受験生「……」クルクル
女家庭教師「どうしたの、ペン回しなんかして。ちゃんと集中しなさい」
受験生「はい……」
女家庭教師「あと30分はなにがあっても集中する。二人で決めたルールだったはずよ。ルールは守らないと」
受験生「そう……なんですけど……」
女家庭教師「集中できないの? 仕方ない子ね」
女家庭教師「だったら、夜の教育してあ、げ、る」
受験生「え……ッ!」
元スレ
女家庭教師「集中できないの? だったら夜の教育してあ、げ、る」受験生「え……ッ!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1589371341/
女家庭教師「着いた、居酒屋!」
受験生「なんで……居酒屋?」
女家庭教師「そりゃ、夜といったら酒、酒といったら居酒屋だから!」
受験生「ボク高校生ですよ? 居酒屋入っていいんですか?」
女家庭教師「大丈夫でしょ、酒飲まなきゃ」
受験生「でも、暗黙のルールってものが……」
女家庭教師「ルールは……破るためにあるッ!」
受験生「さっきといってること違う!」
女家庭教師「さ、入るわよー」
ガラッ
店主「いらっしゃい」
女家庭教師「こんばんはー」
受験生「こ、こんばんは……」
おっさん「うへへへぇ……今夜は彼氏連れかい?」
女家庭教師「こちらはおっさん。見ての通りダメオヤジよ」
受験生「どうも……」
ホスト「ドンペリィィィィィィ!!!」
女家庭教師「こっちはホスト。いなか町No.1の座を欲しいままにしてるわ」
受験生「凄いのか凄くないのか分からない……」
店主「今日はなんでまた、生徒さんを連れてきたんだい?」
女家庭教師「この子に夜の教育的指導ってやつをね」
女家庭教師「さっそく、大人の厳しさってやつを教えてあげてちょうだい!」
店主「はいよ!」
店主「じゃあ……お通し!」サッ
受験生「わっ! 頼んでもないのに、料理が出てきた!」
女家庭教師「これが“お通し”よ。もちろん、お金は払わなきゃいけないの」
おっさん「大人の厳しさ……とっくり味わうがいいぜ!」
受験生「まあ、席を提供してもらってる代金と思えば」モグモグ
女家庭教師「!?」
受験生「それに、おいしいですし」モグモグ
女家庭教師「お、大人だわ……!」
おっさん「おいおい……こんな子に教育の必要なんてあるのかよ!?」
ホスト「ドンペェリィィィィィィィ!!!」
おっさん「……で、この子がいったい何やらかしたってんだ?」
女家庭教師「受験生なんだけど、急にやる気をなくしちゃって。まるでジェットコースターのように……」
受験生「はい……」
女家庭教師「まるで、バンジージャンプのように……」
おっさん「いいよ、喩え直さなくて」
女家庭教師「それで、おっさんやホストに根性叩き直してもらおうと思って」
おっさん「なるほどな」
ホスト「ドォンペェリ!!!」
おっさん「じゃあ、まず俺から一言」
受験生「はい」
おっさん「勉強しねえと……俺みたいになっちまうぞ?」
受験生「勉強します」
おっさん「早い!」
女家庭教師「改心が早すぎる! もうちょっとこう……粘れ! あんたはいつも粘りが足りない!」
受験生「すいません」
おっさん「なんでやる気がなくなっちまったんだ?」
受験生「勉強して、いい大学に入って……それになんの意味があるのかなってふと思ってしまって」
受験生「別に……無理していい大学入らなくても、中卒や高卒でも立派な人はいくらでもいるじゃないですか」
おっさん「たしかにな」
おっさん「だけど、中卒や高卒でも立派な人はいくらでもいるって理由で勉強しない奴は立派な人になれないと思う」
受験生「うぐぅ……!」
女家庭教師「ヒャハハ、いいぞおっさん!」
おっさん「まあ……学歴はあるに越したことないと思うぜ」
おっさん「例えば……実は俺、東大卒なんだよね」
受験生「え!?」
おっさん「どうだ、見直したか?」
受験生「見直しました……!」
おっさん「だろ? このきたねえおっさんが、いきなりすごい人に見えてくるだろ」
受験生「はい」
おっさん「だけど、今度は俺が中卒だっていったらどう思う?」
受験生「見直しました……!」
おっさん「ちょっと待て」
おっさん「これでも俺は一応大学出てる。もちろん東大じゃないけど」
受験生「そうなんですか」
女家庭教師「どこ卒なの?」
おっさん「うーん……あまり言いたくねえなぁ」
女家庭教師「いいじゃない、教えてよ~!」
受験生「教えて下さい!」
おっさん「しょうがねえなぁ」
おっさん「……○×大だ」
女家庭教師「……」
女家庭教師「うーん……『バカ大じゃんwww』とネタにもできないし『すごーい!』ともならないこの感じ……」
女家庭教師「なんていうか、一番やりづらい……」
おっさん「だから言いたくなかったんだよ!」
受験生「ちなみにホストさんは?」
ホスト「ドンペリィィィィアッ!!!」
女家庭教師「はいはい、ドン大学ペリ学部ね」
女家庭教師「ってことはおっさん、大学受験も経験してるのよね」
おっさん「まぁな」
女家庭教師「だったら、なにか思い出話でもしてよ。どうやって勉強してたとかさ」
おっさん「俺は暗記する時、覚えたページを破って食べるってやり方してたな」
女家庭教師「は? あんたヤギィ?」
受験生「紙がもったいない……」
店主「最低だな」
ホスト「ドンペリィ…」
おっさん「そこまでボロクソ言わなくても」
おっさん「お前さんはなにか思い出あるのか?」
女家庭教師「私? 私は高校三年夏の模試でE判定出しちゃって」
おっさん「E判定?」
受験生「一番悪い判定ですね。今のままじゃ、合格率10%だとかそれぐらいの」
おっさん「夏でそれじゃ、かなり絶望的じゃんか」
女家庭教師「だけど、“E判定はいい判定”だって、前向きに捉えたの」
おっさん「オヤジかよ。で、結果は?」
女家庭教師「合格!」
受験生「すごい!」
おっさん「ホストは受験の思い出とか……」
ホスト「ドォンペェェリィィィィィィィィィィィィィ!!!」
女家庭教師「はい、もう結構です」
受験生「次の話題に移りましょう」
おっさん「試験というと、マークシートってあんだろ? 鉛筆で答え塗り潰すやつ」
受験生「ええ、ありますね」
おっさん「よくあれで『一つずつずらして解答してたぁぁぁぁぁ!』ってのがあるあるネタになってるが」
おっさん「普通にやってりゃ絶対ずれないだろ!」
受験生「ボクもそう思います! マークシートで解答がずれてたなんてこと一度もありませんし!」
女家庭教師「……」
受験生&おっさん「……え」
おっさん「もしかして……」
受験生「ずれてたことが……?」
女家庭教師「……」コクッ
おっさん「いやいや、そういうこともあるって!」
受験生「はい、ある設問が分からなくて飛ばしたら、そこからずれるって言いますし……」
女家庭教師「いいのよ、私なんて……」
女家庭教師「マークシートだけじゃなく……頭もずれてる女なのよ……」
女家庭教師「いいえ、きっと……心も体も全部……」ズーン
おっさん「ご、ごめんな……?」
受験生「どうしましょう……」
ホスト「ドン…」
店主「ほれ、酒」
女家庭教師「え……」
店主「おごりだ」
女家庭教師「飲みまーす!」グビグビ
女家庭教師「ぷはーっ! うめえ!」
おっさん「立ち直った!」
受験生「やっぱりどこかずれてるかも」
おっさん「受験といえば……解き方のテクニックってのはやっぱりあるのかい?」
受験生「ええ、ありますよ」
受験生「問題を少し読んで解けないようならすぐ捨てて、取れる問題を確実に取る、とか」
おっさん「強者との戦いは避けて、弱者を確実に叩き潰せってことか」
受験生「ザコ専みたいに言わないで下さい」
女家庭教師「あと、文章問題では、“だが”とか“しかし”の後の文章が重要だっていうわね」
おっさん「否定するくらいなら最初から言うなって話だな!」
受験生「問題文にそう言われても……」
女家庭教師「おっさんはなにかテクニック持ってたの?」
おっさん「そりゃもう、鉛筆コロコロよ」
女家庭教師「やだ古風~!」
受験生「だけどそれじゃ、記述式には対応できませんよね?」
おっさん「いや、案外いけるぜ」
おっさん「鉛筆を転がしてるうちに、いい文章が思い浮かんでくるもんさ……」
女家庭教師「文豪じゃないんだから」
受験生「先生はなにかテクニックは使ってましたか?」
女家庭教師「試験官を惑わすお色気テクニック……かな?」ウフッ
おっさん「なんか食うか? 俺がご馳走してやるよ」
受験生「じゃあ……たこわさを」
女家庭教師「シカトすんなァ!」
ホスト「ドンペェリ!!!」
女家庭教師「うっせえ!」バシッ!
ホスト「ペリィ!」
ハハハハ… ワイワイ…
受験生「あのボク……なんで自分がやる気なくなっちゃったのか分かりました」
女家庭教師「え?」
受験生「受験って一つの門みたいなもんじゃないですか」
受験生「くぐったら……結果はどうあれ、人生は次のステップに進むことになる」
受験生「ボクは……それが怖かったんです」
受験生「勉強すればするほど、その門と真剣に向き合うことになるんですから」
女家庭教師「そうだったの……」
ホスト「ペリィ…」
おっさん「分かるぜ、その気持ち。俺も初めて風俗に行く時には……」
女家庭教師「やめろ」
受験生「だけど、元気が出てきました!」
受験生「だって、先生もおじさんもみんな、そうやって色んな門をくぐって今があるんでしょう?」
受験生「あなたたちに出来るなら、ボクにだって出来るはずですから!」
おっさん「なんかすごく失礼なこと言われてるような」
女家庭教師「ま、いいじゃない。元気出たんだから!」
おっさん「そりゃあそうだな!」
女家庭教師「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
受験生「皆さん、今日はありがとうございました!」
店主「また来なよ」
おっさん「おう、しっかりな」
ホスト「ドン…」
おっさん「お、ホスト、なにか言うのか?」
受験生「なんですか?」
ホスト「受験に成功するにせよ、失敗するにせよ、苦しい受験勉強をしたという経験は」
ホスト「君の人生にとって、必ず大きな財産になるはずだ」
ホスト「今は辛いだろうが、どうか悔いのないよう勉強を頑張って欲しい」
受験生「ちゃんと喋れたんですか!?」
女家庭教師「しかもすごくまともなこと言ってる……」
おっさん「さすがいなか町No.1ホストだぜ……」
女家庭教師「どぉう? 夜の教育、少しはためになった?」
受験生「はい!」
女家庭教師「ふふっ、顔つきが変わったね」
受験生「というわけで、今から勉強しましょう!」
女家庭教師「ちょ、ちょっと待って。結構飲んじゃったから、明日からで……」
…………
……
その後――
母「今はネットで合格発表を見れちゃうのね」
受験生「……」ドキドキ
受験生(頼むっ……!)
受験生「……!」
受験生「やったぁ! 受かってた!」
母「よかったわね!」
受験生「うんっ!」
店主「へぇ~、受かったのかい。おめでとう!」
おっさん「やったな!」
ホスト「ドンペェリ!!!」
受験生「ありがとうございます」
女家庭教師「ふふっ、これで晴れてあなたもお酒を飲めるってわけね!」
受験生「え……?」
受験生「ボク、まだ18なんですけど……」
おっさん「なにいってんだ!」
ホスト「ドォンペリ!」
店主「もう酔っ払ってんのかい」
女家庭教師「ううう……私も教育を受け直した方がいいのかも……」
おわり