整体師「それじゃ首をちょっと動かしますねー」
男「はい」
整体師「えいっ!」ボキッ
男「あれ?」
男「あの……俺の首……フクロウみたいになってない?」
整体師「いっけなーい! 首の骨折っちゃった!」
男「やっぱり! 俺の首フクロウみたいになってるもん! うつ伏せなのに天井見えるもん!」
整体師「どうしよう……」
元スレ
整体師♀「いっけなーい!首の骨折っちゃった!」ボキッ
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1595753962/
整体師「なんとか戻しますんで……」
男「頼むよ」
整体師「ふん!」ゴキッ
男「お、戻った……いや」ガクン
男「かえって悪化してるよ! 首が支えとしての機能失ってるもん!」ブラーン
整体師「あたしが悪いのに頭下げられても困ります!」
男「下げたくて下げてるんじゃないってば!」
男「何とかしてよ!」
整体師「じゃあ、こうしましょう」
整体師「首だけ折れてるとアンバランスなので、腕も折っちゃいましょう!」
男「なるほど!」
整体師「じゃあ右腕を……ほいっ」ボキィッ
男「ひぎぃぃぃぃぃっ!」
整体師「ふぅ、これでなんとか……」
男「いや、右腕だけ折れてると、見栄えが……」
整体師「じゃあ左腕も!」ボキィッ
整体師「念入りに!」ベキィッ
男「あ、ぐ、ぐ、ぐ……!」
整体師「ただ……こうなると両足が気になっちゃいますね」
男「ああ、足だけしっかりしてるってのもな」
整体師「じゃあ、両足も!」
ベキボキィッ
男「むぐぅ~!」
男「あ、あ、あ……」ビクンビクン
整体師「うーん、こうなると……他の骨も気になってきちゃうところですね」
男「え?」
整体師「全身をやっちゃいましょう!」
整体師「肋骨!」バキベキッ
整体師「鎖骨!」ボキッ
整体師「恥骨!」ベキッ
整体師「肩甲骨!」ボグッ
整体師「大腿骨!」ボキッ
整体師「舌骨!」パキッ
整体師「胸椎!」ボキッ
整体師「中足骨!」ビキッ
整体師「胸骨!」バキッ
整体師「尾骨!」ベキッ
…………
……
男「どうしてくれるんだよ!!!」グニャリ…
整体師「すいません……!」
男「これじゃフクロウどころかタコじゃねーか! グニャグニャだよ!」
整体師「本当にごめんなさいごめんなさい!」
整体師「お代は結構ですので……」
男「そうしてくれる?」
男(全身の骨は折られたけど……金は浮いたからイーブンってとこかな)
男(あれから――)
男(最初は移動にも一苦労だったけど、だんだんと慣れてきた)グニャグニャ
男(骨が折れてグニャグニャになった体で反動をつければ、かなりのスピードで移動できる)グニャグニャ
男(だけど、せっかくこんな体になったんだ。もっと変わったことをやってみたい)
男(いいアイディアはないかなぁ……)
男「ん?」グニャ
男「今日やるこの番組……見てみるか」
TV『今日の≪すごい生き物≫は、食卓でおなじみ、タコ特集!』
TV『こちらの映像をご覧下さい!』
TV『タコはなんと、自分の体の柔らかさを生かし、どんな隙間にも入ってしまうんです』
TV『わずか3cm程度の隙間もこの通り!』
男「……」
男「これだ!」グニャン
男(ここは誰もが知る大富豪の屋敷……)
男(せっかくこんな体になったんだ)
男(忍び込んで、金目のもんをごっそり頂いてやるぜ!)
男(この隙間から中に入れそうだな……)
男(よいしょ、よいしょ)
グニュグニュグニュ…
男(ん?)
大富豪「フフフ……」
大富豪「い~いタンスだ……」スリスリ
男(そういえば、こいつは高級家具の販売で大儲けしたんだったな)
男(さすがにあんなもん持って帰るわけにはいかない……)
大富豪「ここを開けると……」ガラッ
大富豪「この通り!」
男(なんか明らかにヤバイ薬物みたいなの出てきた!)
大富豪「家具の売上なんかたかが知れている……」
大富豪「また大儲けさせてくれよぉ~」チュッ
男(そうか……こいつ、高級家具をかくれみのにしてああいう薬物を……)
男(スマホを持ってきて正解だったぜ)
男(こっそり写真を撮って……ついでに証拠にヤクを一つばかり頂いていこう)
大富豪「なんですか、あなたがたは?」
刑事「家宅捜索を行う」
大富豪「は? なんの権限があって……」
刑事「すでに礼状は出ている」サッ
大富豪「な……!」
刑事「では失礼する」
大富豪「やめろ……やめてくれぇぇぇっ!」
TV『大富豪が逮捕されました……』
週刊誌『大富豪の裏の顔! 正体は密売人!』
ネット『正体暴いた奴有能すぎない?』
男(これは……なかなか気持ちいいな)
男(よぉし、この体を生かしてもっともっと……)
借金取り「ヒャッハッハァ!」
借金取り「うまく借金背負わせて、国宝級の皿を手に入れてやったぜ!」
男「ちわーっす」グニュリ
借金取り「うわ!?」
男「たかが10万の借金に対し、数億円の価値がある皿を奪うのは明らかにおかしい……」
男「よってこの俺が奪い返す」サッ
借金取り「あっ! 待ちやがれぇっ!」
社長「この書類さえ処分してしまえば……脱税の証拠を消せる!」
社長「このライターで……」シュボッ
男「おーっと」サッ
社長「あっ、書類を!」
男「あまり偉そうなこといえる身分じゃないが、ちゃんと税金は納めなきゃダメだぞ」
社長「何者だ、お前!?」
男「うーん、そうだな……“怪盗”とでもしとこうか」グニュリ
社長「ひえええ……あんな隙間から逃げていく……!」
芸能人「うひひひ、可愛いねぇ……」
少女「うう……」
芸能人「子役として売れたかったらおじさんの言う通りのプレイを……」
男「やれやれ、売れっ子芸能人がこんな変態だったとはな」グニョ
芸能人「!?」
男「女の子は返してもらう。ついでにお前の趣味は全部暴露する」
芸能人「あ、あああ……!」
キャスター「“怪盗オクトパス”の暗躍について、どうお考えですか?」
コメンテーター「やってることは法律に触れてますから、大っぴらに褒めることはできませんが……」
コメンテーター「しかし、痛快に感じてしまうのも事実ですね」
キャスター「実際、オクトパスに助けられた人も多いですからね」
キャスター「おっと、ここで速報が入りました」
キャスター「えぇと……コメンテーターさんが自宅に隠していた遺体が……オクトパスによって発見された、と……」
コメンテーター「……え」
整体師「これで最後のお客さん終了! 今日は店じまいしよっと!」
整体師「……ん?」
グニュグニュ
整体師「換気口から……」
男「よいしょ、よいしょ」グニュグニュ
整体師「あっ、あなたは!」
男「ども、骨休め中失礼」グニャリ
整体師「今話題のさまざまな悪を暴く“怪盗オクトパス”ってあなたですよね?」
男「ああ、その通り」
整体師「やっぱり! 今や大人気ですよ! この間もテレビで――」
渋谷の女子高生100人に聞きました! “タコ”といったら?
怪盗オクトパス 59人
たこ焼き 21人
ランチャー・オクトパルド 13人
たこ八郎 7人
整体師「こんな具合でしたもん!」
男「有名になるためにやってるわけじゃないとはいえ、嬉しいね」
整体師「なにかご用ですか?」
男「今度、政府から受けた大仕事をこなさなきゃいけなくてね」
男「だけど、今のグニャリ具合では心もとない。失敗するかもしれない」
男「だからもう一度、全身の骨を砕いて欲しい。粉骨砕身して欲しい」
整体師「分かりました! グニャグニャどころかグシャグシャにしてあげます!」
男「ありがとう……!」
バキッ ボキッ ベキボキバキッ ゴキッ ビキッ ボキッ ペキッ ボキボキッ バキボキゴキベキゴキ…
研究者「フハハハハーッ!!!」
研究者「ついに完成したぞ! 恐るべきウイルスが!」
研究者「このウイルスに感染すれば、その者は問答無用で“骨粗しょう症”になってしまうのだ!」
研究者「ただし……我らには感染しないがな」
部下A「おおっ!」
部下B「これで……世界は我らのものに!」
研究者「さあ、後は培養すれば……」
男「おーっと」グニュグニュ
研究者「うわぁっ!? なんだ貴様!?」
男「このカプセルにウイルスが入ってるのか」サッ
研究者「あっ!」
研究者「か、返せ!」
男「こいつを爆破すりゃいいんだな」
ボォンッ!
男「これでよし。こんなウイルスばら撒かれたら商売あがったりだ」
研究者「あ……あああああああああああああっ!!!」
研究者「貴様ァァァァァ! なんてことしやがるァァァァァ!!!」
男「お疲れさん、“骨折り損のくたびれ儲け”ってとこだな」グニャグニャ
研究者「こ……このタコ野郎を殺せぇぇぇぇぇ!!!」
男「タコですみません」
部下A「死ねえ!」ガガガガッ
部下B「このおっ!」ガガガガッ
男「おっと」グニャッ
部下A「くそっ、当たらねえ!」ガガガガガッ
部下B「なんて動きだ!」ガガガガガッ
男「こっちこっち」グニュグニュ
研究者「……」
研究者(あいつ、わざとギリギリ当たらないように避けてる……。部下たちを煽るように……)
研究者「待て! 撃つのに夢中になるな!」
部下AB「当たれええええええ!」ガガガガガッ
研究者「バカ! 武器弾薬のある部屋に撃ち込んでしまう!」
ガガガガガガッ…
ドゴォォォォォォン!!!
TV『研究所で大爆発が起こりました……』
TV『この研究所では危険なウイルス研究が行われていた疑惑もあり……』
整体師「これはきっと……あの人の仕業だわ」
整体師(だけど大爆発、か)
整体師(あの人は大丈夫だろうか……)
整体師「私に骨を拾わせないで下さいよ……!」
カタ…
整体師「排水口の蓋が……」
男「よっと」グニュグニュ
整体師「やっぱり!」
男「いやー、今回の仕事は骨があった。もし君に骨を砕いてもらってなきゃ、しくじってたかもしれない」
整体師「よかった……!」
男「頼みがある」
整体師「なんでしょう?」
男「これからも……俺のために一生骨を折ってくれないか? 俺には君が必要なんだ」
整体師「……!」
整体師「喜んで」
男「俺はどんなものでも盗み出せる怪盗だが、君からは何かを盗むわけにはいかないな」
整体師「いえ、そんなことはありませんよ」
整体師「怪盗オクトパスはとんでもないものを盗んでいきました」
男「え?」
整体師「それは――」
整体師「私の……心です!」
男「フフッ……」
男「俺こそ、君には骨抜きにされてしまったよ」
おわり