<コンビニ>
JK(これと……これと……)サッサッ
JK(あとは外に出れば……!)ダッ
店長「ちょーっと待った」
JK「え」ビクッ
店長「君、万引きしたよね?」
JK「え、あの……私は……」
店長「ちゃんと見てたから。奥の部屋行こっか」
JK「あ、ああ……」
元スレ
店長「君、万引きしたよね?」JK「え、あの……私は……」店長「奥の部屋行こっか」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1585375207/
奥の部屋に入ると――
男「…………」シャッシャッ
JK(刃物研いでる……!)
女「ヒ~ヒヒヒ……」コポコポ
JK(こっちの女性は、なにか怪しげな調合してる……!)
店長「さてと、ここに座ってくれ」
JK「は、はい……」
JK(私、どうなっちゃうの……)
店長「リップにハンドクリーム、ホッカイロ……だいたい1000円か」
店長「万引きははじめて?」
JK「は、はい……」
店長「きっと万引きなんてみんなやってる。軽い犯罪だ、なんて思ってるんだろ?」
JK「いえ、そんな……」
店長「だけどさ、店にとっては死活問題なわけ」
店長「たとえば、80円で仕入れた物を100円で売るとしよう。この場合、一個売れれば店は20円儲けられる」
店長「もしこれを一個盗まれたら、仕入れに使った80円を取り戻すには、商品を4個売らなきゃならない」
店長「儲けまで出すには5個も売らなきゃならない。一個盗まれただけでだ」
店長「これがどれだけ大変なことか、君だって分かるだろ?」
JK「分かり……ます」
店長「分かってないだろ?」ギロッ
JK「!」
店長「分かってたら万引きなんてしないよね。するはずないよね?」
JK「す、すみませ……」
店長「月並みな台詞だが、謝って済むなら警察はいらないんだよ」
JK「う……」
店長「さてと、このまま警察に突き出してもいいんだが……」
JK「…………!」
店長「んなことしても、君は親や先生から厳しく叱られて、それで終わりだろう」
店長「万引きという大罪を犯したにもかかわらず、それじゃ俺としても面白くない」
店長「どうせなら、もっと世のため人のためになる方法で、罪を償いたいとは思わないか?」
JK「! そんな方法があるのなら……」
店長「じゃあ、君にはこの店で万引きしてもらおう」
JK「……はい?」
JK「あの、すみません、いってる意味が……」
店長「明日から、君にはウチの店で万引きにチャレンジしてもらう」
店長「俺に見つからないように、何でもいい、商品を盗ってくれ」
店長「盗れるまで何度でもチャレンジしてもらう」
JK「どうして、そんなことを……」
店長「やるのか? やらないのか? ま、やらない場合どうなるかは想像つくだろうが……」
JK「や……やります! やらせて下さい!」
店長「いい言葉だ。じゃ、明日からよろしく頼むよ。もちろん、このことは他言無用だ」
JK「はい……」
次の日――
<高校>
不良「おい、昨日はなにやってたんだよ。コンビニ近くで待ってたのによ」
ギャル「ちゃんと万引きしたの~? まさかバックレたんじゃないでしょうね」
JK「実は……捕まっちゃって……」
不良「ああ? 普通捕まるかよ。ったくトロ臭えな、てめえはよ!」
ギャル「アタシらにやらされたってこと、チクってないでしょうね。チクってたらビンタ百発だよ?」
JK「それは……平気……」
不良「ならいいけどよ。いいか、また今度万引きさせっからな」
ギャル「次しくじったら、学校来れないレベルにイジメまくるからね」
JK「…………」
<コンビニ>
ウイーン…
JK「…………」
店長「お、来た来た。さ、どれでも万引きしてみな」
JK(思い切り見張られてるじゃない……こんな状況で出来るわけが……)
店長「どうした? やらないと、警察や家に……」
JK「や、やりますよ!」
店内を右往左往して、
JK(じゃあ……クリップを!)サッ
JK(このまま店を出て――)
店長「残念。見えてたよ、クリップ出して」
JK「は、はい……」
店長「さ、もう一回やり直し! 張り切っていこう!」
JK「ううう……張り切っていいんでしょうか」
結局一度も成功することなく――
店長「今日はここまでにしとこう。また明日ね~」
JK「はい……」
次の日も――
JK「…………」サッ
店長「バッチリ見えてたよ。さ、スティックのり出して」
JK「はい……」
そのまた次の日も――
JK(アイスを!)サッ
店長「アイスとはなかなか冒険したね。だけど、残念!」
JK「さすがに無謀でした……」
<コンビニ>
JK「…………」シュッ
スタスタ…
店を出た女子高生を捕まえ、
店長「今のは……ボールペン、かな」
JK「正解です」
店長「……かなりいいセンいってたよ。そろそろ成功の時が近いのかもな」
……
<コンビニ>
店長「…………」ジッ
JK「…………」
見張られながら、そのまま店を出る。
店長(俺の目がたしかなら、なにも万引きしてないはずだが……)
店長「何も万引きせずに出たのか?」
JK「いえ……」
JK「リップクリームを……」サッ
店長「…………ッ!」
店長「お見事」
JK「えぇと、ありがとうございます……」
店長「これでようやく使えるようになった。明日から働いてもらう」
JK「なにをするんですか……?」
店長「それは明日になってのお・た・の・し・み」
JK「はぁ……」
店長「ああ、それと……そのリップクリームあげるよ。成功祝いだ」
JK「いえ、ちゃんと買います!」
店長「……いい子だ。俺の目に狂いはなかったな」
JK「え?」
店長「じゃ、明日はよろしく頼むよー」
<高校>
教師「今日は有名な教育評論家の方が講演をして下さる」
教師「昼休みが終わったら、体育館に向かうように」
ハーイ… カッタリー ワイワイ…
JK(今日の仕事って、いったいどんなことやるんだろう)
JK(万引きに関係する仕事なのは間違いないよね)
JK(もしかして宝石店で、高価な宝石を万引きしてこい、とか……?)
評論家「流されるまま、生きてはなりません」
評論家「人生どこに落とし穴があるか分かりません。流されていては必ずそこに落ちてしまいます」
評論家「選挙権も18歳に引き下げられた今の時代、若者はもっと自主性を持つべきなのです」
評論家「君たちはやれる! “自分には何ができるか”を自分の頭で考えるのです!」
生徒A「講演なんてダリィと思ってたけど、なかなかいいこというじゃん。引き込まれるよ」
生徒B「自分で出版物も出してるし、動画サイトでも大人気らしいぜ、この人」
JK(流されるまま生きてる……まさに私のことだわ)
JK(イジメで万引きをやらされて、そして、さらに大きな犯罪をやらされようとしている……)
<コンビニ>
店長「今日はこの子もメンバーに加わる。仲良くしてあげてくれ」
JK「よ、よろしくお願いします」
男「……よろしく」
女「ヒッヒッヒ、よろしくねえ」
JK「…………」ゴクッ
JK(やっぱり、窃盗団かなにかなのかな……)
店長「店じまいして、しゅっぱーつ!」
JK(ひいいい……)ドキドキドキ
四人はある建物にたどり着いた。
JK「なんですか、あそこは?」
店長「いわゆる“半グレ”の溜まり場でね」
店長「君にはあの見張りをやってるチンピラの持ち物を万引きして欲しい」
JK「え……」
JK「それって万引きというよりスリじゃ」
店長「ま、いいからいいから。親戚みたいなもんだ。さ、やってみよう!」
JK「は、はい……」
見張りをやっているチンピラに近づいていく。
JK(私の“初仕事”は――)
チンピラ「あ? なんだてめえ?」
JK「…………」スッ
チンピラ「ンだよ。ただの通りがかりか」
JK(自分でも驚くほどあっさりと終わった)
店長「お、どれどれ」
JK「こんなもの持ってましたけど」
“粉”が入った袋を手渡す。
店長「どうだ?」
女「えぇと……」クンクン
女「ヒヒヒ……。うん、間違いない……危険ドラッグの類だねぇ」
JK「え!?」
店長「やっぱりな。よし、潰すぞ」
男「はい」
女「はーい」
JK「えええ!?」
店長「君の仕事は終わり。あとは俺らの仕事だ」
男「…………」スタスタ
チンピラ「あ? なんだよ?」
男「…………」サッ
ナイフを取り出す。
チンピラ「ひっ!?」
男「中入れて……でないと刺す」
チンピラ「わ、分かったっ!」
店長「うん、物分かりがよくて大変よろしい」
女「ヒヒヒ、お邪魔しま~す」
JK「…………!」
わけの分からないまま、女子高生も他の三人についていく。
中では半グレ集団がたむろしていた。
ワイワイ… ガヤガヤ… ギャハハハ…
店長「みなさーん!」
店長「皆さんは危ないドラッグを所持、販売してるということが分かりましたので」
店長「退治させてもらいまーす!」
いきなりの宣戦布告。
「あ!?」 「なんなんだてめえら!?」 「ブッ殺せ!」
JK(30人はいるじゃない……たった三人でどうするの!?)
DQN「オラァッ!」ブンッ
男は鉄パイプをかわすと――
ザクッ!
DQN「!?」
DQN「んぎゃああああっ! 刺されたァッ!」
男「大丈夫だよ……。あまり血は出ないし死なないところ刺したから……ただし痛いけど」
ドヨドヨ…
「マジかよ……」 「刺しやがった!」 「イカれてやがる!」
女「いい感じにみんな固まってくれたわねえ。じゃ、あたしの出番ね」
女「あたし特製、ポイズンボール!」ポーイッ
ボワンッ!
煙が湧き出る。
「ゲホゲホッ!」 「うげえっ!」 「なんだこれ!?」
逃れた者も――
男「逃げたらダメ……大人しくしてて」ザシュッ!
「ギャアッ!」
ギャァァァ… ヒィィィ… ワァァァ…
JK(30人が……一網打尽に……)
店長はリーダー格のスキンヘッド男と対峙する。
スキンヘッド「くっ……!」
店長「お前がこの連中のアタマだな?」
スキンヘッド「なんなんだ、てめえらは……サツか!?」
店長「惜しい。コンビニの店長です」
スキンヘッド「全然違うじゃねえか!」
店長「というわけで、今日は店からホウキを持ってきた」サッ
スキンヘッド「ふざけんなァ!」ブオンッ
店長「ほれっ」パンッ!
スキンヘッド「ぶっ!」
店長「ほれほれっ」パパンッ!
ホウキによる往復ビンタが炸裂。
店長「これで……」ガシッ
ダンッ!
腕を取って押さえ込む。
店長「お掃除完了」
スキンヘッド「いでぇぇぇ……!」ミシミシ
JK(あっさりとやっつけちゃった……)
店長「あとは警察に通報すれば、半グレ集団は壊滅だ」
店長「イートインでパーッと打ち上げしよう」
男「僕、フライドポテトで」
女「ヒヒヒ、あたし焼き鳥食べるぅ~」
JK(いったいなんなの、この人たち……)
店長「君もよくやってくれたよ。ほら、帰ろう」
JK「は、はいっ!」
<コンビニ>
ホットスナックや飲み物で打ち上げをする。
店長「んじゃ、カンパーイ!」
男「乾杯」
女「かんぱ~い!」
店長「どうだった?」
JK「え……」
店長「こういう世のため人のためになる万引きってのもなかなかオツなもんだろう?」
店長「少なくとも、イジメられて強制させられる万引きよりは」
JK「! なんでそれを……」
店長「君を見てりゃ分かるさ。物欲しさやスリル目当てに万引きする子じゃないってことは」
店長「今の君ならもう、イジメてくる奴らなんか怖くないだろ」
JK「だといいんですけど……」
JK「これで……私の仕事は終わりですか?」
店長「いや、今日のは場数を踏んでもらうための予行演習みたいなもんだ。次の仕事が本番になる」
店長「君にもう俺に従う理由はないが……やるか?」
JK「やります! やらせて下さい!」
店長「フッ、いい言葉だ。前より力強さが増してる」
男「今日一日で顔つきが凛々しくなったね」
女「ヒヒッ、よろしくねぇ~」
JK(結局、店長たちは何者だとか、色々と聞きそびれてしまったけど……)
JK(私の心はなぜか、不思議な充実感に包まれていた――)
<家>
JK「おかわり!」サッ
母「あら、珍しい」
母「ちょっと前まで何か悩んでるみたいだったけど、すっかり元気になっちゃって」
JK「うん……いい出会いができてね」
JK「人から必要とされるって、こんなに嬉しいことなんだね!」
母「そうね。あたしも、家族がおいしそうにご飯を食べてくれると嬉しいし」
父「俺も仕事してる時は、お前や母さんの顔を思い浮かべるよ」
JK「お父さんお母さん……いつもありがとう!」
JK(私も……頑張らなきゃ!)
<高校>
JK(今度はどんなことをするんだろ……)
不良「おいお前、学校終わったらまた万引きしろよ」
ギャル「しくじったら許さないから~!」
JK(本当だ……)
JK(前はあれだけ怖かったこの二人が全然怖くない……)
JK「悪いけど、私はもうお店に迷惑がかかる万引きはしないの」
不良「あ?」
ギャル「ちょっとぉ~、あんましナメてるとビンタしちゃうよ?」
JK「…………」シュシュッ
女子高生の手の動きに、二人は全く気付かなかった。
JK「はいこれ」
不良「なんだそりゃ? ベルト?」
ギャル「ブラジャー?」
JK「あなたたちの」
不良&ギャル「え……」
不良「ホントだ! ないっ!? うわっ、ずり落ちる!」ズルッ
ギャル「キャーッ! アタシのブラが!?」
不良「お前、どうやって……!」
JK「どうやってでしょう」クスッ
不良「ひっ……!」
ギャル「…………!」
不良「ちっ、お前みたいなヤベェ女と関わってられるかよ。行こうぜ」
ギャル「あ、あの……」
JK「?」
ギャル「お姉様って呼んでもいいですか」キュンッ
JK「いや、それはちょっと……」
JK(とんでもないものまで万引きしちゃった気がする)
<コンビニ>
ウイーン…
店長「お、来た来た」
JK「どうも」
店長「指先の調子は?」
JK「バッチリです」
男「指のしなやかさがすごいね。イソギンチャクみたいだ」
女「ヒヒヒ、期待してるわよぉ」
<街中>
ターゲットは――
イケメン「…………」
店長「あいつだ」
JK「半グレの人に比べて、普通の人って感じですけど……」
店長「奴らとは比較にならないほど危険な相手だ。心してかかってくれ」
JK「分かりました」
JK「…………」
イケメン「…………」
シュッ
JK(盗れた!)
JK「ポケットに粉薬が入ってました」
店長「よくやった」
JK「また……危ないドラッグでしょうか?」
店長「かもしれないな。コンビニで女ちゃんに見てもらおう」
<コンビニ>
女「いんや、違うわねえ」
店長「違う?」
女「よくある向精神薬よ。普通の病院でも処方されてるようなヤツ」
女「心を高揚させる効果があるけど、これ単体でどうこうできる程のブツじゃないわ」
店長「……そこまでの危険はないってことか」
JK「……すみません」
店長「謝ることはない。数日後、また頼むよ」
JK「分かりました」
三日後――
またイケメンから、持ち物を“万引き”する。
JK「取ってきました!」
店長「これは……?」
JK「漫画本、ですね」
店長「中身は?」
JK「えぇっと……」
JK「ざっと見る限り……なんの変哲もない冒険漫画という感じです」ペラ…
JK「ページに何か挟まってるなんてこともないですね」ペラペラ
店長「そうか……」
店長「計画書でも持っていれば、と思ったんだが……」
JK「計画書? なんの?」
店長「テロの」
JK「テロ……!?」
JK「まさか、あの人って……」
店長「ああ、奴はあるテロ組織の一員だ。下っ端ではあるがな」
JK「テロ組織……!」
店長「驚いた?」
JK「驚くに決まってますよ!」
JK「だったらすぐ捕まえないと……!」
店長「あいつだけ捕まえても意味がない」
店長「奴らの企みを看破し、巣を突き止めなきゃ……何らかのテロは起こってしまう」
JK「…………!」
JK(テロだなんて……。とても信じられない……)
店長「ここらで……俺の正体を明かしておこうか」
店長「気づいてなかったと思うが……俺の本業は……実はコンビニ店長じゃないんだ」
JK「それは気づいてました!」
店長「そ、そうか」
店長「俺は国家に仕える、治安維持を任務とするエージェントだ」
JK(国家……! エージェント……! えええ……!?)
店長「平たくいうなら、“日本の平和を守る人”ってところだ」
JK「平たすぎませんか」
店長「ただし、公安や内調には所属せず、自由にやらせてもらってるが」
店長「好き勝手やれる代わり後ろ盾もない、失敗したらそれまで、そんなポジションさ」
店長「そして俺は、“民間人登用特権”を持っている」
JK「なんですかそれ?」
店長「たとえ一般人だろうと、“使える”と思った人を自分の判断でスカウトしていいって特権だ」
JK「一般人を……? あ……そうか。ってことは私も!」
店長「ああ、最初の万引き……。見抜けはしたが、惚れ惚れするような手つきだった」
店長「きっと生来の手先の器用さを持ってるんだろう。鍛えれば使える、と判断したんだ」
JK「もしかして、他の二人も……」
店長「俺がスカウトした。今や二人とも、俺にとって欠かせない存在だよ」
JK「すみません! せっかくスカウトして下さったのに、なんの役にも立てず……」
店長「そんなことはない。十分役に立ってるよ」
店長「だが、しばらくあの男には近づかない方がいい」
店長「短い期間に、同じ人間に何度も近づかれたら、さすがに怪しまれる」
店長「テロリストとの戦いは迅速さも大事だが、それ以上に用心深さが大事なんだ」
店長「警戒されて、闇の中に隠れられたら面倒だからな」
店長「歯がゆいだろうが、じっくりやっていこう」
JK「分かりました!」
数日後――
<コンビニ>
男「いらっしゃいませ」
女「ヒヒヒ、いらっしゃい」
JK「今日、店長さんは……?」
女「店長なら出かけてるわよ」
JK(きっと例のテロ組織を追ってるのね……)
JK「ていうか、お二人も店員やってるんですね」
女「まぁね~、接客はドヘタだけど」
男「さっきもお客さん怒らせちゃった……」シュン
女「あたしはお客さん怖がらせちゃった!」ヒヒッ
JK(いいコンビだわ)
JK「私、この前店長の正体を聞いたんです」
女「あら、ってことは店長、よっぽどあなたのこと信頼してるのねぇ」
JK「だとしたら嬉しいですけど」
JK「その時、お二人も店長にスカウトされたって聞いたんですけど……」
女「そうよ。あたしらも、このコンビニで犯罪をやらかしたの」
JK「というと……私みたいに万引きを?」
男「僕は……強盗だった」
JK(強盗!?)
男「僕は病気がちの妹がいてね。治療費が欲しかった。だから、ナイフを持ってこのコンビニに押し入ったんだ」
男「そしたら――」
男『金を出せ!』サッ
店長『おっ、いい顔してるね』
男『は?』
店長『単なる勢いやヤケクソじゃない。必ず成功させようって目をしてる』
店長『俺のこともできれば刺したくないが、いざとなれば……って目をしてる』
店長『コンビニ強盗はバカでも出来るが、そういう顔はなかなか出来るもんじゃない。貴重だ』ウンウン
男『なにいってんだ……金を出せっていってるんだ!』
店長『金なら欲しい額をやろう……。あ、ただし七桁まで。できれば六桁』
男『へ……?』
店長『その代わり、俺のために働いてくれないか? ちょうど人手が欲しくてさ。武器を扱える奴』
男「ここまでいわれたら頷くしかなかった」
男「もちろん、たっぷり訓練させられたよ。刃物での戦い方をね」
JK「それで……妹さんは?」
男「おかげですっかり回復して、元気に暮らしてるよ」
JK「そうですか、よかった!」
男「ありがとう」
女「ヒ~ヒヒヒ。それじゃ、あたしの話もしましょかね」
女「あたしはね、このコンビニで毒の混入をやらかそうとしたの」
JK「毒ですか……!?」
女「あたし元々病院勤めしてたんだけど、ある時、偉いお医者さんの医療ミスを押しつけられて」
女「クビにされちゃったの。患者さん殺しかけたっていう汚名つきでね。ヒヒヒ、ひどい話でしょ」
JK「え……」
女「もうどこにも行くあてはない……そんな時、このコンビニに立ち寄ったの」
女「ペットボトルのお茶を買って……イートインで毒を混ぜたわ。あの医者に飲ませてやろうってね」
女「その後は……あたしも死ぬつもりだった」
女「すると、店長がやってきて――」
店長『なにやってんの? ひょっとして、毒でも混ぜようとしてる?』
女『ヒエッ!?』
店長『おお、これなかなか入手しにくい毒薬じゃない。すごいね、どうやって手に入れたの?』
女『いえ……あの……』
店長『実はさ、このコンビニ、ちょうど毒を扱える人募集してて……』
女『へ……!?』
女「あれよあれよと勧誘されて、いつの間にか仲間に……」
女「ちなみに、あたしにミスを押しつけた医者は、今までの医療事故が全部マスコミに漏れちゃって」
女「めでたく失脚したわぁ」
JK「それってもしかして……」
女「多分、店長の仕業でしょうねえ。ヒッヒッヒ……」
JK「お二人とも、店長さんに救われたんですね」
男「うん……強盗に入ったのがここでよかったよ。でなきゃ今頃、僕は刑務所だ」
女「ま、あの店長、あたしらみたいのを引き寄せてスカウトしたいから」
女「わざと犯罪をやりやすそうな雰囲気作りしてる部分もあるんだけどね」
JK「たしかに、ここって人もいないし、色々とスキだらけですもんね」
女「そうそう、スキだらけ! 店長そっくり!」
男「……ぷっ」
アハハハハ…
店長「おいおい、俺の噂話はその辺にしといてくれ。クシャミが止まらなくなる」クシュンッ
JK「店長さん!」
女「クシャミって、またベタねぇ」
女「どぉう? 例のイケメン、何かやらかした?」
店長「いや……なかなか尻尾を出さないな。敵もやるもんだ」
店長「ただ、中高生がよくいる地域をうろついてるってことが分かってきた」
女「ヒヒ、援助交際でもやってるとかぁ?」
男「まさか……」
JK(中高生……)
JK「あのっ、店長さん!」
店長「ん?」
JK「この前私がゲットした漫画、お借りしていいですか?」
店長「いいけど……どうするんだ?」
JK「私の高校に、あの漫画を知ってる人がいるかどうか、聞いてみたいんです!」
<高校>
クラスメイトに聞いてみるも――
JK(これといって収穫なし、か)フゥ…
不良「お?」
ギャル「あら、お姉様ぁ! ご機嫌いかが?」
JK「お姉様じゃないって」
不良「お前もその漫画持ってるのか?」
JK「え! あなたたち、これ知ってるの!?」
不良「ああ。つっても読まずに捨てちまったけどよ」
ギャル「超イケメンがアタシらみたいな連中に配ってたの!」
JK(間違いない! あの人だわ!)
不良「だけど、俺の先輩でその漫画読んでから、妙に影響受けちまった人がいてよ」
JK「どういうこと?」
不良「“俺が日本を変える”“武器があればやれる”みたいなこと言い出してんだよ」
不良「ヤバイ雰囲気プンプンすっから、俺も最近は付き合い避けてんだ」
ギャル「やだ~! なにそれウケる~! ヤバすぎ~!」
JK「…………!」
JK(あの漫画、私もちゃんと読んでないけど、もしそういう気持ちを高めるような内容だとしたら……)
JK「お願い! その先輩、どこにいるの!?」
不良「えぇと、たしかクラスは……」
放課後――
一人で下校する“先輩”に近づく。
先輩「…………」ザッザッ
JK(不良君をそのままバージョンアップさせたような人だわ)
JK(近づいて、持ち物を――)シュッ
すると――
JK(私は……とんでもないものを万引きしてしまった)
JK(拳銃……!)
<コンビニ>
JK「……というわけです。拳銃を持ってたんです」
店長「……なるほど」
店長「おそらく、あのイケメンは世に不満を持ってそうな若い子に、あの薬や漫画をさりげなく渡してたんだろう」
店長「俺もあの漫画を読んでみた。一見ありふれた冒険漫画だったが」
店長「“世界を変えよう”“自分で考えて行動しよう”といったフレーズが巧妙に散りばめられていた」
店長「若い子の中には、もろに影響を受けてしまう子も多いだろうな」
店長「そして……見込みのありそうな子には武器を渡す。君の先輩もその一人だろう」
JK「どうして、そんなことを?」
店長「むろん、潜在的なテロリストを増やすためだ」
店長「奴はそうやって、将来テロリストになる種を植えていたわけだ」
JK(店長と全く逆のことやってたわけか……)
男「だけど、中高生に銃を持たせたぐらいで、国を変えられますか?」
女「そうよねえ。若い子が国会に銃持って突撃したって、結果見えてるわよ」
女「あっという間にとっつかまって、はいオシマーイ!」
店長「たしかにそうだが……じっくりと育成するつもりだったのかもな」
店長「ありがとう。これでようやく奴の目的が分かった。君をスカウトしてよかった」
JK「は、はいっ!」
JK(やった……やっと役に立てた!)
店長「だが……君はここまでだ」
JK「……え?」
店長「これ、今までの報酬と迷惑料だ。受け取って欲しい」ドサッ
カバンの中には札束がいくつも入っていた。
JK「ちょ、ちょっと待って下さい!」
店長「ん? 額に不満だったら後で連絡を……」
JK「そうじゃありません! どうして私だけ……!? なんでここまでなんですか!?」
店長「俺は元々、君を長く使うつもりはなかった」
店長「あのイケメンの目的がはっきり見えたら、この仕事から手を引いてもらうつもりだった」
店長「君はまだ高校生だ。しっかり勉強して、進学なり就職なり自分の道を見つけるんだ」
店長「他の二人と違って、こんな危ない仕事に手を染めていい年齢じゃない」
JK「…………」
店長「君はこの仕事を通じて、恐ろしい技能を身につけた」
店長「今の君は、その気になれば、どんな高級な品物だって万引きすることができるだろう」
店長「だが、俺は……君はそんなことはしないと信じてる」
店長「そして……これ以上、この件に首を突っ込むべきじゃない」
JK「でも……私は!」
店長「あとは俺たちに任せろ」ギロッ
有無を言わせぬ睨みだった。
JK「分かり……ました……」
男「大丈夫だよ」
女「後はあたしらがしっかりやるから! 任せといて!」
JK「はい……」
店長「…………」
店長「なにももうウチに来るなっていってるわけじゃないんだ。いつでも遊びに来てくれ」
店長「はいこれ。ウチのポイントカードだ。10000円の買い物で、1P貯まる!」
女「ケチくさっ!」
JK「ありがとう……ございます」
カードを受け取ると、女子高生はコンビニを後にした。
JK「…………」ポチポチ
ふと、スマホで動画サイトを見る。
評論家『自分が必要とされていない……そんな風に悩んでいる若者たちへ!』
評論家『そんな時は動くのです! がむしゃらに! そうすれば必ず道は切り開ける!』
評論家『自分はこんなにやれるんだと、無理解な大人たちに見せつけてやるのです!』
10分余りの動画を見終わり、
JK「…………」
JK(そうだわ、私だってやれる)
JK(もう一回、あのテロ組織の人を見つけ出して、万引きしてやる)
JK(今度こそ、テロに関する決定的な証拠を掴むの)
JK(そうすれば店長さんだって、私を見直してくれるはず!)
街中にて――
イケメン「…………」
JK(いた! あの人だ!)
JK(よぉし……)
イケメンに近づいていく。
――ガシッ!
JK「あ……!」
イケメン「これでも記憶力はよくてね。君、俺に何度も近づいてきたよね? これで三度目ぐらい?」
JK「は、はなして……!」
イケメン「どうして近づいてきた? まさか公安のイヌ?」
JK「ち、ちが……!」
イケメン「まあいい。アジトでじっくり責めれば済むことだ」
JK「…………ッ!」
女子高生は痛感した。自分の甘さを――
女子高生は、車である建物まで運ばれた。もちろん、簡単に発見できるような場所ではない。
<アジト>
ドサッ!
JK「きゃっ!」
JK(ここが……テロ組織のアジト……!)
リーダー「なんだ、この娘は?」
イケメン「俺のことをコソコソ探ってきてましてね。もしかしたらと思って、連れてきちゃいました」
リーダー「そうか……。ここなら拷問もやり放題だからな。死体処理も困らん」
リーダー「好きにやれ」
イケメン「ありがとうございます」
JK「ひっ……!」
……
イケメン「さて、と……質問してくよ。正直に答えてね」
イケメン「なぜ俺に近づいてきた?」
JK「それは……あなたがかっこいいから……」
パァンッ!
JK「…………っ!」
平手打ち。
イケメン「ウソはよくないなぁ。とりあえず、爪一枚いっとこうか」
JK「や、やめて……っ!」
イケメン「まずは親指から……」
JK(助けて……店長さんっ……!)
――ガンッ!
イケメン「がっ……!」ドサッ
JK「え……!?」
店長「大丈夫か?」
JK「は、はい……!」
JK「だけど、どうしてここが……!?」
店長「さっき渡したポイントカード……あれが発信器になってたんだ。だから追ってこれた」
JK「あ……!」
JK(店長さんは……私が勝手に突っ走ることを見抜いてたんだ……)
店長「他の二人が、すでにテロリストどもと乱戦になってる。俺たちも行こう」
JK「はいっ!」
アジト内で暴れる二人。
男「刺されたい人からかかってきて……」
ザシュッ! ズバッ! ザクッ!
「ぎゃあっ!」 「ぐああっ!」 「いでえっ!」
女「ヒ~ッヒッヒ、あたし特製スリップオーイル! 滑りなっさーい!」ドバドバ…
「うわぁっ!」 「滑るぅ!」 「あだっ!」
ツルツルッ ドテッ ドサッ
リーダー(ちっ、こいつら公安の連中か!?)
リーダー(いや……それにしてはやり方がメチャクチャすぎる!)
男「覚悟しろ……」サッ
リーダー「いい気になるなよ。俺もナイフ術には自信があるんだ」チャッ
ヒュバッ! シュバッ! シュッ!
ナイフでの斬り合い。
男「くっ……!」ビシュッ
リーダー「ほう、俺とまともにやり合えるとはな」
しばらく互角の戦いが続くが――
ザシッ!
男「ぐううっ……!」
リーダー「どうやら俺の方が一枚上手のようだな……」
リーダー「もらったァ!」グオッ
凶刃が男に迫る。
女「ヒッ、まずいわぁ!」
そこへ店長たちが駆けつける。
JK「男さん!」
リーダー「!」ハッ
リーダー(ここで捕まるわけにはいかん! ……退くしかないか!)
リーダー「どけっ!」ドンッ!
JK「きゃっ!」
タタタッ…
男「ま、待てっ……!」
店長「よせ、無理に追うな! このアジトを潰せただけで上出来だ!」
男「すみません……」
アジトでの戦いは一段落した。
店長「アジトを突き止められたのは、君のおかげだ。よくやってくれた」ニコッ
JK「はい……」
店長「……なんていうと思うか?」
パシッ
JK「…………ッ!」
店長「俺たちが間に合ったからよかったようなものの! 殺されてたらどうすんだッ!」
JK「す、すみません……」
女「ヒヒヒ、店長が怒るなんて珍しいねえ」
男「だけど……本当に間一髪だったよ。怪我がなくてよかった」
JK「だけど……だけど! 私も……テロなんて許せない! 平和を守りたい!」
JK「店長さんは……いじめられてた私を……助けてくれました」
JK「だから私も……店長さんの力に……なりたいんです……!」
店長「…………」
店長「分かった……。ここまできたら最後まで協力してもらおう」
JK「は……はいっ!」
女「じゃあ次は、逃げたリーダー捜しをしなきゃね。鬼ごっこ開始だわぁ」
男「あいつが組織のトップだから……絶対捕まえないと」
店長「いや、俺はあのリーダーの上にさらに“黒幕”がいると見てる」
男「え?」
店長「薬や漫画本を配って、蝕むように若者をテロリストにしようとする手口……」
店長「このアジトの連中が思いつけるとは、どうしても考えにくい」
女「もっと頭のいい奴が仕切ってるってわけね?」
店長「おそらくあのリーダーは今、“黒幕”に会いに行ってるはずだ」
店長「となれば、黒幕は必ず動きを見せる。そこをすかさず――」
JK「今すぐ黒幕を突き止める方法、ありますよ」
店長「?」
JK「私、発信器になってるポイントカード……あのリーダーさんのポケットに入れちゃったんです」
リーダー『どけっ!』ドンッ!
JK『きゃっ!』
店長「あ……!(あの一瞬で……!)」
JK「だから、行方を追うことができます!」
店長(俺はもしかして……とてつもない女の子を発掘したのかもしれないな)
……
<公園>
夜、対峙する二人の男。
リーダー「…………」
「どういうつもりだ? こんなところに私を呼び出して」
リーダー「申し訳ありません……」
リーダー「実はアジトを急襲されまして……。私の部下は壊滅してしまい……」
リーダー「今後どうすればいいか、ご指示を……」
「ほう」
月明かりが、黒幕の姿を照らし出す。
評論家「公安か?」
リーダー「いえ、公安ではありません。ナイフやら毒ガスやらを使いますし……」
評論家「そういえば、聞いたことがある。独立して遊撃隊のように振る舞うエージェントがいると」
評論家「そいつに尻尾を掴まれたのかもしれんな」
リーダー「も、申し訳ありませんっ!」
店長(黒幕は……教育評論家だったか!)
JK(ウソ……あの人がテロ組織を操っていたの!?)
JK「なぜ、あの人が……」
店長「そうか、やっとあの回りくどい工作の狙いが分かった」
JK「え?」
店長「中高生を刺激して銃を配ってたのは、将来のテロリスト育成のためなんかじゃなかったんだ」
店長「たとえば、銃を渡された彼らがそこかしこで発砲事件を起こしたらどうなる?」
店長「仮にすぐ鎮圧されたとしても、人々のショックは大きいだろう」
店長「当然、今の青少年教育は間違ってる、という方向に世論は動いていく」
店長「そこで今をときめく教育評論家が立ち上がったら、おそらく皆が熱狂的に支持するはずだ」
店長「そうなれば……」
JK「権力を握ることも可能……!」
店長「このシナリオを描いて、奴はテロ組織と繋がったんだろう」
評論家とリーダーの話は続く。
評論家「……まぁいい」
評論家「すでに私はテレビ出演や講演、さらにはネットでの活動によって」
評論家「大勢の支持者を獲得している。今の段階でも計画発動は十分可能だ」
リーダー「おっしゃる通りです!」
評論家「一刻も早く、手懐けた若者たちに事件を起こさせろ」
評論家「そして、私が表の権力を握り……この国を教育し直してやる」
リーダー「かしこまりました!」
評論家「だが……」スッ…
懐から教鞭を取り出す。
評論家「左手を出せ」
リーダー「…………?」
バチィッ!
教鞭が左手を打つ。全ての爪がはじけ飛んだ。
リーダー「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
評論家「今回の失態の制裁だ。次はないと思え」
店長「…………」ジワ…
JK(店長さんが冷や汗を……!)
店長「俺の見通しが甘かったな」
店長「あの評論家は“テロ組織と繋がってる”んじゃなく“テロ組織のボス”だったんだ」
店長「さっき俺たちが潰したアジトは、支部とか下請けみたいなものに過ぎない」
店長「しかも、奴自身が相当の使い手だ」
店長「たとえるなら、大量に出た夏休みの宿題を――」
店長「“毎日コツコツやって完璧に仕上げる”も“全くやらず教師を脅しチャラにする”も両方できるタイプ……」
JK「…………」ゴクッ
店長「一度コンビニに戻ろう」
<コンビニ>
店長「もう一刻の猶予もない」
店長「奴らは息のかかった中高生に事件を起こさせるだろう」
店長「それを防ぐには、もう元凶を叩くしかない」
男「ということは……」
店長「明日奴のいるビルに攻め込む。攻め込んで、あのリーダーと評論家を叩きのめす」
店長「二人とも、よろしく頼む」
男「分かりました」
女「ヒヒヒ、総仕上げってわけね」
JK「私も行きます!」
店長「気持ちは分かるが、今度こそダメだ。テロ組織の巣に乗り込むんだからな」
JK「絶対足手まといにはなりません!」
JK「それに、私の手指が……うずいてしょうがないんです。“悪い人の企みを万引きしろ”って」ウズ…
店長「ふぅ……もういくらいっても聞かないだろうな」
JK「はい、聞きません」
男「初めて万引きした時の、あのオドオドさがウソのようだね」
女「もうこの子も私たちの立派な仲間よぉ」
店長「分かった……。ただし、俺と一緒に行動してくれ。絶対離れるな」
JK「はいっ!」
<家>
母「このところ、なーんかあんた成長したわよね。顔つきが変わったっていうか」
JK「そうかな?」
母「あ、お父さん、顔にご飯粒が――」
父「え、ホントか」
JK「はい、取ったよ」
父「いつの間に!? あ、ありがとう」
母「全然見えなかったわ」
JK(指は絶好調……今の私ならなんでも万引きできる)
JK(お父さん、お母さん……私、この国を守るからね!)
次の日――
店長たちは、評論家のいるビルを見据える。
店長「≪教育ビル≫だってさ。立派なもんだな」
男「講演や出版、動画配信など、評論家のやってる事業は全てここで行ってるようです」
女「まさか、ここにテロ組織の親玉がいるなんて誰も思わないでしょうねえ」
JK「…………」ゴクリ
店長がビルを観察する。
店長(入口は一つ……人通りも多い……。こっそり侵入ってのはかえって目立つな)
店長「普通の会社のように受付があるようだ。正面から入れるところまで入ろう」
<教育ビル>
受付嬢「いらっしゃいませ」
店長「評論家さんにお会いしたいのですが」
受付嬢「アポはおありですか?」
店長「いえ、ないんですが……」
受付嬢「それでしたら、お取り次ぎすることはできませんね」
店長「でしたら、ビル内を見学させて頂くことは……」
ヒュッ
受付嬢がナイフを繰り出してきた。
ガシッ!
受付嬢「くっ!」
店長が首を絞める。
グググ…
受付嬢「うぐぅ……」ガクッ
失神させる。
店長「ふぅ、焦った」
JK「こんな美人の女性がナイフを……!」
店長「どうやら、俺たちみたいなのが来るってのは敵も読んでたようだな」
ビル内の構成員が駆けつけてきた。
ザザザッ
構成員A「貴様ら、何者だ?」
店長「あーあ、こうなっちまったか……。こうなったら強行突破しかないか」
男「はい!」
女「ワックワクしてきたわねえ」
JK「…………」
店長「怖いか?」
JK「怖いです。でも……負ける気はしません!」
店長「いい返事だ」
構成員A「侵入者は……死あるのみ!」ダッ
男「悪いけど、まだ死にたくないよ」
ザシュッ!
構成員A「うぐぁっ!」ドサッ…
男「そこっ!」
シュバッ!
構成員B「ぐおおっ……!」
手足を傷つけ、的確に戦闘不能にしていく。
女「ヒヒヒ、あんただけいいカッコさせないわぁ」
女「さらに強力になった、ポイズンボール!」ポイッ
ボワンッ! モクモクモク… モワモワモワ…
「うげぇぇぇっ!」 「ガハッ!」 「ゲホゲホッ……!」
女「ここはあたしらに任せて!」
店長「ああ……任せた!」
店長「俺らは評論家のところへ向かおう」
JK「はいっ!」
タタタッ
店長「……ん」
店長「ここから先はカードキーがいるみたいだ……」
店長(仕方ない。壊すか、誰かから調達するか……)
JK「さっき、どさくさに紛れて構成員の人から、カードキー抜き取っちゃいました!」サッ
店長「いい仕事してますねえ!」
ウイーン…
カードキーでさらに奥へと進む二人。
構成員C「いたぞーっ!」
店長「そりゃっ!」シュバババッ
グサササッ
構成員C「ぎゃあっ!」
JK「何を投げたんです?」
店長「焼き鳥の串。コンビニから持ってきた」
JK「前もホウキで戦ってましたけど、どうして男さんみたいにナイフで戦わないんです?」
店長「長年コンビニやってたら……どうもコンビニにある物で戦う方が上手くなっちゃってさ」
JK「フフッ……店長さんらしい!」
タタタタタッ…
構成員D「くそっ!」サッ
店長「!」
JK(銃!)
サッ
すかさず奪い取る。
JK「これなーんだ」サッ
構成員D「な……! いつの間に……!?」
JK「えーと、ここを引けば弾が出るんですよね?」
構成員D「わっ! 撃たないでぇぇぇッ!」
JK「バン!」
構成員D「あうぅぅ……」ガクッ
JK「撃つわけないでしょう」
店長「あうぅぅ……」
JK「なんで店長さんまでビックリしてるんですか!」
一方、その頃――
女「およ? 見たことある顔が来たわよぉ……」
男「……うん」
リーダー「会いたかったぞ」
リーダー「お前らのせいで、俺の左手はこんなにされちまった……」
包帯が巻かれた左手を見せる。
リーダー「二人とも……切り刻んでやるッ!」
殺気に満ちた目で、ナイフを取り出す。
男「ここは……僕がやる。下がってて」
女「分かったわぁ」
男「僕からもいっとくけど……」
リーダー「?」
男「こっちこそ会いたかった! 今度こそお前に勝つッ!」
リーダー「ほざけ……!」
ババッ!
二人同時に動いた。
ナイフ使い同士の戦いが始まる。
……
コーヒーのマドラーを鼻の穴に差し込む。
店長「お前らのボスはどこだ? 吐かないとこれブッ刺す」
構成員E「あ、あっち……だ……」
店長「ありがとよ」グサッ!
構成員E「あ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
JK(痛そう……!)
店長「この部屋に評論家がいる……入ろう」
JK「はいっ!」
評論家の部屋――
評論家「ようこそ」
店長「本丸まで攻め込まれたのに、ずいぶん余裕だな」
評論家「あのアジトを潰された時点で、こうなる可能性も予期していたからね」
評論家「それに私は、こういうドンパチも嫌いじゃない」
評論家「成績はオール5を取りつつ、喧嘩でも無敗。そんな少年時代を過ごしたのでね」
店長「…………」
JK「あ、あのっ……!」
評論家「ん?」
JK「どうして……どうしてテロなんかを?」
JK「あなたなら真っ当な方法で、人々を変えることもできたはず!」
評論家「講演や動画配信などで、人が変わるなら、誰も苦労はせんよ」
評論家「それに教育者にとって、一番気持ちいい瞬間はなにか分かるかい?」
JK「いえ……」
評論家「答えは、大勢の生徒の前に立って、教育を施す時だ」
評論家「私はね、この国の国民を丸ごと教育したいんだ」
評論家「そして……皆を厳しくしつけ、この国をよりよい国に変える」
評論家「私なら……それができる!」グッ
JK「…………!」
店長「理想の教育を追い求めるうち、頭のネジがぶっ飛んじまったみたいだな」
店長「もし仮に……百歩譲って、お前にこの国をよくする力があるとしよう」
店長「だとしても、若い奴たぶらかして踏み台にするなんてやり方なら、よくならない方がマシだ」
店長「お前は教育者なんかじゃない……≪狂育者≫だ」
店長「平和を愛するコンビニ店長として、お前を倒す」サッ
ホウキを取り出す。
評論家「コンビニ店長か……。まあ、そういうことにしておこう」
評論家「久しぶりに骨のある相手に出会えて嬉しいよ」
評論家「だからこそ骨の髄まで教育してあげよう」ジャキンッ
教鞭を取り出す。
JK(ホウキと教鞭なのに……息が苦しくなる緊張感……ッ!)
男vsリーダーの対決――
ザシュッ……!
男「ぐっ……!」
リーダー「やはり俺の方が一枚上手のようだな」
リーダー「それにお前、どうせ人を殺したことがないんだろう?」
リーダー「お前の攻撃からは、まるで殺意がないからな!」ビュオッ
男「くっ!」
リーダー「命を奪う覚悟もない者が、ナイフなど持つなッ!」シュバッ
男(たしかに……僕は人を殺したことはない……)
男(なぜなら……店長はなるべく僕にそうさせないような戦い方を教えてくれたから……)
リーダー「死ねえッ!」ダッ
男(だけど――)
リーダー(頸動脈を!)ビュオッ
男(だからこその強みもある!)バッ
リーダー(かわした!?)
男「あんたの攻撃は……急所ばかり狙ってくるから読みやすい……」
リーダー「…………ッ!」
男(昔は妹のため……そして、今はこの国のため……)
男(刃を振るうッ!)
ザシィッ!
足を切り裂く。
リーダー「ぐあっ!?」
リーダー「うぎゃぁぁぁぁぁ……っ! あぐぁぁぁぁぁっ……!」
激痛にのたうち回るリーダー。
男「僕は殺さない……だけど無事にも済まさない」
女「やったわねえ」タッタッタ
女「だけど傷だらけ。今、薬塗ったげるわぁ」
男「ありがとう……」
女「ほらほら」ヌリヌリ
男「~~~~~~!」
男「もっと優しくやってよ……」
女「ヒヒヒ、我慢なさいよ。だけどかっこよかったわよぉ」
男「う、うん……」
男「あとは……店長とあの子次第だね」
評論家の部屋――
店長「はあっ!」
評論家「シイイッ!」
ガキィンッ!
評論家「この感触……やはりホウキに鋼鉄でも仕込んでるな」ミシミシ…
店長「そっちこそ、教鞭というかもはや特殊警棒だろそれ」ミシミシ…
評論家「死ななければ分からないバカを教育するには、これぐらいの教鞭が一番いいのさ」
ギィンッ!
評論家「そらそらそらっ!」ビュババババッ
目にも止まらぬ速さで教鞭を振り回す。
店長「…………ッ」ギギギギンッ
それを全て、ホウキではねのける。
JK(ものすごい戦いだわ……!)
評論家「なるほど、出来るな……」
評論家(だが、これはどうだ!)バッ
右手の教鞭を、左手に持ち替えてからの一撃!
ズドォッ!
評論家「ぐ、は……ッ!」
ホウキの柄が、ノドにめり込んでいた。
店長「残念だったな」
店長「どこぞの女子高生の万引きの方が、よっぽど読みづらい」
JK「店長さん……!」
評論家「…………」ニヤ…
店長「?」
評論家が、教鞭の先端を店長に向ける。
すると――
パァンッ!
店長「ぐっ!?」
店長の右肩に、焼けつくような痛みが走る。
店長「ぐあああっ……!」ドザッ
JK「店長さぁん!」
評論家「この教鞭は、弾丸を発射できるようにもなっていてねえ」シュゥゥゥ…
評論家「とっておきの体罰だったが、私にこれを使わせたのは君が初めてだ」
店長「ぐ……!」
JK(店長さんが……殺されちゃう!)
JK(私が……あの教鞭を奪えば……!)ダッ
評論家「!」ピクッ
評論家「甘いッ!」バシッ!
JK「きゃっ!」
評論家「安心したまえ。彼にトドメを刺したら、すぐ君の番だ」
店長「トドメ……? ずいぶん気が早いんだな」ヨロ…
JK「えっ!?」
評論家「まだ動けるのか……」
店長「知っての通り、コンビニの業務はハードワークだ」
店長「銃で撃たれたぐらいで参ってちゃ、コンビニの店長は務まらないんでね」
評論家「だったら……もう一発喰らわせてやろう」サッ
評論家「今度は地獄で開店するんだな」
グササッ!
評論家「ぐあっ……!?」
手に突き刺さる焼き鳥の串。
店長「コンビニにだって、飛び道具はあるんだぜェ!」
飛びヒザ蹴りが――
ガゴォッ!!!
評論家の顎を捉えた。
評論家「こ、の……っ!」ブオンッ
メキィッ!
店長の肋骨が折れる。
店長「骨折ったぐらいじゃ……コンビニ店長は倒せない……」ゲフッ
評論家(こいつ……怯まない!)
店長「最後は……挨拶で決めてやるよ。コンビニらしくな」ガシッ
評論家「や、やめ……!」
店長「ありがとう……ございましたァ!!!」
ゴッ!!!
渾身の頭突きが炸裂した。
評論家「ぐはぁ……っ!」ドザァッ…
JK「や、やった!」
評論家「ぐ……動けん……」
評論家「どうやら……この一対一は……私の負けらしい……」
評論家「だが、まだ終わっては、いないぞ……」
店長「……なんだと?」
評論家「察しはつくだろうが……このビルには……当然……」
評論家「武装蜂起も可能なよう……多くの武器・爆薬が隠されて、いる……」
評論家「私はそれを……全て起爆させるスイッチを持っている……。肌身離さずな……」
店長「……なに!?」
評論家「それを押せば……間違いなく、このビルは倒壊……余波で数百人は死ぬ……」
評論家「この堕落した日本に……体罰を加えるには……十分な死人だ……」ゴソ…
店長「くそっ! やめ――」
評論家「――――ッ!?」
評論家「ない!? 起爆スイッチが……どこにも……!」
店長「……え!?」
JK「スイッチは……ここですよ」
評論家「……へ」
JK「さっき教鞭を奪い損ねた時、懐に怪しいスイッチを見つけたから、こっちを盗ったんです」
評論家「な……なんだとォォォォォ……!?」
店長「君を連れてきて……本当によかったよ……」
……
店長「証拠は押さえたし、まもなく警察の連中がやってくる。さあ、観念しろ」
評論家「…………」
JK「評論家さん……」
評論家「……ん?」
JK「あなたのやったこと……やろうとしたことは……許されることじゃないけど……」
JK「あなたの言葉や動画からは、勇気をもらいました」
JK「だから……ありがとうございました」
評論家「…………」
評論家「この国にも……逞しい子が育っていたようだ」
評論家「いや、君の他にもきっと大勢……」
評論家「私は……余計なことをしようとしたのかもしれんな……」
JK「…………」
店長「…………」
その後、警察によって、≪教育ビル≫からは大量の弾薬が押収され、評論家率いるテロ組織は壊滅した。
既にばら撒かれた銃についても、警察の捜査は進み、回収されていくこととなる。
………………
…………
……
<コンビニ>
後日、イートインスペースで打ち上げする店長たち。
女「ヒ~ッヒッヒ、テロ組織を壊滅させて食べるフライドチキンはおいしいわねえ」モグモグ
男「いつもと同じ味だけど」ムシャムシャ
女「つまんない男!」
店長「久しぶりの大仕事だったよ」
JK「傷はもう……大丈夫ですか? 撃たれたり、殴られたりしてましたけど……」
店長「ああ、問題ない」
JK「よかった……」ポンッ
店長「ぐわああああああああああ!!!」
女「ところで、今後はどうするの?」
JK「もちろん、皆さんのお手伝いは続けます。ただし、受験勉強もしながら……」
女「ヒヒヒ、二兎追うってわけね。大丈夫ぅ?」
男「だけど、君ならやれると思うよ」
JK「いいですよね? ……店長」
店長「ああ……もちろんだとも。大学から正々堂々“合格”の二文字を万引きしてみせろ!」
JK「はいっ!」
……
ギャル「勉強はかどってます?」
JK「うん、まあね」
ギャル「お姉様なら、絶対志望大学に入れますよ!」
JK「ありがとう!」
キャッキャッ
不良「どうしてこうなっちまったんだか……」
~
女「理系はあたし得意だから、教えるわよぉ~」
JK「ホントですか!」
男「僕、歴史は得意だよ」
JK「ぜひ!」
店長「イートインは好きに使っていいからね」
JK「ありがとうございます!」
JK「よーし、絶対合格するぞ!」
……
……
ウイーン…
店長「いらっしゃ――」
JD「こんにちは!」
店長「おおっ!」
男「そういえば、今日が入学式だっけ?」
JD「はい、そうなんです!」
女「メイクも大人びてるし、ヒヒヒ、大人の女に一歩踏み出したって感じねえ」
店長「綺麗に……なったね」
JD「嬉しいです!」
店長「じゃあ今日は俺のおごりだ。このアメリカンドッグをプレゼントしよう」
店長「ただし、俺に気づかれずに盗れるかな?」
JD「ありがとうございまふ」モグモグ…
店長「えええええ!?」
男「一瞬で……!」
女「ヒヒヒ、ますます指に磨きがかかってるわねぇ」
店長「んじゃ、今日は店じまいして、入学祝いにパーッとやるか!」
JD「え、いいんですか!?」
店長「かまわないよ。さ、閉めた閉めた。どうせ客来ないし」
男「いいのかなぁ……」
女「ま、いいんじゃなぁい? 日本に一軒くらいこんなコンビニがあっても」
JD(大学生になってもやることは変わらない……)
JD(私は店長さんたちと一緒に、これからも悪い人たちの野望を万引きしてみせる!)
~おわり~