1 : 以下、名... - 2012/04/13(金) 22:00:11.38 DGbl5JoN0 1/37この話は
『櫻子&向日葵「大人エレベーター?」』
http://ayamevip.com/archives/54407095.html
と
『向日葵「私のおねえちゃん」』
http://ayamevip.com/archives/54407107.html
の続きのお話です。
元スレ
櫻子&向日葵「大人エレベーター!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1334322011/
向日葵「そっ、そんなに強くしたら……!」
櫻子「えっ?」
向日葵「こわれちゃうっ……もっとやさしく、やさしく……」
櫻子「は、はじめてだからよくわかんないんだって……えーっと」
向日葵「リズムも大事ですわ」
櫻子「んっ、んっ、んっ」
向日葵「そう………で、こっちの手も動かしながら……」
櫻子「あっ……ああっ……!」
櫻子「すごい! これすごい!」
向日葵「これを続けていけば……」
櫻子「おー卵焼きになってきたー!」
向日葵「まだまだ気は抜けませんわ。最後まで焦げないように注意しながら、こうやって大きく……」
櫻子「わほー楽しいー♪」
私の頭にこのカチューシャが乗ってから早一週間。
あれから櫻子は、本当に毎日料理の練習をしている。その度に付き合わされるとは思っていなかったが、こうして頑張る櫻子を見ていたいという気持ちが心のどこかにあるのも確かだった。
柔らかそうなその髪には、私があげたピンがついている。
向日葵(ちょ、ちょっと撫子さんともいろいろありましたけど……/// 前より優しくなった気もしますわ)
プルルルルル……
向日葵「あっ櫻子、電話」
櫻子「向日葵出て! 私いま無理!」
向日葵「そんな……」
櫻子「大丈夫大丈夫。そんな大した内容じゃないと思うから適当に話合わせといて?」
向日葵「し、仕方ありませんわね……」
ガチャ
向日葵「はい、えーっと、大室です」
『もしもし、私を覚えていますか?』
向日葵「ど、どちらさまでしょうか?」
『先日はどうも』
向日葵(誰かしら……)
『大人エレベーターでご一緒させていただきました、エレベーターガールです。本日はあなたに……』
向日葵「えっ!?」
大人エレベーター。
その名前を忘れるわけがない。
何故、今、電話で?
あの時の…… エレベーターガール?
大声を出してしまった私を櫻子が見ている。
向日葵「あの、それってどういう……」
EG「……あれ? もしかして古谷向日葵さんですか?」
向日葵「な、なんで私の名前を!?」
EG「古谷さんは……あ、今回は私が担当か。でもとりあえずまずは大室さんに代わっていただけますかね」
向日葵「…………」
頭が急にいっぱいになる感覚に襲われる。が、辛うじて声が耳を素通りするのを防いだ。
向日葵「櫻子、電話……」
櫻子「だ、誰?」
心配そうな目でこちらを見る櫻子。私は今どんな顔をしているのだろうか。どんな風に映っているのだろうか。どんな顔をすればいいのか。
向日葵「大人エレベーターの……エレベーターガールさん……」
櫻子「…………」
ああ、この顔だ。
私もこんな顔をしているんだろう。
櫻子「これたのむ」
向日葵「え、ええ……」
卵焼き用の小さなフライパンを受け取り、まだまだ不格好なそれを皿に乗せる。
大人エレベーター。
ついこの前、櫻子とデパートにいった時だ。どこかへ行ってしまった櫻子を探して迷っていた私の前に現れた、古めかしいあのエレベーター。
それに乗っている間は、夢を見ているのと同じ。
進まない時間の中で、幻のような何かを見せられる。
23歳の杉浦先輩、23歳の池田先輩、18歳の吉川さん。
向日葵(櫻子も、乗っていたんだ)
あの顔は、そう。
向日葵(私と同じ夢を、見ていた……)
櫻子「……はい……はい」
両手で受話器を持っている櫻子。この角度からでは、髪に隠れてその表情がわからない。
何の話をしているのだろうか。
エレベーターガール?
噛み合わないことがひとつある。
向日葵「私の知っているエレベーターガールは……」
小さな、二人の女の子。
見慣れた面影の二人の女の子。
向日葵(相手は私の名前を知っていて……さっきの言葉……担当がなんとかとか……)
向日葵(私の時とは違う、櫻子のエレベーターガールさんってこと?)
向日葵(もっとちゃんと声を聞いておけばよかった。もう忘れてしまってる……でも "女の子の" 声でなかったことは確か……)
櫻子「あっ、あの! あなたの正体は!」
向日葵「…………」
かちゃり
櫻子「…………」
向日葵「……櫻子……?」
櫻子「向日葵、ちょっとさ、話したいことがいっぱいあるんだ……!」
向日葵「!」
嬉しそうな笑顔。
向日葵(そう……そうですわね)
向日葵「私も……話したい」
あのときのことを。
――――――
櫻子「それを買ったときなんだよ?」
向日葵「このカチューシャを……」
櫻子「さっきの人が言ってた。向日葵も、乗ってたんだってね」
向日葵「ええ。櫻子があのとき、いきなりどこかにいくもんですから……探してたら、見つけて」
櫻子「あーそっかそっか。ごめんね」エヘヘ
向日葵「夢を見るんですのよね」
櫻子「そうそう。」
向日葵「あれ……? もしかして、櫻子って誰に会いました?」
櫻子「え? んーと、歳納先輩と船見先輩の階とー、あかりちゃんの階とー」
向日葵「うそ!? 私は……杉浦先輩と池田先輩、あと吉川さんに……」
櫻子「えーいいな! 私も会いたかった!」
向日葵(………ふふ)
向日葵「……どうでした? そっちの先輩たちは」
櫻子「すごい綺麗でさー、でも、そこまで変わってなかったり……あ、あかりちゃんは大っきくなってた!」
向日葵「赤座さんが……?」
櫻子「すごいんだよ、あかりちゃん。 私の手をとって、こうやって……」
向日葵「ちょ、ちょっと………///」
櫻子「あ……ご、ごめん///」
櫻子「は! っていうかこんなことしてる場合じゃなかった! あのね、今度は私たちが…… "大人" になるんだって!」
向日葵「大人に……?」
櫻子「えっと、だから……私たちはこの前先輩達に会いに行ったでしょ? 今度は私たちのところに人が来るっていうか……」
向日葵「え、私も?? 私帰った方がいいんじゃありません?」
「ご説明致します」
櫻子・向日葵「!」
「といっても、今大室櫻子さんが説明した通りなんですけどね」
どこから入ったのか、どこから現れたのか。部屋の角に、あの服の女性が立っている。
向日葵「あ、あなたが櫻子の……」
櫻子「ど、どこから……!?」
EG「時間が惜しいです。話を進めます」
やっぱりだ。ハットを深くして顔が見えない。
EG「今回のデータファイルです」
櫻子「これって………」
[ 大室 撫子 (オオムロ ナデシコ) ]
年齢:5
性別:女
家族状況 父母
母親が現在産婦人科にいる。
――――――
櫻子「ねーちゃんの……」
向日葵「五歳で……まだ、櫻子が生まれていない……?」
櫻子「というか何この紙スカスカ! 全然書いてないじゃん! ほとんど白紙!」
EG「それはターゲットの今回抱えているであろう悩みを最低限に知るためだけの資料です。 その他はすべてプライバシーということで守らせていただいております。 "これ" は決してその人の過去を知るための機会ではありませんので」
櫻子「じゃあ、これは……」
EG「最初ですから、ヒントとしてひとつ付け加えておくと……今回のターゲットの悩みとして我々が打ち出した答えはこれだけ。この女の子は今この悩みで心がいっぱいだということですね……」
櫻子「私の……こと……」
向日葵「撫子さんの……初めての妹ですからね」
櫻子「っていうか、これはあなたの……!」
EG「それでは」
櫻子「あっ、待ってよ!」
EG「大人として、頑張ってくださいね」
櫻子「だって……これはあなたのことじゃ……!」
EG「…………」ガチャパタン
櫻子「ちょっと!!」ガチャッ
櫻子「!」
向日葵「い、いない……」
櫻子「…………」
櫻子「ねーちゃん……」ぴらっ
向日葵「櫻子、どういうことですの?」
櫻子「さっきの人、私のエレベーターガールさんは……ねーちゃんだもん」
向日葵「えっ………」
さっきまでの姿を思い浮かべる。
そういえばあの背丈……わずかな仕草……
だが、声が違う。
向日葵(いや、でも……!)
あのとき、私のエレベーターガールだって、花子ちゃんと楓にそっくりだって気づいたのは最後の最後だった。
向日葵(……無い話じゃない)
向日葵「だんだん、このエレベーターのことがわかってきたような気がしますわ」
櫻子「……私も」
ガチャ
撫子「……………」モジモジ
櫻子「あっ!」
向日葵(撫子さん……!)
――――――
撫子「だ、だれ……? ここ、わたしのおうち……」
櫻子「あっ、えーっと……」
向日葵「こんにちは、撫子ちゃん」
撫子「えっ……なんでわたしのなまえしってるのっ??」
櫻子「……くわしい話は、座ってからにしようか。ほら、ここ……」
撫子「こっ、こわい……! おかあさん……!」ダッ
向日葵「ま、待って!」
櫻子「大丈夫、おねえちゃんたち怖くないから……!」
撫子「…………」
向日葵「撫子ちゃん、おかあさんのことが心配なんでしょう?」
撫子「!!」
櫻子「おねえちゃんたちが悩みを聞いてあげる。だから……ほら」
向日葵「そうだ。私お茶淹れますわね」
撫子「…………」
櫻子「撫子ちゃんのお悩みを、教えてくれるかなっ?」
撫子「…………うぅっ」ぐすっ
櫻子「あっ……」
撫子「うわあああぁぁぁぁ……あああああああ……」
櫻子「ど、どしたの? なかないで、ほら……」ヨシヨシ
向日葵「…………」コポコポ
櫻子「ほら……よしよし」さすさす
撫子「ううぅぅん……うっ……うっ……」
撫子が泣くところを見たことは……ないような気がする。
別に今までそれを心配するわけでもなければ、泣かせてみようとも思わなかった。
でもこの子は……
櫻子(ねーちゃんは……全然泣かない人だと思ってた……)
向日葵(………子供の心は、不安定……)
――――――
櫻子「………落ち着いたかな?」
向日葵「はい、あったかいお茶ですわ……」
撫子「…………」
向日葵「あ、あとお茶菓子がなかったんですけど、これを……」ことっ
櫻子「なっ! こ、こんな卵焼き出してどうすんだよっ……!///」
向日葵「だってこの他に良さそうなのが無くて……」
すっ
櫻子「あっ……」
撫子「…………」あむっ
撫子「…………あまい」ニコ
櫻子「そ、そう!? よかったー」
向日葵「ふふふ……」
撫子「わたし……いもうとがうまれて、おねえちゃんになるんだって」
櫻子「……うん」
撫子「わたし、ちゃんとおねえちゃんができるように、ひとりでおるすばんできるようになったり、もっともっといいこにならなくちゃいけないの……おとうさんにいわれた」
撫子「このまえ、おかあさんにあいにいった……おかあさん、すごいいたそうにしてて……」
撫子「でも、わたしがいいこにしてたら、おかあさんがんばれるっていってたから……わたしはがんばらなくちゃいけないの!」
撫子「もっともっとがんばって……そしたら……!」うるうる
櫻子「よ、よしよし……」さすさす
向日葵「…………」
二人とも、"このとき" のことを知らない。
今現在撫子がどんな環境に置かれているか、詳しいことはわからない。
櫻子(私が生まれる時のねーちゃんは……)
向日葵(まだ……一人で……)
撫子「…………」ひくっ
櫻子(私は……花子が生まれるとき、すっごい嬉しかったのを覚えてる。でも……こんなねーちゃんみたいな感じじゃなかった)
櫻子(それは、ねーちゃんがいて、向日葵もいたからだと思う)
櫻子(私には……ねーちゃんの気持ちがわからない……)
櫻子(というか……)
この子の悩みって、何?
櫻子(お母さんの容態? 寂しい毎日? 姉になる不安?)
向日葵(………何かひとつ、っていうことじゃない。この子は全てが満たされていないのだから)
向日葵(そういうひとつひとつが重なってできた……漠然とした大きな不安)
向日葵(時間にまかせて薄れるのを待つしかない、ただ泣いて待つことしかできない……)
それが、この子の悩み。
櫻子(どうすれば……)
向日葵(何をしてあげれば……)
――――――
櫻子「あのさ……」
撫子「……?」
櫻子「どんな妹が欲しい?」
向日葵「櫻子………」
撫子「…………」
撫子「たのしい妹」
櫻子「楽しい……?」
撫子「いっしょにあそびたいの。わたし……いつもつまんない」
向日葵「…………」
櫻子「大丈夫。ちゃんと一緒に遊んでくれると思うよ」
撫子「そうなの?」
向日葵「……ええ。あなたはきっと妹さんたちに頼られる、良いお姉ちゃんになりますもの」
櫻子「心配することなんて、なんにもないんだから」
撫子「……そうなのかな」
櫻子「……!」
櫻子「そうだ! 今からお姉ちゃんが、おまじないをかけてあげるよ!」
撫子「おまじない?」
向日葵(な、何言ってるんですの櫻子?)ヒソヒソ
櫻子(いいからいいから……ちょっと私に任せてよ)
櫻子(いつだって思い出せる……あかりちゃんの魔法)
櫻子(私にだって……できるはず)
櫻子「…………」
櫻子「ちょ、ちょっと向日葵上の部屋行ってて。なんか恥ずかしい」
向日葵「え? 別にいいじゃない見ていたって」
櫻子(私が嫌なの! うまくできるかわかんないし!)ヒソヒソ
向日葵(わかりましたわよ……)
櫻子(盗み聞きもダメだぞ!)
撫子「…………ふふ」クスクス
櫻子「あっ/// え、えーと……いくよ?」
目を閉じて。
手をとって。
「大室撫子さん、あなたは……」
――――――
向日葵(おまじないってなんなのかしら……櫻子がそういうのやってるの見たことないんですけど)
向日葵(…………)
向日葵(撫子さん……)
~
私は……
あんたたちの、おねえちゃんだよ。
あんたたちが困ったことがあったら、できる限りのことはしてやる。それがねーちゃんってもんだ。
ひま子が、『おねえちゃん』って呼んでくれたら、どんな悩みだって一緒に解決してやるからね。
~
向日葵(あの言葉……)
向日葵(………おねえちゃんか……)
向日葵(そういえば……今日は撫子さんはどこにいるのかしら。というか今家に誰か帰ってきたら色々とまずいですわね……)
向日葵「えっ……!?」
あてもなくうろついていた向日葵は玄関まで来たのだが……そこにあるものは明らかにおかしかった。
ドアが……ない。その先に……
それは、見たことがないわけではなかった。だって、そのドアがあったはずの場所の先は……あのエレベーターの中の光景なのだ。
向日葵(ここに繋がっていたのね……)ソロソロ
EG「あ」
向日葵「あっ」
向日葵「こ、ここにいたんですか!?」
EG「……まあ、今はここにいなければならないのが私の役割なので」
向日葵「……あれ? 帰っていいと言うまでエレベーターって現れないんじゃないんですか?」
EG「……当然のことですが、あらゆる物事が簡単に世から消えることはありません。全ての物事は姿を変えて循環を続ける。それと同じ。……これは、ただターゲットから "見えないようにしている" だけなんです」
向日葵「は、はぁ……理屈はわかりましたけど、時間をとめたり昔の人を連れてきたりしてるものですから、消すことぐらい簡単なのかと」
EG「…………」
向日葵「…………」
EG「…………まだ何か?」
向日葵「あ、あなたは……」
向日葵「撫子さんなんですね?」
EG「……私は大室撫子であると言われればそうであるし、大室撫子でないと言われてもまたそうである」
向日葵「撫子さんであって……撫子さんでない……?」
EG「この姿に意味はあります。それはあなたたちがこの世界に最も入りやすいという点を求めた結果なのです」
向日葵「つまり……」
EG「あなたたちは大室撫子に似た存在であるときに、最も「受け入れ難いものを素直に受け入れることができる」と我々は判断したのです。もっとも、あなたは最初は違う担当でしたがね」
向日葵(我々って誰なのかしら……)
向日葵「あなたは……撫子さんの形を借りているだけだと」
EG「その通りです」スッ
向日葵「!」
ハットをとる。その顔はまさしく撫子のものであった。ただ服装が違うだけ。
向日葵「…………」
向日葵「ふふ……声は似てないんですのね」クスッ
EG「完全に大室撫子になるつもりはありません。それだと逆に様々な支障が生じる……っと、来ましたね」
ガチャ
櫻子「気をつけてね」
撫子「うん……ありがとうおねえちゃん」
向日葵「あ、あら、終わったんですの?」
櫻子「……あはははは」
撫子「ふふふっ……」クスクス
向日葵(何があったのかしら……気になりますわ)
向日葵(でもこの子……さっきまでの泣き顔が綺麗に直ってる……)
EG「さて、行きましょうか」
撫子「あ……まって!」
撫子「おねえちゃん、きょうはありがとう」
櫻子「いいのいいの。これは夢なんだから」
撫子「あのね、いってなかったことがあるの」
いもうとのなまえ、きまったんだって。
そう……なんていうの?
さくらこ。
おおむろ、さくらこ。
撫子「かわいいでしょ?」ニコッ
……ええ。とても。
――――――
櫻子「……っあー、少し疲れちゃった」ぽすん
向日葵「教えてくださいな。おまじないって何をやったんですの?」
櫻子「言えない言えない」
向日葵「言えないようなことを?」
櫻子「うーん……恥ずかしい」
向日葵「は、恥ずかしいことを!?///」
櫻子「……たぶん考えてるのと違うと思うよ」
櫻子「ところでさ、私たちって、大人なの?」
向日葵「あ、あ~……」
向日葵「あの子からすれば、大人だったかもしれませんわね」
櫻子「……そういうことか」
向日葵「……あのエレベーターガールさん、やっぱり撫子さんじゃないみたいでしたわ」
櫻子「ふーん……もうそれはどうでもよくなったゃったかな」
櫻子「向日葵覚えてる? 花子が生まれたとき、楓が生まれたとき」
向日葵「えーっと……まあ、少しなら」
櫻子「あの時はさ……」
~To be continued~