夜の涼しい風が身体をそっと肌を撫でる。
深く吸い込んだ空気は全身をクールダウンさせてくれる。
勉強が一段落したら、庭に出て思いっきり深呼吸。
最近見つけた効果的な息抜きの方法だ。
勉強で疲れた頭をリフレッシュできる。
元スレ
綾乃「夏の終わりの花火大会」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1344775369/
ただ、問題点は涼しい夜しかできないこと。
ムシムシとした熱帯夜にやっても逆効果だ。
うだるような倦怠感に教われるだけ。
今日は熱帯夜じゃなくて良かった。
何の気なしに庭の置き石に座って空を眺めた。
光のビーズを散りばめたように星が輝いている。
手を伸ばせば掴めてしまいそうだった。
私はそっと夜空に手を伸ばした。
勿論、届く訳がない。
届きそうに見えるけど、ずっと彼方にあるのだから。
その点、歳納京子も同じかもしれない。
同じクラスなのに、歳納京子の方からよく話しかけてくれるのに、うまく話せない。
近いようで遠い。
いや、私が遠ざけているだけかもしれない。
歳納京子の事を考えると胸が苦しくて、切なくて、壊れてしまいそうになる。
しなやかな指先に触れてみたい。
そっと背中に手を回して抱き締めてみたい。
桜色の唇にキスをしてみたい。
そんな事を考えるだけでも私の脳内はオーバーヒートしてしまう。
素直にならないと前進出来ない。
それは嫌というほど解っている。
でも、頭で理解する事と実践は別物だ。
身体も頭もカチコチになってしまって、思っていることと正反対の事を言ってしまう。
「付き合う」まで行かなくても、せめてもっと親密になりたい。
でもその一歩がなかなか踏み出せない。
届きそうで届かない。
これはきっと私の気持ちの問題。
もっと素直に、積極的に行こう。
何回目の宣言かもう分からないけど。
庭石の上に立って夜空に手を高く掲げてみる。
やっぱり届かないけど、もうちょっとで届きそうな気がした。
せっかくの夏だから、遊びに誘ってみようかしら。
その時は素直になれたらいいな。
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何処かでヒグラシが鳴き始めた。
昼間ジリジリと照りつけていた太陽はだいぶ西に傾いているが、まだ空は薄明かるい。
本を一冊読み終えて、ふぅと一息ついた。
夕食まで時間があるし、今日の予定の勉強はもう終わっている。
特にやることが無かったので何となくテレビをつけると、地方のニュースをやっていた。
今日の富山は平和だったらしい。
特に大きな事件は無かったようで、今日開かれたイベントについてや、美術館での展覧会の紹介といった事を報道していた。
その中で花火大会の事がちらっと紹介されていた。
この花火大会は隣町の八森で毎年夏に開催される。
何回か行ったことがあるけれど、このニュースを見るまではすっかりその存在を忘れていた。
「花火」と聞いて真っ先に歳納京子の顔が頭に浮かんだ。
花火ではしゃぐ歳納京子。
しんみりと花火を見つめる歳納京子。
そっと私の肩にもたれかかる歳納京子。
千歳の妄想癖が移ってしまったのかもしれない。
頬が熱くなるのを感じた。
明日の花火は距離を縮められるチャンスだ。
私は胸を昂らせながらケータイを開いた。
早速歳納京子に――と思ったけれど、まずは千歳に電話することにした。
千歳は一番の親友だから、千歳に秘密で自分だけ楽しんでくる事は気が引けた。
歳納京子と二人で見たくはあったけれども。
私は電話帳から「千歳」を選んで電話を掛けた。
「もしもし、綾乃ちゃんどうしたん?」
「あっ、千歳?明日八森で花火大会があるんだけど……」
「歳納さんと行くん?」
「べっ別にそんな訳ないわよ!」
何言ってるのよ私……。
一番親しい千歳相手でも歳納京子の事が絡むとこうなってしまう。
「行ってきたらええんちゃう?二人で」
「でも千歳は……」
「ウチは今京都やで?」
「え?」
「酷いなぁ綾乃ちゃん。昨日メールしたやないの」
「あっ、ゴメン忘れてた……」
そういえばそうだった。
昨日千歳から「今から京都行ってくるわー」とメールで送られてきた。
私も「羨ましいなー。私もまた行きたい」というような内容のメールを返したと思う。
その後も京都のことについてメールをやり取りした。
それなのに花火の事で頭が一杯で、すっかり頭から抜け落ちていた。
「それにしてもええなぁ……」
ケータイからの千歳の声が恍惚とした声に変わった。
「歳納さんが綾乃ちゃんの肩にそっと手を掛けて……。
花火を背景にして見つめあった二人の距離がゆっくり縮まって……」
ゴフッと何かが噴出する音が聞こえた。
「何か」とは言ったが、このシチュエーションからして、十中八九鼻血だろう。
受話器の向こうから「ちょっ……姉さん大丈夫?」と千鶴さんらしき声が聞こえる。
「綾乃ちゃん、花火デート頑張ってな……」
千歳がうわごとのように言うと、プツリと電話が切れた。
千歳……大丈夫かしら……。
そんな事を考えていたら千鶴さんからメールの着信があった。
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from 千鶴さん
sub さっきは姉さんがごめんなさい
貧血を起こしてるだけだから大丈夫です。
よくある事だから。心配しないで。
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千鶴さんはそう言ってるけれど、やっぱり心配だ。
あの鼻血が「よくある事」ってマズイんじゃ……
千歳の鼻血は気がかりであるけれども、千歳にはお礼を言わなくちゃ。
二の足を踏む私の背中を押してくれた。
いつも千歳には助けて貰ってばかりだ。
いつかあんみつを奢ってあげようかしら……。
そういえば、お母さんに許可を取るのを忘れていた。
台所に行き明日の花火大会の事を話すと、お母さんは快く承諾してくれた。
千歳には話したし、お母さんにも許可を貰った。
残すは歳納京子への電話だけ。
電話帳のタ行を開き、「歳納京子」の所まで来た。
でも「発信」のボタンが押せない。
断られたら?
何で私だけ誘うのって言われたら?
もし電話に出てくれなかったら?
ただ押すだけなのに躊躇してしまう。
手が震えて心臓もバクバクうるさい。
でも、ずっとこのままじゃダメじゃない、私。
今電話しなかったら絶対後悔する。
「夏は待ってくれない」とか言うクサい言葉を聞いたことがあるけど、その通りだと思う。
花火は年に一回だから、これを逃したら来年まで待たなければならない。
だから勇気を出さなきゃ。
Tシャツで手の汗を拭いて深呼吸。
えいっ!
「発信」のボタンを押してケータイを耳に当てた。
右耳にケータイのコール音が響く。
一回のコール音の間に、私の心臓は何回鼓動を打っているのだろう。
さっきよりもずっと速いリズムを刻んでいる。
「もしもし?」
8コール目で京子が電話に出た。
「あ、もしもし私」
「おっす綾乃~。綾乃から電話って珍しいな」
「そっそう?……べ、別に良いじゃないたまには電話したって」
そういえばいつもはメールでやりとりしていたから、歳納京子の言う通り電話は久しぶりだ。
ああもう、どうして私も歳納京子も平常運転なのよ。
「ところで何の用?」
「あの、歳納京子、明日……」
「明日?資源ゴミの日?」
「違うわよっ!」
「新聞紙はゴキブリ叩き専用に数日分残しておいた方が良いよ」
「人の話を聞きなさいよっ!」
歳納京子だからこういう風にボケる事は分かってた。
でも話の腰を折らないでほしい。
「ゴメンゴメン。で、何だっけ?」
「明日の……えと、その……は、花火大会なんだけど……明日の夜、空いてる?」
「ちょっと待っててー」
コト、とケータイを置いたと思われる音がして、沈黙が流れる。
お母さんに聞きに行ってるのだろうか。
「電話する」という第一ステップはクリアしたけれど、まだ喜べない。
歳納京子と一緒に行けるとはまだ決まってないから。
期待三割、不安七割といったところだろうか。
この沈黙が辛い。
お願い、神様、歳納京子――
祈るように胸に手を当て、ぎゅっとシャツを握りしめた。
「綾乃~。オッケー貰った」
暫くすると受話器の向こうから歳納京子の声が聞こえてきた。
今までの緊張が少し弛緩する。
でも、まだ安心するには早い。
「とっ、歳納京子……」
「何?」
「ふ、深い意味は無いわよ!?……ただ、たまには二人だけでもっ……」
「私と二人で行こうってこと?」
うん、って言いたかったけど声が出ない。
私はただコクリと頷いた。
勿論歳納京子には伝わってないだろう。
二度目の沈黙が流れる。
今度は会話の途中だから気まずい。
……私、やっちゃったかしら?
「いいよ」
「……へっ?」
「結衣とあかりとちなつちゃんは旅行とかお祖母ちゃん家行ってるらしくて、最近暇だったんだよねー」
「そ、そう……。それなら仕方ないわね」
押さえようとしても声が上ずってしまう。
歳納京子に変に思われてないかしら……。
「あれー?さっき一緒に行きたいって言ったのは誰だっけ?」
「う、うるさいわよ!……明日の5時に駅前でいい?」
「オッケー。それじゃまた明日ー」
「また明日」
少し名残惜しくもあったが電話を切った。
歳納京子と一緒に花火に行ける。それも二人っきりで。
喜びのあまりベッドにダイブして枕を抱きしめ、足でバタバタ布団を叩く。
他の子の不在を喜ぶなんて、私は悪い子なのかもしれない。
それでも喜びの方がずっと大きかった。
喜びに浸っていると一階から「ご飯できたわよー」とお母さんの声が聞こえてきた。
私は昂る気持ちを抑えながら階段を下りた。
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駅までの道でも駅でも、浴衣を着ている人をよく見かけた。
きっとこの人たちも八森の花火を見に行くのだろう。
駅の長椅子で歳納京子を待って一時間。
別に歳納京子が遅刻している訳ではない。
私が待ち合わせ時間よりも一時間も早くここに来たからだ。
浮わつく心を押さえながら歳納京子の姿を探す。
そろそろ来てもいい頃だと思うんだけど……。
「わっ!!」
「ひゃあっ!!」
突然の後ろからの声に驚いて後ろを向くと、歳納京子が悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。
「もうっ!びっくりしたじゃない!」
「ゴメンゴメン。それよりこの浴衣どう?」
歳納京子はくるりと一回転して見せた。
薄いピンクの生地に朝顔を染め抜いた浴衣。
いつもは下ろしている髪を今日はポニーテールにしていて、
ちらりと見えたうなじに思わずドキリとしてしまう。
「に、似合ってるわよ」
少し照れくさかったけど、素直に感想を伝えた。
「そう?よかったー。綾乃も似合ってるよ」
「うぇっ!?」
私は群青色の生地に桔梗を染め抜いた浴衣を着てきた。
正直この着物が似合っているかどうか不安だった。
けれども歳納京子が誉めてくれたのだから、きっとこれを着て来て正解だったのだろう。
「そ……そう。ありがと……」
でも、やっぱり誉められるのは照れくさい。
「そういえば歳納京子、切符買った?」
「うん。買った」
「じゃあ行くわよ!」
「よっしゃー!今日は遊ぶぜ!」
私たちは改札口へと向かう。
二人だけで遊びに行くのは初めてだ。
しかも今日は花火。
浮かれずにはいられない。今日は距離を縮められるチャンス。
今日こそは素直になれますように。
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―――
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夜の帳が降りて空には星が輝いている。
日はとっくに沈んでいるけれど、辺りは出店の照明で明るい。
屋台で綿菓子を買っていると花火の打ち上げを告げるアナウンスがあった。
金魚すくいや射的、ヨーヨー釣りなど、少し出店で遊びすぎたかもしれない。
時間を全く気にして無かった。
「綾乃、行くよ!」
「えっ、ちょっ待っ……」
歳納京子は私の手を握って走り出した。
私も手を引かれるままに走り、歳納京子の背中を追いかける。
駆ける度に歳納京子のポニーテールが左右に揺れる。
ふわりと甘い匂いが鼻腔を擽り、ドキリと心臓が跳ねた。
「おぉ!すげぇ!」
河原のほとりまで来ると歳納京子は立ち止まって空を見上げた。
赤や青の光の花が大きな音を轟かせて夜空に咲き乱れる。
ぱっと刹那に咲いては消えていく。
パチパチと瞬くような光や、鮮やかに色を変化させる光。
夜空を彩る幾多の花は私を釘付けにして離さない。
「綾乃ー?どっかに座ろうぜー」
歳納京子は花火に見とれていた私の手を引いて歩き始めた。
「そうね。何処にする?」
「うーん……。空いてる所がいいな。あっ、あの辺で良いんじゃない?」
「そうね」
私たちは石段に腰を降ろして、夜空を眺めた。
「……綺麗」
「うん、本当に綺麗」
「今日は一緒に来れてよかった……かな」
「そうだなー。……あっ、今のあかりに似てなかった?」
「いやいや、クマでしょ」
「あかり……一瞬で消えちゃった」
「だから赤座さんじゃないわよ、もうっ」
一瞬だけいい雰囲気かと思ったのに……。
何なのよ、もう。
「ねぇ、綾乃」
「何?」
「今日はありがとね。誘ってくれて」
「べ、別に……気まぐれよ。気まぐれ」
「……ありがと」
隣で花火を見つめている歳納京子の頬が少し紅潮してるように見えた。
もしかしたら気のせいかもしれない。
そんな微々たるものだったけれども。
「何か歳納京子らしくないわよ?しおらしいっていうか」
「うん。……綾乃から誘ってくれたのが嬉しくて」
「え?」
「……何でもない。綾乃って『遊びに行こう』とか『寄り道しよう』とかあんまり言わないタイプでしょ?」
確かに、どちらかというと私は人に合わせるタイプ。
生徒会は別だけど、自分からなかなか提言出来ない臆病者だ。
「まぁ……そうね」
「その綾乃が自分から誘ってくれたのが、嬉しかっただけ」
歳納京子は花火を見つめながら少し微笑んだ。
「そっか……。実は私、電話するの結構緊張した」
「知ってる」
「なっ何で知ってるのよ!」
「いつもに増して、声がカチコチだったじゃん?」
「うっ……」
「綾乃って恥ずかしがり屋だもんね」
お見通しだったのか……。私って思ってることが顔とか声に出やすいのかしら?
「……まぁ、ね。入学当初は席で一人でぽつんと座ってたな……」
「綾乃が?」
歳納京子は意外そうな顔でこちらを向いた。
「うん。自分から話し掛けることが出来なくって。カチコチに緊張してた」
話し掛けるときのセリフは何がいいかな?とか、
いきなり話し掛けても迷惑がられないかな?とか、
ウジウジ悩んでしまって、結局誰にも話し掛けられずにいた。
「そんな私に声を掛けてくれたのが千歳だったの。
今の私があるのも千歳と……歳納京子のお蔭かな」
「えっ?千歳は解るけど何で私?」
歳納京子は不思議そうに首を傾けた。
「千歳はいつも側で見守ってくれるお姉さんのような、妹のような感じだけど、
歳納京子は星みたいな感じ……かな?」
「星?」
「うん。今は届かないけど、いつかは辿り着きたい目標っていうか……。憧れっていうか……」
もう1つ、「星」という比喩に意味がある。
それは恥ずかしくて言えないけれど。
「そこまで言われると照れるなー。綾乃ってもっとはっちゃけたかったの?」
「違うわよ!……お調子者になりたい、って事じゃなくて、誰とでも仲良くできるような所が羨ましかったの」
「羨ましい」という気持ちが「憧れ」に変わり、いつの間にか「仲良くなりたい」になった。
そして気付けば「好き」になっていた。
知らないうちに惹かれていた。
「いつも周りに迷惑かけるけど……。でも、明るさだったり纏っている雰囲気だったり……。
上手く言えないけど、そういう所が好きなの」
「好き……?」
「しょ、しょうがないでしょ!好きになっちゃったんだから……」
い、言っちゃった……。
心の中がいっぱいいっぱいで、口を滑らせて本心を吐露してしまった。
私は何てバカなんだろう。
もう、どうにでもなれ。
「ありがと。私も好きだよ。綾乃の事」
歳納京子は私にニッと笑いかけた。
え、もしかして両想い?
いやいやちょっと待ちなさい、私。
歳納京子の言った「好き」は、友達としての「好き」かもしれない。
ねぇ、さっきの「好き」はどっちの「好き」なの?
そう訊きたかったけれど、言葉が喉の奥につっかえて訊けなかった。
「でも、私は綾乃が思ってるほど強くないよ?」
「え?」
歳納京子は俯いて呟くように言った。
「小学校の頃の私は泣き虫で、おとなしい子だったんだ」
「何か……意外」
少なくとも今の歳納京子からは想像がつかない。
きっと船見さんは小学校の頃の歳納京子も知っているんだろう。
少し悔しかった。
「……大丈夫。もっと自信持っていいと思う」
「綾乃……」
「私は歳納京子の自然体が、すっ好き……だから」
歳納京子はちょっぴり自己中で、自由気ままで、周りを巻き込んで迷惑をかける。
それでも、いや、それを含めて歳納京子が好きだ。
一緒に居ると楽しいし、元気をくれる。
「……うん」
歳納京子は頬をポリポリ掻いてはにかんだ。
「ねぇ綾乃?」
「な、何よ?」
「甘えてもいい?」
歳納京子は上目遣いで囁くように訊いた。
私は思わず目を反らして花火を見上げた。
「ふぇっ?べ、べべ別に良いわよ?」
「……ありがと」
歳納京子は私の肩に頭を載せてもたれ掛かった。
私の頬が熱を帯びてゆくのが感じられた。
浴衣越しに歳納京子の体温を感じる。
涼しい夜風と温もりが丁度よくて心地よかった。
風と共にふわりと髪の匂いも漂ってきて、私の心臓は早鐘を打つ。
「私たち、似た者同士なのかもね。今まで全然気づかなかったけど」
確かにその通りかもしれない。
強がってるけど、中身は脆い。
「……そうね。歳納京子にそんな一面があったなんて、意外」
「そんなに意外かなぁ……。 綾乃はさっき、『自信持っていい』って言ったけど、綾乃もそうだと思うよ」
「へ?」
「綾乃も自信持って良いと思う。しっかりものだし、優しいし、それに可愛いし」
「かっかわ……」
不意打ちだなんて、ズルい。
さっきから胸の鼓動が治まらない。
「うん、綾乃は可愛いよ」
「……ふんっ、おだてても何も出ないんだから」
気持ちを抑えて誤魔化そうとしたけれど、やっぱり声が上ずってしまう。
「ねぇ綾乃、これからも仲良くしてね」
「……当たり前じゃない」
やっぱり「好き」っていうのは「友達として」だったのかしら?
解らないけれど、それでも嬉しかった。
「あと呼び方」
「え?」
「そろそろフルネームじゃなくて、名前で読んでほしいな『京子』って」
「そっそんな恥ずかしい……」
「京子」って呼ぶのが恥ずかしいから「歳納京子」って呼んでたのに。
「リピートアフターミー、『京子』」
歳納京子は片言の英語で名前を呼ぶことを促した。
「き、きょっ、きょうこ……」
「ワンスアゲイン」
「き、京子……」
「うんうん。やっぱりこうでなくちゃ」
京子は屈託なく笑いながらコクコクと頷いた。
「見て、綾乃、連発だ!」
京子は夜空を指差した。
煌めく星のような光や、輝く金糸のような光。
色とりどりの光の花が夜空に咲き乱れる。
今まで見た花火の中で一番綺麗に見えた。
光の造り出す幻想的な世界に私たちはただ見とれていた。
「凄い……」
「ね、ねぇ京子?」
「何?」
「手……繋いでもいい?」
勇気を出して京子に訊いた。
今日の私は何でも出来そうな気がした。
「いいよ」
京子はそっと私の左手に指を絡める。
「私たち、これからもっと仲良くなれそうだね」
「……そうね。私も、もっと仲良くなりたい」
「私も」
京子はギュッと手を握る力を少し強くした。
幼馴染みじゃなくても、また違った形で京子の特別になれたらいいな。
今日は今まで知らなかった京子を知ることができた。
もっともっと京子の事を知りたい。
でも、焦らずゆっくりと進んでいこう。
恥ずかしいけどあなたに伝えたい。
「大好きだよ、京子」
―――――――――完―――――――――
117 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/08/13 00:31:33.21 kZ1QMJjv0 68/68
以前結京で花火の話を書いたのですが、
別のカップリングでも花火をやりたくなってコレを書きました。
またいつか結綾とか、別のカップリングで書きたいな……
つたない文章でゴメンナサイ

