関連
女「機械の体ですけど触ります?」
女「機械の体ですけど、一緒に過ごします?」
女「機械の体ですけど、一緒に過ごします?」-002-
女「機械の体ですけど、一緒に過ごします?」-003-
元スレ
女「機械の体ですけど、一緒に過ごします?」-003-
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女「これが、海」
ブーン
狐子「一面水だな」
ブーン
撫子「大きなプールですね♪」
ブーン
牧「本当にしょっぱいの?」
男(海見たことないのか……)
・ ・ ・
男「とーうちゃく!」
女「そんなに人がいませんね」
撫子「残念ですね……」
男「ははは、ここは穴場でさ、あんまり人が来ないだけなんだよ」
狐子「穴場!? どこに罠が……」
男「落とし穴じゃねえからな!」
牧「ツッコミが板についてきたね」
男「そうかもな」
狐子「よし、スイカ割りやろう!」
男「いきなり過ぎるだろ!」
女「スイカ割り?」
撫子「スイカを割るんですよ」
女「はい、それは存じているのですが」
男「まさか、海でどうしてスイカを割るのか……ってことか?」
女「はい」
男「……俺もよくわからんが海の醍醐味だったりするわけだ!」
女「なるほど」
男「それでいいのか?」
女「はい」
男「そ、そうか……しかし狐子、それはまた今度だ。スイカ持ってきてない」
狐子「……」シュン
男「凄い落ち込みようだな……」
牧「最近は食い意地張ってるキャラが定着してきたからね」
狐子「メタいこと言うな!」
・ ・ ・
男「それじゃあ着替えだな」
撫子「あら……」カァァ
男「いや、みんな下に着てきてるんだろ?」
狐子「私は着てないぞ」
牧「ぼ、ボクも……」
女「私もです」
撫子「私だけ……!」ガーン
男「じゃあ、どっか隠れて着替えてきてくれ」
撫子「覗いちゃダメですよ?」
男「大丈夫だって」
狐子「心配だ……」
男「見ないって!」
男「……うむ」
男(普通のトランクスっぽいのにで良いよな。うん)
男「……さて、あいつらはどうかな。まだかな」
狐子「またせたな」
男「ん? お、おおおおお!」
女「おまたせしました」
撫子「うふふ♪」
牧「あはは……」
男(これは、凄いぞおおおおおおおおおおおおおおおお!)
男(まず、狐子)
狐子「!」ピクッ
男(フリルの付いた可愛い水着で、狐子によく似合ってるなぁ)
狐子「なんだ……」
男「いや、可愛いぞ、よく似合ってる」
狐子「……」ピョコン
牧「あ、照れてる」
狐子「誰が照れるか!」ピョンピョンッ
男(んで……問題は撫子だ)
撫子「?」
男「撫子……その水着は……?」
撫子「はい、今日のために買いました!」
男「うん、そんなのどこで売ってたんだ……?」
撫子「? 普通に売ってましたよ?」キョトン
男(どこの店で白スクなんて売ってんだ!? 白スクなんて幻だと思ってたのに……!)
撫子「あの……お気に召しませんでしたか?」
男「いや、凄い似合っててビックリだけど……なんでそれをチョイスしたんだ?」
撫子「泳ぎやすいからです♪」
狐子「じゃあ、あのスク水は男が渡したわけではないようだな」ボソボソ
牧「うん、そうみたい」ボソボソ
男「……?」
男(女!)
女「……」クルリ
男「……ビキニか」
女「はい?」
男(似合いすぎて怖い)
女「男さんの水着、とても似合っています」
男「おう、ありがとう。それにしてもみんな可愛い水着買って来たんだな」
狐子「行く前日に4人で買いに行ったからな」
男「そうだったな。……ん、牧、お前なんで上着着てるんだ?」
牧「あ、あはは……」カァァ
狐子「そうだぞ!」
牧「は、恥ずかしいもん……」
男「まあ、しかたないな。嫌なことを強制はさせられないし」
撫子「残念です……可愛いのに」
男「あはは、仕方ないさ。よし、それじゃあなにして遊ぼうか?」
女「ビーチボールがあります」
男「お、じゃあビーチボールで遊ぶかぁ」
狐子「コートがあるぞ!」
男「おお!」(あれ、こんなとこにあったけか……)
狐子「よし、ちょうど……あ、5人だ」
男「よし、じゃあ俺が2人チームの方に行くから、そっちは四人で決めてくれ」
撫子「わ、私も2人のほうに!」
女「私も、2人のほうに」
狐子「わ、私はどっちでもいい」
牧「あはは、じゃあボクは3人の方にしようかな?」
男「あはは、じゃあ、とりあえずじゃんけんでもすればいんじゃないか?」
撫子「はい、女さん、じゃんけんです!」
女「はい」
ジャンケン、ポーイ
狐子「牧、チームだな」
牧「うん、とにかく楽しめたらいいねぇ」
撫子「うふふ、勝ちました!」ビシッ
女「……」
男「お、おう……ってことは」
男・撫子VS狐子・牧・女
男「ってことだな」
狐子「男!!」
男「な、なんだ?」
狐子「勝ったらうどんな!」
男「ええ、マジか」
牧「じゃあボクもなにか買ってもらおうかな?」
男「なにー!」
女「勝ったら……」
男「……な、なに?」
女「なんでもないです」
男(怖い……)
狐子「よっし、それじゃあ始めるぞ!」
女「こちらからサーブで良いですか?」
男「おう、いいぞ――」
ポスンッ
撫子「え……?」
女「1-0です」
男「……」(……マジだ)
撫子「い、今……?」
女「はい?」
男「女……大分本気だな」
撫子「うう……が、頑張ります!」
狐子「さ、そっちサーブでいいぞ」
男「よし、じゃあ撫子頼む!」
撫子「はい!」
ヒュー ポンッ
男(おお! ボール以外がまたなんかすごいっ)
女「はいっ」スパンッ
男「!?」(サーブをスマッシュするだと!?)
撫子「……男さまぁ!」ガバッ
男「うわ、今抱きついたらダメだって!」(やばいって)
撫子「私が悪いんでしょうか……」ウルウル
男「いや、そんなことはないと思うけど……」(胸が凄い形にーー!!)
女「……」
狐子「ま、牧、なんか女からゴゴゴゴゴって聞こえる気がするんだが」
牧「奇遇だね、ボクもだよ。ボク達いるのかな?」
・ ・ ・
女「ふぅ」
男「はぁはぁ……お、女! すこしは手加減してくれよ!」
女「手加減するのは、相手に無礼です」
男「いや、これは遊びだから! 本格的な試合じゃないから」
狐子「勝ったらうどんだー」
牧「勝ったらそうだなぁ……うーん」
男「うおおお、現金なやつら!」
撫子「ご、ごめんなさい男さま……」
女「いきますよ……」
トスンッ
男「もう入ってるし! ボール瞬間移動してるし!」(そして胸の揺れが凄いし!)
女「……」
男(わかったことがある……)
男(女を敵に回しちゃいけないっ……!!)
狐子「ふわぁぁ……」
牧「いいね、バカンス気分」
男「お前らコートに入れ!」
狐子「だって、入っても全部女が拾うし」
牧「逆に邪魔になっちゃうよ」
男「……やべえ」
女「勝ったら……」
男「!」(また来るっ!)
女「『好き』って言って下さい」ヒュゥン
男「がぼらっ!」ドサッ
狐子「お、男に超速球ボールが!」
撫子「お、お、お、男さまぁ!?」
女「男さんっ」タッタッタッ
男「あ、ああ……」ガクッ
牧「ありゃりゃ……死んじゃった」
・ ・ ・
男「……ん?」
女「気が付きましたか?」
男「お、俺……」
女「ごめんなさい、私のサーブしたボールがお腹に直撃したみたいで」
男「そ、そうか……」(それより)
男(……なんだこの状況!?)
女「膝枕、です」
男「……お、おう」
女「枕もなかったので、代わりです」
男「そ、そっか」(すっごく心地良いんだけど……)
男(それに)
女「?」
男(眺めがいいな……)
女「どうしました?」
男「いや、来て良かったなって」
女「はい。海、初めて見ました」
男「そっか、そうだよな」
女「はい」
男「ずっと研究所にいて、俺と会って初めて外の世界を知ったんだもんな」
女「そうです、全部、男さんがはじまりです」
男「そうなるのかな」
女「はい、それが、今では私の支えになっています」
男「……」
女「……」ギュッ
男「!」(膝枕してる状態で抱きしめられた……!?)
女「大事な人です」
男「……お、俺も――」
牧「あはは……ボク、いるんだけど」
男「!?」
牧「邪魔だったかな?」
女「いえ、そんなことは」
男「い、いつから!?」
牧「ずっと。男が起きた時からずっといたよ」
男「oh……」
牧「ふふ、大人の世界……っていうのかな?」
男「違う違う!」
女「大人?」
男「あはは、気にしなくていいと思うぞ女ー」
女「大人は成人のことを言うので、男さんのことですね」
男「……そうなのか」
女「見た目で大人、という考え方もありますが」
男「……」
牧「あはは、女は確実に大人だね」
女「?」プルンッ
男「……そ、そうだな」
男「いてっ……」
女「大丈夫ですか?」
男「ああ……大丈夫だよ」
牧「安静にしてなよ。結構危なかったんだから」
男「そ、そんなに?」
牧「生死をさまよってたよ」
男「そ、そんなにか!?」
女「ごめんなさい、せっかく海に来たのに」
男「いや、いいよ……」
女「……」
男「なんか、ちょっと今の状況も、楽しいから」
女「えっ」
男「……なんでもない」
牧「……ふふっ」
撫子「男さま!?」
男「お、撫子か」
撫子「良かった……ご無事なんですね!?」
男「おう」
撫子「よ、良かった……」ポロポロ
男「こんなことで泣かないでくれよ」
撫子「泣きます! ……だって、男さまが……」
男「心配してくれるのは嬉しいよ……だから、泣くな」
撫子「……」
男「可愛い顔が台無しだぞ? 撫子」
撫子「お、男さま……」キュン
男「……はは」
狐子「まったく、試合は中止でうどんは無し……最悪だ」
男「文句ばっかり垂れるなよ、狐子」
狐子「うるさい!」
男「……って、あれ? 狐子焼けてないか?」
狐子「え?」
牧「ほんとだ、もう真っ黒だ」
狐子「!?」
女「焦げてます」
撫子「日焼けですね」
男「あはは、なんか可愛くなったな」
狐子「ば、バカにしてるんだろう!?」ピョコンッ
牧「耳立ってるよー」
狐子「わかってる!」
男「あはは……」
女「男さん、ゆっくりおやすみください」
牧「そうだよ。大学祭の疲れだって抜けてないだろうしさ」
男「ああ……ありがとう」
女「……」
男(なんか、眠く……)
・ ・ ・
男「……ん」
学「うおっ、起きた!」
男「!?」
大「わはは、起きた起きた」
男「だ、大? 学!?」
大「なんでお前らが、って顔してるな!」
学「ここをお前に教えたのは誰だったか覚えてるかぁ?」
男「あ……お前らだ」
大「だから俺らがいてもおかしくないだろ?」
女「……あっ」
学「お、女さんおはよー」
女「あれ、大さんと、学さん」
大「あはは、膝枕とは羨ましいぞ男」
男「!」
女「どうしてここに?」
学「それはなぁ……」かくかくしかじか
・ ・ ・
狐子「んんん……」
学「狐子ちゃんもっと左!左!」
大「違う、もっと右だ!」
狐子「どっちだ!」
牧「ふふ、学さんはいじわるなんですね」
学「あ、あはは……ま、牧ちゃんは、上着脱がないの?」
牧「……は、恥ずかしいです」
学「っ! ま、まあそうだよな! ははは!」(って、牧ちゃんは男……なんだよな?)
大(あいつ……やっぱり)
男「あはは、あいつら、スイカ持ってきてたんだな」
女「そうですね。狐子の念願のスイカ割りができたようです」
男「いやあ、良かった良かった」
女「撫子さんも笑顔です」
男「そうだな」
女「男さん、具合は?」
男「うん、もう大丈夫だと思う。ちょっとあっち行ってみようか?」
女「はい」
男「おーおーやってるねー」
牧「あ、男」
男「おっす、完全復活!」
撫子「よかったぁ……」ホッ
男「ご心配をおかけした!」
狐子「む、その声は……男か!」
パカンッ
大「おおおお! 大当たりだ!!」
女「ぱちぱちぱちぱち」
男「手を使いなさい」
・ ・ ・
男「……」
女「男さん、右です」
狐子「行き過ぎだ! 左!」
撫子「頑張ってくださーい、男さま♪」
牧「あ、そっちじゃないよー」
男「……わかんねえ!」
学「なあ、大」
大「なんだ?」
学「俺、凄い疑問な点があるんだ」
大「ああ、俺と同じだと思うぜ」
大&学(なんでこの4人と男が一緒に来てるんだ……!? しかも一人だけオトコだと……)
大「ま、待て! 牧はオトコの子だろう」
学「……俺は認めん」
大「なんでだ!?」
学「だ、だって……か、可愛いじゃねえか!」
牧「ほらほら、大さんも学さんも、応援しましょ?」
大「お、おう」
学 キュンキュン
大「ど、どうした!?」
男「ここか!?」
女「違います、前方230――」
男「細かすぎてわかんねえ!」
撫子「ここでーす」
男「ここってどこ!?」
牧「あはは、そこから今の方向にダッシュだよー」
男「わかった。い、いくぜ!」
タッタッタッタッ……
牧「あ、あれ……ちょ、ちょっと?」
ドンッ
牧「きゃっ」
男「うおっと」
バタッ
男「……な、なんだ!? さっきの声……牧か?」
牧「う、うん……?」
男「ん……?」
牧「ど、どこ触ってるの……?」
男「!?」
牧「や、やめてよ……エッチ……」
学「男貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
男「な、なんで!?」
学「目が見えないことをいいことに何をしとんじゃボケぇ!!」
大(学がいつになくキレてる)
男「ま、まて、誤解だ!」
学「うるせえ、この世にラッキースケベなんて存在しねえんだよ!」
男「なんだよそりゃあ!」
女「大丈夫ですか、牧」
牧「うん、だ、大丈夫」ドキドキ
狐子「……ふん」
男「いて、いてぇ! まず布を解いてくれよ!!」
・ ・ ・
バシャバシャ キャッキャッ
男「……はあ」
牧「ごめんね、ボクのせいで」
男「気にするなよ。それに……俺も悪いし」
牧「あはは……」
男「牧、お前さ」
牧「ん?」
男「オトコ、なんだよな?」
牧「……」
牧「……ボク、よく、わからないんだ」
男「え?」
牧「ボクも、ちょっと、わからなくて」
男「どういうことだ?」
牧「……ううん、なんでもない」
男「なんでもないって……」
牧「ごめん、ボクも言い方がわからなくて」
男「……」
牧「ごめんね、変なこと言って」
男「そんなことねえよ。俺だってそういうことはあるし」
牧「そうなの?」
男「……ああ、まあ、色々あるんだよ」
牧「ふーん、ボクが男の子だったら教えてくれた?」
男「はは、どうだかな」
牧「なんだ、残念」
男「……ま、牧は牧らしくしてるのが一番だよ」
牧「ボクらしく?」
男「ああ、お前らしく」ポンッ
牧「……ありがとう、男」
男「さて、俺たちも遊ぶか!」
牧「うん! あ、ちょっと待って」
ヌギヌギ
男「!」
牧「さ、行こっ!」
・ ・ ・
狐子「私はまだセクシーシーンがない!」
男「なんだ、冗談か」
狐子「冗談なわけないだろうが! 結構気にしてるんだぞ!」
男「メタい。メタいぞ」
狐子「うう……頼む、私にもセクシーシーンを」
男「難しいんじゃないかな」
狐子「なぜだ!?」
男「へそも出てないし。上下繋がってるし」
狐子 ガーン
男「まあまあ、狐子はなにしなくても可愛いから大丈夫だって」
狐子「そういうことは冗談でも言うな!」ピョコンッ
男「本当だよ」
狐子「……本当か?」
男「YES」
狐子「いきなり英語……怪しいな」
男「なんでだ」
狐子「……まあいい、それならしなくてもいい」
男「やれやれ……」
・ ・ ・
男「うっし、荷物持ったかー? 忘れ物ないかー?」
撫子「大丈夫です!」ビシッ
狐子「こっちもだ」
男「お前の荷物は俺が持ってるんだろうが」
狐子「ふんっ」プイッ
牧「ボクも大丈夫」
男「そういえば牧、水着可愛かったぞ」
牧「……もうっ」
男「おーい、女ー?」
女「……」
ザザーン
撫子「ふふっ」
男「なにしてんだ?」
狐子「連れ戻してこい」
男「そのつもりだ」
ザザーン
女「……」
男「なにしてんだ、女」
女「……なんだか、名残惜しくて」
男「そうか?」
女「とっても、楽しかったので」
男「それなら良かった」
男「さ、戻ろうぜ」
女「はい……あれ、男さん」
男「ん?」
女「どうして、そんなに笑ってるのですか?」
男「……さぁな」(そりゃそうさ)
男(女にも、たくさんの感情が芽生えてきてるんだから)
女「?」
男「よーし、それじゃあ帰るぞ、しゅっぱーつ!」
男「いやあ、色々とあったなぁ」
女「はい、ビーチバレーの件は、申し訳ありませんでした」ペコリ
男「いやいや、気にするなよー。ああいうことなんて、いつでもあるし」
撫子「男さまに膝枕……私もしたかったです」
男「あはは……じゃあ今度してもらおうかな」
狐子「変態」
男「久しぶりに言われた気がする」
牧「ふふっ、拗ねてるんじゃない?」
狐子「誰が拗ねてるって!?」
男「車ではしゃぐなって!」
・ ・ ・
男(随分静かになったな……)
女「……」
男「女?」
女「……」スゥスゥ
男「……あ、寝てる」
撫子「……すぅすぅ」
男「撫子も」
狐子「くかぁぁ……」
牧「……んっ……」
男(……今日は、楽しかったな)
ブルルーン
・ ・ ・ そして数日後
男「……おい!」
狐子「なんだ?」
牧「あはは、なんか怒ってる」
男「なんでお前ら水着着てるんだ!」
狐子「暑いんだ」
撫子「あら、男さん」
男「撫子も! ……って、女も!?」
女「?」
男(エアコン……本気で考えるか)
To be continued!!!
いつもまわりを見渡すと。
私はあの人を見てしまう。
女「洗濯物、干しました」
男「おう、ご苦労様」
笑顔がとてもキラキラと、輝いていて。
私の心をガッシリと掴んで離さない。
撫子「……」
男「……な、撫子?」
撫子「は、はい!?」
男「な、なんで俺のことずっと見てるんだ?」
撫子「あ、いえっ……なんでもないです」ニコッ
男「? ならいいんだけど」
女「それでは、バイトに行ってきます」
男「今日入ってるのか?」
女「代理で入ることになりました」
男「おーいってらっしゃーい」
狐子「私もでかける」
男「え?」
狐子「猫の井戸端会議に参加してくる」
男「なにそれ……」
狐子「お前には理解できん。行ってくる」
男「お、おう……」
牧「ボクも」
男「え、牧も!? 猫の井戸端会議に!?」
牧「いやだなぁ、ボクはちょっと、個人的な用事さ」
男「そうなのか、俺もついていこうか?」
牧「だ、ダメ! 男が来たら……困っちゃう」
男「え」(どこに行く気だ?)
牧「と、とにかく行ってきます!」
男「おう、行ってらっしゃい」
男「……やれやれ、三人一斉にいなくなるとは……」
男「……」
撫子「……」(あれ?)
男「……さて、なにをしようかな」
撫子(もしかして今……)
撫子(私と男さまだけ!?)
男「なぁ、撫子もなにか予定はあるの?」
撫子「な、なにもありません! まったく!」
男「そっか」
撫子「……」
撫子(どうしてだろう……)
撫子(今日は、いつもよりドキドキしてる……)
撫子(男さまって、こんなにカッコよかったっけ……)
撫子(違います! いつもカッコいいけど……今日はなんだか、違う)
男「……」(視線を感じるなぁ)
男「……」クルリッ
撫子「!」ビクッ
男「撫子……どうした?」
撫子「な、ななななんでもありません!」
男「そうか?」
撫子「ほんとーです!」
男(なんかいつもの余裕がないような気がする……)
撫子「……あの」
男「ん?」
撫子「なんだか、初めてですね」
男「え?」
撫子「家で、二人になるのって」
男「そうだな」
撫子「……なんだか、ドキドキします」
男「そ、そうか?」
撫子「なんででしょう……?」
男「いや、俺にはわからん」
撫子「私にも、わからないんです」
男「……まあ、撫子は綺麗だから、俺は緊張するけど」
撫子「! 綺麗、ですか?」
男「う、うん」
撫子 カァァ
男「なんか悪いこと言った!?」
撫子「いえ……面と向かって言われるなんて……」
男「……俺も、恥ずかしいよ」
撫子「……男さま」
男「なに?」
撫子「私のこと、好きですか」
男「へ!?」
撫子「あの……ごめんなさいっ!」
男「いや、いやいや……」
撫子「……」モジモジ
男(撫子、なんかおかしいぞ……)
撫子「……男さま?」
男「ちょーっと失礼」スッ
撫子「!」ビクッ
男「ご、ごめん」
撫子「い、いきなりおでこに手を当てるのは……反則です」
男「ごめんっ」(若干熱かったぞ)
男「悪い、電話する」
撫子「はい……」
男「……」
助手『も、もしもし』
男「もしもし、助手さんですか?」
助手『うん! ど、どうしたのかな?』
男「ちょっと撫子の体調情報とか、わかりませんか?」
助手『撫子? は、はいわかりました!』
助手『……内部温度が相当高温になっています』
男「! なにか支障は?」
助手『思考能力が低下、感情が上手く制御できず、自分の意思で話すことができなくなります』
男「どうすれば直せますか?」
助手『……言いたくないです』
男「え、なんで!?」
助手『……』
男「ちょ、助手さん!?」
助手『直すためには、人肌を感じさせる必要があるんです』
男「はい」
助手『……部分的ではなく、できるだけ全体をです』
男「……つ、つまり」
助手『抱きしめてください』
男「……!?」カァァ
助手『だから言いたくなかったのに……』ボソボソ
男「え?」
助手『な、なんでもないです!』
男「……わ、わかりました。とりあえずやってみます。ありがとうございます!」
助手『はい! お役に立ててよかったです。それじゃあ』
男「あの」
助手『なんですか?』
男「どうして、言いたくなかったんですか?」
助手『……もうっ!』
プツッ
男「え、じょ、助手さん!?」
男「……とりあえず」
男(抱きしめる、か)
男「……あ」
男(女のこと、抱きしめたことは忘れろ!)カァァ
男「ふぅ……深呼吸だ……すぅ~はぁ~……」
男「よしっ」
撫子「あ、おかえりなさい、男さま」
男「で、電話してただけだけどね」
撫子「とっても、寂しかったです……」
男(顔が赤いせいか、なんか、いやらしいぞ……!)
撫子「……」
男「!」
撫子「はい?」
男(異変に、気づくべきだったじゃねえか……!)
撫子「どうかしましたか?」
男(着物の裾が逆になってる……!)
撫子「……どうかしましたか?」
男(いつもニッコリしてる撫子が全然笑ってないことだって、違和感があるのに)
男「撫子、目、つぶってくれ」
撫子「? はい……」
男「……」
ギュッ
撫子「!」カァァ
男「えっと、とりあえず、このままで」(早く、直ってくれ!)
撫子「……男、さまぁ……」
ギュゥ
男「!」(抱きしめ返してきた!?)
撫子「……男さまの体温を感じます……」
男(俺も感じるぜ……ショート寸前の撫子の温度が!)
撫子「……」
男(……すこしずつ、温度が下がってきた……か?)
撫子「……」シュウウウウウ
男(うおお、湯気!?)
撫子「……あれ、私……」
男「撫子、直ったか?」
撫子「え、え……男さま!?」
男「良かった、直った!」
撫子「いきなり、大胆すぎですよ……」ポッ
男「ち、違う、違うんだってー!」
狐子「……」
男「! うぇ、狐子!?」
狐子「なるほどな……私達がいなくなった瞬間、そういうことをするのか」
男「いや、違うってば!」
撫子「……嬉しいです」ポッ
男「いや、撫子も変な反応しない!」
撫子「嬉しいから、嬉しいんです」ニコッ
狐子「……変態」ピョコン
男「だから違うんだってぇぇぇぇ!!!」
To be continued!!!
牧「……」
牧「で、でもなぁ……」
牧「うーん」
牧「……買おう、かな」
牧「でも……恥ずかしい……」
「なにかお探しですかー?」
牧「は、はい……自分にあった――」
牧「――ブラジャーが、欲しくて」
・ ・ ・
牧「か、買っちゃった……」
牧「どうしよう……やっぱり、着けた方がほうがいいのかな?」
牧(買ったんだもん、着けた方がいいか)
牧「でも……恥ずかしいな」
牧「……」カァァ
牧(か、帰ろう)
・ ・ ・
牧「ただいま」
男「……」
撫子「うふふ」ニコニコ
狐子「……」
男「あ、牧、おかえり」
撫子「おかえりなさいませ、牧♪」
狐子「ふんっ」
牧「撫子、なんだか機嫌がいいね」
撫子「はい……」ドキドキ
牧「……?」
狐子「変態の仕業だ」
男「おい、狐子!」
牧「変態?」
狐子「言わなくてもわかるんだろう」
男「牧、狐子の言ってること、きかなくていいからな」
狐子「うるさい!」ピョコン
男「なんだ!」
牧(今日はいつになく、大ゲンカな気がするなぁ)
牧「そっか、それじゃあ」
狐子「私もこいつと一緒の部屋はいやだ」
男「あーあー、どこにでも行っちまえ」
狐子「なにおう!?」
男「ふんっ」
牧「あらら……男もずいぶんと怒ってるみたいだね」
男「俺はちゃんと事情を話した。それでもダメなんてどういうことだよ!」
狐子「信じられるかそんなもん!」
牧「……と、とりあえずボクは別の部屋に行くね」
男「おう」
狐子「私も行く。変態は覗くなよ」
男「誰が覗くか!」
撫子「……ごめんなさい、私の責任です……」
男「いいや。あのわからず屋がいけないんだよ」
撫子「……狐子の気持ち、わかる気がします」
男「え?」
撫子「ふふっ」ニコッ
男「ど、どういうこと?」
撫子「それは男さまにはわかりませんよ♪」
男「な、なんで!?」
・ ・ ・
牧「……」
狐子「牧、お前はどこに行ってたんだ?」
牧「えっ、べ、別に……」
狐子「隠し事か?」
牧「違うよ。大したところじゃ、ないから」
狐子「大したところじゃないなら、言えるだろう」
牧「……言わなきゃダメかな?」
狐子「……そんな言い方されたら、聞く気もなくなるぞ」
牧「そっか」
狐子「……結局教えてくれないのか……」
牧「……実はさ、これ」
狐子「?」
牧「コレを買ってきたんだけど……」
狐子「! ぶ、ブラジャー!?」
牧「だ、ダメ! あんまり大きな声で言わないで!」
狐子「う、うむ……すまん」
狐子「お前が買ったのか……?」
牧「うん」
狐子「ま、牧が!?」
牧「……ボクだって……買ったのに、どうすればいいのかわからないんだ」
狐子「た、確かに、メイドの時に少し、気になっていたが」
牧「なにが?」
狐子「動きが、女らしくなっていたような気がする」
牧「そ、そんなことないよ」カァァ
狐子「それにしても……」
狐子 チンマリ
牧「?」ワリトアル
狐子「はぁ……」ズーン
牧「ど、どうしたの!?」
狐子「ブラジャー買えるだけの胸があっていいじゃないか……はぁ」
牧「あ、ああ……」
狐子「! なに頷いてるんだ!」
牧「同情されたいの?」
狐子「できるわけないだろ、その胸で!」
牧「……胸は関係ないよ」
狐子「ある! この家は私だけが悲しい気持ちにさせられる!」
牧「……男も、ないよ?」
狐子「あったら気持ち悪いだろ!」
男「! 今、俺の名前出た?」
撫子「え?」
男「絶対に出てた! あいつ……またなんか言ってんのか」
撫子「うふふ、やっぱり男さまは、狐子のことが気になるのですね♪」
男「い、いや、そういうことじゃ、ないけどさ……」
撫子「可愛いです」ニコッ
男「だ、だから違うって!」
牧「……どうしよう」
狐子「とにかく、買ったなら着ろ! 着ないのなら私が貰うぞ!」
牧「意味ないのに?」
狐子「酷いこと言うな!」
牧「ご、ごめん……」
狐子「それを買ったのはお前が欲しいからだろう!? それを恥ずかしいからと言って諦めるのか!」
牧「!」
狐子「立てよ乙女! ジークフォーックス!」
牧「な、なにそれ……でも、ありがとう」
狐子「……お役に立てて光栄だ!」ビシッ
牧「ふふっ」
牧「それじゃあ……狐子、見ないでね?」
狐子「わかった!」クルリッ
牧「……」ヌギヌギ
狐子(結構、ドキドキするものだな……)
男「さっきは言いすぎた、ごめん……よし!」
ガチャ
男「狐子、さっきは――」
牧「!?」カァァ
男「ぬお、牧!?」
狐子「どらっしゃああああ!」ピョコンッ ドスッ
男「ぬぐぉ!?」
牧「……」カァァァァ
狐子「お前一度ならず二度までも!」
男「ま、待て! ご、誤解だ……!」
狐子「うるさい、ならなんでチラチラ見てるんだ!」
男「そ、それは……!」
牧「いやっ!」
狐子「こんの、ド変態ぃぃぃ!!」
男「なんでこうなったんだあぁあああぁぁ!!!」
To be continued!!!
―――――
―――
―
狐子「くぅ……」
男「どうしたんだ、あいつ」
牧「男がうどんくれないってすねちゃったんだよ」
男「ちょっと前にあげたのに、食いすぎなんだよ……」
牧「あはは」
男「……まあ、起きたら食えるように作っといてやるか」
牧「優しいね」
男「そうかなぁ」
狐子(これぞ、果報は寝て待て作戦!)
―
―――
―――――
仕事中。
女「……」
「女さんって、普段なにをしてるんですか?」
女「私、ですか」
「うん、女さんみたいな人が行く所に、私も行きたいなーなんて」
女「……特に、目立ったことはしていません」
「え、そうなの?」
女「はい」
「そうなんだー、やっぱり、恋してるから綺麗なのかな?」
女「え?」
「あはは、なんでもないですよ、さて、仕事に戻りましょ~」
女「……恋」
・ ・ ・
女「ただいま戻りました」
男「お、おう、おかえり」
狐子 プンプン
牧 カァァ
撫子 ニコニコ
女「……」(三者三様……)
女「なにかあったんですか?」
男「ああ……色々とね」
女「?」
狐子「すべて男が悪い」
男「俺はなにも悪いことはしてねえよ!」
撫子「男さまの温もり……」ホゥ
男「いかがわしい表現はやめろ!」
牧(男もやっぱり、興味あるのかな……?)
男「牧、あれは事故だからな。本当に」
狐子「嘘つけ」
男「お前はそろそろ人を信じろ」
女「なにがあったのか、私に教えてくれませんか?」
男「……実は――」
・ ・ ・
男「―って、話」
狐子「そんなの信じられるか」
男「本当だって! 助手さんにもちゃんと聞いたし、あの時の撫子は明らかに変だった!」
狐子「どんなふうに?」
男「顔が赤くて、言ってることもよくわかんなくなってた」
撫子「私を助けるために……男さま……」
男「まあ、今は元気で本当に良かったと思う」
女「なるほど、男さまだからこそできることですね」
牧「うん、その通りだ」
撫子「うふふ、ありがとうございます、男さま♪」
男「お、おう……あはは、照れ臭いな」
狐子「……」
女「狐子、男さんに言うことがあると思います」
狐子「な、なんだ?」
女「……」
狐子(む、無言の圧力……!)
男「待て、女」
女「はい?」
男「今考えてみれば、証拠を見せたわけじゃない。狐子がまだ認めないなら、なにかしらで俺も証拠を出さないと」
狐子「いや――いい」
男「ん?」
狐子「男……ご、ごご……ご」
男「……」
狐子「……ごりら」
男「今なんて言った!?」
狐子「ごりらだごりら!」
男「いきなり言う言葉じゃねえだろ!」
女「狐子……」
狐子「ひぎっ!」
男「もうやめだ! こいつ謝る気まったくねえし!」
狐子「なっ!」
狐子「!」(このままじゃ嫌われる……!)
狐子「男!」
男「もーなんだ?」
狐子「……ごめんなさい」
男「……」
狐子「私はいつも正直にモノが言えない……だから素直に謝れない」
男(いつもいろいろ言われてる気がするけどなぁ)
狐子「……だから、私のこと……嫌いにならないでくれ」
男「!」
女「……」
男「嫌いになんてなるかよ、狐子」
狐子「! ほんとか!」
男「狐子が生意気なのは今に始まったわけでもねーし」
男「それに、今さら素直になったら気持ち悪いしな」
狐子「な、なんだと!?」
男「あはは、その怒った顔も、もう慣れっこだな」ポフッ
狐子「ふにゃ!?」ピョコンッ
牧「ふふ、一番仲良しだよね、男と狐子は」
狐子「そ、そんなわけ――!」
撫子「羨ましいです♪」ニコニコ
狐子「ち、ちがーう!」
男「違うのか……」
狐子「そ、それも違う!」
牧「あははは」
撫子「うふふふ……」
女「みんな、男さんに恋をしてるんですね」
「「「「え?」」」」
男「な、なに言ってんだ女……?」
牧「ぼ、ボクは……そんな……」カァァ
女「すっきりしました」
男「だ、だから何を言ってるんだ!?」
・ ・ ・
蛇「あいつらは、まだまだ安心だな」
スパァー
蛇「……俺も昔は――」
蛇「――ふんっ」
蛇「つまらないことは思い出したくないものだな」
次回、蛇過去編――。
To be continued!!!!
蛇「……」
隊長「これから、任務において忘れてはならないことを頭に入れてもらう」
蛇「……」
兵1「おい、ちゃんと聞いておけ」
蛇「お前こそ、ちゃんと聞いていた方がいいんじゃないか?」
兵1「なんだと!」
兵2「落ちつけ、兵1。こういうやつが真っ先に死ぬんだ」
蛇「……」スパ‐
?「ダメでしょ!」
蛇「っ……!」
?「もう、どうしてすぐにタバコを吸うの!? お肌に悪いわよ!」
蛇「お前はいつも、ガミガミうるさいな、夢」
隊長「夢ちゃん、そろそろいいかな?」
夢「あ、ごめんなさいっ」
隊長「それではよく聞いてくれ――」
蛇「……ふんっ」
・ ・ ・
夢「はい、これ」
蛇「……なんだこれは?」
夢「なにって、さっきの隊長の話をまとめたわ。ちゃんと目を通しといてね」
蛇「どうせこれからの戦闘に対しての連携、対処、武器の使用について、仲間負傷時の対応、救急の手当て、敵との遭遇時の迎撃について、だろう?」
夢「えっ……」ペラペラ
夢「ほ、ほんとだ……な、なんで!?」
蛇「聞かんでもわかる。だからこそ、聞かなくても良かったんだ」
夢「……蛇、あんたやっぱり凄いのね」
蛇「これくらい普通だ」
夢「そうよね、あんたには普通よね」
蛇「……」
俺にはわかる。
そんな話をしても――
――生き残るのは強いやつだ。強く生きたいと思うやつだ。
・ ・ ・
蛇「……ただいま戻った」
隊長「うう……」
夢「……隊長!?」
蛇「……敵との対戦で右脚を撃たれて行動不能になった」
隊長「す、すまない夢ちゃん……」
夢「他の兵は!?」
蛇「……爆撃で全員やられた」
夢「どうして、なんであんた……」
蛇「俺は死なない」
夢「っ……!」
国の紛争、内乱……いくつも見てきた。
本当に、つまらない争いだ。
・ ・ ・
スパー
夢「蛇! 怪我人がいるのにタバコ吸わないで!」
隊長「気にしないでくれ、夢ちゃん……私のミスだ……」
蛇「本人がそう言ってるんだ」
夢「! 蛇――」
隊長「蛇……すこし、耳をこっちに傾けてくれ」
蛇「……」
隊長「お前は実戦回数や知識、行動力共に俺を上回っている。こんなふがいない隊長ですまなかった」
隊長「お前のおかげで、こんな少数の、しかもできそこない達のチームで拠点を破壊することができた」
隊長「ありがとう」
蛇「……」
隊長「しかし、お前はどうも笑わないな。それはダメだ」
隊長「もっと笑顔を見せてくれ。美人が、台無しだ」
蛇「口説くつもりか?」
夢「蛇!」
蛇「ジョークだ」
隊長「お前は、もっと人生を楽しむべきだ」
隊長「戦いだけじゃない、人生を……」
ガフッ
夢「! 隊長っ!?」
隊長「……はは、まずいな……どうやら、私もここまでのようだ」
夢「ど、どうして……傷の後はちゃんと……!」
蛇「銃弾に毒が塗られていた。猛毒だ。ここまで耐えていただけでも褒められるものだ」
夢「も、猛毒!?」
隊長「はは……そ、そういうことか……どうりで、体がいうことをきかないわけだ……」
夢「いや、隊長!」
蛇「諦めろ、傷口を直に触ったらお前にも被害が出る」
夢「……」
隊長「夢ちゃん……いや、夢……」
夢「隊長……お兄ちゃん……」
隊長「俺は……こんな危ないところまでお前を連れてきたことを、とても後悔している」
夢「そんなことないよ、私、お兄ちゃんと一緒にいれたもん、寂しくなかったもん」
隊長「そうか……俺も、同じ気持ちだったよ……」ゴホッゴホッ
夢「お兄ちゃんっ!」
隊長「夢……この作戦は隊長の俺が戦死、死亡した時点で、作戦は終了になる……」
隊長「なんとか、俺が死ぬ前に作戦をやり終えることができた。俺は、本望だ」
夢「やだ、死なないで、お兄ちゃん!」
隊長「でも……」
夢「なに?」
隊長「最後にお前の料理……食べたかったな……」
蛇「……」
夢「……お兄ちゃん?」
隊長「」
夢「……お兄ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!」
蛇「やめろ、でかい声を出すな。まだ残党がいるかもしれん」バッ
夢「ふむっ……むぅぅ!」
蛇「……」
ガサッ
蛇「!」フッ
夢「! へ、蛇……?」
蛇「待ってろ」(相手は3人、いや、4人か……)
夢「も、もしかして……!?」
蛇「ああ……そこにある銃をくれ」
夢「って言っても、ただのハンドガンよ!? こんなんじゃ……」
蛇「心配するな。人間の弱点くらい心得ている」
夢「装弾数は8弾。セーフティは外したわ」
蛇「兄が死んでも冷静沈着な行動がとれるのはいいことだ。とにかく、お前は裏から外に出ておけ」
夢「でも……」
蛇「兄は諦めろ。ことが上手く済んだら埋めてやろう」
夢「……うん、お願いね、蛇」
蛇「ああ……」
蛇「……スネーク、か」
夢「え?」
蛇「なんでも」
・ ・ ・
「……」
蛇「動くな」
「! くっ」
蛇「お前以外に、あと何人いる?」
「はっ、教えるかよ」
蛇「そうか……」
ゴキッ
「うぎゃああああ!」ガクッ
蛇(ヘッドは無理、ハンドガン一発では仕留められないな……)
ザザザッ
蛇(この声で危険を察知して、逃げるなら一人前だが……)
A「数ならこっちが上だ!」
B「いけるぞ!」
蛇(残念ながら、アウトだ)
パァン
A「ぐわっ!」
蛇(左から一人……そして)
B「死ねぇ!」
蛇(一人(A)は中距離から、もう一人は近距離でアーミーナイフ)
グイッ
B「あぐっ!」
蛇「撃つとこいつも死ぬぞ」
A「くぅ……」
ザザッ
蛇(! もう一人っ!?)
ザザザザザザッ
蛇(どこへ……?)
A「うわあああ!!!」
蛇「! ショットガン!?」(正気かっ!?)
ドォンッ
B「あがっ……」
蛇「くそ!」パン!
A「ぎひっ!!」
蛇「はぁはぁ……」
B「」
蛇(なんとか盾にして防いだ……)
A「ぐ……ぐぐ……」
蛇「死ね」
ガスッ
A「がひぃ!」
パァン
A「あっ……」
蛇「……一服したいところだが……」
蛇(もう一人の行ったあの方向は……)
蛇「俺達の拠点!」
・ ・ ・
蛇「……! 夢!」
夢「はぁはぁはぁ……へ、蛇……」
蛇「大丈夫か、夢! 怪我は?」
夢「遭遇してないから、大丈夫……だと思う」
蛇「さっき、俺達の拠点に一人が行った。そいつを仕留めてくる」
夢「ダメ! もう、いいのよ」
蛇「ダメだ、このままでは俺たちがこの森の中で餓死しちまう」
夢「……」
蛇「あそこには大事なものがある。そうだろう?」
夢「……お兄ちゃん!」
タッタッタッ
蛇「ついてこなくていい、お前はさっきのところで」
夢「だめ! 蛇を一人にはできない!」
蛇「足手まといだ!」
夢「! 蛇!」
蛇「んっ? !」
C「……ふふふふ」
蛇「!」カチャ
C「ひひひ、ひひひひひひひひひ……」
蛇「?」
夢「な、なに……?」
C「あははははは、消しとべ!」
蛇「! 夢、伏せろ!」ガバッ
夢「きゃっ!」
ドドドドドドォォォォォォン……!
蛇「……」
夢「……ん」
蛇「!!」
夢「え……?」
俺達の拠点は――。
いや、だった。
拠点だった場所は。
焼け野原になっていた。
木端微塵だ。
なにも、塵ひとつない。
夢「……あれ?」
夢「ねえ、どうして?」
蛇「夢……」
夢「ねえ、お兄ちゃんは?」
蛇「……」
夢「お兄ちゃんは、ねえ、お兄ちゃんは?」
蛇「……」
俺は、夢になにも言うことができなかった。
・ ・ ・
スパー
夢「……」
それから、夢は一度も笑うことは無かった。
まるで感情を失ってしまったかのように。
俺にとって、協力者の死で。
夢にとっては、肉親の死だった。
俺には、悲しみがわからなかったが、夢が傷ついたことだけは確かだった。
包帯を巻いても、なにをしても治らないらしい。おかしな傷だ。
蛇「俺はどうなる?」
?「協力者はそのまま妹の夢に移る」
蛇「……正気か?」
?「当たり前だ。それ以外にないだろう」
蛇「……ふん、まあ、あんたの近くで体をいじくられまくるよりマシかもな、博士」
博士「……ふん」
俺の協力者は、隊長から夢になった。
夢はなにもしゃべらない。
あのショックは相当のようだ。
俺は不甲斐なさを痛感した。
俺には『力』が足りない。
力が必要なのだと。
蛇「……博士」
博士「なんだ?」
蛇「頼みたいことがある――」
・ ・ ・
蛇「お前が、戦闘型アンドロイド?」
?「……そうだ」
蛇「ふむ……ならば、その力を見せてもらおう」
?「ああ……」
チャキッ
?「……」
蛇(刀……か?)
ヒュヒュンッ ヒュッ
蛇「!」(この剣筋……)
?「こっちだ」ヒュゥン
蛇「い、いつの間に……」
?「……私は戦闘型アンドロイドだ」
蛇「……OKだ。あんた、型番は?」
?「……DL-02」
蛇「DLか、俺の前型……」
?「お前はDDLか」
蛇「ああ」
?「……それで、お前は私になにを求めている?」
蛇「力を貸してくれ」
?「力?」
蛇「その『力』を、貸してほしい」
?「いいだろう……スネーク」
蛇「ん、なんでその名を?」
?「お前のように、世界で活躍しているアンドロイドは、研究所でも珍しいからな」
蛇「あんたも活躍できるさ」
?「協力者がいないんじゃ、研究所から出られん」
蛇「大丈夫だ、今回俺に力を貸してくれるのなら、出してもいいと博士にお願いした」
?「!」
蛇「つまり、あんたの協力者は、俺ってことだ」
?「なるほどな……面白い」
蛇「ああ」
?「……それでは、俺にも名をつけてもらおう」
蛇「あんたに?」
?「お前はスネーク。俺にもなにかあったほうが決まりがいいだろう?」
蛇「……わかった。あんたは――」
?「ああ」
蛇「フォックス。狐だ」
狐「フォックスか……悪くない」
狐「それで、他のメンバーは?」
蛇「今のところ、外から人間を誘っている」
狐「私達とでは実力差が出るぞ」
蛇「それは仕方ない。俺たちは主力で、やつらは見栄えだ」
狐「見栄え?」
蛇「数は多い方が圧倒できる。まあ、それでも選りすぐるつもりだ」
狐「そうか」
蛇「あんたの他にも、戦闘型アンドロイドがいるはずだ。そいつらにも声をかけるつもりでいる」
狐「なるほどな……」
蛇「それにしても、あんたの剣さばきはなかなかのものだな」
狐「褒められたものではない。人を殺めるだけに特化した私など、生きる道はすでに戦場だと決めつけられているようなものだ」
蛇「俺だってそうだ。俺にとっては戦場と、唯一タバコだけだ」
狐「……私にも一つくれないか?」
蛇「ああ、どうぞ」
狐「……ゴホッゴホッ! なんだこれは」
蛇「ははは、初めてにはきついかもな」
蛇「これからよろしく頼む」
狐「ああ、こちらこそ」
ギュッ
・ ・ ・
夢「……」
あの頃から夢は俺の存在を無視するようになった。
無視――違う。
人と関係を持とうとしなくなった。そっちの方があっているのかも。
俺のチーム(と言えるほど大きくはない)は少しずつ、拡大した。
そして、ある日のことだ。
?「お願いします!」
蛇「型番は?」
?「えっと……す、すいません、忘れちゃって……」
狐「自分の番号を忘れる? 舐めてるのか」
蛇「狐」
狐「……ああ」
蛇「お前のセールスポイントは?」
?「はい、これです……」
チャキ
狐「……ガンアクション?」
?「は、はい!」
バンバンッ
蛇「……」
バァン バァン
チャキッ
?「……はぁはぁ……どうですか?」
狐「……」
蛇「落ち、だな」
?「え!?」
蛇「隙が多すぎる。すこしのズレで目標は死ぬかどうか決まるんだ。お前の弾は数ミリのズレがある」
?「そんなのって……!」
蛇 バァンバァン
?「!」(同じところに……!!)
蛇「ヘッドを狙うなら確実に。あれじゃあ喉貫いて喋れなくなるだけだ。尋問すらできなくなる」
狐「その銃、好みか?」
?「は、はい……」
狐「お前には合っていない、やめておけ」
?「!」
蛇「確かにな」
?「……じゃ、じゃあ私は」
蛇「それは自分で決めるんだ。誰かに言われた通りじゃ、なにもできん」
?「……はい」
蛇「筋は良い。もうすこし己と向き合う時間を作れ。はい、次」
?「……よし!」
俺はそれから、そいつが気になっていた。
身長は低く、少女のような彼女を。
あれほど若いやつをこのチームに入れるのはすこしどうかと思った。
まあ、アンドロイドに年齢という概念は――
――どうなのだろうか。
そういうことは置いといて、数日後のことだ。
蛇「任務?」
博士「お前達の活動に興味を持っているやつがいるようだ」
蛇「……ついに、初仕事か」
博士「無理はするな。損傷はできるだけ避けろ」
蛇「わかっている」
・ ・ ・
蛇「……」
狐「スネーク、そろそろ作戦のために募集は早めに終わろう」
蛇「ああ」
?「ま、待って下さい!」
狐「?」
?「はぁはぁ……さ、最後に……!」
蛇「お前か。わかった。見てやろう」
狐「蛇!」
蛇「まあいいじゃないか、一人くらい」
狐「ふん……仕方ない」
?「ふぅ……」
チャキ チャキ
狐「! リボルバー?」
バァンバァン クルクル
蛇「!」
バァン バァン
蛇「……うむ」
狐「……ああ」
クルクルクル トスン
?「ど、どうですか……?」
蛇「文句無しの合格だ。おめでとう」
?「や、やったぁ……」
蛇「よくやったな、合格だ」ナデナデ
?「ふぇ...?」
蛇「おっと……すまん」
?「は、はい……」ドキドキ
狐「……これでメンバーは揃ったな」
蛇「ああ、あとは作戦のみ」
?「……」
蛇「お前はオセロット、山猫だ」
山猫「は、はい!」
蛇「よし、それじゃあ作戦会議を行うぞ。すでに大きな会議室がある」
狐「ああ」
山猫「わ、私もですか?」
狐「当たり前だ」
山猫「は、はい!」
?「……」
蛇「おい、お前も行くぞ、DDL-003」
DDL-003(以下、女)「はい」
・ ・ ・
蛇 ザザザ
狐『スネーク、こちらはD地点まで移動完了した』
蛇「わかった。オセロット、どうだ?」
山猫『た、ただいま敵と遭遇中!』
蛇「! なにっ」
ドォン
蛇「!」(銃声! そう遠くない)
兵「ど、どうしますか?」
蛇「慌てるな。とりあえず周りに注意しておけ……あと、静かに」
ドォンドォン バァン
蛇(この音は……山猫の銃!)
狐『銃声が聞こえるが、なんだ?』
蛇「オセロットだ、ノーフェイス、そっちは?」
女『私は異常ありません』
蛇「……『私は』?」
女『少し前に敵と対峙しましたが、その戦闘で兵が一人死亡、私に異常はありません』
蛇「戦いの時に指示は出したのか!?」
女『いえ、特に』
蛇「なんてことを……!」
女「主力なので、見栄えに力を添えても意味は無いかと」
蛇「! ノーフェイス、なんで……!?」
女「兵の一人が反乱を起こしましたので、全員を殺してリーダーと合流しました」
蛇「!!」
狐『おい、無線で全部聞こえてるぞ!』
蛇「!」
狐『! くっ、一度無線を切る!』
女「?」
蛇「……」
・ ・ ・
狐『はぁはぁ……こちらフォックス』
蛇「……」
狐『こちらでも兵が反乱、それに乗じたやつらと戦闘した』
蛇「……」
狐『……全員、殺した』
蛇「了解、そこからC地点で落ちあおう」
狐『了解』
蛇「オセロット。聞こえるか?」
山猫兵『ああん?』
蛇「!」
山猫兵『山猫ちゃんなら今縛ってますぜぇ?』
蛇「今どこにいる」
山猫兵『へへ、教えるかよ! お前らみたいな人間じゃねえ奴らと一緒になんてやってられるか!』
蛇「……!!」
山猫兵『まあ、ちょっとくらい声を聞かせてやっても良いぜ?』
蛇「……」
山猫『リーダー……』
蛇「オセロット! 大丈夫か!?」
山猫『敵、全員排除しました。任務に支障はありません』
蛇「お前がだ! 大丈夫か!? 今どこにいる」
山猫『安心してください……みんな、ちょっと怒ってるだけですから――』
ガスッ
山猫『――あぐっ……』
蛇「! オセロット!?」
山猫兵『はい、おしまいだ。これからお前らも一人残らず捕まえるんでよろしくなぁ~』
ブツッ
蛇「……ノーフェイス。山猫の位置を確認」
女「はい」
兵「お、おい! 説明してくれよ」
蛇「……そうだな」
女「……」
蛇 クイッ
女「了解」
兵「え?」
兵2「な、なにを!?」
女「さようなら」ドオオォォォ……
「「「「「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」」
女「生体反応なし、全滅です」
蛇「よくやった」
女「そして、山猫の位置を確認、ついてきてください」
蛇「ああ」
・ ・ ・
狐『! 山猫が!?』
蛇「ああ」
狐『ダメだ、行くな』
蛇「どうして?」
狐『それこそやつらの思うつぼだ。お前らの奇襲、強襲を想定しているに決まっている』
蛇「……だからどうした?」
狐『だから、態勢をを整えて……』
蛇「俺たちは人間じゃない」
狐『っ……』
蛇「否定も肯定もされない、アンドロイドだ」
女「……」
蛇「それに、今の俺はどうやら――」
俺はもう、ダメだ。
蛇「――人を殺したくてうずうずしている」
・ ・ ・
山猫「……はぁはぁ……」
山猫兵2「おい、もういいだろ!?」
山猫兵「ああ……」
山猫「! な、なにをするっ!」
山猫兵2「へへ……こんな可愛い子と青カンだぜ……」
山猫「い、いや!」
バンッ
山猫兵2「あ……がっ……」
山猫「!」
山猫兵「来たか……」
蛇「……山猫、大丈夫か!?」
山猫「! リーダー!」
チャッ
蛇「!」
チャッ チャッ チャッ
蛇(囲まれた……!)
山猫兵「お前が来ることなんざわかってたんだよバカがぁ!」
蛇「……お前こそ、バカだな」
山猫兵「ああ!? お前、なにを――」
ドサッ
女「死亡、確認しました」
山猫兵3「な、なんで!?」
山猫兵4「バカな……いつ!?」
女「山猫さん、これで安心です」
山猫「ノーフェイスさん、リーダー、どうして!?」
女「それはあとです。蹴散らしますよ」
山猫「で、でも……」
女「敵性行為を行ったものは、敵です」
山猫「……敵、リーダーの邪魔になる存在……」
女「はっ」ドスッ
山猫兵4「ぐはっ!」
山猫兵3「くそ!」チャキ
バァン
山猫兵3「がぁぁぁ!」
山猫「……敵、敵……」
蛇「良いセンスだ、山猫!」
ガスッ
山猫兵5「う゛ぅ!」
ドサッ
蛇「よし……これで全滅」
女「ダメです、リーダー」グチャ
蛇「!」
女「確実に、殺らないと」
蛇「ノーフェイス……」
女「?」
やつの瞳には。
なにも、映っていなかった。
綺麗な瞳のはずなのに。
これが、アンドロイドなのかもしれない。
無感情、ノーフェイス。
蛇「よし、あとはフォックスとの合流地点に行って、4人で攻めるぞ」
山猫「だ、大丈夫なんでしょうか?」
蛇「大丈夫だ。俺達4人ならな」
山猫「リーダー……いえ、ボス!」
蛇「ボスか……良い響きだ」
山猫「ボス、行きましょう!」
蛇「ああ」
女「……」
山猫は、女の俺が言うのもなんだが。
とても、守りたくなる奴だった。
実力も申し分ないのだが、それでも、だ。
・ ・ ・
狐「! 誰だ……」
山猫「あわっ、刀しまって下さい!」
狐「! オセロット」
蛇「俺たちもいる」
女「……」
狐「全員無事だったか……良かった」
蛇「おい、山猫、離れろ」
山猫「あっ、ごめんなさい……」カァァ
女「目的地は敵拠点。潜入および兵器の破壊」
蛇「超極秘で作られている兵器だ。手荒な真似は極力避けろ」
狐「なら、なぜ兵を集めたんだ?」
蛇「外からいつでも逃げ道を作ってもらうためだ。潜入は最初から4人のつもりだったからな」
山猫「私も、入ってよかったのですか?」
蛇「お前は一番リスクがある。俺と一緒に行動しろ」
山猫「えっ、は、はい……」ドキドキ
蛇「フォックスとノーフェイスは各自で動いてくれ。なにかあったらアンドロイド用無線を使う」
狐「了解」
女「わかりました」
山猫「りょ……」(あ、私はボスと一緒だった)
・ ・ ・
山猫「ど、どうして私は、一番のリスクに?」
蛇「お前の武器、サイレンサーを付けられないだろう?」
山猫「あっ……」カチャリ
蛇「室内で銃声がすれば大事になる。避けられないからな」
山猫「ご、ごめんなさい……」
蛇「……それに」
山猫「はい?」
蛇「お前が近くにいないと、心配だからだ」
山猫「えっ」ドキッ
山猫(ダメダメ、ボスは女の人! 禁断の恋っ!)
蛇「……隠れてろ」
山猫「は、はい」
パシュンッ
「あう……」バタリッ
蛇(麻酔銃……よく効くな)
山猫「凄い……あんな遠くの人を……」
蛇「たいしたことはない、さ、行くぞ」
・ ・ ・
狐<スネーク>
蛇「!」<フォックスか、どうした?>
狐<どうもおかしい。手薄にもほどがある>
蛇<どこにいる?>
狐<地下2階の研究所だ。兵器という兵器がない>
蛇(どういうことだ……)
狐<お前はどこだ?>
蛇<地下1階のトイレだ>
狐<なぜ?>
山猫<ご、ごめんなさい……私です>
狐<……はぁ>
・ ・ ・
女<こちらノーフェイス>
蛇<ノーフェイスか>
女<申し訳ありません、二人殺めてしまいました>
蛇<周りに敵は?>
女<いません、体は焼却炉に、血も拭いておきました>
蛇<臭いは消せないから、気をつけろ>
女<はい>
蛇(まあ、血も拭いただけじゃ完全には拭けないけどな……)
山猫「あ、あの……やっぱり流した方が……?」
蛇「流すな、極力音は出さないように」
山猫「う、ううぅ……」
蛇「耐えろ。もうすぐで終わる」
山猫「え?」
蛇「この拠点はどうやら偽物だ。怪しいとは思った」
山猫「偽物?」
蛇「ああ、どのみち、任務は失敗だ」
山猫「えっ?」
蛇「この時間じゃ、もうやつらも兵器を送っちまってる。タイムオーバーだ」
山猫「……」
蛇「……すこし、暴れるか」
山猫「え?」
蛇「俺は死と隣り合わせのシチュエーションが、一番性に合ってるのかもしれない」
山猫「……」
蛇「山猫?」
山猫「私、いやです」
蛇「え?」
山猫「ボスは……素敵な人です」
山猫「確かに、戦場のボスはとっても輝いています。でも……」
山猫「私は、ボスが人を殺すところなんて、見たくないです」
蛇「山猫……」
山猫「だから、せめて私の前では人を殺さないでください」
蛇「……やれやれ、自分勝手な奴だ。俺はすでに、味方を殺してるんだぞ?」
山猫「今からでいいです」
蛇「……殺すかもしれないぞ? 俺にはそれしかない」
そうだ、俺が生を実感できるのは。
――戦場のみ。
山猫「……ボス、眼を閉じてください」
蛇「なんだ?」
山猫「お願いです、ボスに命令するなんて、おこがましいことだって、わかってます」
蛇「……ふんっ」
山猫「……」
チュッ
蛇「?」
レロッ
蛇(! 舌が……入ってっ……)
俺のファーストキスは。
あのか弱そうな少女からみられそうにもなかった。
強烈な深いキスだった。
忘れないで欲しいが。
俺も、女だ。
女のはずだ。
俺は今、女とキスをしている。
どういうことだ。
山猫「私が、他のことを、教えますから...」
汗ばんだ体を俺に寄せてくる。
蛇「やめろ」
山猫「ごめんなさい……」
しょぼんとする彼女の顔は。
俺の中になにかを生み出したのかもしれない。
『かも』だ。
蛇「とにかく、そろそろ合流して帰還しよう」
山猫「はい」
・ ・ ・
俺たちは結局、任務失敗に終わった。
死傷者、22人。内、20人は味方。
最低の結果だった。
女「無意味、ですね」
狐「……」
蛇「もしもし、夢? ああ、今から帰る。長い間すまなかった」
山猫「……」
蛇「……いや、だから……悪かったって」
蛇「……それは違う! 待ってくれっ……」
プツッ
蛇「……くっ」
山猫「どうしたんですか?」
蛇「……タバコは禁止だとさ。ははは、怒られてばっかりで、まともに会話ができなかったよ」
山猫「え、どうして?」
蛇「知らん。どうも、長い間なにも言わずに来ていたからな。まあ、しかたない気もする」
山猫「どうしてボスが悪いんですか?」
蛇「?」
山猫「ボスは任務を遂行するために、頑張ったのです。それを、なぜ」
蛇「気にするな」
山猫「いやです、おかしいです、そんなやつがどうしてボスの協力者なんですか。そもそもその人は協力者の妹であって、ボスとはまったく関係ないじゃないですか」
蛇「お、落ちつけ山猫」
山猫「私だったらボスにタバコをやめさせません。私だったらボスにもっとたくさんのことを教えてあげられる。もちろん、夜だって」
蛇「いいかげんにしろ」トスッ
山猫「きゃっ……」
蛇「夢にはもう、俺しかいないんだよ」
山猫「……」
蛇「狐、女。聞いてくれ。今日を持って俺たちのチームは解散だ」
狐「……そうか」
女「了解しました」
蛇「不甲斐ない指揮者で、すまなかった」
狐「そんなことはない。私も楽しませてもらった」
女「……」
山猫「……」
俺はそのあと、眠った。
永遠に眼が覚めないんじゃないかと思えるほどに。
まあ、そんなことはない、はずだ。
「……ボス、好きです」
誰かがなにかを言っている。
「ボスの自由を妨げる障害は、消す」
俺には、関係無いだろう。
俺には――関係――。
・ ・ ・
博士「起きろ」
蛇「……ん?」
博士「大変なことが起きた」
蛇「どうした?」
博士「SAA-001(山猫)が研究所から逃げ出した」
蛇「! なぜ?」
博士「わからん。あの企画に参加していたから、ドアのロックが聞かなかったようだ」
蛇「……一体どこへ?」
博士「私が知りたいくらいだ。逃げ出せることのできる可能性のある二人はすでに解体した」
蛇「!DL-02と、DDL-003か」
博士「ああ」
蛇「……!」
俺は、寒気がした。
あの時、俺が眠りにつくときにきこえた声。
あの声は、なんだ?
蛇「……くっ!」ダッ
博士「!」
・ ・ ・
蛇「ハッハッハッ……」(間に合え……!)
俺は走った。
自分自身が驚くほどの疾走。
体が言うことを聞いていない暴走。
人間のスピードではない爆走。
目的地は、夢の家。
俺の、協力者の家だ。
パアァン
蛇「――!!」
銃声がした。
いや、これは違う。
人を叩いた音?
それにしても、大き過ぎる。
いや、違う。
俺の耳が尋常ではないほどに、敏感になっている。
猫の発情した声、カラスが泣いている声。
どこからか漏れているTVの音。
なにもかもが鮮明に聞こえる。
蛇「……夢!」
胸騒ぎが止まらない。
夢の家は近い。
そろそろではある。
しかし、俺の気持ちは一層収縮する。
気味が悪い。
気分が悪い。
気色が悪い。
――いや、夢。
俺を怒った君が悪い。
蛇「なにいってんだ……!」
あいつはなにも悪くない。何も――。
バァン
鈍い音だった。
蛇「!」
俺は夢の家の前にいた。
さっきの音は――考えたくもない!!
蛇「……」
夢「……」
蛇「夢!」
夢はドアの隙間からこちらを覗いていた。
蛇「良かった……無事だったんだな」
俺は靴を脱いで中に入ろうとした。
その瞬間――。
ドタリと。
夢は倒れた。
蛇「え……」
夢はぐったりとして動かない。
それどころか。
生きている感じが、しない。
蛇「ど、どうした?」
夢「」
蛇「お、おい夢!」
体はまだ暖かい。
『まだ』?
俺はなにを言っているんだ。
どうして夢を。
『死んだ』と思っている?
俺は触った瞬間に。
脈をはかった。
もうその時点で。
『死んでいる』と思っていた。
?「早かったですね、ボス」
蛇「!」
『?』なんてつけなくてもわかる。
お前は――
蛇「……山猫」
山猫「うふふ……邪魔者はいなくなりました」
蛇「……邪魔者?」
山猫「これでボスは自由です。私の、私だけのボスです」
蛇「なにを言ってるんだ……?」
山猫「ボスのための行動です」
蛇「誰が――」
誰が、やってほしいと頼んだ?
蛇「……」
このあと俺は何をしたんだろう。
山猫「? ボス……?」
蛇「……」
カチャッ
山猫「へ?」
バァァァン!!
蛇「……」
山猫「ど、どうし……て?」
気づくとそこには。
二つの死体があった。
二つの、綺麗な肉塊。
蛇「……はぁ……はぁ」
ガチャ
蛇「!」
?「な、なにこれ……」
少女が入ってきた。
まだまだ子どものような容姿が抜け切れていない。
助手「どういうこと……これ?」
彼女の震えが、さらに大きくなる。
・ ・ ・
蛇「……」
博士「……ふむ」
蛇「……」
博士「助手、来い」
助手「いやです」フルフル
博士「……」
助手「……」
蛇「博士、無理はさせないで欲しい。あいつには刺激が強すぎた」
博士「そうか。こちらであの家には手を回しておいた。協力者の身内は?」
蛇「いない」
博士「……お前がやったのか?」
頭が痛い。
俺はどうして研究所にいるのか。
そして、検査されているのか。
蛇「……わからん」
博士「そんなわけがないだろう」
蛇「……」
博士「その銃はお前のじゃない、SAA-001の物だ」
蛇「……」
言え。
言うんだ。
夢は。
山猫に殺されたんだ。
蛇「……俺が二人を殺した」
助手「!! やっぱり……」
博士「……」
蛇「無我夢中で銃を取り上げて、二人を撃った」
博士「なにかしていたのか?」
蛇「違う」
違う。
俺の言ってることが、違う。
俺は何を言っている?
蛇「人を殺すことが、俺の生の実感に繋がる」
嘘だ。
嘘、嘘、嘘。
虚ろな嘘だ。
助手「……最低」
蛇「……ふん」
夢の笑顔が、頭によぎる。
彼女の柔らか優しさに満ち溢れた笑顔。
彼女の感情は無くなった。
無感情、ノーフェイス。
蛇「……」
しかし、俺はその時に――。
山猫の笑顔までも、頭によぎっていた。
俺は、どうして。
夢を殺した、山猫をかばった。
あいつが許せないから、殺したんだろう。
俺は。
俺は――。
博士「!」
蛇「……?」
俺の瞳から。
ジワリと、水滴がこぼれた。
博士「……どうやら」
蛇「なんだ?」
前が上手く見えない。
博士「お前には変化あり――のようだな」
この水滴が理由だ。
淀みなく流れる、味はすこししょっぱい。
蛇「うぅ……うわあああああああ!!」ポタポタ
俺は、寂しかったのだろう。
悔しかったのだろう。
俺は確かに、生きていたのだ。
戦場でないところでも。
夢と隊長と。
俺は、生を自然と感じていたんだろう。
博士「お前も解体するつもりだったが、そうもいかないみたいだな」
蛇「……」
蛇「なぜだ?」
博士「お前は、『人間』だ」
蛇「!」
博士「人間と触れ合うことで、お前は変わった。お前はもう、感情の無いアンドロイドではない」
蛇「……」
博士「……」
俺は、人間――
……なのか?
蛇「俺は解体しない……か。既に解体したあいつらはどうするんだ?」
博士「非戦闘型で作り直す」
蛇「……!」
博士「もう戦闘型には懲りた。それに、お前のおかげで良いアイディアを手に入れた」
蛇「なんだ?」
博士「狐、フォックス……」
蛇(……DL-02)
博士「だから、会えないと言うことは、ないぞ」
蛇「……SAA-001は?」
博士「あいつはもうダメだ。お前が再起不能にしたからな」
蛇「……そうか」
・ ・ ・
数週間後。
それから俺は、また、戦場にいた。
協力者無しで、さらには監視もされなくなったがそれも意外と寂しいものだ。
……あの時は、まだ監視は続いていたんだ。
つまり、博士は、真相を知っている。
俺が嘘をついてることを、知っているんだ。
まあ、お咎めは無いので俺は気にしないでおく。
蛇(この任務が終わったら、久しぶりに研究所に顔を出すか)
・ ・ ・
チョコン
蛇「……ん?」
?「誰だ、お前は」
蛇「おい、助手」
助手「ふんっ」プイッ
蛇「……」
博士「久しぶりだな、大塚」
蛇「……博士、こいつは?」
?「こいつではない!」ピョコン
蛇(! 猫耳? いや、狐耳……?)
博士「こいつがDL-02の生まれ変わりの、DDL-002だ」
DDL-002「……」
蛇「こいつが……か」(まったく違うぞ……)
?「誰か来たのですか?」
蛇「……!」
博士「DDL-003だ。見た目はまったく変えていない」
蛇「……いや」
確かに、ノーフェイスだ。
だけど。
このノーフェイスは、人を殺すような無情の表情ではない。
これは。
夢、なのか……?
蛇「……」
女「哀の感情を確認、なにか異常が?」
蛇「いや……」
そんなわけ、ないか。
博士「協力者でも、思い出したか?」
蛇「!」
博士「……」
蛇「……そうか」
博士「すこしばかり、参考にさせてもらった」
蛇「……」
だから。
だから、こんなに表情が違うのか。
昔の、殺意のある無表情じゃなく。
本当の人間のような、無表情。
起伏のない、表情。
蛇「……そうか」
博士「ああ」
蛇「面白いじゃないか、博士」
博士「そうだろう?」
俺の身体能力は人間を優に超えている。たいていのことができる。
だけど。
俺は不器用で、口下手だ。
欠点がある。
そう、それだ。
欠点があるからこそ、人間に近い。
俺はアンドロイドだが、完璧ではない。
だからこそ、俺は人間に親近感が湧き、人間になりたくなった。
蛇「DDL-002、003……」
DDL-002「ん?」
DDL-003「はい?」
そして、DDL-002やDDL-003にも、同じくなって欲しいと思う。
不完全な人間に。
不完全ながら、完成された人間に。
蛇「頑張れよ」
The past of SNAKE END
男「ふー、よし、準備オーケー」
女「こちらも準備ができました」
男「うっし。じゃあ始めるかー」
女「そういえば、今日は新しい方が来ると聞いています」
男「そうなんだ。じゃあ色々教えてあげないとな」
・ ・ ・
男「……か、会長」
会長「今日からお願いします」ペコリ
男「いやいや、軽く流さないで!」
会長「反応してくれないと悲しいのか?」
男「そうじゃないですけど……。ど、どうして?」
会長「うむ、前にお前とここに来ただろう。あの時にここの店の接待がとても良かったからな」
会長「こういうところで働くのが良いと思ったのだ」
男「な、なるほど」(喫茶店ろくに行ったことないのにわかるのか)
会長「それに、男も、女さんもいる。こんなに恵まれた職場は無い」
男「俺が働いてるって、知ってましたっけ?」
会長「いや、私は女さんが働いていることしか知らなかった」
男「そ、そうでしたか」
女「会長さんでしたら、男さんが教えて差し上げた方がよろしいのでは?」
会長「いや、女さんの方が嬉しい」
女「私ですか?」
会長「あのお客様にみせた小さな配慮が私の心を鷲掴みにした。あなたが私の目標だ」
女「……そうですか」ポッ
男(あ、久しぶりに照れた)
会長「仕事は懸命にするものだ。男と一緒にいては集中できない」
男(酷い言いようだなぁ)
女「私もです」
男(……oh)
・ ・ ・
会長「あっ」ボチャ
「おっと」
男「! 申し訳ありません、お客様大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫だよ」
会長「す、すまない男……」
男「気にしないでください。とりあえず、拭くんで会長さんはオーダー呼んでる所に行ってください」
会長「……ああ」
会長「申し訳ありませんでした」ペコリッ
「ああ、気にしないで」
会長「……」
男(会長……?)
女「お会計――」
男(女は本当にミスしないな)
女 チラリッ
男「!」(ま、真面目に働こう……)
・ ・ ・
会長「……」
男「ありがとうございましたー!」
会長「……」
男「どうしました、会長?」
会長「む、いや……なんでも」
男「?」
会長「ふふ、そろそろおしまいだ、もうすこし頑張ろう」
男「はい」ニコッ
会長「!」カァァ
男「え?」
会長「いや……なんでも」
・ ・ ・
男「よし、お疲れ様です!」
会長「お疲れ様でした」
「いやいや、会長ちゃん、君本当に初めてかい? 男くんより良い仕事してたよ!」
男「否定しません、その通りですし」
「はっはっは。悪いけど、女ちゃんはもう少し働いてもらうね」
男「いや、どういう意味ですか!」
「ははははは!」
男「それじゃあ、先に失礼します」
会長「私も」
・ ・ ・
男「いやあ、今日は凄かったですね、会長」
会長「……」
男「やっぱり会長はなんでもできるんですね、尊敬します」
会長「……」
男「これから会長もいるんだったら、バイトも楽しいし、はかどりそうですよ」
会長「そうか」
男「……」(なんか素っ気ない……)
会長「男」
男「はい?」
会長「大学祭の時は、あえて聞かなかったが」
男「……?」
会長「女さんとは、どんな関係だ?」
男「え?」
会長「ずっと気になっていた。学園祭の時と、今とではお前と女さんの仲がより深まっている気がする」
男(鋭い)
男「えーっと」
会長 ジーッ
男「なにもありませんよ」
会長「嘘をついている」
男「っ……」
会長「お前は昔からそうだ。お前が嘘をついているから瞳を見ればわかる」
男「……」
会長「だから、私はできるだけお前の瞳を見ないようにしてきた」
会長「――お前が嘘をついているかどうか、知りたくなかったから」
男「……!」
会長「私はお前のことが大好きだ」
会長「この身を全てお前に捧げても良いくらいに」
男「嬉しいですけど、それは――」
会長「それは――なんだというのだ?」
男「……」
会長「今日、お前の成長を見て、私の中でもお前の見方が変わった」
会長「さらに頼れるオトコになっている」
男「俺なんてまだまだですよ」
会長「謙遜するな」
会長「悲しくなる」
男「……」
会長「正直に答えてくれ」
男「……」
会長「女さんと、なにかあったのか?」
男「……」
会長「……」
男「はい」
会長「……ふふっ」
男「?」
会長「やっと、正直に答えてくれたな」
男「……」
会長「嬉しいよ」
男「……」
会長「私は神ではない。だから、人の気持ちを変えることも、自分の気持ちを上手く切り換えることもできない」
会長「だから、もうすこし――」
グスッ
会長「もうすこしだけ、好きでいていいか?」
男「やめてください、会長」
会長「迷惑なのはわかっている、でも、上手く踏ん切りがつかない」
男「そんなこと言われても――」
会長「お前以上の相手が現れない、だから」
男「俺は会長のこと大好きですから!」
会長「!」
男「その、だから……女となにかあったとか、そういうの関係なくて……えっと……」
男「会長は俺の中で、今でも大好きな人ですから!」
会長「……!」
男「こういう、なんか……あー、なんて言えばいいのかわかんないですけど……」
会長「男!」
ギュッ
男「がふっ!? ちょ、痛いです、会長!」
会長「好きだ、好きだ、好きだ……」
男「会長! いきなりダメですって! めちゃくちゃ恥ずかしいですよ!」
会長「はなれたくない! はなすものか!」
男「ちょ、ちょっとーー!」ドキドキ
・ ・ ・
男「な、なんとか帰ってこられたけど……ふぅ……」
男(会長さんって人は、本当に素敵な人だ)
男(仕事に忠実なところとか、高校の頃とまったく変わってないなぁ)
男「……なんて」
男(懐古してる自分って、なんか考え出すと気持ち悪い)
男「そろそろ家だ」
ガチャ
男「ただいまー」
狐子「ん」
牧「おかえり」
撫子「おかえりなさいませ、男さま」
男「狐子、お前なぁ……」
狐子「……む?」
男「なんだ?」
狐子「なぜお前から会長のにおいがするんだ?」
男「えっ」ギクッ
牧「あ、今ギクッてなった」
男「ちょ、牧!」
狐子「お前、なにをしたんだー!」
男「うわあああ、なんでだよーー!」
To be continued!!!!
狐子「うままー」パクパク
男「……」
狐子「まいうー」ムシャムシャ
男「……」
狐子「しゃすでりー」
男(間違いない)
男(狐子のやつ、食い過ぎだ!)
男「おい、狐子」
狐子「なんだ」ムシャコラ
男「俺にもくれ」
狐子「やらん」
男「お前なぁ、間食ばっかりしてると……」
狐子「三食も残さず食べてるぞ」エッヘン
男「……いや、えっと」
狐子「文句あるのか?」
男「……ありません」
男「いやいや、ある!」
狐子「なんだ?」
男「そんなに食べると太るぞ!」
狐子「!」
男(これで大丈夫なはずだ!)
狐子「カロリー消費なら設定でなんとでもなる!」
男「! な、なんだって……!」
牧「でも、ちょっと食べすぎじゃないかな、狐子」
狐子「なんだ、悪いのか?」
牧「食費的にね」
狐子「ご飯3杯なんて、今頃の男子高校生やらはぺロリだろう!」
牧「男子高校生じゃないでしょ、狐子は」
男「どっちかっつーと小学生」
狐子「なにをー!」
男「うわー暴れるな!」
狐子「まったく……第一、レディーに太るなんて禁句だぞ!」
牧「あ、レディーなんだ」
狐子「牧!」ピョコン
牧「あはは、怒った怒った」
狐子「今日も今日とてお前はぁぁ!」
男「とにかく、お前は食べすぎだ。一日で一週間分くらいのおやつを食べるな!」
狐子「……わかった」シュン
男(うわ、ガチで凹んでる)
・ ・ ・
男「……き、狐子?」
狐子「なんだ?」
男「お前、どうしちまったんだ?」
狐子「なにって、寝転がってるだけだぞ?」
男「……いや」
男(なんか、めちゃくちゃ痩せてるんだけど……)
狐子「……」
男「あの、おやつは?」
狐子「食べてないぞ。さっき撫子がちょっとせんべいを食べていたけど」
撫子「美味しかったです♪」
男「そ、そうか……」
狐子「はぁ……」
男(ストレスか!?)
狐子「男」
男「な、なんだ?」
狐子「なにか、物足りない気分だ」
男「おやつ食べろよ」
狐子「食べない」
男「別に少しなら食べてもいいんだぞ?」
狐子「意地でも食べない」
男(意地っ張りだ)
男「なんでだよ?」
狐子「わかったぞ」
男「え?」
狐子「こ、こっちに来い」
男「?」
狐子「座れ」
男「いやに命令口調だな」
狐子「うるさい、早く座れ!」
男「はいはい、よいしょ」
狐子「ふんっ」
男「ん?」
狐子「最近、男に乗ってなかったと思ってな」
男「そうだったか?」
狐子「ああ、んしょっ」
男「……軽っ」
狐子「喜ぶと思ったか?」
男「いや、この軽さは……」(ダメだろ)
撫子(いいなぁ……私も男さまに座ってみたい……)
男(腕も細い……こんなに細かったっけ?)
狐子「うにゃっ!?」(こいつなんで触って……!)ピョコンッ
男「飯、ちゃんと食っ……てたよな」
男(三食きっちり完食してたよな)
狐子「あ、ああ……ちゃんと食べているぞ」
男「おやつは食べてない、と」
狐子「うむ、言われたからな」
男「……」ジーッ
狐子「な、なんだ!?」ピョコピョコッ
男(まさか数日でここまで痩せるとは……)
狐子「ど、どうした?」
男(狐子はあれくらいでちょうどいいってことか)
狐子「お、おい、男!?」
男「なんか、ごめんな……」ナデナデ
狐子「うにゃっ!?」ピョコピョコッ
男「おし、おやつ食うぞ!」
狐子「な、なんでだ!?」
男「俺はお前が元気に飯を食ってる姿が好きだ!」
狐子「!」ピョコピョコピョコッ
男「撫子、ちょっとおやつ持ってきてくれ!」
撫子「はーい」タタタッ
男「よし、狐子、思う存分食べろ!」
狐子(食べてる時が好き……ど、どうしてだ!?)ドキドキ
男「よし、食え食え!」
狐子(もうよくわからん……!)パクパクッ
男「うんうん」(これで狐子も元に戻るはず……)
狐子「うままー!」ムシャコラムシャコラ
男「あはは、焦らずに食えよー」
・ ・ ・
男「……狐子?」
狐子「なんだ?」
男「どうしてそうなった」
狐子「?」
デブーン
食欲の秋――それは。
天高く、狐肥ゆる秋なのだった。
To be continued!!!
(その後、狐子は元に戻りました。みなさんも食べすぎにはご注意を)
狐子「私との約束だぞ!」
男(誰に言ってるんだ……)
男「はぁはぁ……」
牧「はぁはぁ……」
男「牧……お前……」
牧「どうしたの? ボクはまだまだ大丈夫だよ?」
男「くっ……」
牧「ふふ、バテちゃった?」
男「へへ……そんなわけ、ない!」
牧「わわっ……!」
男「どうだ!」
牧「甘いよ……男!」
男「うおぉぉ! ちょ、早い!」
牧「ふふふ、降参?」
男「と、見せかけてぇ!」
牧「あっ、ずるいよ!」
男「でも、もうげ、限界だ……!」
牧「ぼ、ボクもっ……!」
男「うぅ……!」
・ ・ ・
牧「……はぁはぁ」
男「はぁはぁ……あー、疲れたっ」
牧「男、凄いね」
男「だろ? 牧には負けるけどなぁ」
牧「ふふふ、二回戦目、やる?」
男「無理無理! もう限界だよ」
牧「ランニングだけで熱くなれるのはボクたちだけかもね」
男「そうだなぁ。撫子とかはそういうの無縁だろうし」
牧「女はそういうことには、手を抜かなそうだしね」
男「絶対に置いてかれる……」
牧「あ、狐子ならうどんで釣れるかも?」
男「本当に、うどんで不審者に拉致られないか心配だよ俺は」
牧「あはは、確かに」
男「そういえばさ」
牧「?」
男「知らぬ間に『さん』付けじゃなくなってたな」
牧「気づいてたんだ」
男「そりゃな」
牧「親しみを込めてだけど、嫌?」
男「いや、むしろ嬉しいよ」
牧「それならよかった」ニコッ
・ ・ ・
男「ほいっ」
牧「んっ、強いよ」
男「悪い悪い」
牧「もうすこし優しくしてよ」
男「って、お前も結構強いぞ……」
牧「ボクはこれくらいでいいの」
男「自分勝手だな」
牧「でも、嬉しいな」
男「ん?」
牧「男とじゃないと、こんなことってできないから」
男「まあ、そうかもな」
牧「そうだよ。女の子はこんなこと、しないもん」
男「そうだな」
牧「ふふっ」
男「また強いぞ!」
牧「ごめーん」
男「そりゃ!」
牧「いたっ……」
男「わりわり」
牧「もうっ」
・ ・ ・
男「ふぅ、そろそろ休憩するかー」
牧「そうだね」
男「あー、久々に体動かした……!」
牧「キャッチボールは二人じゃないとできないしね」
男「そうだよな」
男「牧がいてくれて良かったかもしれない」
牧「え?」
男「なんか、ホッとするというかなんというかさ」
牧「ぼ、ボクが?」
男「弟みたいな、感じでさ」
牧「……そっか」
男「ああ。なんか、気分が軽くなるっつーかさ」
牧「……」
男「あはは、弟ってのは、ちょっと違うかな?」
牧「男……」
男「ん?」
牧「……ボクは」
男「?」
牧「ボクは、女の子だよ?」
男「あ、それはわかってるよ」
牧「わかってない」
男「っ……」
牧「女の子に『弟』なんて、言うの?」
男「……ごめん」
牧「……でも、しかたないよね」
牧「ボクは、男の子っぽいし、それに……ボクは――」
男「牧は、自分で自分を見つけなよ」
牧「……男」
男「牧が、これが本当の『自分』だってわかるまで、さ」
牧「……男ってさぁ」
男「?」
牧「なんでそういうカッコいいこと平気で言うのかな?」
男「カッコいいか?」
牧「うん、ボクには言えないからさ」
男「……まあ、俺自身がそう思ってるから」
牧「どういうこと?」
男「いや、なんでもない」
牧「?」
男「さ、さて! もうちょっと体動かすかー!」
牧「うんっ!」
・ ・ ・
男「牧! 喰らえ、変化球!」
牧「うわあ、曲がったぁ!」
男「どうだぁ!」
牧「凄い凄い、どうやって投げるの?」
男「黙秘!」
牧「ずるいなぁ」
男「色々な投げ方試してみな」
牧「うん、それじゃあ……えいっ」
ビュッ スコーン
男「!?!??!???!???!??!※?!?!」
牧「うわわ、男!?」
牧「だ、大丈夫?」
男「あ……が……」
牧「ど、どこかに当たったの?」
男「ど……りゃ……えい……ろ」
牧「え? な、なに?」
男「だ……いじ……な……」
牧「抑えてるとこが痛いの?」
男「! だ……めだ……!」
牧「えっ?」
男「ダメだ……触っちゃ……ならぬ……」
牧「ど、どうして?」
男「とにか……つぅ!」
牧「だ、大丈夫!?」
男「大丈夫、だから……頼む……ほっとけばなおるから……うぐ」
牧「そ、そう?」
男(あそこは触られたら……俺も牧も立ち直れないぞ……色んな意味で!)
・ ・ ・
男「なんとか大丈夫になってきたかな……」
牧「ご、ごめんね……」
男「いや、気にするなって。ちょっと打ち所が悪かっただけだから……」
牧「ボクが悪いんだよ……」ズーン
男「いや……弱点だからな」
牧「やっぱり、痛いの?」
男「ああ、意識が飛ぶ」
牧「本当にごめん!」
牧「こういうときって、なにかしないとダメなのかな?」
男「な、なにか……!?」
牧「う、うん」
男「……い、いやあ……別にしなくていいんじゃないか?」
牧「そうかな」
男「普通に謝ってくれれば俺はそれでいいし」
牧「そっか……本当にごめんなさい」ペコリッ
男「まあ、遊んでたら怪我はつきものだ。それを俺が身を持ってお前に教えておくぜ」
牧「そっか……ありがとう、男!」
男(まあこれはちょっと重症かもしれないけどな……)
牧「それじゃあ帰ろうか」
男「ああ」
牧「男、今度も一緒にこうやって遊んでくれる?」
男「もちろん。でも、もうこんなことはないようにな?」
牧「う、うん……!」
・ ・ ・
男(スポーツってのはいいもんだな)
牧「あ、男、子どもたちが野球やってるよ!」
男「おお、本当だな」
コロッ
牧「あ」
「すいませーん!」
男「投げ返してやりな」
牧「うん! えいっ」
ビュッ スコーン!
「ひぎぃ!?」
男「お、おお……」
牧「あ、ああああああ!!」
男(牧、恐ろしい子……)
To be continued!!!
撫子「おはようございます、男さま」
男「……」スゥスゥ
撫子「あらあら……今日はお寝坊さんですか?」
男「……ん」
撫子「早く起きないとキスしますよ……?」
男「……」
撫子「お、起きない……」カァァ
撫子(こ、これはするべき?)
撫子「で、でもでも……」
撫子(ここでキスして、もしも起きたら……?)
撫子(ただのエッチな子になっちゃいます……)
撫子「で、でも……起きない男さまが悪い!」
撫子(なんて言えませんっ)
撫子「……そうだっ」
ゴロリ
撫子「早く起きないと添い寝しちゃいますよー?」(もうしてますけど)ニコッ
撫子「……男さま?」
男「……」
撫子(……男さま、暖かい……)
・ ・ ・
女「撫子さん、ちゃんと男さんを起こして……」
撫子「すぅすぅ……」
女「……ミイラ取りがミイラに……」
撫子「むにゃむにゃ……」
To be continued!!!
狐子「おい、女」
女「なんだ?」
狐子「椅子になれ」
女「?」
狐子「よ、四つん這いじゃない。今日は男がいないから……」
女「なるほど、わかりました」
狐子「うむ」
女「これで良いですか?」
狐子「男と違って小さいが、良しとしよう」
女「それはつまり、男さんが良い、ということですか?」
狐子「ち、違う!」ピョコンッ
女「照れの感情が増大中」
狐子「あうう……!」ピョコピョコ
男「ただいまー」
牧「ただいま」
撫子「ただいま戻りました♪」
女「おかえりなさいませ」
男「あれ、狐子が女に座ってる」
狐子「お前が遅いからだぞ」
男「はは、そうかいそうかい」
牧「それじゃあボクが」
男「おおっ?」
牧「ダメ?」
男「ああ、いいぜ」
狐子「……」ピョコンッ
女(怒の感情が増大中……)
狐子「ふん……」
男「おっと……前が見えない……」
牧「あ、ごめんっ」
男「いや、大丈夫だよ、横にズラせばいいから」
牧「う、うん……」
撫子「微笑ましいですねぇ~」ニコニコ
牧(男の顔が真横に……近い……)ドキドキ
男「牧」
牧「ひゃ、ひゃい!」
男「ど、どした?」
牧「な、なんでもないよ? なに?」
男「あんまり気にしてなかったけどさ」
牧「う、うん……」
男「牧って良い匂いするのな」
牧「……」プシュー
女「牧の電源がオフになりました」
男「うお!?」
撫子(そんなこと言われたら、なっちゃいますよ……)
狐子「……」ピョコピョコ
・ ・ ・
男「牧、すまん!」
牧「いいよいいよ。ちょっとビックリしただけだから」
男「流石に気持ち悪いことを言ったと思う……反省してる!」
牧「そ、そんなことない!」ギュッ
男「……牧?」
牧「あっ……ごめん、いきなり手、握ったりして……」
男「あ、いや別に……」
牧 カァァ
男 カァァ
狐子「なんだこのムードは……」
女「明らかに邪魔ですね、私達」
撫子「うふふ、素敵な雰囲気です♪」
狐子「大人だな、撫子」
撫子「そうですか?」
女「狐子、嫉妬ですか?」
狐子「な! そんなわけないだろう!」
撫子「うふふ、顔が真っ赤ですよ?」
狐子「なー!」カァァ
女「わかりやすいですね」
狐子「二人で私をいじめるなー!」
牧「ふふ」
男「ん?」
牧「狐子は幸せ者だね」
男「そうか?」
牧「いつも男に座ってるんでしょ?」
男「まあそうだなぁ」
牧「ふふ、それってとっても仲良しってことじゃない」
男「……牧とだって仲良しさ」
牧「えっ」
男「いつでも座っていいからな」
牧「そ、そんな! ボク……重いし」
男「そうか?」
ヒョイ
牧「うわわっ!」
男「全然重くないぞ、むしろ軽いくらいだ」
牧「そ、そっか……」(軽々と座らされた)
男「牧だって幸せ者さ。それに俺も幸せ者だ」
牧「男も?」
男「ああ、こうやって、牧と仲良くしてることがさ」
牧 カァァ
牧「もう……」
キュウゥ
男「お?」
牧「男が悪いんだからね?」
男「い、いきなり、どうした?」カァァ
牧「男、ドキドキしてる?」
男「なっ!? なんのことだ……」
牧「ふふ、してるんでしょ?」
男「ど、どういうことだっ……!?」
牧「ふふ、冗談だよ、冗談」
男「!」
牧「ちょっと、ランニングしてきまーす」
男「お、おい牧!」
牧「なぁに?」
男「あ……えっと」
牧「ふふ、またあとでね」タタッ
男「……」
男(俺、牧のペースに呑まれてる……!)
狐子(牧……!)
To be continued!!!
黒「……」
黒「遅いわ、あのサナダ虫」
黒「まったく、時間すらちゃんと守れないなんて」
黒「社会人になったらどうするのかしら、うすのろ」
黒「ほんと、バカみたい」
男「おっす」
黒「……謝りもせず来たわね」
男「え? 今日は12時集合だろ?」
黒「……」
※黒が来たのは11時です。
黒 クルリ カチカチ
男「ん?」
黒(『じゃあ待ち合わせは12時でいいか?』)
黒(『どうでもいいわ、遅れたら承知しないから』)
男「ど、どーしたー?」
黒(今の時間は……12時五分前……)
男「?」
黒「ふん、なんでもないわ。行くわよ」
男「お、おう」
男「それで、今日はどうして俺を?」
黒「うるさいわね羽虫、ついてくればわかるでしょう」
男「なんで俺はお前に集ってる虫みたいな存在なんだよ……」
黒「……祭の時、呼び戻しに来たから……」ゴニョゴニョ
男「え?」
黒「顔を近づけないでゴリラ」
男「俺そんなにむさ苦しい感じ!?」
黒「バナナがお似合いよ」
男「いくらなんでも酷過ぎる!」
黒「あんたそんなにテンション高いと相当つらいんじゃない?」
男「そんなにテンション高いつもりはないんだけどな」
黒「そうなの」
男「あ、いや、別に今が楽しくないってわけじゃないぞ」
黒「……」
黒「ふ、ふーん、そう」
男「どうして顔を背ける」
黒「黙りなさいネズミ、チューチューうるさいわ」
男「その罵倒そろそろやめろよ!?」
黒「罵倒? してないわよただの悪口よ」
男「あんまり変わらないけどな」
黒「口答えとかやめてよ」
男「口答えじゃないだろ」
黒「いちいちつっかからないで」
男「お前もいちいち棘のある発言をやめろ」
黒「あんたが悪い」
男「どこが!?」
黒「もういいから、ついてきなさい」
男「ああ、わかったけど」
黒「『けど』?」
男「今日は、なんだか服が白いな」
黒「珍しいとでも?」
男「そりゃな、いつも黒ずくめじゃないか」
黒「……わ、悪い?」
男「いや、似合ってるけど」
黒「……悪かったわね、似合ってなくて」
男「似合ってるって言ったんだぞ!?」
黒「信じられないわ、いつものイメージと違うんだから、似合うわけないじゃない」
男「いや、白は白でなんか天使みたいだけどな」
黒「は?」
男「マジトーンの『は?』は怖い」
黒「気持ち悪いこと言わないでよ……気持ち悪いのに」
男「既に気持ち悪いイメージで、さらに二重!?」
黒「はー、なんであんた私といるとそんなテンションなのよ?」
男「お前といる時はこれくらいじゃないとやってけないんだよ」
黒「扱いづらいってことね」
男「自覚してるのかよ。いや、別に扱いづらいってことじゃないけども」
黒「扱いづらいんじゃない」
男「だーもーまったく話が進展してねー!」
黒「なんで前進を望んでるのよ?」
男「悪いか!?」
黒「……」
男「はぁ……お前、なんでそんなモノの言い方しかできないんだよ」
黒「……わかんないわよ」
男「わかんない、かぁ。まあ黒らしいから今更変わったら気持ち悪いけどな」
黒「気持ち悪いやつに気持ち悪いって言われた……死にたい」
男「悪かったな。それで、ついてきて欲しい所って?」
黒「ここよ」
男「……メイド喫茶?」
黒「ええ」
男「メイドかぁ。大学祭以来だな」
黒「え、着るの?」
男「着ねぇよ!」
黒「そうよね、斬られるものね」
男「……」
黒「……ギャグを言ったらこれよ」
男「いや、それは寒い気がするぞ……」
黒「は、入るわよ」
男「了解」
・ ・ ・
いらっしゃいませーご主人様♪
男「お、おうふ……」
黒「なに気持ち悪いこと言ってんのよ」
男「いや、気圧された……」
黒「ふん、二人よ」
はーい♪
男「凄いなぁ、笑顔もパーフェクトだ」
黒「ふん、お店用の最高の笑顔よ」
男「お前は普段も笑顔がないけどな」
黒「なんですって?」
男「いや、それは自覚してないのか」
黒「悪かったわね」
男「笑ったら可愛いと思うけどな」
黒「……恥ずいこと言うんじゃないわよ、ナマケモノ」
男「どっからナマケモノが出てきた!?」
黒「いつも笑顔で許される子と許されない子がいるのよ」
男「例えば?」
黒「……桃は許されるわね」
男「あいつは笑ってなかったら違和感があるくらいだろ」
黒「あと……撫子」
男「撫子か。って、お前撫子のこと覚えてたんだな」
黒「当り前よ。あんなにくっつかれてたんだから」
男「お前はまんざらでもなかったみたいだけどな」
黒「いい迷惑よ、ほんと」
男「今度撫子連れてこようか?」
黒「いいわよ。――というか、なんであんたが連れてくるのよ?」
男「! いや、気にするな」
黒「……まあいいわ。ほら、メニューよ。なんでもいいから選びなさい」
男「俺持ち合わせが……」
黒「奢ってあげるから」
男「いや、あるわあったわ」
黒「どっちよ」
男「とりあえず、萌え萌えオムライス」
黒「ふーん、そういうの好み?」
男「オーソドックスだろ」
黒「まあいいわ。私はいらないから」
男「じゃあなんで来たんだよ!?」
黒「気づかなかった?」
男「なにが?」
黒「ここのメイド、『いらっしゃいませ』って言ってたわ」
男「え?」
黒「普通、『おかえりなさいませ』よね?」
男「……そ、そういえば!」
黒「ダメよ。質が悪い」
男「統一感が凄かったから全然気づかなかった」
あの、ご主人様?
黒「悪いけど出るわ。行ってきます」グイッ
男「うおっと」
あ……いってらっしゃいませ、ご主人様ー♪
黒「ふう、ダメな店だったわね」
男「どうしてこんなところに急に?」
黒「別にどうでもいいじゃない」
男「いや、気になるだろ」
黒「別に理由なんてないわよ」
男「本当かぁ? 珍しく服が白かったり、あんなところに行ったり、なんか変だぞ?」
黒「うるさい!」
男「……あれ?」
黒「なによ」
男「いつもの罵倒がない」
黒「な、なに求めてんのよワラワラムカデ!」
男「ワラワラムカデ!?」
黒「ワラワラと群がるムカデDよ!」
男「D!? また微妙なところだな」
黒「……メイド喫茶で働こうと思ったのよ」
男「え?」
黒「私、同じこと二度言うの嫌い」
男「えっと……メイド喫茶でなにするって?」
黒「働く」
男「……お前が?」
黒「悪いかしら」
男「悪くは無いと思うけど、なんで?」
黒「あの大学祭の時に、わりとできたと思ったから……」
男「お前ってどこかで働いてなかったっけ?」
黒「コスプレショップの店員よ」
男「だからゴスロリ?」
黒「あれは私の自前よ」
男「へえ、器用なんだな」
黒「……嘘、大に作ってもらった」
男「……ああ、そうなのか」
男「コスプレショップになんかいやなことでもあったのか?」
黒「ありすぎて怖いくらい」
男「へえ、なんだ?」
黒「色んな服を選んで試着するのかと思ったら」
黒「『これ、店員さんが着てください』とか言われて」
男「……え、黒が着るのか?」
黒「ええ。それで写真まで撮られて」
男「……あ~、でも黒可愛いからな」
黒「バカ」
男「褒めてるのに怒るなよ」
黒「軽いのよ」
男「す、すまん。それでなにが嫌なんだ?」
黒「それがまったく売り上げにならないのよ」
男「え?」
黒「写真撮って帰ってく人の多さが最近は本当に尋常じゃなくて」
黒「私の首もそろそろやばいってこと」
男「なるほどな……黒も苦労してるのか」
黒「……誰が上手いこと言えって言ったのよ」
男「え? ……あ、これは偶然だ!」
男「じゃあ写真は有料にしたらどうだ?」
黒「自意識過剰すぎるじゃない、そんなの」
男「まあ、確かに」
黒「私がいなかったら帰っちゃうお客さんもいるらしいわ」
男「流石大学のアイドルだな……」
黒「好きでなってるわけじゃないわよ」
男「まあ確かにそれは困るな。禁止したらどうだ?」
黒「そうしたらお客が来ないのよ」
男「……もうそりゃあ、その店の需要がないんじゃないか?」
黒「なんでコスプレショップの需要より私の方が高いのよ。ありえないわ」
男「そうなるな……凄い」
黒「私はみんなに愛されるより、一人に愛されたいわね」
男「へえ、純情なんだな」
黒「気持ち悪いこといわないでよ、寄生虫」
男「寄生虫!?」
黒「私が好きになれる人は、一人なんだから」
男「ああ、そうだな」
黒「……はぁ」
男「な、なんだ?」
黒「なんでもないわ。どこかでご飯食べるわよ」
男「お、おい」
黒「服とか買いに行こうと思ったけど、あんたとはそういう関係じゃないしね」
男「関係じゃないって……」
黒「いいから、行くわよ」
男「待てって!」
黒「なによ?」
男「じゃあ俺の服を買いに行こう」
黒「は、はあ?」
男「問答無用! 行くぞー!」
黒「な、なんであんたの着ても着なくても変わんないような服を見に行かなきゃならないのよ!」
男「酷い言いようだ! しかし、俺は問答無用と言ったぜ!」
黒「一人で行きなさいよ、ヘビモドキ!」
男「そうかそうかー」
黒「……ちょっと、ほんとに一人で行く気?」
黒「……」
黒「はぁ……最低。ちょっと待ちなさい!」
To be continued!!!
庶務「よっす、元気?」
要「あ、庶務先輩!」
庶務「いきなり来ちゃったけど良かったかな?」
要「いえ、あとは特にすることはないので大丈夫です」
庶務「いやーまさか卒業生としてここに来るとはねー」
要「はい、会長だったころの先輩と副会長だった時の私の……」
庶務「うん――」
要「――愛の巣ですからね」
庶務「……何言ってんのよ」
庶務「にしても、あんまり変わってないわね」
要「まあ、まだ一年しか変わってないですからね」
庶務「あれ、でもこんなのあったっけ?」
要「そうなんです! ストーブとか買ったんですよ!」
庶務「え、予算で?」
要「……そ、そうです」
庶務「無駄遣いじゃないわよね?」
要「ち、違います! ……と、思います」
庶務「貸してみ」
要「あうあう……」
庶務「いいから」
要「……」スッ
庶務「……なんで買っちゃったの?」
要「さ、寒いから」
庶務「って、まだ秋始まったばっかりじゃない。それに、暖房かけられるのよ?」
要「せ、節電ですよ!」
庶務「電力は違えどストーブだって電力使うのよ?」
要「……そうでした」
庶務(気づかなかったの!?)
庶務「まあ、小型だから値段もそんなにしてなかったみたいね……」
要「は、はい……」
庶務「先生にも許されたんでしょ? ならいいじゃない」
要「でも、先輩には怒られました」ポロリ
庶務「なんで泣くのよ」
要「だって……だってぇ……」
庶務「はいはい、私も許すわよ。だから泣きやみなさい」
要「ぐすっ……本当ですか?」
庶務「うん、ほんと」
要「じゃあ、去年みたいに撫でてください」
庶務「ええ!?」
要「……じゃないと泣きます」
庶務「ずるいわねぇ」
要「ううっ……」
庶務「あーもう、わかったわよ」
ナデナデ
庶務「よしよし、ほら、早く泣きやめー」
要「……先輩!」
ガバッ
庶務「きゃ!?」
ドサリッ
庶務「ちょっと……いきなり飛び込んでくるなんて……うわああ!」
要「ああ……先輩のかほり……」
庶務「ちょ、なに鼻こすりつけてんの!?」
要「久しぶりなんですもん……ああっ!」
庶務「なによその変な声!」
要「大好きな人が傍にいる……こんなに嬉しいことって!」
庶務「ちょっと、やめてええええ!!」
要「……庶務先輩は私のこと嫌いですか?」
庶務「……嫌いとかそういうのと関係ないわよ」
要「関係ない?」
庶務「こういうことは、普通しないの!」
要「私普通じゃないんですもん」
庶務「自分で言うか……!」
要「私は生徒会室でこんなことをしてしまうアブノーマルな人間です!」
庶務「平気な顔で何を暴露してんのよ!」
要「庶務先輩が男さんのことが好きなのはわかってます」
庶務「は、はあ!?」カァァ
要「でも、私は庶務先輩が好きなんです!」
庶務「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
要「なんですか?」
庶務「な、なんで私が男が好きって……!?」
要「へ? 話を聞いてたらそうとしか」
庶務「ち、違うわよ! なんで勘違いしてるのよ!」カァァ
要「だって、男さん以外の話なんて全然聞きませんし……」
庶務「……あ……うう……それは……」アセアセ
要「……庶務先輩」
庶務「な、なに?」
要「可愛すぎます!」ガバッ
庶務「ちょ、ちょっと! なんで服脱がそうとしてんのよ!」
要「先輩、今の状況で何を言っても無駄ですよ?」
庶務「え……?」
要「私はコッソリ、教室の鍵を閉めているのです!」
庶務「……」
ポコリッ
要「あう」
庶務「いいかげんにしなさい」
・ ・ ・
庶務「あんた、副会長とかには手を出してないでしょうね?」
要「そんなこと絶対ないです! 私には庶務先輩だけですから!」
庶務「……はぁ」
要「?」
庶務「でも、嬉しいわ」
要「えっ」カァァ
庶務「……オトコだったらもっと嬉しかったのになぁ……」
要「ひ、酷いですよー!」
庶務「冗談よ冗談。飲みかけだけど、お茶いる?」
要「かんせt……いります!」
庶務「な、なんかあげたくなくなる……嫌な予感がする」
要「はうっ、気のせいです!」
To be continued!!!
いつからだろう。
姉「おめでとう、男」
男「姉さん」
大人って呼ばれるようになったのは。
妹「知らないよ、私」
男「おいおい子どもじゃないんだから」
妹「子どもだもん」
俺が、こんなやつになったのは。
次回、男過去編。
To be continued and let's go to the next thread......!!!
続き
女「機械の体ですけど、一緒に過ごします?」-004-