1 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:17:15.00 iuDXAJ+q0 1/104



「おっ父!人間拾った」

「捨ててこい。」

「嫌じゃ。」

「そんなん一体どうするつもりじゃ?」

「育てて食う。」



元スレ
「おっ父!人間拾った」・・・「捨ててこい。」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1316330235/

5 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:18:52.83 iuDXAJ+q0 2/104



「ならんならん。肉は臭いし食えたもんじゃないわ。」

「なら、おっ父にはやらん。わしが食う。」

「第一育つのが遅いぞ。育てるまでに食わせる分を自分で食べたほうがマシじゃ。」

「なら、わしが餌をとってくる。」

「頭がいいからすぐ逃げるぞ。」

「なら、足だけ今食う。それなら逃げられん。」

「そんなことしたら育たん。今すぐ死ぬぞ。」

「それは困った。」


7 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:21:28.09 iuDXAJ+q0 3/104



「どっから拾って来たんじゃ?この辺には人間の集落なぞないじゃろう。」

「滝の前に落ちとったぞ。寝とったからつかまえるのは簡単じゃった。」

「そりゃ落ちて気ぃ失ってただけじゃな。あちこち怪我しとる。」

「そうか。なら、こいつはマヌケじゃな。」

「とりあえずヨモギでも巻いて戻してこい。ここで気が付いたら面倒じゃ。」

「なにが面倒なんじゃ?」

「ここを覚えられたら、大勢で追い出しに来るにきまっとる。」

「なんと、それは嫌だの。」


10 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:23:45.92 iuDXAJ+q0 4/104



「戻してきたぞ。」

「娘っ子がなんちゅうカッコしとる?毛皮はどうした?」

「寒いかもしれんから、マヌケにかけておいた。」

「余計なことを。次に鹿が獲れるまで藁を巻いとけ。」

「あれはチクチクするから嫌じゃ。」

「明日獲りに行くから辛抱せい。お前が余計なことするからじゃ。」


13 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:25:27.64 iuDXAJ+q0 5/104



「おっ父!昨日のマヌケがまた居たぞ。」

「帰っとらんかったんか。犬は連れとらんかったか?」

「犬はおらん。おったらにおいで分かるはずじゃ。わしは犬が好かんからの。」

「ほうか、ならいいが。帰っとらんという事は、わしらを探しておるのかの?」

「なんでじゃ?」

「わしが知るわけなかろうが。」


14 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:30:15.00 iuDXAJ+q0 6/104



「お前は隠れとれ。わしは焚き火を消してくる。もう遅いかもしらんがな。」

『出てこい!』

「遅かったようじゃの。」

「やれやれ、また立ち退くことになるのかの。」

「わしのせいか?」

「さあな。とにかくお前は出てくるでないぞ。」


15 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:34:28.68 iuDXAJ+q0 7/104



「一体なんの用じゃ?騒々しいぞ。」

「あ!い、い・・・」

「さっきの威勢はどうした?怯えておるのか?」

「うるさい!妹を返せ!」

「はあ?お前の妹なぞ知らんぞ?」

「嘘をつくな!トヨを・・・く、食ったのか!?」

「わしらは人間なぞ食わんわ。」

「わしら?・・・な、仲間が居るのか?」

「お前には関係の無い事だ。」


18 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:41:05.78 iuDXAJ+q0 8/104



「それともお前を食ってやろうか?」

「あ・・・ヒッ!」

「なんと!食ってもいいのか!?」

「あ、こら!出てくるなと言うとろうが!」

「トヨ?・・・いや、似ているが違う・・・」


19 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:46:18.26 iuDXAJ+q0 9/104



「それで?わしの娘がお前の妹に似ておっただと?」

「ああ、5日前から姿が見えん、本当に食っていないのだな?」

「おっ父は人間はまずいから食わんのだと。」

「不味いと知っているという事は・・・」

「今は食わんが、食ったことはあるぞ。」

「俺も・・・食うつもりか?」

「食わぬというに。」

「わしは食ってみたいぞ。」


22 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 16:56:01.56 iuDXAJ+q0 10/104



「なんでこんな山奥まで来た?わしがさらったと思ったのか?」

「他に誰がおる!?」

「誰と言われてもな、人間の里に知り合いなどおらん。」

「トヨ・・・」

「わしらが住んでおる事は知っておったのか?」

「確かめた者はおらんが、昔から猟師の間で噂はある。」

「そんな噂を信じて崖から落ちたのか。マヌケマヌケ。」


26 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 17:02:14.70 iuDXAJ+q0 11/104



「くっ・・・!だが、三日三晩さまよってこの毛皮を見つけた。これで確信した。」

「ほれ見ろ。お前がしたことが仇になっとるぞ。」

「めんぼくない。」

「とにかくそれは返せ。こいつのじゃ。」

「おー!チクチクはもういやじゃしの。」

「そうはいかん!」

「ぁん?」

「あ・・・う・・・か、返す。」


28 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 17:11:09.19 iuDXAJ+q0 12/104



「本当に妹は知らんのか・・・?」

「くどいぞ。」

「くどいくどい。」

「他に仲間は居ないのか?」

「この辺りにはおらんし。おったとしても教えんわ。」


30 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 17:20:41.67 iuDXAJ+q0 13/104



「なら妹は・・・どこへ行ったというのだ・・・」

「どこぞの男とかけ落ちでもしたんじゃろ。」

「妹は目が見えぬ。喘息もある。遠出なぞ無理だ。」

「かけ落ちとは何ぞ?」

「家族の他の者は何か言うておらんのか?」

「家族は死んだ。妹しかおらん。今は親戚の家に世話になってる。」

「同じ事じゃ、一緒に住んどる者は何か見てなかったのか?」

「うちは貧しい・・・妹以外は皆畑に出ていた。戻ってきたら消えておったと・・・」


31 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 17:27:29.12 iuDXAJ+q0 14/104



「邪魔をした。もう一度村の周りを探してみる。」

「このまま帰れると思うてか?」

「お、俺をどうするつもりだ・・・?」

「どうするつもりだ?」

「さて・・・どうしたもんかの?」

「どうしたもんか?」


35 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 17:36:25.68 iuDXAJ+q0 15/104



「ここへは一人で来たのだな?」

「そうだ。」

「ならば、お前以外は誰も知らん。そうだな?」

「そうだ。」

「・・・ここであった事は誰にも言うな。お前も忘れろ。」

「・・・出来ん。と言ったら?」

「とって食う。」


38 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 17:47:38.60 iuDXAJ+q0 16/104



「・・・わかった。ひとつ教えてくれ。」

「何度も言うが、お前の妹なぞ知らん。」

「そうじゃない、俺が起きた時、傷の手当てがしてあった。お前たちなのか?」

「おお!わしだ!わしわし。」

「それも知らん。見逃してやるからはよう去れ。」


39 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 17:54:33.65 iuDXAJ+q0 17/104



「おっ父、叔父貴が来たぞ。」

「なんじゃと?珍しい。」

「よぉ兄弟、息災かえ?」

「兄者、良くここが分かったの。」

「竹細工でトラハジキ作れるんはお前くらいのもんじゃ。」

「それでわしがこの山におると?」

「罠を見つけて、後は煮焚きのにおいをたどっての。」


41 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 18:05:19.93 iuDXAJ+q0 18/104



「で、その人間はどうしたのじゃ?食うのか?」

「あの・・・」

「ソレの事は後で話す。だが、僅かに別の人間のにおいがするの?」

「ああ、前に迷い込んだマヌケがおってな。それでじゃろ。」

「では、また食うようになったのか?」

「食ってはおらんぞ。」


44 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 18:17:31.62 iuDXAJ+q0 19/104



「なんと、そのまま帰らせただと?面倒なことになるぞ。」

「まあ、大丈夫じゃろう・・・で、ソレの事を聞いても良いか?」

「ああ、実はの、先日食った人間が連れておって・・・」

「旅の衆を襲ったのか!?その方が面倒になるではないか。もし、噂が立ったりすれば・・・」

「なに、心配はいらんよ。そいつは人買いだったでの。」

「なら心配するものもおらんな。」


46 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 18:24:57.04 iuDXAJ+q0 20/104



「こいつを食わなかったのは何でじゃ?」

「わしももう歳かの、一人食ったら腹いっぱいでの。」

「・・・・・」

「それに、お前に似ておったからの。何だか食う気にならなんだ。」

「言われてみれば似ておるかの。ハテ、目が開かぬようじゃが?」

「帰れと言っても見えねば道が分からぬだろうし、わしが人里近くまで送るわけにもいかん。」


48 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 18:30:44.46 iuDXAJ+q0 21/104



「わしもそろそろどこかに腰を据えようと思っておったから、こいつに家事でもさせようかと。」

「ま、目が見えねば枷もいらんであろ。しかし、やれやれ・・・情が移ったか。」

「お前にゃ言われとうないが、まあそういう事だの。」

「叔父貴もう旅がらすやめるのか?」

「そうじゃ。それで、ここらで住めそうな場所を聞こうと思っての。」

60 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 18:54:36.21 iuDXAJ+q0 22/104



「あいにくここらには無いの。前に住んどった処は猟師が出入りするようになったしの。」

「お前ずいぶん白いな。」

「え?」

「向こうの山ならまだ誰も住んどらんハズだが。」

「これは何ぞ?」

「櫛・・・髪を梳かす道具です。」

「山越えになるか。わしはともかくアレには難儀じゃな。」


61 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:01:53.51 iuDXAJ+q0 23/104



「いざとなったら抱えて渡るが、雲行きがよくないの。」

「夕方からは天気も崩れてきそうだの。」

「これは鏡か?全然研がれておらんの。随分くもっとる。」

「私には・・・必要ないものですから。」

「まあ、急ぐこともないのであろ?しばらくは泊まっていくがいい。」

「おう、そのつもりじゃ。なので酒を持ってきたぞ。」

「知っておったさ。だから泊めるのじゃ。」

「叔父貴泊まるのか!?じゃあ、またおっ母の話を聞かしてくれ!」


65 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:08:49.33 iuDXAJ+q0 24/104



「どうかしたのですか?」

「おっ父も叔父貴も酔っぱらって寝てしもうた。」

「・・・はい。」

「のう人間、ウタとはなんじゃ?」

「歌・・・ですか?いろいろありますが・・・」

「わしのおっ母はウタというのが上手かったらしい。さっき叔父貴が教えてくれた。」

「♪~・・・・」

「?」

「♪~・・♪♪~・・・」

「おお、おお、それがウタか!?」


67 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:16:37.32 iuDXAJ+q0 25/104



「教えてくれぬか?いや、わしにも出来るか?」

「じゃあ、一緒に歌いましょう。」

「真似をすればいいのかや?」

「♪~・・・・」

「@¥×・・・」

「♪~・・♪♪~・・・」

「△?・・※$#・・・」


69 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:20:28.09 iuDXAJ+q0 26/104



「やれやれ、2~3日のつもりが、長居してしもうたの。」

「なに、構わぬよ。あやつの伽にもなっておったしの。」

「じゃあの!歌は毎日練習するぞ!そうじゃ、これをやろう。川で拾った翡翠じゃ。」

「あ、ありがとう。」

「では気をつけての。」


71 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:30:13.53 iuDXAJ+q0 27/104



「どうした?もう疲れたのか?」

「・・・すこし。」

「休める場所が見つかるまで抱えてやるか?」

「結構です。」

「なんじゃ?まだわしが恐ろしいか?」

「・・・いいえ。」


73 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:38:17.60 iuDXAJ+q0 28/104



「おっ父!わしにも櫛を作ってくれ!」

「なんじゃ色気づきおってからに。」

「あの人間は持っておったに、ダメか?」

「作ってやらん。」

「ちえ、おっ父なぞ嫌いじゃ!」

「教えてやるから自分で作れ。」

「おお!やっぱりおっ父は好きじゃ!」


74 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:44:59.76 iuDXAJ+q0 29/104



「おっ父、マヌケがまた来たぞ。」

「忘れろと言うたにの。」

「今度は食い物もなしで山に入ったようじゃ。」

「何度も来られると困るんだがの。」

「なんでじゃ?」

「短い間に何度も行き来すると道ができるじゃろ。あいつ以外も来るようになる。」

「そうか。人間に見つかったら引っ越しじゃもんの。」


76 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:49:56.74 iuDXAJ+q0 30/104



「たのもう・・・」

「ここの事は忘れろと言ったはずだが?」

「すまぬ。」

「今日は何しに来たんじゃ?」

「今日は・・・頼みがあって来た。」


77 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 19:53:31.56 iuDXAJ+q0 31/104



「俺をここに住まわせてはくれないか?」

「いきなり何を言うとる?」

「村を捨てて来た。もうあそこには戻れん。」

「そんなことわしらの知ったことではない。」

「俺が戻ったら急に羽振りが良くなってた。おかしいと思って問い詰めたら・・・妹を人買いに出したと。」

「おっ父、もしかすると叔父貴の・・・」

「お前はだまっとれ。いいな?」


80 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:02:07.45 iuDXAJ+q0 32/104



「家のもんはみんな殺してきた。そいで騒ぎを聞いて集まって来た奴らから逃げて来た。」

「お前にどんな理由があろうがわしらに関係なかろう。」

「じゃあ、せめてこの山に住むことを許してくれ。迷惑はかけない。」

「それなら構わんが。絶対に山から出ないと約束できるか?」

「なぜだ?」

「できるのか、できんのか!?」

「・・・約束する。」


83 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:07:50.06 iuDXAJ+q0 33/104



「麓近くに前住んどったほら穴がある。そこにでも住むがいい。」

「あそこは時たま猟師が来るぞ?」

「こいつは人間じゃ。猟師に見つかっても騒ぎにはならん。」

「む。喋ってしもうた。黙らねばならぬに・・・」

「わしの目は1里先だろうと見える。約束をたがえるなよ。」

「肝に銘じる。」

「それから、しばらくの間ここへは近付くな。お前の通った跡は目立ちすぎる。」

「そうだったのか、すまない。」


86 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:14:54.10 iuDXAJ+q0 34/104



「おっ父、叔父貴じゃ。」

「よう兄弟。住処が決まったのでな。知らせに来た。」

「ほお、それは良かった。」

「今日は一人だの。」

「連れてこようかとも思ったがの、ちと困っておる。それの相談もしたくての。」


89 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:18:51.56 iuDXAJ+q0 35/104



「股から血が出てな。具合が悪そうなのじゃ。死ぬのかの?」

「なんじゃと!?おっ父、なんとかしてやれんか?」

「ああ、案ずることはない。それは月の物じゃて。本人は何と言うておる?」

「ツキ?」

「わからんと言うておった。こんなことは初めてじゃと。」

「ほうか。それはな、子供が産めるようになった証じゃ。人間なら家族で祝いを催すが・・・」

「おっ父はもの知りじゃのう。」

「じきにお前にも来るようになるぞ。祝ったりはせんがの。」

「なんと!」


92 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:22:42.19 iuDXAJ+q0 36/104



「で、どうすれば治るのじゃ?」

「放っておけば良いじゃろ。日が経てば自然と収まるものよ。」

「ならばしばらくは様子を見るかの。」

「じゃが、これからは毎月それの繰り返しじゃ。本人にも教えておくと良いの。」

「おっ父もそうなのか?」

「阿呆。なるのは女だけじゃ。」


94 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:29:19.67 iuDXAJ+q0 37/104



「マヌケの事はいいのかの?」

「おお、そうじゃそうじゃ。」

「前に来たという人間か?」

「左様、兄者はあの娘を人買いからさらったのだの?」

「そうじゃの。さらったのか助け出したのか妙な具合だがの。」

「そのマヌケはあの娘の兄で、妹を探して山に入ったらしくての。」


96 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:37:04.52 iuDXAJ+q0 38/104



「わしはお前ほど頭がようない。すまんがわからんわ。」

「言い方が悪かったの。そのマヌケは妹が見当たらなくなったから、わしがさらったと早とちりして山に来た。」

「そんでわしらが追い返したんじゃ。」

「ほうほう。」

「本当は妹は人買いに売られたからいなくなったわけじゃ。」

「その妹というのがあの娘なのだな?」

「マヌケが言うには、妹はこいつに似ておって、目が見えぬと。おそらく間違いあるまい。」


98 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:43:18.73 iuDXAJ+q0 39/104



「それからもう一つ。そのマヌケは今はこの山に住んでおる。」

「自分の山に人間を住まわせておるのか?お前のもの好きは底がないの。」

「妹を売られたことに腹を立て、家のものを皆殺しにして逃げて来たんだと。」

「いやはやなんとものう。わしらより人間の方がよっぽどえげつないではないか。」

「どうするかの?会わせてみるかえ?」

「会わせてやりたい・・・の間違いではないのかの?」

「まあ、そうとも言うかの。よし、マヌケを呼んでこい。」

「おお!心得たぞ!」


103 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:48:31.77 iuDXAJ+q0 40/104



「・・・というわけじゃ。おっ父と叔父貴が呼んでおるからついて来やれ。」

「その話、本当なのか?」

「わからぬよ、お前が会ってみんことにはな。お前の妹の顔はお前しか知らんのじゃ。」

「そうだな。わかったすぐに行こう。」

「まてまて、そっちはダメじゃ。また草が踏み倒される。こっちから登って行くぞ。」

「こんなところ登れるはずがないだろう?」

「だらしないの。ならわしが抱えてやるわな。」


108 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 20:53:33.34 iuDXAJ+q0 41/104



「すまんの・・・おっ父や叔父貴のようにはいかなんだ。もうちっとわしに丈があればの。」

「俺を片手で持ちあげるだけでもすごいとは思うが・・・イテテ」

「だが釣り合いがとれん。両手で抱えたら登るのに使う手が無くなるしの。」

「やっぱりあっちから行った方が・・・」

「そうじゃ!お前、わしにおぶされ。抱えられんなら背負えばいいんじゃ。」

「こ・・・これでいいか?」

「ぬほほ・・・なにやらこそばゆいの。」

>>104青と黒は2mちょい、赤は150cmくらい。
つか、風呂入ってくる。


129 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:12:33.02 iuDXAJ+q0 42/104



「♪~・・・♪~♪~・・・」

「その歌は・・・」

「おお!歌がわかるのか?なら、お前も習うと良いぞ。」

「俺は歌は不得手なんだ。その代わりにこれを吹いている。」

「なんじゃそれは?竹ではないのか?」

「これは笛というものだ。こうすると音が出る。」

「♪-・・・♪-♪-・・・」

「なんと!」


136 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:18:39.18 iuDXAJ+q0 43/104



「ぐぎぎ・・・全く音が出ぬ。頭がくらくらしてきたぞ。」

「一朝一夕では無理だろう。壊す前に返してくれ。」

「うぬぬ・・・返す。」

「ん?こっちじゃないのか?」

「そっちは嫌じゃ。通りとうない。」

「ああ、ヒイラギか・・・意外と言えば意外だな。こんなものが怖いとは。」

「怖くなぞないわ!嫌いなだけじゃ!ほれ、はよう来い。」


143 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:24:37.59 iuDXAJ+q0 44/104



「おっ父!待たせた!連れて来たぞ。」

「ほう、こやつがそのマヌケか。」

「そうじゃ、そのマヌケじゃ!」

「は、始め・・・まして・・・?」

「言うまでも無いが、そいつはわしの山の者じゃ。勝手に食ってくれるなよ。」

「心得ておるよ。一応は客人としての扱いはする。だが、この山の外で会った時は・・・」

「それは言ってある。山から出るな。とな。」


146 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:27:50.99 iuDXAJ+q0 45/104



「では行ってくるがいい。お前は場所を覚えてわしに教えろ。」

「おっ父は行かんのか?」

「人間の足にあわせれば往復に何日かかかるじゃろ。その間ここを留守には出来ん。」

「うむー。いたしかたないの。」

「そうじゃ、この辺りで塩は採れんか?わしらには毒じゃが、人間の食事には必要らしいでの。」

「尾根づたいに行けば魚の棲まぬ湖がある。そこらを掘れば岩塩が出るであろ。」

「ふむ。ちと寄り道になるが、近いもんじゃな。」

「どうやって運ぶのじゃ?」

「こやつが持てばよかろう。」


148 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:36:06.93 iuDXAJ+q0 46/104



「のう、人間。家の者を殺してきたというのは本当か?」

「・・・本当です。」

「わしが聞いた話では、お前が祝言を挙げるための元手が必要で身売りしたと。」

「そんな馬鹿な。」

「重荷になっていた自分でも、兄に報いることができたのだと。」

「祝言とはなんじゃ?」

「夫婦になることじゃ。」

「メオト?おっ父とおっ母になる約束か!」

「俺にそんな話が来ていたことなどない。そうか、あいつら・・・妹を騙して売ったんだ。」


153 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:46:04.39 iuDXAJ+q0 47/104



「まあ、そんなところかのう。人違いという事もあるにはあるが・・・」

「ついたぞ。ここがおっ父が言っておった湖じゃ。」

「ホントに魚がおらんのじゃな。あちち!うかつに近寄らんほうがよさそうじゃの。」

「大げさじゃの。叔父貴もこれがだめなんか?わしは何ともないぞ。」

「うむー・・・そらお前、お前はまだ若いからじゃ。おい坊主、それを5貫ほど集めて持ってこい。」

「坊主・・・?」

「叔父貴、こいつは坊主ではない。マヌケじゃ。」

「・・・・・」


156 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:54:05.03 iuDXAJ+q0 48/104



「さて、もう日も傾いてきたし。この谷を渡ったら暖をとるかの。」

「わしらはいいとしてものう・・・」

「うー・・・」

「なに、疲れとるのを差し引いても人間が渡れるとは思っとらんわ。」

「ではどうするのだ?」

「わしが向こうまで投げ渡す。」

「なんと!」


160 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 21:59:39.67 iuDXAJ+q0 49/104



「木の枝の中に投げ込むからの。下まで落ちる前に何かにしがみ付け。よいな?」

「え?」

「よっ・・・と」

「・・・・・え?」

「ヨイサー!」

「えあ?おおおおおお!・・・ぉぉぉぉぉ・・・・!?」


163 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:04:02.11 iuDXAJ+q0 50/104



「さて、寝る前に腹ごしらえじゃ。燻製じゃが人間の口にはあわんかもの。」

「おお、豪勢じゃの!これは鹿か?山羊か?」

「羊じゃ・・・二本脚のな。」

「ブッ!」

「そんなもんがおるんか?」

「まあ嘘じゃ。安心せい、鹿の肉じゃ。」

168 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:07:18.13 iuDXAJ+q0 51/104



「よし!笛じゃ!笛を吹くのじゃ!聴かせたもれ。」

「ほう、それは篠笛だの。心得があるのか?」

「うん・・・まあ。」

「ならば存分にやれ。笛の音色はわしも好きだしの。」

「♪-・・・♪-♪-・・・」

「♪~・・・♪~♪~・・・」


170 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:12:04.72 iuDXAJ+q0 52/104



「Zzz・・・」

「寝てしまったか。のう、こいつは変わり者じゃ。そう思わんか?」

「良く分からない・・・」

「まあそうか。人間はわしらのことなぞ良く知らんだろうしの。」

「・・・・・」

「何にでも興味を持つし、何でも真似したがる、そのうちわしが教えられる立場になりそうじゃ。」


173 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:17:18.36 iuDXAJ+q0 53/104



「着いたぞ。ここがわしの住処だ。おおい!今戻ったぞ!」

「おかえりなさいませ。あら?」

「堅っ苦しいのう。もう少し気を抜かんかえ。まあいい、客じゃ。」

「わしじゃ、遊びにきたぞ!それと・・・」

「よかった。無事だったんだな。」

「兄さん?」


177 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:22:08.42 iuDXAJ+q0 54/104



「変わりはないか?」

「はい。」

「月の物が来たそうじゃな。見せてみい。」

「え?」

「良いではないか!良いではないか!」

「やめて!やめてください!」

「ならば交換条件だ。わしのも見せるから見せあいこじゃ・・・っと、お前は見えんのだの。」

「やめんか。積もる話もあろうし、まずは話をさせてやらんか。」

「おお、そうじゃの。」

180 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:25:28.58 iuDXAJ+q0 55/104



「怖かったか?もう大丈夫だからな。」

「初めは色々と驚きましたが、今は平気です。それよりこんなことになってしまって・・・」

「こんなこと?」

「いえ、その・・・人買いの人は食べられてしまって。でも私の代金は先に受け取っていますよね?」

「あ、ああ・・・」

「祝言は無事に済みましたか?兄さんのためとは言え、こんなことでしか役に立てず・・・」

「もう、いいんだ。」

「奥さんは優しい方ですか?おじさまやおばさまは元気にしていますか?」

「・・・・・」

「兄さん?」

「ああ、うん・・・みんな変わりないよ。みんなお前に感謝している。」

「なんと!」


182 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:30:30.48 iuDXAJ+q0 56/104



「おまえはちとわしとこっちに来い。」

「なんでじゃ?」

「ええから来るんじゃ。」

「遠かったでしょう。疲れてはいませんか?」

「確かに疲れはあるが、お前に会うためだ。なんのことはない。」

「いけません、新しく一家の主になったのですから、自分の家を大事にしてください。」

「そ、そうだったな。すまん。」

「でも、嬉しいです。本当に・・・」

「おーい、ちとこっち来て荷物を運ぶのを手伝ってくれいや。」

「あ、はい。」


184 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:36:16.09 iuDXAJ+q0 57/104



「なにを運べば・・・?」

「お前の力なぞアテにしてはおらん。ちと耳を貸せ。」

「なんで本当のことを言わんのじゃ?」

「・・・言えるわけがない。あいつは売られても俺達の事を案じてくれていた。」

「そのようじゃの。」

「俺は・・・俺は、それを全部壊して逃げて来たんだ。」

「わしらは嘘が下手じゃ。お前のことは『良く知らん』で通すから、自分で話を会わせるのだ。それで良いな?」

「そうしてくれると、助かる・・・」

「お前もじゃぞ。」

「わしもか!」


189 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:42:19.78 iuDXAJ+q0 58/104



「塩を持ってきたぞ。岩塩というらしい。すり潰して使うと良い。」

「兄さんは、どこで皆さんと知り合いになられたのですか?」

「良く知らん!」

「薪を採りに山に入った時に・・・」

「会ったのがわしの兄弟で良かったの。他の者なら今頃食われとるぞ。」

「叔父貴でもか?」

「そうじゃろうの。まあ、これからはわしも人食いはやめることにするがの。」

「もうあの音は聞きたくないです・・・」


191 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:48:35.38 iuDXAJ+q0 59/104



「また・・・以前のように笛を吹いてはくれませんか?」

「ああ、構わないよ。」

「おお!お前も笛好きか!わしもだ!」

「♪-・・・♪-♪-・・・」

「♪~・・・♪~♪~・・・」

「♪~・・・♪~♪~・・・」


194 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 22:54:22.00 iuDXAJ+q0 60/104



「Zzz・・・」

「ん?髪を梳いておるのかや?おお!そうじゃ。見よ!わしも作ったぞ!」

「・・・・はい?」

「・・・つまらん。お前はつまらんぞ。なして見えんのじゃ?」

「そう言われましても・・・」

「ホレ、おっ父にならってわしも櫛を作ったのじゃ。まあ、上手く使えんのだがの。」

「少しお借りします。それからもう少しこちらに・・・」

「おお!梳いてくれるのかや?」

「引っかかったり、痛かったら言ってください。」


198 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:03:17.14 iuDXAJ+q0 61/104



「奇麗な髪・・・なのでしょうね。指通りがいいのでわかります。」

「わしの髪はおっ母に似たのだそうじゃ。おっ父も叔父貴もモジャモジャだしの。」

「はい、おしまいです。」

「次はわしがやる!お前の髪を梳いてみたいぞ!」

「力任せにしてはダメですよ?」


200 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:08:18.53 iuDXAJ+q0 62/104



「朝ぞ。起きれ。」

「ふわ!?」

「・・・・む。」

「どうする?今日も一晩泊っていくか?わしは構わんが。」

「・・・・いや、帰ろう。」

「つまらんのう・・・じゃあわしも帰るしかあるまい。」

「そうか。まあ飯くらいは食っていけ。」


202 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:12:37.95 iuDXAJ+q0 63/104



「どうぞ、有り物ですが。あ、兄さんはこちらを。」

「ん?」

「なんじゃ?贔屓か?ずるいぞな。」

「いえ、こっちは塩が入れてあります。」

「あれか。ならわしは大丈夫じゃ。少し分けい。」

「意地汚い事を言うでない。あ!こら!」

「おお!これはこれでなかなか!」


205 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:18:52.54 iuDXAJ+q0 64/104



「のう、叔父貴。わしの目を一つ、こいつにくれてやることはできんかの?」

「お前の頭には一体何が入っておるのかのう・・・」

「わしはおかしなことを言うたのか?」

「馬鹿にしておるのではないぞ。わしにはそんなこと思い付かんかったでな。」

「目は二つついとるが、ホレ!片方だけでも物は見えるぞ。」

「まあ、無理じゃ。」

「そうか。」


211 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:25:02.63 iuDXAJ+q0 65/104



「どれ、送って行ってやるかの。」

「その・・・送らなくてもいいから、妹の傍にいてやってもらえないだろうか・・・」

「それは構わんが。道はわかるのか?」

「・・・たぶん。」

「道ならわしが覚えとるぞ。」

「ほうか、んなら気をつけての。」


212 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:31:00.74 iuDXAJ+q0 66/104



「そうじゃ、帰る前にひとつ教えておいてやろう。」

「?」

「わしらは比べごとをするのが好きじゃ。」

「比べごと?」

「力比べ、駆け比べ、丈比べと色々じゃ。」

「おっ父と叔父貴は酒の飲み比べをやっておったの。」

「もし、他の者に会う事があったら、命乞いをするよりも勝負を挑んで勝つほうがいい。」

「それに負けたら・・・?」

「まあ食われて終わりじゃな。しかし、勝負を受けた以上は勝者が絶対じゃ。相手が人間でもな。」


217 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:35:53.30 iuDXAJ+q0 67/104



「行ってしもうたぞ。もう手を振っても見えとらんじゃろう。」

「兄さんは、私に何か隠し事をしていましたね?」

「ほう。わかるのか。知りたいか?」

「はい。・・・ですが、兄さんが言いたくなかったのであれば聞きません。」

「まだまだわしにはお前らの考えがわからんわ。」


218 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:40:42.85 iuDXAJ+q0 68/104



「妹に会えてどうじゃ?嬉しかったか。」

「ああ、うん。」

「それにしては浮かない顔をしておるの。」

「お前の叔父貴は、妹を大事にしてくれるだろうか?」

「それはわからんの。食わんと言っておったし。役に立つ間は生かしておくのではないか?」

「買われていくよりは、その方が幸せかもしれん・・・」

「しあわせ?なんじゃそれは。楽しいことか?」

「幸せと言うのは・・・」

「どうした?教えられんか?」

「嬉しい気持ちが続くことか?辛い事が少ないことか?・・・良く考えたら俺にもわからん。」

「なるほど!つまり、いいかげんなことだな!」


222 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:49:25.23 iuDXAJ+q0 69/104



「うむ、困ったぞ。わしは叔父貴のように遠くまで投げられん。」

「いや、あれはもう勘弁してほしい。」

「よし。飛び越えるぞ。わしにおぶされ。」

「大丈夫なのか?」

「お前は見ておらんかったであろ。来るときは叔父貴もわしも飛び越えたのじゃ。」

「じゃあ、頼む。」

「しっかりつかまっておれよ!」


223 : 以下、名... - 2011/09/18(日) 23:55:06.01 iuDXAJ+q0 70/104



「すまんの。お前の目方が増える事を考えておらなんだ。」

「水が深くて助かったが・・・本当に死ぬかと思った。」

「おいマヌケ。火を炊け。濡れたものを乾かすぞ。」

「お前もマヌケだ!このマヌケ!」

「なんと!」


233 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:00:05.36 rMQj8kBA0 71/104



「寒いぞ。もっと寄らんか。」

「火にあたればいいだろう。俺だって寒いわ。」

「わからん奴じゃな。こうすればお互いに温かいであろ?」

「いや・・・これはちょっと・・・」

「なんじゃ?わしが恐ろしいのか?噛みついたりせんからじっとしておれ。」

「・・・意外と柔らかいんだな。」

「知らんのか?女は柔らかいものぞ!」


240 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:05:28.68 rMQj8kBA0 72/104



「だいたい乾いたぞ。さっさと着てしまおう。」

「んん?お、そうか。ぽかぽかして寝ておったわ。」

「おかげで背中がヨダレまみれだ。」

「今からよじ登るのは億劫じゃの。今夜はここで寝るとしよう。」

「大丈夫なのか?こんなところで。」

「わしがおればの!仲間も地の利もなしに、自分より強いものを襲う獣はおらん。」


242 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:11:38.45 rMQj8kBA0 73/104



「おっ父!今戻ったぞ。」

「戻ったか。どうじゃった?」

「いろいろと楽しかったぞ。今度案内するぞ。」

「じゃあ、俺はここで・・・」

「妹には会えたんか?確かめて来たか?」

「こいつはおかしいのだ。妹に本当のことを言わん。」

「なんぞ思うところがあったのじゃろ。行方が知れただけでも果報というもんじゃ。」


244 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:15:50.01 rMQj8kBA0 74/104



「おっ父は幸せというものがわかるかや?」

「難しい言葉を覚えて来たな。あのマヌケが言うとったのか?」

「そうじゃ、じゃが自分でもよくわからんのだと。」

「まやかしじゃ。人にもよる。時にもよる。色々と意味を変えて皆を惑わすものだの。」

「やはりいいかげんなものなのじゃの。」

「だがの、存在せんわけではない・・・ま、お前にゃわかるまいて。」


250 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:21:17.86 rMQj8kBA0 75/104


「おっ父!わしも血が出た!」――――
「ほう。だが祝ってはやらんぞ。」――――

・・・・・・・・・・

「おっ父!マヌケのところへ行ってくるぞ!」――――
「お前はあやつが気にいっとるようだの。」――――

・・・・・・・・・・

「・・・叔父貴が来とるぞ。はよ起きれ、だらしのない・・・」――――
「嫌われたもんじゃの・・・」――――

・・・・・・・・・・

「うるさいわい。お父には関係の無い事じゃ。」――――
「子が育つのは嬉しくも・・・痛し痒しというところだの・・・」――――


252 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:26:16.76 rMQj8kBA0 76/104



「お父、毛皮がきつい。新しいのを作ってくれ。」――――
「この前仕立てたばかりじゃのに。もうか?」――――

・・・・・・・・・・

「お父、叔父貴のところへ行こう。」――――
「お前もそろそろ一人前じゃ、一人で行っても構わんのだぞ?」――――

・・・・・・・・・・

「♪~・・・♪~♪~・・・」――――
「♪-・・・♪-♪-・・・」――――



256 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:30:34.13 rMQj8kBA0 77/104



「ここのところ毎日来ているな。」

「お前と一緒におると楽しいからな。迷惑か?」

「いいや。むしろ感謝しているくらいだ。」

「なんじゃ?いきなりあらたまって。」

「ずっと一人でいたら、もしお前という話し相手がいなかったら、俺はとっくに気が狂っていたと思う。」

「そうか、ならばこれからも感謝するがいい。」


260 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:35:47.65 rMQj8kBA0 78/104



「この時分には珍しい長雨じゃの。こりゃあところどころ崩れるかもしれん。」

「叔父貴のところは大丈夫かの?」

「兄者よりも心配な者が他におるじゃろう?」

「な、何を!?わしはただ・・・」

「この雨じゃ、さすがに川には近付かんとは思うが、様子を見てこい。」

「お父がそういうなら仕方ないの。行ってくる。」

「やれやれ・・・誰に似たのやらのぅ・・・」


264 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:42:17.43 rMQj8kBA0 79/104



「洞におらんと思ったら・・・何をやっとるんじゃ!?こら!しっかりせい!」

「ガハ!ゲホッ・・・ゲホッ!・・・」

「わしが見つけなんだら死んどったぞ!?こんな大水に水浴びでもしようと思ったんか?」

「・・・足をとられて・・・ゲホッ!」

「もういい!肩を貸してやる、はよう中に入れ!」

「フヒュー・・・フヒュー・・・」

「ちょっと破くぞ。濡れた服が絡んで脱がせられん。」


268 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:47:01.70 rMQj8kBA0 80/104



「水はそんなに飲んでおらんな?全部吐き出したか?」

「・・・・ああ、吐いた。」

「薪はあるが焚きつけが湿っとる。すぐには着かんな・・・」

「うぅ・・・・はぁ、はぁ・・・」

「いかん、体が冷え切っとる・・・ええい、あれこれ考えとる場合か!」


274 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 00:54:28.97 rMQj8kBA0 81/104



「あれ・・・助かったのか・・・?」

「む、起きたか。良かった良かった。」

「顔がちか・・・お前!何を!?」

「こら!見るでない。目はずっと閉じておけ!」

「すまん!」

「息苦しくはないか?重ければ少し身をずらすぞ。」

「大丈夫だ・・・その・・・すまん。」

「まず礼を先に言わんか・・・まだ震えておるの。しばらくはこのままにしておれ。」


276 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:00:37.48 rMQj8kBA0 82/104



「なぜ濁流にもまれておった?」

「笛を落としてしまって、拾おうとしたら足をとられて落ちてしまった。」

「マヌケが!笛どころか命まで落とすところだったのだぞ?」

「吹いてやれなくなると、お前が悲しむと思った。本当にすまなかった。」

「わしのせいで死にかけたと?ふ、ふざけるでないわ・・・」

「軽率だった・・・・・む?」

「泣いてなぞおらんからな!ゴミが入っただけじゃ!」


280 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:05:48.36 rMQj8kBA0 83/104



「こんなザマで言う事じゃないかもしれんが、俺と一緒になってはくれないか?」

「一緒じゃと?」

「所帯をもってはくれないか?」

「自分が何を言うておるのかわかっとるのか?」

「やっぱり人間は人間と一緒になるべきと思うか?だが、俺はお前がいい。」

「他に人間がおらんから、わしで妥協するのではあるまいな?」

「そう思うのか?」

「思っとらん。」


283 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:12:26.48 rMQj8kBA0 84/104



「雨が上がったら、一緒にお父の所へ行こう。」

「許してくれるだろうか?」

「お父が恐ろしいか。」

「親父殿は・・・怖いな。頼み事が事なだけに。」

「前に叔父貴が言うたことを覚えておるか?」

「比べごとか・・・」


285 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:19:55.45 rMQj8kBA0 85/104



「お父、戻ったぞ。」

「遅かったの。」

「死にかけておったから介抱しておった。」

「この度は迷惑を・・・」

「よせよせ、こいつが勝手にやったことじゃろうて。して、その神妙な顔は何事かの?」

「俺はこいつと夫婦になりたいと思う。そこで親父殿に許しを頂きたい。」

「わしが許すと思うてか?」

「許しをもらえないのなら、親父殿に勝負を申し込む。」

「比べごとを挑まれたとあっては受けぬわけにはいかんな。」


289 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:23:12.07 rMQj8kBA0 86/104



「して、何を競うのじゃ?」

「え?何をって?」

「力比べに丈比べ、何でも良いぞ。知恵比べ以外なら何でもな。」

「俺が決めてもいいのか?」

「挑んできたのはお前であろう?もっとも、腕力や脚力では勝負になるまいがな。」

「しばらく考えさせてはもらえないか?」

「わしが娘を掛けておることを忘れるなよ。取るに足らん勝負なら・・・殺すぞ。」

「お父・・・」

「明日までじゃ。明日まで時間をやる。ふさわしい勝負を考えてこい。」


293 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:26:53.91 rMQj8kBA0 87/104



「お父・・・わしはただ・・・」

「お前は口をはさむでないぞ。わしとあの男の勝負じゃからの。」

「お父は勝ったらどうするつもりじゃ?」

「山から出て行ってもらうとしようかの。」

「それはあんまりじゃ!」

「じゃが、わしとてそのくらいの代償は乞わねば釣り合いが取れんわ。」

「あやつと離れるのは嫌なのじゃ。」

「お前はあやつが負けるとしか思えんのか・・・」


296 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:31:28.76 rMQj8kBA0 88/104



「何比べをするか決まったかの?」

「我慢比べを・・・受けてもらえるだろうか。」

「ほほう。力では敵わんとみて我慢比べと来たか。面白そうじゃの。」

「これならば、覚悟の程も証明できると思う。」

「では、それをどうやって競う?」

「生爪を剥がしていき、先に根を上げた方が負け。ではどうか?」

「面白い。受けて立つぞ。」


302 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:34:34.70 rMQj8kBA0 89/104



「だが、足を入れても20枚。どちらも耐え切ったとするならどうなる?」

「引き分けにして、日を改めて別の勝負を挑みたい。」

「良かろう。ただし、こいつの爪はお前が剥がすのだ。わしの代わりだ。よいな?」

「なんでわしが!?そ、そんなこと・・・」

「わしの代わりと言うておる。わしがやれば指ごと引き抜いてしまうかもしらんぞ?」

「うう・・・引き受けた。」

「そして、わしが勝ったら山から出て行ってもらう。以後、二度と山に入ってはならん。よいな?」

「わかった。」


308 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:38:31.05 rMQj8kBA0 90/104



「やってくれ。」

「いいんじゃな?剥がすぞ?・・・うーーーー・・・うぅ・・」

「いあ!ぎっ!ふぅ・・・ふぅ・・・」

「次はわしか・・・よう見とれよ。ぬぅ!・・・くっ!・・・どうじゃ。」

「まだまだだ。さあ、次は人差し指を・・・」

「うむ・・・」

「どうした?早くやってくれ。」

「いーーーーーっ・・・」


313 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:41:24.55 rMQj8kBA0 91/104



「い、嫌じゃ。もう無理じゃ。」

「出来んというなら根を上げたと見なすぞ?」

「待ってくれ!さあ早く!俺なら平気だ。」

「嫌なものは嫌じゃ!お前を傷つけてまで続けとうないわ!」

「頼む!お前のために耐えているんだ!」

「出来んものは出来ん!」

「勝負あり。じゃな。」


315 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:44:22.12 rMQj8kBA0 92/104



「くっ・・・・!」

「いいんじゃ。お前が山を出るならわしも付いていく。そう決めた。」

「だが、それでは・・・」

「なにを言うておる?お前はわしの代わりじゃぞ。」

「?」

「お前が根を上げたのだから、この勝負はわしの負けぞ?」

「なんと!」


324 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:47:10.52 rMQj8kBA0 93/104



「わしをたばかったのか!?」

「何を言うか。お前こそ勝っても負けても損をせぬ算段をしておったではないか。」

「いや・・・あれは、咄嗟に思い付いただけで、お父と離れるのも嫌じゃぞ。」

「ふん、それを聞けただけでも良しとするかの。」

「だが、こやつよりはお父と離れる方がマシじゃと思うただけじゃ。」

「それは言わんほうが良かったの。」


332 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:49:59.92 rMQj8kBA0 94/104



「とにかく、お前の覚悟はしかと見届けたつもりじゃ。」

「じゃあ、許してもらえるのか?」

「改めてこいつの事を頼むぞ・・・あー・・・その・・・」

「どうしたんじゃ?クソでも漏れそうか?」

「む・・婿ど・・の?」

「なんじゃ、照れておったのか。」

「うるさいわ。とにかく、今日はめでたい日じゃ。宴の用意じゃ。」


340 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:54:35.92 rMQj8kBA0 95/104



「親父殿、正直なところ俺はまだまだ頼りなく見えると思う。」

「まあ、そうだの。」

「こいつに苦労もかけることもあると思う。」

「仕方なかろうな。だが、度が過ぎるようならわしが殺す。」

「そんなことはわしがさせんがの。」

「一気に立場が弱くなった気がするの・・・」

「これからのことに全く不安が無いわけじゃないが、親父殿には・・・」

「まどろっこしいのは好かんので言わせてもらうがの。お前らはたぶん大丈夫じゃ。」


342 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:56:51.81 rMQj8kBA0 96/104



「根拠ならあるぞ。こいつの半分は人間じゃからの。」

「わしが?」

「え?」

「どういう事じゃ?」

「わしという前例があるのだ。今のお前らの関係はわしが既に通った道ぞ。」

「それはつまり・・・どういう事じゃ?」

「お前の母親は人間だったという事じゃ。」

「なんと!」


346 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 01:59:04.79 rMQj8kBA0 97/104



「お母が人間?」

「知らなかったのか?」

「まあ無理もなかろ。まだ小さかったころに病に臥して死んでしもうたからの。」

「だから人を食べるのをやめた・・・と?」

「それもあるがの。こいつに人間の味を覚えさせとうなかった。それが一番の理由ぞ。」

「なぜ教えてくれんかったのじゃ!?」

「聞かれんかったからの。」


348 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 02:01:04.53 rMQj8kBA0 98/104



「動揺せん年頃になれば、聞かれずとも教えるつもりではおったがの。」

「わしのお母は人間か?などと、聞こうと思う機会なぞあるはずもなかろうが。」

「だから今教えたではないか。」

「そうなのだが・・・納得いかん。」

「とにかくめでたい席じゃ。飲め、それから食え。」


351 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 02:02:34.47 rMQj8kBA0 99/104



「♪~・・・♪~♪~・・・」

「どうした?今夜は子守唄ではないな。」

「ええ、笛の音が聞こえたような気がして。」

「合わせて歌っておるのか?わしには聞こえんが。」

「いいえ、本当に聞こえるわけではないのです。」

「お前は時々おかしなことを言うの。」

「それより、名前はまだ決まりませんか?」


361 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 02:04:53.70 rMQj8kBA0 100/104



「お父、明日は叔父貴のところに報告に行こうと思う。」

「そうじゃの。それが良かろう。」

「義妹?いや叔母になるのか?とにかく先を越されっぱなしじゃからの。」

「また妙なことを考えとるな。比べ好きはわしの血かの。」

「わしらは数で対抗しようと思うのじゃ。」

「何の事を言うておる?」

「子供じゃよ。手始めに10人ほどこさえるか?」

「なんと!」


――――――――――――――――――――おわり


375 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 02:08:25.74 rMQj8kBA0 101/104


最後まで付き合ってくれたおまいらに感謝。
もやもやしてるトコあったら補足入れるが


381 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 02:12:25.79 3RWrPSse0 102/104


>>375赤は誰似なのか


382 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 02:12:30.66 pKXyymU50 103/104


家のもん皆殺しの理由は?


386 : 以下、名... - 2011/09/19(月) 02:18:57.64 rMQj8kBA0 104/104


>>381
容姿は特に参考は無い。人当たり(?)的なものしかイメージしてなかった。

>>382
>>77神隠しだとスッとぼけてたが、男が帰宅したら贅沢してた。
問い詰めたら売ったことを白状→男が逆上してヌッころ


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