男「とりあえず何故欲しいのかということは置いといてだな」
人魚「はい…」
男「お前半分魚じゃん?」
人魚「さ、魚は…魚ですけど…」
男「ぬるぬるして生臭さそう」
人魚「…な、生臭さ…」
男「青魚系は特に臭いがとれないし」
人魚「あ、青魚ではないですぅ…」
元スレ
人魚「私…男さんの赤ちゃんが欲しいの…ダメ…ですか?」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1243902750/
男「それにあれだ。交尾っても卵にかけるだけだろ?ただのオ○ニーじゃん」
人魚「そんなことはないです!」
男「うるさい。魚が調子に乗るんじゃない。お前らはばらまくことしかしないんだからな」
人魚「わ、私は…」
男「人間でいうなら育児放棄だぞ?まぁ、たかが魚類に育魚なんて求めるのは酷かもしれないが」
人魚「卵胎生…」
男「だいたいな。赤ちゃんが欲しいとか…無責任にもほどがあるぞ?これだから最近のDQNどもは…」
人魚「………」
人魚「魚だって子育てする種類はいますよ!」
男「ふーん」ほじほじ…
人魚「…も、もう少し真面目に…あと鼻をほじるのは下品…」
男「うるさい。気になるんだから仕方ないだろ?それにちゃんとティッシュでほじほじしてる」
人魚「人前でってことです…」
男「いるのは魚だろ?」
人魚「…私は人魚ですよ…」
男「たいして変わんないだろが」
人魚「そ、そんな…」
男「まぁ、魚が掛かるまで暇だし話を聞いてやるよ」ちゃぽん…
人魚「…あ、えっとですね。子育てする魚は三種類くらいに別れます」
男「ふーん?」
人魚「一つは見守り型とでもいいますか、親が外に生み付けた卵を守ります。生まれてから世話をするかどうかは…」
男「へー」
人魚「あの…ちゃんと聞いてます…?」
男「そうだ、お前ミミズ食うか?」
人魚「いりません!」
男「魚の餌と言えばこれなのに」
人魚「…はぁ…」
人魚「ちゃんと聞いてくださいよぉ…」
男「わかった、わかったからすりつくな。服が生臭さくなる」
人魚「………」ずーん
男「ん?どうした?」
人魚「いえ…」
男「…ねり餌食うか?」
人魚「いりません!」
男「…ねり餌もダメか」
人魚「一体何がしたいんですか!?」
男「いやお前も餌にひっかかるのかと思ってな」
人魚「………」
男「しかし、釣れないな…」
人魚「~♪」ちゃぱちゃぱ…
男「…やめろ。魚が逃げんだろが」
人魚「す、すみません…」
男「しかし…ここほんとに魚いるのか?」
人魚「いますよ」
男「お前のことじゃねーよ」
人魚「私のことじゃありませんよ!私は魚じゃないです!」
男「四捨五入すれば魚だろ」
人魚「…し、四捨五入…」
男「暇~」
人魚「じゃ、じゃあさっきの話の続きを…」うずうず…
男「興味ない」
人魚「………」ずーん
男「そうやって知識をひけらかす奴って魚でもいるんだなぁ…聞き手の気持ちを考えろ」
人魚「…うっ」
男「…ふぁ~…眠い…おい、魚。かかったら起こしてくれ。俺は寝る」
人魚「え?」
男「よろしくな…」
人魚「………」
男「………」
人魚「あ!そうだ!今のうちに…」ごそごそ…
男「………」
人魚「あれ?おかしいです…脱げない…」ぐいぐい…
男「…ん?かかったのか?」むくっ…
人魚「あ」
しーん
人魚「…えっとその…」
男「半魚人…かかったら起こせって言ったよな?」
人魚「か、かかったような気がして…えへへ…」
男「…やはり魚は魚か。使えない」
人魚「………」
男「こんなにズボンを濡らしやがって…」ふきふき…
人魚「す、すみません…」
男「どういう起こし方だよ」
人魚「…え、えーと…」
男「…さてと、そろそろ帰るわ。いくら待ってても釣れないし」
人魚「え!?」
男「お前、あんまり調子に乗って人前に出るなよ?捕まったら見世物屋行きだぞ?」
人魚「み、見世物…」
男「そんじゃな」
人魚「あ…ま、待って!」グイ
男「…うお!?」ずるっ…
ばしゃーん!
男「………」
人魚「すみません、すみません!」
男「クソ半魚人…まさか水の中に引きずり込むとはな…」
人魚「わ、わざとじゃないんです!ゆ、許してくだ…」
男「うるさい。黙れ」
人魚「………」ずーん
男「…俺は帰る。今度は邪魔すんなよ?」
人魚「は、はい…」
男「クソ…びちゃびちゃだ」
人魚「…ぅ…」
―1週間後―
男「さて…今日こそは必ず…」
ざぱっ…
人魚「………」
男「…またお前か…」
人魚「あ、あの…これ…」
男「ん?」
ピチピチ…
人魚「こ、この間のお詫びに…」
男「………」
人魚「どうぞ…」
男「…悪いがこの魚はいらないな」
人魚「…え?で、でも魚が欲しいんじゃ…?」
男「俺は魚が欲しいんじゃない。魚を釣りたいんだ」
人魚「?」
男「魚が欲しいだけならスーパーにいくらでもあるだろ?釣り上げることに意味がある…」ガチャガチャ…
人魚「…それじゃ…これは…」
ピチピチ…
男「放流だな」
人魚「…わ、わかりました…」
男「さて…今日の俺は一味違うぞ…」ちゃぽん
人魚「………」
人魚「………」ちゃぷちゃぷ…
男「尾ヒレを動かすな。魚が逃げるだろ?」
人魚「あ…すみません…」
男「しかしお前も暇な奴だな…何かすること無いのか?」
人魚「…すると言っても…泳ぐくらいしか…」
男「却下だな。おとなしくしてろ」
人魚「………」
男「………」
男「そういやこの池ってお前しか半魚人はいないのか?」
人魚「…は、半魚人はやめてくださいよ…」
男「一緒だろ?半分魚で半分人間だし」
人魚「…イメージってものがありませんか?」
男「イメージも何も目の前にいるだろ?」
人魚「それはそうですけど…」
男「で、お前の仲間はいないの?」
人魚「……はい…」
男「ふーん」
人魚「………」
男「………」
人魚「…あの!…な、仲間がいない訳ではないですよ?」バシャ!
男「やめろ。魚が逃げる」
人魚「す、すみません…」
男「…なら仲間はどこにいるんだ?」
人魚「え?…えっと…たぶん海に…」
男「確かに半魚人と言えば海のイメージがあるな…ならなんでお前こんなとこにいんの?」
人魚「えぇ…話せば長くなりますが…」
男「あー、ならいいや」
人魚「…そんな…」
人魚「聞いてくださいよぉ…!」
男「わかった、わかったからすりつくな!また濡れるだろうが!」
人魚「…あ…はい…」
男「少しは自分が魚だってことを理解して行動しろよ」
人魚「だから私は魚じゃないですよ…」
男「俺から見れば手の生えた魚だな」
人魚「………」ずーん
男「で、海水魚がなんでこんなとこに?」
人魚「あ…き、聞いてくれるんですか!?」
男「待ってる間暇だしな」
人魚「…あ、ありがとうございます!」
人魚「えっと…さかのぼること数百年前…」
男「誇張すんなよ。数百年前って…」
人魚「え?誇張なんかしてませんよ?」
男「え?」
人魚「私…このが出来た頃からここにいますから…」
男「………」
人魚「どうしました?」
男「お前…見かけによらず、すげぇ年寄りだな」
人魚「…そういう言い方はないんじゃないですよ…」
人魚「あの頃は私も若くて…」
男「若くてって…お前何歳なんだ?」
人魚「さぁ?…数えてませんし、よくわかりませんね…」
男「とんでもない化け物だな…」
人魚「…ば、化け物…」
男「まぁ、考えてみればお前半魚人だし…人間とは違うわな」
人魚「…それはそうですけど化け物は…ひどい…」
男「それで?」
人魚「…え?」
男「続きは?」
人魚「あ、あぁ…はい…えーと…」
人魚「私は地上に興味があったので川を上ってきたんです…」
男「なるほど、鮭か」
人魚「違いますよ!」バシャ!
男「はいはい…騒ぐなよ。魚が逃げるだろ?」
人魚「う…うぅ…そ、そしたらですね?川の近くで何か工事してたんですよ」
男「工事?」
人魚「…治水工事っていうんですか?このため池を作ってたんです…そこに私は…」
男「ふらふら入り混んで閉じ込められたのか…」
人魚「…はい…」
男「なんてアホな半魚人」
人魚「…うぅ…」
男「なんで今まで逃げ出さなかったんだ?」
人魚「私は水の外には出れませんし…」
男「体が乾けば足が生えるんじゃないの?」
人魚「生えませんよ!」
男「え?生えないの?」
人魚「生えるならどんなにいいか…」びちびち…
男「尾ヒレじゃなくて足なら人間とほとんど一緒なのにな」
人魚「はい…あ、でもあんまり長い間水に浸かってないと干からびてしまいます…」
男「干物か」
人魚「…うっ…」
人魚「雨の日に這って出てみたり…」
男「………」
人魚「跳ねて移動しようとしてみましたが…」
男「………」
人魚「地面が擦れて痛くて…」
男「………」ぷるぷる…
人魚「…どうしました?」
男「…想像したらかなりマヌケで…」
人魚「…私は必死だったんです!」バシャ!
男「まるでムツゴロウ…ぷぷ…」
人魚「…うぅー…!」
男「…ふー…悪かったな」
人魚「ほんとですよ!」
男「悪かったって…じゃあ、運んでもらうとかは?」
人魚「それが…外に出た時に見られてたらしくて…」
男「…確かに見て気持ちのいいもんではないだろうけどな。ピチピチ跳ね回ってる半魚人なんて」
人魚「…河童呼ばわりされて…それから誰もこの池に近づかなくなって…
男「あぁ、確かにそういう伝説あるな。河童がいるから気をつけろとかそんなヤツ」
人魚「…河童じゃないのに…」
男「しかし俺も見たかったな…」
人魚「?」
男「陸に上がった河童とやらを…」
人魚「…うっ…!」
男「それにしても…マヌケな河童が今や池の主か…」
人魚「河童はやめてくださいよぉ…」
男「すりつくなって言って…お!引いてる引いてる」
人魚「…ひどい…」
ちゃぽん…スカッ
男「…おい…お前が水面を揺らすから勘違いしただろーが!」
人魚「し、知りませんよ…」
男「まったく…池の主なら少しくらい俺に釣果をよこせっての」ちゃぽん
人魚「…そ、そう言われても…」
男「釣れねぇな…」
人魚「………」ちゃぱちゃぱ…
男「おい、やめ…」
人魚「あ…す、すみません…癖で…」
男「…まぁいいや。そろそろ帰るし」
人魚「え!?」
男「そんじゃ元気で…」
人魚「あ…ま、待って!」グイ
男「うお!?」
ばしゃーん!
男「学習しろよ!」
人魚「す、すみません!すみません!」
男「…このクソ河童め…ここに来るたびずぶ濡れにするつもりか?」
人魚「そんなつもりは…ただ…」
男「んー?」
人魚「寂しくて…」
男「寂しいって…いまさらだろ?」
人魚「…寂しさなんて忘れたつもりでした…」
男「………」
人魚「…だけど男さんと話すようになって…」
男「………」
人魚「…今度いつ来てくれるのか楽しみで…でも待ってる間が不安で…寂しくて…」
人魚「…そういう訳です…」ちゃぽ…
男「………」
人魚「………」のそのそ…
男「…待て」
人魚「はい?」
男「なんで俺の自転車に近づくんだ?」
人魚「…え?こういう時って普通は連れてってくれるんじゃ…」
男「ふざけんな!誰が半魚人なんか連れてくか!」
人魚「…うぅ…鬼…」
男「こいつ…」
ちりんちりん…
人魚「うわぁ…早いですねぇ!」
男「………」
人魚「…うふふ…やっと…やっとあの池から…!」
男「はぁ…」
ちりんちりん…
人魚「…あ、あの…」
男「なんだよ?」
人魚「…肌が渇いてきたので水が欲しいんですが…」
男「後少しだし我慢しろよ」
人魚「え!?…ひ、干からびてしまいます…!」
男「残念だが水なんか持ってない。勝手に干からびろ」
人魚「…ひ、ひどい…」
男「ほら、着いたぞ?」
人魚「…川?」
男「元気でな」
人魚「…ま、待って!」
男「…今度はなんだよ…」
人魚「男さんの家に連れてってくれるんじゃないんですか?」
男「海に帰れ…半魚人」
人魚「…海…」
男「元気でな」
人魚「あ…ま、待って!」
男「…だからなんなんだよ…」
男「母なる海はこの先だ。早く竜宮城でもポセイドンの神殿でも好きなとこに行け」
人魚「………」
男「おい」
人魚「海は…怖いです…」
男「はぁ?」
人魚「さ、鮫とかシャチとかいるんですよ!?」
男「お前はそこで暮らしてたんだろ?」
人魚「それは…そうですけど…」
男「よし、なら平気だ。頑張れ。お前ならたくましく生きて行ける。…それじゃあな」
人魚「ま、待って!」
男「いい加減しつこいぞ!」
人魚「海をナメたらいけませんよ!?危険がいっぱいなんですよ!?」
男「その心は?」
人魚「男さんの家でぬくぬくしたいなぁ…」
男「却下。甘ったれてんじゃねぇぞ半魚人」
人魚「うぅ…男さんは私に鮫やシャチに食べられてしまえと…」ちらっ
男「………」
人魚「ほ、ホームステイなんてのはどうですか?ほら、人間社会を学んでこれからの生活に役立てるとか…」ちらっ
男「………」
人魚「ぅ…あ、あとは…えっと…」
男「………」
人魚「お願いしますぅ…」
男「なんでお前は俺ん家にこだわるんだ?」
人魚「男さんって優しいじゃないですか?だからなんとかなると思って…」
男「褒めてもダメだ」
人魚「あ、宛てがないんですよぉ…ぐす…」
男「泣いても無駄だ」
人魚「…ならどうすればいいんですか…」
男「海へ帰れ」
人魚「そ、そんなぁ…」
男「何が不満なんだよ?」
人魚「だ、だって…もうずいぶんたってるんですよ?」
男「お前らからしたらたいした年月じゃないだろ?」
人魚「…でも…こんな淡水慣れした泥臭い体で…仲間に会いに行けというんですか!?」
男「淡水のくだりがよくわかんないけど生臭いの間違いだろ?」
人魚「…ひどい…」
男「ほら、海に出れば臭いも気にならなく…」
人魚「…お願いしますよぉ…」
男「……はぁ…」
人魚「うふふ…」
男「体洗ったら帰れよ。海に」
人魚「うわぁ…これが家ってものですか…」のそのそ…
男「おい、はい回るな。汚れんだろ?」
人魚「…足の無い私にどうしろと…」
男「逆立ちでもしろ」
人魚「…うっ…は、運んでくれても…」
男「不便な奴だな…」グイ
人魚「あ!お、尾ヒレは丁寧に扱ってくださいね!擦れたら嫌ですよ!?」
人魚「…せ、狭い…」
男「一人暮しのアパートなんてこんなもんだ。文句あるなら今すぐ海に帰れ」
人魚「…広い大理石のお風呂を期待したのに…」
男「………」
人魚「ま、まぁ…これはこれで…えへへ…」
男「さっさと洗い流せよ?俺だってびしょ濡れなんだからな」
人魚「…洗ってくれないんですか?」
男「…たわしで良いなら洗ってやるよ」
人魚「…え、遠慮します…」
男「あの半魚人…一体なにが目的なんだよ…」
男「………」ぶるっ…
男「寒い…」
『キャアアア!!』
男「!」
ガチャ!
男「どうし…」
シャアァァア…
人魚「熱い…熱いですぅ…!」バタバタ…
男「………」
人魚「お、男さん!助け…に、煮えちゃい…あぁあ!!」バタバタ…
男「…この馬鹿半魚人め…」
キュキュ…
ぴちょん…ぴちょん…
人魚「はぁ…はぁ…お、恐ろしい目にあいました…」
男「40度で煮えるわけがないだろ…」
人魚「あ、熱かったんですよ!」
男「はぁ…水は右を捻ればでてくる。それじゃな」
人魚「あぁ!?」
男「今度はなんだ?Gか?」
人魚「み、みみ見てください!!」
男「…半魚人の体に興味はない」
人魚「ち、違いますよ!!ヒレが…!私の尾ヒレが…!」
男「うるさいな。暴れて傷でもついたのか?」
人魚「尾ヒレが無くなって…!あ、足が生えました…!」
男「なん…だと…?」
シャッ!
人魚「私の尾ヒレがぁ…!」ガバッ!
男「お、おい!抱き着くな!や、やめろって…!」
人魚「うえぇぇ…ヒレがぁ…!」
男「や、やめ…うお!?」ツルッ
ガンッ!
男「説明してもらおうか」
人魚「…私の尾ヒレ…」
男「何故足が生えたのか」
人魚「足より私の尾ヒレですよ!どうしてくれるんですか!?」
男「俺に聞くな!しらねーよ!」
人魚「うぅ…ヒレが…」
男「…そんなに尾ヒレが大事なのか?」
人魚「…仲間の間でも綺麗なヒレと評判の…私の自慢の尾ヒレでした…」
男「…そ、そいつは残念だったな…」
人魚「…くすん…」
男「あれだ、ひょっとして水に浸ければもどるんじゃないか?」
人魚「ほんとですか!?」
男「熱いってことは水中で生活出来ないってことだから、半魚人は足を生やして逃げるのかもしれん」
人魚「やって見ます!」のそのそ…
男「何やってんだ?」
人魚「え?」
男「足があるんだから立てよ。歩けよ」
人魚「どうやってですか?」
男「…どうやってと言われても…二本の足で大地に立てとしか…」
人魚「…こっちの方が楽です」のそのそ…
男「………」
人魚「ん…!」
男「………」
人魚「くっ…!」
男「…立てばいいのに…」
人魚「み、見てないで手伝ってくださいよ!」
男「…なんのための足なのか…はぁ…ほら」
キュキュ…ジャアア…
人魚「み、水…早く水を…」もぞもぞ…
男「…芋虫みたいだな」
人魚「…と、届かない…」
男「………」
男「それじゃあ水かけるぞ?」
人魚「お願いします…!」
パシャ!
人魚「ん…」
ビリッ!
男「あ!?俺のスウェットが!?」
人魚「あ!?や、やりました!戻りましたよ!?」
男「…あぁそう…よかったな」
人魚「どうですか、この尾ヒレの美しさ!」
男「…しらねーよ…」
人魚「うふふ…」
男「生えてよかったな。それじゃ出てってくれ」
人魚「え!?ここまでしておいて追い出すと…」
男「俺がシャワーを浴びるんだよ!」
人魚「あ、お背中流しますね?」
男「遠慮する」
人魚「そう言わずに…」
男「お前に洗われたら生臭くなるだろ?」
人魚「…ひ、ひどい…」
男「部屋でおとなしくしてろ」
人魚「はい…」のそのそ…
男「…しかしほんとに水でなんとかなるとは…あいつは呪泉郷にでも浸かったのか?」
人魚「………」キョロキョロ
人魚「…これが人間の部屋…」
人魚「んー…いろいろありますね…」
人魚「ん?…あれは…!」のそのそ…
男「何やってんだお前…」
人魚「これが布団ですかぁ…ワカメとか藻よりふかふかしてますね…えへへ」ごろごろ…
男「…おとなしくしてろって言ったよな?」
人魚「はい…ですからこうして…」ごろごろ…
男「粘液でべっとべとじゃねぇか!今晩どうやって寝ろってんだよ!?」
人魚「…え?」
男「自分が魚だってことを忘れんなよ!」
人魚「わ、私は魚じゃ…」
男「下半身は魚だろ?」
人魚「…う…はい…」
男「ぬらぬらしてるよな?」
人魚「…はい、表面の保護のために…」
男「なんでそこまでわかっててこういうことすんだよ!」
人魚「ふかふかしてたので…わ、我を忘れて…」
男「魚ごときが布団だとか数億年早いんだよ!せめてぬらぬらが無くなるまで進化してから転げ回れよ!」
人魚「す、すみません…」
男「…この馬鹿半魚人め…」
人魚「………」ずーん
男「まったく…」
人魚「す、すみません…」
男「幸いカバーだけだったからな。洗えば済む」
人魚「あ!ならお詫びに私が…」
男「生臭くなるって言ってんだろ?さっきから何度も何度も…」
人魚「…は、はい…」
男「はぁ…それじゃ、行くぞ?」
人魚「どこにですか?もう暗いですから危ないですよ?」
男「お前を川に放流しにいくんだよ」
人魚「…え?」
人魚「い~や~ですぅ!!」ガシッ!
男「ふざけんな!淡水がどうとかもシャワーで綺麗さっぱり洗い流したろ!?」ぐいぐい
人魚「…ま、まだ鱗の隙間に…」
男「黙れ!この!柱から手を離せ!」
人魚「嫌です!離しません!」
男「てめぇ…!」
人魚「こ、こんな時間に女の子を川に放つなんて…鬼ですよ!?」
男「半魚人が何をぬかす」
人魚「…とにかく嫌です!」ピチピチ
男「………」
人魚「…うぅー!」ピチピチ
男「それ…威嚇のつもりか?」
人魚「か、噛み付きますよ!?」ピチピチ
男「………」
人魚「やっぱり男さんならわかってくれると思ってましたよー」
男「…なら柱から手を離してみろよ」
人魚「い、嫌です!…お、お気に入りなんです!」
男「………」
人魚「ほ、ほんとですよ?」
男「いまさら引っぺがしたりしねーよ」
人魚「…ほっ…」
男「…今晩だけだからな?」
人魚「え?…そ、そんな…!」
男「てめぇ…」
男「………」トントン…
ぐつぐつ…
人魚「何してるんですか?」のそ…
男「飯の用意」
人魚「…へー」
男「そういえばお前は何食うんだ?やっぱり魚を丸呑みか?」
人魚「そ、そんなことないですよ?」
男「ふーん…ほれ」ぽいっ
人魚「あ!切り身!」
男「…サバを生でイケるのかお前は…」
人魚「おいしいですよ?」もぐもぐ…
男「頂きます…」
人魚「………」じー
男「…なんだよ?」
人魚「おいしいんですか?」
男「おいしいかはわからんが…少なくとも俺は食える」もぐもぐ…
人魚「へー…」
男「…欲しいのか?」
人魚「え?…えぇまぁ…このサバはあんまり好きではないので…」
男「さっきうまいとか言ってただろ?」
人魚「サバはおいしいですけど、このサバは鮮度が悪いです…」
男「あぁ…普段はおどり食いだもんな」
人魚「い、いただきます…」ぷるぷる…
男「………」
ぼとっ…
人魚「…あ!また…うぅ…なんで手づかみじゃダメなんですか…?」
男「日本はお箸の文化だからな。ホームステイなら習って帰れ」
人魚「うー…」ピチピチ
男「ん?」
人魚「…そーっと…そーっと…」ピチピチ
男「なるほど…集中するとヒレが動くのか…どうでもいい知識が増えたな」
ぼとっ…
人魚「あぁ…」ずーん
男「スプーン使うか?こうやってすくって使うヤツ」
人魚「初めからそれくださいよ!」
男「甘ったれるな、半魚人。何事も経験だろ?」
人魚「………はい…」
男「魚ごときが人間様に逆らおうとは…笑止」
人魚「…なんか…いつもよりいじわるになってませんか?」
男「まぁ…布団を汚され、家に居着かれ、文句を言われもすればなぁ……身に覚えがあるだろ?」
人魚「ぅ…す、すみません…」
人魚「………」もぐもぐ…
男「どうだ?」
人魚「…うーん…もう少しもらって良いですか?」
男「別に良いが…」
人魚「…すみません…」もぐもぐ…
男「………」
人魚「も、もう少し…」
男「欲しいなら初めから欲しいですって言えよ」
人魚「え?」
男「何抔目だと思ってんだ?」
人魚「…えーと…3抔目?」
男「…4抔目だ。半魚人」
人魚「…え、えへへ…」
人魚「男さん、私…眠くなってきたんですが…」
男「風呂場で寝ろ」
人魚「え?…ふ、布団は?」
男「べとべとにされてたまるか。風呂場なら水もあるし…」
人魚「…でも…」
男「換気扇もあるから臭いも気にならない。まさにうってつけ」
人魚「………」
男「悪く思うな。俺の安眠のためだ」
人魚「…はい…」
ぴちょん…
人魚「とは言われましたが…」のそ…
人魚「ここ…狭いし…暗いし…固いし…」
人魚「…布団がいいです…!」
ギィィ…ズル…びちゃ…ズルズル…
人魚「………」キョロキョロ
男「………」
人魚「あ、いた。男さ~ん!」びちゃ…びちゃ…
男「…うお!?」ガバッ!
人魚「…!」びくっ!
男「…やれやれ…とんだ悪夢を…」
びちゃ…
男「…!」くるっ!
人魚「ど、どうしました?」
男「…お前か…!!」
人魚「…ひどい…」
男「………」
人魚「あんな狭くて暗い場所に閉じ込めるなんて…」
男「お前がホラー映画みたいにはい出て来るからだろうが!」
人魚「だ、だって…」
男「風呂場に閉じ込めてもがたがた音はするわ…俺を呼ぶ声は聞こえるわ…完全に寝不足だぞ!?」
人魚「…ひ、ひどい…一晩中助けを求めたのに…」
男「あれは…不気味過ぎるだろ…」
人魚「…うっ…!」
男「はぁ…それじゃ、行くぞ?」
人魚「……!」
男「…一晩だけって言ったよな?」
人魚「さ、さぁ?」
男「その柱から手を離してさっさと海に帰れよ」
人魚「…嫌です」
男「…おい…」
人魚「ぜ、絶対離しませんよ?」ピチピチ
男「いい加減帰れよ…居着くつもりか?」
人魚「…そ、その通りです!」ピチピチ
男「開き直りやがって…!」
人魚「うー…」ピチピチ
男「これ以上この家に何を求めるんだよ?」
人魚「…男さんの赤ちゃんが欲しいです…」
男「…マジで言ってたのか?それ」
人魚「…はい」
男「半魚人は繁殖のためなら相手を選ばないのか…」
人魚「そ、そんなことはないです!ちゃんと選びます!それと半魚人はやめてくださいよ!」
男「ならなんで俺なんだ?」
人魚「…そ、それは……男さん、覚えてませんか?」
男「なにが?」
人魚「男さん、あの池で溺れたことありませんか?」
男「ん?…確かあったような…」
人魚「その時助けたのが何を隠そうこの私です!」ピチピチ
男「そうか。で、それが繁殖となんの関係がある?」
人魚「そうかって…も、もう少し感謝してくれても良くないですか?」
男「よく覚えてないしなぁ…まぁほんとに助けてくれたならありがとう」
人魚「…もう少しなんとかなりませんか?」
男「なんとかと言われてもな…」
人魚「…うっ…!」
人魚「…あの頃は素直でいい子だったのに…」
男「覚えてないな」
人魚「こんなにひねくれるなんて…どこで道を踏み外したんですか?」
男「知るか!いいから続きを話せよ!」
人魚「…ぅ…はい…私は溺れていた少年を見て戸惑いました。何故ならそれまで私は人間に避けられて…」
男「長くなりそうだな。簡潔に頼む」
人魚「…そ、そんな…」
男「半魚人の心境とかあんまり興味ないし」
人魚「………」
人魚「…いろんな葛藤がありましたが、私は結局少年を助けました」
男「それが俺か…」
人魚「えぇ…でも私は急いで隠れようとしました。なぜなら…」
男「…河童だからな」
人魚「か、河童じゃないですよ!」
男「要は人間に避けられてたからだろ?」
人魚「…そ、そうですけど…」
男「いちいち突っ込むなよ。話が続かないだろ?」
人魚「…男さんが腰を折るんじゃないですかぁ…」
男「わかった。黙って聞いてる」
人魚「初めからそうしてくださいよ…」
男「………」
人魚「…えと…あの、どこまで話ましたっけ?」
男「………」
人魚「…男さん?」
男「………」
人魚「…あの…男さん?」
男「…ふぁ~…」
人魚「…ひ、ひど…」
男「助けて逃げようとしたとこまで話した」
人魚「え?…あ…す、すみません…ありがとうございます」ピチピチ
男「………」
人魚「それでですね?私は逃げようとしたんですが…男さんは手を離してくれなかったのです」
男「………」
人魚「甘えんぼさんですね…うふふ」
男「………」イラッ…
人魚「どうしようかと迷っている間に男さんは目を覚ましてしまって…私はびっくりしました」
男「………」
人魚「くりくりした目が可愛いかったです。いまは面影もありませんが…」
男「………」イライラッ…
人魚「唖然とした私に男さんは『ありがとうお姉ちゃん』と言ってくれました…」
男「………」
人魚「それが今ではありがとうも言えない子…」
男「いちいちうるせーな!簡潔にって言ってんだろが!三枚におろすぞクソ半魚人!」
人魚「…ご、ごめんなさい!すみません!」ペコペコ…
男「つまりあれだな?助けたお礼を言われて嬉しかったと、そういうことだな?」
人魚「簡潔に言えばそうです」
男「お前な…!」
人魚「その時私は思ったのです…こういう素直な子供が欲しいなぁ…」
男「………」
人魚「でも相手いないし…あ、でもこの子の子供なら…うふふ…とまぁこんな感じに」
男「なんて安易な…」
人魚「…今思えば愛情に餓えていたのですね…」
男「お前動機がひど過ぎるぞ?」
人魚「ど、動機はひどくても気持ちはしっかりしてます!」
男「どうだかな…」
人魚「ほ、ほんとですよ!?毎回見てたんですから…男さんのこと…」
男「…毎回?」
人魚「水の中から…」
男「…まさかあのでっかい魚はお前か!?」
人魚「え?はい…20センチ越えた魚は私のご飯ですし…」
男「くそ!騙された!…なんのために俺は…!!」
人魚「え?え?あの…あれ?」
男「ちきしょう…」
人魚「あの…すみません?」
男「………」
人魚「あ、それでですね?」
男「あぁ…」
人魚「?…は、初めは確信が無かったんです…」
男「………」
人魚「溺れてたの助けたのはかなり昔でしたし…それで思い切って声かけてみて…」
男「はぁ…」
人魚「ずいぶんひねくれてましたけど…私を見て怖がらなかったし…あぁ、きっとこの人があの子だって…」
男「はぁ~あ…」
人魚「…あ、あの…聞いてくれてます?」
男「そんなことで付き纏われてるのかよ…こんなん呪いだろ…」
人魚「…の、呪いとか…うぅ…私はただ…」
男「それでいつまで俺ん家に居着くつもりなんだ?」
人魚「心が通じ合うまでです!」
男「ありえない。ありえないから婿捜しは海でしろよ」
人魚「…うっ…!」
男「しかし20年近く前のことを今でもか…お前が一途だっていうのは認めるよ…」
人魚「え?…20年前?」
男「ん?」
人魚「…確か50年くらい前だったはずですが…」
男「…な…に…?」
人魚「え?人違い?」
男「50年前なんて俺は生まれてすらいない。ご苦労さん、さっさと帰れ」
人魚「…え?嘘?…だって…あれ?」
男「どうりで俺が覚えてないわけだ。納得、納得」
人魚「…う、嘘です…!」
男「残念ながら…」
人魚「…そ、そんなぁ…」
男「まぁ…長い魚人生、いろんなことがあるさ。ほら、川まで送ってやるから…」
人魚「………」
男「おい…何やってんだよ?」
人魚「い、嫌です!帰りません!」
男「なんでだ?人違いだったんだしもう用事はないだろ?」
人魚「…ぅ…」
男「はぁ…」
人魚「か…」
男「ん?」
人魚「勘違いから始まる子作りだって…あ、ありだと思います!」ピチピチ
男「無い」
人魚「………」
男「………」
人魚「…ちょ、ちょっとくらいはありだと…」
男「無い」
人魚「い、嫌です!帰りません!」
男「めんどくさい半魚人だな…この…!」
人魚「なんでもしますから…ここに置いて下さい…お願いしますぅ…」
男「………」
人魚「お、男さん…」
男「すりつくなって……はぁ…ダメだって言っても聞かないんだろ?」
人魚「男さん!」ピチピチ
男「もしもし?上〇動物園ですか?えぇ…珍しい魚が…」
人魚「や、やめてぇえ!!」ピチピチピチ!
男「うるさいな。だって言ったって聞かないし」
人魚「さ、さすがにそれはひどいですよぉ…!」
男「まぁ、フリだけどな」
チン…
人魚「…ほっ…」
男「とりあえず害は無いみたいだけどな?」
人魚「は、はい!」
男「下手な真似したら動物園送りだからな?」
人魚「………」
男「それでも良いなら置いてやる」
人魚「ちょ、ちょっと考えさせて下さい…えぇと…」
男「………」
旦
人魚「よ、よろしくお願いします…!」
男「帰んないのかよ…はぁ…」
男「とりあえず置いてやるけど…タダで置いてやれるほど裕福じゃない」
人魚「なんでもします!頑張ります!」ピチピチ!
男「ふーん…何かできんのか?」
人魚「川とか池とか海に連れてっていただければ…お魚とか捕まえられます!」ピチピチ!
男「………」
人魚「…つ、釣竿要らずですよ?」
男「まるで鵜飼いだな…ってかそのまま帰れよ」
人魚「…い、嫌です!」
男「………」
男「ま、魚には困らないと…そういうことだな?」
人魚「はい!…あ!今から一潜りしてきますか?」ピチピチ
男「…いちいち連れきゃなんないのか…めんどくさい…」
人魚「そ、それは…」
男「…半魚人だもんな」
人魚「違いますよ!」
男「あ、河童か」
人魚「人魚ですぅ…!」
男「わかった、わかった。冗談だからすりつくなって。ぬとぬとするだろ?」
人魚「…ぅ…」
男「………」カチャカチャ…
じゃー…
人魚「………」ちらっちらっ…
男「…なんだよ?」
人魚「…て、手伝いますか?」
男「お前流しに届かないだろ?」
人魚「椅子を使えば…大丈夫です」
男「…わかった。やってみ」
人魚「わかりました」のそのそ…
男「やめろ。はいずるな。床が汚れるだろ?」
人魚「…ど、どうしろと…」
男「椅子なら持ってきてやる。おとなしくしてろ」
人魚「あ…ありがとうございます」ピチピチ
男「ほら、椅子」
人魚「………」ちらっちらっ…
男「…なんだよ?」
人魚「す、座らせてくれませんか?」
男「………」
人魚「見てて下さい!水関係ならば私の得意分野です!」ピチピチ!
男「おい…あんまり尾ヒレ振ると…」
がたっ!
人魚「あ…!?」
どてっ!
男「馬鹿だなぁ」
人魚「い、痛い…」
男「悪かったな…」
人魚「…うぅ…」
男「お前が魚だってこと忘れてた…」
人魚「…ひりひりしますぅ…」
男「洗剤か…」
人魚「…あ、あれはなんなんですか!?毒ですか!?」
男「しかし弱っちいヤツだな」
人魚「あれはなんなんですかぁ…鱗が…」
男「泡で遊んだお前が悪い。魚の下半身に泡なんぞつけたらただれるに決まってるだろ…」
人魚「…鱗…」
男「水でよく流したし、あとは治るまでほっとくしかないな…」
人魚「…うっ…」
男「…はぁ…」
男「掃除の手伝いを頼んだけどさ…」
人魚「…んっ…!」のそ…のそ…
男「やっぱいいや」
人魚「…え?」
男「布団の移動にどれだけ時間かけてんだよ」
人魚「も、もう少しで…!」のそ…のそ…
ヒョイ
人魚「あ…」
男「なんか見ててすごく悲しくなるからやめろ」
人魚「………」
人魚「………」
男「昼飯たべないのか?」もぐ…
人魚「はい…」
男「どうした?」
人魚「私…今日何にもしてないですよね…」
男「そうでもない」
人魚「え?で、でも…」
男「皿洗いそっちのけで遊んで、洗剤で悶えた」
人魚「………」
男「布団を運ぼうとして尺取り虫のようなこともしてたな」
人魚「…うっ…!」
人魚「私…ほんとに役立たずで…」
男「ん?役に立とうとしてたのか?」
人魚「え!?」
男「俺は遊んでるのかと…」
人魚「…ひ、ひどい…」
男「………」
人魚「…慣れない陸上のあんなに一生懸命…男さんの鬼…!」
男「…お前な…!」
人魚「ぅ…はい?」
男「役に立とうとすんならなんで足を生やさないんだよ!」
人魚「…足?」
男「昨日お湯に浸かって生やしただろーが!」
人魚「お湯…あ!生えましたね!」
男「生えましたね!…じゃねーよ!なんで水陸両用できんのにつねに魚モードなんだよ!?」
人魚「…?」
男「この馬鹿半魚人め…!陸に上がったら尾ヒレは邪魔だろーが!足を生やせよ!」
人魚「…ヒレ…」ピチピチ…
男「そうだ、それだ」
人魚「…そうでもありませんよ?」ピチ…
男「!…三枚におろすぞ…クソ半魚人…!」
人魚「ひっ!?」ビクッ!
シャアァアァァ…
人魚「い~や~ですぅ!」
男「黙れ!半魚人!陸上生活ってのをお前に教えてやる!」
人魚「…ぁあ…!ゆ、湯気!湯気がでてま…熱いぃ~!」バシャバシャ!
男「こら!あばれんな!」
人魚「熱いですぅ!鬼~!悪魔~!」ジタバタ…
男「おとなしく足を…」
ツルッ!
男「…うお!?」
ガン!
男「クソ…暴れやがって…とにかくそれが陸上生活用仕様だ」
人魚「…ぅう…」
男「手伝いするなら二足歩行を覚えろよ」
人魚「…こんな気持ち悪い下半身にまた…」
男「魚の下半身の方がかなり気持ち悪いぞ?生臭いし」
人魚「わ、私は人魚です!人魚には人魚のプライドがあるんです!」
男「陸で水を干された魚よろしくピチピチするのが人魚とやらのプライドか?」
人魚「…ううっ…!」ジタバタ
男「別に強要するつもりはないが、二足歩行は覚えた方がいいぞ?」
人魚「う、嘘です!さっきだって嫌がる私を無理矢理…!」
男「悪かったな」
人魚「…ほんとにそう思ってます?」
男「あぁ」
人魚「………」
男「…よし、まずはハイハイでもして足の感覚を…」
人魚「ぜったい悪かったとか思ってませんね!?」
男「…うるさいな。黙れ」
人魚「…ひどい…うぅ…」
男「こうやって膝と手をついて…」
人魚「…こうですか?」
_ ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい! おっぱい!
⊂彡 谷間! 谷間!
男「…そ、そんな感じだ」
人魚「どうしました?」
男「なんでもない」プイ…
人魚「…そうですか?」
男「………」
人魚「…やっぱりなにか…」
男「…うるさい!黙れ!」
人魚「は、はい…!」
男「……くそ…半魚人なんかになんであんなものが…!」
男「…そうしたらハイハイと…」のてのて…
人魚「…はい…は…あ!?」のて…
ドテッ!
男「両足同時に動かしてどうすんだよ。片方づつだ」
人魚「は、はい…えーと…」のて…
男「そう、そんな感じだ」
人魚「見てください!…陸でこんなに早く動けます!」のてのてのて…
男「…よかったな」
人魚「はい!えへへ!」のてのてのて…
男「そんなに楽しいか?ハイハイって…」
男「次は膝で立ってみろ」
人魚「はい…よいしょ…っこらせ」
男「ババァの掛け声かよ…」
人魚「何がです?」
男「…お年寄りは大変だな」
人魚「…はぁ?」
男「こっちの話。その格好でちょっと歩いてみ」
人魚「………」
男「どうしたんだ?」
人魚「…あ、歩くってどうやるんですか…?」
男「…どうやってって…」
人魚「…手もつかずに歩くなんて…無理ですぅ…」
男「…気合いと根性だ。一、二歳の頃なんて覚えてない」
人魚「…男さぁん…」
男「じゃあ俺が手を引っ張ってやるから足を交互に…」
人魚「…ん…!」
男「…早くしろよ」
人魚「や、やってますけど…動かないんで…す…!」
男「………」
人魚「んぅー!」
男「お前な…体重移動ってのをしろよ…」
人魚「…ぅ?」
男「右に傾いてみ」
人魚「…こう…?」
男「バランスをとりながら左足を動かす」
人魚「…左……あぁ!?う、動く!動きます!」
男「…はぁ…」
人魚「~♪」とことこ…
男「そんなもんだな。じゃあ立て」
人魚「…え?」
男「まだ膝から下があんだろ?」
人魚「…も、もういいんじゃ…ほら、こうやって移動できますし…」とことこ…
男「後少しだし頑張れよ」
人魚「…えー…」
男「てめぇな…」ガシッ!
人魚「!?や…な、何を…!?」
男「ふん!」ぐいっ
人魚「あ!?」
人魚「た、高い…!」
男「お前…意外に軽いな。…まぁいいや。そのまま足を床に…」
人魚「お、降ろしてくださいぃ!」ジタバタ!
男「おい!あばれんな!」
人魚「い~や~ですぅ!」げしげし!
男「痛て!ちょっと待て!蹴るなって…!」
人魚「降ろしてー!」ジタバタ!
男「だから…危な…」
ぐらっ…
男「うお!?」
人魚「降ろし…あぁ!?」
ドテッ!
人魚「痛い…いた…あれ?痛くない…」
男「ぐっ…俺が下敷きになったからだ…!」
人魚「…男さん…私を庇って…」
男「いいから退け!」
人魚「…は、はい…」
男「クソ…」
男「いきなり持ち上げたのは悪かったけどな、あばれんなよ!」
人魚「た、だって…高くて…」
男「あぁ?」
人魚「…高くて怖い…です…」
男「…あの高さで?」
人魚「は、はい…」
男「はいずり回ってたからな…」
人魚「ひ、膝くらいなら我慢できます!」
男「だったらあと4、50センチ頑張れよ」
人魚「…無理です…」
男「所詮魚か…たかが4、50センチの壁を乗り越えられないとは」
人魚「…うっ!」
男「いや魚にも劣るな。トビウオなんて10Mくらいまで飛び上がるらしいのにな」
人魚「…ううっ!」
男「歩行練習は終わりだな。水持ってきてやるよ」
人魚「…や、やります…」
男「ん?」
人魚「や、やってみせます!人魚がトビウオに負ける訳には…い、いきません!」
男「…よくわからんが、頑張る気になったのか?」
人魚「は、はい!」ジタバタ
男「………」
人魚「ゆ、ゆっくり!そーっとゆっくりですよ!?」
男「お前…持ち上げるの結構辛いんだぞ?」
人魚「で、でも…」
男「はぁ…なるべくゆっくりにしてやるよ」
人魚「…お、お願いします…」
人魚「………」
男「目を開けろよ」
人魚「…嫌です…」
男「やる気出したんじゃないのかよ…ほらちゃんと支えててやってるから」
人魚「…うー……ひ!?」ビクッ!
男「おい!抱き着くな!生臭く…ん?」
人魚「た、高いぃ…」
男「…生臭くなくなって…」
人魚「…うぅ…」ずびずび…
男「この!粘液が無いからって違う汁を擦り付けんな!」
人魚「うえ?」ずず…
人魚「…ぅ…」ふらふら…
男「ハイハイの時とはえらいテンションの違いだな…」
人魚「手…離しちゃ嫌ですよ?」
男「離そうにも爪まで食い込みそうなくらい握られてるしな。もう少しソフトに掴めよ」
人魚「…だ、だって…」
男「自転車の補助輪外される子供みたいだな、お前」
人魚「…ぅ…」ふらふら…
男「まぁ、こんなもんだろ」
人魚「…お、終わりですか!?」
男「よちよちでも歩けるようになったし、俺の手も痛い」
人魚「…よかったぁ…」
男「慣れれば一人で歩けるようになる。頑張れ」
人魚「はい!」
男「あぁ」
人魚「終わった~♪」のてのて…
男「…結局移動に使うのはハイハイなのかよ…」
ガチャ…
人魚「あ、お帰りなさい」のそ…
男「………」
人魚「うふふ♪ヒラメ~♪ニシン~♪」がさがさ…
男「…おい、半魚人」
人魚「な、なんです?これは私のもうごはんですよ!?あげませんよ!?」
男「生魚なんかいらねーよ!勝手に買い物袋漁っといてなにが私のごはんだ!」
人魚「…お、お腹減ってて…えへへ…」
男「…それに…」
人魚「はい?」ピチ…
男「なんで魚に戻ってんだよ!」
人魚「わ、私はこっちの方がいいです…」
男「…床を生臭いぬらぬらで汚す方がか?」
人魚「…あ…す、すみません!…今拭き取りますので…」のそ…
男「やめろ。被害が広がるだろ。…まったく…」ぐい…
人魚「あ…」
ぷらーん
男「風呂場でおとなしくしてろ」ズルズル…
人魚「あ!ひ、ヒレ!尾ヒレ擦ってますよぉ!」
男「出かけてくる」
人魚「どこへですか?」
男「大学」
人魚「…大学?」
男「学生だからな。あんまり魚状態ではい回るなよ?掃除が大変だ」
人魚「………」ピチ…
人魚「…ぅ…」
男「…わざわざ嫌いなシャワー浴びてまでなんでついてくるんだよ…」
人魚「…ひ、一人は寂しいです…」
男「………」
男「来るなって何度も言ったのに…」
人魚「…す、すみません…」
男「しかし俺より小さいくせにジーンズの丈が合うなんてな…」
人魚「…ざらざらします…これ…」
男「…半魚人のくせに…」
人魚「私は人…もがっ?」
男「人前で人魚だとかいうな。頭おかしいと思われるぞ?」
人魚「…男さんだって…は、半魚人とか言ったじゃないですか…!」
男「…うるさい。黙れ」
人魚「…り、理不尽です…」
『おぉぉい!』
男「めんどくさいのが来たな…」
友「おぉぉい!男ぉ!おっはーよぉう!」
男「うるさい。黙れ」
友「相変わらず無駄にクールな…おや?」
人魚「…!」ビクッ
友「だれこの外人さんは?」
男「…知り合いだ」
友「知り合い?男の?マジで?」
人魚「………」コク
友「へぇ…」にへら…
男「…行くぞ?講義に遅れる」
友「そうだな!うん!」
男「お前のことじゃない」
友「冷たいなぁ…君もそう思うよね?」
人魚「え?…は、はい…」
男「てめぇ…」
友「だよね!ってか日本語上手いね?そういえばどこの人?」
人魚「えぇと…?」
男「…こっち見るな。恩知らずめ」
人魚「…そ、そんな……」
友「ねぇ、ねぇ?教えてよぅ…」にへら
人魚「…うぅ…その…」
友「あ、ごめんね?まだ名前すら言ってないのに…俺は友って言って…」
男「ろくでもない奴だ。行くぞ」
人魚「あ、はい…」
友「ちょっ…男!待っ…!」
男「なんでお前までここにいるんだよ?」
友「いいじゃないの!ね?」
人魚「…よ、よくわかりません…」ちらっ…
男「………」
友「そういえばさっきは自己紹介が途中に……ぺらぺら…」
人魚「……ぅ…」
男「…はぁ…」
友「飯だぁ!お二人さん!行きましょう!」
男「今日は午前中だけなんでな。俺は帰る」
友「ぬふっ…なら…」
人魚「あ!わ、私も帰ります!」
友「…えー…じゃ、俺も一緒に帰ろっかなー」
人魚「…え?…お、男さん…!」
男「んー?」
人魚「…た、助けて…」
男「………」
友「みんなでどっかで飯食べない?」
男「友」
友「ん?」
男「お前はいらないらしい」
人魚「…す、すみません!」
友「…え………」
人魚「今日はひどい目に会いました…学校は恐ろしいところです…」
男「友は女と見れば見境がないからな」
人魚「…あの人は苦手です…」
男「上手くたらしこめば子供の父親になってくれたかもしれないぞ?」
人魚「ぜ、絶対嫌です!」ピチピチ!
男「そ、そうか…」
人魚「人魚は一途なんです!…私はずっと男さんだけを…」
男「すりよるな。それにお前は勘違いで押しかけてきただろ?」
人魚「…た、たまにそういうことも…」
男「………」
人魚「え、えへ」
男「ごまかすんじゃない」
男「………」
人魚「………」ちらっちらっ
男「おい、半魚人」
人魚「え!?」
男「何か気になるならちらちら見ないではっきり言えよ。気になって仕方が無い」
人魚「…は、はい…えーと…それ何ですか?」
男「求人誌。バイトしようと思って」
人魚「バイト?」
男「誰かさんがやたら食うから食費がな」
人魚「…誰かさんて誰ですか?」
男「お前だ。お前。なにとぼけてんだよ」ピシピシ…
人魚「あ!や、やめて!ヒレはやめてくださいー!」
男「魚は結構高いんだぞ?毎回毎回バカスカ食いやがって」
人魚「…す、すみません…あ!なら私自分で捕ります!」ピチピチ
男「お前を川まで連れてくのがめんどくさいんだけどな…ま、バイトより断然いいな…」
人魚「そうです、そうです」
男「今から行くか?」
人魚「はい!」
ちりんちりん…
男「着いたぞ?さぁ、思う存分食ってこい」
人魚「泳ぐの久しぶりです~♪」
ちゃぷ…
人魚「~♪」バシャ!
男「………」
ちりんちりん…
人魚「男さーん!オイカワが捕れました!」
しーん
人魚「あれ?…男さん?」
ちゃぷちゃぷ…
人魚「…男さんの自転車が…ない…?」
人魚「…そ、そんな…」
人魚「…ぅう…」
―――
店員「7円のお返しになります」
男「どうも」
店員「ありがとうございましたー」
ウィーン…
人魚「…ん…!」のそのそ…
人魚「…あ!?」
ズルッ
人魚「あぁ!?」
ごろごろ…ドテッ!
人魚「…うぅ…」
ちりんちりん…
人魚「!」
男「お前何やってんだ?こんなとこで?」
人魚「お、男さん!!」ピチピチ!
男「土手を転げ落ちて遊んでたのか?人に見つかったらお前、新種の生物として捕まるぞ?」
人魚「男さん…!男さん…!」ピチピチ!
男「擦り傷だらけになるまで…そんなに面白かったのか?」
人魚「うぅえ…うえぇぇ…」
男「お、おい!なんだ?いきなり…」
人魚「…お…ござ…ん…うえぇ…!」
男「お前は俺に置いてかれたと思ったのか?」
人魚「…ぐす…はい…」
男「…土手は登ろうとしてたのか…」
人魚「…はい…」
男「………」
人魚「置いてかれたんじゃなくてよかったです…ほんとに…よかっ…うぇ…」
男「馬鹿だな。お前は」
人魚「だ、だって…男さん…黙っていなくなるから…」
男「俺はコンビニにビニール袋を買いに行ってただけだ。冷凍しとけば手間が省けると思ってな」
人魚「…ぅう…一言くらい…」
男「悪かったな」
人魚「…嘘です…男さんは絶対悪かったなんて思ってません…」
男「…いや、今回はさすがに悪かったって思ってる」
人魚「…ほんとですか?」
男「本当だって…しつこいな」
人魚「当たり前です!す、捨てられたと思ったんですよ!?」
男「捨てるというか、放流するときはさすがに『さよなら』とか『元気でな』くらい言うぞ?」
人魚「い、嫌ですよ!?絶対嫌ですよ!?」
男「安心しろ。当面は放流する予定はないから」
人魚「…ほっ…」
男「帰ってくるのに放流しても無駄だし」
人魚「…わ、私が大事とか大切とかそういうのはないんですか!?」
男「大事も何も勝手に居着いたんだろうが」
人魚「…それはそうですけど…」
男「…ま、少しくらいはある」
人魚「ほ、ほんとですか!?」
男「昔飼ってた金魚くらいだけどな」
人魚「…うっ…ひ、ひどい…」
男「さて、帰るか」
人魚「え?…あ、あの…私まだ一匹しか…」
男「今日はもうやめとけよ。擦り傷だらけだし」
人魚「…でもごはんが…」
男「悪かったって言ったろ?傷が治るまでちゃんと出してやるよ」
人魚「…あ、ありがとうございます…!」
男「元はと言えば俺のせいだしな。仕方ない」
人魚「…でも…嬉しいです…!」
男「…俺の何処を気に入ったんだかな…この半魚人は…」
人魚「…どうしました?早く帰りましょう!お腹ペコペコです!」
男「わかった。わかったからすりつくなって…ったく」
人魚「…す、すみません…」
ちりんちりん…
男「こんな草だらけになりやがって…」
人魚「…が、頑張ったんですよ…でも傾斜が…」
男「とりあえずシャワーでゴミを落とせ。それから……」
人魚「…どうしたんですか?」
男「…魚に付ける薬なんかあるのか?」
人魚「…薬…?」
男「まぁいい。ネットで検索しとくからゆっくりゴミを落とせ」
人魚「はい、わかりました」のそのそ…
ぴちょん…
男「洗い流したか…よし、こっちにこい」
人魚「…なんですか?その袋…」
男「魚にはこいつが効くらしい」
人魚「…はぁ…?」
男「…どれどれ…傷は…」
ぺりっ…
人魚「ギャアアアアァ!!」
男「うお!?」
人魚「うえぇぇ…!!」
男「お、おい…どうした!?傷口は触ってない…」
人魚「鱗がぁ…鱗…うえぇぇえん!」
男「鱗…?」
人魚「…こ、ここ…ぐす…」くい…
男「あ!わ、悪かった!剥がしちまったのか!?」
人魚「うえ…痛い…ひどい…鱗…ぐす…」
人魚「ひどいですよ!鱗を剥がすなんて…私が何をしたんですか!?」ピチピチ
男「悪かったって…」
人魚「…うぅ…新しいの綺麗に生えてきてくれるかなぁ…」なでなで…
男「…そこも消毒しといてやるから…」
人魚「…はい…」
男「余計な手間だったな…」
人魚「…男さんがぺりって剥がしたんじゃないですかぁ…」ピチピチ
男「うるさい。悪かったって言ってんだろ?それとじっとしてろ」
人魚「…ぅ…」
男「安心しろ。今度はうまくやる」
人魚「…お願いしますよ…?」
男「少ししみるかもしれないが、我慢しろ」
人魚「…しみる?…ちょっ、ちょっと待っ…」
ざりざり…
人魚「ギャアアアァァ!」ピチピチ!
男「うお!?今度はなん…」
ビチ!
男「ぐはっ!」
人魚「い、痛いです…痛いですぅ…!!」ピチピチ…
男「クソ半魚人…!」
人魚「ご、ごめんなさい!すみません!」
男「ビチビチ跳ね回りやがって…!痛てーな!」
人魚「…だ、だって…わ、私も痛くて…」
男「頑張れって言っただろ?」
人魚「…返事も聞かずに塗ったじゃないですかぁ…」
男「うるさい」
人魚「…ぅ…理不尽ですよ…」
男「どうせ『しみるのは嫌』とか言うつもりだったんだろ?」
人魚「え?そ、そんなことないですよ?」
男「………」
人魚「ほ、ほんとですよ?…ただ…えーと…あ!心の準備がですね…」
男「………」
人魚「そ、それより何を塗り込んだんですか?かなり痛かったんですけど…」
男「塩だ」
人魚「塩?」
男「殺菌作用がある。それに淡水魚が病気になったら塩を入れると効果的らしいしな」
人魚「私はもともとは海に…」
男「魚は魚だろ?それでちょうど家に粗塩があったから塗り込もうと…」さらさら…
人魚「なんでざりざりのまま塗り込んだんですか!?痛いに決まってますよ!」
男「海水魚なら濃度を濃くしないと効果ないと思って」
人魚「…だ、だからって…そのまんまはないですよぉ…!」
男「みたいだな。わかった水に溶かしてくる」
人魚「…初めからそう…うっ…!」
男「うーむ…だいぶ良くなったな」
人魚「はい!鱗もほら、綺麗なのが生えてきて…」
男「これならもう川に放しても平気だろう…」
人魚「え!?ほ、放流ですか!?い、嫌ですよ!?」
男「ちげーよ。飯だ、お前の」
人魚「…ごはん…あ、なるほど…」
男「そろそろ本格的に食費がヤバイ。行くぞ、半魚人。自分の飯は自分で捕れ。魚らしく」
人魚「…お、置き去りにはしませんよね?」
男「しつこいな。マジで放流されたいのか?」
人魚「と、とんでもないです!」
男「だったらさっさと準備しろ」
人魚「は、はい!」のそのそ…
ちりんちりん…
男「よし、行け。たらふく食ってこい」
人魚「はーい♪」バシャ…
男「…待ってるのも暇だし、釣りでもするか…」ガチャガチャ…
男「…今日の俺は二味違うぞ…くくくっ…」
ちゃぽん…
人魚『………』すぃー…
人魚『!』
魚 魚 魚
魚魚 魚 餌
人魚『~♪』
ぴくぴく…
男「お?引いてる引いてる!」
男「よーし…よーし!久しぶりのヒット…」
ぐぐ…
男「くっ…こ、こいつはデカイ…!…だが!たかが魚にッ!おぉおあぁぁ!!」
ザバァア!…ビチッ!
男「ッシャ…あ?」
人魚「…!!…い、いひゃい!!いひゃいへふぅ!!」ピチピチ…
男「………」
人魚「うぅ…く、くひが…うぇ…」ピチピチ…
男「何やってんだよ…半魚人…」
人魚「…うえぇぇ…」ピチピチ…
男「………」
男「この馬鹿半魚人が!」
人魚「うっ…!」
男「なんで魚じゃなくて餌のソーセージに食いつくんだよ!」
人魚「…だ、だって…ソーセージ…好きなんです…」
男「生魚以外食わせるべきじゃなかったな…味を覚えるとは始末に負えない」
人魚「…そ、そんな…!」
男「だいたいソーセージが海だの川だのを泳ぐわけがないだろ?」
人魚「…そうなんですか?」
男「この馬鹿半魚人め!あれは加工食品だ!」
人魚「す、すみません…」
男「で、口は?」
人魚「ちょっと痛いですけど平気です」
男「…そうか。しかしお前マジで気をつけろよ?俺以外に釣り上げられたら捕まるぞ?」
人魚「は、はい…」
男「ほら」
人魚「ソーセージ?」
男「怪我させちまったからな。お詫びだ」
人魚「…お、男さん…うっ…優しい…」
男「すりつくな。生臭くなるって何度も言ってんだろ?」
人魚「は、はい…」
ザパァ…
人魚「大漁ですー♪」
男「すげぇ捕ったな…」
人魚「えへへ…あ!男さんの分もありますよ?」
男「気持ちだけ貰っとく。あの川から捕った魚って腹壊しそうだし」
人魚「そ、そんなこと言われたら…食べる私はどうなんですか?」
男「お前は半魚人だから平気だろ?」
人魚「…ひ、ひどい…」
男「じゃ、帰るか。俺も腹減ったし」
人魚「…はい…」
男「まだ気にしてんのか?」
人魚「だ、だって…」
男「人間はデリケートなんだよ」
人魚「わ、私だってデリケートですよ!」
男「ピチピチ跳ねる魚を『生きがいいです♪』とかいいながらおどり食いするお前がか?」
人魚「…で、でも骨は食べてませんよ?」
男「そういう問題じゃない。硬くて食えないだけだろ?」
人魚「…うっ…」
男「………」カチャカチャ…
…ぐつぐつ…
人魚「………」ちらっ
男「………」トントン…
人魚「…あ、あの…」
男「なんだよ?餌は解凍してやっただろ?」
人魚「え、餌って…私はペットじゃないですよ!?」
男「似たようなもんだろ」トントン…
人魚「…ぅうー…!」ピチピチ
男「もしくは非常食か…」ボソッ
人魚「え!?」
男「………」トントン…
人魚「お、男さん!?男さぁん!!」
ぐつぐつ…
人魚「………」ガクブル…
男「冗談だって。人語を解する半魚人なんか食えるか」
人魚「ほ、ほんとですか…?」
男「あぁ。…いただきます」
人魚「よ、よかった…」
男「………」もぐもぐ…
人魚「あ!今度から冗談でもあんなこと言わないでくださいよ?ほ、ほんとに非常食にされるのかと…」
男「………」もぐ…
人魚「き、聞いてくれてますか!?わ、私はほんとに…」
男「うるさい。黙れ。俺はいま食事中だ」
人魚「…す、すみません…」
男「………」もぐもぐ…
男「ふー、食った食った」
人魚「…あの!男さん!さっきのことなんですが…」
男「まだ言ってんの?」
人魚「い、言いますよ!あれは言葉の暴力です。立派なDVですよ?」
男「DVだと…?」
人魚「そうです!家庭内暴り…」
男「ふざけんな!俺は半魚人を嫁に貰った覚えはねーぞ!?」
人魚「…い、いずれは…」
男「誰がなるかボケ!何が悲しくて半魚人なんかと家庭持ちになんなくちゃなんねーんだよ!」
人魚「…うっ…ひどい……で、でも諦めません!い、いつか必ず…!」ピチピチ
男「この野郎…!」
男「いい加減に俺以外で婿探ししろよ…」
人魚「い、嫌です!」
男「なんでだよ?」
人魚「私は男さん一筋なんです!」
男「普通の女の子なら嬉しいが、半魚人に言われてもな…」
人魚「お、お湯かければなれますよ?」
男「水かけたら魚に戻るだろーが。それに基本は魚モードで生活してるだろ?」
人魚「うっ…
男「俺に好かれたかったら、せめて足生やしたまま暮らすくらいしてみろよ」
人魚「…だ、だってお湯は熱いし…足も気持ち悪いし…」
男「………」
人魚「…あ!あれですよ!ヒレも含めてすべてを愛してもらいたい乙女心ですよ!」ピチピチ…
男「単なる思いつきだろ?それ」
人魚「ち、違いますよ?骨まで愛してというかヒレまで愛してみたいな…あ、後はえーと…」
男「………」
男「………」
人魚「何してるんですか?」
男「ん?ネット」
人魚「あ、網ですか!?」ビクッ!
男「そうきたか…さすが魚だな。…これはインターネットだ。なんてうか…つまり情報の塊」
人魚「へー…」しげしげ…
男「お前にしてやった塩消毒もこれで調べた」
人魚「へー…え!?…これが塗り込めとか言ったんですか!?この…!」ピチピチ!
男「やめろ、馬鹿半魚人。魚の治療法について調べただけだ。塗り込んだのは俺の意思だ」
人魚「…お、男さん……」ずーん
男「………」ポチポチ…
人魚「………」ピチピチ…
男「…興味あるのか?」
人魚「え?は、はい…」
男「やってみる…待て、そういやお前文字って読めるのか?」
人魚「文字…」
男「画面見てみ」
人魚「…この角度ではちょっと…」ピチピチ
男「………」
男「これで見れるだろ?」
人魚「すみません…わざわざ…」
男「そう思うなら足生やせよ」
人魚「そ、それは…ちょっと…」
男「………」
人魚「あ、これならだいたい読めますよ!」
男「英語?…なぜ?」
人魚「昔、勉強しました!川とか海とかに落ちてるいろんなの拾って…」
男「………」
人魚「これもちょっと読めます…あ!これも…」
男「…すげぇな…半魚人のくせに…」
男「ヨーロッパから中東…東アジアも少しか…」
人魚「…?」
男「お前どっから来たんだ?」
人魚「海ですけど…あ、池ですか?」
男「そういうんじゃなくて…まぁいいか、半魚人の出身地なんてどうでもいいし」
人魚「…ど、どうでもいい…」ずーん
男「お前が世界を巡ってきた冒険王半魚人なのはわかったが…なんで日本語は読めないんだ?」
人魚「…勉強する前に閉じ込められました…」
男「…そんなアホなのによく日本まで来れたな、お前…」
人魚「…あ、アホじゃないです!」ピチピチ…
男「そう思いたいならそう思え。アホ半魚人」
人魚「…う…うぅー…!」ピチピチ!
男「ってことは英語とかも話せるのか?」
人魚「By all means」ピチピチ…
男「こいつ…」
人魚「Wha…どうしました?」
男「…なんでもない」
人魚「そうですか?」
男「…あぁ…それでネットの使い方だけどな…」
人魚「あ、はい…」
人魚「~♪」ポチポチ…
男「くっ…こんなアホに俺は負けるのか…」ずーん…
人魚「………」ポチ…
男「………」
人魚「男さん、お腹空いたんですが…」
男「…冷凍庫から勝手にとれ」
人魚「…なんか…不機嫌…?」
男「うるさい。黙れ」
人魚「は、はい…」のそのそ…
男「………」
男「…もっと勉強するかな…」
『キャアアア…』
男「!」
男「どうし…」
人魚「さ、はなは…くっふいてひまひた!」ピチピチ!
男「………」
人魚「ふ、ふめはいへうぅ…!」ピチピチ…
男「面白いことしてんな…お前」
人魚「ひゃ、ひゃふへへふははいはぉ…」
男「はぁ…ちょっと待ってろ…」
ジャアァ…
人魚「し、死んだ魚が…わ、私に復讐したんですか!?」
男「凍った魚をいきなり食べようとするからだ」
人魚「お、恐ろしい…!」ガクブル…
男「解凍してやるからちょっと待ってろ…」
チン…
男「冷凍した魚はこうやって解凍して食えよ」
人魚「………」
男「どうした?」
人魚「…や、焼いてくれませんか?」
男「焼く?」
人魚「…お、おいしいですよね?焼き魚…」
男「………」
人魚「醤油とかかけて…あ、大根おろしもつけるともっと…」
男「…だんだん贅沢になって来たな、お前」
人魚「え?…えへへ…お、お願いします…」
男「…はぁ…めんどくさい奴だな…」ガチャガチャ
男「………」
ジュウゥ…
人魚「うふふ…やっぱり男さん優しいです…」ピチピチ…
男「ほら」ぽいっ…
人魚「はい?」
男「お前も見てないで大根おろしくら…」
人魚「え?」しゃりしゃり…
男「…なんで食ってんだよ…!」
人魚「え?だ、ダメでしたか!?」
男「大根おろしを自分で作れってことだよ!それをまるかじりとか…」
人魚「あ!は、はい…すみません…!」しゃこしゃこ…
男「食い物出されればなんでも食うのかお前は?」
人魚「…す、すみません…」しゃこしゃこ…
男「ふぁ…そろそろ寝るかな」
人魚「………」
男「ほら、早く風呂場に行け」
人魚「…はい…」
男「ん?どうした?」
人魚「え?いえ、別に?…おやすみなさい…」のそのそ…
男「?…あぁ」
ぴちょん…
人魚「……ごくり…」
キュキュ…シァアァ…
人魚「あ、熱い…!熱いぃ…!」ジタバタ…
男「…ぐぅ…ぐぅ…」
人魚「………」もぞ…
男「…ぐぅ…ぐぅ…」
人魚「…えへへ♪」
チチチ…
男「ふぁーあ…朝か…ん?」
人魚「…すぅ…すぅ…」
男「…あ?」
人魚「…んふふ…」もぞ…
男「なにやってんだてめぇは!?」ガバッ!
人魚「…ん…?」
男「布団が生臭くなんだろうが!どうしてく…れ?」
男「………」
人魚「あ…おはようございま…」
ゴン!
人魚「あぅ!?」
男「シャツ一枚でなにやってんだこの馬鹿半魚人!」
人魚「い、痛い…」
男「ってかなんで足生やして俺の布団にもぐりこんでんだよ!?あぁ!?放流すんぞ!?」
人魚「え!?…ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
男「ちょっ…ちょっと待て!すりつくな!やめろ!今はちょっ…この…!」
人魚「捨てないでぇ…」
男「なんのつもりだ…?魚野郎…」
人魚「…うぇ…捨てないで…えぐっ…」
男「………」
人魚「…で…捨て…い…うぇぇ…!」
男「…はぁ…捨てねーから泣き止めよ…」
人魚「ひっく…」
人魚「………」
男「で、なんのつもりだ?」
人魚「…そ、添い寝…」
男「…あ?」
人魚「…ひっ!?」ビクッ
男「半魚人が添い寝だと?わざわざ熱いシャワー浴びてまでか?」
人魚「う…は、はい…」
男「………」
人魚「…が、頑張りました…」
男「そんなことは聞いてない。それと頑張るところを間違ってる」
人魚「…うっ…」
男「なんで黙って入り込んだんだ?」
人魚「…お、男さんに怒られると思って…」
男「実行してもこうやって怒られてんだろボケ!」
人魚「…す、すみません…」
男「一体何考えてんだお前は?」
人魚「…ちょっとづつ距離を縮めて行けばいつかゴールイン出来るかなぁって…」
男「急に近づき過ぎだ!」
人魚「す、すみません…」
男「っとにふざけやがって…」
人魚「わ、私は大まじめですよ?」
男「うるさい。黙れ。はぁ…もういい。布団から出てこれを下にはけ」
人魚「はい…あ…でもごわごわしたのはあんまり…」
男「そんなことが要求出来る立場だと思ってんのか?半魚人…」
人魚「…うっ…わかりました…」
男「…二度と勝手に入り込むなよ?」
人魚「…た、たまには…」
男「却下だ」
人魚「…でも…」
男「なんで俺が半魚人と一緒に寝なくちゃならないんだよ」
人魚「わ、私が一緒に寝たいからです!」
男「ふざけんな、どこまで厚かましいんだ。クソ半魚人」
人魚「…うぅ…」
トントン…ぐつぐつ…
人魚「ごはん♪ごはん♪」
男「お前の分は作ってないぞ」
人魚「え!?」
男「さっきの罰だ」
人魚「そ、そんな!?ひど過ぎますぅ…!」
男「欲しかったら自分で作れ。ちょうど人型だし、ちょうどいい」
人魚「…自分で?」
男「そう」
人魚「……はい…」ずーん
人魚「…ほんとに作ってくれないんですか?」
男「………」もぐもぐ…
人魚「…うっ…」
カチャカチャ…
人魚「…わ、私にだって焼き魚くらい…!」
人魚「えーと…冷凍した魚を…この箱に入れて…」
ガチャ…パタン…
人魚「………」ワクワク…
人魚「も、もう解凍出来たかな?」
男「………」もぐもぐ…
ガチャ…
人魚「お、男さん!男さぁん!」
男「んー?うるさいな、なんだよ?」
人魚「さ、魚が解凍出来ません!」
男「知るか」
人魚「…た、助けてくださいよぉ…」
男「………」
人魚「…うっ…む、無視…!」
人魚「…ぐす…ひどいです…」
人魚「でも解凍しないとまた口に…ど、どうしよう…」
人魚「や、やるしかありません…!」
男「………」
人魚「えぇと…確かこれを捻って…」
カチッ…ボボボ…
人魚「あ、出来た!」
人魚「やれば出来るものです!うふふ…」
人魚「あとは黒いお皿に魚を乗せて…」
ジュウゥ…
人魚「楽勝ですね♪」
人魚「あ、確か男さんひっくり返してました…こうやって…」
ぴとっ…
人魚「キャアアアァア!!?」
男「何やらかしたんだ?」
人魚「熱ぃ!…熱いですぅ…ふー!…ふー!」
男「…そればっかだな、お前は」
人魚「あ、男さん!あれってあんなに熱いんですか!?」
男「焼くんだから当たり前だろ?」
人魚「…うぅ…」
ジュウゥ…もくもく…
男「魚も焦げてるし」
人魚「えぇ!?」
男「ほら、半分炭になってる」ぺいっ
人魚「うっ…私の…ごはんが真っ黒に……」
男「魚一匹まともに焼けないとはな…」
人魚「…男さぁん…ごはん作ってください…」
男「…はぁ…」
人魚「…お願いしますぅ…」
男「仕方ねーな…」
人魚「男さん!私は信じていました!男さんはきっと作ってくれると…」
男「うるさい。黙ってろ」カチャカチャ…
人魚「わかりました!」
男「…っとに調子のいい半魚人め」
ジュウゥ…
人魚「~♪」もぐもぐ…
男「…俺も甘くなったな…はぁ…」
人魚「おいしいへふ!おひひいへふ!」もぐもぐ…
男「食い物を口に入れたまましゃべるをじゃない」
人魚「ふぁい!」もぐもぐ…
男「………」
男「………」
ガチャ…
人魚「あ、お帰りなさい」のて…
男「…ん?今日は魚に戻ってないのか」
人魚「え?はい…ネットをやりたかったので…」
男「ふーん。確かに魚じゃ椅子に座れないもんな」
人魚「…不便です…」
男「水中仕様なんだから当たり前だろ?ってかまだハイハイで移動してんのかよ…」
人魚「…べ、別にいいじゃないですか…ハイハイでも…」
男「いや、歩けよ」
人魚「うっ…あ!そ、そうです!聞いてください!すごいことわかったんですよ!」
男「すごいこと?」
人魚「私…歌うとすごいらしいです!」
男「…は?」
人魚「すごく魅力な声で、船すら沈めるらしいですよ!!」
男「………」
人魚「えへへ…」
男「いろいろ言いたいことがあるけどな…」
人魚「はい!」
男「まずは馬鹿と言っておこう」
人魚「…え!?」
男「この馬鹿半魚人が」
人魚「な、なんで私が馬鹿なんですか?」
男「どう考えたって馬鹿だろ!らしいってなんだよ!らしいって!確証も無いくせに何言ってんだ!?」
人魚「…で、でもネットに…」
男「ネットの情報全てを信じるなよ…」
人魚「え?じゃ、じゃあ私にそういう力は無いんですか!?」
男「それは……わからない。半魚人がここにいるならひょっとして…そうだ、お前ちょっと歌ってみ」
人魚「…はい?」
男「聞けばわかるだろ?俺が判断してやる」
人魚「…わ、わかりました…」
男「………」
人魚「お、お願いします…」
男「あぁ」
ラーラー♪
人魚「~♪~~♪」
男「………」
ラーラー…
人魚「ど、どうでした?」
男「…普通に…いや、かなり上手かった…」
人魚「船、沈められそうですか!?」
男「さすがにそれは無理だろ…いくら上手くても歌は歌だ」
人魚「…ダメですか…」
男「ってか沈めてどうすんだよ…」
人魚「…何かすごい力があると思ったのになぁ…」
男「水陸両用ってのもすごいことだぞ?というより存在自体がすごい」
人魚「…え!?ほんとですか!?」
男「あぁ、半魚人なんてそうはいないからな」
人魚「…えへへ♪」
男「それよりさっきのは賛美歌か何かか?」
人魚「え?…うーん…わかりません…昔どこかで覚えた曲です」
男「ふーん…」
人魚「…どうしました?」
男「…いい曲だな」
人魚「そうですか?」
男「あぁ…」
人魚「あ!…ま、また歌いますか!?」
男「そうだな。たまに歌ってもら…」
人魚「わかりました!ふふふ…~~♪~♪」
男「たまにだって……まぁいいか…」
人魚「~♪~~♪」
男「………」
ラーラー…
男「………」ゴトッ…
人魚「なんですか?それ…」ピチピチ
男「消臭剤」
人魚「消臭剤?」
男「最近暑くなってきて換気旋回しても臭うからな。フローラルなラベンダーの香りでごまかす」
人魚「…そ、そんなに臭いますか…?」クンクン…
男「風呂場を開けるたび、魚屋に来た気がする」
人魚「…ぅ…魚…」
男「足を生やした状態なら臭わないが…嫌なんだろ?だから消臭剤買ってきた」
人魚「…足…」なでなで…
男「トイレ用だし、かなり効果が期待出来るはずだ」
人魚「…と、トイレ!?…ぅ…」ずーん
ジャバッ…
男「これでよし。…良い匂いだろ?」
人魚「え?…あ…花の匂い…」
男「換気旋は回しっぱなしだし、匂いが篭ることはないだろ。じゃあな」
人魚「………」
ぴちょん…
人魚「…尾ヒレ…そんなに臭うのかなぁ…」ちらっ
トイレの消〇力
人魚「…消臭剤」
人魚「確かに花の香はしますけど…」
人魚「気持ち悪い色ですね…」ジャバジャバ…
びちゃあ…
人魚「あ…こぼし…」
むわっ…
人魚「キャアアアァア!!」ピチピチ!
男「おい、なんで消臭剤の中身が無くなってんだ?」
人魚「え?わ、私は知りませんよ?お、おかしいなぁ?」
男「半魚人…正直に話せ」
人魚「ぅ…す、捨てました…」
男「てめぇな…あの匂いはマーキングか何かなのか!?縄張りの主張でもしてんのか!?」
人魚「ち、違います!」
男「なら捨てるな。風呂場が魚臭いなんてたまったもんじゃない」
人魚「で、でもあの紫の水すごく臭さかったんですよ!?」ピチピチ…
男「臭い?良い匂いかって聞いたとき、頷いてたろ?」
人魚「…それは…あ、あの時はちょっとしか匂わなかったんですけど…こぼしたら…」
男「こぼした?」
人魚「はい…て、手に…ま、まだ匂うんですよ!?」
男「馬鹿半魚人め…むやみやたらといじくるからだ。それでムカついて捨てたのか?」
人魚「…つ、つい…」
男「はぁ…お前の手の届かない場所に置くべきだったな。…まるで子供だ」
人魚「あ!わ、私はこれでも…」
男「うるさい。黙れ。外見のことじゃない」
人魚「…なぁんだ…よかったぁ…」
男「よくねーよ!精神的なことを言ってんだよ!」
人魚「…す、すみません…」
男「アホが…」
人魚「…うぅ…」
ピンポン♪
人魚「?」
男「宅急便か?…ちょっと風呂場に行ってろ」
人魚「あ、はい」のそ…
男「めんどくさいな…んー…」
友『………』そわそわ…
男「………」
友『男ー?貴方の友君が遊びに来ましたよー?」
ピンポン♪ピンポン♪ピンポ……
ガチャ…
友「あ…男!遊ぼ…」
男「帰れ」
バタン…
友「ちょっ…ちょっと!…男ぉ…」
男「…さて、水戸黄門でも見るかな」ピッ…
人魚「…もう出ても大丈夫ですか?」のそ…
男「あぁ」
人魚「水戸黄門~♪」のそのそ…
ピンポン♪ピンポン♪ピンポン…
男「…あいつ…!」
人魚「?…また鳴ってます…」
男「悪いがもう一度風呂場に行ってくれ」
人魚「え?…はい……せっかく出てきたのに…」のそ…
男「あの野郎…」
ピンポン♪ピンポン♪ピンポン…
ガチャ!
男「うるせーって言ってんだろが!」
友「男!さっきのあれは無いんじゃないの!?用件すら…」
男「断る。じゃあな…」ギィ…
ガッ!
男「!?」
友「ま、待て!いきなり追い出すとか、お前…!!」ぐぐ…
男「帰れよ!この…!」ぐぐ…
男「クソ…足を退けろよ!」
友「退けたらドア閉められちゃうだろ!?」
男「帰れって言ってんだろが!」
人魚「…男さーん?まだですかー?水戸黄門始まりますよー?」のそ…
男「おい、おま…出てくんなよ!」
人魚「は、はい…」こそっ…
友「へへ…女の声がしたな…そういうことか……見せろ!会わせろ!」ぐぐ…
男「うるせぇ…!さっさと帰れ…!」ぐぐ…
友「…紹介しろ…よ!」ぐぐ…
男「しつこいな!…おい!人魚!」ぐぐ…
人魚「はい?呼びましたか?」こそっ…
男「シャワー浴びて着替えろ!」ぐぐ…
人魚「え?…それはちょっと…」
男「この馬鹿!わがまま言ってないで早くしろ!このままじゃ押し切られる!」ぐぐ…
人魚「は、はい…!」
友「シャワーだとぉう!?…そういう関係か…フヒヒ…」ぐぐぐ…
男「この変態野郎が…!そう思うなら空気を読め!」ぐぐ…
友「嫌だねッ!絶対男の彼女見るもんねッ!事後だろうと関係ないもんねッ!むしろそれで恥ずかしがる彼女を…俺は見たいッッ!」ぐぐ…
男「最悪だな!お前は!」ぐぐ…
友「へっ!なんとでも言え!」ぐぐ…
ぴちょん…
人魚「う……」
キュキュ…シャアァア…
人魚「うっ!…やっぱり熱いですぅ…!」
人魚「…うぅ…」
シャアァア…
友「で?噂の彼女はどこかなー?」キョロキョロ…
男「…はぁ…」
友「…ん?…男ぉ…」にたり…
男「あ?」
友「…臭う…臭うなぁ…こいつはいやらしい臭いがぷんぷんするぜぇ…」クンクン…
男「…あ?」
友「とぼけたって俺の鼻はごまかせないぞ?男君…」
男「………」
友「なぁ?教えろよ?さっきまでイチャイチャしてたんだろ?なぁ…なぁ!?」
男「黙れ!んなことしてねーよ!」
友「じゃあこの生臭い臭いはなんなのかなー?」
男「それは…だな。…魚を…」
友「こんなに臭うってことは毎日毎晩…フヒヒ…」
男「なんにもしてねーって言ってんだろ!?ぶっ飛ばすぞ!てめぇ!」
ギィ…
人魚「あ、あの…男さん、ズボンが無くて…」のて…
友「お?ついにお披露…な!?」
男「ふん!」
ガッ!
友「ぐはっ…!」
人魚「お、男さん!?」
男「着替えくらい持ってシャワー浴びろよ!またシャツ一枚で…この馬鹿半魚人!」
ゴン!
人魚「い、痛い!…うぅ…」
男「ちょっ…前にのめり込むんじゃねー!尻が見え…あぁもう…!ちょっと待ってろ!」
人魚「う?…はい…?」
友「…う…」
男「起きたか。変態」
友「こ、ここは…?」
男「俺ん家だ。お前が自分で来たんだろ?」
友「そうだったっけ?」
男「…はぁ…」
友「………」キョロキョロ…
男「どうした?」
友「なんかさっき…やたらエロいカーセブンを見た気が…」
男「カーセブン?…気のせいだろ?お前、かなり興奮してたからな」
友「うーむ…」
男「でな?友」
友「ん?なに?」
男「帰れ」
友「………」
男「そんな顔しても無駄だ。さっさと帰れ。変態野郎」ぐりぐり…
友「…うっ…!」
ガチャ…
人魚「…あ、男さん…」
男「変態は帰った。もう押し入れから出てきていいぞ?」
人魚「…はい…よかったぁ…」のて…
男「悪かったな。そんなとこに閉じ込めて」
人魚「い、いえ…あの…」
男「ん?」
人魚「…さっきのはなんだったんですか?」
男「…春だしな。頭でもやられちまったんだろ…かわいそうに…」
人魚「はぁ?……あ!水戸黄門が…!」
男「安心しろ。録画してある」
人魚「お、男さん…ありがとうございますぅ…!」
男「やめろ。わかったから、すりつくな!」
人魚「…は、はい…」
男「抱き着く癖をいい加減に直せ」ピッ…
じ~んせい♪らっくあーりゃ、くーもあるさ~♪
人魚「お、男さん…ぐす…」
男「なんの用…なんで泣いてんだ?お前?」
人魚「な、なんで…ぐす…人魚姫は幸せになれなかったんですか…?」
男「人魚姫?」
人魚「…あ、泡に…ひど過ぎます…ぐす…」
男「…あれは童話だ。題材として人魚が使われただけだろ?」
人魚「…でもぉ…あんないい子が…うっ…」
男「まぁ、確かに死ぬことはないと思うが…」
人魚「…私も…男さんに捨てられたら…泡になって…うぇ…」
男「童話だって言ってんだろ?お湯かけただけで足生やす水陸両用半魚人と、声まで失ったマーメイドを一緒にするな」
人魚「…ひ、ひどい…わ、私だって人魚…うぅ…」
男「半魚人の間違いだ。っーか自分に都合の良いとこだけ投影するなよ」
人魚「…うぇ…」
男「………」
人魚「~♪」ポチポチ…
男「………」
人魚「マグロ~♪えへへ…」ポチ…
男「ネット使わせるといつもそれだな…そんなに食いたいのか?」
人魚「え!?食べられるんですか!?」
男「スーパーで買える。安いマグロだけどな」
人魚「スーパーってすごいです…マグロはかなり手ごわいのに…さすが『スーパー』って言うだけありますね…」
男「お前はマグロすら食うのか…」
人魚「はい、大好物です!」
男「全長3M、体重400kg、時速100kmを捕まえるのか…化け物め…」
人魚「…ち、ちがいますよ…マグロは捕まえられません…」
男「じゃあどうやって食うんだ?」
人魚「…サメとかシャチとかのおこぼれを拾うんです…あとはクジラにくっついたり…」
男「…お前が食われるんじゃないか?」
人魚「…い、命懸けです…!」
男「そ、そうか…」
人魚「…どうしました?」
男「いや…そんなことまでして食べたいのか?」
人魚「はい!おいしいです!」
男「………」
男「………」
ガチャ…
人魚「あ、お帰りなさい…」のそ…
男「あぁ」
人魚「今晩は何かな?何かな?」ごそごそ…
男「お前は冷凍した魚を食えよ…」
人魚「で、でも…」
男「なんのために川に連れてってやってると思ってんだ?」
人魚「…たまには海の…あ!?…これ…マグロですか…!?」
男「キハダマグロだけどな」
人魚「…お、男さん……わ、私のために…」ピチピチ…
男「違う。盗るな」ヒョイ
人魚「あ!…ひ、ひどい…見せ付ける気ですか!?…お、鬼です…」
男「俺の飯が無くなるだろ?まぁ、半分分けてやるからそれで我慢しろ」
人魚「…く、くれるんですか…?」ピチピチ!
男「…たまにはな。数百年ぶりなんだろ?味わって食え」
人魚「…あ、ありがとうございます…」
男「だからすりつくなって!クソ…」
人魚「嬉しいですぅ…」ピチピチ!
ブオォ…
男「………」
人魚「男さん…あの…」
男「ん?なんだよ?」
人魚「あの風…やめてくれませんか…?」
男「クーラーのことか?」
人魚「は、はい…」
男「無理。暑いし。その格好で大海を泳ぐお前が寒いわけはないだろ?」
人魚「はい…で、でも肌が乾いて…」
男「あぁ、なるほどな。なら風呂場に入ってろよ」
人魚「…い、嫌です…て、テレビが見たいです…」
男「お前な…」
人魚「…で、でもテレビは見たいですぅ…」
男「ずいぶんふてぶてしくなったもんだな。クソ半魚人」
人魚「うっ…」
男「仕方ねーな…ほら」
人魚「?」
男「霧吹きだ。それで水吹き掛けて鮮度を維持しろ」
人魚「??」
シュ!
人魚「わぷっ!?」
男「何やってんだよ…魚部分に吹き掛けろ」
人魚「…あ、なるほどこうやって…」シュシュ…
男「無駄に使うなよ?水入れ直すのがめんどく…」
人魚「~♪」シュシュ…
男「聞いてんのか?半魚人」
人魚「え?何か言いました?」
男「………」
人魚「…え、えへ♪」
男「………」ぐりぐり…
人魚「あ!?ひ、ヒレ!ヒレはやめてくださいよぉ…!」
人魚「…海ですか?」
男「あぁ。久しぶりに海釣りにな」ガチャガチャ
人魚「…へー」ピチピチ…
男「…お前も来るか?」
人魚「ほ、放流しませんか!?」
男「留守番だな。わかった、あんまり魚モードでうろちょろ…」
人魚「あ!?い、行きます!」ピチピチ!
男「そうか…ならシャワー浴びて足生やしてこい」
人魚「…え…シャワー…」
男「自転車で行くには遠すぎるからな。電車で行く。半分魚の半魚人が電車に乗れるか?」
人魚「うぅー…わかりました…」のそ…
男「………」チャリチャリ…
ピッ
人魚「…え?…どうなっ…ええ?」
男「…驚いてないで早く切符を買えよ」
人魚「あ、はい…え、えーと…」チャリチャリ…
ガタンゴトン…
人魚「早いです!早いです!」
男「おとなしくしてらんないのかよ…お前は…」
人魚「男さん!あれ見てください!あれ!」
男「わかったから騒ぐなって…」
人魚「あれです!すごい高いですよ!」
男「はしゃぎ過ぎだ」
人魚「す、すみません…とにかくすごくて…」
男「朝早くの電車で人が少なくてよかったな」
人魚「は、はい!そうですね!」
男「…ほんとにわかってんのか?」
人魚「…え?…は、はい!もちろんです!」
男「………」
人魚「…ど、どうしました?」
男「もういい。黙ってろ。半魚人」
人魚「…うっ…!」
男「よし、着いたな」
人魚「…久しぶりです…この匂い…」
男「似たような匂いを撒き散らしてるだろ?」
人魚「え?」
男「別に。なんでもない」ガチャガチャ…
人魚「?」
男「好きに泳いでこいよ。魚を食うのもいいが…今度は俺の餌にひっかかるなよ?」
人魚「も、もうひっかかりませんよ!」
男「どうだかな…お前アホだし」
人魚「…男さん…ぅ…」
男「あ、ちょっと待て」
人魚「はい?」
パシャ!
人魚「あ!?」
男「…もう行っていいぞ」ごそごそ…
人魚「い、今のは…なんですか…?」
男「写真。…もう行け。俺は釣りに集中する…」カチャ…
人魚「?…はい…?」ちゃぷ…
男「………」
ぴくぴく…
男「…お、引いてる…引いてる」
ちゃぷ…
男「ん?」
男「…ウニ?」
男「なんでウニが…ひっかかったのか?」
ザパァ…!
男「!」
人魚「男さん!ウニですよ!おいしいですよ!」
男「お前の仕業かよ!?余計なことすんな!」
人魚「す、すみません…!」
ちゃぷん…
男「…ったく…あの馬鹿半魚人め…」ちゃぽん…
男「………」
男「………」
ちゃぷ…
男「…ん?」
人魚「…男さん?」
男「半魚人か…なんだ?」
人魚「これ…針に餌ついてませんけど…」
男「…休憩中だ。ほっとけ」
人魚「はい…」
男「………」
人魚「………」
男「まだ何かあるのか?」
人魚「…い、いえ!」
ちゃぷ…
男「…さて…帰るか…」カチャカチャ…
ちゃぷ…
人魚「あ、男さん!帰るんですか?」
男「あぁ」
人魚「…わ、私も…あ…」ちゃぷちゃぷ…
男「…それじゃ帰れないな」
人魚「お、男さん…お、お湯を…」
男「そんなものは無い」ガチャ…
人魚「…え?」
男「海に帰れ」
人魚「…う…そ…?」
男「…元気でな。半魚人」
人魚「い、嫌です!絶対嫌…!」
男「………」
人魚「…私が…私が何かしましたか!?何かしたなら謝ります!なんでもします!…だから…」
男「まず…池に俺を突き落とした。しかも二度も」
人魚「…あ…」
男「そして駄々をこねて家に居着いた。帰れって言ったのにな」
人魚「…うっ…!」
男「それから散々好き放題したな…数えあげればキリがない」
人魚「…た、確かにいっぱいわがまま言いました…ぐす…で、でも…私は…うぅ…」
男「…まぁ、そんなことはどうでもいい」
人魚「…う?」
男「食費はかかし、めんどくさい奴だが、人畜無害のおもしろ半魚人だったしな」
人魚「な、なら…どうして…!」
男「…お前、人魚姫が何故幸せになれないかって俺に聞いたな?」
人魚「…はい……ぐす…」
男「それは王子と人魚姫の住む世界が違ったからだ」
人魚「…住む…世界…」
男「そうだ。俺…人間は陸。半魚人…人魚は海だ。陸と海は別物だ。俺とお前も…」
人魚「…そ、そんなの…私には関係ありません!…だから…」
男「あるだろ?例えば…お前はその堤防を越えられない。それが俺達の壁見たいなもんだ」
人魚「うっ!…こんなもの!…んっ!…ふっ!」バシャバシャ!
男「海に帰れ。半魚人」
人魚「嫌!ですぅ…!うぅ…んっ!」バシャバシャ!
男「まぁ、人魚姫と違って王子と人魚のすれ違う恋じゃなく、お前の一方的な恋だったけどな」
人魚「…っふ!…うぇ…!うえぇぇ…」バシャバシャ
男「仲間もいるんだろ?婿探しならそっちでやれ。なに、数百年生き抜くお前のことだ、時間はたっぷりある」
人魚「…うえぇぇん!おど…うぇ…っく…」バシャバシャ…
男「あれだな。騙し討ちで悪かったな」
人魚「えぐっ…!ひど…っく…!」バシャバシャ…
男「短い間だったがそこそこ楽しかった」
人魚「…なん…っで…うぇ…」バシャ…バシャ…
男「お前のことは忘れない。というか変な半魚人なんて忘れられないからな…」
人魚「…お…っく…と…ごさ…っぐ…」ちゃぷ…ちゃぷ…
男「元気でな。…さよなら」
人魚「あっぐ…まっ…うぇ…えぇ…!!」バシャバシャバシャ…
男「………」
男「…冷凍した魚ももういらないな」
男「さすがにあの川の魚を食う気にはなれないし」がさがさ…
ピンポン♪
男「んー?」
ガチャ…
友「よ!」
男「お前か…」
友「悪いかよ…」
男「いや、別に。なんの用だ?」
友「あれ?…今日は帰れとか言わないのん?」
男「必要無くなったからな」
友「?」
友「でさぁ…またフラれちゃってさぁ…ぐす…」
男「しらねーよ。そんなこと…」
友「…なぁ?…俺の…何が悪いんだ…?なぁ…なぁ?」
男「そういうところだ。気持ち悪い」
友「おま…友達にそういう言い方ってないよ!?」
男「だからしらねーって…」
友「良いよなぁ…お前には彼女がいて…」
男「いねーよ」
友「あ?ふざけんなよ!ほら写真だってあんだろ!?海でデートか?ちきしょう…!」
男「…そいつなら帰った。元いた場所にな…」
友「え?嘘だぁ?ほんとは続いてるんだろ?なぁ、おい」
男「…しつこいな。帰ったって言ってんだろが!」
友「わ、わかった…」
男「…今頃魚を追っかけてんだろ」
友「あん?」
友「…しかし良く撮れてんなこれ」
男「まぁな」
友「帰っちゃたのか…もったいないことしやがって…」
男「どういう意味だよ…」
友「そのまんまの意味だ!…こんなに嬉しそうに笑ってんのに…」
男「………」
友「俺なんか初めは怪しいもの見るみたいに見られてあげくすみませんとか…くっ…!」
男「ウゼェなぁ…」
友「じゃあな!」
男「結局なにしに来たんだ、お前は?」
友「傷のナメあい?」
男「傷ついてんのはお前だけだ。さっさと帰れ」
友「うわ…なんて冷た…」
バタン…
友「ちょっ…ちょっと…!おい!男ー!」
男「幸せそうにか…」
男「…何考えてたんだかな…あの半魚人…」
男「…俺に呼ばれただけで…」
男「………」
しーん…
男「…この部屋も静かになったもんだな」
男「…元に戻っただけなのに…」
男「………」
855 : 以下、名... - 2009/06/06(土) 00:42:49.69 higBaz34O 195/209とりあえずここで終わり
お疲れ様でした
―数ヶ月後―
男「久しぶりに釣りにでもいくか…」
男「…やることないし」ガチャガチャ…
ちりんちりん…
男「…そういやここで初めてあいつに声かけられたんだな…」
男「いきなり子供が欲しいとか…ぶっ飛んだ奴だったっけな…」
男「………」
ちりんちりん…
男「…それでこの川に連れてきて結局…」
男「………」
男「…釣りするか…」カチャカチャ…
ちゃぽん…
男「…さて…」
男「暇だな…」
ぷかぷか…
男「ぜんぜん反応しねーし…」
男「…ふぁ…眠…」
ぷかぷか…
男「………」
ちゃぷ…
男「…ぐぅ…ぐぅ…」
ちゃぷちゃぷ…
人魚「…やっと…」
人魚「…やっと…来てくれた…!」
男「…ん……ぐぅ…」
人魚「…で、でも…」
ちゃぷ…
男「…ぐぅ……」
人魚「…私…捨てられ…たし…ぐす…」
人魚「…見てる…だけで…っく…」
ちゃぷ…
人魚「…男さん…」ちゃぷ…
男「…ん…寝ちまってたのか…ふぁ~…」
ジャボッ!
男「!」
男「…いま…すげぇのがいたな…」
人魚『…お、起きちゃた…』
男「…くくくっ…ぜってー釣り上げてやる…!」
人魚『………』
男「待ってろよ…魚…」
人魚『…と、とりあえず逃げようっと…』すぃー…
男「ん?竿仕掛けたまんまだな…餌ついてんのか?」
ヒョイ…
人魚『………』すぃー…
サクッ!
人魚『い、痛い!?』
ピン!
男「なんだ?途中でひっかかったな…」ぐいぐい…
人魚『あ!?や…!えぐれ…痛いぃ…うぅー!』ピチピチ!
バシャバシャ!
男「お?おぉ!?か、かかったのか!?ッシャア!このまま釣り上げてやる!」ぐいぐい…
人魚『うぇ…また…痛いですぅ!やめて!…ヒレがぁ…!』ピチピチ!
バシャバシャ!
男「くくく…そんなもんで逃げられると思ってんのか!?」ぐぐ…
人魚『うぅうぅ…!も、もう嫌ですぅ!」
バッシャア!!
男「………」
人魚「ヒレがぁ…ヒレがぁ…えぐ…」ピチピチ…
男「なに…やってんだ…?」
人魚「あ…お、男さん…っ…」
男「………」
人魚「…ぐす…男さ…」
男「なんでお前がここにいるんだよ!?ってかまた釣り上げられて…!」
人魚「え?…えぇと…え、えへ♪」ピチピチ!
男「っんとにどこまでアホなんだ!?お前は!?」
人魚「…す、すみません…!」
男「俺はお前を海に放流した…よな?」
人魚「…ひ、ひどいですよ…うぅ…あんな…ぐす…」
男「…まぁ…あれは確かに悪かったと思うが、俺はお前のために…」
人魚「…あんなの…ぐす…あんなのちっとも私のためじゃないですうぇえぇ…!」
男「…悪かったって…でもな…」
人魚「…私…っく…私あれから…ひぐっ…」
男「すりつく…しかし…クソ…」
人魚「鬼で…っぐ…うぇ…悪…まぁぁ…」
ちゃぷちゃぷ…
男「落ち着いたか?」
人魚「…はい…ぐす…」
男「…お前わざわざあの海からここに戻ってきたのか?」
人魚「…うっ…も、戻っちゃいけないと思ったんですよ?…で、でも…」
男「………」
人魚「…お、男さん釣り好きだし…ここで待っていれば…もしかして顔くらいなら見れるかなぁ…って…」
男「…お前…」
人魚「…さ、さっきだってほんとは…見つからないうちに逃げようと…」
男「………」
人魚「…したんですけど……ヒレ…うぇ…」なで…
男「………」
男「…なるほどな…」
人魚「…ぐす…」
男「…はぁ…」
人魚「…や、やっぱり…海に帰りますね…?」
男「あぁ、そっちのほうがお前のためだと俺は思う…」
人魚「…うっ…」
男「だけどな…また戻ってきそうなんだよ…お前は」
人魚「は、はい!たまに…あ、いや…あの…」
男「………」
男「…勝手にしろ」
人魚「…え?」
男「もうお前ためとか言ったりしない。好きにしろ」
人魚「…そ、それって…」
男「強制しても仕方ないことだったんだな。海に解き放ってもサケみたいにこうやって帰ってくるし」
人魚「…お、男さぁん…うえぇぇ…」ピチピチ!
男「この…すりつくのはやめろ!何回言い続けてると思ってんだ!」
人魚「…えへ…っく…すみま…ぐす…」ピチピチ…
男「………」
人魚「じゃあ帰りましょう!」のそのそ…
男「おい、待て」
人魚「はい?」
男「…なんで陸地に向かって進むんだ?お前の住家はここだろ?」
人魚「ここ?」
ちゃぷちゃぷ…
人魚「え!?な、なんでですか!?男さん…す、好きにして良いって…だからまた家に…」
男「ふざけんな!なんで俺ん家にまで来るんだよ!?そこまで好きに出来ると思ってんのか!?」
人魚「え…?」
男「ほんとに厚かましい奴だな…お前は…」
人魚「…うっ…そんな…」
人魚「…うっ…」
ちゃぷちゃぷ…
男「元気でな」
人魚「………」
男「そんな目でみるな。釣りがてら会いに来てやる」
人魚「………」
男「…なんだよ?」
人魚「………」
男「………」
ちりんちりん
人魚「早い…早いです…ふふふ♪」
男「ほんとに甘くなったもんだ…クソ…!」
ちりんちりん…
人魚「男さん…」
男「…あん?なんだよ?」
人魚「大好きです♪」ピチピチ!
男「…ふん…」
人魚「…いつか赤ちゃんくださいね?」
キキッ!
男「………」
人魚「あ、あれ?なんで戻るんですか?」
男「やっぱり川に帰す」
人魚「え?えぇ!?な、なんで…?男さん!?」
男「………」
人魚「お、男さん!ご、ごめんなさい?あ、謝りますから!放流しないでぇえ…!」
ちりんちりん…
~終~
909 : 以下、名... - 2009/06/06(土) 02:59:35.32 higBaz34O 209/209まぁ、魚だけにいろいろとアラがあるだろうけど…
これで終りで
お疲れ様でした