トコトコ
梓「うぅ……寒い、お腹すいた……」
梓「森ももうすぐ冬かぁ……」
梓「冬になる前に……ちゃんとしたおうち見つけないと」
梓「ここ、どこなんだろう」キョロキョロ
梓「随分遠くまできちゃったな……うぅ、それにしてもお腹すいた……」
梓「何か食べる物落ちてないかなぁ」
「じー……」
梓「な、なんか視線を感じる……」
「うふふ、おいしそー……」
梓「えっ、だ、だれ!? だれかいるの!?」
ガサガサッ!
唯「いえーい! 食料ゲットー!」ガバッ
元スレ
唯「美味しそうな子猫ちゃん発見!」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1302234349/
ギュウウ
梓「きゃああっ!!」
唯「んふー、おいしそー」スリスリ
梓「いやああっ、何!? 誰!?」
唯「おやおや、私のことを知らないとは」
梓「えっ……あ!! そ、その耳と尻尾!! まさか……ひ、平沢狼姉妹!」
唯「の姉の方でーす! えへへ」
梓「う、うそ……そんな、なんでこんなところに……」
唯「なんでって、君が私の縄張りでうろうろしてたんだよ?」
唯「えへへ、だからもう私の物。さて、持って帰って食ーべよっと」
梓「いやああっ!! やめてください! 食べないで! 離してください!」
唯「せっかくの餌をみすみす逃すわけないよー」
唯「さぁおとなしくして、こらっ、暴れないで」
梓「いやっ、いやああっ!!」
唯「うるさくするともうここでガブリといっちゃうよ?」
ほらあな
唯「ういー、帰ったよー」
憂「あ、おかえりお姉ちゃん。早かったね」
唯「ほら、おみやげ」ペイッ
梓「うっ……」
憂「わぁ! おいしそうな猫さん!」
梓「あわわわ」
唯「ふふ、かわいーでしょ。さっきそこ歩いてたから捕まえてきた」
憂「お料理はまかせて!」
唯「せっかくだしおいしくいただきたいねー」
梓「や、やだ……やだ……」
唯「食べる前にお名前だけ聞いといてあげる、じゅるり」
梓「ひっ……」
唯「ほら、いってごらん?」
梓「あ、梓です……ぴゅあぴゅあ森の梓です」
唯「きいたことないねぇ、憂しってる?」
憂「ううん」
梓「あの……」
唯「ここはふわふわ森だよ?」
梓「そうなんですか……」
唯「迷子かな? まぁ関係ないか。どうせもうすぐ私たちのお腹の中だしね」
梓「ひい」
憂「もー、おびえてるでしょ。だめだよーせっかくのお肉が固くなっちゃう」
唯「そっかそっかごめんねあずにゃん」
梓「あ、あずにゃ……?」
唯「猫なんだしあずにゃんでいいじゃん。可愛いと思うよ」
憂「お姉ちゃんはね。たとえ餌とは言え、いちいちあだ名をつけるんだよ! 変わってるでしょ!」
梓「そ、そうなんですか……」
唯「よし、準備しなきゃ!」
梓「準備って……うにゃあああ」
憂「あ、こらっ、お姉ちゃん捕まえて」
唯「りょーかい」ガシッ
梓「ああああっあ、食べられたくないですーうわあああん」
唯「もうっ、おとなしくしてよあずにゃん」
憂「うーん、それにしても汚れてるね……」
唯「そだね。じゃあちょっと洗ってくるよ」
憂「うん!」
梓「いやですーいやですー!」ジタバタ
唯「暴れちゃだめっ!」
梓「に"ゃあああっ!!」ジタバタ
唯「もー!」
外
唯「ほら、こっちだよ」
梓「……」
唯「ね? ちょっと洗うだけだから」
梓「うぅ……グス」
唯「えへ、泣いてる顔もおいしそー」
梓「……」
唯「ほら見て! ついた! 温泉だよ!」
梓「えっ……わぁ!」
唯「私の縄張りの唯一の自慢なんだよ! さぁ入って入って」
梓「で、でも……」
唯「あったかくてきもちーよ!」
梓「……」
唯「ほら、あずにゃんそんな格好じゃ寒いでしょ? 入ろうよ」
梓「……」
唯「その服脱がなきゃ」
梓「は、はい……」スルスル
唯「これなんの葉っぱで出来てるの? 変わってるね」
梓「えっと、バナナです」
唯「ふーん、それでちょっと甘い匂いがするのかな」
梓「脱ぎました」
唯「よーし! 一緒にはいろ! よーく洗わなきゃ」
梓「うぅ……」
唯「ほれ、あずにゃんちゃぷーんといっちゃいなよ。ほんと体の芯まであたたまるよ」
梓「わかりました……」
チャプ
梓「ふぁ……」
唯「むふふ、いいねいいね。ほれ、もっと肩までつかって」
梓「あっ……あったか……」
唯「じー……」
梓「にゃ、なんですか……?」
唯「予想以上に貧相な体つきだなぁとおもって」
梓「えっ……」
唯「これじゃあんまり食べ応えが……」
梓「そ、そうでしょ! 私みたいなちんちくりんなんて食べてもちっともおいしくないですよ!」
唯「味はまだわからないけど」
梓「いえいえ! いままでろくなもん食べてきてませんしきっとおいしくないです。栄養もないし肉もバサバサですよっ!」
唯「そうかなー」
梓「あ、あと、毒とかもあったり……」
唯「じー……」
梓「ひうっ」
唯「ちょっとこっちおいで?」
梓「あう……はい」オズオズ
唯「ぎゅっ」
梓「な、なんですか?」
唯「あったかー……じゅるり」
梓「やっ……やだっ食べる気!?」
唯「もう我慢できないよ……でもだめだめ憂に怒られちゃう」
梓「助けてっ! いやああ」
唯「味見だけ……味見するだけ……えへへへ」
梓「にゃああっ、離してぇ!」
唯「ペロり」
梓「ひっ!!!」
唯「ペロ、ペロ……う、うまい!」
梓「~~~~ぃ!!!」
唯「ん? 怖くて声もでないの? あはは、かわいかわいー、いますぐ食べたりしないのに」
梓「あっ……あぅ……」
唯「ん、あれ、なんかお湯の色が……あーー!!!」
梓「あっふ……えぐ……」
唯「こ、コレは……あわわわ、やっちゃった」
梓「えぐ……グス」
唯「よしよしごめんね」ナデナデ
梓「えーん、うわあああん」
唯「ちょっと怖がらせすぎちゃった……」
梓「あっちいって! いやああ!!」
唯「ご、ごめんってばぁ」
唯「あーあ、せっかくの洗い場が……」
唯「くんくん、うっ……やっぱりこれおしっこだよね……」
梓「ひっぐ、えぐ……ばかぁ……」
唯「もういいや、憂のとこもどるよ。ほら、あがって」
梓「うええええん」
唯「お肉かたくなっちゃったかなー、はぁ……」
ほらあな
唯「……というわけでして」
唯「しばらく温泉つかえません……」
梓「……」
憂「めっ!!」
唯「ひいいいっ、許してぇ」
憂「もうっ、お姉ちゃんはすぐ調子のるんだから!」
唯「だってぇ、あまりにもおいしそうだったんだもん」
憂「温泉で心も体もリラックスさせて柔らかくなったお肉をいただこう作戦が台なしだよ」
唯「……でへへ、めんぼくない」
梓「……あの、それで」
憂「あーあ、じゃあもう適当に食べちゃう? もう香辛料は貴重だから使わないでおくね」
梓「えっ!? 結局たべられ……ひいいいい」
唯「だ、だめだよ憂ー。あずにゃんはおいしくいただきたいよ。きっと耳から尻尾の先まで超おいしいよ」
憂「じゃあもうお姉ちゃん勝手にしてよ。私料理しないから! わがまま!」
唯「う、憂……」
憂「……ご、ごめん。最近この辺の縄張り争いも激しくなってきて、イライラしてるかも。ごめんね」
唯「ううん、いつもありがとう」
憂「しかたないよ……お姉ちゃんは体が……」
唯「だめな姉でごめんね……」
梓「あ、あの……」
唯「なぁにあずにゃん」
梓「わ、私はどうすれば……逃げていい感じなんですかね……?」
唯「うーん、どうしよう。私としてはいますぐ食べちゃいたいんだけど」
唯「じー……」
梓「えっと……」
唯「こんな貧相なのを食べて果たして満足するのか、いやきっと物足りない!」
梓「は、はぁ……」
唯「だからあずにゃんはまるまる太らせてから食べることにするよ! そのほうが食べ応えがありそう!」
梓「えっ」
唯「だって味見だけであんなにおいしかったんだよ!?」
憂「えっ、味見したの!? ずるい!」
唯「おいしいものはなるべくたくさん食べたいってのは動物の本能だよね!」
梓「に、逃がしてはくれないんですね……」
唯「……あずにゃん、外見てみなよ」
梓「……」チラッ
ヒュオオオオ……
梓「さ、寒そう……」
唯「冬がやってくるんだよ。この時期もうご飯なんて落ちてないよ」
梓「うっ……」
唯「外に出て寒さと空腹で野垂れ死ぬか、私たちのごちそうとなる日までここでぬくぬく過ごすか」
唯「あ、でも後者の場合、私たちの食料がつきたら否が応でも非常食になってもらうよ」
唯「さぁどっち!?」
梓「ど、どっちも……ヤですけど……」
唯「えー? 何言ってるのせっかくお互い納得のいくいい選択肢を用意してあげたのに」
梓「納得って……食べられたくないですし……」
唯「この世は弱肉強食だよ!」
梓「うぅ……」
唯「むふふ、あずにゃんは今お腹すいてるんだよね?」
梓「す、すいてませんし!!」グゥー…
梓「あっ、い、いまのはそのっ! 違っ」
唯「うふふ、奥においしいお魚とかあるんだけどなー?」
梓「むぐ……」
唯「春がきたらお祝いであずにゃんを食べようと思うんだ」
梓「……」
唯「よかったね。春まで生きながらえるよ!」
梓「……そんな」
唯「どうせ私につかまらなかったら二、三日で行き倒れてたんだし、儲けもんだと思いなよー」
梓「わかりました……」
唯「おおっ! で、どっち!?」
梓「……」グゥー…
梓「お魚ください」
唯「えへへっ! なら決まりだね」
梓「……絶対太ってなんかやりませんから」ブツブツ
唯「ういー、私ねー、あずにゃんを育てて食べることにするよ!」
憂「そっか、わかった。でもウチの備蓄が底つかないようにしてね」
唯「だいじょうぶだいじょうぶ」
憂「本格的に冬がきたらまた私一度外へ縄張り争い行くけど、お姉ちゃん平気?」
唯「うん! あずにゃんといい子に待ってる」
梓「……」
憂「梓ちゃん。餌の分際でお姉ちゃんを困らせたらだめだよ? そのときは私がこの牙と爪で……」ギラリ
梓「……はい」
憂「うん!」
こうして私は平沢狼姉妹に飼われながら厳しい冬を過ごすことになりました。
そしてそれから数日…
梓「んぅ……あっ、何ですか……ちょ、っとぉ」
唯「えへー、あずにゃーんあったかー」
梓「離してください……まだ唯ワンのこと怖いんですから、ほらお肉かたくなりますよ」
唯「そんなことないもーん、あずにゃんは緊張したら尻尾がピーンってなるもーん」
唯「でもほら、いまは」サワサワ
梓「ふぁ……や、やめ……」
唯「ね? ぴくぴくってしてる」
梓「触らないでください」
唯「おいしくなーれ、おいしくなーれ」ナデナデ
梓「うぅ……不健康な生活してやる」
唯「あ、そうだ。そろそろ味見の時間だね」
梓「えっ……またですか」
唯「毎日きちんと調べとかなきゃ、これは憂にも任せられた私の仕事なのです!」
そういうと唯ワンは手慣れた手つきで私を一糸まとわぬ姿にし、
ふわふわのワラの布団の上に仰向けに寝かせます。
梓「あの……恥ずかしいんですけど」
唯「よーし、はじめるよ! んじゃ今日はここから。んむ、ペロッ」
梓「ひゃっ、そ、そこはっ」
唯「んむ、ペロ、ちゅむ、ペロペロ」
唯ワンのざらついた舌が私の小さなふくらみの上を優しく這う。
皮膚がとけちゃうんじゃないかと思うくらいに丹念に丹念に舐め回され、
恥ずかしさでだんだん自分の顔が紅潮していくのがわかります。
梓「んにゃっ……や、やめて……っ」
唯「んふーおいひー、やっぱここは美味しい部分だからしっかり育てていきたいなー」
梓「な、なめちゃヤです……んむっ」
唯「ねーねー、さきっちょも舐めていい? いいよね?」
唯「どんな果実よりもおいしいもんね!」
ちゅむっ、という音とともに唯ワンは無邪気な顔で私のひかえめな胸の先端を口にふくむ。
そのまま舌先でちろちろと転がしたり、ちゅうぅっと吸って引っ張ったり。
そんなことをされてるうちに私のそこはだんだん血があつまってきて……
唯「うふ、あずにゃんどうしたのかなー、もしかしてただの味見でおかしな気分になってる?」
梓「ちがっ、あっ、やんっ」
唯「ほれほれー、もっとおいしくなーれ」
ちゅむ、ちゅぷ、チュウウウッ
梓「あああっ、んぁっ、やめてくださっ、いっ」
唯「むー、もっとにゃーにゃー鳴いていいんだよ」
梓「そ、そんな……」
唯「これでお乳がでたら完璧な家畜だったのになー、ちゅ、ちゅむ」
梓「でるわけないですっ、だ、だからやめ……ひゃうっ」
唯「んー、もっとー」
ちゅ、ちゅぅ、ペロ、チロチロ
ざらついた舌による長い長い蹂躙。
そうして体の至る所を舐め尽くされるころには、私はいつも放心しきっています。
唯「んはー、おいしかった。早くむしゃむしゃっと食べちゃいたいなぁ」
梓「あ……あっ……う」ピクピク
唯「え、どうしたの? ベタベタ気持ち悪い?」
梓「うにゃ……」
唯「あー、温泉入らなきゃね」
梓「は、はひ……」
温泉
唯「ほれ、入ろうよ。寒いでしょ」
梓「……」
唯「あ、まだおもらしのこと引きずってるんだ、あははは」
梓「うー!!」
唯「あずにゃん温泉はおしっこするとこじゃないのにあはははは」
梓「ひどいです!」
唯「うそうそ、ごめんって。あははははは、怒らないでっあはは」
梓「唯ワンのせいですから!」
唯「はいはい、私が全部悪い。いいから入ろうよ」
梓「……はい」
チャプ
唯「ふー、あったかー、さいこー!」
梓「……くんくん……大丈夫かな」
唯「このお風呂はねー、身体にすっごくいいんだってさー」
梓「そうなんですか」
唯「私のために憂が勝ちとってくれたんだよ」
梓「唯ワンのために? どういうことですか?」
唯「あ、ううん、なんでもないの。忘れて」
憂「あ、お姉ちゃんたちこんなところにいたんだ」
梓「う、憂ワン!」
憂「ん? どうして怯えた顔するのかな?」
梓「あうあうあう……」ガタガタ
唯「大丈夫だよあずにゃん。憂はあずにゃんのこと食べたりしないよ」
梓「そうなんですか?」
唯「春まではね」
梓「ひぃっ」
憂「私も一緒していい?」
唯「みんなで一緒に入ろうよ」
憂「うん!」ヌギヌギ
梓「……」
憂「うん?」
唯「どったのあずにゃん」
梓「い、いえ……その」
唯「あ~ずにゃん、言ってごらん」ムギュッ
梓「うっ……姉妹揃って胸のあたりとか私よりよっぽどおいしそうなお肉してるじゃないですか」
唯「ほえー」
憂「そんな目でお姉ちゃんのこと見てたんだ。この肉」
梓「ひっ、ご、ごめんなさい」
憂「お姉ちゃん。しっかりしつけなきゃだめだよ。餌には餌の振る舞い方があるんだから」
唯「うん!」
憂「私なら日が暮れるまでにビシっとバシっとできるけど、代わりにしてあげようか?」
梓「け、結構です!!」
憂「お姉ちゃんは甘すぎだよ」
唯「えー、でもあずにゃんにはすくすく健康に育って欲しいし」
憂「それはわかるけど……」
唯「えへへ、明日はあずにゃんと森の服屋さんにいくんだよー」
梓「えっ、そうなんですか?」
唯「うん、いつまでもバナナの葉じゃ寒いでしょ」
梓「たしかにそうですけど……」
唯「可愛いのがあるといいねー」
梓「可愛い必要あるんですか」
憂「お姉ちゃんなんだか嬉しそう……」
唯「あずにゃんといると楽しいよ! いい匂いするし! お腹はすくけどね」
憂「あ、じゃあ少し狩りにでる時間ながくしても大丈夫? 最近は遠出しないとなかなか見つからなくて」
唯「うん、わかった」
憂「それと、前もいったけど私もうすぐ縄張り争いだからね。しばらく空けるけどお姉ちゃん大丈夫?」
唯「留守はまっかせなさい!」
梓「縄張り争いって?」
唯「ほら、私たちは縄張り意識が強いから」
憂「またお庭広がるといいね」
唯「憂はこの森で一番強いから大丈夫!」
憂「えへへ、お姉ちゃんのためならいくらでも強くなれるよ」
唯「あずにゃんは前はぴゅあぴゅあの森にいたんだっけ?」
梓「あ、はい。でももうあんまり食べ物がなくて」
唯「それでふらふらしてたらこっちまで来ちゃったと」
梓「そういうことです」
唯「んふー」ナデナデナデナデ
梓「にゃっ、なんですか」
唯「可愛いお客さん、ようこそふわふわ森へー」
梓「そのお客さん食べようとしてるんでしょ!!」
唯「えへへー。私たちはなんでもおいしく食べちゃうグルメだから」
梓「最低です」
唯「このあと少しお散歩して晩ご飯たべてー、あずにゃん味見してー、おやつたべてー」
憂「たべてばっかりだね」
唯「冬に備えて体力つけなきゃ!」
梓「間違えて私を食べちゃうなんてことにならないでくださいよ」
憂「でも手が滑ってお料理しちゃうかも」
唯「ういー! あずにゃん勝手にたべちゃだめだよ。私のなんだから」
憂「もうっ、わかってるってば、うふふふ」
梓「こ、怖い……」
唯「ほら憂! あずにゃん怖がらせたらまたおもらししちゃうでしょ!」
憂「そうだったね。すぐもらすもんね」
梓「うぅ、うるさいです! だいたい誰のせいだと思ってるんですか!!」
憂「あれー? いまなんて言ったのかな?」ギラリ
梓「 」ジョボボボ
唯「あー、もう憂は爪も牙も隠しなよー」
梓「あうあうあううあ」ビクビク
翌日
森の服屋さんさわちゃん
さわ子「んー、次はこれ着てみてー」
梓「うぅ……あと何回きせかえたら気が済むんですか」
ヌギヌギ イソイソ
さわ子「あ、ぴったり。さすが私」
唯「ねーさわちゃん、あずにゃんには桃色が似合うんじゃないかな」
さわ子「そうねぇ……あ、これなんてどう?」サッ
唯「あ、かわいいね! このふりふりどうやってつくったの?」
さわ子「内緒! でもとってもいい葉を使ってるのよ」
梓「あの……私もっと動きやすいやつのほうが」
唯「そうだねぇ、私も脱がせやすいやつがいいかな、毎日味見するし」
さわ子「ふーん。そういうもん? てか味見って何よ」
唯「あんまり持ち合わせもないし、もういま着てる奴にしよ?」
さわ子「えーほんとにそれにしちゃうの? もっと可愛いのあるのに」
唯「いいじゃんいいじゃん! また買いに来るから」
さわ子「ちぇー、これなんて自信作なのに」
梓「うっ……なんかドギツイ色ですね」
さわ子「あのね子猫ちゃん。意中の相手を誘惑するには視覚効果の高いキツイ色を選ぶべきなのよ」
梓「全然意中の相手じゃないです」
唯「餌!」
梓「それ言い切らないでくださいよ」
さわ子「なぁんだ、つまんないの。唯ちゃんにも春がきたと思ったのにー」
唯「え? もう冬だよ? あ、そうだ。はいさわちゃん、お支払いはこの果物の盛り合わせで」
さわ子「はいどーも、って全然足りないわよ」
唯「ごめーん、春払いで! 春になったら絶対払うから!」
さわ子「しかたないわね。この時期だものね」
梓「なんか、すいません」ペコリ
唯「じゃあねー」
梓「うっ、外寒っ……」
唯「わぁ、今年は厳しいぞー。雪ふるかなー」
梓「冬をのりきれない動物って一体どれくらいいるんでしょうね」
唯「さー、私も憂がいなかったらやばかったかもー」
梓「唯ワンはさすがに働かなさすぎです。いつもゴロゴロして」
唯「でへー、だってぇー」
梓「あ、帰ったら何します? たまには憂ワンのためにご飯とか用意しないんですか?」
唯「するけどさー、またお姉ちゃん材料無駄にしてー! なんて怒られるもん。特にこの時期はね」
梓「あぁ……なるほど……うっ」ブルブル
唯「寒いねー。あ、そうだ、こうやって」
ギュ
梓「んにゃ」
唯「抱きつきながら帰れば多少マシ、はうーあったかー」
梓「……帰るまでですからね」
唯「帰ったらすぐ温泉はいろう温泉!」
梓「ですね」
唯「そのあと味見してーまた温泉かなー」
梓「もう、ほんとやることない人ですね」
唯「んお!? あ、ちょっとまって。この木」
梓「? 随分おっきい木ですね」
唯「おーい和ちゃーん!」
梓「のどかちゃん?」
唯「和ちゃーん! 私だよー! 降りてきてー!」
梓「なんなんです?」
唯「のーどーかーちゃーん!! あ……駄目だ、まだ明るいから寝てるんだ」
唯「あのね、ふくろうの和ちゃんがこの木の上に住んでるんだよ」
唯「森一番の博識でね。私たち姉妹にいろんな事を教えてくれるんだよ」
梓「へぇ、そうなんですか……ふくろう……じゅるり」
唯「えっ」
梓「い、いえなんでもないですよ」
唯「あずにゃん……」
梓「ただ贅沢ながら最近魚と果物ばかりというのも飽きてきまして」
唯「だ、だめだよー、和ちゃんはお友達なんだから」
梓「お友達……で、私は?」
唯「餌」
梓「ですよねぇ」
唯「さて、和ちゃんはまだまだ起きる気配ないし、帰ろっか」
梓「はぁ……このまま一生春なんか来てほしくないです」
唯「はーるよ来い! はーるよ来い!」
唯「ぽかぽかぬくぬく、たくさんの命が芽吹く最高の季節だよぉ!」
梓「ここに一つ終わる命がありますけどね」
唯「わおーん♪」
……
チャプ チャプ
梓「ふあー……落ち着きます」
唯「んむ」
梓「やっぱ新しい服は着心地いいですよ、ありがとうございます」
唯「それであずにゃんの心もお肉も柔らかくなるなら大した出費じゃないよ」
梓「なりませんし」
唯「ストレスのかかった環境で育ったお肉はおいしくないんだよ!」
梓「それは聞いたことありますけど……」
唯「いまね、私のお友達のりっちゃん、あ、狐律っていう子がね試してるんだよ」
唯「澪ぴょんっていうウサギさんを愛情込めて育ててるらしよ」
梓「そうなんですか」
唯「いいなーりっちゃんは。澪ちゃんは胸がおっきいからたくさんお乳がでるらしいよー」
梓「へぇ……食べなくても一緒にいるだけですごくお得なんですね」
唯「……じー」
梓「私はでませんから。しってるでしょ。あ、やめてくださいそんな哀れんだ顔」
唯「あずにゃんからお乳がでたら私食べずにそのままいてもらうのに」
梓「お乳ってそんなにいい物なんですか?」
唯「栄養たっぷりなんでしょ? 私あんまり飲んだことないから知らないけど」
梓「そ、そうなんですか」
梓「むむ……どうやったらでるんだろう」モミモミ
梓「おっきくないとだめなのかな」モミモミ
唯「ムリムリ、そんなことしてもおっきくならないよーだ」
梓「うっ」
唯「まずは身体もおっきくならなきゃ! いっぱい食べていっぱい寝てすくすく育ってね」
梓「でもたくさんたべたら太っちゃうし……どうしよ」
唯「困るなぁ、こっちとしてはまるまる太ってくれないと食べ応えがないんだけど」
梓「食べると太る……けどお乳が出て結果的に助かるかもしれない」
梓「けど中途半端に太って、お乳が出ずに食べられちゃったら……うぅう」ブルブル
唯「ね、ねぇ、なんか尻尾がピーンってなってるけどそれ、お、おもらしの合図!?」
梓「違います!! 真剣に今後の在り方を考えてるんです!!」
唯「絶対逃げないでね」
梓「……」
唯「だめだよ逃げちゃ」
梓「……それは……わかりませんし」
唯「ううん仮に逃げてもね、ほら私たちって、クンクン……鼻がきくから!」
梓「あっ……」
唯「あずにゃんの臭いをどこまでも追いかけるよ」
梓「むむ……」
唯「そのときは悲しいけど、見つけたらその場でガブってやっちゃうね。もう逃げてほしくないから」
梓「……わかりました、それはとても怖いので逃げだしたりしません」
唯「でしょ! 私だって新鮮なあずにゃんをおうちでゆっくり食べたいからね!」
梓「あ、ちなみに私ってどんな味するんですか?」
唯「なんかねー、甘いよ?」
梓「嘘でしょ。果物じゃあるまいし」
唯「わかんないけど甘いよ? ちょっと舐めさせて。ほんと甘いから」
梓「だ、だめですよぉ……そんなの」
唯「いいじゃんいいじゃん。ほら、温泉の中なら舐めてもすぐ洗えるし~」
梓「ひっ、いやああああん」
唯「ほれほれ、ペロペロ狼だぞー」
ちゅ、ペロ、ちゅむ
梓「うぅっ、くすぐったっ……いっ……んっ」
唯「あまあま、ちゅぷ、んまんま」
梓「うえええん、ザラザラしてて気持ち悪いですー」
唯「えー? あずにゃんだって舐めてもらうの好きでしょ? 猫はみんなそうだって聞いてるよ?」
梓「ち、ちがいますぅ。ほんと嫌ですからやめてください」
唯「とか言っちゃって~、あずにゃんの尻尾は嘘つかない。ふりふりって」
梓「にゃああっ……!」
唯「ほんと食べちゃいたいくらい可愛いね」
唯「こんなおいしい猫さん拾えるなんて私ってラッキー」
ペロペロ ペロペロ
憂「あ、おねえちゃん、またこんなところで」
唯「ちゅ、ペロ……あ、憂ー。今日の狩りどうだった?」
憂「最後の狩りにしてはあんまり。果物もなかったよ」
唯「そっかぁ」
憂「それと、私そろそろ行ってくるね」
唯「あ……そっか、縄張り争い」
憂「争うか話合いかはわからないけど、この辺のリーダー格は全員集合だからね」
唯「一人で大丈夫?」
憂「一応お供に純ワンをつれてくね」
唯「あぁ、こないだ憂が拾った汚い犬……」
純「失礼な!」
憂「お姉ちゃんだって汚い猫拾ってきたじゃん」
梓「失礼な!」
唯「とにかく、無事に帰ってきてね憂。私憂がいないと……」
憂「うん! できればおみやげももって帰ってくるね!」
梓「……いってらっしゃい」
憂「心配してくれてるの?」
梓「そんなんじゃないけど……憂ワンは唯ワンにとって大事な人だし」
憂「餌にこんなこというのも変だけど、お姉ちゃんのことよろしくね」
梓「えっ」
憂「ちゃんとご飯たべて、元気にあったかくして過ごして」
梓「う、うん……」
唯「あずにゃんあったかー♪ えへ~」
憂「陽の出てる日はちゃんとワラ布団干してね、服もちゃんと洗ってね、ご飯は配分を考えて」
唯「わかってるわかってるー」
憂「心配……」
梓「わ、私がやるから!」
唯「え?」
梓「憂ワンがいない間は私がなるべく唯ワンのお手伝いします!」
憂「うん……そっか。ならすこし安心かな」
憂ワンは優しく微笑むとそのまま純ワンを連れて出発しました。
集合場所は山を二つこえた先にあるそうです。
戻ってくるまでどれくらいかかるかわかりません。
それどころかこの寒さの中、無事にもどってこれるかどうかも……。
唯ワンはその晩ずっと憂ワンの向かった方向へ遠吠えを繰り返していました。
そしてこの広いほらあなに唯ワンと二人きりになってから数日がたち――――
唯「うわーん、今日はホント寒いよー」
梓「うぅ……冬の本領発揮ってとこですか」
唯「あずにゃーん、ぎゅーってして」
梓「はいはい」ギュウ
唯「ほー、あったかー」
梓「……雪ふらなきゃいいですけど」
唯「憂はいまごろなにしてるかなー」
梓「憂ワンなら大丈夫ですよ。とても強いんでしょう?」
唯「うん……」
梓「気になってたんですけど、どうして妹の憂ワンがリーダーの集会に出向くんですか?」
唯「そ、それは……」
梓「?」
唯「あ、寒っ! あずにゃんもっとギュッてして!」
梓「えっ、そんなに寒いですか? 火もたいてるのに」
唯「うん……」
梓「こんだけ寒いと温泉も無理ですねー」
唯「うう、寒い……ゴホッ」
唯「ごほっ、ごほ」
梓「唯ワン……?」
唯「おかしいな……なんか、寒いのに、暑い……ような」フラフラ
梓「えっ、ちょっ」
唯「う……あず……」
ドサリ
梓「唯ワン!? どうしたんですか!? 唯ワン!?」
唯「うー……ん……」
梓「うっ、すごい身体が熱い」
唯「……」
梓「どうしよう、寝かせとくだけでいいのかな」
唯「……ハァ、はぁ……」
梓「息が荒い……ただの風邪とは違う?」
唯「……あ、あず……」
梓「ちょ、ちょっとおとなしくしててください。いま布団に運びます」
ズルズル
梓「んしょ、んしょ、重たいです」
梓「大丈夫ですか? 唯ワン!」
唯「あ……ぁ……ごめ……」
梓「なんです? お水いりますか? どうしたらいいのもうっ!!!」
唯「わた……し……実、は……」
梓「あ……あれ」
梓「これってもしかして逃げるチャンスじゃ……」
唯「あず……あぅ……ハァ、はぁ、はぁ」
梓「……」
唯「……ぁ、ず」
梓「逃げちゃえばいいんだ……うん、こんなところにいつまでもいても食べられちゃうだけ……」
唯「ハァ……はぁ、はぁ……うっ……あず……にゃ」
梓「そう、逃げたらいいんだよ、放っておけばいい! 逃げなさいよ私!!」
梓「……」
梓「……ッ!! どうしてっ!」
梓「……なんで……私は……」
唯「はぁ、あず……くる、し……の……」
梓「ハッ! 唯ワン! 唯ワンしっかりして!! 私になにができる!? なにもわかんないよ!! 唯ワン!!」
梓「そうだ! 物知りのふくろうさん!」
梓「きっと何かしってるはず!!」
梓「ちょ、ちょっとまっててください! いま助けを呼んできます!」
唯「あずにゃ……いか、ないで……」
梓「逃げたりしません! 唯ワンのこと絶対絶対助けます!! 見捨てたりなんてしません!」
梓「ここでおとなしくしててください! いいですか! 約束ですよ!」
唯「うっ……ハァ、はぁ……ぁず……ゃ……」
そして私は、冷たい風が容赦なく襲いかかる極寒の夜の森へと飛び出した。
梓「寒い……うっ、つらっ……でも……」
梓「唯ワンはいまもっと……頑張れ、頑張れ!」
梓「あっ、ここだっ!」
梓「す、すいませーん! すいませーん、ふくろうさんいませんかー!!」
和「あら……だれ? 夜分遅く失礼な動物ね。ま、昼間こられても迷惑だけど」
梓「唯ワンが! 助けてほしいんです!!」
和「? あなたは誰? 見かけない顔ね」
梓「あの、私は唯ワンの……あの……餌です」
和「よくわからないわ」
梓「そ、それより! 唯ワンが倒れちゃって!」
和「えっ。唯が!? ま、まさかまた発作で!」
梓「ほ、発作……?」
和「ど、どうしよう。憂は!? 憂がいるはずでしょ、どうしたの」
梓「憂ワンは今……縄張り争いで」
和「そ、そうだったわね」
梓「私……グス、どうしたらいいかわからなくて……」
和「薬をのませればいいんだけど、もうその薬になる葉がないのよ……」
梓「えっ……」
和「冬のせいよ。だからなるべく発作を起こさないように、安静でいられるようにと憂が唯の代わりに頑張ってるの」
梓「じゃあ……ほんとは唯ワンが」
和「そうよ。縄張り争いにいくのだって唯の役目。でもそんな唯が病弱だって周りに知られたらどうなる?」
梓「縄張りが……」
和「だからうりふたつな憂がいくことでなんとかごまかせてるわ。ってそんな話をしてる場合じゃないわね」
和「とにかく唯は昔から稀に発作をおこすの。それでいまは薬がない。これがどういうことかわかる?」
梓「えっと……どうしよう……」
和「そうだ! 葉はもうないけれど、薬自体をもってる動物に心当たりはあるわよ」
梓「ほ、ほんとですか!」
和「ただ、私はその子の元へ行けないの。そこは明るすぎてだめなのよ」
梓「おしえてください! 私がなんとしてでもとってきます!!」
和「わかったわ。行きは送ってあげる、背中にのって」
梓「はい!」
和「バサバサバサバサチェケラッチョイ」
……
和「着いたわ。ここよ」
梓「うっ、とんでもなくまぶしいです。森全体が金ピカのような……」
和「金(きん)の森って言われているわ。とある行商タヌキたちが数代かけて築き上げたこの世の楽園よ」
梓「ここに薬が……?」
和「うっ、まぶしいから私はもう行くわね、離れたところにいるから帰りは口笛でも鳴らしてちょうだい」
梓「はいです!」
和「それと……気をつけてね。この森は動物たちの心を試すと言われているわ」
梓「試す……?」
和「早く行きなさい!」
梓「は、はいっ!」
梓「うわー……すごい、夜なのにまるで昼間みたいにあかるいや」
梓「きっとこの木々の葉が月の光を取り込んでるんだ」
梓「すごいなー、うわ、果物も動物もいっぱい! ってそんな場合じゃない」
梓「えっと、薬屋さん」
トコトコ
梓「んーなんか森じゅうからいい匂いがするなー」
梓「わぁ。賑やかだしこんなとこに住めたら幸せかもー……」
梓「はっ、いけないいけない」
「おや、そこの子猫さん、こんなものはいかがかな?」
梓「あ、おいしそう! ……ってだめだめ」
「魚の形に小麦で焼いたの皮の中にたっぷりのアンをつめてます。タイヤキっていうんですよ」
梓「……じゅるり……ダメだもん。ダメ! 唯ワンが待ってるもん!!」
梓「薬屋さんしりませんか?」
「それなら向こうにたってる大きな木の家の一階だよ」
梓「どもですっ!」
梓「ハァ、ハァ……ここだ」
梓「薬屋琴吹……あってるよね」
梓「すいませーん」
紬「はぁ~い♪」
梓「あっ……その、こんにち、じゃなくてこんばんわ」
紬「こんにちは~」
梓「う……ちょっとバカにされてる」
紬「可愛いお客さんね」
梓「あのっ! 大至急お薬がほしいんです!」
紬「あらら、どんなお薬?」
梓「えっと、確かふくろうさんにもらった手紙が……」ゴソゴソ
紬「えっと、どれどれ……えっ!」
梓「ど、どうしたんですか……まさか」
紬「……お薬はあることにはあるわ」
紬「けどね、それはこの病気だけでなく、万病に効くとっても希少なものなの」
梓「それ以外に発作をおさえる薬とかは……」
紬「この子の場合、そんな一時的なものではもう無理よ。悪化の一途をたどるだけだわ」
梓「じゃ、じゃあそれをください! なんにでも効くやつ!」
紬「でも子猫さん、なにももってなさそうだけど……」
梓「あっ……そうだ、なにも交換できるものがない……」
梓「あ……えっぐ、えぐ、どうしよう……どうしたらいいの……」
紬「泣かないで……」
梓「だってぇ……唯ワンが……唯ワンが……うえええん」
紬「それほど大事な人なのね」
梓「大事……そう……はい、とっても大事なんです、ヒッグ」
紬「でもあなた、たくさんマーキングされてるわ。きっとこの先食べられちゃうんでしょ?」
梓「はい、食べられちゃいます! でも大事なんです!!」
紬「それは自分の命より?」
梓「わかりません! どうしてかわかりませんけどっ!」
梓「私がお薬をもってかえらないと……唯ワンは苦しくて、辛くて……」
梓「唯ワンが死んだら……もう私、いくところもないし、憂ワンも泣いちゃうし、ひっぐ」
梓「だからお薬がほしいんです……ひっぐ、えぐ、うわああああん」
紬「こんなに想われるなんて……とっても、優しい狼さんなのね」
紬「そしてあなたも、私が出会った中で一番やさしい子猫さん」
紬「急いでるのに試すようなこと言ってごめんね?」
紬「はい……これ。お代なんていらないわ。何ものにもかえられない、とっても、とっても美しいものがみられたんだもの」
梓「ひっぐ、あ、ありがとうございます。あの、この草をたべさせたらいいんですか?」
紬「そう、食べさせた後水も飲ませて、効いてくるまで側で身体を温めてあげてね」
梓「わかりました! この御恩一生忘れません! ありがとうございました!」
紬「うんっ! 元気になったら、今度はゆっくり遊びにきてね」
……
和「バサバサバサバサチェケー!」
梓「急いで! もっととばしてください」
和「これでも急いでるわ。それよりあなた、よくその薬手に入れたわね」
梓「えっ」
和「なにも持って行ってないんでしょ? どうやったの?」
梓「そうですけど……な、なぜかもらえました」
和「そうなの。あのいじわるでケチな金ピカタヌキが? ふーん、まぁいいわ。とにかく、あなたがいて良かった」
和「私だって唯がいなくなったら困るもの」
梓「私こそ、ふくろうさんがいてくれなかったら危ないところでした」
和「まぁ……まだ間に合ったかどうかはわからないけど!!」
ビューン
梓「唯ワン……無事でいてっ!!」
……
和「もうすぐよ」
梓「ありがとうございます」
和「私はこのまま唯のほらあなの周りを巡回するわ」
和「いまこのタイミングでこの縄張りに変なのが寄ってきたら困るから」
梓「お願いします」
和「ほら、着くわよ、飛び降りて」
梓「はいっ」
ピョン
和「がんばるのよ……唯、梓ちゃん」
スタッ
梓「んしょ」
梓「唯わーん!! いま戻りました―!!」
梓「無事ですかー!? お薬とってきましたよ!!」
梓「唯ワン!?」
唯「ハァ……ハァ……あず、にゃ」
梓「良かった! 無事だったんですね!」
唯「ありがと……わた、し、ため、に……」
梓「しゃべっちゃダメです! ほら、この草」
唯「ん……」
梓「口入れますよ。ほら、食べるんですよ。いっぱい噛んでください。噛まないと!」
唯「んぅ……」
ポロッ
梓「唯ワン……噛めないの……?」
梓「……ッ……あむっ!むぐむぐ、むぐむぐ!」
梓「んちゅっ」
唯「んむぅっ……んぐ……あむ」
梓(食べて……食べてください。元気になりましょう?
梓(また二人でいっぱい走ったり笑ったり、たくさん楽しいことしましょうよ)
唯「んぅ……あ……ぁ……ゴホッ、ごほ」
梓「んっ、う……ぷは、食べました? ちゃんとごっくんしてくださいね」
梓「次、水ですよ。飲んでください」
唯「……う……ぅ」
梓「……唯ワン」
梓「ほら、飲まないと……」
唯「んぐ、んぐ……ぁ、あり……がと……あず、にゃ」
梓「お礼なんていいんです! いまはゆっくり寝てください」
唯「ぅん……そう、する……」
梓「えっと、後は後は……側であっためるんだっけ」
梓「あ、その前に。唯ワン、ちょっと汗ふきますね」
唯「ハァ……はぁ……うん」
梓「……ひどい汗、ごめんなさい。私がもっともっと早く帰ってきてれば」フキフキ
唯「いいよ……あずにゃん……わたし、嬉しぃ……」
梓「もう大丈夫です。もう心配いりませんよ。熱がさがるまで私がずっとついてます」
梓「……」ギュ
梓「ずっと……側にいますから」
梓「だからおやすみなさい……唯ワン」
梓「元気になったら、私でも食べてたっぷり栄養つけてくださいね」
唯「ハァ……あず……にゃん、そんな……」
梓「……」ナデナデ
唯「はぁ……あぁ……スゥー、スゥー……」
唯「すー、すー……」
梓「あ……ちょっと落ち着いたかな」
梓「……よかった」
ギュウウッ
梓「それにしても、今日は……よく冷えますね……――――――
朝
梓「ん……まぶしい……」
梓「あっ! 唯ワン!」
梓「あ、あれ……いない!? どこ?」
梓「唯ワン!? まさかあの熱で外いっちゃったの?」
梓「ねー唯わーん!!」タッタッタッ
梓「どこですかー?」
チャプチャプ
梓「ん、この音は……」
チャプチャプ
唯「あっ、あずにゃんおっはよー」
梓「ゆ、唯ワン……はぁ、なんで温泉に」
唯「いやー寝てる間もすごい汗かいてたからー、けどおかげでこのとーり! ふんす!」
梓「……唯ワン……」
唯「ほえっ?」
梓「ば、ばかあああっ!!」
唯「えっ!?」
梓「んにゃああっ、もおおっ!! 死ぬほど心配したんですよ!!」
唯「ご、ごめんなさい……」
梓「でも、よかった……よかった……ひっぐ」
唯「あ、あずにゃん?」
梓「うええええん、うええええん、びええええん」
唯「ええっ!? ちょ、泣かないでよ」
和「バッサバッサ」
和「あら唯、おはよう。元気そうでなによりだわ」
唯「あー、和ちゃん! あずにゃんが泣いちゃったの、どうしたら泣き止んでくれる? ものしりでしょ」
和「うーん……さすがに私にはわからないわ。自分で考えなさい」
和「あ、それと。ちゃんと安静にしてなきゃだめよ。ぶり返したらこの子の苦労が台なしなんだから」
唯「あずにゃん……ありがとね」
梓「うええええん、えええん」
唯「心配かけてごめんね。あずにゃんに心配かけまいと黙ってたのが失敗だったよ」
梓「ひっぐ、ばかです」
唯「うん……ばかだった」ナデナデ
梓「でも……うれし、また、元気な唯ワンにあえて……」
唯「さぁ、泣かないで。一緒に温泉入ろ。私もっともっと温まりたいから」
梓「はい! あ、ふくろうさんも一緒にどうぞ!」
和「嫌よ。濡れたら飛べないじゃない」
唯「まぁそういいなさんな、これも私からのお礼だと思って」グイグイ
和「ちょ、離しなさいっ、もうっ」
ザプン
和「……」
梓「あったかいですね」
和「そうね。今日はいい天気であったかいわ」
唯「はーるよ来い、はーるよ来い」
梓「あ、そういえば……私」
唯「?」
梓「やっぱり食べられちゃうんですかね」
唯「むしろ食べてくださいっていってなかった?」
梓「えっ、言ったっけ……あれ」
唯「うん、言ってたよ」
梓「い、言ってませんし! 食べられるなんて絶対嫌ですから!」
唯「えへー、食べちゃいたいなー、食べちゃうぞー」
ペロペロ
梓「うにゃああっ、だめっ、ちょっ! んもぅ!」
和「あのね、そういうのはほらあな戻って布団の上でやってちょうだい」
唯「えへー、おいひーおいひー、こりゃ食べごろは近いぞ―」
梓「にゃあああん」
しかし結局そのまま私が食べられることはなく、唯ワンと二人でほらあなでぬくぬくしてるうちに厳しい冬は過ぎ去りました。
そして、ついに森のみんなが待ちわびた春がやってきました!
唯「春だー! ごはんだー!」
梓「わぁ……! 緑が増えてきましたね」
唯「くんくん、くんくん、えへー、春の匂いだーい好き」
梓「私もわかります。なんか、うきうきしちゃいますよね」
唯「それともう一ついいことが!」
梓「え?」
唯「まだ遠くだけど憂のにおいがするー!!」
梓「ほんとですか!!」
唯「わおーん!!」
唯「……」
「わおーん!! おねいちゃあああああん――――……
梓「ほんとです!」
唯「よかったぁ……憂はやっぱり強い子!」
梓「あ、でも憂ワンがもどってくるって事は…・」ブルブル
唯「え?」
梓「わ、私もついに……春のお祝いのご馳走に」
唯「あー……そうだねぇ」
梓「や、やめましょうよ! ほら、私結構献身的ですし、家事もこなせるようになりましたしっ!! 使いっ走りにでもして」
唯「んー……でもおいしそう」
梓「にゃっ、ま、まってください! ほら、見てくださいこの身体、可哀想なくらい貧相です! きっと二人で食べるには物足りないですよ!」
唯「うーん、でも今年の景気付けにおいしいものを食べたいし」
梓「あっ、こ、この先私が成長しておっきくなったらもっともっとおいしくいただけるかもしれませんよ!!?」
唯「まちきれないなぁ」
梓「あう……じゃ、じゃあ……あわわわわ」
唯「じゅるり」
梓「えーん……」
唯「なんてね!」
梓「えっ」
唯「あ~ずにゃんっ♪」ダキッ
梓「にゃっ!?」
唯「こーんなに暖かくてきもちいの食べるなんてもったいないよー」
唯「だってあずにゃんがいれば掛け布団いらずで冬が越せるんだよ!? すごいよー」
唯「これから毎年、私の抱き猫として役に立ってもらわないと!」
梓「えっ、えっ?」
唯「それにー、ペロペロなめるだけでもおいしいしー、なにより一緒にいると楽しいし!」
梓「あっ、あの……ってことは」
唯「あずにゃん♪ 私の可愛い子猫ちゃん」ギュウウウウ
梓「あふ……にゃあ」
唯「あ、私の臭いいっぱいつけとこう。誰にも渡さないよ、私のあずにゃんだもんね、ちゅ、チュ」
梓「んぅ……だめですって……外で……んっ」
唯「じゃあおうちもどろっか、私たちのおうち! そんで、お腹いっぱいになるまでペロペロさせて?」
梓「あ……うぅ……」
唯「だめぇ?」
梓「むぅ……」
唯「えへへ」
梓「……じゃあ……ちょ、ちょっとだけですよ?」
唯「わぁ……うん!!」
予想外の春がきました。
優しくてふわふわな狼さんと過ごす初めての春。
陽だまりのようなあったかいぬくもりにつつまれて、今日も私は幸せです。
おしまい