2 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:01:04.19 STasvQblO 1/98


>>1 サンクス。
さっさと始めていきます


3 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:02:31.40 STasvQblO 2/98



 平沢家 夜

「わたし……憂のことが好きなんだ」

「……う、うん。私も、好きだよ」

「憂っ」

「ごまかさないで……気付かないふりをしないで」

「え、と……」

「憂の返事を聞かせてよ」

「い、いやっ……」

「わたし……違うのっ、お姉ちゃんのことは、そういう好きじゃないの」

「……」

「だから、ごめん……」

「……ほんとに?」

「ほんとに。……お姉ちゃんには、特別な気持ちは持ってない」



5 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:06:11.41 STasvQblO 3/98



「そっか。じゃあしょうがないや……」

「ごめんね憂……困らせちゃったよね」

「ううん、気にしてないよ」

「お姉ちゃん、今まで通りに……ね?」

「うんっ、仲良くしよう!」

(……とか、ね)

――――

 翌朝

「……つぅ」ズキン

(あたま痛い……)

 コン コン

(……憂が起こしに来た)

 コンコンッ

「起きてるよぉ」



9 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:10:17.42 STasvQblO 4/98



「……憂?」

「……」

(なんで入ってこないんだろ)

(私が……怖くなっちゃったのかな)

(レズだから……憂が好きだから)

(襲われる、とか思っちゃうのかな?)

(憂はもっと頭いい子だって思ってたのに)

 ギュ…

(……寂しい)

「……」

「憂、入って来てよ」

「どうして入って来ないの?」

「なんか憂、いつもどおりじゃないよ」



12 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:13:04.08 STasvQblO 5/98



 …カチャ

「……起きてないじゃん」

「起きてますー」ブー

「起きないと、学校遅刻するよ?」

「んー」

(なんだろ、この感覚……)

「いいや。どうせ今日、終業式だけだし」

「そうだけど、さ……」

「……」

「お姉ちゃんこそ、いつも通りじゃないじゃん」

「……普通でいられたらよかったけどね」ハァ

「今日は休むの?」

「うん。めんどくさい」



16 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:16:08.65 STasvQblO 6/98



「そう……じゃ」

 バタンッ

(……そんな強く閉めなくたっていいじゃん)

(なに苛々してるの、憂?)

(……私もか)

――――

 キィ パタン

 タ、タ…

「……」

(憂、行っちゃった)

「……ばーか」

(天井がとれて、空が見れたら気持ちいいだろうなぁ)
ハァ



18 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:20:36.79 STasvQblO 7/98



 ブー ブー ブー

「ん」

(メールかぁ……)

「よいしょ……」カチ

『来ないのか?』

(……澪ちゃん)

(私が休んだ理由、わかってるんだ。……当たり前か)

(欠席したことじゃなくて、欠席した理由を心配してくれてる)

(「来れないのか?」じゃなくて「来ないのか?」だもんね)

『うん、休む』カチカチ

「そーしんっ」ポチ



21 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:23:34.49 STasvQblO 8/98



 ブー ブ

『そうか。ゆっくり休んだ方がいいと思う』

『今、みんなで唯の家に見舞いに行こうって話が出てるんだけど、止めようか?』

「……」

『澪ちゃんとだけ、お話したいかな』

『わかった。学校終わったら、一人で行くよ』

『ありがとう』カチコカチコ

――――

(11時かぁ……お腹減ったな)

(朝ご飯食べてないや。……憂、作ってくれてるかなぁ)

「……」

(もし、憂が朝ごはん置いといてくれなかったら)

(それって……)



23 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:26:19.57 STasvQblO 9/98



「……頼んじゃおうかな」

 カチカチ…

『お昼ごはん買ってきてくれない? 澪ちゃんのぶんも出すから』

(……ほんとなら、憂に頼むべきことだよね)

(というか、帰ってきたらお昼ご飯になる、のかもしれないし)

(これを澪ちゃんに送ったら、私は……憂を拒絶するってことに)

「……えいっ」ポチッ

「押しちゃった」

「……」

 ブーッ ブーッ

『構わないけど、唯にたかるわけにはいかないよ』

『心配しないで待ってること。いいな?』

『りょーかいです』



25 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:30:03.25 STasvQblO 10/98



「……えへへ」

「澪ちゃんもいいかも」

(……なんて言ったら、鉄拳飛んできそうだけど)

(こういうことが言える気分には、長い事なってなかったかも)

 グゥーッ

「……なに買ってきてくれるかなぁ」

――――

 キィッ…

「……」

「憂、おかえり……」ボソ

「……」

(澪ちゃん、まだかな)

 ピンポーン

(来たっ!)



27 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:33:21.96 STasvQblO 11/98



 トン トン トン…

「……」

 コンコンッ

「いいよぉ」

 ガチャ

「唯。気分は?」

「……どうかな」

「買ってきたぞ。すき家の牛丼」ガサッ

「おー、ありがと澪ちゃん」

「……なぁ、唯」

「憂ちゃんがいるのに、こうやって私に昼食を頼んだということは……その」

「……一番悪いパターンになっちゃったのか?」



30 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:36:31.55 STasvQblO 12/98



「それは……分かんない。怖くて確かめられてないから」

「でもとりあえず、告白は失敗だった。私のこと、そういう好きじゃないって言われちゃった」

「……そうか」

「ごめん唯、役に立てなくて……」

「ううん。澪ちゃんに相談できただけで、すごく支えになってたよ」

「食べよっか」

「……だな」

――――

「よいしょっと」ガサッ

「ゴミはうちで処分しとくよ」

「あぁ、ありがとう。……」

「……」

「唯……これからどうするんだ?」



32 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:40:10.51 STasvQblO 13/98



「これからって……」

「これからの、憂ちゃんとの付き合い方だ」

「付き合い方って……そんな、他人みたいな」

「……ううん。他人のほうがマシかもしれないぐらいなんだよね」

「そういう場合もあるってだけだ。まだ確かめてはいないんだろ?」

「そうなんだけど……」

「でも多分、憂は私を怖がってる。私のこと避けてるもん」

「怖がってる?」

「私の予想でしかないけど……私に襲われるって思ってるのかも」

「百合とかボーイズラブのエッチ漫画って、大抵そうやってむりやりのHで成立してそうだからさ」

「漫画みたいに襲われるかも、か。……そういうイメージは出来ちゃってるかもしれないな」

「うん、だから……」

「もう修復できないって、唯は思うのか?」



34 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:43:20.20 STasvQblO 14/98



「……無理だもん」

「今だって、ゴハンだよって呼びに来てくれない。休むって言っても心配してくれない」

「部屋に入って起こしてくれなかった。ちっとも笑ってくれない」

「……」

「もとに戻りたいよ……あれ以上なんにもいらなかったのに……」

「憂の笑顔が見たいよ……」

「……唯。顔上げて」

「やだ」

「いいから」グイッ

「なに、もう……」

 スッ

(ヘアピンが)

「唯、前見て」



36 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:46:13.93 STasvQblO 15/98



(前を……)

「……あっ」

「笑って」

(……鏡が)

(ううん。憂が見てる……)

(澪ちゃんが後ろから見守ってる)

「……なあ、唯。こんなことで気は済むか?」

「……憂」ニコ

「唯?」

(憂が笑ってる……)

 ヒュオオ…

「っ」ブルッ

「ゆ、唯……なんか寒くないか?」



38 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:50:04.03 STasvQblO 16/98



「……」

「おい、唯っ!」ユサユサ

「憂がいる……」

「は……?」

 フワッ

「浮いっ!?」

「うん、憂だよ」

「ちがうっ、私たち浮いっ、浮いてっ!」

 ゴオオオオッ

「吸いこまれるうぅぅ!!」ギュウ

「澪ちゃん」

「唯っ、手離さないで、絶対手離さないで!」

「……フリをありがとう」

 パッ



41 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:53:13.63 STasvQblO 17/98



 ゴオオオォッ

「唯いいぃぃ!!」

(ここ、何処なんだろうなぁ)

(鏡はガラスと銀の膜を貼り合わせたものだって聞いたことがある)

(としたら、ガラスと銀の間なのかな)

「……ほんとだ、吸いこまれてってる」

「ジェットコー、スタっに、のってるみた……い」

「うっぷ」

(牛丼が……っ!!)

(だめ、もう限界……)

「おっ」ピュッ

 ゴボッ


43 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 18:57:33.48 STasvQblO 18/98



 鏡の中 唯の部屋

 カタン…カタカタ

「……ん?」

「またどっかに隠れてるのかな……」ギシッ

「憂ー、今なら見逃してあげるから出てきなさい」

 シーン…

「……」チッ

「腹に一発で済ませてやるから出てきなさい」

 ゴトッ

「後ろっ!?」ブンッ

「おえええぇぇぇ!」ビョー

「うわああああっ!?」

 ドムンッ

「おごぽっ」

「ひっ」


45 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:00:21.56 STasvQblO 19/98



 ビッチャア…

ゲロ唯「……」

「はぁ、コホッ……」

「ご、ごめんなさい、私、あのっ」

ゲロ唯「うーいー……」

「う、酸っぱい」

ゲロ唯「本気で殺す、今のは絶対許さない」フラッ

「あれ? 君……」

ゲロ唯「黙らあああ!!」ブン

「ひゃあっ!」スカッ

ゲロ唯「今度という今度は、もうね、ほんとっ」

ゲロ唯「死ね憂っ!!」

(憂……?)



48 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:03:14.00 STasvQblO 20/98



 ガチャッ

「お姉ちゃん、呼んだ?」ニコニコ

ゲロ唯「えっ?」ピタ

「……」

「わ、お姉ちゃんゲロまみれだし二人……いるし」

「え? 天国?」

(憂が……)

ゲロ唯「こんなゲロ臭い天国なんかないよ! ちょ、ちょっと……」

ゲロ唯「だ、誰なのあなたは?」

「……私?」

ゲロ唯「……」コクコク

「平沢、唯」

ゲロ唯「唯、なんだ。憂じゃなく」



50 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:06:28.49 STasvQblO 21/98



ゲロ唯「……」ビシャ

「お姉ちゃん?」

ゲロ唯「近づかない」

「……ハイ」

ゲロ唯「……シャワー浴びてくる」

 ベチャ ビチャ

 バタン

「……えっと」

「お姉ちゃん、なんだよね?」ニコッ

「う、うんっ」

「近く、いっていい?」

「だ、だめだめっ、臭くなっちゃうよ。……あ、そうだ掃除しないと」

(……)



53 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:10:11.57 STasvQblO 22/98



「えっと、じゃあ私が何か拭くもの持ってくるね!」

「うん、よよろしく!」

 ガチャッ パタパタ…

(……えっと、えっと)

「……」

(分かんない……)

(夢? でも、さっきのお腹を殴られた感じとか、ゲボ吐く感覚とか、すごく……現実だった)

(そもそも私は寝てもいないし……)

「お姉ちゃん、雑巾持ってきたよ」

「あっ、うん、ありがとう憂!」

「……エヘヘ」

「?」

「ありがとうって言ってもらっちゃった」ニコッ



55 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:13:27.88 STasvQblO 23/98



「……う、うい?」

「お姉ちゃんは優しいんだね」

(……)

「そんなワケないよ。私が優しいなんて」フキフキ

「ううん。会って間もないけど分かるよ」ゴシゴシ

「あの人……憂のお姉ちゃんにゲロかけたけど……」

「それは仕方ないよ。お姉ちゃんが乱暴したんでしょ?」

「うーん……どうかな」フキフキ

「お姉ちゃん……私ね、お姉ちゃんに嫌われてるんだ」

「えっ? ……ああ、ゲロをかぶった方」

「うん、ゲロのお姉ちゃん。……ややこしいね」

「……そしたら、ゲロの唯ちゃんって呼ぼうかな?」

「汚いよぉ、その呼び方」クスッ

「憂が言ったんじゃぁん」クスクス



57 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:16:17.14 STasvQblO 24/98



「えへへ……ねぇ、お姉ちゃん」

「うん? なぁに」フキフキ

「お姉ちゃんは、どこから来たの? どうしてここに?」

「……どう説明したらいいかな。鏡を見つめていたら、吸いこまれたんだ」

「憂に……憂の笑顔に会うために、来たんだと思う」

「わ、なんだかすごい話だね」

「信じてない?」

「信じてるよ。お姉ちゃんだもん」

「ゲロの唯ちゃんは?」

「……誰だって、自分のことを嫌いな人より、好きな人を大事にしたいって思うものだよ」

「……確かに」

「だから、私は」

(……)

「すごく混乱してる……」



59 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:20:09.64 STasvQblO 25/98



「……うん」

「私はね。お姉ちゃん……ゲロのお姉ちゃんが好きなんだ」

「昨日から、お姉ちゃんを見てたら急にドキドキして、色々アタック仕掛けちゃって」

「それだけでも凄く困ってた。今までは私たち嫌い合ってたのに……今は私が自分を抑えられない」

「……」

「なのに、ね。こうやっていきなり別のお姉ちゃんが現れて」

「こんなに優しくされちゃったら、ね」

 パシャッ

(ゲロ踏んでる……)

「分かるよね、お姉ちゃん?」

「あっ……?」グイッ

(なに?)

 チュウ



61 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:23:19.14 STasvQblO 26/98



「んむっ」チュッ

「……」

「……ごめんね」

「いまの……キス?」

「うん、キス……」

「なんで?」

「好きなんだもん……自分でも分かんないよ」

「そ、そっか」

(頭が追いつかないよ……)

(なんかクサいし……!!)

「……お姉ちゃん、もう一回いい?」

「だ、だめっ、やだぁ!」

「……」



64 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:26:13.22 STasvQblO 27/98



「どうしてだめなの?」

「だって……私、さっき」

(ファーストキスがこんな酸っぱい味だなんて……)

(でも私、憂と……ううん、違う! この子は憂じゃないよ、きっと別人……)

「……お姉ちゃん、けっこう乙女だね?」

「それ以前の問題だよっ! 憂もちょっとは気にしてよ……」

「ん、ごめんね……でも」

(ここは私のいた世界じゃないはず、よく似た別世界なんだ)

(だからこの子は……憂じゃ)

「もうわからないんだ。汚いとかイヤとか、お姉ちゃんにそんな感覚もてないの」

(憂じゃないのに……どきどきする)

「お姉ちゃん、好き……」

「……私も、うい好きだよ」



66 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:30:12.47 STasvQblO 28/98



「でも、それは……」

「憂とおんなじ意味で言ってるよ」

「好き。好きだよ、憂ぃ」ギュッ

「ふぁっ……」

 チュッ

「憂……好き好き、大好きぃ!」チュ チュッ

「ん、ぅぁ、はっ……」

(やっちゃった)ボー

(どんどん戻れなくなってるよ……)

「……」

「お姉ちゃぁんっ」ギュー

「うい……」

(ごめん、ごめんね……)



69 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:33:43.09 STasvQblO 29/98



「大好き……ずっとずっと好きだった」

「……ずっと?」

「……」ギュッ

「だって、別人なんて思えないよ。こんなにそっくりで……」

「……私のこと、愛してくれるんだもん」

「私は、あっちの私の代わり?」

「代わりなんかじゃ……」

「いいんだよ、私なんて代替品で。お姉ちゃんに愛してもらえるなら、それで」

「ちがうよ……」

「そうやって否定してくれるってだけで、嬉しいよ」チュッ

「んむぅ」

(……いいのかなぁ)

(こんな、何も考えずに幸せになっちゃって)



71 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:36:31.27 STasvQblO 30/98



 バタンッ

「!!」サッ

「あ……」

ゲロ唯「……掃除はありがたいけど、換気くらいして欲しかったな」

(……見られてない?)

(見られたからってなんだって言うんだろ……)

ゲロ唯「憂は早く私の部屋から出てって」

「……はぁい」

 スタスタ

「う、憂!」

「また後でね、お姉ちゃん」パタン

「……うん」

(後って、いつ?)



73 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:41:14.29 STasvQblO 31/98



 カチャン ギッ…

ゲロ唯「ふー、今日も外暑いね」

「……」

ゲロ唯「……」ハァ

ゲロ唯「君は、私なんだよね」

「……」

「そんなの訊かれても、わかんないよ」

ゲロ唯「そっか。そうだね」

(別世界の私……どうして憂にひどいことするんだろう)

ゲロ唯「とりあえず、これからどうするか考えないと」

「これから……」

ゲロ唯「行くあてとか、ないよね?」

「……」コクン



75 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:44:15.82 STasvQblO 32/98



ゲロ唯「じゃあまあ、暫くはうちに居ついていいよ」

ゲロ唯「さすがに他人って気はしないもん。見捨てるのは寝覚めが悪いしさ」

「……何か企んでる?」

ゲロ唯「第一印象は悪いかもしれないけど、私そんな悪人じゃないよ」

ゲロ唯「ほら、私としても君が知らないとこでちょろちょろ動くと厄介だし」

「確かにそうだけど……」

(憂を嫌うような人なんて信用できない)

(けど、この世界だと他のみんなも同じように信用できるかは分からないしなぁ……)

(憂もいるし、ここに留まった方が良いかな)

「ん、じゃあ……お言葉に甘えて」

ゲロ唯「よかった」ニコッ

「……」

ゲロ唯「……で、その代わりと言っちゃなんだけど」

(もう憂しか信じない)



77 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:48:06.80 STasvQblO 33/98



「……私にできることならいいけど」

ゲロ唯「ありがとう。……っとね、あの妹、憂なんだけど」

「憂がどうかしたの?」

ゲロ唯「なんかね、昨日からおかしいんだ」

ゲロ唯「私の寝てるうちに部屋に忍び込んでベッロベッロしてきたり」

ゲロ唯「バイオハザードかってくらい物陰から現れて抱き着いてきたり」

ゲロ唯「とにかくまあ、気持ち悪いんだ……」

(なに言ってるか分かんない)

ゲロ唯「だから、よければ憂の相手をしてくれないかな」

「どうしてそういう風になったか、心当たりはないの?」

ゲロ唯「……あったら、自分でなんとかしようって思うよ」フイッ

「? そっか」

(何か隠してる……)



78 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:50:25.04 STasvQblO 34/98



「そういうことなら、私は全然いいよ」

ゲロ唯「ほんとに?」

「うん。わたし憂のこと大好きだし」

ゲロ唯「……」ポリポリ

ゲロ唯「それじゃ、寝床は憂の部屋でいいかな?」

「あ、うん。それでよろしく」

(憂と一緒の部屋……)

(ほんとに夢じゃないのかなぁ? 上手くいきすぎてるよ)ムニー

ゲロ唯「夢みたいって思う?」

「……うん。その、幸せで」

ゲロ唯「本当に憂が好きなんだね。……姉妹なのに」

「あ、いや、えっと」

ゲロ唯「いいよ。私はそういうの理解してるつもりだから」



80 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 19:53:23.95 STasvQblO 35/98



「……」

ゲロ唯「なんだって、誰かを愛する気持ちには敵わないと思うんだ」

ゲロ唯「だから自由にしていいと思うよ。……せめて夢がさめるまで」

「……これは夢なの?」

ゲロ唯「夢みたいなものだよ。きっと、長い夢」

「何か知ってるなら教えてよ、ねぇ」

ゲロ唯「唯ちゃんは知んなくていいの! 知ったら不幸になるよ!」

(何それ)

「……わかった。もう訊かないね」

「私だって、この夢から覚めたくないし」

ゲロ唯「うん、それがいいよ」

(……なんか不安だなぁ)

「もういい? 憂のとこ行きたいんだけど」



81 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:00:10.70 STasvQblO 36/98



ゲロ唯「あ、いいよ。……ごめん、余計なこと言ったね」

「なにが?」

ゲロ唯「……」

「……それじゃね」スック

 スタスタ

ゲロ唯「……唯ちゃん!」

「うん?」

ゲロ唯「あんまり……その、のめり込みすぎないようにするんだよ?」

「……それは無理」

ゲロ唯「ちょっ」

 バタン

(わけが分かんないよ、あの人)



82 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:03:26.42 STasvQblO 37/98



(憂のとこ行こ)スタスタ

 ピタッ

(……これが夢だとして)

(目が覚めたら、そこには元通りの……私を避けてる憂がいるのかな)

(その時に辛くなるから、ゲロの唯ちゃんは私にあんな風に言ったんだろうか)

(でも、せめてそれまでは楽しむべきだとも言ってた)

(あの子も、どうするべきか悩んでるのかなぁ)

(私は……どうしたらいいんだろう)

「……ふー」

 コンコン

「うい、私だよ。……入るね」ガチャ

「……」パタン

(あれ、居ない?)キョロキョロ



83 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:08:12.94 STasvQblO 38/98



「……いや、いる」

「クローゼットの中かな」ガララ

「んー……」

 ガタッ

「!?」

「お姉ちゃんゲットー!!」バッ

「うわわああ!!」グイン

 ドタンッ

「えへへ、つかまえた」

「う、憂かぁ……」ドキドキ

 ガシッ

「あうっ?」

(顔が両手でがっちり挟まれて……うごかせない)



85 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:12:15.96 STasvQblO 39/98



「ちょっと待って憂、私……んむぅ」

「ん、ちゅ……」

(待って、ダメ、ダメッ!)

「んんう、んい……ん、ぐっ」

「っ、ふ……んんっ」ニュチュ

(舌がっ……息ができない)

 ピチャ レロ…ピチッ

「ら、あっ」ピクン

(お願い憂、離してっ、しんじゃうよ!)

(こんなっ、緊急事態なのに……力が入んない)ボー

「ぷはぁっ」

(あ……)



86 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:16:17.60 STasvQblO 40/98



「はぁ、はぁっ……はぁっ」

(憂の口から、涎が垂れてくる……)

(まだ酸っぱい臭いがする、のに)コクッ

「んく……はぁ、はぁ、ゴホッ」

「お姉ちゃん」スッ

「待ってよぉ、憂……」

 チュッ

「待てないよ」

「憂、だめっ!」

「!」ビクッ

「……お姉ちゃん、どうしたの?」

「ごめん……」ムクッ

「……」



89 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:20:20.44 STasvQblO 41/98



「私じゃ……代わりにさえなれないの?」

「違うよ。なんか、怖いんだ……」

「怖い……?」

「何か取り返しのつかないことをしようとしてるって」

「憂とくっついてると、そう感じる……」

「……なにそれ。私が妹だから?」

「女の子だし、妹だし……でも、それだけじゃない」

「もう、なんなのかなぁ。自分でもわかんないよ……」

「お姉ちゃん、じゃあ」

「ごめん。しばらく考えさせてほしいな」

「……大丈夫だよ。心配しないで」

「憂、私は……」

「理由も分からないものに怯えるなんて、お姉ちゃんらしくないよ?」



90 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:24:41.36 STasvQblO 42/98



「でもっ」

「お姉ちゃん、ねっ、いいでしょ?」スリスリ

「ん……」

「だめ?」ジィッ

(そんな目で見られると……)

「っ」ゾクン

(憂は、私としたいんだ)

(それを拒否しようなんて、わがままなんじゃないかな)

「ねぇ、お姉ちゃんってば」

「……うい、立って」

「……」

「ベッド行こう? ここじゃ背中が痛いよ」

「……お姉ちゃん!」ガバッ

「ちょっ」



91 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:28:10.21 STasvQblO 43/98



――――

 音楽準備室

(やっと学校に辿りつけたはいいけど……)

(ここも今日で夏休みみたいだな……誰もいない)キョロキョロ

(でもとりあえず、ここなら落ち着けそうだな)

「……ふぅ」

(私の家には私がいた……勘違いなんかじゃない)

(何にしても、一番いけないのはあの私と接触することだ)

(早く唯と合流して、この別世界から脱出しないと)

(でも、どうしたらいいんだろう……分からないことだらけだ)

「はぁ……会いたいな、律」

「いや、ダメだダメだ! 自分でなんとかするんだろ!」

(原因を考えよう。この世界が何なのか、どうして迷い込んでしまったか)



93 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:32:10.52 STasvQblO 44/98



(唯が失恋して、私が鏡を見せて……)

(でも私だってあの日に、鏡を見ていたはず)

(ここはきっと鏡の中なんだろうけど、普通に鏡を見てもその中に入っちゃうことはないよな)

(なにか条件があるはずだけど、それって一体……?)

 タン タン…

(……誰か来る!)

(どこか隠れるところは……)

(とりあえずこの死角にっ)ササッ

 ガチャッ

 パタン

(誰が来たんだろう)コソッ

「……」ガサゴソ

(律……!)



94 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 20:36:10.51 STasvQblO 45/98



「ん?」ジロッ

(いけないっ!)サッ

(……あれ? 別に隠れる必要はないよな)

「律、なんでここに……」

「せぁやっ!」ブンッ

「ぴいいぃぃ!?」バッ

 ガシャアァン

(ハ、ハイハット投げてきた……!?)

「……外した」チッ

「ばっ、馬鹿! 当たってたら怪我じゃ済まないぞ! それに、だいたい」

「まぁいいか。で、何してんだよこんな所で」

(人の話を聞けよ)



96 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:00:14.72 STasvQblO 46/98



「私は、えっと……」

(何と説明したらいいんだろう……)

「泥棒か?」

「あのな! 私がそんなことすると思うか?!」

「さあ、無くはないだろ?」

「……なに言ってるんだよ」イラッ

「50万のギターとかあったぐらいだしな……」

「……」

(違うな。律はこんなこと言わない)

(やっぱり別の世界に来てしまったんだ。こいつは私の知ってる律じゃない)

「……おまえ、一体誰だ?」

「あ? なに、ボケた?」

「誰だって訊いてるんだ!」



97 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:05:15.28 STasvQblO 47/98



「……お前もお前で、変だぞ」

「……」

「偽者ってぐらいに違う。もっと虐めやすい奴だったんだけどな」ガタッ

「……お前も座れば」

「何しに来たんだ?」

「関係ねーだろ。そうだ、もうすぐ他の奴らも来る」

「他の奴ら?」

「知ってるだろ。こんだけ仲良しなんだからさ」

(仲良しだと……?)

「唯とかが来るのか?」

「平沢? どうだろうな。何にせよ、大体の面子は揃うだろうよ」

「お前がここにいるってことは、そういうことだ」

「……」

(よく意味が……いや、とにかくこれで唯と合流できそうだな)



98 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:08:04.79 STasvQblO 48/98



「でも、どうして来るって分かるんだ?」

「誰が来るかが分からないなら、約束を取り付けたわけでもないんだろう?」

「そりゃあ、私がここに来たのは同期するためだしな」

「同期?」

「そうさ。そしたらそこにお前がいた」

「きっとたぶん、律のことを大好きなお前がな」

「お前は……」

「田井中律だよ。ただし私のことをお前は知りっこない」

「……どういうことだ?」

「鏡の法則さ」ニヤ

「……」

(気管支のあたりがひんやりする……)

(聞いたこともない言葉なのに、この不快感は何なんだ?)



99 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:12:13.49 STasvQblO 49/98



「奴らが来るまでに、鏡の法則を1つ教えておくか」

(鏡の、というくらいだから、やっぱり鏡の中なんだな)

「さっき同期って言っただろ? あれは滅茶苦茶に厄介なものなんだ」

「私たちの行動範囲を著しく制限する」

「と言うと……」

「私ら鏡の中の住人は、鏡の外にいる自分の近くにいなきゃいけない」

「でなきゃ、像が消えちまうからな」

「像って?」

「言ってみれば、私たちの存在そのものだな。消えちまったら復活は出来ない」

「……おおごとだな」

「そんなこともないぞ。別に鏡の外の人間には関係ないんだから」

「むしろ私たちは消えた方がいい。お前もいずれ、そう思う」

「……」



102 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:16:11.33 STasvQblO 50/98



「現実で私たちのいる場所に近づくのが、同期というやつなのか」

「そう。現実の自分がどこにいるかは感覚で分かる」

「私は自分がこの音楽準備室に移動しているのを感じてここへ来て」

「そしてお前を見つけた。……鏡の外から失踪してきたお前をな」

(……どうしてこいつは何でも分かっている風なんだ?)

「で、あぁこりゃきっと居なくなったお前を探すために、全員集まるだろうなと思っているわけだ」

「なるほど……」

(あれ? でもそしたら唯は来ないってことにならないか?)

(唯とは合流できないか……いや、でも憂ちゃんか和が来てくれるはずだ)

(きっとあの二人のとこに唯は向かっているはず。もう辿りついてるかもしれない)

(とりあえず皆の到着を待って、それからは和と行動したほうがいいかな)

 タン タン

「お、誰か来たかな」

 ガチャッ



104 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:20:40.53 STasvQblO 51/98



「……こんにちは」

 パタン

「ムギか」

「……」ジロリ

(なんで睨むんだよ……)

「おい、律」ボソッ

「んだよ」

「ムギは……律もだけど。なんかこう、凶暴なんだけど」

「鏡の法則その2だよ」

「端折るなよ。意味が分かんない」

「見ていりゃわかるさ」

「教えてくれたらいいだろ。さっきだって教えてくれたじゃないか」

「……私にだって、良心はあるよ。誰にでも噛み付いてるように見えるだろうけどさ」



105 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:24:20.58 STasvQblO 52/98



(良心があるなら教えてくれよ……って、違うか)

「それって、私にとって辛いことなのか……?」

「まあ、な」

「……優しいんだな、やっぱり」

(住む世界が変わっても、律は律だな)

「やめろよ。そんなこと言うな」

「照れるなって」

「照れてないっ」

「……」チラ

「ほら、睨まれてるだろ」ドンッ

「ごめんごめん」

(……ん、また誰か来たな)

 ガチャッ



108 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:29:20.58 STasvQblO 53/98



 パタン

「……」

(無言……)

「こんにちは、律先輩」ガタッ

(じゃないっ!?)

(梓が律の隣に……珍しい光景だな)

「……よ」

「……」チッ

(ムギって怒るとこんな顔するのか……今のは確かにムギでも怒りそうだけど)

(梓はムギを特別嫌ってて……逆に律はそこまででもなさそうだな)

(けど、結局みんな明らかに苛立ってるよ。……嫌だ、この空間)

(どうしたものか)

「……秋山先輩」

「ん? なんだ梓」



109 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:32:58.61 STasvQblO 54/98



「あずっ……はぁ。うろちょろ鬱陶しいんで座っててくれませんか」

「……」

(もう慣れた)

「ごめん、いま座るよ」

「私の隣には来ないでくださいね」

「う、うん」

(もう、慣れた……)ガタ

 ガチャ

さわ子「だる」バタンッ

(さわ子先生も来た)

 シーン…

(これだけ人がいるのに静かだなぁ)

(みんなの押し殺してる感じの呼吸が耳に痛い……)



110 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 21:36:12.90 STasvQblO 55/98



(にしても、おかしいな……)

(憂ちゃんと和が他より遅れてくるなんて考えにくい)

(……いや、憂ちゃんは仕方ないかもしれないか。問題は和だよな)

(真っ先に来るだろうと思ったんだけど……遅いような)

 チッ チッ…

(時間ばかり過ぎていく……)

(もう30分は経つな。確か学校と唯の家は、ゆっくり行っても1時間も離れてない)

(和……)

(どうして来ない。来なきゃ消えてしまうんじゃないのか?)

(それとも、別行動で唯を探してるのか……)

(……そもそも律たちはこんな所で何をしてるんだ)イライラ

(ここで待ってたら私や唯が戻ってくるとでも思ってるのか?)

(……まさか。律たちは、和を待ってるんじゃ)



115 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:00:12.89 STasvQblO 56/98



(和や憂ちゃんにここに集合するように連絡したけど、二人が来ないからここで待機してる)

(唯との一件で、憂ちゃんが来ないっていうのは……酷だが分かる)

(でも和はどうしてこんなに遅れてるんだ……)

(こんな時に一人で突っ走るほど、和はバカじゃない! はず……)

「……」ガタンッ

「ちょえっ!」ビク

「おい、なんだよ急に立ち上がるな!」

「和を探してくる!」

「和を?」

「あぁ。ここにいないのはおかしいんだ。だから探さないと」

「探したところでどうする? 説得でもするってのか?」

「そんなの……わからないけど、放っておくわけにはいかないだろ!」

「もしかしたら和だって、なにかに巻き込まれてるかもしれないんだぞ!」



118 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:04:45.61 STasvQblO 57/98



「……和か」

「だから……その手を離せ」

「……」ギュー

「……余計なことすんなよ。お前のためにもならない」

「ここで立ち止まることの何が私のためなんだよ」

「だからそれは」

「教えてくれよ、その鏡の法則とか言うやつを」

「でなきゃ私は、和を探しに行くぞ」

「……」

「はぁー……」ガタッ

「……なんだ、梓」

「その呼び方やめてくださいよ。薄気味悪いです」



120 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:08:37.44 STasvQblO 58/98



 ツカツカ

「おい、中野」

「秋山先輩、なんなんですかあなた」

「何って……」

(……)

「鏡の外から来たんだよ。お前が像なら、私は実体だ」

「あぁ、そういう。狂ったのかと思ってました」

(この中野……)

「律先輩、教えるべきですよ。このままじゃ和先輩が消されます」

「……そんなの、どうでもいいことだろ」

「それはそうですけど。問題はこの人のせいで現実が変わりかねないってことです」

(……現実が変わる?)

「……」フッ



122 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:12:09.22 STasvQblO 59/98



「中野。そのことなら、もう手遅れだって」

「は……まさか、律先輩」

「な、澪。分かるだろ?」

「……どういうことだよ」

「中野、いいぞ」

「人任せですか……まぁいいですけど」

「教えましょう。この世界とあっちの世界を繋いでる、鏡の法則」

「……」

(私が知るには辛いことだって、律は言ってくれたけど)

(知らなきゃいけないこと、なんだよな……)

「……それは、どういうものなんだ?」

「そうですね。まず一つは、身体を制約する、同期というものの話なんですけれど」

「それはもう律から聞いた。私が知りたいのは、もう一つの方だ」



124 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:16:12.10 STasvQblO 60/98



「……感情のほうですか」

(身体と感情……)

「私たちのおかしさには、秋山先輩といえども気付いてますよね」

「……いちいち刺々しいよな。やめてくれないか?」

「別にやめたって構いませんよ。ただ、それで苦しむことになるのは秋山先輩ですけど」

「……」

「いいですか。私たち鏡の中の存在は、鏡の外側に居る私たちの本体に影響されます」

「身体は同じ場所に。心は逆さまになるんですよ」

「……心が逆さま?」

「ベクトルといいますかね。人に対する感情の向け方が逆になります」

(……?)

「あちらの世界に、Aさんを好きなB君がいるとしましょう」

「この鏡の世界では、B君はAさんのことが大っ嫌いです。殺したいほど憎んでいます」



126 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:20:07.10 STasvQblO 61/98



「それじゃ、えっと」

「先輩の世界とここでは、好きと嫌いが逆転している、と考えていいんじゃないですか」

「梓や律や、それにムギの態度も……つまりそういうことか?」

「……あぁ。そっちの世界での好意と悪意を、裏返しにしただけだ」

「なるほどな。やっと理解できたよ」

「……なんも分かってない顔ですね」

「だな。……でも、それがいいさ」

(現実の梓の裏返しとはいえ、ウザい)

「分かってないって?」

「そのままですよ。何も分かってないですし、その方が幸せです」

「いいから、梓」

「……」チラ

「……」コク



127 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:24:11.82 STasvQblO 62/98



「私たちの悪意が、私たちの実体が持っている好意だということは分かってますよね?」

「ああ」

「ああ。じゃないですよ。みなまで言わすなです」

「つまりその逆はどういうことになりますか?」

「逆って……そりゃあ!」

(じゃあ、この世界で好意を向けられるっていうことは)

「……澪。これから和のところに行くなら、鏡の法則だけは忘れるな」

「お前は鏡の外の人間だ。私たちがこうやって集まっていることが示すように、みんなが澪を心配してる」

「いつか。いや、すぐにでも帰らなきゃならない」

「……」

「その時のために、忘れないでおくんだ」

「……律」



129 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:28:16.70 STasvQblO 63/98



「私たちはただの虚像かもしれない。でも、物思う心だってちゃんとあるんだ」

「私たちが考えて、この心が変わった時にも……鏡の法則は保たれる」

(……そうか)

(だから律は、さっきからこんな悲しそうな顔を……)

「ごめんな、澪。私の揺らいだ気持ちは、あっちでなんとか修正してくれ」

「……バカ律っ」フイッ

「……へへ」

(もしもこのまま、この世界にとどまれば……)

(律と、そんな関係になれるのか?)

「もう行け、澪!」

「っ……」

(駄目だ! そんな事、律は望んでない!)

(そうだ、ただの鏡に映る像……そうなんだ!)



130 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:32:42.15 STasvQblO 64/98



「……じゃあみんな、またっ!」ダッ

 ガチャッ

「……」ダダダ…

「っう……」タッ タタッ…

(なんでこんな場所……来たくなかったよ)

(あんなちょっとの間で、嫌いを好きに覆せるくらいにしか……律は私を好きじゃなかったんだ)

 タッタッタッ

(当たり前だよな……)

(いきなり同性の幼馴染に、好きなんて言われて……嫌悪を抱かないほうがおかしいよ)

(唯たちさえあんな状況なのに……律は、無理して私と)

「はぁっ、はぁっ……」

「……」

(和の家に行こう。律が待ってる)

(唯を見つけて、一緒に帰るんだ!)ダダッ



131 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 22:36:09.17 STasvQblO 65/98



――――

 憂の部屋

「ふぅーっ」クタッ

「お姉ちゃん、お疲れ?」

「ん……えへへ。少しだけ、かな」

「声とか凄かったもんね。よく頑張りました」ナデナデ

「もう、憂ってば……」

(……ん?)

「こ、声っ!」

「え?」

「声だよっ、私の……聞こえてたよね、隣の部屋に」

「隣……お姉ちゃんに? 大丈夫だよ」

「お姉ちゃんの可愛い声は私だけのものだもん」



136 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:00:16.32 STasvQblO 66/98



「え、でも隣には唯ちゃんが……」

「忌み合ってるけど、私はこれでもお姉ちゃんの妹だもん」

「ちょっとぐらいは分かってるつもりだよ。お姉ちゃんのこと」

「……?」

「お姉ちゃんはこんな時にじっとしてるような人じゃないと思うな」

「きっと、誰か大事な人のところに行ってるはずだよ」

「こんな時って……こんな時?」

「ちがうよ。こんな時のことは、つい最近まで考えたことないもん」

「私はお姉ちゃんがずっと憎かったから……」

「お姉ちゃんが消えないかなって、そんなことばっかり考えてた」

「消えるとしたら、どんなことを思いながら消えるのかな……って」

「……消える?」

(死ぬじゃなくて? なんだか、隕石が落ちてくるみたいな言い回し……)



137 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:04:26.37 STasvQblO 67/98



「内緒にしてて、ごめんね」

「な、なにを?」

「けど教えたら、お姉ちゃんは放っておかなかっただろうから……」

「ごめん。お姉ちゃんと一緒にいたかったの。帰ってほしくなかった」

「ねぇ、憂っ!」

「……ほんとは、お姉ちゃんが鏡を通り抜けてこっちに来ちゃった時、すぐに教えるべきだったんだ」

「あっちの世界に帰る方法と……お姉ちゃんが帰らなきゃいけない理由」

「私は……帰らないといけないの?」

「そういう訳じゃないよ。むしろ、今は……ぜったいに帰ったらだめからね」

「……その、理由は?」

「お姉ちゃんが決意したことだから」

「命をかけて願った、お姉ちゃんの幸せだから。捨てるなんて、ありえない」

「命を……?」



138 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:08:05.63 STasvQblO 68/98



――――

 平沢家近辺の路上

ゲロ唯「……」フラフラ

「ん? あそこにいるのは……」

「唯、唯ー!?」

ゲロ唯「……」チラッ

「よかった会えて……誰かと一緒じゃなかったのか?」

ゲロ唯「……」

「唯? どうした?」

ゲロ唯「……何なの? 鬱陶しいよ」

「いあっ!?」

(鏡の中の唯か……びっくりさせるなよ)

ゲロ唯「私、行くとこあるから」

「ま、待って!」ガシッ



141 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:12:44.01 STasvQblO 69/98



(律が言っていたはずだ)

(鏡の中の人間は、同期するために自分の実体の居場所が分かる……それなら)

「頼む、教えてくれ。唯は……こっちの世界に迷い込んできた唯はどこにいる?」

ゲロ唯「私がそれに答えると思う?」

「お願いだ、何でもするから!」

ゲロ唯「何もして欲しくなんかない。あえて言うなら、その手を離して」

「約束だな?」

ゲロ唯「ん?」

 パッ

「さあ手を離したぞ、唯の居場所を教えてくれるな?」

ゲロ唯「……そういうところがほんっとに嫌い」

ゲロ唯「はあぁ……。ま、いいや。ついておいで」スタスタ

「ありがとう」



142 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:17:11.53 STasvQblO 70/98



ゲロ唯「といっても、すぐそこだけどね。ホラ」

「ここは?」

(……表札に真鍋って書いてある。それに、ここは唯の家の近くだし)

「もしかして、和の家?」

(……そういえば私、和の家がどこにあるのかも知らなかったんだな)

ゲロ唯「……」カチ

 ピーンポーン

(それは返事か?)

ゲロ唯「……」

 トタトタ…

「あら」ガチャッ

「珍しいわね、唯から会いに来るなんて」

「で……秋山さんは何かしら?」ギロ

(もう慣れた、もう慣れた……)



144 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:20:48.25 STasvQblO 71/98



「唯を探しに来たんだ。……和のことも」

「……唯。何か変よ、こいつ」

「放っといていいよ。絡んでもうざいだけだし」

(落ち着け、落ち着くんだ私)

「それより和、ここに唯がいるんじゃないのか?」

「いるじゃない、そこに」

「じゃなくて! えっと、私は鏡の外から来たんだ。唯も一緒に」

「……なんですって?」

「唯と一緒に、鏡の外から来たんだ。けど途中で唯とはぐれて……」

「なんとかして唯と合流して、元の世界に帰りたいんだ」

「だから、唯を出してくれ。あっちに帰るために、力を貸して欲しい」

「……秋山さん、ちょっと顔貸して」スッ

「ん?」

 バシンッ


145 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:25:01.65 STasvQblO 72/98



(……痛い)ジンジン

ゲロ唯「さっきから勝手なことばっかり言ってさ……自分が正しいとか思ってる?」

「どういうことだよ……」

「私たちがこの世界に留まり続けるだけでも、誰かの感情に悪い影響を与えることになる」

「一刻も早く帰らないといけないんだ!」

「……どうでもいいけど、玄関先でぎゃーぎゃー騒がないでくれないかしら」

「唯。それからそこのデカブツも、上がっていいわよ」

ゲロ唯「……そうだね。あがるよ、真鍋さん」

「……ごめん、和」

 パタンッ

「私の部屋でいいわよね?」

ゲロ唯「真鍋さんだけトイレでもいいけど」

「勘弁して頂戴」

 スタスタ



147 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:29:15.41 STasvQblO 73/98



 ガチャ

「部屋のものに勝手に触ったら殺すからね」

「わ、わかってるよ」

「どうだか」バタン

(信用されないって辛い)

「さて、と」

「そういえば聞きそびれてたけど、唯はどうして私の家に?」

「今から話すよ」

「……なぁ、唯はどこに」

「べふっ」ドスン

「真鍋さんには、なんだかんだでお世話になったからね」

「消える前に挨拶しておきたくなっただけ」

(……消える?)サスリサスリ



149 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:33:15.77 STasvQblO 74/98



「……鏡の外の唯が、こっちに来てしまったのよね」

ゲロ唯「うん。だから……」

「唯、その消えるっていうのは……鏡の法則か?」

ゲロ唯「うるっさいな。分かってるなら訊かないでよ」

「そうなんだな?」

ゲロ唯「……そーだよ」

(どういうことだ? 同じ場所にいるなら消えないと言っていたじゃないか)

(……鏡の外の同じ場所じゃなきゃだめなのか? ……だったら、私たちがこの世界に来た時点で)

「解せないわね。迷い込んできたなら、すぐ帰してあげればよかったじゃない」

「いくら唯でも、実体を帰す方法を知らないわけじゃないでしょ?」

ゲロ唯「当たり前じゃん。殴るよ?」

「殴ってみなさいよ」

ゲロ唯「やめとこ」



151 : 以下、名... - 2010/11/18(木) 23:36:28.99 STasvQblO 75/98



「もう。それで? 唯はどうして消えるのよ」

「私の目には、唯が消えたがっているようには見えなかったけど」

(……消えたがる、という場合もあるのか)

ゲロ唯「実をいうと、昨日から憂がおかしくって」

「へぇ。元からおかしいけどね」

ゲロ唯「……私のことを好いてた。確かに、もとから私ほどの敵対心は持ってなかったみたいだけど」

ゲロ唯「それってつまり、法則に従うと、そういうことでしょ?」

「だから……?」

ゲロ唯「私は本当に、ほんとに憂のことが大嫌いだから……」

ゲロ唯「憂に好かれるのが、いやでいやで仕方なかった。消えたい、とさえ思うぐらいにね」

「……」

ゲロ唯「そんな気持ちで、あの子が元の世界に帰った時のことを考えたんだ」

ゲロ唯「どうしようもないくらい私に憂を嫌わせる、あの子のことを」



160 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:00:07.39 STasvQblO 76/98



ゲロ唯「あの子は……唯ちゃんは、憂を愛してた。私が同情しちゃうくらいに深く、ね」

ゲロ唯「私が存在したいがために、あの子を辛い現実に帰したくはなかったんだ」

「その代わりに自分が消えても?」

ゲロ唯「構わないよ。しょせんは、ただの物思うだけの幻影なんだしさ」

ゲロ唯「私が消えることで、あの子の幸せな居場所ができるなら……全然いい」

(唯は……だからあんなに怒って、唯を連れ帰るのを阻止しようとしたのか)

(命をかけて守ってあげた幸せ、だものな……)

「……なるほどね。唯も優しいところあるんじゃない」

ゲロ唯「何言ってんの? 優しさのかたまりだよ、私」

「どの口が言うんだか……」

ゲロ唯「殴っていい?」

「……」

ゲロ唯「やめとこ」



161 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:04:50.82 H3oeMRl+O 77/98



ゲロ唯「……ふぅ」

「……」

ゲロ唯「そろそろ、かな」

「唯……」

「……」

ゲロ唯「いい、秋山さん。……いや、澪ちゃんか」

ゲロ唯「そういう訳だから、唯ちゃんはこの世界に置いていってあげて欲しいな……」

ゲロ唯「私が失うものを、命だと思ってくれるなら」

「……」

「おい」

「わかってる、わかってるんだよ……」

「でも、唯を置いて帰るわけにはいかない」

「唯の居場所は鏡の中じゃない。みんなと居た、鏡の外の世界だ」



162 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:08:17.87 H3oeMRl+O 78/98



「あなたねっ!」

ゲロ唯「いいよ、和ちゃん」

ゲロ唯「澪ちゃんにはまだ分からないだけ。あの子がどんな状況にあるか」

「……唯が辛いのは知ってる。けど、逃げたらだめだろ! 向き合わないと」

ゲロ唯「それを本人に……言えるかな」フラッ

「……」

「唯、しっかり」ガシッ

ゲロ唯「ふ、ふふ……えへへ」

ゲロ唯「ねぇ、和ちゃん。……なんだかんだで、最後まで一緒にいてくれてありがとね」

「……唯らしくないわね」

ゲロ唯「私はほら、入れ替わったからさ。あっちの唯ちゃんっぽく振舞わないと」

「そういうことにしといてあげるわ」クスッ

「……さよなら、唯」ギュ



163 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:12:28.79 H3oeMRl+O 79/98



ゲロ唯「えへ……」

ゲロ唯「澪ちゃん。あの子に会いたいなら、私の家に行って」

「……いいのか?」

ゲロ唯「いいか悪いかは、澪ちゃんがそこに行って、考えることだよ」

ゲロ唯「でも、何も考えないで、義務だと思って連れ帰るのはだめ。そんなことしたら呪うから」

「……わかった。約束するよ」

ゲロ唯「ふぅーっ……」

(唯の身体が透けてきた……)

(輪郭だけ残して……硝子の像みたいになっていく)

「……」

ゲロ唯「ありがとう、和ちゃん……」

ゲロ唯「新しい私にも、優しくしてあげてね? みんなにあたられて、戸惑う事ばかりだと思うから」

「当たり前じゃない。唯の願いだもの……」



166 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:16:38.96 H3oeMRl+O 80/98



ゲロ唯「おねがいね……任せたよ」

(もう、唯が見えない)

(でも和の腕の中には……いるんだろうな)

ゲロ唯「バイバイ、和ちゃん。澪ちゃん……」

ゲロ唯「えへへ。人の腕の中って……あったかいんだぁ」

「……」

「……」

「……唯は?」

「……唯の家にいるって言ってたじゃない」

「そう、だったな……」

(私も今頃……?)

「……」



168 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:20:19.53 H3oeMRl+O 81/98



「和、その……」

(なんて言ってやればいいんだ……?)

「……なによ」

(唯はまだ『他にいる』。けど、今たしかに……和にとっての唯は死んだんだ)

(ただの、鏡にうつした虚像? 違う。もっと重い……命だ)

「何もないなら行ったら? 一刻も早く戻らないといけないんじゃないの?」

「……ごめん。もう行くよ」

(私には……適当な慰めの言葉が浮かばないよ)

(帰る方法は、別の誰かに聞けばいい。……)

 ガチャッ

(……帰る、のか?)

(じゃあ、鏡の中に残される律はどうするんだ?)

(私の分身も、きっともう消えてしまっているのに)



169 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:24:55.53 H3oeMRl+O 82/98



「お邪魔いたしました」キィッ

 パタン

「……」

 テクテク

「唯の家……」

(立ち入っていいのか? 私は……)

(唯は……消えてしまった唯は、憂ちゃんに好かれたと言ってたな)

(鏡の法則に当てはめると……憂ちゃんは、唯のことを)

(……くそう)ギュッ

(ごめん、律……みんな。唯のこと、連れて帰れそうにない)

(いいだろ? この世界の人達だって生きてるんだから……)

(律たちは、まだ学校にいるかな?)

(私も……律の家に行くべきか)スタスタ



170 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:28:24.78 H3oeMRl+O 83/98



――――

「それじゃあ……」

「たぶん、とっくに消えちゃってると思う」

「なんで……」

「……」

「ひどいよ、そんな大事なこと黙ってるなんて……」

「それは、現実の私がお姉ちゃんをどう思ってるかってこと?」

「それとも、お姉ちゃんが消えること?」

「どっちも……かな」

「別に元の世界に帰りたいとは思わないよ。こんな事聞いたら、なおさら」

「でも、ただ……その前に考えたかった」

「これじゃあ、何かしてあげられることがあったんじゃないかって、後悔しちゃうよ……」

「……けど、何か出来ることはあった?」

「無いよ。きっと無い……だけどさっ!」



173 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:32:31.56 H3oeMRl+O 84/98



「お姉ちゃんはもう消えたの」

「……」

「今日からお姉ちゃんが、お姉ちゃんに代わってこの世界で生きるんだよ」

「ここなら幸せだから……ね、お姉ちゃん」

「憂……」

「私もついてるよ。愛してるよ。だから……お姉ちゃんのためにも、後悔なんてしてあげないで」

「……ごめん。たしかにそうだね」

「わかってくれたならいいの。……お姉ちゃん、大好きだよ」

「ん……」

 チュッ

「ねぇ憂ぃ」

「なあに?」

「私、幸せかなぁ……」



175 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 00:36:10.36 H3oeMRl+O 85/98



「……」ギュッ

 チュッ

「ふ……ういぃ」

「……後ろめたさはあるよ」

「違和感だって、たくさん感じる。でも……お姉ちゃんは幸せにならなきゃいけないよ」

「お姉ちゃんから、幸せを託されてるんだから」

「うん……」ポヤー

「うい、もっと」

「……」クスッ

「お姉ちゃんの幸せって、こういうこと?」
ツン

「ン、う……」コクコク

「お姉ちゃんのえっち。……それじゃ、たっぷり幸せにしてあげるね」

「うん。憂ぃ……」



180 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:00:32.53 H3oeMRl+O 86/98



――――

 律の部屋

「驚かすなよなー、まったく」トントン

「ごめん、まさかもう帰ってるとは思わなくて……」

「いいさ。スティック投げつけられるよりマシなもんだ……うし、消毒完了」

「痕になったらごめんな?」

「平気だよ。律に会えた証になる」

「なーにを言ってんだか……」フッ

「ほんとに帰っちまうんだな?」

「あぁ。……私には、元の場所も、鏡の中も捨てきれない」

「だから、こっちに唯を残していく。唯のことを大事にしている人がたくさんいるから……」

「……澪は」

「私は帰らないと。私が幼馴染としてずっとやってきた律は、あっちの律だ」



181 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:04:15.90 H3oeMRl+O 87/98



「……」

「だよな。しょうがないさ」

「……ごめん。身勝手だよな」

「私たちが来たせいで、唯も私も消えてしまったのに」

「なんだ、私の心配してるのか?」

「そりゃあ、だって……寂しいだろ?」

「そっちのりっちゃんと一緒にするなやい。相手は他にもいるっての」

「心配だってんなら、澪がちゃんと、今まで通りにあっちの私と付き合ってくれりゃあいいんだ」

「そしたら澪のことをすぐ忘れられるはずだからさ」

「……だな。律はそういうやつだよ」

「ははっ……そんじゃ、いくか」

「そこの鏡の前に」

「ああ」



182 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:08:47.72 H3oeMRl+O 88/98



 カタ

「鏡の中の鏡の世界……ってあるのかな」

「さあ、どうだろうな? あるとしても良いものじゃないだろうけど」

「……そうか?」

「ああ。澪だって嫌だろ? 自分の気持ちが意図せず人を傷つけてしまうなんてさ」

「誰かを好きになることさえできやしない……後ろめたさが付き纏うんだ」

「……律」

「どうした?」

「おまえの辛さは全部私が請け負うよ」

「だから……律の想いたい人を、好きになっていい」

「……ばっかだなぁ、澪」

「……」

「目を閉じろ。鏡の中に入れてやる」



183 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:13:06.64 H3oeMRl+O 89/98



「ん……」

「目開けるなよ。鏡の隙間に閉じ込められるから」

「それは……嫌だな」

「んじゃ、いつかな!」

「ああ……」

 チュッ

「……んなっ!?」

「っはは、ホラ行ってこい!」ドンッ

「騙したなぁ、律ー!!」

 ゴオオオォッ…

「……まったく」

(ほっぺた……か)クスッ

(元の世界に帰ったら、律になんて言われるやらわかったものじゃないな)



184 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:16:54.61 H3oeMRl+O 90/98



――――

 元の世界 律の部屋

 ドサッ

「っつう」

(……律の部屋か)スック

(外も薄暗くなってる……)

「……」

 パカ カチカチカチ…

 プルルルルッ プルルルルッ

『澪っ!?』

「……もしもし、律」

『もしもし……じゃねーよっ! お前、今どこだ!』

「どこって」

「律の部屋、だ……」



185 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:20:15.01 H3oeMRl+O 91/98



『……なんで私の部屋にいるのかね』

「……私に言わせれば、律がこの部屋にいないことのほうがよっぽどおかしい」

『お前と唯を探してたんだよっ! ……あ、そうだ唯は!』

「……説明が難しいな。一旦帰ってこい。そこでみんな話すから」

「だから、急いでくれ」

『わかった。すぐ帰る』プツンッ

 プー プー

「……」

(間に合うかな……)

(……バカ律)

「……」

 トトト…

「澪っ!」ガチャッ



187 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:24:12.76 H3oeMRl+O 92/98



「りつ……」

「……」スタスタ

 ギュウッ

(……)

「馬鹿ぁ……本気で心配したんだぞ?」

「二度と私に黙って消えたりするなよ。わかったか?」

「……うん、わかった」

「よし」パッ

「で、どこ行ってたんだ? 私の部屋にずっと籠ってたわけでもないだろ?」

「……唯と一緒に、パラレルワールドに行ってた」

「……」

「本当だ」

「鏡の中に入って、鏡を通って帰ってきた」

「そうか。……それで、唯は?」



188 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:28:21.30 H3oeMRl+O 93/98



「唯は……あっちに残してきた」

「……え」

「そうするのが一番いいと思ったんだ。唯のためには」

「……唯にとっちゃ、そのパラレルワールドで暮らすほうが幸せだってか?」

「それは分からない。でも、そうでなかったとしても大丈夫さ」

「あの世界にも、帰りたい人を帰してくれないような意地悪はいないからさ」

「いまのところ、唯は帰りたがってないんだな……」

「だと思う。……これからもきっと」

(一人の命の上に、唯は立ってるんだから)

「……はぁ」

「いい友達だと思ってたの、私たちだけなのか」

「……さあ。かもしれない」

「でもそれが唯の選んだことならしょうがないと思う」



190 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:32:17.57 H3oeMRl+O 94/98



「……」

「そうかぁ……唯が」

「梓が……泣いて悲しむな」

「自分のことを棚に上げてそう言うのはよくないぞ」

「……みおだって」

「そう……だな」

「……ふ、ふふっ。あー、律の気持ちもわかるな」

「え、なんだ?」

「こっちの話だよ。大事な人に二度と会えないって……こんな辛いんだなって思ってさ」

「やなこと言うない……信じろよな」

「……ごめん」

「……あー」バタッ



192 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 01:36:20.38 H3oeMRl+O 95/98



「天井が抜けて、空が見れないかな……」

「なんだよ、それ」

「わからん。そんな気分だ。……なぁ、澪ぉ」

「ん、どうした? 律」

「あの日の返事……今から変えることってできるか?」

「……あの日って」

「澪が私に好きって言った日。で、いいのかだめなのか?」

「……」

(そんなやけくそみたいに言われても、嬉しくないよ……)

(でも、そんなのは我が儘だよな)

(それが『律』の心を癒すんだったら……)

「……どう変えるんだ?」



196 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 02:00:20.17 H3oeMRl+O 96/98



「決まってるだろそんなの。野暮だぞ」

「……澪。今回のことで気付かされたよ。えっと、なんていうか」

「私も、澪とおんなじニュアンスで、澪のこと好きなんだって」

「……ほんとに言ってるのか?」

「本気だ! 私だって、いきなりだと思うけど……」

「……律。私、すっごく嬉しいよ」

「私も……なんか変かな。けど嬉しいかも」

(虚無感を補うための、か)

(それは、誰しも同じなのかも……)

「好きだぞ、律」


  おわり



204 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 03:54:36.36 2YgO0CkGO 97/98


向こうで仲良くなったのになんで律はこんな優しいんだ


208 : 以下、名... - 2010/11/19(金) 06:37:32.07 H3oeMRl+O 98/98


>>204
なんで律は澪に優しくできたんでしょうね?

蛇足になるので、補足はこれきりで。


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