べべんべんべん、時は201X年。
場所は唯の家。
唯「お帰りなさいませ、ご主人様!」
梓「なんですか、それ…」
唯「正座に三つ指ついてお迎えしてみました」
梓「ひょっとしてさっき私がメールしてからずっとそうしてたんですか?」
唯「えへへー、さ、上がって上がって。荷物持つよ」
梓「すいません。お邪魔します……よいしょっと」
梓娘「ん……zzz」
唯「その子が、娘さん?」
梓「はい、着くまでに寝ちゃって」
唯「かわいいねえ。そっくり!」
梓「あの、唯先輩」
唯「んー?」
元スレ
唯「梓ちゃんひさしぶり」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1296546183/
梓「ほんとに、お邪魔しちゃってよかったんですか……押しかけて迷惑だったり、しないですか」
唯「いいよ、そんなの。困った時はお互いさまだよ」
梓「ごめんなさい」
唯「謝らないの。相変わらずだねえ」
梓「ふふ……先輩にそんなこと言われるなんて」
唯「……」じーっ
梓「……どうしました?」
唯「えへへ。梓ちゃん、ひさしぶりだね」
梓「はい。ご無沙汰してました」
唯「抱きついてもいいかな?」
梓「そ、それは……」
唯「冗談だよお。お茶出すから待っててねー」ぱたぱた
梓「あ、はい」
梓「……」
梓「……」
梓娘「zzz」
梓「よく寝てる」
梓娘「……お母さん」
梓「……はあい」
梓娘「んむ……zzz」
梓「ごめんね……」
唯「梓ちゃーん、紅茶でいい?」
梓「はーい!いいですよー」
唯「ほい、ケーキ三つ」かちゃかちゃ
梓「すみません、この子の分まで」
唯「梓ちゃん、バナナケーキ好きだったよね。ここの美味しいんだよ」
梓「なんか気を使わせちゃったみたいで……」
唯「ストーップ!」ビシッ
梓「!」びく
唯「もう『すみません』禁止だよ!私が好きでやってるんだから気にしないでいいのっ」
梓「……ありがとうございます」
唯「んーん。さ、たべてたべて」
梓「……」
唯「……」にこにこ
梓「あの、何してるんですか?」
唯「梓ちゃんが食べるとこ見てるの」
梓「食べにくいです」
唯「食べてるとこかわいいんだもん」
梓「恥ずかしいです……」
唯「高校生の時も、梓ちゃんのことずっと見てたの知ってた?」
梓「……知ってたかも」
唯「へへー」
唯「それにしても良く寝てるね」
梓娘「zzz」
梓「疲れちゃったみたいです」
唯「梓ちゃんもここに来るまで大変だったでしょ。ゆっくり休んでね」
梓「はい」
唯「……」
梓「……」
梓「……あの、唯先輩」
唯「なあに?」
梓「私のこと、昔みたいに呼ばないんですね」
唯「『あずにゃん』?」
梓「はい」
唯「あずにゃん、って呼んでほしい?」
梓「そういうわけじゃないんですけど」
唯「えぇーそんなあ」
梓「ただ、なんとなくそう呼ばれる気がしてたんで、意外だなと……」
唯「呼ばないよ。だって、梓ちゃんはわたしのあずにゃんじゃないもん」
梓「なんですかそれ」
唯「梓ちゃんは立派なママじゃないですか!」
梓「……ママ」
唯「昔は子どもみたいだったあずにゃんがもうはやママだなんてびっくりだね」
唯「時が経つのは早いよー……今も外見は子どもみたいだけど」にやにや
梓「ひとこと余計です!」
唯「ひゃあ、怒られた」
梓「ふふ」
唯「えへへ」
梓「それを言ったら先輩だって、今や売れっ子のミュージシャンじゃないですか」
唯「まあねえ」
梓「結構、意外でした。先輩がそこまで本気で音楽に打ち込むの」
唯「おお、梓ちゃんがほめてくれてる」
梓「わたし、先輩の出したCD全部持ってるんですよ」
唯「なんか、はずかしいね……」
梓「辛いとき、先輩の歌を聴くと励まされるんです」
唯「ありがとう、…………。でも、わたしなんか結婚もしてないし、さびしいよ」
唯「憂も和ちゃんもたまにしか来てくんないしさ」
梓「わたしは、したけど失敗しちゃいましたね……結婚」
唯「……」
梓「ばかだったなあ、ほんと」
唯「そんなこと言っちゃだめだよ、梓ちゃん」
梓「え?」
唯「悪い結婚だったのかも知れないけど、その子が」
梓「……」
唯「その子がいるのは、梓ちゃんが結婚したおかげだよ。失敗だなんて、自分の子どもを否定するようなこと言わないの」
梓「……そう、ですよね」
唯「あ……ごめんよ、偉そうなこと言って」
梓「いいんです。やっぱりわたしは立派な母親なんかじゃないですね」
唯「そんなことない」
梓「そうですよ。悲しい目ばかりあわせて、やさしくしてもあげられない……」
唯「そんなことないってば。立派なママだよ」
梓「本人が違うって言ってるのに、先輩がそんな自信たっぷりに言わないでくださいよ」
唯「自信ならあるよ」
梓「先輩、なにも知らないのに」
唯「知ってるもん。梓ちゃんのこと」
唯「私の知ってる、梓ちゃんなら、ちゃんと立派なお母さんやってけるもん」
唯「ねっ、梓ちゃんは梓ちゃんなんだから」
梓「なんです、それ」
唯「それに私にもいっつも世話やいてくれてたじゃん、分かるよお」
唯「唯先輩、しっかりしてください!とか、私の目の届くところにいてー、とか」
梓「……そう言えば、そうでしたね」
唯「だから大丈夫、自信持っていいんだよ。さあ、分かったならどんどんケーキ食べる!」
梓「……ふう、食べすぎちゃいました」
唯「食べさせすぎちゃいました」
梓「太っちゃいそう……」
唯「夕飯もいっぱい食べさせるよ!店屋物でもとろうか?パーティーにしようよ、何食べたい?」
梓「あ、あの。それより先輩の手料理が食べたいです」
唯「ほほー。甘えるねえ、あずささん」
梓「だめですか……?」
唯「いいよお、うれしいよお。すっごくお料理うまいんだから、披露してあげよう!」
梓「味は期待してません」
唯「言ったな!」
梓「……えへへ。あ、先輩、食器わたしが片付けますよ」
唯「ゆっくりしてていいってば」
梓「いえ、やりたいんです」
唯「そう? じゃ、お願いするね」
梓「はい、任せてください」
唯「お任せします」
梓「……」かちゃかちゃ
唯「じーっ」
梓「見られるとやりにくいですってば」
唯「ふふふ」
梓「……」
唯「……」
唯「……」
唯「……ふう」
梓「きゃあっ!」
ガシャーン
唯「梓ちゃん!?」
梓「あう……」
唯「大丈夫!?」
梓「ごめんなさい、先輩。転んじゃって……」
唯「怪我してない!?」
梓「食器わっちゃいました……」
唯「いいよ、食器なんて。どこか痛いところない?」
梓「あっ」
唯「……梓ちゃん、そのアザ」
梓「……」サッ
唯「……聞いてもいい?」
梓「……」
唯「旦那さんに、やられたの?」
梓「……はい」
唯「ぐすっ」ぎゅ
梓「ゆい、せんぱい」
唯「つらかったね……」ぎゅー
梓「……」
唯「ごめんね、いままで助けてあげられなくて」
梓「でも、あの子のことは、最後まで守れました」
唯「……うん。えらいよ、梓ちゃん」
梓「わたし、立派な母親、できてますか」
唯「できてるよ。いったじゃん」
梓「そう、ですか」
唯「よしよし」なでなで
梓「……」ぎゅ
――――――――
―――――
唯「……」
梓「(なんか気まずい)」
唯「へへ、抱きついちゃったね」
梓「あ、はい」
唯「もうちょっと太らせた方が抱き心地いいかな」
梓「なに言ってるんですか」
唯「あはは。ここは私が片付けとくから、ソファでゆっくり休んどきなよ」
梓「はい」
唯「お待たせー。ん、何見てるの?」
梓「これ、昔の私たちの写真。飾ってたんですね」
唯「当たり前だよ。それは最後のライブの時だね。梓ちゃんが入部してきた時のもあるよ!」
梓「みんなふざけてますね、これ」
唯「嬉しかったんだよ、梓ちゃんが私たちの音楽聴いて入ってくれたの」
梓「先輩、あのころのことは忘れたのかと思ってました」
唯「忘れてないよ。今も、私のやりたい音楽は放課後ティータイムなんだ」
梓「だけど、曲の感じもちがいますよ」
唯「そりゃあ私も成長はするからね」ふんす
梓「そうですね。先輩、すごいひとになりました。信じられないくらいに」
唯「んー」
梓「今のわたしじゃとても追いつかないくらい」
唯「ね、また一緒にバンドやらない?」
梓「ええ!?」
梓「むりですよ!」わたわた
唯「やろうよ。またギター教えてよー」
梓「素人がプロに教えることなんかないです!」
唯「でもでも、今もたまにCの押さえ方とか忘れちゃうよ?」
梓「それは……だめすぎです」
唯「やろうよ。きっと楽しいよ」
梓「わたし、ギター実家に置いたままです」
唯「ふふーん。あずささんや、ちょっとこっちにきてごらんなさい」
梓「わ、これって……」
唯「じゃあん!じまんのギターコレクションです!」
梓「すごい……いくつあるんですか?」
唯「忘れちゃった。かわいいの見つけるたびに買ってるから」
梓「どれもいいギターばかり」
唯「ギー太一筋だからほとんど使ってあげられないんだけどね」
梓「もったいないです」
唯「もったいないんだよお。ほらほら、こんなのもあるよ!」
唯「じゃあん!じまんのギターコレクションです!」
梓「すごい……いくつあるんですか?」
唯「忘れちゃった。かわいいの見つけるたびに買ってるから」
梓「どれもいいギターばかり」
唯「ギー太一筋だからほとんど使ってあげられないんだけどね」
梓「もったいないです」
唯「もったいないんだよお。ほらほら、こんなのもあるよ!」
梓「あ……」
唯「むったん2号です!」
梓「……むったん」
唯「懐かしくてついつい買っちゃって。さ、どうぞ」
梓「……」
唯「梓ちゃんにあげるよ。これで一緒に音楽できるね!」
梓「そんな、悪いです!」
唯「貰ってよ、やっぱりもったいないからさ。この子もちゃんと弾いてくれる方がよろこぶし」
梓「だけど」
唯「ひさしぶりのゆいあず再結成だよ!」
梓「それ、なつかしいですね」
唯「やろうよー。ねーえー、梓ちゃーん」
梓「……わかりました。考えておきます」
唯「やったあ!えへへへへへ」
梓「考えるだけですよ?」
唯「いまなんか一緒にやってみようか」
梓「えっ」
唯「まだ覚えてるでしょ?ギー太持ってくるねー」ばたばた
梓「行っちゃった……」
梓「……むったん」
梓「ふふふ」
梓「ちょっと……ひいてみようかな。ちょっとだけ」
梓「……」
梓「……」ジャーン
梓「……」
梓「……」
チャーチャーチャーチャ チャーラチャララー…
梓娘「ううん…」
梓「あ、ごめん」
梓「……ふふ」
梓「……」
……
唯「ギー太もって来たよー!」
梓「……」
唯「おーい、梓ちゃーん。そう言えば、ふとんのことなんだけど……」
梓「zzz」
唯「梓ちゃん、寝ちゃった」
梓「zzz」
唯「かわいいお嬢さん、そんな無防備に寝てるとおそっちゃいますよ」
唯「なんちゃって」
唯「……」
梓「……」
唯「……」じーっ
梓娘「ん、ふわああ」
唯「!」
梓娘「……」ぱちくり
唯「……おはようございます」
梓娘「おはようございます」ぺこり
唯「まあ、いい挨拶」
梓娘「おばちゃん、だあれ?」
唯「てい」ぺち
梓娘「いて」
唯「おばちゃんじゃないよー。おねえさんだよー」
梓娘「……おねえさん、だあれ?」
唯「ママのお友達だよ」
梓娘「お母さんの?」
唯「うん、お母さんの!」
梓娘「お母さんがお世話になっております」
唯「おやおや。丁寧な子だね。キミいくつ?」
梓娘「5歳」
唯「えらいねえ。よしよし、飴をあげよう」なでなで
梓娘「しらない人からお菓子もらっちゃだめってお母さんが」
唯「私はお母さんの友達だから大丈夫です」
梓娘「大丈夫?」
唯「そう、だからチョコレートもあげよう」
梓娘「ありがとう」
唯「どういたしまして」
梓娘「おいしい」
唯「うふふ」じーっ
梓娘「……お母さん、寝てる」
唯「うん。だから静かにしてあげようね」
梓娘「ここはどこ?」
唯「私のおうちだよ」
梓娘「おうち?」
唯「うん」
梓娘「わたしのお家は?」
唯「……お母さんといっしょに、しばらくここで暮らすの」
梓娘「……」
唯「……わかんないかな」
梓娘「お母さん寝てる」
唯「そうだね」
梓娘「……」
唯「ね、あっちでかくれんぼしよっか」
梓娘「……する」
唯「する?よおしじゃ、100秒数えるから隠れてねー。いーち、にーい」
梓娘「あっ。あっ」ぱたぱた
唯「さーん、しーい」
唯「ごーお、…………」
唯「……ふう。びっくりした」
唯「しゃべるとますますそっくりだよぉ……」
唯「お母さん、かあ」
梓「zzz」
唯「よく寝てるなあ……お母さん」
梓「……」
唯「梓ちゃん」
唯「あーずにゃん」
唯「……なんて、呼んであげないよ」
梓「……」
唯「あずさちゃん」なでなで
梓「……」
唯「梓ちゃんは、あずにゃんじゃないもんね」
梓「……」
唯「へへ……私、ずっと見てたんだよ、あずにゃんのこと」
唯「梓ちゃんが結婚しても、あずにゃんだけが……」
梓「……」
唯「なんてね、うそだよ」
唯「うそだから、これだけは許してね」
唯「……」スッ
梓「……」
……
唯「……」
梓娘「……」じーっ
唯「!?」
梓娘「じーっ」
唯「み、みてました……?」
梓娘「じーっ」
唯「お、おっかあさんには内緒だよ!」
梓娘「チョコレート」
唯「むむむ、口止め料か……」
梓娘「えへへ」
唯「いい子かと思ったらずっこいね。よしよし、あっちであげよう。そうしよう」
梓娘「ケーキ」
唯「ケーキもあげるよー、さああっちに行こうねえ」
ばたばたばたばた
梓「…………」
梓「…………」むくり
梓「ないしょ、かあ……」
梓「……知ってたのに、先輩がずっと見てたこと」
梓「……ちゃんと知ってたよ」
梓「…………」ぐす
梓「……よし」
ガバリ
梓「ゆいせんぱーい!」
はてさて、唯のもとへと駆けだした梓ちゃん。
今後さんにんの生活がどうなってしまうのか、それはまた別のお話
べべんべんべん
おしまい