1 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 18:56:03.219 g/Kyhabo0NIKU 1/58

― 酒場 ―

少年剣士「ミ、ミルクください」

マスター「坊や……」ジロッ

少年剣士「う……」

マスター「酒場を開いて十数年、ずぅぅぅっとその注文を待ってたんだ! すぐ出すから待ってな!」

少年剣士「……」ホッ

「てめえ、今なんつった!!!」

少年剣士「え」ビクッ

元スレ
大男「ガハハ、一回戦は楽勝だな!」少年剣士「負けるもんか!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1580291763/

2 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 18:59:16.089 g/Kyhabo0NIKU 2/58

大男「聞こえなかったのか? 酔って暴れる奴に酒飲む資格はねえっつったんだよ」

チンピラ「ンだとコラァ!」バキッ!

大男「……」

チンピラ「あ、あれ? 当たったのに……」

ドゴォッ!!!

チンピラ「ぶぎゃん!」

パンチ一発で壁まで吹き飛ばされる。

大男「ったく、ケンカすんなら相手見てしろや……」

オオー… スゲーパンチ… サスガダゼ…



少年剣士(すごい……!)

4 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:02:23.861 g/Kyhabo0NIKU 3/58

大男「クソみたいなケンカしたら酒がまずくなっちまった。マスター、勘定ここ置いてくぜ」

マスター「あいよ! あんたがいてくれて助かったよ!」

少年剣士「あ、待って!」

タタタッ…



マスター「おい坊や、ミルク……!」

マスター「……」

マスター「ま、いいや。自分で飲も」ゴクゴク

マスター「うまい!」

5 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:05:29.022 g/Kyhabo0NIKU 4/58

少年剣士「待って下さい!」タタタッ

大男「あ?」

少年剣士「さっきのパンチ……すごかったです。あなたみたいな強い人を見るのははじめてだ!」

大男「そうかよ。で?」

少年剣士「あなたにお願いがあるんです!」

大男「なんだよ、サインでも欲しいのか?」

少年剣士「ボクを……弟子にして下さい!」

大男「ハァ?」

7 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:07:40.933 g/Kyhabo0NIKU 5/58

大男「弟子? ふざけてんのか?」

少年剣士「ふざけてなんかいません! ボク、強くならなきゃいけないんです!」

少年剣士「それも……あと一ヶ月で!」

大男「なにムチャクチャいってやがる」

大男「一ヶ月で強くなれる方法があんなら、この世は強い奴だらけだっつーの。消えな」スタスタ

少年剣士「待って……!」スタスタ

8 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:10:37.033 g/Kyhabo0NIKU 6/58

大男「ついてくんな!」

少年剣士「弟子にしてくれるまでついていきます!」

スタスタ… スタスタ…

大男「ったく、とうとう自宅までついてきやがって……」

大男「いいか、俺は弟子なんて取らねえんだよ!」

バタンッ!

少年剣士「……」

9 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:13:48.433 g/Kyhabo0NIKU 7/58

大男(飲み直して……)グビッ

大男(肉食って……)ムシャムシャ

大男(さすがに……もういないだろ。いないよね?)ガチャッ

少年剣士「……」

大男「いるし!」

少年剣士「……」

大男「とりあえず……中入れ。そのまま外にいられても迷惑だ」

少年剣士「ありがとうございます!」

10 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:16:49.073 g/Kyhabo0NIKU 8/58

大男「ほれ、ミルク」

少年剣士「ありがとうござ……あっ!」

少年剣士「いけない! ミルク注文したままだった! 謝りに行かなきゃ!」

大男「いいよもう! 後で俺が謝っといてやるから!」

少年剣士「ごめんなさい……」

大男「で? 聞かせろよ。どうして強くなりたいんだ?」

少年剣士「ボクは……ある男を倒したいんです」

大男「ある男?」

11 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:19:30.378 g/Kyhabo0NIKU 9/58

少年剣士「“無法者”って、ご存じですか」

大男「ああ、知ってる。第一級の賞金首じゃねえか」

大男「たしか元はどこぞの騎士だったが、あまりに残虐な戦い方するってんでお役御免になって」

大男「今は手下引き連れて、各地で殺しや略奪をやってるっていう……」

少年剣士「そうです」

大男「なんであんな危ねえ奴を狙ってんだ? そんなに金が欲しいのか?」

少年剣士「ボクの父さんと母さんは……あいつに殺されたんです」

大男「なんだと……!?」

12 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:22:51.704 g/Kyhabo0NIKU 10/58

少年剣士「二年前、ボクの村は無法者一味に襲われました」

少年剣士「母さんはボクを物置に隠してくれて……父さんは剣士だったのであいつに立ち向かいました」

少年剣士「だけど、二人とも……! 村も焼かれて……!」

少年剣士「それ以来、ボクは仇を討つために旅を続けてきたんです」

大男「……そうか」

大男「強くなりたい理由はよぉく分かった。だが、一ヶ月でってのはなんでだ?」

大男「もっとでかくなって、実力と自信をつけてから挑めばいいじゃねえか」

大男「見たところ根性はあるようだし、修行すりゃいずれ無法者より強くなれるだろ」

少年剣士「理由は……ちゃんとあります」

13 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:25:57.882 g/Kyhabo0NIKU 11/58

少年剣士「奴は今、この町の西にある山に潜伏してます。これはたしかな情報です」

大男「マジかよ!」

少年剣士「無法者の手口はこうです」

少年剣士「まず、ある地域の目立たない場所に潜伏して、ひっそりと暮らします」

少年剣士「そして、“立つ鳥跡を濁す”とばかりに、大規模な殺戮と略奪をする」

少年剣士「憲兵隊や騎士団が駆けつけても、一味はもう別の土地に移ってるって寸法です」

大男「なるほど……そりゃ捕まらねえわけだ」

大男「そうか! 一ヶ月ってのは――」

少年剣士「はい、今までの手口からいって、奴がこの地域で略奪をするのはちょうど一ヶ月後……」

少年剣士「ボクの目的は仇討ちと、奴の殺戮を食い止めることなんです!」

15 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:30:23.069 g/Kyhabo0NIKU 12/58

大男「だったら、奴の居場所を憲兵隊にでも知らせて――」

少年剣士「それはダメです。おそらく勘付かれて逃げられてしまう」

少年剣士「もし逃がしたら……次のチャンスはいつになるか分からない」

少年剣士「今回、ボクが奴を見つけられたのも、本当にものすごい幸運のようなものなんです」

少年剣士「それにボクだって仇討ちを他の人に任せたくない……」

少年剣士「無法者はボクが殺さなきゃならないんです!!!」

大男「……!」

大男(このガキ……なんつう目ぇしやがる)

17 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:33:47.088 g/Kyhabo0NIKU 13/58

大男「事情は分かった……。いいだろう、仇討ちに協力してやるよ」

少年剣士「弟子にしてくれるんですか!?」

大男「ああ。ただし……師匠っつうのはどうも柄じゃねえ。そんな立派な生き方してねえしな」

大男「だからよ……ダチってのはどうだ?」

少年剣士「はい、それでかまいません!」

大男「おっと、ダチ同士でそんな口の利き方するもんじゃねえぜ」

少年剣士「は……う、うん、分かった」

大男「それでよし。んじゃ、しばらく稽古つけてやるよ」

少年剣士「ありがとうござ……ありがとう、おじさん!」

大男(俺、まだ20代なんだけどな……まあいいか)

19 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:37:58.811 g/Kyhabo0NIKU 14/58

翌日――

大男「んじゃ、稽古を始めるか」

少年剣士「よろしく、おじさん」

大男「稽古っつっても、俺とお前じゃ今までやってきたことが全然ちがう」

大男「お前はずっと剣士だったんだろ?」

少年剣士「うん、父さんに教わったんだ」

大男「だったら戦い方を変えることはねえ。親父に教わった剣で戦え」

大男「ただし、この一ヶ月でお前には俺のパワーを出来る限り詰め込んでやる!」

少年剣士「分かった!」

20 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:40:35.267 g/Kyhabo0NIKU 15/58

大男「まずは腕立て伏せからだ」

大男「1、2、3……」グッグッ…

少年剣士「1、2、3……」グッグッ…

大男「フォーム崩すなよ! しっかり腕曲げろよ!」グッグッ…

少年剣士「うんっ!」グッグッ…

大男「オラオラ、どうした! 俺がお前ぐらいの時には軽く100回こなせてたぜ!」グッグッ…

少年剣士「くっ……!」グッグッ…

21 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:42:24.393 g/Kyhabo0NIKU 16/58

大男「この石を持て」

少年剣士「うん!」ズシ…

大男「そのままスクワット……始めっ!」

少年剣士「ぐっ、ぐっ……!」グンッグンッ

大男「どうしたどうしたァ! そんなんじゃパワーは身につかねえぞ!」

少年剣士「うおおおおおおおっ!」グンッ

大男(とはいったものの、本当にこれでいいのかなぁ?)

22 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:45:19.250 g/Kyhabo0NIKU 17/58

大男「ほらメシだ!」ドンッ

少年剣士「こんなに……」

大男「食わなきゃでかくなれねえからな」

大男「一ヶ月で強くなりてえんなら、食って食って食いまくれ!」

少年剣士「いただきますっ!」ガツガツムシャムシャ

大男「いい食いっぷりだ!」



大男「んで、食ったらよく寝る!」

少年剣士「おやすみなさい!」

大男「ぐおぉぉ……ぐおぉぉ……」

少年剣士「すぅ、すぅ、すぅ……」

23 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:48:16.640 g/Kyhabo0NIKU 18/58

それから連日のように――

少年剣士「ふんっ、ふんっ!」グッグッ

大男「あと10回! 根性振り絞れ!」

少年剣士「ふんっ!」グッ



――バキィッ!

少年剣士「ぐはぁっ!」ドザッ

大男「どうしたどうしたァ! 仇を討ちてえんだろ!? かかってきやがれ!」

少年剣士「うわあああああああっ!」ダッ



少年剣士「はぁ、はぁ、はぁ……」ヨロヨロ…

大男「よし、今日はこのぐらいにしとこう」

少年剣士「う、うん……」ドサッ…

24 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:50:44.682 g/Kyhabo0NIKU 19/58

ある日――

素振りをする少年。

少年剣士「はっ! はっ! はっ!」ブンッブンッブンッ

大男(毎日毎日精が出るねえ……)

大男「おい、俺はちょっくら出かけてくる。留守番頼むわ」

少年剣士「行ってらっしゃい!」ブンッ

25 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:53:34.193 g/Kyhabo0NIKU 20/58

商人「いやぁ、あんたのおかげであっという間に荷下ろしできたよ。これ代金ね」

大男「毎度!」

仕事を終えて――

ザッザッ…

大男(あいつ……勝てるかなぁ)

大男(少しは強くなったとは思うが、無法者に勝てるかっつうと……)

大男(一度、この目で無法者の強さを見てみてえが――)

興行師「そこの大きなお兄さん! 強そうだね。こういうの出てみない?」ピラッ

チラシを渡される。

大男「闘技大会? 興味ねぇや」

興行師「あらら、残念」

28 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 19:56:27.166 g/Kyhabo0NIKU 21/58

興行師「お兄さん、どぉう? 優勝すれば賞金も出るよ」ピラッ

賞金稼ぎ「あいにくだが、遊びの戦いには興味ないんだ」



大男(あいつ……かなり出来るな)



賞金稼ぎ「それにこれから大儲けできる仕事を控えてるんでね。こんなのに出る必要もない」

興行師「あーあ、なかなか選手が集まらないや」



大男「!」

大男(大儲けできる仕事ってまさか……)

30 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:01:51.912 g/Kyhabo0NIKU 22/58

賞金稼ぎ「西の山ってのはあっちでいいのか?」

町民「ああ、だけどこれといって何もない山だぜ? あんなとこに何しに行くんだ?」

賞金稼ぎ「ちょっとしたハンティングにね」スタスタ

町民「そんな大した動物がいる山じゃないけどなぁ……」



大男(やっぱりそうだ!)

大男(あいつも小僧と同じく、無法者の情報を手に入れたんだ!)

大男(腕は立つようだし、こいつが倒しちまうかもしれねえ)

大男(だが、そうなった方がいいのかもしれねえな……)

大男(ついてってみるか)

32 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:04:40.832 g/Kyhabo0NIKU 23/58

― 西の山 ―

山小屋にたむろする一味。

ハハハハ… ハハハ…

手下A「いつだったかガキをかばった親をガキごと串刺しにした時は最高だったぜ!」

手下B「ハハハ、かばった意味ねぇ~!」

手下C「無駄死にすぎる!」

ギャハハハハ…

無法者「……」ピクッ

手下A「どうしました?」

無法者「客が……来たようだ」

33 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:07:51.815 g/Kyhabo0NIKU 24/58

無法者「貴様は?」

賞金稼ぎ「旅の賞金稼ぎだ。ひと儲けしたくてやってきた」

賞金稼ぎ「しかし、無法者は凄腕と聞いていたが、どうやら大したことはなさそうだな?」

賞金稼ぎ「そんなろくに手入れもしてない剣を使ってるのだから」

無法者「……」

指摘通り、無法者の剣は錆びや欠けが目立つ代物だった。

手下A「ククク……」

手下B「ハハハ……」

賞金稼ぎ「何がおかしい?」

無法者「すぐに分かる……俺はこの方がいいんだ。俺一人でやるから、お前たちは手を出すなよ」

賞金稼ぎ「ふん、すぐ手下に泣きつくことになるさ」チャキッ



大男(始まる……!)

34 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:10:37.503 g/Kyhabo0NIKU 25/58

賞金稼ぎ「だああああっ!」ビュオッ

ブオンッ! ビュオッ!

――ザシィッ!

賞金稼ぎ「ぐっ……!」ブシュッ…

先に一太刀浴びせたのは無法者。

無法者「……」

賞金稼ぎ「やるな……。だが、そんな剣じゃ浅手しか与えられないな? 勝負はここからだ!」

賞金稼ぎ「でやぁっ!」

ズバッ!

賞金稼ぎ「ぐおっ!」

またも一撃入る。やはり傷は深くない。

37 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:13:45.829 g/Kyhabo0NIKU 26/58

ザシッ!

賞金稼ぎ「ぎゃっ!」

ズブッ!

賞金稼ぎ「ぐっ!」

ドシュッ!

賞金稼ぎ「ぐああっ……!」

刃こぼれしている剣は、えぐるような傷を増やしていく。

賞金稼ぎ「く、くそぉっ……!」

無法者「……」ニィ…

賞金稼ぎ(笑ってる……!? こいつ……まさか!?)

無法者「まだ……死ぬなよ。もっともっと斬りたいから……」

賞金稼ぎ(手入れしてない剣を使ってるのは、より長く斬るのを楽しみたいから……!)

賞金稼ぎ(より相手を苦しめられるから……!)

40 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:16:51.055 g/Kyhabo0NIKU 27/58

……

ザシュッ!

賞金稼ぎ「あぎゃああああああっ!!!」

賞金稼ぎ「も、もうっ! こ、殺ひてっ……! 殺してくだちゃぁい!」

無法者「何故だ? 貴様はまだ生きている。逆転できるかもしれんぞ。諦めてはならん。希望を捨てるな」

賞金稼ぎの四肢はすでにズタズタにされていた。

賞金稼ぎ「お、お願いですっ! 負けですっ! ……殺じてぐれぇっ!」

無法者「まぁ、そう焦るな。まだまだ……俺を楽しませてくれ」

手下A「うへえ、相変わらずだな……」

手下B「立っちまってるぜきっと」



うぎゃぁぁぁぁぁ……!!!

44 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:20:25.658 g/Kyhabo0NIKU 28/58

……

ザッザッ…

大男(なぶり殺しだった……見てられなかったぜ)

大男(手出ししようにも、応援が来ると判断したら奴らが逃げる危険性もあったからな……)

大男(ちっ、胸糞悪い……!)

大男(あれが無法者か。想像以上に強く、そしてヤバイ野郎だった)

大男(あんなのに、あいつが勝てるのか……!?)

45 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:23:26.782 g/Kyhabo0NIKU 29/58

― 大男の家 ―

少年剣士「今日もいっぱい食べるぞ!」ガツガツ

大男「……」

大男(こいつをあんなのと戦わせたくねえ)

大男(いっそ、俺が代わりに――)

少年剣士「いっぱい食べて、無法者を倒すんだ!」

大男(いえねえ! いえるわけねえ!)

少年剣士「どうしたの、おじさん?」

50 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:26:15.191 g/Kyhabo0NIKU 30/58

大男「お前は……無法者と戦うんだよな?」

少年剣士「もちろん!」

少年剣士「この二年間、ずっとそのために生きてきたんだから!」

少年剣士「無法者が死ぬか、ボクが死ぬか、それしかないんだ!」

大男「……お前の決意はよぉく分かった」

大男「だがな」

少年剣士「?」

52 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:29:24.458 g/Kyhabo0NIKU 31/58

大男「これ見ろ」

チラシを差し出す。

少年剣士「闘技大会?」

大男「三ヶ月後に開かれるんだってよ。お前、これに出ろ。俺も出てやる」

少年剣士「え……」

大男「お前が強くなるのは、この大会に出るためだ。無法者を倒すためなんかじゃねえ」

大男「だから絶対生き残るんだぞ。死んでもいいなんて気持ちで戦うな」

少年剣士「うん……分かった」

大男「……よし」

53 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:32:20.881 g/Kyhabo0NIKU 32/58

トレーニングは続き――

少年剣士「はっ! はっ! はっ!」ブンブンブンッ



少年剣士「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」グッグッグッ

大男「腕立てあと50回! 根性見せろ!」



少年剣士「いただきまーす!」バクバク

大男「食え食え食え!」バクバク

54 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:35:19.630 g/Kyhabo0NIKU 33/58

……

……

大男「お、剣の手入れか」

少年剣士「うん、父さんの形見だから……大切にしなきゃ」フキフキ…

大男「いよいよ明日だな」

少年剣士「うん」

少年剣士「おじさん、色々お世話になりました。本当にありがとう」

大男「よせやい」

55 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:37:36.453 g/Kyhabo0NIKU 34/58

大男「だがな、男は男から施しを受けたことを喜んじゃいけねえんだ」

大男「なぜなら男同士ってのは、みんなライバルなんだからな」

大男「容赦なく扱われてこそ、対等になれたってことでもあるんだ」

大男「つまり、俺にとっちゃ、お前はまだまだ一人前じゃねえってことだ」

少年剣士「……うん」

大男「だから、こんなとこで死ぬんじゃねえぞ。半人前のままでよ」

少年剣士「うん、ボクはおじさんと一緒に闘技大会に出るよ!」

…………

……

56 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:42:14.592 g/Kyhabo0NIKU 35/58

― 西の山 ―

無法者「いよいよ今日は楽しい狩りの時間だ」

無法者「よその土地に移る前に、町や村を二つ三つ潰す。殺すも焼くも犯すも、好きなようにやれ」

手下A「久しぶりに大暴れすっかぁ!」

手下B「なぶりがいのある女がいるといいなぁ~」

ゾロゾロ…

集団で山を下りていく。

そこへ――

58 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:45:30.501 g/Kyhabo0NIKU 36/58

無法者「……ん?」

手下A「ガキがいやがる」

手下B「なんでこんなとこにガキが?」

少年剣士「……」

少年剣士「ボクは二年前、お前たちに父と母を殺され、故郷の村を滅ぼされた者だ!」

無法者「なんという村だ?」

少年剣士「○×村だ!」

無法者「……」

59 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:48:42.871 g/Kyhabo0NIKU 37/58

無法者「覚えていない」

少年剣士「お前ッ……!」

無法者「だが、きっと……素晴らしい村だったのだろうな」

無法者「人々が平和に暮らし、笑顔の絶えない、自然豊かな美しい村だったのだろうな」

少年剣士「……?」

無法者「そういう場所を蹂躙し、略奪し、滅亡させることに俺は幸福を覚えるんだ」

無法者「俺に幸福を与えてくれて……深く感謝する」スッ…

騎士のように、丁寧な一礼をする。

少年剣士「……ッ!」

61 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:51:32.204 g/Kyhabo0NIKU 38/58

少年剣士「ブッ殺してやる!!!」

無法者「いい表情(かお)だ……」

無法者「俺は子供を斬るのも、仇討ちを返り討ちにするのも、どちらも大好物でな」

無法者「今日はいきなり幸先がいい……お前たち、手を出すなよ」チャキッ



手下A「分かってますって」

手下B「あのガキ……いったいどのぐらい“生かされる”んだろうな……」

62 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:54:43.961 g/Kyhabo0NIKU 39/58

少年剣士「でやあっ!!!」

ブオンッ!

渾身の斬り込みはあっさりかわされ――

ザシュッ!

少年剣士「がっ……!」

反撃を受けてしまう。傷は浅い。

少年剣士「まだまだァ!」



手下A「ククッ、あーあ地獄の始まりだぜ」

63 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 20:57:29.486 g/Kyhabo0NIKU 40/58

ザシュッ!

少年剣士「……あぐぅっ!」

ズバッ!

少年剣士「うあっ!」

無法者「仇討ちに燃える少年の凄絶なる悲鳴……いいものだ」

無法者「もっと……もっとだ。もっと聴かせてくれ!」ジュル…



手下A「おいおい、早くもヨダレ垂らしてんぜ。やべーよ」

手下B「もし死に方選べるんなら、あの人に殺されるのだけはヤだな」

64 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:00:36.733 g/Kyhabo0NIKU 41/58

ギィンッ!

無法者「ほう、俺の剣を受けるとは。年のわりにやるようだ」

無法者「だが……経験が少なすぎる。全てにおいて幼すぎるんだよ」

ビシュッ!

少年剣士「ぎゃっ!」



木陰には――

大男(見にきてみたが……やっぱり劣勢だったか!)

大男(だが、手ェ出すわけにはいかねえ! これはあいつの仇討ちなんだ!)

大男(それに、あいつにも勝機はある――)

65 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:04:31.611 g/Kyhabo0NIKU 42/58

ザンッ!

少年剣士「あぎゃぁぁっ!」

無法者「おおおっ、今の悲鳴はいい! ベリィグッドだ!」

無法者「さあ、もっとかかってこい! 仇は目の前だ! 諦めてはならん! 亡き父と母が浮かばれんぞ!」

興奮した無法者が剣を大きく振り被る。

少年剣士「だああっ!」

ガキィンッ!

少年剣士「ぐ……!」

無法者「む……」

鍔迫り合いの格好になった。

66 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:07:22.838 g/Kyhabo0NIKU 43/58

手下A「鍔迫り合いだ!」

手下B「ガキの腕力だぜ? あっという間に押し込まれて終わりだ!」



無法者「ほう……」グググ…

少年剣士「ぎぎぎ……!」グググ…

無法者(こいつ……!)グググ…

少年剣士「があああっ……!」グググ…

無法者(見かけによらず、力が……!)グググ…

少年剣士「ああああああああああああっ!!!」グンッ

ピシッ…

67 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:10:41.289 g/Kyhabo0NIKU 44/58

無法者「こ、このガキッ……!」グググ…

少年剣士(ボクのこの体には一ヶ月間蓄えた――)

少年剣士「おじさんのパワーが宿ってんだァァァァァッ!!!」

ミシミシ…

パキィンッ!

無法者の剣は折れ――

ザシュウッ!

少年の剣は無法者に届いた。



大男(やったッ!)

大男(剣を手入れしてねえのが……アダになったな!)

69 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:14:37.063 g/Kyhabo0NIKU 45/58

無法者「が、がふっ……!」ボタボタ…

少年剣士「さあ、来い!」

ドヨドヨ…

手下A「ウソだろ!?」

手下B「無法者さんがあんなガキに……!」

無法者「貴様らァ! 何してやがるッ! このガキ……殺せッ!」

手下A「は、はいっ!」

少年剣士「くっ……!」

71 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:18:01.872 g/Kyhabo0NIKU 46/58

大男「おーっと」ズイッ

手下A「わっ!?」

少年剣士「おじさん!?」

大男「ダチのタイマンを邪魔する奴は許さねえ。俺が相手になるぜ」

巨大な棍棒を持った大男が参戦する。

手下A「うお……」

手下B「で、でけえ……」

無法者「怯んでんじゃねえ! そんなデクノボウとっとと片付けて俺を手伝え! 刻まれたいか!」

手下A「ひっ! や、やるしかねえ!」

尻を叩かれ、手下たちが一斉にかかっていく。

72 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:22:13.287 g/Kyhabo0NIKU 47/58

ドドドドド…

手下A「死にやがれぇぇぇっ!」

大男「……」

大男「ぬうんッ!!!」



ドゴォンッ!!!



「ぐびゃっ!」 「ぎゃあっ!」 「ごぶぅっ!」 …… ……

たった一振りで手下は全滅した。

大男「まとめてかかってきてくれたおかげで、まとめて倒せたぜ」



無法者「な……ッ!?」

少年剣士(おじさん……強いのは分かってたけど、こんなに強かったんだ……!)

73 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:25:38.749 g/Kyhabo0NIKU 48/58

大男「――おいっ!」

少年剣士「!」

大男「いいか、お前にはこっから先にも長い人生ってのが待ってんだ!」

大男「大会出たり、うまいメシ食ったり、恋してみたり、働いたり……とにかく色々だ!」

大男「いずれダチ同士、酒でも酌み交わそうぜ!」

大男「だからよ……そんなクズ野郎を人生の終着点にすんじゃねえぞ!」

大男「そんな奴はお前の宿敵でもなんでもねえ……通過点に過ぎねえんだ!」

大男「とっととブッ倒してやれ!!!」

少年剣士(おじさん……)

少年剣士「うんっ!」

無法者「ガキがぁ……!」

74 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:30:19.669 g/Kyhabo0NIKU 49/58

改めて対峙する二人。

少年剣士「……」チャキッ

無法者(剣は折れ、傷も負ったが……まだ動ける。このガキに負ける要素はない)

無法者(だが、あの大男には勝てん……。こんな田舎にあんなのがいるとは計算外だった)

無法者(まず、遊び無しでガキを仕留め、その後すぐ逃げる)

無法者(これしかない……!)

ジリ… ジリ…

75 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:33:09.911 g/Kyhabo0NIKU 50/58

――ギンッ!

ギィンッ! キィンッ!

剣がぶつかり合う。やはり無法者が優勢。

少年剣士「うぐっ……!」ヨロッ

無法者「剣は折れたが貴様如きクソガキを叩き斬るには十分だッ!」

少年剣士「うわあああああっ!」

無法者(まっすぐ突っ込んできやがった! 死ねぇっ!)

剣を振り下ろす。

76 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:36:25.203 g/Kyhabo0NIKU 51/58

バッ!

無法者「!?」

無法者(こいつ、跳ん――)

少年剣士「だあッ!!!」

ザク…

形見の剣が、無法者の頭蓋骨に食い込む。

無法者「ぐぴゃ――」

そのまま少年はありったけの力で――



ザンッ!!!



無法者の命を断った。

77 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:40:22.860 g/Kyhabo0NIKU 52/58

少年剣士「う、うう……」ヨロヨロ…

大男「おっと!」ガシッ

少年剣士「おじ、さん……」

大男「しっかりしろ! すぐ病院連れてってやるからな!」

少年剣士「おじさん……ボク、やったよ……」

大男「ああ……天国でお前の父ちゃん母ちゃんも喜んでるさ。よくやったってな」

少年剣士「……うん」

78 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:43:59.072 g/Kyhabo0NIKU 53/58

……

― 酒場 ―

マスター「まさか、こんな坊やがあの無法者をねえ……」キュッキュッ

少年剣士「えへへ……」

大男「おかげでこのガキ、今や俺より金持ってんだぜ」

少年剣士「だからおじさん、今日はボクがおごってあげるよ」

大男「こいつぅ」

マスター「で、ご注文は?」

少年剣士「ミルクください!」

マスター「坊や、今度はちゃんと飲んでくれよ」

少年剣士「あの時は本当にごめんなさい……」

アッハッハッハ…



…………

……

80 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:47:48.011 g/Kyhabo0NIKU 54/58

無法者を倒してからおよそ二ヶ月後……

― 闘技場 ―

大男「いよいよ闘技大会だな」

少年剣士「うん」

大男「俺はもちろん優勝狙いだが、お前は?」

少年剣士「優勝! ……といいたいけど三回戦ぐらいかな」

大男「お前なぁ、無法者倒してんだからもっと自信持てよ」

係官「これより組み合わせを決めるクジ引きをしますので、集まってくださーい!」

ワイワイ… ガヤガヤ…

82 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:51:03.434 g/Kyhabo0NIKU 55/58

大男「1番だ」

少年剣士「ボク2番」

係官「はい、お二人は一回戦第一試合で当たりまーす。頑張ってくださーい」

大男「……」

少年剣士「……」

大男「まあ、こういうこともあるわな」

少年剣士「……うん」

少年剣士(いきなりおじさんと当たるなんてついてないや……)ガックリ

大男「……」

83 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:53:36.952 g/Kyhabo0NIKU 56/58

大男「ガハハハ! 俺はクジ運いいぜぇ!」

少年剣士「!」

大男「なんたって最初の相手はこんなガキなんだからな! シードみてえなもんだ!」



ザワザワ…

戦士「なんだよ、あのでかい奴は……でかい声で……」

槍使い「相手は子供なんだから、もうちょっと気遣ってやればいいだろうに」

甲冑「容赦がなさすぎる……最低だな」



少年剣士(いや……そうじゃない)

84 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 21:57:02.840 g/Kyhabo0NIKU 57/58

少年剣士(おじさんは……)



『男同士ってのは、みんなライバルなんだからな』

『容赦なく扱われてこそ、対等になれたってことでもあるんだ』



少年剣士(おじさんは、ボクのことを――)

大男「おう、試合場じゃ容赦しねえぜ? 一発でのされても泣くなよ」

少年剣士「おじさんこそ! 油断して負けないよう気をつけるんだね!」

86 : 以下、5... - 2020/01/29(水) 22:00:07.235 g/Kyhabo0NIKU 58/58

― 試合場 ―

ワァァァァァ……!

実況『ただいまより、闘技大会一回戦第一試合を開始いたします!』

実況『両選手、睨み合ってますが、心なしか微笑み合ってるようにも見えます!』

大男「ガハハ、一回戦は楽勝だな!」

少年剣士「負けるもんか!」








― 完 ―

記事をツイートする 記事をはてブする