梓「ど、どどどどうしたんですかいきなり!?」
いちご「唯がそう呼んでるから。呼んでみたくなっただけ」
梓「(一緒にいるだけでも緊張するのに…そんな親しい呼ばれ方までされるなんて…なんともかんとも)」
いちご「あずにゃーん」
ダキッ
梓「!!!!!!???????い、いきなり抱きつかないでください!」
いちご「ヤダ」
梓「またすぐそうやって…」
いちご「唯はいつもやってる」
梓「(唯先輩に嫉妬してるのかな…?)…はぁ、もう今だけですよ」
いちご「ヤダ」
梓「え?」
いちご「これからも」
梓「…もう」
元スレ
いちご「…あずにゃん」梓「!?」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1286603092/
私と若王子先輩がこう…仲良くなったきっかけは部室が使えなくなって、体育館にお邪魔したあとのことだった
廊下
梓「(あれは…バトン部の…たしか唯先輩たちのクラスメイトで…)」
いちご「…?」
梓「!…あ、あの…」
いちご「なに?」
梓「この前は…お騒がせしました」
いちご「この前…ああ、構わない」
梓「そうですか?なんか練習の邪魔しちゃったみたいで…」
いちご「大丈夫、それより」
梓「はい?」
いちご「…素敵な演奏だった」
梓「あ、ありがとうございます…」
つかみどころのない人、それが先輩の第一印象だった
そのあとも、たまに見かけては、たわいもない話をちょこちょこするようになった。
家が案外近いこと。
先輩がバトンを始めたきっかけ。
軽音部の様子だったり、バトン部のことだったり…
普段あまり話す機会のないキャラの人と話すことは、緊張するけども、なんというか、新鮮で、…楽しかった。
ある日、帰りの電車で若王子先輩と一緒になった。
梓「あ、お疲れ様です」
いちご「…ん」
梓いちご「「…」」
梓「(どうしよう、何を話したらいいか…)」
いちご「…中野さん?」
梓「は、はい?」
いちご「…ちがう」
梓「?」
いちご「…梓ちゃん」
梓「!?」
いちご「私もいちごでいい」
梓「!!??」
それは、初めて抱きつかれたときよりも、初めてあだ名をつけられたときよりも、衝撃的だった。
でも不思議と…若王子、ううん、いちご先輩との距離が縮まった感じがして、嬉しいと感じている私が、そこにいた。
それから連絡先を交換し、私たちが交流する機会はさらに増えた。
メールでのいちご先輩は普段よりもちょっとはっちゃけた感じで、可愛いと思った。
そして、
いちご『また一緒に帰ろうね(*^-^*)』
その一言で、私は陥落した。向こうにその気があるかないかは、わからないけど。
それから私たちは、部活帰りには一緒に帰るようになった。
唯先輩たちには「あずにゃん付き合い最近悪ーい!!」とかって怪しまれたけど、それでもいちご先輩との帰り道は私にとってかけがえのない時間になっていた。
家に帰っても、すぐにいちご先輩とメールして、気がついたら日付をまたいでることがほとんどだった。
本当に私、恋の病ってやつにかかってるみたい。ごめんねむったん、とよくわからない理由でよくわからない相手に謝っておく。
そんな幸せな日々が続くのはそう長くないと相場は決まっているわけで。
ある日、廊下でいちご先輩と話しているときのことだった。
唯「あーずにゃんっ♪」
梓「うわっ!」
いちご「!!」
唯「あずにゃん最近構ってくれないと思ったら、いちごちゃんと浮気してたなんてー!いちごちゃんも私のあずにゃんを取らないでよー!」
梓「誰が唯先輩のですか…」
唯先輩にしたら、ちょっとした冗談のつもりだったのだろう、伊達に同じ部活にいない、そのくらいはわかる。しかし、
いちご「…」フィッ
梓「い、いちご先輩?」
唯「いちごちゃん…?」
繊細ないちご先輩の心を砕くには、そんな些細な冗談で十分だったようだ。
それから、私たちは一緒に帰らなくなったし、メールも全然しなくなった。
たまに返ってきても、『勉強するから』とかいって、すぐに途切れてしまう。
こんな気分、最近味わったばかりのような。
あぁ、部室が使えなくなったときだ。
普段一緒にいる存在がいなくなるのは、寂しく辛いものだと、学んだばかりなのに。
何日かそんなことばかり考えていたら、風邪をひいてしまった。単純だなぁ、私。
こういうのも恋の病っていうのかな、などとおかしなことを考えてしまうのは、きっと熱のせいだろう。
ある日、軽音部メンバーがお見舞いにきた。
みんなが来てくれるのは嬉しいけど、そこにいちご先輩がいないことにがっかりしてしまうなんて、罰当たりにもほどがあるよ、私。
みんな口々に私を心配してくれて、ありがたいやら申し訳ないやら複雑な気持ちだった。
澪先輩やムギ先輩は真面目に心配してくれて、律先輩はいつも通りおちゃらけていた。まったく、何をしに来たんだこの人は。
まぁ、沈んだ気分の今の私には、割とその明るさがありがたかったりする。言わないけど。
ただ、唯先輩は珍しく無口だった。
みんなが帰ってしばらくして、いきなり唯先輩が戻ってきた。
梓「唯先輩?どうしたんですか?忘れ物ですか?」
唯「ううん…」
元気がない。まったくもって唯先輩らしくない。
梓「唯先輩?」
唯「あずにゃん…」
唯「あずにゃんが体調崩したのって、もしかしていちごちゃんが関係あるの?」
こういうときだけ鋭いんだよなぁ、この人。
梓「い、いちご先輩は別に…」
唯「そんな名前で呼ぶような仲なのに?」
おおっと。墓穴を掘ったか。
そして私はいちご先輩との馴れ初め?を唯先輩に話した。
なんとなく今まで軽音部の先輩がたには話してなかったので、少し緊張した。
梓「…というわけで、最近メールもあまりしてないんです」
唯「…」
唯先輩が何か深刻な顔をしている。普段明るい人だから、よけいに深刻そうだ。
梓「唯先輩?どうかしたん…」
唯「ごめんねあずにゃん!!」
いきなり謝られた。
唯「あずにゃんといちごちゃんが元気ないのって、この前私が変なこと言ったときからだよね?私、二人に悪いことしちゃった…」
梓「そんな、唯先輩」
…ん?
あずにゃん『と』?
梓「唯先輩、いちご先輩も?」
唯「うん、あずにゃんと同じくらいから学校休んでるの…」
なんてこった。
いてもたってもいられなくなって、机の上の携帯を乱暴に取り上げ、慌てて電話をかける。
…………………ガチャ。
梓「っ!いちご先輩!!」
いちご「…なに?どうしたの?」
あれ。いつも通り…な気が。
唯先輩を見る。なんかクスクスしてる。先輩だけど言わせてもらおう。
この野郎。
梓「ゆ、唯先輩から学校休んでるって聞いたんですけど…」
いちご「別にそんなことないけど」
なんてこったその2。
唯先輩を睨みつけると、笑いながら手を合わせて謝っている。
唯先輩のくせに、こんな罠を。
ただ、
梓「…何もなくて、よかったです」
ほっとした。心の底からほっとした。
いちご「…そう」
また、この不思議だけど可愛らしい先輩の声が、聞けることに。
いちご「よくわからないけど、心配してくれて、ありがとう」
また、隣にいていいんだなと、なんとなく思えたことに。
それからいちご先輩に言われて、唯先輩に電話を変わった。
私がいることをすっかり忘れているのか、唯先輩からどんどん出てくるネタバレの数々。
ちょっと前から、私といちご先輩の仲を怪しいと思っていたこと。
この前の事件?で、その疑いがより強まったこと。
その前に、帰り道内緒でムギ先輩が私たちのあとをつけていたこと。
そのときに…私たちが、手をつないで、帰っていたこと。
唯先輩は、時折ごめんごめんと言いながら、楽しそうに話している。
しかし、そんなところまで知られてたなんて。うぅ。
唯「それじゃ最後に、いちごちゃん!」
唯先輩が急に小声になって、何か話している。
唯「………………」
電話の向こうのいちご先輩の様子まではさすがにわからないが、なぜかこっちが緊張してきた。
唯「…うん。うん」
何に納得しているんだ唯先輩は。
唯「よくわかった!あずにゃんは任せたよ!」
なんか任せられた。いや、任せられられた…?日本語って難しい。
ただ、その内容を推測して、
唯「それじゃいちごちゃん」
おそらくあっているだろう、その会話の内容に、
唯「ちゃんと気持ちを、伝えてあげて」
……また熱が上がったようだ。
いちご「あずさ…ちゃん?あの、私…って、聞いてる?」
ばたんきゅー。
数日後、すっかり風邪も治り、久しぶりに部活に顔を出した。
軽音部のみなさんは、全体的ににやついてらっしゃった。いいことでもあったのだろうか。先輩だけど、一人一人張り倒して問いただしてやろうか。先輩だけど。
律先輩はいちごは見舞いに来たのかとか、来たなら部屋で二人で何をしたんだとか聞いてくる。病人だぞ私。
まぁ…見舞いには来てくれて、何もなかったわけじゃ、ないけど。
澪先輩は顔を真っ赤にして律先輩に何かあわあわ言ってる。うーん、純な人だ。
ムギ先輩は「いちあず!そういうのもあるのか!」などとわけのわからないけとを言いながら素晴らしく晴れやかな表情をしていた。おそらく不純であると思われます。
唯先輩は「あずにゃんが私たちのもとから巣立っていくよ…」と嘆いていた。
今回の騒ぎの張本人は、いろいろかき回していったけど、
唯「あずにゃん、いちごちゃんと幸せにね」
とても優しい顔をしていた。
感謝…するとこなのかな。多分。
その日は、久しぶりにいちご先輩と一緒に帰った。久しぶりすぎて、初めて一緒に帰ったときのように緊張する。
いちご「無事でなにより」
梓「まぁ、ただの風邪ですから…」
いちご「それでも」
手を握ってきた。顔が近い。ああ、また熱出てきたんじゃないか?
いちご「…よかった」
梓「…はい」
ギュッ、と。先輩の両手で包まれる私の手。
言葉はなくても気持ちは伝わる、とはよくいうけれども、
梓「いちご先輩」
言葉で伝えられた以上、言葉で返すのが道理だろう。
梓「あのときの返事、してませんでしたね」
周りを見回す。大丈夫、誰もいない。別にいてもいいけど。
梓「私も、いちご先輩のこと」
この気持ちは、変わらないから。
梓「大好きです」
その帰り道。手をつないだ私といちご先輩。先輩が、何か思い立ったふと立ち止まった。
梓「先輩?」
いちご先輩がこっちを見る。やっぱり可愛いなぁ、この人。
いちご「…あずにゃん」
梓「!?ど、どどどどうしたんですかいきなり!?」
いちご「唯がそう呼んでるから。呼んでみたくなっただけ」
梓「は、はぁ…(一緒にいるだけでも緊張するのに…そんな親しい呼ばれ方までされるなんて…ドキドキしてきたー…)」
いちご「あずにゃーん」
ダキッ
梓「!!!!!!???????い、いきなり抱きつかないでください!」
いちご「ヤダ」
梓「またすぐそうやって…」
いちご「唯はいつもやってる」
梓「(唯先輩に嫉妬してるのかな…?)…はぁ、もう今だけですよ」
いちご「ヤダ」
梓「え?」
いちご「これからも」
梓「…もう」
いちご先輩に抱きつかれながら、ゆっくり歩く。
いや、この感触をもっと味わいたいから、とかはなくは、ないけど。
しかし、こんなことしててもいちご先輩は無表情だなぁ…ポーカーフェイスってやつかな?
いちご「………」
ん?微妙に先輩の顔に違和感。
あぁ、よく見たら、先輩の小さな耳が真っ赤でした。
いちご「…なに」
梓「なんでもないです」
私しか知らない先輩を知れて嬉しい、なんて言えませんよ。
こんなふうに、日々を過ごせればいいなと、しみじみ思った。いつまで一緒にいられるかわからないけど、それまでに私しか知らないいちご先輩をもっと知ろうと、小さく決心した。それは、私にとっての、ふわふわした、大切な時間。
梓「先輩、そろそろ離れません?」
いちご「ヤダ」
おしまい