みくる「えーっと……」
長門「?」
みくる「あの……」
長門「食材はふたりが用意することになっていたはず。その事で困惑しているのなら、私が困惑する」
みくる「えっ!?」
長門「??」
ガチャッ
古泉「すいません、少々遅れて……。おや、まだ涼宮さんはいらっしゃってない様子ですね。助かりました」
みくる「あっ、はい。こんにちはー」
長門「……」
古泉「こんにちは。今日は涼宮さんと彼は掃除当番でしたっけ?」
みくる「いえ、おふたりなら――」
長門「先週の不思議探索中に約束していた映画の下見」
みくる「ということです」
古泉「ああ、そうでしたか。それにしても映画の下見……ですか。涼宮さんらしいと言えばらしいですが、彼がそれを聞いた時に言ったであろう台詞が完全に再生されますね」
元スレ
長門「コンロと土鍋の準備は出来ている。来訪予定時刻は?」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1273597896/
みくる「『下見でそこまで行くなら、今日見ていった方が効率良くないか?』」
古泉「ははは、そう、まさにそれです」
みくる「ふふ、どうして涼宮さんがそれを提案するのか、キョン君に気付け、って言う方が酷なんでしょうか、やっぱり」
古泉「うーん、僕としては彼の鈍感さが涼宮さんにとって酷だと思いますよ」
みくる「う~ん、どっちもどっち、ということ、かな」
古泉「まあ、自業自得、とも言えますけどね。どちらにせよ、その約束があるからこそ明日は文字通りの休日を過ごせるわけですし」
みくる「そうですね、ここ毎週ずーっと不思議探索でしたもんね。嫌ってわけじゃないですけど、他にもやりたいことはありますし、羽を伸ばすには丁度良かったかもしれませんね」
長門「そう、だから私はコンロと土鍋を用意した。古泉一樹、貴方の来訪予定時刻は?」
古泉「……へ?」
みくる「……え?」
長門「?」
古泉「えーっと……」
みくる「あは、あははは……」
長門「朝比奈みくると同様、食材の調達に関することで困惑しているなら、やはり私が困惑する」
古泉「……えっ!?」
みくる「……えっ!?」
長門「??」
古泉「えーっとですね……」
みくる「う、うんうん」
長門「もしかして、ふたりともあの約束を記憶から抹消している?」
古泉「まっ、まさか!!」
みくる「そ、そんなことありませんよー!!」
長門「じゃあ、どうして私がこんなことを言ったのか、解答の提示を要求する」
古泉「……じゃあ、朝比奈さんから」
みくる「……じゃあ、古泉君から」
長門「…………」
古泉「いやいや、ここは朝比奈さんが………」
みくる「いえいえ、古泉君こそ、どうぞどうぞ……」
長門「鍋……パーティー……」
古泉「―――――あっ!」
みくる「―――――――はうあ!」
――約1ヶ月前――
ハルヒ「あんたのせいで昼食取り損ねて腹の虫が収まんないわ、どーしてくれんのよ!?」
キョン「悪かった、悪かったって! だから何か奢るって言ってるだろ」
ハルヒ「あったり前過ぎて溜め息も出ないわね、ほら、さっさと行くわよ」
キョン「何!? 今からか!?」
ハルヒ「それもあったり前でしょうが。夕食の事考えたら、当然でしょうに」
キョン「夕食まで我慢するって選択肢はないのか?」
ハルヒ「誰のせいで空腹で困り果てているのか判ってないわけ?」
キョン「……くっ、それを言われるとぐうの音も出ん。それにしてもだ、わざわざ部室に顔を出さなくても携帯で誰かに知らせてさっさと喰いに行きゃあ良いじゃないか、空腹なんだろ?」
ハルヒ「んなもん決まってるじゃん、皆の分も奢ってもらうからよ」
キョン「ワッツ!? ホワイ!?」
ハルヒ「あんた発音致命的に悪いわね。決まってんでしょ、これは罰なの。昼食を取れなくなった私に対してご飯を奢る。ここまでは当然の出来事。罰っていうのは加味されることで意味があるの。判る?」
キョン「それが全員分の奢りってわけか?」
ハルヒ「Yes,That's right」
キョン「わーった、わーったよ! ムカツクぐらい発音が良いが今回は全面的に俺に非がある。素直に従わせてもらう」
ハルヒ「そうそう、素直が一番。それじゃあ、みんなで行きましょ」
みくる「あの、すいません。私あんまりお腹空いてませんし、ちょっと体調が悪くて……」
古泉「体調は悪くありませんが、朝比奈さんと同様、僕もお腹は空いておりませんので」
長門「右に同じ」
ハルヒ「へっ? の、飲み物ぐらいならいけるでしょ、行きましょうよ」
みくる「私はやっぱり体調が悪くて……」
古泉「正直なところ、これ以上彼に奢られるのも悪いですし。まぁ、涼宮さんが空腹であることに関して、今回彼に落ち度があるようですから涼宮さんはしっかり奢ってもらっても問題ないでしょう」
長門「右に同じ」
ハルヒ「ちょ、ちょっと待ってよ! よ、よ、予定していない状態でふたりっきりはひじょーにマズイ……あー、もう! みんなが行かないなら私も行かない! 予定外なことは嫌い!」
キョン「何を訳の判らん理屈を……。ほら、さっさと行くぞ。行かないなら行かないで有難い話でもあるが、この借りを先延ばしにすると利子をたっぷりと付けられることになるだろうし、奢ることで終止符が打てるならば今日中に解決させる」
ハルヒ「ちょ、ちょっと腕を引っ張……ま、待って! 行くから、ちょっと待ってってば!!」
キョン「それじゃあ、長門、古泉、朝比奈さん、また明日」
みくる「はい、また明日」
古泉「いってらっしゃい」
長門「…………」
ハルヒ「い、いってきます……」
ガチャッ
みくる「…………」
古泉「…………」
長門「……目標が部室内の音声を傍聴できない距離まで離れたのを確認」
古泉「いつもいつもご苦労様です」
長門「別に気にしてない」
みくる「ふふっ、それにしても涼宮さんの反応」
古泉「こう言ってはなんですが可笑しかったですね」
みくる「ええ、それに可愛かったですし」
長門「予想外にもふたりっきりになる、ということで完全に自己を失っていた」
古泉「いつもは策を練ってふたりっきりになろうとするのに、こういう時には弱いんですね」
みくる「ちゃんと乙女してるってことですよ。はぁ、早くくっついちゃえば良いのに」
古泉「おや……、一段とはっきり言いますね」
みくる「思うところは色々とありますからね、やっぱり。キョン君も優柔不断ですから」
古泉「おやおや、本当にすっぱりと……。何かありました?」
みくる「体調が悪いから、でしょうか? やっぱりちょっと刺々しくなってるんだと思います」
古泉「それはいけませんね。もうお帰りになられた方が―――」
長門「朝比奈みくるは生理。よって少し気が荒れているだけ。少々、言葉が乱雑ではあるが、普段の朝比奈みくると相違点はほぼ見られない」
古泉「あっ、えっ……すいません、気を回せず……」
みくる「あ、あはは。そんな、気にしないで下さい。男の人はそういうのありませんから、気付けって言う方が難しいですし。
……あの、長門さん。そういうのは出来るだけ言わないようにして下さいね、恥ずかしいから」
長門「了承した。長門有希とSOS団とのお約束条項4823条に追加しておく」
みくる「はい、お願いします」
古泉「しかし、朝比奈さんが愚痴りたくなるのも判りますよ」
みくる「あっ、いえ、愚痴とかそういうつもりでは――」
古泉「まぁまぁ、良いじゃないですか。友好関係とはとても言えませんが、同じ苦労を共にしている者同士、積もり積もったものもあるでしょうし」
みくる「……ん~、そうですね。考えたらこの3人でじっくり話したこともありませんし、愚痴る会、とか結成しても面白いかも」
古泉「みんなで鍋をつつき合いながら愚痴る、とか」
みくる「あはは、良いですね、それ」
長門「不思議探索が中止されることが判れば、金曜日の夜、または土曜日の夜に行う案を提案する」
古泉「ふふ、いつかやってみましょうか」
みくる「そうですね、是非いつか」
長門「…………コンロと土鍋は用意する。食材はふたりに任せる」
古泉(……完全に忘れてました。というよりもあれはある種の冗談話だったつもりなんですが……)
みくる(……ありました、ありました! そんな話をしたことが! すっかり忘れてましたよ……まさか長門さんが覚えているなんて……)
長門「…………」
古泉「あ、ありましたねー、そんな話をしたことが」
みくる「う、うんうん、ありましたねー」
長門「…………」
古泉「いや、でも、あれはちょっとした場を盛り上げる会話でもあったわけですし」
みくる「場を盛り上げる会話でしたねー」
長門「…………」
古泉「やはりそれぞれの立場を考えると、軽い愚痴と言えどそんなことをするわけにもいかないでしょうし」
みくる「禁則事項ですもんねー」
長門「…………」
古泉「大体、長門さんの自宅でやるとなると、なりよりお邪魔でしょうし」
みくる「お邪魔ですもんねー」
長門「…………」
古泉(朝比奈さん、オウム返しばっかりでズルイですよ!!)
みくる(堪忍! 堪忍ですよ、古泉君!)
長門「…………帰る」
スタスタスタ ガチャッ
古泉「えーっと……どうしましょう?」
みくる「どうしましょう?」
古泉「オウム返しは卑怯ですよ、朝比奈さん?」
みくる「うっ、ごめんなさい」
古泉「それはそれとして……もしかして長門さん、結構楽しみにしてたんじゃ」
みくる「えっ……そ、そんなことありませんよー、古泉君は兎も角、私は長門さんに好かれてないでしょうし」
古泉「でも、コンロも土鍋も用意してなんて……準備万端すぎません?」
みくる「う、うう~~ん……ど、どうしましょうか?」
古泉「いや、ほんとどうしましょう」
みくる「…………」
古泉「…………」
みくる「古泉君、今後の予定は……?」
古泉「……僕は特に。ちなみに休日中ものんびり過ごそうと思ってただけで予定はありません。朝比奈さんは?」
みくる「私も同じです……」
――長門自宅――
長門「…………」
カチッ ボォー(コンロの火を点けた音)
長門「…………」
カチッ
長門「…………」
カチッ ボォー
長門「…………」
カチッ
長門「…………」
カチッ ボォー
長門「…………」
カチッ
長門「…………」
ピンポーン
長門「…………」
ピンポーンピンポーン
長門「…………」
ノソノソ ガチャッ
長門「…………」
みくる「あっ、出たのかな……? す、すいません、私、西宮北高等学校2年生の朝比奈みくると申します……」
長門「!!!!」
みくる「あ、あの長門有希さん、いらっしゃいますでしょうかー?」
長門「…………」
みくる「あれ? やっぱり出てない!? でも、あれ? もうピンポーンって鳴らな―――こ、壊した? え!? 逮捕? き、器物破損!?」
ウイーン
長門「………入って」
みくる「ふえーん、最初に『もしもし』ぐらい言って下さいよー!! 5024条に追加して下さいね!!」
ピンポーン
トタタタタタタ ガチャッ
長門「…………」
みくる「あ、こんばんは、長門さん」
長門「……要件は?」
みくる「え、えっとぉ、私達仲良くないかもしれませんけど、こういう機会ってやっぱり大切だと思うんです」
長門「…………」
みくる「だ、だから!! お鍋、食べましょ、長門さん」
長門「…………」
みくる「…………」
長門「………入って」
みくる「!! は、はい、お邪魔します」
長門「荷物、半分持つ」
みくる「あ、有難う御座います。……その、長門さん」
長門「なに?」
みくる「約束、破ることになってごめんなさい」
長門「………良い」
みくる「で、でもやっぱり――」
長門「それに、約束を破る、という行為はそれを守られなかった時に用いる言葉。過程はどうにせよ、貴女はこうしてやってきた。つまりは『破る』という行為に該当しない。だから良い」
みくる「な、長門さん……」
長門「…………」
みくる「抱き締めても良いですか?」
長門「………なぜ?」
みくる「……お鍋の準備します」
みくる「あっ、コタツ。出したんですか?」
長門「冬にはやはり欠かせない」
みくる「わー、蜜柑も」
長門「コタツと言えば蜜柑。これも譲れない」
みくる「お鍋食べる時にも相性抜群ですよね」
長門「……ところで古泉一樹は?」
みくる「大丈夫ですよ、古泉君は古泉君で色々と準備してますから。さぁ、古泉君が来たころには始められるように下拵えを済ましちゃいましょう」
長門「手伝う」
みくる「えっ!? 手伝ってくれるんですか?」
長門「手伝う」
みくる「……頭撫でても良いですか?」
長門「……なぜ?」
みくる「……それじゃあ、白菜を切ってくれます?」
長門「了承した」
みくる「じゃあ、お願いしますね」
長門「…………」
みくる「って、長門さん! ダメ!」
長門「?」
みくる「手はぐー! ぐー! ぱーに負けるけどぐー!!」
長門「落ち着いて」
みくる「なんで長門さんが落ち着いてるんですか! 切っちゃいますから! ほーちょーで! ちゃんとぐーにして下さい」
長門「大丈夫、情報操作で傷は癒せる」
みくる「事が起きてからじゃないですか、それ! ダメ、ダメです! あー、もう、長門さんは人参の皮むきにチェンジしましょう!」
長門「了承した」
みくる「………包丁使う時は、食材に添える手をぐーにする、5025条に追加して下さい」
長門「…………今日はお約束条項の増える間隔が早い」
みくる「それだけ、大切な事は日常に溢れ返っているということです」
ピンポーン
みくる「あっ、古泉君かな」
長門「出てくる」
みくる「はい、お願いします。あっ、戻る時、土鍋こっちに持って来てもらえます? お出汁取らないといけませんから」
長門「了解した」
スタタタタ ガチャッ
古泉「あっ、長門さん、ですか?」
長門「…………」
古泉「あれ、あっ、すいません、長門有希さんと同じ部活に入っている古泉一樹と申しますが、長門有希さんはいらっしゃいますでしょうか?」
長門「…………」
古泉「あれ? すいませーん?」
長門「あのぉー、番号間違えてますよ?」ガチャ
古泉「うぇっ!? す、すいません! おかしいですね、番号を何度も確認したんですが、もう一度……」
ピンポーン ガチャッ
長門「ちょっと良い加減にしてもらえます? 警察呼びますよ?」
古泉「んふっ!!?? あ、いえ、すいません!! あれ、なんで? ちゃんと番号は確認してるのに、あれ!?」
ウイーン
長門「……入って」
古泉「普通に応対して下さいよ!! 声色まで変えて手の込んだイタズラしないで下さい!!」
長門「……貴方が家に来る時にやれ、と彼からのお願い」
古泉「……彼のイタズラに付き合う必要はありません、これ5024条に追加して下さい」
長門「残念ながら現在、5025条まで埋まっている」
古泉「……じゃあ、5026条に追加して下さい」
ピンポーン
トタタタタタ ガチャッ
古泉「どうもこんばんは」
長門「…………」
古泉「あの、夕方の件は本当に申し訳ありません」
長門「…………」
古泉「それで、今更虫が良すぎるとは思うんですが、一緒にお鍋、食べませんか?」
長門「………入って」
古泉「は、はい、お邪魔します」
長門「…………」
古泉「あの、本当にすいません。約束を破ることをしてしまって」
長門「別に良い。それに、約束を破る、という行為はそれを守られなかった時に用いる言葉。過程はどうにせよ、貴方もこうしてやってきた。つまりは『破る』という行為に該当しない。だから良い」
古泉「……有難う御座います、長門さん」
長門「抱き締める?」
古泉「……えっ?」
長門「抱き締めたいと思う?」
古泉「? いえ、そういう気持ちは特に……」
長門「そう、それが普通」
古泉「??」
長門「荷物、半分持つ」
古泉「えっ……、あっ、大丈夫です。これでも男ですからね、気にしないで下さい」
長門「そう」
みくる「あっ、古泉君、こんばんは」
古泉「はい、こんばんは」
みくる「ごめんなさい、まだ準備が終わってないんです」
古泉「いえいえ、気にしないで下さい。僕もお手伝いしましょうか?」
みくる「もう少しで出来ますから大丈夫ですよ」
長門「…………」
みくる「あっ、長門さん、有難う御座います。それじゃあ、長門さんも古泉君と一緒に待ってて下さい」
長門「手伝う」
みくる「ふふっ、大丈夫ですから、古泉君とコタツでぬくぬくしてて下さいね」
長門「………5027条?」
みくる「ゆっくりして下さい、ってことで、お約束じゃありませんよ」
長門「了解した」
古泉「あっ、長門さん。勝手に冷蔵庫お借りして、飲み物とかいれちゃったんですけど良かったですか?」
長門「構わない」
古泉「助かります」
長門「……蜜柑、食べる?」
古泉「あっ、では頂きます。と言いたいところですが、もうお鍋が出来上がるでしょうし、遠慮しておきます」
長門「…………じゃあ、私も遠慮しておきます」
古泉「……長門さんにしては珍しい口調ですね」
長門「そうでしょうか?」
古泉「……なにかあったんですか?」
長門「おや、気に掛けて頂けるんですか? 大丈夫です、何もありませんよ」
古泉「それなら良いんですけど……」
長門「ふふっ、気にし過ぎです」
古泉「あの……もしかして、それ、僕の真似だったりします?」
長門「それはご想像にお任せしましょう」
古泉「…………」
長門「…………」
古泉「悩みましたが、5027条に真似しないことを追加しておきましょう」
長門「そう」
古泉「……?」
長門「?」
古泉「あっ、ちょっと気になるものがあったので……」
長門「どれ?」
古泉「テレビの下にある白い機械、でしょうか」
長門「これ?」
古泉「そう、それです」
長門「これはWii」
古泉「We?」
長門「ゲーム機」
古泉「なるほど、ゲーム機ですか」
長門「それなりに有名」
古泉「生憎、結構な機械オンチなものでその手のものには興味、というか、壊したらどうしようという恐怖心しかありません」
長門「携帯は?」
古泉「機関で徹底的に叩き込まれました、必要あるのか顔文字まで、スパルタで。使えないと色々と面倒だそうで」
長門「そう」
古泉「それにしてもWe、ですか。変わった名前ですね」
長門「…………」
古泉「というよりも、長門さんがゲームをするというのも少々意外ですね」
長門「まだ遊んだことはない」
古泉「そうなんですか?」
長門「今日、初めて遊ぶ」
古泉(…………かなーり今日の事を楽しみにしていたみたいですね……、許してはくれたみたいですが、やっぱり罪悪感が凄いですよ)
みくる「はーい、お待ちどうさまー。 危ないですから少し離れて下さいねー」
古泉「ご苦労様です」
長門「です」
みくる「よいしょっと。コンロのガスは十分ですか?」
長門「少し減っていると思われるが問題無い」
みくる「良かった、それじゃあ―――あっ、ういー!」
古泉「おや、本当に有名なんですね」
みくる「古泉君、知らなかったんですか、ういー」
古泉「お恥ずかしい限りです」
みくる「くすっ、そんなに大袈裟なことでもないですけど。でも、楽しいんですよ、ういー」
古泉「遊んだことあるんですか?」
みくる「はい、鶴屋さんのおうちでですけど」
古泉「なるほど。うーん、そこまで言われると些か興味が湧いてしまいますね」
長門「鍋を摂取した後で遊ぶ」
みくる「あっ、良いですねー、そうしましょ! さてさて、今はお鍋、お鍋。開けますねー」
パカッ グツグツグツグツ
古泉「おー」パチパチ
長門「おー」パチパチ
古泉「美味しそうですねー」
長門「ぐつぐつ」
みくる「さて、どうしましょう?」
古泉「えっ?」
長門「?」
みくる「いえ、折角ですから、第一回開催を記念して乾杯の音頭を誰かに……」
古泉「じゃあ、朝比奈さん」
長門「じゃあ、朝比奈みくる」
みくる「え、ええっー!? こう、もうちょっと論議とかしませんか、ふつー!?」
古泉「やはり言い始めた者がやる、というのがお決まりですし」
長門「頑張って」
古泉「それじゃあ、飲み物とポン酢を取ってきますね」
みくる「あっ、はい。お願いします」
長門「ぐつぐつ」
古泉「朝比奈さんはお茶で良いですか? オレンジジュースもありますけど」
みくる「あっ、お茶でお願いします」
古泉「はい、お注ぎします」
みくる「あ、有難う御座います」
古泉「長門さんは?」
長門「オレンジジュース」
古泉「はい、どうぞ。それでは、朝比奈さん、お願いします」
みくる「え、えー、それじゃあ、えーっと、こうやって古泉君と長門さんの3人で積もる話もあるということで集まることと相成りましたが、まぁ、そういう約束をしていながら私は忘れてしまっていましたけど……ごめんなさい」
古泉「同じく、本当に申し訳ありません」
長門「気にしないで」
みくる「えー、関係上なかなか仲良くとは言えませんが、ある種同じ目的を持って行動している私達。そこはもう色々と溜まるものもあるわけで――」
古泉「でも本音を言うと、そんなに愚痴ることもなかったりするんですけどね……」
長門「右に同じ」
みくる「それは私も同じなんですけどぉ。寧ろ楽しいぐらいですし……」
古泉「……」
長門「……」
みくる「そこは、まぁ! 捻り出して! 絞り出して! ぐ、愚痴っていきましょー! か、かんぱーい!!」
古泉「かんぱーい」
長門「かんぱーい」
ゴクゴクゴクゴク
みくる「ぷはぁー!」
古泉「ぷはぁー!」
長門「?…………ぷはぁ」
みくる「さぁさぁ、食べましょ、食べましょ。あっ、長門さんの分は私が取ってあげますね」
長門「感謝」
古泉「あっ、ポン酢どうぞ」
みくる「どうもー。あー、なんだか高そうなポン酢ですねー」
古泉「いえいえ、それほど高級な物じゃありません」
みくる「どれどれ……。あっ、柚子ポン酢ですかぁー、うん、おいし」
古泉「それは良かった。好みを押し付ける形になるんじゃないかと冷や冷やしてたんです」
みくる「そんなことありませんよー。ほんと美味しいポン酢ですねー。どこで売ってるか教えてもらえます?」
古泉「ええ、構いませんよ」トポトポ
みくる「あれ、キムチの素? あっ、もしかしてキムチ鍋の方が良かったですか?」
古泉「えっ? あっ、いえいえ、違うんです。これをポン酢と合わせて食べるのが、好きなんですよ」
みくる「へぇー、そうなんですかー。私は辛いのはちょっと」
古泉「それほど辛いわけじゃありませんが、味が引き締まる気がするんですよね。グルメとは程遠い存在である僕が言うのも可笑しいですけど」
長門「人それぞれ好みというものがある、気にする必要は皆無」
みくる「そうですよー、気にせずに楽しく食べましょー」
古泉「はい、ではいただきます。…………うん、美味しい」
長門「はふはふ、美味」
みくる「ふふ、まだまだありますからどんどん食べて下さいね」
古泉「……はふっ……それで、どうしましょうか?」
みくる「?」モグモグ
長門「?」モグモグ
古泉「いえ、一応は愚痴る会ですし、ここは、そういう話をするべきでしょうかねー」
みくる「あー、やっぱりそうなりますか……」
長門「もぐもぐ……先陣は?」
古泉「……そういう言い方をされると、トップバッターは遣り難いですね……」
みくる「でも古泉君、さっき自分が言ったことに関しては責任を持たないと」
古泉「……え~っと?」
長門「『やはり言い始めた者がやる、というのがお決まりですし』」
古泉「……わざわざ僕の声で再生して頂き有難う御座います」
長門「どういたしまして」
古泉「……ほんのちょっとだけ皮肉を込めてましたよ?」
長門「知ってる」
みくる「はい、では古泉君からどーぞ」
古泉「え~、え~っと、そうですね~。まぁ、ここ最近のデータを見なくても一目瞭然なのですが、去年と比べて今年は閉鎖空間の出現率が圧倒的に少なくなっています」
長門「もぐもぐ」
みくる「うん、素人目……という言い方も可笑しいですけど、私でもなんとなくそれは感じてました」
古泉「やはり長門さん、朝比奈さんは勿論、彼という存在が涼宮さんにとって大きな拠り所になっているからでしょう。僕から言うのも変ですが、本当に有難う御座います」
長門「どういたしまして」
みくる「それを言うなら古泉君の存在も、ですよ」
古泉「ふふっ、そうなら嬉しいんですけどね。とまぁ、前置きはこれぐらいとしまして、なんだかんだで一番の拠り所はやはり彼」
みくる「キョン君、ですね」
古泉「はい。だからこそ、と言えば彼にとっては大きな重荷になるでしょうが、ここは敢えて言わせてもらいましょう」
長門「おっ」
古泉「自分の発言には責任を持て、とは良くある言葉ですが、彼の場合、もうちょっと……いえ、今回はオブラートに包みませんよ。デリカシーを持て!と言わせて頂きます」
みくる「おー、出ましたね」
長門「古泉一樹、オレンジジュースおかわり」
古泉「はいはい。いやはや、これは、ね、言わせてもらいたいところです。減少しつつある閉鎖空間の出現ですがその発生の根源がほぼ全て、出現率を低下させている一番の存在である彼なんですから、そりゃあ言いたくもなりますよ。はい、長門さん」
長門「感謝」
みくる「あははっ、何だか矛盾した話です」
古泉「ほんと矛盾した話ですよ。この前なんか『お前、最近太ってきたか?』なんて爆弾発言を落としましたからね」
みくる「あらっ、それはちょっと頂けませんねー」
長門「ある意味、流石」
古泉「でもね、本当に愚痴りたいのはここからだったりするんですよ」
みくる「むむ、面白くなりそうですね……。あっ、古泉君、お鍋いれましょうか?」
古泉「あっ、すいません。白菜と厚揚げを多めでお願いします」
長門「私もおかわり」
みくる「はいはい。古泉君、続きをどうぞ」
古泉「あっ、ちょっと待って……下さいね……、ごくん。ふぅ。で、太ったか発言をした後、案の定と申しますか閉鎖空間が出現しまして」
みくる「毎度ご苦労様です」
長門「様です」
古泉「いえいえ、どういたしまして。で、ですね。まぁ、出現してしまったからにはこちらとしても動くしかありませんが、流石に今回ばかりは憤りを感じるわけですよ」
みくる「まぁ、仕方ありませんよね、今回ばかりはキョン君にデリカシーが無かったわけですから」
長門「もぐもぐ」コクコク
古泉「まぁ、彼が言ってしまった事に今更とやかく言うつもりもありませんでしたし、そういう彼だからこそ涼宮さんが惹かれたわけでもあります」
みくる「……そうですけどぉ……。でも女の子としては許せませんよ、今度ちょっとお説教しちゃおうかなぁ」
長門「推薦する」
古泉「是非ともお願いしたいところです。……情報源は僕であることは伏せておいてくださいね?」
みくる「ふふ、判ってますよ」
長門「極力努力する」
古泉「なんで長門さんの方が曖昧なんですか、もう。とにかく、閉鎖空間に現れる神人。これを抑えなければならないわけですが、今回は先程から述べているように少々気が荒立ってましたから、ストレス発散も兼ねて体を動かそうと気合いを入れていたわけです」
みくる「ふんふん」モグモグ
長門「もぐもぐ」コクコク
古泉「で、さぁ、頑張るぞー!と閉鎖空間に入って飛び立とうとしたんですが……」
みくる「ごくん……ですが?」
長門「もぐもぐ」
古泉「神人がね……、凄く落ち込んでるんですよ。それはもう、がっくりと、体育座りなんかしながら」
みくる「あっ、ちょっと可愛いかも」
長門「……」
みくる「でも、神人さんはなぜそんなことを?」
古泉「そこなんですけどね……、今まで一度もこういうことがなかったわけですから僕を含めた機関の人間はそれはもう焦りましたよ。砂のお城を崩す子供の如く暴れ周っているはずの神人がそんな状態なんですから」
みくる「うん、そうなりますよね」
長門「……」
古泉「僕なんか、もう気合いをいつも以上に注入していたというのに、そんな神人を見たら、何となく遣り辛くて遣り辛くて……」
みくる「そうですよねー、なんだか可哀想ですもん」
長門「ですもん。おかわり」
みくる「あっ、はーい」
古泉「体育座りをしていじける神人の横で、今回作戦を行う予定だったメンバーで相談した結果、涼宮さんの感情を神人がダイレクトに影響を受けたという結論に至りました。……豆腐取りあります?」
みくる「あっ、入れますよー。……それじゃあ、やっぱり涼宮さんはキョン君に、太ってる、って言われて凄いショックを受けてたんですね」
長門「状況としては非常に問題があるように推測される」
古泉「そうなんです、何しろ初めての出来事ですし、いつものように神人を抑えることで涼宮さんに影響が出ないとも限りません。おまけに、何と言ってもそんな神人では遣り難いですからね。……あー、豆腐、美味しい」
みくる「じゃ、じゃあどうなったんですか?」
古泉「はい、そのまま延々と時間だけが過ぎて行くのかと困惑していた矢先、急に神人が立ち上がったかと思うと、行き成り態度で見てとれるほど上機嫌になり、こちらに手を振ってバイバイしながら消えてしまいました」
みくる「まあ!」
長門「奇奇怪怪」
古泉「ただでさえテンションの低い神人を見るのが初めてだったと言うのに、今度はテンションを急激に上げて、こちらが何もせずに消えてしまい、僕らはただ茫然と立ち尽くすだけでしたよ」
みくる「でも、どうして神人さんは急に消えちゃったんですか?……長門さん、おかわりは?」
長門「愚問。いる」
古泉「この肉団子美味しいですね」
みくる「あっ、良かったぁー。そう言って貰えると作った甲斐があります」
古泉「えっ!? これ手作りなんですか!?」
みくる「そんな大袈裟なものじゃありませんよ。お肉に黒胡椒をぱぱっと振って、スプーンで一口サイズに掬って入れるだけですから」
長門「でも美味」
古泉「う~ん、値段を掛けることが全てではない、ということを痛感させられますねぇ」
みくる「ふふっ、もう少し入れましょうか?」
長門「是非っ」
古泉「なんで長門さんが即答するんですか、もう。……ふふ」
みくる「それで、神人さんはなんで消えちゃったんですか?」
古泉「はふっはふっ……ごくん。はい、その後、涼宮さんと彼を監視していた機関の人から聞いたんですが……。どうも、その後、彼は『でも安心したぞ。ちゃんと飯を喰ってるようで。お前、昼飯とかどうしてるか判らんから結構心配してたんだぞ』と言ったそうで」
みくる「あら、あらあらあらっ!」
長門「流石」
古泉「はい、要約すると以下の通りです。実は彼は何時も涼宮さんが昼食をどうしているのかいまいち把握しておらず、それが心配だった。しかし、そんなことを素直に言えるわけもなく、デリカシーの無い一言で涼宮さんを傷つけます。ここで閉鎖空間出現、僕が出動、神人は体育座り。流石にちょっと言い方が悪かったと思ったのか、僕が閉鎖空間に出動してから、僕が閉鎖空間に出動してから! 最後の最後で心配していたということを彼が告げ、そこで涼宮さんが心配されていたことに気付き、内心とても喜んでハッピーエンド!」
みくる「あら……、あらあらあら……」
長門「さっすがー……」
古泉「心配しているならもっと言葉を選びなさい! フォローするなら早くしなさい! 無駄な行動をしていた機関の人達に、何よりも、鬱憤をどうしたら良いか判らずに閉鎖空間でスクワットして帰った僕に謝れー!!」
みくる「ご苦労様です、ご苦労様です! お茶を注がせて頂きます」
長門「肩を揉ませて頂きます」
古泉「有難う御座います、有難う御座います」
みくる「なんだかんだで、結構大きな愚痴、でしたねー」
長門「しかも納得のいく」
古泉「あはは、彼には絶対に内緒ですよ?」
みくる「もちろんです」
長門「きっとです」
古泉「さっきよりも曖昧になってません、長門さん? ……とまぁ、ここまで愚痴っておいてなんですが、実は喜んでたりするんです」
みくる「ふふっ、やっぱりそうですよね」
長門「貴方がどちらかというと喜々として語っていたのが伝わってきた」
古泉「あはは、そんなに出てましたか。……涼宮さんに関しては、やはり『初めての出来事』が起きると機関としても喜ばしいことではありませんでした。でも、今回、誰の目から見てもその初めては良い兆候であることを意味している。そしてなによりも、涼宮さんが、ふたりが幸せである。それが何となく感じ取れて、結果的には喜ばしい出来事でした」
みくる「そうですね、本当に良かった……」
長門「…………」
古泉「でも、とばっちりは正直御免です」
みくる「あっ、やっぱり最後は愚痴ですね、ふふっ」
長門「…………」メモメモ
古泉「はい、長門さん。都合の悪い、人の発言はメモらない! 5027条に追加です」
長門「既に5027条は古泉一樹の真似をしない、で埋まっている」
古泉「あっ、そうでしたね。それじゃあ、5028条に追加でお願いします」
長門「了解した」
古泉「とりあえず、今の僕が言える愚痴は、以上でしょうか。……ふぅ、なんか体が火照って仕方ありません。団扇で仰ぎたい気分です」
みくる「ふふ、慣れてないですもんね」
古泉「慣れるべきでもないんでしょうけど、すっきりしましたよ」
長門「お疲れ様」
古泉「さて、僕の番は終わりました。次はどちらが愚痴る番ですか?」
みくる「……」
長門「……」
古泉「……」
みくる「……長門さん、犬と猫どちらが好きですか?」
長門「わたしはぁー、猫かなぁー」
みくる「そうなんですかぁー、私は猫も好きですけど、どちらかと言うと犬派なんですよー」
長門「うんうん、ワンちゃんも可愛いよねー」
古泉「ぜんっぜん誤魔化せてませんよ。寧ろ違和感しか覚えません」
みくる「ううっ……」
長門「……」
古泉「ダメですよー、僕も無理して言ったんですからおふたりにも愚痴ってもらわないと」
みくる「で、でもでも、こういうのは愚痴を言いたい人だけが愚痴を言う会であって、何も全員言う必要はないと思いますぅ」
長門「その通り」
古泉「記念すべき第一回ですからね、みんなで愚痴を言って、罪を共有すべきです。絆も深まること請け合いです」
みくる「……うわぁ、なんか古泉君らしくないですよー!」
長門「偽古泉」
古泉「ええ、ええ、何とでも言って下さい。僕だけ愚痴って弱みを握られるのは癪ですからね、みなさんにも語ってもらうまでは鬼にも悪魔にもなりますよ!」
みくる「むむむっ、悪魔泉!」
長門「鬼泉っ!」
古泉「ふふーん、なんとでも言って下さい!!」
みくる「まがーれの人!」
長門「ふんもっふな人!」
古泉「……ごめんなさい、やっぱりあんまり言わないで下さい」
みくる「……はぁ、仕方ありませんね、確かに古泉君だけじゃあ不公平ですし……次は私が言います」
古泉「おっとこれは意外ですね、先に長門さんが言うと思ったんですが」
長門「朝比奈みくるにも色々積もるものがあるということ」
みくる「別にそういうわけじゃあ、ありませんけどね……。あっ、そろそろお肉とかお野菜、新しいの入れましょうか」
古泉「ん、そうですね、お願いします」
みくる「おうどんも入れちゃいます?」
長門「もう少し後で」
みくる「はい」
古泉「すいません、朝比奈さんばかり動いてもらって」
みくる「ふふ、良いんですよー。私としても料理を食べてもらって喜んでくれればそれが一番ですし」
古泉「ありがとうございます」
みくる「どう致しまして。……それじゃあ、何を話しましょうか」
長門「ぐーち」
みくる「もうっ、それは判ってます。う~ん、やっぱり涼宮さんのこと、かな?」
古泉「やはり朝比奈さんはそうなりますか」
長門「鉄板の流れ」
みくる「やっぱり、ちょっと強引過ぎるところを抑えて欲しいですよねー」
古泉「あはは、無理やりコスプレさせるところ、とか?」
みくる「そうですよー、もう。ほんとーに恥ずかしいんですからね、あれ」
長門「でもメイド服に関して言えば羞恥心を捨てているように見える」
みくる「……慣れ、なんでしょうねー。人間、慣れっていうものが一番恐ろしいと思います、ほんと」
古泉「まぁ、その意見には同意せざる得ないわけですが、それが涼宮さんらしさなんですよねー」
みくる「そうなんですけどね……やっぱり、恥ずかしいですし。でも楽しそうに笑ってる涼宮さんを見てると、本当に可愛くて、そんな気持ちが段々薄れていっちゃたりしてる自分が一番情けなかったり」
長門「可愛いものを愛でることは当然のこと」
みくる「…………じゃあ、長門さんをだっこしても良いですか?」
長門「………なぜ?」
みくる「…………そろそろお鍋、いけますよー」
古泉「あははっ」
カパッ グツグツグツグツ
長門「お願い」
みくる「はい、お肉が多めですか?」
長門「お野菜の方を多めで。あと、お豆腐も」
みくる「はい」
古泉「はふはふっ……、それで朝比奈さんの愚痴は以上ですか?」
みくる「う~~~ん……。うん、古泉君も頑張って言ってくれましたし、私も勇気を振り絞って言わせて頂きます」
古泉「おっ」
長門「おっ」
みくる「やはり、何と言ってもキョン君に対する態度! もう、私達から見ればバレバレなんですから、ここは、もう、あれです」
古泉「……頑張って!」
長門「……朝比奈みくるは出来る子」
みくる「す……す、素直になれ!!と言わせて頂きます!!」
古泉「おー」パチパチ
長門「おー」パチパチ
みくる「ええ、判ってます。とっても良く存じております。そりゃあ、怖いかもしれません、恥ずかしいかもしれません。でもね、一言。たった一言、勇気を振り絞って『好き』と伝えれば、妄想だけで終わっていた出来事が全て叶うことになるんです!」
古泉「だ、大胆発言ですね」
長門「鎖を解かれた獣」
みくる「キョン君だって涼宮さんの事を好きに決まってます。先程の古泉君の話からしても、そう的を外しているとは思えません。いっつもいっっも私とふたりきりになれば気にするにはキョン君の事で、すんごく素直になっているのにどうして、どーして、彼の前では素直になれませんか!?」
古泉「……へぇー、知りませんでした」
長門「私とふたりきりの時もそう」
古泉「何だかんだで女の子、ってことですね」
みくる「涼宮さんには早く幸せになって欲しい! もう、それだけなんです。好きな人と結ばれる気持ちを手にし、溢れんばかりの笑顔を見せて欲しい!」
古泉「……すっごい良い話になってます。僕の愚痴が極悪に思えてきました」
長門「はふはふっ。そう思っているのなら世の中、最上級の悪で溢れ返っていることになる」
古泉「……ふふっ、ありがとうございます」
みくる「そして、その幸せ溢れんばかりの笑顔を撒き散らす涼宮さんを抱きしめて上げたい! 良かったですね、と囁きながら!!」
古泉「……これは、願望ですよね?」
長門「否、欲望」
古泉「それにしても朝比奈さん、相当ヒートアップしてますね……」
長門「押してはいけないスイッチを連打した」
みくる「古泉君!」
古泉「は、はい!」
みくる「お茶のおかわりをお願いしても良いですか!?」
古泉「仰せのままに」
みくる「長門さんっ! 危ないですからお鍋を取りたいときは私に言って下さい!!」
長門「御意」
みくる「ごくごくっ……ふぅ、とまぁ、古泉君のに比べれば大したことありませんが、以上が私の愚痴です」
古泉「はっ、左様で」
長門「結構なお手前で」
みくる「?……どうかしました?」
古泉「……クールダウンされたようで一安心です。まぁ、人それぞれ受け取り方、感じ方は異なりますし、大きければ良いというわけではありませんよ」
長門「すっきりすることが大切」
みくる「……うん、そうですね。人には言えないことですから、思いっきり喋ってすっきりしました」
古泉「それはなにより。ストレスを溜めるのは良くないですからね」
長門「そう」
古泉「それにしても、ここまで慈愛に充ち溢れる愚痴は初めてです」
みくる「じ、慈愛って。もうっ、そんなに大袈裟なことではありませんよ」
古泉「いえいえ、流石は朝比奈さん」
長門「流石でございます」
みくる「も、もおー、からかわないで下さい!!」
みくる「も、もおー、からかわないで下さい!!」
古泉「そんなつもりは毛頭ないんですが……。それにしても涼宮さんがふたりきりだと彼の事ばかり話すことが意外でしたね」
みくる「勿論、私もそうですよー」
長門「私も」
みくる「でも、私の場合はあれかもしれませんけど」
古泉「はふはふっ……、あれ、とは?」
長門「?」
みくる「私、涼宮さんにあんまり好かれてないですから」
古泉「……はっ?」
長門「……へっ?」
みくる「長門さんの場合はもしかしたら相談という形で話してるかもしれませんけど、私の場合、話すことがないからキョン君の話題ばかり出しているかなー、って」
古泉「……」
長門「……」
みくる「?……どうしました、ふたりとも。考える人みたいなポーズ取って」
古泉「……これはどうしたものか……、なんとも掛ける言葉を見つけられません。長門さん、進めてもらっても宜しいですか?」
長門「任せて。朝比奈みくる、どうして涼宮ハルヒに好かれてないと思うのか、その理由の提示をお願いする」
みくる「え? 普段の私に対する態度から、ひしひしとそれが伝わってくるんですけど」
古泉「……どういう変換機能ですか、それ。どう考えても朝比奈さんと一緒にいるのが楽しいからだとしか思えません。暴走はしてますが」
長門「完全同意」
みくる「え、ええ~。……あっ、慰めようとしてくれてるんですか~? 大丈夫ですよ、人に好まれないのは慣れてますから。はふはふっ」
古泉「……重症です、これはトラックに轢かれて肋骨3本折れた以上に重症です」
長門「プラス左腕骨折ぐらい」
みくる「?」
古泉「えーっと、ふたりっきりになられる、とのことですが、それは部室でですか?」
みくる「いいえー、近くの喫茶店とかショッピング中ですね」
古泉「朝比奈さんが誘う形で?」
みくる「いいえー、涼宮さんからですね、いつも」
古泉「……」
長門「……」
みくる「?……なんでまた、考える人のポーズになるんですか、ふたりとも? おまけに梅干しを食べたように酸っぱそうな顔をして……」
古泉「……あおの、朝比奈さん、ここはもうはっきり言わせて頂きます……」
みくる「えっ!? あ、あの、慣れてる、とは言いましたが……やはりはっきり言われるとズキンとくるというか、グワンとくるというか……」
長門「貴女の病気を治すため、我慢して」
みくる「い、意味が良く判らないんですけど……」
古泉「では、言わせて頂きます……」
みくる「…………」ジワッ
古泉「どう考えても朝比奈さんは涼宮さんに好かれています。姉のように慕っている可能性すらあります」
みくる「……ほえっ!?」
長門「当然」
古泉「涼宮さんからショッピングや喫茶店のお誘いをしてるのにどーして好かれてないと思いますか」
長門「愚問すぎてお腹が減る。おかわり」
みくる「えっ、あっ、はい。……た、たまたま誘う人が私しかいなかった、とか……」
古泉「嫌いな人を誘うわけないでしょう、あの涼宮さんが。大体――――あっ、長門さん、それ最後のお豆腐ですよね!? 狙ってたのに!」
長門「早い者勝ち」
古泉「……くぅー、油断しました」
長門「…………半分こ」
古泉「わっ、ありがとうございます」
みくる「あの、すいません。とんでもなく続きが気になるので早くっ!」
古泉「はふっ……、失礼しました。大体ですね、SOS団として招かれ、その後、引き続き団員として活動している時点で好かれてないわけありません。……まぁ、副団長を続けている自分が言うと自惚れみたいで、少し情けないですが。兎に角、SOS団のメンバー間で誰かが誰かを嫌うなんてことは有り得ませんよ、絶対」
長門「大丈夫。絶対大丈夫」
みくる「……よ、良かったぁー。ぐすっ」
古泉「寧ろそこまで不安になっていた理由を知りたいぐらいです」
長門「同意」
みくる「……ぐすっ、実はですね、涼宮さんのことは妹のように思ってたんですよ……」
古泉「……ふふっ、涼宮さんのことが本当に好きなんですね」
長門「………………羨ましい」
古泉「おやっ? 今、な―――」
長門「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
みくる「そうかぁー、嫌われて無かったんですね! うん!」
古泉「ええ、そこは全力で自信を持って良いところです」
長門「ごっくん、そう」
みくる「えへへへへへへへ、嬉しいなぁー。……うん、これからは涼宮さんにもっと優しくしないと。あっ、勿論、皆さんにも」
古泉「…………えっ、まだ優しくできるんですか?」
長門「OH……マリア……」
みくる「えっ? 寧ろ、あんまりみんなに優しくできてなかったかなー、なんて」
古泉「…………朝比奈さんから後光が、見えます」
長門「目を……目を合わせられない」
みくる「?」
古泉「でも、まぁ、誤解が解けてなによりです。……いやはや、これだけでもこの会を発足した甲斐が、お釣りを貰えるほど十分にありましたね」
みくる「えへへへぇ、ほんとありがとうございます。……これから、涼宮さんを妹みたいに接しても問題ないんですねぇー、うふふ」
古泉「これはまた上機嫌で……。節度は守って下さいね」
みくる「はぁーい」
長門「…………」
みくる「ん? 長門さん、どうかしました?」
長門「……わた―――別に」
みくる「?」
古泉(…………そこは是非とも言って上げて欲しいところなんですが……上機嫌の朝比奈さんでは気付きませんかね……)
みくる「♪」
長門「……もぐもぐ」
古泉(気付いた僕だけに流れる不穏な空気! ど、どうしましょう)
みくる「♪」
長門「……もぐもぐ」
古泉(気付いた僕だけに流れる不穏な空気! ど、どうしましょう)
みくる「あれ?」
古泉「ん?」
長門「…………」
みくる「……あっ、それは自惚れ、かな……」
古泉「何がですか?」
長門「……もぐもぐ」
みくる「あっ、いえ、うーーん……」
古泉「?」モグモグ
長門「……もぐもぐ」
みくる「……あの、勘違いだったら御免なさい……。もしかして古泉君も長門さんも……もしかして私のこと、嫌ってなかったりします?」
古泉「……それもまた愚問です。先程申し上げたようにSOS団のメンバー間で誰かが誰かを嫌うなんてことは有り得ませんよ、絶対」
長門「……」コクン
みくる「…………あ、ああー……、もう、マズイです……大泣きしちゃいそうです……」
古泉「ふふっ」
長門「…………」
みくる「あー、本当に嬉しいっ! 長門さんには特に嫌われていると思ってましたからー!」
長門「だからなぜそうなる」
古泉「……おっと珍しく怒り口調の長門さん。まぁ、これは怒ってあげるべきですね」
みくる「うっ……。で、でも本当に良かったぁー、長門さんも妹のように思ってましたから」
長門「!!!!!」
古泉(なんというカウンターパンチ!! 出ないと思われた言葉が、少しの間を置いて飛び出しました! これは効果バツグンです!! …………なにかアルコールの類でも口にしたんでしょうかね、僕。変なテンションですよ……?)
みくる「な、長門さん……」
長門「……なに?」
みくる「……抱き締めても良いですか?」
長門「………なぜ?」
みくる「……妹のように慕っている、じゃあダメ……ですか?」
長門「………それなら良い」
みくる「! ………えへへぇ」ギュウ
長門「…………」スリスリ
古泉「はふはふっ、麗しき友情愛を見ながら食べる鍋は格別ですが、なんというかマフィアのボスみたいな気分です」
古泉「さぁさぁ、名残惜しいとは思いますが、鍋が冷めちゃいますよー」
みくる「あっ、はぁーい」
長門「……ぁ………コンロの火を点けているので鍋が冷めることはない」
古泉「気分の問題ですよ、離れるのが寂しいからって理屈で反撃するのは止めて下さい。もぐもぐ」
長門「……クスッ。もぐもぐ」
みくる「あー、本当に打ち解けてきたー、って感じがしますねぇ。長門さんも古泉君も、そうやって冗談を言い合えるようになってますし」
古泉「……ふふっ、そうですね。普段なら、こんなこと言い合えることはなかったでしょうし」
長門「……同意」
古泉「と、奇麗に締めたいところではありますが」
みくる「?」モグモグ
長門「?」モグモグ
古泉「まだ長門さんの愚痴を聞いてませんでしたねー」
みくる「あーっ、そうでした! すっかり忘れてましたよ!」
長門「……鬼泉」
古泉「ふふっ、それとなく適度に何とでも言って下さい」
古泉「ふふっ、それとなく適度に何とでも言って下さい」
みくる「さぁー、さぁー、今度は長門さんの番ですよー!」
長門「しかし、困ったことがある」
古泉「なんです、困ったことというのは?」
長門「確かに私にも言いたいことはあった。だが、既にその問題がほとんど解決してしまっている、ということ」
みくる「愚痴を言う必要性が無くなった、ということですか?」
長門「……」コクン
古泉「僕達が鍋をつついている間に状況が変化した、というわけですか。……それでも長門さんの口から愚痴を聞けるのなら、意味を失ったとしても是非とも聞いてみたいですね」
長門「ふたりが構わないなら」
みくる「私も勿論構いません。……なんだろ、ふたりがくっついた、とかだったりして」
古泉「うーーん、それなら機関から何らかの連絡があると思いますが……」
長門「朝比奈みくる」
みくる「あっ、はい? お鍋ですか?」
長門「私とももっと仲良くして欲しい」
みくる「……えっ?」
古泉「あっ、なるほど。そっちでしたか」
長門「涼宮ハルヒとしたように、私ともショッピングや本屋へ一緒に行って欲しい」
みくる「…………」プルプル
古泉「あー、マズイですねー。和やか空気が凄過ぎてお茶が止まりません」
みくる「ながとすわぁーーん!!」
長門「………なに?」
みくる「撫で撫でしても良いですか? だっこしても良いですか!?」
長門「………なぜ?」
みくる「それはもう妹のように慕ってますから!」
長門「ダメ。同じ理由は通用しない」
みくる「ガーン」
古泉「ぶほっ! ごほっ、ごほっ! く、くくっ、ツボに入りました……」
みくる「大丈夫ですか、古泉君?」
長門「もぐもぐ」
古泉「ええ、もう大丈夫です。それにしてもそれが長門さんの愚痴、ですか。本人がいる前にして言うところが流石と申しましょうか。まぁ、はっきりとそれを本人に伝えることも大切なことでもあるんでしょうね」
みくる「えへへへぇ、今日は顔のニヤケが止まりそうにありませんよぉー」
長門「まだある」
みくる「えっ、まだあるんですかー!?」
長門「古泉一樹」
古泉「……うどんは入らなさそうですね……。えっ、はい? オレンジジュースですか?」
長門「私ともっと仲良くして欲しい」
古泉「……んふっ!?」
長門「彼とやるように、私とも今度、なにかゲームをして欲しい」
みくる「今度はそうきましたかぁー」
古泉「あっ、はい……。こんな僕で宜しければ」
長門「楽しみにしている」
みくる「うん、確かにこれも言う必要性が無くなった愚痴ですね」
古泉「あはは……マズイですね、朝比奈さんの気持ちが凄く判ります」
みくる「はい?」
古泉「ニヤケが……止まりそうにありません」
みくる「ふふっ、でしょう?」
長門「うどんの投入を希望する」
古泉・みくる「まだ食べるんですか!?」
みくる「はぁー、食べましたー」
長門「まこと美味。朝比奈みくるには感謝」
みくる「いえいえ、こちらこそ、ですよ。あー、それにしても、食べて直ぐ横になるのはダメと判っていてもコタツの誘惑がぁー」
長門「それに打ち勝つ方法など皆無」
みくる「まったくその通りですよぉー……」
古泉「洗い物、終わりました」
みくる「あっ、有難う御座います」
古泉「いえいえ、これぐらいさせてもらわないと罰が当たります。土鍋の方は洗わなくて良かったんでしょうか」
みくる「はい、折角ですから長門さんの朝食用に雑炊でも作ろうかと思いまして」
長門「感謝感激」
古泉「さてさて、どうしましょうか」
長門「Wii、Wii」
みくる「あっ、そうそう、遊ぶ約束でしたよねー」
長門「そうそう」
古泉「んー、まだ時間もありますし、ちょっと遊ばせてもらいましょうか」
長門「でも、手持ちのソフトは4人用」
みくる「?……今私達3人しかいませんし問題無いかと思いますが」
古泉「4人専用ソフト、とかですか?」
長門「違う。やはり最大人数で遊ぶのが一番」
みくる「なるほど。でも、今から呼べる人なんていませんし……」
古泉「大体、このメンバーの中で呼べる人なんて皆無ですよ? まさか彼か涼宮さんを呼ぶわけにもいきませんし」
長門「●◆〒■▼☆★」
みくる「?」
古泉「?」
みくる「あの、長門さん、一体何を――――」
「僕らのぉ、自由はぁー♪」
みくる「!?」
古泉「!?」
朝倉「僕らのぉ、青春はぁー♪」シャカシャカ
みくる「…………」
古泉(ipodから流れる曲を目を瞑りながら全力で熱唱していますね……)
朝倉「大袈裟に言うのなら………って、あら? ……もう長門さん、また突然の呼び出し? 今度は一体――」
古泉「……どうも」
みくる「……こんばんはぁ」
朝倉「」
長門「これで4人。ゲームはマリオカートを希望する」
朝倉「はぁ、急に呼び出されたと思ったらゲームの人数合わせだなんて……」
長門「気にしないで」
朝倉「長門さんが言うことじゃないでしょ、もうっ」
みくる「…………」
古泉「………あの、長門さん。彼女は……?」
朝倉「あっ、自己紹介は――必要ないかもしれないけど、やっぱり礼儀として名乗らせてもらうわね。私の名前は朝倉涼子。私のことは長門さんから聞いて大体の事は知ってるわよね?」
みくる「……え、ええ……」
古泉「大体は……ですが」
朝倉「そう。でも安心して。今の私には不純物。言うならエラーの蓄積が一切見られないから。まぁ、絶対空間で今は安静中の身だけどね」
長門「彼女の言うことは本当、安心して」
古泉「それならそれで構いませんが……初対面の人といきなりゲームというのも……」
みくる「ちょっと遣り辛いですよね……」
朝倉「えー、正直、長門さんとしか会えなかったから、もう寂しくて寂しくて仕方無かったのよー。みくるちゃーん、遊んでよー!」
みくる「え、えーっと、でも私、ほんとに人見知りでして……上手く打ち解けれるかなぁ……」
古泉「僕もですよ……はぁ、大丈夫かなぁ……」
――1時間後――
古泉「ちょっと今の赤コウラ誰ですか!? 緑コウラ3つ装備してたのにすり抜けて当たりましたよ!!」
長門「そこまで歓喜してもらえたなら、こちらとしても嬉しい」
古泉「これが、歓喜の声に聞こえますか!? あ、朝倉さん、スターで当たっていきましたね!」
朝倉「誰かを蹴落として順位を上げるのが基本のゲームなの!」
みくる「おうごーんキノコだーっしゅ!!」
朝倉「誰!? こんなところにバナナ置いたのは、誰、誰なの!? 私だったぁーー!!」
みくる「横から失礼しまーす!!」
朝倉「あっー! みくるちゃーんひどーい!!」
長門「ファイナルラップ」
古泉「…………」
みくる「…………」
長門「…………」
朝倉「…………」
↑全員カーブと同じ方向に体を傾けている
古泉「このデッドヒート戦は制させて頂きます」
朝倉「そうはいかないわよ! ほい、バナナ」
古泉「あー、もう、なぜか朝倉さんのバナナに間違いなく当たってしまう!!」
長門「お先に」
みくる「失礼します、古泉君」
古泉「これはマズイですねー……、しかし諦めませんよぉー!!」
古泉「…………」
みくる「…………」
長門「…………」
朝倉「…………」
↑全員カーブと同じ方向に体を傾けている
――更に30分後――
みくる「あっ、もうこんな時間」
古泉「えっ? うわ、ホントですね。ゲームに熱中し過ぎて長居してしまいました」
長門「……気にしないで良い」
朝倉「そうそう、夜はまだまだこれからじゃない!」
みくる「そうはいきませんよぉ、そろそろ帰らないと」
古泉「そうですね、そろそろお暇しましょうか」
長門「…………」
朝倉「えー、折角仲良くなったのにぃ」
古泉「ふふ、今度は一緒にお鍋食べましょうね」
みくる「ですね♪」
長門「…………」
朝倉「………お鍋?」
古泉「あっ、はい、今日は3人で鍋をつつこう、と集まったわけでして」
朝倉「…………私は?」
みくる「えっ?」
朝倉「………私は食べてないよ?」
古泉「……え、ええ、それはまぁ」
朝倉「…………どうして?」
みくる「どうしてって……ねぇ?」
古泉「まぁ、いなかったですし」
朝倉「……ズルい」
古泉「えっ?」
朝倉「ズルいー! 私も古泉君と朝比奈さんと長門さんと一緒にお鍋食べたかったよー!!」
みくる「ひゃあっ!」
古泉「だ、駄々っ子のように床でじたばたしていますよ……」
朝倉「みんなと一緒にお鍋食べたいー!!」
古泉「じ、次回の機会があれば必ず呼びますから!」
みくる「約束しますっ!」
朝倉「次は何時?」
古泉「何時って言われましても……」
みくる「……涼宮さんの気分次第、ですよねぇ……」
朝倉「やらないって言ってるようなものじゃない! うわーん!」
古泉「そ、そんなことありませんよ、必ずやります。……多分」
みくる「そ、そうですって絶対にやりますから! ……きっと」
朝倉「うわーーん、うわーーん!!」
みくる「ど、どうしましょう?」
古泉「どうしましょうと言われましても……。困りましたね……」
朝倉「じゃあ、今日は泊まっていって!」
みくる「ええ!? それは流石にお邪魔ですし……」
古泉「ですねぇ……」
朝倉「…………」ガシッ(2人の足を握る)
古泉「うっ」
みくる「うっ」
朝倉「…………」ウルウル
古泉「ううう……しかし……」
みくる「うううう……やっぱり……」
ガシッ
古泉「!?」
みくる「!?」
長門「…………」ウルウル(2人の上着を握りながら)
古泉「………どうですか、朝比奈さん?」
みくる「……陥落いたしました」
古泉「………僕もです」
朝倉「じゃあいいの!?」
みくる「はい、宜しくお願いしますね」
古泉「はぁー、彼にバレたら絶対首を締められますね……」
朝倉「b」
長門「b」
古泉「ちょっと、なにふたりで親指立て合ってるんですか、もしかしてこれ策略か何かですか?」
みくる「……女の涙は最大の武器、ということですよ、古泉君。同性でさえ倒されちゃうんですから……」
古泉「……しかしまぁ、約束を今更反故するわけではありませんが……」
朝倉「どうかした?」
古泉「僕も男、ですよ? 女性陣の中に男がいるということに少々危機感を持って頂きたいかと」
長門「襲う?」
古泉「襲いませんよ」
みくる「えっ、古泉君、まさか……」
古泉「しませんってば」
朝倉「男はおーおかみぃー♪」
古泉「次、呼びませんよ?」
朝倉「あはは、冗談冗談。でも、私達を襲うだなんて命知らずはいないと思うわよ」
古泉「事情を知っていれば、でしょ。知らない人なら襲う可能性大ですよ」
朝倉「あらっ、私達をそんなに評価してくれるの?」
古泉「評価、と言いますか皆さん実際に可愛いですし」
みくる「て、照れちゃいますね」
長門「もっと褒めて」
古泉「えっ……、そりゃあもう皆さん十分魅力的です」
長門「もう一声」
古泉「えー、えーっと、未来の旦那さんが羨ましい限りですよ」
朝倉「女王様とお呼び」
古泉「もう絶対呼んであげません」
朝倉「冗談だってばー、それに古泉君は絶対そんなことしないし」
みくる「そうですね、古泉君なら安心です」
長門「判りきったこと」
古泉「非常に有難いことですが、人は過ちを犯すものです。そう、ならないように――」
朝倉「もう、古泉君は心配性ね。だったら、絶対に襲われないようにする女の子特有の呪文を唱えてあげる」
古泉「女の子特有の呪文、ですか?」
朝倉「そっ、じゃあいくわよ」
朝倉「信じてるから」
長門「信じてる」
みくる「え? え? し、信じてます、心から」
古泉「……これは無理だぁー……」
朝倉「じゃあ、そうと決まればマリカートの続き、続き!」
古泉「あっ、そういえば、アイス買ってきてたんですけど食べます?」
みくる「えっ、いいんですか?」
長門「欲しい欲しい」
朝倉「あっ、いいなぁー」
古泉「実は長門さんと朝比奈さんの好みが判らなかったから多めに買ってあるんで朝倉さんの分もありますよ」
朝倉「嘘っ!? ありがとー!」
みくる「私は『爽』を頂きます」
長門「私は『雪見大福』」
朝倉「じゃあ、私は『ジャイアントコーン』」
古泉「僕は『pino』を頂きます」
みくる「うん、おいしー」
朝倉「あっ、みくるちゃん、一口ちょーだい」
みくる「はい、いいですよ。あーん」
朝倉「あーん。うん、おいしっ」
長門「私も」
みくる「いいですよ。後で長門さんのも一口下さいね」
長門「契約成立。あーん」
みくる「はい」
長門「美味」
古泉「うーん、実に心が洗われる光景です。……ほんと、やってよかったですね。いつかは、彼と涼宮さんも一緒に……」
朝倉「古泉君、古泉君」
古泉「はい?」
朝倉「あーん」
古泉「えっ……あ、あーん」
朝倉「ぱくっ」
古泉「あっ」
朝倉「誰もあげるだなんて言ってないわよー」
古泉「短時間とは言え、極僅かな時間とは言え、朝倉さんの事は十分理解していたのに! 愚かだ、僕は!!」
みくる「いえ、そこまで落胆しなくても……」
長門「気にしない」モグモグ
古泉「で、長門さんに僕の分食べられてるし……」
朝倉「あっー、ゲームで熱中し過ぎたお陰で汗かいちゃった」
古泉「いやはや、僕自身ゲームでここまで熱くなるとは予想外ですね」
みくる「私もです。あー、汗でちょっとベタベタするぅ……」
長門「少々不快」
朝倉「じゃあ、みんなでお風呂入りましょー!」
みくる「えっ、でも着替えとか……」
長門「大丈夫、用意する」
朝倉「そうそう、大丈夫大丈夫。さぁ、行きましょ!」
朝倉「あっ、古泉君は一緒じゃないわよ?」
古泉「当たり前でしょ。どうしてそういうキャラに持っていこうとするんですか、貴女は。本当に話に聞いていた朝倉涼子さんですか?」
朝倉「フレンドリーさを追求してみたの」
古泉「どう考えてもし過ぎでしょ、それ」
朝倉『長門さーん、背中流してあげる』
長門『感謝』
みくる『じゃあ、その後で私が朝倉さんの背中流させて頂きますね』
朝倉『ありがとー、みくるちゃん』
古泉「……結構声が響くものですね。しかし、男性というのはこういう時、どうするべきなんでしょうね。何よりもお風呂上がりの女性を見るのも失礼な気がします。……上がる前にどこかに身を隠すべきでしょうか」
朝倉『長門さんのお肌すべすべ卵肌ー♪ 羨ましいなぁー』
長門『そう』
みくる『朝倉さんだって奇麗なお肌してますよー。髪だってサラサラで』
朝倉『もー、みくるちゃんに言われても悲しくなるだけー』
古泉「……うーん、楽しそうにしているところに水を差すのも気が引けますが、やはりもうちょっと危機感を持ってもらうようにして欲しいものですね。……すいませーん、ここに青少年が1人いるわけですから、お風呂での会話はもう少し音量を落として頂きたいのですがー!!」
朝倉『大丈夫、信じてるからー』
長門『大丈夫、古泉一樹ならー』
みくる『だ、大丈夫です。古泉君は気にしませんから』
古泉「……段々、意味がおかしくなってません? いやまぁ、別にそういう欲があったわけではありませんけど……、危機感をですね……。……マリオカート、練習しときましょう」
みくる「ふわぁっ……」
朝倉「ん、みくるちゃんも眠そうだし、そろそろ寝ましょうか」
長門「賛成」
古泉「そうですね、ゲームの遣りすぎで少々疲れが溜まりましたし」
朝倉「じゃあ、お布団敷いて、っと」
みくる「よいしょ、っと」
長門「んしょ」
古泉「僕はどこで寝れば良いですかね?」
朝倉「? ここで良いじゃない」
古泉「流石に怒りますよ?」
朝倉「もう、本当に細かいことを気にするわね」
古泉「どう考えても世間一般では大事ですよ、これ」
朝倉「信じて――」
古泉「それはもう良いです」
みくる「で、でも、折角の記念すべき日ですから……ね?」
長門「ね?」
古泉「はぁ……絶対に彼には内緒ですよ? まだ死にたくありませんから」
みくる「勿論、誰にも言えませんよ」
長門「了解した」
朝倉「判ってるって」ツツツ
古泉「とか言って朝倉さん、それが冷静な対応ではあるんですがさっきから『信じてる』を連呼してた人が僕から布団を遠ざけますか? 泣きますよ、高校生の男子が割と本気で」
朝倉「もう冗談だってばごめんなさい。……怒った?」
古泉「まさか、こういう遣り取りが出来るようになって楽しんでますし、喜んでますよ」
朝倉「良かった」
みくる「じゃあ、電気消しますねー」
パチッ
古泉「おやすみなさい」
みくる「おやすみなさい」
朝倉「ゆっくり寝れれば良いけど、ね……」
古泉「?」
みくる「?」
長門「…………」
朝倉「うん、直ぐに判るから。おやすみなさい」
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「…………」
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「今夜がやぁまぁーだぁー やぁまぁーだぁー やぁまぁーだぁー(エコー)」
タタタッ パチッ
古泉「く、くくっ、す、すいません、どういうつもりか、くくっ、説明して、あははっ、下――あはははは!」
みくる「―――ッ! ――――ッ!!」(ツボに入って悶絶中)
朝倉「偶にね、長門さんに呼び出された時はこうして一緒に寝たりするんだけど」
古泉「はぁ」
朝倉「いつからか、お互いで笑わせ合って、睡眠を妨害する遊びが流行ってて」
みくる「普通に寝ましょうよぉー……」
古泉「……もう今日はその遊びは止めて普通に寝ましょう」
みくる「良いですね?」
朝倉「はーい」
長門「はーい」
パチッ
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「…………」
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「…………」
朝倉「ぼ、僕は、うん、あ、あ、あ、朝倉涼子、なんだなっ!」
古泉「あはははははっ!!!」
みくる「あはははははっ!!!」
長門「…………」ヒクヒク
古泉「あー、もう、寝る前だからか変なテンションで、全てがツボに入ってしまいます」
みくる「ね、眠いのに笑いが抑えられません」
長門「b」
朝倉「b」
古泉「いいですか、そこのおふたり! もうちゃんと寝ます、これは決定事項です。異論ありませんね!?」
長門「了承」
朝倉「御意」
古泉「ほんと、お願いしますよ……」
パチッ
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「…………」
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「…………」
朝比奈「ねぇ、古泉君……。好きな人……いる?」
古泉「あは、あはははは! な、なんでなんですかぁー!? 朝比奈さーん! あはははは!!」
長門「b」
朝倉「b」
みくる「b」
古泉「はい、まず長門さん! 長門有希とSOS団お約束条項5029条『寝る時に人を笑わせてはいけない』!」
長門「極力頑張る」
古泉「守って下さい! 次は朝倉さん! 朝倉涼子とSOS団お約束条項1条『寝る前に人を笑わせてはいけない』!」
朝倉「謹んでお断りします」
古泉「良いから守りなさい! 最後に朝比奈さん!」
みくる「……はい」
古泉「信じてたのに……」
みくる「……申し訳ありません」
古泉「さぁ、もう本当にちゃんと寝ましょう」
パチッ
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「……古泉一樹、朝比奈みくる」
古泉「…………」(身構える)
みくる「…………」(身構える)
長門「今日は本当にありがとう」
古泉「……それを言うならこちらこそ、ですよ。長門さん」
みくる「……ええ、そうです。こうして3人、距離を縮めることができたんですから」
朝倉「大幅に詰め寄り過ぎてる感もあったけどね。でも良いことよ」
長門「いつか、必ず、また一緒にお鍋を」
古泉「ええ、必ず」
みくる「今度は朝倉さんも一緒に、ね」
朝倉「絶対よ?」
長門「そして、彼と涼宮ハルヒもいつかは……」
古泉「ええ、勿論です」
みくる「絶対に」
朝倉「キョン君にちゃんと私は治ったって伝えておいてね」
長門「……おやすみなさい」
古泉「おやすみなさい、長門さん、朝比奈さん、朝倉さん」
みくる「おやすみなさい」
朝倉「おやすみなさい」
古泉「…………」
みくる「…………」
朝倉「…………」
長門「…………」
古泉「…Zzzz」
みくる「……すー」
朝倉「…………」
長門「……すやすや」
朝倉「……あああああああああ」
↑古泉とみくるに熱唱しているところを見られたのを思い出して枕に埋まりながら悶絶中
――おわり――