1 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:02:31.80 Syf1tc1m0 1/222

あらすじ

山荘で起きた殺人事件、その容疑者は佐久間まゆ。
探偵高峯のあは真実に辿り着き、彼女を救えるか。

前話
大石泉「高峯のあの事件簿・都心迷宮」
http://ayame2nd.blog.jp/archives/22886190.html

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。

それでは、投下していきます。

元スレ
浅野風香『高峯のあの事件簿・佐久間まゆの殺人』
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1550664151/

2 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:14:33.03 Syf1tc1m0 2/222

元ネタ

木場真奈美「のあの事件簿・佐久間まゆの殺人」
http://ayamevip.com/archives/54755780.html

設定はリメイク前と変更しました。

3 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:15:50.63 Syf1tc1m0 3/222

メインキャスト

探偵・高峯のあ
助手・木場真奈美
依田芳乃

佐久間まゆ

星輪学園

高等部2年A組B班
担任・川島瑞樹 (家庭科・マナー)
副担任・相川千夏 (英語)

高森藍子

浅野風香
緒方智絵里
工藤忍
長富蓮実
北条加蓮
岡崎泰葉
如月千早 (特別出演)
今井加奈
堀裕子
脇山珠美

柳清良 (化学)

クラリス (宗教)

刑事一課和久井班
警部補・和久井留美
巡査部長・大和亜季
巡査・新田美波

科捜研
松山久美子
梅木音葉
一ノ瀬志希

少年課
巡査部長・相馬夏美
巡査・仙崎恵磨

のあが大好きなアイドル・前川みく
大槻唯

古澤頼子

4 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:18:41.18 Syf1tc1m0 4/222

前編 (~58)



炎の記憶があります。

火事がありました。

火事があったみたいです。

黒い煙が上がっていました。

ちょうど、遊んでいて外にいたんです。

家族一緒にテレビを見ていました。

マンション近くの公園で、小さな山の上からそれを見上げていました。

わたしは、黒い煙の意味がわかりませんでした。

電話が鳴って、お父さんは急いで出て行きました。

悪い予感がしていました。

無事でよかった、と迎えに来たお父さんが言ってくれたんです。

事故じゃなくて事件だと言ってました。

ごめんなさい、とお母さんは言いました。

わたしは、その日のさよならの意味は後で知りました。

色々な人が離れ離れになりました。

行きたくなかったけれど、行くしかありませんでした。

今まで住んでいた部屋には戻れませんでした。

知らなくていいことがわかりました。

マンション火災は大きな被害が出てしまいました。

たくさんの大切な人が亡くなりました。

亡くなった人は戻らないけれど、残された人達は真実を求めました。

家族が、友達が、火事で命を落としました。

不幸な事故だったんです。

調べた結果、不幸な事故ではありませんでした。

……不幸な事故だと思えれば良かったのに。

5 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:19:38.94 Syf1tc1m0 5/222

ガス漏れ、荷物の散乱、防火に適さない安普請、それに不完全燃焼で燃え続ける断熱材。

火事が大きな被害を出した理由がどんどんとわかっていきました。

断熱材は毒ガスになりました、長い時間をかけて醸成された悪意のように。

亡くなった人の半分以上が中毒死だった、と書いてあります。

多くの人を逮捕したそうです。

火事を見上げる人達から、逃げるように去りました。

わたしは、その時は何もわかりませんでした。

火事の話は、私には関係ありませんでした。

火事を見上げる人達に交じり、同い年くらいの女の子がいました。

大切な人は無事でした。

火事の原因まで突き止めてしまいました。

ごめんなさい、と口に出さずに思いました。

わたしの大切な人は無事だったから、思うこともあるんです。

結果として、誰かの大切な人を傷つけてしまったのかもしれません。

誰かも、何を思っていたかもわからないのに。

月日が経って、あやまりグセがついていました。

やがて、私が大切な人を失う時が来てしまいました。

顔をあげずに、ごめんなさい、と繰り返していました。

あやまらなくていいように、してあげないと。

お父さんは生前に言っていました。怨みを残さないために強い心を持つんだ、って。

不幸なことも、逆怨みしたいようなことも、沢山ありました。

怨みの原因がなくなってしまえば、謝らずに新しい幸せを手に入れられるかな。

私も、お父さんみたいに、歯を食いしばって止められる強い人になれたかな。

たくさんたくさん謝って。

たくさんたくさん泣いて。

そんな私が手に入れた、手に入れることを赦してくれた大切な人達を。

私は決めました、大切な人達を守ることを。決めました。

序 了

6 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:21:57.27 Syf1tc1m0 6/222



高峯家・高峯のあの自室

高峯家
高峯ビルの4階。リビングは高峯探偵事務所と共用。2人の同居人に、宿泊客がいても十分な広さ。

コンコン……

高峯のあ「ん……」

佐久間まゆ「のあさん、おはようございます」

高峯のあ
高峯探偵事務所の所長。中学生の頃に両親を失って、長い間一人暮らしだった。

佐久間まゆ
のあの助手。親族の家を転々とし東郷邸で暮らしていたが、事件を機に高峯家に居候している。

のあ「おはよう、まゆ……早いのね」

まゆ「うふふ、今日は特別ですからぁ」

のあ「……山荘に行く日ね、ちゃんと把握しているわ」

まゆ「昨日も、夜更かししてたんですかぁ?」

のあ「していないわ。朝方でないだけよ」

まゆ「知ってます」

のあ「高森さんは起きてるのかしら」

まゆ「ええ、藍子ちゃんは早起きなんですよぉ」

のあ「彼女らしいわね」

まゆ「のあさん、準備が出来たら降りて来てくださいね」

のあ「ええ」

まゆ「二度寝はダメ……ですからね」

7 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:24:46.17 Syf1tc1m0 7/222



高峯探偵事務所

高峯探偵事務所
高峯のあが経営する探偵事務所。これから少なくとも3日は臨時休業。

のあ「おはよう」

高森藍子「のあさん、おはようございます♪」

高森藍子
まゆのクラスメイト。昨晩は高峯家にお泊り。いつも早寝早起き。

のあ「高森さん、準備は万端そうね」

藍子「はい!のあさんもスーツ、カッコイイですっ」

のあ「ありがとう。真奈美は」

木場真奈美「ここにいる。高森君、お手伝いありがとう」

木場真奈美
のあの助手。長崎にいる両親とは疎遠ではない、とのこと。

藍子「こちらこそ。私の分までお弁当用意してもらって、ありがとうございます」

真奈美「3人も4人も変わらないし、喜んでくれるなら何よりだ」

のあ「楽しみにしてるわ」

藍子「お弁当包みますね」

真奈美「それは私がやろう。のあは朝食を食べるといい」

藍子「朝はベーコンと目玉焼きです」

真奈美「登山も控えているからな。しっかりと栄養補給だ」

のあ「ありがとう、いただきます」

真奈美「本格的な登山でもないから、この程度で充分だろう」

のあ「本格的なものも作れるの?」

真奈美「もちろん」

藍子「真奈美さん、凄いですっ」

真奈美「ところで」

8 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:25:51.22 Syf1tc1m0 8/222

のあ「どうしたのかしら?」

真奈美「登山があるのはわかっているな?」

のあ「もちろん」

真奈美「何故スーツなんだ?」

のあ「向こうで着替えるから安心してちょうだい。昨日まゆに一式用意してもらっているわ」

真奈美「そういうことか」

藍子「私も制服で行った方が……?」

のあ「問題ないわ。要綱には制服で来ないことを推奨しているわ」

真奈美「ちゃんと読んでるんだな、意外だ」

のあ「意外、かしら」

真奈美「任せきりだからな」

のあ「文章を読むのは得意よ」

藍子「得意だから、なんですか?」

のあ「人は得手不得手があるわ。助け合いは大切よね?」

藍子「はいっ、とっても」

真奈美「高森君、多分都合の良い助け合いを期待してるだけだぞ」

まゆ「皆さん、雪乃さんから紅茶を貰ってきましたぁ」

のあ「まゆ、ありがとう」

藍子「カップを用意しますね」

まゆ「藍子ちゃん、ありがとう」

のあ「雪乃に留守の話は」

まゆ「ちゃんとお伝えしてますよぉ。ご安心くださいませ、って」

のあ「雪乃なら安心ね」

まゆ「菜々さんがお掃除と換気をしてくださるそうです」

真奈美「合鍵は相原君に渡してあるんだったな」

のあ「そこまでは頼んでいないけれど、厚意には甘えましょう」

藍子「良い香り……みなさん、どうぞ」

真奈美「ありがとう、ふむ、いつもとまた違うな」

まゆ「そう言えば、雪乃さんから茶葉をお土産に頂いたんです。先生達に、って」

のあ「ありがたいわ。雪乃の選択なら間違いないでしょう」

まゆ「運動にも紅茶は良いそうですよぉ」

のあ「紅茶を……確かに、昔の小説では運動後に飲んでるわね」

藍子「落ち着きますね……」

9 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:26:30.05 Syf1tc1m0 9/222

真奈美「だが、落ち着き過ぎは良くないな。飲み終わったら出る支度をしてくれ」

まゆ「はぁい」

のあ「時間には余裕を、準備は念入りに。大切なことね」

真奈美「時間にはマイペースだと思っていたが、珍しいな」

のあ「ライブの開演時刻は変えられないもの」

藍子「らいぶ……?」

真奈美「ライブのチケットが当たってから、こんな感じだ」

藍子「楽しみがあっていいですねっ!」

のあ「ええ。みくにゃんは私に癒しをくれるわ」

真奈美「夢を見るのもいいが、現実も見てくれ。怪我だけはないようにな」

のあ「わかってるわ。ところで、高森さん?」

藍子「私、ですか?」

のあ「手先は器用かしら」

真奈美「何を考えているかは大体想像がつくが、巻き込むのは良くないぞ」

10 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:27:18.25 Syf1tc1m0 10/222



幕間

昔から聡明ではあったわ。

「大丈夫、暮らしていける」

「寂しくなんか、ないよ」

「だから、ここで暮らす」

内心を全て包み隠して、誰にも本心は悟らせたくなかった。

強いのではなくて。

弱さを認められない中学生だっただけ。

伯母は私の言葉を受け止めて、望み通りにしてくれた。

ありがたかった、けれど。

泣いていいと、言って欲しかったのかしら。

あの時、私が求めていたのは誰だったのかしら。

あの時、私が求めていた誰かになれているかしら。

違うわね、望んだのは、私。

幸せになることから逃げないで、と望んだのは私。

他の誰かじゃなくて、あなたに、それを願ったのは私。

だから、私は身勝手に願うわ。

幸せな未来を。

いつか羽ばたく未来を。

今度こそ悲しい別れではないように。

祈るわ。

幕間 了

11 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:29:12.24 Syf1tc1m0 11/222



高峯家の乗用車・車内

高峯家の乗用車
のあが所有する外国製の乗用車。この他にスポーツカーと事務所の業務車も所有している。

のあ「ん……」

真奈美「お目覚めか」

のあ「そうみたいね」

藍子「最近、お疲れなんですか?」

のあ「そういうわけではないわ。心地よいから眠ってしまったようね」

真奈美「車と運転が褒められた、ということでいいかな」

のあ「ええ」

まゆ「優しい寝顔でしたよぉ、のあさん」

のあ「そうだったのかしら」

藍子「はい、とっても」

真奈美「良い夢でも見ていたか?」

のあ「……」

まゆ「のあさん?」

真奈美「変な質問だったかな?」

のあ「……いいえ、その通りね」

藍子「まぁ。どんな夢だったんですか」

のあ「面白いものはないわ……穏やかな場所で佇んでいただけよ」

真奈美「そうか」

のあ「後どれくらいで到着かしら」

真奈美「20分というところかな」

のあ「……思ったより寝てたのね」

まゆ「そうですよぉ、出発してすぐにすーすーって」

真奈美「40分ぐらいは寝てたな」

藍子「とっても、穏やかな夢だったんですね」

のあ「せっかくの機会なのに、もったいないことをしたわね」

真奈美「なに、時間はたっぷりとあるさ」

のあ「今日はこれから……楽しむわ」

12 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:30:03.05 Syf1tc1m0 12/222



星輪学園椋鳥山荘・駐車場

星輪学園
清路市内に所在する歴史ある私立学校。まゆは高等部2年に編入した。

椋鳥山荘
星輪学園が保有する山荘。旧館と礼拝堂が敷地内にある。住居がない山頂付近のため、ケータイの電波は圏外。

藍子「到着ですっ!うーん、とっても良い天気!」

まゆ「はい……とっても」

のあ「……日差しがまぶしいわ」

クラリス「お待ちしておりました」

クラリス
星輪学園の教会に住み込みのシスター。教職も務めており、道徳と宗教の授業を担当している。

まゆ「シスタークラリス、おはようございます」

藍子「おはようございますっ!」

クラリス「佐久間さん、高森さん、おはようございます」

のあ「おはようございます、シスタークラリス」

クラリス「高峯様お待ちしておりました、本日はよろしくお願い致します」

のあ「こちらこそ」

藍子「シスター、みんなは着いてますか?」

まゆ「先生達のお車もありますし……」

クラリス「はい。皆様お揃いですよ」

藍子「大変!まゆちゃん、荷物を置きに行きましょう」

まゆ「はい……」

のあ「行ってしまったわ。慌てる時間ではないのに」

クラリス「この年齢での時間は貴重です、無理もありません」

真奈美「のあ、荷物を部屋まで運んでくる」

のあ「手伝うわ」

真奈美「一人でも問題ない。リフレッシュでもしてるといい」

のあ「また、私を置いて行ってしまったわ。そんなに気を使わなくてもいいのに」

クラリス「善意に甘えられることは、人としての強さです」

のあ「そうなのかしら」

クラリス「貴方様なら、お分かりのはずです」

のあ「……そうね」

クラリス「施設をご案内いたします。いかがでしょうか」

のあ「お願いするわ。あちらの建物は」

13 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:30:40.22 Syf1tc1m0 13/222

クラリス「礼拝堂です。元はといえば古い礼拝堂があったのがここの始まりです」

のあ「星輪学園の所有物だったのかしら」

クラリス「いいえ。付き合いもなかったようです」

のあ「買い取ったのかしら」

クラリス「その通りです。朽ち果てた古い建物だったそうですが、改修しましたのでご安心くださいませ」

のあ「隣のクラシックカーは」

クラリス「私の愛車です」

のあ「良いものに見えるわ」

クラリス「金銭的芸術的な価値はわかりませんが、私には価値があるものです。そう言ってくださると先代の所有者達も浮かばれます」

のあ「先代……星輪学園が代々保有してるのかしら」

クラリス「その通りです。文化財としての保存も打診されたそうですが、この通り私と共にしてくださっています」

のあ「動いていた方がよいと言うわね」

クラリス「名を遺すのは死後で良いと……言葉が悪かったですね、動かなくなっても機械ならば残りますから」

のあ「ええ、良いと思うわ」

クラリス「定期的なメンテナンスが必要な手のかかる車ですが、大切なものです」

のあ「手のかかるものほど、愛着が湧くものよ」

クラリス「その気持ちもわかります。礼拝堂の中もご案内します。こちらへどうぞ」

14 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:33:24.87 Syf1tc1m0 14/222



椋鳥山荘・礼拝堂

椋鳥山荘・礼拝堂
星輪学園の礼拝堂。どことなく神秘的。滞在中、クラリスは奥の控室で寝泊まりする。

のあ「シスターの別荘?」

クラリス「管理も兼ねて使っています。利用する住民の方も近くにはおりませんから」

のあ「気分転換には良い場所だと思うわ」

クラリス「良い空気と静けさが必要な時はこちらに」

のあ「シスターにもそんな時があるのですか」

クラリス「私も人の子ですから。時には小さなことで悩みます」

のあ「ケータイの電波も入らないものね」

クラリス「故に、主の声に耳を傾けられる場所ですよ」

のあ「彼女のように?」

今井加奈「……」

今井加奈
まゆのクラスメイト。おしゃべりが好きな女の子だが、今は静かに祈っている。

クラリス「主の声に耳を傾けているのは私です、彼女ではありませんよ」

加奈「……あ」

のあ「お邪魔だったかしら」

加奈「いいえ!高峯さん、おはようございます!」

のあ「今井さんだったわね、おはよう。お祈りかしら」

加奈「お祈り……なのかな?」

クラリス「違うかもしれません」

加奈「たぶん、座禅とか瞑想とかに近いのかな?クラリスさんのお祈りとは違うと思います」

のあ「以前、シスターと何を信じるかを話したわ」

クラリス「そうでしたね、貴方様は自分の正義と」

のあ「あなたは」

加奈「うーん……友達とか?」

クラリス「時間をかけて答えを見つけていけばよいでしょう」

加奈「はい……あっ!」

浅野風香「あ……すみません、お邪魔でしたか」

浅野風香
まゆのクラスメイト。小説を読むのも書くのも好き。最近は書く方のアドバイスを受けているとか。

クラリス「そんなことはありませんよ」

加奈「信じられる友達が来ました!」

のあ「信じられる人は幾らいても、問題はないわね」

15 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:34:29.03 Syf1tc1m0 15/222

風香「すみません、挨拶が忘れてました。高峯さん、おはようございます」

のあ「そんなに気にしなくてもいいわ。おはよう」

クラリス「何かご用ですか」

風香「遅くならないうちに加奈ちゃんを呼びに来たんです。着替えもしてないから……」

のあ「着替えをしないとね、私もまだだけれど」

加奈「風香ちゃん、呼びに来てくれてありがとう!いこっ!」

風香「うん」

クラリス「……」

のあ「仲が良さそうね」

クラリス「ええ。幼馴染だそうです、離れていましたがこの学び場で再会したそうですよ」

のあ「まゆもそんな話をしていた記憶があるわ」

クラリス「簡単に縁は切れません」

のあ「そうだといいわね。シスター、他に案内してくださる所は」

クラリス「あちらに見える旧館があるくらいです。老朽化していますので、基本的に立ち入りは禁止です」

のあ「それなら、私も着替えに行こうかしら」

クラリス「それが良いかと。登山から始まりますから」

のあ「玄関は階段を上がった先だったかしら」

クラリス「はい」

のあ「シスター、登山はなさるのですか」

クラリス「山荘でお待ちしております」

のあ「……そう」

クラリス「お気をつけて」

16 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:35:39.58 Syf1tc1m0 16/222



椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

真奈美「ちょうどいい所に来た。川島先生に挨拶をしていたところだ」

川島瑞樹「高峯さん、おはようございます!」

川島瑞樹
まゆ達2年A組の担任。担当は家庭科とマナー。よく喋る花の28歳。

のあ「川島先生、お世話になります」

瑞樹「こちらこそ!高峯さん、木場さん、今日はありがとうございます!」

のあ「いいえ、大丈夫よ」

瑞樹「お忙しいのに」

真奈美「のあは忙しいか?」

のあ「時間が自由に取れるのは自営業の特権よ」

瑞樹「またまた!名探偵と助手ですもの、後でお話聞かせてくださいね!」

のあ「お望みであれば」

真奈美「のあ、着替えるか?」

のあ「そのつもりよ。川島先生、また後で」

瑞樹「はい。オリエンテーションの後にみんなに紹介するから、その時に」

真奈美「1階の大教室だそうだ」

のあ「わかったわ。真奈美、私達の部屋は?」

真奈美「3階の東側だ、行くとしよう」

17 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:36:55.72 Syf1tc1m0 17/222



椋鳥山荘・3階・ロビー

岡崎泰葉「あ、おはようございます」

岡崎泰葉
まゆのクラスメイト。礼儀正しい前髪ぱっつんの少女。読書も好きだとか。

のあ「おはよう」

泰葉「今日はよろしくお願いします、高峯さん」

のあ「こちらこそ、岡崎さん」

真奈美「準備万端のようだな」

泰葉「はい、怪我だけは気をつけないと」

のあ「そうね」

泰葉「登山はしないのですか?」

のあ「ご一緒するわ」

真奈美「これから準備するよ」

のあ「また、後で」

泰葉「わかりました。時間なので失礼します」

のあ「……」

真奈美「のあ、どうした?彼女に何か気になることでもあるのか?」

のあ「真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「カワイイわね、あの子」

真奈美「はい?」

18 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:37:26.68 Syf1tc1m0 18/222

のあ「カワイイじゃない。そうでしょう?」

真奈美「それについては同意するが、突然言うから驚いた」

のあ「驚かれるようなことだったかしら、よく言ってるつもりだったけれど」

真奈美「前川君と佐久間君あたりをそう言うのとは違うだろう」

のあ「その通りね。まゆに似てるのかしら」

真奈美「似てる……か?」

のあ「みくにゃんとまゆのカワイイだったら、まゆに近いと思うわ」

真奈美「まぁ、警戒しているよりはいいか」

のあ「いいわね、前髪ぱっつん」

真奈美「いや、そんな話はしてないが」

のあ「私もしてみようかしらね。帰ったら優に相談してみましょう」

真奈美「残念だが、のあには似合わないと思うぞ」

のあ「確かに、黒髪乙女の特権だったわ」

真奈美「ご乱心が終わったようで良かった」

のあ「黒に染めようかしら」

真奈美「終わってなかった。頼むから辞めておけ」

のあ「冗談よ、優が絶対に染めさせてくれないわ」

真奈美「別の美容室に行ったりしない、んだよな?」

のあ「しないわ。赤の他人である美容師に頼むことに気乗りはしない」

真奈美「のあが人見知りを克服してなくて助かった」

のあ「真奈美、私達の部屋は」

真奈美「東側だ」

のあ「西側は?1階は大教室だったけれど」

真奈美「生徒達の個室だ。覗くなよ?」

のあ「探偵だからこそ、それは心得てるわ」

19 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:38:54.73 Syf1tc1m0 19/222



椋鳥山荘・3階・のあと真奈美の部屋

真奈美「ケータイの電波は圏外か。テレビも置いてない」

のあ「真奈美、準備出来たわ」

真奈美「着替え終わったか」

のあ「ジャージどうかしら」

真奈美「似合ってるよ」

のあ「ありがとう。何か探してるのかしら」

真奈美「何があるかを探してる。テレビのケーブルとか」

のあ「ないわよ。インターネットも」

真奈美「電気だけ、か」

のあ「水道もあるわ」

真奈美「ふむ。星輪学園が負担にするには費用が多かったか」

のあ「電気も水道もたまたま通っていたのを繋げただけね」

真奈美「元から電気と水道はあった、ということは住家があったのか?」

のあ「答えはノー。温泉を汲み上げる施設があるわ」

真奈美「へー、温泉が出るのか」

のあ「昔は湧き出ていたようね」

真奈美「今は」

のあ「ポンプで引き上げれば、出ないこともない、みたいね」

真奈美「それは残念だな」

のあ「温泉ではないけれど、ここにも大浴場があるわ」

真奈美「ふむ、それも良いな」

のあ「安全のために出歩かないように、と」

真奈美「それは要綱に書いてあったな」

のあ「景色もいいわね」

真奈美「良い部屋だな」

のあ「礼拝堂も見れるのね」

真奈美「カーテンは閉めて置かないと光が漏れるな」

のあ「生徒と先生以外の部屋はここしかないけれど」

真奈美「用意してもらった、としておこう」

のあ「それがいいわね」

真奈美「さて、そろそろ時間かな」

のあ「行きましょうか」

20 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:40:28.68 Syf1tc1m0 20/222

10

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

真奈美「おや」

のあ「この山荘に唯一通っている電話線と電話機が、あれよ」

真奈美「今は利用者がいるようだ」

相川千夏「それでは、失礼します」

相川千夏
まゆのクラスの副担任。クールな英語教師。フランス語と若者言葉にも精通しているらしい。

のあ「どちらに電話を」

千夏「学校ですよ、高峯さん」

真奈美「安全対策か?」

千夏「はい。登山前と後で連絡します」

のあ「何かあったら、来てもらえるように」

千夏「危険があるような登山コースではないけれど、電波は入らないので」

真奈美「安全は最優先だ、どんな手間をかけてでも」

のあ「ええ」

千夏「そろそろ、オリエンテーションも終わりですね。最後にお二人を紹介します、大教室へどうぞ」

のあ「真奈美、聞いていいかしら」

真奈美「相川先生は先に教室に入ってしまったぞ、行かないのか?」

のあ「真奈美、私と彼女は似ているかしら」

真奈美「似ている所もあるかもな。質問の意味が分からないが」

のあ「大槻唯は知ってるわよね」

真奈美「知っているが、推しでも増えたのか?」

のあ「星輪学園に少ないタイプだからかしら。私の推しはみくにゃんだけよ」

真奈美「のあ、何か見つけたか?話が唐突すぎるぞ」

のあ「ライブグッズのTシャツをインナーに着てたわ、それだけよ」

真奈美「相川先生が、大槻君のライブTを?」

のあ「そうだけど」

真奈美「フムン、後で話でも聞いてみるか。色々と気になる」

のあ「待たせるわけにはいかないわ、行くわよ」

真奈美「呼び止めたのはそっちだろうに」

21 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:41:40.90 Syf1tc1m0 21/222

11

椋鳥山荘・1階・大教室

瑞樹「次は施設についての説明ね」

のあ「まだ、終わってないようね」

真奈美「そのようだ」

瑞樹「建物は、この山荘と階段を降りた旧館と礼拝堂があるわ。旧館には入らないでね、建物も古いし、物も多いから危険よ」

柳清良「こんにちは。これで終わりですよ」

柳清良
星輪学園の化学教師。穏やかな微笑みでも妙に迫力がある時があるとか。

瑞樹「最初はここね。1階西側がこの大教室よ。1階東側に大浴場と洗面所があるから後で見ておいてね。東側の突き当りの部屋は1階と2階が内階段でつながってる先生達の部屋よ。何かあったら、遠慮せずに来てちょうだい」

のあ「柳先生、今日はお願いします」

清良「こちらこそ、お願いしますね」

瑞樹「2階の西側は皆の個室。ロビーに簡易キッチンもあるから、お茶を淹れたりするのに使ってね。お茶以外のお夜食は美容の敵だからオススメしないわよー」

千夏「柳先生、クラリスさんは」

清良「来ると思うのだけれど、ほら」

クラリス「お待たせいたしました」

瑞樹「3階の西側も皆の個室よ。3階のロビーにもテーブルと簡易キッチンがあるけど、お夜食は乙女の嗜みじゃないわね。3階の東側は、そうね、ちょうどいらっしゃったから紹介するわ!」

のあ「私達かしら」

真奈美「そのようだ」

瑞樹「高峯さんと木場さん。今回、お手伝いをお願いしてるわ」

のあ「高峯です、よろしく」

木場「木場だ、何でも遠慮せずに頼んでくれ」

瑞樹「相川先生と化学の柳先生も一緒に登山してくれるわ」

清良「怪我がないようにしましょうね」

瑞樹「それと、クラリスさん」

クラリス「皆が無事を祈りながら、帰りをお待ちしています」

瑞樹「それじゃあ、三日間よろしくお願いします」

みんな「よろしくお願いしまーす!」

瑞樹「さぁ、最初のスケジュールはハイキング!みんな、準備はいいわねー?山頂で食べるお弁当は持ったわねー?張り切っていくわよ、えいえい、おー!」

22 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:42:45.94 Syf1tc1m0 22/222

12

登山道

登山道
椋鳥山荘南側の脇道が入口である登山道。女子学生にも丁度いいハイキングコースとのこと。道を間違えても同じ頂上に着く安心な登山道設計。

のあ「和やかね」

真奈美「後ろで眺めているのも悪くない」

のあ「ええ」

北条加蓮「ねーねー、高峯さん」

長富蓮実「お聞きしたことがありまして」

北条加蓮
まゆのクラスメイト。体力に少し不安があるとか。学園の中では比較的派手な方。

長富蓮実
まゆのクラスメイト。まゆとはお裁縫仲間。懐かしい雰囲気を感じる。

のあ「どうぞ。ペースは問題ないかしら」

加蓮「うん。前は体力なくて大変だったけど、今は平気」

蓮実「無理はしないでくださいね」

加蓮「貧血気味なのは変わりないし、そうする」

のあ「体調が悪かったら言ってちょうだい」

加蓮「大丈夫だよ、ありがとう」

のあ「問題があれば」

加蓮「その時は?」

のあ「真奈美が背負って行ってくれるわ」

真奈美「私か。まぁ、上り下りくらいはいけるか」

加蓮「いけるんだ」

のあ「それで、私に聞きたいことは何かしら」

蓮実「私達も聞きたいことは同じです」

真奈美「同じ?」

加蓮「探偵さん、外に出て大丈夫なの?」

蓮実「お肌が真っ白で羨ましいそうですよ」

真奈美「確かに、外見だけなら妖精の類だからな」

のあ「心配は無用、体力はあるわ」

真奈美「こう見えて、ランニングが日課なんだ」

23 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:43:27.85 Syf1tc1m0 23/222

蓮実「そうなんですね」

のあ「日焼け止めは手放せないけれど。肌が痛むのよね」

加蓮「やっぱり、お肌は気にしてるんだー」

のあ「日焼けもしてみたいわね、まったく焼けないのだけれど」

加蓮「へー、羨ましいなぁ。アタシ、ちょっと黒めだから」

のあ「悩みは人それぞれ。調査するには足が強くないとね」

蓮実「高峯さんは足を使って調査する探偵さんなのですね」

加蓮「なんか、大きな椅子に座って考えてそうだったから」

のあ「真奈美がいるから、それも出来なくはないわ」

真奈美「褒められたようだ、ありがたく受け取っておこう」

のあ「だけれど」

加蓮「だけど?」

のあ「真奈美には見えなくても私には見えるものがある。だから、私は足を運ぶわ」

蓮実「えっと……どういう意味でしょうか」

真奈美「そのままだ。自分だからこその発見があるのは、何事も一緒さ」

のあ「ええ。だから、外に出た方がいいわ。家の中でも色々なことが知れる時代でも」

蓮実「なるほど」

のあ「私はあなた達の年齢の時に部屋の中で過ごしてしまった。それが正解だったとは、今も思わないわ」

真奈美「……」

加蓮「うん、そうする。やっぱりね、窓から見る景色って楽しくないんだ」

のあ「ええ」

加蓮「よし、ちょっとペース上げられるかな」

蓮実「あっ、加蓮ちゃん、待ってください」

のあ「いってらっしゃい」

真奈美「……のあは、学生時代をやる直せるならやり直したいか?」

のあ「いいえ」

真奈美「即答なんだな」

のあ「真奈美とまゆとも出会えなかったでしょう、それに……」

真奈美「それに?」

のあ「……何かをやり直せるなら、父と母と共に生きたいわ」

真奈美「……そうか。悪いことを聞いた」

のあ「気にしてないわ、真奈美には何度か話しているはずよ」

真奈美「知ってる。知っていたのに、聞いてしまった」

のあ「今は学生気分を少しだけ味わえてるから、いいでしょう」

真奈美「なら、もう少し楽しまないとな」

のあ「ええ。一番後ろで、おすそ分けを貰うわ」

24 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:45:08.72 Syf1tc1m0 24/222

13

登山道・山頂近く

藍子「あっ、お花が咲いてますよ。近くに行ってみましょう」

如月千早「高森さん、待って。道を外れすぎると危ないわ」

如月千早
まゆのクラスメイト。得意なことは歌うこと。スケジュールを何とか組んだが、合宿の翌日から仕事が入っているらしい。

藍子「ここまでなら大丈夫♪千早ちゃん、こっちですよっ」

のあ「やっぱり、高森さんはおてんばさんなのね」

真奈美「ふーむ……」

のあ「真奈美、変な声だしてどうしたの?」

真奈美「如月千早が普通にいるのが、不思議でしょうがない」

のあ「前にも言ってたじゃない、まゆ達にとってはただのクラスメイトよ」

真奈美「そうは言うが、慣れない」

のあ「そういうものかしら」

真奈美「人に興味がない、のあが知ってるくらいだぞ?」

のあ「私はそこまで人嫌いなわけじゃないわよ」

泰葉「……」

真奈美「おや、疲れたかい?」

泰葉「あ、靴紐がほどけたので座っただけです。お気遣いありがとうございます」

のあ「そう。あなたも真奈美と同じことを考えたかしら?」

泰葉「何の話ですか?」

のあ「如月千早がクラスにいることについて」

泰葉「そうですね、最初はびっくりしました。有名人ですから」

真奈美「普通はそうだよな」

泰葉「1年生の時は学校にもほとんど来なくて、話しても素っ気なかったんです」

のあ「そうなの?」

泰葉「はい。でも、良い人達と会えたから変われたって言ってました」

真奈美「へぇ」

泰葉「芸能界でそんな人に会えるなんて、羨ましいなって思います」

のあ「彼女にとって、何よりも良いことだったのね」

泰葉「あっ、秘密ですよ?」

のあ「探偵だから口は硬いわ。友人も少ないし」

25 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:46:04.61 Syf1tc1m0 25/222

真奈美「自分で言わなくても」

のあ「少ないけれど良い友人を持ててるわ」

真奈美「……」

泰葉「ふふっ、本人を目の前で言わなくても」

のあ「真奈美のこと?」

泰葉「はい。とても仲良しに見えます」

のあ「真奈美は助手よ」

泰葉「そうでした、まゆちゃんも言ってました」

真奈美「佐久間君は何と?」

泰葉「高峯さんは真奈美さんと私をそう呼ぶ、って」

真奈美「それは光栄だな。私ものあを友人と呼ぶには違うと思ってる」

泰葉「大切な人だって、言ってました」

のあ「まったく、まゆもお喋りね……良かった」

泰葉「良かった、ですか」

のあ「まゆがクラスに溶け込めているようで」

泰葉「ほとんど藍子ちゃんのおかげかな。それと、高峯さんと木場さんが良い人だから話題に出せるって」

のあ「そう思われているなら、嬉しいわね」

加蓮「泰葉ー、おいてくよー、おいてっちゃうよー」

泰葉「もう……それじゃ呼んでるので行ってきます」

のあ「いってらっしゃい」

真奈美「良かったな、褒められたぞ」

のあ「真奈美も同じよ」

真奈美「いいや、のあが受け取るべきだよ」

のあ「謙遜しなくてもいいのだけれど」

真奈美「高森君が奥に行き過ぎてるな、止めてくるよ」

のあ「お願いするわ」

26 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:47:41.17 Syf1tc1m0 26/222

14

山頂付近

堀裕子「ムッ!」

脇山珠美「裕子殿、どうされましたか」

堀裕子
まゆのクラスメイト。サイキック美少女高校生らしい。

脇山珠美
まゆのクラスメイト。クラスメイトからは愛でる対象にされているが、学級委員でもある。

裕子「お静かに……来てる、来てますよ」

のあ「どうしたのかしら、不思議なポーズを決めているけれど」

珠美「これは高峯殿。前の方に来たのですね」

のあ「後ろは真奈美に任せて来たわ」

珠美「裕子殿なら心配はいりません」

裕子「ムムーン!」

珠美「いつものことです」

のあ「いつものこと?」

裕子「ムッ、そこだっ!」

のあ「……」

珠美「……」

のあ「何もないけれど」

27 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:48:29.29 Syf1tc1m0 27/222

珠美「ただの林です」

裕子「あれ?おかしいですね……」

珠美「高峯殿、ということです」

のあ「ちょっと待ちなさい、ほら」

珠美「あっ、何か動きました!」

のあ「奥へ逃げてしまったようね」

裕子「ふっふっふ、これがサイキックの力です!」

のあ「そういうことにしておきましょう」

裕子「私のありあまる体力があれば、きっと見つけられるはずです!」

のあ「堀さんは体力自慢なのね」

珠美「そのうえ力持ちです」

裕子「美少女も付け加えていいですよ!」

のあ「ええ、見ればわかるわ」

裕子「さぁ、行きましょう!サイキック・山歩き!」

珠美「裕子殿、待ってください!そっちではありません!」

のあ「……二人とも体力はあるようだから、大丈夫でしょう」

風香「ふぅ……」

のあ「浅野さんは疲れていないかしら」

風香「大丈夫です、もう少しで山頂なので……心配かけてすみません」

のあ「心配するのが仕事よ。運動は苦手かしら」

風香「運動は苦手で……裕子ちゃんが羨ましい」

のあ「慣れておくといいわ。インドア派でも必要な日が必ず来るわ」

風香「そうなんですか……?」

のあ「体力は大切よ、頭を動かすためには」

風香「……あの」

のあ「何かしら」

風香「その、高峯さんは知ってるとか気づいてるとか……?」

のあ「読書が好きだと聞いているけれど」

風香「あっ、そうです、そうなんです」

のあ「腰を痛めないためには筋肉を適度につけるのがいいわ」

風香「参考にします」

加奈「よいしょっ、風香ちゃん、平気?」

風香「うん、もうちょっとだね」

のあ「さて、行きましょうか。様子が悪い人はいないわね?」

加奈「さっき、加蓮ちゃんが座り込んでました」

のあ「少しはしゃぎすぎただけね、見てくるわ」

28 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:49:35.14 Syf1tc1m0 28/222

15

山頂

まゆ「到着……です」

藍子「到着ですっ、まゆちゃん、疲れてませんか?」

まゆ「少しだけ……皆の所にいきましょう」

藍子「はいっ!加蓮ちゃんは大丈夫ですか?」

加蓮「……」

まゆ「……加蓮ちゃん?」

加蓮「あー、疲れた!結局、ドンケツかぁ」

まゆ「元気そうですねぇ」

真奈美「そのようだな」

のあ「全員無事に登りきったわね。北条さん、お大事に」

加蓮「少し休んだから平気。さ、いこっか」

まゆ「はぁい。のあさん達もいかがですかぁ?」

のあ「お邪魔はしないわ」

真奈美「川島先生とお昼はご一緒するよ」

のあ「いってらっしゃい」

まゆ「はい、のあさん」

藍子「のあさん、また後で」

のあ「ええ」

真奈美「さて、先生方と合流しようか」

29 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:50:23.31 Syf1tc1m0 29/222

16

山頂・のあが持ち込んだレジャーシートの上

のあが持ち込んだシート
みくにゃんファンクラブイベントで販売していたネコちゃんが描かれた大きなレジャーシート。千夏はグッズだと気づいているらしい。

瑞樹「美味しい!木場さん、さすがですねっ!」

真奈美「家庭科の先生にお褒めいただくとは光栄だ」

のあ「川島先生、美味しいわ。これは何かしら」

瑞樹「それは新作なのよ。高峯さん、美味しいと言って貰えて嬉しいわ!どうかな、どうかしら!?」

のあ「私が好きな味がするわ、味覚を刺激する異国情緒」

清良「新感覚、って感じかしら」

真奈美「私も頂いていいか?」

瑞樹「もちろん!のあさんはわかってるわね!」

千夏「……」モグモグ

真奈美「ほう、これは……」

のあ「真奈美、お茶を」

真奈美「水筒はそこだ。自分で飲め」

のあ「親切に教えてくれてありがとう」

真奈美「フムン、確かにのあが好きそうな味だ」

千夏「私もそのお茶を頂いても、良い香りがしますね」

のあ「ええ、入れ物は」

千夏「これに」

のあ「どうぞ」

真奈美「スパイスが絶妙だ、独特だが日本人の舌にあう。何がブレンドされてるか見当もつかない」

瑞樹「そうでしょう、研究の甲斐があったわね!」

清良「お店でも開けそうね、本当に」

真奈美「全くだ。のあはスパイシーなものが好きなんだ」

のあ「その暁には通わせてもらうわ」

瑞樹「そんな褒めなくても!」

のあ「もう少し頂いても、いいかしら」

瑞樹「もちろん!ただし、条件があるわ」

のあ「条件?」

瑞樹「探偵さんの話、聞かせてちょうだい」

千夏「私も興味が」

のあ「別に面白い話でもないわ」

真奈美「偶には話をしてみるのも良いだろう」

清良「ええ、ぜひ」

のあ「そうね……なら、こんな話を。真奈美が来る前の話よ」

30 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:51:18.33 Syf1tc1m0 30/222

17

山頂

のあ「真奈美、私はチョイスを間違えたのかしら」

真奈美「少なくとも食事中か食事終わりにする話じゃなかったな」

のあ「……そういうことね」

真奈美「川島先生と相川先生は苦虫を嚙み潰したような顔をしていたな。柳先生は同じ微笑みだったが」

のあ「音葉には大好評だったのだけれど」

真奈美「特異的な条件を一般的な条件と勘違いするのは良くないぞ」

のあ「音葉、そんなに特殊かしら」

真奈美「誰と比較してる?」

のあ「志乃、留美、久美子、志希、それと真奈美とまゆ」

真奈美「自分で言うのも難だが、残念なことに世間一般とは違う価値観のグループのようだ」

のあ「それなら、誰かしら」

真奈美「そうだな、相原君とか」

のあ「フムン……確かに雪乃は食事中にそんな話を聞きたがらないわね」

真奈美「だがしかし、のあが話す気になっただけで良しとしよう」

のあ「上手く話せていたかしら」

真奈美「話は実によく伝わった、問題は話題の選択だ」

のあ「……気をつけるわ」

真奈美「私も昔の話を聞けて良かったよ」

のあ「真奈美も何か聞かせてちょうだい」

真奈美「事件に巻き込まれたことはないぞ」

のあ「そんな話だけを聞きたいわけじゃない、何でもいいのよ」

真奈美「そうか、少し考えておくよ」

のあ「お願いするわ……あら」

31 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:52:41.64 Syf1tc1m0 31/222

風香「……」

緒方智絵里「……」

工藤忍「……」

緒方智絵里
まゆのクラスメイト。小動物のようにカワイイ。粘り強い性格だとか。

工藤忍
まゆのクラスメイト。リンゴの皮むきが得意らしい。

真奈美「黙々と何をしているんだい?」

智絵里「あ……木場さんと高峯さん」

のあ「何か落としたかしら」

「落としてないから安心して」

のあ「それなら、何を」

智絵里「四葉のクローバーを探してて……」

のあ「四葉のクローバーね」

風香「幸運のお守りですから」

「そうだよね、智絵里ちゃん?」

智絵里「はい……遠くに行ってしまった人が幸運を形にして送ってくれるものなんです……」

のあ「そんな言い伝えもあるのね」

智絵里「少しだけ……強くなる勇気をくれるんです」

「いや、言い伝えじゃなくてね……」

風香「……」

「ごめん、忘れて。勘違いだった」

のあ「そう」

真奈美「お手伝いしようか?」

智絵里「大丈夫です……きっと、見つけられます」

真奈美「のあ」

のあ「何かしら」

32 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:53:08.61 Syf1tc1m0 32/222

真奈美「のあの力で見つけられないか?瞬時記憶とかできたりしなかったか」

のあ「ドラマの見過ぎよ、そんな超能力じみた能力はないわ。視力すら人並みよ」

真奈美「おや、それは残念だ」

のあ「人より思考力と容姿が優れているだけよ、私は」

「容姿が優れてるって、自分で言う人初めて見た……」

風香「本人から見ても美人なんだ……」

のあ「緒方さん、ごめんなさいね」

智絵里「ううん……きっと自分で見つけるのが一番ですから」

のあ「幸運は自分の手で掴むものだものね、お邪魔したわ」

真奈美「見つかることを祈ってるよ」

のあ「集合時間には遅れないように」

智絵里「はい……遅れないようにします」

33 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:55:24.84 Syf1tc1m0 33/222

18

山頂・見晴台

藍子「やっほー♪」

まゆ「やっほー……」

裕子「ヤッホー!」

真奈美「楽しそうだな」

藍子「あっ、真奈美さん、一緒にどうですか?」

裕子「自分の声が返ってくる、サイキックトレーニングを!」

のあ「サイキック……?」

真奈美「遠慮しておこう」

まゆ「真奈美さん、凄いですからぁ……」

のあ「堀さん、ただのやまびこじゃないかしら」

裕子「サイキック・やまびこです!」

のあ「承知したわ」

まゆ「いつもより納得するのが早い……」

蓮実「気持ちよさそうですね♪」

千早「はい、とっても」

裕子「新たなやまびこサイキッカー候補が来ましたね!」

蓮実「そういうわけでは」

裕子「そうですか……」

のあ「なら、何かあったのかしら」

蓮実「少し懐かしい歌の話をしていたんです。千早さん、懐メロ歌謡コンテストに優勝したこともあるんですって」

千早「こういう所で歌うのも気持ちよさそうですね」

蓮実「そんな話をしていたら、楽しそうな声が聞こえたので」

千早「来てみました」

真奈美「……懐メロ歌謡も出来るのか」

藍子「少しくらいなら歌っても大丈夫ですよ」

千早「いえ、お気遣いなく」

蓮実「今度、一緒にカラオケに行こうという話をしていました」

のあ「それがいいわね」

まゆ「私も一緒に……」

千早「行きましょう、スケジュールは……相談してみるわ」

藍子「のあさんはどうですか?」

のあ「私が何か」

34 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:56:09.99 Syf1tc1m0 34/222

藍子「お歌は上手ですか?」

のあ「人並みのつもりだけれど」

まゆ「うふっ……」

藍子「まゆちゃん、どうなんですか?」

まゆ「この前、事務所で歌ってたの聞いてしまいましたぁ……」

のあ「聞かれてたのね」

まゆ「真奈美さんはのあさんの歌を聞いたことありますかぁ?」

真奈美「私も独りで歌っているのは見たことあるな」

のあ「……」

真奈美「たまにカラオケにも行っているようだしな」

のあ「それも知ってるのね」

真奈美「別に咎めてはいないさ。たまには誘ってくれ」

のあ「……本職と行くのは気がすすまないわ」

蓮実「本職なんですか?」

真奈美「歌手じゃない、ボイストレーナーさ」

千早「そうなのですか?」

真奈美「如月君に指導するのは恐れ多い……」

裕子「本当ですか!?」

藍子「裕子ちゃん、どうしました?」

裕子「サイキック発声法を教えてください!」

真奈美「サイキックかどうかはわからないが、発声法は教えられる」

裕子「師匠、よろしく願います!」

真奈美「簡単だが、劇的に変わるぞ」

のあ「ねぇ、まゆ」

まゆ「のあさん、何ですかぁ?」

のあ「堀さんは何故発声法に興味があるのかしら」

まゆ「わかりませんけれど……」

藍子「大きい声を出すのは気持ちいいですよね?」

千早「そうね」

蓮実「鮮明な声で気持ちが伝わるなら素敵なサイキックです」

のあ「長富さんはおおらかね」

真奈美「よし、やってみようか」

裕子「はい、行きますよ……すぅー……ボエェェェェ!」

のあ「……」

まゆ「まぁ……」

藍子「凄いですっ」

蓮実「ふふっ」

千早「堀さん、鍛えているのかしら」

のあ「真奈美、あれね」

裕子「師匠、なんかでました!」

真奈美「君はある意味逸材だな。今後ともサイキックの暴走には気をつけたまえ」

35 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:57:05.20 Syf1tc1m0 35/222

19

山頂

智絵里「すぅ……すう……」

のあ「あら……お休み中ね」

加蓮「うんうん、カワイイよねー」

のあ「そうね……北条さんは何をしてるのかしら」

珠美「飾り付け、だそうで」

加蓮「妖精さんだから」

のあ「そう……」

加蓮「それに、手を見て」

のあ「手……見つかったのね」

珠美「幸せそうに寝てますね」

加蓮「珠ちゃんもカワイイよー、よしよし」

珠美「なっ、撫でないでください!」

加蓮「もー、遠慮しないの」

智絵里「……」

のあ「動いた……起きたかしら」

智絵里「……すぅ」

珠美「起きていないようです」

加蓮「でも」

のあ「何故……腕と足をパタパタさせてるのかしら」

加蓮「飛ぶ夢でも見てたり?」

珠美「かもしれません、ふぁ……珠美も眠くなってきました」

のあ「時間になったら起こすわ。ゆっくりしていてちょうだい」

加蓮「はーい……私も少し寝ようかな……」

36 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 21:57:45.23 Syf1tc1m0 36/222

20

山頂

瑞樹「みんなー、お昼は食べて十分に休んだわねー。はーい、点呼するわよー、浅野さん」

風香「はい」

瑞樹「今井さん」

加奈「はいっ」

瑞樹「岡崎さん」

泰葉「はい」

瑞樹「緒方さん」

智絵里「はい♪」

瑞樹「あら、良いことでもあった?如月さん」

千早「はい」

瑞樹「工藤さん」

「はい」

瑞樹「高森さん」

藍子「はいっ」

瑞樹「佐久間さん」

まゆ「はぁい……」

瑞樹「長富さん」

蓮実「はい」

瑞樹「北条さん」

加蓮「はーい……ふぁ……」

瑞樹「お昼寝開けかしらね。堀さん」

裕子「はい!!!」

瑞樹「いつにもまして元気ね。最後に脇山さん」

珠美「はい」

瑞樹「ちなったん」

千夏「その呼び方はちょっと……」

瑞樹「もー、ちょっとした冗談よ。柳先生」

清良「はい」

瑞樹「木場さん」

真奈美「ここだ」

瑞樹「高峯さん」

のあ「無事よ」

瑞樹「はい、全員集合ね。それじゃあ、クラリスさんが待つ山荘に戻りましょう。それじゃあ、しゅっぱーつ!」

37 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:00:03.60 Syf1tc1m0 37/222

21

登山道

加奈「わっ、あわわ!」

真奈美「おっと危ない。大丈夫か?」

加奈「ありがとうございます、えへへ」

真奈美「下りの方が危ないんだ、足元に気をつけるように」

加奈「はいっ」

真奈美「良い返事だ」

まゆ「まぁ……頭ポンポンまで」

真奈美「どうした?」

のあ「真奈美はいつも通り、と」

まゆ「はい……いつもと一緒」

真奈美「変なことをしたつもりはないが」

のあ「人助けはいいことよ」

まゆ「はい」

真奈美「……まぁ、いいか」

のあ「まゆ、疲れてないかしら」

まゆ「大丈夫ですよぉ」

真奈美「もう少しだ。安全第一で行くとしよう」

38 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:00:44.50 Syf1tc1m0 38/222

22

椋鳥山荘・駐車場

クラリス「皆様、お疲れ様でした」

のあ「人数は……揃ってるわね」

クラリス「皆様のご無事が何よりです」

瑞樹「それじゃ、しばらく休憩ねー」

「汗を拭いて、着替えてくださいね」

瑞樹「授業の時間には遅れないこと、いいわね?」

一同「はーい」

瑞樹「良い返事ね、私も準備しないと」

まゆ「のあさん、まゆは戻りますねぇ」

のあ「ええ」

まゆ「のあさんと真奈美さんは何をなさる予定ですかぁ?」

のあ「着替えてから、何をしようかしら」

真奈美「考えるとしよう」

藍子「まゆちゃん、一緒に行きましょう」

まゆ「うん、藍子ちゃん」

のあ「いってらっしゃい」

まゆ「のあさん、また」

真奈美「私達も着替えに行くとしよう」

のあ「ええ」

真奈美「先生方かどなたかとお茶でもしようか」

のあ「それもいいわね。雪乃のお土産でもふるまいましょうか」

40 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:01:42.95 Syf1tc1m0 39/222

23

椋鳥山荘・1階・東大部屋

東大部屋
大きなキッチンやソファーがある大部屋。2階にある先生方の寝室に内階段でつながっている。

千夏「この紅茶も美味しい……」

清良「……本当に」

のあ「昼の緑茶も良かったかしら」

千夏「甲乙つけがたいけれど、この紅茶の方が」

真奈美「それは良かった。久しぶりに淹れたから緊張したよ」

千夏「この紅茶は木場さんが選んだもの?」

真奈美「いいや、流石の私でもここまでのものは探し出せない」

のあ「雪乃が選んでくれてるわ。お昼の緑茶もよ」

清良「雪乃さんとは、どなたでしょうか」

のあ「喫茶店のマスターよ、事務所の下の階で営業しているわ」

真奈美「高峯家では紅茶は淹れるものではなく、淹れてもらうものだな」

清良「あら、贅沢ですね」

千夏「雪乃さんは、紅茶に詳しいのですか」

のあ「とても、かなり、行き過ぎてるくらいに」

真奈美「自分でお店を持つくらいだからな」

千夏「今度お伺いするわ。柳先生もいかがですか」

清良「ぜひ」

のあ「雪乃も喜ぶわ」

真奈美「川島先生は良かったのか?」

千夏「授業の準備中ですから」

のあ「別の先生が授業をしている時は、何をする予定かしら」

千夏「見学です」

のあ「見学?」

千夏「私達にとっては、他の先生の授業見学が目的なの」

清良「はい。だから、化学教師の私もここに」

真奈美「なるほど」

清良「昔はもっと大勢だったそうだけれど」

千夏「食事も先生方で作っていたとか」

のあ「それは大変ね」

清良「作っていなくても、今の人数で準備するのも大変ですから」

瑞樹「衛生の問題もあったりするし」

千夏「お手伝い頂いて、感謝しています」

のあ「問題ないわ、暇だもの。ところで、相川先生」

千夏「なにか、お聞きしたいことでも」

のあ「大槻唯が好きなのかしら」

真奈美「……聞き方がストレート過ぎないか?」

千夏「ええ、とっても」

真奈美「即答か……まさか、のあと同じタイプじゃあるまいな……」

41 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:04:33.57 Syf1tc1m0 40/222

24

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

真奈美「同じタイプだったか……」

のあ「饒舌になる時もあるのね」

真奈美「いつも冷静でいて欲しかったが」

のあ「気持ちはあまりわからないわね」

真奈美「のあ、本気で言ってるのか?」

のあ「何か変なこと言ったかしら、真奈美?」

真奈美「人の振り見て我が振り直せ、という諺は知ってるか」

のあ「知ってるわよ」

真奈美「のあも同じようなものだぞ」

のあ「それもわかってるけど」

真奈美「ん?気持ちがわからない、と言ったじゃないか」

のあ「確かに唯ちゃんはカワイイけれど、熱狂するほどかしら」

真奈美「そこか……」

のあ「まぁ、感性は人それぞれね」

真奈美「のあは、どうなんだ?」

のあ「愛する気持ちは同じだものね。真奈美、何か言ったかしら」

真奈美「のあは、どうして前川君のファンになったんだ?」

のあ「そんなの決まってるでしょう」

真奈美「決まってるのか」

のあ「運命よ」

真奈美「これまた普段なら使わない言葉が出て来たな……」

加蓮「あれ、どうしたの?」

泰葉「お疲れ様です」

のあ「あら、そろそろ授業の時間じゃないかしら」

加蓮「そうだよ」

泰葉「加蓮ちゃんがベッドで伸びていたので、起こしてきました」

加蓮「こら、バラさなくていいでしょ」

泰葉「ふふっ」

加蓮「って、話してる場合じゃなかった」

42 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:05:00.52 Syf1tc1m0 41/222

泰葉「川島先生、結構厳しいんですよ」

のあ「まゆから噂は聞いてるわ」

加蓮「特にマナーの方はね、それじゃ」

泰葉「失礼します」

のあ「ご健闘を」

真奈美「のあも見学してくるか?」

のあ「辞めておくわ。授業を今更受ける気にはならない」

真奈美「そうか」

のあ「真奈美を手伝うわ」

真奈美「そうだな、そろそろ到着する時間か」

のあ「ウワサをすれば、来たようね」

真奈美「受け取りに行くとしよう」

43 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:06:34.71 Syf1tc1m0 42/222

25

椋鳥山荘・1階・東大部屋

のあ「真奈美、これでいいのかしら」

真奈美「大丈夫だ、カレーを温めているだけだ。作るより簡単だろう」

のあ「そうだけれど、不安ね」

真奈美「念のために火は弱めておこう」

のあ「これでいいかしら」

真奈美「ああ」

クラリス「お邪魔します」

真奈美「シスタークラリス、何かご用事が」

クラリス「白米の香りがしましたので」

のあ「カレーではなく?」

クラリス「カレーも好物です、もちろんお野菜も」

真奈美「サラダも分けるとしよう」

のあ「日本の食事もお好きなのですか」

クラリス「日本で産まれ育ちましたから。日本のご飯が好きですよ」

のあ「そうでしたか」

クラリス「お邪魔しました、お待ちしております」

のあ「行ってしまったわ」

真奈美「……お腹が空いていたんだろうか」

のあ「誰だってお腹は空くわ」

真奈美「質素倹約なのかと」

のあ「質素倹約だから、かしら」

真奈美「時には心ゆくまでもいいだろう」

のあ「真奈美、どれを手伝えばいいかしら」

真奈美「そうだな、それを頼む」

44 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:08:57.99 Syf1tc1m0 43/222

26

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

裕子「うぅ……私はもうダメです……」

まゆ「裕子ちゃん、がんばりましたねぇ」

裕子「鬼教師川島にやられました、バタリ……」

まゆ「裕子ちゃん、しっかり……」

のあ「楽しそうね」

裕子「あっ、一緒にどうですか?」

まゆ「何を……?」

裕子「疲労で倒れ行く生徒ごっこです」

のあ「遠慮するわ」

裕子「はっ!高峯さんは授業で困ったことがないのでは!」

のあ「学校は好きとは言えなかったけれど、授業で疲れたことはないかしら」

裕子「まゆちゃん、やっぱり異世界人ですよ!」

まゆ「まゆもそう疑ってましたぁ……」

のあ「えっと……」

裕子「もちろん、ジョークです。サイキック・ジョークです」

のあ「サイキックかしら?」

裕子「まゆちゃんと以心伝心のサイキックジョークですよ」

まゆ「はい、サイキック……です」

のあ「そういうことにしておくわ」

裕子「さっきの話は川島先生にはご内密に」

のあ「心配いらないわ」

瑞樹「最初から聞いてるから」

裕子「なっ!」

瑞樹「何もしないから……そんなに鬼教師かしら?」

まゆ「そんなことないですよぉ」

裕子「最初からマナーが出来てるからです!私も習っていれば……」

まゆ「私はそんなのじゃなくて……」

瑞樹「堀さん、習うより慣れよ」

45 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:09:33.03 Syf1tc1m0 44/222

裕子「ぷらくてぃす、めいく、ぱーふぇくと!がんばりますから、ご勘弁を!」

のあ「堀さんは何を恐れているのかしら」

まゆ「川島先生からの宿題、合宿中はずっとマナー授業通りとか」

のあ「なるほど、苦手そうね」

裕子「ご勘弁を!」

瑞樹「せっかくの合宿なんだから、そんなことしないわ」

裕子「ほっ、さすが学園一の美人教師川島瑞樹先生様です」

瑞樹「言葉が軽いのよね。実際はどうなの?」

裕子「実際ですか?」

まゆ「誰が星輪学園一の美人教師か」

裕子「うーん、むむむー、ムムーン……?」

のあ「……」

裕子「……来ました」

のあ「何か受信したのかしら」

裕子「シスタークラリスです。道徳と宗教の先生ですから、教師です」

瑞樹「星輪学園の関係者だったら、納得しざるを得ないわね」

のあ「波風立てずに済みそうな回答ね」

まゆ「そうですねぇ」

瑞樹「さて、その人がハラペコそうだから夕食の準備をしましょうか。高峯さん、手伝うことはあるかしら?」

のあ「配膳をお手伝いしていただけるかしら、こちらへ」

46 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:10:09.59 Syf1tc1m0 45/222

27

椋鳥山荘・1階・大教室

クラリス「私達は今この時に食事を頂きます。天と地に与えられた神の惠と、食事をここに与えてくださった人々に感謝を。いただきます」

みんな「いただきまーす!」

クラリス「誰の舌にでも優しいカレー、色彩豊かなサラダ、そして大量炊飯の良さが引き出された白米」

真奈美「一口が大きいな……」

のあ「あの盛り方であっていたようね」

真奈美「のあも遠慮なく食べるといい……何してる?」

のあ「辛みを追加してるだけよ」

清良「スパイス、ですか?」

のあ「ええ。菜々から貰ったわ」

真奈美「いつの間に」

裕子「ムムーン、サイキックパワー注入~」

蓮実「はーい、受信しました~」

のあ「スプーンを持ってどうしたのかしら」

裕子「はい、サイキック・スプーン曲げ!」

蓮実「えいっ」

加奈「おー」

のあ「スプーンが曲がったわ」

真奈美「なるほどな」

藍子「サイキック美少女が増えた、のかな?」

風香「違うような……」

47 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:11:43.77 Syf1tc1m0 46/222

のあ「真奈美、出来るかしら」

真奈美「出来るな」

裕子「まさか、木場さんはサイキッカーなんですか!?」

真奈美「違うが……こうだ!」

まゆ「曲がりましたぁ……」

真奈美「曲げては食事に差し支える、戻しておこう」

千夏「腕力で戻したように見えるわ」

真奈美「如月君の言う通り、そういうことだ」

千早「私も出来るかしら」

泰葉「習わない方がいいかな……」

瑞樹「こらっ、食事中に食器で遊ぶんじゃありません」

蓮実「ごめんなさい、サイキック気の迷いです」

裕子「サイキックの暴走で済ませてはいけません」

智絵里「サイキックパワーを注入してたような……」

クラリス「盛り上がっているところ、申し訳ございません」

のあ「どうしましたか、シスタークラリス」

クラリス「おかわりを頂けますか」

真奈美「もちろん、他の人も遠慮なく言ってくれ」

48 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:14:00.19 Syf1tc1m0 47/222

28

椋鳥山荘・1階・大教室

クラリス「素晴らしい食事を終え、心は豊かに、体は力を取り戻しました。自身の使命に勤しみ、惠を与えてくださった神と食事を与えてくださった人々のご恩に報いることを誓います。ごちそうさまでした」

みんな「ごちそうさまでした」

瑞樹「はい、今日はこれから自由時間です。相川先生、大浴場の準備は」

千夏「出来ています」

瑞樹「ありがとうございます。9時までに大浴場は使ってね」

みんな「はーい」

のあ「真奈美、私達は」

真奈美「その後だ」

瑞樹「消灯時間は10時、それまではコイバナでも何でもしちゃってちょうだい」

加蓮「川島先生ってば……」

瑞樹「ただし、夜更かしはオススメしないわよー。寝れるうちにちゃんと寝ること、寝れなくなる年齢の前に」

のあ「そうなの?」

真奈美「睡眠は十分にとるのがベストだ、特に10代は」

のあ「そうなのかしら……私は寝すぎだったと反省しているけれど」

瑞樹「今日はないけれど、明日は夕食後も授業があるから忘れないでね。それじゃあ、今日はお終い。脇山さん、号令を」

珠美「起立、気をつけ、礼!ありがとうございました!」

49 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:15:43.93 Syf1tc1m0 48/222

29

消灯時間前

椋鳥山荘・3階・のあと真奈美の部屋

のあ「……」

真奈美「のあ」

のあ「真奈美、なにか」

真奈美「既に何冊を読み終わっているようだが、何を読んでいるんだ?」

のあ「色々ね、真奈美もオススメがあるなら教えてちょうだい」

真奈美「推理小説か?」

のあ「それもあるわ。眺めていて楽しいものを安斎都から教えてもらったの」

真奈美「眺めていて楽しい?」

のあ「安斎都は見る目があるわ。真奈美も興味があったら言ってちょうだい」

コンコン

のあ「どうぞ」

まゆ「こんばんは」

のあ「どうしたの、まゆ」

まゆ「もうすぐ消灯時間なので、様子を見にきました」

のあ「あら、もうそんな時間なのね」

まゆ「真奈美さん、よろしくお願いします」

真奈美「わかってるよ」

のあ「何を、かしら」

まゆ「うふふ……おやすみなさい」

真奈美「おやすみ」

のあ「おやすみなさい、まゆ」


50 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:16:41.55 Syf1tc1m0 49/222

真奈美「さて、私達も朝が早い。浴場に行こうか」

のあ「これを読み終わったら行くわ、お先にどうぞ」

真奈美「いや、一緒に行こう」

のあ「一人で行けないの、怖がりね」

真奈美「のあ、最近髪の手入れはしているか?」

のあ「優に言われてることは、やってる、と思うわ」

真奈美「シャンプーは持って来たか?」

のあ「いいえ」

真奈美「ということだ、確かめさせていただこう」

のあ「そんなに気にしなくても」

真奈美「せっかくの素材だから、大切にしよう」

のあ「そうね、私も切りたくはないの」

真奈美「切りたくはないんだな」

のあ「父が褒めてくれたから、伸ばしていたの」

真奈美「……そうか」

のあ「みくにゃんと同じ髪型にするなら、考えるけれど」

真奈美「のあの頭の中で価値観の順序はどうなってるんだ?前髪ぱっつんの件といい……」

のあ「冗談よ、大切にしてくれるものを捨てたりしないわ」

真奈美「信じてるぞ」

のあ「ええ。もう少し待ってちょうだい」

51 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:17:18.87 Syf1tc1m0 50/222

30

幕間

深夜

星輪学園・教会

古澤頼子「……」

井村雪菜「こちらにいたんですねぇ」

古澤頼子
自称は『キュレイター』。シスターが居るべきところに座っている。

井村雪菜
『化粧師』。今は高校生のような出で立ち。希砂二島の事件を引き起こした首謀者。

頼子「こんばんは」

雪菜「美術館を辞めてからはこちらに?」

頼子「いいえ、今日はここの主がいないので使っています」

雪菜「そうなんですかぁ、普段はどちらに?」

頼子「私に家などありません、あなたも知ってるように」

雪菜「そうですねぇ、最近は死んでる人と一緒になることもありますよぉ」

頼子「彼女は……元気にしていますか」

雪菜「うふっ、あなたが望む方だと思いますよぉ」

頼子「手間が省けました、ご報告ありがとうございます」

雪菜「シスターはどちらにお泊りなんですかぁ?」

頼子「星輪学園の山荘に。合宿らしいですよ」

雪菜「まぁ、楽しそう」

頼子「帰ってきたらお話を聞きましょう、ご一緒にいかがですか」

雪菜「遠慮しますぅ」

頼子「それは残念です」

雪菜「私も忙しくて、準備で大変なんですぅ」

頼子「執着は身を滅ぼしますよ」

雪菜「忠告のつもりですか……知ってるくせに」

頼子「……」

52 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:17:46.22 Syf1tc1m0 51/222

雪菜「あなたが私を操れるのは、その執着を利用しているからですよねぇ」

頼子「私は操りなどしません」

雪菜「私もあなたの思い通りには動きません」

頼子「操り人形なんて、つまらないものを見せられても困ります。私の想像より上を、心の奥底を、見せてくれることを期待しています」

雪菜「……」

頼子「なにか」

雪菜「そういう人でしたねぇ、ちょっと忘れてました」

頼子「人、ですか」

雪菜「人ですよ、あなたは」

頼子「肉体も精神もある人間です、それは事実ですから否定しません」

雪菜「うふっ……それじゃあ、失礼しますねぇ」

頼子「良い夜を」

雪菜「古澤頼子さん、おやすみなさい」

幕間 了

53 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:18:48.10 Syf1tc1m0 52/222

31

翌朝

椋鳥山荘・1階・洗面所

真奈美「川島先生、おはようございます」

瑞樹「おはようございます、眠れたかしら?」

真奈美「はい、静かでいつもより良く眠れたよ」

瑞樹「それなら良かったわ。聞いていいかしら、高峯さんって寝相はいいの?」

真奈美「寝息も静かで寝相も良い。良くも悪くも人間離れしてる印象だな」

瑞樹「へー、やっぱりそうなのね」

真奈美「朝食の準備を始めようかと」

瑞樹「真奈美さん、いつも朝は早いの?もう準備万端みたいだから」

真奈美「それなりです。川島先生こそお早い」

瑞樹「私は朝に時間がかかる年齢なのよね」

真奈美「そんなことは」

瑞樹「高峯さんは?」

真奈美「そろそろ降りてくると思うが」

のあ「……おはよう」

瑞樹「高峯さん、おはようございます」

54 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:19:23.48 Syf1tc1m0 53/222

真奈美「着替えは済んでるな」

瑞樹「メイクは……まさか、してないの?」

真奈美「そうみたいだな」

のあ「水が冷たくなってきたわね……」

瑞樹「いつもスッピンってことは……」

真奈美「それはない、流石にのあも成人した人間だからな」

のあ「朝食の準備は任せているから、この時間は眠いわ……」

瑞樹「高峯さん、ちょっと失礼します」

のあ「何かしら。私の頬を触っても、鳴き声が出たりしないわ」

瑞樹「真奈美さん」

真奈美「妖精の類だから気にしない方がいい」

瑞樹「ちょっとお借りしていいかしら」

のあ「借りる?」

真奈美「ご自由に」

のあ「話が読めないけれど」

真奈美「朝食の準備は問題ない、ごゆっくり」

瑞樹「高峯さん、こちらへどうぞ♪」

55 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:20:57.21 Syf1tc1m0 54/222

32

椋鳥山荘・1階・大教室

クラリス「皆様、おはようございます」

みんな「おはようございまーす」

クラリス「2日目となりました、昨日の疲れは残っていませんか」

真奈美「のあは」

のあ「私は問題ないわ」

クラリス「朝食をいただき、長い授業に備えましょう。それでは、いただきます」

みんな「いただきます」

のあ「朝食は目玉焼き」

真奈美「何かリクエストでもあったか?」

のあ「いいえ」

真奈美「川島先生には何かされたか?」

のあ「髪のセットとメイクをしていただいたわ、それ以外は特に」

瑞樹「何もしてないわ……ええ、本当に……」

千夏「なぜ、落ち込んでるのですか」

清良「私にはわかりませんけれど」

瑞樹「わからないわ……」

清良「混乱してるように見えますね」

瑞樹「それはともかく、今日のご予定は」

のあ「近くを散策するわ。真奈美、付き合ってちょうだい」

真奈美「ああ、古い神社があるんだったな」

千夏「滝もありますよ」

清良「足元にはお気をつけてください」

56 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:21:41.63 Syf1tc1m0 55/222

のあ「先生方は」

清良「午前中は私が化学を」

千夏「午後は英語です」

瑞樹「昼食は私が準備しますから、ゆっくりしていてください。時間に戻ってきていただければ」

真奈美「お言葉に甘えるとしよう」

千夏「お疲れであれば、授業を受けても」

のあ「遠慮しておくわ」

瑞樹「高峯さんは、英語は喋れるの?」

のあ「真奈美は出来るけれど」

真奈美「のあは何か国語か話せたはずだ」

のあ「初歩的なものが理解できるだけよ」

瑞樹「さすがですね」

清良「苦手な教科はあったのですか」

のあ「そうね……強いて言うならば」

真奈美「おや、苦手な教科があったのか」

のあ「家庭科ね」

真奈美「確かに、苦手だな」

瑞樹「それなら、お教えしましょうか?」

のあ「……」

瑞樹「あれ、変なこといいましたか?」

のあ「いいえ、鬼教師とは相性が悪いの」

瑞樹「違いますって、ね?」

千夏「……」

清良「……」

瑞樹「二人ともそこで黙らないでくれない?」

千夏「おそらく、実践的な部分だと思います」

真奈美「私と佐久間君で最低限は教えるとしよう」

瑞樹「それが一番ね。プラクティス・メイク・パーフェクト、習うより慣れよ、ですから」

真奈美「コーヒーの準備をしてくるよ」

のあ「飲んでから、のんびり出かけて行きましょう」

57 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:22:42.49 Syf1tc1m0 56/222

33

椋鳥山荘・駐車場

クラリス「お出かけですか」

のあ「ええ」

真奈美「上の神社と滝を見に行こうかと」

のあ「シスタークラリスは」

クラリス「お掃除を。道中は整備が行き届いておりません、足元にはお気をつけください」

のあ「ご忠告ありがとう」

クラリス「少々お待ちください、差し上げたいものがあります」

のあ「礼拝堂に戻ってしまったわ」

真奈美「何か役に立つものだろうか」

のあ「わからないけれど……戻ってきた」

クラリス「こちらの冊子をどうぞ、神社と滝についてのことを学生達が調べたものですよ」

のあ「いただくわ」

クラリス「観光地ではありませんから、自らで価値を見つけてくださるよう」

真奈美「見てから決めるとしよう」

のあ「そうね」

クラリス「数年前のものですから、変化があるかもしれません。ご考慮を」

のあ「変化を見つけるのは得意よ、仕事にしているわ」

クラリス「そうでしたね。神社から滝までは少し距離がありますから、時間には余裕を持って行動することをお勧めします」

真奈美「わかった」

クラリス「いってらっしゃいませ。無事に帰ってくることを祈っております」

58 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:23:20.46 Syf1tc1m0 57/222

34

廃神社

廃神社
椋鳥山荘より更に山道を登ったところにある廃神社。肝試しスポットとして人気だとか。

真奈美「この神社、もう使われていないのか?」

のあ「そのようね、古い建物だけが残っているみたい」

真奈美「廃神社か」

のあ「賽銭箱だけは定期的に回収しているそうよ」

真奈美「使っていないのに、か?」

のあ「肝試しに来た若者が使うらしいわね」

真奈美「なるほどな。管理はどこがしているか、わかるか?」

のあ「麓にある神社よ。そこの分社だったみたいね、土砂災害が昔は多かったようだから」

真奈美「ふむ、大切な場所だったんだな」

のあ「林業が盛んだった頃は近くに住民もいたから、親しまれていたらしいわ」

真奈美「今は怒らせる神様もいない、か」

のあ「土砂災害も林業も時代と共に少なくなっていって、御神体も麓にある神社に戻った」

真奈美「建物だけか」

のあ「ええ。更に、土地は売りに出されているようね」

真奈美「買い手は」

のあ「つかないでしょうね」

真奈美「そうだろうな」

のあ「買うとしたら星輪学園くらいでしょうけれど」

真奈美「神社は買わないだろうな、おそらく」

のあ「ええ」

真奈美「しかし、パワースポットという感じでもないな。杉林に囲まれていて、殺風景だ」

のあ「肝試しが目当てになるのは仕方がないわね」

真奈美「同感だ」

のあ「土地としても使い道はあるかしら」

真奈美「特には思い浮かばないな。別荘でも建てるか?」

59 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:23:47.14 Syf1tc1m0 58/222

のあ「別荘を建てられる余裕があるなら、もう少し良い土地にするわ」

真奈美「木でも植えるくらいしかないか」

のあ「そうね、神社が管理する土地として末永く残るのが良いでしょう」

真奈美「建物、中に入ってみるか?」

のあ「あまり入らない方がいい、と書いてあるわ」

真奈美「忠告に従うとしよう。特に何もないみたいだからな」

のあ「真奈美、これ」

真奈美「何か見つけたか?」

のあ「セロハンテープが残っているわ」

真奈美「比較的新しいな」

のあ「何を貼ったのかしら」

真奈美「肝試しの札でも貼ったのだろう」

のあ「なるほど」

真奈美「肝試しでもするか」

のあ「断るわ」

真奈美「おや、苦手か?」

のあ「幽霊がいるなら出て欲しいわ。枕元で一言だけでも、声をかけてくれたら」

真奈美「……」

のあ「肝試し自体は得意よ……どうしたの、真奈美」

真奈美「今もそう思うか、幽霊の話」

のあ「いいえ、きっとそんなものは存在しないのね。わかってるし、そんなものに縋ったりしなくていいもの」

真奈美「そうか」

のあ「私が二度と、心からそう思わないようにしたいだけ」

真奈美「……」

のあ「だから、真奈美とまゆで協力してちょうだい」

真奈美「もちろんだ」

のあ「奥の滝を見に行きましょうか」

真奈美「そうしよう……おや」

のあ「真奈美、どうしたの?」

真奈美「いや、2輪車のタイヤ痕があるのが見えただけだ」

のあ「誰かしら来ているということね」

真奈美「そのようだ、まぁ、それだけ」

のあ「私達は歩いて行きましょう」

60 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:24:49.98 Syf1tc1m0 59/222

35

椋鳥滝

椋鳥滝
山荘付近にある唯一の史跡。年々水量が減っており、人もほとんど訪れない。

真奈美「ここが椋鳥滝だそうだ」

のあ「滝だわ」

真奈美「滝だな」

のあ「……」

真奈美「……」

のあ「殺風景ね」

真奈美「水量も景気が良いとは思えないな」

のあ「良い所なら、先生方も一緒に来てるわね」

真奈美「確かに。飽きてるだけではないな、これは」

のあ「それにしても、どうして椋鳥なのかしら」

真奈美「冊子のどこかで見たな」

のあ「椋鳥が多かったからかしら」

真奈美「椋鳥の鳴き声は聞かないが……あったぞ」

のあ「何かしら」

真奈美「近隣にある古い礼拝堂を建設したとされる、スターリング牧師が由来だそうだ」

のあ「スターリング?」

真奈美「椋鳥の英名らしい。スターリング牧師の由緒とは関係ないそうだが、地域の人々が調べて名前をつけたらしい」

のあ「へぇ。その牧師、星輪学園と関係があるの?」

真奈美「星輪学園の歴史よりずっと前だ。宗派違いもあるから、関係はないと言われている」

のあ「その牧師は地域に貢献していたのかしら」

真奈美「布教というよりは、農業と教育で貢献していたようだ。百年以上前の話だな」

のあ「へぇ」

真奈美「その牧師が建てたとも、隠れキリシタンが建てたとも、色々な伝承があるのが椋鳥山荘の礼拝堂とのことだ」

のあ「歴史はある、と」

真奈美「歴史だけでは、残らない」

のあ「星輪学園のおかげで残ったわけね」

真奈美「そのようだな」

61 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:25:37.09 Syf1tc1m0 60/222

のあ「この滝もなくなりそうね」

真奈美「この冊子の写真と比べても、水が少ないな。水量が減ってるようだ」

のあ「冊子に理由は書いていないのかしら」

真奈美「そこまでは調べていなかったようだな」

のあ「細々でも残ることを願っておきましょう」

真奈美「ああ。昔は投げ銭をしていたらしい」

のあ「幾つか小銭が見えるわね」

真奈美「していくか?」

のあ「何に願うのかしら」

真奈美「牧師だろうか」

のあ「シスタークラリスに願った方が効きそうね。あるいは鷹富士茄子とか」

真奈美「確かにご利益はありそうだが……そうだな、滝と言えば龍の住処だが」

のあ「いなそうね」

真奈美「魚すらいないな」

のあ「……」

真奈美「……」

のあ「戻りましょうか」

真奈美「昼食の時間には戻れるだろう」

のあ「川島先生が準備をすると言っていたけれど、真奈美、聞いてるかしら?」

真奈美「聞いてはいない」

のあ「お楽しみということね」

真奈美「そうだな、行くとしようか」

62 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:27:25.83 Syf1tc1m0 61/222

36

椋鳥山荘・1階・大教室

のあ「オシャレね」

真奈美「ランチプレートだな」

のあ「雪乃のところで出てきそうね」

千夏「川島先生のお手製です、半分ほど」

真奈美「残りは」

千夏「ケータリング会社から」

真奈美「カレーを持って来た?」

千夏「そうよ」

のあ「色々やってるのね、ただの給食業者ではなく」

清良「ええ」

のあ「どれが川島先生のお手製かしら」

千夏「当ててみて、だそうです」

のあ「私には難しいわ」

真奈美「川島先生はどちらに」

清良「礼拝堂です」

千夏「シスタークラリスと一緒に」

のあ「お昼は一緒に食べないのかしら」

清良「恥ずかしいから、とか」

のあ「自信を持っていいのに」

真奈美「それとこれとは別問題なんだよ」

のあ「真奈美、心当たりがあるのかしら」

真奈美「得意でもプロではないからな、そこまで乗り気はない」

千夏「料理を振る舞うことですか」

のあ「違うわ」

清良「高峯さんはわかるのですか?」

のあ「歌うことね、あってるでしょう」

真奈美「まぁ、正解だな」

千夏「人前に出るのが苦手なのですか」

清良「意外です」

63 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:27:53.63 Syf1tc1m0 62/222

真奈美「そうなのかもしれない、私は主役じゃないよ」

のあ「……」

真奈美「ボイストレーナーが良いし、のあの助手が良いんだ」

千夏「いいんですか、探偵さん」

のあ「心配ないわ、真奈美だもの」

清良「心配ない?」

のあ「いざとなれば、矢面に立てるわ」

真奈美「立ちたくないな」

のあ「そう望むのであれば、協力するわ」

清良「話がそれましたが、シスタークラリスとはランチミーティングが目的です」

千夏「私達では見えない所を、教えてくれますから」

のあ「なるほど」

千夏「それに」

真奈美「それに?」

清良「シスタークラリスは食事中が一番話しをしてくださるので」

千夏「静かに喜んでくれるので、差し入れ甲斐もあります」

のあ「……そうではないかと思っていたわ」

64 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:29:03.86 Syf1tc1m0 63/222

37

午後

椋鳥山荘・3階・ロビー

まゆ「のあさん」

のあ「まゆに浅野さん、授業の休憩中かしら」

風香「はい、ちょっとお昼寝をしていて」

まゆ「私が起こしにきたんですよぉ」

風香「ごめんね」

まゆ「謝ることじゃないですよぉ……ね、のあさん」

のあ「そうね。仮眠は知識の習得には必要不可欠よ」

まゆ「のあさんは何をしてるんですかぁ?」

のあ「水を飲みながら、真奈美を待っているだけよ」

風香「何かご予定が?」

のあ「トレーニングを」

まゆ「トレーニング?」

のあ「真奈美に付き合うだけよ、体を鍛えて置いて損はないわ」

風香「そういえば、着替えてますね」

のあ「真奈美なら考えてくれるわ」

真奈美「のあ、水分補給はしたか?」

のあ「ええ」

まゆ「怪我には気をつけてくださいねぇ」

真奈美「もちろんだ、強度選びは間違えないよ」

のあ「お手柔らかに」

真奈美「夕食の準備もある、短時間集中でやるとしよう」

風香「私達は授業に」

まゆ「はい、また後で」

のあ「ええ、がんばってちょうだい」

真奈美「さて、行くとしようか。何かリクエストはあるか」

のあ「ないわ」

真奈美「ならば、坂道でのトレーニングでもしよう」

のあ「なぜ?」

真奈美「ここに山があるから、だ」

のあ「登山家みたいなことを言うのね」

真奈美「どんな機会でも有効に使うべきだ。いいか?」

のあ「異議はないわ。やりましょう」

65 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:30:07.13 Syf1tc1m0 64/222

38

夕食

椋鳥山荘・1階・大教室

クラリス「皆様、お疲れ様でした」

裕子「疲れました……」

風香「私も英語は苦手で……」

クラリス「食事の前に祈りの言葉を」

藍子「千早ちゃんは発音がいいですよね」

千早「ありがとう、洋楽も練習しているの」

まゆ「まぁ……ステキですねぇ」

クラリス「Bless us, all the gods and goddesses」

裕子「ムッ!ムムムーン……」

「英語だよね……」

智絵里「英語です……」

クラリス「Thank you for excellent food and those who prepare it」

加蓮「日本語しか話せないと思ってた」

泰葉「見かけはブロンドの美人なのに……」

珠美「好きな物は白米だと聞いてましたのに……」

クラリス「Thank you for beautiful friendship and good relationship between student and teacher」

蓮実「どういう意味なんでしょう?」

「たぶん、いつもの挨拶と同じと言うか」

千早「いつもより簡単じゃないかしら」

クラリス「We thank you, all the gods and goddesses, Amen」

まゆ「アーメン……」

クラリス「レッツイート。いただきましょう、美しい黄色と赤で構成されたオムライスを」

みんな「いただきまーす」

66 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:30:53.42 Syf1tc1m0 65/222

珠美「すみません、木場殿」

真奈美「私に何か?」

珠美「シスタークラリスはなんと?」

真奈美「君にはどう聞こえたかな?」

珠美「えっと……」

真奈美「のあはわかったか?」

のあ「大体は」

珠美「ご飯とご飯を作ってくれた人にありがとう、えっと、友達と先生にありがとう、神様ありがとう、いただきます?」

真奈美「十分だ」

のあ「最初の祈りが抜けてるだけね、相川先生、どうかしら」

千夏「合ってると思うわ」

珠美「ふぅ、午後の成果がありました」

真奈美「リスニング主体か?」

千夏「簡単な文章でも聞かないと慣れないのと」

のあ「他にも目的が?」

千夏「聞きなれていると、耳から勉強できるので」

真奈美「なるほど」

千夏「ちなみにですが」

瑞樹「ちなみに?」

千夏「シスタークラリスが流暢に話せる英語は、祈りの言葉だけです」

クラリス「聞こえていますよ、相川先生」

のあ「……やはり」

67 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:31:47.95 Syf1tc1m0 66/222

39

夕食後

椋鳥山荘・1階・大教室

クラリス「空腹を良質な栄養を摂取できる肉と卵を与えてくださった鶏様に感謝を。太陽の恵みを赤い果実に変えてくださったトマト様に感謝を。ごちそうさまでした」

みんな「ごちそうさまでした!」

瑞樹「はーい、それじゃあ、食後の休憩ね」

加蓮「川島先生、しつもーん」

瑞樹「はい、どうぞ」

加蓮「夕食後の授業はなに?」

蓮実「内容が書いてありませんでした」

瑞樹「それは相川先生から、お願いね」

風香「ということは英語……?」

千夏「夕食後は授業をしません、柳先生が用意してくれた映画を見ましょう」

清良「ドキュメンタリー映画よ」

裕子「おっ、授業は終わりですか」

清良「字幕はあるけれど、英語ね」

千夏「何か所か誤訳、とまでは行かないけれど、適切でない訳があるから探してちょうだい」

加奈「わー、どうしよう……」

千夏「そんなにかしこまらなくてもいいわ。真剣に映画を見るのもいいものよ」

清良「優秀者にはご褒美を」

加奈「じゃあ、がんばろう、しっかりメモを取らないとっ」

真奈美「私達はどうしようか」

のあ「私達も見ましょうか。動きたくないから」

真奈美「効いたか?」

のあ「存分に」

瑞樹「時間には遅れないでね、それじゃあ解散!」

68 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:36:48.07 Syf1tc1m0 67/222

40

ドキュメンタリー映画鑑賞中

椋鳥山荘・1階・大教室

のあ「……」

真奈美「真剣に見ているが、ドキュメンタリーに興味があったのか」

のあ「何にでも好奇心はある方だと自分では思ってるわ」

真奈美「そうか?」

のあ「映像としても価値が高いわ。カメラマンが優秀なのかしら」

真奈美「確かに、帰ったら調べてみるとしよう」

のあ「ええ」

真奈美「相川先生の課題は見つけられたか?」

のあ「現在までに一か所。何人がそのシーンの後でメモを取ったわ」

真奈美「ほう」

のあ「真奈美の見解は」

真奈美「答え合わせは佐久間君達と一緒にしよう」

のあ「なぜ」

真奈美「それも楽しみだから、だ」

のあ「……」

真奈美「学生気分も味わっておくといい。のあに足りないものだ」

のあ「……わかった。真剣に見るわ」

真奈美「良いことだ」

のあ「ネコが出てくるたびにみくにゃんのライブに気持ちが移らないように」

真奈美「なんだ、余裕じゃないか」

69 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:38:25.56 Syf1tc1m0 68/222

41

椋鳥山荘・1階・大教室

千夏「2つ目はこのシーンね」

藍子「まゆちゃん、わかりました?」

まゆ「書いておきました……自信がなかったけど」

藍子「すごいっ」

瑞樹「あれ、合っていたような?」

クラリス「なぜ、私までクイズに参加を?」

瑞樹「せっかくですから、ちなみに出来ましたか?」

クラリス「残念ながら……」

「先生、訳はあってると思います」

千夏「その通りね。どこにあるのか、フィリピンにある、フィリピンなんて時間内には行けない、と言葉の意味するところはあってるわね」

「うーん?」

千夏「誰か、わかるかしら」

風香「……はい」

千夏「浅野さん、どうぞ」

風香「確かにフィリピンですけど、意味は違うと思います」

千夏「具体的には?」

風香「地球の裏側、other side earthが訳されていないから、そんな遠いところなんて無理という感情的な反応が抜けっちゃってる……かな」

千夏「正解です、拍手を。実際は訳を漏らしたのではなく、字幕を長くし過ぎない配慮だと思うわ。それと、the other side of earthが正しいセリフね」

加奈「風香ちゃん、すごいっ」

風香「ありがとう、加奈ちゃん」

加奈「えへへ」

真奈美「のあはあっていたか?」

のあ「ここはあっていたわ」

千夏「3つ目は、ここね」

真奈美「これは?」

のあ「話の流れからわかったわ」

真奈美「フムン、いい勝負が出来そうだな」

のあ「別に真奈美と争うつもりはないけれど」

真奈美「偶には勝たせてくれ」

のあ「私のセリフじゃないかしら」

真奈美「それは光栄だ」

のあ「私は真奈美に勝とうとなんてしてないわ、考えたこともない」

真奈美「そういうと思ったよ」

のあ「どういうことかしら」

真奈美「君の期待に応えよう、のあ」

のあ「期待なんてないわ、ただ」

真奈美「それに続く言葉を、叶えてみせよう。のあ自身では出来ない」

のあ「……わかったわ」

真奈美「4つ目だ、どうかな?」

のあ「勝負は五分。期待しているわ、真奈美」

70 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:40:07.78 Syf1tc1m0 69/222

42

椋鳥山荘・1階・大教室

清良「結果発表です」

千夏「堀さんと緒方さん」

珠美「えっ!」

智絵里「あっ……」

裕子「珠美殿、そんな驚き方は失礼ですよ!何せ私は天才サイキック少女ですから!」

千夏「参考書を私から自費で差し上げるわ」

加蓮「あー、ブービーか」

千夏「川島先生、お願いします」

瑞樹「はーい、しっかり勉強してね」

智絵里「やっぱり……ちょっとウトウトしてたから……」

裕子「なんとっ!サイキック・ぬか喜び!」

のあ「なるほど、サイキック・応用パターン……」

千夏「僅差だから2人は安心して。ちなみにトップは木場さん、私と柳先生から商品を」

真奈美「海外歴が生きて良かった」

のあ「おめでとう」

真奈美「ご褒美は辞退しよう」

清良「では、ご褒美は生徒の上位3名に」

蓮実「私は違うかも」

「自信ない」

千夏「今井さん、如月さん、それと脇山さん」

今井「やったっ」

風香「加奈ちゃん、おめでとう。私は英語がやっぱり……」

加蓮「あれ、珠ちゃん、成績良いんだ。てっきり」

珠美「てっきり、なんですか!?英語は少し得意なんですよ」

加蓮「ごめんごめん、って」

千夏「脇山さんは良く勉強しているわ」

清良「3人にはこちらをどうぞ」

千早「これは、なんでしょう?」

千夏「カフェカードを。提携店なら割引が受けられるわ、ゆっくりとしたい時にどうぞ」

加奈「わぁ、オシャレ」

珠美「コーヒー10杯分ぐらいの金額?珠美には相場がわかりません……」

千早「事務所の近くの喫茶店で使えるわ……春香と行こうかしら」

瑞樹「相川先生、太っ腹ね」

千夏「それほどでも。ケーキとかにも使えるから、好きな時に」

加奈「ありがとうございますっ」

71 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:41:24.62 Syf1tc1m0 70/222

瑞樹「特別授業はこれで終わり、柳先生からは何かありますか?」

清良「良かったら感想を聞かせてくださいね」

瑞樹「相川先生からは」

千夏「テストの点も大切だけれど、日々の糧にしてくれると嬉しいわ。あと、今だからこそゆっくりできる時間を大切に。以上です」

瑞樹「相川先生、ありがとうございます。シスタークラリス、最後にお言葉を」

クラリス「学友と協力し、気持ちをわかちあい、時には競争することもよいでしょう。皆様、お疲れ様でした。ゆっくりとお休みください」

瑞樹「ありがとうございます。明日は最終日、羽目を外し過ぎないようにね」

藍子「はいっ」

瑞樹「今日は終わりです。脇山さん、号令を」

珠美「起立、気をつけ、礼!ありがとうございました!」

クラリス「おやすみなさいませ、良い夜を」

72 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:42:17.66 Syf1tc1m0 71/222

43

消灯後

椋鳥山荘・3階・ロビー

のあ「……」

藍子「あっ」

まゆ「あ……」

のあ「消灯時間は過ぎてるわ、ティーポットを持ってどうしたのかしら」

藍子「えー……っと」

のあ「責めるつもりはないわ、冗談よ。川島先生もお目こぼしをしてるみたいだから」

まゆ「ほ……」

のあ「静かにつかいなさい。階段は気をつけて使うのよ」

まゆ「のあさん、ありがとうございます」

のあ「ただし、一杯だけにしなさい。リラックスしているうちに布団にはいるのよ」

藍子「はい」

のあ「高森さんはまた家に泊まりにくればいいでしょう、そうしたらゆっくり出来るわ」

藍子「本当ですか?」

のあ「歓迎するわ。私は戻るから、次は会わないように」

藍子「のあさん、夜更かしはしないんですか?」

のあ「しないわ。夜更かしをする先生もいないし」

まゆ「麻雀好きな先生たちは徹夜でやっていたとか……」

藍子「川島先生が夜更かしするわけないですよね」

まゆ「のあさんはお部屋でなにかしますか?」

のあ「真奈美のトレーニングを体に反映させようかと」

藍子「……つまり?」

まゆ「眠る……?」

のあ「その通り。皆の邪魔はしないわ、おやすみなさい」

藍子「おやすみなさい」

まゆ「おやすみなさい……」

73 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 22:44:25.50 Syf1tc1m0 72/222

44

椋鳥山荘・3階・のあと真奈美の部屋

真奈美「お帰り。クールダウンは出来たか?」

のあ「ええ……ばたり」

真奈美「おや、お疲れか」

のあ「真奈美のトレーニングはハードね」

真奈美「のあに適切なレベルを見極めたはずだ」

のあ「その通り、適切すぎたわ」

真奈美「待て、髪は……乾いてるな」

のあ「心配いらないわ、お休み」

真奈美「いつもより寝る時間が早いな」

のあ「彼女達の邪魔をしちゃいけないもの」

真奈美「そうか」

のあ「真奈美、さっきの話だけれど」

真奈美「何の話かな」

のあ「真奈美は、出ていくのかしら」

真奈美「そんな話はしていなかった。飛躍しすぎだ」

のあ「私と暮らす目的が果たされる時は来るのかしら」

真奈美「既に叶っているよ。だが、もっと続けていたい」

のあ「……」

真奈美「だから、出ていくのは別の事情だ」

のあ「例えば」

真奈美「生活を別にする、そうだな、結婚とかな」

のあ「……そう」

真奈美「おや、寂しいか?」

のあ「ええ、当然よ」

真奈美「そう思ってくれて嬉しいよ」

のあ「でも」

真奈美「でも?」

のあ「辛い別れじゃないのなら、真奈美もまゆが出て行っても平気よ。今はそう、言えるわ」

真奈美「まだ先の話だ。ゆっくりと心の準備をしてもらうよ」

のあ「……」

真奈美「のあ?」

のあ「……」

真奈美「寝たか……やり過ぎてはいないはずだが」

のあ「……」

真奈美「この寝顔なら大丈夫か。おやすみ、のあ」

74 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:00:34.84 +PFa67g40 73/222

45

深夜

椋鳥山荘・3階・のあと真奈美の部屋

キャー!

のあ「悲鳴、真奈美起きなさい!」

真奈美「起きた……何時だ?」

のあ「午前2時よ。悲鳴はおそらく外から。旧館の前に誰かいるわ」

真奈美「外?」

のあ「上着を」

真奈美「ありがとう。のあ、頭の方は」

のあ「布団をかけてくれてありがとう、おかげで明晰よ」

真奈美「何もないと良いのだが」

のあ「そう願ってるわ」

75 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:01:10.10 +PFa67g40 74/222

46

椋鳥山荘・3階・ロビー

泰葉「高峯さん!」

のあ「何があったの」

泰葉「わからないんです、でも外から聞こえたって、如月さんが」

のあ「悲鳴の正体は」

泰葉「忍ちゃんだと思います」

真奈美「他の生徒は」

泰葉「起きた人は、下に行ってしまって」

のあ「どうやら、旧館みたいね」

泰葉「私も行きます!」

真奈美「待て、慌てるな」

のあ「私達も行くわよ、何があったか確かめるわ」

76 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:02:46.33 +PFa67g40 75/222

47

椋鳥山荘・旧館・玄関前

「……そんな」

千早「工藤さん、大丈夫……落ち着いて」

真奈美「何があった?」

「中……」

真奈美「中?」

泰葉「旧館の中に何があるんですか?」

「ダメ!見ちゃダメ!」

のあ「ダメとは?」

泰葉「忍ちゃん……手に、血が」

「え……何、何これ!わからない!」

千早「工藤さん、落ち着いて!あなたのせいじゃないわ!」

瑞樹「工藤さん、どうしたの!?」

珠美「何かありましたか!?」

まゆ「どうしたんですかぁ……?」

加奈「何か、あったんですか?」

真奈美「集まってきてしまったな……」

のあ「私が見に行くわ。川島先生、他の人の無事を確認して」

瑞樹「わかったわ!」

のあ「一時的に大教室に集めてちょうだい」

泰葉「加奈ちゃんは……」

加奈「私、風香ちゃんを見に行くね」

泰葉「あ、うん、お願いしようかな。私は2階の人を呼んできます」

千早「工藤さん、離れましょう……手も洗わないと」

のあ「明かりはある、工藤忍が付けたと推測」

まゆ「のあさん……」

のあ「まゆも山荘に戻っていて。真奈美」

真奈美「準備は出来てる。入るぞ」

まゆ「……」

のあ「まゆ、どうしたの?」

まゆ「もしも……目の前で起こる事件を止められるのなら……止めますよね……」

のあ「まゆ?」

77 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:03:15.28 +PFa67g40 76/222

まゆ「信じてます……のあさん」

のあ「……脇山さん、まゆをお願いしていいかしら」

珠美「私も行く心の準備をしていたのですが」

のあ「数分で出来る準備では足りない。まゆを頼むわ」

まゆ「……」

珠美「わかりました、行きましょう」

まゆ「……はい」

のあ「……」

真奈美「のあ」

のあ「感想を」

真奈美「最悪だ。入って確認してくれ」

のあ「……わかったわ」

78 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:04:52.91 +PFa67g40 77/222

48

椋鳥山荘・旧館・1階

のあ「緒方智絵里……真奈美、息は」

真奈美「残念だが……」

のあ「胸と腹を刺されている。死因はショック死か、あるいは失血死」

真奈美「この血だまりだ……急所を外していたとしても長くは……」

のあ「スイッチに血が付いていて、指の形も」

真奈美「工藤忍のものか」

のあ「おそらく。だけど、妙ね」

真奈美「妙とは」

のあ「スイッチ以外に血が付いていない」

真奈美「誰かがスイッチにつけた、と」

のあ「血飛沫の飛び方も偏っている」

真奈美「こちら側には飛んでいない」

のあ「つまり、犯人は返り血を浴びてるわ」

真奈美「返り血の反応が出た人物が犯人か」

のあ「私が犯人ならそんなことは考えておくわ、ここを見てちょうだい」

真奈美「少しだけ血が多い、線状に見える」

のあ「撥水性のものを伝わって垂れた」

真奈美「レインコートか」

のあ「簡単に処分できる、その前に」

真奈美「見つけないとだな」

のあ「真奈美、緒方智絵里の右手の先を」

真奈美「これは文字……ダイイングメッセージか?」

79 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:05:26.77 +PFa67g40 78/222

のあ「F、かしら」

真奈美「Fというと」

のあ「浅野風香だけ。でも、違和感がある」

真奈美「違和感とはなんだ?」

のあ「緒方智絵里が書いたとは思えない」

真奈美「その根拠は」

のあ「指を押し付けて書いたように見えるわ」

真奈美「誰かが死後に工作した、と」

のあ「殺害現場はほぼそのまま、偽装工作も簡単なものだけ……真奈美、質問を」

真奈美「なんだ?」

のあ「容疑者は」

真奈美「おそらく山荘にいる」

のあ「部外者の可能性を何故排除できるのかしら」

真奈美「ここが殺害現場だから、だ」

のあ「その通り。緒方智絵里を部外者がここまで運んできたとは考えにくい」

真奈美「誰かに呼び出されたな、山荘の誰かに」

のあ「ケータイも通じない場所で部外者が呼び出したとは思えない」

真奈美「夜中にこんな場所に来るんだ、相手は……」

のあ「真奈美、緒方智絵里は犯人に立ち向かえるかしら」

真奈美「そういうタイプには見えなかった」

のあ「危険を察知したら、逃げるはずよね」

真奈美「ああ」

のあ「ここにいる時点でおかしいわ」

真奈美「部屋の真ん中か、壁際ではなく」

のあ「親しい間柄のはず」

真奈美「やはり、犯人は」

のあ「……クラスメイトの誰か」

真奈美「……そうなるか」

80 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:06:43.86 +PFa67g40 79/222

のあ「彼女達を疑うのは嫌だけれど……難事件ではないわ」

真奈美「その根拠は」

のあ「現場は残っている、久美子達なら手掛かりは幾らでも見つけられるはずよ」

真奈美「後はアリバイか」

のあ「南側の部屋の生徒が目撃者となっていないかしら……いや、違う」

真奈美「のあ?」

のあ「犯人は殺人が露呈することを覚悟している可能性があるわ」

真奈美「待て、それなら」

のあ「山荘に戻りましょう。後がない人間は何をするかわからないわ」

81 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:07:20.97 +PFa67g40 80/222

49

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

千夏「はい、住所は……」

泰葉「高峯さん!」

のあ「大教室にいなさいと言ったはずよ」

泰葉「とにかく、今は3階へ行ってください!」

真奈美「警察への連絡は」

千夏「今しています!」

のあ「電話回線は無事、と」

泰葉「こっちです!」

真奈美「何をそんなに急いで……まさか」

のあ「まずは確認を。真奈美、行くわよ」

82 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:08:19.41 +PFa67g40 81/222

50

椋鳥山荘・3階・浅野風香の部屋前

泰葉「風香ちゃんの部屋です!」

清良「今井さん、しっかりして!」

加奈「……」

泰葉「加奈ちゃん……どうですか」

清良「この通り、放心状態で……」

真奈美「何があった?」

清良「様子を見に来たら、今井さんがへたり込んでいて……」

泰葉「私も加奈ちゃんと風香ちゃん以外は集まったから、様子を見に来て……」

のあ「真奈美」

真奈美「どうし……た」

のあ「親友の首吊り死体は……耐えられないでしょうね」

真奈美「悲鳴も出ないほど、か」

のあ「真奈美、今井さんを頼むわ」

真奈美「わかった。今井君を運ぼう、柳先生手伝いを」

清良「わかりました」

のあ「岡崎さんも行きましょう」

泰葉「調べなくていいんですか」

のあ「まずは全員の無事を確認し、万が一の可能性を止めることよ」

泰葉「……」

のあ「どうしたの、岡崎さん」

83 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:08:58.93 +PFa67g40 82/222

泰葉「自殺じゃない……ですよね」

のあ「今は考えなくていいわ。落ち着きなさい」

泰葉「……知ってるんです」

のあ「知ってる?」

泰葉「何でもないです……」

のあ「岡崎さん、ショックを受けてるのね」

泰葉「……そうかもしれません」

のあ「気丈に振る舞うのもいいけれど、事態が事態よ。無理をすることはないわ」

泰葉「違うんです……ごめんなさい、疑っています」

のあ「誰を、かしら」

泰葉「あなた、です」

のあ「どういう意味かしら」

泰葉「……皆の所に行きましょう。集まっていれば、安全ですから」

のあ「……ええ」

84 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:10:31.75 +PFa67g40 83/222

51

椋鳥山荘・1階・大教室

瑞樹「とりあえず、全員無事よ……」

のあ「全員いるわね、緒方智絵里、浅野風香、今井加奈とシスタークラリス以外は」

瑞樹「……ええ」

真奈美「シスタークラリスと今井君はどちらに」

瑞樹「ショックを受けてるみたいだから、シスタークラリスにお願いしているわ。1階の西側の部屋に一緒に」

のあ「……そう」

真奈美「警察は」

千夏「1時間後には。道や電話回線には特に問題ないと」

のあ「生徒達の様子は」

瑞樹「この通り……事態は伝わってるわ」

藍子「のあさんっ!」

のあ「ここにいるわ」

藍子「犯人は、智絵里ちゃんを殺した犯人は風香ちゃんなんですか……?」

のあ「今の所はわからないわ」

藍子「えっ……」

珠美「まさか、別に犯人がいると!?」

のあ「それもわからない。部外者の可能性もあるわ」

裕子「そうですよね!このクラスに人を殺せるような人はいませんから!」

加蓮「……本当に、そうかな」

裕子「えっ、何ですか、加蓮ちゃん」

加蓮「いるんじゃないの。ねぇ、岡崎さん」

泰葉「何を言ってるんですか……?」

加蓮「別に。あなたが恨んでて、それで殺しちゃったとか」

蓮実「あなたが言えることじゃない」

加蓮「なに、蓮実」

蓮実「なんでもない」

85 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:11:21.57 +PFa67g40 84/222

泰葉「デタラメなことを言わないでください!疑うなら、他にもいて……一番怪しいのは、そう、まゆちゃん」

まゆ「私……?」

泰葉「そう。だって、探偵さんと共犯だっておかしくないのに」

まゆ「……違う、違います!のあさんを疑わないでください!」

泰葉「信じられない。でも、他にも汚い手段が好きな人もいるから」

千早「なぜ、私を見るのかしら」

泰葉「……別に」

千早「岡崎さん、言いなさい」

泰葉「じゃあ、言います。あなたは兄弟を殺したんでしょう」

千早「……あれは事故だったのよ」

泰葉「不幸な事故だったの、本当に?」

藍子「泰葉ちゃん、やめたほうが……」

千早「何が、言いたいの」

泰葉「あなたが、そういう人だってことよ」

千早「岡崎さん、言っていい事と悪い事があるわ!」

藍子「待って、こんな時に言い争っても……」

千早「あなたは黙ってなさい、高森藍子!」

藍子「……うぅ」

珠美「千早殿、落ち着いてください!」

裕子「そ、そうですよ!」

千早「優……」

瑞樹「どうしたの、みんな落ち着いて!」

「……言い合っても仕方がないよ」

泰葉「冷静ですね、実はホッとしているから?」

「えっ、いきなり、何言うの?」

泰葉「……」

のあ「岡崎さん、落ち着いて」

泰葉「落ち着いてなんていられない!だって、クラスメイトが2人も殺されてる!誰も信じられないし、誰も傷つけたくないのに!なのに、何もやれなくて……」

清良「……」

86 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:11:51.14 +PFa67g40 85/222

珠美「珠美も同じ気持ちです。でも、騒いでも何も解決しません」

千夏「ええ……そう思うわ」

珠美「泰葉殿、落ち着きましょう」

泰葉「……うん」

のあ「素直に言うけれど、私は直ぐにこの事件を解決できないわ」

真奈美「……」

のあ「警察が来るまで、皆を守るわ。それだけは約束させて」

まゆ「……はい」

のあ「この部屋で待っていましょう。いいかしら」

瑞樹「みんな、従ってくれるかしら」

千早「……仕方がないわ」

加蓮「いたくないけれど」

蓮実「わかりました」

真奈美「のあ、事情を聞くか」

のあ「……いいえ。不安にさせるだけよ」

真奈美「承知した」

のあ「川島先生、今井さんとシスタークラリスを呼んできて。大丈夫そうであれば」

瑞樹「わかったわ」

のあ「真奈美はロビーで見張りを。刑事がかっ飛ばしてくるはずよ」

87 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:14:22.13 +PFa67g40 86/222

52

椋鳥山荘・駐車場

大和亜季「到着であります!久々にサイレンでかっ飛ばしましたな!」

新田美波「山道での運転技術、参考になりましたっ」

大和亜季
刑事一課和久井班所属の巡査部長。山道を苦にしない運転技術を披露した。

新田美波
刑事一課和久井班所属の巡査。普段は運転担当だが、今日は亜季が運転を担当した。

亜季「いやいや、褒められると照れますなぁ」

和久井留美「疲れていなそうね。新田巡査、今の時刻を」

和久井留美
刑事一課和久井班班長。階級は警部補。通報時はまだ起きていたらしい。

美波「午前3時25分です」

留美「通報からおよそ1時間。科捜研の車は」

美波「あそこに。後300秒くらいで駐車場に到着予定です」

亜季「早いでありますな」

留美「出発が早かったもの。署を出たのが一番早かった」

美波「でも、大和巡査部長が追い抜きました」

亜季「あっちはサイレンなしでありますから」

のあ「来たわね、留美」

留美「探偵さん、お疲れ様」

亜季「高峯殿、お疲れ様であります!」

美波「和久井班到着しましたっ」

のあ「状況は把握してるかしら」

留美「大まかには」

のあ「私と学生がここにいる理由は」

留美「大体聞いてるわ。新田巡査、1階東側の大教室へ。全員の安全を確保して」

のあ「真奈美がいるわ、使ってちょうだい」

美波「はいっ!」

留美「新田巡査、止まって。探偵さん、聞き取りは」

のあ「進んでないわ」

留美「探偵さんらしくもない。新田巡査、聞き取りもお願いするわ」

美波「美波、いきますっ!」

留美「遺体は2人と聞いてる。私はどちらを先に見ればいいかしら」

のあ「2階を」

88 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:15:12.45 +PFa67g40 87/222

留美「信頼しましょう。大和巡査部長、別館の状況保存と見分を」

亜季「了解であります!」

のあ「行きましょう」

留美「ちょっと待って。科捜研の3人が来てるの」

のあ「鑑識より先に到着してるとは、職務熱心ね」

松山久美子「のあさん、お疲れ様」

松山久美子
科捜研所属。常時白衣着用の美女。すぐに現場に行ける体制は整えてあるわ、とのこと。

のあ「久美子、早いわね」

久美子「清路の科捜研は現場主義なの。のあさん達も心配だったし」

留美「松山さんは私達と2階へ」

久美子「オッケー」

留美「そこのおふたり?」

梅木音葉「準備できました……なんでしょうか?」

一ノ瀬志希「にゃはは、深夜の緊急出動は興奮しちゃうねー」

梅木音葉
科捜研所属。久美子の後輩らしく白衣着用。耳が利くタイプ。通報時は科捜研で趣味に勤しんでいた。

一ノ瀬志希
科捜研所属。音葉の年下の後輩。鼻が利くタイプ。音葉が自宅に帰らないので、科捜研に泊まるつもりだった。

留美「梅木さんは大教室へ、新田巡査の手伝いを。科捜研の職務は、その後でいいかしら」

音葉「わかりました……」

留美「一ノ瀬さんは、緒方智絵里さんの殺害現場を見てちょうだい」

志希「んー……」

留美「嫌かしら」

志希「にゃはは!留美にゃん、適材適所!いってくるよー」

留美「なぜ、一ノ瀬さんは一目散に旧館の外へ?」

のあ「彼女なりに何か気づいているから」

久美子「信じておくと気も楽よ」

留美「信じましょう。2階の現場に案内して」

のあ「わかったわ」

89 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:17:49.73 +PFa67g40 88/222

53

椋鳥山荘・3階・浅野風香の部屋

留美「天井の梁に首吊り死体、お名前は」

のあ「浅野風香」

久美子「争った様子はないわね。のあさん、この部屋調べた?」

のあ「いいえ。あなた達に任せた方がよいかと」

久美子「何もしてなさそうね。そこの手紙、見ていいかしら」

留美「手紙?」

久美子「机の上。のあさん、中身見てないのよね?」

のあ「見ていないわ」

留美「あなたが見た時のまま」

のあ「ええ」

留美「その手紙、私にも見せてちょうだい」

久美子「うん、内容は遺書だったわ」

留美「そのようね。探偵さん、第一発見者は」

のあ「今井加奈。彼女が浅野風香と最も親しかった」

留美「浅野風香さんの得意科目は」

のあ「得意科目?」

留美「知ってるかしら」

のあ「おそらく国語。苦手なのは英語、何故そんなことを?」

留美「情報は幾らでも欲しい、柊課長に提出するために。彼女の趣味は?」

のあ「これも推測だけれど、趣味は本を読むこと、それと書くこと」

久美子「そうかもしれないわね。遺書の文章もしっかりしてるわ」

留美「家族構成は」

のあ「父親と二人暮らし。だけれど、苗字は母方の浅野を名乗ってる」

留美「自殺の動機は、この遺書に」

久美子「遺書の内容は……」

のあ「緒方智絵里を殺害、殺害は前から決めていた、動機は怨恨、自殺も決めていた」

久美子「のあさん、読んでないんじゃなかったの?」

のあ「読んではいないわ、推測の結果」

留美「遺書の筆跡は浅野風香さんのものかしら」

久美子「ノートと比べてみたけれど、本人の可能性が高いと思うわ。正確には鑑定を待って」

90 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:18:31.29 +PFa67g40 89/222

留美「凶器は」

のあ「今の所、見つかっていないけれど」

留美「すぐに見つかるでしょう」

のあ「見つからないといけない」

久美子「ねぇ、ツーカーなのは良いことだけど、私にもわかるように会話してくれない?」

留美「今は現場に集中して」

久美子「了解、事情は後から聞くわ」

留美「犯人は自殺。直筆の遺書もある」

のあ「そうね。だけれど」

留美「探偵さん、自殺だと思う?」

のあ「……わからない」

留美「松山さん、あなたの感想は」

久美子「自殺は偽装の可能性があるけど、本当に自殺かもしれない」

留美「根拠は」

久美子「自殺なら少なくとも自分の体を梁の近くに上げないといけないわ」

留美「その足場がない」

久美子「ええ。椅子か脚立があるはずだけれど、ない」

留美「梁から飛び降りた場合は」

久美子「梁に落下した時の傷がない」

のあ「そんなことしたら、縄が切れる可能性すらある」

留美「失敗したら、下の部屋の生徒が飛んでくるわね」

のあ「下の部屋は脇山珠美。悲鳴で起きて来たし、正義感も強いから確実に次の機会は失われる」

留美「縄の出所は」

のあ「旧館から」

久美子「梁は結構な高さがあるのよね」

のあ「それが問題」

久美子「結構グラマラスね。そんな浅野風香さんを持ち上げられそうな人は……」

のあ「いないわ」

留美「いるわよ、2人くらい」

のあ「その2人は、私と真奈美」

久美子「もしくは複数犯ということね」

91 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:20:09.87 +PFa67g40 90/222

留美「複数と言ってもパターンがある」

久美子「そうね、手伝ったのはどっちだったのかな」

のあ「どういう意味かしら」

留美「殺人、2件の殺人、殺人と自殺、どれをどこまで誰が手伝ったかはわからない」

久美子「死亡推定時刻は12時から2時くらい」

のあ「おそらく、緒方智絵里よりは後」

亜季『警部補殿、下へ来ていただいてもよろしいですか?』

留美「了解。松山さん、ここはよろしく」

久美子「わかったわ」

留美「探偵さんは私と下へ」

のあ「ええ」

92 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:20:54.74 +PFa67g40 91/222

54

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

真奈美「のあ」

留美「様子はどうかしら」

真奈美「問題ない。新田巡査と音葉君が聞き取りを進めている」

のあ「何か伝えたいことでも」

真奈美「緒方智絵里が旧館に移動するところを見ていた人物がいる」

留美「どなたかしら」

真奈美「長富蓮実だ」

のあ「2階の南側、起きていたら気づく可能性はある」

留美「何故起きていたのかしら」

真奈美「音楽を聴きながら、ボーリングのためのトレーニングをしていたらしい」

のあ「そう。それで何時ぐらいだったのかしら」

真奈美「1時頃だそうだ」

留美「夜更かしね。別に肝試しをしてようが咎める理由もなしと言った所かしら」

真奈美「工藤忍が緒方智絵里に呼び出された時間と相違がない」

のあ「呼び出された?」

真奈美「緒方智絵里が工藤忍の部屋に来て、2時に旧館に来る約束をしたのが12時半より前だ」

のあ「犯行時刻はその間。緒方智絵里は工藤忍を呼び出す動機がある」

真奈美「そうなのか?」

留美「……」

のあ「真奈美、詳細は後で」

留美「今は大和巡査部長の報告を先に」

のあ「そうしましょう」

留美「真奈美さん、引き続き聞き取りをお願い」

真奈美「わかった」

93 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:22:28.66 +PFa67g40 92/222

55

椋鳥山荘・旧館・裏口付近

留美「大和巡査部長」

亜季「警部補殿、こちらを見てください」

志希「聞くべきは刑事じゃなくて探偵。のあにゃん、何かわかるでしょ?」

のあ「発火装置……」

志希「報告書を見たよー、音葉ちゃんの愉快なリズムで書かれたヤツ」

亜季「佐藤心が作成していたもの、かと」

のあ「宮本フレデリカが小火を起こしていたものと同種ね」

志希「発火寸前だったから、水をかけちゃった」

のあ「発火寸前だった?」

志希「うん、志希ちゃんが見つけなかったら旧館は丸焼けだったよ」

のあ「室内に置けばいい、現場を隠蔽できるわ」

亜季「確かに、そうでありますな」

のあ「発火時間が遅すぎるのも不自然よ」

志希「うーん、それには反対。朝方なら、もしも山荘に延焼しても逃げられるよ?」

留美「他に発見したものは」

亜季「足跡であります。こちらを」

志希「小さめの足跡が一人分。身長は150センチ前半ってとこ」

のあ「消されてるわ。一人分になるように」

志希「使ったトンボは部屋の中にあったよ。指紋は後で調べとくー」

亜季「犯人は緒方智絵里殿を殺害した後に、裏口から出たようであります」

志希「そして、ここで山の斜面に近づいた」

亜季「犯人は凶器を投げ捨てたであります」

留美「見つかったの?」

亜季「発見済みであります」

志希「犯人は右足を踏み込んで、一生懸命投げたけど力が強くなかったみたい」

亜季「斜面を転がり過ぎることはありませんでした」


94 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:23:04.07 +PFa67g40 93/222

留美「強く踏み込んだ足跡が2つあるのは」

志希「凶器以外に、何かを投げたから」

留美「その何かは見つかったの?」

亜季「そちらは捜索中であります」

志希「三角形か丸い、ころころ転がる何か?」

のあ「転がるもの……」

志希「血が付いたレインコートとかだよ、のあにゃん、わかってるでしょ~」

のあ「……ええ」

志希「犯人は左手でその2つを投げた。それで、今度はこっち」

亜季「この壁であります」

志希「もたれかかってた。数時間前に」

のあ「……」

志希「肩の位置はこれくらい。身長は150センチくらい、足のサイズからの見立てと一緒」

亜季「犯人は、その後表に回り」

志希「堂々と出て行った」

95 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:23:49.29 +PFa67g40 94/222

留美「何故、ここにもたれかかってたの?」

亜季「山荘が見えるからであります」

志希「タイミングを計ってた」

亜季「こちらは暗くて見えませんが、明かりやカーテンの有無はわかります」

志希「だから、堂々と帰れたんだよー」

留美「フム、なるほど」

亜季「目ぼしい発見はそんな所であります」

留美「重要な証拠、凶器が見つかったわ。早期の連絡をありがとう」

志希「遺体はこれからじっくり見るよー、さっくりとは見たけどね。気になることがあるんだー」

留美「何かしら」

志希「刺したのは右、投げたのは左、共犯なのかなぁ?」

のあ「……」

留美「考慮に入れておくわ。のあ」

のあ「何かしら」

留美「山荘へ。新田巡査の調査結果を聞くわ」

のあ「ええ、行きましょう」

留美「待ちなさい、そんなに急がなくても」

亜季「……」

志希「……」

亜季「一ノ瀬殿も人が悪いでありますな」

志希「のあちゃんがいつもの調子だったら、仕事が終わってたのにねー」

亜季「同感であります。だから、私達がやるでありますよ」

志希「にゃはは、気分を入れ替えて、お仕事お仕事~」

96 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:25:44.26 +PFa67g40 95/222

56

椋鳥山荘・1階・玄関ロビー

のあ「留美、止まってちょうだい」

留美「どうしたのかしら、ソファーに座り込んで」

のあ「疲れたの……あなたの力になれそうもないわ」

留美「仕方がないわね、真奈美さんを呼んでくるわ」

クラリス「和久井留美様はどなたでしょうか?」

留美「私です。お名前をお聞きしても」

クラリス「クラリスと申します。星輪学園でシスターと教職についております」

留美「フルネームは」

クラリス「生徒の前ではお控えください」

留美「わかりました。ご用件をお聞きしても」

クラリス「和久井様とお話したい生徒がおります。あちらの部屋へ」

留美「私を名指し、ですか」

のあ「……」

クラリス「はい。和久井様お一人で来て欲しい、と」

留美「わかりました。伺いましょう」

クラリス「よろしくお願いします」

留美「木場真奈美さんを呼んでくださるかしら」

のあ「私は3階の部屋にいるわ。真奈美も3階に来るように」

クラリス「わかりました」

留美「聴取は順調ですか」

クラリス「皆様、落ち着いております。協力的かと」

留美「ありがとうございます。案内をお願いしても?」

クラリス「はい。その前にひとつお聞きしてもよろしいですか」

留美「何なりと」

クラリス「高峯様とは付き合いが長いのですか」

留美「そうです。真奈美さんよりも長いかと」

クラリス「長い付き合いが出来る理由は」

留美「変人だけれど、正義の人だから。これ以上ない美徳ですから」

クラリス「ご案内します。こちらですよ」

97 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:27:26.70 +PFa67g40 96/222

57

幕間

椋鳥山荘・1階・東大部屋

クラリス「こちらです。ごゆっくり」

留美「ありがとうございます」

まゆ「留美さん、こんばんは……」

留美「こんばんは、まゆちゃん」

まゆ「驚かないんですね……」

留美「私がいることがわかるのは、まゆちゃんだけよ」

まゆ「……はい」

留美「座っていいかしら」

まゆ「どうぞ……お茶も何もありませんけど」

留美「お気遣いなく」

まゆ「留美さんは……疲れていませんか」

留美「元気よ。最近は休みも取れてるから」

まゆ「……そうですか」

留美「学校は楽しいかしら」

まゆ「前の高校よりは……」

留美「のあが言っていたわ。心配そうに嬉しそうに」

まゆ「のあさんは……なんて、言ってましたか?」

留美「楽しそうよ、って」

まゆ「……」

留美「この行事も楽しみにしていたわ」

まゆ「……」

留美「まゆちゃん?」

まゆ「留美さんは……まゆが言うまで聞かないつもりなんですね」

留美「どういうことかしら」

まゆ「ごめんなさい……のあさんにも、真奈美さんにも言えなくて……」

留美「……」

まゆ「留美さんは……信じてくれますか」

留美「信じるわ。何を見たのかしら」

まゆ「……違います」

留美「違う……とは」

まゆ「言います……このままだと……のあさんが辛いから……」

留美「……」

まゆ「私が……やりました」

幕間 了

98 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:28:55.10 +PFa67g40 97/222

58

椋鳥山荘・3階・のあと真奈美の部屋

真奈美「のあ、大丈夫か」

のあ「……」

真奈美「のあ?」

のあ「犯人がわかったわ。今、留美に自供しているはずよ」

真奈美「本当か」

のあ「犯人は、まゆよ」

真奈美「……」

のあ「驚かないのね」

真奈美「 様子がおかしかった」

のあ「まゆの様子に気づいていたのね」

真奈美「違う。のあの様子だ」

のあ「……ごめんなさい、私はあの子の力になれそうもないわ」

真奈美「……」

のあ「せめて、真奈美が共犯だと思われないように動くしかなかった。頭は動かない、最悪なパターンしか思い浮かばない、それを補強する証拠しかでない」

真奈美「のあだったら、調査はするはずだ。最初の1時間が重要だからだ」

のあ「出来ない……」

真奈美「しかし、結論に辿り着いている。何故だ?」

のあ「私は調べていたから」

真奈美「何を」

のあ「まゆのことに決まってるでしょう!」

真奈美「落ち着け、のあ」

99 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:29:23.29 +PFa67g40 98/222

のあ「まゆ、浅野風香、緒方智絵里、工藤忍には動機となり得る関係があるの」

真奈美「関係か」

のあ「マンション火災よ、まゆは両親を失い、結果的に私の家にいるわ」

真奈美「……」

のあ「浅野風香の母親が火事の原因を引き起こしたわ、火災が多くの死者を出したのはマンションの設計が悪かったから……具体的には保温材が燃える際に毒ガスが出たから」

真奈美「……」

のあ「緒方智絵里の父親は原因を突き止めた、警察官だったの。浅野風香は母方の姓を名乗りつつ、父親と暮らしているわ。いられなくなったの、世間の目に耐え切れなくなって」

真奈美「緒方智絵里と工藤忍の関係は」

のあ「緒方智絵里の父親が殉職している……その事故に関わっているのが工藤忍の父親よ」

真奈美「……」

のあ「真奈美、工藤忍が緒方智絵里の遺体を発見した理由は何かしら」

真奈美「呼び出されていたからだ」

のあ「誰に」

真奈美「緒方智絵里だ」

のあ「まゆの部屋は」

真奈美「南側の3階だ、一番ロビー寄りの」

のあ「工藤忍の部屋は」

真奈美「佐久間君の目の前」

のあ「2人の因縁に気づいていた理由は」

真奈美「わからな……いや、ある」

のあ「そう、私よ。私が調べた資料があるの」

100 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:30:36.24 +PFa67g40 99/222

真奈美「佐久間君は緒方智絵里の計画に気が付いた」

のあ「……バカなことを」

真奈美「浅野風香の件にどう説明をつける?」

のあ「室内にある机と椅子があれば梁に手が届くわ。動かした痕跡が見つかるはずよ」

真奈美「遺体を持ち上げられない」

のあ「持ち上げたんじゃないわ、首を絞めたロープごと引き上げたの……そのロープを梁に結んだだけ」

真奈美「……」

のあ「おかしいのよ……工藤さんの悲鳴を聞いた直後に、岡崎さんと私達が話している所に一番まゆの部屋が近いのよ。なのに」

真奈美「遅れて出て来た、合流したのは旧館の前だ」

のあ「部屋から出て来たわけじゃないの。工藤忍が見つけるまで、旧館に隠れていたから」

真奈美「騒ぎに乗じて紛れ込んだ」

のあ「足跡もあったわ……凶器からも指紋が見つかるはずよ、レインコートから、まゆが寝間着に来ていたジャージの繊維も」

真奈美「のあ、違うぞ。それなら、辻褄があわない」

のあ「勘違いしてるのは真奈美よ、私達が見つけた順番にすぎない」

真奈美「……どういうことだ」

のあ「目撃情報から考えても、緒方智絵里を刺殺した後に工作が出来るわけないの」

真奈美「順番が逆……」

のあ「浅野風香が亡くなったのがおそらく1時頃、緒方智絵里は1時半頃よ」

真奈美「待て」

のあ「まゆは、復讐をするような、違うわ、そんなはずはないの!」

真奈美「のあ……」

のあ「まゆの復讐だったら、浅野風香の直筆の遺書なんて手に入らないの。まゆと同じように緒方智絵里の行動を利用する、動機がある人間がいたの」

真奈美「浅野風香か」

のあ「まゆは止めるしかなかった……そう思い込みたい」

真奈美「……」

のあ「まゆが浅野風香と緒方智絵里を殺した犯人よ。2つの殺人事件を止める代わりに、2つの殺人を犯したの……」

真奈美「……」

のあ「私の見立ては終わりよ、否定できる材料が見つからないの……」

真奈美「のあは、何を望んでるんだ」

のあ「そうでないことを!こんな結末でないことを、こんな別れじゃなければ、私は何とだって耐えられるのに……どうして……」

真奈美「……」

コンコン

留美「入っていいかしら」

真奈美「和久井警部補だ、入れていいか」

のあ「……断る理由はないわ」

真奈美「入ってくれ」

101 : ◆ty.IaxZULXr/ - 2019/02/20 23:31:44.72 +PFa67g40 100/222

留美「お邪魔するわ。のあと話をさせてちょうだい」

のあ「まゆは話したのかしら」

留美「佐久間まゆさんは2件の殺人を自供しました」

のあ「……」

留美「のあにお願いしたいことがあるの」

のあ「わかってるわ。私の見立ては真奈美に話したから、真奈美から全部聞いて。まゆについて調査した資料は私の部屋のファイルを見て。まゆの対応と取調べは少年課の、出来るなら夏美にさせて。私も夏美以外の取り調べは受けない」

留美「わかりました。取り計らうわ」

のあ「ありがとう。だから、出て行って」

留美「……」

のあ「聞こえなかったかしら」

留美「出ていくわ。真奈美さん、のあを頼むわ」

真奈美「もちろんだ」

のあ「真奈美もよ」

真奈美「断る」

のあ「大丈夫だから、ただ……」

真奈美「なんだ」

のあ「泣きたいだけだから……お願い」

留美「真奈美さん、お話を。のあの見立てを教えてちょうだい」

真奈美「……ああ。のあ、気持ちは私も同じだ」

のあ「……知ってるわ、だから、私は、ワガママなの」

真奈美「それもわかってる。泣いておけ、自分の気持ちに整理がつくまで」

のあ「……うん」

真奈美「私は近くにいるからな。待ってるよ」

前編 了

後編に続く。



浅野風香『高峯のあの事件簿・佐久間まゆの殺人』【後編】



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