澪「わ、わたしは忙しいんだ!」
澪「そう、……今いい所」キリッ
プルプルプルプル
澪「邪魔するなよ? あと一段、あと一段で……」
元スレ
澪「クリスマス、忙しいフリをする準備は大丈夫?」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1293280018/
澪「はっ、鼻がムズムズするぅ」
澪「やめろぉ、冗談じゃな……へっ」
澪「耐えろ、耐えるんだわたし! ……くぅ」
澪「これで23回目のトライ、ついにたどり着いたッ……最上階でぇぇえ!」
澪「えっぷし」
パサァー
澪「ぐぁあぁぁぁぁ! まーた失敗だぁー!」ダンダン
澪「まぁ『最上階でぇぇえ!』って力んだ時に崩れてたんだけどな!」テヘ
澪「かれこれ23回目も失敗、ハハッ」
澪「……なんだよ?」ジトー
澪「『暇そうで何より』って?」
澪「あー、おほん」
澪「忙しいなぁ! トランプ4階建てタワー作るのに忙しいよ!」
澪「…………」
澪「さ、寂しくなんて……ないからな」
澪「散歩がてらコンビニにでも行くか」
澪「うー、寒い」
澪「しっかり着込んでくればよかった」
澪「…………!」
澪「だけどここは『彼と過す予定でお菓子が切れたから買いに来たの~♪』てな感じでフットワーク軽目に……」
澪「そう考えれば怪我の功名! 澪ちゃんナイスッ!」
澪「あそこの角を曲がった辺りから小走り始めれば丁度いいな」フフッ
澪「ん? なんでトランプタワーかって?」
澪「あ、あれは……その」
澪「イヴにいちゃいちゃしてる"カップル達を呪う"わたしなりの」
澪「!? ……とかじゃないぞ、クリスマスに動じない精神力を培う為に」ゴニョゴニョ
澪「唯は憂ちゃん、和と過すのか……」
澪「ムギはきっとパーティーか何かにお呼ばれされてるんだろうなぁ」
澪「でも、もしわたしがムギに電話したら」
紬『何かしら、え!? 暇……なのね?』
紬『わっ、わかったわ! 待っててね!』ハァハァ
紬『20分、いいえ10分で向かうわ! ……ちょっと斎藤! すぐに車を回しなさい』
斎藤『しかし、お嬢様……』
紬『友達の一大事なの! こんなパーティーいつでもできるじゃない!』
澪「こんな感じか……?」ハハッ
澪「あー、でもわたしはそう言うの好きじゃないんだなー」
トボトボ
澪「自分からアクションを起こしたら"負け"って言うかさ……」
澪「もうこの際曽我部先輩でもいい!」
澪「ファンクラブの子達でもいい!」
澪「臆することなくわたしへ声を掛けて欲しかった!」ジンワリ
澪「一人はさび……ッ」
澪「! ……寂しくなんてないぞ!」
澪「あーっはっは! そうだそうだ」
イラッシャイマセー
澪「そんなこんなでコンビニに着いてしまった」
澪「うっ、クリスマスケーキの店頭販売」
澪「それに並ぶ会社帰りの優しそうなお父さん」アチャー
「ああ、今まだ会社……帰りは〇〇時くらいかな。ハハ……すまんすまん」
澪「しかも微妙なアリバイ工作して家族を喜ばせる気だ!」
澪「その後ろに並び、肩を寄せ合う若者カップル」グッハー
「ちょ……冷たいー! やめてよー」エヘヘ 「ほら寒いんだろ? マフラー貸してやるよ」
澪「もう、見ているだけで息が……、意識が遠のく……」
澪「そしてチャラいけど記念日とか敏感そうなお兄さん」アワアワ
澪「最後尾はパート帰りの優しそうなお母さん」ウグッ
澪「みんな、よっ予定があるんだ……な」
澪「お……お前ら、もっと他にあるだろ?」
澪「もっと良いお店で買えばいいだろ!」
澪「コンビニのバイト君達も大変」
澪「って」
ワイワイ
「ありがとーございますっ!」 「こちら1500円になり……」
「メリークリスマース!」 「よい夜をー!」ヤンヤヤンヤ
ガヤガヤ
澪「まっ眩しい! 笑顔が"キラキラ"してるぅ……」アワワ
澪「ぐぅ、わたしみたいな根っからのボッチ属性に
あの笑顔、あのエネルギー、抉られる……効果はバツグンだぞッ!」グッハー
澪「て、……店内へ」
澪「ここに居ては"正のエネルギー"にヤラれる……」ヨタヨタ
ウイーン
――ピンポーン
澪「…………」キョロキョロ
澪「立ち読み客3、内女性客1」
澪「その他"日常"を過す男性客数名やサンタ服で眠そうな店員君」
澪「そうだ、……これこそわたしが求めていたオアシス! コンビニエンスストア!」
「っしゃせー」
澪「!?」ビクッ
澪「……あはは」ヘコヘコ
澪「とりあえず立ち読み……」
澪「うわぁ、どれもクリスマス特集」
澪「いつも通りヤンマガから、ってイカンイカン」
澪「飽くまでも『彼と過す予定でお菓子が切れたから買いに来たの~♪』の態」
澪「横の女性客と同じ様に『クリスマス特集で気になる雑誌があって』って感じでだな」
「もっしもーし? あータカシ? 待ちくたびれたんだけどー?」
澪「ぐうっ……、コイツ敵だったか!」ワナワナ
澪「フフッ、してやられた。店外ならず店内にまで……」クククッ
「えー! まだ仕事終わんない……ん?」チラッ
澪「!?」ヒクッ
澪「……あははは」ヘコヘコ
澪「うぅー、目が合うとは」
澪「そうそう、当初の目的を果たそう」
澪「って言ってもフラッと来たんだけどな」アハハ
澪「まず……」ガサガサ
澪「ピザポテト、これは外せない」
澪「パーティーパックは食べていて飽きるから通常サイズ」
澪「イコールッ! ……見えてきた、飲み物はコーラで決まりだな」
澪「しょっぱいお菓子が1つ、次は甘いお菓子だ」
澪「ここでしょっぱいお菓子を二つ買ってしまうと連鎖が切れなくなるからな」
澪「本当はじゃがりことかも買いたいんだけどガマンガマン」
澪「それとデザートを1品」
澪「今日はうーんっと、……黄色系?」
澪「モンブランって気分かなー?」ハハッ
澪「ティラミスなんかも捨てがたいんだけどな」
澪「あっ!」
澪「……危ない危ない、モンブランなんて買って帰ったらボッチ確定じゃないか!」
澪「危うく1失点だったぞ、わたし」
澪「うーん、しかたないここはプチシューパックだな」
「しゃーせー、こちら298円が1点……」
澪「あ、……中華まんかぁ」
澪「ピザまん、美味しいんだけどピザポテトとでダブルピザだ」
澪「かと言ってチャーシューまんとか女の子が頼むのもな……」
「合計827円になりまーす」
澪「肉まんって気分でもないし」
「あのー?」
澪「あ、あ、あの! あんんまんくッ、あんまんも下さい!」
「あーざいまーす」
澪「絶対に『めんどくさい客』って思われたよな……」
――ウイーン
アザーシター
澪「ううっ寒い!」
澪「ってまだ並んでるのか」
澪「いいねえー、若いねー」
澪「まあ、わたしもまだまだ若者だけどなッ」ハハハッ
澪「さーて、寒空の中あんまんを食べながら帰りますか」
澪「いやー粋だねぇ? なんツッて」ガサゴソ
梓「あれ? 澪……先輩?」
澪「!?」ドキッ
純「こ、こんばんは! 澪先輩ッ」
梓「こんばんは、寒いですね」
澪「あっ、あぁ! 寒いなー、冷えるなー」ナハハ
梓「買い物……ですか?」
澪「そ、そ、そうそう! 少しな」
純「あ! もしかして澪先輩、クリスマスは彼氏さんと一緒に……」
梓「ふぇ!?」
澪「えぇ!?」
純「そんなぁー! 憧れの澪先輩が……梓、わたしショックで目眩が」
梓「ちょ……純! 大げさだって、
先輩くらいになればそっそりゃ彼氏だって……居るよ」カァ
澪「あ、ああっ、ぁわわわわ」
純「いーなー、わたしなんてこれから」チラッ
梓「ん?」
純「(コイツ)……と一緒にメリークリスマスですよ」ハァ
梓「にゃっ! もう、いくよっ純!」
純「へーいへい。ではでは澪先輩っ、良い夜をー♪」フリフリ
澪「ハッ……アハハッ、ハハハハハハッ」ブンブン
澪「…………」フリフリ
澪「ッ! はぁはぁ……わ、わたしは悪くないぞ?」
澪「純ちゃんが取り違えただけだ」
澪「そうだ! 彼女達にはそれだけわたしが魅力的に見えたということだ!」
澪「ハハッ、そう! それそれ!」
澪「ハァ……」
澪「あ、あんまん」ガソゴソ
ムグムグ
澪「ちょっと冷めちゃったな……」
澪「…………」トボトボ
澪「一緒に過す恋人、……居ない」
トボトボ
澪「一緒に過す友達、……も居ない」
ムグムグ
澪「ひょうわ……(今日は)」ハムハフ
澪「……んっ」ゴクリ
澪「クリスマス……」
澪「はぁ……」
澪「どうする? どうするのサンタさーん!」
澪「家に居ても腐ってるみたいで惨めだしさ」
澪「外に出たら執拗必死にボッチ隠し!
澪「後輩にはあらぬ心配されてさ!」
澪「……ハハハ」
澪「サンタさーん!」
澪「クリスマスプレゼントはそうだなー、『"魔法使いの女の子"にしてあーげーるっ♪』とかでもいいよ?」フフッ
澪「例えば……」
澪「ホァッ! 信号よ"青"になーれっ♪」
パッ
澪「! ……ハハッ、このくらい序の口だよ! なんちゃって」
テクテク
澪「うーん、そうだ! お次は……」
「んでさー? 聞いてるー?」フフフ
「聞いてるよー」アハハ
澪「よし、あのカップルだ!」
澪「わたしの前で引っ付いていちゃいちゃとはいい度胸……」
澪「魔法少女ミオちゃんの御前であろう!」クワッ
澪「どーれ、カップルの頭上にだけ雨を降らせてしんぜよう」ククク
澪「そぉい! 雨よ降ーれっ♪」
ヒュー
――ペチョ
「ウゲッ! 鳥に糞ひっかけられた!」
「あははっ! うーけーるー♪」
「ちぇ、そろそろ家いくかー」
「そーだね♪ 鳥さんのう〇ち洗わないとねー」フフフ
「うっせー、そーら行くぞー」ゲラゲラ
澪「……まあ」
澪「結果オーライ!」
澪「そうそう、まだ魔法に慣れてないだけだって」ナハハ
澪「コントロールが難しい、な……」テクテク
「ああ、まだ終わらなくってな。……スマン」スタスタ
『――あなた、聡美だって楽しみにしてるの』
「わかってる、もう少しで上がれるだろうからさ」イソイソ
『――もう』
澪「こう……、手首をくるっと返して」
澪「フレミングの左手の法則で……」クイッ
澪「えいッ♪ って感じか?」
「――ッ! あてェェ」ズッテン
「あ、……聡美、あぁ……聡美の楽しみにしてるケーキ」
「ぅ……ぐっ、すまない……ううっぎゅぎゅっ、うぎゅ……聡美ぃぃ」メソメソ
澪「ヒッ!」ビクッ
タッタッタッ
澪「あぁぁわぁわあああ」
澪「そ、あの! 悪気は……、練習のつもりだったんだよッ!」アワアワ
澪「ごめんなさい! ごめんなさぃいぃぃ!」ウウッ
澪「ハァ……」
澪「トンでもない能力を手に入れてしまった」
澪「冗談のつもりだった……」
澪「人の幸せまで奪うつもりは無かったんだっ!」
澪「…………」ポケー
澪「わたし、こうやって人から離れてどんどん孤立して」
澪「! ……最終的には本当の魔女になって」
澪「魔女狩りとかで、つるし上げられて」アワワ
澪「――! 最終的に晒し首」ヒィッ
澪「もう、戻れないんだ」
澪「ならば私は魔女らしく生きよう……」
澪「そう、なら黒いドレスとか着てホウキに跨ってさ!」キリッ
澪「クリスマスなんてブチ壊して!」
澪「……そうだな、全国のクリスマスケーキを鏡餅かなんかに変えて回ろう!」
澪「アハハハハッ! そーだそうしようっ!」
澪「そう考えれば楽しそうな人々なんかどうでもいいぞ?」
澪「ボッチでいいじゃないか!」
澪「クールな魔女、悪くない悪くないっ!」ククッ
肌がスーッと透き通る
冷たい空気
夜を優しく抱きしめる空が
澪「冬、寒い冬!」
澪「大好きな冬、クリスマスさえ無ければな……」
澪「そうそう! クリスマスなんてなくなっちゃえばいいんだよ!」ハハハッ
満点の夜空が
そっと舞い降りて来る頃
風のざわめきは指の隙間をすりぬけながら
遊んでいる
澪「おぉ! このホウキとかいいな」
澪「おばさーん! すみませーん、これくださーい!」
「はぁ……はて?」
澪「いいからいいからっ! お釣いいです、どうもー」
君達はてのひらを優しく差し出して
この空に飛び込んだ
ホウキに跨り自由に飛ぶ
私の行き先を瞬きもせずジッと指を咥え見てる
澪「跨り具合もなかなかイイじゃないか♪」
何もない白い部屋の窓から
小さな体を伸ばし
遠くの景色を眺めて
澪「なんか変に縛られてさ」
澪「気に病んで、身動き取れなかったのがバカみたいだ!」
一人で塞ぎ込んでいた私
静かな夜には
今の私がこの子守歌でなぐさめてあげるから
澪「――そんなに泣いちゃダメだぞっ♪」エヘッ
澪「ボッチ魔女」クルリ
澪「悪くないな! 実に悪くないゾッ!」フフン
風がささやくんだ
『アスファルトの焼けた匂いもこの夜にはないよ』
『街の静けさも、ケーキに乗せられた灯も君のために』
『君の好きな冬だから、全部君のために』って
澪「ん?」ピタッ
澪「この真っ黒なドレスなんて正にイメージ通り」
澪「ぐっ……、79800円は足元見すぎじゃないか?」
澪「まあ魔女のわたしだ、ショーウィンドウの中に入るのなんてへっちゃらへっちゃらー♪」
澪「店主さんすまない、これも魔女界の発展と繁栄のためだ……」
澪「わたしが出世した暁にはこの店を魔女界指定ブランドにしてあげよう!」
澪「ではでは、失礼して……」
ガン
――ゴツン
澪「……ふふっ」
風がささやくんだ
『突然の出来事に君はどうしていいか……戸惑ってる?』って
澪「いいや、……分かってたよ」
澪「薄々気付いてたんだ」
澪「……色々無理があったってさ」ハハハッ
澪「今日という日は、今日を祝う人の為」
澪「そんな人達が幸せなひと時を過す1日で」
澪「肌寒いくらいの空気も」
澪「人が疎らな商店街も」
澪「キラキラ電飾が輝くモミの木も」
澪「ディスプレイ用のケーキ上に灯るろうそくの火も」
澪「全部わたしと無関係でさ……」ペタン
澪「抗ってみたかったんだ」ウゥゥ
何もない白い部屋の窓から
遠くの景色を求めて
澪「何もないわたしでも楽しめるかもって」グスッ
夕暮れに少し冷たい風をまとい
「おーい、なーにしてんだ?」
この日のために
居心地悪い今日のために
「ったく、無視ですかー?」
澪「――奇跡を祈ってた」ホロリ
澪「ホウキ……どうしよ」トホホ
律「おい、みーおちゃん! 座りこんでなーにやってんだー?」
澪「はぁ……サンタさんか」
澪「今更だよ」メソメソ
澪「本当は……ヒック、魔法とか使えなくていいから」
澪「一緒にこの日を祝える友達が欲しかったんだ……」グスッ
澪「サンタさん。わたしにも1人居たんだ、今日を祝える友達」
澪「些細なことで喧嘩しちゃって、それから連絡とりづらくて」ウウッ
律「んで、そのホウキはなんだよ?」ヒヒッ
澪「これは、うぐぅ……その」
澪「魔女になろうかって」ボソボソ
律「ッたー! みーおちゅわーんはサザエさんより愉快でしゅわねー♪」ホホホ
律「ふぉっふぉっふぉっ」
律「その赤いお鼻はどうしたのかね? サンタさんに言ってごらんなさい?」
澪「あう……、ショーウィンドウの中に入ろうとして……」
律「ぶッハハハハ」ジタバタ
律「そりゃーないぜ」ヒィヒィ
澪「サンタさんまでわたしをバカにするんだ……」シクシク
律「ったく、昔とかわんねーなー?」
律「そんなの構わず連絡して来いってんだ、コノッ」
コツン
澪「!? ……て、っり、り、律! お前こんなとこで何サンタの格好なんかして!」アワワワ
律「ホウキ持ったお嬢さんが何をおっしゃって、バイトだよバーイートっ!」シシッ
澪「そそっそうだよ! ど、っどこから聞いてたんだ?」
律「『ホウキ……どうしよ』のところかなー?」
律「強いて言うならショーウィンドウに激突する所も目撃したぞっ」タハッ
澪「…………///」
澪「後生善処するッ! 頼む忘れてくれよ、りつぅー!」
律「さーて、どうしたもんかなー?」ニヤニヤ
律「そーんなことより、魔女になりたかった澪ちゃん?」
澪「は、はい……」
律「あれー? なんでだろ、何であたしはケーキを持ってるんだろうなー?」
澪「……うん、だな」
律「食べたい?」
澪「べ……別に」プイッ
律「ん? あーれー? おかしいなー、今日という日を一緒に祝いたいんじゃなかったのかな?」ヒヒッ
澪「…………///」ポッ
律「ほーら行くぞ! 魔女紛いの、――真っ赤なお鼻のミオトナカイ!」
律「りっちゃんサンタについてまいれー♪」
澪「なッ!」
澪「って、おーいー! まってくれよ、りつぅうぅぅぅ!」
静かな夜には
君の素敵な顔を見せて
~おわり~