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数ヶ月前
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唯「ういー。これ見て」
憂「雑誌? あっ、チョコレートでできたお城だね」
唯「うん。どんな味なんだろ」
憂「お姉ちゃん。お城の形をしていてもチョコレートはチョコレートの味だよ」
唯「もう…憂はわかってないな―。チョコの城は夢を食べるんだよ」
憂「夢?」
唯「きっととっても楽しい味がするんだ!」
憂「…なるほど」
唯「いつか食べてみたいなー」
…
……
………
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2月13日
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紬「今日はお招きありがとうございます」
憂「なんだか不思議な感じです」
紬「あら、どうして」
憂「お姉ちゃんがいないときに、紬さんと家でふたりきりなんて…」
紬「ふふふ。そうなんだ」
憂「はい。それで紬さん…」
紬「うん。ちゃんと作ってきたわ。これが設計図よ」
憂「ちょっと見えてもらっていいですか?」
紬「ええ」
憂「…………………………………………………………………………………ふむふむ」
紬「…どうかしら?」
憂「紬さんに相談して良かったです」
紬「そう言ってくれると嬉しいわ」
憂「紬さん、今日はありがとうございました」
紬「あら、設計図だけで良かったの」
憂「…?」
紬「お城作りを手伝うつもりできたんだけど…」
憂「いいんですか?」
紬「ええ。迷惑じゃなければお手伝いしたいなって」
憂「迷惑なんかじゃないです」
紬「じゃあ憂ちゃん。今日はよろしくお願いします」
憂「こちらこそ、お願いします。紬さん」
紬「ふふふ。実は私チョコレートでお城を作るのが夢だったの」
憂(紬さんって意外と子供っぽい人なのかな?)
…
……
………
憂「紬さんはチョコを作ったことありますか?」
紬「あるけど…あんまり美味しくはできなかったわ」
憂「やっぱりテンパリングですか?」
紬「ええ、難しくて…憂ちゃんは?」
憂「私も最初は駄目でした。だけど――」
紬「唯ちゃんのために作ってたら上達したんだ?」
憂「はい。結構美味しく作れると思います」
紬「じゃあチョコレートを溶かす作業は全部憂ちゃんに任せたほうがいいかしら」
憂「そして整形と組立を紬さんが担当…」
紬「う~ん」
憂「紬さん?」
紬「それでもいいんだけど、憂ちゃんと一緒にお城を作りたいなって」
憂「お城を作るのは紬さんのほうが上手だと思います」
紬「だけど唯ちゃんに喜んで貰いたいのは憂ちゃんでしょ」
紬「それなら、憂ちゃんはお城作りもやったほうがいいかなって思ったんだけど…」
紬(私も唯ちゃんが笑ってくれると嬉しいけど…)
憂「…」
紬「どうかしら?」
憂「できるかな?」
紬「最初は一人でやるつもりだったんでしょ」
憂「…紬さんってちょっと怖い人です」
紬「ふふふ。じゃあ一緒に作りましょう」
憂「それじゃあ私がチョコを溶かしてる間、ゲームでもして待っててもらえますか」
紬「ううん。私はその間トリュフでも作ってるから。それを使ってお城を飾りましょ」
憂「えっ、でも、材料は」
紬「持ってきたから大丈夫」
紬「個人的に渡す分のチョコレートも作りたいし。そういえば憂ちゃんは?」
憂「えっと、お城をみんなで食べるから、それでいいかなって」
紬「あら、そうなんだ」
憂「はい。明日はみんなを家に呼ぼうと思ってます」
紬「流石に唯ちゃん一人で食べたら高血糖で死んじゃうものね」
憂「あはは……笑えません」
紬「でも…(和ちゃんがへそを曲げなきゃいいけど)」
憂「どうかしました」
憂「ううん。なんでもない」
…
……
………
憂「うん。いい温度」
紬「流石に手馴れてるんだ」
憂「お姉ちゃんは甘いもの大好きだから」
紬「うふふ。憂ちゃんは唯ちゃんが本当に好きなんだ」
憂「はい! そう言う紬さんも手際いいです」
紬「家でたまに料理をするから」
憂「ご両親と一緒に?」
紬「ううん。使用人の娘に私と歳の近い娘がいるから、その娘と一緒に料理をしてるんだ」
憂(やっぱりお嬢様なんだ…)
紬「憂ちゃん?」
憂「ううん。なんでもないです。一緒に料理っていいですね」
紬「憂ちゃんは唯ちゃんと一緒に料理とかするの?」
憂「…私、自分の作った料理を食べてもらうのが好きですから」
紬「うふふ。でもわかるわ。一緒に作ると食べてもらう時の喜びが半減するもの」
憂「そうなんですか…?」
紬「ええ。だって一緒に作ったら、味がわかっちゃってるじゃない」
憂「なるほど」
紬「だから少しだけ憂ちゃんが羨ましいかも」
憂「…紬さんって優しいんですね」
紬「えっと…」
憂「ありがとうございます」
紬「…本当の本当にそう思ってるんだよ」
憂「それでも、ありがとうございます」
紬「う~ん…」
…
……
………
憂「だいぶ形になってきました」
紬「ええ、パーツも七割ぐらいできたかしら」
憂「お姉ちゃん喜んでくれるかなぁ…」
紬「それは保証するわ」
憂「保証されちゃいました」
紬「残ったパーツも固まるのを待つだけだし、組立に入りましょうか」
憂「はい」
紬「……そういえば唯ちゃんは帰ってこないの?」
憂「今日は和ちゃんの家に泊りにいきました」
紬「憂ちゃん。あなたは完全犯罪の才能があるわ」
憂「そのときは紬さんに手伝ってもらいます」
紬「誰か消したい人でもいるの?」
憂「消したい人はいません。でも、喜ばせたい人なら」
紬「それは手伝わないといけないね」
憂「はい。で……土台が」
紬「これね。縦43cm横43cmのチョコを4枚つなげた巨大板チョコ」
憂「…作っておいてなんですが」
紬「…ええ」
憂「これ食べたら、どれくらい太るかな…あはは」
紬「考えたくないわ……憂ちゃんも太るの?」
憂「…はい。お姉ちゃんは食べても太らないんですが」
紬「それは知ってる」
憂「…私は食べなくても太るんです。だから運動して痩せないと」
紬「そっかぁ…お互いつらいね」
憂「はい…」
紬「その上に置くのが門と城壁ね!」
憂「もう細工が入ってる」
紬「ええ、憂ちゃんがテンパリングしてくれてる間にやったの」
憂「とっても綺麗です」
紬「砂のお城と同じだから」
憂「まずは門を並べましょう…」
紬「…」タテタテ
憂「…」タテタテ
紬「次は城壁を……」
紬「…」タテタテ
憂「…」タテタテ
…
……
………
紬「だいぶ形になってきたね」
憂「もうお城の外形はできました」
紬「じゃあこれを並べていきましょう」
憂「あっ、いよいよこれの出番ですね」
紬「でもどこに並べよう」
憂「うーん。みんな一緒のところにしますか?」
紬「それもいいけど、ひとりひとり役割をあげない?」
憂「どういうことですか?」
紬「まず…王様が唯ちゃん」
憂「…あぁ、そういうことですか」
紬「そして憂ちゃんがお姫様」
憂「紬さんったら…」
紬「りっちゃんは……騎士隊長さんかしら」
憂「なるほど…」
紬「純ちゃんは…う~ん」
憂「見習い騎士さんとか」
紬「それいいわね。じゃあここかしら」
憂「澪さんは門番さんとかどうでしょう?」
紬「門番さん? いいけど…」
憂「紬さんは料理長さん」
紬「じゃあ見習い料理人に梓ちゃんをもらおうかしら」
憂「それなら和さんはお姫様の側近」
紬「後は…さわ子先生かぁ」
憂「そういえばさわ子先生明日は…」
紬「合コンがあるらしいわ」
憂「なら、呼べないですね」
紬「ええ。そうね…。先生には門番見習いをやってもらいましょう」
憂(…見習い?)
紬「これでみんな配置できたわね」
憂「はい。後は人形チョコを置くために設置しなかった外壁をつければ完成です」
紬「一気にやってしまいましょう」
憂「はい!」
…
……
………
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2月14日
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澪「バレンタインに呼ばれたってことはチョコでもご馳走してくれるのかな?」
唯「それが私も知らないんだ」
律「…」ソワソワ
純「…」ソワソワ
澪「どうしたんだ? 律?」
律「な、なんでもないぞ!」
澪「…? 変な律」
唯「和ちゃんは知ってる?」
和「いいえ、私も知らないわ」
梓「…」ソワソワ
和(様子がおかしい3人は…まぁ、そういうことよね)
澪「おっ、着いたか」
トントン
唯「ただいまー」
憂・紬「おかえりなさい」
唯「あれ、なんでムギちゃんがいるの?」
律「ダッシュで帰ったと思ったら、唯の家にいったのか」
紬「えぇ、そうなの」
憂「それじゃあみなさん、入ってください」
…
……
………
唯「あっ、テーブルの上が大きな包み紙で隠れてる」
律「チョコだな」
澪「あぁ、きっとチョコだ」
律「そしてムギの笑顔」
和「…ちょっと嫌な予感がするわね」
紬「それではみなさん、ちゅーもーく。憂ちゃん。あけてくれる?」
憂「えいっ」シュッ
律・澪・梓・純・和「」
唯「わっ! チョコのお城だ!!!」
憂「そうだよー。お姉ちゃん」
唯「私たちのために作ってくれたの?」
紬「正解。憂ちゃんが唯ちゃんのために作ったのよ。だけど一人じゃ食べきれないからみんなを誘うことになったの」
梓「ムギ先輩は憂のお手伝いを?」
紬「ええ。そうなの」
純「あっ、これ澪先輩じゃ」
澪「え? …本当だ。私の形をしたチョコレートがある」
梓「こっちの窓から見えるのは憂?」
唯「横にいるのは私かなー? よくわからない」
和「唯は反対側にいるやつじゃないかしら。それは私みたいよ」
純「あっ、こっちに私と律先輩がいる」
ワイワイ
ガヤガワ
紬「うふふ」
梓「憂。ちょっと食べてもいい?」
憂「もちろんいいよ」
梓「……美味しい」
唯「あっ、私も食べる!」パクリ
純「澪先輩の頭が!!!」
…
……
………
紬「どうやら成功したみたいね」
憂「はい。紬さんのおかげです」
紬「うふふ。それと憂ちゃんの努力の賜物ね。みんな楽しんでくれてるようでよかったわ」
憂「はい…残ったら大変ですけど」
紬「美味しいから大丈夫じゃないかしら」
……
純「梓、せっかく作ったのに行かなくていいの?」
梓「…行くよ」
純「頑張りなよ。私も頑張るから」
梓「…うん」
……
梓「…」トントン
紬「…うん?」
梓「ムギ先輩、これ…」
……
澪「最初はどうなるかと思ったけどこのトリュフ美味しいな」モグモグ
律「あの、澪…」
澪「どうした、律?」
律「こ――
純「澪先輩!」
澪「純ちゃん?」
純「澪先輩、これ受け取ってください!!!」
……
和「唯。これ私から」
唯「ありがとー和ちゃん」
和「どういたしまして」
憂「あの、和ちゃん、私には?」
和「欲しいの?」
憂「うん!」
和「憂は私にくれないのかしら」
憂「えっと……今回はお城をみんなに作ったから」
和「……」
憂「もしかして怒ってる?」
和「そうなんだ。じゃあこれ私からのチョコね」
憂「…ありがとう。来年は和ちゃんのためにちゃんとお城を作るから」
和「それは……期待しておこうかしら」
唯「それにしてもこのお城よくできてるねー」
憂「紬さんが手伝ってくれたから」
唯「あぁ、ムギちゃんお城作るの上手だもんね」
憂「うん。とっても助かっちゃった」
唯「…私も組み立てたかったな」
憂「お姉ちゃん?」
唯「うん。お城作りってとっても楽しそうじゃん」
憂「ごめんね。お姉ちゃん。今日は驚かせたかったから。でも次は…」
和「次は三人で作りましょうか」
唯「うんっ!」
憂「…はい!」
……
紬「梓ちゃん…」
梓「ムギ先輩…」
……
澪「…えーっと」
律「//」
純「//」
……
バレンタイン――
それは女の子が女の子にチョコレートを贈る日なのです。
おしまいっ!