18 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 13:39:33.61 p6V1mVNaO 1/37

「は?」

「まあ!」


部室の空気が一変した。あたしの質問も大概だとは思ったが、なんなんだ唯のこの軽さは?


「お前、そんな簡単に・・・ってあたしが言うのもなんだが」

「だって、りっちゃんなら憂を幸せにしてくれるでしょ?」

「ちょ・・・幸せって!」

「キマシタワー」


まあ、確かに幸せにできる自信はあるが・・・違うだろ、その軽さはないだろ!


「もっとこう、『お前には妹はやらん!』とかないの?」

「・・・ひょっとして冗談だったの?」

「いや、マジだが・・・」

「」バタリ


そう、実はあたしこと田井中律は、親友である唯の妹、憂ちゃんに好意を持っている

最初は妹として欲しいなー、とか思っていたのだが、いつしか一人の女の子として見るようになっていた


元スレ
律「憂ちゃんくれ」唯「いいよ」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1277596489/

20 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 14:04:50.30 p6V1mVNaO 2/37

あれは中間テストの時だったか、唯が補習になって、みんなで唯の家に勉強という名目で初めてお邪魔した時だ


『姉がいつもお世話になってまーす』

『スリッパをどうぞ』

『律さん一人でどうしたんですか?』

『あ、それじゃゲームでもやります?』


よくできた妹だった。うちの生意気な聡とか比べ物にならないほどに。

隣の芝は青いというけど、この芝と比べるとうちの芝はさしずめ焼け野原か・・・


あたしは妹が欲しかったんだ、とこの時に理解した

弟とは仲が良いと自負してはいるが、一緒に服を見たり食事したり、女の子らしいことができないんだよ

あたしにだって、女の子らしいところがあるんだからな!


『なあ憂ちゃん』ピコピコ

『なんです律さん?』ピコピコ

『なんでもなーい・・・ってまた負けたー!』

『ふふふ、お姉ちゃんと鍛えてますから』


今日が初対面なのにさ、言えるわけないじゃないか。「私の妹になってくれない?」だなんて


24 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 14:25:41.94 p6V1mVNaO 3/37

憂ちゃんと姉である唯は似ているようで似てない。勤勉さとか、唯にはないものだからな。まああたしにもないが

容姿と持っている雰囲気はそっくりと言っていい、どっちもふわふわしててどこか危なっかしい

ただ、真面目で献身的な憂ちゃんに対して、唯は唯我独尊って感じだ。まああたしも似たようなもんだが・・・


『憂ちゃんはさ』

『はい?』

『なんつーか、妹!って感じだよなー』

『な、なんです突然』

『いやさ、唯と見た目は似てるけど中身は全然違うなーって』

『あー・・・よく言われます』

『唯も保護欲は誘うんだけど・・・妹ってのとは違うんだよなぁ』

『ダラダラしてるお姉ちゃん可愛いですよね!』

『憂ちゃんは本当にお姉ちゃんっ子だよな』

『はいっ!私、お姉ちゃん大好きですから!』


この笑顔を自分に向けさせたい・・・そんな欲望を持つまでに時間はかからなかった


25 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 14:50:28.94 p6V1mVNaO 4/37

「なあ律、最近なんか悩んでないか?」

「な、なんのことですかしらー?」

「隠したってバレバレだ、ストレスで前髪が後退してるぞ」

「な、何ぃ!?って後退してねーし!上げてるだけだし!」

「冗談だって。でも心配なんだよ。お前最近食欲ないだろ?」

「ダ、ダイエtt・・・」

「ストップ。私やムギならともかく、お前にその必要はないはずだ・・・言ってて悲しくなってきた」


澪に励まされる日が来るとは・・・正直一人で抱え込むのも限界だったし、相談してみるか?


「なあ澪、驚かないで聞いてくれるか?」

「なんだー?好きな人でもできたか?」

「ああ、そうなんだ」

「ちょ、正解か!・・・で、告白するかどうかで迷ってる・・・でいいのか?」

「ああ」

「なんだ、そんなこと。律なら大丈夫だよ、幼馴染の私が保証する!」

「・・・相手が女の子でも?」

「え?」


腰を抜かしてしまった澪を介抱して、近くのベンチに運ぶのにはいささか骨が折れた


26 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 15:02:48.18 p6V1mVNaO 5/37

「憂ちゃん、か・・・正直意外だな」

「最初聞いたとき唯の顔が浮かんだんだけど」

「まあ、当たらずとも遠からず、だったな」


そう言ってナハハと笑う。あれ、これ私が澪に相談してるんだったよな?


「で、どうして憂ちゃんが・・・その・・・す、好きになったんだ?」

「なんて言うのかな・・・憂ちゃんが唯の話をする時の幸せそうな顔。あれにやられたって言えばいいのか」

「唯が食べ物を前にした時みたいな?」

「そうそう、可愛いんだあれがー」


今自分がまさにそんな顔をしているんだが、この時は気づく余地もなかった・・・


31 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 15:31:39.31 p6V1mVNaO 6/37

「でもそれで何で憂ちゃんなんだよ。唯も同じような顔するって今自分でも同意しただろ」

「わかってないなー澪は」

「?」

「あのしっかりした子がふと見せる隙間がいいんじゃないか」

「唯なんて隙間だらけで新鮮さがないだろ」

「唯だってダラけてるだけで可愛・・・いや何でもない」

「え、何だって?」

「な ん で も な い」

「わ、わかったから落ち着けって!で、あたしはどうしたらいいと思う?」

「同性な上にシスコン・・・正直手強い相手だな」

「やっぱそうだよな・・・」

「とりあえず今以上に仲良くしていくか・・・あるいは」

「あるいは?」

「姉離れ・妹離れを促進させ、その隙を突くか」

「?」


話はこうだ。まずは唯が憂ちゃんに頼らなくても生きていけるというのを示す

すると憂ちゃんはそういうものだと割り切ることはできても、寂しさは隠せないだろう

その寂しさを狙い撃つのだ

つまり、あたしが唯の代わりに一緒にいることで憂ちゃんはあたしに懐くだろう・・・ということらしい


32 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 15:43:35.11 p6V1mVNaO 7/37

「でもそれって、依存の対象が唯からあたしに変わるだけじゃね?」

「う・・・でも、昔からこういうのは恋愛の王道の一つだし・・・」

「相変わらず少女漫画基準か澪」

「なんだよ!だったら他に代案はあるのか!?」

「ないから相談したんだけど・・・」

「なら黙ってなさい」

「はい・・・」


そんなこんなで計画は詰められ、翌日―つまり今日決行の運びとなったのだ


(よし、まずは唯を憂ちゃんから引き剥がす!)

「憂ちゃんくれ」

(ここで「駄目だよ!」と来たら澪が唯を再教育する流れに乗せるんだったな)

「いいよ」

(ちょ!事情とか聞いてくれよ!)


~冒頭へ~


34 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 16:02:45.27 p6V1mVNaO 8/37

「な、なあ唯・・・明らかにおかしいだろ、今の律の唐突な言葉」

「んー?確かに唐突だけど、私はりっちゃんも憂も大好きだから別にいいかなーって」

「」ブクブクブク

(おいどうするんだ澪)

(くそ、こうなればやぶれかぶれだ)


「り、律は憂ちゃん大好きかもしれないけど、憂ちゃんはどうなんだ?」

「憂もりっちゃんは大好きだと思うけど・・・」

「唯ほど思われてるとは思えないな」

「だ、だって私たちは家族だし・・・」

「そう、家族だ。だから甘やかすのも分かるけど、限度があるんじゃないか?(私はもっと甘やかしたいけどな)」

「どういうこと?」

「唯が憂ちゃんにべったりなせいで、憂ちゃんが姉離れできてないと思うんだ」

「あたしも憂ちゃんとベタベタしたいけど、今のままだと唯の方が優先されるに違いない」

「だから他でもない、唯に協力して欲しいんだ」


35 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 16:15:36.56 p6V1mVNaO 9/37

「つまり、憂に私はもう一人で大丈夫、そう思わせろ・・・と」

「理解が早くて助かる」

「でもそれってどうしたら・・・」

「そこで私の出番だ」

「澪ちゃんの?」

「ああ、私がしっかり唯を一人前にしてやるからな」

「わーい、澪ちゃんありがとー!」

「ちょ、唯こんなところで駄目だってああーっ!」

「」

「REC」

「まずお前をどうにかする必要がありそうな気が・・・」


まあ、ともあれこれで第一段階クリアーだ!


36 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 16:27:12.05 p6V1mVNaO 10/37

翌日から、唯は澪の部屋に泊まり込みで花嫁修業・・・のようなものを行うこととなった

唯の貞操が心配だが・・・まあ澪にそこまでの度胸はないと信じたい

そしてあたしは憂ちゃんのもとを訪ね、一人では心配だからという名目で泊まり込む運びとなっている

これが本番の前の仕込み・・・第二段階だ


「こんちわー」

「あ、ようこそ律さん。自分の家だと思ってゆっくりしていって下さいね」

「よーし、お姉ちゃんくつろいじゃうぞー」

「ニコニコ」

(ツッコミ無しか・・・これも姉妹の大きな違いだな。しかし可愛い)


「あ、お茶淹れますね」

「あたしも手伝うー」

「いいえ、律さんはお客さんなんですから・・・」

「なーに言ってんの、唯がいない間はあたしをお姉ちゃんだと思っていいから」

「でも・・・」

「いいからいいから。さ、お茶お茶~♪」

「・・・もう、それじゃ戸棚のお茶菓子をお願いします」

「よしきた!」


よし、掴みはOKだ!まずは疑似姉妹としての関係を・・・だったな


38 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 16:45:28.76 p6V1mVNaO 11/37

『いいか律、まずはお姉ちゃんっぽく振る舞うんだ』

『えー、隙間を狙い撃つんじゃなかったのかよー』

『そのための前準備だ。足場が固まってないと狙うものも狙えないからな』

『なるほど』

『第二のお姉ちゃんとしての立場を確保した後、それを利用する時を待つんだ』

『唯が本当に離れた後を・・・な』

『ゴクリ・・・』


一休みした後、とりあえず夕食を作ることにした

ここはあたしが!と言いたいところだが、残念ながら人並み程度にしか料理はできない・・・

というわけで憂ちゃんの補助に回ることに


「それじゃ律さんはサラダをお願いします」

「ほいきた」


手分けして作業を始める。やっぱり見事な手並みだなー、あたしがいない方が早いんじゃないか?

なんて思っていると、


「ふふっ」

「どうしたの憂ちゃん?」

「いえ、ただ楽しいなぁ、って。実は私、こうやってお姉ちゃんと一緒に料理するのに憧れてたんですよ」

「・・・・・」


もちろんお姉ちゃんに作ってあげるのも好きですけど、なんて言って再び笑う

あたしも同じだ・・・澪となら一緒に料理したこともあったけど。あいつは妹どころか姉みたいなものだからな

憂ちゃんと同じことを考えてた―たったそれだけのことで、小躍りしたくなる自分がいた


「ごちそうさまでしたー」


・・・二人でつくった夕食は、これまで食べたことのない味がした


39 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 17:02:56.59 p6V1mVNaO 12/37

「律さん、お風呂沸きましたよー」

「おー!んじゃ一緒に入るか!」

「えーっと・・・」

「冗談だよ冗談♪それじゃ先にもらうよー」

「は、はい!」


「ふう・・・」


さすがに一緒に風呂はハードルが高すぎたか・・・

というか、初日から何やってんだか・・・

いくら料理でいい感じだったからって、調子にのりすg


「あ、あの律さん?」

「ひ、ひゃい!?」

「一緒には入れませんけど・・・お背中、流しましょうか」

「」


40 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 17:26:41.05 p6V1mVNaO 13/37

ゴソゴシ・・・ゴシゴシ・・・

小気味良い音が風呂場に響く。これは夢かと見紛う光景だった

まさかこんな日がくるなんて・・・いやいや、この程度で満足してちゃ駄目だろ


「あーもう!」

「あっ・・・ど、どこか痛かったですか」

「ああ、いや違う違う、さっき憂ちゃん言ってたじゃん」

「?」

「お姉ちゃんとこんなことしたかった・・・ってさ」

「ああ・・・確かに言いました」

「あたしもそう思ってたんだ」

「え・・・?」

「つまり、妹と一緒に色んな事したかったんだよ」

「で、これもその一つなわけ」

「妹に背中流してもらって、お返しに流してやって・・・二人で一緒に浴槽につかるんだ」

「・・・・・」

「あっ、でも今はまだこれで十分だからね!?」

「ッ!」


慌てて後ろを振り返ると、憂ちゃんが走り去っていくところだった。あちゃー、今度こそやっちまったか・・・

一人になったあたしは、再び浴槽に体を沈めて思案に耽るのだった


42 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 17:55:27.18 p6V1mVNaO 14/37

(逃げてきちゃったけどどうしよう・・・)

「なんで?なんで律さんはこうも・・・」

――お姉ちゃんなんだろう

分かってる、律さんは律さん。私のお姉ちゃんは別にいる。でも・・・

――お姉ちゃんでいてほしい


私は昔からしっかりした子だね、と言われて育ってきた

逆にお姉ちゃんはどこか抜けてて、放っておけない子と言われてきた

私から見てもその通りで、私がしっかりしなくちゃ・・・ずっとそう考えてきた

もちろん私を頼ってくるお姉ちゃんは大好きだけど、その反面私の本当の願いは置き去りにされてきたのだ

――私のしたいことを一緒にやってほしい


そして今、私の願いを叶えてくれる・・・なんでも一緒にやってくれるお姉ちゃんが、すぐ側にいる


「お姉ちゃん・・・私どうしたらいいの・・・」


45 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 18:30:11.25 p6V1mVNaO 15/37

prrrrrrrrr

「メール?お姉ちゃんからだ」

「なになに・・・」


『じゃーん!今澪ちゃんに勉強見てもらってるんだ!』

『勉強終わるまでアイスは無しって言ったら凄いやる気だったぞ』


「澪さん・・・」


私には、そんな風にアメとムチみたいな真似はできなかった

駄目なお姉ちゃんも好きであるが故に、だ

でも、それじゃ二人とも駄目になってしまうんだとこの時初めて気がついた


「お姉ちゃんには、甘やかしてくれる人じゃなくて引っ張っていってくれる人が必要だったのかな」


それなら私には・・・


49 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 19:11:06.21 p6V1mVNaO 16/37

「あー、危うくのぼせるとこだった」


あてがわれた客間で一人ごちる。ずいぶん長く考え事をしてしまったらしく、まだ全身が熱い・・・


「明日からどうすりゃいいんだ・・・気まずすぎる」

「いや、明日に延ばすのはよくないか。今のうちに謝るしかないな」


そう決めて部屋から出ようとした刹那、


「あの・・・律さん?」

「う、憂ちゃん!?どどど、どうしたのさ」

「実はお願いがありまして・・・」

「一緒に勉強しましょう!」

「何ぃ!?」


50 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 19:26:10.24 p6V1mVNaO 17/37

まあ確かに、ここから通学することになっている以上、教科書類も全てカバンに入っているが。しかし・・・


「憂ちゃん、唐突にどうしたの」

「さっきの律さんの言葉を思い出しまして」

「あたしの?」

「元を辿れば私の言葉なんですが・・・やりたかったこと、です」

「勉強がそうだっていうの?」

「はい!」

「でも唯はよく勉強みてもらってたって言ってたよ?」

「はい、よくありました」

「ならなんで今?」

「私の意思で、こうやって一緒に勉強するのは初めてなんですよ」

「というか、勉強に限ったことじゃないですね・・・どんなことでも、まずお姉ちゃんの意思で、でした」


憂ちゃんが少し悲しそうに言う。この子はこんなにも唯が好きで・・・でも、だからこそ・・・


51 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 19:39:44.57 p6V1mVNaO 18/37

「それでもよかったんです、お姉ちゃんが大好きだったから」

「でも・・・」

「自分の本当の願いに気づいてしまった?」

「はい・・・私、お姉ちゃんの横を歩きたかったんです」

「お姉ちゃんの後ろを付いていくばかりじゃなくて、私自身の意思で歩きたかった」

「だって・・・このままじゃ私、お姉ちゃんがいないと・・・!」

―生きていけなくなっちゃう!


涙を零しながら告白する憂ちゃんを、あたしは―


「もう我慢しなくていいんだ」


―力いっぱい抱きしめた


「あたしもさ、唯ほどじゃなくても結構だらしなかったりするんだけどさ」

「それでもいいなら、期間限定でも、憂ちゃんのお姉ちゃんになりたい」

「律さん・・・!」


結局勉強も手に付かず、その日あたしたちは寄り添うようにして眠った


(ふう・・・事はそう簡単にはいかなかった)

(憂ちゃんの隠していた願望・・・あたしじゃなくて唯に話せば一発で解決しそうな気がする)

(唯が頼れる姉になって戻ってきたらそれでめでたしめでたしじゃないか)

(あたしなんでここにいるんだっけ・・・?)


澪に連絡を入れる気にもなれず、あたしは眠れるまで延々これからのことに思いを馳せていた


52 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 19:56:42.66 p6V1mVNaO 19/37

翌朝!

「律さーん、起きて下さーい」

「ん・・・?んー!おはよう憂ちゃん」

「さあ、朝ごはん作りましょう!」

「おお、やったろうじゃないか!」


素直にあたしを頼ってくれるようになった・・・それは嬉しい

あの笑顔、唯に向けられていたそれが今あたしに向いている・・・望んだとおりのことだ

しかし何故だろう、こんなに胸がモヤモヤするのは


53 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 20:13:15.52 p6V1mVNaO 20/37

「行ってきまーす」

二人で朝食をとった後、一緒に学校へ行く。といっても憂ちゃんは学校違うので途中までだが―


ギュッ

「?」

「えへへ」

「どうしたのさ、突然手なんて繋いで」

「何でもないでーす」


ドクン

まただ、また胸がおかしい

確かに好きな子と手を繋いで興奮はしてるけど、それだけじゃない

もっと別の――


「あっ、私こっちなので・・・」

「あ、そそそそうか・・・」

「また後でね、お ね え ち ゃ ん」

「!?」


爆弾を投下して憂ちゃんが去っていく

(お姉ちゃん、か)


嬉しいはずのその言葉が、どこかに鋭く突き刺さった気がした


54 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 20:27:10.56 p6V1mVNaO 21/37

私と律のミッションの間は、部活は休止ということにしている

理由は律と憂ちゃんの時間を増やすためだ

唯はムギのお菓子が恋しいようだが・・・


「よしよし。帰ったらまずお茶にしような」

「よかったー。ティータイムがないと私死んじゃうとこだったよ」

「そして練習だからな」

「うっ・・・でもギー太のためなら私・・・」

「そして夕食の後宿題だ、分かってるな」

「見えない聞こえない見えない聞こえない」

「こらこら、人の持ちネタを・・・って違う!」

「ごめんごめん。そうだよね、一つ積んでは憂のため・・・」

(そして私とお前と律のため・・・)

「わかったら帰るぞ!」

「うん!」

「REC」


58 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 20:52:39.71 p6V1mVNaO 22/37

「律さーん!こっちこっちー!」

「おー、憂ちゃん待ったー?」

「いいえ、今来たとこです」

「なんだかデートみたいなやり取りだな!」

「デ、デート・・・!?」


何でだろう、律さんはお姉ちゃんのはずなのに

デートなんかじゃないのに

・・・何でこんなに胸がドキドキするんだろう


「あれ?どうしたの憂ちゃん」

「え!?い、いいえ、何でもないですっ!」

「それじゃーまず何買おうか」

「えっと・・・そもそも今晩の献立考えてからですね」

「そういやそうか。憂ちゃんは何食べたい?」

「いえ、私より律さんが・・・って」

「・・・・・」ジー

「わ、私はハンバーグが食べたいかなー、なんて」


危ない危ない。律さんは私のお姉ちゃんなんだ。律さんには本音をぶつけなきゃ

そう、私のお姉ちゃんなんだから・・・


62 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 21:18:10.29 p6V1mVNaO 23/37

「ただいまー!」

「おかえりー!」

「プッ・・・」


何が楽しいのか、ケラケラと二人しばし笑い転げる。


「はあ、はあ・・・とりあえず荷物なんとかしよう・・・」

「は、はい」


「さて、平沢家三分クッキングのお時間です」

「先生、本日もよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

「さっそくですが、今日のメニューは何ですか?」

「今日は平沢家特製ハンバーグです」

「それは素晴らしい!レシピはどのような・・・・・」

「隠し味は・・・・・」


昨日より楽しく作れた夕食は、とってもあたたかかった


63 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 21:35:31.58 p6V1mVNaO 24/37

「で、今日もお風呂に入ろうと思うんだけど・・・」

「・・・・・」

「い、一緒に入る?」

「・・・・・はい」


「憂ちゃんって髪きれいだよなー」

「り、律さんこそ・・・髪下ろしててもいいのに」

「・・・」

「・・・」

「あ、ありがとう」

「い、いえ・・・こちらこそ」


昨日より早くあがったお風呂は、とってもぽかぽかした


65 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 21:52:31.61 p6V1mVNaO 25/37

「今日こそ勉強しましょう!」

「おー!」

「・・・」サラサラ

「・・・」カリカリ

「あのー律さん、ここがわかんないんですけど・・・」

「憂ちゃんにわかんないものをあたしがわかるわけが・・・」

「・・・」ジー

「わ、わーかったって!で、どこだって?」

「エヘヘ・・・えっと、ここなんですけど」

「あれ、中学違うのに教科書同じの使ってんじゃん」

「えっ、そうなんですか?」

「うん、うちも去年これだったな。さすがに細かいとこは違うとは思うけど」

「へー・・・」


昨日よりはかどった勉強は、とってもたのしかった


67 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 22:12:01.90 p6V1mVNaO 26/37

「ん~っ!もうこんな時間か」

「ふわぁ~あ・・・もうそろそろ寝ましょうか」

「そうしよっか」

「それじゃ・・・おやすみなさい」

「おやすみ、憂ちゃん」

「・・・・・」

「・・・・・」

「いや、自分の部屋に戻らないと」

「そ、そうなんですけど・・・もうちょっとだけ」

「仕方ないなぁ・・・ほら、こっちきなよ」

「エヘヘヘヘ、ありがとう、お姉ちゃん」

「ッ~~~~!」


昨日より近づいた距離は、とってもおおきかった

でも。


(お姉ちゃん・・・なんだよな)

(お姉ちゃん・・・なんだから)


その距離は、とってもとおかった


69 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 22:30:24.68 p6V1mVNaO 27/37

そして。


「律さーん、起きて・・・ってあれ?」

「おはよう憂ちゃん」

「今日は早いんですね」

「ああ、なにしろ今日は休日だからな!休日を満喫するためなら早起きなど朝飯前よ!」

「変わった考え方ですね・・・うちのお姉ちゃんは休日は昼まで寝てますよー」

「さすが唯・・・さて、朝飯作ろっか」

「はーい」


「さて、朝飯後なわけだが」

「これからどうしましょうか?」

「憂ちゃんはどっか行きたいとかない?」

「うーん・・・律さんと一緒ならどこでも・・・」

「ちょっ///そういうこと真顔で言わない///」

「あっ・・・すみません///」

「あ、そうだっ!」

「ど、どうしたんですか!?」

「澪んちに行こうぜ!」


70 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 22:40:10.59 p6V1mVNaO 28/37

「えっ・・・でも澪さんの家って今お姉ちゃんが・・・」

「そう、唯がいるな。でも、来ちゃ駄目とは言われてない」

「そうなんですか・・・?」

「そうなんだな。今気付いたんだけどさ。で、どうする?ここ数日で唯が変わったかどうか、見てみたくない?」

「そうですね・・・」


怖くはあった。もし仮に、お姉ちゃんが既に真面目人間さんになっていたら。その時私はどんな顔でお姉ちゃんに会えばいいのか?

律さんにしたように、甘えてみせればいいんだろうか。ん?律さんにしたように・・・?


「で、結論は!?」

「ひゃい!い、行きます!」


確かめてみよう、この気持ちを。もし同じようにできてしまったら、その時は――


72 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 23:01:47.34 p6V1mVNaO 29/37

「ぴんぽーん」

「はーい」

「開けるな唯!それは律の罠・・・」

「え?なに?」ガラガラ

「おっじゃまっしまーす!」

「お、遅かったか・・・」

「こ、こんにちは・・・」

「おお憂ー!なんだか久しぶりー!」

「ほんとだねお姉ちゃん。たった数日なのに・・・」

「はっはっは、あたしを止められるとでも思っていたのかい、秋山澪ちゅわん?」

「くっ・・・!」

「まあまありっちゃん。憂も、ひとまず上がって話そうよ」

「お、おう・・・」

「う、うん・・・」


お言葉に甘えて、上がらせてもらうことにした

お姉ちゃんがてきぱきとよく動く姿は、嘘のようだった


73 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 23:16:03.82 p6V1mVNaO 30/37

「どうぞ、粗茶ですが」

「ってうちのお茶だ!」

「ほお、これはよいお手前で・・・」

「オホホ、恐縮でございますわ」

「・・・・・」

「こちら、手前が直々に焼きましてございます」

「おおー、パンケーキとな!」

「たくさん練習した成果だ、味わって食べるんだぞ」

「な、なにもバラさなくても・・・憂もどうぞ~」

「う、うん、ありがとう・・・」


お姉ちゃんがそつなく接客をする様は、夢のようだった


75 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 23:24:39.19 p6V1mVNaO 31/37

「とりあえずここ数日の特訓の成果を見てよ!」

「ああ、唯のギターは本当にうまくなったよ」

「へー、楽しみだな憂ちゃん」

「は、はい・・・」


人の気も知らないでこの人は・・・

これが終わったら、全部元通り・・・ううん、お姉ちゃんが今の律さんの立場に戻るだけ

でも・・・

『期間限定でも、憂ちゃんのお姉ちゃんになりたい』

―そう言って受け止めてくれた律さんを。そのままお姉ちゃんに挿げ変えるなんて真似、できるわけなかった


78 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 23:38:36.11 p6V1mVNaO 32/37

「・・・ッ!」ダッ

「あ、憂ちゃん!?」

「え、え?何、どうしたの?」

「薬が効きすぎたか・・・どうするんだ、律?」

「もちろん、追っかけるに決まってんだろ!」

「ああ、行って来い行って来い。やれやれ、とんだ茶番じゃないか」

「まあまあ澪ちゃん。私はけっこう楽しかったよ?」

「唯がそういうんならそれでいいか・・・」

「ふふっ、でもどうせ二人から連絡があるまでまだ時間あるでしょ」

「そうだな・・・せっかくだから寸止めされたセッションでもするか」

「イェーイ!私の歌を聞けー!」


律たちが来る少し前。

prrrrrrrr

『ん、律からメールだ・・・なになに?』

『これから第三段階に入ろうと思う。唯と準備して待っていてくれ』

『まだ早いだろ!って言って聞くような奴じゃないか・・・仕方ない』

『ゆいー、お茶の用意だー』

『はーい!』


80 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 23:49:41.60 p6V1mVNaO 33/37

ハァ、ハァ・・・

どこまで走ってったんだ、あの子は?

ん?あの後ろ姿は・・・


「やっと見つけた!」

「ひゃっ!」


唯に似ている、だけど見間違えるはずもない背中


「髪、解けてるよ」

「えっ・・・?夢中で走ってきたから気づきませんでした・・・って!」

「へへー、捕まえたー」

「は、離して下さい!」


胸がズキッと痛んだ。そういや憂ちゃんに本気で拒絶されたのは初めてか・・・


「なあ、もう終わりにしよう。唯がちゃんと進歩してたのは見ただろ?唯なら受け止めてくれる。あとは唯に―

「嫌です!」

「なんで・・・!」

「それじゃ律さんがお姉ちゃんの代わりみたいじゃないですか!」

「そう、代わりだったんだよ!」


81 : 以下、名... - 2010/06/27(日) 23:55:46.08 p6V1mVNaO 34/37

「今回の件は、ただ二人を姉離れ、妹離れさせるためだけのものじゃなかったのさ」

「どういう・・・ことですか?」

「あたしが、姉離れした憂ちゃんの寂しさに付け込んで仲良くなろう、って・・・そんな計画だったんだ」

「嘘ですっ!」

「嘘じゃない!」

「この後、家に戻った唯の一人立ちした姿を見て、憂ちゃんは寂しさを覚えて」

「そこをあたしが・・・って計画だったんだ」

「そ・・・んな・・・」


ああ、もう終わったな・・・

やっぱりこんなの最初からやめときゃよかったかなぁ・・・

でも、あたしはけじめをつけなきゃいけないんだ


82 : 以下、名... - 2010/06/28(月) 00:00:43.00 wETrR3wsO 35/37

「ごめんね憂ちゃん・・・憂ちゃんの気持ちも考えないで」

「でも、短い間だったけど、本当に妹ができてうれしかったなぁ」

(本当はお姉ちゃんじゃなくて、ずっと一人の女の子として接したかったけど)


「本当ですよ・・私の気持ちも考えないで・・・」

「ああ・・・どんなに謝っても足りないけど・・・ごめん」

「私がどんな思いで妹として接してきたか・・・」

「本当にごめん・・・」

「勝手に私の中に入ってきて!勝手に作り変えていって!挙げ句勝手に出ていくつもりですか!」

「そんなの許しませんよ・・・」

「ごめ・・・ん?」

「責任を取って下さい」

「え?」

「お姉ちゃんとしての責任じゃありません」

「律さんとして責任を取って下さい」


これは・・・どういうことだ?憂ちゃんは何を言っている?


86 : 以下、名... - 2010/06/28(月) 00:03:03.15 wETrR3wsO 36/37

「えーっと・・・それはどういう・・・?」

「わかりませんか?」

「皆目」


しばし憂ちゃんはうーんと考えていたが、やがて。


「えいっ」チュッ

「な!?」


・・・何だ?今、キスを、された、のか?


「な、何考えてるんだ!私は憂ちゃんに酷いことを・・・」

「確かにびっくりしましたけど・・・それ以上に嬉しかったですから」

「嬉・・・しい?」

「はい!考えてみたんですけど、律さんが本当の計画をバラすメリットって無いですよね」

「む・・・」

「私と仲良くしたいなら、黙って慰めればいい。違います?」

「う・・・」

「そうしなかったのはどうしてかなー、って考えたんですけど」

「律さんは誠実でありたかった、んじゃないですか?」


参ったな・・・これは敵わないや


87 : 以下、名... - 2010/06/28(月) 00:04:13.97 wETrR3wsO 37/37

「降参だよ、その通りだ。あたしは憂ちゃんに嘘をついていたくなかったんだ」

「だから姉でいることが辛かった、もちろん嬉しくもあったけど」

「やっぱり一人の女の子として付き合いたかったからさ」

「律さん・・・」

「私も、ですよ」

「私にとってお姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃんで、律さんは律さんだったんです」

「お姉ちゃんにはあんなふうに甘えられる気は・・・しないんですよね」

「結局、律さんはお姉ちゃんの代わりなんかじゃなかったんですよ」

「憂ちゃん・・・ありがとう」

「お礼を言うのはこっちの方です。この数日、とっても楽しかったです」


ああ・・・確かにもう終わりだったみたいだ


「それじゃ・・・帰ろうか」

「はい・・・」

「さようなら、お姉ちゃん」


「大好きです、律さん」

「あたしも大好きだ、憂」


おしまい


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