1 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:01:37.12 rJAVSuWF0 1/18


「ふ~ん♪」

「ふっふふふ~ん♪」

「ふっふっふっ♪ ふふふ~ん♪」

「ふ~ん♪ ふふふふ~♪」

「ふ~~~む・・・」



「大きなため息」

「あ、菫、いたんだ」

「うん。ずっと前からいたよ」

「ごめんなさい。気づかなくて」

「ううん、いいよ、お姉ちゃん。それで、新しい曲でも考えてたの?」

「ええ、でもなかなかいいメロディーが出てこなくて・・・」

「・・・そうだ! ちょっと出かけようかしら」



元スレ
紬・澪「雪見大福コンビ?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1389798097/

4 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:06:50.37 rJAVSuWF0 2/18


「え、寒いよ?」

「菫もくる?」

「う~ん・・・」

「ふふ。いいわ。1人で行ってくるから」

「うん。いってらっしゃい」


雪は積もっていないけど、とても寒い。
完全防備で出てきたのに。


6 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:09:36.19 rJAVSuWF0 3/18


ゆっくりと歩道を歩く。
一歩一歩が一小節。
その間にリズムを刻む。

それを何度も繰り返す。
何度も何度もやり直す。

気に入ったリズムが生まれたら、今度は気に入ったリズムを歩幅で刻む。
テンポよく、快活に。
ちょっと恥ずかしいけど、幸い人通りは少ない。
雪が積もっていたら、足あとが楽譜になったかな--


--と。


「ムギ」


7 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:15:41.16 rJAVSuWF0 4/18


「・・・!」

「こんな寒い中、何してるの?」

「ええ、ちょっと・・・」

「えっと、聞いたら不味かったかな?」

「ううん。そうじゃないの。そうじゃなくて・・・」

「いいっていいって、無理に言わなくても」

「ふふっ♪ ふふん♪ ふふふ~ん♪」

「あ・・・曲を作ってたんだ」

「ええ、正解っ!」



澪ちゃんはにっこりと優しく笑った。
きっと足でリズムを刻んでいた私が子供っぽく見えたんだと思う。


13 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:31:21.76 rJAVSuWF0 5/18


「そういう澪ちゃんは?」

「あぁ、私か? 私はちょっと・・・な」

「意味深ね」

「うん。できれば聞いてほしくなかったけど、聞かれたからには教えるよ」

「別にいいのに」

「雪見だいふくを買いに行くんだ」

「雪見だいふく・・・?」

「うん」

「どこかで名前を聞いたような気がするけど、どこだったかしら」

「お月様を見ながら食べる月見団子みたいに、雪を見ながら食べる大福があるの?」

「えっと、合ってるような違うような・・・」

「そういう名前のアイスがあるんだよ」

「冬に食べるアイスなんだ?」


15 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:36:05.96 rJAVSuWF0 6/18


「うん。夏にも食べるけど、今日みたいな寒い日に炬燵に入って食べたくなるアイスなんだ」

「ふぅん。おこたに合う味なんだ」

「えっと・・・それはたぶんCMのイメージのせいだけど」

「でも美味しいんだぞ」

「こんな日はホットカーペットの上で溶ける寸前に雪見だいふくを食べるのが最高なんだ」

「あの絶妙なやわらかさとまろやかさ、そして口溶けと言ったら・・・」


急に饒舌になる澪ちゃん。
雪見だいふく。ちょっと食べてみたくなっちゃった。
でも、今は曲を作ってる途中だし・・・。


18 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:45:29.41 rJAVSuWF0 7/18




ざっざっ。

ざっざっ。

「ね、澪ちゃん」

「うん」

「積もってきたね」

「あぁ」

ざっざっ。
ざっざっ。

「それで、澪ちゃん」

「うん」

「雪見だいふくを買いにいくんじゃなかったの?」


20 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 00:53:18.28 rJAVSuWF0 8/18


「あぁ。でも、ちょっとだけムギに付き合ってみるのも面白いかなって思って」

「ふふ、こうやって歩きながら曲を考えてるだけなのに」

「じゃあ私は詩でも考えてみるよ」

ざっざっ。

ざっざっ。

「何か思いついた?」

「ううん。ムギは?」

「駄目みたい。澪ちゃんと一緒にいるからかしら」

「え、私のせいか?」

「うん。だからちょっと付き合って」


25 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:08:04.19 rJAVSuWF0 9/18


向かったのは、私が通っていた小学校だ。
当直の先生に挨拶してから、目的の場所に向かう。
澪ちゃんは居心地が悪いみたいで、きょろきょろしている。
許可は取ったから大丈夫なのに・・・。


「あ、ここは」

「ええ、音楽室。このピアノはね。なかなか思い出深いものなのよ」

「たとえば?」

「う~ん、多すぎて何から話せばいいのかわからないけど、とにかく全部」

「はじめて友達ができるきっかけになったのもピアノだったし」

「はじめて先生に褒めてもらったのもこのピアノだったの」

「へぇ、ムギの大切な相棒だったんだ」

「うん。だからね。たまに曲作りに悩むとこうして触りにくるの」


26 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:11:09.31 rJAVSuWF0 10/18


軽く白鍵を叩く。
ぽろんぽろん。あの頃と変わらない音が響く。

「いい音」

「そうでしょう」

「くすっ」

「・・・?」

「ムギ、自分が褒められたみたいに嬉しそうだ」


笑う澪ちゃんをよそに、私は鍵盤を叩く。
雪の上で描いていたイメージを実際に音にする作業。
鍵盤と向かい合う孤独な作業。
少しずつ自分の意識を溶かして、音だけに集中する。


27 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:12:09.70 rJAVSuWF0 11/18


その旋律を唯ちゃんだったらどう楽しむのか。

梓ちゃんが満足できるだけの質があるのか。

りっちゃんがノリノリで演れるか。

澪ちゃんがどんな詩をつけてくれるのか。

音と向い合って、ひたすらに。
ただ、ひたすらに。





「1人で曲を作るの、久しぶりじゃないか?」

「最近はみんなと一緒に作ることが多かったね」

「どうしてまた1人で?」


29 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:16:09.87 rJAVSuWF0 12/18


「実はね、ずっと1人でもやってたの」

「そうなんだ?」

「ええ。みんなで作る曲ばかりだと、自分の色がなくなってしまうから」

「みんなの色と混ぜた時、面白いものが出来なくなっちゃうから」

「ふぅん、ムギもいろいろ考えてるんだ」

「えっへん!」

「それで、作曲のほうは?」

「もうしばらくかかりそうなんだけど・・・」

「待つよ」

「退屈じゃない?」

「大丈夫」


30 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:16:53.05 rJAVSuWF0 13/18


再び曲作りに没頭する。
澪ちゃんはこちらをじっと見ているわけでもなく、聴き入ってるわけでもなく、ただそこに居てくれた。
たぶん、私を邪魔しないようにしてくれたのだ。

随分長い間ピアノと向かいあっていたと思う。
私はやっと曲を作り終わった。


「できたんだ?」

「ええ。ちょっと聞いてくれる」

「うん」


通して曲を弾いてみる。
澪ちゃんは目を閉じて聴き入ってくれる。


31 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:17:47.25 rJAVSuWF0 14/18


「うん・・・うん・・・」

「どうかな」

「うんっ、すごくよかった!」

「そっか」

「あれ、喜ばないんだ」

「うん。だって澪ちゃんがそう言うのはわかってたから」

「むぅ・・・」

「澪ちゃんが好きな曲を作ったから」

「えっ」


32 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:19:40.04 rJAVSuWF0 15/18



一週間ほど前に遡る。


「なるほど、手作りで何かプレゼントをあげたいと」

「ええ、でも私は憂ちゃんみたいに上手にお菓子を作れないし」

「りっちゃんみたいに編み物のセンスもないから・・・」

「普通、こういう場合『下手でも気持ちがこもっていればいいです』というのが常套句だと思います」

「でも、ムギ先輩にはあるじゃないですか、上手に作れるものが」

「えっと・・・もしかして紅茶のこと?」

「紅茶もそうですが、もうひとつ」

「曲です」


34 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:20:35.04 rJAVSuWF0 16/18


「曲をプレゼントするの?」

「はいです。澪先輩きっと喜ぶと思います」

「ふふ、面白そうね」

「決まりですね」

「ありがとう、梓ちゃん」

「あ、どういたしまして。それにしてもムギ先輩と澪先輩ですか・・・」

「うん?」

「あ、いえ。なんだか雪見・・・・


そういえばあの時、雪見だいふくって梓ちゃんが言ったような。
なんで言ったんだろ。あの日は雪も振ってなかったのに。
でも、まぁいっか。


38 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:25:45.80 rJAVSuWF0 17/18




「ちょっと遅れちゃったけど、誕生日プレゼント」

「この曲が?」

「ええ」

「ムギからの誕生日プレゼントなら、誕生日にもらったのに」

「でも、あれは形に残らないから」

「くくっ」

「・・・?」


39 : 以下、名... - 2014/01/16(木) 01:26:25.87 rJAVSuWF0 18/18


「ムギは時々抜けてるなって。曲だって形に残らないじゃないか」

「あ・・・」

「でもさ、ありがと。嬉しいよ、ムギ」

「言葉にできないぐらい」


そう言うと、澪ちゃんは私をあたためてくれた。


おしまいっ!




追伸♪
澪ちゃんは言葉にできないなんて言ってたけど、ちゃんと歌詞をつけてくれました。


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