃん」
幼女「あう……ありがとです」
──────────────
幼女「苦かったし。絶対に許さないし」
男「抹茶は美味しいかって聞かれたから俺の主観で答えただけだ」
女「かーきゅんいじわるなんだから。……幼女ちゃんに意地悪したくなる気持ちはわかるけどね。むふふん」
男「アイス食べただけでえらく上機嫌だな」
女「だってかーきゅんに美味しいデザート買ってもらったんだもん。約束守ってくれるかーきゅん好き」
男「そうかい。よくそんな約束まで覚えてられるな。幼女は他に行きたい店ないか?」
女「そんなこと言われてもこんな場所来たの初めてだし。何があるかなんて知らないし」
男「そっか。俺も街なんか出ないから全く知らない。姉貴は……何膨れてんだよ」
女「ここでも姉貴って呼ぶの?」
男「姉貴は姉貴だろ? 他に呼び方なんて」
女「かーきゅん嫌い」
男「理不尽だろ……」
幼女「ゆーお姉ちゃん」
女「ふぇ?」
幼女「アパートのおばさんがゆーちゃんって言ってたから」
女「え、ああ。ゆーちゃんからそのまま取ったのね」
幼女「嫌だった?」
女「ううん、全然。ありがとうね幼女ちゃん」
幼女「あ、あの人形可愛いし。もふって」
女「窓に飾ってあるあの大きなひつじさん? お店入ってみようか」
幼女「あっ」
ユーオネーチャンハシラナイデーヒッパラナイデー
男「ゆうお姉ちゃんか……」
──────────────
幼女「店員さんびっくりしてたし」
男「そりゃな。まさか袋を断って担いで帰るなんて言われるとは思わなかっただろう」
女「幼女ちゃんとあまり変わらない大きさだから尚更ね……お姉ちゃんもびっくりだよ」
男「財布からいきなり諭吉が飛んで俺もびっくりだわ。姉貴は何か買ったのか?」
女「買いましたけど」プクゥ
男「膨れるな」
幼女「ひよこさん?」
女「ひよこさん。可愛いでしょ?」
幼女「小さくてモフれない」
女「う、うん。これは見て楽しむものだからいいの。かーきゅんは何も買った?」
男「俺はあまり人形とかは興味無いからな。ファンシーなのはちょっと」
女「万死に値する」
男「個人の嗜好ぐらいほっとけ」
女「でも可愛いアクセサリー眺めてたよね。ひょっとして女の子に憧れてた?」
男「スカート履く男がいるくらいだしいいだろ。男物ばっかじゃできない服装だってあるんだよ。おっと、そろそろ昼時か?」
女「本当だ。もう12時半。幼女ちゃんお腹空いた?」
幼女「ハンバーグ」
男「質問を段飛ばしで答えるくらい減ってたか」
女「そっか、お昼にする? ファミレスでいいよね?」
幼女「いいからハンバーグ食べたい」
女「ふふ、お腹空いても元気だね幼女ちゃん。って、あ~……振り解いて走って行っちゃった。あ、ガラスケースの前で止まった」
男「ゆ」
女「ゆっ? どうしたのかーきゅん?」
男「ゆう……で、いいか?」
女「へ? あっ、うん。呼び方のこと?」
男「これ、ゆうに。さっきの店で買ったやつ」
女「あ、ネックレス。ありがと……ずっと大事にするね」
──────────────
男「おかしい。なんでファミレス3人だけなのに諭吉が飛ぶんだ……」
幼女「店員さんびっくりしてたし」
女「ふ、ふふ。幼女ちゃんだけでデザート全制覇だもんね。お姉ちゃんもびっくりしたよ」
幼女「パフェ美味しかったし」
男「俺もびっくりだぞちくしょう」
女「か、かーきゅん……苦しかったら少しくらいお金だすよ?」
男「今日は俺が全部出すって決めてるんだ。ゆうも欲しいものあったら遠慮なく言ってくれ」
女「ありがとうかーきゅん。……そうだ! お洋服」
男「服?」
女「幼女ちゃんの服新しいの買ってあげないと。お洒落してみたいでしょ?」
幼女「お洒落は……いいです。家に帰ればあるし」
女「だよね。じゃあそうと決まれば善は急げ!」
幼女「ふぁひっ?! ちょっゆーおねーちゃっ!」
ユーオネーチャンハシラナイデーヒッパラナイデー ラッシャーセー!!
男「払うのは……俺ですけどね……」
──────────────
男「さらば諭吉ブラザーズ」
女「幼女ちゃんが幸せそうでなによりだよね」
男「帽子、マフラー、コート、ぬいぐるみ。頭から足首まで綿だらけだな」
女「靴紐の先っぽも綿だよ」
男「目しか出てないせいでもう誰だか分からないことになってるぞ」
幼女「ひぃふぁふぁふぇ」
男「日本語を喋れ。それにしてもようやく初買い物袋か。意外だな」
女「お食事以外のお店はお洋服抜いてぬいぐるみ買っただけだもんね」
幼女「ひぃふぁふぁふぇ」
男「日本語で喋ろ。冬は夕暮れが早いな。服眺めるだけで何時間潰したんだか」
女「だって幼女ちゃんの着せ替え楽しかったんだもん。幼女ちゃんだって満更じゃなかったし」
男「ゆうのは買わなかったのか?」
女「買い物袋の中に入ってるよ。かーきゅんは?」
男「俺はまだいい。夏物が出始めたら買うさ」
女「そのときも三人だね」
男「お、おう。ん? どうした幼女?」
幼女「ぷふぁっ。お兄さんの手飽きた。ゆうお姉ちゃんと繋ぐし」
男「楽しんでいるかと思えばお前はよくもそんな言葉を……ああ」
幼女「ゆうお姉ちゃんの手あったかい」
女「かーきゅん可哀相。陽が暮れる前に帰る?」
男「だな。駅行くか……」
女「うん……」
男「……」
男女「なあ、ゆう」「ねえ、かーきゅん」
男「あー……何?」
女「う、ううん。かーきゅん先に言っていいよ」
男「手………繋ぐか?」
女「うん。……かーきゅん大好きだよ」
男「俺も嫌いじゃない」
女「かーきゅん嫌い」ギュッ
──────────────
女「すっかり真っ暗だね」
幼女「でも寒くないし。今の私にかかれば寒波なんて余裕だし」
男「まさにどこ吹く風って感じだな」
幼女「うわ……」
女「かーきゅん……」
男「喧嘩なら買うぞ」
大家「あらあらうふふ。おかえりなさい」
女「ただいま大家さん」
幼女「ただいまです」
大家「あらあら、お荷物をかーくんに持たせちゃって。幼女ちゃんは沢山買ってもらったのね。3人でのお買い物楽しかった?」
幼女「楽しかったです!」
大家「ふふふ、よかったわね。幼女ちゃんはかーくんたちに遠慮なく甘えていいんだから」
大家「手伝ってもらえるのに我慢するのは体に毒よ。うふふふふ」
幼女「はい……?」
大家「ゆーちゃん、かーくん。おばさんちょっと出かけてくるから」
男「ういっす」
女「暗いから気をつけてね」
大家「あ、そうそうゆーちゃん。こっちきて」
女「なんですか?」
大家「あのね、可愛い声出すのもいいけどもうちょっと控えめにね。誰かがアパートに入ってきた時困っちゃうから」
女「ふへ? あっ」
大家「じゃあね。朝までには帰るからね、うふふふふふふふ」
男「ゆう? うつむいてぷるぷる震えてどうした?」
女「い」
男「い?」
女「いやあああああああっ!!」
──────────────
幼女「お風呂ごちそうさまだし」
男「お粗末さん」
女「ごちそうさまで思い出したけど、かーきゅんお料理本当に上手だよね。私も見習わないと」
男「ゆうは得意料理缶詰だろ?」
女「そこまで料理下手じゃないです! 朝だって私が作ったでしょ」
幼女「ゆーお姉ちゃんのも美味しかったです」
女「ありがと幼女ちゃん! ぎゅー!」
幼女「苦しいです」
男「どっちが美味しかった?」
女「そんな答えにくい質問するなんてかーきゅんは意地悪」
幼女「どっちがなんて言えないです」
女「だよねー。ぎゅー」
男「はいはい」
幼女「お兄さんの料理は素材の甘味とか旨みを殺さずに引き出すのが上手だし。ゆーお姉ちゃんのは」
女「私のは?」
幼女「素材だけを生かした料理が素敵だったし。おかずも味噌汁も……全部……」
男「極端な薄味だったな」
女「け、健康的なだけなんです」
男「顔を背けずに胸張って言え。さて、明日はとうとうだな」
女「だね」
幼女「……」
男「幼女はどうしたい? 幼女のお母さんたちとまた暮らしたいのか、俺たちと暮らしたいのか」
幼女「……そんなの分からないし」
幼女「お兄さんたちと居ると楽しいのは嘘じゃないけど、でも私にとってのお母さんはまだあのお母さんしかいないし」
幼女「もし私を捨てたわけじゃないなら、出来ればお兄さんたちと仲良しのままお母さんと暮らしたい」
男「そうだよな。俺たちが幼女の親の代わりに成れたとしても代替が限界だもんな」
男「明日、幼女の親に会えたとしたらちゃんと話できるか?」
幼女「…………頑張る」
女「幼女ちゃんならきちんとお母さんと向き合えると思うよ。辛くなったらいつだって頼っていいからね」
男「もうお前は独りなんかじゃないからな。怖かったら俺の後ろに隠れて好きに言えばいい」
男「すぐに負けるような戦い方は無理してまでするもんじゃない」
幼女「お兄さん……ゆーお姉ちゃん……」
男「綺麗にまとまったところで寝るぞ。いつもは何時くらいに親は来るんだ?」
幼女「お昼くらいです。決まって玄関の呼び鈴を押してからお金入れていくし」
男「じゃあ、2時間くらい早めに待ってるか。出発は9時くらいにだな」
幼女「りょーか」
女「頑張ってね幼女ちゃん」
幼女「頑張るし。お姉ちゃんもね」
女「うん。幼女ちゃんのために頑張るよ」
幼女「じゃあ妹が欲しいし」
女「いもっ?! 今日はしません!!」
男「寝ろ!!!」
──────────────
幼女「謝罪」
男女「「すみませんでした」」
幼女「遅刻するしないの問題じゃないし。昨日の大事な雰囲気が台無しだし」
女「か、かーきゅんが寝てるって思ってほっぺにキスしたら我慢できなくなってその……」
男「寝込みを襲われただけだ。俺はそれほど悪くない」
女「かーきゅんひどい!」
幼女「寝たふりを続けてたらエンドレスコースだったし。ばかっぷる」
女「あうぅ」
男「それにしても遅いな。幼女の母親は」
幼女「もうすぐ2時……」
女「お昼買ってこようか? 幼女ちゃんもお腹すいたよね」
幼女「我慢するし」
女「ダメだよ。食べないと元気も勇気も出ないんだから。テキトーに何か食べ物と飲み物買ってくるね」
幼女「ありがとうです」
男「俺が行こうか?」
女「ううん、かーきゅんが幼女ちゃんの傍にいないと」
女「幼女ちゃんのことをよく知ってるのは私じゃないくてかーきゅんなんだから。いってくるね」
男「おう」
幼女「いってらっしゃいです」
幼女「しゃけおにぎり」
男「渋いな。シーチキンやエビマヨじゃないのか」
幼女「おにぎりと言ったら断然しゃけや梅や昆布だし。和から外れるなんて邪道だし」
男「こだわってんだな。邪道の方が好きだ」
幼女「それにしてもなんで階段で待ち伏せだし。家の中の方があったかいし」
男「逃げられたいか? 張り込みは屋外待機って相場が決まってんだよ」
幼女「階段使ってきたら意味ないし」
男「2階ならまだしも3,4階になったらエレベーター使うのが普通なんだよ」
幼女「それはただの面倒臭がりだし」
男「大人は例外なく面倒臭がりだな。お前も大きくなれば嫌でも年齢を実感するから心しておけ」
幼女「そんな大人になんかならないし」
男「15年後に思い出して恥ずかしくなってろ」
チーン グワワー
男「来たか? 顔出して覗いてみろ」
幼女「ん」
男「どうだ?」
幼女「…………」
男「幼女?」
幼女「……お母さん」
男「やっとか。ゆうには申し訳ないが先に始め――」
幼女「お母さん!!」
幼女親「っ?! いきなり大声出してびっくりさせないでよ」
男「……少し様子見するか。母親は子供を放ったらかしにしておいて随分羽振りがいい服着てるんだな……」
幼女親「直接会いに来るなんて珍しいのね。何? お小遣い増やしてほしいの?」
幼女「おこづかい?」
幼女親「月1万じゃ物足りない食事しかできないから直接文句言いに来たんでしょ? いくらがいいの? 2万? 3万?」
幼女「――っ!!」
幼女親「早く言ってよ。私これからもすぐ予定が入ってるんだからこんな場所で無駄な時間使いたくないの。いくらがいいの?」
幼女「お金は……いらない。私はおかあ」
幼女親「そう。分かったわ。お金がかからない娘を持てて良かったわ。じゃあね」
幼女「へ? ま、待ってよお母さん!」
幼女親「何よ。いらないんでしょ? それとも物品で欲しいとか言い出すわけじゃないでしょうね?」
幼女親「8ヶ月も1人で暮らしできたんだし買い物くらいもうできるでしょ?」
幼女「私は……お母さんが欲しいの」
幼女親「お母さんが?」
幼女「わ、私はお母さんとまた一緒に暮らしたいの!! なんで私のことおいて出て行ったの?!」
幼女「なんでお金しかくれなくなったの?!」
幼女親「なんでってあんた……あんたがクズな男の子供だからよ!!」
幼女「ひっ?!」
幼女親「あんたこそなんで産まれてきたの?! あんたのせいで私はあの人に捨てられたのよ?!」
幼女親「被害者ぶるのやめてよ気持ち悪い!! 毎月こんな場所に来るのも嫌だったのよ!!」
幼女親「あんな最低な男と暮らした場所なんてもう好きでもなんでもないのに!!」
幼女親「なんでまた通わないといけないの?! たかがあんたの為に!! 全部全部あんたが悪いんだから!!」
幼女「いやっ!? ひっぱらな――」パシンッ!
幼女親「どんな冗談よ! 私はあの男を忘れたくて仕方ないのに一緒に暮らしてください? よくもそんな嫌がらせが思いつくわね!!」
幼女「い、嫌がらせじゃないもん!」
幼女親「楽しい?! 人が忘れたがってる傷をえぐるのって楽しいの?! 人の過去をいじくり回してかき回して優越感に浸って!!
幼女親「汚い場所は本当に親子そっくりね!!」
幼女「お父さんなんか私知らないし関係ないよ? 私はただ」
幼女親「それが嫌だって言うのよ!! あんたが知らないからいいでしょ?! ふざけないで!!」
幼女親「あんたの幸せのためにずっと耐えてきた!! それなのにまだ不幸になってください?!」
幼女親「たかが子供に私の人生をもう滅茶苦茶にされたくないの!!」
幼女「そんなのっ」
幼女親「そんなのって何?! 全部全部全部全部全部全部あんたが悪いの!! あんたなんかが産まれてきたから!!」
幼女親「あんたが私たちの気も知らずに笑顔なんか見せるから!! あんたなんか! あんたなんか今すぐしんじゃ――」
幼女「いやっ! 叩かな――」
ガシリ
男「これ以上虐めるなら俺は容赦しないぞ」
幼女親「はぁはぁ、誰よあんた。邪魔しないでよ。離しなさいよ!!」
男「お前が父親だったらぶん殴ってたところだ。俺はいつでも警察呼べるんだからな」
男「もう一度言う。これ以上虐めるなら俺は容赦しないぞ」
幼女親「――っ!! 帰るわよ。もうこんな汚い場所に二度と来ないわ。だから離してよ」
男「まだ俺との話が終わってない」
幼女親「話すことなんて何もないわよ」
男「幼女はどうするつもりだ」
幼女親「知らないわ。お金がいらないって言ってるしどうせあんたと同棲してるんでしょ? 持ち帰りなさいよ」
男「お前親だよな?」
幼女親「親になりたい? 親権欲しい? 養子でもなんでもしなさいよ」
男「よくそんなこと軽々言えるな。そこまで嫌うんだったらなんで産んだんだよ」
幼女親「気付いたら堕ろせなくなってた。言わなくても分かるでしょ? 私はもうあれなんていらないの。急いでるから帰して」
男「……二度と幼女に近付くな」
幼女親「二度と私に近付けないで」
男「っち」
幼女親「あんたが強引に掴んだせいで服が伸びたじゃない。高いんだから勘弁してよ」
男「さっさと行け」
幼女親「なによもう。会うなり子供を育てる資格がないとかいきなり言い出すあの女といい、今日はもう本当にツいてないわ」
幼女親「べつに最初から育てる気なんてなかったっての! もう最悪よ!」
男「知ったことかよ。幼女大丈夫か?」
幼女「……」
男「痛いところはないか?」
幼女「…………」
男「ごめんな。出るのが遅かったな。ゆうが来たら帰ろうな」ギュッ
──────────────
大家「おかえりなさい」
女「あ、大家さん……」
幼女「…………」
大家「あらあら、幼女ちゃんが元気なさそうね」
女「大家さん。あの――」
大家「でも、話はできたんでしょ?」
大家「幼女ちゃんの気持ちは叶わなかったかもしれないけど、かーくんとゆーちゃんならちゃんと幼女ちゃんの足りてない心の一部もきちんと埋められる」
大家「誰だって努力と愛情があればパパやママの代わりになれるものよ」
女「大家さんなんでそれを」
大家「うふふふ、なんででしょう? 私は応援してるわよ」
大家「幼女ちゃんもかーきゅんやゆうちゃんに負けない強い子だから全部受け入れて元気にたくましく育つわ」
大家「それじゃあ、これからまた色々出かけてくるからよろしくね」
女「大家さん」
大家「あ、忘れてたわ。幼女ちゃん」
幼女「……」ピク
大家「……」ギュ
幼女「…………ふ、ふぇ、ええぅ」
女「大家さんはどこまで知ってるんだろう」
男「さあな。全部知ってるのかもしれないし。一部だけかもしれないし。俺が分かるのは家族が増えるってことかな」
女「そうだね」
大家「幼女ちゃん。おかえりなさい」
幼女「うっうわああああん!!」
──────────────
数年後
男「今日が中学の入学式だっけか」
女「大きくなるのって早いね。つい昨日まで羊のぬいぐるみ抱いて寝てたと思ってたのに」
幼女「ひつじさんはいいでしょー。抱いてて気持ちいいんだか……そんなにじろじろ見て何?もしかして変?」
男「いや、似合ってるよ。鏡見て変に見えるか?」
幼女「わかんない。こんなの着るの初めてだし。あーあ、私服だったらもっとお洒落できてよかったのになあ」
男「制服の方が金かからなくて助かるわ」
幼女「でも私服だってちゃんと買ってもらうつもりだし。あ、ボタンずれてた」
女「何人か別の私立の中学校に行っちゃったみたいだけど、お友達は大丈夫?」
幼女「大丈夫大丈夫。友達なんかすぐにできるよ。ねえ……本当は養子じゃない子供の方がもっとよかったよね」
男「学校行く前だってのにまだ寝ぼけてんのか? お前がどんなに嫌がろうとも親は俺たちだよ」
女「そうよ。逆に私たちじゃご不満?」
幼女「ううん。ちゃんと育ててくれてありがとう。あっ! 時間だ!」
女「変な感傷に浸ってるから。忘れ物無い?」
幼女「確認済み!」
男「学校まで送ろうか?」
幼女「やめてよ恥ずかしいし! じゃ、いってきます! お父さん! お母さん!」
終わり
幼女母に天罰あれ…