女上司「終電が……なくなってしまったようじゃのう」
男「……そうですね」
女上司「なんじゃ、ワシとこんな時間まで残業したことが不満か」ギロッ
男「いえ、そうじゃなくて……耳と尻尾出てますよ」
女上司「あーっ!」
男「昼間は上手く化けてるのに、夜になると油断しがちですよね、課長って」
女上司「ぐぬぬ……」
男(そう、この人はただの女上司ではない)
男(“女狐上司”なのである)
元スレ
女上司「終電が……なくなってしまったようじゃのう」男「耳と尻尾出てますよ」
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女上司「ワシとしたことがなんたる不覚!」
女上司「このままでは、ワシの正体が狐であることがバレてしまうではないかー!」
男「いや、みんな知ってますけどね」
女上司「なぬ!?」
男「ウチの課はもちろん、他の課の連中も、役員も、取引先の人達も、会社近くの店の人も」
男「昼休みやってくる保険のおばちゃんですら知ってますからね」
女上司「そうだったのかー!」
女上司「どうりでこの間、拝まれたわけじゃ……」
男「拝まれたんですか……」
男「もふもふしてもいいですか?」
女上司「たわけ! 誇り高き妖狐であるワシの尻尾をモフるなど……」
男「しますね」モフモフ
女上司「やめろというに! ええい、もっとやれ!」
男「どっちなんですか」
女上司「しっかし……」ギュルルル
女上司「腹が減ってしもうたのう……」
男「それじゃ、うどんでも食べに行きます?」
女上司「こんな時間にやっとるのか?」
男「あっちに24時間営業のところがあるんですよ」
女上司「夜食にうどんも悪くない。すぐ案内するのじゃ!」
バイト「いらっしゃいませー」
男「天ぷらうどん」
女上司「ワシはもちろん、きつねうどんじゃ!」
バイト「へーい」
女上司「むふふ、楽しみじゃのう」フリフリ
男「もはや尻尾を隠す気ないんですね」
バイト「お待ちー」
男「……」ズルルッ
女上司「どれどれ……」ズルルッ
女上司「うんまい! うまいぞ!」
男「え」
女上司「この油揚げふわっとしてて極上じゃ! ワシの肥えた舌を満足させるとはやるのう!」
男(なんつう安い舌だ)
女上司「シェフ!」
バイト「え、なんすか……」
女上司「ワシは感動したぞ! 見事な腕前じゃ!」ガシッ
バイト「はぁ……」
男「バイト君困らせてないで、早く食べちゃいましょ」ズルズル
女上司「おうっ!」ズルルルッ
女上司「いい店を紹介してくれた。ワシは満足じゃ! 常連になるぞ!」
男「チェーン店でそこまで喜ばれるってのも複雑な気分ですね」
女上司「しかし、この後どうするかのう……」
男「俺の家と課長の家だと、たしか俺の家のが近いですし……」
男「タクシーで俺んち行きます?」
女上司「よいのか! じゃあぜひお呼ばれしようかのう」
男「○○台二丁目のアパートまで、お願いします」
運転手「かしこまりました」
ブロロロロロ…
女上司「道案内はワシがしてやろう」
女上司「上上下下左右左右じゃ!」
運転手「え!?」
男「課長、余計なことしないで下さい」
ブロロロロロ…
男「このあたりでいいです」
運転手「はい」キキッ
女上司「釣りはいらんぞ、とっておけ」パサッ
運転手「え、こんなに!?」
男「葉っぱのお札で払おうとするのやめましょうね。立派な犯罪なんで」
女上司「なぜ分かった!?」
男「分かりますよ、そのぐらい」
女上司「ここがお前の部屋か。きったないのう!」
男「男の一人暮らしなんてこんなもんです。夜中なんで、なるべく静かにして下さいよ」
女上司「分かっとる、分かっとる」
女上司「おほっ! これはエッチな本! お前も男じゃのう!」
男「いってるそばから……」
女上司「ワシはうどん派じゃ!」
女上司「しかし、今日は本当に忙しかったのう。仕事が全然終わらんかった」
男「いくつか大きなプロジェクト進めてますからね。仕方ないですよ」
男「あ、そうだ。風呂入ってもいいですよ。汗流して下さい」
女上司「本当か!?」
女上司「ゆくか」バサッ
男「ここで脱がないで下さい!」
女上司「ふんふ~ん……」
シャァァァァァ…
女上司「ふぅ~、さっぱりした」
男「……」
女上司「なんじゃ、じろじろ見て」
男「……いえ」
女上司「薄着のワシに欲情してしまったか? ほれ、白状せい」ニヤニヤ
男「お、俺も風呂入ってきます!」
女上司「ハッハッハ、若いのをからかうのは楽しいのう」
男「わーっ、風呂場が毛だらけ!」
女上司「毛が生え変わる時期でのう。すまんすまん」
男「排水溝に詰まっちゃったらどうすんですか……」
女上司「“つまらない”より“詰まる”方がマシじゃろう?」
男「オヤジギャグ……」
女上司「なにをいう! ワシはまだピチピチの20代じゃ!」
男「1000と20歳、でしたっけ?」
女上司「そうじゃ、悪いか!」
男「課長を見てると、精神年齢なんてもんは途中で頭打ちになるってのがよく分かりますよ」
男「ですけど、千年も生きたら尻尾が増えたりしないんですか?」
女上司「九尾の狐というやつか。むろん、チャンスはあった」
女上司「しかし、尻尾が9本もあっても邪魔なのでな。キャンセルしたんじゃ」
男「進化キャンセルとかできるんですか」
女上司「できるできる。そこら辺は柔軟になっとるんじゃ」
男「柔軟っていうんですかね、それ」
女上司「おお、漫画があるのう」
男「俺、妖怪系の漫画好きなんで、結構集めてるんですよ」
女上司「読んでもいいか?」
男「どうぞ」
女上司「ほうほう、ふむふむ……」
男「……どうです?」
女上司「待て、集中させろ!」
男「すいません」
女上司「あわわわわ……」
女上司「ひいいっ! 怖い! この九尾の狐こわい! メッチャ怖い!」
男「あなたの同類でしょうが」
女上司「眠れなくなったらお前のせいじゃからなぁぁぁぁぁ!!!」
男「大丈夫、あなたが不眠症なんてありえませんから」
女上司「その通り! ワシはどんな時でも寝れる! 長生きの秘訣じゃな!」
男「説得力ありまくりですね」
男「ビール飲みます?」
女上司「うむ、飲む飲む」
カシュッ グビグビ
女上司「ぷはーっ! うめえのう!」
女上司「おっと泡が口に」ゴシゴシ
男「尻尾で口拭くのやめましょうね」
男「あ、そうだ。こっくりさんでもやりません?」
女上司「こっくりさん?」
男「一種の占いですよ」
男「“狐狗狸さん”と書きまして、動物の霊に質問するという体で占いをするんです」
男「紙とペンとコインがあれば、すぐできますし」
女上司「ほほう、それは面白い。やろうやろう!」
男「こっくりさんこっくりさん」
男「聞いてみたいことがあればどうぞ」
女上司「課で一番仕事ができない奴は誰じゃ?」
ススス…
女上司「おおっ、10円玉が勝手に動いた! これは……」
女上司「お前じゃ! ワハハハハ!」
男「うぐぐ……精進します」
女上司「じゃあ次、課で一番おバカなのは誰じゃ?」
ススス…
女上司「これは……」
男「……」
女上司「ワシじゃないか!」
男「ぷっ……」
女上司「笑うな! 無礼者!」
男「さっきのお返しですよ」
女上司「次はお前が聞いてみろ!」
男「そうですね……」
男「じゃあ……課長が好きな人は?」
ススス…
女上司「またお前じゃ! ワハハハハハ!」
女上司「……って、あーっ!?」
男「……」
女上司「いや違う! これは違うぞ! 全然違う!」
男「落ち着いて下さい」
女上司「こんなもんインチキじゃ! この科学万能の時代に占いなぞ……!」
女上司「ワシは認めん! こんな結果、断じて認めんぞ! 却下却下却下!」
女上司「こっくりさん、やめーっ!」ポーイッ
男「……」
男「課長……」
女上司「?」
男「俺じゃ……ダメですかね?」
女上司「ダメって?」
男「課長の恋人として、俺じゃ……ダメですか?」
女上司「なにをいっとる?」
女上司「お前、自分が何をいってるか分かっとるのか?」
女上司「年の差四桁近いぞ? そもそもワシ狐じゃぞ? ある意味遠距離恋愛より遠距離じゃぞ?」
男「分かってます」
男「だけど俺……真剣に課長に恋してしまったんです」
男「間違いなく俺の方が先に死にますけど、それでもよければ……是非……」
女上司「まったく……しょうがない奴じゃ」
女上司「いいぞ。ワシもお前のことは好いとったからのう」
男「よろしくお願いします!」
男「じゃ、じゃあ……課長の全身をモフモフしてもいいですか?」
女上司「いきなり全身モフモフときたか」
女上司「ふふ……。ワシは狐じゃが……お前はとんだオオカミじゃったのう」
モフモフ…
…………
……
……
……
オメデトー… シアワセニナレヨー…
パチパチパチパチパチ…
男「みんな、ありがとう!」
女上司「ふふふ……もっと祝福せんか! お稲荷さんを用意せい!」
同僚A「まさか、あの二人が結婚するとはなぁ」
同僚B「若手サラリーマンと女狐上司……なかなか面白い組み合わせだな」
パラパラ…
同僚A「お、日が出てるのに、雨が降ってきた」
同僚B「狐の嫁入りってやつだな」
おわり