―道中、揺れる馬車にて―
男ハンター1「魚竜のキモ、30個納品だとさ。」
男ハンター2「30個とはまたずいぶんな数だな。」
男ハンター3「大方、また王国で宴でも催されるんでしょう。」
男ハンター2「それにしても、またガレオス狩りか…。オレ達だってクック狩る力ぐらいはあるのにな。クエストさえ回してくれりゃ…」
男ハンター3「寒冷期はクックの数も減りますからね。依頼が来てもクエストは王立書士の新人育成か、金持ちの道楽ハンター達に回されるのでしょう。」
男ハンター2「ちっ。まったく、末端の雇われハンターはつれぇや。いつまでたってもハンターランクもあがりゃしねぇ。」
元スレ
女ハンター「…で、今回のクエストは何だっけ?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1334671622/
男ハンター1「何を言っても仕方ないさ。もうじき繁殖期だ。そうなればクック討伐の依頼も山のようにやってくるさ。」
男ハンター2「そりゃ、わかってるけどよ…。あぁ~あ。どうせならこないだのでっけぇガレオス出てこねぇかなぁ。」
女ハンター「あの黒っぽいやつ?あれはデカかったね。」
男ハンター3「確かにあの見事な背びれは綺麗に剥ぎ取れさえすれば、武器にも防具にも加工出来そうですね。」
男ハンター1「キモも高く売れそうだしな。」
男ハンター2「いや、確かにそうなんだけどよ…。そういうことじゃねえんだよ。」
他三名 ―?
男ハンター2「何ていうかさぁ…、デカいモンスターと対峙した時ってこう、ワクワクしねぇか?血沸き肉躍るっていうか…。」
男ハンター3「はぁ…。」
男ハンター2「王立書士の上位ハンターとかはよ、20メートル近い飛竜をたった一人で倒しちまったりするらしいぜ!?すげえよなぁ…。どうなってんだって感じだよ。」
女ハンター「男ハンター2は王立書士隊に入りたいの?」
男ハンター2「…そうだなぁ。行く行くは…。あっ、でも別に金や名声が欲しいわけじゃないぜ?オレはさ、王立書士として未開の地に行って、そこで見たこともないようなモンスターと戦ってみたいんだ。」
男ハンター1「ふふっ。」
男ハンター2「なんだよ…、おかしいか?」
男ハンター1「いや…、お前は根っからのハンターだと思ってさ。」
―デデ砂漠付近・馬車客車内―
男ハンター2「だいぶ暑くなってきたなぁ…。そろそろ砂漠か?」
女ハンター「男ハンター2はとくに暑そうだもんね、ハイメタ装備。」
男ハンター2「女ハンターのボーン装備は涼しそうでいいなぁ。特にこの太もものあたりが…」サスッ
―ザクッ
男ハンター2「!?いってぇえ!!な…ナイフはやめろよ!」
女ハンター「今度触ったら、あんたのハイメタ剥ぎ取ってあげる。」
男ハンター2「ほう…?そのちっぽけなナイフがこの鉄壁に通るか、試してみるか?」
女ハンター「………」チャキッ
男ハンター2「バッ…!!は…、ハイドラバイトはやめろよ!!」
女ハンター「…鉄壁なんでしょ?」
男ハンター2「いや…そうだけど…、毒!毒が…!!」
男ハンター3「何やってるんですか…。そろそろ着きますよ。」
注意:このSSには暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
―デデ砂漠・岩山の野営地―
男ハンター2「よっしゃ、準備OK!タープは張ったか?」
男ハンター1「あぁ、OKだ!狩りの準備は?」
女ハンター「大丈夫。ばっちりよ。」
男ハンター3「迎えが来るのは4日後です。移動の時間を考えたら、狩りの猶予は3日間ですね。」
男ハンター2「3日でキモ30個か。楽勝楽勝。」
男ハンター1「よし、行こうか!」
―南西の大砂原―
女ハンターが音爆弾を放った。
キイィィィィィィィイ
女ハンター「出た!3匹!」
男ハンター2のブレイズブレイドが、砂中から飛び出たガレオスの首を両断した。
男ハンター1のボーンハンマー改が、一匹のガレオスの背骨を砕いた。
男ハンター3のクロスボウガン改から放たれた弾丸は、地表でのたうつガレオスの頭部を貫いた。
男ハンター2「…ダメだ。小さ過ぎる…。そっちはどうだ?」
男ハンター1「ダメだ。こいつも小さい。」
男ハンター3「こっちもダメです…。」
仕留めた3匹のガレオスはどれも痩せており、そのキモはとても食用にできるほどの大きさには達していなかった。
男ハンター2「3時間でまともなキモは4つか…。どうなってんだ。どいつもこいつもガリガリに痩せてやがる。」
女ハンター「ガレオスの数も少ないよ。いつもなら、次から次へと出てくるのに…。」
男ハンター3「寒冷期はエサも豊富で、ガレオスの数は増えるはずなのですが…。」
男ハンター1「…少し場所を変えてみようか。」
―夜、岩山の野営地―
男ハンター3「結局、1日中粘って7つでしたね。」
男ハンター1「いつもの半分以下…か。」
男ハンター2「このままじゃ間に合わないぜ…。どうするよ?」
男ハンター3「今日は何か条件が悪かったのかも…。明日にはいつも通りたくさん出てくるかもしれませんよ。」
男ハンター2「…もし明日も今日と同じようだったら、もう間に合わないぜ?オレは場所を変えるべきだと思う。奥地に進めば、ガレオスの新しい群生地が見つかるかもしれない。」
男ハンター3「しかし、場所を変えてもガレオスが増えるという保証はありませんよ?移動しても徒労に終わるかも…。」
男ハンター2「それはここに留まっていても同じだろ?ガレオスが増える保証はない。」
男ハンター3「…ですが、ここは砂漠です。下手に動き回って水場から離れてしまったら、クエストどころか全員が命を落とすことになりますよ。」
男ハンター1「…。」
男ハンター1「オレは…、この砂漠で何か変化が起きていると思う。いくらなんでもあのガレオスの数、痩せ具合は異常だ。」
男ハンター3「それは確かに…。」
男ハンター1「オレ達は雇われハンターだ。王国直下の書士隊じゃない。だけどどんなハンターでも、その本分は生態系の調査だ。やみくもに獲物を狩っていたら、生態系を狂わせてしまう。もしこの砂漠で何か異常な変化が起きているなら、オレ達はそれを調査して、報告する義務があると思う。」
男ハンター2「…。」
男ハンター1「その原因を確かめるためならば、男ハンター2の言うとおり、奥地に入っていくことも必要だと思う。」
男ハンター3「そうですね…。確かにここでやみくもにガレオスを狩り続けるのはまずいかもしれません…。」
男ハンター1「この先のオアシスから半日歩いてみよう。もし水場が見つけられなければ、半日かけて戻ってくればいい。それなら水の事も心配ないだろう。」
―翌日、北東の砂漠奥地―
男ハンター1「ガレオスだ!男ハンター3!」
男ハンター3の放った徹甲榴弾がガレオスの眼前で炸裂音を立てる。
次いで男ハンター3は睡眠弾を装填し、飛び出てきたガレオスに放った。
女ハンター「やるう♪」
男ハンター2「流石だな、男ハンター3!」
男ハンター1「やはり、このガレオスも痩せてるな…。」
男ハンター3「エサが不足しているのでしょうか!?」
女ハンター「!?」
男ハンター2「どうした、女ハンター?」
女ハンター「あれ…、何かしら…?」
女ハンターが指差した先、砂原の一端が薄緑に光っていた。
男ハンター1「これは…。」
男ハンター3「サボテンの残骸…ですね。」
女ハンター「根元から千切られているわね。」
男ハンター3「この辺一帯、サボテンの群生地だったのでしょうが…、跡形もありませんね…。」
男ハンター2「おい!こっち!こっち見ろよ!」
サボテンの根元、固くなった地面の上に、四本指の巨大な足跡が残されていた。
端から端まで2メートル近くありそうだ。
男ハンター3「こ…、これは…。」
女ハンター「これって………竜?」
男ハンター1「………。」
―夜、砂漠奥地の水場付近―
女ハンター「オアシスが見つかって良かったね。」
男ハンター1「ああ。戻るにしても遅くなり過ぎたしな。おい、男ハンター2!飯出来たぞ!この暗さじゃもう双眼鏡も役に立たないって。」
男ハンター2「ああ、もう少し……。今なんか動いた気がした。」
男ハンター1「ったく…。」
女ハンター「よっぽど竜に会いたいんだね(笑)。」
男ハンター1「いっつも、デカいのとやりたいってボヤいてるしな。」
男ハンター3「まぁ、彼の実力ではクック程度では役不足ですからね。フラストレーションが溜まっているのでしょう。」
男ハンター1「もう少し金があれば、難しいクエストも受けられるんだがなぁ…。」
女ハンター「この調査がうまくいけば、特別報酬が出るんじゃない?」
男ハンター3「あの足跡の正体は何なんでしょうね?デデ砂漠に竜なんて…聞いたことありませんでしたが。」
男ハンター1「…ココットの英雄譚。」
男ハンター3「砂漠の一角竜の話ですか。」
女ハンター「何それ?」
男ハンター1「昔ココットを訪れた時に聞いたんだ。ココットの村長がかつてハンターだった時に、近くの砂漠地帯に一角竜が現れた。村の安全を脅かすその角竜を、村長はたった一人で討伐した。伝説のように語り継がれているけど、その角竜自体は実際にモノブロスとして正式に登録されている。」
男ハンター3「しかしモノブロスは限られた地域でしか確認されていませんよ。」
男ハンター1「まぁ、そうだな…。」
男ハンター2「なんだっていいさ。」
男ハンター1「男ハンター2…。」
男ハンター2「モンスターなら狩る!それがハンターだろ?」
男ハンター1「ダメだ!依頼も受けていないモンスターを勝手に…」
男ハンター2「でもよ、もし未発見の新種モンスターだったりしたら、鱗一枚持って帰るだけで莫大な報酬が手に入るぜ?いろんなクエストが受けられるようになるし、暮らしも楽になる。」
男ハンター1「だ…だけど、今回は時間がない…。明日には引き返し始めないと、迎えに間に合わなくなる…。」
男ハンター2「まぁ、そうだけどよ…。こんな新種モンスターを発見する機会なんて滅多にないぜ?もったいねぇなぁ…。」
男ハンター1「………。」
―深夜、水場付近―
焚き火の前で見張りをしながら物思いにふける男ハンター1。
女ハンター「男ハンター1…。」
男ハンター1「女ハンター!?何してるんだ?もう今夜の見張り番は終わっただろ?」
女ハンター「うん、なんか目が覚めちゃって…。」
男ハンター1の横に腰を下ろす女ハンター。
男ハンター1「だからってそんな恰好で…。とにかくこれでも被って。」ファサッ
女ハンター「でもこれじゃ、男ハンター1が寒いよ?」
男ハンター1「オレは大丈夫……ックション!」
女ハンター「ほら(笑)。風邪ひいちゃうよ。じゃあ、一緒に入ろ?」ピト
地平線の果てまで、空を覆い尽くす無数の星々。
女ハンター「すごい星…。」
男ハンター1「あ、ああ…。」
女ハンター「いつもの野営地だとこんなに見えないのにね。」
男ハンター1「あ、ああ…。」
女ハンター「…男ハンター1はさ。将来、どうするの?」
男ハンター1「…しょ、将来?」
女ハンター「このままハンターランクを上げて、男ハンター2みたいに王立書士隊を目指すの? それとも…、いつかは…結婚したり…子供作ったりして、普通ののんびりした暮らしに落ち着きたいとか思う?」
男ハンター1「ど…、どうかな?お、女ハンターはどうなんだ?」
女ハンター「私は…、私はずっとハンター続けるのは大変かなと思う…。でも…、私なんて…筋肉質だし、傷だらけだし…、女の魅力全然無いから、誰もお嫁さんになんか…。」
男ハンター1「そんなことない!」
女ハンター「!?」
男ハンター1「そんなことない…よ…。お…女ハンターは…み、魅力的…だとおも…魅力的…だよ…。」
女ハンター「あ、ありがとう…///」
男ハンター1「…オレさ。メルチッタの友人に、村の専属ハンターにならないかって…誘われてるんだ。」
女ハンター「え?メルチッタの専属…に?……受けるの?」
男ハンター1「村の専属ハンターになれば、今より収入も安定するし、こんな風にクエストの度に遠征しなくても済むようになると思うんだ…。」
女ハンター「そ…そっか…そうだよね。うん、そ、そっちの方がいいよ…。いいよ…ね?」
男ハンター1「…だ、…だから、もし、もしも、女ハンターが…嫌じゃなかったら…その…オレと一緒に…メルチッタに行かない…か?」
女ハンター「え?」
男ハンター1「まだ出来たばっかの村だから、いろいろ不便は多いと思うけど…」
女ハンター「…私達が二人とも抜けたら、このパーティーは二人になっちゃうね…。」
男ハンター1「あ…、そ…そうだよな…。やっぱ、二人いっぺんに抜けるなんて…。」
女ハンター「だから、だから帰ったらちゃんと二人に話さないと…。ね?」
男ハンター1「お、女ハンター…。」
夜の砂漠には虫の声さえも響かない。
澄み切った静寂が二人を包み込んでいた。
―翌早朝、水場付近―
男ハンター1「おい、男ハンター2!タープ畳むの手伝えよ!」
男ハンター2「………。」
男ハンター3「双眼鏡覗いたきり動きませんね。」
男ハンター1「おい、男ハンター2!」
男ハンター2「………。」
女ハンター「男ハンター2、どうしたの?」
男ハンター2「…女ハンター、これ…見てみろよ…。」
女ハンター「ん?何かあった?…岩山?」
男ハンター2「もうちょっと左…。」
女ハンター「え?岩山しか見えない……え?」
男ハンター2「男ハンター1!男ハンター3!お前らも来てくれ!」
男ハンター1「なんだよ?もう出るぞ!」
女ハンター「男ハンター1…ちょっと、これ見てみて…。」
双眼鏡を覗き、女ハンターが指す方向を見やる。
しかし、そこには連なった岩山の一端があるばかりだった。
男ハンター1「なんだよ、何も…」
言いかけた時、岩山の一部がゆらりと揺れた。
陽炎か、落石かと思いを巡らせたが、ほどなくして結論に至った。
竜だ。
それは砂原に溶け込む薄褐色の、小山ほどもある巨大な竜だった。
そいつが岩山に体を擦りつけているのだ。
男ハンター2「あそこに1つ巨石がある。あそこならやつの死角になるぞ。もう少し近づいてみよう。」
―砂漠奥地・巨竜の背後200メートルほどにある巨石の影―
巨竜は体長およそ20メートル。
二本の後肢で立ち、前肢には皮膜が張られ翼になっている。
特徴的なのはその頭。
後頭部には首を覆うように広がった襟巻があり、両眼の上からは大きく湾曲した二本の角が突き出している。
男ハンター1「…角竜だな。しかし…」
男ハンター3「ええ。モノブロスではない。角が二本あります。こいつは…新種でしょうか…。」
男ハンター1「…何をしているんだろう。」
相変わらず、角竜は右肩を岩山にこすり付けている。
女ハンター「痒いのかな?」
男ハンター3「…。いや、縄張りを広げているのではないでしょうか?」
男ハンター1「縄張りを?………!?もしかして、ガレオスはそれで!」
男ハンター3「あり得ますね。この角竜が縄張りを広げたために、このあたりのガレオスが追い払われてしまった…。」
男ハンター1「すごいぞ!大発見だ!新種の角竜を発見したんだ。」
男ハンター2「………。」
男ハンター3「さっそく戻って、ギルドに報告しましょう!」
男ハンター1「そうだな。行こう。」
男ハンター2「待てよ…。」
男ハンター1「?」
男ハンター2「オレ達がギルドに報告したらどうなる?」
男ハンター3「王立書士の調査隊が編成され、角竜の調査に繰り出されるでしょう。」
男ハンター2「そうだろう。そして発見報酬、調査報酬はそいつらに支払われ、生態図鑑に名前が載るのはそいつらだ。オレ達には安い報告報酬が支払われるくらいだ。」
男ハンター1「…何が言いたい。」
男ハンター2「討伐は無理でも、爪の先っちょ、鱗の一枚でも持って帰りゃあ、莫大な資金になる! いろんなクエストに行けるし!武器だって強化できる!もうちまちまガレオスばかりを狩らずに済むんだ!」
男ハンター1「男ハンター2…。」
男ハンター2「行かせてくれ…。今ならこっちは風下だ。あの岩山の凹凸を利用すれば、気づかれずに背後に回れる。」
男ハンター1「…わかった。オレも行こう。」
―岩山の凹凸の影、角竜の背後50メートル―
男ハンター2「よし、この辺りでいいだろう。じゃあ、オレが奴の尻尾の先を切り落として、やつの注意を引き付けるから、男ハンター1はその隙に尻尾から鱗や甲殻を剥ぎ取ってくれ。」
男ハンター1「ああ、わかった。無理だけはするなよ。」
男ハンター2「わかってるさ。」
男ハンター1 ―確かに新種のモンスターの一部を持ち帰れば、王立書士に破格で買い取ってもらえるだろう。
その金があれば、メルチッタに移っても生活に困らない。
女ハンターに危険な仕事をさせずに済む…。
―角竜の背後200メートルほどにある巨石の影―
女ハンター「男ハンター1達、大丈夫かな…。」
男ハンター3「大丈夫でしょう。男ハンター2の力は上位ハンター並みだし、男ハンター1もついてる。彼はいつも冷静だから、男ハンター2が無茶するようなら止めてくれるはずです。」
男ハンター3はクロスボウガンに麻痺弾を装填し、双眼鏡で角竜と男ハンター1達の様子を伺っている。
男ハンター3「お、男ハンター2が動きました。二手に分かれる作戦のようですね。女ハンター、閃光玉の準備はいいですか?」
女ハンター「うん、いつでも投げられるよ。」
―角竜の背後―
男ハンター2 ―あと20メートル…。あと15メートル…。
角竜に近づくにつれ、改めてその巨大さに驚かされる
長く伸びた尻尾の先は二股に分かれたハンマーのような瘤がついており、角竜が岩山に体を擦り付ける度、大きく上下に揺れている。
男ハンター2 ―あと3メートル…。
男ハンター2はブレイズブレイドの拘束を外し、その柄に手をかけた。
男ハンター2 ―あと1メートル…。
角竜の体高は5メートルはあるだろうか。
尻尾の先端はまだ男ハンター2の遥か上空だ。
男ハンター2 ―さあ、ゆっくりその尻尾を下ろしやがれ。そん時がお前と尻尾のお別れの時だ。
男ハンター2は両手で大剣の柄を握りしめ、振りかぶるように担ぎ上げた。
―角竜の背後50メートル―
男ハンター1 ―くそ…。デカすぎる…。あれじゃあ、男ハンター2の大剣でも届かないぞ…。…なんだ?男ハンター2のやつ、大剣を構えたぞ?あのまま尻尾が下がるのを待つつもりか…。
―角竜の背後200メートル―
女ハンター「様子はどう?」
男ハンター3「男ハンター2が角竜の後で大剣を構えました。しかし…。」
女ハンター「…何?」
男ハンター3「角竜がデカ過ぎて…。あれでは大剣も届きませんよ…。」
女ハンター「そんな…。」
男ハンター3「男ハンター2は動きません。…なにを考えているのか。」
―角竜の背後―
男ハンター2 ―くそっ…。下りてこないか…。こんなでかいやつ、王立書士の連中はどうやって狩ってるんだ…。
その時、唐突に尻尾の上下運動が止まった。
角竜が岩山に体を擦り付けるのを止めたのだ。
そして、その尻尾が徐々に下りてきた。
男ハンター2 ―来た来た来たぁ!待ってたぜ!渾身の一撃を食らわせてやる!
―角竜の背後200メートル―
男ハンター3は双眼鏡で角竜と男ハンター2の様子を見ていた。
角竜が突然、マーキングと思われる擦り付け行動を辞めた。
そしてゆっくりと頭をもたげた。
まるで辺りを探るように…。
男ハンター3「…まずい。」
―角竜の背後50メートル―
男ハンター1 ―来た!尻尾が下がり始めたぞ!いける!
角竜は擦り付けを辞め、頭を持ち上げた。
それに比例して尻尾が下がったのだ。
男ハンター1は今まさに切断されるであろう角竜の尻尾を思い、ほんの一瞬胸が高まった。
その興奮が、男ハンター1が状況の変化に気付くのをわずかに遅らせた。
男ハンター1「風向きが………変わっている……。」
―角竜の背後―
男ハンター2 ―あと少し、もう少し下がれば両断できる。
尻尾はまさに男ハンター2の眼前にまで下がりつつあった。
男ハンター2 ―今だ!!
男ハンター2がその大剣を今まさに振り下ろさんとした時、突然目の前から尻尾が消えた。
そしてその入れ替わりのように目の前に現れたのが、二本の巨大な角だった。
―角竜の背後200メートル―
やはり角竜は男ハンター2に気付いたのだ。
男ハンター3がそう確信した時、角竜が唐突に振り返った。
凶悪な怪物の前に、男ハンター2は晒しだされてしまったのだ。
女ハンター「どうしたの?」
男ハンター3「…気付かれた。」
女ハンター「え!?」
―角竜の前方50メートル―
男ハンター1は閃光玉を握りしめたまま動けずにいた。
男ハンター2は角竜の二本の角に抱かれるほどの距離で、大剣を構えたまま動かない。
閃光玉を投げて角竜が暴れでもしたら、却って危険だ。
―角竜から200メートルの巨岩の陰―
女ハンター「どうなったの?男ハンター2は?男ハンター1は大丈夫?」
角竜は男ハンター2を見据えたまま動かない。
何かを探ろうとしているようだ。
匂いを嗅いでいるのかもしれない。
男ハンター3「僕達が…人間があの角竜を見るのが初めてなのと同じように、あの角竜も人間を見るのは初めてなのかもしれない…。」
女ハンター「…?何を言っているの?どうなったの?」
男ハンター3「戸惑っています…。角竜が…目の前の生き物が何なのか、わからずに戸惑っている…ように見えます。」
―角竜の眼前―
角竜が鼻を鳴らしながら男ハンター2の匂いを嗅いでいる。
その鼻息がかかる度、男ハンター2は分厚い装甲越しに湿った熱い風を感じた。
顔の割に小さな眼からは、何の感情も伝わってこない。
男ハンター2 ―オレのことが知りたいか?ハンターとモンスターがわかりあう方法は…、たった一つしかないぜ…。
男ハンター2はその両腕にありったけの力を込めた。
―角竜の前方50メートル―
男ハンター1 ―何をするつもりだ…、男ハンター2。無茶だ!
………いや、あの距離、あの位置…。
男ハンター2の渾身の一振りが額に当たれば…、あの巨体でも倒せるかもしれない…。
いや、倒せる…。怪物は戸惑っている…。千載一遇のチャンスだ!
―角竜から200メートルの巨岩の陰―
男ハンター3 ―男ハンター2…、やるつもりですか…。確かにその距離なら…。
女ハンター「ねぇ、二人は大丈夫?」
―角竜の眼前―
男ハンター2 ―悪いな。もう諦めたよ。
お前を殺さず、尻尾だけ切って帰るつもりだったが…、お前を殺さないのは諦めた。
―角竜の前方50メートル―
男ハンター1 ―いけっ!!
―角竜から200メートルの巨岩の陰―
双眼鏡越しでも、ハイメタ装備の中で男ハンター2の筋肉が隆起していくのがわかる。
男ハンター3 ―いまだ!!
―角竜の眼前―
男ハンター2「喰らえ!!」
渾身の力を込めた大剣が二本の角の間、巨竜の眉間に振り下ろされた。
衝撃、重撃が男ハンター2の腕を伝う。
―角竜の前方50メートル―
ついに振り下ろされた男ハンター2の大剣。
男ハンター1脳裏に浮かぶのは眉間を割られ倒れる角竜の姿だった。
…しかし、実際にその目に映ったのは、中高く舞う男ハンター2のブレイズブレイドであった。
―角竜の眼前―
男ハンター2は角竜の額を叩き割る感触と、熱い血しぶきを想像していた。
しかし実際には、両腕に痺れた感触が残っただけだった。
動かない手の平の中には自慢の大剣も残っていない。
何が起こったのかわからないまま、男ハンター2は立ち竦んでいた。
―角竜から200メートルの巨岩の陰―
男ハンター3はその一部始終を見ていた。
男ハンター2の大剣は正確に角竜の額に振り下ろされた。
しかし、その切っ先は頑強な角竜の皮膚に阻まれ、そのまま弾き飛ばされてしまった。
角竜は突然の攻撃に驚き、そのまま二、三歩交代するとその巨大な頭を天に向けた。
―角竜の前方50メートル―
角竜は翼を大きく広げ、威嚇の体制をとった。
男ハンター1 ―まずい!
男ハンターは閃光玉を投げようと、岩陰から飛び出した。
すると角竜が咆哮を放った。
デデ砂漠全域に響き渡ろうかという、大きく甲高い叫び声。
体の細胞1つ1つ、砂漠の砂1粒1粒までもがビリビリと振動した。
男ハンター1は思わず両手で耳をふさぎ、閃光玉を足元にこぼした。
―角竜の眼前―
男ハンター2 ―大剣は…、オレのブレイズブレイドはどこだ。なぜ腕が痺れている。
大剣を求め辺りを見回し、振り返ったその時、突然の轟音が男ハンター2を襲った。
―角竜の前方50メートル―
男ハンター1は鋭い内耳の痛みに耐えながら、ようやくその手を離した。
我に返って男ハンター2の方を見やると、角竜がその頭を低く構え、後肢で砂を蹴り上げていた。
―角竜の眼前―
男ハンター2は角竜の猛烈な咆哮をまともに浴びて、聴覚を失っていた。
強固なハイメタヘルムの中、外耳から生ぬるい液体が垂れるのを感じる。
フラつく意識の中で、視界の端にブレイズブレイドを見つけると、そちらに向かってのろのろと歩き出した。
その瞬間、何かが男ハンター2の体にぶつかった。
三半規管までも狂わされた男ハンター2は、成すすべもなく地面に転がった。
男ハンター1「逃げるぞ!男ハンター2!!」
男ハンター1は男ハンター2に突進して、迫りくる角竜からその身を躱させた。
角竜は砂埃とともに、二人のハンターの脇を通過していった。
男ハンター1「行くぞ!立て!」
男ハンター1は男ハンター2を立たせると、女ハンター達の潜む巨石に向かって駆け出した。
男ハンター2は無音に包まれていた。
破れた鼓膜は男ハンター1の叫び声も拾わない。
そしてそのまま白濁した意識の中で、角竜の尻尾の下に転がった大剣を拾いに向かった。
男ハンター2が付いてきていないことに気付き、男ハンター1が振り返ると、男ハンター2はすでに大剣のすぐ側に到達していた。
そしてその頭上、右上から、ハンマーのような角竜の尻尾が、今まさに振り下ろされんとしていた。
―角竜の背後―
男ハンター2 ―大剣…。オレの大剣…。
男ハンター2がようやく大剣の傍らに到達した、と同時に頭上から降り注ぐ影。
男ハンター2 ―尻尾!?
男ハンター2は間一髪身をかがめ、それをやり過ごした。
そして同時に転がっていたブレイズブレイドの柄を握りしめた。
長年の相棒の感触が、白濁していた意識をほんの少し明瞭にした。
男ハンター2 ―尻尾…。大剣…。そうだ、オレは角竜と…。尻尾を切り落とさないと!
男ハンター2が立ち上がると同時に、左からすさまじい衝撃がその身を襲った。
それは先ほど躱したはずの尻尾だった。
不吉な音が響いた。
破れた鼓膜が拾った音ではない。
己の体内から響きわたる、重く鈍い、不吉な音だ。
そしてやがて、暗黒の帳が訪れた。
―角竜から200メートルの巨岩の陰―
角竜が咆哮をあげ、女ハンター達が潜む巨岩がビリビリと震えた。
女ハンター「何!?どうしたの?男ハンター1達は!?ねえ!どうなったの!?」
女ハンターは大声を上げたが、男ハンター3は応えず、双眼鏡から目を離せずにいた。
男ハンター2はただ茫然と立ち竦んでいるように見える。
無理もない。あの爆音を至近距離で喰らったのだ。
角竜は頭を下げ、男ハンター2を貫こうと構えた。
だが間一髪、男ハンター1が男ハンター2を突き飛ばしてそれを躱した。
男ハンター1はまっすぐこちらに走ってくる。
しかし、男ハンター2はフラフラと角竜の方へ向かっていく。
意識が混濁しているのは明らかだ。
そして………すべては一瞬だった。
男ハンター2は宙を舞った。
まるでゴミ屑のように。
その肉体はひしゃげて、不自然に折れ曲がっていた。
空中に、装備の一部だろうか、それとも肉体の…何か光るものが飛散した。
男ハンター3「うわぁぁぁあああああ!!!」
男ハンター3は絶叫を上げると双眼鏡を放り出し、クロスボウガンも置いたまま、走っていってしまった。
女ハンター「どうしたの!?待って!!待ってぇ!!!」
女ハンターが巨岩から顔を覗かせる。
こちらへ向かってくる男ハンター1の姿が見えた。
女ハンター「男ハンター1!!!」
男ハンター1「女ハンター!!逃げろ!!!逃げるんだ!!!」
女ハンターの目に映ったものはそれだけである。
男ハンター1の背後に赤褐色の岩山が広がっているばかりで、そこには先ほどまでいたはずの角竜の姿もなかった。
女ハンターと男ハンター1は100メートルほど前方を行く男ハンター3の後を追うように走った。
女ハンター「どうしたの!?何があったの!?男ハンター2は!?」
男ハンター1「………。」
前方に岩の渓谷が見えてきた。
昨夜キャンプを張った場所だ。
男ハンター3はすでに到達しようとしている、と突然、その渓谷の影から先ほどの角竜が現れた。
角竜は渓谷から巨体を晒すと、角を構えて低く短く吠えた。
いつの間に、どうやって移動したのか、などと考えを巡らす暇もない。
本当の恐怖というものは、人から思考も、悲鳴さえも奪っていくらしい。
3人は一様に踵を返し、角竜に背を向け走った。
男ハンター1「あそこだ!あそこに逃げ込もう!!」
男ハンター1は岩山に開いた洞窟のような隙間を指した。
女ハンターは走りながら、思わず後ろを振り向いた。
角竜が片方の角に刺さった何かを、頭を振るって引き抜こうとしていた。
一体何が刺さっていたのだろうか。
女ハンターは頭を振って、余計なことは考えないようにして前だけを向いて走り続けた。
洞窟はもう50メートルほど先に迫っていた。
逃げ切れる!
そう思って、女ハンターはまた思わず後ろを振り向いた。
そこに角竜の姿はなかった。
再び姿を消したのだ。
その代り、自分たちのすぐ後ろで隆起する地表が見えた。
その砂の山は大量の埃を巻き上げながら自分たちに迫ってきていた。
あっと思った時はもう遅かった。
女ハンターの目に最後に映ったものは、宙を舞う男ハンター1の姿。
そして、地面から突き出た2本の巨大な角だった。
―?―
―ピチャ…ピチャ…
目が覚めるとそこは暗闇だった。
起き上がろうとするも、全身が痺れてうまく動けない。
女ハンターは時間をかけてゆっくりと上半身を起こした。
ここはどこだろうか。
暗くて何も見えない。
どこかで水が滴るような音が聞こえる。
―ピチャ…ピチャ…
不幸中の幸いか、ウェストバッグは壊れずに残っていた。
女ハンターは痺れる指先で、そこからランタンを取り出した。
ランタンに火を灯すと、周囲がぼんやりと照らされた。
どうやら洞窟の中のようだ。
女ハンターが立ち上がろうと足に力を込めると、右足に吐き気を催すほどの激しい痛みを感じ、再びその場にへたり込んだ。
ギュッと目を閉じ、涙をこぼしながら痛みが過ぎ去るのを待つ。
恐る恐る触れてみると、右足の脛から途中が折れ曲がっていた。
女ハンターは這いずりながら、男ハンター1の元へ向かった。
ランタンを近づけ、男ハンター1の全身が顕わになった時、女ハンターは悲鳴を上げた。
女ハンター「きゃあああああああ!!!!」
男ハンター1の周りには無数のゲネポスが群がり、その牙を血で濡らしながら、男ハンター1の肉を貪っていたのだ。
ゲネポスが男ハンター1の腹に頭を突っ込む度、男ハンター1の影が揺れた。
ピチャ…ピチャ…という音は、ゲネポスの口元から聞こえる咀嚼音だった。
女ハンター「いやぁあああああああ!男ハンター1ーーー!!!!」
女ハンターの絶叫が、洞窟中に響き渡っていった。
―ピチャ…ピチャ…ゴリ…
ゲネポスの麻痺毒が回り、ほとんど全身の間隔が無くなった。
もはや痛みも感じない。
腹に頭を突っ込まれる度、気持ちの悪い音が自分の体の中に響き渡る。
女ハンターは、早くその音が止む事だけを祈った。
頬の肉を毟り取られる時、ギクリとする痛みが走ったが、やがてそれも痺れの中に沈んでいった。
QUEST FAILED.....
128 : 以下、名... - 2012/04/18(水) 00:14:57.49 HZkxX8DF0 85/89以上です
支援してくれた人、ありがとー
126 : 以下、名... - 2012/04/18(水) 00:13:26.02 PjSJ9hd+0 86/89全滅かよ…
リアルモンハンはこんな感じか
135 : 以下、名... - 2012/04/18(水) 00:15:48.61 8DuMc2dT0 87/893死したのにクエストリタイア出来ないとか…
137 : 以下、名... - 2012/04/18(水) 00:16:24.95 zbnpsIz40 88/89猫!仕事しろよ
143 : 以下、名... - 2012/04/18(水) 00:18:23.49 HZkxX8DF0 89/89>>135、>>137
その辺に関して、最後カットしちゃったww
貼る前に読み直したらちょっと厨二臭くてwww