1 : 以下、名... - 2011/03/28(月) 23:59:53.70 CcEUUXld0 1/180

――ラインハット付近――


テレレレー

ヘンリー「片付いた、か」

主人公「そのようだね」

ヘンリー「しっかし、堪えるぜ、こいつは。ここいらの敵、こんなに強かったのか? お前はこいつらと戦ったこと」

主人公「……」

ヘンリー「……すまねえ。急ぐとするか」

「待ていッ!」



元スレ
ピエール「お慕い申し上げております」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1301324393/

2 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:00:37.80 zJrQaaKn0 2/180

ヘンリー「なんだあ?」

主人公「スライムナイトだね。それも二体」

ヘンリー「よりにもよってか。勘弁して欲しいぜ」

スライムナイト1「我が同胞を傷付けたのは貴様らに相違ないな?」

スライムナイト2「あれ? 想像してたより随分と弱っちそうじゃん」

ヘンリー「なんだと。よし、見てな。オレのイオで……っと、大して効かないんだったな」

主人公「彼らを傷付けたことは謝ろう。でも、先に襲いかかって来たのは彼らの方だよ?」

スライムナイト2「人んちにそんな汚いナリで踏み入っといて、正当防衛を主張する気かい?」

ヘンリー「おいおい。ラインハットはいつからお前らの庭になったんだ?」

スライムナイト1「黙れッ!」

ヘンリー「是非もねぇや、こりゃ」

主人公「やるしかないみたいだね。早めに決めよう。何しろ、消耗が激しい」


3 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:01:18.84 zJrQaaKn0 3/180

スライムナイト1「我が名はピエール!」

スライムナイト2「その弟、アーサーだよー」

ヘンリー「……」

主人公「……」

ピエール「名乗れッ!」

アーサー「困るねー、こういう時は空気を読んでくれないと」

ヘンリー「……逃げたドレイ、えっと、リーヘン」

主人公「リ、リーヘンって……あ、同じく、主人公」

ピエール「リーヘン! 主人公! 同胞の名誉の為、その首、貰い受けるッッ!」

アーサー「弱そうではあるけど……ま、いいや。行くよー」


4 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:02:29.84 zJrQaaKn0 4/180

テレレレー

主人公「辛勝だね」

ヘンリー「程があるぜ。ったく、疲れてるっつうのに……」

アーサー「いてて。いやー、強いね、あんたら。俺ら、ここらじゃそれなりに強いはずなんだけどねー」

ピエール「……殺せ」

主人公「殺さない」

ピエール「何故だ!? 殺さぬ限り、我らは何度でも貴様らを……」

主人公「君たちが死ねば、悲しむ人が居るだろう。それくらい、戦っていれば分かるよ」

ヘンリー「らしいぜ。とっとと帰りな。何度来たってぶっとばしてやるから」

ピエール「そうやって……! 貴様らは騎士から死に場所すらもッ……」

アーサー「やめときなって、兄貴。助けてくれるっつーんだから、ここはさー」



6 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:03:20.98 zJrQaaKn0 5/180

ピエール「貴様には騎士の誇りは無いのか!?」

アーサー「誇りじゃパンは食えないからねー。……時にあんたら、この先で何するつもりだい?」

ヘンリー「ちっとばかし、城に用があってな」

アーサー「へえ。命知らずなんだねえ」

主人公「どういう意味だい?」

アーサー「あそこの頭はね。重税を国民に課し、意志に沿わぬ者は何であろうと焼き尽くす暴君……って、専らの噂さ。兵は、精強にして残虐。そして多数。世界征服でもおっぱじめる気かなー?」

ヘンリー「嘘を吐くな! デールがそんなことを……」

アーサー「いいや、国王は太后の傀儡に過ぎない。ただの暗愚だよ、ありゃー。……デール、ねー。ふーん。随分と親しげに呼ぶじゃないか、"リーヘン"さん?」

ヘンリー「げっ! しま……! お、おい主人公! 行くぞ!」

主人公「ああ」

ピエール「ま、待て!」


7 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:04:24.08 zJrQaaKn0 6/180

主人公「まだ何か用かい? 再戦なら後にしてくれ。急いでる」

ピエール「……太后を討つつもりか」

主人公「どうにかしなきゃならないとは思ってる」

ピエール「悪政に苦しむ民の為か」

主人公「ああ」

ピエール「ふふふ……なんと不思議で、それでいて真っ直ぐな眼よ。貴方ならば、あるいは……」

アーサー「兄貴、まさか」

ピエール「ならば! ……恥を忍んでお頼み申す! どうか私を、太后討伐の軍に加えていただきたい!」

ヘンリー「はあ!?」

アーサー「ちょいちょい兄貴。正気かい?」


9 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:05:18.68 zJrQaaKn0 7/180

ピエール「如何様に思われても結構! だが、私も騎士のはしくれ! 異種族と言えど、悪政に苦しむ民草を見過ごすことなどできん!」

アーサー「あーあー。また始まったか。悪かったね、あんたら。こうなっちゃうと聞かないからさ。無視して行っちゃってくれ」

ヘンリー「そうさせてもらうぜ」

主人公「いいよ」

ヘンリー「おい!?」

主人公「討伐、なんてことはしないだろうけど、たぶん、争いは避けられない。そんな時、君はとても頼りになる」

ピエール「お、おお……」

アーサー「あちゃあ」

ヘンリー「……ま、確かにな。お前がそれでいいって言うなら、いいさ」


11 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:06:13.11 zJrQaaKn0 8/180

主人公「よろしくね、ピエール」

ピエール「太后までの道のり、私がこの剣で切り開いてみせよう!」

ヘンリー「お前はどうすんだ?」

アーサー「……兄貴は危なっかしいからねー。俺も行かなきゃならないでしょ、こりゃ」

ピエール「何だと!?」

主人公「心強いよ、アーサー」

アーサー「コンゴトモヨロシク、ってね」


12 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:07:04.31 zJrQaaKn0 9/180

 かくして、スライムナイトのピエールとアーサーは、主人公一行の一員となった。
 それから程なくして、一行はラインハットに到着。主人公とヘンリーを待っていたものは、見知った国の変わり果てた姿であった。
 怒りに震える彼らは、城内に踏み入らんとするが、衛兵に阻まれ、適わなかった。
 手詰まりにも思える状況に意気消沈する一行であったが、ヘンリーが地下道からの侵入を提案。
 ヘンリーが城の構造にあまりにも詳しいことを訝しく思うピエール。その一方でアーサーは落ち着き払っていた。まるで、それが当然であるかのように。
 そうして、一行は魔物はびこるラインハット城地下へと足を踏み入れたのであった。



主人公「ごめんッ」ザンッ!

ピエール「うりゃッ」ザシュッ!

アーサー「ほら、兄貴。ベホイミ! おっと、お前らにはこれさ。イオ!」ドドン!

ヘンリー「新入りに負けてたまるかっての! そらよ!」ビシシシ!


15 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:08:00.00 zJrQaaKn0 10/180

 主人公、ヘンリー、そしてスライムナイト兄弟が、次々と魔物を打ち破ってゆく。
 個々の戦力だけでも十分に強力と言えるが、彼らが真価を発揮するのは連携を取った時。
 主人公と共に先陣を駆けるピエールと、その補助に徹するアーサー。討ち漏らした数体は、ヘンリーが鎖の鞭で薙ぎ払う。
 期せずして、それぞれの役割がはっきりと分かれた、バランスのよい編成となっていた。


ヘンリー「即興パーティにしちゃ、上出来じゃないか」

ピエール「我ら兄弟が揃えば、敵などおるまい」

アーサー「ま、兄弟揃った状態で負けちゃったんだけどねー」

主人公「これを見たら、運が良かったとしか言えないね。君たちが味方になってくれて、良かった」


16 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:08:59.29 zJrQaaKn0 11/180

ピエール「いいえ。貴方の卓越した武。そして、優れた指揮。私たちの敗北は必然だった」

アーサー「そういうこと。用兵の才能あるよー、あんた。怖いくらいだ」

主人公「そんなことはないさ。皆が頑張ってくれたからだよ」

ヘンリー「オレの評価はどうなんだい?」

ピエール「補助としての役目は果たしている。リーヘン殿が後ろに控えていれば、我らの勝利はより盤石となろう」

ヘンリー「それだけ?」

ピエール「そうだ」

ヘンリー「主人公みたいな才能とかは?」

ピエール「補助をするにも、才は必要だ」

ヘンリー「地味だぜ……」


17 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:09:40.68 zJrQaaKn0 12/180

アーサー「ドンマイドンマイ! リーヘン君! ジミーズ同士、仲良くやろうじゃん!」

ヘンリー「サンキュ……」

アーサー「政の才能だって、あるかも知れないしねー。ね、王子様」ヒソヒソ

ヘンリー「!?」

アーサー「ありゃ、図星か。偽名にしたって、もう少し捻るべきだったと思うよー?」ヒソヒソ

ヘンリー「……このことは」ヒソヒソ

アーサー「分かってるよー。わざわざ偽名使うってことは、まだバレたくないんでしょ?」ヒソヒソ

ヘンリー「重ね重ね、サンキュ。それと……」ヒソヒソ

アーサー「どうしたのさ?」

ヘンリー「……お前、良い匂いするな」

アーサー「せんせー! リーヘン君がホモでーす!」

ヘンリー「違うよ!?」

主人公「ヘ……リーヘン、君は」

ピエール「貴様、アーサーに何を……!」

ヘンリー「違うって! そんな眼で見ないでくれ! 主人公、尻を隠すな!」


19 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:10:38.80 zJrQaaKn0 13/180

 やがて一行の眼前に現れたのは、牢獄。その冷たい鉄格子を通して見えた者は――城内で悪政を布いていた筈の太后であった。
 国王を操っている太后は、偽者。太后が告げた事実は、一行に衝撃を与えた。
 地下道を抜け、城内に辿り着いた一行は、ヘンリーの弟にして国王……デールと見えた。
 デールに正体を明かすヘンリー。面食らうピエール。
 デールとの対話により導き出された結論は、偽太后の正体を暴く手段が必要だというものであった。
 一行は城内を探索、真実を映す鏡『ラーの鏡』の情報を得た。
 『ラーの鏡』の在処は、神の塔。そして、そこに入るには穢れなき乙女の祈りが不可欠。
 主人公、ヘンリーと共に神殿から逃れた修道女――マリアの助力を得て、彼らはラーの鏡を入手した。
 その後ラインハット城へと舞い戻った一行を待っていたのは、二人の太后。その姿形は、全く同じ。実子であるデールにすら、見分けがつかない。
 一方の太后に向けて、先に手に入れたラーの鏡をかざすヘンリー。すると……そこには、世にもおぞましい魔物の姿があった。


偽太后「そ、その鏡は! ええい、正体がバレては仕方がない!」

ヘンリー「オレたちの国をめちゃくちゃにしてくれたんだ。相応の礼はさせてもらうぜ」

偽太后「こうなったら皆殺しにしてくれるわっ!」


22 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:11:37.90 zJrQaaKn0 14/180

 ごおおお。
 言うなり、偽太后の横に大きく裂けた口から燃え盛る炎が湧き出る。
 激しくうねる炎の奔流は、人間が受ければただではすまない。人間が受ければ、の話ではあるが。

ピエール「ぬるいッ」

 スライムナイトという種族全体の特性として、火炎に強い耐性を持つ、というものがある。
 ピエールはその特性を如何なく発揮し、最前列に躍り出ることで、全体の盾となった。

偽太后「スライムナイト如きが、生意気なっ! ならば、この手で直接叩き刻み、腐土と帰すまでよ!」

アーサー「そう上手くはいかないのが世の常、ってね。べホイミ!」

ヘンリー「卑怯とは言うまいね! マヌーサ!」

偽太后「ぐっ……おのれ、おのれええええええ!!」

ヘンリー「悔しがるのはいいけどさ、なんか忘れてんじゃないか?」

アーサー「ま、もう手遅れだけどねー」

偽太后「な、何をっ……!!」

 偽太后が、幻影の合間に見たものは。
 己の背後で剣を大上段に構える、主人公の姿であった。


23 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:12:30.24 zJrQaaKn0 15/180

偽太后「愚かな人間どもよ……。オレ様の思うがままになっていれば、この国の王は世界の王になっていたものを……」

アーサー「あはは。鏡ならあるから、自分の無様な姿を見てから言ってみたらいいんじゃないかな」

ピエール「最期だ。苦しみの内に果てた民に詫びて、逝け」

ヘンリー「……いいや、オレにやらせてくれ」

ピエール「……そうだな。貴方にはその権利がある」

ザンッ



 太后は偽者だった。この知らせは瞬く間に国中に広がり、主人公一行は英雄として厚いもてなしを受けることとなった。
 絢爛豪華な酒宴を開き、国の再出発を喜び合う人々。


24 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:14:03.54 zJrQaaKn0 16/180

主人公「君たちは、呑まないのかい?」

ピエール「騎士たるもの、如何なる時も敵襲に備えねばなるまい」

アーサー「弱いんだわ、俺ら」

ピエール「おい!?」

主人公「あはは。それはそうと、君たちに言わなきゃならないことがあったね。ありがとう。君たちが居なければ、たぶん勝てなかった」

ピエール「礼を言わねばならぬのは、こちらだ」

主人公「そんなことはないよ。本当に助かった」

アーサー「あんた、これからどうするつもりだい? 国を救った英雄なんだ。このままラインハットに留まれば、勝ち組決定だけど」

主人公「そういう訳にも行かないんだ。僕には、やらなきゃならないことがある」


25 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:14:58.20 zJrQaaKn0 17/180

 主人公の旅の目的。それは、父の志を受け継ぐことであった。
 即ち、伝説の勇者を探し出し、魔界へと渡り、母を助け出すこと。
 主人公は、これまでのいきさつと共に、旅の目的を二人に聞かせた。



アーサー「なかなかにヘヴィな人生送ってきたんだねー、あんたも」

ピエール「う、く……」

アーサー「ちょ、兄貴? ……あーあ、泣いちゃったよ」

主人公「君たちの目的は果たされた訳だけど、これからどうするんだい?」

アーサー「戻ろうにも、ねー。ま、そこは兄貴に任せるよ」


27 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:21:15.35 zJrQaaKn0 18/180

ピエール「……主人公殿」

主人公「どうしたんだい? そんなに改まって」

ピエール「これからも我が刃、振るっては頂けないだろうか」

アーサー「あらら、やっぱりか。一応言っとくと、それは同族を裏切るってことだけど」

ピエール「構わぬ。ようやくこの剣を預けるに足る方に巡り合えたのだから。……それに」

主人公「?」

ピエール「……敗北した騎士に、居場所などない」

アーサー「……らしいけど、どうよ?」

主人公「気持ちは嬉しいけど……本当にいいのかい?」

ピエール「二言はございませぬ」

主人公「それじゃ、改めてよろしくね、ピエール! ……あとは」

アーサー「……俺も着いてくに決まってるっしょ? 兄貴を一人にしとけないしー」

主人公「ありがとう、アーサー」


34 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:38:32.05 zJrQaaKn0 19/180

 そして、夜が明けた。
 国王補佐の任に就いたヘンリーを残し、一行はラインハットを発った。
 城を出るや否や、襲い来る魔物。戦闘に次ぐ戦闘。苛烈な攻撃は、裏切り者を生かしておかぬという意志の表れか。
 ここで早くも一行は、ヘンリーの抜けた穴の大きさを実感することとなる。
 しかし、それよりも何よりも。主力であるピエールの迷いが、一行の戦力を鈍らせた。

アーサー「兄貴!」

敵スライムナイト「ぬん!」

ピエール「あ……」

アーサー「く……あぐっ!」ザンッ!


37 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:44:20.33 zJrQaaKn0 20/180

主人公「こっちは手を離せそうもない! すまないがそちらで何とかしてくれないか!?」

ピエール「ア、アーサー!」

アーサー「ベホイミ! ……戦えよ! もうこいつらは敵なんだ! そう決めたのは兄貴だろう!?」

ピエール「しかしッ!」

敵スライムナイト「涙ぐましいものよな。いつでも貴様はそうやって、そやつの為に尽くしてきたというのに」

アーサー「たった一人の兄貴なもんでねッ……!」

敵スライムナイト「今からでも遅くはない。貴様だけでも、戻って来い。さすれば、悪いようにはせん」

ピエール「くッ!」

敵スライムナイト「愚かな……ふふ、"兄"など捨て置けば良い。また、我らと楽しもうではないか。なぁ、アーサーよ」

アーサー「できると思うかい……?」

敵スライムナイト「惜しい、な。できれば傷はつけたくなかったのだが……なぁに、手足の一本や二本……」

主人公「はッ!」

ザシュッ!

敵スライムナイト「ぐッ」ドサ


39 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 00:55:42.86 zJrQaaKn0 21/180

主人公「大丈夫かい? 遅れてすまない」

ピエール「面目、ない……」

アーサー「いやー、とんでもない。こっちこそ悪いね。不器用な兄なもんでさ。俺みたいにうまく立ち回るのはちょっとね」

主人公「無理もないさ。……ここは、急いで抜けよう」

アーサー「そうするかねー」



 魔物の襲撃は、止まらない。倒せども倒せども、次々と現れるスライムナイト。
 命からがらそれらを退け、ようやく関所に辿り着いた時には、もう月が顔を出していた。
 満身創痍の状態で旅を続けるのは危険と判断した一行は、関所で宿を借りることとなった。


42 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 01:11:35.58 zJrQaaKn0 22/180

 主人公は、川のほとりに腰を下ろし、度重なる戦闘で溜まった汚れを落としていた。
 関所の周囲には結界が張ってあるため、襲撃の心配はない。安心して、疲れを洗い流すことができた。

 ピエールとアーサーは、関所に用意された寝室で休憩を取っている。
 

主人公「身体は後で洗う、なんて言っていたけど、あんな甲冑を着たまんまなのに気持ち悪くないのかな」


 疑問に思う主人公であったが、魔物と人間は身体の構造が違うのだろう、と思い直し、顔にぱしゃりと水をかける。
 数分の後、関所に戻った主人公。そこには、甲冑を着けたまま眠る兄弟の姿があった。


主人公「疲れてるんだろうな。……そりゃそうか」


 一抹の罪悪感を抱きつつも、床に着いた主人公。


43 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 01:24:02.56 zJrQaaKn0 23/180

 耐え難い尿意を催した主人公は、目を覚ます。

主人公「ん……?」

 一頻り寝室を見回し、違和を感じる主人公であったが、その理由は間もなく分かった。
 すぐ隣のベッドで眠っていた筈の、兄弟の姿がなかったのだ。

主人公「水浴び、かな」

 さして深く考えることもなく、主人公は寝室を出た。

主人公「ふぅ」

 関所の近くで用便を足した主人公は、ふと川を見渡す。
 悠々と流れる、大きな川だ。その水は暗闇に包まれてなお、透明に澄んでいることが分かる。

主人公「……?」

 主人公の視界の隅で、何かが蠢いている。
 遠くであるため確実ではないが、それは二つの人影であるように見えた。

主人公「ピエールとアーサーかな」

 一声掛けようと、主人公は歩みを進める。


45 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 01:35:53.62 zJrQaaKn0 24/180

 ある地点で、主人公はぴたり、と足を止めた。
 人影の全容が明らかとなり、その正体が主人公の予想を大きく超えたものであったからだ。

 少女。
 二人の、少女。

 彼女らは、川の水を身体に浴び、キラキラと輝いていた。
 まるで絵画から抜け出たような美しさに、一瞬我を忘れて見惚れる主人公であったが、頭をぶんぶんと振って意識を取り戻す。

 結界があるとは言え、女の子たちがこんな夜更けに出歩いているなんて、危ない。

 そう思った主人公は、関所まで彼女たちを送るべく、再び歩み寄った。


49 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 02:01:51.18 zJrQaaKn0 25/180

主人公「君たち!」


 少女たちから5メートル程離れた所で、主人公は呼びかける。
 その声に気づいた彼女らは、主人公に顔を向ける。

 遠目に見ても美しかった少女たちだが、寄って見るとより一層輝いて見えた。
 
 一方は、短めに切り揃えられた緑髪の少女。無造作、という言葉を思い起こさせるが、その純粋さがより少女の可憐さを引き立てていた。
 頬に張り付いた一房の髪から水滴を零しながら、青い眼を驚愕に見開いている。
 尖った耳がぷるぷると震えていた。
 その未発達な身体も相俟って、まさに天使と言うに相応しい。


 もう一方の少女は、先の少女とはまた違った魅力に満ち満ちていた。
 癖が目立つ、白銀の髪。こちらもまた、短めだ。それが日頃から丁寧に整えられていることは、そういったものに疎い主人公にも分かった。
 赤い眼を細めて苦い表情を浮かべるも、それすら美しさを損なうことはない。どんな表情を作ったとしても、美しい画に成り得るだろう。
 何よりも違うのが、その豊満な肢体。どこか悪魔じみた妖しい魔性を、感じずにはいられない。


 しげしげと眺めていた主人公は、慌てて視線を下ろす。すると、そこには。

 脱ぎ棄てられた、二対の甲冑があった。


51 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 02:18:27.87 zJrQaaKn0 26/180

主人公「こ、れは」

??「……あーあ、バレちゃったか。ま、そういうこったねー」


 言葉を失う主人公にまず声を掛けたのが、銀髪の少女。
 先ほどの表情から打って変わり、からからと笑う。


??「騙すつもりはなかったんだよー? 言い訳に聞こえるかも知れないけどさー。折を見て明かすつもりだったんだ」

主人公「その声、アーサー……なのか?」

アーサー「うんうん。失敗したなー。主さん、お疲れみたいだからさー。ドロヌーバみたいにぐっすりだと思ったのにー」

主人公「……えっと、じゃあ」


 主人公は、傍らで俯く緑髪の少女を見る。


「……」

アーサー「そゆこと。兄貴改め、ねーさんだねー」

主人公「どうして」

ピエール「私、は……」


52 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 02:37:24.25 zJrQaaKn0 27/180

主人公「……とりあえず、服を着てくれないか。何というか、目に毒だ。いや、毒ではないんだけれど」

ピエール「!!」

アーサー「おーおー。我らが主さまは初心でいらっしゃる」


 幼さを残すピエールの顔が、赤一色に染まった。
 びしりと硬直したピエールを、アーサーが笑みながら促す。姉よりも一回り大きな身体で背を覆いながら、ピエールの甲冑を手渡した。
 主人公には、その光景が姉を守らんとする妹の姿に見えた。


アーサー「いやー。お待たせお待たせ。これ、着るのも外すのもめんどいのよ」

主人公「いや、構わないよ」

アーサー「ま、もうずーっと鉄仮面着けてる必要がないのは救いだねー。蒸れるのなんの」

主人公「……すまない」

アーサー「ん? どーして主さんが謝るのさ。ま、帰ろうか。夜は冷えるよ。うう、さぶいさぶい」


55 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 02:54:27.00 zJrQaaKn0 28/180

 道すがら、主人公はアーサーに尋ねる。


主人公「どうして性別を偽っていたんだい?」

アーサー「騎士ってのはめんどくさいもんでさー。女ってだけで不利なのよ」

主人公「そうなんだ」

アーサー「そういうワケで、じゃあ男になっちゃえばいーじゃん! って思ってさー」

主人公「あはは! なるほどねー」


 笑いながら、主人公はアーサーの隣で顔を伏せるピエールを見る。


60 : おなかいたい - 2011/03/29(火) 03:03:22.92 zJrQaaKn0 29/180

主人公「ピエール」

ピエール「……」

主人公「さっきは、ごめんね」

ピエール「……」


 ピエールの瞳に、じわり、と涙が浮かぶ。
 千切らんばかりに、下唇を強く噛みながら。


主人公「ピ、ピエール」

アーサー「悪いけどさ、今は放っといてやってくれないかな」


62 : おなかいたい - 2011/03/29(火) 03:22:31.45 zJrQaaKn0 30/180

 結局、関所に至っても、ピエールは一度も口を開かなかった。


主人公「それじゃ、僕は別の部屋で寝るよ。幸い、空き部屋がもう一つあるみたいだし」

アーサー「そんなに気遣わんでもいいのにー」

主人公「そういう訳にはいかないさ。それじゃ、おやすみ。……ピエール、本当にすまない」

ピエール「……」


 もう一つあった部屋は、先ほどまで過ごしていた部屋と比べると、随分と質素なものであった。
 質素なベッドが一つある以外は、古びた机が放ってあるだけ。恐らく、二人が寝ている部屋は来客用なのだろう。
 それでも、主人公には有難い。奴隷時代からすれば、天国にも思える。


63 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 03:35:05.14 zJrQaaKn0 31/180

主人公「はあ」


 用意していた水差しを机に置き、主人公が横たわると、ぎしり、と悲鳴をあげるベッド。だが、寝心地は存外悪くないものだ。
 しかし、問題は主人公自身にあった。


主人公「むぅ」


 眠れないのだ。
 疲れが完全に抜けたとは言い難いが、目を瞑れば、少女二人の美しい裸体が浮かび上がる。
 主人公とて、男である。旅を続ければ、溜まるものもあった。


64 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 03:37:53.58 zJrQaaKn0 32/180

主人公「あはは……」


 衣服の上から強烈に自己主張するそれを見て、主人公は苦笑する。
 幸い、ちり紙はある。と、なれば。

 ごそり。

 腹より下を覆う衣服を解き、そそり立ったそれを露出する。
 久々の機会に、嬉しそうに屹立したものを、右手で弄び始めた。

 ごしごし。ごしごし。

 十分ほどそれを続け、もうすぐ終わりを迎えようという、まさにその時。
 ぎぎぎ、と耳触りな音をたて、ドアが開いた。


69 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 03:48:09.82 zJrQaaKn0 33/180

主人公「!?」


 脱ぎ捨てた衣服で、慌ててそれを覆い隠した主人公。その上で、布団を被る。


アーサー「……起きてるかーい?」


 現れたのは、アーサー。
 小さな声で言いながら、主人公に近寄る。


主人公「う、うぅん……アーサーかい?」


 努めて眠たげな声色を使い、主人公は訪ねた。
 その心中は、穏やかではない。軽いパニックに陥りながら、早く帰ってくれることを祈るばかりであった。


74 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 04:03:18.08 zJrQaaKn0 34/180

アーサー「おっと、お休みだったかー。悪いことしたねー……って、ん?」


 すんすん、と鼻を鳴らし始めるアーサー。
 主人公はと言えば、まさに背筋が凍る思いであった。硬度を保っていた愚息も、しゅんとうなだれるほどに。


アーサー「……なるほどねー。ほんとにおジャマだったワケかー」

主人公「な、何を言っているか分からないな」

アーサー「ま、あたしとしては有難い限りだねー。丁度よかったよかった!」


 舌なめずりしながら更に近づくアーサーに、主人公は身を竦めた。
 やがてアーサーはベッドに身体を預け、主人公に馬乗りになる形で顔を突き出す。
 アーサーは薄着であった。自然と、豊かな双丘が垣間見える。
 主人公の眼はそこに釘付けになった。ごくり、と生唾を呑み込む。


77 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 04:13:30.71 zJrQaaKn0 35/180

アーサー「んっふっふー。見えるー?」

主人公「う、うう」

アーサー「もっと見てもいいんだよー?」


 ずずい、と、更に顔を近づけるアーサー。鼻と鼻がぶつかる寸前の距離。
 例えようのない甘い香りが、主人公の脳髄を溶かす。即ち、女の匂い。


アーサー「どうか、お気安く、ご主人様……ってねー。んむっ」


 主人公の唇に、柔らかいものが触れた。至近に見えるは、ルビーのように輝くアーサーの瞳。
 それが愉しげに細められた時、主人公の脳がようやく解答を導き出す。これは、接吻であると。


78 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 04:25:00.36 zJrQaaKn0 36/180

 不意に、口内に生温かいものが侵入する。アーサーの舌だ。
 つん、と主人公の舌の先端を突いたかと思えば、好き勝手に口内を蹂躙していく。
 歯。歯茎。上顎。
 およそ届き得るありとあらゆる場所を舐め回し、その度にちゅくちゅくと水音が響いた。


アーサー「ん、んふ……ん」


 アーサーの口から鼻に抜ける甘い声が、主人公の口腔を駆け回った。
 一度は萎えた男根も、硬度を取り戻し始める。


80 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 04:42:33.71 zJrQaaKn0 37/180

 そうして、アーサーは口を離した。二人の唾液が混合したものが、心惜しげに糸を引く。


アーサー「ほんっと、初心だねー。カワイイカワイイ」


 主人公の顔をかき抱いて、胸に顔面を埋もれさせるアーサー。
 アーサーの香りと柔らかさが、主人公を包み込む。


81 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 04:43:48.11 zJrQaaKn0 38/180

 そしてそのまま、主人公の右耳を舐める。いや、舐めるというよりはむしゃぶる、と言ったほうが適切かもしれない。
 それほどの勢いで、溝も穴も、余す所なく舐め尽されている。

 やがて、アーサーは主人公の頭を離し、そのまま首筋へと標的を移す。
 広範囲を舐め上げたかと思えば、ちゅう、と口を窄めて吸い上げる。電流のように、主人公の背を快感が走った。


主人公「う、あ」

アーサー「ふーん。首、弱いんだー。じゃ、これはどーよ?」


83 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 04:56:20.06 zJrQaaKn0 39/180

 再び、主人公の首筋を味わうアーサー。これまでと違う点は。


主人公「うぐ、あっ」


 左手で、主人公の性器を弄んでいる所だ。
 アーサーの手は、普段は剣を握っているとは思えぬ程にしなやかで、そして滑らかであった。
 茎をしごきあげ、くびれに絡み付くように指を回す。手慣れているのが見て取れる。
 それでいて、絶妙。そして残酷。絶頂する一歩手前の刺激を保っていた。


アーサー「きもちー?」

主人公「うあ……」

アーサー「喋れないくらいかー。そんじゃ、これからどうなっちゃうんだろーねー」


 アーサーの唇が、緩やかに移動を始める。
 首筋から、乳首へ。乳首から臍へ。その間も、左手で絶えず性器を愛撫している。
 そして。とうとう、そこに辿り着いた。


84 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 05:02:11.24 zJrQaaKn0 40/180

アーサー「うっわー、だらだら」


 滝のように先走りを零す男根に、感嘆の声をあげるアーサー。
 つん、と突かれるたび、びくびくと胎動するグロテスクな肉塊。


主人公「はあ、はあ」

アーサー「それじゃ、メインディッシュだねー。たーべちゃーうぞー」


 ぱくり。


主人公「うああああ……!」


87 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 05:17:55.76 zJrQaaKn0 41/180

 艶やかな唇が、醜い男根を呑み込んでいく。
 手始めに、先端から滾々と湧く先走りを、残さず啜り取るアーサー。


アーサー「おひんひんひょっぱーい」


 抗議するように主人公を見上げる。ちろりちろりと、蛇が舐めるように鈴口に割って入りながら。
 薄い衣服をたくし上げ、白く大きな乳房を露わにする。視覚的興奮を誘っているのだろう。

 直後、アーサーは本格的に抽挿を始める。

 くぽ。くぽ。くぽ。くぽ。

 空気が抜けるような音と共にアーサーが頭を上下すると、それに伴って乳房が揺れた。


88 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 05:28:18.25 zJrQaaKn0 42/180

 唇で茎をきつく締め上げながら、艶めかしく動く舌で、くびれより上の部分を責めたてる。


アーサー「んっ。んっ。んっ。んふ……」

主人公「ア、アーサー」

アーサー「んふー?……んふふー。ちゅうううう」


 上ずった声で名を呼ぶ主人公に、全てを察した様子で、アーサーは更に動きを速める。

 じゅぽじゅぽじゅぽじゅぽ!

 根元から先端まで、余りに激しく動くものだから、根元の部分には白く泡立った唾液が溜まってしまっている。


89 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 05:39:21.89 zJrQaaKn0 43/180

主人公「も、もう」

アーサー「んん! んん!」


 苦しげに呻く主人公に、アーサーは頷いてみせた。いいよ、と。

 ちゅううううううううううううう!!

 これまでで最も強い吸引。男根がもげてしまうのではないかと心配になるほど。


主人公「あ、ああッ!!」


90 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 05:40:17.61 zJrQaaKn0 44/180

 どくん。どくん。
 性器が蠢くその度に、白濁の汚泥がアーサーの口内に注ぎ込まれる。


アーサー「んんんんん……」


 緩やかに運動を続けながら、頭上の主人公に切なげな表情を見せるアーサー。
 ちゅる、ぐちゅぐちゅ、と吸い上げて、射精の手助けをする。口内一杯に精液を溜めて。
 
 射精が一段落ついたところで、またもや頭を激しく振りたくる。
 尿道に一滴の精液すらも残さないとばかりに。



92 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 05:51:19.53 zJrQaaKn0 45/180

 ちゅぽん。
 アーサーが口を離した後には、僅かな精液も残さず、まっさらになった男性器があった。事前よりも綺麗になったくらいだ。

 ちょん。
 息も絶え絶え、といった風情で肩を上下させる主人公の肩に、アーサーが触れた。見れば。


アーサー「え゛あ……」


 口を大きく開け、口内を満たす白濁を見せつけるアーサーの姿があった。
 そのまま舌で精液の塊を転がし、くちゅくちゅと味わってみせる。

 しばらくそうした後、アーサーはようやく精液を嚥下した。


96 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 06:10:48.29 zJrQaaKn0 46/180

アーサー「んっく。ぷはー。ごっちそうさまー。つーかさ、溜めすぎっしょ。濃いし、多いし。ガマンは身体に悪いんだぞー!」

主人公「ご、ごごごめん」

アーサー「ま、よろしい。キライじゃないよ、そーゆーの。っと、水、水」ごくごく

主人公「すまない! 本当にすまない!」

アーサー「なんでそんなにテンパってるのさ」

主人公「だって、僕は君にとんでもないことを……」

アーサー「えー? 勝手に始めたのはあたしの方だよー?」

主人公「でも、すまない!」

アーサー「あらー、とんだヘタレだったか。……でも、うん」

主人公「え?」

アーサー「んーん、こっちの話だよ」


98 : 以下、名... - 2011/03/29(火) 06:13:39.44 zJrQaaKn0 47/180

 言い終わると同時、アーサーは立ち上がる。そして、主人公にびしりと人差し指を突き付け、言った。


アーサー「つーわけで、これから毎日あたしが抜いちゃうんで、よろしくー!」

主人公「……いや、良くないよ。こういうのはちゃんと好き合った者同士が」

アーサー「主さんが何と言おうと、これは決定事項なワケでして」


 抗議する主人公を放って、出口に向かって歩むアーサー。
 去り際に振り返って、言う。


アーサー「だから、さ。ねーさんには、手を出さないで。それと、できれば優しくしてあげて欲しいな。……おやすみー!」

主人公「それはどういう」


 ばたん。主人公の疑問を断ち切るように、扉が閉められた。いや、事実拒んでいたのだろう。
 深入りは許さない。最後のアーサーは、その眼でそう言っていたように思えた。
 主人公に残されたのは、初めて味わった快楽の余韻と、微かな胸の痛みのみであった。


182 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:07:17.15 5soMHUuT0 48/180

 そして夜が明けた!


主人公「……はぁ」


 起き抜けに、溜め息一つ。殺風景な部屋の中を漂う甘い香りが、昨夜の出来事が夢ではないことを告げていた。
 主人公は、気が重かった。これからどうピエール、そしてアーサーと接すればいいのか分からなかった。

 部屋を出た主人公は、まず川の水で顔を洗うことにした。清らかな流れが、憂鬱な気分を洗い落してくれることを期待して。
 
 ばしゃり。乱暴に、両の手で顔面に水を叩きつける。冷たい水は眠気を吹き飛ばし、意識の覚醒を促してくれた。
 だが、それだけ。昨夜の記憶は今なお主人公の脳裏に焼き付いて、がんがんと鈍い痛みを放っている。


184 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:08:10.46 5soMHUuT0 49/180

 不意に、横からタオルが差し出された。


アーサー「おはよー。お目覚めはどんな感じ?」


 鉄仮面で素顔を隠したアーサーであった。
 その調子は、どこまでもいつも通り。しかし、その声を聞くだけで、主人公は想起してしまう。
 己の股間に顔を埋める、アーサーの姿を。


主人公「くっ」


 それだけで熱を帯び始める男性器が、ただただ恨めしい。


185 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:08:51.46 5soMHUuT0 50/180

アーサー「んー? んっふふー。ま、明るいうちはいつものアーサー君ってことでー。朝っぱらから期待しちゃいやんいやん!」

主人公「ち、違う」

アーサー「しゃーないしゃーない。あ、兄貴には言わないでねー。そしたら、今夜も」


 いいコトしてあげるからさ。
 主人公の耳元で、そう囁く。


主人公「――――!!」

アーサー「じゃ、俺たちは準備済んでるから。朝ごはん、冷めないうちに来てねー」


186 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:09:40.24 5soMHUuT0 51/180

 鉄の仮面の下半分だけを開き、木匙でスープを口に運ぶピエール。


ピエール「うむ。やはり、アーサーの作る料理はうまいな!」

アーサー「とーぜんっしょ!」

ピエール「主殿は、どうか? お口に合うと良いのですが」

主人公「えっ? あ、ああ。おいしいよ」

ピエール「それは良かった! 私も鼻が高い!」


 高らかに声をあげて笑うピエール。
 以前までとは、明らかに違う振る舞い。どこか、無理をしているようにも見える。
 しかし、主人公はそれを指摘することができずにいた。
 言ってしまえば、また昨日の痛々しいほどに沈んだピエールに立ち戻ってしまうのではないか、という懸念があった。


187 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:10:40.87 5soMHUuT0 52/180

ピエール「して、関所を抜けた後はどこに?」

主人公「ビスタ港に行こうと思ってる」

アーサー「っつーと、西へ?」

主人公「うん。あてがある訳じゃないけど、今は世界を回って、情報を集めるべきだと思う。結局、父さんの真似事になっちゃうけどね」

ピエール「父君を、誇りに思われているのですね」

主人公「まだまだ足元にも及ばないけどね。おかしいかな?」

ピエール「おかしくなどあるものか。私にも、良く分かる。心置きなく、父君の背を追われるといい。そのための道は、私が斬り拓く!」

アーサー「……ッはー! ごっちそうさまー! さて、行くとしましょうかね!」


188 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:11:23.84 5soMHUuT0 53/180

 関所を抜けた一行は港町ポートセルミへ渡るため、関所から南に位置するビスタ港を目指す。
 その進行は非常にスムーズなものであった。
 ラインハット周辺に比べ、現れる魔物が弱いから。無論、それもあった。だが、ピエールの奮戦が、それ以上に一行の足取りを加速させていた。


ピエール「邪魔だああああああああッッ!!」


 ガスミンク。爆弾ベビー。ピッキー。
 そのいずれもが、皆一様に斬り散らされてゆく。


アーサー「落ち着きなって、兄貴。いくらこいつらが弱いっつってもさー、無傷じゃ済まないんだから」

ピエール「この程度、掠り傷ですらない!」

アーサー「まま、そう言わないでさ。ベホイm」


 ばしり。
 傷口にあたるアーサーの手が、叩き落とされた。


190 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:12:17.77 5soMHUuT0 54/180

アーサー「え?」

ピエール「無用だ! さぁ、主殿! このピエールの戦、ご覧あれ!」


 言うなり、またもや怒涛の進撃を開始するピエール。確かに、その戦いぶりは見事と言う外はない。
 しかし、ピエールは明らかに気負い過ぎていた。功を焦っていた。これではまるで、猪武者だ。


主人公「ピエール! 出過ぎだ! 下がってくれ!」

ピエール「道を拓くはこのピエール! 主殿のお手を煩わせることもない!」


 聞く耳を持たない。仕方なく追従する主人公とアーサー。
 そんなやりとりが幾度となく繰り返される内、ビスタ港に至った。
 太陽は未だ沈んでいない。驚くべき早さでの到着であった。
 折よく出港する間際であったため、待たされることなく船に乗ることができた。
 客室に荷物を降ろし、一息。


191 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:13:10.03 5soMHUuT0 55/180

アーサー「……もういいだろ、兄貴。手当てさせてくれ」

ピエール「この程度は、自分で」

アーサー「もう魔力も尽きてるんだろ? 頼むよー。俺、今日は活躍できなかったんだから、これくらいはさせてよー」

ピエール「……分かった」

主人公「ピエール……」

ピエール「主殿。私は、お役に立てただろうか」


 アーサーのベホイミによって塞がりつつあるものの、未だ生々しく残る傷口を身体のそこかしこに張り付けた有様で、ピエールは問うた。
 主人公は、思わず眼を逸らす。


192 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:14:07.02 5soMHUuT0 56/180

主人公「確かに、ピエールは強いよ。でも、そんな戦い方は」

ピエール「そ、そう、ですか。まだ、足りませぬか。……では、更なる研鑽を積むと致しましょう」

主人公「……どうしちゃったんだ、ピエール。あんなのは、君らしくない。昨日までは……あ」


 そこまで言って、主人公は思い出した。昨晩の、ピエールの姿を。


ピエール「……幻滅、なさったでしょう」

主人公「え?」

アーサー「兄貴」

ピエール「良いんだ、アーサー。……私は、女だ」


202 : さるさんこわい - 2011/03/30(水) 00:39:17.64 5soMHUuT0 57/180

身長については、スライムから降りた状態でピエールが155cm、アーサーが168cmくらいの設定で書いてます。
こまけぇことは気にすんな! ちんちんだって伸び縮みするんだから!


主人公「……ああ、知ってる」

ピエール「女が騎士を気取るなど、お笑いでしょう?」

主人公「そんな」

アーサー「……」

ピエール「良いのです。貴方が仰りたいことも、良く分かる。ですが、どうか! 昨夜のことは忘れていただけないだろうか!?
     私は、剣になる! 盾にもなる! だから、どうか……! 私を、貴方の騎士で在り続けさせて下さいッ……!!
     その気高き志を、護らせて下さい……!」


 身を切るような、悲痛な声だった。
 後半は、声がかすれてしまってほとんど聞き取れない。
 騎士で在ることに、何かを護るために戦うことに依存している。主人公からは、そんな風に見えた。
 出会って日が浅い主人公には、性別を偽ってまでそうする理由は分からない。
 しかし、それでも言える――否、言わなければならないことがあった。


204 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 00:55:20.51 5soMHUuT0 58/180

主人公「ダメだ」

アーサー「……主さん」


 びくり、と身を竦めるピエール。
 続けて放たれたアーサーの言葉には、氷のような冷たさがあった。これ以上言えばただではおかぬと言わんばかりだ。
 しかし、主人公は怯まない。人の不幸を見過ごせない優しさと、己が意志を愚直に貫く巌のような強さを併せ持つ男。
 そして、ここぞと言う時にはそれを存分に発揮する男。それが、主人公であった。


主人公「君は、剣でも、ましてや盾でもない。……仲間だ。僕はそう思ってたんだけど、君はどうなんだい?」

アーサー「……へえ」


206 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 01:13:13.46 5soMHUuT0 59/180

ピエール「わ、私……は」

主人公「スライムナイトの習わしは、僕には分からない。でも、少なくとも僕にとっては、君は騎士だ。最高にカッコいい、ね」

ピエール「……!」

主人公「男とか女とか、そんなのは関係ないさ。君だからこそ、後ろも前も任せられる。……もちろん、アーサーにもね」

アーサー「そりゃ、有難いこったねー。だってさ、兄貴。どうするよ?」

ピエール「……私は、どうすれば」

主人公「ピエールさえ良ければ、これからも僕と旅を続けて欲しい。頼りにさせてもらうし、頼っても欲しい。
    ただ、約束してくれ。二度と今日みたいなことはしないって」


 涼しげな瞳が、真っ直ぐにピエールを見つめる。
 やがて、ピエールが声を発する。たどたどしく、嗚咽を混じらせながら。


ピエール「……これからも、よろしくお願い致します……!!」

主人公「あはは。三回目になるけど、よろしくね、ピエール!」


210 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 01:29:45.13 5soMHUuT0 60/180

 いつの間にか、辺りには夜の帳が落ちていた。
 以前と同じとは行かないまでも、徐々に口数を増していくピエールに主人公は安心する。
 ピエール、アーサーは先に風呂に入っていた。どこまでも仲の良い姉妹だ。

 船上の甲板には、冷たい潮風が吹いていた。
 主人公は一人座して、星空を眺める。誰もいない甲板は、妙に物寂しく感じられた。

 そうしていると、隣に何者かが腰を下ろした。アーサーだ。


主人公「アーサー。風呂に入っていたんじゃないのかい?」

アーサー「あんなちっちゃい風呂に一人で入れるわけないっしょー? あたしが先にいただいたのよ」

主人公「そっか」

アーサー「しっかし、あんたも単なる朴念仁かと思ったら、どうしてどうして。歯の浮くようなセリフが、よくもまー次々と」

主人公「おかしかったかな」

アーサー「いや、礼は言っとくよ。ねーさんもおかげさんで立ち直れたみたいだし」


220 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 01:46:00.97 5soMHUuT0 61/180

主人公「本当に良かった、一時はどうなることかと思ったよ」

アーサー「まったくねー。こりゃ、あたしが一肌脱いだ甲斐があったねー」

主人公「……それは、関係ないと思う」

アーサー「へへー。ガマンしなくてもいいのよ? 今回は主さん、頑張ったからねー。どこでも、何回でも使っていいよん」

主人公「そうじゃない。そうじゃ、ないんだ」

アーサー「そーね……。今日は、胸でするとかどーよ? 自信あるんだよねー」


 言いながら、両腕で乳房を寄せるアーサー。胸元が大きく開いた白いアンダーウェアから、零れそうになっている。
 そのまま、主人公の胸板に身体を寄せる。二つの肉の塊が、胸と胸の間でぐにゃりと潰れた。

 ぎりりと歯を鳴らしながら、目を瞑る主人公。


226 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 01:56:57.16 5soMHUuT0 62/180

主人公「やめてくれないか」

アーサー「素直じゃないねー、主さんも。これだけで、こんなにしちゃってるクセにー」


 すりすり。柔らかく、適度に肉が付いた太股が、衣服の上から主人公の突起を刺激する。


アーサー「それとも、下がお好みなのかな。ふふー、いいよー。主さんのおち○ちんで、あたしを好きなよーに犯してさー。んふ、汗くさーい」


 主人公の胸元に頭を埋め、すうーっと息を深く吸うアーサー。
 その傍ら、主人公の片手を取り、己のパンツの下の潜り込ませる。
 しゃり、と、陰毛に触れた感覚があった。


アーサー「はぁ……あ」

主人公「――――くッ!!」


229 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 02:12:11.86 5soMHUuT0 63/180

 どん。
 
 我に帰った主人公が見たものは、床に尻餅を付いたアーサーであった。

 乱れた衣服のまま、きょとん、と主人公を見つめる。
 無意識だったとはいえ、ここまで来れば自分がしでかしたことに気付く。


アーサー「――え?」

主人公「す……すまない、アーサー」

アーサー「あ、あははー。何か、お気に召さなかったのかな。機嫌、直してよ。何だってするよ、あたし」


 焦燥を露わに、再び主人公に擦り寄るアーサー。主人公が初めて見る表情。
 何故か、主人公はそんなアーサーを直視できずにいた。


アーサー「も、もしかして、責められるのあんまり好きじゃなかったりとか? ごめんごめん、気をつけるからさ」


232 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 02:30:21.61 5soMHUuT0 64/180

主人公「こういうのは、嫌なんだ」

アーサー「……何、それ」

主人公「昨日、あんなことをしておいて今更だとは自分でも思うけど……もう、やめて欲しい」

アーサー「あたしの、どこがダメなのかな……?」

主人公「そうじゃない。こういうことは、好きな相手とじゃなきゃしちゃいけないんだ」

アーサー「あ、あたしは主さんのこと、大好きだよ! だから、なんだってしてあげられるんだよー」

主人公「……もう、やめてくれ」


 痛々しかった。主人公に必死に食い下がっているのは、いつもの飄々としたアーサーではなかった。
 淫乱のような振る舞いも、あたかも好意を持っているかのような態度も、全部、嘘。
 主人公には、なんとなくそれが分かってしまった。そして、その目的にも。


主人公「……ピエールのことは、心配しなくてもいいから」


236 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 02:41:48.01 5soMHUuT0 65/180

アーサー「……」


 鉛のように重い沈黙が流れる。
 俯くアーサーの表情は、主人公からは窺えない。
 と、そこに。


ピエール『アーサー! アーサー!! 長くなってすまない! 入っていいぞー!』


 ピエールの声だ。風呂から上がったのだろう。
 それを聞くなり、アーサーは立ち上がった。


アーサー「おっけー! 今入るよー!」


 その時には、いつものアーサー。明るく、掴みどころのない、昼間のアーサーだった。
 んしょ、などと言いながら伸びをし、客室の方を向く。


237 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 02:51:09.46 5soMHUuT0 66/180

主人公「アーサー」

アーサー「ん、どしたのー主さん?」

主人公「すまなかった」

アーサー「……へっへー。なんのことか分かんないやー」


 扇ぐように片手をひらひらと動かし、笑う。今までのことなんて冗談だ、とでも言うように。
 それが演技に過ぎないのだとしても、このまま無かったことにしてくれるならば、主人公にとってはどんなに有難いことだろう。


アーサー「じゃ、お風呂入ってくるねー。主さんも、入った方がいいんじゃない? 冷えたっしょ?」

主人公「ああ、そうするよ。おやすみ、アーサー」

アーサー「おやすみー、主さん!」


242 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 03:05:52.96 5soMHUuT0 67/180

 取っておいた個室で、主人公は横になった。風呂には入っていないが、今から沸かして入る気力もない。
 肉体的な疲れよりも、精神的なそれが主人公の身体を蝕んでいた。明日の朝、早めに起きて入ろう。そう思った主人公は、眼を閉じた。
 その時である。

 こん、こん。

 控え目な音量のノックが聞こえた。悲鳴を上げる身体に鞭打つ思いで立ち上がり、ドアを開けば。


ピエール「お、お邪魔……でしたか」


 甲冑を身に着けた、ピエールの姿があった。


248 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 03:25:07.24 5soMHUuT0 68/180

主人公「……あはは」

ピエール「何か」


 安堵すると同時に、主人公の口から笑いが漏れる。すると、ピエールが不満そうな声を出した。
 鉄仮面の下では、憮然とした表情を浮かべていることだろう。


主人公「いや、すまない。なんでもないよ。どうしたんだい?」

ピエール「主殿。ご入浴はお済みであろうか」

主人公「まだ……というか、沸かしてすらいないね」

ピエール「それはいけない。では、この私にお任せを」

主人公「わざわざそんなことをしなくても良いのに」

ピエール「いいえ。今日は冷える。主殿が風邪でも召してしまえば、大事だ」

主人公「君は召使いでもなんでもないんだよ?」

ピエール「……な、仲間のためにできることをしたい、というのは、おかしいのでしょうか」

主人公「! ふふ……いや、おかしくないさ。それじゃ、お願いするよ。正直に言うと、少し疲れててね。ありがとう、ピエール」


251 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 03:48:00.31 5soMHUuT0 69/180

 どぼどぼ。浴槽に水を張る音が響く部屋で、主人公とピエールは机を挟んで向かい合っていた。


主人公「助かったよ。身体を動かすのも億劫だったんだ」

ピエール「……? 何故、それほどまでにお疲れなのですか?」

主人公「……少し、鍛錬に身が入りすぎたみたいだ。全身が痛いよ」

ピエール「ほう。主殿ともあろうお方がそこまで……。是非とも、ご一緒したいものです」


 いやに多弁なピエールに、嬉しく思いながらも内心で首を傾げる主人公。
 心なしか、どこかそわそわしているようにも見える。


253 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 04:04:04.88 5soMHUuT0 70/180

主人公「何か、あったのかい?」

ピエール「? いいえ、特には」

主人公「そうか。なら良いんだ」

ピエール「そう、でしたか」

主人公「うん」

ピエール「……思えば、こうして二人でお話をするのは初めてですね」

主人公「そういえば、そうだね」

ピエール「存外、話題に困るものです」

主人公「……すまない」

ピエール「い、いいえ! 主殿を責めている訳では……ただ、アーサーの多弁さが羨ましい」


254 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 04:07:35.68 5soMHUuT0 71/180

主人公「……確かに、アーサーはよく喋るね」

ピエール「あの子は、本当に良くできた弟……いえ、妹です。何をやっても、私の上を行く」

主人公「そうかな。見た所、剣技は君が上みたいだけど」

ピエール「微々たる差です。だというのに、あの子は私を立てて、後方支援に徹してくれている」

主人公「仲が良いんだね」

ピエール「本当に、優しい子なのです。皮肉を言うこともありますが、それがあの子の本音ではございません」

主人公「……」

ピエール「あの子が男性を装っていたのも、私に……と、頃合いでしょうか。火を入れて参ります」


 メラの呪文が封じ込められた魔力炉を作動させ、浴槽に溜まった水を温めるピエール。
 戦闘用の呪文よりも出力こそ弱いものの、それでも浴槽一杯ほどの水は十分と掛からず入浴に適した温度となる。


260 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 04:42:35.03 5soMHUuT0 72/180

ピエール「……これで、風呂の準備は整いました」

主人公「本当にありがとう、ピエール」

ピエール「いいえ。お疲れの所を長々と居座ってしまい、申し訳ございません。……あ、主、殿」

主人公「?」

ピエール「きょ、今日は……いいえ、何でもありません。では、失礼を」

主人公「ああ、そうだ」

ピエール「如何なされましたか」

主人公「その鉄仮面、外さないのかい?」

ピエール「……!!」

主人公「もう、そんな重いものを着けてまで性別を隠す必要もないだろ?」

ピエール「こ、これは」

主人公「もちろん、無理にとは言わないけどね。ゆっくり、慣れていけばいい」

ピエール「……」


262 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 04:59:10.11 5soMHUuT0 73/180

 かちんこちんに硬直したピエールだが、ゆっくり、おずおずと頭に手を掛けた。
 そして、油を注していない機械のようにぎこちない動きで、仮面を外していく。かと思えば、また被る。
 そんな動きをたっぷり二十回ほど繰り返して、ようやく面を取り終えた。
 やがて、無骨な仮面の代わりにそこに現れたのは、人間の齢で言えば14~15ほどの少女。
 唇を強く噛み締めながら、視線は意味もなくテーブルへ向けて。
 朱に染まった頬の横では、先の尖った長い耳がぴこぴこと忙しなく動き回っていた。


主人公「あはは。やっぱり、暑かったんだね。顔が真っ赤だよ」

ピエール「ちち、違う!」


263 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 05:00:00.16 5soMHUuT0 74/180

主人公「うん。明るい所で見たのは初めてだけど……やっぱり、青くて綺麗な目をしてる」

ピエール「何をい言ってござる!? 主様に言われたくないです!! あ、ちが、何言ってるんだ私は!?」

主人公「え、えっと、ごめん、無理を言ったみたいだね。落ち着いて……」

ピエール「そそそれでは、お待たせ、じゃなくて、お邪魔しました!」


 ばたん!!

 まるで旋風のように、ピエールは去って行った。


主人公「……結局、何の用があったんだろう」


 若草色の髪の少女が主人公にもたらしたのは、ほんの少しの罪悪感と、更に大きな疲労。
 それと、沸点を迎えてごぼごぼと泡を吹く浴槽であった。


268 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 05:34:34.81 5soMHUuT0 75/180

 浴槽いっぱいの熱湯を水で埋め、どうにか入浴を終えた主人公。
 横になって休む主人公が考えるのは、スライムナイト姉妹――取り分け、アーサーのこと。


主人公「どうすれば、いいんだろう……」


 あれこれと考える内に、意識は精彩を欠いて。
 やがて、完全に闇に堕ちた。


270 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 05:36:49.73 5soMHUuT0 76/180

 どれほどの時間が経っただろうか。
 夢と現の狭間で、主人公はぬちゅぬちゅと何かが擦れる音を聞いた気がした。
 まるで、水を含んだ肉と肉が擦れ合うような音を。

 股間から広がる、心地よい温かさ。それは、人肌のものに酷似していた。
 

※「ん、ちゅ……はぁあ、はむ、ん」


 いつしか、艶の混じった声が響き始める。
 そこでようやく主人公の脳が活動を再開し、現状をおぼろげながらに把握できた。

 愛撫されている。誰に? ――決まっている。

 恐る恐る、瞼を開く主人公。


アーサー「んはあ、あむ、ちゅるる……」


 アーサーが、びきびきと脈動する怒張を双乳で挟みながら、先端を吸い上げていた。


273 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 05:52:25.20 5soMHUuT0 77/180

主人公「――――!!」


 制止の声を上げようとするも、声が出ない。無理矢理引き離そうにも、身体が動かない。
 金縛りの状態であった。だというのに、男性器だけはやけに敏感に、アーサーの温かさを受け取っている。

 蝋燭の微かな光を受けて、てらてらと艶めかしく輝く二つの白い肉。その間に大半を埋めながら、先端だけは飛び出してびくびくと涎を流して悦ぶ、醜悪な肉。
 それらが擦れ合うと、先走りと唾液の混ざった汚液が、淫らな水音を奏でる。


 ぬちゅ。ぬちゅ。ぬちゅ。


 音が響く度、脳の中枢が悲鳴を上げる。これは、気が狂ってしまう、と。以前味わった口腔のみによる愛撫とは、また違った快楽。


274 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 06:09:50.07 5soMHUuT0 78/180

 透明な円形の滴に覆われた先端に、舌が差し込まれた。粘着質なそれが付着するのも構わず、めちゃくちゃに。
 右へ、左へ。赤黒い先端が、舌の動きに従ってうねうねと蠢く。


主人公「――――ッ!」


 そして唐突に、それは爆発した。

 白濁の子種が、思い思いの場所を目掛けて飛び散る。
 大きく開かれたアーサーの口中に。
 美しく整った顔のそこら中に。
 白夜を思わせる白銀の髪に。
 びくびくと性器が脈を打つたび、アーサーの美貌が穢れていく。

 そのどれもを、アーサーは受け止めた。瞳を閉じて、口を大きく開けたまま。

 そうして射精が収まると、アーサーは性器を柔肉による拘束から開放し、根元まで呑み込んだ。
 二度、三度と上り下りを繰り返しながら、吸い上げる。


278 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 06:23:17.66 5soMHUuT0 79/180

 やがてそれも終えると、アーサーは口に残る汚液を飲み下し、顔を白いパックのように覆ったそれも指で集め、口に運んだ。
 けぷり、と精液の匂いがする息を吐き出して、言った。


アーサー「……やっぱりねー。どんなにカッコつけた所で、男は男だったね」


 その表情は、諦観に満ちていた。


主人公「ア……」

主人公「アーサー!!」


 がばっ。

 主人公が跳ね起きると、そこには誰もいなかった。
 窓からは明るい陽が射すとともに、ウミネコの鳴き声が流れ入る。


主人公「……夢?」


 主人公の股間には、生々しい感触が未だ残っていた。


390 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 23:49:19.47 5soMHUuT0 80/180

アーサー「あぢゃぢゃぢゃぢゃ!! ……うぐ。にゃんにゃん」

ピエール「なんだ、それは」

アーサー「ねこじただにゃん。つーかさー、このスープ熱過ぎ! 客に対する気遣いってのがなってないしー」

ピエール「……私には、丁度良い温かさだ」

アーサー「むむむ」

ピエール「何がむむむだ。熱いのなら、冷ませば良いだろう」

アーサー「自分で作る分には、時間で調整が効くんだけどねー。……そだ! ねーさん、ふーふーしてよ!」

ピエール「ば、馬鹿。主殿の御前で」

アーサー「けっちいなあ。じゃあ、主さんにやってもらうしー。主さんはやさしーからやってくれるもんねー?」

主人公「……え?」


391 : 以下、名... - 2011/03/30(水) 23:50:16.70 5soMHUuT0 81/180

 ゆらゆらと意識を空中に漂わせていた主人公は、アーサーの呼び掛けによって現実に引き摺り降ろされた。
 がやがやと談笑の声が響き渡る食堂。主人公の向かいには、鉄仮面が並んで二つ。


主人公「あ、ああ。ごめん。なんだって?」

アーサー「寝惚けてんのー? あーあ、昨日はあんなにカッコ良かったのにー。ふっふーん。優しいアーサー君が、挽回の機会をあげちゃおう!」

主人公「……えーっと」

アーサー「これ、冷ましてー」


 すすす、と主人公の手元に差し出される器を、ピエールの手が制した。


アーサー「何さー」

ピエール「わ、分かった。私がやろう」

アーサー「ほんと!? ねーさん、大好きー!」


393 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 00:00:27.94 t1ci/GB30 82/180

 両手を挙げて喜びを表現するアーサーに対し、ピエールは落ち着かない様子で主人公の顔色を窺っている。


ピエール「……う、うう」

主人公「……やってあげても良いんじゃないかな。妹なんだ。甘えたい時だってある」

アーサー「そゆことそゆこと! 分かってるねー!」

ピエール「で、では」


 ふー。ふー。
 湯気を立てる器に、ピエールが息を吹きかけた。
 幾度かそれを繰り返し、終えた時には、顔を覆う鉄仮面が湿気で濡れてしまっていた。



394 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 00:12:31.76 t1ci/GB30 83/180

ピエール「……これで良いだろう」

アーサー「んあ?」

ピエール「何の真似だ」

アーサー「あー、あー」


 気の抜けたような声を放ちながら、ちょいちょい、と己の口元を指すアーサー。
 分厚い鉄の塊に阻まれているため定かではないが、恐らくその奥には大口を開けているアーサーの姿があるのだろう。


主人公「食べさせて欲しいんじゃないかな」

アーサー「あん! あん!」

ピエール「~~~ッッ」


 恐る恐る、黄金色のスープがなみなみと乗った匙を、アーサーの目前に持っていくピエール。
 ぱくり。匙の先端が、鉄の仮面の中に消える。そしてそれが再び現れると、スープは綺麗さっぱりなくなっていた。


395 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 00:20:01.68 t1ci/GB30 84/180

アーサー「もう一回! もう一回!」

ピエール「むむむ……」

アーサー「なにがむむむだ! ほら、早くー」


 仲睦まじくじゃれあう姉妹を、微笑ましく思う主人公。
 その一方で、主人公の脳裏を昨夜の淫夢が過る。
 主人公には、己がとても汚らわしいものに思えてならないのであった。


ピエール「主殿」

主人公「え?」

ピエール「あまり、見ないでいただきたい。……その、少し、恥ずかしい」

主人公「……あはは。ごめんね、ピエール」


398 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 00:36:51.96 t1ci/GB30 85/180

 到着した港町、ポートセルミは、人々の活気に溢れていた。
 眩しいくらいに輝く朝日が、より一層この町の明るい印象を際立たせる。


「さぁさぁ! そこ行くあなたも見てらっしゃい! 安くておいしいお魚だよー!」

「マジックシールド! マジックシールドはいかがかね! こいつがあれば、もうなにも怖くない! 買ってくれたら、それはとっても嬉しいなって!」


ピエール「……ほう」

アーサー「うんうん。元気があるのはいいこったねー」

ピエール「町というものは、こうでなければな」

主人公「ラインハットだって、すぐに皆が元気を取り戻すはずさ。あのヘンリーがいるんだからね」

アーサー「ヘンリー君のこと、やけに買ってるじゃん」

主人公「ヘンリーがいたからこそ、今の僕があるんだ。彼は、いつだって僕を支えてくれた」

アーサー「信頼なさっているのですね」

主人公「ああ。無二の親友さ」


403 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 00:53:47.37 t1ci/GB30 86/180

 一行は、情報収集と気分転換を兼ねて、この町を見て周ることにした。
 まず目についたのは、天空に届かんばかりに高く聳える灯台。


ピエール「大きいな」

アーサー「せっかくだしさー、登ってみようよ!」

「あんたら、あの灯台に登るつもりかい?」


 一行に声を掛けたのは、筋骨隆々の覆面男。


「あの灯台には凄い怪物が棲んでるぞ。命が惜しかったら、あの灯台には近づくなよ!」


 それだけ言って、さっさと退散してしまった。


アーサー「……だってさー」

ピエール「ならば、放って置く訳にも行くまい。いずれ民の生活を脅かすことになるやも知れん」

主人公「そうだね。行こうか」


408 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 01:06:56.26 t1ci/GB30 87/180

 長い長い階段を、やっとの思いで踏破した彼らを待ち受けていたものは――。

 老人と、猫。


主人公「あ、あれ? 怪物は?」

アーサー「んー。ちょいちょい、じーさん。あんた、怪物だったりしない?」

「ケ! おとといきやがれ!」

アーサー「サーセン」

主人公「どうやら、担がれたみたいだ……ん?」


409 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 01:07:37.51 t1ci/GB30 88/180

 じりじり。ピエールは腰を落としながら、少しずつ、少しずつ退いていた。
 ピエールと熱い駆け引きを繰り広げているのは……猫。


主人公「どうしたんだい?」

ピエール「……この猫、只者ではない……! 絶対に近寄ってはならぬと、私の勘が告げているのだ!」


 視線を猫から逸らさぬまま、ピエールは叫ぶ。


アーサー「なーに言ってんだか」


 アーサーはひょい、と猫を抱きあげると、ピエールに近寄っていった。


ピエール「や、やめろ! 止せ! 本当に洒落にならん!」

アーサー「ひっひっひー」

ピエール「やめてーーーーーー!!」


411 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 01:16:21.69 t1ci/GB30 89/180

ピエール「……」もふもふ

「にゃーん」

主人公「懐かれちゃったみたいだね」

アーサー「ぷくく! 猫に本気でビビってやんのー。かわいー」

ピエール「……思い過ごしだったのだろうか? あ、柔らかい。温かい……」すりすり

「にゃーん」


 灯台を降り、猫と別れを告げた一行は、酒場に向かうことにした。
 この朝っぱらから酒を呑むつもりではないが、酒場には情報通が集まると相場が決まっている。


413 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 01:30:57.19 t1ci/GB30 90/180

 酒場に到着した主人公らであったが、どうやらその目論見は的を外れていたようだ。

 卓に着いているのは、しょぼくれた農夫と、如何にもガラの悪そうな二人組。


アーサー「期待できそうにないねー、こりゃ」

主人公「いや、人を見た目で判断するのは良くない。何か知っているかも知れないよ」

ピエール「その通りです。どれ、私が話を聞くと致しましょう」


 そう言って、ピエールは農夫に近寄り、声を掛けた。



414 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 01:34:04.23 t1ci/GB30 91/180

ピエール「もし」

「あ、ああ。なんだか?」

ピエール「突然に声をお掛けする無礼、お許し願いたい。一つ、お尋ねしたいことがあるのだが」

「ああ、オラの知ってることで良ければかまわねーだ」

ピエール「かたじけない。伝説の武具について、何か御存知であろうか?」

「うーん。お伽噺のだか? すまねー、わかんねーだよ」

ピエール「そうか。邪魔をした。それでは、失礼する」

「ま、待ってくれ!」


 去ろうとするピエールを、農夫の声が呼び止めた。


415 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 01:43:11.87 t1ci/GB30 92/180

ピエール「何か?」

「あんたなら、信用できそうだ。ちょいと、見てもらいたいものがあるだ」


 がさごそと懐を漁る農夫。
 そして、探り当てた何かをテーブルの上に置いた。
 それは、薄汚い包みだった。


ピエール「……これが、如何したと?」

「開けるだよ」


 農夫が包みを開けるや否や、眩いばかりの光が漏れだした。
 そこにあったものは、鋭い光を放つ、白銀の金属の棒。
 それが、山盛りになっていた。


ピエール「これは……」

アーサー「ちょっとちょっと……これ、ミスリルじゃん!」


 いつの間にかピエールの傍にいたアーサーが、驚愕する。


419 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 02:02:10.81 t1ci/GB30 93/180

「みすりる、というだか、これは? 値打ちもんなんだべか」

アーサー「値打ちもんなんてもんじゃないよー!」

主人公「とても貴重な合金ですよ。普通、武具の表面をコーティングするために使うんですが、そう出回ることはないんです」

ピエール「その精製には、優れた魔術師か錬金術師が不可欠なのだ。……失礼だが、これをどこで?」

「村の畑がバケモノに荒らされてるだが、いつもこれを代わりに置いてくだよ」

アーサー「律儀なバケモノもいるもんだねー。でも、それっておかしくない? バケモノにミスリルを精製する技術なんてあるワケ?」


**「いーい話をしてるじゃねーか」


 下卑た笑いを浮かべながら会話に割り込んできたのは、二人組の男。


420 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 02:09:51.00 t1ci/GB30 94/180

**「なあ、俺たちも交ぜてくれよ。そのバケモノを退治してやるから、そのミスリルを譲ってくれや」

「な、なんだかおめらは!」

**「そんなにいきりたつなって。おとっつぁんの悩みを解決したい一心なんだからよ」

***「そうそう」

「退治なんて、頼んだ覚えはねーだ!」

***「うるせーな。とっととそいつをよこしゃ良いんだよ!」


 農夫に掴み掛からんとするその腕が、ぎりりと捻り上げられた。
 主人公によって。


421 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 02:13:39.46 t1ci/GB30 95/180

主人公「やめてくれないか」

**「なんだ、てめえは。独り占めにしようってか」

主人公「そんなんじゃないさ」

***「ぐぐ……す、すげえ力だ」

**「気にいらねえなあ。正義の味方気取りかよ。ええ?」

アーサー「ほいッ」

ピエール「とうッ」


 ピエールとアーサーによって、悪漢たちはあっさりと斬り伏せられた。


424 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 02:27:23.73 t1ci/GB30 96/180

「あ、ありがてえ。おめーさんたちを選んだオラの眼に狂いはなかっただ」

ピエール「いいえ。この下衆共の行いが眼に余っただけだ」

主人公「それで、そのミスリルはどうするんですか?」

「うーん。銭ッ子なんて、いくらあってもしょうがねーだ。だから、これでみすりるのクワを作るだよ!」

アーサー「……そりゃまた、豪華な鍬だねー。バチが当たりそーだよ」


 一行は、農夫の故郷であるカボチ村へ向かう。
 その目的は、農夫の護衛。そして、ミスリルを精製しているのが何者なのかを確かめるためであった。
 畑を荒らす怪物が、ミスリルを産み出すほどの知能を有しているとは思えない。
 ならば、怪物の傍には相当に高度な技術を持った第三者が存在すると考えるのが自然。
 そして、それほどの識者ならば、伝説の武具についても知ることがあるのではないか。

 農夫を村に送り届けた主人公らは、怪物の巣と思しき洞窟に足を踏み入れたのであった。


427 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 02:49:04.78 t1ci/GB30 97/180

 洞窟の最奥に居を構えていたのは――魔獣、キラーパンサーであった。
 その獰猛さは、魔物たちからすらも恐れられる。
 鋭い爪で肉を裂き、刃のような牙は骨を容易く砕く。そしてその咆哮は大気を震わせ、歴戦の勇士すらも竦みあがらせる。


ピエール「確かに、怪物だな」

アーサー「とんだ野菜泥棒だねー。しかも、こいつ……ただのキラーパンサーじゃない。強い、ね」


 緊張を身に纏う姉妹に対して、主人公の視線は一点に注がれていた。

 キラーパンサーの背後に突き立つ、剣。
 無骨でありながら、どこか気高さを漂わせる、その剣。

 見間違えようがない。主人公が知る限り、最強の男が振るっていたもの。

 ――パパスの剣であった。


433 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 03:18:11.92 t1ci/GB30 98/180

 だとするならば、この魔獣は。

 無防備に、キラーパンサーへと向かう主人公。ざすざすと、一片の恐怖すらも見せずに。
 その光景に、ピエールとアーサーの両名は不思議と声を出せずにいた。

キラーパンサー「ハルルルル……」

 主人公の目前で、地を這うような体制を取るキラーパンサー。
 ここから先は行かせないとでも言いたげに。
 まるで、背後にある剣を護るかのように。

 そこで、主人公はしゃがみ込む。
 不意に魔獣の頭に落ちたのは、奴隷を続けていたためにすっかり硬くなった掌と、塩気を多く含んだ水滴。


434 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 03:19:49.37 t1ci/GB30 99/180

キラーパンサー「……?」


 何を思ったのだろうか。魔獣は主人公の懐に頭を突っ込んで、何かを咥えて見せた。
 それは――幾重にも年月を重ねた故に色褪せた、リボン。
 それを主人公の手に預けて、ぺろぺろと主人公の顔を舐めた。涙を拭うように。再会を喜ぶように。


主人公「ありがとう……ずっと、護ってくれてたんだね……ボロンゴ」

ボロンゴ「ウオオオォォォォ!!」


 その咆哮には、威嚇でも怒りでもなく、積年の想いが込められていた。


437 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 03:44:14.07 t1ci/GB30 100/180

ピエール「主、殿?」


 状況が呑み込めぬピエールが、間の抜けた声を出す。


アーサー「事情は分からないけど、さ。いよいよ人外染みてきたねー。魔界の狩人を手懐けちゃうとは」

主人公「ボロンゴは、僕の友達だったんだ。小さい頃からね」


 名残り惜しそうに、主人公の手から離れるボロンゴ。
 そして、背後の剣を器用に抜き取り、主人公に差し出した。

 受け取る主人公の手に、ずしり、と重みが伝わる。
 父の誇りの具現とも言うべきそれは、この上なく主人公の手に馴染んだ。


主人公「これ、父さんの剣なんだ」


 びゅおっ、と剣を一振り。
 甲高い風切り音が、あるべき者の下に帰った剣の歓喜の声にも聞こえた。


アーサー「へー。良い剣だね。ちょっとボロくはあるけどさ」

ピエール「……良く、お似合いです」


440 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 04:00:41.79 t1ci/GB30 101/180

「客人か。珍しいな」


 唐突に現れたその男は、枯れ木のようであった。
 深緑のローブの奥には、聡明な輝きを宿した瞳。


「……ほう」


 ボロンゴ。パパスの剣。そして、主人公。それぞれを、ゆっくりと見定めていく。


「成程、な。お前がその剣の主という訳か」

アーサー「ちょっと、じーさん。いきなり出てきて何を一人で納得してんのさー」

ピエール「やめないか、アーサー! ……失礼を。ミスリルを精製したのは、貴方か」

「そうだ」

主人公「ありがとうございます。貴方のお陰で、ボロンゴは皆に憎まれずに済んだ」

「俺の巣に要らぬ災禍を呼び入れられては困るのでな。手慰みに創り出した石ころなど、安いものだ」


444 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 04:06:36.54 t1ci/GB30 102/180

アーサー「ラスボスみたいなナリと声のクセに、優しーじゃん」

ピエール「だから、お前はッ……!!」

「お前達は、魔物か」

ピエール「如何にも。スライムナイトのピエールと申します」

アーサー「同じく、妹のアーサーだよん」

主人公「主人公です。こっちは、ボロンゴ」

ボロンゴ「ガウ!」

「ふむ。ならば名乗らせてもらおう。俺は、マーリン。魔法使いのマーリンだ」


447 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 04:19:19.51 t1ci/GB30 103/180

アーサー「あっははー! かわいー名前だねー!」

ピエール「いい加減にしないか!」

マーリン「女人の足でここに至るのは苦しかったろう。俺の研究室がある。着いて来い」

アーサー「何さー。やらしーコトしようって魂胆……むぐぐ」

ピエール「もう、喋るな!! ……お気遣いなく。女とはいえ、殿方に後れは取りません」

マーリン「正直に言おうか。何しろ、老骨なものでな。立ち話は堪える。合わせてくれると、嬉しい」

アーサー「あやしーんだ! そうやって……もがが」

マーリン「ふん。案ずるな。とうに枯れ果てている」


450 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 04:40:30.20 t1ci/GB30 104/180

 案内された部屋には、四方を覆う書物があった。まさに、本の壁。
 得体の知れぬランプは強烈な光を放っており、洞窟の奥だというのにまるで昼間のような明るさであった。


マーリン「して、何の用だ」

主人公「伝説の武具について、何か御存知ですか?」

マーリン「……知っている。目にした事は無いがな」

主人公「僕たちは、それを集めるために旅をしているんです」


 主人公は、荷物袋の中から天空の剣を取り出して見せた。


マーリン「……良く見ても?」

主人公「はい」


451 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 04:41:20.87 t1ci/GB30 105/180

マーリン「ふむ。これは、面白い」

ピエール「何か、分かりましたか?」

マーリン「分からぬ」

アーサー「ちょちょーい! 偉そうなのは見た目だけかい!」

マーリン「この刀身……オリハルコンか。しかし、それだけでは……」ぶつぶつ

アーサー「うへー、気味悪い」

主人公「他の武具がどこにあるか、御存知でしたら教えていただけますか?」

マーリン「……良かろう。だが、条件がある」

ピエール「と、言いますと?」

マーリン「俺も連れて行け」

アーサー「じーさん、ボケてんの!?」


454 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 04:54:33.37 t1ci/GB30 106/180

マーリン「興味があるのだ。お前達が手に入れんとする天空の装備に。そして」


 深い皺に覆われたマーリンの双眸が、主人公に向けられた。


マーリン「お前に、な」

主人公「ぼ、僕ですか」

マーリン「そうだ。そのスライムナイト……キラーパンサー。遥か古には、魔物の軍勢を操る人間が居たと聞くが……」

主人公「へ、へえ」

マーリン「何よりも、その瞳が告げているのよ。面白いものを見せてくれる、とな。くかか、心が躍る」

ピエール「ですが、そのお身体では」

主人公「僕たちの旅は、厳しいものです。年老いたあなたが……」

マーリン「……ここに、俺が使っている狩場がある。来い。良いものを見せてやる」


456 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 05:13:50.00 t1ci/GB30 107/180

 ぎゃあぎゃあと、魔物の叫びが木霊する。凄まじい数の魔物が、群れを成していた。


ピエール「くッ……どういうおつもりかッ!」

マーリン「魔道を究める為には、魔物の部品が必要な事もある。そこで、ここを使うのよ」

アーサー「だから、言わんこっちゃない! こんなじーさんを信用するから……」

ボロンゴ「ぐるるるる……」

マーリン「それ、来るぞ」


 魔物たちが、大挙して押し寄せる。
 個々の強さは大したことはないが、数が違う。
 がしり、と両の掌を組み合わせ、魔物の大群へと狙いを合わせるマーリン。
 身構えながらも、死を覚悟する主人公たち。



457 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 05:15:06.85 t1ci/GB30 108/180

 その時であった。


マーリン「ベギラゴン」


 呟くと同時、マーリンの手から放たれたものは、火炎の大蛇。閃光の奔流。
 それが、うねり、猛り、全てを呑み込む。目を開けられないほどの眩さだ。

 数秒と経たず、雲霞のように立ちはだかっていた魔物たちは、物言わぬ消し炭と化した。

 口をあんぐりと開けたまま放心する主人公に、振り返ったマーリンが言う。


マーリン「不足か」

主人公「あ、あはは……とんでもない」


 こうして、ボロンゴとマーリンは仲間になった。


463 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 05:46:25.08 t1ci/GB30 109/180

 ポートセルミに戻り、宿を取った主人公一行。
 夕食が用意されるまでの待ち時間に、一部屋に集まっていた。


アーサー「肩凝ってないスかー!」

マーリン「いや」

アーサー「飲み物お持ちしやスかー!」

マーリン「不要」

ピエール「お、おお……」

ボロンゴ「ごろごろ」

主人公「ん?」

ピエール「主殿、折り入ってご相談が……」

主人公「どうしたの?」


464 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 05:59:54.85 t1ci/GB30 110/180

ピエール「ボロンゴ殿もまた、旅の仲間。なれば、親睦を深める必要が……」

主人公「ああ、いいよ。ほら、ボロンゴ。行っておいで」


 撫でていたボロンゴから手を離し、ピエールを指して促す主人公。
 ぐぅん、と大きな身体を伸ばすボロンゴ。サイズこそ違うものの、猫のような仕草だ。


ピエール「……」


 間近に迫ったボロンゴを見て、恐る恐る手を伸ばすピエール。


465 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 06:04:24.83 t1ci/GB30 111/180

ボロンゴ「ぐぅ?」

ピエール「それでは、失礼を……」


 ゆっくりとした動きで、ボロンゴの立派な鬣に触れる。
 その見た目に反して、まるで上質な絨毯のような手触り。


ボロンゴ「ふにゃ」

ピエール「こ、これは」

ボロンゴ「んにゃ」

ピエール「気持ちいい……」


466 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 06:16:56.98 t1ci/GB30 112/180

アーサー「あれー? ねーさん、動物好きだったっけー?」

ピエール「……ふふふ」


 アーサーの声も、その耳に入っていない様子。夢中でボロンゴを弄くり回している。


アーサー「あー、昼間のアレで目覚めちゃったにゃん?」

ピエール「ふかふか……」

アーサー「ダメだこりゃ」


467 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 06:21:38.46 t1ci/GB30 113/180

マーリン「……野暮用を思い出した。家に戻るぞ」

主人公「え? でも夕食は」

マーリン「魔物に変じてからは、食事も睡眠も不要な身だ」

アーサー「お伴しましょっか?」

マーリン「害する魔物も居るまい。俺一人で充分だ。なに、朝には戻る。キメラの翼も、山程ある」


 そう言って、マーリンは部屋を出た。


アーサー「なんだろねー? 良いこと思いついた! みたいな顔してたけど」

主人公「さあ。彼の考えていることは、良く分からない。……でも、頼り甲斐があるよ」

アーサー「すっごいよねー! あれ! あたしたちも、楽できそー」

主人公「マーリン一人に任せちゃいけないよ」


469 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 06:29:14.94 t1ci/GB30 114/180

ピエール「ぎゃー!」


 聞き慣れぬ叫び声が響いた。
 主人公とアーサーが目を向けると、ボロンゴに押し倒されて仰向けに寝転ぶピエールが居た。


ボロンゴ「ぐが」

ピエール「やめていただきたい! んぐぐぐぐ!」


 鉄仮面の飾りの部分を咥えて、ぐいぐいと引っ張るボロンゴ。


470 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 06:39:10.15 t1ci/GB30 115/180

ピエール「いたたた!」

ボロンゴ「がう! がう!」


 すぽん、とそれを取り払われて、素顔を晒したピエール。


ピエール「あわわわわ」


 ボロンゴの長い舌が、ピエールの顔中を舐め回す。


ピエール「んむむむむむ~~!」


472 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 06:43:00.52 t1ci/GB30 116/180

主人公「……あはは! ボロンゴも、ピエールはそっちの方が良いって言ってるよ」

ボロンゴ「ごろごろ」

ピエール「返して~!」

アーサー「……ねーさんが外すならあたしも外すよー!」


 仮面を放り投げて、アーサーももみくちゃの戦いに参戦した。


アーサー「おー、こりゃきもちーや! ふっかふかじゃん!」

ピエール「ア、アーサー、助け……」

ボロンゴ「ふがふが」

ピエール「ふにゃああああああああああ!!」


 隣客からの苦情を機に、乱戦は一応の決着を見たのであった。


474 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 06:54:41.50 t1ci/GB30 117/180

 そして、夕食。


主人公「……おお」


 素顔のままで、食事をするピエール。
 主人公は、それを初めて目にすることとなった。


ピエール「あ、あまり見ないでいただけますか」

主人公「すまない。……でも、どうして急に?」

ピエール「……兜が、涎で」

主人公「ああ。そういうことか」

ピエール「それに……」

主人公「ん?」

ピエール「……いいえ、それだけです。それだけなんです!」


 言い終わると、細かく千切ったパンを口に放り込むピエール。


477 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 07:11:56.07 t1ci/GB30 118/180

 もぐもぐと動く頬は赤く、目も忙しなく泳いでいる。
 しかし、ピエールの様子は大分落ち着いているように見えた。
 昨夜と比べれば、驚くべき進歩だ。


主人公「ふーん」


 悪いとは思いつつも、ついつい観察してしまう主人公。


ピエール「……な、何でしょう」

主人公「耳」

ピエール「は、はい」

主人公「動くんだね」

ピエール「……おかしいでしょうか」


478 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 07:22:21.39 t1ci/GB30 119/180

主人公「ううん。凄く、かわいいと思う」

ピエール「か、かか可愛い、でしょうか」


 ぶんぶんと、両耳が激しく揺れている。
 もしかすると、感情の種類によって、耳の動きが変わるのだろうか、と主人公は思う。

 ふと、そこで思い至る。
 ピエールの耳と殆ど同じ形状のアーサーのそれは、殆ど動いていないことに。


主人公「そういえば、アーサーの耳は動かないよね」

アーサー「……」


 返事はない。
 両手を頬に当てて耳を振り回すピエールを凝視したまま、動かないアーサー。


479 : 以下、名... - 2011/03/31(木) 07:33:24.62 t1ci/GB30 120/180

主人公「アーサー?」

アーサー「え?」

主人公「……大丈夫かい?」

アーサー「あ、あははー! ごめんねー! ねーさんがあまりにもかわいーもんだからさー! 見とれちゃったよ、うん」


 沈黙していた時間を取り戻すように、明るく笑うアーサー。
 その耳は若干の動きを見せて、しゅん、と項垂れているように見える。
 それが何を意味するのか、主人公には分からなかった。


571 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 00:48:50.40 ft7PbdJV0 121/180

 夕食を摂り終えて、主人公とボロンゴは別の部屋へ。
 手早く入浴を済ませ、柔らかなベッドに身を滑り込ませる主人公。


主人公「二人で眠るのもは、何年ぶりだろう」

ボロンゴ「ごろごろ……」


 軽く顎の下を撫でてやると、気持ち良さそうに喉を鳴らすボロンゴ。


主人公「本当に、大きくなったね。一つのベッドじゃ狭いくらいだ」

ボロンゴ「ぐぅ……」


572 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 00:49:31.02 ft7PbdJV0 122/180

 しょんぼりしながらベッドを降りるボロンゴ。
 そこで、主人公は名案を思い付いた。
 マーリンが出たことで空いたもう一つのベッドをずずい、と引き寄せて、二つのベッドをくっつけた。


主人公「これで一緒に寝れるね」

ボロンゴ「がう!」

主人公「ふふふ。おやすみ、ボロンゴ」


 そうして灯りを消した主人公は、懐かしい温もりに包まれて、穏やかな眠りに就いた。
 淫夢にうなされることもなく、緩やかに夜は過ぎていった。


573 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 00:50:49.62 ft7PbdJV0 123/180

主人公「……うわー」

ピエール「……おふぁよう、ございましゅ」

アーサー「青空と朝日のせいで君が眩しいー」


 眼の下にべっとりと隈を張り付けたピエールが、呂律の回らない口で挨拶をする。


主人公「寝不足かい?」

ピエール「ふぁ……」

アーサー「ちょっと、話し込んじゃってさ。気付いたら私は何となく朝だったわけ」

主人公「だ、大丈夫?」

ピエール「……くー」

アーサー「コントロール不能ー」

主人公「……大丈夫、には見えないね」

ボロンゴ「ふにゃにゃ」


574 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 00:51:36.37 ft7PbdJV0 124/180

マーリン「……何事だ」

主人公「あ、マーリン、お帰り」

マーリン「ああ。して、これは」

主人公「あんまり寝られなかったらしいよ。どうしよう? ここで出るのは可哀想だ」

マーリン「ふむ。丁度良い。主人公よ、少し俺に付き合え」

主人公「え? でも」

マーリン「何、そう時間は取らせん。昼までには戻れよう。上手くするとキメラの翼を浪費する事無く、な」

主人公「……? そういうことなら、いいよ。行こうか、ボロンゴ」

ボロンゴ「ぐおお!」


576 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 00:52:32.08 ft7PbdJV0 125/180

 ポートセルミを出て、移動を開始した二人と一頭。その前進を阻む魔物は、驚くほどに少なかった。
 魔物たちが、ボロンゴに恐れを生したからかも知れない。
 程なくして辿り着いたのは、迷路のように入り組んだ町であった。
 その一角、煙突からもくもくと白煙が立ち上る民家。
 そこにマーリンは入って行った。主人公、ボロンゴも後を追う。

 まず目に入ったのは、大きな壺。その中では、得体の知れぬ液体がごぽごぽと泡を立てていた。
 壺の前で中身をじっと眺めている老人に、マーリンは声をかけた。


マーリン「ベネットよ。これでどうだ」


 マーリンが老人に渡したものは、何の変哲もない草に見えた。


ベネット「おお、マーリン! ……流石じゃな。これで滞りなく進もうぞ」

マーリン「ふむ」

主人公「えーっと」

ベネット「よし、今じゃ!」


 ぽいっ、と手にある草を壺に投げ入れる。
 突然の、大爆発。辺りはたちまち大量の煙に包まれた。


577 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 00:53:19.86 ft7PbdJV0 126/180

主人公「ゲホ!」

マーリン「相変わらず、雑な事だな」

ベネット「うるさいわい! で、どうじゃろうか?」

マーリン「折角だ。こいつに試させよう。……主人公。行きたい場所を念じ、『ルーラ』と唱えろ」

主人公「ゲホゲホ……な、何それ」

マーリン「『ルーラ』だ。早くしろ」

主人公「え、えーっと……ルーラ!」


 すると、主人公らの身体は浮き上がり、煙突を突き抜け、天空の彼方へと舞い上がった。


ベネット「おお、成功じゃ! 早速次の研究に取り掛かるとしようぞ!」


 すとんと、主人公の足が再び大地に着く。
 ふと見渡すと、そこはポートセルミの目と鼻の先であった。


579 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 00:54:09.49 ft7PbdJV0 127/180

ボロンゴ「がう!? がう!?」

マーリン「成功か」

主人公「す……凄い! これは!?」

マーリン「古代呪文、『ルーラ』だ。今では、極々限られた魔物しか使えん。知っている町ならば、こうして飛ぶ事が出来よう」

主人公「そんな呪文を使えるようにできるなんて」

マーリン「過程を知りたいか? まずは、キメラの脳を磨り潰し」

主人公「い、いや。遠慮しておくよ」

マーリン「……そうか」


 宿屋に戻ると、すっかり目を覚ましたピエールとアーサーが待っていた。


ピエール「あ、あの、先ほどは情けない姿を……」

アーサー「面目ねーだよー」

主人公「ううん、構わないよ。むしろ、ちょっと得したかもね」

ピエール「?」


583 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 01:14:54.02 ft7PbdJV0 128/180

 迷路の町――ルラフェンで習得した呪文のことを、二人に話して聞かせる主人公。


ピエール「おお……! これで、天空の武具集めも楽になりましょう!」

アーサー「楽ちんなのはいーことだにゃん!」

ピエール「……その語尾は、どうかと思うぞ」

アーサー「えー? だってねーさん、猫好きっしょ?」

ピエール「うっ。……否定はしないが」


 一行の次なる目的地は、サラボナ。
 マーリン曰く、そこに住む富豪の家宝が、伝説の武具が一……天空の盾である可能性が高い。
 サラボナを目指して、道中を行く主人公ら。やはり、襲いかかる魔物は居ない。
 その野生故に、彼我の戦力差を感じ取っているのであろう。
 まるで、気紛れに我が家の庭を歩むが如き進行であった。


584 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 01:15:34.85 ft7PbdJV0 129/180

アーサー「はっはっはー! このアーサーがこわいかー!」

ピエール「油断をするな、アーサー!」

ボロンゴ「ハルルルル……」


 ボロンゴが鋭い眼差しを向けると、どの魔物も一様に逃げ出して行く。


主人公「ありがとう、ボロンゴ」

ボロンゴ「……♪」


585 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 01:16:16.89 ft7PbdJV0 130/180

マーリン「どうやら、恐れられているのはボロンゴの様だな」

アーサー「むー! 何さー! 勝負すっか巨大ネコ!」

ボロンゴ「ふにゃ」

アーサー「ぎゃー!」

ピエール「良いぞ、ボロンゴ殿! 緩みきった性根を叩き直してやってくれ!」

ボロンゴ「んにゃ」

ピエール「ひえー!!」

マーリン「……姦しい、と言うには一人足りん様だが」

主人公「これくらいの方が楽しいさ」


588 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 01:42:35.76 ft7PbdJV0 131/180

 そうこうする内に、サラボナへと通ずる洞窟へ辿り着いた主人公。


ピエール「またベトベトになってしまった……」

アーサー「このアホ猫めー!」

ボロンゴ「?」


 少し進むと、小さな通路の中央を陣取る兵の姿があった。
 兵は主人公を見るや否や、足早に近寄って嬉しそうに語り掛けてきた。


589 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 01:43:38.89 ft7PbdJV0 132/180

「お、おお……貴方は! 探しましたぞ!」

主人公「?」

「自分は、ラインハットの兵であります! その節は、本当にありがとうございました!」

主人公「いえ。ラインハットは平和になりましたか?」

「貴方様のお陰で、ラインハットはかつての姿を取り戻しました……! うっく!」

主人公「何も泣くことは……」

「おお! 急ぎ、ラインハットにお戻り下され! ヘンリー様とマリア様が、お待ちかねです!」

主人公「わ、分かりました」


593 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 01:59:55.01 ft7PbdJV0 133/180

 洞窟の外に出て、ルーラでラインハットに戻った主人公。


ピエール「こ、これがルーラなる呪文なのですか! 素晴らしい!」

アーサー「どうしたんだろね、ヘンリー君」

主人公「分からない。何事もなければ良いけど」


 城内に入ると、かつて太后との激戦を繰り広げた部屋に案内された主人公。
 その扉の先には、ヘンリーとマリアの姿。


ヘンリー「おう! 久しぶりだな、主人公!」

主人公「うん。元気そうで良かった。それで、何かあったのかい?」

ヘンリー「何か、と来たもんかい。ふふん。聞いて驚け!」


 言いながら、隣のマリアの肩を抱き寄せるヘンリー。


594 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 02:00:39.30 ft7PbdJV0 134/180

ヘンリー「妻の、マリアだ!」

マリア「もう、貴方ったら」

主人公「……そうか。おめでとう。本当に、嬉しい」

ヘンリー「へへ。俺もお前にはいの一番に伝えたかったんだがな。……で、ピエールとアーサーは?」

主人公「ああ、二人なら」

ピエール「いや、めでたい! 心から祝福しよう、ヘンリー殿!」

アーサー「つーかさー、手ー早すぎじゃない? ジミーズ仲間としてどうかと思うよ、ヘンリー君」


 涎で汚れた面を取り払っていた姉妹が、声を出す。


595 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 02:01:23.57 ft7PbdJV0 135/180

ヘンリー「え、その声は……ちょ、おい!? なんだこれ!? 聞いて驚いたのはオレの方じゃないか!」

主人公「うーん。これには色々と事情があってね」

ヘンリー「お前ら、女だった……つーかそんなにカワイかったのか!?」

アーサー「んっふふー。それほどでもあるよねー」

ピエール「……うう」


 すすす、と主人公の陰に隠れるピエール。
 主人公のマントをぎゅ、と握って、恥ずかしそうにヘンリーを見る。


598 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 02:27:42.32 ft7PbdJV0 136/180

ヘンリー「……おいおいおいおい! ちくしょー! お前ばっか良い目見やがって!」

マリア「貴方?」

ヘンリー「あ、いや、なんでもないです。ごめんなさい」

主人公「あはは……君が幸せそうで、良かった」

ヘンリー「ありがとよ。俺も……と、そうだ! 結婚式には呼べなかったけど、記念品があるんだ。持ってってくれよ!」

ピエール「かたじけない」

ヘンリー「良いってことよ! 主人公、俺の部屋を覚えてるだろ? あそこにあるからさ!」


599 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 02:28:32.53 ft7PbdJV0 137/180

 主人公は、かつてヘンリーが使っていた部屋に入った。
 今はそこで過ごしている太后と二、三、言葉を交わし、更に奥へと進む主人公。


主人公「……」


 否応なしに、思い出す。
 部屋の奥には、宝箱。

 ぱかりとそれを開ける。
 記憶の通り、中には何も入ってはいなかった。
 しかし、良く見るとその底には何かの文字が刻んである。


600 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 02:29:16.03 ft7PbdJV0 138/180

『主人公。お前に直接話すのは照れ臭いから、ここに書き残しておく。
 お前の親父さんのことは今でも一日だって忘れたことはない。
 あの奴隷の日々にオレが生き残れたのは、いつかお前に借りを返さなくてはと……
 そのために頑張れたからだと思っている。
 伝説の勇者を探すというお前の目的は、オレの力などとても役に立ちそうもないものだが……
 この国を守り、人々を見守ってゆくことが、やがてお前の助けになるんじゃないかと思う。
 主人公、お前はいつまでもオレの子分……じゃなかった、友達だぜ。 ――ヘンリー』


主人公「っく……!」


 宝箱の底に、涙が落ちる。


ピエール「……良き友をお持ちなのですね」

主人公「……ああ。最高の、親友だ……!!」


602 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 02:47:00.49 ft7PbdJV0 139/180

ヘンリー「わっはっは! お前は本当に騙されやすいヤツだな!」

アーサー「ヘンリー君、顔赤ーい!」

ヘンリー「う、うるさい!」

主人公「また、してやられたな」

ピエール「また?」

ヘンリー「だからお前は子分なのだ!」

主人公「あはは。それじゃ、僕らは行くとするよ」

ヘンリー「おう、いつでも来いよ」

マリア「お待ちしていますわ」

主人公「……ヘンリー」

ヘンリー「どうした?」

主人公「僕も、ずっと友達だと思ってるよ」

ヘンリー「ッ! ……馬鹿。泣かせるんじゃねーよ」


603 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 02:47:58.77 ft7PbdJV0 140/180

 城から出た主人公を、マーリンとボロンゴが迎える。


主人公「君たちも来れば良かったのに」

マーリン「俺はまだしも、こいつが城に入れば騒ぎになろう」

ボロンゴ「ごろごろ」

アーサー「さっすが、飼い主代理だねー!」

マーリン「ただの厄介な同居人だ」

ピエール「ふふ。ボロンゴ殿は、そうは思っていないようだが」

ボロンゴ「ぺろぺろ」

マーリン「……ふん」


605 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 03:02:48.42 ft7PbdJV0 141/180

 一行はルーラを唱え、再びサラボナへと向かうべく洞窟へ。


ピエール「……主殿」

主人公「どうしたの、ピエール」

ピエール「夫婦とは、良いものなのですね。ヘンリー殿もマリア殿も、とても幸せそうで」

主人公「うん。ちょっとだけ、羨ましいかな」

ピエール「ふふふ。私も、です」


606 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 03:03:52.09 ft7PbdJV0 142/180

ピエール「いいえ。……と、隣に失礼しても」

主人公「構わないけど」

ピエール「……ふふふ」


 つかつかと足を早め、主人公の隣に立つピエール。
 その横顔は、ぎこちないながらも幸せそうな笑顔に溢れていた。


アーサー「!?!?!?!?!?!?!?!?」

マーリン「どうした」

アーサー「……別に、なんでも」

マーリン「そうか」


610 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 03:18:34.91 ft7PbdJV0 143/180

 そうして洞窟を抜けた時には、満天の星空が輝いていた。
 幸い、サラボナはすぐ近く。魔物と遭遇することもなく、辿り着いた。
 情報収集は翌日に行うことにして、一行は宿に。


 食事、入浴を終えて、部屋に入る主人公。暇を持て余したマーリンは、外へ魔物を狩りに出かけた。
 ボロンゴは、ピエールに預けている。静かな部屋の中、一人思案に耽る。

 洞窟を抜けてからというもの、アーサーは様子がおかしかった。何をするにも上の空で、口を開いても要領を得ない。

 かと思えば、頻りにピエールの顔を眺めて、また上の空。


主人公「何か、変わったことがあった訳じゃないのに」


 考えている内に、主人公の意識はどろりとした眠気に呑み込まれるのであった。


615 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 03:29:18.62 ft7PbdJV0 144/180

 その感覚には、覚えがあった。
 金縛り。一昨日の夜に巻き戻ったよう。

 悪寒を感じて、主人公は辛うじて自由になる眼だけを己の下腹へと向けた。

 悪い予感というものは、得てして的中するものである。


 そこには、屹立したものをしなやかな指で弄ぶアーサー。
 淫夢の、続き。


 手を上下する度、ぐちゅぐちゅと厭らしい音と共に、生臭い臭いが漂う。


617 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 03:36:35.94 ft7PbdJV0 145/180

 ぐちゅぐちゅぐちゅ。
 先走りが、飛沫となって宙を舞う。摩擦熱が、怒張とそれから垂れる汁を温める。
 部屋を包む臭いは時々刻々と濃度を増していった。

 もう少しで達しようという時に、アーサーの手が離された。
 するり、と微かな衣擦れの音がした。

 アーサーの手には、下着。

 下半身を覆うそれが、脱ぎ落されたのである。

 括れた腰の、そのすぐ下で。
 髪と同じ銀色の茂みが、薄く秘裂を隠していた。


623 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 03:50:19.21 ft7PbdJV0 146/180

アーサー「ん、は」


 くちゅり。
 白い指先が、裂け目に分け入った。


アーサー「あふ……んぁ」


 甘い声が漏れる。粘着質な音が響く。
 指が蠢くその度に、男を妖しく誘う二つの音。


アーサー「くぁ、……ん」


 やがて引き抜かれたその指には、ほかほかと湯気を上げる粘液がたっぷりと付着していた。
 それを見たアーサーは、主人公の腰の上で膝立ちの体制を取る。
 そのまま腰を下ろせば、どうなるのか。もう、主人公には分かっていた。


626 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 04:20:47.41 ft7PbdJV0 147/180

アーサー「……」


 そのままの姿勢で、静止するアーサー。


アーサー「……くっ」


 ぎりり、と歯を鳴らす。
 主人公の目には、これからの行為を躊躇っているように見えた。
 だが。


アーサー「~~~!!」


 ずぷぷぷぷ。
 ゆっくりと、腰が下ろされた。
 瞬間、主人公の男根は未だかつてない感触に包まれる。
 熱泥が絡みついて、収縮を繰り返しているようであった。


627 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 04:21:38.98 ft7PbdJV0 148/180

アーサー「あ、あああ……!」


 そうして怒張は、完全に姿を消した。
 アーサーの胎内に、余す所なく呑み込まれたのだ。


アーサー「ふ、ふう」


 その後、アーサーは動き出した。
 主人公に跨って、円を描くように。
 信じ難い快感が主人公を襲う。


アーサー「んく……あ、う」


 それに縦の動きも加わって、ぎしぎしとベッドが悲鳴を上げる。
 アーサーが揺れるその度に、薄い下着に包まれた両胸が主人公の目前で弾む。
 声を出すまいと口を両手で押さえるアーサーだが、嬌声は止まらない。



628 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 04:22:19.62 ft7PbdJV0 149/180

アーサー「あっ、あっ、あっ、あっ」


 耐え難い射精感。肉と肉が擦れ合う度、主人公のそれはぴくりぴくりと震える。
 それからの限界は早かった。
 一際深くそれが抉り込まれた時、主人公は男根が蕩けてしまったように錯覚した。

 どくん。どくん。


629 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 04:23:01.43 ft7PbdJV0 150/180

アーサー「ああ……!」


 アーサーの胎内に、大量の欲望が送り込まれた。
 しかしそれでも、止まらない。
 無限に湧いてくるのではないか、と馬鹿な考えを起させるほどの長い、長い射精。
 アーサーの狭い膣には、到底収まる量ではない。蜜と精液が、主人公の性器を伝って流れては混じり合った。


 ようやくそれが終わったという、その時。

 がちゃり。

 突然、ドアが開けられた。

ピエール「……アー、サー?」


666 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 14:37:00.67 ft7PbdJV0 151/180

ピエール「え……何、を」

アーサー「あ、う」


 両者の顔色は、蒼白であった。
 射精したことで硬度を失った主人公の性器が、ずるん、とアーサーのそれから零れ落ちる。
 劣情の残滓がぽたぽたと、シーツの上に染みを作った。


アーサー「い、いやー。ちょっとムラッと来ちゃったもんでさ。主さんに毒蛾の粉飲ませて楽しんでたのよー」

ピエール「……この、売女がッ!!」

アーサー「あらー。怒ってる?」

ピエール「貴様など……貴様など、最早妹などではないッ! 消えろッ!」


 怒気を露わにするピエールの頬には、一筋の涙。



667 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 14:37:53.89 ft7PbdJV0 152/180

アーサー「――ッ!!」

ピエール「消えろと言ったのが聴こえなかったのかッ! 二度とその面を見せるなッ!」

アーサー「……あハ、はハは」


 乾いた笑いを漏らしながら、何処かへ去ってゆくアーサー。


ピエール「主殿! ……キアリク!」


 ピエールがそう唱えた瞬間、主人公の肉体は不可視の枷から解き放たれた。
 曖昧な境界をたゆたっていた世界が、明確に像を成した。目を背けたくなるような現実の姿を以て。


668 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 14:39:28.02 ft7PbdJV0 153/180

ピエール「申し訳、うく、ございません……!」

主人公「ピエール! アーサーを追おう!!」

ピエール「……え? でも、あいつは、主殿を無理矢理……」

主人公「……違うんだ。そうじゃ、ないんだ」


 主人公の胸中には、迷いがあった。恐らくはひた隠しにしていたことであろうし、知られることをアーサーは望んではいないのだろう。
 だが、これでは余りに救われない。姉のためにその心身を犠牲にしてきたアーサーを、捨て置くことなどできそうになかった。


主人公「……関所で、最初に君たちの素顔を見た夜があっただろう? あの後、アーサーは僕の部屋に来て……。
     えっと、その、口で。その時、去り際に、言ってたんだ。
     『ねーさんには手を出さないでくれ』って。『優しくしてやってくれ』って」

ピエール「……え?」

主人公「……何を馬鹿なことを、とは僕も思った。でも、きっとアーサーは、今までも……」

ピエール「……ッ」


670 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 14:41:32.25 ft7PbdJV0 154/180

 走馬灯のように、アーサーとの思い出がピエールの脳内を駆け巡る。

 父のような騎士になってみせる、と夢を語る自分を、優しく頬笑みながら眺めるアーサー。

 女が騎士などと、戯けたことを。スライムナイトの長にそう言われて泣き暮れる自分を、唇を噛み締めて慰めるアーサー。

 急に同胞の態度が豹変して、ようやく認められたと喜ぶ自分を、己のことのように嬉しそうに祝福するアーサー。

 年齢に不相応なほど、日に日に女らしさを増してゆくアーサー。

 誰に見せる訳でもないのに、容姿に気を遣い始めたアーサー。

 しばしば真夜中に何処かへ出かけて行くアーサー。

 同胞と袂を分かったあの日に、かつての同胞からアーサーに掛けられた言葉。

 そして、先ほど見せた泣き笑いのような表情。


 それらが、はっきりと線で繋がった。導き出された答えは、あまりにも残酷であった


ピエール「……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!」


 そして、慟哭。


682 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 15:49:00.04 ft7PbdJV0 155/180

ピエール「アーサーッ!! アーサー!! うわああああああああああああああッ!!」

主人公「落ち着いて、ピエール!! アーサーを追わなきゃ!」

ピエール「できないッ! どの面を下げて、アーサーに会えば良いんだ!! そうとも知らずに私はなんということを……ッ!!」

主人公「ピ、ピエール……」

マーリン「……何の騒ぎだ」


 そこに現れたのは、マーリンとボロンゴ。


ピエール「ううう、アーサー……!! すまない! 私は、私は……!」

主人公「すまない。アーサーを探して来てくれないか。今はピエールを放って置けない。事情はあとで説明するからさ」

マーリン「……良かろう」

ボロンゴ「がう!」


683 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 15:49:45.09 ft7PbdJV0 156/180

 サラボナの町を出て、辺りを見回すマーリン。

 ふと地面を見下ろせば、白い滴が点々と続いていた。
 くんくんとそれを嗅いで、がう、と一吠えするボロンゴ。

マーリン「そうか」

 汚液の道標は、町からほど近い森の中へと続いていた。


 それを追うマーリンとボロンゴを待ち受けていたのは、不自然に一箇所に群がった魔物共。

 がつがつ。ぴちゃぴちゃ。ずるずる。ばきり。
 咀嚼音と、何かが砕ける音が響く。


ボロンゴ「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


684 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 15:50:35.19 ft7PbdJV0 157/180

 蜘蛛の子を散らすように、魔物の塊は霧散して。
 その後に残ったのは、肉塊。

 左腕と右脚は根元から千切れて。
 豊かだった乳房の片方は、痛々しい噛み跡を残して消え失せている。
 大きく裂けた腹からは、ずるりと引き摺られた臓物がそこかしこに散らばっていた。
 それ以外にも、大小の傷跡が多数。無事な部分など、どこにもない。


アーサー「こひゅ……こひゅ」


 変わり果てた、アーサーの姿。
 欠損した喉から空気を漏らしながら、辛うじて呼吸をしている状態だ。


686 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 15:51:21.53 ft7PbdJV0 158/180

ボロンゴ「……ぐうう」

マーリン「これは」

アーサー「ああ……余計なことを、してくれた。せっかく、逝けると、思ったのに」

マーリン「何をしている。この辺りの魔物如き、お前の敵では無かろう」

アーサー「生きてたって、しょうが、ないんだ。あたしじゃ、ねーさんを幸せにはできなかった」

マーリン「……」

アーサー「あたしが居ても、ねーさんの笑顔が曇る、だけ。やっと、分かったんだ。ねーさんには、主さんが居ればいい」

ボロンゴ「がう! がうぅん……!」

アーサー「遅かった、なー。あはは。もっと早く、気付いてればなー。ねーさんを泣かせることも、なかったのに」

マーリン「……ピエールは、泣いていたぞ」

アーサー「知ってる。取り返しのつかないこと、しちゃったよね」


687 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 15:52:18.89 ft7PbdJV0 159/180

マーリン「頻りにお前の名を呼んで、すまない、すまない、とな。喧しくて研究も出来やしない」

アーサー「……」

マーリン「さぞや満足だろうな。これがお前の言う幸せなのだろう?」

アーサー「……」

マーリン「馬鹿な女が。……行くぞ、アーサー。姉に言うべき言葉があろう」

アーサー「もう、無理だよ。ベホマでも、ザオリクでも。無いものは、作れない。おなかの中、空っぽだもん」

マーリン「俺を誰だと思っている」

アーサー「……え?」

マーリン「だが、これは一種の賭けだ。俺も実践するのは初めてでな。重要なのは、心であるらしい。
     願え。姉の真なる幸福。それだけを。……精々俺も、お前に幸せが訪れる事を願うとしよう」

アーサー「ねーさんの、幸せ……。見たかった、見たいよう……」

マーリン「信じろ。お前の姉を。そして、不思議な瞳のあの男を、な」


688 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 15:53:24.29 ft7PbdJV0 160/180

ピエール「うぐ、うううう……アーサー……」

主人公「……」


 泣きじゃくるピエールを胸に抱く主人公。
 その時であった。


 ずぅん。

 不意に鳴り響く地鳴り。大地が、鳴動する。


689 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 15:54:09.71 ft7PbdJV0 161/180

 ずぅん。ずぅん。
 
 地震かのようにも思えたが、違う。

 ずぅん。ずぅん。ずぅん。

 次第に間隔を狭める一方、より近くで感じられるようになるそれは。
 例えるならば、巨大な足音。


主人公「……!?」


 腕のピエールをベッドに横たえて、慌ててカーテンを除く主人公。
 窓から見えたのは、先ほどまでは存在していなかった、山のような何か。
 否。――それは、あまりにも巨大な魔物であった。


ブオーン「ブオオオ オ オ オ  オ  オ  オ   オ   オ    オ    ン!!!!」


698 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:53:14.29 ft7PbdJV0 162/180

主人公「……くッ」


 呆然とするピエールを抱いて、転がるように宿屋を出る主人公。
 己が目で直接見るそれは、より一層巨大に見えた。絶望的なほどに。

 町の隣に位置する灯台の前でぴたり、と突然立ち止まった怪物は、地獄の底から響くような声で言う。


ブオーン「ルドルフ……!! 聴こえているのだろう! あんなもので俺を封じたつもりか!?」


699 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:54:01.48 ft7PbdJV0 163/180

「な、なんだよあれ!!」

「終わりだ……神様、どうか救いを!」

ルドマン「ば、馬鹿な! あれはブオーン! まだ時間には余裕があるはずだというのに!」

主人公「あの怪物をご存知なのですか!?」

ルドマン「140年前、わしの先祖が封じた魔物よ! くぅ、まだ準備も出来ていないと言うに!!」

ブオーン「ルドルフ!! 貴様が出て来ぬのならば……引き摺りだしてくれるまで!」


 怪物の頭上にある一対の角が、輝いた。
 すると稲妻が迸り、主人公が先ほどまで中に居た宿屋を消し飛ばした。
 その破片が、四方八方に飛び散る。一つが、未だ我に帰らぬピエール目掛けて飛来する。


700 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:54:42.41 ft7PbdJV0 164/180

主人公「ピエール!」

ピエール「……え」


 ピエールの前に躍り出る主人公。
 主人公の背に、深々と木片が突き立った。


主人公「ぐぅッ」

ピエール「あ……主、殿」

主人公「……大丈夫だ」

ピエール「申し訳ございませんッ! 私のために……! ベホマ!」


 それを引き抜いて、治癒の呪文を唱えるピエール。主人公の傷は癒えた。


701 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:55:23.26 ft7PbdJV0 165/180

主人公「行こう、ピエール! この町を、守らなきゃ!」

ピエール「……はい!!」


 灯台の頂上で、怪物と相対する二人。
 地上よりずっと高くに登ってようやく、怪物の顔が間近に見える。


ブオーン「ルドルフはどこだ……。隠すと為にならんぞ」

主人公「ルドルフさんはもう死んでいるんだ! だから、こんなことはやめてくれ!!」

ブオーン「何を戯けたことを。まあ良い。体慣らしに貴様らから血祭りに挙げてやるわ!」


702 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:56:07.28 ft7PbdJV0 166/180

 圧倒的。その一言であった。
 剛腕を振るえば、その風圧だけで主人公らの身体は宙に浮きそうになる。
 洞窟のような大口から放たれる激しい炎は、主人公は言うに及ばず、炎に強いピエールですらも無傷では済まさない。
 そしてその角から迸る稲妻は、二人の身体を更に痛めつけた。

 こちらの攻撃の効果が見られない訳ではないが、ケタが違う。懸命に回復呪文を唱え続けるピエールの魔力も、底を突いた。
 主人公のそれも、あとはベホマを一度使えれば御の字、と言った程度。


ブオーン「小虫にしてはやりおるわ……!! だが、それも終わりだ!」


 ごおおお。渦を巻く、激しい炎。


ピエール「あぐ、ああああああ!!」

主人公「ピエール!!」


 先ほどの意趣返しのように、主人公の前に立ちはだかったピエール。
 身を焼く炎を一身に受けて、苦悶の声を上げる。

 炎が止んだと同時、ピエールはその場に膝を着く。


703 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:56:52.28 ft7PbdJV0 167/180

主人公「無茶を……!」

ピエール「良いの、です。私は、騎士。でも、それ以上に、貴方が傷つくのは耐えられない……!!」

主人公「今、回復を」

ブオーン「させぬわ!!」


 振り上げられた剛腕。それを防ぐ術は、主人公らにはなかった。
 万事休すかと思われたその時。


705 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:57:36.02 ft7PbdJV0 168/180

 白銀の流星が夜を切り裂き、魔物を貫いた。
 瞬間、ぐらり、と巨体が揺らめく。


ブオーン「ぬう……!」


 主人公らの目前に降り立ったのは、メタルスライムに跨った銀の騎士。
 彼らが知らぬ、その姿。


主人公「……君は、誰だ?」


 銀の騎士が、肩を震わせた。


706 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:58:21.42 ft7PbdJV0 169/180

「……あはは。君は誰だと来たもんか。寂しいねー。ちょっとぶりに会うもんだから忘れちゃったのかな?」

「ご存知ないなら教えてあげよー! そこのデカブツ、ついでに聞いてけ!」

「女の身体で産まれて堕ちて、仲間の言葉を受けて立つッ!」

「主人公一行のお色気担当にして、恋する騎士ピエールの実の妹ッ!」

「その名もその名も、スライムナイトのアーサー改めェ」


 どどんどんどん、かっ。
 などと口で言いながら、鉄の仮面の前を開ける。


アーサー「メタルライダー・アーサーッ! コンゴトモヨロシクッ!」


 憑き物が落ちたようなアーサーの笑顔が、そこにあった。


707 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 16:59:09.82 ft7PbdJV0 170/180

ピエール「アーサー、なのか?」

主人公「でも、その身体は」

アーサー「二人とも、ごめんね。あたし、間違ってた。謝っても許されることじゃないのは分かってるけど、さ」

主人公「僕のことはいいさ。それよりもピエールを」

ピエール「……詫びるべきは、私の方だ。不相応な夢を見たつけを、お前に背負わせてしまっていたのだな……!! すまない!
     私は、お前の姉として失格だ……!!」

アーサー「……そんなこと、ないよ。でも今は。……主さんッ」

主人公「!?」

アーサー「あたしが時間を稼ぐ! じーさんもボロンゴも、すぐに来るから! だから! ……だから、ねーさんを頼んだッ!!」


715 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 17:47:43.48 ft7PbdJV0 171/180

 アーサーが翔ぶ。放たれた矢のように。
 目にも映らぬ速さでブオーンの周囲を飛び回って、狙いを散らす。


ブオーン「ふん! 大見栄を切って現れたのが、単なる小蠅とはな!」

アーサー「うっせー脳筋! 悔しかったら当ててみなー!」


 がきん、と首筋に刃を立てて、逃げる。それを幾度と繰り返す。


ピエール「……凄い」

主人公「大丈夫かい?」

ピエール「はい。ありがとうございます。しかし、あれは」

マーリン「進化の秘法よ」

主人公「マーリン?」


 階段の下から現れたのは、マーリンとボロンゴ。


716 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 17:48:17.29 ft7PbdJV0 172/180

マーリン「生物の進化を促し、新たに転生させる秘法よ。危険だったが、あいつの命を留めるには他に道は無かった。……すまないが、任せる。少々、疲れた」

ピエール「……ありがとう」

マーリン「ふん」

ブオーン「蚊ほども効かぬわッ!」

アーサー「そんなに虫が好きかい、デカブツ! 非力な虫にしかできないことだってあるんだよーだ!」

ブオーン「ほざけ!」


 びしびしと、怪物の身体に電流が奔る。
 首に剣を立てていたアーサーは、それをまともに食らうこととなった。
 堪らず、地に堕ちるアーサー。


ピエール「アーサー!!」

アーサー「狙って!」


 着地して、ある一点を指し示すアーサー。


717 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 17:49:31.99 ft7PbdJV0 173/180

ピエール「……分かった!」


 そしてピエールは跳躍する。その目で見るは、ただ一つ。アーサーがこつこつと一撃を積み上げたことで作り出された、首の傷。


ピエール「はあああああッ!!」


 深く、深く。鋼のような表皮の下の、柔らかく無防備な赤い肉。
 そこを、ピエールは容赦なく斬り付けた。


ブオーン「ぐおおおおッ!! 小癪な!」


 ぶしぶしと吹き出す鮮血に、ブオーンは怒り猛る。
 未だ己の首筋で攻撃を続けるピエールを、叩き落とす。


主人公「!!」


 がしり、と抱き止める。ピエールは薄く笑んでから、言う。


721 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 17:56:02.49 ft7PbdJV0 174/180

ピエール「今です、主殿!」

ボロンゴ「がう!」


 傍らで、ボロンゴが吠える。そして、主人公に背を向けた。


主人公「……ああ!」


 その意を汲み上げた主人公は、ボロンゴに跨った。


ボロンゴ「グォアアアアアアアアアアアアッ!!」


 そして、跳ぶ。生ける災害に、最後の一撃を加えんが為に。


ブオーン「無駄だ!」


 主人公の目前で、大口が開かれる。激しい炎の前兆だ。
 今にも火炎が吐き出されんとするその時、ブオーンの眼球に人の身体ほどの火球が直撃する。
 あまりの激痛に、動作が中断された。


722 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 17:56:44.08 ft7PbdJV0 175/180

ブオーン「グゥッ!」

マーリン「絞りカス、よ」

ブオーン「ちっぽけな虫ケラ共がああああああアアアアッッ!!」

主人公「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 そして、主人公は、そこに至った。
 ぶつり、と。
 首の骨を断つ感触が、父の剣を通してその手に伝わった。

 轟音を上げて、魔物は崩れ落ちる。
 主人公一行は、勝利したのであった。


730 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 18:35:37.83 ft7PbdJV0 176/180

主人公「……やった!!」

ピエール「お見事です、主殿」

アーサー「うんうん。これで安心してねーさんを任せられるってもんさー」

ピエール「……アーサー。本当に、済まない。辛い思いをさせてしまったな」

アーサー「いやいや。あたしがしたくてやってたことだからさー。ねーさんが謝る必要はないよ?」

ピエール「……いや。そうとも知らずに、私はあのようなことを……」

アーサー「うーん。じゃあ、さ。ねーさんの大事な人に手出しちゃったから、それでチャラってのは?」

ピエール「……」

主人公「僕は、もう気にしてないよ。もう二度とあんなことはしないなら、ね」

ピエール「しかし、それでは」

アーサー「もしもお釣りが来るんなら、さ。ねーさんの幸せな姿を、傍で見せて欲しいんだ」


731 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 18:36:21.19 ft7PbdJV0 177/180

ピエール「お前は……ッ」

アーサー「こちとらそれが見たくて、三途の川を飛び越えて来たんだからさー」

ピエール「……ありがとう」

アーサー「……ふっふーん。ねー、主さん。ねーさんが、言いたいことあるんだってさ!」

ピエール「!?」

マーリン「……くかか。俺達は行くぞ、ボロンゴ」

ボロンゴ「?」

アーサー「もうねー、昨日の夜も主さんの話ばっかりだったんだよー! おかげで眠れなかったもん!」

主人公「え?」

ピエール「や、やめろ!」


732 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 18:37:03.30 ft7PbdJV0 178/180

アーサー「『主殿は、この耳を可愛いと仰った』なんてさー、ずっとニヤニヤしながらさー」

ピエール「やめて!」

主人公「確かに、かわいいよ」

ピエール「~~~ッ!!」

アーサー「ほら、ここまで言っちゃったらさ、もう一緒じゃん! がんばれ、ねーさん!」

ピエール「……そうだ、な」


 すぅっと深く息を吸い込んで、主人公へと向くピエール。
 階下に去りゆくアーサーの耳は、ゆらゆらと左右に揺れていた。


ピエール「あ、主殿?」

主人公「……どうしたの」


733 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 18:37:46.22 ft7PbdJV0 179/180

ピエール「わ、私は……やはり、女でございました」

主人公「……」

ピエール「始まりは、あの船内でのお言葉でした。こんな私を認めて下さった、あの時の」

主人公「……うん」

ピエール「それからは、目や耳。主殿が私の容姿を褒めて下さる度、私の心は舞い上がったのです。……私には、それが何故なのか分からなかった」

主人公「あはは。あの時は、ごめんね。無理を言っちゃって」

ピエール「い、いいえ! とても、嬉しかった。今思えば、そうなのでしょう」

主人公「そっか……」

ピエール「主殿……わ、私は、貴方のその涼しげな瞳が大好きです。気高き志が大好きです。弱きを助く優しさが大好きです」

主人公「ほ、褒めすぎじゃないかな」

ピエール「ふふふ。そんなことはありませんよ。私の眼からは、いつだって貴方は輝いて見える」

主人公「……照れるな」

ピエール「……私、は」


735 : 以下、名... - 2011/04/01(金) 18:38:27.28 ft7PbdJV0 180/180

 紅潮した顔と、潤んだ瞳。しかしそれでも真っ直ぐに、主人公を見据えるピエール。


ピエール「貴方を、お慕い申し上げております。愛して、います」


 訥々と吐き出された、その言葉に。
 主人公は、その小さな身体を抱き締めることで応えた。


おわり


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