男「ではこれより演武を行います」
男「さあ、かかってこい」
門下生「はいっ!」ガシッ
男「とりゃあっ!」ブオンッ
門下生「うわあっ!」ドサッ
男「これが合気道です」
オオ~……
スゲー… パチパチパチ…
元スレ
男「インチキ合気道で商売してたらゴリラと戦うはめになった」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1583830966/
男「続いて、ここに300kgのバーベルがあります」
男「これを合気道で投げてみせます」
ザワザワ… ムリダロ…
男「どりゃあっ!」ブオンッ
ゴトンッ
男「これが合気道です」
オオオ~……
スゲー… パチパチパチ…
男「最後に、あそこからトラックが走ってきます」
男「あれを投げ飛ばしてみせます」
ブロロロロロ…
男「だりゃあっ!」ブオンッ
ズズーン…
男「これが合気道です」
オオオオ~……
スゲー… パチパチパチ…
門下生「見物料はこちらにお入れくださーい」
男「合気道に興味を持たれた方は、ぜひこの本を買って下さい!」
ワイワイ…
男「さ、帰るぞ」
門下生「はい」
男(全てインチキだ)
男(俺は合気道なんか使っちゃいない……)
男(だが、武道の“ぶ”の字も知らないバカどもは、派手なパフォーマンスに騙され)
男(面白いように金を落としていくのだ)
そんなある日のこと――
男「どりゃあっ!」ブオンッ
門下生「うわっ!」ドテッ
パチパチパチパチパチ…
男「さあさあ、ただいまより質問会を行います。なんでも質問して下さい!」
女「男さん、彼女っていますぅ?」
男「生憎いませんよ」
女「え~、立候補しちゃおうかな~」
アハハ…
青年「合気道を始めたきっかけは?」
男「子供の頃、合気道の映像を見て……」
男「じゃあ、次はそこの君!」
子供「お兄さんはゴリラとどっちが強いの?」
男(やれやれ子供らしい質問だな)
男「うーん……ゴリラより強いかもしれないし、弱いかもしれない」
子供「つまり、分からないってこと?」
男「まあ、そうなるかな」
子供「じゃあ勝負してよ」
ゴリラ「ウホッ」ズイッ
男「え」
男(ちょっと待て。どこから湧いて出た、このゴリラ)
ゴリラ「ウホホーッ!」ポコンポコン
子供「ほら、ゴリラはすごいやる気みたい!」
男「な……!」
男「いやだけど、ねえ? 動物と戦うなんて今のご時世許されないし……」
イイゾー! ヤレー! ヤッチマエー!
男「なんだと……!?」
子供「ほら、勝負してよ!」
男「あ、いや……しかしねえ」
男「ほら! 動物愛護団体の人が怒るかもしれないし……」
代表「怒りませんよ」
男「あなたは?」
代表「世界一過激な動物愛護団体の代表です。ぜひゴリラと戦って下さい!」
男「なんだってぇぇぇ!?」
男「なんで止めないんだ!」
代表「ソクラテスもこういってました。“好奇心は愛護の精神に勝る”と……」
男「ウソつけやァ!」
子供「聞いたか、みんな!?」
子供「今度の日曜日、人間vsゴリラのスペシャルマッチ決定だァッ!」
ワアァァァァァッ!!!
ウオォォォォォッ!!!
男「くっ……」
門下生「師範、どうしますか!?」
男「……」
男「こうなったらやるしかないだろう」
門下生「ですが、ゴリラに勝てるんですか!?」
男「ああ、勝てる。お前だって俺の秘密は知っているだろう?」
男「心配するな」ザッ
門下生「師範……!」
実況『お待たせいたしました』
実況『ただいまより、人間vsゴリラのスペシャルマッチを開始致しますッ!』
ワアァァァァァッ!!!
実況『まずは合気道の達人、男師範の入場ですッ!』
男「……」ザッザッザッ
実況『続いては、ゴリラの入場だ!』
ゴリラ「ウホオオオオオオオッ!」ポコンポコン
実況『ドラミングをしながら猛々しい入場だ!』
実況『これは血で血を洗うデスマッチを期待できそうだァ!』
審判「両者、構えて!」
ゴリラ「ウホッ!」サッ
男「……」サッ
オオッ……!
男(はっきりいってゴリラなんざ怖くもなんともない)
男(俺の合気道の正体――)
男(俺はこの体格で、人並み外れた怪力なのだ)
男(門下生を投げたのも、バーベル投げも、トラック投げも全て腕力によるもの)
男(俺が本気を出せば、たとえゴリラだろうとゾウだろうと簡単に捻り潰せるだろう)
男(なのになぜ、怪力ではなくインチキ合気道で商売してるのかというと――)
男(人はえてして神秘ってものに弱い。種の分かる怪力よりも、正体不明の魔法に金を落とす)
男(悪いなゴリラ……お前には俺の怪力の餌食になってもらう)
――ガシィッ!
実況『さあ、組み合ったァッ!!!』
実況『果たして野生の動物相手に合気道は炸裂するのかァ!?』
ゴリラ「ウホッ!」
男(終わりだ……一瞬でミンチにしてやる!)メキメキッ
フワッ…
男「え」ドサッ
ゴリラ「ウホッ」ガシッ
男(押さえ込まれた……! 全く動けない……! 微動だにできない……!)
実況『あれ……?』
ゴリラ「ウホッ」
男「これが……合気道……」
男(インチキ合気道で商売してきた俺が……今、“本物”に出会った――)
実況『こ、これは……ゴリラの勝利ということで、よろしいのでしょうか?』
男「ええ、動けません……。私の負けです……」
審判「勝負ありッ!!!」
実況『ええと……どういうことでしょう?』
実況『今日は調子が悪かったということでしょうか?』
男「どうもこうもありません」
男「私より、このゴリラの方が強かった……ただそれだけです」
実況『な、なるほど……』
ザワザワ… ドヨドヨ…
男「ゴリラさん……」
ゴリラ「ウホ?」
男「どうか……どうか私を弟子にして下さいッ!」
ゴリラ「……」
ゴリラ「ウホッ」ポンッ
男「ありがとう……ございます……!」
パチパチパチパチパチ…
真剣勝負を繰り広げ、師弟関係を結んだ二人に、観客全員が惜しみない拍手を送った。
やがて――
ゴリラ「ウホホッ!」ポコンポコン
男「さあ、今日もはりきって稽古をしよう!」
門下生「はいっ!」
子供「ぼくもがんばる!」
ゴリラ流合気道は門下生10万人を超える一大流派へと成長した――
完