女上司「終電の発車を確認しました」ピピピ…
男「あー、行っちゃったか……」
女上司「直ちに部下誘導モードへ移行します」
男「え……え!? 誘導……!?」
女上司「始発は5:50予定、私についてくることをお勧めいたします」
男「いや、適当に漫喫とかに行くんで……」
女上司「漫画喫茶では体力の十分な回復は図れません。健康を損なう恐れがあります。さらに……」
男「わ、分かりました……ついていきます!」
元スレ
女上司「終電の発車を確認しました。直ちに部下誘導モードへ移行します」男「え……え!?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1588599022/
女上司「タクシー乗り場まで徒歩で向かいます」
女上司「3分20秒かかる見込みです」
男「はい……」
男(前々から思ってたけど……課長ってロボっぽいよなぁ)
男「あの……」
女上司「質問を受け付けます」
男「もしかして、課長ってロボットじゃありませんか?」
女上司「ロボットではなく、課長です」
男「いや、課長兼ロボじゃないかって聞いてるんですけど」
女上司「移動を開始します」ウイーン
DQN「へっへっへ……」
不良「いーけないんだ、いけないんだ。こんな夜中に外うろついて」
男「!」
女上司「男性二名を確認しました。両者とも20歳前後と見られます」
男「見れば分かりますよ!」
DQN「俺たち、善意で夜のパトロールしててさ。不審者からは罰金もらうことにしてんの」
不良「罰金いただきまーす。財布出してくださーい」
女上司「虚偽の確率、95%」
男「100%ウソですよ、こんなの!」
DQN「グダグダいってねえで、とっとと財布出せや!」ガシッ
男「わわっ!」
女上司「部下への攻撃を確認。戦闘モードへ移行します」
男「戦闘モード……?」
女上司「発射」シュボッ
ドゴォッ!
DQN「ぶげぁっ!」
男「ロケットパンチィ!?」
不良「てめえ!」バチバチッ
男「ス、スタンガン!」
不良「喰らえッ!」バチバチバチッ
女上司「ガガガ……大きくダメージを受けました……。損傷率22%……」プスプス…
男「あ、やっぱり電気に弱いんだ!」
男(って、納得してる場合じゃない。俺も戦わないと!)
男「だりゃあっ!」ドンッ!
不良「いでっ!」
不良「この野郎……感電したいかァ!」グオッ
男「わ……わわっ!」
女上司「アイビーム発射」ビッ!
ボォォォォォン!
不良「ぎゃああああああああ!!!」
プスプス…
男「え、と……やりすぎなんじゃ……」
女上司「殺傷力は抑えました。標的の生体反応を確認」
男「生きてるならいいですけど……」
男「お、タクシーがありますね」
ガチャッ
運転手「どちらまで?」
女上司「研究所までお願いします」
男「研究所って……やっぱりロボじゃないですか!」
女上司「ロボチガウ、ロボチガウ」
男「もう絶対ロボじゃないですか! ていうか、ロケットパンチの時点でアウトです!」
ブロロロロ… キキッ
運転手「到着しました」
女上司「代金を支払います」ウイーン
男「どっからお金出してんですか」
女上司「研究所へ案内します」
男「はい……」
男(うわっ、漫画に出てくるような、一目で研究所って分かる研究所!)
スタスタ…
男(色々な設備がある……)
男(ロボットだけじゃなく、生き物全般の研究をしてるって感じなんだな)
女上司「マスターを紹介します」
男「マスター? ああ、課長を作った人ですか」
男(どんな人だろう? やっぱり漫画に出てくるような、年取った博士が……)
女上司「マスター、部下を連れてきました」
女博士「ようこそ、私の研究所へ」
男「……!」
男(女性だった……! しかも、かなり美人!)
男(白衣を着てて、年齢不詳って感じだけど……なぜだか親しみも覚える)
女上司「私は充電モードに移行します」
女博士「ああ、ご苦労だった」
男「もうロボっての隠すつもりないですね」
女博士「コーヒーだ」
男「あ、どうも、いただきます」
女博士「さっきの彼女……課長はどうだ? ちゃんと上司をやっているか?」
男(やっぱり……自分の作品の出来栄えが気になるんだな)
男「とても優秀で、指示も的確ですし、もちろんミスもしませんし……」
男「さっきもチンピラみたいな連中から助けてもらって……」
女博士「ふふっ、そうかそうか。製作した甲斐があったというものだ」
女博士「仕事はどうだ?」
男「仕事……? そうですねえ。課長のおかげで……」
女博士「彼女のことは今はいい。君の話を聞きたいんだ」
男「え、あ、すみません」
男(今度は課長がちゃんと部下を育てられてるかどうか、チェックしたいのかな)
男「今は営業をやってるんですけど、無茶な要求をしてくるお客が多くて……」
女博士「なるほど」
……
……
男「……とまぁ、こんな感じです」
女博士「ありがとう」
男(終始ニコニコしながら話を聞いてたな……とりあえず、悪い印象は持たれてなさそうだ)
男「今度は、俺からも質問いいですか?」
女博士「どうぞ」
男「あなたは……どういう研究をなされているんですか?」
女博士「色々やっているが、やはり一番は“人を造る”という研究だ」
男(やっぱり……)
女博士「自ら設計し、自ら材料を集め、自らの手で組み立て」
女博士「男女の交尾から産まれた通常の人間と、なんら遜色のない人間を造りたいと思ったのだ」
男「……!」
女博士「神の領域を侵す研究……だが、私はどうしてもやり遂げたかった」
女博士「そのために、あらゆる学問を研究した。労力を惜しまなかった」
男「ロボット工学も、ですか?」
女博士「もちろんだ」
男(その結果……生まれたのが課長ってわけか)
男「今はどういう段階なんです?」
女博士「社会生活に必要な環境や記憶、知識を与え、社会勉強をさせている」
女博士「どう育っていくかは、あとは本人次第というところだな」
男「それで会社勤めをさせてるわけですか」
男「研究に点数をつけるとするなら……何点でしょう?」
女博士「むろん、100点満点だ!」
男「……」
男(あんな露骨にロボっぽい課長で100点か……まあ言わないでおこう)
男「なにか最終的な目標とかってあるんですか?」
女博士「特にない」
男「え、ないんですか。例えば、“こういうことをさせたい”とか……」
女博士「私は人を造ったのだ。つまり、それは我が子も同然……」
女博士「我が子を“こういうことをさせるために産む”という親はいまい?」
男「そ、そうですね……」
男(まあ、実際には結構いそうな気もするけど。後継ぎにするとか、自分の叶えられなかった夢を叶えさせるとか)
女博士「元気に暮らしてくれればそれでいいんだ」
男(まるで母親みたいな表情だ……)
女博士「おっと、もうこんな時間か。向こうに客室がある。そこで眠ってくれ」
男「は、はい」
女上司「マスター、私は充電完了しました。100%です」
女博士「そうか、では私を手伝ってくれ」
女博士「他の研究所から依頼された実験をこなさねばならないのでな」
女上司「分かりました」
男(課長は寝なくてもいいんだな。そりゃそうか、ロボットなんだから)
朝になり――
男「おはようございます」
女博士「おはよう」
女上司「おはようございます」
女博士「朝食を用意してくれ」
女上司「分かりました。調理モードへ移行します」
男「調理モードなんてのもあるんですね」
男「朝食までご馳走になって……どうもありがとうございました」
女博士「ああ、気をつけてな」
男「ところで……近くに来たら、またここに来てもいいですか?」
男「あなたにはなんかこう、不思議と親しみのようなものを感じてしまって……」
女博士「……ああ、いつでも来てくれ」
女上司「では私が近くの駅までお送りします」
女上司「部下の帰宅を確認しました」
女博士「ご苦労だった」
女博士「これからも……あの子をよろしく頼む。上司として、あの子を成長させ、見守ってあげてくれ」
女博士「あの子は……大切な“我が子”だからな」
女上司「承知しました、マスター」
― 完 ―