女「あたし、スラム街にクレープ屋さんを開いちゃいました!」
女「だけど、この街は治安が悪くて、もうホント大変!」
ガガガガッ… パァンッ! パァンッ! ドゴォォォォン!
女「今日もあちこちで銃撃戦が起こってます! 爆発まで!」
女「怖いけど、店を開いた以上、クレープは焼かないと……」ジュゥゥゥ…
ガガガガガッ…
女「あっ、こっちにも弾が飛んできた!」
元スレ
女「スラム街にクレープ屋さんを開いちゃいました!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1598605253/
女「きゃああああああっ!」パシシシッ
シュゥゥゥゥ…
女「ふう、クレープの皮で全部キャッチできた」
女「これを包んで……」ペタペタ
女「弾丸を包んだ“バレットクレープ”はいかがですか?」ニコッ
女「……って、こんなの食べる人いるわけないですよね」
スキンヘッド「うう……」ヨロヨロ…
女「スキンヘッドさん!」
スキンヘッド「脇腹に……喰らっちまった……」
女「しっかりして下さい!」
スキンヘッド「いや、俺はもうダメだ……。最後に……俺の好きな……ツナクレープ、作ってくれ……」
女「……!」
女「分かりました!」
女(クレープの皮で……ツナとレタスを包んで……)セッセッ
女「どうぞ!」
スキンヘッド「ありがとう……」ハムッ
女「いかが……ですか?」
スキンヘッド「へへ……うめえ……。最高の味だ……」
スキンヘッド「ありがと、よ……」ガクッ
女「スキンヘッドさぁん!」
女「スキンヘッドさん! スキンヘッドさん!」ユサユサ
女「死んでる……」
女「また……お墓作らないと……」グスッ
ザクッザクッ…
女「スキンヘッドさん……安らかにお眠りを……」
女(このスラム街が平和になる日は来るのかなぁ……)
女「クレープはいかがですかー、クレープはいかがですかー」
眼帯「あ~ん? クレープぅ?」
女「いらっしゃいませ、クレープはいかがですか?」
女「フルーツはバナナ、イチゴ、キウイがありまして、トッピングも多数取り揃えてますよ!」
眼帯「おう、俺はクレープ大好きだぜぇ!」
女「ホントですか!?」
眼帯「ただし……“ク”の字を抜いたやつだがなァ!」ガシッ
女「キャーッ!」
パァンッ!
眼帯「がっ……!?」
ドサッ…
女「銃弾……!」
男「……クズが」
女「男さん!」
女「ありがとうございました! 助かりました!」
男「お前もお前だ!」
男「こんなスラムで女一人クレープ売るなんざ、襲って下さいっていってるようなもんだ!」
男「前から聞きたかったんだが、なんでクレープ屋なんて開いたんだ?」
女「クレープは……とても甘くておいしくて、食べた人みんなが幸せになる食べ物です」
女「そういう食べ物だからこそ、このスラムで売れば……」
女「少しでもみんなの心を甘く出来るんじゃないかって……そう考えたんです」
男「……アホか」
男「お前の脳みそはお花畑を通り越して、お花の王国になってんのか?」
女「王国? ……ありがとうございます!」
男「全然褒めてねえから」
男「まぁいい……俺にもクレープをくれ」
女「はいっ! お味は?」
男「いつも通り、皮だけでいい」
女「男さんはどうして、いつも皮だけしか食べないんです?」
男「このスラムは……毎日のように住人同士殺し合って、成長もなければ、未来もねえ。空っぽの街だ」
男「いってみりゃあ、中身のないクレープみたいなもんだ」
女「……」
男「だが、俺はこの状況を変えてみせる」
男「今……このスラムは俺の勢力含め、四つの勢力が睨み合ってる」
男「他の三つの勢力は殺しと悪さが生きがいのどうしようもねえ連中だ」
男「俺は他の三つの勢力を潰し、統一することで、この抗争を終わらせる」
男「そして……このスラムに平和をもたらすんだ」
男「それまでは、俺はクレープは皮しか食わねえ」ムシャムシャ
女「男さんなら……必ず実現できますよ!」
男「そう願いたいもんだな。それじゃ」スタスタ…
パーン… ガガガガッ… パァン! パァン!
女(今日もあちこちで撃ち合いが起こって……)
男「よう」
女「男さん! 無事でよかった!」
男「今日もクレープくれ。皮だけな」
女「はいっ!」
女(男さんの尽力もあり、スラム街は少しずつ落ち着いていった)
女(少し前までは子供は出歩くことも命がけだったけど、今では――)
子供A「お姉ちゃん、クレープちょうだい!」
子供B「やすくしてよー!」
女「はーい!」
女(こうしてクレープを買ってくれるようになった)
女(ところが、そんなある日――)
女(今日は銃撃戦が一段と激しかったな……)
「う、ううう……」
女「?」
男「ぐうう……!」ヨロヨロ…
女「男さん!」
男「しくじった……喰らっちまった……」
女「しっかりして下さい!」
男「ちっ……地獄の門が見えやがる……」
男「最後に……クレープの皮を……」
女「最後になんてさせませんよ!」
男「……え?」
女「クレープの皮で止血します!」
男「アホか……んなことできるわけ……」
女「できます!」ペタッ
男「え……? 血が止まっ……?」
女「あたしだって、ただスラムでクレープ焼いてたわけじゃありませんから。成長してるんです」
女「助けられる命は助けます!」
刺青「おい」
女「いらっしゃいませ!」
刺青「こっちに男が来なかったか?」
女「さぁ、来てませんけど」
刺青「ふうん……」クンクン
刺青「ウソつけや……血の匂いで分かんだよ! とっとと出せやァ! トドメ刺してやる!」
女「……」
ガシッ
刺青「え?」
女「えーいっ!」
刺青「ぎゃっ!?」
刺青「あっぢいいいいいい! あっぢいいいいいいいいいいいいい!!!」
ジュワァァァァァ…
刺青「あうう……」ガクッ
女「ふぅ、あたしだっていつまでもお花の王国じゃありませんよ」
女「あとは男さんをお医者さんのところに連れていくだけですね」
女「いかがでしょう?」
闇医者「ふうむ……的確な応急処置が施されておる。これなら助かるぞよ」
女「よかった……!」
男「……借りができたな」
女「いえ、あたしも男さんのおかげでクレープが売れてますから。持ちつ持たれつです!」
男「ふん……俺も早く怪我を治してもうひとふんばりしないとな」
ガガガッ… パーン… パーン… パララララッ…
女「今日も一日中銃声が響いてたなぁ……」
女(ほどなくして、男さんのグループが勢力の一つを潰したという知らせが入った)
女「いらっしゃいませ」
男「おう」
女「ご注文は?」
男「クレープの皮だけ頼む」
女「すぐ焼きますね」ジュワァァァァァ…
男「俺がグループの一つを潰したことで、均衡は崩れた。ここからはさらに抗争が激しくなる」
男「くれぐれも流れ弾に注意してくれ」
女「男さんもお気をつけて!」
……
ボス「く、くそぉぉぉっ! 俺らがてめえみたいな甘ちゃんによぉ……!」
男「あばよ」
パァンッ! ドサッ…
手下A「よっしゃああああああ!」
手下B「これでこいつらも壊滅ですね! 長年ゲスなことしてきた罰だ!」
男「あと一つ……」
女「男さん……」
男「明日、俺たちは残る勢力との全面抗争に挑む」
男「最後の勢力は、俺が潰した奴らの残党を吸収して、かつてない最大の勢力になってる」
男「生きて帰れる保証はねえ……」
女「……」
男「だが、たとえ死んでも奴らは潰し――」
女「死なないで下さい!」
男「……え?」
女「たとえスラム街が平和になっても、あなたがいなきゃ意味がありません!」
女「だから……これを持っていって下さい」
男「これはクレープの皮……」
女「固めに作りました。もしかしたら役に立つかも……」
男「ありがとよ、じゃあ行ってくる!」
女「頑張って下さい!」
女(次の日――)
ガガガガガッ… ドゴォォォォンッ! パパパンッ! ドゴォォォォンッ! ガガガガッ…
ズドォォォォン! パァン! ガガガガッ… ガガガガッ… パン! ドォォォォォン!
女(早朝からものすごい銃撃戦が始まった。それはもう抗争というより、“戦争”だった)
子供A「お姉ちゃん……」
子供B「怖いよ……」
女「大丈夫よ、これがきっと最後だから……クレープ食べて待ってようね」
シーン…
女(音が止んだ……)
女(決着がついたんだろうか……?)
女(男さん……)
男「……」ザッ
女「男さん!」
男「これで……スラムの抗争は終わりだ」
女「よかった……!」
男「お前からもらった皮も役に立ったよ。一発、弾丸を防いでくれた」ペラッ
女「お役に立てて嬉しいです!」
…………
……
子供A「ワーイ! ワーイ!」タタタッ
子供B「アハハハッ!」タタタッ
青年「このスラムも過ごしやすくなったなぁ。こうやってビクビクせず表を歩けるなんてよ」
グラサン「これで石油でも出てくりゃ、いうこと無しなんだがな」
ハハハ…
中年女「クレープくださいな」
女「はーいっ!」
女(男さんがリーダーになってから、スラム街はすっかり平和になりました)
女(まだまだ暮らしは貧しいけど、みんなの顔には笑顔が浮かんでいます)
男「よう」
女「いらっしゃいませ!」
女「男さんのおかげで、街は平和になって……」
男「いや、あんたのクレープがあったからさ。いつか中身を食ってみせるって頑張れた」
女「そんなあたしなんて……。ところで、ご注文はどうしましょう?」
男「そうだな。それじゃ……」
男「バナナとイチゴ、キウイ、それぞれたーっぷり皮にあふれんばかりに乗せてくれ。
バナナを主役に、イチゴは準主役、キウイは二人を引き立てるような配置で頼む
ホイップクリームとチョコクリームとカラメルソースをこれまたたーっぷり塗りたくってくれると最高だ。
割合はホイップ3に対し、チョコ1カラメル1で頼む。これが俺が考えうるクレープの黄金比だからだ。
それともちろん、トッピングも忘れないでくれよな。
コーンフレークとチョコチップをふんだんにかけてくれるとありがたい。
で、これらを包む時は中身が極力崩れないようやさし~くな。やさし~く。
じゃあよろしくゥ!」
女(まさかここまでクレープ好きだとは思わなかったけど)
―おわり―