男「やってしまった・・・・・」
男「やってしまったぞ・・・・・・」
男「・・・・・」
男「はぁ・・・・・・」
男「・・・・・」
元スレ
男「やってしまった・・・」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1240591977/
最近の夜更かしを後悔する俺
「はぁ・・・・・・」
「完徹でゲームなんかするんじゃなかった・・・・」
「・・・・・・」
目をこする
「・・・・・・」
「・・・消えないし」
人は朝起きたら何をするのか
大抵の人は
まずトイレに行って
その次にきっと洗面所で顔を洗うだろう
そして
俺も決して例外ではなく
トイレを済ませた後
洗面所に向かった
そしてそして
洗面所の鏡を見た
・・・・・・
男「寝ぼけてんのかな俺・・・・」
男「でもそんな・・・・」
男「夢でもないだろうし・・・・・」
俺は
鏡越しに
頭の上にある物を見た
男「なんだ・・・・・これ」
俺の頭の上には
時計らしき物が乗っていた
朝起きてふと見れば
俺の頭の上には時計が乗っていた
何も文字の書いてない時計
男「・・・時計というより」
男「タイマーみたいな・・・・」
乗っているというよりは
くっ付いてるという感じ
男「どういうことなんだ・・・・」
男「・・・・・・」
男「・・・とりあえず取ろう」
スルッ、スルッ
男「ありゃ」
鏡に映った時計の位置に手を回した
が
男「・・・・・・・」
時計は俺の手をすり抜けた
男「・・・・・・」
男「・・・どういうことやねん」
男「やべえ口調が乱れた」
男「・・・どういうことですか」
スルッ
何度やってもすり抜ける
男「・・・・・・」
男「気になって顔洗えない・・・・」
ドンドン
洗面所の扉を叩く音がした
妹「・・・お兄ちゃんまだー?」
男「あ、ああ」
男「悪い悪い」
結構考え込んでたらしい
妹「早くしてよー」
男「ああもうすぐ終わる」
俺は顔を洗って洗面所を出た
妹「洗面所早く開けてくれないと」
妹「私まで遅刻しちゃうよ」
男「・・・・・・・」
男「・・・・なぁ」
妹「?」
男「その頭の上の・・・・・」
妹の頭の上にも
時計が乗っていた
妹「頭の上に何か付いてる?」
妹も頭に手を回す
妹「何も付いてないけど・・・・」
男「・・・・いや、なんていうか」
男「とりあえず洗面所行って来い」
妹「・・・・なんていうか」
妹「変なの」
妹は洗面所に入った
水を流す音が少しした後
妹は出てきた
妹「・・・・・・」
男「・・・・な?」
妹「・・・・・」
妹「・・・・別に」
妹「何も付いてなかったけど・・・・・」
え・・・?
男「いやいや」
男「もろ付いてんじゃん」
妹「だから何がって」
妹「てかそんなに言うなら取ってよ」
男「いや・・・・」
男「それは・・・・・」
妹「はあ?」
男は妹の頭の上に手を回した
が、
やっぱりその時計は手をすり抜けた
妹「・・・・・・」
妹「・・・・取れた?」
男「・・・・・・」
ばっちり取れてない
男「・・・・ああ」
男「取れた」
妹「なんだよかった、ありがと」
男「おう・・・・」
俺の家は両親共働き
なので2人とも朝早くでかけてしまう
よって朝は俺と妹だけ
つまりは
男「・・・・・・」
男「・・・・俺がおかしいのか」
男「・・・・それとも」
男「妹がおかしいのか・・・・」
どっちか分からない
・・・・大体予測はつくけど
妹「じゃあ私先に学校行くね」
ガチャッ
妹は学校に向かった
男「・・・・・」
男「・・・きっと」
男「・・・きっと俺が寝ぼけていただけだろうな」
男「そうだ」
男「そうに違いない」
そう言いつつも
俺はリビングの鏡からは目線をそらし
家を出た
外
男「そうか、分かったよ」
男「なるほどね」
俺は周りを見渡した
男「・・・・おかしいのは俺らしい」
道行く人みんなの頭の上に
俺が朝見た時計と似たようなのがあった
あったというか乗っていた
信号待ちしている人も
コンビニに寄っている人も
遅刻しそうなのか少し慌てている人も
散歩中のおじいさんも
道の掃除をするおばあさんも
みんながみんなの頭の上に
時計が乗っている
男「・・・・・・」
男「・・・なんという不思議光景」
しかもしかも
みんながみんな
明らかに不思議な
その時計を気にしている様子がない
男「・・・ということは」
男「やっぱり俺だけなんだろうなあ・・・・」
男「俺時計に呪いでもかけられたのかなぁ」
男「・・・・無機物に呪われるってなんだよっていうね」
俺は学校に行くのはやめて
少し周りをうろつく事にした
男「・・・もしかしたら」
男「俺は世界の陰謀に巻き込まれて・・・・・」
男「・・・・はぁ」
とてもそうは思えない
なんともシュールな光景
男「これじゃあ」
男「危機感も何も感じねぇ・・・・」
男「・・・・まぁあれだ」
俺は考えた
男「とにもかくにも」
男「まずはあそこに行くしかないな」
そうだ
こういう時の為にコンビニはあるのだ
こういう時の為にコンビニは24時間営業なのだ
いや多分違うと思うけど
男「・・・・よし」
コンビニ 店内
きっかけもなく見知らぬ他人に話しかける度胸のない俺は
コンビニの店員さんに
物を買うついでに聞こうなどという考えを持っていた
男「こういうときシャイって大変だな」
男「・・・まぁ」
男「聞くだけならさほど迷惑もかからないと思うけれども・・・・」
俺はガムを持って
レジに行った
店員「いらっしゃいませ」
店員「こちら一点でよろしいでしょうか?」
男「は、はい」
店員「100円になりますー」
店員「このままでもよろしいでしょうか?」
男「大丈夫です」
俺は100円を出した
店員「はい、丁度お預かりします」
店員「ありがとうございました」
男「どうも」
店員「またお越しくださいませー」
男「あ・・・あの・・・・」
店員「?どうしました?」
男「・・・・」
男「・・・俺の頭の上に何か付いてます?」
店員「?・・・・」
店員「・・・いえ」
店員「何も付いていませんが・・・・」
ガムを片手に店を後にした俺は
男「・・・よし」
男「家帰って寝よう」
男「学校とか言ってる場合じゃない」
男「下手したら何かの病気だ俺は」
男「時計症候群的な」
男「とにもかくにも俺は疲れている」
男「学校は休もう」
真っ直ぐ家に向かった
家
家に帰った俺は
パジャマに着替えて
即刻布団に潜った
男「学校には後で連絡しよう・・・・」
男「今はそれどころじゃない・・・寝なきゃ・・・」
目をつぶった
そして
眠った
(ここはどこだろう)
『ここは夢の中だ』
(そうなんだ)
(夢の中で夢って自覚持ったの初めてっぽい)
『普通はそうだろう』
(ところであなたは?)
『俺か?』
(はい、そうです)
(夢の中で僕に話しかけるあなたは)
(一体どなたですか?)
『ふふっ』
『オレハな』
(はい)
『お前を』
『殺しに』
グシャッ
ガバッ
そこで目が覚めた
男「・・はぁはぁ・・・・」
パジャマが汗で濡れていた
頬にも汗が垂れる
男「・・・なんだ・・・今の・・・・」
額の汗を手でぬぐう
男「変な奴がいて・・・・・」
男「少し話して・・・・」
男「そして・・・・・」
何かで斬られた感じになって・・・・・
男「・・・・落ち着こう」
少し冷静になってみた
そうだ
たかが夢だ
少し怖い夢だったってだけ
なのに・・・・
男「・・・寒気がする」
現実に戻っても怖いままなくらい
しつこい夢だった
男「・・・そうだ」
男「気晴らしでもしよう」
布団から出る
男「夢を見たってことは結構寝たっぽいし」
男「あの時計も消えてるだろう」
男「確認ついでに外の空気でも吸おう」
俺は玄関に向かった
外
男「・・・・・・・」
男「・・・嘘だろうよ」
俺はパジャマ姿で外に出て
周りを何度も見回した
けれど
何度も何度も見回しても
男「・・・・・・・」
男「・・・消えてねえ」
目の前には
相も変わらない
不思議な光景が広がっていた
勿論、時計も形姿ほとんど変わっていない
男「なんで・・・・・」
男「もしかして俺・・・・・」
男「本当に病気なのかな・・・・・」
家に戻った俺は
リビングの鏡で自分のも確認した
男「やっぱり」
男「やっぱり残ってる・・・・」
男「そんでもってやっぱり触れない・・・・」
自分の頭の上にもしっかり残っていた
朝と何も変わらず・・・・
男「・・・・あれ」
気付いた
男「朝見た時より・・・・・」
俺は気付いた
男「少しだけだけど・・・・・」
気付いていいことかは分からないけど
気付いてしまった
男「・・・・時間が進んでる?」
そうだ
よーく見ると
少し針が進んでいるような気がする
男「気のせい・・・・」
男「・・・じゃないよな」
洗面所でガン見していただけあって
大体の針の位置まで覚えていたらしい
男「でも・・・・・」
男「進むと何があるんだ・・・・?」
そうだ
これはそもそも何の時計なんだ?
本当にただの時計なのか?
時間も家の時計とはズレてるし・・・
男「・・・・全然分からん」
結局俺は学校をさぼった
学校に電話をしたまでは良かったのだが
その後保護者に確認を取る事になり
サボった事がばれてしまった
おかげで俺は
帰って来た両親にこっぴどく叱られ
妹には蔑まれた
そんでもって
時計は両親にも見えてないっぽくて
母「学校勝手にサボるなってあれほど言ったでしょ」
母「まったくあんたは」
母「おまけに自分で電話してごまかそうなんて」
男「すいません・・・」
母「まったく・・・・・」
父「まぁまぁ」
父「もういいじゃないか」
母「甘やかさないでよ」
父の説得の甲斐あってか
なんとか母の説教を終えることが出来た
母「次やったらどうなるか分かってるんでしょうね」
父「そうだぞ」
父「俺が食い止めるのもこれが限界だ」
母「どういう意味よそれ」
男「キモに銘じときます・・・・・」
俺はリビングに戻った
男「はぁぁ・・・・・」
妹「いつも以上に長かったね」
妹が笑いながらそう言ってきた
うぜえ・・・・
男「まったくだよ・・・・」
妹「・・・・てか」
妹「今日どうしたのお兄ちゃん?」
妹が
不思議そうな顔をしていた
男「何が?」
妹「・・・今日様子変だよ」
妹「朝といい今といい」
妹「そりゃあ、いつもちょっと変だけど」
やっぱりそう思われるだろうな・・・・
俺自身おかしいと思ってるし・・・・
男「・・・・・・」
男「・・・・・気のせいだろ」
男「そうだ、気のせいだよきっと」
妹「そう・・・・?」
男「ああ」
男「気にすんな」
妹「ならいいけど・・・・」
男「そう・・・・・」
男「それでいいんだ」
その後
風呂も飯も終えた俺は
また布団に潜った
だが・・・・・
男「・・・・寝たくねえ」
正直
あまり寝る気がしない
昼寝したから眠くない訳ではない
むしろまだ寝足りないくらい
かといって今ゲームをやりたい気分でもない
じゃあなんで寝たくないのかというと
男「・・・・もしかしたら」
男「またあの夢見たりして・・・・・・」
そう
昼間のあの夢が未だに忘れられないから
男「・・・だからあれは夢だって」
男「忘れよう忘れよう」
男「まさか同じ夢を二度見ることはないだろ」
何度もそう思い込み
ひたすら呟きながら
部屋の電気を消して
眠りについた
(・・・・・)
(・・・あれ)
(ここは)
『よう』
『昼間ぶりだな』
(・・・)
(まじかよ・・・)
嫌な予感は
的中した
どうやら
また同じ夢を見てしまったらしい
『安心してくれ』
『昼間のはただの冗談』
(冗談って・・・・)
(こっちは寒気するくらいだったんですよ・・・・)
『悪い悪い』
『でもまぁ夢の中じゃあ死なないから別に大丈夫だろ』
(そういう問題でも・・・・)
(ていうか)
(あなたは誰なんですか?)
『ん?』
(昼間ははぐらかされちゃいましたけど)
(どなたなんですか?)
『・・・・・』
『変な事を聞くね』
(変?)
『自分の夢に出てくる奴に誰?なんて』
(変なのはこの夢ですよ)
(なんで)
(・・・なんで見たこともない人が夢に出てくるのか)
『あー』
『なるほどね』
(もしかして)
(昔に会ったことがあったり?)
『いや』
『ないよ』
(ないんですか・・・・)
(・・・・・・)
『俺は一体何なのか』
『・・・それは』
『言えないな』
(ええ・・・・・)
『自分で考えなきゃ』
(考えろったって)
(心当たりもないですし)
『・・・人から貰った答えなんて』
『答えなんかじゃない』
『それはただの知識だよ』
(そんなかっこよさげな事言われても・・・・)
そこで目が覚めた
何も発展しないまま
男「・・・・・・」
男「・・・終わるの早いし」
男「・・・てか」
男「・・・分からん」
男「何一つ分からない・・・・・」
時計の事
なぜ俺だけなのか
時計が進むとどうなるのか
夢の中の人
なんで知らない人が出てくるのか
そもそも誰なのか
男「頭おかしくなりそう」
男「・・・・・」
男「・・・とりあえず学校行く支度しよう」
玄関
男「・・・・・」
男「・・・何してんだ」
支度を終えた俺を
妹は玄関で待ち構えていた
妹「昨日お母さんに言われた」
妹「見張れって」
男「・・・・いやいや」
男「お前が遅刻したら意味無いだろ」
妹「大丈夫だよ」
妹「いつも早く学校に行ってるから」
妹「まだまだ全然余裕」
男「・・・さいですか」
男「真面目だね」
妹「まったくですよ」
妹「誰のせいだか」
男「すいません」
俺達は雑談もほどほどにし
家を出た
外
男「もうなんか」
男「この光景は見慣れたな」
やっぱり変わらず
時計は健在だった
妹「?」
男「いや、なんでもないよ」
男「それより」
シャリンシャリン
男「・・・その鈴の音なんとかならんのか」
妹「ストラップなんだからしょうがないじゃん」
妹「可愛いし」
男「・・・・一個だったら文句は言わんが」
妹の鞄には
たくさんの鈴が付いていた
男「正直」
男「鈴と鈴がぶつかって騒音レベルになってる」
妹「気にしない気にしない」
男「・・・気にしろ」
妹「じゃあね」
妹「ちゃんと学校行ってね」
男「りょうかいー」
俺は妹と別れた
男「・・・・・」
男「・・・まぁ」
男「またサボっちゃうんだけどな」
男「そうだ」
あの夢の人も言っていた
誰だか知らんけど
男「自分で探してこその」
男「答えなんだって」
正直言うと
気になって学校行っても勉強なんかできないとか
そんな事しか思ってないんだけれども
男「・・・・親に怒られるの覚悟で」
まず考えた
男「分からないことがあって・・・」
男「調べ物と言ったら・・・・・」
男「図書館しかないよな・・・・」
もしかしたら
図書館で何か分かるかもしれない
男「よしそうしよう」
男「けど」
男「まだ開いてないだろうなぁ」
俺の知っている図書館は
確か開くのが9時頃だった気がする
男「まだ少し時間あるなぁ」
男「う~ん」
男「そうだ」
男「それまで人の観察でもしてよう」
男「人っていうか」
男「時計の観察って言ったほうがいいのか」
近くのベンチに座った俺は
改めて回りを見てみた
男「ふむふむ」
時計の乗ってない人は見てる限りだといない
しかもみんな頭の上だけにある
柄にも色にも多分だけどほとんど違いはない
男「・・・なんか俺」
男「不審者っぽい気がする・・・・」
文字がついている時計も一つも見当たらない
違うとすれば・・・・
男「・・・あれだな」
男「・・・時間が人によってバラバラだ」
そもそも時間を表してるのかも分からないが
人によって針の位置が違った
男「なんでだろう・・・・」
その後もずっと見てはいたものの
新しい発見も特になく
気付けば
男「ああ」
男「もう9時過ぎてる」
図書館の開く時間になっていた
男「・・・・・」
男「・・・行くとするか」
図書館
やっぱまだ開館直後だけあって
ほとんど人がいなかった
男「すいてると気が楽だな」
男「さて」
本のコーナーに向かった
男「まずは時計の本を・・・・・」
男「・・・・・・」
男「時計の本って・・・・」
俺は手当たり次第に漁った
けれど時計の本となると
男「・・・やっぱり」
男「メーカーの雑誌とか」
男「童話とかしかねえよな・・・」
男「てか」
男「そもそも時計の本ってなんだよ」
男「そんな本聞いたことねーよ」
男「第一時計なのかも分からねーし」
専門書とかも見てはみたが
時計の作り方工程だとか
時間の概念だとか
さほど関係なさそうな物しか出てこなかった
男「むむ・・・・」
男「・・・む?」
そんな時
ふと目がいった
病気関連の著書の本棚に
凍りつく俺
男「・・・・・・」
男「・・・まぁ一応見よう」
男「別に精神病なんかじゃないと思うけど」
男「一応見るだけなうん」
ペラペラ
男「えっと・・・・」
男「精神病関連のページっと・・・・」
男「『寿命短下・・・・・』」
男「『聴覚過敏・・・・・対人恐怖症・・・・』」
男「『鬱・・・・過呼吸・・・・・』」
男「『麻痺・・・・・選択性寡黙・・・・・』」
なんか
どれも当てはまりそうな気がするから怖い
男「勘違いするな俺・・・・」
男「あくまで時計が見える病気を探すんだ・・・・」
パタン
男「・・・・・・」
男「・・・無かった」
幸運なのか不幸なのか
時計が見える病気とやらは見つからなかった
幻想が見える病気とかに俺がなってたら
もうどうしようもないけど
男「・・・でもそれなら」
男「時計以外の物も見えていいだろうし・・・・」
男「・・・・・・」
男「・・・あ」
俺は前のページに戻った
男「・・・・・・」
男「じゅみょう・・・・短下・・・・・・」
男「寿命・・・・・・」
男「寿命?」
思いついた
だが
何でこんな事を思いついたのか
男「人によって進みが違う時計・・・・・」
男「文字の無い時計・・・・・」
男「・・・・あの時計って」
男「・・・・・寿命を指しているんじゃ」
とある天才は言った
閃きの一つや二つは誰でも持っている
ただ
その閃きを実行した者こそが天才になると
男「・・・・案外」
男「ありそうな話じゃないか?」
男「それなら頭の上にあるのだって」
男「その人の寿命だって事なら理解できるし」
男「それに進み具合の違いだって」
男「人によって寿命は違うんだから当然だし」
男「もしそうなら」
男「多分普通の時計で言う12時の場所になったら」
男「寿命を終えるとか・・・・・?」
どんどん閃いていく
男「よし」
男「・・・確かめよう」
男「確かめてみよう」
本を元の場所に戻し
俺は図書館を出た
外
俺はまたしても辺りを見回す
何回目だこれ
男「・・・今度は違う」
男「ただ闇雲に見回してるんじゃないぞ・・・・」
男「絶対いるはず・・・・」
男「1人ぐらいは多分いるはず・・・・」
俺は探した
時計の針が12の位置に近い人を
男「・・・・・いた」
見つけた
案外すぐに見つかった
だが
男「あれ・・・・」
男「やけに若いな・・・・・」
その人は若い女性だった
男「あれれ・・・・」
若い
やけに若い
とてもじゃないが寿命が近そうには見えない
男「てっきりおっさんとかだと思ったんだが・・・・」
男「それとも」
男「事故とか病気とかも時計の計算に入ってるのかな・・・・」
男「もしそうなら・・・・」
俺が・・・・
その瞬間を見るって事か・・・?
男「・・・・気が引ける」
だが
確かめるには見届けるより他にない
男「・・・なんか怖いな」
少し不安を持ちながら
女性の後をつけた
尾行中
男「・・・もうあれだな」
男「最近の俺はもう立派な不審者だな」
男「・・・・・」
男「・・・本当は少し助けたいとも思うんだけど」
何が起こるかわからないのに
助けられるわけも無い
男「あくまで」
男「俺の予想が当たってればの話だが」
ふと
女性の足が止まった
男「・・・?」
男「まさか・・・・」
その女性は
急にうずくまった
俺は焦った
男「!!やっぱり」
俺の予想は当たっていたのか
男「病気かなにかか!?」
男「とりあえず救急車を呼ばないと」
急いで鞄から
携帯を取り出した
[はい、こちら救急病院です]
男「すいません、大変なんです!」
[落ち着いてください]
[とりあえず状況説明をお願いします]
男「目の前にいた女性が急にうずくまっちゃって」
男「多分寿命が近いんです!」
[動揺しているみたいですが]
[一旦落ち着いてください]
[住所は分かりますか?]
近くの電柱を見た
男「はい」
男「○○××です」
[分かりました、今からそちらへ向かいます]
[着くまでの間、女性の症状の確認をお願いします]
男「は、はい」
俺は確認をするため
女性の方を見た
そして
さらに焦った
[女性の様子はどうですか?]
[息が苦しそうとかありますか?]
[脈拍計れますか?]
男「・・・・・・」
男「・・・消えてってます」
[はい?]
男「女性の体が・・・・・」
男「消えてっているんです・・・・・」
俺は見た
女性が
苦しそうにするでもなく
倒れるわけでもなく
ただただ消えていっていくのを見た
[大丈夫ですか?]
[かなり焦っているようですが、一旦落ち着いて下さい]
[大丈夫ですから]
男「あ・・・・あ・・・・・・」
男「ああ・・・・・・」
[もしもし?大丈夫ですか?]
俺は救急隊員の言葉が耳に入らなかった
ただ呆然と見ていた
そうしているうちにも
体はどんどん消えていき
気付けば
女性はどこにもいなくなっていた
[もしもし?どうしました?]
男「・・・・・・」
[大丈夫ですか?]
男「・・・・・・」
男「・・・・すいません」
[はい?]
男「今の通報は無かったことに」
プツンッ
女性がうずくまっていた場所を見た
だが
何も残っていない
男「・・・・・・」
男「・・・なんだよ」
男「どういうことなんだよ・・・・・」
まったく
意味が分からない
もし俺の予想が当たってたなら
あの女性は病気か何かしらで寿命が来るはずだった
けれど女性はそんな素振りを見せるどころか
丸々消えてしまった
そのまんまの意味で
男「・・・・・・」
男「・・・・じゃあ」
男「じゃあこの時計は・・・・」
タイミング的に
俺の考えの大体は間違ってはいないはず
ただ違っていたのはきっと
12時の位置になると
寿命を迎えるのではないというとこだけ
男「・・・・・・」
男「寿命を迎えるんじゃなくて・・・・・」
男「12時の位置まで行ってしまったら・・・・・」
男「消える・・・・・」
消えるって・・・・・
・・・・・・・
男「てか消えるとどうなるんだ・・・・・」
男「そもそも消えてるのか・・・・?」
男「薄くなって見えなくなっているだけとか・・・・」
男「そして」
男「・・・・消えたら」
男「どこに行くんだ?」
その後
俺は人通りの多い道に戻って
再び時計の針が12の位置に近い人間を探し始めた
しかし
さすがに2人目は見つからなかった
というより
さっきの出来事が衝撃的すぎて
しっかり探せてなかったのかもしれない
そうして
男「・・・・やべえ」
男「・・・もう夜じゃん」
探し続けて気付いてみれば
もう辺りは大分暗くなっていた
男「・・・・・こんな事に」
男「半日もかけるなんてな・・・・・」
男「帰ろう・・・・・」
家の前
男「・・・・・ああ」
男「絶対殺される・・・・・」
学校さぼったどころか
こんな時間に帰って来たなんて言ったら
男「俺も」
男「親に消される・・・・・」
男「・・・・・・」
男「・・・・こんな冗談言ってる場合じゃない」
ガチャ
男「・・・・た、ただいま」
「あ!」
「男!!!!!」
男(母親の声・・・・)
男(来たぞ・・・・・・)
男(俺終わった・・・・・)
「・・・大変なのよ!!!」
リビングから母親が出てきた
きっと俺を叱るためだろうと思ったが
なぜか母親の様子は
怒っているというより
焦っているという感じだった
男「え?」
大変?
男「な、なにが・・・・?」
母「・・・・妹が」
母「・・・・妹がまだ帰ってないのよ!」
母は大声で言った
男「ちょっと・・・・ボリューム・・・・」
男「それよりなんて・・・?」
母「だから!」
母「妹がまだ帰ってきてないのよ!」
男「妹が?」
この時間にまだ帰ってない?
母「学校や友達の家にも電話したんだけど」
母「学校の先生はもう帰ったって言うし・・・」
母「友達の家には来てないって言うし・・・」
男「・・・遊びにでも行ってるんじゃ」
母「それにしても連絡も無いなんて・・・・」
俺の妹は真面目だ
俺の妹とは思えないくらい
だからこそ成績もいいし
遅刻なんて絶対しないし
遅くなる時はいつも連絡する
母「・・・いつもはこんぐらいの時間になるときは」
母「絶対連絡が来るもの・・・・」
男「・・・・・・」
昼間にあんな出来事に遭遇しただけに
悪い予感しかしない
更に
追い討ちをかけるかのように
俺は思い出した
男「・・・ちょっと俺」
男「探してくるよ」
外
男「・・・・朝」
男「朝に見た時・・・・・・」
記憶違いじゃなければ
妹の時計の針は
男「・・・・12時間近だった」
学校への道
いない
妹が好きなお菓子店
いない
妹がよく泣きにくる公園
いない
いない
どこにも
家に戻ると
母は警察に連絡していた
父さんも既に帰ってきていた
母「あ、男」
男「いなかったよ・・・・」
男「一応行きそうなところは回ったけど」
母「・・・・やっぱり」
母「やっぱり何かあったのよ・・・・」
父「母さん、落ち着きなさい」
母「でも・・・でも・・・・・」
母「お父さんみたいに・・・・」
父「母さん」
父「・・・その話はやめなさい」
母「・・・・ごめんなさい」
数分後
警察の人が家に来た
警察「・・・事情は分かりました」
警察「こちらで捜索してみます」
母「お願いします・・・・」
警察「あとできれば」
警察「妹さんの特徴が分かる物があると嬉しいのですが」
母「写真なら・・・・・」
警察「それじゃあそちらを」
警察「少しの間お借りしますね」
警察「最悪、複製させてもらう場合もありますが・・・・・」
母「・・・はい」
恐らく
最悪の場合
写真を貼って情報を募る、という事だろう
警察「それでは失礼します」
母「お願いします・・・・」
警察の人たちは帰っていった
父「・・・母さん」
父「あとは警察の人に任せて私達も寝よう」
母「・・・・」
母「・・・そうね」
母「男も」
母「もう寝なさい」
男「・・・・うん」
風呂場
男「・・・・妹は」
男「やっぱり消えてしまったのか・・・」
男「時計が進んで・・・・・」
男「・・・・・・」
男「・・・もう一度」
男「考え直してみよう」
部屋に入った俺は
机に向かった
男「・・・机に座るの久々だな」
男「ろくに勉強もしないからなぁ俺」
ノートとシャーペンを持った
男「・・・よし」
男「整理してみよう・・・・」
みんなの頭の上にある時計
針だけの文字がない時計
どの時計も針の進み具合以外は全て同じ
そして
針が普通の時計でいう12時を指すと
うずくまったあと
その人は消える
多分場所状況問わず
時計が見えるのは多分俺だけ?
消える瞬間は他の人にも見えるのか?
男「もし妹が消えていたとしても・・・・」
男「妹の事を俺たちは覚えている・・・」
男「ということは消えるのは存在だけ?」
男「じゃあ行方不明とかの事件って」
男「これのせいだったり・・・・・」
男「・・・それとも」
男「そのうち忘れていくのか・・・?」
男「そして気になることがもう一つ・・・・・」
男「あの夢・・・・・」
男「時計が見えたあの日に見た」
男「そしてその次の日も見た」
男「変な夢・・・・・」
夢の中に現れる変な男、時計に関係あり?
俺は
ノートに一つ書き加えた
・・・・さて
もう寝ようか
もしかしたら
寝たら全てが解決しているかもよ
男「・・・とかだったらいいのにな」
俺は眠った
(はぁ・・・・)
(やっぱりですか・・・・)
『そろそろ違う夢が見たいか?』
(そうですね)
(男と終始話すだけの夢なんて)
(正直現実よりきついです)
『はっはっは』
『照れるな照れるな』
(はっはっは)
(殴りたいなぁもう)
『・・・それで』
『どうだい?』
(何がですか)
『答えは』
『見つかったのかい?』
(・・・・・・)
(・・・いや)
(全然)
『・・・そうか』
(でも)
(別のことは分かった気がします)
『別の事?』
(ああ)
(あなたって)
『おう』
(・・・・時計のことを知っているんじゃないですか?)
『・・・なぜそう思う?』
(え)
(そうなんですか)
『え?』
(いや・・・)
(すいません適当に言っただけなんですけど・・・)
『・・・・・・』
『・・・・なるほど』
『・・・それも一つの答えだね』
『頭の上に見える時計』
『のことでいいんだな?』
(え・・・・)
(そ、そうですけど・・・・)
『いやなに』
『初めてこういう経験をしたからな』
『やけに喋りたくなった』
(・・・・・まぁ)
(嬉しいことですけど・・・・)
『だろう?』
(でもなんであなたが)
(知っているんですか?)
『それはそうだろう』
『だってあれは』
『俺達の世界の物なんだから』
(・・・・・・)
(・・・そうなんですか)
『そうだよ』
(・・・・ところで)
(俺達の世界って・・・・?)
『決まってるだろう』
『夢の世界だよ』
ああ分かった
この人説明下手だ
(・・・じゃあ)
(その夢の世界ってなんですか・・・・?)
『夢の世界は夢の世界・・・』
『ああそうか』
『最初から説明しないとダメだったか』
(そうですね・・・)
世界は3種類ある
人間が生きる世界と
死んだ人間が住む世界と
夢の住人が住む夢の世界と
『夢の世界ってのは』
『人間が見る夢を整備してるとこさ』
(整備・・・・?)
『整備っていうか』
『夢を見る場所を提供してるって感じか』
三種類の世界は
それぞれ似たような人口で成り立っている
そのお陰で三種類の世界は
常に均衡にバランスを取っている
『そして人間は、夢を見ている間だけ』
『一時的に夢の住人になる』
『今のお前もそうだな』
(・・・なるほど)
『そして、だ』
しかし最近
世界のバランスが崩れ始めた
原因は恐らく
現代社会による睡眠の欠如
『最近夢を見る人間が少なくなった』
『あまり寝ない人間が増えたんだろうな・・・』
(・・・・・・)
(・・・確かにニュースとかでもよく聞きます)
『そのせいで夢の世界に行く人間は減り』
『世界は少しずつ傾き始めた』
(傾く・・・・)
『そう』
『夢の世界に行く人間の数が少なくなったせいで』
『夢の世界の人口が減り』
『均衡が壊れ始めた』
(なるほど・・・・)
『危機感を感じた夢の世界は』
『苦心の末に』
『ある打開策を出した』
(打開策・・・・)
『そう』
『それがあの時計』
『一応“転送時計”って名前が付いてる』
(転送時計・・・・)
『あまりいい響きではないけど』
『ところで』
『時計の針が頂点になった瞬間を見たことがあるかい?』
(・・・・・)
今でもはっきり覚えている
あの衝撃は
(はい・・・・)
(その人は消えてしまいました・・・)
『・・・正確には』
『消えたんじゃない』
『その人は』
『夢の世界の永久住人にされたのさ』
(永久・・・・?)
『永久住人』
『俺みたいな奴のこと』
(え・・・・)
(じゃああなたも・・・・)
『夢の世界が行った計画は』
『現実に生きる人間を夢の世界に強制的に転送すること』
『そしてそれにより』
『夢の世界の住人をかさ増しすること』
『あの時計は』
『その転送までの時間を表すタイマー』
『そして転送された人間は』
『一生夢の世界で過ごす永久住人になる』
『俺みたいに』
『人の夢にお邪魔したりしながらな』
『まぁ』
『今に限らずこの計画はずっと前にも何回か行われたんだけどね』
『ちなみに俺が転送されたのはずっと昔」
『何十年も前からここにいるよ』
(そうだったんですか・・・・)
『そう』
『そうやって犠牲を少しずつ作りながら』
『世界のバランスを保つのさ』
『どうだ』
『説明下手な俺にしては頑張っただろう』
(まぁ・・・大体は分かりました・・・・)
『そうか』
『なら話した甲斐があったってもんだ』
(・・・・でも)
(・・・・悲しくないんですか?)
『転送されたことか・・・?』
(っていうか・・・・)
(いきなり見知らぬ場所に1人で飛ばされて・・・・)
『・・・・まぁ』
『所詮は夢の世界だからな』
(というと?)
『例えばお前が夢を見てる時に』
『夢の中で激怒とかってあまりしないだろう?』
(ああ・・・・まぁ・・・)
『あまりこん中では感情が沸かないんだ』
『少し悲しくは思ったけど』
(そうですか・・・・)
『ある意味』
『それが一番哀れなのかもしれんが』
(・・・かもしれませんね)
(少なくとも)
(良い事とは言いにくいです・・・・)
(・・・・・・あ)
『ん?』
そうだ
大事なことを忘れていた
(あの)
(聞きたい事があるんですけど)
『?なんだ?』
(・・・一度転送されてしまった人間は)
(もう本当に戻れないんですか?)
『まぁそうだな』
(そうですか・・・・・)
『深く言えば』
『転送されてある程度時間が経ったらって感じだな』
(?それはどういう)
『こっちの世界に定着するまでは』
『少し時間がかかる』
『定着するまでの間は普通に夢を見ている人間と一緒の状態』
(!!それじゃあ)
『ああ』
『定着するまでに無理矢理叩き起こせば』
『キャンセルになって、人間の世界に再構成されると思うけど』
(おお)
まだ希望がある!
『でも・・・・』
『そんな事を聞くなんて』
『何かあったのか』
(はい)
(・・・・実は)
(俺の妹が転送されたかもしれないんです・・・)
『・・・・それで』
『助けたいと?』
(はい
『・・・・・』
『・・・正直』
『それは難しい話だな』
(え)
『転送された人間は深奥の方に行くから』
『普通の人間じゃあまず行けない』
そんな・・・・・
(そうなん・・・ですか・・・・)
『でも』
(え?でも?)
『住人の俺が着いていけば』
『人間でも行けなくはない』
(・・・・・・)
(・・・じゃあ)
(じゃあもしかして!)
『ああ』
『手伝ってやるよ』
(あ、ありがとうございます!)
俺は
手伝ってもらえる事になった
『じゃあさっそく』
フインッ
『この中に入って』
彼が大きく手を回すと
その円に沿って
穴みたいなものが出来た
(え・・・・)
(いきなり・・・・?)
『なにがだ?』
(いや・・・)
(いきなり直通で行けるなんて思わなくて・・・・・)
『そりゃあそうさ』
『ここは現実じゃない』
『還元を考えなければ』
『ある意味なんでも出来る場所なんだから』
(確かに)
(・・・そうでした)
(んん?)
『今度はどうしたんだ』
(もしこの穴が夢の世界への道なら)
(・・・俺は今どこにいるんですか?)
『ここも夢の世界だよ一応』
『まぁ分かりやすく言うと』
『夢の世界の中の卵の中って感じかな』
(卵・・・・・?)
(中の中・・・・・?)
分かりやすく言えてない・・・・・
『夢の世界には卵みたいなのがいくつもあって』
『人は寝ると、夢の世界に入って仮住人になったあと』
『更に新しく卵が作られ、その卵の中に送られて夢を見る』
『だからここは卵の中』
『そしてこの穴は』
『卵の外に出るようの物』
(ふむふむ・・・・・)
『けれど永久住人や転送された人間は』
『卵の中には送られずに』
『夢の世界の中で留められるってこと』
(がんばれ俺の頭脳)
『・・・・・・』
『・・・ああくっそ!!』
『行けば分かるよ行けば!!!!』
(ああ、ちょっと)
(引っ張らないで引っ張らないで)
抵抗の言葉など聞く耳も持ってもらえず
俺は彼に引っ張られて
穴の中に入っていった
夢の世界
男「・・・・ここが」
男「・・・夢の世界」
『そうだ』
『いいところだろう?』
男「いいところ・・・・?」
男「・・・・住めば都、ですか」
『・・・だな』
描写ができない世界
そんな世界に俺は入った
空も土も木も風も音も無く
ただただ無意味に広がる空間
まるで
男「・・・・なんか宇宙みたいですね」
『おお』
『やっぱりそう思うか』
男「やっぱりって?」
『俺も最初に来た時』
『そう思ったんだよ』
男「ところで」
男「ところどころにある球体の物が卵って奴ですか?」
風景の無い世界に
ただ一種類の彩り
まぁ不気味さが増えてるだけな気もするが
『そうそう』
『あの中に人がいて、現在進行形で夢を見てるわけさ』
男「なるほど・・・・」
男「やっぱり一度見たほうが分かりやすい」
『そしてお前は』
『卵から出てきたわけさ』
『そうだ』
『試しに卵に触ってみな』
男「・・・いいんですか?」
『なんら問題はない』
男「・・・・それじゃあ」
おそるおそる
手を伸ばす
男「・・・・うおっ」
俺が触った瞬間
卵は消えた
男「あれ・・・・」
『お前が卵に衝撃を与えたから』
『人間が夢から覚めたのさ』
『そして中身の無くなった卵は消える』
『よく理由もなく夜中に起きたりするだろう?』
『あれは住人が間違って触れたりしちゃってるせいなのもある』
男「ああ・・・・」
男「たまにあるそういうの・・・」
男「大体」
男「分かってきました」
男「夢の世界の事が」
『よかったよかった』
男「大体分かってきたところで」
『おう』
男「・・・・そろそろ本題に」
『そうだな』
『早くしないと妹さんが住人になっちまう』
男「すいませんお願いします」
『任せな』
男「・・・・でもどうやって捜すんですか?」
『そんなの決まってんだろ』
『自力だよ自力』
男「ああなるほど」
男「って、ええ!?」
『どうした』
男「自力って・・・・・」
『自力って言ったら』
『歩いて探すに決まってんだろ』
男「で、でも・・・・」
男「・・・・・夢の世界って広いんじゃ」
『その通りだな』
男「それじゃあ・・・・・」
男「間に合わないんじゃ・・・・・」
『・・・そんな事言っても』
『俺は妹さんの顔は知らないからなぁ』
『俺1人でビュンビュン飛んで探しても意味が無いっていう』
男「あ・・・・・・」
そういえばそうだった
そもそも
親しげに話してはいるが
俺はこの人とは赤の他人
俺の身内の情報なんか
知るわけもないわけで
『でもまぁ安心しろ』
『転送される人間は大体似たような位置に送られっから』
『そこまで案内するよ』
『それでも決して狭い範囲ってわけではないけど』
夢の世界 深奥
男「ここらへん・・・・ですか?」
『大体な』
『もし例外で別の僻地に飛ばされてたら諦めろ』
男「・・・・・」
男「・・・・無理だ」
男「広すぎる・・・・・」
俺は勘違いしていた
転送された人間は一箇所にでも集められるのかと思っていた
だが違かった
ある程度のランダムが入るらしい
そして
そのランダム値が
嫌に大きい
『夢の世界全土を探すよりは』
『遥かにマシではある』
『さて』
『探すより先に』
『まずはこれを見ろ』
俺は
彼の指が指した方向を見た
その先には
男(・・・・・・・)
男(・・・・なんですかこれ)
蠢いてる謎の物体がいた
男「・・・・・いや」
男「正確には、“誰ですか?”って聞いた方がいいですかね」
俺が見たのは
多分人間
もっと言えば
黒塗りされたいわゆる黒モブみたいな人間
男「これは」
男「この人が、定着しようとしているってことですか・・・・」
『ああ』
男「・・・・気持ち悪い」
『送られてきた人間は』
『卵には入らず一時的に黒塗りになって夢を見始める』
『夢を見てる間はひたすら蠢き』
『夢から覚めてこの黒塗りが解けると』
『俺みたくまた元の姿になる』
『そしてそれが、定着したという合図』
『ちなみに』
『転送された瞬間の姿で世界内での容姿は一定』
男「・・・・・・じゃあ」
男「もし俺がこの人に触れれば・・・・」
『・・・・こいつは夢から覚めて』
『人間の世界に再構成される』
『もっとも』
『俺がそんな事させないけどな』
男「・・・・・ですよね」
男「これは・・・・・」
男「世界のためなんですもんね・・・・・」
男「でも」
男「顔で判断できないとなると」
男「余計に捜しにくい・・・・」
『はっきり言ってしまうと』
『見つかったら幸運だよ』
『それに、ここからは俺は手伝えない』
男「はい」
男「・・・・でもそれでも俺は捜します」
男「たった一人の妹ですから」
異様な光景
いたるところで蠢く黒い人間
正直吐き気がする
世界を救うにしても
こんな方法があっていいものなのか
なによりも
俺の妹もこうなっていると思うと
むかついてきたりもする
探しながらそんな事を思った
違う
妹はもっと小さい
こいつも違う
妹はスカートを履いていたはず
またまた違う
妹は長髪だ
全然違う
家に鞄が無かったんだから
転送された時多分妹は鞄を背負ってたはず
男「・・・・・なぁ」
男「転送された時って荷物とかも一緒にくっついてくるのか?」
『そうだな』
『現に俺も持ってた財布とか付いてきたし』
『もっとも必要ないから適当なとこに捨てちゃったけど』
男「・・・・じゃあ鞄を背負ってる奴を探せば」
男「いくらか探しやすそうだ・・・・」
男「ってか」
男「特定の人間を探知できる道具とか・・・・」
『勿論そんなのはない』
男「ですよね・・・・」
『卵の外にでる穴は』
『定着した時の経緯を覚えて独学してやったもんだ』
『本当のことを言えば』
『夢の世界も現実と大して変わらん』
『自分の見たい夢は中々見れないのと同じでな』
俺はその後も探した
他の人には触れないように気をつけながら
でも・・・・
男「くっそ」
男「鞄を背負ってるかどうかも判別しにくい」
どんなに目を凝らしても
ほとんど同じに見えてしまう
男「・・・これじゃあ」
男「間に合う気がしない・・・・」
何か打開策はないのか
夢から一発で醒めるような
画期的な策は
男「考えろ考えろ」
男「考えろ考えろ考えろ」
・・・・他に
鞄以外の特徴はないのか?
妹は真面目
確かに特徴だが今は関係無い
妹は長髪
さっき言った違う
背が小さい
大した特徴にならんもっと
・・・・・・
・・・・・そういえば
確か朝に妹は
鞄に何か付けてた
それが確か
とてもうるさいって
俺は反応した気がする
・・・・そうだ
それだ
男「おい!!」
『おおう、びびらせんな』
男「そんな事どうでもいいから」
男「お前も手伝え!」
『・・・いやだから』
『俺は妹さんの外見とかはなんも知らないっての』
男「大丈夫」
男「耳さえあれば手伝える」
『どうやってだよ』
男「・・・・鈴だ」
『はぁ?』
男「朝妹は・・・・」
――ストラップなんだからしょうがないじゃん
男「・・・やけにうるさい鈴を付けていた」
こっちの世界に物がそのまま運ばれるんなら
当然鈴とかも運ばれるよな?
しかも蠢いてるってことは
その衝撃で鈴も鳴るはず
ましてやこの世界は音がほとんど無い
なら
鈴の音を聞き探せば
きっと見つかるはずじゃないか?
『・・・・なんとも言えんが』
『なくもない可能性ではあるな』
男「だろ!?」
『・・・だが』
『どんな世界にも不具合は付き物だ』
『鈴があって尚且つ鳴るという保証もなければ』
『そもそも妹さんが転送前に失くしてたりするかもしれない』
男「失くしてることは無いと思う」
男「妹は真面目だから」
男「けど前者は分からない」
男「それでも」
男「俺は」
男「自分に賭けるよ」
俺達は新たに探し始めた
今度は視覚だけじゃなくて
聴覚も使って
時間に押し責められながらも
俺は確かに確信を持っていて
そして・・・・・
シャリンシャリン
男「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
走り回って息切れ中の俺の
目の前にいる黒い人間
長髪で鞄も背負ってるっぽくて
背も短くてスカート履いていて
真面目かは分からないけど
なにより
鞄から鈴の音がしていた
男「・・・・・やっと会えたね」
男「おかえり、妹」
俺は
妹に触れた
シュンッ
妹は消えた
『・・・お』
遠くで探していた彼も
こちらの様子に気付いたらしい
『もしかして』
『見つけたか?』
男「・・・・・・」
男「・・・・ああ」
「見つけた」
「大事なものを見つけたよ」
「しかも」
「同時に俺は」
「世界の素晴らしさを知った」
『言ってる意味はよく分からんが』
『さすがだよ』
男「え?」
『いや』
『なんでもない』
男「・・・・・・」
男「・・・まぁいいや」
『そう』
『それより今は』
『さっさと帰ろうじゃないか』
『こうなったら俺に構うより他にやる事があるだろう?』
男「そうですね」
そうだ
帰ってくる妹を迎えないといけない
親もきっと発狂してるだろうし
『・・・・なんか』
『急に落ち着いたなお前』
男「はは・・・・」
男「さっきは必死でしたから・・・・」
『素晴らしいことだ』
『家族の為に必死になれる奴は』
『将来絶対いい親孝行が出来るぞ』
男「・・・・誰の名言ですか?それ」
『俺のに決まってるだろう』
男「・・・・・・」
男「・・・信憑性ない」
俺達は
俺の卵の中に戻った
・・・なんか変な感じだなこの言い方
『さて』
『そろそろお前が起きる頃だろうから』
『その前に感想を言っておく』
(感想・・・・・?)
『ああ』
『・・・・楽しい旅だった』
『そして』
『美しい旅だった』
『本当にありがとう』
(そんな・・・・・)
なんで俺はお礼を言われているんだろう
お礼を言うべきはむしろこっちなのに
それほど夢の世界は
悲しい世界なのだろうか
そう考えると少し泣きそうになった
けれど
今は泣く場面じゃなくて
お礼を言う場面。
(こちらこそありがとう)
(おじいちゃん)
そう一言言った俺は
その次の瞬間
卵ごと消えた
彼はきっと卵の外に非難したのだろうが
その時かすかに
『引き分けだな』
って聞こえた気がした
・・・・男!起きなさい!
男「ううんん・・・・・・?」
男「・・・あれ」
男「・・・・・・」
男「・・・・ああ」
男「・・・・現実かここ」
・・・・何寝ぼけてるのよ!
ようやく分かった
母「いいから起きなさいっての!」
母親に大声で
叩き起こされたことに
男「なんだよ・・・・」
俺は時計を見た
男「まだ夜中じゃんか・・・・」
母「そんなことより大変なのよ!!」
母「妹が・・・・・・」
母「帰って来たのよ!!!!」
母の後に
リビングに降りた俺は
父「本当に良かった・・・・・・」
涙ぐむ父親と
母「まったくあんたは・・・・・」
同じく号泣している母親を見た
そして
妹「気付いたら公園で寝てて・・・・・」
妹「心配かけてごめんなさい・・・・・・」
泣いている妹も見た
ああそっか
少し思い出した
なんか頭の上に時計があって
妹は転送とかされて
そんでもって俺は旅して
えーっと・・・・?
まぁいっか
全部夢っぽいし
その後警察にも連絡して
必死に平謝り
妹の説教は朝近くまで続き
当然家族全員(何故か俺まで)寝不足のまま
両親は仕事に
俺達は学校に行くことになった
朝 玄関
妹「・・・・眠い」
男「おい、早く出ろ」
男「鍵閉めなきゃなんないんだから」
妹「・・・・さぼりたい」
男「いつもの真面目オーラはどうした」
男「てか誰のせいだと思ってんだ」
妹「・・・・・ごめん」
外
男「・・・・・てかよお」
妹「んん?」
男「・・・やっぱりそれすんごいうるさいんだけど」
シャリンシャリン
男「しかも」
妹の鞄の鈴は増えていた
そして当然の如く更に音がでかくなっている
男「・・・・増やしただろ鈴」
妹「ばれたか」
男「もう十分だったろ」
男「なんで増やした」
男「友達に貰ったのか?」
妹「ただの気まぐれ」
妹「昨日の帰りに自分で買ったの」
男「・・・じゃあそもそも」
男「なんで鈴なんか付けてんだよ」
妹「・・・・・」
妹「・・・信じないとは思うけど」
妹「私、前に変な夢を見たの」
男「変な夢?」
妹「そう」
妹「変なオーラのある人がでてくる変な夢で」
妹「その人が」
妹「鈴を付けると幸運になるって言ったの」
妹「・・・・って」
妹「どうせ信じないよね」
妹「どうせそんなの迷信だよとか言うよね」
男「・・・・ぷぷ」
男「あっはっはっはっは!」
妹「やっぱり・・・」
男「・・・いんや、この笑いは」
男「そういう笑いじゃないよ・・・ぷぷ・・・」
なるほどなるほど
引き分けね
引き分けって・・・・
あっはっはっは
笑いが止まらない
妹「・・・・じゃあどういう笑いなのよ」
男「いやぁ」
そうか
最初からそうだったのか
時計も
消滅も
世界も
鈴も
そして
俺の夢に出てきたタイミングも
最初から
そうだった
男「・・・・なんていうか」
男「引き分けどころか完全に負けだと思ってさ!」
妹「・・・・は?」
男「いやぁ・・・笑えるよホント・・・・」
妹「・・・・・・」
妹「・・・・変なの」
夢の世界の彼は
最初からチャンスを
くれていた
現実に干渉できないが為に
ヒントと変な能力を与え続けて
そして今は何も無いのも
きっともう必要がないから
俺はただただ笑う
なんてズル賢いジジイなんだと
でも一方で
素晴らしいおじいちゃんだと
少しばかり
尊敬をしていたりもする
fin