父「インゲルぅ!」
娘「はーい!」
父「焼けたぞ! パンを踏めぇっ!」
娘「ほいさっ!」
フミッ フミッ フミッ フミッ …
娘「出来上がり!」
父「よっしゃ、店に並べてこい!」
娘「うん!」
元スレ
パンを踏む娘「さあ、今日もはりきってパンを踏むわよ!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1575022806/
ワイワイガヤガヤ…
娘「はいはーい、みんな押さないでー! パンはたっぷりあるからー!」
客A「相変わらずここのパンは最高だな!」
客B「親父さんの作ったふっくらパンを、インゲルちゃんが踏むことで極上の仕上がりになってんだよな」
客C「インゲルちゃんありがとう!」
少年「おーい、インゲルー! 遊ぼうぜー!」
娘「あ、だけど、店番が……」
母「あとは私一人で大丈夫だから、遊びに行ってきなさい」
娘「お母さん、ありがとう!」タタタッ
娘「今日は何して遊ぶ?」
少年「缶蹴りやろうぜ!」
娘「よっしゃあああああああ!」タタタタタッ
娘「みーっけた!」フミッ
子供A「インゲルはえー!」
子供B「あっという間に全員捕まった……」
少年「さすがインゲル……」
娘「ふっふっふ、何かを踏むことに関しては、あたしはプロなのよ」
―教会―
司祭「……なに、“パンを踏む娘”だと?」
部下「ええ、このところ評判になっているようで……いかがいたしましょう」
司祭「許せん……」
司祭「神からの贈り物であるパンを踏むなど、神への冒涜以外の何物でもない」
司祭「今世間を騒がせている国王陛下を狙うテロリスト、その仲間に違いない!」
司祭「私自ら出向き、その娘を逮捕して、地獄に落としてくれようぞ!」
―パン屋―
ワイワイガヤガヤ…
司祭「皆の者、どいてもらいたい」
ザワ…
「教会の司祭様!?」 「どうしてここへ?」 「まさかパンを……?」
司祭「この店に“パンを踏む娘”とやらがいると聞いたのだが……」
娘「はいはーい! あたしに何か御用?」
司祭「君は……たしかにパンを踏んでいるのか?」
娘「はい、踏んでます!」
司祭「ぬうう、悪びれもせず……なんという冒涜者! 許せん!」
司祭「火あぶりにしてくれようぞ!」ガシッ
娘「な、なにすんの!」
父「待って下さい! 娘が何をしたというんです!」
司祭「パンを踏んだ……これすなわち、神への冒涜!」
司祭「この娘だけでない……この店ごと天罰を喰らわせてくれるわ!」
娘「ちょ、ちょっと待ってよ! あたしは冒涜なんかしてない!」
司祭「往生際が悪いぞ」
娘「冒涜してるかどうか、あたしがパンを踏むところを見てよ!」
娘「もしそれで冒涜だと感じたら、どうしてくれてもかまわないから!」
司祭「よかろう」
司祭(ふん、どういう踏み方をしようが、火刑にすることに変わりないがな!)
娘「お父さん、パンを!」
父「おう!」サッ
娘「いくよっ!」
フミッ
司祭「……!」
司祭(こ、これは……ッ!)
司祭(なんという優しく包み込むような踏みつけ……)
司祭(たとえるならそう、野に咲く花を潰すのではなく、保護するかのような……)
司祭(幼い頃、私を抱っこしてくれた母親を思い出す……)
司祭(見ろ、あのパンを! 踏まれたとたん、明らかに輝きが増しているではないか!)
司祭(これは冒涜などではない……愛だ!)
司祭(愛以外の何物でもないッ!)
司祭「くううう……!」
娘(え、泣いてる!?)
娘「あの……よかったらこのパンどうぞ」
司祭「いただこう!」パクッ
司祭「う、うまいっ!」
司祭「ただでさえ美味のふんわりとしたパンが、踏みつけによって更なる高みへと引き上げられ――」
司祭「これはまさに……神の味!!!」
司祭「うおおおおおおおおっ!」バクバクムシャムシャ
娘「あーあー……」
母「一斤丸ごと食べちゃったわ」
父「もしかして飯食べてなかったから不機嫌だったのかな」
司祭「ありがとう……ありがとう……」グスッ
娘「じゃあ、はい」サッ
司祭「なにこの手」
娘「お金払って」
司祭「え、金取んの!?」
娘「当たり前でしょうが!」
司祭「うむむ……ほれ」チャリン
娘「毎度あり~!」
ある日――
娘「ルンル~ン、買い出し終了っと」
娘「ん、あなたは?」
ドM男「ボクはドM男さ……」ハァハァ
娘「ドM……!」
ドM男「君のことは知ってる。何かを踏むのが得意なんだろう? ボクを踏んでくれないか?」ハァハァ
娘「……分かった、いいよ」
ドM男「おおっ!」
娘「じゃあ、踏むよ」フミッ
ドM男「女王様ァ~~~~~~~~~~!!!」
ドM男「――――!」
ドM男(いや、違う……)
ドM男(この優しく包み込むような踏みつけは……女王様じゃない!)
ドM男(聖母様だ!!!)
娘「えい、えい」フミフミ
ドM男(嗚呼……。踏まれるほど……心の歪みが矯正されてく……)
元ドM男「ありがとう」スッキリ
娘「え」
元ドM男「君のおかげでボクは真人間に戻れた……真っ当に生きるよ! それじゃ!」シュタタタッ
娘「なんだったの一体……」
―パン屋―
ワイワイガヤガヤ…
娘「さあさ、いらっしゃーい!」
母「パンはいかがですかー!」
ワイワイガヤガヤ…
主婦「おいしいわ~」
農民「労働で疲れた体にはこのパンが一番!」
司祭「おいひぃ~! 口の中にパン汁がひろがりゅぅぅぅぅぅ!」
……
娘「うーん、今日はいつもよりお客さん少ないね」
母「そうね……」
父「ま、たまにはこういう日もあるさ」
少年「おーいインゲル!」タタタッ
娘「どしたの?」
少年「向こうに新しい店ができたんだ! 今日からオープンしてる!」
娘「なんの店?」
少年「おにぎりやおはぎを売ってる店だ! 大繁盛してるぜ!」
娘「おにぎりやおはぎ……ってことはお米か。うちのライバルじゃない!」
少年「どうする?」
娘「もち、敵情視察よ!」
―ライバル店―
ワイワイガヤガヤ…
「このおはぎうめえ!」 「おにぎりおいしいわ!」 「一つください!」
少年「な?」
娘「むうう……」
司祭「やっぱおにぎりは梅干しだよな~」モグモグ
娘「あーっ、司祭さん! なんでこの店にいるの!」
司祭「あ、いや、これは……」
娘「うちのパンを食べずに浮気するなんてひどい……!」
司祭「ごめんよぉ……」ウルッ
娘「なーんてね。おいしそうじゃない。こりゃあ予想以上に強敵みたいね」
少年「あれがこの店の看板娘だ」
娘「あたしと同じぐらいの女の子じゃない!」
和服娘「いらっしゃいませ」
娘(……可愛い)
和服娘「もしかして、貴方が“パンを踏む娘”でおなじみのインゲルさん?」
娘「ええ、そうよ。あなたは?」
和服娘「私は……“米を揉む娘”といわれておりますの」
和服娘「この店の商品は全て、私が揉んだり握ったものですのよ」
娘「!」ゾクゾクッ
娘(血が……騒いできたわ!)
和服娘「どうやら私を見て、血が騒いできたようですね」
娘「!」
和服娘「私もです。全身の血が沸き立つような感触ですわ」
娘「すました顔して、結構ヤンチャなのね」
和服娘「いかがでしょう? 私とあなた、一つ勝負するというのは?」
娘「望むところよ!」
少年「種目はやっぱり……料理勝負かぁ!?」
和服娘「料理勝負? ご冗談を」
和服娘「お米とパンで勝負して、一体どうするというのでしょう」
和服娘「よほど実力差がない限り、審査員がご飯派かパン派かで勝負は決まってしまいますわ」
娘「正論だわ……!」
少年「じゃあ、なにで勝負すんだよ!」
和服娘「女同士の戦いといったら……やはりこれでしょう」モミッ
娘「あっ……」
少年「な、インゲルの胸を……!?」
和服娘「うふふふ……」モミモミ
娘「あっ、ちょっ……んっ……」
娘(き、気持ちよくて……とろけちゃいそう……)
少年「インゲルッ!」
和服娘「……」モミモミ
娘「んっ……ああっ……」
娘(悔しいけど、あたしの負――)
和服娘「……」パッ
娘「?」
少年「やめた?」
和服娘「負けました……!」ガクッ
娘「なんで!?」
和服娘「だけど、私もまだまだ成長途中!」
和服娘「次こそ勝ってみせます! 覚えておいて下さい!」タタタタタッ
娘「……」
少年「やったなインゲル! お前の勝利だ!」
娘「う、うん……」
娘(なんかよく分からないけど、今揉まれたせいでまたおっきくなっちゃいそう)
それからというもの――
少年「インゲルー、遊びに行こうぜー!」
和服娘「インゲルさん、私もいますわよ!」
娘「はーいっ!」
娘「今日は何する?」
少年「鬼ごっこでもやろうぜ!」
和服娘「私、負けませんわよ!」
タタタタタッ… タタタタタッ…
そんなある日――
少年「大変だ大変だ!」
娘「どうしたの?」
少年「王様を狙ってたテロリストがついに捕まったんだってよ! しかもこの町で!」
娘「えっ、ホント?」
少年「見に行こうぜ!」
娘「行く行く!」
ワイワイガヤガヤ…
憲兵「さあ、大人しくしろ!」
テロリスト「ククク……」
憲兵「何がおかしい!?」
テロリスト「一ついいことを教えてやろう」
憲兵「?」
テロリスト「俺はこの町のどこかに……地雷を埋めた!」
憲兵「な、なんだと!?」
憲兵「どこだ、どこに埋めた!?」
テロリスト「言うわけねえだろ!」
テロリスト「もちろん、目で見て分かるような埋め方はしてないぜ」
テロリスト「いったい誰が踏むか楽しみだぜ! ヒャハハハハハッ!」
憲兵「こいつ……!」
ザワザワガヤガヤ…
憲兵(こいつを吐かすにしても時間がかかる……その間に誰が踏んでしまうか分からん!)
憲兵(どうする……どうすればいいんだ!?)
娘「憲兵さん!」
憲兵「君はたしかパン屋の……」
娘「地雷はあたしが探すわ!」
憲兵「君が!?」
娘「あたし、足の感覚には自信あるから!」
憲兵「わ、分かった……やってみてくれたまえ」
娘「よーし、靴を脱いでと」ヌギッ
娘「……」スタスタ
娘(全神経を足に集中させるの……)スタスタ
娘(そうすればきっと分かるはず……地雷の在り処が!)スタスタ
娘「……!」ピクッ
娘(あった……!)
娘「ここよ! ここだわ!」
憲兵「おおっ、本当か!」
憲兵「さっそく処理を――」
娘「いえ、この地雷……ちょっと処理が難しいかもしれない。掘り返そうとしたらすぐ爆発しそう」
娘「それにちゃんと人が踏まなきゃ、爆発してくれそうにないわ」
憲兵「そこまで分かるのか! じゃあどうやって処理を……!」
娘「決まってるでしょ?」
娘「あたしが踏むわ」
憲兵「な、なんだとォォォォォ!?」
憲兵「君みたいな女の子にそんなことさせられ――」
少年「インゲルなら安心だ!」
和服娘「頼みましたよ、私の好敵手」
父「いつものようにな」
母「頑張ってね、インゲル」
憲兵「ええええええ!? 決死の作業をしようとしてるのに軽い!」
司祭「やったれぇ、インゲルッ!」
憲兵「司祭様まで!?」
娘「じゃあ、えいっ!」
憲兵(まるで朝の散歩に出かけるような軽やかなステップで地雷を……)
ドォォォォォォンッ!!!
憲兵(地雷の爆発が……女の子を避けているッ!)
憲兵(まるで海を割ったモーセのように……ッ!)
娘「いい子ね」
少年「やったぁ!」
和服娘「私と互角ならば、このぐらいできなくてはね」
父「よくやった!」
母「よかった……ちょっと心配だったわ」
司祭「いよっしゃあああ! さっすがインゲルだぜェェェェェ!!!」
憲兵「いや、もう……なんかすげェわ」
ワアァァァァァ……!
こうしてインゲルは一躍ヒーローとなった。
しかし、やることは変わらない。
父「インゲルぅ!」
娘「はーいっ!」
父「焼けたぞっ! パンを踏めぇっ!」
娘「ほいさっ!」
娘「さあ、今日もはりきってパンを踏むわよ!」
―おわり―