1 : 以下、名... - 2020/08/02 18:40:53.57 ypMqto370 1/33

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「…………」ベチョリ

北条加蓮「えーっと……。今度は何? まさか、今度こそ熱中症じゃないでしょうね」

藍子「違います……。ただちょっと――」

加蓮「うん」

藍子「加蓮ちゃんの顔を見たら、ものすごく、落ち込んでしまって……」

加蓮「……えー」

元スレ
北条加蓮「藍子と」高森藍子「目先と足元を確かめ直すカフェで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1596361253/

2 : 以下、名... - 2020/08/02 18:41:29.51 ypMqto370 2/33

レンアイカフェテラスシリーズ第129話です。

<過去作一覧>

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
http://ayame2nd.blog.jp/archives/2740873.html

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
http://ayame2nd.blog.jp/archives/2740890.html

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
http://ayame2nd.blog.jp/archives/2740927.html

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
http://ayame2nd.blog.jp/archives/2740994.html

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「線香花火のカフェテラスで」
http://ayamevip.com/archives/54820074.html

・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 4回目」
http://ayamevip.com/archives/54846838.html

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「2人でお祝いするカフェテラスで」
http://ayamevip.com/archives/54860055.html

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「癒やされるカフェで」
http://ayamevip.com/archives/54866741.html

3 : 以下、名... - 2020/08/02 18:41:59.81 ypMqto370 3/33

加蓮「何それ……。じゃあ、落ち着くまでどっかに隠れていようか?」

藍子「だめ……。そんなことされたら余計に落ち込みます」

加蓮「はあ」

藍子「加蓮ちゃんだって……。落ち込んでる時に私――私じゃなくてもいいです、誰でもいいです……」

加蓮「深刻だねぇ……」

藍子「モバP(以下「P」)さんがやってきて、そのまま気を遣われて、どこかへ行っちゃったら、どう思いますか……?」

加蓮「……なるほどね」

藍子「そういうことです……」

加蓮「その話だと、私とPさんは喧嘩でもしてたって感じなんだね。じゃあなおさら自己嫌悪になっちゃうかなー……」

藍子「……けんか、またしちゃったんですか?」

加蓮「いや、してないけど。例え話。アンタが、私を見るなり落ち込んだって言うから」

藍子「それならよかった」

加蓮「こんな時にまで人のことばっかり考えてんじゃないわよ……。ま、心の整理がつくまでそうして落ち着いてなさい。ここはカフェなんだし。別に、突っ伏せてても怒られはしないわよ」

藍子「……」コクン

4 : 以下、名... - 2020/08/02 18:42:28.92 ypMqto370 4/33

加蓮「でも困ったなぁ。結構お腹空いてるんだけど、でもこの状態で店員さんを呼んだら――げえっ、向こうから来た!」

藍子「……あはは。げ、って」チラ

加蓮「や、やっほー。えーっと、注文はね……うん。そういう顔するよね……。私を待ってる間、きっと藍子は今より元気だったんだろうし……」

藍子「…………」

加蓮「うん。ごめんね、店員さん。あなたの大事な常連客さんを傷つけちゃったみたい。元気を取り戻してあげるから、それで許して?」

加蓮「――あははっ。ありがと。サンドイッチとコーヒー、お願いしますっ」

藍子「…………」

加蓮「……行ったよね? うっわあー……。何今の私。自分でやってて気持ち悪っ」

藍子「……普通に、可愛かったですよ?」

加蓮「いやいやいやいや……。まだアイドルとしてやるなら許されるけどさ……。ないない」

5 : 以下、名... - 2020/08/02 18:42:58.47 ypMqto370 5/33

藍子「……」

加蓮「で?」

藍子「……」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」ツンツン

藍子「…………」イヤイヤ

加蓮「藍子が満足するまでそうしててもいいけど、何も言ってくれないと私は何もできないからね」

藍子「……加蓮ちゃん、きびしい」

加蓮「その方が馴染んでますので」

6 : 以下、名... - 2020/08/02 18:43:28.21 ypMqto370 6/33

加蓮「と言いつつ、このままずっと待ってるのは性に合わないって言うか。でも藍子が話してくれないから、誘導して話させるしかないよねー」

加蓮「当ててあげる。藍子が落ち込んでる原因。お仕事で何かあったんでしょ」

藍子「……」ピク

加蓮「あははっ。だって心当たりがそれしかないもん。それに、あんなに必死になってあちこち走り回ってるPさん、久しぶりに見たよ」

藍子「Pさん……?」

加蓮「事務所でね。必死そうにしてたから……ま、たぶん藍子絡みなんだろうなって思って見てた。私が手伝えることなら手伝ってもいいけど、それはなんか失礼かなって。Pさんにも、藍子にも。だからずっと見てただけ」

加蓮「そしたらさ。人のために必死になる姿……それも、その人が藍子だって思うと、なんかちょっといいなって思っちゃって――」

加蓮「って、そうじゃないよね。それなんでしょ。藍子がずーんってなっちゃってる原因」

藍子「……」コクン

加蓮「そっか。……それでなんで、私の顔を見たら急に落ち込むのかは分からないけど」

7 : 以下、名... - 2020/08/02 18:43:58.06 ypMqto370 7/33

藍子「……加蓮ちゃんって」

加蓮「加蓮ちゃんって?」

藍子「すごい人だったんですね……」

加蓮「……はい?」

藍子「はぁ」

加蓮「はぁ……?」

加蓮「……? ……??」

8 : 以下、名... - 2020/08/02 18:44:27.69 ypMqto370 8/33

加蓮「あ、店員さん。サンドイッチありがと。藍子も食べたいなら食べたら?」

藍子「……」ヨロヨロ

加蓮「はい、あーん」

藍子「あむ……」

加蓮「美味しい?」

藍子「……うん」

加蓮「よかった」

藍子「あむ、あむ……」

加蓮「レタスのしゃきしゃきって音、藍子が噛む度にちょっとだけ聞こえてくるね。今日もいいのを持ってきてくれたみたい」

藍子「あむ……」

加蓮「店員さんも、落ち込んでる藍子の為にちょっとだけでも何かしたかったのかもね」

藍子「注文したの、加蓮ちゃんです」

加蓮「そーだけどさー」

9 : 以下、名... - 2020/08/02 18:44:58.66 ypMqto370 9/33

藍子「べちょり」

加蓮「あーあ、また突っ伏せちゃった。まだ一口しか食べてないのに。藍子? 食べかけを私に食べさせるつもりー?」

藍子「…………」ヨロヨロ

加蓮「顔だけ上げて口を開けてる。……目が恐いよ? ゾンビみたいで」ハイ

藍子「あむ……」

加蓮「美味しい?」

藍子「……うん」

加蓮「よかった」

藍子「……うんっ。ちょっとだけ、元気になれた気がします」

加蓮「おっ」

藍子「さっきまでは、心にいくつも重りがついていたみたいだったのに……サンドイッチを1回1回かんでいたら、なんだかいつもの私になれたみたい……。ふふ。なんて、単純でしょうか?」

加蓮「んー……。うん。アホ」

藍子「あほ!?」

10 : 以下、名... - 2020/08/02 18:45:28.81 ypMqto370 10/33

加蓮「うんうん。藍子ちゃんは天然さんだねー」ナデナデ

藍子「ひゃっ……♪ って、ぜったいほめていませんよね!」

加蓮「うん」

藍子「も~っ! じゃあ、撫でるのもやめてください! ……い、いちおう、今はまだ、私の方が年上ですからっ」バッ

加蓮「ふぅん。それを言うなら、藍子って永遠に私より年上だよね」

藍子「え?」

加蓮「○○歳と××ヶ月、みたいな言い方をしたら、藍子の方が1ヶ月半早いもん。じゃあ、藍子の方が永遠に私より年上ってことだよね」

藍子「確かに、そういう風に見たらそうなりますね……」

加蓮「誕生日が来ても来なくても、藍子の方がお姉ちゃんだ」

藍子「お姉ちゃんらしさがあるのは、加蓮ちゃんの方だと思うけれど……。じゃあっ、え~っと。お、お姉ちゃんですよ~」

加蓮「そんな年上の人の頭を撫でるとか普通に考えておかしいよね。じゃやめるねー」

藍子「……えっ」

11 : 以下、名... - 2020/08/02 18:45:58.30 ypMqto370 11/33

藍子「あの……そのお話だと、加蓮ちゃんは永遠に、私の頭を撫でないってことになりませんか?」

加蓮「うん。そう言ってるけど?」

藍子「……」

藍子「…………」

藍子「……………………う~」

加蓮「あははっ! 頭を撫でてほしい、なんて自分から改まって言うのはちょっと恥ずかしいもんね。でも今頷いちゃったら永遠になでなでしてもらえなくなるし? 悩みどころだよねー」

藍子「思ってることをぜんぶ解説しないでくださいっ! ……いじわる!」

加蓮「あはははっ。ま、冗談冗談。撫でてほしいなら撫でるし、落ち込んでたら声くらいはかけてあげる」

藍子「……きびしいことばっかり言うのに」

加蓮「藍子ほど優しくないもんね、私」

藍子「きびしくてもいいから……今は冗談でも、あんまり、寂しいことを言わないでください……。いっしょが、いいです」

加蓮「うん、それはごめん。弱ってる時に言うことじゃなかったかもね」

藍子「ううん……」フルフル

12 : 以下、名... - 2020/08/02 18:46:28.52 ypMqto370 12/33

加蓮「で。何があったの? ただ撮影に失敗したとか、Pさんに悪いことをしたって言うならここまではならないよね」

藍子「…………」

加蓮「話す気力があるうちに、さっさと話しときなさい」

藍子「…………」

加蓮「……ったく」アム

加蓮「……うんっ。サンドイッチ、やっぱり美味しいね。いつ食べてもカフェの味。そして、向かいに藍子がいる時の味」

藍子「…………」

加蓮「この前さ。家でお母さんにサンドイッチ作ってーってお願いしてみたんだ。そしたらお母さん、ひどいんだよ? たったそれだけなのに、今度買い物に付き合えって! 普通サンドイッチだけで対価要求してくる?」

藍子「……くすっ。加蓮ちゃんのお母さん、きっと加蓮ちゃんと一緒にお出かけしたいんですよ」

加蓮「ま、そんなとこだろうね。けど足りないから、買い物で何か買ってもらおーっと」

13 : 以下、名... - 2020/08/02 18:46:59.45 ypMqto370 13/33

加蓮「ついでに藍子の分までねだっちゃおっか。何か欲しい物ってある?」

藍子「……ほしい物……ううん。ないわけではないんですけれど、それはさすがに、加蓮ちゃんのお母さんに悪いですから」

加蓮「あー、いいよいいよ。そういうのいいから。ほら、早く言いなさい。言わないなら私帰るね。はい3、2、1!」

藍子「え、えっ? じゃあ……ナチュラルな柄の手提げかばんと、この前履きつぶしちゃったから、新しい靴と、あと……」

加蓮「……い、意外とわがま――いやいやいや。それでそれでー?」

藍子「それから加蓮ちゃん。今度、駅の北側にオープンした雑貨屋さんに、一緒に着いてきてくださいっ」

加蓮「おーい? 買ってもらうって話なのに、なんでデートのお誘いになってんの」

藍子「……あれっ」

14 : 以下、名... - 2020/08/02 18:47:28.40 ypMqto370 14/33

加蓮「何? うちのお母さんとお出かけしたいの? そういうことならいくらでも譲るけど」

藍子「あはは……。そういうことじゃなくて。でも、こういうのって、あまり違うって強く言えませんよね」

加蓮「分かるー。私だったら誤魔化す」

藍子「気遣いはいらないって、いつも加蓮ちゃんから言ってるのに」

加蓮「それでもあるでしょ? なんかそういうの」

藍子「加蓮ちゃん、そういう時にごまかしたり、うまく話題を変えたりするのって上手で……」

藍子「……トークも、いつもみなさんをいっぱい盛り上げたり、いいタイミングでお話を変えたりして、いつもうまくて……」

藍子「…………はあぁ」

加蓮「えー……。また?」

15 : 以下、名... - 2020/08/02 18:47:58.56 ypMqto370 15/33

藍子「……Pさんが、営業に連れて行ってくれたんです」

加蓮「営業」

藍子「新しい番組の……営業と、打ち合わせでした」

加蓮「半分やること前提の」

藍子「視聴者さんから依頼された探しものをする、っていう新番組……」

加蓮「面白そうだね」

藍子「私が行きたいって、無理を言ってしまって、でもPさんは、いいよって言ってくれました」

加蓮「ふぅん……。そうまでしてやりたい何かがあったの?」

藍子「ううん。私も……加蓮ちゃんみたいに、いろんな企画を作ったり、私から提案したり、Pさんと相談して、やりたいことをもっといっぱいやってみたいって思っちゃって……」

加蓮「うん」

藍子「加蓮ちゃん、よくPさんと一緒についていっているみたいだから……。もちろん、加蓮ちゃんになろうって思った訳ではないんです」

藍子「でも、今何をすればいいのかなって思っていたら、私も、加蓮ちゃんを少しだけ真似してみようって……それくらいならいいかな、って思ったから」

加蓮「なるほど」

藍子「……でも、ついて行った先では、なんにもできませんでした。Pさんは、お仕事先の人と次々に話題を出したり、あっという間に握手を交わすところまでいってしまうんです。その間、私はなにも喋れませんでした」

加蓮「あー……」

16 : 以下、名... - 2020/08/02 18:48:28.28 ypMqto370 16/33

藍子「なんのためについていったんだろうって……そうしたら、帰りの車の中でPさん、藍――私がいるだけで、話がとてもスムーズに進んだって言ってくれました」

藍子「……いつもなら、それだけでもすごく嬉しいのに……私、何もしていないんですよ」

藍子「たとえるのなら、ただの看板です」

藍子「カフェの看板娘だって、注文を取りに行ったり運んだりしますよね」

藍子「私は何もできずに、Pさんの隣にいるだけでした」

藍子「ただの看板です……」

藍子「どうせ私は、いろいろとただ薄いだけの板なんです……」

加蓮「いや何言ってんのアンタ」

藍子「ず~ん……」

17 : 以下、名... - 2020/08/02 18:48:58.01 ypMqto370 17/33



□ ■ □ ■ □


加蓮「けど、そういうことだったんだ。だから私の顔を見て、余計に落ち込んだんだね」

藍子「……話は、まだ終わりじゃないんです」

加蓮「ん」

藍子「帰りの車の時、私……その時からもう落ち込んでしまっていて。Pさんは私のこと、ほめてくれたんです。でも、何も言うことができなくって」

加蓮「たまにあるっけ。落ち込んでる時に褒められるのって、逆にキツイよね」

藍子「普段はないから、分かりませんよ~……」

加蓮「あははっ、ごめんごめん。それで?」

18 : 以下、名... - 2020/08/02 18:49:30.50 ypMqto370 18/33

藍子「そうしたら……Pさんは、私がものたりないって思ったり、もっと成果をほしがっているって勘違いしたみたいで……」

藍子「もっと頑張るから、って言ったんです。それで、Pさんまで少し落ち込んだ様子でした。……今だって、ものすごく頑張ってくれているのに」

藍子「それを聞いたら……なんだか、いろいろと自分が、だめだなって、もっと思っちゃって……」

藍子「……加蓮ちゃんは、いつもPさんと一緒に、ミーティングをしたり、相談したり。セルフプロデュース、って言うんでしょうか。そういうの、得意ですよね」

藍子「だから、加蓮ちゃんはすごいなぁって……」

藍子「私が見ていたり、思っていたよりも、ずっとすごかったんだなって思いました。……はぁ」

加蓮「んー……そっか」

藍子「すみません……。それに加蓮ちゃんにも、なんだか、ごめんなさい」

加蓮「いーよいーよ。私は別に、私にとって慣れてることをやってるだけなんだけどね? そっか。そう思っちゃったか」

藍子「……うん」

加蓮「そっかー……」

19 : 以下、名... - 2020/08/02 18:49:58.63 ypMqto370 19/33

加蓮「ったく……。まぁ……私が目標みたいだし、私と比べちゃうのも分からなくはないけどさ」

藍子「うん……」

加蓮「あんまそういうの気にしすぎてたら、色々とどうにもならなくなっちゃうよ?」

藍子「……気にしようって、決めてますもん」

加蓮「ん?」

藍子「足元だけじゃなくて、ずっと遠いところにいる加蓮ちゃんのこと、ちゃんと見ようって、決めてますもんっ」

加蓮「……その結果が空回り――」

加蓮「いや……いっか。うん、そっか。藍子は頑張ろうって思って、空回っちゃったんだね」

藍子「からまわり……。そう言ってしまっても、いいんでしょうか?」

加蓮「いいんじゃない?」

藍子「だってっ!」

加蓮「……?」

20 : 以下、名... - 2020/08/02 18:50:28.53 ypMqto370 20/33

藍子「今回のことって、たまたまうまくいかなかったことじゃなくて、最初から、何もできなかったことなんですよ。私にはできないって……ううん。今の私には何もできなかったことなんです」

藍子「次こそは――なんて思っているだけでは、駄目なんだと思ってます……駄目なんです」

藍子「だから……」

藍子「加蓮ちゃん。励ましてくれたことは、ありがとうございますっ。でも、空回りで終わらせちゃうのは……なんだか、納得できませんっ」

加蓮「……へぇ?」

藍子「……!」フンスッ

加蓮「そっか。そこまで言えるんだ」

藍子「……まだまだです。まだまだ、もっと歩き続ける道ですから……!」

加蓮「ふふっ。……そっか」

21 : 以下、名... - 2020/08/02 18:50:57.78 ypMqto370 21/33

加蓮「でもね? 私ばっかり見ててどうすんの。アンタはアンタの道を歩くんでしょ?」ペシ

藍子「きゃ」

加蓮「あのね。目標地点にたまたま私がいるだけなの。それか、私がいるからそこを目標地点にしていたとしても……途中歩く道は、私の歩いた道とは別物でしょ?」

藍子「それは、そうですけれど~……」

加蓮「じゃあ私ばっかり見てたらダメなの。たまには自分の足元や、目の前にあるものをちゃんと見なさい」

藍子「足元と、目の前にあるもの……」

加蓮「よく木を見て森を見ずとかって言うけどさ、木をちゃんと見ないと進む先も分からなくなるよ」

22 : 以下、名... - 2020/08/02 18:51:28.21 ypMqto370 22/33

加蓮「あとは足元。どっかのドジ巫女みたいにすっ転んで笑われるのは、藍子だってイヤでしょ?」

藍子「……笑ってるのって、だいたい加蓮ちゃんだけ――」

加蓮「それはほら……笑ってあげるのが礼儀みたいなところってない?」

藍子「……それはないと思いますよ。かわいそうですっ」

加蓮「たはは。やっぱり。……あ、じゃあさ。さっきも言ったけど、落ち込んだ時に変に褒められるのって逆にキツイじゃん。なら、周りに1人くらい高笑いしてる奴がいてもいいでしょ」

藍子「分からなくはないですけれど……でも加蓮ちゃん、今、じゃあって言った!」

加蓮「しまったっ」

藍子「もう。ごまかそうとしていませんか?」

加蓮「さーどうだろうねー。案外、それ以外が全部建前だったりして?」

藍子「もう。……ふふっ。加蓮ちゃん、やっぱりすごいなぁ」

加蓮「おっ。今度は笑えて言えた」

23 : 以下、名... - 2020/08/02 18:51:58.23 ypMqto370 23/33

藍子「お話していたら、すぐに加蓮ちゃんの周りが、加蓮ちゃんの世界になってしまいますよね」

藍子「それって、アイドルとしてすごいことだと思います」

藍子「みなさんに求められているものを、どうぞ、って渡してあげるのも、アイドルには必要なことかもしれませんけれど――」

藍子「自分から作ってあげたり、自分のものを見せてあげたり、そういったことだってすっごく大事だと思います」

藍子「私も、私にできることで、みなさんを笑顔にしてあげたくて……」

藍子「だから、加蓮ちゃんってすごいなぁって。……ふふっ♪」

加蓮「……。……まぁ、とりあえずさ?」

藍子「はいっ」

加蓮「たかが口先で誤魔化そうとした程度の話を何広げまくってんのよ。アホ」ペシ

藍子「きゃ」

加蓮「こっ恥ずかしいんだけど?」

藍子「……ふふ。やっぱり、ごまかそうとしてたんですねっ」

加蓮「あ。……しまったっ。藍子に嵌められた……!」

藍子「人聞きの悪いこと、言わないでくださいよ~」

24 : 以下、名... - 2020/08/02 18:52:28.49 ypMqto370 24/33

加蓮「っと。話が逸れまくっちゃったね。いつも通りに」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「んー?」

藍子「ううんっ。違うお話になってしまいましたね。いつも通り、にっ♪」

加蓮「ねっ」

藍子「つい、歌鈴ちゃんと加蓮ちゃんのお話になってしまいました」

加蓮「いやその言い方だと私達がすごく仲良しみたいに聞こえるからやめて?」

藍子「……仲良しじゃないんですか?」

加蓮「……違うって言いづらい聞き方するのもやめて?」

藍子「わがままさん……」

加蓮「うっさい。もう。藍子の話!」

25 : 以下、名... - 2020/08/02 18:53:29.10 ypMqto370 25/33

加蓮「とにかく……なんかさっきの話を聞いてたら大丈夫って思えてきたけど、ちゃんと自分の足元を見て。目の前に何があるのかを見て。自分がどうしたいか、たまには考え直しながら歩きなさい。いいね?」

藍子「はいっ。なんだか、加蓮ちゃんの言うことが、見えないまま歩いていた気がします。今なら大丈夫っ」

加蓮「あ、それとPさんには一言謝ってあげてね?」

藍子「……あっ」

加蓮「藍子と同じで、色々考え込みすぎるんだから」

藍子「そうですね……。明日、事務所に行った時にごめんなさいって言っておきます」

加蓮「藍子に何が起きたかは私から説明しておいてあげるから」

藍子「じゃあ……それは、お願いします」

加蓮「はいはい」

藍子「でも、落ち込んでしまった原因とか、今の私のことを、もう1回……私が、Pさんとしっかり話し合ってきますね」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……分かった。行ってらっしゃい」

藍子「はいっ! ……でも、今日はここでのんびりしていきます」

加蓮「してらっしゃーい」

藍子「こっちは、加蓮ちゃんと一緒ですよ~」

加蓮「あははっ」

26 : 以下、名... - 2020/08/02 18:53:58.21 ypMqto370 26/33

藍子「すみませ~んっ」

加蓮「何か注文?」

藍子「うん。喉がからからになってしまったので、甘いものをたっぷり飲もうかな、って♪」

加蓮「嫌な思い出の話って、喉が渇くよね」

藍子「ってことは、加蓮ちゃんもひょっとして――」

加蓮「どうだったんだろ。今はそんなことないから、分かんないや」

藍子「……よかった。今は、って言える加蓮ちゃんの顔、すっごく穏やか……。あ、写真に撮っておかなきゃ――」

加蓮「べろー」

藍子「んくっ!? ……か、加蓮ちゃんっ、そこで変な顔になるのはなしです……! そういうのは、ずるです!」

加蓮「さすがに目の前でがさごそされたら、変顔の1つでも作ってやりたくなるよね。べろー」

藍子「その顔、やめて~っ! 笑っちゃっ……!」ブルブル

加蓮「ひひひっ」

27 : 以下、名... - 2020/08/02 18:54:28.13 ypMqto370 27/33

藍子「……ふう。落ち着きました。では、次からはがさごそせずに、すぐにスマートフォンを取り出せるようにしておきますね」

加蓮「そもそも、撮るなっ」ペシ

藍子「きゃ」

加蓮「いい加減、たまにはシャッターを外に向けなさいよ。元々アンタって人より風景写真を多く撮ってたでしょ? なんでもない日常にー、とか言っちゃって」

藍子「な、なんだか言葉に皮肉のようなものが……」

藍子「確かにそうだったかもしれませんけれど、今は、その風景に加蓮ちゃんがいるってことですから!」

藍子「いつも歩く道や、広場に公園、それこそこのカフェだって。加蓮ちゃんがいて、また違う風景になるんですよ」

藍子「だから、きっと私がカメラを向けている先はそんなに変わっていないんです。ただ……ちょっぴりだけ、世界がすてきになったってだけ♪」

加蓮「…………」ペシ

藍子「痛いっ。なんで~っ」

28 : 以下、名... - 2020/08/02 18:54:57.75 ypMqto370 28/33

加蓮「今日の藍子は真面目ちゃんすぎてムカつく」

藍子「いいじゃないですか~」

加蓮「急に真面目な話をしすぎ」

藍子「加蓮ちゃんだって、よくお話してる!」

加蓮「昔の加蓮ちゃんは捨てました」

藍子「だから、捨ててませんっ。私と出会ったばかりの加蓮ちゃんだって、今の加蓮ちゃんの中に、ちゃんといるハズです」

加蓮「それさー。その頃のことってさ、もう最近、なんか子供時代より捨てたい思い出になりつつあるんだけど」

藍子「えっ……」

加蓮「いや、今も子供だけどね」

藍子「……私と出会わない方が、よかったってことですか?」

加蓮「え。……そうじゃないっての。……違うって分かってるでしょ、それ」

藍子「よかった……。分かっていても、ひょっとしたら……なんて。悪い想像をしてしまいました」

加蓮「アンタね……あぁ、でもあるよね。何かに落ち込んでる時に、全然違う別のことまで余計に不安に思っちゃう時」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「そうなんですかって、今の藍子がそうだったんだと思うけど」

29 : 以下、名... - 2020/08/02 18:55:28.98 ypMqto370 29/33

藍子「私、こんなにず~んって落ち込むことは、あんまりないから……。あはは……加蓮ちゃん、本当に私の知らないことをいっぱい知ってて、すごいな……」

加蓮「……藍子の、そうやってすぐ人のいいところを見つけれるのはいいことだと思うけど、今この流れでそれ言うのはやめときなさい。余計凹むわよ?」

藍子「……そうしますね。今だけは、ほんの少しだけ、目を閉じていることにします」

加蓮「ん。――あれ? え、店員さん。なんで来て……あ。そういえば、藍子が呼んだんたっけ」

藍子「あの……ひょっとして、ずっと待っていてくれた、なんて……」

加蓮「うっわ……気付かなかった……! 藍子ならまだしも、私までほったらかしにしてた……! 店員さん、ごめんっ」

藍子「店員さん、笑ってくれています……でも、私からもごめんなさいっ」

加蓮「つい聞き入ってしまった、って。客の会話に聞き入るなっ」

藍子「加蓮ちゃん! 今は、私たちの方がごめんなさいって言う番ですから」

加蓮「それもそっか」

30 : 以下、名... - 2020/08/02 18:55:57.87 ypMqto370 30/33

藍子「ええと、そうです。注文です。とびきり甘いアイスココア、お願いします♪ 加蓮ちゃんは?」

加蓮「今日はお揃いのヤツで。あ、待って。私のは飲める程度にしてね」

藍子「だそうです♪ お願いしますね」

加蓮「……店員さんがすぐ近くまで来てたの、マジで気付かなかったんだけど」

藍子「なんだか意外……。加蓮ちゃんが、周りの視線に気づかないままでいるなんて」

加蓮「普段なら絶対ないことだよ。いくら店員さんだって言っても……。え、私、そんなに藍子の悪影響を浴びてるってこと?」

藍子「あ、あくえいきょうをあびてる……」

加蓮「うっわ、なんか信じられない。そうなんだ……。でもさ。ほら、藍子。私なんてそんなものなんだよ」

藍子「……、」

加蓮「そーいうこと。ミスだってするし、藍子に呑まれかけるし。……改めて言うとなんかムカついてきた」

藍子「……」フルフル

加蓮「そう考えるのは無理?」

藍子「……ちょっぴり難しいかもしれません」

31 : 以下、名... - 2020/08/02 18:56:27.97 ypMqto370 31/33

加蓮「ホント、目が良すぎて真面目ちゃん。だから藍子は優しいんだろうけど、そーいうの、損だよ?」

藍子「少しだけ、気をつけてみますね。……でも、どう気をつけたらいいのでしょうか」

加蓮「まず、さっき言ったように目を瞑ります」

藍子「目をつむって……」ギュ

加蓮「わがままな自分を思い出します」

藍子「わがままな自分……」ウーン

加蓮「こうしてほしいな、とか、こうなってくれたらいいのに、って思うこと。いくつか思い浮かんだら、そのうちの1つを選んで」

藍子「1つ選んで……」

加蓮「具体的には?」

藍子「私……もっと、トップアイドルに近づきたい――!」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……あれっ?」パチクリ

32 : 以下、名... - 2020/08/02 18:57:01.38 ypMqto370 32/33

加蓮「いや……。ごめんね、藍子……」

藍子「か、加蓮ちゃん? あの、どうしてそんなに、つらそうな顔――」

加蓮「藍子の欲望を曝け出して思いっきり笑って、場合によっては店員さんも巻き込んでやろうって思ってたんだけど……そこまで真面目な返事が来るとは思わなかったから……」

藍子「……? …………加蓮ちゃんっ! これでも、私は真剣に考えているんですっ!」

加蓮「うん。分かってるんだけど……。ホントごめん……」

藍子「も~っ! あっ、店員さん。ココア、ありがとうございま……」チラ

藍子「……♪」

藍子「店員さんっ。さっき、加蓮ちゃんとお話して、こっちのとびきり甘くしてもらったココアは、加蓮ちゃんが飲むことになりました♪」

加蓮「……は? え、ちょっと」

藍子「せっかくいれてくださったのに、なんだかごめんなさい。……気にしないでいい、ですか? ありがとうございますっ」

藍子「では、こっちのひかえめな味の方を、私がいただきますね♪」

加蓮「ちょっと!?」

藍子「いただきます。……ふふ、おいしい♪」

加蓮「ちょっと!!??」

33 : 以下、名... - 2020/08/02 18:58:00.24 ypMqto370 33/33

藍子「加蓮ちゃん――」

加蓮「ぐ……」

藍子「ねっ?」

加蓮「……いただきます」ズズ

加蓮「あっっっっっっま! あまっ……甘いんだけど、これ!」

藍子「~~~♪」ズズ

加蓮「優しくしてあげて損した! もう勝手に悩んで勝手に泣いてなさい! ばーかっ」

藍子「まあまあっ。飲めなくなったら、あとは私が飲みますから」

加蓮「ずずっ……うぇー。あー、もー……甘いけど、美味しいって言えば美味しいんだし、なんか最後まで飲まないと負けた気がするー……」

藍子「~♪ ふふっ」


【おしまい】

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