幼女「かっていい?」
おかん「魔王って……あらやだ、ずいぶん綺麗な魔王ねぇ……」
魔王「それでいいのか」
元スレ
幼女「おかあさーん! まおうひろったー!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1336373676/
幼女「おうちでかうー」
おかん「ちゃんと自分で面倒見れるの? 命の責任は重いのよ?」
幼女「だいじょうぶ、ちゃんとめんどうみれるもん!」
おかん「……そう。なら、飼ってもいいわよ」
魔王「ねえ、余のこと犬猫かなにかと勘違いしてない? 余は魔王なんだよ?」
幼女「まぉ!」
魔王「かわいいなちくしょう」
おかん「まぉ!」
魔王「無理すんなババア」
幼女「おかあさーん、まおうどこー?」
おかん「庭に埋めたわ」
魔王「酷い目にあった……」
幼女「まおう、だいじょうぶ?」
魔王「ああ。まあ、埋められただけだしな……。しかしなにものなんだあのババ――」
おかん「なにか?」
魔王「――優しいお母さんだな!」
幼女「うん!」
幼女「まおう、あそぼー」
魔王「うむ? 余は暇だし、いいけど」
幼女「じゃあおいしゃさんごっこしよ!」
魔王「医者のロールプレイか。なるほど」
幼女「じゃあわたしがおいしゃさんするね!」
魔王「心得た」
幼女「ええと――『奥さん、まずは服を脱いでください。これは診察に必要なことなのです。下着も全部脱いでください……』」
魔王「ちょっと待ってそれは心得ない」
幼女「『わしの白い注射液をたっぷりそそいでやるからな!』」
魔王「おかあさーん、いままでこの子にどんな教育してきたのー?」
幼女「ちょうしんきないからこれつかうー」θヴヴヴヴ
魔王「おかあさーん」
幼女「つぎはねー、しんこんさんごっこ!」
魔王「見事に嫌な予感しかしない」
幼女「あなたー、ごはんにする? おふろにする? それとも……」
魔王「あれ、意外と普通……?」
幼女「さ・ん・ぴー?」
魔王「もう一人どっから沸いてきた」
幼女「まおうってしょじょ?」
魔王「いきなりなに言ってんのこの幼女」
幼女「ねえしょじょー? しょじょー?」
魔王「処女処女連呼すんな恥ずかしい」
幼女「じゃあばーじん?」
魔王「英語にすればいいってもんじゃないです」
幼女「じゃあvergin?」
魔王「発音いいなおい」
幼女「まおうー、ろうらくされたじょきょうしごっこしよー!」
魔王「心得ない!」
続き
魔王「おつかいいくよー」
幼女「はーい」θヴヴヴヴ
魔王「それは持っていかなくていいよー」
幼女「はーい。じゃあしまうー!」θヴヴヴヴ
魔王「うん、それもって近づかないでねどこにしまう気なの」
幼女「あるべきばしょ」θヴヴヴヴ
魔王「ドヤ顔してんじゃねえよ」
魔王「ええと……なんだっけ、牛乳とバターと――?」
幼女「にんじんとー、きゅうりとー、れんにゅう!」
魔王「――じゃがいもと味噌と豆腐だったっけ……」
幼女「マンゴーとー、バナナとー、ヨーグルト!」
魔王「晩飯なんなんだろう……?」
幼女「にょたいもり!」
魔王「おかあさんの腕に期待だな……」
幼女「むししないでー!」
魔王「店員さん、じゃがいもってど、こ……?」
勇者「あ、はいじゃがいもなら野菜コーナーで……」
魔王「……」
勇者「……」
幼女「……おともだち?」
魔王「……いいや、こいつはただの――」
勇者「……っっふぉぉおおおおうッ魔王ちゃんやッついに会えたよーッッフォォォオオオオオオオウッッ!!!」
魔王「――ストーカー死ねぇぇぇッ!!」
勇者「おっと魔王ちゃん、いいんかな? こんなところで魔法なんか使ってもーて。被害でてまうナー、いろんな人が巻き込まれてまうナー」
魔王「さすが勇者汚い!」
幼女「ゆうしゃ?」
勇者「ん? なんやこの可愛いちびっこは。魔王ちゃんのお友達? よしよ――」
幼女「さわんなくず。ふいんきいけめんかっこわらい。かみがたさえなんとかすればいいとかおもってんじゃねえぞそちんのいんぽやろうが、きょこんのいけめんにほられてしねいますぐしねほねまでくだけろ。だいたいなんだそのはりつけたようなきもちのわるいほほえみはかっこいいとでもおもってんのかしねよきもいんだよしねよ」
勇者「」
魔王「……わーお」
幼女「うー……あいつきらいー。そちんゆーしゃきらいー。ああいうやつがしんにゅうせいかんげいののみかいでいちねんのおんなのこにおさけのませていてこますんでしょーきらいー」
魔王「うん、余もあいつは嫌いだけどさすがに読みにくいからもうやめて」
勇者「……ちゃうもん……そちんちゃうもん……そんなえげつないことしたことないもん……ずっと魔王ちゃんひと筋やもん……」
魔王「それはそれでキモイな。お前もう二十六歳だろ」
勇者「ぼくの初物は魔王ちゃんにささげるんですーずっと前からそのつもりやったんですー」
幼女「ふぇえ……どうていすとーかーきもゆーしゃだよぉ……きもいよぅししゃごにゅうしたらさんじゅっさいのどうていきもいよぉ……」
魔王「うちの幼女泣かしてんじゃねえぞこら」
勇者「むしろ泣かされてるのぼくやんね?」
魔王「ただいまー」
幼女「ただいまー」
おかん「おかえりー……。あら、どうしたの? 泣いたあとあるけど、こけちゃったの?」
魔王「ああ、これは――」
幼女「きもちわるいみそじまえのどうていふいんきいけめんゆーしゃにあったのー」
おかん「なにそれ美味しそうくわしく聞かせて」ジュルリ
魔王「さすがに勇者がかわいそうになってきた」
勇者「ふー、今日も一日がんばったナー、魔王ちゃんにも会えたし……えげつないちびっこにも会ったけど……」
勇者「労働の汗は偉大なり、てナ。うん、明日もがんばろか」
おかん「ちょっとお待ちになって、そこの勇者さん」
勇者「……え?」ゾクリ
魔王「ん……? いま悲鳴聞こえた?」
幼女「……んーん……ごほんつづきー」
魔王「ああ、ごめんごめん。……ってもうおねむじゃん、寝よっか」
幼女「やーらー、ごほんよむのー」
魔王「まったくもう……じゃあこれ読んだら寝ような」
幼女「みゅー……」
勇者「……ッはあ、はあ……逃げ切れたか……ッ?」
勇者「なにもんやねん、あのおばはん……。こちとら魔法で姿消して音速移動してんねんで……?」
おかん『……こっちのほうかしら? 童貞の臭いがするわね』
勇者「……き、きよった……!」
おかん『わたしの童貞センサーから逃げようったってそうはいかないんだからね! ……と、そろそろ夜明けね。今日のハンティングはここまで、と。帰って朝ご飯作らなきゃね』
勇者「……つ、疲れた……。朝日って、いま何時やねんな……」
勇者「あと三時間でバイト……やとォ……!?」
魔王「おや、おかあさん。こんな朝早くまでなにを?」
おかん「狩りよ」
魔王「そうか。主婦も大変だな」
幼女「まおうてんねーん」
店長「今日調子悪そうだな。なんかあったのか?」
勇者「ちょっと……寝不足で……スンマセン……」
店長「なんだ? 朝まで彼女とヨロシクやってたとかか? 若いっていいな!」
勇者「……そーなんすよーwww(ババアに朝まで追っかけまわされてたなんて言えない)」
魔王「今日はなにして遊ぶんだ?」
幼女「おえかき!」
魔王「ほう……なにを描くのかな?」
幼女「かいらくてんみたいなの」
魔王「それはやめようね」
幼女「じゃあやぶきしんさまみたいなの」
魔王「たぶんあれはもう真似できないレベルにまで達していると思うんだ」
幼女「やぶきのかみのみこと」
魔王「本当にいそうな名前だから困る」
魔王「ああそうだ、余はちょっと用事があるから出かけてくるな」
幼女「ふぇえ……いっしょにいくー」
魔王「だーめ。お昼寝してなさい」
幼女「ぶぅー」
勇者「……アカン……目が痛い……眠い……けど、仕事は放っとけへんし」
魔王「……辛そうだな。なんかあったのか?」
勇者「おおっ魔王ちゃん!」
魔王「……目ェ真っ赤だぞ。回復魔法かけてやる、じっとしてろ」キュィィン
勇者「いつになく魔王ちゃんが優しい! なんなんこれついにフラグが」
魔王「即死呪文かけんぞ」キュィィン
勇者「大人しくしてまーす」
勇者「……まあ、だいたいなんの話しに来たんかはわかる」
魔王「……だろうな」
勇者「けど、ちょい待っといてナ。休憩時間までは持ち場動かれん。あと三十分くらい」
魔王「……じゃ、余はとなりのコンビニでジャンプでも読んでるよ」
勇者「立ち読みはあかんでー」
魔王「だれに言ってんだ、余は悪逆非道の限りを尽くした大魔王だぞ。立ち読みくらい許されるさ。……じゃ、あとで」
勇者「ン。ほな、休憩時間になったらそっち行くわ」
勇者「……虫も殺したことないくせにナ」
魔王「……善吉くんは眼鏡フォームのほうが格好良いな。うむ」
魔王「しかしこち亀って長いよな。余が小学生のときからあるぞ」
勇者「来たでー」
魔王「やっとか。……どこで話す?」
勇者「休憩三十分しかないねん。遠くには行かれんから、外のベンチでええ?」
魔王「かまわん」
勇者「さて……議題は最近また大きくなった魔王ちゃんのオムネの話――」
魔王「帰ろうかな」
勇者「冗談やって冗談! ホンマのお話はあれやろ、『もといた世界への帰還方法』……やろ?」
魔王「わかっているならふざけるな。お前というやつは昔から……」
勇者「ごめんごめん。でも、そういう性分やねんて。許してナ」
魔王「……まあ、いい。で? お前はなにか掴んでいるのか?」
勇者「掴んでいる――以前の問題やナ。どこから手ェつけたらええのんかもわからへん。魔王ちゃんは?」
魔王「……同じく、だ。ここが地球という世界の日本という国家で、魔法が存在しないということはわかっているが」
勇者「……ついでにいうと、ものごっつ技術が発展してるってこともな」
魔王「……ああ。上下水道だけでも十分驚きだっていうのに、夜には電気の灯りがつくし、馬鹿みたいに細長い建物もうようよ建っている。魔王城も形無しだな」
勇者「いやいや、造形だけでいうなら魔王城のがよっぽど格好良かったで?」
魔王「壊したけどな」
勇者「壊したなあ。あんときの戦いはぼくも殺されるゥ思ったで」
魔王「余も死ぬかと思った。お前、本気で殺しにきていただろう」
勇者「そんなわけあらへんよ。大好きな魔王ちゃんを殺すなんてそんなん――そんなん、ちょっと思ってたわ」
魔王「だろうな」
勇者「でもそっちもやろ? 魔王ちゃんったら恋愛表現がカゲキやねんからーもぉー」
魔王「……お前がっ!」
勇者「……」
魔王「お前がさっさと人間どもを見捨てていれば、余もお前と争わずにすんだのだッ!」
勇者「……確かにナ」
魔王「ならっ」
勇者「でも、それと魔王ちゃんが罪のない人間いっぱい殺したンは別モンや」
魔王「……っ、あれは臣下が勝手にやったことでッ」
勇者「その臣下は魔王ちゃんの下で、魔王ちゃんの目指す『平和』とやらのために働いとったンやろ? ならその責任は、魔王ちゃん。オマエの負うべきモンちゃうんか?」
魔王「……でも」
勇者「『でも』? 『でも』っつったか、魔王ちゃん。いい加減大人ンなれや。耳かっぽじってよぉ聞け」
勇者「『人間界、魔界に連なる平和』ってのはな……達成不可能な夢物語や。自覚せェ。それを目指した結果がどうやったッ!?」
魔王「……」
勇者「気づけ。確かに世界は平和なほうがええ。それは認める。けどな、魔王ちゃん」
勇者「昔のぼくとオマエの二人なら仲良くできても、人間族と魔族の全員が仲良ォすることはできん」
勇者「そんでもって、ぼくとオマエっちゅう代表同士が殺し合うてもうてん。戦い――喧嘩の発端はどうあれ、対外的に見れば事実上の決別宣言や。想像つくやろ、いまぼくらン世界がどうなってるかくらい」
魔王「……殺しあっているだろうな」
勇者「ああ」
魔王「それも、激しく」
勇者「ああ」
魔王「……帰りたくなくなってきたな」
勇者「……ぼくもや」
幼女「おかえりんこー」
魔王「ただいマケドニア人ー」
幼女「ぶぅー」
魔王「……かわいいなあもう。抱きしめちゃう」ギュウ
幼女「ふぇっ? ……どうしたの? なにかあったの?」クルシイ
魔王「……なんでもないよ。なんでもない」
魔王「ただちょっと、余は自分が情けなくってな。普通の女の子に戻りたい」
幼女「……まおう、あいどる?」
魔王「……そうだな、もしかしたら余は――私は、ただのアイドルだったのかもしれないな」
魔王「とびきり滑稽な、脳みそ空っぽな、ただの馬鹿なアイドルだったのかもしれない」
幼女「……まぉ……?」
魔王「……おかあさん」
おかん「あら、なにかしら?」
魔王「……どうしてこの国には争いがないんだ?」
おかん「……難しいこと聞くわね」
魔王「教えてくれ。余は力が強いだけの王で終わりたくない。余の民も人間族も皆、皆を救いたいんだ……!」
おかん「……。……まあ、いいわ。あくまでわたしの考え、だけれど」
おかん「まず、この国で争いが起きない理由としては『足りているから』かしらね」
魔王「食料や土地が、か?」
おかん「それと技術も、ね。プラス、この国のヒトたちは特に『懲りている』」
魔王「……太平洋大戦か」
おかん「よく知っているじゃない。日本人は戦争にネガティブなイメージしか持たないの。そういう風に教育されすぎて、いま問題になっているんだけれど……それは別の話として」
魔王「戦争はネガティブだろう。マイナス面しかない。ヒトが大勢死ぬ」
おかん「でも戦争なくして技術の急成長はなかった。戦争で培った技術がなければ、ヒトはまだ月に到達できていなかったでしょうね」
魔王「……」
おかん「そして戦争なくして防衛はありえない。守るための戦争というのも、確かにある」
魔王「……そんなのは、詭弁だ」
おかん「世の中はその詭弁で動くのよ。古代ギリシアの衆愚政治から、人間はまったく進歩していない。そしてこれからもしないでしょうね」
魔王「……無理、なのか? 平和は」
おかん「無理ね。パックス・ロマーナ……ローマの平和、『人類が最も降伏であった時代』と呼ばれた時期でさえ、裏では覇権争いの暗殺戦争が繰り広げられていたそうだし」
魔王「……なら、なんのための王だ……!」
おかん「魔王。差し出がましいようだけれど、あなたは魔界の王なんでしょう? 王は自分の民を守るためにいるのよ」
おかん「他国家を排斥し、蹴落とし、踏み潰してでも自国を守るのが王の政治よ。それができないほど優しい王は――ただの愚者でしかない」
魔王「……」
おかん「よく考えなさい。あなたの世界のこと。魔界のこと、人間界のこと。……勇者のこともね」
魔王「……? そういえば、なぜ余の世界のことをそこまで……?」
おかん「んふふ。世のお母さんたちはね、いつ子どもにどんな質問をされてもいいように備えているものなのよ。だから知らないことなんてないの」
魔王「……かなわないな」
おかん「子ども生んでから出直しなさい☆」
勇者「……なにモンやねん、そのおかん」
魔王「わからん。……が、いい人だ」
勇者「……ああ、そういや。魔王ちゃん」
魔王「なんだ?」
勇者「魔王ちゃん、オマエ実はもとの世界への帰り方知っとるやろ」
魔王「……どうしてそう思う?」
勇者「んーとな……こないだ、ジャンプ読んどったやん?」
魔王「うん」
勇者「そんとき、『こち亀が小学生のときからある』みたいなこと言うたやん。そんで、もしかしたら魔王ちゃん、ちっちゃい頃からジャンプを読める環境にいたんかなー、と。この世界に来ていたか、あるいはこの世界からジャンプを召喚していたとか」
魔王「……それだけなら『余が小学生のころからあるほど長寿』という意味にも取れるだろう。明確な理由には薄いぞ」
勇者「ん。せや。だからいまいち確証はもてへんかったんやけど……でも、いまの話聞いてたぶんせやろナー、と」
魔王「ほう? いまの話のどこに確信するような要素があった?」
勇者「いや、ないよ。ただ話の内容が『帰ったあと』のことやったからナ。普通に考えて――せやろ?」
魔王「……お前は真面目に喋っていれば格好良いのにな」
勇者「おっ、魔王ちゃんデレた? デレた?」
魔王「……仕方ないからデレてやるよ、勇者には。初めて会った五歳のときからずっとツンだったけど、いまだけデレてやる。勇者のことなんてぜんぜんまったくこれっぽっちも好きじゃないんだからねっ」
勇者「そらまた随分タメの長いツンデレやな……」
魔王「……これからどうする?」
勇者「……この世界でのんびり二人で新婚生活ー、とかどう?」
魔王「……まったく、お前というやつはいつもそうやって冗談を――」
勇者「いいや。冗談ちゃうよ。ぼくは、魔王ちゃんと一緒なら――向こうの世界の全てを捨ててもいい。どうせぼく個人の力では帰られへんしナ」
魔王「なっ……」
勇者「指輪もないし、ちょいプロポーズっぽくない雰囲気やけど、許してナ。これでも結構マジやねんから」
魔王「……」
勇者「返事は遅くてもいい。けど、向こうの世界に帰るんやったら、ぼくはまた勇者としての責任を背負わなあかん。ぼくらが――魔王ちゃんさえ良ければやけど――二人で昔みたいに仲良ォするには、向こうの世界は厳しすぎる。……そこんとこは、よぉ考えてナ」
魔王「……卑怯なやつだな、お前は。昔からそうだ」
勇者「さすが勇者汚い! ってか。まあなんとでも言い。ぼくはそれだけ魔王ちゃんのことが好きやし――同時に、どこまでいっても『人間界代表:勇者』やねんから。ほな、バイト戻るわ」
魔王「……ああ。またな」
魔王「……余も向こうに帰れば『魔界代表:魔王』でしかない、か」
幼女「まおうー、おままごとしよー」
魔王「……ああ」ボー
幼女「まおうが『陵辱される団地妻役』ねー!」
魔王「……ああ」ボー
幼女「『へへへ、旦那が仕事でかまってもらえなくて寂しいんだだろ? 俺が相手してやるよ……』」
魔王「……ああ」ボー
幼女「……。『……クチでは嫌がってても身体は正直だな……』」
魔王「……ああ」ボー
幼女「……ねぇー、まおうー」
魔王「……ああ」ボー
幼女「……」θヴヴヴヴ
魔王「……」ボー
幼女「えい」θヴヴヴヴ
魔王「ひゃわッ!?」
幼女「まおうのばかー! おままごとするのー! せめてつっこみくらいはしてー!」
魔王「あ、ああ……すまない、少し考え事をしていて……」
幼女「……ぶぅー」
魔王「ごめんね」
幼女「……いいもん。もうさけのんでねる」
魔王「オッサンかお前は」
幼女「……」スピー
魔王「ホントに寝ちゃったか……」
魔王「……口を開かなければ天使なんだけれどな。本当に、あのババアはどんな教育を……」
おかん「……」
魔王「……」
おかん「……」
魔王「口を開かなければ天使なんだけれどな。本当に、おかあさんはどんな教育を……」
おかん「言いなおしても遅いわよ」
魔王「はい。すいません」
おかん「まあ、今回は埋めないでおいてあげるわ。話もあるしね」
魔王「……話?」
おかん「その子のことで、よ」
幼女「……むにゃ……やまだ…ひんにゅう……」
魔王「この子のことで……しかしどんな寝言だ。だれだよ山田」
おかん「魔王。聡いあなたなら気づいているでしょうけれど……あの子はわたしの子じゃないわ」
魔王「うっそマジでッ!? ぜんぜん気付かなかった!」
おかん「うん、まあそれならそれでいいんだけれどね」
魔王「そういや、確かに顔のパーツとかちょっと違うな、よく見ると……。よく見ると皺が……」
おかん「やっぱりいま埋めてやろうか! ……はあ。あの子はね、わたしの妹の子なのよ」
魔王「妹君の……」
おかん「ええ。三年前、テロで死んだわ。夫ともどもね」
魔王「……ッ」
おかん「勘違いしないでね。テロに巻き込まれて死んだのではなく、テロを起こしたから死んだのよ」
魔王「……それは」
おかん「妹も旦那も、口癖のように『いまのままじゃダメだ』『せめて子どもたちに未来を』って言ってたわ。馬鹿みたいにね」
魔王「……馬鹿」
おかん「ええ、馬鹿よ。革命に武力はつきものだけれど、あの二人は武力に頼りすぎた。言葉を繰ろうとしなかった」
魔王「言葉なくして主張は通じず、されど武力なくして言葉は聞こえず――か」
おかん「銃を持たずに革命を叫んでもだれも聞きゃしないわよね、当然。だからって、銃を持ってわめくだけじゃなにがしたいのかがわからない。バランスが大事なのよ。バランスが」
魔王「なるほど、バランスか」
おかん「ええ。バランスよ」
幼女「……ぅうん……やまだ…がんばれ……」
魔王「だから山田だれだよ」
魔王「勇者と結婚してこの世界で暮らす。第一手」
魔王「向こうの世界に戻って勇者と殺しあう。第二手」
魔王「余だけ向こうの世界に戻ってなんとかする。第三手」
魔王「勇者だけ向こうの世界に送り返して余は悠々自適に幼女と戯れて過ごす。第四手」
魔王「――どれを選んでも、だれを選んでもすっきりしないよな」
魔王「いっそ、人間滅ぼせるくらいの悪人だったら良かったんだけどな」
魔王「いや、勇者に会わなかったらきっと――滅ぼしていただろうな」
魔王「……あいつのおかげで、余は――私は」
魔王「……いや、いまは考えることが違う。とにかく、悪手――最悪の結末だけは、避けるべきだ」
魔王「余の『世界平和』の夢は達成不可能だと、認めよう」
魔王「だが――せめて、余の時代だけでも戦争はやめさせよう。随分と小さな目標になってしまったが、それでも余の手には大きすぎる」
魔王「魔界と人間界をバランスの良い状態にする。そのためには、まず――」
魔王「――だれかが死なねばならんな」
魔将軍「もー、歴史ある魔王城が見事にぐっちゃぐちゃじゃないですかー、もー」
魔兵士「ですが、これだけの被害がでるような激闘なら――さしもの勇者も」
魔将軍「ええー。死んだでしょうねー。魔王も勇者もー」
魔兵士「……やけに嬉しそうじゃないスか。将軍」
魔将軍「そりゃまーそーですよー。魔王さまの胸のサイズが昔から気に入らなかったんですーわたしー。胸に栄養いくからオツムが残念なんですよー」
魔兵士「……」
魔将軍「おっとー? もしかして魔兵士ちゃんったらー、魔王に背いて人間襲ったこと後悔してますー?」
魔兵士「……いえ」
魔将軍「わかってますよねー? 魔兵士ちゃんはー、わたしと同じく『首謀者』なんですよー? 一介の兵士で終わりたくないって言ったの、魔兵士ちゃんですよねー?」
魔兵士「……わかってるッスよ。俺が自分で決めて行動してることッス」
魔将軍「それならいいですけどー。でもでもー、もし魔兵士ちゃんがわたしのこと裏切ったりしたらー。……骨も残さないから」
魔兵士「……うス」
勇者「さて……魔王ちゃん。それじゃ、予定通りでええのん?」
魔王「……ああ。すまないな、勇者。お前には――詫びても詫びても足りない」
勇者「ええて。男は好きな女のためならなんでもする生きモンやからナ」
魔王「……本当に、すまない。お前の誇りを踏みにじることになる」
勇者「ええねんて、そんな謝らんといてや。ぼくも好きでやってることやし」
魔王「……」
勇者「ほら、こんなとこで時間食ってもしゃーないで? さっさとやろ。そんで――仮初の平和をバラ撒こうや」
魔王「……それじゃあ、勇者」
勇者「ン」
魔王「余のために――死ね」
勇者「おう。まかせとき」
幼女「まおうー! すちゅわーですさんごっこしよー!」
幼女「……」
幼女「まおうー……?」
幼女「まおうどこー?」
幼女「……まぉ……ふぇぇ……」
幼女「……ぐす……まおうのばか」
おかん「歴史は、常に勝者が記してきた」
おかん「それはつまり、勝者が正義に見えるように歴史が歪曲され続けてきたということ」
おかん「反乱は国を覆せれば反乱ではなく革命になるわ。逆に反乱を押さえつけることができれば、どちらが正しいかなんてことは簡単に操作できる」
おかん「衆愚は強いわ。その衆愚をどこまで操れるか、それがすなわち――政治というやつよ」
おかん「魔王――あなたは歴史を記せるかしらね?」
魔将軍「……お帰りなさいませー」
魔兵士「ご無事だったッスか……」
魔王「ああ。ついでに……これもな」
魔将軍「……『勇者の剣』ですねー。ということはー、勇者をー?」
魔王「ああ。おかげで余も回復するのにこれだけの時間がかかってしまったが……」
魔兵士「魔王さまがお帰りになっただけで十分ッスよ」
魔将軍「はいですー。いろいろお疲れでしょうしー、今日はもうおやすみなさいませー」
魔王「そうさせてもらおうか。そうだ、魔将軍」
魔将軍「なんでしょうー?」
魔王「明日は『勇者の剣』を持って人間界へ行くつもりだから、準備をしておけ」
魔兵士「準備……と申しますと?」
魔王「宣戦布告に決まっておるだろう」
魔将軍「いったいどういうつもりなんでしょうねー、あの女はー」
魔兵士「勇者を殺して踏ん切りがついた、とかッスかね」
魔将軍「いやー、それはないですよー。魔王さまそんな可愛げのある性格をしていないですー。ああいう女はの愛はとーっても重いですー。それこそ、想い人を殺せば潔く自決するくらいにー」
魔兵士「つまり……勇者は生きていると?」
魔将軍「十中八九……とまでは言い切りませんがー、その可能性は非常に高いですー。証拠が『勇者の剣』のみというのも怪しいですねー」
魔兵士「確かに。では、俺はそっち方向で調べてみるッス」
魔将軍「頼みますー。わたしは魔王さまにくっついて動向を探りますねー」
魔兵士「了解ッス」
魔王「……たくさん、殺さなきゃならないなあ――」
国王「もう城門が突破されたのかッ、勇者はどうした!」
皇子「それが……魔界軍の先頭で、魔王が『勇者の剣』を振るっていたという証言が」
国王「なにィッ! 死におったかあの役立たずがッ!」
皇子「父上、勇者は我らのために――それに、死んだと決まったわけでは」
国王「たわけッ、いまこの場で魔王と相対しておらん時点で死んだも同じじゃ!」
『で、伝令ッ! 魔王、もう視認できる距離まで来――うわぁ、く、来るなァァァ――ッ!』
皇子「……父上ッかくなる上は覚悟を決めて――」
国王「に、逃げるぞ皇子よ! 魔王と対抗できる戦力がないいま、逃げるしかないッ!」
魔将軍「あらー、それは残念ですー。せっかくわたしの美技をお見せしようと思ったですのにー」
皇子「ッ! 魔族……!」
魔王「ご苦労だ、魔将軍。実際にお目にかかるのははじめてになるのかな、人の王よ。ひとまず拘束させてもらおう」シュルシュル
国王「ぬゥ……ッ」
皇子「くッ、魔縄か……」
魔王「なあ、人の王。なぜ我々は争うんだろうな」
国王「……貴様のような卑しき魔物と語らう口など持ち合わせておらん。殺すならさっさと殺せ!」
皇子「いけません、父上! 魔王、殺すなら父ではなくわたしを殺せ!」
魔王「物騒な親子だな……まあいい、これは宣戦布告だ。一言一句もらさず聞けよ、人の王」
「『聞け、この世界の全ての人間ども――』」
魔将軍「……(さすがは腐っても魔王、人間界全土への音声拡大を詠唱無しですかー)」
魔王「『――そして、魔族どもよ』」
魔将軍「……?(魔族相手に発現? 魔界も対象にしてるです……?)」
魔王「『いまこのときをもって、余は――私は、世界に宣言する』」
魔将軍「……まさかッ、魔王――ッ!」
魔王「『私はアイツの――勇者のいない世界なんて、欲しくない』」
魔王「『みんな、死ね』」
魔兵士「……おいおい、まじッスか。宣戦布告って世界に対してってことだったんスか」
魔兵士「つーか、自分で殺しといて世界滅ぼすとか……愛重過ぎッスよねえ」
魔兵士「こりゃもう勇者の生存確認とか必要ないッスね」
「隊長! 俺たちも人間界へ行きますか?」
魔兵士「んあ? いや、そんなことするわけないッス。魔王さまが本気で世界相手に暴れだすってんですよ。そんなに地獄に住みたいんッスか?」
「……」
魔兵士「わかりゃいいッスよ。魔王さまは――少々優しすぎて魔王向きじゃあないッスけど、それでもだれも革命を起こそうとしなかった程度には強いッスからね」
魔兵士「ま、よーするに勇者ぐらいしか止められないってことッスけどね」
「……じゃ、じゃあどうするんですか?」
魔兵士「逃げるに決まってンでしょう。魔王さまといえど、世界を滅ぼしつくすのは無理ッス。どこかで力尽きるに決まってる」
魔兵士「いや、違うな。『力尽きてくれないと俺らが死ぬ』ッスね。それまで逃げるッスよ」
???「そんで、あの子はひとりぼっちになってもうたんですか。はー」
おかん「ひとりぼっちじゃないわよ。私がいるし、魔王もいるし、それにこれからはあなたもいるでしょう?」
???「いやでも、ぼくあの子に嫌われてるみたいですし」
おかん「そりゃまあ、あなた……なに考えてるかわからなくて怖いもの」
???「んー、そんなにぼくの笑い顔怖いですかね」
おかん「なんか……そっくりなのよねえ。その笑い方。なんというか、『死ぬまで笑い続ける』みたいな変な覚悟?」
???「……そっくりって、だれに」
おかん「あの子の父親。自称革命家で他称テロリストよ」
???「そらまた……」
おかん「死ぬ前の一ヶ月くらい、義弟もそんな笑顔だったわ。思いつめた笑顔っていうか、諦めた笑顔っていうか」
???「……なるほど」
おかん「でも、その笑い方ももう終わりでしょう?」
???「そうですねぇ。ま、それもこれも――ぼくのかわいいかわいい魔王ちゃんの頑張り次第ってとこちゃいます?」
幼女「おかあさん、あいつかえったー?」
おかん「ええ。帰ったわよ」
幼女「……まおうは、まだかえってこないの?」
おかん「……さあ、わからないわ。そもそも帰ってくるのかどうかも」
幼女「ふぇぇ……」
おかん「……ねえ、あなたのパパとママがどうやって世界を変えようとしたか、わかる?」
幼女「……ふぇ?」
おかん「第一段階、圧倒的な力を持つ『悪』がたったひとつ立ち上がって、それが全ての国の国力を等しく奪いつくす」
幼女「……こくりょく?」
おかん「第二段階、各国が手を組み国力を全て投じて『悪』を退ける」
幼女「……おかあさん、それなんのはなし?」
おかん「そして第三段階。一時的とはいえ手を組んだことで、戦争がとまり復興のために国家間交流がはじまる」
幼女「……ねえ、おかあさん」
おかん「……そんな、ダークなヒーローになりたかったのよ。あなたのパパとママは」
幼女「……まぉ」
魔将軍「……魔兵士ちゃーん? ここにいるんですー?」
魔兵士「魔将軍さま。生きてたんスね」
魔将軍「……あなたみたいに全身元気一杯ってわけじゃないですけどー」
魔兵士「……右腕、どうしたんスか」
魔将軍「いやあ、命に比べれば片腕なくしたくらいどうってことないですー。その気になれば生やせますしねー。……で、魔兵士ちゃん。勇者はやっぱり……?」
魔兵士「あー、消息不明ッスね。途中で探すのやめて魔王さまから離れることばっかり考えてましたけど」
魔将軍「……まあ、命あっての物種っていいますしー。許しますー」
魔兵士「ついでに魔界にとどまっていた魔界軍もまとめておきましたッス。つっても、二万の兵がいても魔王さまには届かないでしょうけど」
魔将軍「それは……でかしましたねー! 実際は足りないどころか、二倍はないとあの化け物は倒せないですけどねー」
魔兵士「ったく、一対四万で消耗戦仕掛けないと勝てないなんて、どんな生き物ッスか。魔王城もよく倒壊ですんだもんッスね」
魔将軍「魔王城はそもそも『絶対に壊れない神の建造物』だったはずなのですー」
魔兵士「前言撤回ッス。そんなもんよく倒壊させたッスね、魔王さまと勇者は」
魔将軍「ですー。まー、もう人間界も魔界も滅びるでしょうねー」
魔兵士「……そういや、人間界の兵ってどのくらい残ってるんスかね」
魔将軍「……ああ、なるほど。その手がありましたか」
魔兵士「ええ。人間が飲むかどうかはわからないッスけど、まあどうせダメもとですし。世界の危機の前で、まさか天下統一がどうとか言わないッスよね?」
魔将軍「……はあー。まさか、このわたしが人間と組まないといけない日が来るなんてー、ですー」
魔王「――ああ。だいぶ殺したな。戦闘不能にまで追い込んだやつらもあわせて、魔界一万人間界三万くらいかな。余――じゃない、私もかなり消耗したし。それにしても魔将軍と人の皇子を逃がしたのは痛手だったか……むしろ、成功だったのか? 人の王を殺せただけで重畳ってとこかもな」
魔王「……もっと頭が良ければ、こんなに殺さなくてもすんだのかもな」
魔王「……人を殺したのは初めてだが……意外と、あっけないものだな」
魔王「拳ひとつで十人死ぬし、魔法ひとつで百人死ぬ。命ってこんなに軽かったのか」
魔王「……いや、そんなわけないか」
魔王「無我夢中で殺してたけど、いざ我に返ってみると……」
魔王「……」
魔王「……なあ、勇者。お前はいつもこんな汚れ役をやっていたのか……?」
おかん「この世界には関係の無いことだからあまり口出しはしたくないけれど……。それにしてもなかなか愚かな策を取ったわね」
???「愚かで結構。本末転倒でも構わへん。どちらにせよ、万人が幸せになる手段なんて存在せえへん……やろ?」
おかん「そうかしら」
???「恒久的な平和は不可能やし、犠牲なくして戦乱は収まらへん。あんたが魔王ちゃんに言うたことやろ」
おかん「……なんのことかしら?」
???「とぼけんのは年齢だけにしときィや」
おかん「殺されたいのか」
魔将軍「どもどもー、皇子さんこんばんはー」
皇子「……ッ。何用だッ、魔族の女ッ! どこから入った!」
魔兵士「そんなに怖がらないでくださいッス。俺ら、取引に来ただけッスから」
魔将軍「そうですよー。もっとも、かしこい皇子さまならなんのことかはわかりますよねー?」
皇子「……なるほど、な。だが、わたしひとりの裁量では、」
魔将軍「ですよねー。でもー、魔王が活動停止状態のいまこそがー、協力体制を仰ぐ唯一のチャンスなのですよー。悩んでいる時間なんてありませーん」
皇子「……」
魔兵士「わかってるッスよね。人魔両界の兵士を総動員して、さらに引退した強者も全員引っ張ってきて、それでようやく勝てるかどうか五分五分ってところッス。魔王さまは」
魔将軍「勇者というストッパーもいませんしー、このままだと一ヶ月もせずにこの世界は滅亡しますねー」
皇子「……悩む余地なし、か。だが、兵士たちはそこまで簡単に割り切れるとは思えんぞ。なんせ、友人家族をお前ら魔族に殺されているからな」
魔将軍「ま、世界の危機の前ですーってことでー」
魔兵士「そうそう。恨みつらみは世界を救ったあとにッス」
皇子「詭弁だな」
魔将軍「あらー、皇子さまってば知らないんですかー?」
魔将軍「世界っていうのはいつでも詭弁でしか動かないんですよー」
魔王「さあて……私の回復を少しでも減らすために、活動停止から一週間以内にはくるだろうとは踏んでいたが……」
『ォォおおおおおおおおおおぉぉぉおおぉぉおおぉぉおぉおおおおッッッ!!!』
魔王「三日はいくらなんでも早過ぎだろう。魔将軍も皇子も、よく部下を説き伏せたものだ」
魔王「しかし……壮観だ。これだけの兵が私ひとりをめがけて殺到してくるとは」
魔王「まるで王蟲の群れだな」
魔王「……安心しろよ、兵士ども。命までは奪わぬように全力で殺してやる」
魔王「茶番のクライマックスだ。せいぜい盛り上げてくれよ――!」
魔将軍「第一波、衝突を確認ですー。第二波、第三波も順調にー、あー、吹き飛ばされていってますー」
魔兵士「強者は魔王さまが疲弊したら順次投入していく手はずッス……けど、このままじゃ兵がいたずらに命を失うだけかもッスね。もう投入するべきッスか?」
皇子「……なら、私が出よう」
魔将軍「ダメですよー。皇子さまとわたしと魔兵士ちゃんはー、魔王と勇者を除いた『強者』カテゴリの中でも最強の部類でー、温存しておいたほうが得策なのですー」
皇子「だが、それでは」
魔兵士「皇子さま、これは戦争ッス。相手の規格が狂っているだけッス。こと、戦争においては戦略は人命よりも軽い。常識ッスよ」
皇子「貴様ッ、我が兵を侮辱するかッ」
魔兵士「うるせえッ! あそこには俺の部下もいるんだよ、坊ちゃん。勢いだけでしゃべんな」
皇子「……」
魔将軍「世界を救うためにも、犠牲にしてしまった彼らのためにも――必ず、あのアバズレを叩き潰さないといけないですー。だからー、いまは待つしかないのですー。ま、これも詭弁ですけれどー」
皇子「……ならば、座して待とう。世界は詭弁で動いている――だったか」
魔将軍「はいですー。この場合の詭弁はー、そうですねー」
魔将軍「正義――なんて、洒落てると思いませんかー?」
魔王「……(もう十時間は戦ったか――太陽が沈んでいく)」
魔王「……ははッ、こないだのような奇襲ではなく正面からのぶつかりあいだと、ここまできついとはなッ。まあまだまだ戦える――」
魔王「――というのに、もう底か? お前らが出てくるってことは、そういうことだろう?」
魔将軍「肩で息しながら粋がってんじゃねーですよー」
魔兵士「ま、それでも俺一人じゃ勝てる気はしないッスけどね」
皇子「だが残念だったな。私たちは一人ではない――より取り見取りの強者が百人。……そろそろ散れ、世界の悪よ」
魔王「……ふ、ふははッ! 『悪』かッ、いいなッその響き!」
魔王「ならば――来い、『正義』ども。微塵も残さず滅ぼしてやろう――!」
おかん「……ッん」
幼女「ふぇ? どうしたのー?」
おかん「いえ……ちょっと、大きな時空震が……」
幼女「おかあさん、ちゅうにー!」
おかん「あらやだ十四歳だなんてそんな」
幼女「もじょー!」
おかん「よーし今日の晩御飯は丼一杯のピーマンかなーっ」
幼女「ふぇぇっ!?」
???「魔王ちゃんったらもう、無茶しよってからに……ぼろぼろやないか」
魔王「……勇者、か?」
勇者「はいはい、魔王ちゃんの彼氏の勇者ですよー」
魔王「……すまん。お前の剣、折っちゃった」
勇者「別にええて、あんなもんこっちの世界で持ってたら銃刀法違反やし。とりあえず回復魔法な」キュィィン
魔王「……勇者」
勇者「うん。おかえり、魔王ちゃん――最後は自爆?」キュィィン
魔王「ああ。ありったけの魔力集めて弾けさせてやった。……あいつら酷いよ、四万対一で勝負しかけてくるんだもん」
勇者「……ぼくが汚れ役やってもよかってんで?」キュィィン
魔王「いや、国を壊すのは王の責任だ。間違っても英雄の仕事じゃあない」
勇者「さよか」
魔王「うん」
勇者「じゃあ、そろそろ行き。だいぶ寂しがっとったから」
魔王「……ありがとう、勇者」
勇者「お礼はキスとかでええでー、なーんて――」
ちゅ
魔王「……また、明日」
勇者「…………」ボーゼン
幼女「まーおまーおまお、さかなのこ。あおいうみからー、やーってきたー」
魔王「……いや、私は別に魚の子じゃないし青い海からもやってきてないんだが。魔族の子だし魔界からきてるし」
幼女「あーっ! まおう!」
魔王「いかにも、私は魔王――いや、元魔王かな。どっちでもいいか」
幼女「ばかー! どこいってたのー、ばかー!」θヴヴヴヴ
魔王「いや、うん、その勝手にいなくなっちゃってたのはごめんだけど、それ近づけるのはやめてね」
幼女「ばかー!」♂ウィンウィン
魔王「なんかグッズが増えてるんだけど!」
幼女「ふぇぇ……ぐす。しんぱいしたんだからね、まおうのばか……」
魔王「……ごめんね」ギュ
幼女「もうどっかいっちゃやだよぅ……」
魔王「……うん。もうどこにもいかない」
幼女「ずっといっしょ……?」
魔王「……うん。ずっと一緒だ」
幼女「じゃあ、なかなおり!」
魔王「ああ。仲直りだ」
幼女「えへへ……」
魔王「……ただいま、幼女」
幼女「おかえり、まおう!」
おかん「……ハッピーエンドっていうには、ちょっといっぱい殺しすぎな気もするけれど」
おかん「まあ、それはそれ。殺さなくても人は死ぬ――これも、詭弁」
おかん「ともかく、今日も日本は温い平穏の中で危険の意味もわからないわね」
おかん「……そろそろかしら。ケーキとか準備したほうがいいのかしらね」
幼女「おかあさーん!」
おかん「……うふ。そら来た」
幼女「まおうひろったよー!」
107 : ◆.5KnDelCZE - 2012/05/19 22:24:49.35 Sdbi3Pr70 56/56
ふぇぇ……以上で、このお話は終わりとなります。
かなり駆け足な展開でしたが、地の文なしじゃぼくにはこれが限度だよぉ……
途中、たくさんの応援レスをありがとうございました。
反応薄くてごめんなさい……ふぇぇ。
私事ではありますが、痴女同盟のみなさまにも惜しげのない感謝を。まぉまぉ。
またいつかどこかの創作世界でお会いしましょう。
この世に幼女が溢れる時代がきますように。では。