山賊A「親分、今日はどこの村を狙います?」
親分「そうだな……。騎士団の裏をかくには……」
ビシッ!
親分「うっ!」ドサッ…
山賊A「矢!? 一体どこから……!」キョロキョロ
山賊B「弓持ってる奴なんていねえぞ!」
ザワザワ… ドヨドヨ…
エルフ13「…………」チャッ
元スレ
エルフ13「用件を聞こうか……」依頼人「なんて鋭い目と耳をしたエルフだ……!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1591617669/
騎士団長「ミスター・エルフ13……よくやってくれた!」
騎士団長「ブレーンである首領さえ仕留めてしまえば、残る山賊など烏合の衆に過ぎない!」
騎士団長「改めて礼をしたいので、ぜひ城に……」
エルフ13「その必要はない……」
エルフ13「俺とあんたの縁は、俺が仕事に取りかかった時点で切れている……」ザッ…
騎士団長「…………」
騎士団長(余計な施しは受けない、か……。さすがは超一流のプロフェッショナル……)
…………
……
『この世で最も鋭いもの』
【 PART1 盗まれた剣 】
―工房―
カンッ! カンッ! カンッ!
鍛冶師「……できた!」
鍛冶師「私の人生でも、一番の剣を作り上げることができた……!」
鍛冶師「この剣ならば、きっと陛下にも認めてもらえるに違いない……」
人影「…………」コソッ
……
鍛冶師(さて、もう一度、あの剣を手入れしておくとしよう)
鍛冶師「…………」
鍛冶師「……あれ?」
鍛冶師「ない!? 剣がどこにもない!?」
鍛冶師(泥棒か!? いや、金品は全く手をつけられてないぞ……)
鍛冶師(考えられるのは……)
―ライバルの工房―
タタタッ…
鍛冶師「おいっ!」
ライバル「ん? なんだ?」
鍛冶師(あの剣は……やっぱり!)
鍛冶師「おいっ、その剣……ウチの工房から盗んだだろ!」
ライバル「なにいってるんだ、人聞きの悪い……」
鍛冶師「だが、どう見ても……! その剣は私の……!」
ライバル「俺が盗んだという証拠でもあるのか?」
ライバル「この剣がお前のものだという確かな証拠があるのか?」
鍛冶師「いや、それは……」
ライバル「さては今度の品評会で勝てる自信がないからって、俺に盗人の汚名を着せようってか?」
ライバル「汚いことしやがるねえ」
鍛冶師「ぐっ……!」
ライバル「いい加減に帰らねえと、叩き出すぞ」
用心棒「…………」ズイッ
鍛冶師(こんな奴まで雇ってるなんて……奪い返しに来るのも想定済みってことか!)
鍛冶師(今から新しく剣を打っても、あの剣には勝てない……どうすれば……)
【 PART2 鍛冶師の依頼 】
―公園―
鍛冶師(知り合いの情報屋に聞いた、凄腕のスナイパー“エルフ13”……)
鍛冶師(言われた通りの手順は踏んだが、本当に来るんだろうか?)
鍛冶師(そろそろ時間だが……)
エルフ13「…………」
鍛冶師「わっ、いつの間に!?」
エルフ13「用件を聞こうか……」
鍛冶師(エルフ自体見るのが初めてだが……)
鍛冶師(噂通り、鋭く尖った耳をしている……。だが、それ以上になんて鋭い眼光をしてるんだ……!)
鍛冶師「あなたが……エルフ13、か……?」
エルフ13「そうだ……」
鍛冶師「エルフは気位が高いと聞いているが、私のような一介の職人の依頼も受けてくれるのか?」
エルフ13「俺が何者かと推測するのはお前の勝手だが……」
エルフ13「種族だけで相手の性質を判断するのは危険なセンスだな……」
鍛冶師「こ、これは失礼した」
鍛冶師「ではさっそく、仕事の依頼に移りたい」
鍛冶師「この国の王は刀剣の類が大好きで、自身もかなりの使い手だ」
鍛冶師「それもあって、王は年に一度、剣の品評会を開催する」
エルフ13「…………」
鍛冶師「その内容は優れた鍛冶職人二人に剣を作らせ、それぞれに一振りずつ献上させ」
鍛冶師「そのうちの一本のみが、王のものとして所蔵されることになる」
鍛冶師「この剣は“ソード・オブ・キング”と呼ばれ、自分の剣が“ソード・オブ・キング”に選ばれることは」
鍛冶師「鍛冶師としては最上の名誉とされている」
鍛冶師「そして今年、私はついに品評会のメンバーに選ばれたのだ!」
エルフ13「…………」
鍛冶師「むろん私は、心血を注ぎ自分の最高傑作といっていい剣を作り上げた」
鍛冶師「しかし……献上するはずだった剣を、選ばれたもう一人の職人であるライバルが盗みやがったのだ!」
エルフ13「なぜ、品評会に選ばれるほどだったライバルが、わざわざ剣を盗んだ……?」
鍛冶師「ライバルは、近年は儲けることや、名を売ることばかりを覚え、研鑽を怠っていた」
鍛冶師「だから、まともに剣を作れば、私に勝つことはおろか」
鍛冶師「品評会で求められるレベルにも達しない剣しか作れなくなっていたのだろう」
鍛冶師「昔は本当に腕のいい職人だったのに、バカなことを……」
エルフ13「…………」
鍛冶師「既に奴は用心棒を雇っており、剣を奪い返すことは難しい……」
鍛冶師「仮にできたとしても、奴のことだ。どんな策を用意しているか分からん」
鍛冶師「逆に私を盗人として訴えるかもしれない。もはや、剣を奪い返すのは諦めた」
エルフ13「…………」
鍛冶師「だが、私としてもこのままでは収まりがつかない」
鍛冶師「真っ向勝負で敗れるのなら仕方ないが、こんな負け方は耐えられない!」
鍛冶師「そこであなたに依頼したいのは……刀鍛冶としては誠に心苦しいのだが……」
鍛冶師「品評会が行われているまさにその時に、奪われた剣に……ヒビを入れて欲しいのだ」
鍛冶師「そうすれば、いかに奴が策を弄していても、どうしようもないはずだからな」
エルフ13「…………」
鍛冶師「だが……奪われた私の剣は最高傑作。頑丈さも切れ味も抜群ときている」
鍛冶師「これにヒビを入れるなど……まさに“不可能”だ」
鍛冶師「こんな不可能な願いを叶えられるのは……あなたしかいない!」
鍛冶師「どうか、引き受けてもらえないか! ミスター・エルフ13!」
エルフ13「…………」
エルフ13「お前が作った他の剣を見せてもらえるか」
鍛冶師「それはもちろん、かまわないが……」
―工房―
鍛冶師「どうだろうか?」
エルフ13「…………」チャキッ
エルフ13「分かった……やってみよう……」
鍛冶師「おおっ!」
鍛冶師「これが……仲介役から聞いていた依頼料だ。貯金をはたいて、キャッシュで揃えてある」
鍛冶師「どうかよろしく頼む……!」
エルフ13「…………」
【 PART3 弓矢職人 】
―小屋―
職人「ん?」
エルフ13「…………」
職人「あんたかい……また面倒な注文じゃろう?」
エルフ13「あんたにしか頼めない仕事だ……」
職人(ちっ、エルフのくせに人を説得するコツってのを心得てやがる!)
エルフ13「矢は限りなく細く、鋭く……先端に金属を埋め込んでくれ」
職人「ふむふむ」
エルフ13「弦は音の出ないタイプにしてくれ……城内で使用する」
職人「ふんふん……」
職人「矢は何本作ればいい?」
エルフ13「一本でいい……」
職人「ふっ、聞くだけ野暮ってもんじゃったな」
職人「期限は?」
エルフ13「一週間後までに頼む……」パサッ
職人「ま、何とかなるじゃろう。仕事にかかるから、あんたは出てってくれ」
エルフ13「…………」
【 PART4 情報収集 】
―城下町―
エルフ13「…………」
金髪女「なんだい?」
エルフ13「お前は城勤めのメイド、だった女だな?」
金髪女「どこで聞いたんだか……。ま、手癖の悪さが原因で、職を失って今はこんなザマだけどね」
エルフ13「話を聞きたい……」パサッ
金髪女「おおっ、こんなにくれるのかい? 悪いね」
金髪女「品評会? ああ、一度だけ見てたことがあるよ。これでもメイドとしての地位は高かったからね」
金髪女「まず……二人の鍛冶職人が剣を置く。兵士が安全を確認してから、王に手渡す」
金髪女「で、王様自ら剣舞を披露して、試し斬りして……って感じだったよ。今も同じのはずさ」
エルフ13「…………」
エルフ13「世話になった……」
金髪女「!」
金髪女「ちょ、ちょっと待ちなよ!」ガタッ
金髪女「こんな夜更けに女に話しかけて……これだけで帰るなんてあんまりだろう?」
エルフ13「…………」
~
金髪女「アオオオ~ッ!」
金髪女「す、すごい! こんなの初めて! ち、ちくしょうっ!」
金髪女「あんたこそ男! 男だよ~っ!」
エルフ13「…………」
【 PART5 品評会 】
―城―
兵士「これより品評会を開始する!」
兵士「両鍛冶職人は、それぞれ王の御前に剣を置くように!」
鍛冶師「はい」
ライバル「はい」ニヤッ
鍛冶師(やはり、私から盗んだ剣を献上するつもりか……)
ライバル(あの短期間では、この剣を超える剣は打てまい……)
ライバル(“ソード・オブ・キング”に選ばれれば、俺の鍛冶職人としての地位は安泰というもの!)
鍛冶師「どうぞ」
ライバル「どうぞ」
国王「うむ」
兵士「…………」スッ…
兵士「剣の安全を確認しました。陛下、剣舞と試し斬りをお願い致します」
国王「では、こちらから」サッ
鍛冶師(向こうの剣……つまり、私が盗まれた剣だ……)
鍛冶師(エルフ13は……本当にあの剣にヒビを入れることができるのか……?)
国王「参る」ユラ…
ビュオンッ! ブンブンブンッ! シュバッ!
オオッ…
兵士(さすが陛下……剣の腕はトップクラスの騎士にも引けを取らない……)
ライバル「素晴らしい剣舞でございます!」
鍛冶師「…………」ゴクリ
エルフ13(品評会で人の出入りが激しく、侵入は容易だった……。さて……)
エルフ13「…………」
国王「はっ!」ビュオオンッ
エルフ13(剣舞の速度が最高潮に達した!)ギリッ…
ヒュッ!
ヒュンッ
国王「…………」スチャッ
兵士「剣舞終了!」
ライバル「お見事でした、陛下!」パチパチパチ
鍛冶師「…………」
兵士「では、続いては試し斬りを……」
国王「む?」
国王「これは……剣にヒビが入っている!」
ライバル「えっ!?」
鍛冶師(おおっ……!)
兵士「本当だ……!」
兵士「先ほどは異常なかったし、陛下は剣を振っただけだというのに……とんだナマクラではないか!」
兵士「いや、ナマクラ以下だ!」
ライバル「あっ、いや、これは……」
ライバル「――おいっ!」
鍛冶師「ん?」
ライバル「お前……あの剣に仕込みをしただろう!」
鍛冶師「いきなり何を言うんだ!」
鍛冶師「この城に来てから、私がお前の剣に触るチャンスなどなかった!」
鍛冶師「仕込みなど出来るわけがない!」
ライバル「なにを抜け抜けと……! シラを切りやがって!」
ライバル「あの剣を作ったのは、お前だろうがっ!!!」
鍛冶師「…………」
兵士「……ん?」
国王「む……?」
ライバル「あっ……」
国王「これはおぬしが作ったおぬしの剣のはずだが……」
国王「“あの剣を作ったのはお前”というのはどういう意味だ?」
ライバル「あ、いや……それは、その……」
兵士「なんだ、そのうろたえようは!」
兵士「貴様! まさか神聖なる品評会に、盗品で挑もうとしたのか!?」
ライバル「い、いえ……違う! 違います!」
ライバル「これは罠……罠なんです! わ、私は……正々堂々……自分で、剣を……」
国王「…………」
国王「もうよい、連れていけ」
兵士「はっ!」
ライバル「あっ……」
兵士「来い」ガシッ
ライバル「あ、あああ……あああ……!」
ザッザッザッ…
鍛冶師(出来れば……お前とは正々堂々競いたかったよ……。本当に残念だ……)
国王「詳しい事情はこれから調査するが、おおかたの予想はつく」
国王「先ほど振った剣……ヒビは入ったもののよい剣だった。きっとあやつには天罰が下ったのであろう」
鍛冶師「もったいないお言葉……あの剣も浮かばれます」
国王「さて、おぬしの剣を試したいところだが……」
国王「あやつが盗人ということなら、おそらくこの剣、不本意な出来であろう」
鍛冶師「……おっしゃる通りです」
国王「どうだろうか。余のためにもう一振り、打ってはもらえぬか」
国王「“ソード・オブ・キング”に相応しい剣を!」
鍛冶師「光栄です、陛下……」
【 PART6 結末 】
鍛冶師(こうして私は改めて時間をもらい、満足いく剣を作り上げ、陛下に献上……)
鍛冶師(“ソード・オブ・キング”に認めてもらうことができた)
鍛冶師(エルフ13はおそらく……私の剣を少し見るだけで、私の剣の“クセ”を見抜き)
鍛冶師(陛下の剣舞が最速に達する瞬間、最も弱い部分に、矢をかすめるように当てたのだろう)
鍛冶師(結果、剣にヒビが入り、あのような“結末”となった……)
鍛冶師(しかし、エルフ13の真の恐ろしさはその弓の腕ではない……)
鍛冶師(真に恐るべきは――)
鍛冶師(万が一のことがあれば、陛下に矢が当たり、その場で暗殺犯となってもおかしくない狙撃を)
鍛冶師(平然とこなしてみせる、その“精神力”だ)
鍛冶師(私は今まで、この世で最も鋭いものは剣だと信じて疑わなかった)
鍛冶師(だが……この世で最も鋭いのは剣ではなく、エルフ13の“心”なのかもしれん、な……)
END