少年は中学二年生。
他の同級生に比べると、端正な顔立ちをしてるといえる。
そんな彼が教室に入ると、すでに隣の席にはブスが待機していた。
少年「おはよう」
ブス「お゛は゛よ゛う゛」
少年の快活な挨拶に、ブスがダミ声で答える。
いやこの声はダミ声などという生易しい言葉では表現できない。
地の底から響く亡者のうめき声、とでもいうべきか。
声というより、もはや兵器である。
元スレ
少年「隣の席のブスのからかいが尋常じゃない」
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ここでブスについて簡単に紹介しよう。
まず髪の毛。視力の悪い者でもはっきりと分かるほど、フケがこびりついている。まるで粉雪。
目。死んだ魚のようにギョロッとしており、常に重度の睡眠不足かなにかのように血走っている。
鼻。鼻筋は獣道のように曲がっており、鼻の穴はビー玉よりも大きい。
唇はぶ厚く、しかも紫色だ。魔界にナメクジがいるとしたらこんな感じではなかろうか、と思えてしまう。
歯並びはむろんガタガタである。何年も替えていない使い古された歯ブラシを彷彿とさせる。
まだ中学生にもかかわらず、皮膚は西部劇に出てくる荒野より荒れ果てている。
彼女の体からは、常に落石のようにポロポロと垢がこぼれている。
少年が席につくと、ブスが動いた。
ブス「むふふふふふ……」
ゴキブリホイホイを思わせる粘着質な笑みを浮かべながら、少年の顔に自分の顔を近づける。
その距離、およそ5センチ。
近い、近すぎる。
ブスの攻撃が始まった。
ブス「ふぅぅぅぅぅぅ……」
ブス「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
吐息だ。
ブスの息の臭さときたら、くさやの数千倍を誇る。
一般に胃が悪いと口が臭くなるといわれるが、これはそんなレベルではない。
一体どこが悪いのだろうか。内臓か、血液か。きっと魂そのものが悪いに違いない。
続いて、ブスは自分の鼻に人差し指を当てると――
ブス「フンッ!」ヒュッ
ブス「フンッ! フンッ! フンッ!」ヒュンヒュンヒュンッ
ハナクソを飛ばし始めた。
爆撃が終わった時には、少年の首から上はまるでレーズンパンのような有様になっていた。
むろん、ハナクソの異臭も強烈なものであることは言うまでもない。
まもなく授業が始まる。
少年「教科書を出そうっと」
ブス「貸しなさいよォ!」バッ
ブスは少年から教科書を取り上げると、それを自らの爪で切り裂き始めた。
ブスの爪は垢まみれで黒ずんでいるにもかかわらず、ナイフ以上の切れ味を誇る。なんという矛盾!
少年の教科書は瞬く間に解体された。
授業中でもブスのからかいは中断しない。
ブス「……」ギリギリギリギリギリ…
歯ぎしりだ。
歯ぎしりで生じる超音波にも似た不快音が、少年の耳を蝕んでいく。
その不快さたるや、黒板を指で引っかいた時のあの音を遥か後方に置き去りにすることは言うまでもないだろう。
ブスのからかいは続く。
ブス「ゲェェェェップ」
ブッ!
ブス「ゲェェェェップ」
ブッ!
小刻みにゲップと屁をひり出す。妙にリズミカルなのがまた憎らしい。
そのたびに毒ガスと形容してもいい悪しき気体が、ブスの体内から放出される。
名づけるとしたら“ゲッペ”。
このゲッペが少年めがけて延々と繰り返されるのだ。
ここまでくると、さすがの教師も顔をしかめる。
教師「授業中は静かに……」
次の瞬間、教師の顔は凍りついた。
ブスに睨みつけられたのである。
蛇に睨まれた蛙、どころか、龍に睨まれたオタマジャクシ。勝負にすらなっていない。
この教室にブスを止められる者はいない。
ブスは怪物(モンスター)であると同時に、女王(クイーン)でもあるのだ。
休み時間になると、ブスの新たな攻撃が始まる。
ブスが少年の机に唾液を垂らし始めたのだ。
ブス「むふふふふふ……」
ブスの唾液は強酸性である。
木造の机がジュワジュワと音を立て、溶けていく。
そのたびに凶悪な刺激臭が、少年の鼻を突く、というより抉る。
ブス「ペンがあるじゃない」
ブス「な~め~ちゃ~お~っと」
べろんべろんと、少年のシャープペンやボールペンをくわえ、執拗に舐め回すブス。
先ほども説明したが、ブスの唾液は強酸性である。
舐められたが最後、使い物にならなくなってしまう。
体育の時間。
ここではさすがのブスも少年をからかえないと思われたが――
ブス「ブルマー……履いてきちゃった」
とっくの昔に学校から消えたと思われたブルマーを、なぜか着用しているブス。
しかも、これ見よがしに、その格好のままブスは少年の前で脳殺ポーズを披露する。
同級生の男子らがその光景に耐えきれず嘔吐する中、少年はただただブスの踊りを眺め続けていた。
昼食の時間になった。
少年が持参した弁当を食べようとすると、ここでもブスのからかいが開催される。
ブス「おいしそうな弁当じゃな~い」
ブス「食べちゃおっと」
少年の許可も得ず、勝手に食う。食べまくる。
白米が、ウインナーが、チキンナゲットが、野菜が、サクランボが、ブスの口の中に消えていく。
食事より捕食という言葉が似合う。
少年は箸を持ったまま動かない。
グッチャグッチャクッチャクチャグッチャクチャクチャグッチャクチャ
クチャグチャグッチャクチャクチャグッチャクチャクチャグッチャクチャクチャ
グッチャクチャクチャクチャグッチャクチャクチャグッチャグッチャクチャクチャ
加えてブスは超S級のクチャラーである。
まるで食物の断末魔の叫びのような、おぞましい咀嚼音。騒音公害といって差し支えない。
どんなにクチャラー嫌いな人も、この音を一度聞けばきっと、並のクチャラーに寛容になってしまうだろう。
それほどの悪意をばら撒きながら、ブスは死んだ魚のような目で、少年を睨みつける。
食事を終えるとブスは、爪で自らの歯をほじくり始めた。
歯垢を削り取っているのだ。
わずか数十秒後、ブスの両手にはおにぎりほどの量の歯垢が溜まっていた。
ブス「これ、どうすると思う?」
少年「……」
ブス「あんたに塗りつけてあげる」
ブスの手で、少年の全身に歯垢が塗りつけられる。
少年は一切抵抗することはなかった。
これでようやく終わりと思いきや――
ブス「オエッ」
ブスは、胃袋から先ほど食べたものを吐き出した。
しかもそれを――
ブス「食べなさいよ」
少年に食べるよう命じる。
少年は無言で“それ”を完食した。
午後もからかいは続けられた。
少年の目と鼻の先でゲップをし、
握りっ屁を嗅がせ、
ほじくったヘソのゴマを食わせ、
目、鼻、耳、歯。四種のクソによる波状攻撃、
痰まで浴びせた。
もちろん、誰もブスを止めることはできなかった。
ようやく帰りのホームルームが終わる。
からかいの時間も終わる。
少年「……」ガタッ
少年は急いで席を立った。
そして、逃げるように――
逃げるように教室から去っていくブスを追いかける。
絶対に逃がさないという執念がその眼には込められていた。
ブス「なんでついてくるのよぉ! あんなにからかったのに! あたしを嫌いになってよ!」
少年「なるわけないだろう? むしろ僕の好意は日に日に増すばかりさ」
ブス「ついてこないでよぉ! あたしはあんたが嫌いなのよ!」
少年「そういってホントは好きなんだろう? 分かってるんだよ、僕には……」
ブス「拒絶してもダメだし、無視してもダメだし、からかってもダメだし、どうすればいいのよぉ!」
少年「今日もずーっとずーっとつきまとってあげるからね。僕たちはずっと一緒さ」
学校が終わり欲望を開放させた少年の表情は、ブスが女神にも見えるほど醜悪なものに変貌していた。
― 完 ―