夫「もう7時か……そろそろ会社行くか」
夫「あ、そういえば昨日宝くじの発表日だったよな? どうだった?」
妻「ああ、あれ?」
妻(かすりもしなかったけど……ちょっとからかってみようかな)
妻「当たったわよ」
夫「え、いくら?」
妻「なんと一等、三億円!」
夫「マジで!?」
妻「んなわけ……」
夫「ヒャッホーイッ! 行ってきまーっす!」ドタドタバタンッ
妻「あっ、行っちゃった……ま、いっか」
元スレ
妻「夫に宝くじ当たったってウソついたら会社やめやがった」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1573230448/
夫「ただいまー!」
妻「あら、今日はずいぶん早いのね。どうしたの、具合でも悪いの?」
夫「そうじゃない。宝くじ当たったんだろ?」
妻「え、ああ、あれは……」
夫「だから会社辞めてきた!」
妻「は!?」
妻「辞めた?」
夫「うん」
妻「なんで!?」
夫「だってもう働かなくていいじゃん」
妻「いや、だからって……!」
夫「いやー、明日からニート生活を満喫できるのか。楽しみだな~」
妻「ちょっと待ってええええええええええ!!!」
妻「違うの! さっきのはウソなのよ!」
夫「ウソってなにが? 実は五億円だったとか?」
妻「んなわけあるか! 三億当たったってのはウソなのよォ!」
妻「宝くじなんか当たってないの! かすりもしなかったわ!」
夫「なにいいいいいいいいい!?」
妻「今すぐ! 今すぐ会社に電話して! さっきの冗談だったって!」
夫「わ、分かった!」
夫「もしもし」
上司『ああ、君かね……』
夫「先ほどの退職届、撤回させて頂きたいのですが」
上司『もう受理してしまったし、撤回できない段階まで手続きは進んだので、不可能だ』
夫「さっき辞めたばかりですよ!? まだ何とかなるはずでしょう! ですからなんとか……」
上司『会社に対する不満を散々ぶちまけてから、退職届を叩きつけたのはどこの誰だっけねえ……』
夫「いや、あれはその……」
上司『というわけだ。再就職できるよう祈っているよ』ガチャッ
夫「……」
夫「無職になっちゃった」テヘッ
妻「テヘじゃねええええええ!!!」
妻「なに辞めてんのよぉぉぉぉぉ!!!」
夫「お前が変なウソつくからだろぉぉぉぉぉ!!?」
妻「だって普通、いきなり会社辞めるなんて思わないじゃない!」
夫「三億当たったら辞めるだろ普通!」
妻「んなことないって! せめて『本当に当たってるのか?』とか確認するでしょ!」
夫「確認なんてしねえよ! 俺はいつも確認なんてしないで仕事してるし!」
妻「あなた、体よく追い出されたんじゃない!?」
夫「かもな!」
夫「……喧嘩はやめよう」
妻「そうね……」
夫「会社をやめてすまなかった」
妻「こっちこそウソついてごめんなさい」
夫「とりあえず、あの子が小学校から帰ってきたら、ゆっくりどうするか話し合おう」
妻「そうね」
娘「……え、会社やめちゃったの?」
夫「すまん……」
夫「まあしばらくは失業保険出るし、なんとか次の仕事見つけてみせるから」
妻「私もパート探すわ」
娘「あたしも家のお手伝いするー!」
夫「二人とも、ありがとう」
夫(会社は辞めてしまったけど、かえって家族が一つになれたような気がするよ)
妻「まさか無職になったけどかえって家族が一つになったな、なんて考えてるんじゃないでしょうね」
夫「! ……んなわけないだろ!」
夫「本日はよろしくお願いします」
面接官「前職は……ずいぶん唐突なタイミングで辞められてますね」
夫「ええ、事情があって」
面接官「差し支えなければ、ご事情を教えて頂けますか?」
夫「宝くじが当たったと勘違いして、そのまま勢いで辞めてしまったんです」
面接官「……」
夫「またダメだったよ……」
妻「こうなったら私がパートで稼ぐわ!」
店長「ほう、うちのスーパーで働きたいと」
妻「はいっ!」
店長「しかしねえ、あなたのこと噂になってますよ?」
妻「え?」
店長「あなた、旦那さんに宝くじ当たったってウソついて会社辞めさせたそうじゃないですか」
妻「あっ、それは……」
店長「ウソつきはいらないんだよねえ。売上ごまかされたり、商品盗まれても困るし」
妻「そんなことしませんって……」
店長「とにかくご縁がなかったということで」
夫「ヤバイ……失業保険も終わって、いよいよ収入がなくなった」
妻「まさかどこも雇ってくれないなんてねえ」
夫「生活保護もどうせ不正受給するつもりだろ、なんて言われちゃって貰えそうにないし」
夫「とにかく、色々なものを切り詰めてやり繰りするしかないな」
妻「そうね」
妻「ご飯の量、これからは減らすけど我慢してね」
娘「うん、ガマンする! ちょうどダイエットしたかったし!」
夫(もう十分痩せてるのに……いい子だ)
夫(今日も仕事見つからなかった……)
夫「ただいま」
娘「お帰りなさい」
夫「ママはどうしてる?」
娘「向こうで熱心に古ぼけた本読んでるよ」
夫「ふうん……? 今の状況じゃ、読書ぐらいしかやることないもんな」
妻「あ、お帰りなさい」
妻「今日は卵かけご飯よ。ただし卵は三人で一つね」
ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!
「金返せコラーッ!」
「出てきやがれ!」
「いるの分かってんだぞ!」
夫(ついにこんな状況にまで追い込まれた……全て俺のせいだ……)
夫「今、全財産はどのくらいだ?」
妻「えぇっと……」
ジャラッ…
妻「これだけよ」
夫「300円ちょいか……」
夫「よし、これで宝くじを一枚買おう」
娘「宝くじを?」
夫「そうだ。俺たち家族の運命を、その一枚に託すんだ」
おばちゃん「いらっしゃいませ」
夫「宝くじを……一枚ください」
おばちゃん「一枚ですか?」
夫「はい……一枚です」
夫「これが当たればよし。もし外れたら……」
妻「うん、最後の手段ね」
娘「あたし、パパとママと一緒なら怖くないよ」
夫「よし……あとは発表日まで三人で祈ろう」
夫(いよいよ今日は当選発表日だ……)
夫「なんとか当選番号を入手してきたよ」
夫「じゃあ……番号を見る」
娘「お願い……!」
夫「……」
娘「どう?」
夫「……当たった」
娘「え、ウソ!?」
夫「本当だよ! ほら見てくれ! 一等が当たった!」
娘「……ホントだ!」
夫「この宝くじの一等は五億円……! 借金返しても余裕でお釣りがくる額だ!」
娘「やったーっ!」
娘「さっそくママにも伝えなくちゃ!」
夫「いや、ちょっと待った」
娘「へ?」
夫「俺は一度ママにからかわれてるし、こんな大ニュース、ただ伝えたんじゃつまらない。だから……」
妻「あなた……宝くじはどうだった?」
夫「……ダメだったよ。やっぱり当たるわけなかった」
妻「そう……」
夫「こうなったらもう……最後の手段しかない。家族みんなで命を――」
妻「そうね、最後の手段しかないわね」
夫「なーんちゃ……」
妻「あの本に書いてあった、最後の手段を!」
夫「へ?」
妻「実は密かに色々と儀式を済ませておいて、あとは最後の呪文を唱えるだけって状態にしといたの」
夫「儀式……? 呪文……?」
妻「サタンよサタン、悪魔王サタンよ、今こそ我が魂を捧げます」
妻「我が肉体にその力の一端を授けたまえ!」
『フハハハ、一介の女でありながら我を呼ぶとは気に入ったぞ! 思う存分我が力振るうがいい!』
妻「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」バリバリバリッ
悪魔妻「すごいわこの力! 借金取りを返り討ちにするも、金品や食糧を生み出すも、思いのままよ!」
悪魔妻「オーッホッホッホッホッホ!!!」
娘「ママ……すっかり変わっちゃって……」
夫「妻に宝くじ外れたってウソついたら人間やめやがった」
―おわり―