女上司「フハハハハ……!」
部下「……」
女上司「もはや終電は無くなった……我が城へ来るがよい!」
部下「いいえ」
女上司「そう言わずに来るがよい!」
部下「いいえ」
女上司「そう言わずに来るがよい!」
部下「いいえ」
女上司「そう言わずに来るがよい!」
部下(あ、ダメだこれ。無限ループするやつだ)
元スレ
女上司「フハハハ……もはや終電は無くなった!我が城へ来るがよい!」部下「いいえ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1589805913/
女上司「フハハハ……そうかそうか、ならば連れていってやろう」
部下(まだ返事してないのに!)
女上司「竜を呼ぶからしばし待て」
部下「え……竜!?」
女上司「ピューイッ」
バサバサバサ…
部下「なんか来た!」
竜「ギャァァァァス!」
女上司「さあ、乗るぞ」
部下「こ、これは……!?」
女上司「見ての通り、竜だ。もしかして、竜に乗るのは初めてか?」
部下「乗るどころか、見るのも初めてですよ!」
女上司「そうか。まあ、乗り心地は馬のようなものだ」
部下「すいません、馬も乗ったことないです」
女上司「ええい、とにかく乗れ!」グイッ
部下「わわっ!」
女上司「振り落とされぬよう、しっかり掴まっていろ」
部下「は、はいっ!」
女上司「出発!」
ギュゥゥゥゥゥゥン……
部下(は、速――)
女上司「どうだ、気持ちいいだろう! フハハハハハ……!」
バサバサバサ…
女上司「いつまで目をつむっている」
部下「……え」
女上司「ほら、見えてきたぞ。あれが私の城だ」
部下「……!」
部下(瘴気みたいなのが漂う中に、真っ黒で巨大な城が建ってる……!)
女上司「着陸するぞ!」
ビュオッ!
部下(まるで鬼みたいな人がいる……)
女上司「戻ったぞ」
門番「お帰りなさいませ」
部下「こ、こんばんは……」
門番「こやつは? 生贄ですかな?」ギロッ
部下「ひっ!」
女上司「威嚇するな。会社での私の部下だ」
門番「失礼しました」
女上司「こっちだ」
部下「はい……」
コツコツ…
部下(薄暗い城内、青白い蝋燭の炎、外では雷鳴が響き渡り……そしてなにより――)
骸骨「お帰りなさいませ」
岩人形「オカエリナサイマセ……」
暗黒騎士「お帰りなさいませ」
女上司「うむ、ご苦労」
部下(明らかに……城の住民が人間じゃない……)
女上司「ここが私の私室だ」
部下「これ見よがしに玉座が置いてありますね」
女上司「どっこいしょ」ドカッ
部下「あ……」
女上司「な、なんだ! どっこいしょっていって悪いか!」
部下「あ、いや……」
女上司「座る時はどっこいしょだろ! 古代から! 神々の時代から!」
部下「すみませんすみませんすみません!」
女上司「まったくもう……若いからって……」
側近「ワインをお持ちしました」
女上司「かたじけない」
側近「お客人もどうぞ」
部下「どうも……」
女上司「ふふ……遠慮せず飲むがいい」グイイッ
部下「……」グイイッ
部下「おいしい……! ほのかな苦みがじんわりと口の中を駆け巡――」
女上司「苦い! もっとジュース感覚で飲めるやつ持ってきて!」
側近「し、失礼しました!」
部下「……」
女上司「ん、これこれ。やはりワインは甘いのに限る。もっと甘い方がよかったが」
部下(それだったらグレープジュース飲んだ方が早いよ……)
部下(っと、背中かゆくなってきた)
部下(だけど、届かない……!)ググッ…
女上司「……」
女上司「……」ジャキンッ
部下(爪が伸びた!?)
女上司「フハハハハ……」スタスタ
部下(こ、殺される……!)
女上司「背中をかいてやろう」ポリポリ
部下「あ、どうも」
女上司「さて、と」
女上司「お前も私に色々と聞きたいことがあるだろう?」
部下「ええ、まあ……」
女上司「私は何者なのかとか、私の目的は何なのかとか、なぜ私はこれほど美しいのかとか」
女上司「フハハハハ……知りたいか? 知りたいようだな、ならば教えてやろう」
部下(返事してないのに勝手に話が進んでいく……いつものことだけど)
女上司「私は元はこの世界の住人ではない」
部下「まあ、そんな気はしてましたけど……」
女上司「かつて、私はこことは異なる世界で、世界征服を企んでいた……」
女上司「人間どもは私の力にひれ伏し、もはや野望達成は目前かと思われた……」
女上司「だが……」
部下「だが?」
女上司「私の野望を阻む一人の若者が現れた」
女上司「奴はたった一人で、我が配下を次々打ち倒し、私を追い詰めたのだ」
部下(なんだか……昔話に出てくる英雄みたいな若者だな)
部下「それで……どうなったんです?」
女上司「私は敗れ、封印された……」
女上司「その後次元の彼方をさまよい、封印が解け、部下とともに復活を果たしたのはこの世界だったというわけだ」
部下「た、大変でしたね」
女上司「……」
部下「だけど……よかったですね! 封印されるだけで済んで!」
部下「封じられず倒されてたら、こうして復活もできなかったんですから!」
女上司「……」チラッ
部下(まずっ! 失言だったか!?)
女上司「その通りだな」
部下(あれ、優しい反応……)
部下「それで……あなたはこの世界でどうするつもりなんです?」
部下「まさか……また世界征服を……?」
女上司「そのつもりはない」
女上司「この世界の武力とやり合ったら、さすがの私でも分が悪そうだし……」
女上司「今のように人間として普通の企業に勤め、細々と生きていくつもりだ」
部下(こんな巨大城建てておいて、細々かよ!)
女上司「おっと、辛気臭くなってしまったな」
女上司「おーい、四天王!」
火の四天王「はっ!」
水の四天王「はっ!」
土の四天王「はっ!」
風の四天王「はっ!」
部下(強そうなのが四人も出てきた!)
女上司「おもてなしを頼む」
四天王「はっ!」
火の四天王「お好み焼きができました~!」
水の四天王「おいしいミネラルウォーターです!」
土の四天王「良質な土で獲れたイモで作ったフライドポテトです」
風の四天王「涼しい風をどうぞ!」ビュオオッ
女上司「どうだ?」
部下「サービスいいですね……だいぶ宝の持ち腐れ感ありますけど」
女上司「四天王のおもてなしは楽しんでもらえたか?」
部下「楽しめました……」
女上司「ではそろそろ……本題に入るとしようか」
部下「というと?」
女上司「さっきもいった通り、私は世界征服などは考えておらんが……」
女上司「今いる会社を乗っ取ろうとは考えている」
部下「!」
部下「乗っ取るって……どうやってです?」
女上司「簡単なことだ。役員どもをまとめて洗脳し、一気に社長へとのし上がる」
部下(ものすごい力技だ……!)
女上司「だが、この世界の住人に我々の洗脳術は効き目が薄いようでな」
女上司「その効き目を増すには、協力者がどうしても必要なのだ」
部下「それが僕……というわけですか」
女上司「もちろん、ちゃんと見返りは用意している」
女上司「私に手を貸してくれるのなら、会社の半分をお前にやろう」
部下「……」
女上司「さあ、私に協力しろ!」
部下「いいえ」
女上司「そう言わずに――」
部下「無限ループしようとしてもダメです。お断りします」
女上司「なぜだ? もっと偉くなりたいだろう? もっと給料が欲しいだろう?」
女上司「もちろん、責任を負う必要などない。そんなものは洗脳した連中に任せればいい」
女上司「私に手を貸せば、文字通り遊んで暮らせる身分になれるのだ」
部下「たしかに僕だって、もっと楽に生きる方法はないかなぁっていつも思ってますよ」
部下「やれるものなら、好きなことだけして、面倒なことは全部押しつけて、生きていきたいですよ」
女上司「だろう? ならば――」
部下「だけど、それじゃダメなんです」
部下「僕の中の芯のようなものが、“ズルはするな”っていってくるんです」
部下「僕はお金を稼ぐにせよ、出世するにせよ、やるんなら正々堂々やりたいんです」
女上司「……甘いことを。正々堂々生きていれば、いい暮らしができると思ってるのか?」
女上司「不正で甘い汁をすすりつつ、のうのうと生きている輩などいくらでもおるではないか」
部下「だとしても……その人たちはその人たちで勝手にやればいい。真似するつもりはありません」
部下「この話は……お断りします!」
女上司「……」
女上司「……フ」
部下「?」
女上司「フハハハハハハハハハハハハ……!」
女上司「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
女上司「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
女上司「よくぞいった! 気に入ったぞ!」
女上司「かつて、ある者に似たような質問をしたことがあったが、その時も断られた」
女上司「あの時のことを思い出したよ……」
部下「……」
女上司「タネを明かしてしまうと――」
女上司「もし、私の誘いに乗るようなら、その時点でお前を見限るつもりでいた」
女上司「だが……よくぞ断った」
女上司「これからも、よろしく頼むぞ!」
部下「こ……こちらこそ!」
部下(よく分かんないけど、正解を選べたってことでいいのかな……?)
部下「僕からも言わせてもらいますけど――」
女上司「?」
部下「僕も……あなたが洗脳で会社乗っ取りだなんて話を本気で持ちかける人でなくてよかった」
部下「あなたは素晴らしい上司……いえ、女性です!」
女上司「な、な、な……!」カァァ…
部下「あ、照れてるところ初めて見ました! 可愛いですね!」
女上司「や、やめろっ! 話は終わりだ……そろそろ寝るぞ!」
部下(ちょっとからかってみた。だけど、本当に可愛いとこあるんだな)
側近「あちらにベッドをご用意いたしましたので」
部下「ありがとうございます」
部下「では、おやすみなさい」
バタン…
女上司「……」
女上司(勇者よ……)
~
女魔王『殺せ……』
女魔王『敵とはいえ、愛してしまったお前に殺されるのならば本望だ……』
勇者『いや……俺にだって君を殺すことはできない』
勇者『俺だって、それほど深く君を愛してしまったんだ……』
女魔王『しかし、それでは人間は納得すまい……。私を倒さねば戦いは終わらぬぞ』
勇者『ああ……勇者と魔王は決着をつけるのが宿命……』
勇者『だから俺は君を……封印する!』
女魔王『封印だと……!?』
女魔王『封印から蘇った時、私がこの世界に戻れるとは限らん! 仮に戻れたとしても……』
女魔王『もはやお前は生きてはいまい!』
女魔王『そんなの嫌だ! ならばいっそ殺してくれた方が……』
勇者『君がどんな世界に行こうと、俺は必ず会いに行く』
勇者『生まれ変わってでも、必ず……! だから……頼む! これしかないんだ……』
女魔王『勇者……!』
~
女上司(私には分かる……。部下の放つ気配(オーラ)……あれは間違いなく勇者のものだ)
女上司(勇者は……約束を果たしたのだな)
女上司(だが、勇者よ)
女上司(お前はお前、あいつはあいつだ)
女上司(私は部下を勇者の生まれ変わりではなく、全く別人の一人の男として扱う)
女上司(お前なら分かってくれるだろう、勇者よ……)
部下「おはようございます」
女上司「おはよう」
女上司「今日は休みだし、朝食を済ませたら、側近の転送魔法でお前を家まで飛ばしてやろう」
部下「ありがとうございます」
女上司「さて、昨晩は甘いところも見せてしまったが、これからもビシバシ指導していくぞ! 覚悟しておけ!」
部下「望むところです!」
……
……
OL「お疲れ様でーす」
同僚「お先に失礼しまーす」
女上司「うむ、ご苦労。気をつけて帰れ」
部下「……」カタカタ
女上司「まだ終わらんのか」
部下「ええ、明日はプレゼンですからね。万全で臨まないと」
女上司「フッ、無理はするなよ」
女上司「フハハハハ……!」
女上司「またも終電が無くなってしまったな……我が城へ来るがよい!」
部下「はい」
女上司「一発OKとは……本当によいのか?」
部下「はい、もっとお城のこと……もっとあなたのこと……知りたいですから!」
女上司「な……! ふ、ふんっ、いいだろう! とくと教えてくれるわ!」
―おわり―