~♪ ~♪ ~♪
男子「……」パクパク
女子「あ!」
女子「ちょっと男子ー! ちゃんと歌いなさいよ!」
女子「あんた今、口パクだったでしょ! 分かるんだからね!」
女子「みんながちゃんと歌わないと、合唱コンクールで優勝できないじゃない!」
男子「ちっ、うるせーな……」
女子「なんかいった!?」
男子「いってねーよ」
女子「他にもちゃんと歌ってないのいるでしょ! 分かってんだからね!」
元スレ
女子「ちょっと男子ー! ちゃんと歌いなさいよ!」 男(あの時ちゃんと歌ってれば……!)
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1580637723/
級友A「あいつ、うざくね?」
級友B「いちいちうるせえのな!」
級友C「だけど、あいつ怖いからなぁ……」
男子「ふん、お前らあんな女にビビってんじゃねえよ」
級友A「でもよ……」
男子「次の練習の時、俺がガツンといってやるよ」
~♪ ~♪ ~♪
男子「……」パクパク
女子「ちょっと! あんたまたちゃんと歌ってないでしょ!」
女子「いい加減にしてよ! 優勝できなかったらあんたのせいだからね!」
男子「うるっせぇんだよ!!!」
女子「!」ビクッ
女子「な、なによ……」
男子「すぐちゃんと歌ってない歌ってないって……」
男子「お前は俺の母ちゃんでも先生でもねえだろ! お前なんかに指図される筋合いねーんだよ!」
女子「なんですって……」
級友A「そうだそうだ!」
級友B「いいぞー!」
級友C「お前いつもうぜぇんだよ!」
女子「……!」
男子「これで分かったろ! お前みんなに嫌われてんだよ! 一人で空回りしやがってよ!」
女子「う、うう……」
「いいぞー!」
「もっといってやれ!」
「たしかに……ちょっとうるさいところあるよねー」
ワーワー!
この日を境に、女子のうるささは影をひそめ――
それどころか、クラスメイトから疎外されるようになり、
やがて、父親の事情で転校していった。
数年後――
男(あの時のことを思い返すと、今でも心が痛む)
男(俺は……あの子のことが好きだったんだ)
男(だから、注意されたくて、怒られたくて、気を引きたくて、反発して……)
男(なのに俺のせいで、あの子は皆からいじめられるようになって……)
男(あの時ちゃんと歌ってれば……!)
男「母さん!」
母「なに?」
男「俺、歌を習いたいんだけど……」
母「歌を? なにいってるの、いきなり……。そんな暇があったら塾に行きなさいよ」
父「まあまあ、いいじゃないか。せっかく何かやりたいなんて言い出したんだ。やらせてやろう」
父「ただし、やるからには中途半端じゃダメだ。それにちゃんと勉強もするんだぞ」
男「ありがとう、父さん!」
講師「腹式呼吸をして、お腹から声を出しましょう」
男「はいっ!」
男「~♪ ~♪ ~♪」
講師「おおっ……! いい! いいですよ! あなたには才能がある!」
男「ホントですか!?」
男(よーし、もっとちゃんと歌えるようになってやる!)
やがて――
男「……」ジャンジャカジャン
男「~♪ ~♪ ~♪」
通行人「へぇ~、いい歌だな」
学生「あれ誰? もしかしてプロ?」
JK「なにあの人、すごい歌上手なんだけど!」
ある日――
スカウト「このところ、毎日ここで路上ライブをなさってますよね」
男「ええ、それがなにか?」
スカウト「実は私、こういう者でして」スッ
男(この会社は……最近人気歌手を多く輩出してる……)
スカウト「あなたには才能があります。ぜひプロ歌手としてデビューしてみませんか?」
男「……」
男「ちゃんと歌える場所を提供してくれるのであれば、喜んで」
社長「君が路上ライブをやっていて、我が社のスカウトの目に止まったという……」
男「はじめまして」
社長「歌は聴かせてもらったし、動画も見せてもらった」
社長「君はダイヤの原石……いや、すでにダイヤモンドそのものだ」
社長「君の歌に私の力が加われば、間違いなく音楽界のトップに上り詰めることができる」
男「……」
社長「反応が薄いねえ……興味ないかね?」
男「あまりありませんね」
社長「君はそもそも、なぜ歌を歌っているのだ?」
社長「皆に自分の歌を聴いて欲しい、皆から注目されたい、という思いからではないのか?」
男「そんな大層な動機じゃありません。ちゃんと歌いたいから、です」
社長「ちゃんと歌いたい? 今でも十分すぎるほどちゃんと歌えてると思うがねえ」
男「……」
社長「まあいい。我が社の音響設備は充実している。ちゃんと歌える環境があることは保証するよ」
男「よろしくお願いします」
まもなく男はデビューする。
男「~♪ ~♪ ~♪」
ワーワーッ! キャーキャーッ!
業界人A「これは……ものすごい新人が出てきたもんだな」
関係者B「ああ……“令和の歌王”が早くも決まっちゃったかもな」
社長「すごいじゃないか。予想以上だ」
社長「君のデビュー曲、ベテランや人気アイドルを抑え、オリコンはダントツの一位だ」
社長「次のライブはいつか、ツアーはやるのか、といった問い合わせが殺到してるよ」
男「そうですか」
社長「……嬉しくないのかね?」
男「嬉しいですよ」
社長「これから君にはますます稼いでもらう。忙しくなるだろうが、よろしく頼むよ」
男「はい、ちゃんと歌わせて頂きます」
男「~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪」
ワァァァァァ…
キャーッ!
その後も、出す曲出す曲が全て大ヒット。
男の歌手としての地位は、もはや不動のものとなっていった――
社長(しかし、なぜだ……)
社長(なぜ彼はあんな満たされない表情をしているのだ……)
ファンA「男さーん!」
ファンB「今日の歌も最高でした!」
警備員「下がって下がって! ほら、押さない! 押さないで!」
キャーキャーッ! コッチムイテー! カックイー!
男「……」
男(どいつもこいつも……俺のことなんかなんも分かってねえくせにギャーギャー騒ぎやがって……)
男(俺はこんな騒がれていい人間じゃねえんだよ)
男(ちゃんと歌わなかった……クズなんだよ!)
売れれば売れるほど男は荒んでいき、次第に騒動を起こすようになっていった。
『ライブをドタキャン!』
『ファンに冷淡な態度……渡された花束を手ではたく……』
『大物司会者に“おっさんは風呂場で歌ってろ”と暴言!』
『動画サイトに数分間無言のままの動画を配信……奇行のワケは……!?』
『酔っ払ってセクハラ! 示談金は……』
社長「……」
男「……」
社長「どうしたというんだ。いくら君に実力と実績があろうと、これ以上はかばい切れんぞ」
男「なら、かばわなくていいですよ」
社長「なに?」
男「俺は歌手辞めます。あんたとの縁もここまでだ」
社長「辞めてどうするというんだ」
男「さぁ? テキトーに生きていきますよ」
社長「……」
男「ウ~イ……。俺なんてどーなったって……」ヨロヨロ…
ドンッ!
チンピラ「ってーな……気をつけろ!(こいつ、どこかで見たような……)」
男「うるせえ、チンピラが!」
チンピラ「あ!?」
男「気をつけるのはお前だろ! ちゃんと前見て歩けや、このボケが!」
チンピラ「てめえ、なめてんじゃねえぞ!」
バキィッ!
男「うぐっ!」ドザッ
チンピラ「ケッ、この酔っ払いが!」ペッ
男「……」
男「もう、どうでもいい……」
男「どんだけ歌おうが、どんだけファンがつこうが、もう償えない……」
男「あの時ちゃんと歌わなかった時点で……俺は終わってたんだ……」
男「このまま……野垂れ死にしよう……」
「ちゃんと歌いなさいよ」
男「……え?」
女「なんでこんなとこで寝ちゃってるの」
男「君は……?」
女「覚えてない? ほら、合唱コンクールの練習で、よくあなたを注意してた……」
男「え!? まさか……なんで君がこんなところに……!」
女「ま、いいからいいから。って怪我してるじゃない。大丈夫?」
男「ああ、大丈夫……立てるよ」
バーに入った二人。
女「しっかし、驚きだよねー。昔の同級生がスーパースターになってるんだもん」
女「最初は分からなかったわ」
男「……あれから、どうしてたんだ?」
女「どうしてたって?」
男「ほら、転校してから……」
女「んー、普通に勉強して、進学して、就職して……今は結婚して一児の母やってます!」
男「そっか、結婚してたのか。おめでとう」
女「ありがとう」
男「あの時は本当にごめん……」
女「なにが?」
男「俺が君に反発したことがきっかけで、イジメみたいなことが起きちゃって……」
女「ああ、あんなの全然気にしないで!」
女「今思えば、私だってギャーギャーやかましかったしね。あれじゃ煙たがられるのもムリないって!」
女「もっとも今でも、子供にはちゃんと勉強しろ、パート先ではちゃんと仕事しろ、とうるさいけど」フフッ
男「ハハハ、君らしいや」
女「えーっ! 私のこと好きだったの!?」
男「ああ、だから俺は君に反発してたんだ。子供特有の、好きだからいじめるってやつ」
女「惜しいことしたわー、もっと早く知ってれば日本一の歌手が夫になったのに」
男「日本一の歌手が、日本一の夫になれるとは限らないけどな」
男「君は今の旦那さんに出会えてよかったんだよ。あらためて祝福するよ」
女「どうもどうも」
男「だけど、今は主婦やってる君が、どうして夜に一人で……?」
女「……」
女「実は、今日私とあなたが会ったのは偶然じゃないの」
男「え?」
女「あなたの過去を調べた社長さんが、私に連絡をくれて、わざわざ家まで頼みに来たのよ」
女「“彼を立ち直らせられるのは、恐らくあなただけだ”って」
男「社長が……!」
男「……ふん、あの人は金儲けの道具を手放したくなかっただけだろう」
女「ううん、違うわ。あの人はもう、あなたが自分の手を離れてもいいっていってた」
女「だけど、歌は辞めて欲しくないって……自分もファンだからって……」
女「私だって、あの社長さんがいい人だと判断したからこそ、その頼みに応じたのよ」
女「お金だって一円ももらってないしね」
男「……」
男「だけど、いいのか? 旦那さんもお子さんもいる身で、こうやって俺と飲んで……」
女「ウチの旦那、私以上にあなたのファンだから。その点は問題なし」
女「給料日にはあなたのグッズ買って……しょっちゅう喧嘩してるわよ」
女「今日だって正直にあなたに会いに行くことを伝えたら、私が浮気する心配なんか一切せず」
女「サインもらってきてくれ、ってうるさかったのよ。やんなっちゃう」
男「サインなんかでよければいくらでもするよ」
女「ありがと~!」
女「……ちゃんと歌ってよ」
男「!」
女「色々と騒ぎ起こしちゃったけどさ。それでもまだあなたを待ってる人が大勢いるんだから」
女「私だってあなたを待ってるんだから」
男「……」
男「ああ、俺……ようやくちゃんと歌える気がする」
男「俺……歌うよ!」
ワァァァ… ワァァァァ…
男「ファンのみんな!」
男「このところ色々とお騒がせして、本当に申し訳なかった!」
男「だけど俺はもう大丈夫!」
男「今日からは心機一転、これまでのことを反省して……ちゃんと歌わせてもらう!」
男「それじゃ、一曲目からいってみよう!」
ワァァァァ……!!!
~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪
ワーワーッ! キャーキャーッ!
子供「かっこいいー!」
夫「うおおおおおおおっ! まさか復活してくれるなんて! 復活を生で見れるなんて!」
夫「しかも歌唱力さらに上がってないか!? 俺もう死んでもいいかもぉぉぉぉぉ!!!」
女「はぁ……死ぬんならちゃんと保険金おりる死に方してよね」
女「……」
女(男君……ちゃんと歌えるようになったじゃない)
~おわり~