兄「やってしまった・・・・」
兄「やってしまったぞ・・・・・・」
兄「なんというミスだ・・・・」
兄「・・・・・・」
兄「どうしよう・・・」
元スレ
兄「やってしまった・・・」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1239810973/
学校から帰って来た俺は
無くなっている事に気付いた
兄「まずいなぁ・・・・・・」
兄「どこにやったっけなぁ・・・・」
兄「覚えてねえなぁ・・・・」
兄「肌身離さず持ってたと思ったんだけどなぁ」
兄「うむむ・・・・・・」
兄「鞄の中も探したし・・・・」
兄「部屋の中も置きそうなところは一通り探したし・・・」
兄「とするともしかして・・・・」
兄「どこかで忘れるか落としたのか・・・・・?」
兄「もしそうだったら」
兄「どこで忘れるか落とすかしたんだろうか・・・・」
兄「まったく心当たりがねえ・・・・」
兄「・・・しょうがねえ」
兄「探しに行くか・・・・」
外
とりあえず俺は家を出た
そして
家から学校までの道を
歩いてさかのぼってみた
勿論足元を見ながら
兄「落ちてねえかな・・・」
兄「・・・・・・・」
兄「ああ・・・・」
結局見つかることもなく
気付けば学校の校門に着いていた
兄「着いちゃったよ・・・・」
兄「・・・せっかくだから」
兄「学校内も探すか・・・・」
学校内
教室
兄「・・・・・くそ」
兄「机の中にもロッカーにもねぇ・・・・」
兄「廊下にも落ちて無かったし・・・」
兄「・・・・・・」
兄「そういえば・・・・」
兄「今日美術の授業があったな・・・」
兄「もしかして」
兄「あの時使ってそのまま美術室に忘れちったのかも」
兄「行ってみるか」
俺は美術室に行く為に
職員室に行った
職員室
兄「失礼します」
兄「すいません先生」
先生「ん?どした兄?」
兄「美術室に忘れ物をしてしまったので」
兄「鍵を借りてもいいですか?」
先生「ああ、別に構わんが」
兄「ありがとうございます」
俺は美術室の鍵を借りた
兄「では取ってきます」
兄「後で元のところに返しておくんで気にしないで下さい」
先生「それはいいが」
先生「それよりお前・・・・・」
先生は顔をしかめた
先生「・・・・大丈夫なのか?」
兄「?」
兄「何のことです?」
先生「あの事だよ・・・・」
先生「お前あの時は大変だったろう・・・」
兄「・・・・・・」
兄「・・・すいませんさっさと取ってきちゃいますね」
兄はそう言うと
職員室を逃げるように出て行った
先生「兄・・・・・」
先生「無理もないか・・・・・」
余計なお世話だ
兄「・・・・・・・」
関係のねえことだ
兄「・・・・・・」
干渉するな
兄「・・・・・・」
兄「くそ、やけにイラつく」
俺は早足で美術室に向かった
美術室
男「えっと・・・・」
男「おお」
机の上にお目当ての物があった
男「やっぱり」
男「やっぱり使ってそのまま忘れてたんだな・・・・」
男「俺のカッター」
俺は
美術室で見つけた
大事な大事な忘れ物
この世に一つしかない物
誰にも作れない物
そして
色んな物が詰まった物
目に見えない
悲しい何かが詰まった物
兄「やっと見つけたよ・・・・・・」
兄「弟の形見を」
それは
雨の降る日の出来事だった
部活が雨で中止になった俺は
まっすぐ家に帰ることにした
傘を持っていなかったので
走って家に帰った
家
兄「やっべぇ・・・大分濡れたよ・・・」
制服も鞄もビショビショだった
兄「これじゃあ家にあがれねえな・・・・」
兄「おーい弟ー」
兄「もう帰ってるんだろー?タオル持ってきてくれー」
応答は無い
兄「・・・・・・」
兄「あいつどっか寄り道でもしてんのか」
兄「ったく・・・・・」
仕方なく床を濡らしながら浴室に向かった
兄「あーあ」
兄「後で床も拭かなきゃな」
俺は洗濯機にYシャツ靴下等をぶち込み
別の服に着替えた
兄「肝心な時にあいつはいねえな」
兄「ちくしょう」
鞄と床を拭き終えた俺は
拭いたタオルも洗濯機に入れ
自分の部屋に戻った
兄「にしてもよく降ってんなぁ」
俺は自分の部屋から窓の外を見た
ドシャ降りに近い
兄「弟は大丈夫かなぁ」
兄「あいつも傘持ってってねぇだろうし」
ふと俺は横を向いた
兄「・・・・ん?」
俺は思った
兄「あれ・・・・」
兄「弟の部屋」
兄「電気ついてんじゃねーか」
兄「さては」
兄「あいつメンドクサイからシカトしやがったな」
兄「それとも」
兄「昼寝でもしてんのか」
ガチャ
ドアを開けた
俺は見た
とんでもないものを見た
恐ろしいものを見た
足がすくんだ
体が震えた
顔が青ざめた
そこには
血を流して倒れている弟の姿があった
弟はぐったりしていた
兄「・・・え」
兄「・・・おい」
兄「おい」
兄「弟、しっかりしろよ」
兄「おいおいおいおいおい」
兄「・・・・・おいい」
兄「おいいいいいいいいい」
その後弟は
部屋から救急車に運ばれ
病院に行った
俺も付き添った
救急隊員の話だと弟は重症らしく
俺は
病院に着くまでずっと
弟の手を強く握っていた
病院 手術室前
弟はそのまま手術室に運ばれた
俺は手術が終わるのを待った
俺が連絡した親も到着し
俺達はただただ成功を祈った
だが
兄「・・・・今なんて」
母父「・・・・どういう・・・・ことですか・・・・」
医者「残念ながら・・・・・」
医者「弟さんは・・・・・」
その日は最悪の日
雨がドシャ降りになった日
部活の中止になった日
ずぶぬれになった日
とんでもないものを見てしまった日
家族が1人 いなくなった日
俺は美術室を出て
鍵を閉めた
兄「・・・・・・」
兄「俺の目の先は・・・」
兄「あの時から行き止まりのままだ・・・・・」
兄「歩くには・・・・・」
兄「進むには・・・・・」
霊安室
母「弟!!弟!!!!」
母「おとうとおおおおおお!!」
母は大声で泣き叫んだ
父「弟・・・・・」
父「うう・・・・・」
父も泣きながら呟いた
そして俺も
泣きながらその光景を眺めていた
死因は大量出血による失血と
急速に血液が失われたことによるショック
血液の補充を試みたが間に合わず
血が回らなくなり停止を起こした
そう医者は言っていた
医者「手術室着いた頃には既に危篤状態でした・・・」
医者「非常に残念です・・・・」
俺は殴りかかろうと思った
本当はお前が殺したんだろうと
そう医者に言ってやろうと思った
だが俺は
それが筋違いなことも知っていた
だから俺は
ただただ泣くだけだった
改めて弟の顔を見る
人間の顔は
ここまで変わってしまうものなのか
別人にすら見えてくる
いやむしろ
別人だったらどれだけ嬉しいのだろうか
兄「なぁ弟・・・・・」
兄「帰ってこいよ・・・・・俺たちの所に・・・・」
そうして俺達は
ひたすら泣いた
弟の死からしばらく経った日の朝
葬式等面倒全てを終えた俺達は
久々に家族でちゃんとしたご飯を食べた
父「いただきます」
兄「いただきます」
母「いただきます」
四人用のテーブル
一つ空いた空席
母「・・・・・・」
母「うっう・・・・うう・・・」
父「いい加減泣くのはやめなさい・・・・」
父「もう・・・」
母「分かってる・・・・」
母「けど・・・」
兄「そういう父さんこそ・・・・」
兄「・・・・・・」
兄「俺も・・・・・・」
父は
空いた空席を見た
父「・・・今度」
父「テーブルと椅子を買い換えようか・・・・」
兄「それがいいかもね・・・」
ピンポーン
チャイムが鳴った
父「こんな時間に誰だろう」
兄「俺がでるよ」
父「すまん、頼む」
玄関に向かう
兄「どなたですか?」
俺は扉越しに話しかけた
「すいません」
「警察の者ですが」
警察・・・・
なんで警察の人が・・・・?
俺は疑問に思いながらも
扉を開けた
警察「いやぁ」
警察「どうも朝早くすいません」
兄「は、はぁ・・・・」
玄関の外にいたのは
2人組みの警官
警察「・・・・実は」
警察「弟さんの事で伺いました」
兄「弟のことで・・・?」
警察「はい」
警察「病院の方から資料を受け取りまして」
警察「それの報告と」
警察「家族の方のお話を聞きたいと思いまして」
兄「話?」
警察「この前やらせていただいた調査の事でですね」
警察「ちょっと気になることがありまして」
そういえばそうだった
弟が病院に運ばれた後
警察の人が弟の部屋で捜査?的な何かをしていた
すっかり忘れていたが
どうやらその結果とやらが出たらしい
警察「それでですね・・・・」
警察「弟さんの死因が少し気になるんですよ」
兄「死因?」
警察「はい」
警察「病院の方の話によりますと弟さんの死因が」
警察「カッターによる手首殺傷なんですよ」
兄「え・・・・?」
警察「つまりですね」
警察「弟さんはもしかすると自殺だったんじゃないかと」
自殺?
弟が自殺?
警察「なので」
警察「それについて聞きたいことがありまして」
居間
親は了承し
警察の方を招きいれた
母「お茶どうぞ」
警察「あ、いえ、すぐ帰りますので」
警察「ありがとうございます」
父「それで・・・・」
父「自殺って一体・・・・」
警察「簡単に略しますと」
警察「弟さんは手首を自分で切った」
警察「カッターを使って」
警察「病院からの資料ですから間違いはないかと・・・・」
そんなバカな・・・
母「そんな・・・・・」
母「そんな死に方だったなんて・・・・」
気付かなかった
最初に見つけたのは俺なのに気付かなかった
気付けなかった
あの時は焦っててそれどころじゃなかった
ただ動揺していた
兄「そうなん・・・ですか・・・・」
警察「そこでお心当たりはないかと聞きたいと思い」
警察「参った次第です」
母「心当たり・・・・ですか?」
警察「はい」
警察「これだけの事をするには」
警察「それだけの理由があると思いまして・・・」
父「ですが・・・・」
父「私達には思いつく節が・・・・」
父「ましてやこんな時期にするなんて・・・」
警察「と言いますと?」
父「はい・・・」
父「実は息子は今年受験だったんですが」
父「第一志望に受かったんですよ」
父「本人も凄く喜んでましたし・・・」
警察「ふむ・・・・」
父「もちろん私達も喜びました」
父「祝ったりなんだりして」
父「そしてその時も息子は凄く喜んでいました」
母「・・・それに」
母「私達は絶対に仲の良い家族でした」
母「それだけは確かです」
警察「・・・・・・」
警察「・・・・確かに」
警察「家族の仲はよさそうだったみたいですね」
警察「霊安室でも失礼ながら泣き叫ばれたと聞きました」
警察「それになにより・・・・」
警察「今でも泣きそうな顔をしていますし」
母「・・・すいません」
警察「いえいえ、悪いのは私達です」
警察「傷口を掘り返すような真似をして申し訳ない」
警察「しかし」
警察「とすると原因は、身内内以外でしょうかね」
兄「え」
兄「それじゃあ・・・・」
兄「弟は・・・・・」
警察「恐らく」
警察「家族の皆さんが知らないところで」
警察「このような事をしてしまうほど」
警察「追い込まれた」
警察「そして多分」
警察「弟さんはそのことを言わなかった」
警察「大好きな家族に心配をかけたくなかったから」
警察「・・・・そんな話かもしれないですね」
中二発言は書いててテンションあがるいやっほうううう
俺は理解した
少しずれた理解を
兄「なるほど・・・」
兄「つまり」
兄「弟は・・・・・」
兄「誰かに殺されたんですね?」
警察「その言い方はあまり同意できませんが」
警察「誇張すればそういう事にもなるでしょう」
警察「第三者によって追いつめられた」
警察「イジメかもしれないし、何かのショックかもしれないし」
警察「はたまた別の出来事かもしれない」
警察「それはまだ分かりません」
警察「ただ、その可能性があると思います」
あの日
俺は
誓ったことがある
多分一生忘れない
大事な誓い
兄「俺の弟を・・・・・」
兄「殺した人が・・・・・・・・」
警察「・・・・・・・」
警察「・・・とりあえず私達のお話は以上です」
警察「ご協力ありがとうございました」
警察「一旦戻って調書を整理したいと思います」
警察「それでは、朝早く失礼しました」
父「いえいえ」
父「わざわざどうもでした」
警察「あと、最後にこれを」
兄「これは・・・・」
警察「カッターです」
警察「弟さんが使った」
警察「病院の方で消毒滅菌も済んでいます」
兄「なぜこれを・・・?」
警察「渡した方がいいと思いましてね」
警察「お兄さんに預けますよ」
兄「・・・・・・」
そうして
警察の人たちは帰っていった
父「・・・・・・」
母「・・・・・・」
冷たい空気が流れる
父「まさか」
父「自殺だなんて・・・・・」
母「なんで・・・・」
母「なんでそんなことを・・・・・」
兄「・・・終わらない」
母父「?」
兄「このままじゃあ終わらない」
兄「このままじゃ終わらせない」
母「兄・・・・?」
兄「弟は誰かに殺された」
兄「だったら」
兄「それをした誰かを」
俺は言った
兄「俺が・・・・・」
兄「必ず見つけ出す」
俺は
カッターを握りしめた
誓った
あの日に誓いを立てた
弟の形見に誓った
俺は必ず見つける
弟を殺した犯人を
歩いて
進みだす
外
警察2「それにしても、一体どうしたんでしょうね」
警察「なにがだ」
警察2「あの家の息子さんですよ」
警察2「一体何があったんでしょうかね」
警察「さぁな」
警察「ただ、まだ何も分からない」
警察2「?」
警察「家族の仲は良かっただとか、理由が無いだとか」
警察「そんな事はさらさら信じていないよ」
警察「仲が良かったかなんて調べようもないし・・・・」
警察2「そうなんですか・・・」
警察「それに」
警察「心配事もある」
警察2「心配事?」
警察「あのお兄さんは」
警察「何かやらかしそうだ」
警察2「じゃあなんで」
警察2「あんなものを渡して煽るような真似なんか・・・」
警察「あくまで予想だ」
警察「事実ではない」
警察2「・・・・時々、あなたの考えていることが分からない事があります」
警察「奇遇だな」
警察「俺自身もだ」
職員室
兄「失礼します、先生」
兄「鍵ありがとうございました」
先生「忘れ物は見つかったか?」
兄「はい、なんとか」
先生「そうか」
先生「・・・じゃあ気をつけて帰れよ」
兄「はい」
家
兄「ただいま」
兄「まぁ誰もいないか」
兄「・・・・・・」
兄「・・・なんか疲れた」
兄「休もう・・・」
俺は部屋に戻り
ベッドに寝転んだ
兄「はぁ・・・・」
兄「まぁ見つかってよかった・・・」
兄「・・・・・・」
扉を見る
兄「きっと中は綺麗にしてくれてるんだろーけど」
兄「・・・・まだ入る気にはなんねーな」
翌日
学校を終えた俺は
とある場所に向かった
兄「・・・結構遠いんだな」
兄「自転車で行ったほうがいいか」
地図を見ながらそう思った
兄「パンフの写真は結構綺麗だな」
兄「私立だから当然か」
俺が向かおうとしているのは弟の学校
いや
弟が通うはずだった学校
兄「てかパンフに地図載ってんじゃん・・・・」
兄「わざわざパソコンで地図印刷しちまったよ・・・」
途中道
兄「・・・・・・・」
兄「・・・ほんとは」
兄「この道は弟が通学に使うはずだったのに・・・・」
なんで俺が通っているんだろう
弟が行くはずの学校なのに
兄「どれもこれも・・・・」
兄「どこかの誰かのせいなんだ・・・・」
俺はペダルを強く踏んだ
兄「着いた・・・・・」
家からこぎ続けて約40分
兄「予想以上に遠かった気がするが」
兄「私立にしては自転車でいける距離なだけ全然マシか・・・・」
兄「にしても・・・・」
学校内から出てくるたくさんの生徒達
兄「下校時刻なんだからだろうけど」
兄「・・・なんか恥ずかしいな」
俺は近くのコンビニに自転車を止め
改めて学校を眺めた
兄「・・・すげえな」
大きい正門、綺麗な校舎
なによりとにかく広くて大きい
兄「どうせ中も冷暖房完備なんだろうな」
兄「・・・やっぱ私立は良い」
兄「公立なんてやめときゃよかった」
兄「さて・・・・」
兄「どうやって入ろうか・・・・」
兄「あの、すいません」
俺は近くにいた警備員を呼んだ
警備員「はい?」
兄「実はこの学校に用があるのですが」
警備員「生徒の方ですか?」
兄「いえ、その生徒の身内なのですが」
警備員「それでは何か証明できるものは・・・」
兄「・・・ないです」
弟はまだ学校には通ってないんだから
そんな物あるわけが無い
学生証とかはあったかもしれないけど持ってきてない
警察が持ってっちゃったかもしれないし
警備員「それでしたら」
警備員「来賓用の玄関からどうぞ」
兄「来賓用?」
警備員「はい」
警備員「別用のある親御さん等が通れる玄関です」
警備員「受付にはいつも誰かおりますので」
兄「ありがとうございます」
学校内
兄「よく出来た学校だな・・・・」
兄「俺んとこだったら多分門前払いだった」
兄「さて、来賓用玄関とやらは・・・」
歩いてるうちに
広いとこに出た
兄「ここか・・・・」
兄「さすがだな」
兄「玄関まで広い・・・」
来賓用玄関 窓口
兄「すいません」
受付「はい?」
兄「この学校の生徒の身内の者なんですけど」
兄「ちょっとお話がしたくて来たのですが」
受付「かしこまりました」
受付「ちなみにどの教師とのお話でしょうか?」
兄「あ・・・えっと・・・・・」
やばい
そこらへんは何も考えてなかった
兄「その・・・・・」
受付「?」
兄「あ、そう、そうです」
兄「実は家の弟が今度この学校に通うことになりまして」
兄「それで担任の教師の方がどういう方なのかお話がしたくて」
嘘ではない
受付「ちなみに事前の連絡等は」
兄「すいません、してないです」
受付「それでは少々お時間を頂くことになってしまいますが」
受付「よろしいでしょうか?」
兄「はい大丈夫です」
受付「では、こちらで少々お待ち下さい」
待合室
兄「突発できた俺にもあの対応」
兄「やっぱ私立はすげえな」
兄「それとも」
兄「俺みたいに事前連絡も無しに来る奴はほとんどいないのかな」
ガチャ
教師「どうもすいません」
教師「待たせてしまって」
兄「いえいえ」
兄「こちらこそすいません、事前に連絡も無しに無理言って・・・」
ズレのないネクタイ
しわのない服、スーツっていうのかな?
まぁとにかく一目で分かる
頭の良い人だと
教師「受付の者から話は伺っております」
教師「なんでも、今年入学する予定だった弟さんのお兄さんだとか」
兄(予定・・・・・・)
兄「はい・・・」
教師「あんなことになってしまって・・・・」
教師「我々としても、新入生を迎えられなくなってしまったのは」
教師「とても残念です・・・」
兄「いえいえ、気を遣わないで下さい」
教師「お悔やみ申し上げます・・・・」
教師「ところで」
教師「お話というのは?」
兄「それなのですが」
教師「はい」
兄「実は、その弟について聞きたいことがありまして・・・・」
教師「弟さんの事・・・ですか?」
兄「そうなんです」
兄「何か知っていることがあれば教えて欲しいなと思いまして」
教師は顔をしかめる
教師「・・・・こちらも弟さんの事を話したいのは山々なのですが」
教師「私達はまだ弟さんの事はよく知らないのですよ・・・・」
兄「あ・・・・・・」
教師「ですから申し訳ありませんが」
教師「なぜ弟さんがあんなことをしたのかは私達にもよく・・・・」
そういやそうだ
まだ弟は学校に通ってもいないのに
心当たりなんてある訳が無い・・・・
普通に考えれば分かるのに・・・・
何してんだ俺・・・・・・
兄「・・・そうですよね」
兄「すいません・・・わざわざこんな事で呼んでしまって」
教師「いえいえ・・・・」
教師「お兄さんの気持ちも分かりますよ・・・・」
兄「ほんとすいません・・・」
兄「迷惑なのでもう帰ります」
兄「本当にすいません・・・」
教師「気にしないで下さい」
教師「私達も協力できることがあればしますよ」
兄「ありがとうございます・・・」
教師「では、また」
兄「はい」
そう言って教師は
待合室を出て行った
そして俺もそれに続き
家に帰ることにした
コンビニ
店員「ありがとうございましたー」
兄「・・・・・・」
兄「まぁ、駐輪するだけってのも気が退けるし」
俺はコンビニの外に出て
自転車の鍵を開けた
兄「・・・あれ」
学校の正門から車が出てきた
俺は、窓の中を覗いてみた
遠いからいまいちよく見えないが
多分さっきの教師さんだ
兄「今から帰りだったのか・・・・」
兄「悪いことをしちゃったな」
俺は車に向けて軽く手を振った
向こうも気付いてくれたのか
車内から手を振りかえしてくれたのが見えた
兄「・・・・・・」
兄「・・・さて、帰るか」
帰り道
既に外は大分暗くなっていた
兄「ああ・・・もうこんな暗くなってるよ・・・・」
兄「てか正直」
兄「待ってる時間がほとんどだったな・・・」
兄「おまけに無駄足だったし・・・はぁ・・・・」
俺は小さく独り言を言いながら
たらたらと自転車をこいでいた
その時
兄「ん?」
後ろの方から光がさして来た
兄「車か」
俺はわき道によけた
だが、光は未だに後ろからさし続けてる
兄「あれ」
兄「車もこっち通る気だったのか」
兄「ってこんなわき道、車が通れるわけが・・・」
俺は後ろを振り向いた
そして驚いた
兄「・・・・嘘だろ?」
俺はびっくりした
さっきから俺の後ろを来ていた車が
車道を無視して
こっちに凄いスピードで向かってきた
俺はさらにわき道を横に曲がった
だが、車は構うことなくついてくる
俺は猛スピードでこいだ
兄「なんなんだよ!」
兄「なんなんだよ一体!」
ひたすらこいだ
だが、当然車のスピードに敵うはずもなく
俺は段々追いつかれていった
ハァハァ
兄「やばい・・・・」
兄「このままじゃ・・・・・」
俺は多分
殺されてしまう
兄「どうすれば・・・・」
兄「もう無理だ・・・」
すぐ後ろまで追いつかれていた俺は
自転車から飛び降りて
近くの茂みに飛び込んだ
兄「ハァ・・・・ハァ・・・・」
兄「頼む・・・・」
兄「俺を見失っていてくれ・・・・・」
薄い望みだと
俺は思った
ドンッ
多分、俺が捨てた自転車が車と激突した音
キキイッ
多分、轢いたと思ってブレーキをした音
ガチャ
多分、俺がどうなったか確認するために
ドアを開けた音
もし轢いたのが自転車だけだと知ったら
俺を襲った奴はどうする気だろう
諦めてくれるのだろうか
ただの無差別だったらそうしてくれなくもないと思う
けれど
もし俺だと分かって狙っていたのなら
きっとこれから
俺を探しだすだろう
兄(見つかったら・・・・・)
兄(まず逃げられない・・・・)
兄(それに・・・・)
体力も足も
もう限界だった
兄(どうかどうか・・・・)
兄(気付かれませんように・・・・・)
気付かれないように
声を潜めた
兄(来るな来るな・・・・・)
車から出てきたのは1人
暗くて性別すら分からない
そして今多分
俺の自転車を確認している
兄(・・・・・・)
そいつは車の前に戻ってきた
きっと確認し終えたんだろう
そして気付いただろう
轢いたのは自転車だけだと
兄(頼む・・・・・・)
兄(そのまま帰ってくれ・・・・)
そしてそいつは
ガチャ
車に戻っていった
その後そいつは俺を探すこともなく
自転車も放置したまま
車を走らせて
帰っていった
兄「助かった・・・・」
俺は茂みから体を起こした
兄「痛って・・・・」
兄「飛び込んだ時ぶつけたかな・・・」
兄「大体なんで俺なんだよ・・・・」
兄「意味が分からん・・・」
自転車を確認した
兄「もう乗れないなこれ・・・・・」
兄「帰りはバスか・・・・・」
兄「親に何て言えばいいんだよ・・・」
近くにバス停を見つけた俺は
バスが来るのを待った
そしてその間
冷静に考え直してみた
兄「そうだ」
兄「普通に考えれば」
兄「無差別であそこまで人を追いかけたりしないだろ」
兄「酔っていたなら」
兄「わざわざ俺の姿を確認はしないと思うし」
兄「とするとやっぱり俺は・・・・・・・・」
兄「誰かに狙われていた・・・・のかな」
兄「・・・そんなわけない」
兄「俺はそんなギャングな生き方はしてないし」
兄「ましてや俺は首相でもなんでもない」
兄「・・・・きっと」
兄「質の悪い奴に絡まれただけだ」
兄「そう思おう」
そう願いながら
来たバスに乗り込んだ
家
兄「ただいま」
母「おかえり、随分遅かったじゃない」
母「遊びにでも行ってたの?」
兄「そんなところ」
母「いつも言ってるでしょ」
母「そういう時は電話をしなさい・・・・って」
母「聞いてるの?」
兄「ごめん、もう寝る」
母「ご飯は?」
兄「いらない」
俺は早々と部屋に戻った
兄の部屋
あの事は
母にも父にも言わなかった
兄「・・・きっとあれは偶然だ」
兄「ただ運が悪かっただけ」
兄「そういうことにしよう」
兄「じゃないと気がもたん」
そう思い込んだ
兄「・・・でも」
兄「安心してくれ弟」
顔を扉の方に向けた
当然部屋に入る気はない
兄「俺はこんな事じゃめげない」
兄「絶対に見つけてやるからな」
兄「そして・・・・」
兄「もし見つけたら・・・・」
兄「・・・・・・」
兄「・・・寝よう」
俺は部屋の電気を消した
翌日 放課後
今度は
兄「・・・そうだ」
兄「弟の友達と話してみるか」
弟の友達に
話を聞こうと思った
弟の友達とは何回か喋ったことがある
家によく来てた子限定だが
話もそれなりに弾んだような気もしなくはない
連絡網を使えば、電話はできる
弟の事だったら
話くらいはしてもらえるだろう
兄「よし」
兄「さっさと帰ろう」
家
兄「えっと・・・・・」
兄「弟の3年の頃の連絡網は・・・・」
確か弟は
友君とは3年の時に知り合ったと言っていた
兄「えっと・・・・・」
兄「あったあった」
さっそく電話をかけてみた
プルルル、プルルル
ガチャ
友「はい」
兄「あ、友さん家のお宅ですか?」
友「そうですが」
兄「私、弟の兄なのですが」
友「ああ、弟のお兄さん」
友「昔はよくお邪魔になりました」
兄「いえいえ」
友「ところで」
友「一体どうしたのですか?」
友「弟は元気です?」
やっぱり卒業すると
意外と疎遠になるらしく
友君はまだ知らないらしかった
兄「・・・・・」
兄「それが・・・」
俺は簡単にあらましを説明した
友「そう・・・なんですか・・・・」
友「弟が・・・・・」
兄「はい・・・・」
兄「それで、その原因になるような事に」
兄「何か心当たりはないか聞きたくて」
友「心当たり・・・・・」
友「うーん・・・・」
兄「例えば、イジメがあったとか」
友「イジメはなかったですね・・・」
友「少なくとも僕が見てた限りでは」
兄「そうですか・・・」
友「それに、もう卒業したのですから」
友「あんまり関係もないんじゃないかなあって・・・・」
兄「・・・ですよね」
友「・・・しいて言えば」
友「弟には彼女がいたってこと位ですかね」
兄「彼女・・・・」
そういえば弟はずっと前に
彼女ができたって言っていた
友「はい」
友「女さんっていう方なんですが」
連絡網にその名前は無い
兄「・・・別クラスの子ですか?」
友「はい」
友「俺達とも仲が良くて」
友「よく弟と俺達で女さんの家に遊びに行ったりしましたよ」
兄「その子の電話番号とか分かります?」
友「いや、俺も違うクラスだったので・・・・」
友「遊びに行く約束も」
友「大抵弟が取り付けてくれましたし・・・・」
友「でも、家の場所なら分かりますよ」
友「結構な回数遊びに行ってましたから」
電話番号が分からない以上
仕方が無い
兄「・・それじゃあ」
兄「家の場所教えてくれますか」
直接その子の家に行くことにした
俺は口頭で教えられた家の場所を
メモに書き取った
兄「どうもありがとう」
友「いえいえ」
友「でもまさか」
友「2回も聞かれるとは思いませんでしたよ」
兄「?」
友「いえ、なんでもないです」
友「それじゃあ」
兄「ありがとうほんとに」
友「・・・今度花を供えにでも行かせてもらいますね」
兄「ああ、お願い。弟も喜ぶよ」
昨日自転車が大破してしまったので
俺は徒歩で女さんという子の家に向かった
この地図によると
家は結構近いらしいので問題は無いが
兄「えっと・・・・」
兄「この道を曲がって・・・・」
兄「・・・おお」
兄「あったあった」
俺は名前の書かれた表札を見つけた
兄「ここが女さんの家か」
よくある外見の家だったが
少し大きく感じた
兄「まぁ普通こんなもんだよな」
兄「さて」
ピンポーン
チャイムを鳴らした
「はい」
兄「あの、すいません」
「?どなたですか?」
兄「私、弟の兄弟の兄と申します」
「弟君の・・・・・?」
兄「はい」
「・・・・・・」
「・・・今開けますね」
玄関から女の子が出てきた
女「お待たせしました」
兄「いえいえ」
兄「こちらこそ急に押しかけてすいません」
女「いいんです」
女「それより、お兄さんが一体なぜ私のところへ・・・?」
兄「・・・・・・」
兄(また説明するのか・・・・)
俺はまたまた説明をした
さっきより少しはぶいたりもしたが
女「・・・・・・」
女「そうだったん・・・・ですか・・・」
兄「・・・・はい」
兄(・・・・・・)
少し
引っかかるものがあった
どういうことだ?
彼氏が死んだというのに
なぜそんな反応が薄いんだ?
悲しむ様子位は見せると思ったんだが
もしかして・・・・
女「多分・・・」
女「長話になりますよね?」
兄「・・・多分」
兄「そうなるかと・・・・」
兄「用事があるのでしたらまた出直しますが」
女「いえいえ」
女「ここで話すのもなんですから」
女「どうぞあがってください」
兄「どうもすいません」
居間
女「それで・・・・」
兄「はい」
兄「なにか思いつくことはないかと思いまして・・・・」
女「思いつくこと・・・・・」
兄「なんでもいいんです」
兄「特に彼女だった女さんになら」
兄「弟が俺達にすら言えないことも何か言ってるんじゃないかなって思って」
女「でも・・・・・」
女「私達は・・・・・」
女「もう付き合っていませんでしたし・・・・」
兄「え?」
女「・・・・・・」
女「別れたんです、弟君とは」
兄「別れた・・・・・」
女「はい・・・・」
じゃあ
じゃあ弟は
もしかして
振られたショックで・・・・?
兄「じゃあ・・・・」
兄「じゃあもしかして・・・・・」
兄「・・・・・・」
兄「・・・・あなたが」
俺はポケットに手を入れた
中には
あのカッターが入っている
女「・・・・そんな」
女「そんな怖い顔をしないで下さい・・・・」
兄「え・・・・?」
兄「あ・・・・」
気付けば俺は
怖い顔をしていたらしい
兄「すいません・・・」
そうだ落ち着け俺
いくらなんでもたかが振られた位で
それにまだ決め付けるには早すぎる
俺はポケットから手を引いた
女「そもそも・・・・」
女「別れを言い出したのは弟君の方なんですよ・・・・」
兄「ええ?」
兄「弟の方から?」
女「弟君は私に言いました」
女「『絶対第一志望に受かってやる』」
女「『だから勉強に集中したいから別れよう』って」
女「だから、振られたのは私の方なんです・・・・」
兄「・・・・・・」
兄「・・・・・そうでしたか」
話から察するに
別れたのは結構前らしい
どうりで反応が薄いわけだ
悪い気持ちでいっぱいになった
兄「本当にすいません」
兄「そんな事も知らずに俺・・・・・」
女「いえいえ・・・」
女「私も、早く言えば良かったのですが・・・・」
玄関
話に一区切りいれた俺は
帰ることになった
兄「どうもすいませんでした」
兄「わざわざこんな無駄話してしまって・・・・」
女「いえいえ」
結局
あの学校に行った時と同じ様な事になった
収穫0という事態に
兄「それでは・・・・」
女「はい」
とんだ徒労だった・・・・
なんということだ・・・
俺は背中を落としながら
帰り道を歩いた
私は
落胆して帰るお兄さんを見送った
女「お兄さん・・・・」
女「やっぱり・・・・」
女「・・・・・・」
女「・・・でも」
女「お兄さんにはあんな事言えないよ・・・・」
家についた俺は
やっぱり自分の部屋に直行した
兄「・・・・・・」
兄「・・・くそ」
兄「くそっくそっくそっ」
俺は頭を掻いた
兄「だめだ・・・・」
兄「全然分からない・・・・」
勉強系も外れだった
友達関係も外れだった
新しい環境も外れだった
恋沙汰も外れだった
兄「・・・じゃあ」
兄「他に何があんだよ・・・・」
兄「弟・・・・・」
兄「お前は一体どうしたんだよ・・・・」
俺は弟の部屋の扉を見た
兄「・・・・・・」
兄「・・・こうなったら」
兄「行くしかねえのかな・・・・」
兄「でもまだ・・・・」
兄「正直入りたくない・・・・」
一番手っ取り早い方法はすぐそこにある
わざわざ電話をする必要もなければ
いちいち歩いて出向く必要も無い
そう
弟の部屋を調べれば、きっと何か分かるだろう
兄「・・・・・・」
兄「・・・そうだ」
兄「それが一番確実なんだ・・・・」
俺はドアの前に立った
ゴクリ
兄「入るのは」
兄「久々だな」
俺は
ドアを開けた
なにも変わらない部屋
弟が生きていた時と
多少の物の配置は動いてたりするものの
根本的にはなんら変わってはいなかった
なのに
兄「・・・なんだろう」
兄「他人の部屋のような気がする・・・・」
なぜだろう
机も椅子も他の物も
俺に触れるなって言っているような気がする
兄「・・・でも」
兄「・・・・よし」
兄「覚悟を決めよう」
俺は
弟の部屋を荒らしはじめた
兄「う~ん・・・・・」
兄「特に何もないなぁ・・・・・」
机の中には勉強道具位しかなかった
一応中身をパラパラとは見たが
特に変わった事も無い
兄「じゃあ別のとこか?」
俺は次に
玩具箱や本棚付近を探した
が、やはりあの年には玩具遊びは卒業していたらしく
玩具箱は少し埃がかってた
本棚も少し埃をかぶっており
特に変な本も無い
兄「うぬぬ・・・・・」
他の場所も探したが
特に手がかりになるようなものは無かった
兄「だめだ・・・・・」
兄「何も見つからん・・・・・」
諦めようとした時
ふと、ベッドの下に目がついた
兄「・・・・・・」
兄「・・・なんかあったりして」
兄「エロ本とか・・・・」
兄「もしあったら・・・」
兄「・・・俺が受け継いでやるか」
兄「親に見つかったら弟も恥ずかしいだろうし」
俺は、ベッドの下に手を入れた
兄「うーんと・・・・・」
兄「・・・・ん?」
手に何か当たった
兄「まさか」
兄「エロ本か?」
手触り的に
薄い本みたいなものだろう
兄「まじかい」
兄「・・よいしょ」
俺はそれを引っ張り出した
兄「これは・・・・・」
それは
エロ本なんかではなく
一冊のノートだった
兄「ノート・・・・?」
兄「なんでベッドの下なんかに・・・・・」
兄「弟のポエム集とかか・・・・?」
俺は
1ページ目を開いた
兄「・・・・・なんだよ・・・これ・・・」
俺は次のページを開いた
兄「まさか・・・・・」
俺は3ページ目を開いた
兄「嘘だろ・・・・・」
4ページ以降もペラペラとめくった
兄「そんな・・・・・・・・」
そこに書かれていたのは
死ね
消えろ
失せろ
なんであいつは生きている
どけ
俺の目の前に立つな
頼むから消えてくれ
俺に対する無数の悪口だった
殴り書きされた字
行間もマス目も無視して
目一杯の筆圧で書かれたであろう字
そして
それらの字が向けている矛先は
間違いなく俺
兄「そんな・・・・・・」
兄「どうして・・・・・・・・・」
「やっと見つけたか」
俺は気付いた
後ろに誰かいる事に
「そうだ」
「お前は恨まれていたんだよ」
後ろから聞こえる声
兄「その声は・・・・・・」
兄「父さん?」
父「もっと早くノートを見つけると思ったんだがな」
なんで父さんがここに?
兄「父さん・・・・?」
兄「それってどういう・・・・?」
父「・・・・私もお前と一緒」
父「あの日以来」
父「弟を殺した犯人を捜していた」
私の兄弟息子の弟は
雨の降るとある日に死んだ
私は泣いた
当然の如く泣いた
だがその後に
私は聞いた
弟は、何者かに自殺に追い込まれたと
父「私もあの時誓ったんだよ」
父「お前と同じで」
父「弟を殺した犯人を必ず見つけてやると」
父「そして」
父「今までのお前と全く同じ道筋を辿っていった」
兄「同じ・・・・」
父「ああ」
父「私はまず弟が卒業した学校に向かった」
父「そして先生に会い、弟の事について聞いた」
父「イジメや何かが無かったと聞いたのと同時に」
父「友君という弟と仲が良かった友達がいることを聞いた」
父「その後私は」
父「その友君に電話した」
そうか
だからあの時友君は『2回目だ』と言ったのか
父「そして友君から聞いた」
父「彼女の存在を」
父「家の場所を聞いた私は」
父「さっそく彼女の家に向かった」
兄「・・・・・・」
やっぱり家族なのだろうか
父さんは
俺とほとんど同じような事をしていた
父「私は彼女の家に着いた」
父「そして彼女から話を聞いた」
父「付き合っていた事、もう別れたこと」
父「そして・・・・」
父「弟が言っていたこと」
兄「言っていたこと・・・・?」
どういうことだ
俺が行った時はそんな話は・・・
父「お前は恐らく聞いていないだろうな」
父「いや、正確には」
父「彼女は気を遣って言わなかったんだろう」
父「彼女は私に言ったよ」
父「『弟は、お前を憎んでいたと』」
兄「だから・・・・」
兄「どう憎まれていたのか・・・・・」
父「詳しく言おうか」
父「弟は彼女にいつも言っていたらしい」
父「『兄のせいで俺はいつまでたっても』」
父「『脇役のままだ、と』」
兄「・・・・・・」
昔の話を思い出した
俺たちは頭のいい兄弟として
よく近所の人達に褒められることがあった
それは中学に入った時も変わらなかった
そして
中学受験をした俺達は
当然の如くよく聞かれることがあった
「どの学校に入ったの?」と
俺達2人は聞かれるたびに答えた
そして
その度に弟は少し嫌な顔をした
それは
俺の方がいい学校に行っていたから
そんでもって
俺は
弟の顔を見なかった事にしていた
兄「そんな・・・・・」
父「ずっと」
父「ずっと劣り目を感じていたんだろうな」
兄「・・・じゃあ」
兄「じゃあ俺を殺せば良かったじゃないか・・・」
父「弟もそうしたかったろう」
父「だが」
父「お前が悪くないからこそ、そんなことが出来なかった」
父「そして」
父「変わりに自分の命を捨てた」
父「こんな事で」
父「こんな事で命を捨てられるのか」
父「私は少しそう思う」
父「だから、多分弟は」
父「きっと大きく考えてしまったんだと思う」
兄「大きく・・・・?」
父「『一生どれだけ努力しても』」
父「『兄の影に隠れる一生だ』と」
兄「・・・そうか」
兄「実質弟を殺したのは・・・・・」
兄「俺だったのか・・・・・」
父「・・・そうだ」
兄「笑えるな」
兄「弟の敵を探していた本人が敵だったなんて」
兄「・・・そして父さんは」
兄「誓いを果たそうとした・・・」
父「もう分かっていると思うが」
父「あの夜にお前を車で襲ったのは」
父「私だよ」
父「お前の後をずっと付けてな」
父「わざわざあの教師と同じ車を借りたんだが」
父「さほど意味は無かったらしいな」
確かに
夜襲ってきた車とあの教師の車は
少し似ていると思っていた
兄「・・・じゃあなんでだ」
兄「なんであの時俺を探さなかった」
父「それはな」
父「それじゃあ意味が無いと思ったからだよ」
兄「意味?」
父「ああ」
父「車で轢いて殺したところで」
父「晴れにはならない」
父「俺が」
父「直接やらないと意味が無いとな」
兄「じゃあ・・・・」
父「もう分かるだろ?」
父「今から俺が何をするのか」
そう言うと突然
父は飛び掛ってきた
俺は上にのしかかられ
首を絞められた
父「終わりだ・・・・」
父「これで・・・・」
父「全て終わりだ・・・・・」
苦しい
息ができない
兄(死・・・ぬ・・・・・)
兄(・・・)
ふとその時
俺の手が
ポケットに触れた
そうだ
ポケットに入れっぱなしだった
弟の形見の
カッター
兄(・・・くそったれ)
俺は何を思ったのか
ポケットに手を突っ込み
ポケットからカッターを取り出した
そして・・・・
「ぐああああああああああ」
父の目に
カッターを突き立てた
父は悲鳴をあげて
俺の上から転げ倒れた
兄「ゲホゲホッ」
やっと息ができる
父「ぐあああああああああ」
父「おまえ・・・・・!!」
今度は
俺の番だ
ザクッ
ぐああああああああ
ザクッザクッ
うああああああああああああ
ザクザクッ
や・・・やめ・・・・・・・
ざくざくざくざくざくざくざくざくっ
ザクザクザクザクザクザクザクザクッ
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクッ
そうして気付けば
辺りは血だらけ
俺の手も血だらけ
カッターも血だらけ
壁も血だらけ
俺の父さんも
血だらけ
兄「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
兄「俺は・・・なんてことを・・・・・」
目の前の光景を眺める
兄「はぁ・・・・はぁ・・・・」
兄「・・・・・・」
兄「父さん・・・・・」
兄「・・・・でも」
兄「俺にも誓いがあるんだ・・・」
そう
俺の誓いはただ一つ
あの日からずっと一つ
一生一つ
兄「弟の敵は・・・・」
兄「俺がこの手で取る・・・・・」
たったこれ一つ
俺は
カッターを手首に当てた
兄「はぁ・・・・ふぅ・・・・」
兄「・・・・皮肉だ」
兄「・・・・弟と同じ死に方を」
兄「・・・・弟と同じ場所でするなんて」
俺は
カッターを引いた
痛い
色んなところが痛い
なんてバカだったんだろう
俺達家族は、最初からバラバラだった
そんな事に
死ぬ寸前で気付くなんて
兄「・・・もし」
兄「もし俺達が」
兄「本当の優しさとやらを持っていたら」
こんな事には
ならなかったのだろうか・・・・・
兄「・・・・・・」
兄「そんな仮説は意味ないか」
そうして俺は
緩やかに死んでいった
『ごめんなさい』
誰も聞いてはいないのに
なぜか俺は
そう呟いた
fin