妹「わたしもう限界……」
妹友「へえ」
元スレ
妹「誰かうちの兄様をとめて」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1575635687/
教室
妹「なんなのあの人。何考えてるのか全然分からないんだけど」
妹友「ふーん」
妹「ね、聞いてくれる?」
妹友「いいよ」
妹「嘘だね絶対嘘だ。だってめっちゃスマホ弄ってるもんね。でもいいや話す」
妹「こないだアメリカ旅行行ったんだけどね、兄様と。なんかめっちゃ疲れてさ」
妹「だってそもそも旅行っていうか拉致同然に連れていかれたもんね」
妹「学校あったのに」
妹「で、とある航空宇宙局の施設見学したの」
妹「どこってまあ想像通りだろうけど伏せさせてよ」
妹「いろいろ見ちゃいけない資料なんか見たりしてさ」
妹「許可なんてないよ。だってそもそも不法侵入だもん」
妹「忍び込んで盗み見て見つかって逃げてきた」
妹「なんとかいう天才が作ったスーパー警備ロボに追い回されてさ」
妹「なんかかなり騒動になったし正直もうだめかと思った」
妹「この歳で前科つくところだった……」
妹「あと地元の地下賭博場ぶっ潰して路地裏片っ端から掃除して、お金尽きたから飛行機ジャックして帰ってきた」
妹「何でこんなことしてるんだろう……」
妹「わたし悪くない」
妹「なぜか超人目指してる兄様が全部悪い」
妹「……ごめんちょっと責任転嫁した。やっぱりいつも流されるわたしも悪い」
妹「いい加減ケジメをつけなきゃとは思ってる。うう……」
妹「まあそんな感じ」
妹友「そ」
妹「どうせ聞いてなかっただろうけど聞いてくれてありがとうって言っとく」
妹友「超人でなんで宇宙局?」
妹「あ、聞いてた。いや、分かんないよ。宇宙の神秘と超人ってイメージ的に近いんじゃない?」
妹友「は?」
妹「ごめんそれ分かるけど傷つく……」
妹「とにかく兄様は常識では測れないんだよ」
妹友「へえ」
妹「……何してんの?」
妹友「タヌキ」
妹「いい画像あった?」
妹友「大量」
妹「よかったね」
妹友「都会のタヌキ激熱」
妹「幸せそうでなによりだよ。うん、ホント」
妹「はあ……これからまた活発になるんだろうなあ兄様」
妹友「寒いけど?」
妹「逆境に燃えるタイプ。超人だから」
妹友「意味不明」
妹「だって兄様だし……」
妹友「甘やかすからつけあがる」
妹「他人事だからそんなこと言えるんだ」
妹「あ。兄様から呼び出しだ」
妹友「ふーん」
妹「ヤだなあ行きたくないなあ……」
妹友「でも行くと」
妹「だってほっとくと何するかわかんないし」
妹友「ケジメは?」
妹「……いつか時が来たら」
妹友「だっさ」
妹「うわ刺さる……じゃあね」
妹友「ん」
駅前
妹「この辺かな。兄様どこだろ」
?「妹よ」
妹「誰?」
?「なんと。兄様の顔を見忘れたか」
妹「だって顔見えないし」
覆面「兄様は悲しい」
妹「わたしも別の意味で悲しい……」
妹「なんで覆面してるの。取ろうよ」
覆面「嫌だ。寒い」
妹「着ればいいじゃん。服をさ。どうしてTシャツ短パンなのこの時期に」
覆面「バランスだ」
妹「なにそのくそくらえな感覚……」
覆面「願掛けでもある」
妹「何の?」
覆面「誘拐成就」
妹「へえ」
覆面「では行くぞ」
妹「や、待って」
覆面「なんだ?」
妹「まず覆面取ろう?」シュポン!
兄様「ぬ」
妹「じゃあ改めて。誘拐って?」
兄様「人を連れ去ることだ」
妹「知ってるよ。そうじゃなくて」
兄様「目的を果たすために人をさらうのだ」
妹「……」
兄様「では行くぞ」
妹「待ってってば」
兄様「なんだ」
妹「分かんないよ。兄様がちょっと人よりおかしいのは知ってたけど犯罪者だったっけ?」
兄様「意味の分からんことを言う。兄様は兄様だ」
妹「だから危ないんだよ」
兄様「兄様は超人になるためだったら何でもするぞ」
妹「出た……」
兄様「ということで人をさらうのだ」
妹「そこが分かんないんだよ……」
兄様「人をさらって超人になるのだ。何も難しいことはない」
妹「そうかなあ……」
兄様「というわけで行くぞ」
妹「もういいよ分かったよ……」
兄様「ぶえっくし!」
妹「いい加減着替えよう?」
中学校前
妹「あれ?」
兄様「どうした?」
妹「わたしの学校?」
兄様「それが?」
妹「まさか誘拐のターゲットって……」
兄様「うむ」
妹「ええ!?」
妹「だめだって! 未成年誘拐とか何考えてんの!」
兄様「緻密なプラン」
妹「常識を組み込んで!」
兄様「常識人が誘拐などするか」
妹「それでいいんだよ!」
兄様「だが兄様は正気だ。それよりターゲットが現れたぞ」
妹「え」
妹友「……」ポチポチ
妹友「ろくなタヌキがない……」
妹「……友ちゃんじゃん」
兄様「いかにも」
妹「友ちゃんがターゲット?」
兄様「製薬会社社長の一人娘だからな」
妹「それは知ってるけど……お金目当て?」
兄様「製薬会社なら超人になるための薬の一つや二つ作っているものだろう」
妹「兄様ってバカ?」
兄様「そろそろターゲットが罠にかかるぞ」
妹「え?」
コロコロコロ……
妹友「あ。タヌキのぬいぐるみ」
妹友「しかも地域限定版」
妹友「こら待て待て」
ブオーン……キキィッ!
妹友「!」
覆面男「乗れ」グイ!
バタン! ……ブオーン!
妹「友ちゃん!」
兄様「……」
妹「兄様、友ちゃんが!」
兄様「うむ」
妹「ていうか兄様のせいか! さっさと計画を中止して!」
兄様「それは無理だ」
妹「なんで! ていうか何してんの!」
兄様「罠をな。調べてる」
妹「え? 今のじゃないの?」
兄様「ここに落とし穴があったんだが埋まっていてな」
妹「へ?」
妹「ど、どういうこと?」
兄様「少し離れていた間に罠が使えなくされていたようだ」
妹「話が飲みこめないんだけど……」
兄様「俺の計画を利用してターゲットを横からかっさらった者がいるということだ」
妹「ええ!?」
妹「な、なんで? どうして!?」
兄様「超人化をもくろんでいる者が俺の他にもいるのだろう」
妹「兄様みたいのが二人もいてたまるか! え、でもそれじゃあ友ちゃんは……?」
兄様「本当に犯罪者の手に落ちてしまったことになるな」
妹「そんなあ!」
妹「け、警察に……」
兄様「バカか。やめろ」
妹「兄様にだけは言われたくない!」
兄様「警察は役に立たん。この俺の裏をかくほどの手練れだぞ」
妹「普通は頼るでしょ警察!」
兄様「俺に任せろ」
妹「正気!?」
兄様「兄様はいつだって真剣だよ。お前のためなら命だって捨てられる」
妹「……っ」
兄様「信用してくれ」
……
兄様「独自に街に仕掛けておいたカメラのおかげで車両の追跡は難しくなかったな」
兄様「やはり日頃の備えというのは大事だ」
兄様「だがいかんせんさっき我が妹に殴られた頬が痛い」
兄様「妹よ、なぜいきなり殴った」
妹「うるさい」
兄様「まあいい。それよりもあれを見ろ」
妹「……何だろ。工場跡?」
兄様「元は雑貨コンテナなんかを収容していた廃倉庫の一つだ」
妹「友ちゃんあそこに捕まってるの?」
兄様「近くに誘拐車両も見つけたからな。間違いない」
妹「じゃあ早く行こうよ!」
兄様「駄目だ。監視の目が多すぎる」
妹「……ないよ?」
兄様「倉庫を周回するように四つのドローンが飛んでいる。目立たないようにだが見張りもいるな」
妹「じゃあどうするの?」
兄様「それはこれから考える……が」
妹「なに?」
兄様「あの見張り、何か気になる」
妹「何が?」
兄様「前にどこかで見たような気がするのだ」
妹「気のせいだよ」
兄様「何故言い切れる」
妹「兄様は頭おかしいけど記憶力はずば抜けてるから」
兄様「それもそうか。では行くぞ」
妹「え、はや」
兄様「既に五パターンほど救出プランを立てた。時間はかけずに終わらせる」
妹「兄様が頼もしいとか怖い」
兄様「妙なことを言うな。兄様はいつだって頼もしいぞ」
妹「ちょっと考えたけどそれはない」
兄様「さて、これを使おう」
妹「何それ」
兄様「某ゲームにボムチュウなるアイテムがある」
妹「うん」
兄様「それだ」
妹「ふざけるな」
妹「バカなの!? バカなの兄様!?」
兄様「そんなに気道を絞めたら兄様落ちてしまうぞ」
妹「落ちろ! 地獄に! 友ちゃんを殺す気か!」
兄様「そんなわけなかろう。人質はちゃんと無事なように計算してある」
妹「じゃあいいか、とはならないでしょバカ!」
兄様「だが間違いはない。このノートの計算式を見てくれ。見てくれれば分かる」
妹「分かんないよ!」
兄様「む。確かに。数値が間違ってるな」
妹「……つまり?」
兄様「危ういところだった」
妹「死ね!」
……
妹「ここは?」
兄様「かつての従業員用出入り口だ」
妹「こんなに近寄っても大丈夫なの?」
兄様「哨戒ドローンにはダミー映像しかつかませないようにしたし地上の見張りはここにはいない」
妹「じゃあ早く入ろうよ」
兄様「待て。こういう扉は電子錠でロックされているものだ」
妹「開かないの?」
兄様「いいや開く。兄様の力でな。見ろ」
妹「何その……USBメモリ?」
兄様「兄様手製の万能ウイルスが仕込んである」
妹「それで開くんだ」
兄様「そうだ」
妹「でも差すとこないよ?」
兄様「まあな」
妹「は? ……おっとと」
兄様「とりあえずそれは持っててくれ」
妹「?」
兄様「てい」
ガシャーン!
妹「……」
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
兄様「とまあ、こんな感じだ」
妹「……警報みたいなの鳴ってるけど」
兄様「本来ならいろいろ苦労してウイルスを流し込むものだが時間がなかった」
妹「じゃあさっきの下り必要?」
兄様「無論必要だ」
妹「嘘だ絶対面倒くさくなったんだ」
兄様「偏見は良くない。さあ行くぞ。ここからは時間との勝負だ」
妹「はあ……」
兄様『続け! 兄様が開く活路に沿って!』
妹『あんまり気が進まない!』
?「ようやく踏み込んできたな……」
?「見てろ、必ずあの時の屈辱を晴らしてやるぞ!」
妹「ぜえ、はあ……」
兄様「止まるな妹よ。止まればハチの巣だ」
妹「日本にいて撃たれる経験するなんて思わなかった……見張りの人が撃ってきたの、あれ実弾だよね?」
兄様「うむ、物騒なことだ」
妹「しれっと兄様も撃ち返してたのは見なかったことにする……」
兄様「賢明だな」
妹「結構深くまで来た?」
兄様「そうだな。人質がいるならばこのあたりだ。そして……」
妹「そして、なに?」
?「誘拐犯がいるなら同じくこのあたり、だよね」
妹「!?」
?「ようこそ僕の復讐のステージへ」
妹「誰!?」
?「ひどいなあ僕の顔を忘れるなんて。僕は君たちのことを一日たりとも忘れたことはなかったのに」
妹(……男の子?)
兄様「記憶にないな」
?「本当に? これっぽっちも?」
兄様「妹のお墨付きの記憶力だ。間違いない」
?「はは、まあそりゃそうか。君たちの方は僕の顔を見てないしね」
兄様「……まさかお前はあの時の天才か?」
妹「誰?」
兄様「アメリカの研究旅行の際に俺たちを追い回した警備ロボ、その製作者だ」
天才「お、やるぅ!」
妹「はい?」
兄様「先ほど撃ち合った見張り共、あれも全部ロボットだな?」
天才「そうだよ。動作に見覚えでもあった?」
兄様「いいや勘だ。はるかにバージョンアップされていてはさすがにな」
天才「そうさ、君たちに復讐するために全てを改良に注ぎ込んだんだ」
妹「え。なんで恨まれてるの? わたしも?」
天才「君たちがさんざん暴れてくれたおかげで僕のメンツが丸つぶれになったんだよ。役に立たないロボの設計者として晴れてクビになったのさ」
兄様「災難だったな」
天才「うるさい!」
妹「兄様……」
天才「おまけに憂さ晴らしに立ち寄った地下賭博場はなぜか潰れてたし」
天才「だったら路地裏で酔いつぶれてみようかと思ったらちょうど清掃されてぴかぴかで居づらかったし」
天才「旅に出ようと乗った飛行機はジャックされるし!」
天才「それもこれも全部お前らのせいだ!」
兄様「何でもかんでも人のせいにするのは良くないぞ」
妹(黙っとこ……)
天才「だがこの苦痛の日々も今日で終わる! くらえ!」
ロボ「ピピッ!」バッ!
兄様「!」
ズガッ!
天才「……」
ロボ「ピ……ガ……」
天才「不意打ちで倒せないとはね」
兄様「来るのは分かっていたからな。流れ的に」
天才「チッ!」バッ
兄様「……逃げたか。妹よ、追うぞ」
妹「え。やだよ」
兄様「……なぜだ?」
妹「いや、だって事の元凶って兄様じゃん。兄様が変なことしなきゃこんかことにならなかったじゃん」
兄様「それが?」
妹「それが?って言えちゃうのが駄目だよ。わたしもうついていけないよ」
兄様「……」
妹「いつかは言わなきゃて思ってた。兄様、あなたの妹はもう限界です」
兄様「友だちはどうする」
妹「ここを出て警察を呼ぶ」
兄様「……。賢い選択だな」
妹「兄様」
兄様「だがお前らしくない答えだ。じゃあな」
妹「……」
妹「わたしらしいってなにさ……」
……
――ドサ!
兄様「ぐ……!」
天才「ふふふ、ははははははっ!」
ロボs「ピピピ!」
天才「どうだい見たか僕の最高傑作の力を!」
兄様「最高、傑作……」
ロボs「ピピー!」
天才「複数体のロボをリアルタイムに高速リンクさせて死角を完璧になくすんだ!」
天才「連携もばっちり! データ処理能力も倍増! 君に勝ち目はないよ!」
兄様「要は単なる数のごり押しか……最高傑作が聞いて呆れる」
天才「はは、でもその下策に君は敗れるのさ」
天才「さてロボ共、そのゴミを連れてこいよ」
ロボ「ピッ!」
兄様「つ……」
天才「おい、今どんな気分だ? あの時の僕よりは悪くないはずだよな?」
兄様「そうだな」
天才「……?」
兄様「一つ聞く。人質は無事か?」
天才「知ってどうするんだ」
兄様「妹の友人なものでな」
天才「ふうん……? 一応無事だよ。この奥のコンテナの中につないである」
兄様「そうか、なら安心だ」
天才「さっきからなんなんだ!」
兄様「うちの妹はな」
天才「あ?」
兄様「小さい頃から怖がりでな。体も弱かったし正直頭も悪かった」
天才「何の話だ?」
兄様「不出来な妹だ。だが俺によく懐いた。この愚か者にだ。だから決めた」
天才「は?」
兄様「妹は俺が守る。妹が大事にしているものも全てだ。人間をやめてでも守る」
天才「……な」
兄様「だから俺は超人だ。覚悟しろ。これはちょっと痛いぞ」
天才「爆弾……ッ」
兄様「否。ボムチュウだ」
兄様「地獄に付き合え!」
天才「貴様ァ!」
ロボs「ジ……ッ!」
兄様「お」
天才「!?」
ロボs「ガガガガガ……」プシュー
天才「い、一体なにが……」
妹「……」
兄様「おお来たか妹よ」
天才「君は……」
妹「ごめん、これ使った。差すとこあったし」
天才「USBメモリ?」
天才「まさか……」
妹「うん、ウイルス。兄様が倒したロボにちょっと失礼してみた」
天才(! しまった……リンク!)
兄様「自慢の武器があだになったな」
天才「そんな……」
兄様「ありがとう妹よ。助けに来てくれるとは思わなかった」
妹「兄様のことだからどうせさっきの聞こえるように言ってたでしょ」
兄様「さてなんのことだか」
妹「まあいいよ。それより……」
天才「ひっ……」
妹「……」ツカツカ
天才「く、来るな!」
妹「君」ガシ!
天才「あぅ……ゆ、許して」
妹「はあ……そんなに怖がらないでよ」
天才「え?」
妹「ちょっと話相手になってくれない?」
……
妹友「それで? その誘拐犯と兄の悪行についてひたすら愚痴りまくったと」
妹「うん。今すごく満ち足りてる……また今度悪口大会開く」
妹友「ふーん」
妹「あ、ごめん。友ちゃんにはあまり気分いい話じゃないよね。結局逃がしちゃったし……」
妹友「別に。わたし特に実害なかったし」
妹「でもごめん」
妹友「あんたのいいところだから許すよ」
妹「うん……うん?」
妹友「だってわたしみたいなのの友だちやってくれてるのはあんたくらいだもんね」
妹「???」
妹「え、あれ? 友ちゃんがデレた……?」
妹友「まあ、そういうことで。わたしこれからタヌキあるから」
妹「あ……行っちゃった」
妹「ていうかタヌキあるってなに」
妹「……」
妹「はあ……」
妹「兄様?」
兄様「なんだ?」
妹「なんでも。っていうかいたんだ」
兄様「まあな」
妹「……兄様が兄様になってもう十年だっけ」
兄様「長い時間が過ぎたものだ」
妹「お兄ちゃんじゃダメなの?」
兄様「超人には兄様がふさわしい」
妹「まあいいよ。今日はどこ行く?」
兄様「珍しく乗り気だな」
妹「わたしが行かないと無茶するでしょ」
兄様「いかにも」
妹「じゃあ行かなきゃね……はあ」
妹(兄様は誰にも止められない)
妹(だからわたしが見張っているしかないようだ)
おわり