「この結果から見て‘再発‘と見て間違いないでしょう」
それは突然だった。
一瞬、そこは宇宙のように静まり返った。そして次に聞こえる音は泣き声・・・
母「どうしてですか!!あれだけ頑張って完治したのに!!この子の努力はどうなってしまったんですか!!」
発端はいつもの日常に隠れて少しずつ芽を出していたのだ。
―朝― 7月3日
憂「お姉ちゃん~朝だよ起きて~」
唯「う~ん・・・あと少しだけ~」
憂「も~う・・・遅刻しちゃうよ」
唯「・・・今起きるから^」
そう言いながら唯は一向に下に降りてくる気配が無かった。
5分・・・10分・・・15分・・・時間だけが一向に過ぎていく
憂「もうさすがにマズイな」
憂は痺れを切らし唯の寝ている2階へ足を運んだ
ガチャ
唯「ごめーん、2度寝しちゃった」テヘッ
憂「も~うお姉ちゃんったら~早くしないと遅刻しちゃうよ」
怒ろうとしていた憂だが唯の笑顔の前には怒る気も吹っ飛んでしまった。
お姉ちゃん子である憂に唯の笑顔はこの上ない後光であるだろう憂もニコニコと機嫌よさそうだ。
こんなことはいつもの風景とばかりに唯も憂も感じていただろう・・・しかし悪魔の影は一歩また一歩と背後から忍びよっていた。
―登校―
憂「時間的にはまだ大丈夫だけど出るのいつもより遅かったから危なくなったら走ろうね」
唯「うぃ~走るの嫌だよ~」
憂「もう元はといえばお姉ちゃんg」
律「おはよ~唯!それと憂ちゃん」
澪「おはよ~」
憂「おはようございます。律さん、澪さん」
唯「お~は~よ~」
律「なんだ唯、今日は元気ないなw」
唯「いや~眠くてさ~」
澪「昨日遅くまで起きてたんだろ」
唯「違うよ澪ちゃん、昨日は10時には寝たよ~」
律「ずいぶん早いなwでも眠いってことは嘘ついてるだろw」
唯「嘘じゃないよ~ねえうぃ~?」
憂「うん、確かに昨日は10時に寝てました」
澪「それでも眠いのか、困ったもんだな」
律「じゃあもう9時には寝ないとだめだなw」
唯「そんなぁ~練習できないよ~><」
律「ハハハハ」
澪「律!笑ってる場合か!」
律「ハハハ、ごめんwごめんw」
唯「うぅぅぅぅぅ」
憂「・・・」
楽しいことがずっと続くなら世界はどんなに美しいものだったのだろうか
こうして何気ない日常が遅れることがどんなに素晴らしいことか
彼女達はまだ知らない
―放課後―
唯「ふぁぁぁ~やっと終わった~」
律「おい!なに寝ぼけてんだ、これから部活だろ」
紬「そうよ唯ちゃん、これからが本番よ」
唯「う~んわかってるよぉ~それにしてもなんでこんなに眠いんだろ?」
律「寝不足なだけだろwほらいくぞ」
唯「うん」
ガタっ
律「おい!唯!どうした!」
立ちあがろうとした瞬間、その‘芽‘は一気に花を咲かせた。
唯(あれ?なんだろうリっちゃんがなんか言ってる・・・聞こえないよリっちゃんそれになんか眠い・・・よ・・・)
紬「わ、わたし先生呼んでくる!!」
律「頼んだ!むぎ!大丈夫か!?唯!!!」
律に促され席を立とうとした唯はその場に倒れ込んだ。力の抜けた人形のように横たわる唯を抱き起こし律は必死に唯の名を叫んでいた。
律の努力も虚しく、間もなく紬が呼んできた先生たちが駆け付け律は引き離される
律「唯―!唯―!大丈夫かー!唯―!」
紬「大丈夫よ!リっちゃん!落ち着いて、先生達が何とかしてくれるから」
無我夢中で唯の名を叫ぶ律を紬は必死に宥めている。
唯を中心に囲い込む先生達、そして離れた場所から必死に唯のを叫ぶ律
誰かが広めたわけでもなくクラスの周りには自然と人だかりできていていた。
ただあまりの多さに状況を理解して無い人が多数でそこには澪や梓や・・・憂も・・・
間もなくして唯は駆け付けた救急車で病院に付き添いのさわ子と共に搬送された。
先生「憂ちゃんだね」
憂「はい・・・もしかして・・・」
先生「もう知っていたんだ、なら話が早い先生が病院まで連れて行くから準備して職員室へ」
憂「・・・はい」
―音楽室―
律「ぅぅぅぅぅぅぅ」
紬「ヨシヨシ、大丈夫だからきっと大丈夫だから」ナデナデ
ガラっ
澪「おい!あの騒ぎはいったい・・・ってまさか・・・な」
梓「唯先輩がいない・・・」
律「・・・」
紬「・・・うん」
静まり返る教室、駆け付けた澪、梓も状況を理解したようだ。
梓「そ、それで!唯先輩は・・・大丈夫なんですか?」
澪「私も聞きたい」
律「・・・」
紬「きっと・・・きっと大丈夫だと・・・思うわ・・・」
律「うぇえええええええええん」
紬「ごめんねリっちゃん!大丈夫だから泣かないで!!」
澪「・・・」
梓「・・・ぅぅぅぅぅぅぅ」
澪「梓・・・」ナデナデ
この日の部活は中止になり律たちはそれぞれ家で唯からの連絡を待つことにした。
とても練習なんてできる状況ではなかった。なにより唯がいなければ練習にならなかった。
―病院―
病院に着くなり憂は病室に案内され先生と共に静かな廊下を歩いていた。
先生「お姉さんはきっと大丈夫だからな」
憂「はい、そう信じています。」
先生はそう言ってくれたが憂はかなり心配していた。唯の過去があるだけに・・・
病院の廊下を歩きながら憂は酷く後悔した。もしかたら自分が知らず知らずお姉ちゃんに無理させていたのかもしれない。
お姉ちゃんは本当につらい時は絶対人にうち明けない人だった。妹の私にすら相談してくれない、信用してもらえてなかったかもしれない。
憂の心境はますます不安に陥って行った。
看護婦「唯さんの病室はこちらになります」
先生「あ、はいありがとうございます」
憂「・・・」
看護婦「病室では他の患者さんの迷惑にならないよう静かにお願いします」
先生「わかりました。」
ガラっ
病室のドアが静かに開けられる。憂は自然と目を閉じてしまう、正直見たくなかったのかも知れないそこにいる姉の姿を
さわ子「あ、石田先生憂ちゃん!」
先生「どうも憂ちゃんを連れてきました」
さわ子「石田先生、ありがとうございます」
憂「お、お、お、お、おね、おねえ、おねえちゃあああああああん」
憂はベットに横たわる姉の姿を見て絶叫ししがみつくように抱きついた」
さわ子「あ、ちょっと!?安静にしておかないと!」
憂「おねえちゃああああん!ごめんねええええええごめんねえええええええわたしがあああああああ」
先生「憂ちゃん!冷静に!」
さわ子「そうよ!ちょっと離れて」
憂「うぇええええええん」
先生・さわ子「・・・」
きっと憂の心の中では過去の記憶と今の心境がリンクしているに違いない、とても普段の生活からは見えない彼女の姿がそこにあった。
20分くらい経ったであろう、落ち着きを取り戻した憂は姉の手を握りながら静かに姉を見つめていた。
憂「あの・・・取りみだしてごめんなさい・・・」
さわ子「いいのよ、お姉ちゃんが倒れたら誰だってパニックになるわ」
先生「あまり自分の中に悩みを抱え込むなよ・・・先生達だって何か役にたてるかもしれない、だから気軽に相談してほしい」
憂「はい・・・ありがとうございます」
さわ子「石田先生、ちょっと話があるので外へ」
先生「ああ、わかりました」
さわ子「先生達ちょっと話してくるから静かに待ってるのよ」
憂「・・・はい」
ガラっ
先生「で、お話というのは」
さわ子「実は・・・唯ちゃんあまり良くないらしいです、病気とかそういうのは教えてもらえなかったのですが精密検査するそうでしばらく入院が必要になるそうです」
先生「そうですか・・・で、ご両親は?」
さわ子「あ、はいこれから連絡するつもりです。海外渡航中らしいですがすぐにでも戻ってきてほしいです」
先生「そうですね、でも娘が倒れたらどんな両親でもすぐに駆けつけますよ」
さわ子「・・・ですね」
―次の日― 7月4日
憂は登校しなかった。学校よりも姉を優先したからだ。
両親には学校から連絡がいき昨晩電話があった。
母「唯は大丈夫なの!?」
憂「・・・まだわからない・・・」
母「そう・・・悪くなきゃいいけど・・・」
憂「お姉ちゃん、大丈夫だよね?」
母「信じましょう!」
憂「うん」
母「明後日には日本に着くからそれまで唯をよろしくね」
憂「うん・・・はやく来てね」
母親と話す憂の姿にいつものしっかり者の面影はなく不安と悲しみに満ちた少女がそこにいた。
―学校― 昼休み
昨日のこともあり今日はみんなで屋上でお昼を食べることにした。
みんな不安そう表情でそれぞれ屋上に現れる、そしてみんなあいさつよりも先に口から出る言葉は「唯大丈夫かなぁ」
みんなも不安でいっぱいだ
澪「なんか連絡あったか?」
紬「わたしには・・・」
梓「無いです・・・あ、でも今日憂ちゃん休みでした・・・」
律「憂が休みって・・・そうとう酷いのかなあ」
紬「憂ちゃんなら風邪でも付添いで休みそうだけど今回はどうかしら」
澪「律は?」
律「何も聞いてない・・・」
澪「そうか・・・実はな」
梓「なにか聞いたんですか!!!」
澪「うん、今日音楽の授業の時私と和が呼ばれてな」
律「なんだ!!!なんて言われたんだ!!!」
澪「うんそれが入院することになったんだって」
律・紬・梓「!?」
紬「ほんとう・・・ですか?」
澪「ほんとう」
律「やっぱり・・・」
澪「いや、さわちゃんが言うには風邪をこじらせて肺炎になったらしいんだよだから心配するなって」
律・紬・梓「!?」
梓「は・・・肺炎?」
律「じゃ、じゃあ治るのか?」
澪「そりゃな肺炎だし治療すれば」
紬「ふぅ~なんかほっとしたわね」
律「ああ!なんだ肺炎かwったく心配させやがってw」
梓「一時はどうなるものかと・・・」
律「じゃあ今日の部活は唯の見舞いだ!」
紬「うん」
梓「はい!」
澪「いや、ダメなんだ」
律・紬・梓「!?」
梓「え?なんで・・・ですか?」
律「はァ?」
澪「私もそれさわちゃんに言ったんだ、でも見舞いはダメだって」
律「なんで?」
澪「ん~なんか肺炎なんだけどウイルス性だから面会できないとかって」
梓「ウイルス?」
律「肺炎ってウイルスなのかよ」
紬「たしかに肺炎の中でもウイルス性の肺炎があるわ、えーっとたしかマイコプラズマ肺炎かな」
澪「移るのか・・・」
律「だったらあたしらに出来ることは何」
梓「電話かメールですか」
澪「病院じゃ電源落としてるかも」
梓「う~ん」
紬「待つ・・・それしか今はないわね」
律「・・・そうだな・・・」
律「まあでも肺炎だからすぐに治るんじゃないか?」
梓「そうですね」
澪「あ、それともう一つあったんだ」
紬「うん」
澪「私、和が何か知ってるんじゃないかって思って聞いてみたんだそしたら」
―回想―
澪「なあなんか唯のことでしらないか?」
和「澪は知らないのか?」
澪「なにを?」
和「唯の過去」
澪「いや、とくに聞いたこともなかったな」
和「そっかあ・・・」
澪「よかったら教えて欲しい」
和「う~ん良いけどここでは言えないんだよ・・・放課後でいいか?」
澪「うん・・・じゃあ音楽室でいい?みんなにも聞いてもらいたいし」
和「わかったじゃあ音楽室で」
―回想・終―
澪「っていうことなんだ」
紬「なんか奥が深そうね」
律「そうとう深刻なことかもしれないな」
梓「なんか怖いです」
澪「でも聞かないと先には進めないぞ!それでもいいのか?」
―放課後― 音楽室
律「なんか緊張してきた・・・」
紬「そうねコレ飲む・」
律「飲む・・・」
梓「けっこう経ちましたね」
紬「遅いわね」
律「・・・」ゴクッ
ガラっ
律・紬・梓「きた・・・」
澪「入って」
和「うん」
律「よ、よお」
紬「こんにちは」
梓「こんにちはです」
澪「遅くなった」
律「いやいいよ」
澪「ありがと、じゃあ和聞かせてくれるか?」
和「うん、でもその前に一つ聞いてもいいか?」
澪「なに?」
和「これから話すことは唯にとってみんなに知られたくない話かもしれないそして今から話すことはこれからの唯に関わることかもしれない、それでも聞くか?」
澪「・・・」
紬「・・・」
律「・・・」
梓「・・・き、聞きます!」
澪「梓・・・そうだな私も覚悟の上だ」
律・紬「・・・うん」
和「そっか、わかった」
和「唯と私は幼稚園から今までずっと一緒だった。ずっと友達だったしこれから先もそうだ、だけど中学生の時は違った。中学一年生のある日唯は学校を休んだんだ、次の日も休みそのまた次の日もずーっとだそして卒業式も休んだなぜだがわかる?」
澪「なにか・・・病気?」
和「うん。病気だそれもかなり重い病気だった<白血病>だ」
澪・律・紬・梓「!?」
和「3年間来ることはできなかったが骨髄移植をし幸い完治した。」
律「完治?治ったのか?」
和「うん。でも完治までにはかなり無理もしたし苦しみも味わったんだ。私が見舞いに行くといつも死にたいと言って泣いていてそれをいつもなだめる感じだった」
澪・律・紬・梓「・・・」
和「一度一緒に死ぬことも考えた、でもそれは両親や先生に見つかって止められたけどそれくらい唯は苦しんでいたんだ。憂はなたぶん私以上に心配してたと思う今もそうだろう、憂が過剰に唯に甘いのはそれがあったからなんだ」
梓「憂ちゃん・・・」
澪「妹だから一番近くで見ていたんだもんな」
和「でも最終的には完治した。そして闘病中も必至で勉強して高校に入った、でみんなと出会ったわけ」
澪・律・紬・梓「・・・」
和「どうしてこの事みんなに言わなかったのかは本人しかわからないでもきっと心配させたくなかったんだと思う。唯は退院してから前よりもずっと笑顔でいることが多くなったんだ、辛い顔するとみんな心配するから嘘でも笑顔作っていたんだよ?みんな気づいてた?」
律「全然だ・・・」
紬「わからなかったわ」
澪「無理してたんだね」
梓「・・・」
和「うん。無理してた、それが今の状況を生んだんだ・・・ぅぅ・・・」
澪「和?」
和「ごめん・・・私は知ってたのに気づいてあげられなかった・・・」グスン
律「いや、私だって知っていてもわからなかったよ」
梓「唯先輩は私たちより努力してたんですね・・・なのに無理に練習!練習!って」グスン
澪「梓・・・それを言ったら私だって・・・」グスン
紬「・・・」グスン
唯の過去を聞いた律達であったがその話のあまりの重さにまだあどけない高校生である彼女等の心は潰れそうになっていた。
もしも唯がまた大病を患ったら彼女達はどう唯と接していくのだろうか、いけるのだろうか
唯の現状を知らない彼女等には想像もできない未来であろう
―病院―
憂(お姉ちゃんいつ起きるのかな?)
今日一日眠ったままの唯であったが一通りの検査は終えていた。
しかし昏睡状態である以上予断は許されない
憂(もしこのままお姉ちゃんが目を覚まさなかったら・・・)
外は快晴、憂は不安に苛まれながらもふっと過去を思い出す。
―回想―
そこは無菌室、極端に抵抗力の落ちる白血病患者にはそこがこの世界で唯一いられる場所
しかしそこから出られない以上、患者にかかるストレスは計り知れないのである。
唯「今日は晴れてるね・・・」
憂「うん!とってもいい天気だよ早く外出れるといいねお姉ちゃん!」
唯「いつ?」
憂「え?」
唯「早くっていつ?」
憂「え?それは病気が治らないと・・・」
唯「病気はいつ治るの?」
憂「そ、それはお姉ちゃんの頑張り次第・・・だよ・・・」
唯「まだ頑張りが足りないの?」
憂「・・・お姉ちゃんはとても頑張ってるよ・・・」
唯「ねぇ憂?」
憂「何?お姉ちゃん?」
唯「死のう?」
憂「え?お姉ちゃん何言ってるの?」
唯「私もう頑張れないよ・・・一緒に死のう?おねがい」
憂「だ、だ、ダメだよ!今死んだら今までの努力はどうなるの?お姉ちゃん頑張って来たじゃない!私死にたくないよ・・・それにお姉ちゃんにも死んで欲しくないよ」グスン
唯「もう無理だよ憂・・・頑張れない・・・頑張りたくないよ・・・」
憂「ぅぅぅぅぅ・・・」
唯「憂?お願い・・・楽にして・・・」
憂「ダメだよ・・・ダメ・・・うぇえええん」
唯「泣かないでよ・・・泣きたいのは私の方だよ・・・うぇええええええん」
―回想・終―
憂(ダメだ私、お姉ちゃんが目を覚まさなかったらとか何考えてんだろ・・・私の馬鹿!)
この日も終日唯は眼を覚ますことは無かった。
面会時間ギリギリ看護婦さんが唯の点滴を交換しに来た。だがそれはさっきまでのと違う薬。
憂はその薬が何であるかわかった。同時にそれがどういう意味を持つかも理解していた。
憂(ハイドロキシー・・・)
時間はループし始めた。
―7月5日―
今日は唯、憂の両親が来る日
そして精密検査の結果が告げられる。
憂の心の準備はできていた。
ガラっ
憂「お姉ちゃんおはよ~今日も来たよ~」
返事なんて返ってくるはず無いが憂は笑顔で姉に挨拶した。
見ると依然昏睡状態が続いてるのようだ、憂の顔色が一瞬だが曇った。
憂「今日はお父さんとお母さんが帰ってくるんだよ~久しぶりだね~お姉ちゃん」
唯「え?ホント!?」
憂「うわ!?」
唯「あ、ごめ~んビックリした?」
憂「え?お姉ちゃん?え?」
唯「ごめんね~うぃ~ビックリさせようと思ってでも2日くらい寝てたんだってねえへへ」
突然の出来事に憂は放心状態に陥っていた。
それもそのはず昏睡状態の人が突然起きて声を上げたら誰だろうと驚くはずだ。
唯「うぃ~?大丈夫?」
憂「・・・ハッ!だ、大丈夫!大丈夫!」
唯「あ~良かった気絶したかと思ったよえへへ」
憂「それよりお姉ちゃんは大丈夫なの?」
唯「ぜんっぜんっ大丈夫だよ~今日5時くらいに起きて看護婦さんから聞いたんだ~そうとう寝てたみたい、よっぽど眠かったんだね~」
憂「お姉ちゃん・・・」
唯「ん?」
憂「お姉ちゃん!!!」
よほど寂しかったんだろう、不安だったのだろう憂は姉の胸に飛び込んでギューっと離さなかった。
唯「良い子、良い子」ナデナデ
憂「ぅぅぅぅぅぅぅお姉ちゃん・・・」
唯「ごめんね心配させて、でももう大丈夫だから」ナデナデ
憂「うん、ありがとうお姉ちゃん」
唯「いーよ、またいつでもナデナデしてあげる」
憂「うん!」
唯「あ、そーだお父さん達帰ってくるの?」
憂「うん、もうすぐ来るはずだよ」
唯「心配かけちゃったね、謝らないと・・・」
憂「久しぶりだね」
唯「なに?」
憂「お姉ちゃんに甘えるの」
唯「あれ~そうだっけ?あ~あれはあずにゃんかぁ」
憂「最近は梓ちゃんにベッタリだねえ」
唯「だってぇ可愛いんだもん」
憂「そっか・・・」
唯「うぃも可愛いよ~」
憂「ありがとう///」
束の間の幸せ、それが憂にとってどんなに幸せだったことが本人にしかわからないが第三者から見ても十分に伝わってくる和やかな風景であった。
普段、姉の面倒をみる立場上素直な気持ちで姉に甘えられなかった不満や憤りが今回の一件で全て解消されたらしい憂の表情は非常に満足そうだった。
久々に見えた姉妹の本当の姿だがその一時は無情にも崩されることになる。
ガラっ
母「唯~」
両親の登場だ。
父「憂も来ていたのか、学校は大丈夫なのか?」
憂「うん、まだテスト期間先だし今まで休んでないから出席日数も大丈夫だよ」
母「あとは大丈夫だから明日からは行きなさいよ学校」
憂「うん、わかった」
唯「お母さんそのくらいにしといて、憂は私の為に休んでくれたんだから」
母「まぁそうね、ありがとう憂」
父「ありがとう」
憂「いいよ、私が勝手に休んだんだもん」
唯(ニヤニヤ)
父「それで唯、体は大丈夫なのか?」
唯「うん。いっぱい寝たし寝不足だったみたいえへへ」
父「寝不足って・・・」
母「もう心配かけて・・・あ、そうだ先生の所に呼ばれてたんだったわ」
父「そうだったな、行くか?」
母「そうね、憂も来なさい」
憂「え?・・・うん」
父「大人しくしてるんだぞ、あ、これお土産」
唯「わぁぁ!ありがとう!可愛い!」
憂の顔色は悪かった。おそらく自分の予想はあってるだろう。だからこそ何も知らない両親、唯に罪悪感が湧いてるのだ
きっと知ったら両親はとても悲しむ、なにより姉である唯は絶望を味わうだろう。
でも、今は何もできないただ結果を聞くだけしか憂にはできないのだ。
そして、今この瞬間の姉の笑顔を目に焼付けて未来その笑顔を取り戻す努力をしなきゃいけないと固く誓った憂がそこにいた。
憂「じゃあねお姉ちゃん」
唯「うん!またね~」
憂(・・・)
―病院の一室―
先生に案内され両親と憂は病院のとある一室にいた。
そこは一見会議室、広々とした空間に円を描くよう設置された机と椅子が並び端には病院で一般的に使われている電光式ホワイトボードが置いてあった。
先生「どうぞ」
先生に促され神妙な表情で席に着く両親と憂
両親もこの空間を目にしたときから顔色が変っていた。
通常の検査結果報告なら診察室でも出来るのにもかかわらずあえてこの別室だ
両親でさえ―もしかしたら―が徐々に確信へ近づいていた
通常の検査結果報告なら診察室でも出来るのにもかかわらずあえてこの別室だ
両親でさえ―もしかしたら―が徐々に確信へ近づいていた。
先生「先ずはこれを見てください」
机に置かれた一枚の用紙、それは検査結果が記録された紙だった。
素人にもわかりやすく数値かされた検査結果、その上、ご丁寧にもある数値に蛍光ペンがなぞってあった。
母「白血球・・・これって・・・」
先生「はい・・・ご察しの通り・・・」
父「え?」
憂(・・・)
先生「この結果から見て‘再発‘と見て間違いないでしょう」
それは突然だった。
白血病の再発
一瞬、そこは宇宙のように静まり返った。そして次に聞こえる音は鳴き声・・・
母「どうしてですか!!あれだけ頑張って完治したのに!!この子の努力はどうなってしまったんですか!!」
気の動転した母の肩を抱きなだめようとする父、ひたすら俯く憂。悪い予感が確信となる瞬間だった。
先生「こればかりは私ら医師であっても予想はつきません、あえて言うならば唯さんは1年前から定期健診に来ていませんでした。もちろん薬も服用していなかったでしょう・・・」
母「定期健診・・・来て・・・ない・・・」
キッ!!!!
憂(!?)
母の鋭い眼光が憂を睨みつける。
定期健診、それは大病を患った者なら誰しも行かなきゃいけない登竜門
苦難の闘病を終えた唯は病院を大変嫌った。
両親が海外へ渡航する日、憂は頼まれていたのだ。唯がどんなに嫌がっても定期検診には連れて行くことを・・・
唯は泣いて喚いて子供のの如く病院へ行くことを拒んだ。
憂「泣いてもダメだよお姉ちゃん!!!」
唯「うぇえええうぃは私のこと嫌いなの?うぇえええええええん」
憂が折れた日だった。
それ以降、憂は病院の事すら姉の前では口に出さなかった。姉に嫌われたくない・・・その一心で・・・
母「憂!!!!!!!」
憂「ご、ご、ご」
母「あなたって人は!!!!!!!」
バシーン!
父「やめろ!!!やり過ぎだ!!!」
憂「・・・」
母「どうして!!どうして!!どうして!!どうして!!!」
父「落ち着け!!憂大丈夫か?」
憂「ぅぅぅぅぅ」
先生「お母さん!落ち着いてください」
憂「ご、ご、ご、ごめんなさ~~~~い!!!」
母「・・・」
父「・・・」
先生「・・・」
憂「わ、私が悪いのおおおおおおおおおおおおお」
母「・・・」
父「憂・・・」
先生「・・・」
憂「ぅぅぅあのね・・・あのね・・・」
母「・・・」
父「どうした?憂?」
憂「私がね・・・甘かったの・・・ぅぅぅぅ」
母「・・・」
父「・・・」
憂「・・・私がね・・・嫌がるお姉ちゃんをま・・・えに・・・厳しく言えなかったの・・・」
母「・・・」
憂「私がね・・・私g」
父「もういい!お前は何も悪くないから・・・責任なんて感じなくていいから・・・」
父「一番の責任は病後の唯を置いて海外へ行った俺達じゃないか?なぁ?母さん」
母「・・・ええ・・・そうね・・・憂、ごめんね?お母さんダメだね・・・」
憂「ちがうの・・・お母さんは何も悪くないから・・・全部私が・・・」
父「もういいって憂・・・」
約束を破った憂、唯を置いて海外へ行った両親もしも憂が約束を守り両親が家にいたらどうなっていただろうか?
白血病というのは白血球生成細胞の突然変異である異常、再発は避けられなかったかもしれない。
先生「落ち着きましたか?」
母「すいません」
先生「では話を再開します」
父「お願いします」
先生「白血病が再発したことはおわかりですね?」
父・母「はい」
先生「でわ、次はこれを見てください」
明るく光るホワイトボートに2枚のCT画像を印刷した写真が貼り付けられた。
先生は指摘棒片手に話を進める。
先生「これは唯さんの腹部と胸部を映したレントゲンです」
父・母「・・・」
先生「先ずは腹部から、コレ何かわかりますか?」
先生が指摘した先には脾臓があった。
先生「ココ、この部分です。なにかありますでしょう?」
父「はい」
先生「これは腫瘍です」
父「腫瘍?」
先生「つまりは癌です」
父・母・憂(!?)
母「白血病だけじゃ・・・」
先生「白血病とは血液の癌なんです、この写真には映っていませんが唯さんのリンパ球はほぼ全身にわたって腫れています。つまりはリンパ球に癌が転移している証拠です。そこから転移したのでしょう」
憂「・・・」
母「え?」
父「全身・・・ってことは・・・そこだけじゃないんですか?」
先生「はい、脾臓・すい臓・食道に転移しています。」
憂「s、そんなに・・・」
母「まさか・・・」
父「・・・」
先生「このままリンパ球をほっておくとますます転移が進みますし現状で首のリンパ球も腫れてきてます。もし脳まで転移しますと・・・」
母「唯は!!唯は治るんですか!?」
先生「・・・」
父「先生!!」
先生「・・・残念ですがこの状態では延命しか処置できません」
憂「あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・」
父「・・・糞!」
母「なんとかならないんですか!!!何とかしてください!!!医者でしょ!!!!!」
先生「落ち着いてください!一つだけ・・・方法がありますが・・・ただ完治の確立は非常に低いです。・・・お金もかかりますし時間も何より唯さん本人に苦しい思いをさせることになります。」
母「お願いします!!!!」
先生「待ってください!まず話を聞いてください」
父「お願いします」
先生「仮にその方法を取るとします。先ずはより詳しい検査、これはより詳しく転移状況を調べるためです。」
先生「次は腫れているリンパ球全て摘出します。これには大きなリスクが伴います。今から離しますので後で十分に話し合いください」
先生「リンパ球はリンパ液を出し外界からのウイルスや菌を体内で死滅させる役割を持ちます。これを一般的に抵抗力というのです。」
先生「それを取ってしまうのですからそれ以降の治療で他の病気が併発するリスクも大幅に上がります。例え病気が完治しても抵抗力が無いのでかなり制限された生活を負わざるを得ません。」
先生「次にすべきことは転移した癌の処置を行います。今のところステージの進行も初期ですし問題はありませんが進行具合では除去による治療は不可能になります。ですが癌治療は除去だけでなく薬や放射線などまだ選べますのでそのことも考慮してください」
父「はい」
先生「最終治療は白血病の根本治療です。この治療には海外、アメリカでの認証は終えてますが日本ではまだの未認証薬を使っての治療と抗がん剤の併用になります。これは未認証ですので保険も利かなく薬自体も高値ですので非常に高額になります」
先生「通常なら骨髄移植が一般的ですが再発で2度目の移植となると拒否反応や一度再発している骨髄の検体、お母さんの検体ですねこれは使えないのです。」
先生「またお母さんの検体でやれることはやれますが希望は薄いです」
先生「今の状態で延命治療に入りますともって1年です。新薬治療になりますと半年以内に手術をして新薬投入をしなければ1年も無いでしょう」
父・母・憂「・・・」
先生「時間はありませんが十分にお話合い願います」
ガラっ
唯「おかえりぃ」
母「あ、うん」
憂「ただいま・・・」
父「・・・」
病室ではいつもと変わらず笑顔を絶やさない唯がそこにいた。
これから病気のこと、治療か延命か2つしかないこと家族には知らせる義務があった。
それは唯にとってとても辛いものだろうしかし、何も知らせずに家族の意志だけを優先させるのはもっと辛いことになる
とても言いづらい内容に唯以外表情は暗かった。
唯「どーしたのー?みんな元気ないよ~?」
父「あ、ああごめんごめん」
母「あのね唯・・・大事なお話があるの・・・」
憂(言うんだ・・・)
唯「なになに~聞くよ~」
父「唯、大事な話だから真面目に聞いてくれ」
唯「う、うん・・・」
母「実はね・・・唯が倒れたのも今、ここにいるのも寝不足が原因じゃないの」
唯「えぇ!じゃあ風邪だったのかなあ」
母「いいえ、あなたが倒れた原因は・・・原因は・・・ぅぅぅ」
父「後は俺が言う・・・唯!」
唯「う、うん」
父「お前は白血病だ!再発したんだ!」
母「うぅぅぅぅぅぅ!」
憂「ズズッ」
唯「へ?・・・何が?・・・」
父「それも白血病だけじゃない、色んな所にガンが転移して今お前の体の中は大変なことになってるんだ」
唯「・・・ふへ?・・・面白くないよ?お父さん・・・」
父「真面目に聞いてくれ冗談ではないんだ」
唸るように泣く母、声を殺すように泣く憂そんな妻や娘をよそに話を続ける父。
非情に見えるだろうが告知の風景とは大概こんなもんである。
唯「嘘、嘘よ・・・ねえお父さん?嘘だよね?嘘、嘘なんだよね?」
父「唯・・・スマン・・・」
唯「お父さん?ねえ?お父さん?そんな嘘つくお父さん私嫌いだよ?お父さん?お父さん?」
父「唯!!!」
唯「嘘って言ってよ!!!!!!!!!」
母「ごめんなさいぅぅぅぅぅ」
憂「お姉ちゃん・・・ごめんなさい」
父「しょうがないんだ・・・再発は防ぎよう無かった・・・」
唯「うぇええええええええん」
母「唯!!」
唯「うぇええええええん」
泣きだした唯を飛びつくように抱きしめヨシヨシと撫でる母、そこには母親の愛がしっかりと表されていた。
父「話にはまだ続きがあるんだ」
唯「聞きたくない!うぇええええええん」
父「ダメだ、これは言わないといけない」
唯「いやあ!」
唯は両手で耳を塞ぐ、絶対聞きたくないという意志表示。
母「お願い唯!聞いてちょうだい!お願い」
両者泣きながらの一進一退の攻防は長く続いたが母の必至の訴えに唯も諦めたようだ。
涙も声も出さず目の焦点も合っていないただの人形のようになっていた。
父「ごめんな唯、怨むならお父さんを怨んでくれ」
唯「・・・」
父「さっきも行った通り、唯の体にはたくさんのガンがあるんだ」
唯「・・・」
父「白血病だってほっとけない、ただ今回の病気を全てを直すのは前よりもずっと苦しい思いをしないといけなくなる」
唯「・・・」
父「もし唯がそれを嫌だというならば誰も反対しない、けどあと1年生きれるかわからなくなる」
唯「・・・」
父「それはお父さんも、お母さんも憂も望んでない」
母「唯・・・」
憂「お姉ちゃん・・・」
父「出来れば治療してほしい・・・でも病気と闘うのは唯だからお父さん達はサポートしかできないから・・・唯、お前が選んでほしい」
唯「・・・・○×△□」
父「ん?なんだい?」
唯「・・・一人にして」
父「・・・」
母「・・・」
憂「・・・一人させてあげて?」
父「・・・」
母「・・・そう、ね」
憂「お姉ちゃん、私お姉ちゃんの為なら何でもするから」
父「唯、ごめんな」
―夜― 家
憂「はァ・・・お姉ちゃん大丈夫かなあ」
憂(あ、そういえば携帯電源入れ忘れてた)
ピッ
メール受信中
憂(結構来てる・・・)
ピロリロリン♪
ピッ
梓「朝からごめんね、唯先輩の体調はどうですか?軽音部の人も心配しています。メールください」
憂(梓ちゃん、梓ちゃん、あ、これも・・・心配してくれてるんだな・・・)
憂(はァ・・・)
憂(メールじゃ伝えられないよ)
ピッ
憂(お姉ちゃん)
―7月6日― 学校
梓「あ、憂ちゃん!?」
憂「梓ちゃん・・・おはよう」
梓「おはよー、唯先輩大丈夫?」
憂「・・・たぶんとうぶん学校にはこれない」
梓「ええええ!?ど、どうして?」
憂「・・・」
梓「あ、ごめん・・・そんなに深刻なの?」
憂(コクン)
梓「・・・そっかあ、そうだ澪先輩達にも教えないと」
ピッピッ
憂「待って」
梓「え?」
憂「このことは私の口から話したいの・・・」
梓「あ、ごめん・・・そうだね、ごめんね勝手なことして」
憂「ううん、謝るのは私の方だから・・・ごめんね」
憂(深刻な病気ってなんだろう)
―放課後― 音楽室
律「あーあ、唯がいないと全然やる気でねーし」
澪「いてもいなくてもやる気ないだろ!」
律「最近、澪怒りやすいな。もしかして唯いなくて寂しんだろ?好きな人いないと寂しいもんなー」
澪「それは寂しいけど・・・って後半おかしいだろ!」
律「また怒ったw図星か?w」
澪「いいかげんにしろ!」
ゴチン!
律「いって―」
紬「あらあら」
軽音部のメンバー律、澪、紬達は唯の過去を知りつつ唯は肺炎と自分に言い聞かせながらいつもの日常を送っていた。
肺炎も心配だが過去のこともあるので肺炎であってほしいと願っていたのかも知れない
ガラっ
梓「遅くなりました」
律「おー梓か聞いてくれよー・・・って」
澪・紬「!?」
律・澪・紬「憂ちゃん!!!」
憂「あ、ごめんなさい突然」
律「い、いや・・・でもビックリしたー」
澪「今日、学校来ても良かったのか?」
憂「はい、お姉ちゃんの方も落ち着いたので」
律「そうだ!!唯はどうなんだ?大丈夫なのか?」
澪「私も知りたい!」
紬「知りたいわ」
梓「・・・」
憂「えっと状態は落ち着いたんですが、とうぶんは学校に来れないと思います」
律・澪・紬「!!!!!」
澪「え?そんなに悪いのか?・・・肺炎」
律「肺炎ってそんな長引く病気なのか?」
紬「いえ、長くても治療をすれば一瞬間くらいだと・・・」
梓「・・・」
憂「肺炎では無いです・・・」
律・澪・紬「!!!!」
憂「詳しくは言えませんが・・・」
律「なんか新しいことばっかで言葉がでないなあ・・・なぁ?」
澪「そ、そうだな・・・で学校に来れるのはいつぐらいになりそう?」
憂「・・・良くても先輩方が卒業してから」
律「え?」
澪「もう来れないのか?」
紬「そんなに!?」
憂「・・・はい」
紬「・・・」
澪「・・・そうか」
律「で、でもー病院行けば会えるわけだし唯がよくならいいじゃないか!まさか良くなけりゃ死ぬわけでもないわけだしwな?」
憂「ぅぅぅ」
澪「憂・・・ちゃん」
憂「ごめんなさい!」
スタタタタタ・・・・
梓「え?」
澪「今・・・泣いてた?」
紬「そうみたいね・・・」
律「・・・まさか・・・な?」
・・・・・・
音楽室に不穏な空気を残し走り去って行った憂、残されたメンバー達には決まったわけではないが唯の過去の再来を予感させていた。
憂(なんで泣いちゃったんだろう・・・バレバレ・・・)
―7月7日― 病院
唯「・・・」
この日も唯は上の空、過去に浸り現実から逃げていた。
窓から見える流れる雲を朝からずっと眺めていた。
午前中には両親が夕方には憂が来てくれたが話しかけに一言も返すことなく時は流れていった。
―夜―
唯「・・・」
ガラっ
律「ここか?」
澪「ああ、あってるはず」
唯(!?)
梓「唯せんぱ~いますか~?」
律「お!いたいたwゆーいーお見舞いきたぞ~」
澪「唯、大丈夫か~」
昨日の事もありメンバー達は話し合い直接見に行こうと病院へやってきてくれたのだ。
唯「え?・・・」
律「あ、その・・・やっぱり来ない方がよかったか?」
澪「迷惑だったら帰るから遠慮せずに言ってくれ」
唯「・・・ううん、平気平気w全然大丈夫だからw」
律・澪・梓「うん」
律達3人は互いに目を合し唯に合わせることを約束し合う。暗黙の了解だ。
梓「元気でホント良かったです!一時はどうなる事かと」
唯「ごめんね~みんなぁ、あのねもう大丈夫だよ~えへへ」
律「ホントお騒がせなやつだな唯はw」
澪「心配したぞ」
唯「うん、ありがとう」
唯は無理して笑っていた。それは3人にも明らかに理解出来ていた。
表情は決して暗くはない、でも目に生気は無く完全に死んでいたのだ。
唯「あずにゃ~ん」
梓「はい?」
唯「あれやらせてぇ」
梓「あれ?」
唯「もう~あずにゃんわかってるくせに~」
唯は大きく両手を広げそれを幾度か交差させた。
梓「もう・・・一回だけですよ」
抱きしめる、それが唯のやりたい事だった。
いやいやながらも梓は満更でもない様子、それもそうだ今回の一件で3日も合わず梓も寂しかったのだ。
梓は唯の胸に飛び込んだ。
唯「あ~ずにゃ~ん」
ギュ~・・・
梓「ちょ・・・苦しいですよ~」
唯「ごめ~んw・・・スゥ~・・・い~匂い」
梓「わ!嗅がないでください恥ずかしいです」
唯「あずにゃ~ん・・・」ナデナデ
ベッド上で抱き合う2人を静かに見つめる律と澪は少し安心していた。
唯と梓の2人だけの空間にはいつもの風景があったからだ。
唯「あずにゃ~ん」ナデナデ
梓「・・・」
律「どうした梓、急に黙って寝ちゃったのかw」
唯(ナデナデ)
梓「・・・」プルプル・・・
澪「梓・・・?」
唯「ん?」
唯は梓を少し離し下からそっと顔を覗き込んだ。
唯「あ・・・」
梓は泣いていた。
梓「・・・ごめんなさい」グスン
澪「梓?泣いてるのか?」
律「え?」
梓「ごめんなさい!なんで泣いてるんだろえへへ・・・」
唯「・・・」
抱きしめられてる間、梓は考えていたのだ。
たった今、重病かもしれない唯。過去にたくさん苦労した唯。
そんな唯に対し何もできない自分の不甲斐無さが梓の涙を呼び起こしたのだった。
唯「・・・」ギュ~
唯は梓を引き寄せまた抱き締めた。そして梓の髪に顔を埋める。
唯も泣いていたのだ、家族でもない梓が自分のことを思い泣いてくれたと・・・それが嬉しかったのだ。
律「・・・」グスン
澪「律・・・」
2人を見て律も泣いてしまった。そんな律をそっと抱き寄せなだめる澪も泣いていた。
結果、みんな泣いてしまった。それくらい今、唯を中心に時間が流れていたのだ。
唯「ねえ・・・」
皆がそれぞれの思いで泣いている中、唯は口を開く。
律「・・・なに?」
澪「?」
梓「唯・・・先輩?」
梓が唯を見上げた時、梓は驚いた。
初め唯の目に生気は全くなかったのだがその時、唯の目は何か覚悟を決めたような生き生きとしてキラキラと輝いて見えたからだ。
それは梓より遠くにいた律と澪もその目を見ることができ梓と同じような思案を募らせることとなる
唯「リっちゃん!」
律「う、うん」
唯「澪ちゃん!」
澪「あ、ああ」
唯「あずにゃん!」
梓「はい!」
唯「スゥ~・・・ハァ~」
唯は目を閉じ数回深呼吸をした。やはり何かを決めたのだろう、その唯の決め事をしっかり聞いてあげることがこの3人の唯一できることなのかもしれない。
唯「私負けないよ!ぜったい、ぜえええええったい病気なんかに負けないから!また一緒に音楽やろうね!」
律「頑張れ唯!私も出来る事があるなら何でもするから頑張れ唯!」
澪「私も唯の為なら何でもする」
梓「私も先輩方と気持ちは一緒です!唯先輩また一緒に音楽やりましょう!」
唯「うん!みんなありがとう私頑張る!」
ガラっ
唯・律・澪・梓(?)
紬「ごめんなさ~い遅れちゃって~」
唯「・・・ップ!」
律「クスクスw」
澪(プルプル)
梓「ぷっ」
紬(?)
唯・律・澪・梓「アーハッハッハッハッハ」
紬「えー何?なんでわらうの~?」
唯・律・澪・梓「アーハッハッハッハッハ」
紬「も~う」プンスカプンスカ!
律「ハハハハごめんwでもタイミングがw」
澪「ごめん!なんか良い所でまとまったところにむぎが来たから面白くてw」
紬「あらあらウフフ」
それから紬の持ってきたフルーツとジュースを開けいつものティータイムに花を咲かす軽音メンバー
唯は自分の病状、難しい治療、辛い闘病全てを話した、というより知ってほしかったんだと思う。それはこのメンバーが友達以上の大切な人達であると唯が思ったからだ。
唯の話をメンバーは真面目に聞いた。そしてまたみんなで涙を流す、でもまた笑顔が戻る。
そんなメンバーを唯は心から愛した。そして必ずこのメンバーと音楽をやることを改めて胸に誓ったのである。
もしかしたらそれは叶わないかもしれない、でも今はまだわからないからわからない分頑張れるのである。
このとき唯の1年後の生存率はわずか20%であった。
未来、唯がみんなと音楽をやれることを祈って今回の話はおしまいにする。
もし次回があるならハッピーエンドだろうか?バッドエンドだろうか?それは私にもまだわからない
だからこそ私も書いてみようと思えるのである。
唯「じゃあみんなイクよ~!せ~のっ!」
放課後ティータイム「けいおん!」