オレの神様としての能力。
人間に「なにか」を与える。
その代わりに「なにか」を奪う。
与えたものと、同じ価値の対価をもらう。
その能力を使って、オレは人間に干渉すればいいらしい。
……別に干渉しなくてもいいらしい。
ヒマだし、人間はわりと面白いし、オレは度々人間に接触しては遊んでいた。
……
「動物に好かれる力が欲しい」
「なんだって?」
目の前に寝そべる少年。
なんだか、ただ物でない雰囲気があるけれど、願ったものは可愛らしいものだった。
「動物たちとね、会話がしたいの」
「そりゃあまた難しい願いだな」
会話か……動物が寄ってくる能力とはまた別物だ。
同時に二つは与えられない。
「会話がしたいか? それとも好かれたいか?」
「んー」
少年はしばらく考えた後、「動物に好かれる力」を願った。近くの動物は寄ってくるようになる。
「会話できても、動物が寄ってこないと意味ないよね」
「ぼく、たぶん、動物に嫌われてるからさ」
「会話だけできても、悪口言われるだけかもしれないし」
確かに。
小さいのによく考えているやつだ。
「『よう人間の出来損ない! 俺様の視界に入るんじゃねえ!』とかネコに言われたら立ち直れないよ」
ああ、それはつらい。
泣くかもしれない。
その能力に対して、オレが奪う対価は「足のにおい」だった。
つまり単純に、足が臭くなる。
「お父さんと同じ感じ?」
「お父さんが3日足を洗わなかったにおいが、常に足からする」
「うげ」
「まあ、しっかり靴を履けばマシになるんじゃねえか」
少年を慕って寄ってきた動物たちが、足のにおいに悶絶するのは可哀そうだ。
「靴……苦手だけどちゃんと履くことにするよ」
少年は裸足が好きだった。
いつも裸足で走り回っては、動物たちを追いかけ回していた。
だけどなぜか、動物たちは彼を避けていた。
それが今日から、変わるのだ。
オレが手をかざすと、少年に「動物から好かれる」能力が与えられた。
と同時に、足のにおいが臭くなった。
地獄みたいなにおいが足元からする。
オレはとっさに呼吸を止めた。
「うぇっほ!! オエ!」
少年自身も自分の足のにおいに絶望していた。
「目に来る!!」
のたうち回っている。
においをマシにする草とか探してきてやろうか。
あれはさすがに可哀そうだ。
と、ウサギが一匹、彼のもとへ近づいてきた。
口をもぐもぐさせながら、悶絶する少年に身体をこすりつけている。
「あ、あれ? どうしたの? 臭くないの?」
少年は自分のにおいに苦しみながら、初めての体験に嬉しさを隠せないようだ。
ウサギはなおも少年のそばを離れない。
試しに少年が足を向けてみたが、一向に離れていかなかった。
「あ、あはは、あははははは。嬉しい! こんな近くに動物がいるなんて!」
彼は心から嬉しそうな表情を見せてくれた。
オレはその顔を見て、満足することができた。
こうして、動物には好かれる一方、人間がまったく近寄ってこない少年が出来上がった。
逆のものを奪ったという点で、やはり「対価」と言える。
しかし少年はまったく満足そうだったし、オレはそれで十分満足だった。
オレは人間がなにを欲しがっているか、観察して、想像した。
予想通りのこともあれば、まったく見当違いのこともあった。
だがそれが面白かった。
人間は、オレを退屈させなかった。
……
あるとき、欲しいものを尋ねたらこう答えたやつがいた。
「誰もが羨む野球の才能が欲しい。ただそれだけが欲しい」
その男は目をギラギラさせて、居酒屋でオレに語った。
小さいころから努力して努力して、血のにじむ努力をしてきた。
誰にも負けない情熱がある。野球を好きだという気持ちがある。
だけどそれだけじゃあどうにもならないのだ、と。
「でもアンタ、プロ野球選手になったんだろ? 才能、あるんじゃないか」
プロになれない人たちが、いったいどれほどいるというのか。
「なれただけじゃ、ダメなんだ」
男は大きく肩を落とした。
「プロは化け物どもの世界だ。俺なんかが割って入れる余地はねえ」
「二軍ですら、俺の活躍の場がねえ」
「だから……他のなにを失ってもいい……野球の才能が欲しい……」
男はそう言って、酒をあおった。
「へ……今年の冬にゃあ戦力外だよどうせ……心が折れちまいそうだ……」
頭を掻きむしってうつむく。
まだ若いのに。
野球の世界は厳しいようだ。
オレはこの男に野球の才能を与えることにした。
「野球の才能って言っても、様々だろう? 打撃、守備、走塁、投球」
「そっからさらに細分化されるだろう? 直球の質とか、コントロールとか、鋭い変化球とか」
「アンタはなにが欲しいんだ? そもそも守備位置は? ライバルに勝つには何の能力が必要だ?」
急に具体的な話になったものだから、男は多少訝しんでいたが、オレの質問に答えてくれた。
「俺は外野手だ。守備力は平凡。肩も普通。外野手が天下を取るためには、突出した打撃力がいる」
「ああ、まあ、走塁もありだが、俺が目指したいのは打撃の神様だ」
「パワーはないわけじゃない。だがバットに当たってくれないんだ」
「球が見えてないわけじゃないんだが、バットがきっちり当たらねえ」
「そうだな、あえて言うなら、欲しいのは『コンタクト力』だな」
ボールにバットをぶつける能力。
簡単そうで、やはり難しいらしい。
「速い球、動く球、落ちる球、伸びる球……どんな球が来ても、きちんとバットに当てられる能力」
「そんな力が俺にあれば、打撃で天下を取ってやれるのに……」
面白そうだ。
この男が天下を取るところを見てみたい。
能力の成果をすぐに実感できるところと言えば……
「おいアンタ、今からバッティングセンターに行くぞ」
酒でフラフラしているが、男のバットを握る力は弱くなかった。
「いいフォームしてるじゃないか、様になってる」
「そりゃあ、腐ってもプロだからな」
「とはいえ、ミスショットも多いな」
「だから言ってんだろ!」
スパァン!!
気持ちの良い音が響く。
だが、空振りこそないものの、打ち上げたりボテボテだったり、ミスショットが多かった。
「酒のせいか?」
「もともとだバーカ!!」
ボテッ
改めてオレは説明した。
欲しい力をなんでもあげられると。
その代わり対価をもらうと。
男は半信半疑で、うなずいた。
「コンタクト力さえあれば、俺は天下を取れる」
その目は死んでなかった。
戦力外を黙って待つ弱い男ではなかった。
挑戦する男の目だった。
オレは手をかざした。
カッキィーーーーン!!
『行ったぁああー!! 文句なし!! サヨナラホームラン!!』
『レフトは茫然! 一歩も動けません!』
『今季これで10号ホームラン!! しかし恐ろしいのは、彼が1軍登録されてからまだ1か月だということです!!』
『突如打撃覚醒した××選手! まだ優勝を諦めていません!! ファンもお祭り騒ぎ!!』
『今ホームベースを……踏んだ! サヨナラ!! チームメイトが水をかけます!』
テレビの向こうでは、実況と解説者が感情を抑えきれない様子で、打った男を讃えている。
『いやあ、これまでの不甲斐ない成績に心労が溜まっているとも噂されていましたが……』
『見事に覆しましたね!』
『もともと練習に手を抜かない真面目な選手でしたが、2軍でくすぶる時期が長く、戦力外通告もそう遠くないと周囲に漏らしていました』
『そこから突然の打撃開眼、二軍で打ちまくり、一軍に呼ばれてからも打ちまくっています』
『努力が実を結んだんですね!』
『ええまったく。これからも活躍に期待したいですね』
ヒーローインタビューが始まった。
あの男の人生に、初めてスポットライトが当たっている。
しかし彼はこれで満足しないだろう。まだ挑戦者の目をしている。
チームを優勝させて、日本一になって、常勝チームにして、契約更改で高学年棒を勝ち取って……
まだまだ、そんな野望を抱いている。目も、未来も、光り輝いている。
『帽子を取って観客の声援に応えています! 眩しい拍手……失礼、激しい拍手に包まれています!!』
その頭も、誇らしげに光り輝いていた。
17 : 以下、名... - 2020/04/29 22:30:31 nPAva3e2 17/111明日は殺し屋少女が登場します ノシ
……
「なんで死なないのよ」
その少女は茫然とオレを見つめていた。
人間の道具なんかでオレが死ぬわけがない。
「で? 欲しいものは? お嬢ちゃん」
オレにはなんだかよくわからない重そうな銃を床に向けて、殺し屋の少女は苦笑しながら言った。
「急所を確実に撃ち抜く能力」
そして、オレの眉間をもう一発撃った。
パァン!!
威勢のいいお嬢ちゃんだ、気に入った。
この町の一番大きなマフィアに雇われている殺し屋。
銃の扱いがうまく、しかも見かけがまだ幼い女の子なものだから、相手もつい気を抜いてしまうらしい。
オレはそんな少女に興味を持ったので、部屋に無断で入り込んでみた。
気さくに欲しい能力について尋ねてみたら、一瞬でハチの巣にされた。
とはいえ、オレは神様だから人間の道具なんかでは死なない。
血が出たふりとか死んだふりはできるが、それじゃあ話が進まない。
突っ立ったまま話を続けたら、ちょっと信じてくれたみたいだ。
「お嬢ちゃん、腕利きの殺し屋なんだろ? そんな能力、もう持ってるんじゃないのか?」
「……そうね、確かに」
「気配を消す能力とか? 望むなら透明人間にするなんてのも可能だぜ」
「いやよ、気持ち悪い」
「河童とかビッグフットにもなれるぜ?」
「河童ってなに!?」
「東の果ての島国の妖怪だ」
「なにそれ、おもしろそう!」
透明人間が気持ち悪くて河童が面白そうってのは、斬新な意見だ。
「痛みを感じない身体とか、とんでもないジャンプ力とか」
「そういうのもいいわね」
「地面に触れたらお花が咲く能力とか」
「いらない」
「暗闇で標的を見つける能力とか」
「すごいそれ欲しい」
「手からケーキが出てくる能力とか」
「ふざけんなビックリ人間か」
しばらく喋って意気投合したオレたちは、マフィアのボスのところへ挨拶しに行くことになった。
「わたしのボディガードってことにするから」
「そうすれば好きな期間、ここにいられるわ」
「へんなことを喋らないこと」
「まして神だとか言わないこと」
「寝返りそうだ、信用できないとボスが思えば、受け入れてもらえないから」
「それで、わたしになにを言われても、なにをされても、動じないこと」
「優秀な盾だと思ってもらえたら、ここの出入りは自由になるはずよ」
楽しそうだ。
やはり人間は、オレを退屈させない。
「ボス、わたし、こいつを飼うことにするから」
オレはペットか。
そう思ったが、黙って突っ立っている。
しっぽでも振ってやろうか。今は人間の姿をしているが、犬にもなれるし、犬と人間の中間にもなれるんだぞ。
大きなデスクの向こうの男が、ゆっくりとこちらを向く。
ザ、悪役! って感じの怖い顔の男だ。
タヌキから愛嬌を抜いて血を青くしたような顔をしている。
「とてもタフで、わたしの盾になってくれそうだから」
「食べるものは、わたしのを半分あげるし」
「だからここに置いてもいい?」
「……何人だ?」
ボスがゆっくりとこちらに近づきながら問うた。
「アジア系か? その割には金髪だが」
オレはたどたどしく答えた。
「オレ、行くとこ、ない」
「自分が何人かも、知らない」
もっと身なりを汚くしとくんだった。
「オレの命は、この、お嬢に助けられた」
「だからお嬢を守る盾になる」
「……いいか?」
上手くできただろうか。アドリブだが。
お嬢ちゃんは隣で凛としている。
「……部屋は」
「わたしの部屋の片隅に住まわすわ」
「お前にずっとついて回んのか」
「……たぶん」
「……へっ、拾われたガキが犬を拾ってきやがって」
ボスは後ろを向いた。
「好きにしろ」
許しをもらえたようだ。
そっと隣に目をやると、お嬢ちゃんも嬉しそうだった。
しかし、神たるオレが犬呼ばわりされるとは。
まあ、シャレが利いてていいかもしれない。
「お嬢ちゃんも拾われっ子なのか」
部屋に戻って、オレは彼女に尋ねてみた。
「そうよ、もう覚えてないけど」
ずいぶん昔、教会に届けられた赤ん坊の一人らしい。
ボスは哀れに思って、引き取ったそうだ。
マフィアに入れるなんて、と教会は反対したが、「じゃあ、お前ら育てられんのか」というボスの一喝で引き下がったらしい。
教会はもう孤児でいっぱいだったのだ。
そんなふうにして引き取られてきた子どもが、ここには何人かいる。
お嬢の与えられた小屋のほかに、何軒も同じような小屋が立っている。
ボスはああ見えて子ども好きなのかもしれない。
「そんなわけないでしょ」
「ここにはマフィア同士の争いで命を失った子どももいっぱいいるんだから」
「わたしなんて長生きな方よ」
「爆薬をお腹に巻いて抗争の最前線に立った子もいるわ」
「そういう子たちはみんな裏の墓地に眠ってるの」
ひどいな。
こんな小さな町の権力争いに、なぜそこまでしなければいけないのか。
まったく理解できない。
まあ、だからこそ人間は面白いのかもしれないが。
「ボスは非情よ」
「でもね、命令はしないの」
「匂わすだけなの」
「それで、命を懸けて動く部下が、ここにはたくさんいるのよ。子どもも含めて」
わたしもだけどね、と彼女は自虐的に笑った。
親子以上、年の離れたボス。それは彼女にとって父親以上の存在なのだろう。
そのボスにとって大切な存在になるため、殺し屋として優秀で在らなければいけないのだろう。
どんな力が欲しいかとか、そういうことを少し保留して、オレは彼女の盾となった。
いや、犬となった、という方が正しいか。
しばらく退屈しなさそうだ。
31 : 以下、名... - 2020/04/30 22:42:47 088qm5s6 29/111ここから神と殺し屋のお嬢のお話です ノシ
……
ある日、彼女に仕事が舞い込んできた。
「ドッグ! 見せ場よ!」
オレはあれからドッグと呼ばれている。
あくまで愛称だ。そう思えば、悪くない呼び名だ。
「敵側と通じ合ってるバカがいるみたいでね」
「なんにも知らないふりして、密会現場を押さえるの」
「抵抗したらまとめて射殺」
「わかった?」
わからない。大雑把な作戦だ。
「わたしに影のようについてきたらいいから!」
夜。
街灯もなく真っ暗な裏路地を、彼女について歩く。
彼女はさすがに腕利きの殺し屋と言われているだけあって、足音の殺し方もうまかった。
オレはオレで、わずかに地面から浮きながら「歩いているふり」をするだけで、まったく音を立てずに移動することができる。
頑張れば、音を立てずに彼女と意思疎通をすることもできる。
まあ、これだけ離れていたら少々の物音には気づかれないだろう。
「ずいぶん歩くわね」
標的の男はずいぶん長い距離を歩いていた。
敵のアジト(と言ってもたくさんあるそうだが)に近いのではないだろうか。
大丈夫か?
やがて、標的は大きな倉庫に入っていった。
同じように入り込んだらバレバレだ。
できれば近くまで行って盗み聞きをしたいところだが。
「透明人間になってみるか?」
オレはそう提案してみた。
この場で役に立つ能力だ。
いや、これから殺し屋を続けるにはもってこいの能力だ。
「デメリットは?」
「人間に戻れないこと」
「却下!!」
「あと、平衡感覚が鈍くなる」
「つまり?」
「いつも酔っ払ったみたいにふらふらする」
「却下却下却下!! 仕事にならないわ!!」
しかし、ここでいつまでもうだうだしている余裕はない。
なんとか入り込んで話の内容を聞き出したい。
そして密会している相手の顔を拝んで、証拠を……
「ねえドッグ、あんただけ先に入り込んだらいいじゃない」
確かに!
「カメラを預けるからさ、話を聞きとって、証拠を撮って、それで堂々と出ておいでよ」
「抵抗しているようなら、あいつらが出てきたところでわたしがぱぱーんと」
完璧!
オレは音もなく壁をすり抜け、雑多なコンテナの陰に隠れることができた。
隠れるものが何もないような倉庫だったら、最悪耳だけでも突っ込もうかと思ったが、案外ものがあるもんだ。
オレ自身が透明になってもいい。オレはちゃんと神様に戻れるし。
倉庫の中心には二人の男がいた。
片方は、先ほどオレたちが追いかけていた、痩せた若い男。
下品なにやけ面は、なんだかハイエナみたいだ。
もう一人は見たことがないが、おそらく敵側のマフィア。
小太りでアロハシャツで、夜なのにサングラスをかけている。フクロウみたいな男だ。
「……が……だけ……こして……」
「……大量に……こまれ……」
「港……はや……わ……」
ぼそぼそとした喋り声だったが、オレの耳にはすべて届いていた。
つまり、こういうことらしい。
ウチのグループが今度大きな取引をすると。
取引相手は港で朝早く(夜遅く?)に船でやってきて、こちらは車で金を運ぶと。
そこで大量の武器を仕入れる、つまり今後争いが激化しそうだと。
その取引に、ウチの大多数が出るから、ボスが出ないならガードが手薄だし、ボスが出るならアジトが手薄で荒らせるチャンス、と。
なるほど、チンピラもいろいろ考えるんだなあとオレは感心していた。
この場でこいつら二人をつるし上げるのもいいが、しかし、よりウチのグループに貢献できる方法はないかと考えてみた。
というか、あのお嬢のためになる方法……
「あら、なんだか静かに出てきたわね」
「お嬢、ちょっと隠れよう」
お嬢を連れて物陰に隠れ、オレは聞いたことを伝えた。
残念ながら写真は撮っていない。しかしここで二人を潰すより、いい方法があるとオレは考えていた。
「泳がすってことね?」
「そう、あえてボスを手薄にしたアジトに残し、迎撃する」
「取引は?」
「そっちはそっちで普通に進めればいいさ。そして、ボスが残るらしいという情報を、あの痩せたハイエナっぽい男に流す」
「でも襲われるとわかっててボスを残すのは……」
「それなら『ボスがいる』と思わせるだけでいいさ、本当にいなくても」
「……」
お嬢の顔がにやけてくる。
この案がうまくいけば、きっとお嬢は大手柄だろう。
……
「ボスには報告しておいたわ」
部屋の片隅で休んでいたオレのところに、お嬢が帰ってきた。
まだ入って日の浅いオレが報告するよりも、お嬢の方が信頼してもらえるだろう。
「取引の日、わたしとあんたは残ることになったから」
「そうなるだろうね」
「どんなふうに乗り込んでくるかしら」
「キャーッとか悲鳴を上げて、ひるんだ隙にぱぱーんと」
「わたしが殺し屋だってこと、この辺のマフィアにはそれなりに知れ渡ってるからねえ」
「そっか……」
「とりあえず最前列であんたは待機」
「相手の銃弾は止めて、こっちからの銃弾は通す、みたいなことできる?」
「お嬢、どんな思考回路してんだ……」
できないことはない。しかしそれは難しい。
「全部止める、の方が簡単だ」
「じゃあそれで」
相手が弾を消費した後で、こっちから反撃だ。
「あ、でも、ボスがいる風に装うのはどうする?」
そうだ、その問題があった。
「オレが姿を変えたら、ボスに成りすませるぞ」
「あんた万能じゃない!!」
しかしその案だと盾となる人間がいない。
「なに言ってんのよ、偽ボスが無敵なら、盾はいらないじゃない!!」
確かに!
「ボスに何発銃弾をぶち込んでも倒れない! 驚く敵! 不死身のボス!」
いいね、面白そうだ。
「そこで颯爽と登場するわたし! 弾切れの敵どもをぶちのめす!」
「驚くボス! お前、すごく優秀じゃないか素晴らしい! 褒美をやろう!」
「そのボスの中身はあんたでしょ」
「あ、そうか」
敵を罠にはめる算段を立てるのは楽しかった。
オレは積極的に人間を傷つけるつもりはないが、ダメだというルールも別にない。
悪人をばんばん殺している神もいるとかいないとかいう噂だが、少なくともオレは積極的に傷つけるつもりはない。
ただ、今お嬢に降りかかる危険は排除してやろうと決めていた。
神なのに人間の犬。
いいじゃねえか。面白いだろ?
「声も変えられるの?」
「ああ、余裕だ。あ、あ、こんな感じだろ?」
「わ! すごい! ボスの声!」
「よくやった、褒美にテディベアをプレゼントしてやろう(渋い声)」
「ボスはそんなこと言わない!!」
「アイスクリーム食べたい食べたい食べたぁあーい!!(渋い声) ぷんぷん!!(渋い声)」
「ボスは絶対そんなこと言わない!!」ゲラゲラ
ボスに「ドッグは自由に姿を変えられるので、ボスのふりをして敵をおびき寄せます」なんて言っても信じてもらえない。
「どれだけ撃たれても無傷です」もマズいかもしれない。
だから「ボスの部屋からこっそり出てもらって、でもそれを知っているのはこの二人だけ」という作戦を伝えた。
つまりボスは、取引には行かないが部屋にもいない、という状況だ。
「でもうまいこと隠れてもらえる場所があるのか?」
「この部屋」
「あー、あー、なるほど?」
敷地の隅っこだし、小さいし汚いし、誰も入ってこないし、まあうってつけかもしれない。
「『わたしたちがうまくやっつけるから、のんびり寝ててください』って言っといた」
「結構まかせっきりのボスだな」
「前線でバリバリ戦うタイプじゃないね」
そういうのは部下に任せて、ボスは一歩下がってるのが格好いいのかもしれない。
世の中色んな人間がいるもんだ。
「裏でわたしたちを動かして、知らないうちに相手の戦力を削ってたり、戦意を喪失させたりするのがうまいのよ」
「知略タイプか」
「見えないけどね」
「あの敵側と通じてるハイエナも、残る他の何人かも、この作戦は知らないから」
「おう」
「襲撃があるだろう、ってことももちろん知らない」
「警備とかじゃなく、普通に過ごさせてたらいいんだな?」
「そう、だけどこっそりわたしたちは、ボスを逃がして、ボスの部屋に閉じこもる」
「で、敵を待つと」
「そう、わくわくしてこない?」
「めっちゃしてる」
でも、襲撃をいきなり受けたら、残った何人かはやられるんじゃないか?
そう思ったが、言うべきかどうか迷った。
マフィアの世界では少々の被害は仕方ないのかもしれない。
それくらい切り捨てないと、マフィアはやっていけないのかもしれない。
別に感傷的になるわけではなかった。
お嬢が無事で、ボスが無事で、お嬢の手柄になるのならそれでいい。
そして、その日がやってきた。
……
「取引に出るメンバーは全員出発したわ」
車を見送って、お嬢がオレに報告する。
「よし、ボスを連れ出すぞ」
オレたちはこっそりとボスの部屋の窓に近づく。
ここからボスを出して、お嬢の部屋(オレの部屋でもある)に隠れていてもらう。
で、この部屋でボスを襲撃してくるであろう敵マフィアを迎撃する。
どうやって攻めてくるんだろう。
ミサイルとかじゃないだろうな。
コンコンコンコン
窓を小さく4回ノック。
ボスへの合図だ。
明かりは消えたまま、ボスが窓際に来る。
「交代です」
お嬢が手短に言う。
「ボス、銃は?」
「持ってる」
「あそこが狙われることはないだろうけど、用心だけはしといてよ」
「ああ、お前に心配されるほど衰えちゃあいねえよ」
ボスはそれでも嬉しそうに、お嬢の頭をひと撫でした。
ボスが小屋に入るのを見届けると、オレたちは早速準備に取り掛かった。
オレは暗くったってだいたいのものは見えるが、お嬢は暗い中動くのに難儀そうだった。
「痛っ!!」ゴツッ
「おいおい、大丈夫かよ」ヒソヒソ
「なんでこんなとこにアタッシュケースがあんのよ!」ヒソヒソ
「光ってるだろ、見えるだろ」ヒソヒソ
「光ってないわよ!! あんたの目と一緒にすんな!!」ヒソヒソ
人間の目は不便だ。
とりあえず作戦としては、入り口から見える場所でだらしなく寝ているふりをオレがする。
敵が侵入して撃ってきたら、やられたふりをしながら何度も起き上がる。
パニックになった敵を後ろからお嬢がやっつける。
オレはとりあえず武器をもらわなかった。
場合によっちゃ、パンチでもキックでも敵を倒せる。
ただ、問題は「派手に襲撃」された場合だ。
侵入してきてボスだけを狙うやり方なら返り討ちにできるが、皆殺しを狙ってきた場合お嬢も他の奴らも危険だ。
「それはない、とは絶対は言い切れないけど、たぶんない」
「どうして?」
「あっちのグループはね、お金がないから」
「うちが占めてるシマの広さのせいで、あいつらはたいした収入がないのよ」
「伝統あるグループを気取っているけれど、弾や武器が潤沢にある状況じゃない」
「だからばんばん撃ってくるような余裕はないわ、きっと」
それなら安心だ。
オレはボスに化け、寝間着姿になり、酒を飲んでソファで寝てしまったように見える状況を作った。
「わたしはどこに隠れよっかなー」
「天井に張り付くとか」
「できるか!!」
「本棚のすき間に入るとか」
「入れるか!!」
結局お嬢はデスクの後ろに隠れることになった。
オレへの銃弾の流れ弾がいかないように、角度には十分気をつけた。
オレが無傷でもお嬢が撃たれちゃあ、意味がない。
「さーて、暴れるぞー♪」
お嬢がウキウキで言う。
「足りなかったらどうする?」
「大丈夫、ボスの部屋、そこら中に武器が隠してあるから」
さすがボスの部屋。
誘爆とかしないだろうな。
空気がピリッとする。
お嬢もさすがに死線を潜り抜けているだけあって、いざというときには雰囲気が変わる。
殺意が近づいている。
マフィアなんて縁がなかったオレにも、なんとなくそれがわかる。
「いい感じによろしく」
お嬢からの漠然とした要求が届く。
「イエス、ボス」
オレのボスはお嬢だ。
マムと呼ぶべきだったか?
じりじりとした緊張の時間がいくらか過ぎ、ゆっくりと入り口のドアが開けられた。
ギイ
侵入者はいきなり撃ってくるような真似はしなかった。
ドアに鍵をかけていなかったことにも、手放しで喜ぶようなバカではなさそうだった。
ゆっくりと室内に入ってくる。
オレはソファで狸寝入りをしながら(イビキは得意だ)侵入者が近づいてくる気配を感じていた。
ガチッ
銃口がこめかみに当てられる感覚がする。
スマートだな。
乱射野郎ではない。
1発で終わらせるつもりだ。
ただケチなだけかもしれないが。
あるいは離れた的には当てられないヘタクソなのかもしれない。
パシュッ
小さな音が部屋に響いた。
オレは頭を揺らして、衝撃を受けたふりをする。
血も出たふりをする。頭を打たれた人間ってのは、どれくらい血があふれるもんだろう。
なんせ見たことがないからわからない。
これくらいか?
オレは調節をしながら、血(っぽいなにか)を頭から流す。
侵入者はそれで満足したのか、部屋を出ていこうとする。
オレはゆらりと起き上がって、侵入者に声をかけてみた。
「モーニングコールは頼んでなかったはずだが?」
オレなりのジョークだ。
侵入者は飛び上がるほど驚いたはずだが、動揺を見せないようにゆっくりと振り向いた。
目しか見えていない。
真っ黒な覆面と真っ黒な装束。
誰かは知らない。
敵マフィアの誰かなんだろう。
もしくは雇われたゴロツキだろう。
しかし音がしない銃を持ってるってのは、プロっぽい。実は凄腕かもしれない。
「おはよう、鉛は受け付けないんだ。金属アレルギーなんでな」
そう言ってコロンと銃弾を口から出してみる。
これもジョークだ。
オレにしかできない。
彼はどう動くだろうか。
取り乱して撃ってくるだろうか。
逃げ出すだろうか。
まだ騒ぎにはなっていない。
他に残ったやつらはどうなっただろう。
やられているのか、寝ているだけなのか。
しかし先に動いたのは彼ではなく、お嬢だった。
「さあ観念なさい、侵入者さん。ボスの首を―――」
その先は、「取ろうだなんて100年早いわ」とかなんとか、そんな感じだったんだろう。
実際にはそこまでしか発せられなかった。誰も聞くことはなかった。
デスクの陰から元気よく飛び出したお嬢は、正確に侵入者に向けて銃を構えていた。
いつでも撃てる姿勢だった。
だけど口上を述べるのを優先して、たぶん言い終わるまでは撃つつもりはなかったんだろう。
侵入者はそんな判断をする暇がなかった。
突然飛び出したもう一人に向けて、反射的に銃を構えた。
オレに対してもう一発撃つかどうか悩んでいたみたいだから、人差し指はすでに引き金にかかっていた。
その状態でお嬢の方を向いた。
本来ならこの時点で敵は弾切れになっている予定だったが、こいつはまだ一発しか撃っていない。
つまり銃の中にはあと何発か(銃に何発弾が入るのか、知らない)入っているはずだ。
だから、お嬢がセリフを言い終わる前に、すでにその銃は発射された。
はずだった。
オレはためらいなく、侵入者の首に手をかけて、床に引き倒していた。
銃弾は発射されなかった。
「がっ」
侵入者が初めて声を出した。
オレが聞いた最初で最後の声だった。
時間の流れが速く感じるとか、遅く感じるとか、そういう感覚はオレにはわからない。
首を絞めながら、オレの頭は少しぼーっと取りとめのないことを考えていた。
ふと我に返ると、侵入者はオレの手の中で息絶えていた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
オレは少し気恥ずかしくなって、後ろを振り返った。
口を開けたまんまのお嬢が突っ立っていた。
こいつを秘密裏に処理するのか、さらし者にするのか、ボスはやられたことにするのか。
どういう対応が一番いいかわからなかったので、お嬢に尋ねた。
こいつに成りすまして敵マフィアにノコノコ報告に行ってもいい。
こいつの死体を大々的に晒してもいい。
オレがボスの死体のふりをしてもいい。
どれがこのチームにとって、お嬢にとって、メリットが大きいかオレには判断がつかなかった。
だからお嬢に決めてもらおうと思っただけだった。
「ドッグ、あんたに比べれば、わたしはまだまだ人間だわ」
帰ってきたのは、お嬢の冷たい言葉だった。
「あんたやっぱり神様なんだね。少なくとも人間とは違う」
「人間の命とか、尊厳とか、そんなのまったくどうでもいいんだね」
オレは反論したかった。
お嬢の命が危ないと思ったから、その危険を排除しようとしただけだ。
そしてそれは成功した。
銃弾は発射されなかったし、相手は動かなくなった。
「人間をそんな風に壊せるのは、人間じゃないわよね」
壊れた。
侵入者は壊れたのだろうか。
「首を絞めたのに、手が血まみれになるような殺し方」
「普通の人間には無理よ」
オレの手は血で真っ赤に汚れていた。
「あんたもちょっと負傷したふりをしてなさい」
お嬢は部屋を出ていった。
ボスを呼んでくるのだろうか。
被害を見てくるのだろうか。
侵入者がこいつだけとは限らない、ということをオレはあとから思いつき、実は危険なことをさせていたのだとゾッとした。
だけど、オレはお嬢に言われたことを反芻するのに忙しくて、はたから見れば勢い余って相手を殺したことに呆然としている風に見えたことだろう。
いつの間にか周りには人が何人かいて、オレは偽物の傷に包帯を巻かれていた。
その後、死体がどう処理されたかはわからない。
相手のマフィアとどのような話になったかもわからない。
ただ、相手側と通じていたという、尾行したあのハイエナみたいな男は、それから見なくなった。
死んだのかもしれない。
わからない。
しばらくお嬢の小屋でぼんやり過ごした。
「初めて人を殺した」ことに恐怖し、思考が停止し、抜け殻のようになった男。
周りからはたぶんそう見られていた。
本当は違う。
でもどう違うのか、オレにも説明がつかなかった。
……
「ドッグ、これで少し気晴らしして来い」
ある日、名前を知らない男に札を何枚か渡された。
「いつまでも塞いでるんじゃ仕事にならねえ」
「ボスの命を守ったのは立派なことなんだから、堂々と胸を張ってればいいんだよ」
「ほれ、これボスからだ。気晴らしして来い」
ぴらぴらと札を振るので、仕方なく受け取った。
「なにに使ってもいいってよ」
「ギャンブルに突っ込んでもいいし、美味いもん食ってきてもいいし、女を買ってもいい」
オレはなんと言っていいかわからなかったが、この男のドッグ呼ばわりになぜだか少しカチンときたので、
「オレをドッグと呼んでいいのはお嬢だけだ」
とだけ言い捨てて小屋を出た。
当てもなくぶらぶらと街を歩いた。
この金額でどれくらいのことができるのかわからなかったので、とりあえず順に試してみようと思った。
まずはギャンブルだ。と言ってもこのあたりでどんなギャンブルができるのか、オレには知識がない。
「この辺で、気晴らしに金が突っ込めるギャンブルは、どこに行ったらできる?」
だいたいの人は怪訝そうに、あるいは完全に無視して通り過ぎていったが、親切な男が教えてくれた。
「あそこの角のビルの地下で、賭けボクシングやってるぜ」
賭けボクシング。
それは気晴らしになるのだろうか。
オレは神ではあるが、未来をすべて予測するとかいう能力はない。
全知全能とかでもない。
カーンカーンカーン!!
「勝者、赤!!」
「どうなってんだよ……」
オレはあっという間に一文無しになった。
オレが賭けるファイターが、ことごとく負けるのだ。
「Oh, my god」
オレは思わず呟いた。
このジョークの面白さは、オレとお嬢にしか伝わらない。
「兄ちゃん、すったのか」
隣の酒臭い親父が寄ってくる。
「ツイてないみたいだ、金が全部なくなった」
気晴らしにはなったかもしれないが。
しかしボスにもらったせっかくの金を、こんな使い方で失くしてしまってよかったのだろうか。
怒られるかもしれない。
「じゃあよ、兄ちゃん、いい体つきしてんだから、出る方をやったらいいじゃねえか」
出る方?
カーンカーンカーン!!
「勝者、赤!!」
「I’m GOD!!」
「You’re GOD!!」
歓声がオレを包む。
オレは連戦連勝。ひたすら勝ち続けた。苦戦するそぶりすら見せなかった。
ファイトマネーはたいしたことなかったが、勝ち続けるにつれてその額はどんどん膨らんでいった。
ボスにもらった金の何倍にもなった。
あとから思えば、マスクなりかぶって変装するべきだったかもしれないが、もう遅い。
時すでに遅し。
まあいいのだ。オレに時は戻せない。
しかし、そういつまでもうまくいかない。
強すぎるボクサーには、挑戦者が現れない。
今日はもう潮時だと思ったので、ファイトマネーはきちんともらったうえで、帰ることにした。
「Mr. GOD! 明日も来てくれるんだろうな!?」
Mr. GODとな。マフィアじゃ犬呼ばわりのオレだが、ここじゃ神だ。
「もっと強い挑戦者を用意しときな!」
オレは振り返らず、ビルをあとにした。
手にグローブをはめているし、守るべきお嬢がいるわけでもない。
勢い余って殺してしまう心配はなかった。
「……明日も来るか」
金を稼げばお嬢のためになるかもしれない。
ボスに献上する気にはなれないが、お嬢に渡す分にはなんの支障もない。
さて、次はどうしようか。
「……女を買う、とか言ってたな」
意味くらい分かってる。
ただ、このあたりでどうすれば女が買えるのか、オレには知識がない。
周りの人に聞いてみよう。
「この辺で、気晴らしに女を買うとしたら、どこに行けばいい?」
女性に聞いたのが間違いだったようだ。
何人かに罵声を浴びせられた後、娼館の場所を教えてくれた紳士がいた。
「値は張るけれど」
大丈夫、金ならある。
「紹介なしで入れるかはわからないよ?」
大丈夫、ウチのボスの名を出せば通してくれるだろう。
「そんなにどうしても行きたいの?」
どうしても行きたいの。
興味という意味で。
受付でオレを迎えた小さな女は、ウチのボスの名を聞いて顔色を変えた。
「あ、えっと、こちらへどうぞ……」
あたりをキョロキョロ見回している。
誰か助けて! とでも言いそうな。
やべえのが来たわよ! とでも言いそうな。
ウチのボスはそんなに恐れられているのだろうか。
それとも、「女を買ってこい」はあのお使いの男が勝手に言ったことで、本来マズいことなのだろうか。
「この部屋でお待ちください」
通された部屋の中で、オレは受付の小さな女に金を渡した。
「これで足りる?」
相場がわからないし、先払いか後払いかもわからない。
ただ、先に十分な金を渡しておけば問題はなさそうだ、と思ったのだ。
「ひっ! じゅ、十分です……」
手の中のばらばらの札を震えながら持ち、女は部屋の外へ出ていった。
オレはしばらく部屋で待った。
シャワーを浴びておいた方がいいのだろうか。
別に汚れている所は一つもないが。
賭けボクシングをして十何人かぶっ倒してきた後だ。
そんなことを言ったら、相手は驚くだろうか。
汗ひとつかかず、傷ひとつなく、得意顔で。
笑顔で「すごーい」とか言いながら、嘘だと思われるだろうな。
真顔で「すごーい」とか言いながら、鼻で笑われるかもしれない。
そんなことを思いながらぼんやりしていると(ぼんやりするのは得意だ)、扉が開いた。
ガチャリ
「ようこそ、おいでくださいましたね」
満面の笑顔の仮面を張り付けた女が現れた。
百戦錬磨のベテランの技だった。
「人間の生殖行為のまねごとをしている神」という立場から見ても、すごかった。
いやー、すごかった。
言葉にならないくらい。
人間の体ってあんな風に曲がるのか。
まさか笑顔のままあんなところまで舐めるとは。
この女はすごい。
人間ってすごい。
一通り行為が終わったあと、女は身を寄せてこう言った。
「窓から帰った方がいいわね」
どういうことだろう?
「あんた、怖いもの知らずだね」
「わざわざこの娼館に来たうえでボスの名前を堂々と宣言するなんてさ」
聞けば、この娼館は別グループの息がかかっていて、うちのグループの人間は決して近づかないそうだ。
規模としてはうちの方が上だが、しかし敵地へノコノコ乗り込んできて気持ちよくなってるなんて、間抜けとしか言いようがない。
相手からしたら、面白くない出来事だろう。
「……知らなかった」
「だろうね、あんた新入りっぽいから」
女はからからと笑った。
部屋に入ってきた時とはまったく別の笑い方だった。
「なのに、なんであんなちゃんとサービスを?」
「そりゃあ表向きはちゃんとお客様として扱わないと、うちだって大事にしたいわけじゃないんだから」
この人は色んな修羅場もくぐってきたのだろう。
受付の小さなあの子は、さぞ怖かっただろう。
「でも一部にはね、けんかっ早い奴もいるもんでさ」
「あんたの出てくるのを待ってるかもしれないからね、だから窓からそっと逃げな」
「わたしは、『不穏な気配に気づいて窓から逃げたよ』って言っとくから」
オレはその忠告をありがたく受け入れ、窓から退散することにした。
「姐さん、世話になったな」
「あんたに姐さんと呼ばれる筋合いはないね」
「これ、サービス料と情報代」
オレは札をさらに何枚か追加で渡した。
どうせボクシングで稼いだあぶく銭だ。身につかない。
それを受け取った姐さんは(また呼んでしまった)、複雑な表情を浮かべた。
「こういうことをされると困るんだけどねえ」
「どうして?」
「全面戦争になったとき、あんたを見かけたら手心を加えなきゃいけない」
「あんたやっぱいい女だな」
オレは窓から飛び出した。
そのまま空を飛んで行ってもよかったが、姐さんが(また呼んでしまった)ビックリするといけないので、普通に地面に着地した。
振り返らず、人通りの多いほうへ行こうとした瞬間、誰かに腕を掴まれた。
「おう兄ちゃん、お行儀の悪いこって」
遥かにオレよりもお行儀の悪そうな二人組が、オレを捕まえていた。
「うちのシマで好き勝手遊んでくれたみたいじゃねえか」
やばいのに見つかってしまった。ボスに迷惑がかからなかったらいいんだが……
「舐めてると痛い目……」
ふと男どもの言葉が止まる。
オレは二人の顔を見つめる。
どうした? 顔になんかついてるのか?
「ミ、Mr. GOD……!?」
賭けボクシングの客だった。
なんとなく見逃してもらった。
オレは敵マフィアのシマで遊んだという負い目がある。
あいつらはオレの方に賭けて儲けたという負い目がある。
痛み分けだ。
あいつらにしたって、敵マフィアに賭けて勝って喜んでるなんて、格好がつかないだろうから。
それから一人で、ぶらぶらアジトに戻る方へ歩いた。
変な一日だった。
でも少しは気分が晴れた気がする。
人間らしくなっている気がする。
それがいいのか悪いのかわからないけど、それでもお嬢にとっては人間らしいオレの方がいいはずだ。
娼館に払った分を引いても、まだずいぶん残っている。
この残った金はお嬢にあげよう。
もしくは、なにか服とか靴とかを買ってプレゼントしてもいい。
そして、またたまにボクシングで稼いで、そんな日々を過ごそう。
お嬢の犬として、人間らしく仕えよう(変な言葉だ)。
そう決意していると、聞き覚えのある声が横から飛んできた。
「ドッグ、こんなところまで来てなにしてんだ!!」
言うまでもなく、お嬢の声だった。
怒られた。
ちょっとアジトを離れすぎたようだ。
確かにあのお行儀の悪い二人組が賭けボクシングにも来ていたくらいだから、この辺一帯敵マフィアの縄張りなんだろう。
「勝手にどっか行きやがって……」
少し涙声になっていた。
お嬢はいつからオレのことを探していたのだろう。
ただそれを聞くと無粋な気がして、オレはなにも尋ねずにこう言った。
「すみません、お嬢」
「これからはそばを離れません」
お嬢はなにも返さず、オレの背中をばしんと叩いた。
帰り道、喫茶店に寄った。
お嬢のお気に入りの店だそうだ。
カランコロンと小気味いい音が鳴る。
「メロンソーダ!!」
お嬢は席に着く前に注文を済ませた。
いつも飲んでいるのだろう。店員もいつものことだというように、特に反応しなかった。
「あんたは?」
「じゃ、同じので」
メロンソーダってのは飲んだことないな。
そういえばメロン自体も食べたことがない。
「うっま! なにこれうっま!!」
「大げさ」
初めて飲んだメロンソーダは極上の味がした。
今まで飲まなかったことを激しく後悔した。
「お嬢、いつもこんなうまいもの飲んでたのかよ!!」
「大げさ」
店員もあきれている。
でもオレは感動してしまった。
この味に。そして、これを作り出した人間に。
また来よう、とオレは心に決めた。
そしてまたメロンソーダを飲もう。
世の中にはまだまだオレの知らない凄いものがたくさんある。
人間の底はまだまだ奥深いものだと知った。
「また絶対飲みに来よう」
「いつでも来れるわよ」
「お嬢作れるか?」
「作れるわけないでしょ」
自宅でメロンソーダを飲む習慣はないらしい。
確かにあの毒々しい緑色を、アジトで見た覚えはない。
だけどこの店に来れば、いつでも飲める。
その安心感で、オレは満足だった。
「守ってくれて、ありがとう」
お嬢がうつむきながら言う。
「言ってなかったなと思って、お礼」
「あの時はびっくりしちゃったけど……わたしを守ってくれたんだもんね」
「ありがとう、ね」
胸に暖かいものが溢れた。
「あの時ドッグが動いてくれなかったら、わたしは撃たれて死んでた」
「拾った命、大事に使うから」
人間って、面白い。
オレはもっともっと、人間をそばで見たいと思った。
特にこの小さな殺し屋を、そばで見守り続けたいと思った。
「これからもお嬢の命は、オレが守るから」
偽りないオレの気持ちだった。
……
「お嬢、殺さず動けなくする撃ち方が上手くなったな」
「そお?」
地べたに倒れる敵マフィアども。
誰の息の根も止めていない。
それなのに誰も動けない。
「ひざ、ひじの関節をちゃんと狙えば、誰でもできるわよ」
「誰でもはできないんじゃないか……さすがに」
あれからお嬢は、あんまり人を殺さなくなった。
慈愛の心を持ったという訳じゃないようだ。
だがオレが手加減できずに人を「壊して」しまった後、お嬢は明らかに命を奪うことを減らした。
ボスも暗殺をお嬢に指示することが減った。
その必要がなくなったのか?
多分オレという存在が、他のファミリーに知れ渡ったのだろう。
あのボスなら意図的に情報を流すくらいのことはするかもしれない。
最近、敵マフィアがオレを見てビビるようになった。
「金髪の悪魔」なんて呼ばれたこともある。
悪魔って。
当たらずとも遠からずではあるけれど。
「ドッグ、買い物に行くから付きあって」
「仕事は?」
「今日はもうないわ」
「じゃあ付きあおう」
ちょっと遠くの町に二人で出かけたりもした。
今では誰も、オレがお嬢について回ることを訝しまなかった。
オレはお嬢の飼い犬で、他の誰にも懐かない。
それが当たり前の認識になっていた。
「今日はなにを?」
「服が欲しいの、可愛い服が」
「これは?」
「似合う」
「これは?」
「似合う」
「これは?」
「似合う」
「ちょっとドッグ、どれも同じ感想じゃない!」
「お嬢はどれでも似合うよ」
「もうちょっと真面目に見てよ!」
「真面目に見て、真面目に言ってる」
はたからは、きょうだいに見えるだろうか。
オレたちのことを知らない町では、お嬢は本当に子どもみたいな顔をした。
普段、重そうな銃を振り回して、敵対するマフィアを蹴散らしているとは思えない。
「んー、これと、これと、どっちにしよっかなあ」
「どっちも買っちゃえ」
「高いのよ……」
「んじゃあ片方、オレが買ってあげるから」
「え!? あんたそんなお金持ってるの!?」
「おう」
お嬢は「なんか癪だわ……」とつぶやきながらも、オレからのプレゼントを受け取ってくれた。
「神だからお金を偽造できるとかじゃないでしょうね」
「違う違う、ちゃんと労働の対価として稼いだ金だよ」
「ていうか、神だったらなんでも手から作り出せたりするんじゃないの?」
「そういう神もいるけど、オレは違うんだ」
「ふうん……不便なのね」
オレは特に不便とは思っていないが、人間からしたら神は「全知全能」ってイメージがあるのだろう。
今、神はそういう存在とは少し違う。
だが、それをお嬢に懇切丁寧に説明してやろうとは思わない。
どうでもいいことだ。
「よっし、ドーナツが食べられるお店を探すわよ!!」
「ドーナツ?」
「たぶんメロンソーダも飲めるわよ!!」
「え、マジで!! 行く行く!!」
メロンソーダが飲めるのなら、行くしかない。
ドーナツとやらは知識としてはなんとなく知っているが、食べたことはない。
まあお嬢がテンションを上げているのだから、美味いのだろう。
そういう新しい発見があるというのも、お嬢と過ごしていて楽しいことのひとつだった。
多分オレはお嬢の好きなものを一緒に見て、一緒に食べて、一緒に感じて、暮らしていくのだろう。
「なあお嬢、なにか欲しい力はないのか?」
ドーナツを食べながら、オレはお嬢に尋ねた。
結局オレはお嬢の願いを叶えていない。
必ず叶えないといけないというものでもないが、なんだかこのままでは収まりが悪い。
「んー、今の生活に満足しているし、別に」
「対価が怖いのか?」
「そういうんじゃないけど」
お嬢は紅茶をくるくると混ぜながら、言葉を濁した。
無理に叶えさせるつもりはないが、本当にいいのだろうか。
「わたしの命は、あんたが守ってくれるでしょ」
「ファミリーの脅威になるようなやつらを排除して、あの町でなんだかんだうまくやって」
「もうあんまり殺さなくてもいいよってなったら、それで幸せかなあ」
お嬢にとって殺し屋は天職だと思ったんだが。
「そんなわけないでしょ」
「必要とされているからそうしているだけで、ほんとは……」
その先は沈黙だった。
まあ、お嬢が望まないのなら、願いを叶えなくてもいいか。
本当は、なにをしたいのだろう。
聞こうと思えば聞けたが、やめておいた。
あんまりずけずけ聞いてくる飼い犬でも嫌だろう。
いい塩梅の距離感という奴も大切だ。
それからは願いの話を避けて、とりとめもないことばかり話した。
ファミリーの中で誰と誰が恋仲だとか。
料理が一番うまいやつが誰で、足が一番臭いのは誰か、とか。
本当に、どうでもいい話をして過ごした。
そんな休日も楽しかった。
そういえば、ドーナツという奴は、まあまあ美味かったな。
メロンソーダのついでに、これからもたまに食ってもいいかもな、と思える程度には。
……
楽しい日々の終わりは唐突にやってくる。
人間には寿命があるし、事故や病気で死ぬこともある。
お嬢は殺し屋なんてことをしているくらいだから、そりゃあ死ぬのは早い方だろう。
それでもやはり、その日が来たことを、オレは信じられない思いだった。
人間の一生というのは、とても短いのだなということをオレは思い知った。
少しのミスがあった。
相手の力量と執念を軽く見すぎていたこと。
オレがお嬢の盾になることで、今までそれなりにうまくやれていたからこそ、油断があったこと。
お嬢がオレに頼りっぱなしになるのを嫌がり、ちょっと突撃を早まったこと。
人間よりずっとずっと早く動けるオレでも、すでにお嬢の脇腹を貫いた弾丸に対してできることはなにもなかった。
時を戻すことも。
傷を癒すことも。
オレにはできなかった。
お嬢の体を銃弾では死なない体質にすることはできたが、お嬢はそれを拒んだ。
「ふふっ、そうしたら、対価で化け物じみた体にされちゃうんでしょ、どうせ」
「いいのよ、わたしは人間のまま死ぬ方が」
そういうものだろうか。
オレは忠犬のように、お嬢の横たわった体にぴったりと寄り添っていた。
「あいつらは……?」
「殺しといた」
あっけなくみんな逝った。
もうどうせそんなことをしても意味がないとも思ったが、それでもオレの手は止まらなかった。
この場で生き残っているのは、お嬢とオレだけだった。
「先に地獄で待ってると思うから、地獄でリベンジしてこい」
「ふふっ、嘘でも天国って言っておきなさいよ」
「お嬢を撃ったような奴らが天国に行けるわけねえだろ」
「わたしのことよ」
「殺し屋が天国に行けるわけねえだろ」
「ふふっ」
なあ、お嬢。
本当に望むものはないのか。
足音のしない歩き方ができるようになったり。
透明人間になったり。
抜群のスピードを手に入れたり。
気配を消せたり。
銃弾をはじいたり。
空を飛べたり。
そんな突飛な能力を欲しいとは思わなかったのか。
今更だが、なぜお嬢がそんな力を欲しがらなかったのか、なぜ結局うやむやにして望みを言わなかったのか、オレにはわからなかった。
望みを言ってしまえば、オレがすぐにいなくなると思ったから?
そんなわけないか。
「なあ、お嬢……」
「聞いて、ドッグ」
突然お嬢の声が力強く遮った。
腹から血を流して死にそうになっているとは思えない、力強い声。
「わたし、愛が欲しい」
「は?」
「愛よ、愛。愛をください」
「それが願い?」
「そう、死に際に願うには、ロマンチックでしょう」
あいまいな願いだ。難しすぎる。
だがここで、「そんなあいまいな願いは叶えられない」と神様らしく不遜な態度で突っぱねることはしない。
オレは今、神ではなく単なるお嬢の飼い犬、ドッグなのだから。
「OKOK、お嬢は死後もボス並びにファミリーのみんなから愛され続け、その死は悼まれ続け、立派な墓が作られるだろう」
「ふふふ、いいわね」
「葬式ではお嬢の亡骸にみんなが殺到し、棺に入れる花があふれ、蓋が閉まらなくなる」
「迷惑よねそれ」
「ボスは悲しみのあまり後追い自殺をし……」
「待って」
「ドッグことオレは墓の前でたびたび墓荒らしと戦い蹴散らし、骨になるまでその場を離れなかったとさ」
「無理がある」
誇張もしたが、お嬢が死後も人々から愛されるということは、可能な気がした。
もちろん人殺しもしているのだから、地獄行きは間違いないが、それでも彼女を大切に思う人たちが確かにいるのだ。
「特別なお墓はいらないわよ」
「みんなと一緒の場所でいい」
「今まで死んでいったファミリーの墓に、わたしも入れてもらえれば」
あの敷地の端っこの寂しい墓地にお嬢が入るのだと思うと、少し残念な気がした。
しかしオレがお嬢を特別に思っていても、ファミリー全体から見れば有象無象の話なんだろう。
お嬢も、特別扱いよりも「みんなと同じように」を望んでいるようだった。
「じゃあ、対価の話をしよう」
「うん……」
オレは望みを叶え、なにかを与える代わりになにかを奪う。
そこに例外はない。
「お嬢が死後も愛され愛を与えられる代わりに、お嬢から人の痛みを奪う」
「うん……うん?」
「つまり、痛覚を奪う」
「ん?」
「これ以後、痛みを感じずに死んでいく」
「……それはメリットでは?」
「知らん」
オレはお嬢に手をかざし、痛みを奪った。
お嬢はなんだか不思議な顔をしていたけど、無視した。
銃に撃たれ、銃弾に倒れ、地に伏し、血を流し死んでいく際に、痛みがないというのは少しでも救いになるのではないだろうか。
それがオレなりの愛だった。
「おやすみ、お嬢」
「人間界、お嬢のおかげでちょっと楽しかったぜ」
お嬢はもう目を閉じている。
激痛があっただろうに、無理してオレと会話していたのだ。
それがふっとやわらいだら、そりゃあ緊張も解けるだろう。
オレはお嬢の髪の毛をなでながら、いつまでもお嬢の寝顔を見ていた。
……
「ドッグ、もう行くのか」
立派とは言えないが、墓地に一つ墓石が増えた。
名前はオレが彫った。できるだけ立派に、格好よく掘った。
「ああ、ここにいたのは、お嬢を守るためだから」
オレはまた根無し草のように別の町へ行こうと思っている。
今度はどこの国にしようか。
メロンソーダが気軽に飲めるところがいい。
「お前は不思議なやつだったな」
「あのころから、姿が変わらないように見える」
「お嬢、お嬢って、あいつの周りをついて回って、ずっと同じことをして」
「ほんとに老けないな」
ボスはずいぶん歳をとった。
髪の毛はもう真っ白だ。
自分の力では歩けない。いつも誰かに車いすを押させていた。
その姿は、愛嬌のあるタヌキにそっくりだった。
一方オレは、神だし、歳なんかとらない。
もちろん老けたように見せかけることもできるが、気を抜いていた。
さぼっていた。
お嬢はそれに対してなにも言わなかったし、オレも気にしていなかった。
今までに比べれば、オレは同じ人間と長く関わりすぎたのかもしれない。
「オレの成長しない姿」を見られるのは、考えてみれば初めてのことだった。
「ボスこそ老け込むのが早いんだよ」
オレは笑って言ってやった。
「ここでの生活、楽しかったよ」
「ボスにも感謝している」
オレはお嬢の墓に別れを告げ、立ち上がる。
「じゃあ、もう会うこともないだろうが」
ボスも手を挙げて別れの挨拶をする。
「あいつを守ってやってくれて感謝している」
「俺の娘を長生きさせてやってくれて、ありがとう、ドッグ」
ふっと胸の奥に熱いものが広がった。
だがそんなことは気取られまいとして、オレは強がって言った。
「オレをドッグと呼んでいいのは、お嬢だけだ」
★おしまい★
129 : HAM ◆HAM.ElLAGo - 2020/05/07 23:29:45 /ITmekEM 111/111あっさり目でしたが、好きなようにかけました。
人間臭い神様、今回も書いていて楽しかったです。
∧__∧
( ・ω・) ありがとうございました
ハ∨/^ヽ またどこかで
ノ::[三ノ :.、 http://hamham278.blog76.fc2.com/
i)、_;|*く; ノ
|!: ::.".T~
ハ、___|
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