1 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:02:03.489 fXh8MW8N00202 1/30

~♪ ~♪ ~♪

男子「……」パクパク

女子「あ!」

女子「ちょっと男子ー! ちゃんと歌いなさいよ!」

女子「あんた今、口パクだったでしょ! 分かるんだからね!」

女子「みんながちゃんと歌わないと、合唱コンクールで優勝できないじゃない!」

男子「ちっ、うるせーな……」

女子「なんかいった!?」

男子「いってねーよ」

女子「他にもちゃんと歌ってないのいるでしょ! 分かってんだからね!」

元スレ
女子「ちょっと男子ー! ちゃんと歌いなさいよ!」 男(あの時ちゃんと歌ってれば……!)
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1580637723/

3 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:05:33.044 fXh8MW8N00202 2/30

級友A「あいつ、うざくね?」

級友B「いちいちうるせえのな!」

級友C「だけど、あいつ怖いからなぁ……」

男子「ふん、お前らあんな女にビビってんじゃねえよ」

級友A「でもよ……」

男子「次の練習の時、俺がガツンといってやるよ」

4 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:08:15.872 fXh8MW8N00202 3/30

~♪ ~♪ ~♪

男子「……」パクパク

女子「ちょっと! あんたまたちゃんと歌ってないでしょ!」

女子「いい加減にしてよ! 優勝できなかったらあんたのせいだからね!」

男子「うるっせぇんだよ!!!」

女子「!」ビクッ

女子「な、なによ……」

6 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:11:36.855 fXh8MW8N00202 4/30

男子「すぐちゃんと歌ってない歌ってないって……」

男子「お前は俺の母ちゃんでも先生でもねえだろ! お前なんかに指図される筋合いねーんだよ!」

女子「なんですって……」

級友A「そうだそうだ!」

級友B「いいぞー!」

級友C「お前いつもうぜぇんだよ!」

女子「……!」

7 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:15:08.080 fXh8MW8N00202 5/30

男子「これで分かったろ! お前みんなに嫌われてんだよ! 一人で空回りしやがってよ!」

女子「う、うう……」

「いいぞー!」

「もっといってやれ!」

「たしかに……ちょっとうるさいところあるよねー」

ワーワー!



この日を境に、女子のうるささは影をひそめ――

それどころか、クラスメイトから疎外されるようになり、

やがて、父親の事情で転校していった。

8 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:18:17.859 fXh8MW8N00202 6/30

数年後――

(あの時のことを思い返すと、今でも心が痛む)

(俺は……あの子のことが好きだったんだ)

(だから、注意されたくて、怒られたくて、気を引きたくて、反発して……)

(なのに俺のせいで、あの子は皆からいじめられるようになって……)

(あの時ちゃんと歌ってれば……!)

10 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:21:41.759 fXh8MW8N00202 7/30

「母さん!」

「なに?」

「俺、歌を習いたいんだけど……」

「歌を? なにいってるの、いきなり……。そんな暇があったら塾に行きなさいよ」

「まあまあ、いいじゃないか。せっかく何かやりたいなんて言い出したんだ。やらせてやろう」

「ただし、やるからには中途半端じゃダメだ。それにちゃんと勉強もするんだぞ」

「ありがとう、父さん!」

11 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:24:18.650 fXh8MW8N00202 8/30

講師「腹式呼吸をして、お腹から声を出しましょう」

「はいっ!」

「~♪ ~♪ ~♪」

講師「おおっ……! いい! いいですよ! あなたには才能がある!」

「ホントですか!?」

(よーし、もっとちゃんと歌えるようになってやる!)

12 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:29:19.130 fXh8MW8N00202 9/30

やがて――

「……」ジャンジャカジャン

「~♪ ~♪ ~♪」



通行人「へぇ~、いい歌だな」

学生「あれ誰? もしかしてプロ?」

JK「なにあの人、すごい歌上手なんだけど!」

14 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:33:16.683 fXh8MW8N00202 10/30

ある日――

スカウト「このところ、毎日ここで路上ライブをなさってますよね」

「ええ、それがなにか?」

スカウト「実は私、こういう者でして」スッ

(この会社は……最近人気歌手を多く輩出してる……)

スカウト「あなたには才能があります。ぜひプロ歌手としてデビューしてみませんか?」

「……」

「ちゃんと歌える場所を提供してくれるのであれば、喜んで」

15 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:36:19.809 fXh8MW8N00202 11/30

社長「君が路上ライブをやっていて、我が社のスカウトの目に止まったという……」

「はじめまして」

社長「歌は聴かせてもらったし、動画も見せてもらった」

社長「君はダイヤの原石……いや、すでにダイヤモンドそのものだ」

社長「君の歌に私の力が加われば、間違いなく音楽界のトップに上り詰めることができる」

「……」

社長「反応が薄いねえ……興味ないかね?」

「あまりありませんね」

17 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:40:08.169 fXh8MW8N00202 12/30

社長「君はそもそも、なぜ歌を歌っているのだ?」

社長「皆に自分の歌を聴いて欲しい、皆から注目されたい、という思いからではないのか?」

「そんな大層な動機じゃありません。ちゃんと歌いたいから、です」

社長「ちゃんと歌いたい? 今でも十分すぎるほどちゃんと歌えてると思うがねえ」

「……」

社長「まあいい。我が社の音響設備は充実している。ちゃんと歌える環境があることは保証するよ」

「よろしくお願いします」

18 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:43:05.184 fXh8MW8N00202 13/30

まもなく男はデビューする。

「~♪ ~♪ ~♪」



ワーワーッ! キャーキャーッ!



業界人A「これは……ものすごい新人が出てきたもんだな」

関係者B「ああ……“令和の歌王”が早くも決まっちゃったかもな」

19 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:47:18.282 fXh8MW8N00202 14/30

社長「すごいじゃないか。予想以上だ」

社長「君のデビュー曲、ベテランや人気アイドルを抑え、オリコンはダントツの一位だ」

社長「次のライブはいつか、ツアーはやるのか、といった問い合わせが殺到してるよ」

「そうですか」

社長「……嬉しくないのかね?」

「嬉しいですよ」

社長「これから君にはますます稼いでもらう。忙しくなるだろうが、よろしく頼むよ」

「はい、ちゃんと歌わせて頂きます」

21 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:50:07.754 fXh8MW8N00202 15/30

「~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪」


ワァァァァァ…

キャーッ!



その後も、出す曲出す曲が全て大ヒット。

男の歌手としての地位は、もはや不動のものとなっていった――



社長(しかし、なぜだ……)

社長(なぜ彼はあんな満たされない表情をしているのだ……)

23 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:53:34.789 fXh8MW8N00202 16/30

ファンA「男さーん!」

ファンB「今日の歌も最高でした!」

警備員「下がって下がって! ほら、押さない! 押さないで!」

キャーキャーッ! コッチムイテー! カックイー!



「……」

(どいつもこいつも……俺のことなんかなんも分かってねえくせにギャーギャー騒ぎやがって……)

(俺はこんな騒がれていい人間じゃねえんだよ)

(ちゃんと歌わなかった……クズなんだよ!)

24 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:56:34.240 fXh8MW8N00202 17/30

売れれば売れるほど男は荒んでいき、次第に騒動を起こすようになっていった。



『ライブをドタキャン!』

『ファンに冷淡な態度……渡された花束を手ではたく……』

『大物司会者に“おっさんは風呂場で歌ってろ”と暴言!』

『動画サイトに数分間無言のままの動画を配信……奇行のワケは……!?』

『酔っ払ってセクハラ! 示談金は……』

25 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 19:59:23.068 fXh8MW8N00202 18/30

社長「……」

「……」

社長「どうしたというんだ。いくら君に実力と実績があろうと、これ以上はかばい切れんぞ」

「なら、かばわなくていいですよ」

社長「なに?」

「俺は歌手辞めます。あんたとの縁もここまでだ」

社長「辞めてどうするというんだ」

「さぁ? テキトーに生きていきますよ」

社長「……」

27 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:04:38.594 fXh8MW8N00202 19/30

「ウ~イ……。俺なんてどーなったって……」ヨロヨロ…

ドンッ!

チンピラ「ってーな……気をつけろ!(こいつ、どこかで見たような……)」

「うるせえ、チンピラが!」

チンピラ「あ!?」

「気をつけるのはお前だろ! ちゃんと前見て歩けや、このボケが!」

チンピラ「てめえ、なめてんじゃねえぞ!」

28 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:06:55.848 fXh8MW8N00202 20/30

バキィッ!

「うぐっ!」ドザッ

チンピラ「ケッ、この酔っ払いが!」ペッ

「……」

「もう、どうでもいい……」

「どんだけ歌おうが、どんだけファンがつこうが、もう償えない……」

「あの時ちゃんと歌わなかった時点で……俺は終わってたんだ……」

30 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:09:33.200 fXh8MW8N00202 21/30

「このまま……野垂れ死にしよう……」





「ちゃんと歌いなさいよ」





「……え?」

33 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:12:20.089 fXh8MW8N00202 22/30

「なんでこんなとこで寝ちゃってるの」

「君は……?」

「覚えてない? ほら、合唱コンクールの練習で、よくあなたを注意してた……」

「え!? まさか……なんで君がこんなところに……!」

「ま、いいからいいから。って怪我してるじゃない。大丈夫?」

「ああ、大丈夫……立てるよ」

34 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:15:27.809 fXh8MW8N00202 23/30

バーに入った二人。

「しっかし、驚きだよねー。昔の同級生がスーパースターになってるんだもん」

「最初は分からなかったわ」

「……あれから、どうしてたんだ?」

「どうしてたって?」

「ほら、転校してから……」

「んー、普通に勉強して、進学して、就職して……今は結婚して一児の母やってます!」

「そっか、結婚してたのか。おめでとう」

「ありがとう」

36 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:17:53.972 fXh8MW8N00202 24/30

「あの時は本当にごめん……」

「なにが?」

「俺が君に反発したことがきっかけで、イジメみたいなことが起きちゃって……」

「ああ、あんなの全然気にしないで!」

「今思えば、私だってギャーギャーやかましかったしね。あれじゃ煙たがられるのもムリないって!」

「もっとも今でも、子供にはちゃんと勉強しろ、パート先ではちゃんと仕事しろ、とうるさいけど」フフッ

「ハハハ、君らしいや」

38 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:20:34.488 fXh8MW8N00202 25/30

「えーっ! 私のこと好きだったの!?」

「ああ、だから俺は君に反発してたんだ。子供特有の、好きだからいじめるってやつ」

「惜しいことしたわー、もっと早く知ってれば日本一の歌手が夫になったのに」

「日本一の歌手が、日本一の夫になれるとは限らないけどな」

「君は今の旦那さんに出会えてよかったんだよ。あらためて祝福するよ」

「どうもどうも」

「だけど、今は主婦やってる君が、どうして夜に一人で……?」

「……」

40 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:24:24.461 fXh8MW8N00202 26/30

「実は、今日私とあなたが会ったのは偶然じゃないの」

「え?」

「あなたの過去を調べた社長さんが、私に連絡をくれて、わざわざ家まで頼みに来たのよ」

「“彼を立ち直らせられるのは、恐らくあなただけだ”って」

「社長が……!」

「……ふん、あの人は金儲けの道具を手放したくなかっただけだろう」

「ううん、違うわ。あの人はもう、あなたが自分の手を離れてもいいっていってた」

「だけど、歌は辞めて欲しくないって……自分もファンだからって……」

「私だって、あの社長さんがいい人だと判断したからこそ、その頼みに応じたのよ」

「お金だって一円ももらってないしね」

「……」

42 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:27:10.235 fXh8MW8N00202 27/30

「だけど、いいのか? 旦那さんもお子さんもいる身で、こうやって俺と飲んで……」

「ウチの旦那、私以上にあなたのファンだから。その点は問題なし」

「給料日にはあなたのグッズ買って……しょっちゅう喧嘩してるわよ」

「今日だって正直にあなたに会いに行くことを伝えたら、私が浮気する心配なんか一切せず」

「サインもらってきてくれ、ってうるさかったのよ。やんなっちゃう」

「サインなんかでよければいくらでもするよ」

「ありがと~!」

44 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:30:09.063 fXh8MW8N00202 28/30

「……ちゃんと歌ってよ」

「!」

「色々と騒ぎ起こしちゃったけどさ。それでもまだあなたを待ってる人が大勢いるんだから」

「私だってあなたを待ってるんだから」

「……」

「ああ、俺……ようやくちゃんと歌える気がする」

「俺……歌うよ!」

47 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:34:32.521 fXh8MW8N00202 29/30

ワァァァ… ワァァァァ…


「ファンのみんな!」

「このところ色々とお騒がせして、本当に申し訳なかった!」

「だけど俺はもう大丈夫!」

「今日からは心機一転、これまでのことを反省して……ちゃんと歌わせてもらう!」

「それじゃ、一曲目からいってみよう!」



ワァァァァ……!!!

50 : 以下、5... - 2020/02/02(日) 20:38:33.646 fXh8MW8N00202 30/30

~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪

ワーワーッ! キャーキャーッ!

子供「かっこいいー!」

「うおおおおおおおっ! まさか復活してくれるなんて! 復活を生で見れるなんて!」

「しかも歌唱力さらに上がってないか!? 俺もう死んでもいいかもぉぉぉぉぉ!!!」

「はぁ……死ぬんならちゃんと保険金おりる死に方してよね」

「……」

(男君……ちゃんと歌えるようになったじゃない)







~おわり~

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