≪多目的トイレ≫
男「なんだこりゃ……≪多目的トイレ≫?」
男(一体どんなトイレなんだろう……興味あるな)
男「入ってみるか」
ウイーン…
マスター「いらっしゃいませ」
男(なんだ、この空間は……! 一歩足を踏み入れた瞬間、明らかに空気が変わった……!)
マスター「≪多目的トイレ≫にようこそ」ニッコリ
元スレ
男「多目的トイレ……? 入ってみるか」マスター「いらっしゃいませ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1592298968/
男「あんたは……?」
マスター「わたくし当トイレの支配人……≪トイレマスター≫でございます」
男「トイレマスター……!」
マスター「以後お見知りおきを」
男「ご、ご丁寧にどうも」
マスター「せっかくいらっしゃったのです。まずは一杯いかがです?」サッ
男「なんですか、これ」
マスター「トイレの水です」
男「いるか!!!」
マスター「まあまあ、騙されたと思って……」
男「どんなに騙されたってトイレの水なんか飲まねーよ!」
マスター「匂いだけでも……」
男「……」クンクン
男(なんだこれ……トイレの水のはずなのに気品と清らかさが漂ってくる!)
男「飲まずにはいられないィィィ!」グビグビッ
マスター「……」ニコッ
男「うまい!」
男「飲み込んだ瞬間に、体じゅうを洗浄されるような感覚を味わった!」
男「まるで全身の細胞がすっかり生まれ変わったかのような……。なんだ、このフレッシュさは!」
マスター「それもそのはず。当トイレの水は世界中のミネラルウォーターを理想的な配分でブレンドした」
マスター「究極のミネラルウォーターですから」
男「究極のミネラルウォーター……!」
男「もう一杯もらっていいですか?」
マスター「どうぞどうぞ」
マスター「さて、水を飲んだらお腹もすいたでしょう」
男「そういえば……」グゥゥ…
マスター「というわけで、こちらをご用意しました」
男「これは……!」
マスター「カレーライスです」
男「まさか、トイレでカレーを食うというシチュエーションを実体験することになるとは……」ハフッ
男「だけど……悔しいけどうまぁい!」ハフッハフッ
マスター「ありがとうございます」
男「おいしかったー」ゲフッ
マスター「食後にはこちらはどうぞ」
男「ウン……いや、これは……かりんとう……!」
マスター「老舗の和菓子職人に特注した逸品でございます。ここでしか食べられませんよ」
男「……」ポリポリ
男「控えめな甘さでメチャクチャうめえ! いくらでも食べれちゃう!」ボリボリ
マスター「“やめられない、止まらない”を目指した味ですから」
マスター「よろしければ、お茶もどうぞ」
男「サンキュー!」
男「さっきから気になってたんだけど……」
マスター「なんでしょう?」
男「あの鏡にももしかして、仕掛けがあるの?」
マスター「もちろんでございます」
男「ふうん……?」
鏡『ファッションチェーック!!!』
男「わっ!?」
鏡『鼻毛が出かかってるな、そろそろ切った方がいいぜ。抜くのは厳禁な』
鏡『素材は決して悪くねえんだから、背筋はもっとしゃんとして、容姿に自信を持って……』
鏡『これからの季節、上半身はもっと明るい色でコーディネイトして、爽やかな印象を……』
男「身だしなみをチェックしてくれるのか」
マスター「多少おせっかいなところもありますが、アドバイスの的確さには定評がございます」
マスター「この鏡のおかげで恋愛や就職活動が上手くいったという声も聞かれます」
男「へぇ~」
男「他にも鏡があるね」
マスター「こちらの鏡は、さまざまな映画、ドラマ、アニメなどを観ることができます」
男「テレビみたいなもんか」
マスター「ラインナップはこちらです」サッ
男「どれどれ……」
男「おお、すごい! 幻の名画といわれるあの作品もあるじゃないか!」
男「内容がヤバすぎてDVD化されてないやつや、日テレのドラえもんまで……!」
マスター「あらゆるニーズにお応えする、が当トイレのモットーですから」
男「トイレットペーパーにももちろん、仕掛けがあるんだろうね?」
マスター「もちろんでございます」
マスター「このトイレットペーパーは、ネパールの奥地でしか採れない繊維で作り出した特注品でして」
マスター「さらにそこに、霊的な処理を加えた品となっております」
男「……?」
マスター「たとえば、あなたの腕、擦り傷がありますね」
男「ああ、自転車でコケてすりむいちゃって」
マスター「ここにトイレットペーパーを巻くと、あら不思議」
男「……! 傷が消えた!」
マスター「このトイレットペーパーを全身に巻き、重病を治した方もいらっしゃるほどです」
マスター「便器にお座り下さい」
男「うん」サッ
マスター「ポチッとな」ポチッ
ウイーン…
男「ん?」
ウィンウィンウィンウィンウィン…
グォングォングォングォングォン…
男「おっ!? おっ!? おっ!?」
男(これは……マッサージ!?)
マスター「この便器は、マッサージチェアになっているのです」
ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン…
ウイーンウイーンウイーン…
グニグニグニグニグニグニグニ…
ギュルルルルルルル…
男「お゛っ! お゛っ! お゛っ! お゛っ! お゛っ! お゛っ!」
男「ギモヂイイ~~~~~!!!」
男「あぴゃらぱぁ~~~~~~~~~~!!!!!」
グオングオングオン…
男「あぁ~……極楽極楽」
マスター「さらにこちらの芳香剤をお嗅ぎ下さい」
男「?」クンクン
男「ああ……」ホワァン…
男「なんていい香りなんだ……」
マスター「空腹で苛立つ猛獣をも落ち着かせるリラックス成分を配合しておりますゆえ」
男「まるで……まるで違う世界にやってきたようだ……」ホワァァァァァン
マスター「なら、いっそ行ってみますか」
男「え?」
マスター「異世界への旅、どうぞお楽しみください」グイッ
ジャァァァァァァ…
男「えっ、ちょっ、待っ……!」
男「便器の中に吸い込まれて……!」
男「うわあああああああああああ……!!!」
――――
――
男「う……ここは……?」
妖精「こんにちは、≪トイレワールド≫へようこそ!」
男「トイレワールド……!?」
妖精「あたしは案内役の妖精よ! よろしくね!」
男「よろしく……」
男(この妖精、可愛いな……)
妖精「あなたの使命は、魔王を倒してこのトイレワールドを救うこと! 頑張ってね!」
男「は、はい、頑張ります!」
妖精「じゃあさっそく、服装を整えなきゃね」
妖精「それっ!」キラキラキラ…
男「うっ!」ボワンッ
男「わっ、ゲームに登場する勇者みたいな格好になった!」
妖精「剣はもちろん、魔法だって扱えるわよ!」
妖精「ウォシュレット、と唱えてみて」
男「ウォシュレット!」ドバァァァァァッ
男「すげえ、水が出た!」
妖精「この調子で頑張ってね! まずは王様に会いに行きましょう!」
王「おお……勇者よ、よくぞ来てくれた!」
男「来たというか、流されてきた、というか……」
王「今このトイレワールドは未曽有の危機に瀕しておる!」
王「どこよりも清潔だったこの世界が、魔王の侵略によって不潔になっておるのだ!」
王「どうか魔王を倒し、この世界を救ってくれ!」
男「分かりました……やるだけやってみます」
妖精「さあ、冒険の旅にしゅっぱーつ!」
かくして勇者の冒険は始まった……。
情報を集め……
村人「暗記する時はトイレのドアに覚えたいことを貼っておくと効果があるぞ!」
男「へぇ~、やってみよ」
経験を積み……
男「だりゃーっ! 闘闘斬ッ!!!」ザンッ!
強敵を倒し……
大ベーン「バカな……!」
小ベーン「俺たちのコンビネーションが……破られるとは……」
男「ハァ、ハァ、強かった……」
妖精「やったわね!」
ついに……
男「いくぞっ、魔王!」
魔王「来るがいい! 我が不潔オーラを受けてみよ!」ムワァァァァァ…
男「うげっ……なんて汚さだ! マスクを貫いてくる! だが――」
男「LV99ブルーレットおくだけ!!!」ブシャァァァァァ
魔王「こ、これは……!? ワシの体がどんどん青くなっていく!?」
男「青(ブルー)はいかなる不潔さも浄化する色……消え去るがいい!」
魔王「ぐわあああああああああああ……!!!」ブルゥゥゥゥゥゥ…
妖精「ありがとう! これでトイレワールドは救われたわ!」
男「魔王は強かったけど、なんとか倒せてよかったよ」
妖精「あなたとはここでお別れだけど、元いた世界でも元気でね!」
男「ああ、君との冒険のことは絶対忘れないよ!」
――――
――
男「!」ハッ
マスター「いかがでしたか?」
男「いやぁ……大冒険を楽しめましたよ」
男「今流行りのVRっていうんですか? それよりも全然リアルで……」
マスター「ちなみに今体験した冒険は全くの虚構というわけではありません」
男「え……?」
マスター「あなたの筋力は多少アップしてるでしょうし、会得した魔法もほんのわずか使えます」
マスター「試しにどうぞ」
男「……ウォシュレット!」チョロロ…
男(水出せるようになってる!)
マスター「まだまだこのトイレには隠された機能・サービスがございますが……」
マスター「いかがでしたか? この≪多目的トイレ≫は?」
男「いや、もう最高でしたよ!」
男「おいしい食事ができて、リラックスできて、長編映画ばりの大冒険もできて……」
男「まさに≪多目的トイレ≫の名に恥じない空間でした!」
マスター「それはありがとうございます」
男「だけど、使用料金は高いんでしょう? 俺が払えるかな……」
マスター「まさか。このトイレは現代人にとっての小さな楽園……お金など頂きません」
男「マジですか……」
男(うーむ、とことん至れり尽くせりだな)
マスター「まだなにかございますか?」
男「あ! だったら最後に……」
男「ここで用を足させて下さい!」
マスター「それはダメです」
男「え」
マスター「用を足すのでしたら、近くに公衆トイレがございますのでそちらをご利用下さい」
男「……」
男「分かりました……」
― 完 ―