1 : 以下、名無しにかわりましてVIP... - 2012/07/13 22:52:28.36 lSzKPWf1O 1/88

――ポツポツ ポツポツ

(……雨か)

(今日もまた長く降りそうだ気配だな)

(餌探しはヤメて宿探しに変更しよう)


元スレ
猫「今日もまた雨か……」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1342187548/

4 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 22:59:49.90 qwQNfO+x0 2/88

▼公園・公衆トイレ前

――ザァァ。

(そういや、あの時もこんな雨だったか)

(濡れたダンボール箱、少量の餌)

(あの人何か言いながら俺の首輪を外してた)

(いくら鳴き続けてもあの人は戻って来なくて)

(そうして三日経ってようやく)

(捨てられたんだって気づいたんだっけな……)

6 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:01:52.79 qwQNfO+x0 3/88

(もうやめよう。考えるだけ不毛だ)

(あの頃と俺は違う)

(寝床も餌も自分で探せる)

(俺はもう一人で生きていける)

(一人で、生きていけるんだ……)

7 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:04:05.34 qwQNfO+x0 4/88


(ん? 誰かやって来る)

タッタッタ

「…………ふぅ」

(なんだ? コイツも雨宿りか?)

(まぁ俺には関係無いけどな)

8 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:07:51.55 qwQNfO+x0 5/88

「……キミも雨宿りかい?」

「……」

「耳、破れてる。痛そうだね……」

「……」

「雨、早く止むといいね。キミも早く家に帰りたいだろう?」

「……」

「え~っと。私の声、聞こえてるかな?」

「……」

「……無視されちゃったか。ごめんね」

9 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:13:23.09 qwQNfO+x0 6/88

(何か言われた気がするが……)

(気にしたって何も聞こえないし、どうでもいいか)

(しかし音の無い世界ってのはずいぶんと不便で退屈だ)

(雨音すらも全然聞こえねぇ。どんな音だったっけな)

(まったく退屈だ。こう体が濡れてちゃ毛づくろいもする気も起きねぇ……)

10 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:16:18.07 qwQNfO+x0 7/88

「……ねえ?」

「……」

「もしかして、本当に聞こえてないの?」

「……」

「……」スタスタスタ

「……」

11 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:20:00.15 qwQNfO+x0 8/88

(雨なんて結局、避ければ濡れずに済むんだ)

(つまり当たらなければどうということはない)

(俺の運動神経なら軽く避けられんじゃないか?)

(右左右右左右左右左左左右)

(うん。やっぱり俺ならいける。いつか試して――)

「ねえ?猫君?」

「!?」ビクッ

12 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:24:38.87 qwQNfO+x0 9/88

(何だコイツ!いつの間にこっちに来たんだ!?)

「やっと気づいてくれた。やっぱり耳が聞こえないんだね」

(ハァ?何喋ってんだ?こっちは聞こえねんだよ)

「驚いても逃げないなんて、キミはきっと強い猫なんだね」

「あっ、そうだ!」ゴソゴソ

(なんだよ。何しようってんだよ)

「ほら。お昼ごはんの残りだけどあげるよ」

13 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:29:19.03 qwQNfO+x0 10/88

「こんなのしか持ってないけど、食べる?」

(なんだアレ……)

(真っ白くてツヤのある謎の物体だ)

(どことなく魚の良い匂いはするが……)

「かまぼこだよ。ほら、食べれるよ」パクッ

(うわ、口に含んだ……。食えるのか、それ)

14 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:33:33.29 qwQNfO+x0 11/88

「ほら。食べなよ」ポイッ

(こっちに投げた)

(……くれるってことか?)

「……」モグモグ

(そういや、この雨で餌探し出来なかったもんな……)

「……」モグモグ

15 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:37:13.35 qwQNfO+x0 12/88

『……すまない。恩に着る』
 「ニャー」

「おっ。ようやく喋ってくれたね」

「……」パクッ

「意外とカワイイ声だね。目つき悪いのに。ふふっ」

「……」モグモグ

「キミを見てると、昔飼ってた猫を思い出すよ」

「……」モグモグ

17 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:44:37.33 qwQNfO+x0 13/88

「ねぇ。少し聞いてもらえるかな?」

「……って言ってもキミには聞こえないんだろうけど。あはは」

「……」モグモグ

19 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:50:30.09 qwQNfO+x0 14/88

「私ね、子供の頃にキミみたいな猫を飼ってたんだ」

「ムックって名前の猫」

「真っ白なのに、お母さんがムックって付けちゃったんだ」

「おかしいよね。でもね、なんか妙に合ってて」

「気が付いたらみんなそう呼んでたんだ」

20 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:53:49.22 qwQNfO+x0 15/88

「ご飯を食べる時も寝る時もずっと一緒でね」

「私、ムックと一番の仲良しだったんだよ」

「私あまり友達がいなかったから」

「学校から家に帰るのが毎日楽しみでしかたなかった」

「ムックと一緒にいる時間が大好きだったんだ」

21 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/13 23:57:20.40 qwQNfO+x0 16/88

「けれどその時間も3年しか、たったの3年しか続かなかった」

「ムックはね、病気で死んじゃったんだ」

「あの時は散々泣いたなァ」

「何ヶ月も本当に何もする気力が無かった……」

「思い出すと今でも胸が苦しくなるよ……」

22 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:01:15.35 WbEX9Ek30 17/88


「でもね、悲しかったことより今は楽しかったことを思い出すように――」

「……」チョコン

「あれ、もう食べ終わってた?」

「……」

「ごめんね。話が長かったね」

「聞いてくれてありがとう」

「……」

23 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:04:52.37 WbEX9Ek30 18/88

(何かまた色々喋ってたようだけど)

(俺、アンタが何言ってるのかわからんのよ)

(ただ、飯はうまかった)

『ごちそうさま』
 「ニャアー」

「“ごちそうさま”って言ってるのかな?」クスッ

24 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:08:11.13 WbEX9Ek30 19/88

(実はかなり腹ペコだったんだ。助かったよ)

『ありがとさん』
 「ニャーオ」

「今度は“ありがとう”かな?」クスッ

「どういたしまして」

25 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:13:13.37 WbEX9Ek30 20/88

(アンタは良い奴なんだな)

(この一飯のお礼、俺は忘れないぜ)

「あの……かまぼこあげた代わりにさ」ウズウズ

「ちょっと撫でてもいいかな?」ソ~ッ

(おっと。だからって気易く触らせはしないぜ)ヒョイ

「あっ。避けられた……」

26 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:17:23.82 WbEX9Ek30 21/88

――ポツリ、ポツリ。

「ようやく雨が止みそうだね」

(雨そろそろ止むか)

(しかし、腹が膨れて今は動きたくねぇ)

「……あのさ」

「またキミに会いに来ても……いいかな?」

「……」

27 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:23:47.16 WbEX9Ek30 22/88

「またご飯持って来るから」

「触れなくてもいいから」

「また来てもいいかな?」

「……」

「……なんて。キミからすれば、私なんて興味無いよね」

「それじゃ、バイバイ」スタスタ

28 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:29:10.72 WbEX9Ek30 23/88

(ん? アンタ帰るのか?)

『気を付けて帰れよ』
 「ニャー」

「!?」

『図々しくて悪いが、次もまた何かくれると助かる』
 「ニャー、ニャー」

「……うん。ありがとう、また来るよ」

「またね。“ムック”」バイバイ

30 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:35:01.41 WbEX9Ek30 24/88

(……そしてまた一人か)

(人との交流は久しぶりだな)

(むしろ飼い主以来か?)

(そういえば、俺の飼い主はどんな人だったけか)

(……全然思い出せん)

(そりゃそうだ。俺もまだ子猫だったしな)

(唯一覚えているのは、最後の雨の日だけか……)

31 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:40:34.09 WbEX9Ek30 25/88

▼後日……

「ムック」

『おぉ。アンタか』
 「ニャー」

「ようやく覚えてくれたみたいだね」

『アンタの顔覚えたぜ。相変わらず何言ってるかはわからないがな』
 「ニャァー。ニャー」

「そろそろ触らせてくれるかな……」ソ~ッ

(だが、まだ触れさす程俺は甘くない)ヒョイ

「うぅ~。イジワルだね、キミは……」

34 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:44:58.81 WbEX9Ek30 26/88

「……」パクッ モグモグ

「ホント、ムックは小柄なのに良く食べるよね」

「野良なのに毛並みも悪くないし」

「元々どこかの飼い猫だったのかな」

「……それでも、こうして生きているキミはたくましいね」

「……」モグモグ

35 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:50:19.62 WbEX9Ek30 27/88

『ごちそうさま』
 「ニャー」

「ムックは食べ終わると必ず鳴くんだね。お礼なの?」

『今日の飯は美味であった』
 「ニャー」

「ふふっ。どういたしまして」クスッ

「それじゃ、また来るね。ムック」

『気をつけて帰れよ』
 「ンニャー」

「またね」バイバイ

36 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 00:54:25.36 WbEX9Ek30 28/88

(まさか、あの日から毎日来るとはな)

(ずいぶん酔狂な人間もいたもんだ)

(いや、大変ありがたい。大いに助かる)

(しかし、狩りの仕方を忘れてしまいそうだ)

(たまには自分で餌を取りに行かねばな)

38 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:00:37.02 WbEX9Ek30 29/88

(人間と触れ合うのがこうも幸せなことだとは)

(全く思いもよらなかった)

(こんな感じ初めてだ……)

39 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:05:42.91 WbEX9Ek30 30/88

(おそらく俺はアイツに名前を付けられている)

(よくわからないが“ 、 、 ”と呼ばれているのはわかる)

(名前か。俺の元の名前は何だったんだろう)

(あの時。首輪を外される時、何か言われてたけど)

(アレは名前を呼んでたんじゃない)

(アレはおそらく……懺悔だ)

40 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:09:20.91 WbEX9Ek30 31/88

(そして、あの日から俺は一人になった……)

(いや、俺はもう一人じゃない)

(今はあの、酔狂なアイツがいてくれるんだ)

(……)

(まぁ。そろそろ触れさせてやってもいいかな)

(やれやれ。俺も甘くなったもんだ)

42 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:12:34.11 WbEX9Ek30 32/88

▼翌日

――ザァァァ。

(今日は一日中雨か)

(どうにも雨は好きになれない)

(身体が濡れるのが嫌なのもあるが)

(やはりあの日のトラウマが大部分か)

43 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:15:18.39 WbEX9Ek30 33/88

――ザァァァ。

(……)

(……)

(……)

(……)

(……アイツ、遅いな)

「……」

44 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:19:59.47 WbEX9Ek30 34/88

▼翌日

――ザァァァ。

(……今日もまた一日中雨か)

(結局アイツ来なかったな)

(まぁそういう日もあるだろう)

(この雨だ。ここへ来るのも一苦労だろうしな)

(……決して、寂しいわけではない)

45 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:25:24.70 WbEX9Ek30 35/88

▼翌日

――ポツリ、ポツリ。

(……)

(三日続けて、今日もまた来る気配は無い)

(良い奴だと思ったんだが)

(やはり気まぐれだったのか……)

(まぁ慣れたもんだろ。捨てられるのは)

(捨てられるのは……)

48 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:37:40.59 WbEX9Ek30 36/88

(わかってたハズだ)

(人間ってのは所詮そんなもんだってこと)

(都合が悪くなれば簡単に捨てることも)

(……所詮俺は野良猫だ)

(元から頼るものは何もない。何も頼らない)

(そうだよ。そうなんだよ……)

50 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:40:25.89 WbEX9Ek30 37/88

――ザァァァ。

「ムックー!」

「ねぇ!ムックー!」

「……」

「よかった、そこにいたんだ」

「……」

「ゴメンね、何日も来れなくて。今日も御飯持ってきたよ」

51 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:43:19.51 WbEX9Ek30 38/88

「……」

「?」

「……」

「ほっ、ほらコレ」

「今日は奮発してみたんだ。猫缶だぞ」パカッ

「……」

「どうしたの?具合悪いの?」

「……」

53 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:45:20.22 WbEX9Ek30 39/88

(腹減った。あんなご馳走見たことない)

(見せびらかしやがって)

(俺はもうアンタの物には手を出さない)

(俺はもう誰も頼らない)

(決めたんだ、俺は)

55 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:49:07.99 WbEX9Ek30 40/88

(結局の所、アンタも俺を捨てたアイツと同じだよ)

(気まぐれで相手して、飽きたら捨てる)

(自分の都合が悪くなると俺を忘れて)

(自分の都合の良いように俺を忘れていくんだ)

58 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:52:41.00 WbEX9Ek30 41/88

(今までアンタに甘んじていた俺にも非はある)

(アンタを責めるようなことはしない)

(だからアンタも)

(あの日のように俺を捨てることになるなら)

(あの日のように全て奪うなら)

(もう何も与えないでくれ……)

61 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:54:54.07 WbEX9Ek30 42/88

「……」スタスタ

「ムック?どこに行くの?」

「……」スタスタ

「ほら、猫缶だぞ?おいしいぞ?」

「……」スタスタ

62 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:57:30.85 WbEX9Ek30 43/88

「もしかして、来なかったから怒ってるの……?」

「……」スタスタ

「ねぇ。ちょっと待って――」スッ

『俺に触るなっ!』
 「シャーッ!」

「!?」ビクッ

「……」スタスタ

「……ムック」

63 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 01:59:53.86 WbEX9Ek30 44/88

――ザァァァ。

(しかしまぁ、ずいぶんと降るもんだ)

(空ってのはどれだけ水を溜めこんでるんだ?)

(そもそも何で雨が降るんだ?)

(空は泣くのか?これは涙か?)

(……あぁ。肌に当たる雨粒が痛いな)

(今までで一番痛い。あの時よりも……)

65 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:03:25.06 WbEX9Ek30 45/88

――ザァァァ。

(俺は野良猫、元から一人だ)

(元に戻っただけ。それ以上でもそれ以下でもない)

(慈愛のフリでを差し伸べられるエゴならいらない)

(甘んじて期待させられるから裏切られたよう思うんだ)

(だから俺はアイツとの関わりを絶つ)

(それでいいんだ)

68 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:07:05.51 WbEX9Ek30 46/88

(けど、俺はわかってる……)

(本当はわかってるんだよ)

(一人になるのが悲しいんだよ!寂しいんだよ!)

(本当は、俺は……)

(俺は!一人になんてなりたくなかった!)

(何でだよ!何で捨てるんだよ!)

(何でこうなるんだよ……)

70 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:11:23.62 WbEX9Ek30 47/88

(いくら嘆いても、誰にも届きやしない)

(届いた所でどうせまた捨てられる)

(だからこそ俺は)

(独りにならなくちゃいけないんだ)

(独りで生きていかなくちゃいけないんだ)

71 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:13:46.24 WbEX9Ek30 48/88

――ザァァァ。

(一向に止みそうにないな)

(……)

(アイツは帰っただろうか)

(帰っただろうな……)

「……」

73 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:16:37.63 WbEX9Ek30 49/88

(思えば、アイツも驚いただろうに)

(数日振りに会ったと思ったら)

(俺の態度が豹変しているんだからな)

(理解できないって顔してたよな)

(あっちからすれば裏切ったのは、俺か……?)

(いや、でも……)

「…………」

75 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:20:53.31 WbEX9Ek30 50/88

(アイツは俺を捨てた奴と同じ)

(……本当に同じなのか?)

(あの雨の日、あの人は帰って来なかった)

(いくら呼んでも、助けを求めても)

(あの人は振り向きすらしなかった)

(でもアイツは……)

「………………」

(……少しだけ、様子を見に行くか)

79 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:24:34.40 WbEX9Ek30 51/88

――ザァァァ。

(……)スタスタ

(雨が冷たい。痛い)

(こんな様子じゃ、もうとっくに帰って――!?)

「……」

82 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:27:37.77 WbEX9Ek30 52/88

(まさかいるとは……)

(こんな土砂降りの中ずっと立ってたのか?)

(何故だ?何でだ?何の為に?)

(まさか……もしかして)

(俺が来るのを待ってたのか……?)

84 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:31:19.61 WbEX9Ek30 53/88

猫 スタスタ

「……あっ」

『何してんだ。せめて雨宿りしたらどうだ』
 「ニャー」

「ムック……」

『どうした?アンタ、泣いているのか?』
 「ニャァー。ニャー」

「ムック……ごめんなさい!」

87 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:35:25.75 WbEX9Ek30 54/88

「何日も放ってしまってごめんなさい!」

『おいおい、どうした?どこか痛いのか?寒いのか?』
 「ニャーオ、ニャーォ」

「ムックを捨てた訳じゃないだよ!本当に心配だったんだよ!」

「ずっと心配だったのに、でも来たくても来れなくて」

「なのにムックは待っててくれてたんだよね。本当にごめんね……」

88 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:38:46.60 WbEX9Ek30 55/88

「捨てたって思われて当然だよね」

「嫌われて当然だよね……ごめんね」

「…………」

91 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:44:06.04 WbEX9Ek30 56/88

(……すまない)

(俺には今、アンタが何を言ってるかわからない)

(もし俺の耳がちゃんと聞こえてても)

(きっとその言語は理解出来ないんだろうな)

93 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:47:01.14 WbEX9Ek30 57/88

(でもわかる。アンタの思いはちゃんと通じてるよ)

(その顔見りゃ大体わかるけど)

(でもそれだけじゃない)

(きっと、俺とアンタは今、同じ気持ちだろうからさ)

『すまん。悪かった』
 「ニャァ」スリスリ

「!?」

95 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:49:26.13 WbEX9Ek30 58/88

『勝手に怒って、捨てられたと決めつけてゴメン』
 「ニャー、ニャー」スリスリ

「ムック……」ナデナデ

「ゴロゴロ」

「許してくれるの……?」

『許して欲しい』
 「ニャァ」

「ムック、ありがとう……」ナデナデ

「ゴロゴロ」

96 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:52:09.88 WbEX9Ek30 59/88

『泣きやんだか?』
 「ニャー」スリスリ

「ごめんね。本当にごめん」

(まだ泣いてるのかよ)

(なぁ。いつもみたいに笑えよ)

(笑えるまで傍にいてやるからさ)

『ニャー』

98 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:55:09.13 WbEX9Ek30 60/88

(アンタは裏切らない。あの人とは違う)

(今はもう心からそう思ってる)

(いつでも来いよ。俺はここにいるから)

『俺はここで、アンタが来るのをずっと待ってるよ』
 「ニャー、ニャー」スリスリ

「ふふっ」クスッ

99 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 02:58:56.22 WbEX9Ek30 61/88

「私、約束するよ」

「これからずっとここに来るから」

「来れない時もあるかもしれないけど……」

「絶対ムックの所に来るから、待っててね」

「これかもっと仲良しになろうね」ナデナデ

『ニャーオ』

100 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:01:54.84 WbEX9Ek30 62/88

――ポツリ。ポツリ。

(雨、止んだか)

「雨、止んだね。よかったねムック」

(アンタもようやく泣きやんだみたいだな)

(きっと雨が全部洗い流してくれたんだな)

(俺の心の泥も、アンタの涙も)

101 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:05:04.87 WbEX9Ek30 63/88

「……」パクッ モグモグ

「ふふっ」ナデナデ

『ごちそうさまでした』
 「ニャー」

「どういたしまして」

「それじゃ、また明日も来るね」ナデナデ

『ニャー』

103 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:07:58.71 WbEX9Ek30 64/88

(俺、t待つよ。アンタが来るのを)

(これは約束の証だ)ペロペロ

「はは、くすぐったいよ」クスクスッ

「ゴロゴロゴロ」

「ふふっ。またね。ムック」バイバイ

『またな』
 「ニャーォ」

105 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:13:18.62 WbEX9Ek30 65/88

▼翌日

――ポツリ ポツリ

(今朝から降ってた雨もようやくやんだか)

(こんなに気持ちが晴れ晴れとしたのは初めてだ)

(せっかくだ。今日は外に出てみよう)

(この公園を出るのは何年ぶりだろうか)

(この耳じゃ外は出るのは危険だから禁止にしていたけど)

(今の俺なら何でもできる気がする)

106 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:17:01.27 WbEX9Ek30 66/88

(街中でふとアイツに出会えたら)

(アイツはどれくらい驚くだろうか)

(喜んでくれるかな)

(いつもみたいに笑ってくれるかな)

(何だか気持ちが高揚してきた)

(アイツに会ったら、何て話しかけ――)




――キキィッ! ドン!





107 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:19:55.94 WbEX9Ek30 67/88

(………………)

(………………)

(………………)

(………………)

(……今、何が……あったんだ?)

109 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:22:23.71 WbEX9Ek30 68/88

(何かデカイものがぶつかってきて、それで――)

(あぁダメだ……わかんねぇ……)

(起き上がれねぇ……)

(身体が重い……)

111 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:26:03.46 WbEX9Ek30 69/88

「――――!―――――!」

(あぁ……アンタか)

「―――――――!――――!」

(本当に、会える、なんてな)

(予想以上に、驚いて、るけど)

「――!――――!―――!」

(どうした?また、泣いてんのか?)

(アンタ実は、泣き虫、なんだな……)

112 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:29:09.20 WbEX9Ek30 70/88

(どう、した?また、どっか痛いのか?)ペロ…ペロ…

「――!――――!」

(すまん、な。こんな、ことしか、できねぇ)ペロ…ペロ…

「――――!――!――!」

(悪い……ちょっと……眠く、なって……きた)

「――!――!――――――!」

113 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:31:22.36 WbEX9Ek30 71/88

(大……丈夫。寝る……だけ……だよ)

(明日も……ちゃんと、待って、から)

(俺、ここ、いる……から)

(ずっと、傍……いる、か、ら)

(アンタ、の傍、に……さ)

115 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:33:52.67 WbEX9Ek30 72/88

(あぁ……今朝まで、雨……降って、のに)

(空が、綺、麗――――――――

――――――

――――

――



-






116 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:37:17.11 WbEX9Ek30 73/88

「ムック……嘘でしょ……」

「ヤダよ!ダメだよ!起きてよ!」

「約束したんだよ!これからずっと来るって!」

「これからもっと仲良くなろうって約束したじゃない!」

「死なないで!お願いだよ、ムック!」

「目を開けて、ムック!お願い!ムック!」

「ムックーーーー!」

119 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:41:56.19 WbEX9Ek30 74/88

ムックへ

今日もまた出会った時のような雨が降っています。
そっちの天気はどう?やっぱり雨なのかな。

実を言うとね、キミがあの公園で雨宿りをしているのを見て、私も雨宿りしたんだ。
降りしきる雨を見つめる眼差しが、昔のムックにそっくりで、それで……。
雨を見つめるキミはとても悲しげだった。
昔、悲しい事があったのかな……。

121 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:45:24.60 WbEX9Ek30 75/88

それからは毎日会いに行ったよね。
私ね、キミのその眼差しにある悲しさを吹き飛ばしてあげたかったんだ。
だけど、キミはどう思ってたのかな。少しでも和らげられたかな。

ムックと出会えて本当によかった。楽しかった。
嫌われたと思った時はとても悲しかったけど、それでも最後は許してもらえて、すごく嬉しかった。

122 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:48:50.89 WbEX9Ek30 76/88

最後に。
キミのお墓に花を一輪植えたんだ。
キミによく似た小さな真っ白い花を一輪だけ。

どこか悲しげだけど、楽しそうに風に揺れているよ。
いつまでも、いつまでも。





125 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:51:37.05 WbEX9Ek30 77/88


-

――
――――

(………………)

(ここは一体何なんだ)

(晴れるでもなく、雨も降らない)

(その上、周りには門が1つあるだけで他には何も無い)

126 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:54:10.96 WbEX9Ek30 78/88

(どうやら、ここに来た者は門をくぐって)

(その先へと行かなきゃいけないならないらしい)

(誘導員が人から動物まで全てを門へ促しているが)

(俺は「人を待たなくてはならない」と拒んだ)

(そしたら、誘導員は笑顔で了承してくれた)

(俺はそれからずっと待っている)

(ずっと一人で……)

127 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 03:57:15.03 WbEX9Ek30 79/88

(はぁ。今日も退屈だな)

(ここまで退屈だと、逆に雨を見たくなるから不思議だ)

(まぁ雨を避けるイメトレが俺の唯一の趣味だったからな)

(でも、その趣味も実践もここでは不可能)

(結局、雨避けは試さず終いになっちまったな)

128 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:00:14.78 WbEX9Ek30 80/88

(あとどれくらい待てばいいんだろう……)

(そもそも、また会えるのかな……)

(アイツもここに来るのかな……)

(まさかもうアイツとは……)

130 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:03:48.26 WbEX9Ek30 81/88

(いや……でも俺は約束したんだ)

(アイツが来るのをずっと待つって)

(アイツの傍にずっといてやるって)

(アイツが笑えるように傍にいてやるって!)

131 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:06:09.18 WbEX9Ek30 82/88

(だから俺はどれだけかかろうとここで待つんだ!)

(アイツが来るまで)

――――!

(あと何十年、何百年かかろうと!)

――ック!

(俺は……ずっと……!)



?「ムック!」


 
「!?」ピクッ

132 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:08:12.46 WbEX9Ek30 83/88

「待たせてゴメンね」ニコッ

133 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:10:57.05 WbEX9Ek30 84/88

(…………)

(…………散々待たせやがって)

『来るのが遅ぇよ……』
 「ニャー」

『俺、どんだけ待ったと思ってんだよ……』
 「ニャー、ニャー」

『こんな何にもない場所で、俺は!』
 「ニャーォ!」

『アンタを!アンタをずっと待ってたんだぞ!』
 「ニャーォ! ニャーォ!」

134 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:13:03.54 WbEX9Ek30 85/88

「本当にゴメンね」ナデナデ

「でも約束したでしょ」

「ずっと一緒にいようって」

「ずいぶん待たせちゃったけど、もう大丈夫」

「これからはずっと一緒だよ」ニコッ

136 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:16:15.52 WbEX9Ek30 86/88

(相変わらずアンタは何て言ってるかわからねぇな)

(でも、わかってるよ)

(アンタの言いたいことはちゃんと伝わってるぜ)

(これからはずっと一緒だってこと)

(もう待たなくていいんだってこと)

(俺はもう、一人じゃないんだってこと)


『ニャーォ!』スリスリ

「ふふっ」ナデナデ


―― fin.

139 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:21:44.53 WbEX9Ek30 87/88

以上です。
昨晩の遅くから今朝方にかけてまで、
ご支援くださった方・読んでくださってた方、
本当にありがとうございます。
お疲れ様です。

とりあえず黙々と打ち込んでいたので、
途中で出た質問に答えようと思います。

140 : 1 ◆Ly8skjOOFQ [] - 2012/07/14 04:28:00.18 WbEX9Ek30 88/88

>>33 これって仕事しろとか書いていた人?
⇒SSを投稿するのは初めてですので、
 残念ながら違う方です。

>>37 ムックは猫種はなんだろう
⇒特に決めてませんでしたので、
 読む方のイメージにお任せします。

記事をツイートする 記事をはてブする