2 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 13:58:19.36 nkcbCPWbP 1/53


「おーっす唯」

「あ、りっちゃん、おは・・・よ・・・う」

「唯?」

「りっちゃ・・・ネジ・・・背中」

「なんだ。ネジが止まりそうなだけか。巻いてやるから背中出してみ」

キリキリキリキリ…

「ふう!治った!」

「まったく。朝ちゃんと巻かないとだめだろ?」

「ごめーん。今日は憂が体調悪くて」

「この年になって一人で自分のネジ巻けないのかよ・・・子供だな唯は」

「えへへー」


3 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 14:00:56.98 nkcbCPWbP 2/53


「お礼にりっちゃんのネジも巻いてあげるね!」

ゴソ

「あ、ちょっと!じゅうぶん巻いてあるからいいよ」

「まあまあ。私に任せなさい・・・あ。ネジ黄色い!」

「あちゃーばれちゃったか」

「ネジ染めは校則で禁止されてるのに!りっちゃん悪い子だなあ」

「いーじゃんこのくらい。最近の高校生はネジ染めくらい普通にやってるって」

「もー。巻くよ?」プンプン

ギリギリギリ…

「うわ、かたい!」

「それだけパワフルなんだよ私のネジは!」


6 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 14:18:07.24 nkcbCPWbP 3/53


「っていうことがあったんだよ~」

「まったく律は・・・」

「澪。私にそんなこと言っていいのかあ?」

「へ?」

「小さい頃澪のネジをいつも巻いてあげてたのは誰だったかなあ?」

「な・・・//」

「その話詳しく聞かせて!」

ガタン!


9 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 14:28:46.06 nkcbCPWbP 4/53


「ムギ先輩目がマジです!」

「別に、小さい頃はお互いのネジをよく巻いてたってだけだよ。
  小学生ぐらいだとよくある話だろ?」

「私はずっと執事とかメイドさんに巻いてもらってたから、そういうのうらやましいわ」

「そ、そうなんだ」

「唯先輩は?」

「私はいつも和ちゃんに巻いてもらってたなあ」

「やっぱりそうか。和のネジ巻きは正確だもんね」

「うん。お母さんよりうまかったよ!
  だから朝わざとあまり巻かないで学校行ったりしたなあ。和ちゃんにたくさん巻いてもらえるから」

「ちょっと澪?和のネジ巻きは正確って、和に巻いてもらったことあるのかよ?」

「うん。体育の時に予想以上に回っちゃってさ。それでね」

「ふ~ん・・・」

「あらあら」


11 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 14:33:14.36 nkcbCPWbP 5/53


「じゃあ私がムギちゃんのネジを巻いてあげるよ!」

「え?いいの?」

「うん!」

「ありがとう。友達にネジ巻いてもらうの夢だったの」

「じゃあ服まくるね~」

ペロ

「こ、これは・・・!」

「すげー金ピカだ!」

「ゴージャスだな・・・」

「恥ずかしいわ・・・//」

「染めたの?」

「ううん。これは生まれつきよ」

「やっぱり凄い家系なんですね」


12 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 14:53:20.17 nkcbCPWbP 6/53


「じゃ、じゃあ巻くよ」

「お願いします♪」

「よいしょっと」

キリキリキリ

「おお!すごいなめらかな巻き心地!」

「いいグリス使ってるんだなあ」

「良かったら、私の使ってるグリス今度みんなにも持ってこようか?」

「え、いいのか?」

「ええ♪」

「はい、巻き終わり」

「ありがと、唯ちゃん」



14 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 15:21:48.38 nkcbCPWbP 7/53


「なんかネジ巻きが楽しくなっちゃった!
  誰か巻いてほしい人いない?」ウズウズ

「小学生かよ」

「やっばりここは・・・」チラ

「!」

「あずにゃ~ん♪」ダキッ

「は、離してください//巻かなくで平気ですから!」

「だめ~。逃がさないよー」ガサゴソ

「あぁん・・・!」

「ふお!どうしたのあずにゃん?」

「私くすぐったがりなんです!特にネジのあたりは敏感なんですよ」

「ほほーう。じゃあ優しく巻いてあげるね」

「そういう問題じゃ・・・ぁん!」


15 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 15:23:45.63 nkcbCPWbP 8/53


「あずにゃんはネジも小さくてかわいいね~」

キリキリキリキリ

「あ、あう//ほっといてください・・・//」

「はい、終わり♪」パッ

「あっ」

「あれ?もっと巻いてほしかった?」

「そそ、そんなわけないです!」

「うふふ」

「唯。もう満足したか?そろそろ練習するぞ」

「ストップ澪ちゃん!まだ私が巻いてない人がいるよ~?」

「い、いいよ私は!」

「確保!今だ唯!」ガシッ

「律!はなせー!」

「ナイスりっちゃん・・・それでは」ガバッ

「ちょ・・・//」


16 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 15:25:49.17 nkcbCPWbP 9/53


「澪ちゃんのネジは相変わらず黒くて綺麗だなあ」

「そ、そうかな」

「心が黒いから。なんちゃって」

ゴツン!

「馬鹿!」

「いてて、ごめん」

「じゃあ巻くよ~」

キリキリキリキリ

「本当は律に巻いてほしいんだけどな・・・」

「ん?」

「なんでもない!」 

ゴツン!

「なんで殴るのよ・・・」

キリキリ… ピタ

「はい、澪ちゃんのも巻いたよ」


17 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 15:30:39.65 nkcbCPWbP 10/53


「あ、ありがと。じゃあそろそろ練習するぞ」

「ですね!」

「もうちょっと休もうよ~」

「言うと思った・・・」

「まあこれが私の役目だしね」

「ムギちゃん、お菓子はないの?」

「ごめんなさい。昨日は祖父の葬式だったから忙しくて準備できなかったの」

「へー」

「ムギのおじいさんはもう寿命なんだ」

「うん。意外と速くてびっくりしたわ」


18 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 15:35:12.50 nkcbCPWbP 11/53


「そんなことより、お菓子がないんならさっさと練習しましょうよ」

「そうだな、梓の言う通りだぞ」

「へいへい、わかりましたよー」

「あ、ギー太忘れた」

「えっ」

「今、何と?」

「ギー太、忘れちゃった。えへへ」

「あらら・・・」

「おいおい・・・」


19 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 15:46:47.25 nkcbCPWbP 12/53


「っ・・・!」

「ごめんね~」テヘ

「いい加減にしてください!!!」

「うわ、キレた!」

「せっかく早く練習できると思ったのに!忘れるとは何事ですか!それでも軽音部ですか!」

ギュオンギュオン!

「あ、梓?ネジがすごい勢いで回ってるぞ・・・?」

「そんなに回しちゃもたないわよ?」

「あずにゃん」ギュ

「あ・・・」

「いい子いい子♪」ナデナデ

「そんなんで収まるわけ・・・」


21 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 15:54:00.82 nkcbCPWbP 13/53


「・・・//」ポワワー

「おさまった!」

「ネジも通常の速度に戻ったな」

「こ、今回は特別に許します//そのかわり唯先輩はボーカルに集中してくださいよ?」

「うん!ありがとうあずにゃん!」

「でもなんでギター忘れたんだ?唯は天然でもギターは忘れないことに定評があったのに」

「朝も言ったけど憂が体調悪くてさー。たぶん心配でギター忘れちゃたんだと思うな」

「どんな具合なの?」



22 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 16:08:07.88 nkcbCPWbP 14/53


「ネジの調子が変なんだ。たくさん巻いてもすぐ止まっちゃうんだよ」

「ちゃんと手入れしてるのか?」

「憂は出来た子だから、そういうのはちゃんと自分でやってるよ」

「ゼンマイの故障かもな」

「でもネジの故障って地味に面倒だよな」

「病院で診てもらえませんもんね」

「ふえ?そうだったの?」

「唯ちゃんの家族は今まで故障したことないの?」

「ないと思うな~」



24 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 16:23:43.76 nkcbCPWbP 15/53


「じゃあ取り換えも経験なしかー」

「中1の時だっけ?律が3階から落ちて取り換えたんだよな」

「あーそうらしいね。前の私は馬鹿だよなー」

「今のも充分馬鹿だから安心しろ」

「おい!」

「憂、早く治るといいなあ」

「ネジの故障は放っておいても治りませんよ」

「自力でなんとかならないんなら憂ちゃんを取り換えたほうが手っ取り早いんじゃない?」

「そうかもな」

「え、嫌だよ。そんなの」



25 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 16:41:15.44 nkcbCPWbP 16/53


「嫌ってお前・・・」

「なんで嫌なの?」

「だって、取り換えちゃったら今いる憂はどうなるの?」

「普通に廃棄されるんじゃない?」

「そんな、酷いよ・・・」

「何が酷いんですか?」

「もしかして、しばらく憂ちゃんがいなくなるのが困るんじゃないのか?」

「あーだからか。唯は家事できないもんな。でも今は取り換えなんて2、3日でできるだろ」

「そういう問題じゃないよ!」



35 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 19:06:06.75 nkcbCPWbP 17/53


「じゃあどういう問題なんだ?」

「だって、今の憂は死んじゃうってことだよね?」

「まあそういう言い方はあまりしないけど、そういうことかな」

「嫌だよ。生まれてからずっと憂と一緒に暮らしてきたのに、その憂が死んじゃうなんて」

「別に記憶ならだいたい複製されるから取り替えても思い出話だってできま」

「だからそういう問題じゃないって言ってるのに!!!」

「っ!」ビクッ

「ご、ごめんあずにゃん。いきなり怒鳴って」

「どうしたんだよ唯、お前・・・」

「まあまあまあまあまあまあ」

「6回」



36 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 19:11:16.47 nkcbCPWbP 18/53


「唯ちゃんは憂ちゃんが心配みたいだし、今日はこのへんにしない?」

「そ、そうだな。今日は解散にするか」

「ありがとう。ムギちゃん」

「いいのよ」

「あ、唯先輩。憂のお見舞いに行きたいんですけど」

「うん。いいよ。あずにゃん来てくれたらきっと憂、喜ぶよ!」

「私たちも行っていいか?」

「うんうん。来て来て」

「大勢で行って大丈夫?」

「大丈夫だよ~。みんなおいで~」

「じゃあお言葉に甘えて、私もお見舞いに行こうかな」


37 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 19:24:42.55 nkcbCPWbP 19/53


______________________________________

「ただいまー!ういー」

「おじゃましまーす」

ゾロゾロ

「ういー入るよ?」

ガチャ

「あれ、いない。朝は寝てたのに。リビングかなあ」

「リビング行くか」




38 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 19:29:25.47 nkcbCPWbP 20/53



「」

「あ、憂!!」

「掃除機持ったまま倒れてる・・・」

「ネジ止まっちゃってる。今巻いてあげるね!」

キリキリキリキリ…

「体調悪いのに家事やろうとして…」

「途中でネジが止まっちゃったのか」

キリキリキリキリ ピタ

「あ、お姉ちゃん。と、みなさん」

「ごめんね、憂。私、学校行かなければよかった」ポロポロ




40 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 20:21:34.81 nkcbCPWbP 21/53


「お姉ちゃん、ごめんね。お掃除だけでもやっておこうと思ったんだけど」

「健気な妹だなあ」

「憂ちゃんは自分のネジ巻けるよね?」

「はい。でもお掃除に夢中になってて止まりそうなの気付かなかったんです。
  こんな早く止まるって思わなかったし・・・」

「ういー。寝てなきゃだめだよう。ネジ止まりやすいんだから」

「うん、でも夕飯作らないと。それにみなさんにお茶も」

「そんなのいいって!私たち、憂ちゃんのお見舞いに来たんだから」

「そ、そうだったんですか。ありがとうございます」

「夕飯は私が作るよ!」

「え、お姉ちゃん大丈夫?」



42 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 21:22:50.63 nkcbCPWbP 22/53


「大丈夫・・・だと思う!」

「唯ちゃん、私でよければ手伝うよ」

「おお!ムギちゃんありがとう!」

「せっかくだし、私たちも手伝うか」

「ですね」

「おう!」

「みなさん、本当にありがとうございます・・・」

「いい友達を持ったよ~」

「さ、憂は休んでて」



43 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 21:36:54.61 nkcbCPWbP 23/53


――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ういー!ご飯できたよー」

「わあ。おいしそうなシチューだね」

「どうかな?」

パクッ

「おいしい!すごくおいしいよお姉ちゃん!」

「えっへへ。良かったあ。みんなで作ったんだ」

「いやー頑張った甲斐があったなあ!」

「お前はほとんど何もしてないだろ」

「まあまあ」

「こんなにおいしい料理を作ってくれて……あり……が……が…」

「憂?」

「……」



45 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 21:42:21.84 nkcbCPWbP 24/53


「あわわ、もうネジ止まっちゃったのかな。今巻くからね」

キリキリキリキリ…

「もう、か」

「早いですよね。明らかに」

「本当に治らない故障かもな」

キリキリキリキリ ピタ

「がとう。あれ?また私止まっちゃってた?」

「うん。びっくりしたよー」





47 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 21:56:30.51 nkcbCPWbP 25/53


「ネジを巻いてから止まるまでの時間がどんどん短くなってるみたい」

「大丈夫。明日は私がずっとついててあげるから!」

「だめだよ。もうすぐ学園祭でしょ?お姉ちゃんの部活邪魔したくないよ」

「でも、もう治らなそうじゃないか?」

「ちょっとりっちゃん」

「たとえば憂ちゃんが風邪ひいて、憂ちゃんのために部活休むなら仕方ないけどさ。
  今回はネジの故障だろ?憂ちゃんを取り換えれば済む話じゃん」

「確かにそうですね。それがいいかもしれないです」

「りっちゃん!憂の前でそんな話!」

「え?なんで私の前で話しちゃいけないの?私の交換の話だよ?」



49 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 22:08:28.71 nkcbCPWbP 26/53


「憂はいいの?交換したら今の憂は死んじゃうんだよ?」

「いいって言うか、取り換えってそういうものでしょ?」

「そ、そうだけど、そうじゃなくて、私は憂に死んでほしくないんだよ」

「なんで?」

「だって、憂が死ぬなんて想像したら悲しいもん」

「お姉ちゃん、なんで死ぬのが悲しいの?」

「だって、だって…うわああああん」

ダッ

「あ、お姉ちゃん!」

「ご、ごめんね憂ちゃん。私があんなこと言うから」

「いえ、律さんのせいじゃないですよ。
  死ぬことに関しては、お姉ちゃんは昔からちょっと変なんです」



50 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 22:24:54.71 nkcbCPWbP 27/53


「変って?」

「小さいころなんですけど、私とお姉ちゃんと和さんでよく公園に行ってたんです。
  それで、そこに野良猫が住みついててよく可愛がってたんですけど、
  ある日猫が交通事故で死んじゃったんですよ」

「うん。それで?」

「お姉ちゃんは、かわいそうかわいそうって泣いたんです」

「何がかわいそうなんだ?」

「憂ちゃんに聞いてもしょうがないだろ」

「それで私と和さんは、猫の死体が道路にあったら迷惑だと思って公園のごみ箱に捨てたんですけど」

「小さい頃から二人はしっかり者だったのね」




52 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 22:35:30.30 nkcbCPWbP 28/53


「そうしたらお姉ちゃんが怒って、そんなことしたらかわいそうだって。もう死んでるのに」

「へえ・・・」

「小さい頃から変わったやつだったんだなあ」

「で、でも、お姉ちゃんはすごく優しい人で!」

「ふふっ。わかってるよ。そんなことは」

「ちょっと変なところも唯先輩の魅力ですもんね」

「大丈夫よ憂ちゃん。私たちはそんなことで唯ちゃんを嫌ったりしないから」

「みなさん・・・お姉ちゃんはホントにいい部活に入ってくれました」ポロポロ

「へへ、泣くなって」

「あの……みなさんにお願いがあるんです」



53 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 22:46:02.99 nkcbCPWbP 29/53


「なに?何でも言ってみな」

「私を取り換えるのに協力してほしいんです。
  これ以上お姉ちゃんに迷惑かけたくありません」

「いいけど、どうやって?」

「取り換えは本人以外の肉親の許可がいるわよね?」

「はい。でも両親は海外に長期滞在だし、お姉ちゃんはあの調子なので……
  でも学生なら、教師の保証でも取り換えができるんです」

「なるほど、さわ子先生に」

「うん。軽音部のみんなは先生と親しいから」

「私たちがさわちゃんに憂ちゃんの取り換えの保証人になるように頼めばいいんだな。
  お安い御用だ!」

「すいません、お願いします。お姉ちゃんには内緒で」




55 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 23:10:39.86 nkcbCPWbP 30/53


「それにしても、唯はなんであんなに憂ちゃんに死んでほしくないんだろうな」

「不思議ね」

「うん、まるで……」

「なんですか?」

「いや、やっぱなんでもない」

「なんだよ!気になるだろー言えよ」

「で、でも」

「私も気になります」

「う、憂ちゃんがそういうなら言うよ?……唯が人とか動物が死ぬのを悲しむのって」

「うん」

「……まるで、人間みたいだよな」





58 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 23:21:14.01 nkcbCPWbP 31/53


「いや、何言ってるんだよ澪。人間じゃないだろどう見ても」

「わ、わかってるよ!//まるでって言っただろ?」

「でも……その例えは的を射てるかも」

「え?」

「私たちと人間の最大の違いってなんだと思う?」

「ネジがあるかどうか?」

「それもそうだけど、内面的なことよ」

「死……」

「?」

「人間は、”死”を恐れる……」

「そう。それが私たち人形との最大の違い」


59 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 23:27:37.76 nkcbCPWbP 32/53



「でも、お姉ちゃんは人間じゃないですよ!」

「ええ、わかってるわ。あくまで例えよ」

「やめてよムギ、ちょっと怖かったよ」

「澪は怖がりだなー。あ!」

「またよからぬことを思いついた顔ですね」

「こういう都市伝説あったよな?」

「都市伝説?やめてくれ私そういうのは……」

「ごめんね澪ちゃん、私ちょっと聞いてみたい」

「私も……」

「というわけだから話すぞ澪」

「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ……」



60 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 23:46:43.08 nkcbCPWbP 33/53


「なんか、ごくごく稀に、人間の魂をもった人形が生まれるらしいよ」

「人間の、魂?」

「うん。で、その人形は人間みたいな精神構造になるんだってさ」

「そうなんですか……」

「うわさだと、大昔に滅ぼされた人間たちの呪いとか……」

「ひいいいい!?」ガバッ

「おーよしよし」ナデナデ

「まあただの都市伝説だけどな。澪にはきつかったか」

「確かに唯先輩にはその話当てはまっちゃう気がしますけど」

「や、やめろよ。人間なんてもういないだろ……」

「だから呪いなんだって」

「ひい!」

「りっちゃん?」

「ごめんごめん」




62 : 以下、名... - 2010/01/03(日) 23:55:37.61 nkcbCPWbP 34/53


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……昨日そんなことがあってさ」

「へえ。猫の話、憂よく覚えてたわね」

「そこ?」

「今日は唯は来てるのかな」

「憂ちゃんは、絶対に行かせるって言ってたよ。そうしないと憂ちゃんの交換できないしね」

「そう。私に手伝えることある?」

「いいの?」

「ええ、もちろん」



63 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 00:07:48.39 S7Zx95GrP 35/53



「ありがとう」

「そういえば、さっきの都市伝説の話、ちょっとおもしろいわね」

「和まで……」

「人間が人形に滅ばされたのは、人形が自分のネジを巻けるようになったからでしょ?」

「そう習ったけど」

「唯って自分のネジ巻けないじゃない。この年には珍しく」

「……」

「ま、まあなんとなく思いついただけだから。気にしないで」




64 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 00:29:49.77 S7Zx95GrP 36/53


「と、とにかく放課後に協力お願いね」

「うん」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ガチャ

「あー、やっと授業終わったよー」

「眠かったなー実際寝たけど」

「お茶入れるわね」

「澪ちゃんとあずにゃんはまだかな?」

「ヒソヒソ(ムギ、昼休みにちゃんとさわちゃんに保証書書いてもらったよな?)」

「ヒソヒソ(ええ、澪ちゃんに渡したわ)」

「ヒソヒソ(よし。そろそろ和が来るころだな)」

「あー、澪と梓は今日休むってさ。用事で」



65 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 00:33:25.27 S7Zx95GrP 37/53


「ええー。じゃあ私も帰っていいかな。憂が心配だし」

ガチャ

「ちょっと律!また書類出してないでしょ!」

「あー!忘れてた!」

「ほら、これよ」

ドサッ

「うわーいっぱいあるねー」

「今日中に出さないと部活の存続が危なくなるわよ?」

「ええー!ひどい!」

「私にできるのはこれだけだから。がんばってね」

バタン


66 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 00:37:42.97 S7Zx95GrP 38/53


「この量はきついな……(いい演技だったぞ和。本当に怒られてるかと思った)」

「りっちゃん。私も手伝うから、頑張ろう?」

「あ、じゃあ私も手伝うよ!」

「ありがとな。二人とも(澪と梓、あとは頼むぞ)」

_____________________________________________________________________________

ピンポーン

「出ませんね」

「やっぱり止まっちゃったのかな。昨日合鍵もらっておいてよかった」

カチャ

「憂ー。来たよー?」

「いた。台所だ」

「やめてって言ってるのに、また家事しようとして……」

「本当に出来た子だよな憂ちゃんは」

「はい、でも出来すぎるから一人で抱え込んじゃうんですよね」

「早く新しい憂ちゃんに取り換えてあげないとな」



67 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 00:46:11.94 S7Zx95GrP 39/53


キリキリキリキリ ピタ

「あ、澪さんに梓ちゃん」

「保証書、先生にもらってきたよ」

「ありがとうございます」

「立てる?」

「うん。なんとか」

「役所まで歩くよ。きついかもしれないけど私と梓でサポートするから」

「いろいろすいません」

「いいよ。私たち友達でしょ?」

「うん!」



69 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 00:56:32.61 S7Zx95GrP 40/53


__________________________________________________________________________

「はあ……」

「どうした唯?上の空だけど」

「やっぱり憂が心配だよ」

「りっちゃん、そろそろいいんじゃない?」

「だな。唯、実は澪と梓は…」

「?」

「取り換えのために憂ちゃんを役所に連れてってるんだ」

「え……」

「昨日憂ちゃんに頼まれてさ。唯には内緒で交換に協力してくれって」

「ごめんね。和ちゃんに協力してもらって唯ちゃんをひきとめてたの」




70 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:03:58.17 S7Zx95GrP 41/53


「じゃ、じゃあ、今、憂は?」ガタガタ

「もう役所に着くころかな。あとは交換申請して……」

「なんで!!なんでそんなこと!」

「そ、そうやって唯止めようとするからって、憂ちゃんが」

「みんなおかしいよ!交換したら憂が死ぬのに!!!」

「あのね、唯ちゃん、言いにくいんだけど……」

「おかしいのは私だって言いたいの?もういいよ!憂を助けにいく!」

ダダッ ガチャバタン!





71 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:12:22.91 S7Zx95GrP 42/53


____________________________________


「受付行ってきたけど、混んでるからけっこう待ち時間かかるみたい」

「そうですか」

「み……お…」

「また止まりそうになってる。今巻くね」

キリキリキリキリ…

「もう、憂ちゃんは限界に近いんだな」

キリキリ… ピタ

「す、すいません」

「いいよ。憂、もうすぐ取り換えできるから。一緒に待とうね」

「ありがとう、梓ちゃん」



73 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:23:26.20 S7Zx95GrP 43/53


「これで憂ちゃんも初交換か。ちょっとうらやましいかも」

「そうですか?私は小学校の時一回交換されましたけど、楽しくもなんともなかったです」

「楽しくはないだろうけどさ。ちょっと興味あるっていうか?」

「くすっ。澪さんも一緒に交換されますか?」

「はは。やめとくよ」

「平沢憂さん。交換の準備ができました。受付までお越しください」

「やっとですね」

「じゃあ、また数日後に。次の私によろしくお願いしますね」

「新しい憂ちゃん、楽しみにしてるよ。ひとりで受付まで行けるか?」

「はい、そのくらい

「憂!!!!!!」




74 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:30:47.34 S7Zx95GrP 44/53


「ゆ、唯!?」

「先輩!」

「お姉ちゃん!」

「はあ、はあ……」

「唯先輩、なんで」

「二人とも憂から離れて!!」

「唯が怒るのも仕方ないけどな、」

「いいから離れてよ!」

「この人殺し!!!」

「!!」

ザワ・・・ザワ・・・

「お姉ちゃん!そんなこと言っちゃダメでしょ!
  二人は私のために……!」

「唯、憂ちゃん、人目があるからさ、落ち着こう?」

「憂もそんな興奮したらネジが止まっちゃうよ」


75 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:36:41.65 S7Zx95GrP 45/53



「……」

ツカツカ ガシッ

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?」

「憂、一緒に来て。逃げよう」

「え?わっ」

カバッ

「唯、憂ちゃんを背負ってどこへ……」

「教えないよ。憂を殺そうとする人たちには」

スタスタスタ

「……」

「……」

「って、唯の気迫に圧倒されちゃった!追わないと!」

「と、とりあえず律先輩たちにも連絡したほうが!」


77 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:42:10.65 S7Zx95GrP 46/53


___________________________________

「もしもし、どうした澪。……なにいいい!」

「え?」

「わ、わかった。また連絡する」

「どうしたの?」

「唯が、憂ちゃんを連れて逃げたって」

「そ、そんな!ごめんなさい。私がそろそろ話していいなんて言うから……」

「ムギのせいじゃないよ。まさかそこまでするとは思えないだろ」

「ありがとう。私は家の者に連絡して唯ちゃんたちを探させるわ」

「おう。私も唯の行きそうなところ探してみるよ」





78 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:47:10.81 S7Zx95GrP 47/53


______________________________________________________________________


「はあ、はあ……」

「」

「ちょっと休もうかな。おろすね憂」

「」

「今ネジ巻いてあげるね」

キリキリキリキリ ピタ

「お姉ちゃん……ここ、どこ?」

「わからない。どこかの山の中だよ。電車にめちゃくちゃに乗って来たんだ。
  ここならしばらく見つからないと思うよ」

「お姉ちゃん……なんで…こんな」

「憂が大切だからだよ。死んでほしくない。交換なんかしないで今の憂とずっと一緒にいたいんだもん」



79 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:53:02.69 S7Zx95GrP 48/53


「ありがとう……おねえちゃ…………」

「……」

キリキリキリ ピタ

「ごめんね。また止まっちゃった」

「大丈夫だよ憂。私がずっとそばにいて、憂のネジ巻いてあげるから」

ギュ

「おねえちゃん……」

「こうしてれば外でも寒くないよね。あったかあったか♪」

「うん。あったか……あったか…」



80 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 01:59:20.61 S7Zx95GrP 49/53



「大好きだよ、憂」

「私も……おねえちゃ…だいすき……」

「ありがとう憂」

「だい……す…」

キリキリ ピタ

「ごめんね、何回も巻かせちゃって」

「ずっとそばにいるって言ったよ?何回でも何回でも、憂のネジ巻くよ」

「お姉ちゃん……私のネジ、もうダメだよね。私、もうすぐ動かなくなるよ」

「それでも私と憂はずっと一緒だよ。約束するよ」

「お姉ちゃん……私、お姉ちゃんの妹で……よ……か…………」

「……」



82 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 02:04:43.42 S7Zx95GrP 50/53


「憂、ネジ巻いてあげるね」

キリキリキリキリキリキリ

「私がずっとネジ巻くって言ったもんね」

キリキリキリキリキリキリキリキリキリ

「憂のネジ、なかなか巻ききらないね」

キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ

「おかしいなあ。こんなに巻いたことないのに」

キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ

「……ごめんね憂。今はネジの調子が悪いみたいだから、あとで巻いてあげるね」

「」

「起きた時寒かったらいけないよね。しっかり温めてあげるね」

ギュー



83 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 02:12:27.95 S7Zx95GrP 51/53


「……ねえ憂。私ね、今度憂に料理教えてほしいんだ」

「」

「私は憂にギター教えてあげるよ」

「」

「それで、一緒に・・・えん…そ…うしようよ。あれ?」

「そうか。憂のことで夢中で自分のネジ巻き忘れてたよ。えへへ」

「」

「ういー。私のネジ巻いてよ……あ、今は休んでるんだよねごめんね」

「自分で巻くね……」

「……」

「やっぱり私ドジだなあ。私、自分のネジ巻けないの忘れてたよ」


85 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 02:21:00.61 S7Zx95GrP 52/53



「私ももうすぐ止まっちゃうね。でも、これで憂と一緒に休めるね」

「ずっとずっと一緒……に…」

「うい…私がみんなと違う理由……わかった気がするよ」

「一人でネジ巻けないから、一人じゃ生きられないから……だから死ぬのが怖いのかな」

「はは、何言ってるのかよく……わかんない……や…」

「憂……そろそろ……おやす……み…」

「…………」

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86 : 以下、名... - 2010/01/04(月) 02:27:01.36 S7Zx95GrP 53/53


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「おーっす!」

「おはよう。唯、憂ちゃん」

「おはようございます」

「おはよー!久しぶりだね!」

「そんなでもないだろ。二人とも新しい体の調子はどう?」

「はい!おかげさまで好調ですよー」

「なんかスッキリした気分だよー」

「そうか。よかった」

「あ、お姉ちゃんここ、寝ぐせってるよ?あ、ネジも巻き忘れてない?」

「天然は相変わらずか。巻いてやろうか?」

「平気だよー。ネジ巻きくらい自分でやるから」

キリキリキリキリキリキリ…



おわり



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