関連
北上「我輩は猫である」【前編】
北上「我輩は猫である」【中編】
43匹目:cat burglar
意味:泥棒、空き巣
二階から侵入する空き巣とかを指してそう言う。
泥棒猫、猫泥棒。
最も私は入口から堂々と侵入しているのだけれど。
いや自分の部屋なんだから侵入とは言わないか。
強いて言うなら、プライベートに侵入する。
日本には
例えば兄弟や友人、彼氏の家に遊びに来た時などにとりあえずその部屋にエロ本がないかを探す文化があるらしい。(夕張談)
艦娘である私にとってそれが果たして一般的にどれほど行われている行為なのかは皆目見当がつかないが、
そういった秘匿しているもの。秘密にしている何かを見つけるというのは実に背徳的で興味をそそられるというのは分かる。
気になる。
気になるけれどこれまで気にならないふりをしていたが、せっかくの機会だ。
存分に探索しよう。
北上「よし」
場所、球磨型の部屋。
皆は今のところ出払ってる。
時間制限、最低でも1時間。
がっつり皆の私物を漁っていこう。
全員分漁るとなるとなかなかの量に思えるかもしれないけど、実のところ個々の私物の量はかなり少ない。
理由は単純部屋が狭いから。
私達が下手なだけという可能性は否定出来ないが四人部屋を5人で分けて使うというのはなかなか難しいのだ。
図書室の完成で私の荷物がかなり減ったのだけどその代わり球磨姉の作った棚が共用として置かれたので結局私物の量はあまり変わっていない。
北上「まあ最初はやっぱ球磨姉だよね」
球磨姉の机に向かう。
仕事用というよりは勉強机と言った感じの木製の机。ほかも似たり寄ったりだ。
北上「さてと」
あまり躊躇せず上から棚を開いていく。
左棚右棚、横についてるタンスの上からひいふうみい最後に大きめの棚。
内容は釣り雑誌情報誌、何かの作戦の書類、誰かからもらったのか封の空いてない手鏡etc
北上「これは…」
様々な種類の熊のボタン。
集めてるのかな?それとも駆逐艦から貰ったとか。
しかしまあやはりこれといったものは何も無い。
球磨姉は、はっきり言って何も無い。
いやこの表現は少し違うな。
表裏がない。
360度どこからみても球磨姉ちゃんであり微分しようが積分しようが球磨姉ちゃんなのだ。
私達の頼れるお姉ちゃんなのだ。
北上「ん?」
これは、料理本!?料理なんてしないはずだが…
唯一付箋が貼ってあるページを開いてみる。
北上「そんなに片手で卵割れるようになりたいのか…」
なんとも球磨姉らしい。
2番手、木曾。
なのだが、正直躊躇するものがある。
木曾はまず、絶対に何かある。その上でなんというか、見るのが怖い。
こう、痛々しいというか、見てるこっちが恥ずかしくなるようなものがありそうで。
具体的にいえば黒歴史的なにかである。
偏見かもしれないが。
まあ見るけど。
まず出てきたのは剣道の本。
これはまあ普通。やってるし。
上から初級中級上級。
おや最後のこれは普通の本だ。
北上「どれどれ」
パラパラと流し見してみる。
うん。所謂ラノベ、勧善懲悪ものだ。
主に刀を持った主人公が活躍するやつ。
いやいやこれくらいは普通だよ憧れるよ。
やってんだもん剣道。
私だって猫ってだけで猫の本読みたくなるもん。
さて二段目の棚に。
また剣道の本と雑誌。
そして最後に、刀雑誌。
北上「ワンパターン過ぎでしょ!!」
思わず声が出た。
それほど隠す気がないながらもなんとな~く見られたくない的な気持ちが漂う配置。
なんだろうこのこっちまで心の隅っこ当たりをくすぐられる感じ。
世の母親は息子のエロ本を見つけるたびにこんな感じになってたりするのだろうか。
いやいやいやでもね、剣道やってるしさ、本人も元から刀、軍刀?刃物さしてるしさ。
趣味がこうじてこういったものに興味を示すのも自然な流れだようん。
さあラスト行ってみよう。
北上「お」
ファッション誌?これは意外な。
そういえば皆で街に行く時はお洒落してくーなんて大井っちが言ってたっけ。
木曾も乙女なんだなあ。
その下もファッション誌ファッション誌ファッション誌ファ
北上「じゃなーい!」
一番下のファッション誌(表紙)を取り出し不自然に凹んでるカバーをつまんではずす。
タイトル:イケてる眼帯
北上「…」
そっちか
大井っちの机は他のみんなとは違って色々なものが置いてある。
そもそも私も含めて机を使う事が皆少ないのだ。
何かを書くための最低限の文房具と小物を除けばあとは雑誌や本が仕舞ってあるだけ。
基本的に外か海にいるし今は大抵の事がスマホで出来るのが原因だろう。
球磨型には机を使うような趣味を持つ人がいないし。
そんな中大井っちの机には、例えば裁縫道具やアクセサリー、色々な色のペンやヘアピン櫛髪留め。
雑誌や本も裁縫料理ファッションなどなど沢山ある。
マヂ女子力ちょぉ高い。球磨型の女子力は全て大井っちに集約されていると言っても過言ではない。
私の髪を梳いてくれるのも、結んでくれるのも大井っちだ。
今使っている髪留めも大井っちの自作だとか。
改めて考えると大井っちに色々やってもらい過ぎである。
向こうが好きでやってくれているとはいえ。
北上「ありがとね」
流石になにか覗くようなものもないし、本命に行くとしよう。
北上「ゴクリ」
と口に出してみる。
いよいよ大本命。
あるかどうかは分からないけど。
さて中身は、
まずは猫関係の本。
いちいち反応してたらキリがないな。
次だ次。
北上「あ」
トランプゲーム攻略本だと?この前からやたらとトランプゲームを推してくると思ったら…これか。
しかも戦績は特に良くはない。
これは、CDか。随分古いものだ。
タイトルは『カレーライス』。なんで?
んー他も大したものはないなあ。
これは、メモ帳かな?
〇月〇日、皆で海に行った。
北上「うおっ!」
つい手を離してしまう。
まさか日記帳かこれ!
多摩姉がこんなもの付けてるとは…
日記帳の下には同じ日記帳がビッシリ詰まっていた。これだけの量。着任当時からつけていたに違いない。
大当たりを引いてしまった。
恐る恐る一番下の日記帳を取り出して、開く。
北上「って、ありゃ。やぶけてら」
前半のページがごっそり無くなってる。
残ってるのは…四年前の日付か。
〇月〇日、全部回収された。今日からここが最初のページになる。でも忘れるわけにはいかない。他の娘もきっとそうだ。
四年前?
というと、提督がここに着任した時期か?
でも回収ってなんだ回収って。
あれ、というか
北上「多摩姉っていつからここにいるんだ」
ここの艦娘は基本的に提督が来たあとに、つまりここ4年の間に着任している。
後は提督着任前からここにいるという吹雪、谷風。
でもだとしたら着任前からここにいるのは吹雪だけじゃないのか?
多摩姉も、それにあの口ぶりからして日向さんも。
他にもいるのか?
だとしたら何故。
日向さん言ってたよね。提督が居なくなった鎮守府がどうなるか。そしてそれを知っているとも。
どうなったんだ?そもそもなんで前任者はいなくなった。
北上「…」
可能な限り綺麗に日記帳を元の状態に戻し引き出しを戻す。
さて面倒くさくなってきたぞお…
阿武隈「北上さ~ん。いますうわっ!?」
北上「」
阿武隈「あの、何やってるんですか…」
北上「」
阿武隈「そのままうつ伏せてると鼻潰れますよ…」
北上「頭痛い」
阿武隈「エッ!?な、何か病気とかですか!」
北上「そうじゃないけど」
阿武隈「私に出来ることありますか?」
北上「ん~」
阿武隈「?」
北上「あぶぅの膝枕あんまり気持ちよくないしなあ」
阿武隈「おりゃ」ゲシッ
北上「ぐえ」
阿武隈「もう!変な心配させないでください」
北上「ごめんごめん。ちょっと疲れただけ」
阿武隈「…でも、顔色はあんまり良くなさそうですよ」
北上「そう、かな」
阿武隈「そうですよ」
流石にきつくなって仰向けになった私の横に座る阿武隈が、シュンと頭を下げる。
力になれない事を気にしているのだろうか?
そういえば
北上「おりゃ」ワシャ
阿武隈「ヒャァッ!ななななんですか急に!」
北上「いやさ、提督が阿武隈の前髪ワシャワシャやってたの思い出して。嫌だった?」
阿武隈「いや、じゃあないです、けど」
あれ、提督の時と反応が違う。もっとプンプンと怒るのを想像してたんだけど。
なんだか複雑そうな顔をされた。
ちょいとばかり顔を赤くしてコチラを睨みつけてくるその表情は、しかし残念ながら余計に弄りたくさせるものでしかない。
北上「いやじゃないならないいよねー」ワシャワシャ
阿武隈「エェッ!続けちゃうんですかあ!やーめーてー」
北上「あ、じゃあやめる」
阿武隈「え」
北上「ほらそうやって物欲しそうな顔をする~」ワシャワシャ
阿武隈「キャー!!」
ガラッ
北上「ん?」
阿武隈「?」
大井「この泥棒猫」
阿武隈「大井さん!?」
またこれか
ちなみにこの場合の泥棒猫は英語でhome wreckerとなる。
直接的な表現だよね。
阿武隈「北上さん現実逃避してないで何か言ってくださいよ!!」
北上「私ファンタならグレープがいいかなあ」
阿武隈「きーたーかーみーさーん!」
45匹目:猫と友人
一言で友人と言っても様々な種類がある、なんて言い方だとややもすればなんだか嫌な意味に取られるかもしれない。
親友とか友達とか腐れ縁とか、
立場上仕方なく付き合ってるとか便利だから友達やってるとか、
別にそんな友人にランクがあるなんて話じゃない。
例えば私も同じ球磨型姉妹でも一対一で話す時はそれぞれ違う対応をする。
他の艦娘や提督でも、それぞれ違った接し方になる。
ランクとかじゃなく、つまり距離感なのだろう。
近ければいいわけでも遠ければ悪いわけでもない。
その相手との最も適した距離が違うのだ。
だからつまりこういった少し気分が落ち込んだ、
なんだかパァっと気晴らしをしたい時に適した、
ちょっと不思議な距離感の二人の友人を訪ねて
夕飯や風呂を終え少しずつ眠っていく鎮守府の中で昼間と変わらない明るさを漏らす工房の扉を開けて中へ入る
夕張「エンダァァァァァァ!!!」
明石「イヤァァァァ!!」
夕張「っていうネタ」
明石「あるじゃん?」
北上「ネタという言い方はアレだけど、まああるね」
夕張「こう、愛し合う二人がさ」
明石「色々なんやかんやすったもんだあって」
夕張「最終的にキスをするシーンとかで」
明石「エンダァァァァァァ!!!」
夕張「イヤァァァァ!!」
明石「ってコメントがつくノリ」
夕張「あるじゃん?」
北上「あるね」
明石「アレのね」
夕張「エンダァァァァァァ!!!」
明石「イヤァァァァ!!」
夕張「の元ネタ」
明石「実は見たことがない」
北上「そだね」
北上「えそりだけ?」
明夕「「ソリダケ」
北上「ふz「エンダァァァァァァ!!!」「イヤァァァァ!!」誤魔化すなっ!!」
夕張「エンダァァァァァァ!!!」
明石「イヤァァァァ!!」
夕張「ってほら、あの有名な」
明石「船沈むやつの主題歌」
北上「え?」
夕張「タイトル何だっけ」
明石「タイタニック!」
夕張「それだ」
北上「ボディーガードだよ」
夕張「え」
明石「え」
北上「え」
北上「いやタイタニックはほら、We'll stay forever this way~♪って」
夕張「え、何それ」
明石「知らない」
北上「うっそでしょ。My Heart Will Go Onて曲」
夕張「エンダァァァァァァ!!!」
明石「イヤァァァァ!!」
夕張「じゃないの?」
北上「じゃないよ…」
夕張「イメージって怖いなって」
北上「ホントだよ…」
明石「タイタニックって船の先端でのあのシーンと」
夕張「エンダァァァァァァ!!!」
明石「イヤァ…ァ…ヴッ」
夕張「だけで出来てると思ってた」
北上「ファンに刺されても知らないよ…というか明石もう限界じゃん」
明石「水水…」
夕張「はいはい」
明石「んっ…ッハー!夕張よく喉持つね」
夕張「えっへん」
北上「いやそんじゃなくてさ」
明石「よく考えるとタイタニックって私達にとっては中々えぐい話よねー」
夕張「流石に氷山を見る機会は無かったけど、ああいった事故でいつ沈むかわからないものね」
北上「あ、もうその話題で行くんだ。タイタニック路線なんだ」
明石「砲弾とか魚雷で穴あけられるのもいやだけど、浅瀬とか氷山とかで底をえぐられるのも怖いわよね」
夕張「今で言ったらお腹を岩でえぐられるみたいな感じでしょ?ゾッとするわね」
北上「…船の底ってお腹なの?」
明石「お腹、でしょ?」
夕張「艦首が顔で」
北上「つまり腹ばいになって進んでいると」
明石「うーん…」
夕張「なんかそう言われると」
明石「キモい」
北上「だよね」
夕張「そこへいくと今の私達みたいに立って進むって1番しっくりくるわよね」
明石「確かに。となるとタイタニックは画鋲を踏んでスっ転んだイメージか」
北上「イメージかな…」
夕張「それで沈むってのも、ねえ」
明石「でも元来船ってちょっとバランス崩したら海の藻屑だものね」
北上「私達がそこら辺異常なだけだもんね。水上で逆立ちする奴もいるし」
夕張「画鋲ってのも言い得て妙かもね」
明石「本当に些細なことでも沈むものね」
北上「どんな感覚なんだろうね」
夕張「…」
明石「…」
北上「…ん?」
夕張「」スッ
画鋲「ヨロシクニキー」
明石「」スッ
北上「待て待て靴を脱ぐな裸足になるな」
夕張「そこは誰かを実験体にせずまずは自分達で試す私達を褒めて欲しい」
北上「それは当たり前の事であって褒められることではない」
明石「押さないでよ!絶対押さn「そおい!」プスッ ギャァァァァァ!!!」
北上「楽しそうだね…」
明石「条件反射的に叫んではみたけど意外と痛くはなかった」
夕張「はいバンソーコー」
明石「サンキュ」
北上「足の裏ってそんなに神経通ってるわけでもないのかな」
夕張「かもねー。そこら辺は人間と一緒なのかも」
明石「指しどころが悪かったか」
夕張「増やす?」
明石「おっきくする?」
北上「そこじゃないでしょおよ」
明石「バケツかぶりゃ治るしさ」
夕張「戦艦の砲撃でワンパン大破されるよかマシよマシ」
北上「そーだけどさ。いやそうじゃなくてね」
明石「まあここら辺はまた次の機会にやろっか」
夕張「そうね」
北上「持ち越したまま墓まで持ってって欲しい…」
明石「あれ、なんの話してたんだっけ」
夕張「装備改修における確実化はどの段階からやるのが最も効率的かみたいな話だった気がする」
北上「そんな難しくて答えのでにくい上にまともな会話をした覚えはない」
明石「何故ピンクは淫乱扱いされるのか」
夕張「おうおうおう。そんなスケベなスカート穿いて牛丼から瑞雲まで仕事を選ばない姿勢、さらには夏にドエロエプロンまで着ておいて淫ピを否定とはヤりますなあ」
北上「言い方言い方」
明石「夏のアレはもう触れないで…」
夕張「あゴメン。マジごめん。まって、ちょっまち、いやほら似合ってたから、ね。ああいかないでいかないで待って待てえ!」
北上「えぇ…」
明石「見た目はともかくこのスカートは実は気に入ってる」
夕張「工房熱いもんねぇ」
北上「立ち直り早い」
明石「まあ結局普段はタンクトップとツナギなんだけどね」
夕張「軽い洗いやすい脱ぎやすい、比較的涼しい汚れやすいけど気にならない。臭いは、うん…」
北上「ブラも付けないってどうなのよ」
明石「むしろ食らったら破ける戦闘時にブラ付けてく方がおかしいと思う」
北上「いやそっちも十分おかしいのは重々承知だけどだからと言ってこっちがおかしくない訳では無い」
夕張「たまにパンツも履いてない時がある」
北上「え」
明石「え」
夕張「え」
北上「それは引くよ流石に引くよ」
明石「え、いや、嘘でしょ?ねえ」
夕張「いや違、というかえ?明石?明石も?言ってなかったっけ?」
明石「言ってないって聞いてないって聞いてたらその時点でドン引きしてるって」
夕張「ほら!だってツナギなら透けないし!スカートと違って見られることないじゃん!いらないじゃん!」
北上「叫ばなくても」
明石「バリちゃん」
夕張「な、何よ。あか、あかしん?あかー、あかちん…赤チン?赤チン!ブフッww」
北上「自分で言って自分で笑ってどうするよ」
明石「オラァ」スパナ
夕張「ヴェアァァッ!?」
明石「夕張」
夕張「な、何よ。あか、しw」プルプル
北上「肩で笑うな肩で」
明石「私達女の子なのよ」
夕張「う、うん」
明石「ノーブラはまあいいわ」
北上「いいのだろうか」
明石「ノーパンはダメよ」
夕張「ゴメン…私が間違ってた」
明石「分かればいいのよ、分かれば」
夕張「明石!」
明石「夕張!」
夕明「「グワシッ」」
北上「口で言いよった…」
北上「というか今こそアレじゃないの」
夕張「え?何が」
明石「アレ?」
北上「いや、ほら。ってまあ忘れたならその方がいいんだけどさ」
夕張「エンダァァァァァァ!!!」
明石「わっビックリした」
夕張「え」
北上「え」
明石「え」
明石「いやぁぁぁぁダメダメいたたたたおさげはダメェェ!!」
夕張「ええいこの肝心な時に淫ピめこれでもか!これでもか!」
北上「元気だねえー」
明石「で、何の゛話ずる゛」
夕張「そうねえ」
北上「まず涙拭きなよ。というかもう話戻す気はないんだね」
明石「じゃ服装の話で」
北上「戻ってるし」
夕張「ハイ!」
明石「はい夕張さん」
夕張「お腹が寒い」
北上「あー」
明石「私も結構ギリギリだけど、夕張はモロよね」
夕張「別に人間みたくヤワじゃないから寒さでお腹壊すってことはないんだけど、たまにヒヤッとくるのはなんともいただけない」
北上「私もさ、今はいいんだけどね。雷巡になるとアレだよアレ」
明石「色はまあいいけどね」
夕張「何故ヘソ出しだしって感じよね」
北上「大井っちもだいぶ応えてるみたいでさ」
明石「そうなの?」
北上「ちょっと元気ないというか、テンションが低い」
夕張「大丈夫?修理する?」
北上「そんなおっぱい揉むみたいな感覚で人体改造申し出られても」
明石「安くしとくわよ」
北上「金を取る気だったかこのマッドサイエンティストズ」
夕張「ハッ、ハッ、ハッ!」
明石「フーーン!!」
北上「何故よりによって逆再生の方を」
夕張「服装自由なら良かったのにね」
明石「着なきゃいけない機会が多いもんね~」
北上「二人は比較的楽なんじゃない?ツナギとかで」
夕張「いやいや、私は意外と出撃あったりで制服着なきゃだし」
北上「あー対潜番長か」
夕張「あと兵装実験で」
北上「なるなる」
明石「私は出撃はほぼないんだけど」
夕張「ほぼ?」
北上「ほぼ…」
明石Lv37「私の練度を聞きたいかね、え?」
明石「売店あるでしょ?」
夕張「あー制服か」
北上「そこは別に服装自由なんじゃないの?艤装使うわけじゃないし」
明石「上の意向なので…」
夕張「あー…」
北上「別にバレないじゃん」
明石「あとやっぱ工房以外もツナギってのは流石に女子力が…」
夕張「そんなんの気にしてどーするの」
明石「ノーパンにはわからないでしょーね」
夕張「ぐっ…」
北上「でも殆ど周りは女性だしいいんじゃない?ノーパンはともかく」
明石「そりゃまあそういう気持ちもあるけど、ノーパンはともかく」
夕張「あれよ、私はもう泣く一歩手前よ」
北上「やっぱ提督か」
明石「え、いや~別にそんな///」
夕張「エンダァァァァァァ!!!」
北上「イヤ~ウィルオ~ルウェイズラ~ヴュ~ウ~~ウ~」
明石「お~」パチパチ
夕張「さっすがぁ」パチパチ
北上「ツッコんでよ」
明石「逆になんで夕張は提督の目が気にならないの」
夕張「普段工房でのだらしなさをあれ程見せつけておいて今更外面よくしてもよ」
北上「忘れかけてたけどツナギタンクトップノーブラも相当だからね」
明石「流石に店員の時くらいはしっかりしたいじゃない」
夕張「今更でしょ」
北上「今更だよ、二人とも」
明石「正直ツナギは癖になる」
夕張「分かりあじがある」
北上「ないないありません」
明石「というわけで用意した洗いたてのツナギ」
夕張「私のならサイズ的に履ける」
北上「よし、私が履こう」
夕明「「どうぞどうぞ」」
北上「ノれよ」
北上「意外とぶかぶかじゃないんだね」ゴソゴソ
明石「ゴムできゅっとするタイプなの」
夕張「艦娘は熱とか衝撃には強いから役割としては破片や汚れがつかないようにってのが主なんだ」
北上「へ~、このまま着てファスナー?」ゴソゴソ
明石「そうそう。耐熱とかあるともっと太くてゴワゴワしてたりするのよ」
夕張「おーいい感じ~」
北上「うん。だいぶ暑さも引いたこの時期のこの時間帯でもわかるこの暑さ」
明石「不思議なものでね、1度中で汗まみれになると逆にどうでもよくなるのよ」
夕張「どれくらい汗貯められるかな~とか考え出すくらい」
北上「怖っ
北上「やっぱこれブラはともかく下着は必須でしょ。汗伝ってくのすっごい気持ち悪そう」
明石「そうだそうだー」
夕張「えー逆に何も無い方がいいってならない?」
北上「いやならんでしょ。今私パンツとシャツだけどもう1枚汗吸収用になにか着たいなって思ってるもん」
明石「…オムツ?」
夕張「ハッ!?」
北上「ハッ!じゃないでしょ。はぁ?でしょそこは」
明石「こうも変わった服装の多い環境だと感覚が麻痺っちゃうじゃん?」
北上「麻痺というか神経死んでるレベルだよね」
夕張「島風ちゃんを見て何も思わなくなってからが本番」
明石「確かに」
北上「同意せざるを得ない」
夕張「脱げるという性質上ただ露出が多いだけなのはあまり気にならなくなる」
明石「他人事だからだけどね」
北上「着てる本人はどう思ってるのかな」
夕張「慣れだって」
北上「慣れかー」
明石「慣れよねー」
夕張「慣れなのよね」
北上「いやノーパンはない」
明石「慣れない、成れない」
夕張「それはもういいでしょ」
明石「第3回チキチキマシン猛レース。最強の服装は誰か!選手権」
夕張「k~hッhッhッhッhッhッ」
北上「ケンケンの声真似の完成度の高さが怖い」
夕張「喉にきつい」
北上「というか私もうツナギ脱いでいい?」
夕張「残念ながら制服はこちらが預かっている」
明石「そしてツナギを脱いだら下着のみ。つまり、分かるね?」
北上「分からん。分かりたくない」
夕張「ところでチキチキってどういう意味?」
明石「さあ?元ネタあるのかな。チキチキマシンが最初だと思ってたけど」
北上「どうだろ。なんか海外に元ネタあるんじゃない?」
夕張「あれだ!チキンレースのような命の駆け引きからとってチキチキだ!」
明石「レースならカツカツじゃないの?」
北上「で、私の制服なんだけどさ」
夕張「さあ始まりましたチキチキなんとか選手権!」
北上「記憶力」
明石「はい!一番明石!」
北上「主催者から挑んでいくスタイル」
明石「武蔵さん」
北上「あー」
夕張「あー」
北上「アレは、服なのだろうか」
明石「もう布よね。下着ですらない」
夕張「本人が脳筋よりで色気とかないからなんとなく誤魔化されてるけどほぼ裸よね」
北上「武人的なキャラや褐色肌、ゴッツイ艤装で誤魔化されてる感は否めない」
明石「艤装で偽装ってね」
明石「艤装でg「エンダァァァァァァ!!!」「イヤ~」ゴメンナサイ」
夕張「次!私!アイオワ!」
北上「あー」
明石「あー」
北上「サラ姉にあんな呼ばわりされるという」
明石「服装自体は割と長門型よりというか、私達基準ではそれほど変でもないのよね」
夕張「配色も、まああっちの文化という事で納得はできるわね」
北上「胸だよね胸」
明石「長門さんも陸奥さんもそこはしっかり守ってるというのに」
夕張「零れ落ちそうな胸という表現が最も似合う艦娘」
明石「激しく同意」
北上「武蔵さんのあとだとアレだけど祥鳳さん」
明石「服を着ると誰かわからない人」
夕張「今思ったんだけどさ」
北上「ん?」
夕張「祥鳳って一応弓の邪魔だから副半脱ぎでサラシもキッと巻いてるわけじゃん?」
明石「まあそうよね。一応」
北上「一応」
夕張「逆に武蔵さんって一応隠しておこうみたいな感じで普通に巻いてるわけだよね」
明石「多分ね。一応」
北上「一応」
夕張「つまり祥鳳は意外と胸が大きい説」
明石「ある」
北上「あ、そっちに話がいくのか」
明石「私が一番でかい」ドヤァ
夕張「モゲればいいのに」チッ
明石「似非メロンw」
夕張「お?やる?やっちゃう?私は最後まで抵抗するわよ」
明石「もちろん?」
夕明「「拳で」」ガシッ
北上「仲良しか」
夕張「GGかストファーどっちがいー?」
明石「ストファー」
北上「うわしかもスーファミ版」
夕張「ザンギ禁止ね」
明石「投げハメ禁止が許されるのは小学生まで」
夕張「核抑止論みたいな事になるけどよろしいか」
明石「禁止で」
夕張「うい」
北上「…」
こうなるともう周りは見えちゃいないだろう。
こちらから押しかけたとはいえ勝手に対戦始めるとは相変わらず自由だ。
北上「今のうちに服探そう」
さっきツナギを持ってきた時に置いてきたのだろう。なら向こうにあるはずだ。
提督「おーい穀潰しどもー」ガチャ
北上「ありゃ、提督?どったの」
提督「お前こそ、というかなんだその格好」
北上「色々ありましてな~。提督はどったの?」
提督「作業してるわけでもないのに工房の明かり全部つけっぱにしてるアホ共に一言言いに」
北上「ご苦労さまで~す」
提督「お前からも言ってやってくれよ…」
北上「言ってもねえ…」
あったあった。
制服は驚くほど綺麗に畳まれていた。変なところキッチリしてるんだから…
北上「んしょっと」
提督「だぁっちょ!なんで脱いでんの!」
北上「いやいつまでもこれはイヤだし。下はシャツだから大丈夫大丈夫」
提督「そうか、そうか?」
北上「私はシャツ1枚で事足りるスタイルだしさ。ところでさっき話してたんだけど武蔵さんの服装どう思う?」
提督「武蔵?あー、大和と逆だったらめちゃくちゃエロかったと思う」
北上「おー…おー!流石に男の意見は違うねえ」
提督「褒められてんのか俺」
北上「褒めてる褒めてる。ほっ」
提督「ブッ!?」
おっと、下はパンツだけだった。
提督「恥じらい持てよお前らは…」
北上「破けるし脱げるししょうがない」
提督「そりゃまあ、そうだな。俺も見慣れてるところあるし…」
北上「ありがたみ薄れる?」
提督「ほんとそれ」
北上「ならなんで私の見て驚いたのさ」
提督「北上は見慣れてない」
北上「あんまり露出多くないもんねこれ」
提督「一応そのスカートは一般的には短い部類だと言っておこう」
北上「そうかあ。提督には見慣れたパンツと見慣れないパンツがあるのかあ」
提督「やめてマジやめてホントやめて」
北上「見たいなら見せてもいいんだよ?」
提督「ばっかおめえこういうのは見えちゃうからいいんだよ!」
北上「力説されてもよ」
提督「大事なとこだから」
北上「そんな私でも重雷装艦になると露出が一気に」
提督「確かに、な」
北上「肌見せるのはあまりいいとは言えないけど、提督を誘惑するのは面白そうだねぇ」
提督「物騒な事考えるな」
とはいえやはりあれは恥ずかしそうだ。
大井っちが落ち込むのもまあ分かる。
北上「服だけこのままならなあ」
提督「…お、俺はその服が一番似合うと思うぞ!」
北上「そう?そかなぁ。そっかー」
提督「そうそう」
北上「ほらほら、どう?可愛い?」
提督「可愛い可愛い」
北上「胸はないんだけどねえ」
提督「男が胸だけ見てると思うなよ。目に付くだけだ」
北上「訂正されたのにむしろ酷くなった気がする」
北上「胸チラー」
提督「シャツしか見えない」
北上「悲しいね」
提督「現実だよ」
北上「萌え袖、はできないね。セーターでも買うかな」
提督「じきに寒くなるからな」
北上「ヘソ出し~」
提督「改造したらそんな感じだな」
北上「スースーしてやな感じ。摩耶さんとかよくあんなので動けるよね」
提督「へそどころか下乳だぞ下乳」
北上「パンチラ~」
提督「やめろたくしあげるなおっさんが女子中学生にパンツ晒さしてるみたいな感じで罪悪感がやばい」
北上「おっさんじゃないでしょ」
提督「世の中30超えたらおっさんだよ」
北上「それに常日頃女性の下着見てるくせに今更でしょ」
提督「不可抗力!不可抗力ですぅ」
北上「可能でしょ」
提督「男には無理です」
北上「お尻、も私はあんまりなあ」
提督「そだなぁ」
北上「あ、うなじとか?」
提督「なあ北上」
北上「ん?」
提督「どうしんだよさっきから。何か変なテンションっつーかさ」
北上「…へ?」
テンション?テンションが何か変だろうか。
私は何か変だろうか。
私?
北上「ムグゥ」
提督「き、北上さん?」
何かに吸い寄せられるように、提督の体に泣きつくような形で顔をうずめた。
北上「提督」
提督「はい」
北上「私変だ」
提督「…みたいだな」
北上「どうしよう」
提督「どうしよって言われてもな」
北上「提督は提督なんだからなんとかしてよ」
提督「提督は提督だけどなんともできません」
北上「なんかもう頭ん中ぐちゃぐちゃなんだ」
提督「いつからだよ」
北上「…さっきから?でも気づかなかっただけで前からずっとぐちゃぐちゃだった気がする」
提督「ぐちゃぐちゃってどんな感じだよ」
北上「んー。灰色の画用紙に黒い筆で書き殴ったみたいな」
提督「なんか悪夢みたいな話だな」
北上「悪いかどうかは分からないけど、なんだか夢みたいなのは確かだよ」
提督「そっか」ポン
北上「」ビクッ
提督「うおっ、わりぃわりぃ。いやだったか?」
北上「いや、別に」
提督は、あの何だか懐かしい手でそのまま私を撫でてくれた。
提督「今もぐちゃぐちゃか?」
北上「ぐちゃぐちゃー、だね」
提督「同じ感じ?」
北上「んーちょっと違う。だいぶ違う」
提督「違うのか」
北上「うん。なんだろ。沸騰したお湯みたいな」
提督「なんだそりゃ」
北上「分かんない。暖かいんだけど熱くて、でも悪い感じはしないかも」
提督「ふーん。よくわからんな」ナデナデ
北上「私もー」
提督「こうしてるとさ」ナデナデ
北上「ん?」スリスリ
提督「やっぱお前猫だなって」ナデナデ
北上「そう?そうかな」
提督「そうだ」
北上「ふふふ、実は私前世が猫なのだよ」
提督「船はどこいった船は」
北上「船の前が猫だったのさ。真っ黒な黒猫~」
提督「船の付喪神なのに船の前があるのかよ」
北上「じゃあ船のあとに猫になったんだ。兄弟もいたんだよ。アレ?姉妹かも」
提督「球磨猫に多摩猫に大井猫、木曾猫か」
北上「球磨姉ちゃんは熊だよ熊」
北上「ていとーグエッ」
提督「上向くの禁止」ギュッ
北上「なんでさー」
撫でていた手でやんわりと頭を抑えられた。
提督「いやほら、そのさ。女子中学生程度の身体とはいえ人一人の体重でそう大胆に今以上に寄りかかられるときついので」
北上「提督なんだからそれくらい支えなよ~」
提督「提督なんだけどそこまでは支えられん」
大井「北上さーーん。あら提督?こんな時間に何やってるんですかって、ああいつも通りサボりですか」
うわお。また大井っちだ。
今現在私は提督の体に隠れて見えないはずだがさてどうしようこれ。
提督「間髪をいれずサボりと断定すな弁解させろ」
大井「…その腕は?」
提督「これか?ほれ」クルリ
北上「うわった」
北上「はろー」
大井「もうすぐ寝る時間ですよ北上さん」
北上「あいあいさー」
提督「俺はあれだぞ。夕張と明石に用があってな」
大井「はいはいそうですかー」
提督「ホントだって!」
ありゃ?意外と大井っちの反応が薄い
北上「んじゃありがとねてーとく」
提督「おうおう」
大井っちの前でこれ以上くっつくわけにはいかん。
北上「おやすみ~」
提督「おやすみ~」
せっかく落ち着いたしこのまま布団に潜っていい夢を見るとしよう。
北上「行こっか大井っち」
大井「ごめんなさい北上さん」
北上「ん?」
大井「私、少し提督とお話があります」
いつになく真剣な目だった。
いったい何だというのだろう。
北上「イテッ」ゴン
曲がり角で壁に頭をぶつけてしまった。
いかんいかん。とりあえずは部屋に戻らねば。
思考を中断しようとするけど、考えないようにと思うほどまた深みにハマっていく。
先程の状況。大井っちの目。二人きりで話。
まさかまさか
北上「こ、告白!」
ついにか!ついに言うのかまさか!
はっきり言って今更感が凄いのだが。
そうなると私が普段提督と一緒にいたりする時なんかも実は大井っちの背中を押すきっかけになってたりしたのだろう。
北上「これは使えるかもね」
私が提督に近づくことで二人の仲かより親密になる。完璧な作戦じゃないか。
さて具体的に何をすれば効果的だろうか。
あの二人にとって。
二人に。
北上「あれ?」ピタ
球磨型の部屋の扉に手をかけたところで思考が止まった。
またぐちゃぐちゃになっている。
元のぐちゃぐちゃに。
先程までの温もりはすっかり冷めきっていた。
むしろ元よりも冷たくて、
少しだけ
寂しい。
多摩「何してるにゃ?」ガラ
北上「多摩姉」
多摩「入口で突っ立って何してるにゃ。大井は一緒じゃないにゃ?」
北上「なんか、提督と、話があるって」
多摩「ふーん。ならしょうがないにゃ。とりあえずそんな顔してないで早く入るにゃ」
北上「そんな顔って?どんな顔?」
多摩「どんなって、うーん。捨て猫みたいにゃ?」
北上「捨て猫?」
球磨「多摩ー早く戻るクマ。多摩の番クマ」
多摩「急かすにゃ急かすにやあ゛!?誰にゃ赤に変えたのは!?」
木曾「フッ」ドヤァ
多摩「木曾ぉぉぉぉ…」
球磨「ほれ1枚引くクマ」
多摩「己ぇぇ、パスにゃぁぁ…」
木曾「はいUNO」
多摩「にゃぁぁああ!」
球磨「ドロー2」
多摩「にゃ…」パタン
木曾「あ、死んだ」
捨て猫か。
いったい誰に捨てられたというのか。
北上「私もいーれてー」
木曾「もうちょい待ってくれ。今多摩姉にとどめ指すから」
球磨「おらさっさとドローしろクマ」
多摩「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
木曾「うるさい」
多摩「ニャ」
いやいい。
今はいいや。
疲れた。
思考を捨てよう。
47匹目:猫と朝
私は朝に弱い、なんて言うと本当に朝に弱い人達に怒られる。
阿武隈なんかもそうだけどともかく寝起きの機嫌が最悪だったり朝食を食べる気がしなかったりと生活に支障が出るレベルらしい。
それを言われると私なんかは単に布団の魔力から逃れる意志の強さを持たない軟弱者でしかないわけだ。
でも逆に朝に強い人ってめちゃくちゃレアだよね。
羨ましいとまではいかなくとも、一体どうしたら朝からそんなに元気なのか是非ともコツを教えてほしいものだ。
大井「…さん…北上さん、きーたーかーみーさん」ユサユサ
北上「…おはヨ」
大井「はい、おはようございます」ニコ
そういつも通りに100万ドルの笑顔で答えるとタンスの方へ向かう。
いやいつも通りじゃないな。
今日はなんか1億ドルくらいの笑顔に見えた。
北上「ふ…あぁぁぁぁ……ぁ…っ」ノビー
ん?
両手を伸ばして思い切り伸びをすると何かが手に当たった。
北上「…UNOか」
布団の近くに雑に置かれていた。
そういえばあの後半ば寝落ちみたいな感じで終わったんだっけ。
北上「んしょっと」ムクリ
球磨「北上、おはよう」
北上「おはよ。制服?」
多摩「私達これから遠征にゃ」
北上「なる」
球磨「くそねみぃクマ」
多摩「まったくだにゃ」
大井「自業自得ですよ」
北上「で、球磨姉その髪は?」
球磨「治まらなかったクマ」ボサッ
膨れ上がった髪のせいで本当に熊見たくなっている。
球磨の髪は特に何もせず自然な状態に見えるが実は朝必死に膨張を抑えているのだ。
多摩「これじゃまた駆逐艦達のぬいぐるみにされるにゃ」
球磨「うげー疲れるクマァ…」
大井「自業自得ですよ」
多摩「自業自得だにゃ」
球磨「多摩はずるいクマ。短髪は長髪の苦労を知らないクマ」
多摩「知らんにゃ。知りたくもないにゃ」
北上「髪整える時間を他に使えるのはずるい」
球磨「そうだそうだー」
多摩「そんな事言われてもにゃぁ」
北上「手入れいらず~」
球磨「淫乱ピンク~」
多摩「アホ毛ぶち抜くぞ」
球磨「え」
北上「え」
多摩「にゃ」
球磨「行ってくるクマ」
多摩「にゃ~」
北上「いってら~」
大井「行ってらっしゃい」
木曾「ただいま~」
球磨「おお木曾。おかえり」
木曾「語尾、あと髪はそれなんだ」
球磨「時間なかったクマ」
木曾「早く起きりゃいいだろ」
多摩「早く寝りゃいいにゃ」
球磨「なんで二人はピンピンしてるんだクマ…」
北上「木曾は朝練?」
木曾「うん。ついでにシャワー」
北上「いいなあ朝強くて。辛くないの?」
木曾「好きでやってるからな」
大井「北上さんもどうですか?早起きは三文の徳と言いますし」
北上「え~なんで急に。三文程度なら寝ていた方がお得だよ」
大井「朝練でなくとも散歩とか。私も付き合いますし!」
北上「いいっていいって」
木曾「おい姉は基本早起きだもんな」
北上「凄いよね~」
大井「それほどでも~」
そういえば昨晩は結局私達が寝落ちるまで大井っちは帰ってこなかったっけ。
大井「髪結びますから顔洗ってきてください」
北上「あいあい」
今にもスキップしそうな軽い足取りで先に洗面所へ向かう大井っち。
やけに上機嫌だ。
これってやっぱりつまるところそういうアレがアレなんじゃなかろうか?
一番端の布団でストレッチをしている木曾に目をやる。
木曾「…」
黙々と身体を伸ばしながらもその目はじいっと大井っちを追っていた。
木曾「!」
あ、目が合った。
木曾「」クイックイッ
顎で大井っちを指す。
頷き返してみた。
木曾「…」ス
手を伸ばしながら右手の小指をスっと立てる。
いわゆる愛人のサイン。
北上「」スン
肩を竦めてさあ?と伝える。
ことの真相を大井っちからどうにかして聞き出さなくては。
眠気はすっかり吹き飛んだ。
49匹目:猫と髪型
大井「さてお客様、今日はどうなさいますか?」
北上「ん~いつも通りで~」
鏡の前に座る私とその後で私の髪をとく大井っち。
日課である。
大井「どうですかたまには違う髪型とか」
北上「違うってどんな?」
大井「金剛さんみたいなのはどうですか!」
北上「また極端にややっこい方面に行くね」
大井「では浦風で」
北上「あれ、大差なくない?ポンデリングじゃない?」
大井「北上さんの三つ編みというトレードマークを残しつつ最大限に生かそうかと」
北上「トレードマークだっけこれ。というかそんなに色々考慮した上での提案だったんだね」
ちなみにあの髪型。
やろうとすると貞子もビックリの長髪が必要である。
大井「安心してください!物理的に無理なものでなければどんな髪型もいけます」
北上「不思議な説得力がある」
大井「北上さんは何か要望はありますか?」
北上「いつも通りはなしの方向か。だったら…バッサリと短髪に」
大井「散髪は却下で」
北上「おぉ…そんなバッサリと…」
大井「どうせバケツかぶるか入渠したら生えるじゃないですか」
北上「でもこれやっぱ邪魔だよ」
大井「オシャレは我慢です」
北上「オシャレのつもりはないんだけどねえ」
大井「短髪と北上さんはこう、イメージが違います」
北上「言わんとすることは分からなくもないけど」
大井「そういえば提督は長髪の方が好きらしいですよ」
北上「いや聞いてないし」
大井「ポニーテールでうなじを見せるとか!」
北上「あれは座る時とかに邪魔だからやだ」
大井「三つ編みお下げも割とそうなのでは?」
北上「だからバッサリといきたいんだよ…」
大井「すみません…」
北上「大井っちは楽そうでいいなー」
大井「スミマセン」
北上「汁物とか食べる時髪の毛入りそうで大変なんだよね」
大井「いつも苦労してますものね」
北上「私なんかまだマシな方ってのがね」
大井「駆逐艦は何人か凄いのがいますから」
北上「早霜と清霜はあれ何を思って生活してるんだろうね」
大井「聞くに聞けない空気があります」
北上「耳に引っ掛けられないくらいの中途半端な長さが一番めんどくさかったりすると思う」
大井「鎮守府ないではヘアバンドやピンで抑えてる人が多いですものね」
北上「邪魔だししゃあない」
北上「で、何があったの?」
大井「何がですか?」
北上「やたらテンション高いじゃん」
大井「え、いつも通りじゃありません?」
北上「ありません」
髪型を変えようなんて初めてだ。
それがいつも通りなら流石に私も辛い。
北上「提督と何話してたの」
大井「いえっ、なにも」
いえ、で声が上ずってる。
隠し事はできないタイプか。
北上「結構遅くまで提督と話してたじゃん」
大井「そんな遅くはないですよ。すぐですすぐ」
北上「昨日はUNOで遅くまで起きてたんだよ」
大井「…実はあの後夕張さんたちと」
北上「ダウト」
大井「UNOじゃないんですね」
北上「じゃあUSOで」
大井「上手い!座布団1枚」
北上「UNOだけに?」
UNOはどこかの国の言葉で「1」だそうだ。
北上「で!なんなのさ」クルッ
身体を180度回転させ鏡越しではなく真正面から大井っちを見つめる。
大井「にゃんにもありません!」
噛んだ。動揺が隠しきれていなさすぎる…
北上「なら夜遅くまで何を、ナニをしていた?」
大井「なっ、それはありません!絶対に!」クワッ
北上「うおっ」
物凄い剣幕。
まあ確かに、このツンデレカップルがそんないきなり進展するのは流石にないか。
北上「ならいいけどさ。何にせよ髪はいつも通りね」クルッ
大井「仰せの通りに」ホッ
胸をなでおろす仕草は鏡越しにしっかり見えているのだが…
しかしなるほど。
このようだと告っただけとかかな?キスができるとは思えないし。
とはいえ時間の問題かなあ。
親友としてしっかり見守っていかねば!
大井「北上さん?」
北上「どったの~」
大井「いえ、その。不機嫌そうな表情をしていたので」
北上「ん~?寝不足なだけだよ」
大井「睡眠はしっかりとってください」
北上「UNOが悪い」
大井「球磨姉さん達は無視して寝てください」
北上「それはそれで難易度が高いね」
大井「はい完成です」
北上「バッチリだね~」
いつもと同じ髪型。
大井っちなら三つ編みの編み方まで寸分違わず編んでいても不思議ではない。
大井「私布団を片付けてきますね」
北上「えぇ、いいよ。私も行く」
大井「その前に着替えてください。そこに置いてあるので」
北上「はーい」
布団まで畳むのは今日が初めてだ。どんだけテンションあげあげなのよバカップルめ。
…
北上「ホントだ。ひっどい顔」
鏡の中の私は確かに不満げな表情だった。
なんでだろ?
寝不足か。
北上「しっかりしろ私」
50匹目:猫と球
川内「ヘイヘイヘイ!ピッチャービビってるよ!ブッ!?」バチン
ドッヂボールを知らない人というのは、少なくとも日本にはいないと言っても過言ではないのではなかろうか。
清霜「うわぁ…顔面だぁ」
小学生から大人まで幅広い層でかつ多くの地域で遊ばれている球技だ。
江風「顔面セーフ?」
漢字だと避球とか飛球と書く。
球磨「アウトの方向で」
この遊びが多くの人間、特に子供達にとってサッカーや野球をも凌ぐほどに人気なのはそのルールの単純さが主な要因だと思う。
神通「姉さんの仇…」スッ
サッカーも野球もチームプレイがメインの球技だ。楽しく遊ぶには最低でも4.5人は必要だろう。
多摩「やれるもんならやってみろにゃ!」
対してドッヂボールは二人からでも十分に楽しむ事ができる。
那珂「ギャンッ!」バン
それでいて30.40人などの大人数でも十二分に機能する。
響「そっちか」
また当てたらアウト、という究極的にはその1点のみを守ればいいような競技なのでルールの加筆修正はいくらでも可能だ。
神通「姉さんと那珂ちゃん。これで差し引きゼロです」
残基性、キャッチで回復、復活etc…
川那「「どんな計算!?」」
子供特有の自由な発想と勝ちたい一心で捻り出す幼稚な悪知恵は無限の可能性を秘めている。
響「やぁ!」ブン
もちろん子供だけの遊びではない。
神通「く!」
きちんとしたルールの元行われる公式の大会も存在する。
長波「うまい!足に当てた!」
どんな遊びも本気でやれば戦いとなる。
球磨「まだだあ!キヨシー!」
顔面アウト上等。
清霜「任せニャッ!」バシ
バレーボールを彷彿とさせる形状の球を時速100km超で投げ合う様はまさに戦争だろう。
長波「また顔面だ…」
内野外野の駆け引きや試合スピードもお遊びのそれとは次元が違う。
響「ダブルアウトだね」
本気と書いてマジ。
浦風「さぁてウチの番じゃ!」ブン
つまり何が言いたいのかというと、
多摩「甘いにゃあ!」バシィ
ビッ!と空を切り裂くような音とともに放たれた球が私の左耳を掠める。
フェイントで重心を左に寄せたのが功を奏したためギリギリで躱せたが、いやはやとんでもないコントロールだ。
バチンと弾けるような音が後ろからした。
どうやら球磨姉が無事にキャッチしてくれたようだ。
多摩「上手く避けるもんにゃ」
北上「あれ?今のはサービスじゃなかったの?」
多摩「言ったにゃあ」
球磨「ふふん、悪いが今度は球磨の番だクマアッ!」ブン
文字通り熊のような腕力から繰り出される球はちゃちな拳銃の弾速ならば凌駕しているのではなかろうか。
長波「おりゃ!」バン
多摩「ナイスキャッチにゃ」
北上「うわズルいや。私達にはあんなにキャッチ力ないのにさ」
球磨「ふこーへーだクマ。包容力(物理)だクマ」
多摩「ふふん、負け惜しみは見苦しいだけにゃ」
長波「いやこれ運動においては邪魔でしかないんだけどね…」
響「…」ペタペタ
浦風「大丈夫じゃよお二人さん。ウチが二人分の包容力持っとるけん!」
球北「「嬉しくない!」」
10人対9人で始まったドッヂボールは現在、両チームとも内野に3人を残すのみとなった。
もうすぐお昼なので当てての外野復活はなし。
こちらは球磨姉と私と浦風。向こうは長波と多摩姉と響だ。
長波「暁ぃ!」
外野へのパス。
通常ドッヂボールの外野は内野から見て三方向を使えるがここでは一つだけ。お互いのチームが相手を内野外野縦でで挟む形になっている。
暁「っと。よーしいっくわよぉ!」
これにより外野から内野へのボールが外れると相手チームの外野へボールが渡る危険性が出る。
投げる方も投げられる方も細心の注意が必要となる。
球磨「二人とも、しっかり取れ」
浦風「承知くま」
北上「えーやだくまー」
外野の暁から出来るだけ離れて、しかし暁の球が内野の多摩姉などに渡ると近距離で当てられる可能性もあるので一番後ろに下がるわけにもいかない。
躱したら即反対側へダッシュ。
取ったら即振り向いてカウンター。
判断は刹那に行わなければならない。
腰を落とし重心を低くする。
暁が振りかぶったのを見て呼吸を止める。
さあてどこに来るかな。
バァン!
と破裂音がした。
北上「いや破裂音というか破裂したんだけどね」
神風「え?それってどういう」
北上「思いっきり地面にボール叩きつけてさ。衝撃に耐えられずボールがバン」
神風「ありゃりゃ。それで試合終了ですか」
北上「そ、予備ないしね」
終了というか中断。断念。残念無念また来年。
キリもいいので今はコート周辺で各自自由時間となった。
響「暁はまだ艤装の繊細な動作は慣れてないからね」
北上「まあ仕方ないよね~。そのための訓練なんだしさ」
神風「私もやりたかったなあ」
遠征帰りの神風がそうボヤく。
ちなみにその暁はコートで球磨姉と多摩姉に色々と教わっている。雷電も一緒だ。
響「本人はとても熱心にやってるからね。今は下手だけど、そのうち化けるかもしれないよ」
北上「そりゃこわい」
響「まあ下手なままだとは思うけど」
神風「響は身内に厳しいよね…」
響「そうかな」
神風「そうよ」
私は知っている。響は暁が姉妹でなければ超絶スパルタ訓練でもって鍛えあげようとするタイプだ。
こうして姉の努力を見守っているのは身内への甘さという事だろう。
ドッヂボール。鎮守府での訓練の1種だ。
目的は艤装の繊細なコントロールを磨く事。
艦娘は砲や魚雷を装備してなくても艤装により人ならざる力を発揮することが出来る。
が、これは単に力持ちと言うだけではダメなのだ。
戦場。つまり水上において私達はうねる波や荒れ狂う風の中砲撃を当て魚雷を躱し敵陣へと進む必要がある。
これがとても難しい。
初めて海に出た時は綱渡りとスケートとドッヂボールを同時にやっている気分だった。
艦娘の練度とはすなわちそのコントロール能力の高さである。
戦闘経験を多く積むほど練度は上がり回避や攻撃能力は上がる。
攻撃を受ける際の姿勢やどこで受けるか、受けた後どうするかでダメージも大きく変わるので耐久も上がる。
もっとも練度はあくまで強さの指標の1つでありそれだけでは測れないものなのだが。
ともかく海の上だけでなくこうした訓練も私達にとっては大事なのだ。
ちなみに暁は艤装のコントロールというよりは単純に球技が苦手なだけであり練度は私より上だ。
神風「北上さんの勇姿、見たかったな~」
北上「勇姿って…私ゃただ避けてるだけだよ」
響「北上さんはホントにボール取らないよね。しかも取れないんじゃなくて取ろうとしてない」
北上「いやだってあんなの飛んできたら普通は避けようと考えるでしょ」
響「それは人間の感覚だよ」
北上「まあ、そうか」
人間というか、生き物の。
北上「どうせ見るなら私より向こうの試合を見た方がいいんじゃない?」
神風「向こうって、ああ。いや確かに迫力はありますけど、なんども見るほどじゃ」
響「結構面白いよ。相撲みたいなものさ。単純な力の押し合いに見えて、実は色々な工夫や戦略が見える」
神風「んーじゃあ行ってみよっかな」
北上「わったしも~。どうせ暇だしね」
響「私はここにいるよ」
北上「暁いるもんね」
響「…そんなんじゃない」
神風「はいはい照れない照れない」
響「むー…」
膨れっ面の響を残し鎮守府の建物を挟んで反対側のコートへ向かう。
既におおよそドッヂボールとは思えない破裂音、いや爆裂、爆発音がする。
神風「こっちはまだ続いている見たいですね」
北上「こっちは最後からが長いから」
角を曲がる。
さて今日の最後は誰と誰かな。
Гангут「だらァァァァ!!」
武蔵「ふっ!」
球、いやもう砲弾でいいや。砲弾が武蔵さんのお腹に直撃する。
対する武蔵さんもそれを真正面から受け止めてみせる。
グワンと音こそ低く小さいが、衝撃で大気が震えるのがここまで伝わってくる。
神風「かんぐーとさんの貴重な手袋非着用シーンですね」
北上「そだねー」
ドラゴンボールか何かの世界ですかといった光景だが、ここでは日常の一コマである。
軽巡や駆逐と違って撃って撃たれての殴り合い砲撃戦となる戦艦でなどは小細工なしの一騎打ちになりやすい。
この場合の小細工というのは外野内野のパス回しやカウンターである。
神風「それで、工夫とか戦略って?」
北上「んー例えばあれとか?」
Гангутさんと武蔵さんでは馬力が違う。文字通りに。
それでも彼女達がああして渡り合えるのはГангутさんの技量だ。
武蔵「ッアアァ!!」ブン
Гангут「ハァッ…ッ!!」バシィ
北上「ほら飛んだ」
神風「飛んだ?」
北上「自分で少し後ろに飛んで勢いを逃がすのさ。まあそれでもあのパワーだし、Гангутさんの馬鹿力あっての技だけど」
神風「戦闘民族か何かなんですかねあの人」
北上「そういう意味じゃ私らみんな戦闘民族みたいなもんだよ」
神風「確かに」
飛龍「おや?二人とも~何してんの?」
神風「飛龍さん」
北上「殴り合いの見学に」
飛龍「あぁあれかー。迫力あるよね~」
私の横に並んで座る。出撃帰りかな。
神風「戦場じゃないからこそ余計に怖いです」
北上「というかよくボール無事だよね。特注品とはいえ」
飛龍「工房タッグの自信作だしね!」
神風「あ、ちなみにこっちのはさっき破裂しました」
飛龍「え、マジ?」
北上「マジマジ」
飛龍「マジかぁ…」
今殴りあってる二人の物とは別物なのでそこまで高くはつかない、はず。
飛龍「やっぱさ、駆逐艦もいるとはいえもう少し頑丈にしてもいと思わない?」
神風「でもそうしたら流石に痛いですよ」
北上「私らは真正面にあまり投げないから流れ弾による事故とかあるもんね」
飛龍「そっかー、難しいところだねぇ。こっちは流れ弾とかはほとんどないし」
北上「そりゃあんな風に投げ「あ」え?」
最後まで言い終えることはできなかった。
飛龍さんがコートを見ながらあ、と言ったのでそちらに目をやった時には全てが遅かった。
流れ弾。
文字通りのあの球が、私の目の前にあった。
この時の事は恐ろしく鮮明に覚えている。
それこそこの瞬間スローモーションになったと錯覚する程に。
人智を超えた速度のボールは真っ直ぐ私の顔面を目掛けて飛んできた。
わーホントに近づくほどにボールがおっきくなってるーとか思うくらいには混乱してた。
艤装も付けずに体育座りという無防備すぎる体制。
無理だコレ。
と思った次の瞬間、
脳を揺さぶるほどの音と衝撃とともにボールが停止した。
目の前にはボールと、それを防いだ手袋をした手があった。
ゆっくりと左を向く。
そこには先程までのコロコロと笑うどこか幼さを感じさせる先輩の顔はなく、そのギラギラとした鋭い眼光は確かに飛龍という名が相応しかった。
鍛えているとはとても思えない華奢な腕は完全にボールの勢いを殺してしまった。
ボールが地面に落ちる。
コートに居た誰もが飛龍さんを見ていた。
神風「…」ブルブル
神風は耳と目を塞いで縮こまってた。
飛龍「まったくもー。みんなヒートアップし過ぎ!めっ!」
右手を払いながらいつもの調子で話す。
武蔵「すまなかった。つい力んでしまって…」
Гангут「け、怪我はないか!」
戦艦達が慌てて駆け寄ってくる。
座ってる目の前に並ばれるとすごい威圧感だ。
北上「あー大丈夫大丈夫。むしろこっちの方が問題かも」
神風「」ブルブル
飛龍「はぁ…じゃ、神ちゃんは私が連れてくから、二人は吹雪に報告すること。いい?」
Гангут「う、アイツに言うのか…」
武蔵「仕方あるまい。了解した」
北上「神風ー、おーい。かーみーかーぜー」
神風「?」
北上「神風?あれ、聞こえてない?」
神風「耳が、こう、キーンとしてて」
飛龍「一応明石っちゃう?」
北上「そうしますかね~、ほら神風」
背中を差し出す。いわゆるおんぶというやつだ。
神風「いや流石にそこまでじゃ」
飛龍「ならばこうだー!」
神風「キャッ!ひ、飛龍さん?」
おんぶじゃなくてだっこ。しかもお姫様だっこ。
北上「凄い様になるねえお姫様。いやお嬢様かな」
飛龍「スカート短い娘多からねえ。これ出来る娘ほとんどいないのよ」
神風「うーまったく聞こえない…」
飛龍「それではでっぱーつ」
北上「おー」
神風を抱き抱える右手に、もう手袋はなかった。
明石「え?」
武蔵「ん?」
飛龍「ありゃ?」
工房にて、集結。
明石「三人はどういう集まりなんだっけ」
飛龍「私は神風の診察に」
武蔵「私はボールの修理に」
明石「え?」
武蔵「ん?」
飛龍「およ?」
飛龍「いやちょっと事故がね」
神風「私はもう大丈夫だって言ってるんですけどね…」
北上「抱っこするのが楽しくてやってた節があるよね」
飛龍「気にしない気にしない」
明石「診察します?」
神風「あ、大丈夫です。ホントに」
明石「ではそちらは」
武蔵「ボールが壊れた」
神風「破れたとか割れたとかじゃなくて壊れたってすごい表現ですよね」
北上「確かに」
武蔵「ほら」
明石「んー、ん?何ですかこの痕」
北上「どれどれ?」
飛龍「んー?げっ!」
神風「うわぁ凄い痕」
明石「手形、ですよね」
武蔵「そうだな」
明石「武蔵さんの?」
武蔵「私はもう少し手が大きい」
神風「というかこの痕って」
北上「今そろそろと工房を出ていこうとしている人のものだよね」
飛龍「ギクッ」
かくかくしかじか
飛龍「正当防衛です」
明石「なるほど状況は理解しました」
飛龍「守護る為です」
明石「その上でひとつ言いたいことがあります」
飛龍「必要な犠牲でした」
明石「もっと上手くやれたでしょう」
飛龍「だってぇ~!ビビったもん!私もビックリしたもん!ちょっとばっかし力んじゃっても仕方ない!」
明石「仮にもウチの最高練度なんですから力加減考えてくださいよ。怒るつもりは無いですけど実際こうして修理費が数字として出るんですから文句くらい言わせてください」
飛龍「ぶえ~…」
神風「なんだか申し訳ないですね」
北上「そだね」
結果として私達があそこに居なければ、と思わずにはいられない。
しかし最高練度かあ。
ボールを受け止めた時右手には弓道で使うという手袋がハマっていた。
いわゆる正装。つまり艤装の力。
それをあの緊急事態に瞬時に右手に纏い受け止めた。
右手だけに、一瞬で。
艤装を一部だけ使うというのはとてつもなく難しいのだ。
パワーだけでなく繊細なコントロールも完璧だ。力んでボール潰してたけど。
普通これだけの力をあんなふうにぱっぱと出し入れなんて出来ない。
武蔵「右手の方は大丈夫なのか?」
飛龍「ん?全然へーき」
武蔵「そうか…」
空母は馬力だけなら戦艦をも凌駕している。
さらに力を防御や反動や体制の制御、つまり下半身に力の多くを使う戦艦と違い艦載機を送り出すための腕に多く使うという。
普段弓で訓練する空母組がドッヂに参加するとひどい事になるとかならないとか。
明石「はあーまた修理かー、残業かー辛いなー」
飛龍「あーはいはい間宮!間宮で手を打ちましょう!」
明石「何日分?」
飛龍「日!?」
明石「何日分?」
飛龍「よ、3日!三日分なら!」
明石「ばりー聞いてたぁ?」
夕張「チャリできた」ヒョイ
正確にはチャリではなく作業用のあの、なんかスケボーみたいなやつ。
飛龍「え゛」
夕張「一人三日分ならやるしかないね~」
明石「しばらくは一緒に間宮タイムだね~」
飛龍「え、いや、その」
夕明「「何か?」」
飛龍「イエナニモ」
夕明「「ヨッシャ!!」」
飛龍「うぅ…ごめん蒼龍…」
うーん。
流石の最高練度も二人には頭が上がらないようだ。
51匹目:猫はコタツで丸くなる
雪やこんこん霰やんちゃ…あれ、何か違う?
実際猫は雪だろうと霰だろうとなんだろうとコタツがあれば丸くなるものだ。
でも例えば、それが吹雪だったりすると?
吹雪「っプハー!」
北上「…え」
吹雪「へ?」
この鎮守府。色々な所が後付け工事で構造が変わっていたり建物が増えてたりするらしい。
提督、つまり2代目である今の提督がやったとか。
嘘か真か、秘密の研究室やら禁断の実験室がどこかに隠れてるとか。噂だけどさ。
そんなんだからあまり人気のないところ探してサボってたりする艦娘がいたりする。
するのだが…
3階。
外階段へと通じる扉を開けた先にあったのは
叢雲「っちゃー…」
右手を額に当て天お仰ぎやっちまったーのポーズを取る叢雲。
吹雪「」
右手に十中八九ビールの類であろう缶を持ち左手は腰に当て今しがた喉越しを味わいましたというポーズを取っている吹雪。
北上「…」
吹雪「…」
北上「…」
吹雪「ノンアルコールですから!」
北上「嘘をつけ」
どうみてもINアルコールである。
叢雲「まあ溜まり場、サボり場なのよここ。私たちしか知らないけど」
吹雪「あ、でもでもサボってるわけじゃないんですよ。ちゃんと休憩時間なんです」
北上「そこは疑ってないけど」
というか普段の働きからしてもっとガンガンサボっても文句は言われないだろう。
北上「でそれは?」
吹雪「マイソウルドリンク」
叢雲「飲む?普通のビールだから」
北上「遠慮しとくよ」
吹雪「えー罪を共有しましょうよ」
罪の自覚はあるのか。
北上「私アルコール好きくないからさ」
吹雪「む、ならしょうがないですね」
飲めない部下に理解があるいい上司。
叢雲「意外ね。球磨型はアルコールには強いと思ってたけど」
北上「別に飲めなくはないよ。好みの問題。というか皆そんなに強いの?」
吹雪「球磨さんは強いですねえ、飲んでも飲んでも顔に出ないタイプです」
叢雲「木曾は、強いのだけどそれ以上に飲みすぎるから潰れやすいわ」
北上「大井っちは普通に酔うけど潰れはしないタイプだったなあ」
吹雪「多摩さんは、多摩さんはなんといいましょうか」
叢雲「謎よね」
北上「謎?」
すごい表現だ。
叢雲「飲んだらすぐ寝るのよ」
吹雪「でもちょっと寝たと思ったらいつの間にか起きててまたぐいっと飲むんですよ」
叢雲「そしてまた寝る」
北上「なんだそりゃ」
吹雪「最初の落ち着いてる時も中盤のどんちゃん騒ぎの時も終盤のお通夜モードの時も一切変わらず寝て起きて飲むを繰り返すんです」
叢雲「それで翌朝みんなが吐き気と頭痛に呻いてる中ケロッとした顔で朝ご飯食べるのよね」
吹雪「あれはホント謎だよね」
北上「なんだろう。なんか多摩姉らしい」
叢雲「マイペースの極みよある意味」
北上「今度みんなで飲んでみようかな」
叢雲「いいんじゃない。でもみんなでってなると途端に難しくなるわよ」
吹雪「暇な時は多いですけど予定が会う日となると意外と揃わないんですよね~」
北上「確かに。次の日出撃とかでも辛いしねぇ」
叢雲「ま、そこは最悪艤装を使えばアルコールは抜けるわよ」
吹雪「気持ち悪さは自己負担ですけどね」
北上「遠慮しておきたいところだね」
ちなみに猫にアルコールはダメ絶対。
我々はアルコールを分解する構造を持ち合わせていない。
北上「二人はどうなのさ」
叢雲「私は普通ってとこかしらね。はっちゃけたりはしないわ」
吹雪「この子酔うと色っぽくなるタイプでしてね」
叢雲「ちょっと」
吹雪「特型駆逐艦は全員この子に唇奪われているなんて言われるくらいで。あ、半分くらい事実です」
叢雲「違っ」
吹雪「さらには提督を誘惑した事までありまして」ゴソゴソ
叢雲「なっ!?」
吹雪「こちらが証拠のビデオ映像になグヘェッ!!」
ビールの缶が凄く楽しそうな表情をした吹雪の頬に直撃した。
中身開けてないやつが。
ドッヂボールより痛そうだ…
叢雲「はい!」ポイ
吹雪「あぁ…メモリーが…妹の貴重な映像がぁ…」
スマホにあった映像はしっかり消されたようだ。
バックアップあるんだろうなあ。
叢雲「吹雪はそもそもあまり飲まないわね」
吹雪「私はみんなの介抱する立場ですからねえ。強いとは思いますよ?こうしてビール飲んでますし」
北上「ビールって言っちゃってるし」
吹雪「生いきビールです」
叢雲「駄菓子でしょそれは」グビ
しかし偶然ではあるがいい機会だ。
北上「ねえ吹雪」
吹雪「ん?」グビ
北上「ここの前任者って、どんな人?」
サラッと事も無げに聞いてみる。
吹雪「ブフッ」
北上「ありゃ」
吹き出した。吹雪だけに。
叢雲「吹雪」
吹雪「な、なに?」
叢雲「ヒゲヒゲ」
吹雪「おっと」フキフキ
泡の白いヒゲを手の甲で拭く。
オヤジか。
吹雪「前任者って言っても普通の人ですよ。退役したのは、歳でしたからね」
北上「提督ってのは記録を回収してまで引退するものなの?」
酔って口を滑らす、なんて期待しているわけじゃないがこんな機会は滅多にないだろう。
畳み掛けてみる。
吹雪「…」
叢雲「吹雪?」
吹雪「叢雲。ビールお代わり」
叢雲「まだ飲む気?もうないわよ」
吹雪「取ってきて」
叢雲「はあ?」
吹雪「お願い」
叢雲「…また一つ貸しよ」
叢雲「…」
空き缶を持って扉を開ける。
中へ入る時、少し立ち止まったけれどそのまま静かに扉を閉めて室内へ消えていった。
北上「ん?」
叢雲の足音がしない。
扉を隔てた向こう側にいる?
覗いてみようと取手に手をかけたところ
吹雪「静かに」ボソッ
視線を戻すといつの間にか息がかかるくらい近くに吹雪の顔があった。
北上「ふ、吹雪?」ヒソヒソ
吹雪「いいから、このままで」ヒソヒソ
私はそう身長が高いわけではないけれど流石に駆逐艦とは身長差がある。
少し背伸びをしてまるでキスでもするような体制で吹雪が私の耳元で囁く。
吹雪「こうでもしないと話せませんからね」
どっちに対する言葉だろう。
いや、どちらにも当てはまる言葉か。
2.3歩離れて手すりに寄りかかると元の調子で話始める。
吹雪「何処で知ったんですか?前の提督を知る人なんて殆どいないですし。多摩さん、は口は硬いですからねえ。日向さんも」
口は固そうだったけどガードは緩かったよ多摩姉。
吹雪「意外と谷風あたり?それとも、飛龍さんか」
飛龍。あの人も前からここにいるのか。
吹雪「おや、飛龍さんのことは知りませんでしたか」
北上「げっ、引っ掛けか」
顔に出てたか。私も隠し事は得意ではないようだ。
吹雪「まだまだですねえ北上さん」
北上「ぐぬぬ」
吹雪「なんで、知りたいんですか?前任者のことなんて」
じっと見つめてくる彼女の目は、酷く冷たく感じる。
北上「普通気になるもんなんじゃない?」
少しおどけて答える。
お互いに探り合いだ。先手は取られたが次はこちらが攻める番だ。
吹雪「まあそうですね。でもそれならさっきの私の答えで満足でしょう?仮にも軍ですから、開示できる情報に限りはあるものです」
北上「同じ鎮守府にいたんだ。身内みたいなものでしょ」
吹雪「身内なんかじゃありませんよ」
食らいつくように答えを返してきた。何か気に触ったのか?
北上「…理由は言えない。でも興味本位じゃないよ。知らなくちゃいけないんだ」
吹雪「何か提督に縁でもあるんですか?」
「提督」の言い方がいつもと違った。
優しいような、懐かしむような、慈しむような。
多分前の提督を指しての「提督」なんだろう。
北上「分からないよ。でもそうかもしれない」
そうだ。興味本位だった。でも今は違う。
何か縁がある。
そう思ってる。
吹雪「日本生まれ日本育ちのごく普通の男性ですよ。まあ提督なんてものになってる辺りは普通ではないかもですが」
北上「国を守る為の、一国一城の主だものね」
吹雪「優秀な人でした。この戦争の始まりが何時からかというのは中々定義が難しいですけど初期から最前線で戦い続けた人ですからね」
北上「随分長いね」
吹雪「今の提督は三年と少しくらいですかね。昔より環境は格段に整っているとはいえ彼も中々優秀ですよ。前任者に似たんですかねぇ」
北上「前任と、後任か」
吹雪「優秀かは実際あまり関係はないんですよね多分。提督の必要性に関して言えば」
北上「必要性?」
吹雪「艦娘ってのは提督がいて初めて艦娘なんですよ。この場合の「提督がいる」の意味は色々ありますけど、提督ってのは私達船にとって灯台のような目印であり港のような帰る場所なんです。
ならその提督がいなくなったらどうなるか」
北上「…」
提督のいなくなったら鎮守府。最近よく聞く話だな。
吹雪「あらゆる鎮守府のこれからの課題ですよ。戦争は長期化してきています。今後何らかの理由で鎮守府や艦娘より先に提督が消える事例はどんどん出てくるでしょう。
その場合どうするか。どうなるか。
この鎮守府はその実験というか、試験的な意味合いがあるんですよ。偶然にもね」
提督がいなくなったら、どうなる。
手から離れた風船。飼い主から解き放たれた犬。蒲公英の綿毛。雛の巣立ち。
そのどれかか、そのどれもなのか。
北上「前任者の記録がない。というか末梢されてるのはその問題に気づかせないためってこと?」
吹雪「まあそういう感じでしょうね。結局のところ問題の先延ばしでしかないんですけど」
北上「そうだね」
吹雪「私達艦娘が実戦投入された時も世間はお祭り騒ぎでしたからねー。非人道的だーとかなんとか。
まあ安全地帯で騒いでるだけの暇人共ですから、深海棲艦に砲弾一発ぶち込まれれば泣いてすがりついてきますけど」
北上「危険だ、とかもね」
吹雪「扱い辛いのはその通りですよ。人形なのに戦力としては軍艦相当なんですから。そのくせ人のように振る舞う。縛り付け押さえつけて反乱でもされたら事ですよ。
なのに私達以外に現状を打破できる手段はない。仕方ない」
北上「提督がいなくなれば楔がなくなる、と」
吹雪「その可能性を知られるだけでも反乱の危険がありますから。情報が消されてるのはそのためです。
と言ってもここが初めての例ですし何がきっかけで艦娘が暴れるか分かったもんじゃないですからね。上もおっかなびっくり処理した感じで、こうして気づかれる程度のお粗末なものですよ」
北上「確かに。お粗末なものだったよ」
吹雪「この鎮守府、昔も結構な人数がいたんですよ?戦力としても上から数えた方が早いくらいには優秀でした。
その結構な人数、どうなったと思いますか?」
変わらない調子で淡々と話す。
でも私は目の前の彼女がまるで宇宙人のように思えてきた。
同じ存在のはずなのに、自分とはあまりにも何かが違う。
吹雪「結果としてこの鎮守府で、新しい提督の元でも機能すると判断され、実際にそうだったのが僅かに数人だったという話なんですよ」
私の背中で、扉越しに僅かだが音がした。
これが聞かせたかった話しか。
自分から伝えるわけにはいかないが、知って欲しかった事実。
扉の向こうの彼女は何を思って聞いているのだろう。
目の前の少女は、他のみんなと同じように見える。
でも誰も経験した事がない何かをきっと知っている。
北上「その結構な人数は、どうなったの」
努めて冷酷に、あえて淡々と聞き返す。
吹雪「当たり障りなく書類上の報告で返せば処分、ですかね」
北上「なんでさ」
吹雪「飼い主が消えたペットはどうなると思います?逃げ出すでしょうか。暴れたり、仲間同士で喧嘩したり、誰彼構わず襲うような猛獣だったり?
まあどれにしたって処分ですよね」
北上「そう」
吹雪「ええ」
聞きたいことを押し殺してただ相槌を打つに留める。
もしそうしなかったらと思うと、ゾッとする。
北上「じゃあさ、吹雪は、なんで残ったの?」
言葉を慎重に探りながら聞く。
吹雪「頼まれたんですよ」
北上「頼まれた?」
吹雪「提督に、鎮守府を頼むって」
それは、あまりにも重い言葉だ。
北上「鎮守府の維持にこだわるのはそれが理由か」
吹雪「そーゆー事です」
北上「おや?」
吹雪「行っちゃいましたか?あの子」
北上「みたいだね。そろそろ終わると踏んだか」
吹雪「引き際はホントに上手いんですけどねぇ」ヤレヤレ
北上「聞かせたことには気づいてるのかな」
吹雪「どうでしょう。そこら辺鈍いですから」
北上「信用ないんだね」
吹雪「信頼してますよ。だからこんな危ないやり方したんです」
北上「正直意外だった」
吹雪「何がですか」
北上「一応とは言え話してくれた事が」
吹雪「それはこっちもですよ。まさかそっちから聞いてくるなんて」
北上「そっちからって、自分から言うつもりはあったの?」
吹雪「そうすべきかも、とは思ってたり」
微妙な笑顔で意味深な事を言われた。
北上「提督は、なんでいなくなったの?」
最後にもう一度聞く。
吹雪「…原因は色々あるのかもしれません。でも元凶は1人です。戦争ですからね、奴ら以外にいないでしょ?」
深海棲艦(奴ら)。それも、『1人』、か。
吹雪「さてさて、話はおしまいです」
北上「ありがとね。色々話してくれて」
吹雪「叢雲の事があったから、いい機会はいい機会だったんですよ。でもそれ以上に」
喋りならがらゆっくりと扉まで歩いていきノブに手をかける。
北上「それ以上に?」
吹雪「期待してるんですよ」
北上「?」
吹雪「アナタにね」ガチャ
期待とはなんの事だ?
しかし私が何か言うよりも早く吹雪は扉の向こうへ消えていった。
と思ったら顔だけが戻ってきた。
吹雪「おっと忘れてた!提督がさっき呼んでましたよ。東棟1階に来いって。それじゃ」シュン
北上「お、おう。りょーかい」
東棟?あそこ何かあったっけ?
やれやれどうやら丸くなってる暇はなさそうだ。
北上「んッ…ー」ノビー
大きく身体を伸ばす。
さて行きますか。
52匹目:猫は三年の恩を三日で忘れる
文字通り、猫は三年の恩を三日で忘れるという意味。
いやふざけるなよと。
そりゃ放し飼いというかエサだけやってる近所の猫なんていつの間にかさっと消えててこの恩知らずなんて思われるかもしれない。
しかしそんな人間の尺度で勝手に猫は恩知らずだとことわざまで残されちゃたまったもんじゃない。
犬と比べるからぱっとしないだけで忠犬ハチ公ならぬ忠猫タマ公みたいな話は昔からある。
家猫が増えている昨今、飼い主と強い絆で結ばれている猫は増えているだろう。
結局のところ恩に報いるかどうかは人それぞれ、猫それぞれだ。
少なくとも私は
報いたい。
私は飼い主を探している。
谷風曰く、こうして生まれ変わっているのには意味がある。
ならばここには何かしら縁があるのだろう。
事実白猫、もとい多摩姉がいた。絶賛記憶喪失中だけど。
しかしこうなるとどん詰まりだ。手がかりがない。
飼い主の情報はゼロ。頼りの相方の記憶は戻りそうもない。
故に私は今ここの鎮守府の前任者を探っている。
何か縁があると信じて。
北上「ここか」
鎮守府東棟。
通称物置小屋。
つまりそういうことである。
古いものから最近のものまで要らなくなった物をとりあえず詰め込んだここは半ばパンドラボックス化しているとかなんとか。
外見はそこそこ普通なのだが中はかつて夏に肝試し会場として使われ多数の艦娘が上はモチロン下からも涙を流す羽目になり使用禁止となるくらいには不気味らしい。
北上「おじゃましまーす」ギィ
腐った木製のドアがいかにもな音を立てる。
うん、確かにこれは怖い。
提督「よっ」
北上「…よかった。足はついてるみたいだね」
提督「幽霊なんかいねえよ。少なくとも俺には見えない」
北上「いるいないじゃなくて、いそうってのが幽霊なんだよ」
提督「おおなんかそれっぽい」
北上「でしょ」
提督「さてこっちだこっち」
提督の後について奥へ進む。
まだ明るい時間だというのに中はいやに暗い。
窓の掃除は、まあする人もする必要もないか。
提督「ここだ」
北上「どこだここ」
一階の隅っこ。
古ぼけた建物の中でも一際古臭く見える部屋。
北上「なんの部屋?」
提督「それは見てのお楽しみだ」
そう言うとポッケから鍵を取り出し扉に差し込む。
北上「ふむ」
見たところ古臭い以外は他の部屋と変わらない。
提督「ん?」ガチャガチャ
だとしたらなんで私はなんで呼ばれたんだろ?
提督「ほ!」ガチャン
荷物運びとかなら私である必要は無いし、というかそれなら今すぐ帰る。
提督「ほ?」ガッガッ
他に私が呼ばれるような理由は…
提督「…」カチカチ
北上「いやいつまでやってるの」
提督「せいっ!」ガチャ
北上「お」
提督「開いた…」
北上「長く苦しい戦いだったね」
提督「見ての通りボロッボロだからな。鍵もサビとかでひでぇんだこれ」
北上「鍵変えたらいいじゃんか」
提督「そうもいかなくてな。さ、入れ入れ」ガッ
北上「あれ?」
提督「…」ガッガッ
北上「…扉事変えたら?」
提督「…検討しよう」
この後もう少し手間がかかった。
北上「おー不気味なほの暗さ」
中はぼんやりと棚やら物が見える程度には光が入っているようだ。
提督「オラァ!」バタン
北上「閉める時も大変なのね」
提督「最初から全力でやるのがコツだな」
扉を変えるのと壊れるのどっちが先だろうか。
提督「えーと、確かこの辺にランプが」
北上「ライトはないの?」
提督「電気通ってるように見えるか?」
北上「んー見えない」
提督「どっちの意味で」
北上「どっちも」
提督「なる」カチッ
北上「おわ眩しっ」
提督「おっと悪い悪い」
形はキャンドルランプのようだ。もっとも中身は電池式の豆電球のようだが。
北上「ん?それって」
ランプが置いてあった台。見たことはないが知っている形だ。
提督「これか?昔使ってたプリンターだよ。業務用のでっかいやつだけどな」
北上「でもこれ結構新しいよね?なんで物置小屋に」
提督「2.3年前はフル稼働だったよ。北上は知らないだろうけど、週の予定やその日の出撃、遠征、演習の編成。大規模な作戦がある時なんか資料をしおりみたいにして配ったりしてたんだぜ」
北上「人数分?」
提督「流石に全員ってわけじゃないけどな。掲示板に貼ったり各部屋に一部配るとか艦隊の旗艦に渡したりとか。それでもえらい量だったよ」
北上「なのに今はお払い箱か」
提督「スマホあるからな」
北上「あーなるほどね~」
提督「便利なもんさ。ファイルでポンと送ればそれで終わりなんだ。修正も楽だし紙もインクもいらない。掲示板が廃れたのを青葉あたりが残念がってたけどな」
北上「時代の流れだねぇ。侘び寂びだよ」
提督「それって意味あってるのか?」
北上「さあ」
提督「おい」
北上「今はプリンターないの?」
提督「家庭用のちっこいのが代わりを務めてるよ」
提督「まあこんなのはどうでもいいんだ。そろそろ目は慣れたろ?」
北上「うん。たいぶ」
提督「なら、ほら」
提督がランプを掲げ部屋に明かりを放つ。
北上「おー!」
思わず感嘆の声を上げてしまった。
部屋に広がっていたのは、いくつもの棚に収められた無数の本たちだった。
北上「凄い数!奥も全部そうなの?」
提督「おうよ。お前らの図書室ほどじゃないが結構な量のはずだ」
北上「でもなんでこんなところに」
提督「あーっと、前の、ここの前の提督の忘れ物ってところかな。一応所有権は俺にあるから心配すんな」
北上「…前の提督の」
提督「この部屋もそもそもその人の図書室みたいなもんだったらしい。読書家だったんだろうよ。そんなだから、捨てるに捨てられなくてな。こうして部屋ごと残してあんだ」
北上「これが、全部」
前任者。
これまで一切経歴やその人となりが見えなかった誰かさん。
北上「…読んでもいい?」
提督「モチロン。そのために呼んだんだ」
本棚の適当な1冊に指をかけ手前に抜く。
初めて誰かさんに触れられた気がした。
北上「ホコリとかはあんまりないんだね」
提督「それくらいの掃除はしてるさ。本のほうはよく分からないから保存状態は保証できないが」
北上「重畳だよ」
日光が入らないのは見た通りだけど、換気の方もそこそこされているようだ。
よれていたりはするけれど古本ならではという程度で素人の保存としては及第点だろう。
手に取ったのは『The Door into Summer』。
北上「英語?」
本棚に並ぶタイトルをざっと眺める。
提督「そ。これ全部海外の本なんだよ」
北上「なるほど。それで私ってわけか」
提督「別に無理に読む事はないぞ。もう北上くらいしか読むやつもいないだろうし、気に入ったのだけでも使ってくれれば御の字だ」
北上「気に入ったのかあ。これ全部をチェックするにはそれだけで長い時間楽しめそうだよ」
提督「そりゃよかった。ほい」
北上「これって、ここの鍵?」
提督「俺はもう戻るから自由に使ってくれれ。あー暗かったら本はバンバン持ち出して構わないぞ。目ぇ悪くなるだろここ」
北上「人間じゃあるまいし、そんなんで悪くならないよ。ここで読む」
提督「そっか、ならいいけど。んじゃ」
北上「はいはーい」
日本人でこれだけ海外の本を集めるって中々だなあ。もしかして読書好きとかが私の飼い主との共通点とか?
さてどこから読んでいこうか。
ガタッ
いやその前にこの本たちがどう並んでいるかをチェックしよう。
提督「あれ?」ガタガタ
とりあえずアルファベット順ではあるようだけどもっと大まかにジャンルや年代作者別の可能性もある。
提督「フンッ!」ガッ
いやらパッと見作者別はなさそうだ。
提督「ソッ!ハッ!」ガッガッ
…
北上「てーとく~。いつまでやってんの」
提督「いや…」
北上「てーとく?」
提督「なんて言うかその…」
北上「提督?」
提督「微動だにしない」
北上「うそん」
驚きの密室体験。
北上「艦娘パワーならいけると思うけど」
提督「それだと扉壊れちまうし」
北上「緊急事態じゃない?」
提督「まあそうとも言えるが…」
北上「なんか引っかかってるのかね」
提督「多分さっき閉めた衝撃で鍵が変に閉まっちまってんだと思う」
北上「鍵?あーホントだ。隙間から錠が見える」
提督「鍵でいけるかな」
北上「んー…ダメだ。中途半端に鍵かかってるせいで入らない」
提督「ダメかあ」
北上「ダメだあ」
北上「やっぱ壊すしかないんじゃ」
提督「最終手段でお願いします」
北上「最終って…」
提督「そう悲観することもないだろ。鎮守府の誰かに連絡とりゃいいんだし」
北上「あっそうか」
普段スマホなんて持ち歩かないから完全に失念していた。
提督「…」
北上「…」
北上「あれ、連絡は?」
提督「え、いやスマホ部屋に置いてきちった」
北上「私スマホなんて持ち歩かないよ」
提督「マジで」
北上「マジか」
提督「つんだ」
北上「最終と言ってもいいのでは」
提督「ん~。ここに行くことは吹雪も知ってるしあんまり遅けりゃ探しに来るだろ」
北上「そんなにこの部屋が大切なの」
提督「まあな」
北上「…仲良かったりしたの?前の提督と」
提督「いや…仲はあんまし良くなかったかな」
凄く難しい顔をする。
北上「よく考えたら私は別に急いで外に出る必要ないよね」
提督「俺も別に急いで外に出る必要はないな」
北上「いや提督は仕事しよう」
提督「不可抗力不可抗力」
北上「やはり扉を壊して出よう」
提督「まて落ち着け」
北上「日頃の行いが悪かったと諦めよう」
提督「それとこれとは別問だいたたたた折れる折れる本気出すなおい!」
提督「どうせ俺がいなくても鎮守府回るし」
北上「これは酷い」
提督「書類とかだってぶっちゃけアレいらないだろ?古臭いしきたりみたいなもんだよ。今時んなもんデータで送れってんだ」
北上「まあまあ。私達のためだと思ってさ」
提督「お前らのためになるかは微妙だぞ?」
北上「なんでよ」
提督「戦争だからな」
北上「そっかー」
提督「俺が仕事をサボれば平和になる」のでは」
北上「それは見て見ぬふりって言うんだよ」
提督「う…」
北上「後で吹雪に謝っときなよ」
提督「そーするよ」
北上「さてと。じゃ方針も決まったし救援がくるまでゆっくりくつろぎますか~」
提督「くつろぐっても椅子もなんもないんだけどな」
北上「ホコリがないならそれで十分だよ」
一番手前の棚の左上から5冊ほどを抜き取る。とりあえずは片っ端から見ていこう。
本棚を背に床に座る。
北上「うわ」
提督「どした」
北上「妙な湿り気というか感触というか」
年季の入った板の出す独特の柔らかさがお尻に直に伝わってくる。
夏も終わり残った暑さと湿気がなんとも言えない生暖かさを演出していた。
スカートをしっかり下に引いた方が良さそうだ。
北上「こういう時男が羨ましいよ」
提督「ズボンだしな」
北上「提督も来なよ」
提督「俺英語は読めねえぞ」
北上「そこは北上さまに任せなさい。それにずっと立ってるわけにもいかないでしょ?」
提督「まあそりゃそうだが」
北上「いつもの提督室みたいな感じでさ」
提督「…」
何やらしばし躊躇した後、
提督「おーけー、お邪魔するよ」
そうっと私の隣に座ってくれた。
やっぱり大井っちの事を考えたりしているのだろうか。
まあ今は緊急事態だししょうがない。
しょうがないよ。
提督「で、それはなんて本だ?」
北上「『The Door into Summer』これくらいは分かるでしょ」
提督「…夏に、夏の、中の扉?」
北上「そんな固く考えなくてもいいって。夏への扉ってやつ。これは和訳のやつを読んだことあるんだ」
提督「青春ものって感じのタイトルだけど」
北上「内容はもっと大人っぽいよ。仲間に裏切られた主人公がね、唯一信頼してた猫ともはぐれて未来に行っちゃうって感じかな」
提督「裏切りかぁ。そりゃ辛いな」
北上「提督も明日は我が身だよ~」
提督「よせやいこんなアットホームな職場で」
北上「うわぁこりゃいつ刺されるかもわからんね」
提督「俺が主人公なら猫は北上かな」
北上「またまたそんなこと言って~。素直になりなよ~」ツンツン
提督「素直な意見だよ素直なぁ」
北上『The Lord of the Rings』」
提督「これは映画を見た気がするな」
北上「見に行ったの?」
提督「いや。鎮守府で上映会みたいなのやって色んな映画を見たりするんだ。正直これは途中から見たからあまり記憶が正確じゃないなあ」
北上「長いからね~これ。よく映画にまとめたよ。ハリーポッターなんかもそうだけど」
提督「海外の映画なら俺はパイレーツ・オブ・カリビアンが好きかな」
北上「いつも安全地帯で指示出すだけなのに前線に出て船長とかに興味あるの?」
提督「グサッとくる。箱に心臓入れたくなるくらいグサッとくる」
北上「あ、結構気にしてた?」
提督「いいもん。これが俺に出来る最善だもん」
北上「でも海賊には憧れる」
提督「というよりは自由ってやつだな。もちろん無責任なほうじゃなくてな」
…
……
北上「これもなんかなあ」
提督「二冊連続だぞ」
北上「やっぱ出だしでこう、なんか合わないって本あるんだよねぇ」
提督「俺にはよく分からんな」
北上「アニメとかで出だしでいきなりなっがい独白から始まってえっ…てなる感じ、かなあ」
提督「なんとなく分かった」
北上「こっちは、『Stray』?迷うとかはぐれる」
提督「びっきーアラン。聞いたことはないな」
北上「…これはちょっと読みたくなる感じ」
提督「そりゃよかった」
北上「ちょっと肩かりまーす」
提督「ちょ、おい。北上ー」
北上「やっぱ椅子無しは辛い」
提督「へいへい」
北上「…あー、迷い猫はぐれ猫って意味か」パラパラ
なんだか親近感が。
あれ?
北上「なにやってんの」
提督「こうして座るとあんまり身長差感じねーなーって」
北上「そうじゃなくてなんで私のおさげをいじってるのさ」
提督「なんかフサフサしてて気持ちいい」
北上「猫の尻尾じゃないんだからさ」
提督「というかさっきからいじってたけど全然気が付かないのな」
北上「読み込んでたからね」
提督「ところで猫の尻尾って気持ちいいのか?」
北上「んー、どうだろう」
提督「やっぱ長い髪だと筆みたいで気持ちいいな」
北上「そんなに気に入ったの?」
提督「俺なんかつんつん頭だしさ」
北上「提督のは染めてるのもあるでしょ」
提督「確かに」
北上「髪長いってのも色々大変なんだよ?寝転がったら体制変える度に髪に引っ張られたり巻きついたり。こうして座ってるとこから立とうとすると髪を足や手で挟んでピーンってなったり。艤装降ろそうとしたら髪の毛挟まってて頭を引っ張られたり「待て待て、落ち着け。ゴメン俺が悪かった」分かればよろしい」
提督「髪切りたいのか?」
北上「出来ればね~」
提督「ふ~ん。それはそれでもったいねえな」
北上「そう?」
提督「男は髪短いからさ、長髪ってなんか大切な感じがするのかな」
北上「隣の芝生は青いってやつかな」
北上「あとこそばゆいねこれ」
提督「あ、やっぱ自分でもそうなんだ」
北上「風呂上がりとか特にさ。私の長さだと鎖骨あたりにちょーど刺さって。もうちょい長いと胸とかいくんじゃないかな」
提督「あのさ、その生々しぃ体験談を俺に対して女子トークのノリでするのはどうかと思うんですよ」
北上「あ、ごめん」
提督「俺って男だって事意識されてないのかな」
北上「どうだろね。人によるとは思うけど、私としては性別じゃなくて異性って感覚があまり無い気がする」
提督「どゆこと」
北上「提督が異性だと思えない」
提督「同じことだろ?」
北上「いやいや。例えば私が男で提督が女でも、提督がイケメンでも不細工でも、なんであれ差異を感じないって感じ」
提督「友達感覚しかない、ってことか」
北上「ここには仲間しかいないから」
提督「仲間、ねえ」
北上「家族の方が合ってるかも。ファミリーだよ」
提督「姉妹にとどまらずか」
北上「みんな個性的だからね、私達には海より濃い血が流れてるんだね」
提督「なんだそりゃ」
北上「さあてね。提督、長い髪が好きなんだっけ」
提督「誰から聞いたよそれ」
北上「大井っち」
提督「あんにゃろ」
北上「てことはそうなんだ」
提督「自分にないものって憧れるじゃん」
北上「髪伸ばせば?五年もあれば結構な長さになるんじゃない」
提督「よせやい変人だよそんなん」
北上「今更でしょ」
提督「おい」
北上「よっと」
読み終えた本を戻して新たに本を取り出す。
ずっと座っているのでこうして体を定期的に動かさないとあとが怖い。
提督「北上ーパンツ見えてんぞー」
北上「やーんえっちー」
提督「反応が薄い」
北上「見せ慣れてるからねぇ。それを言ったら提督こそ」
提督「見慣れてるからなぁ」
北上「世間的には結構とんでもないこと言ってるよねお互い」
提督「女ばっかの兄弟の中で1人だけ男みたいなもんなんじゃね。一々興奮なんかしねえだろ」
北上「んーイマイチわかんないや」
そこら辺は人間の感覚だろう。
北上「提督も立ったら?腰痛めるよ」
提督「いやいいよ。今は」
北上「そお?流石に体育座りのままはキツそうだけど」
提督「フフ、提督を舐めるなよ」
天龍より怖くない。いっそかわいい。
北上「ならいっそ提督を椅子にしよう」
提督「へ?」
北上「ほら足広げて伸ばして」
提督「わっバカやめろ!ストップ!待て!」
北上「猫に待ては効かないよ~」
提督「だあやめやめ!」
北上「そんなに嫌だった?」
しばし取っ組みあったが流石に少女と大人、力の差は歴然だ。
ここで艦娘としての力を使うようなことは流石にしない。
提督「嫌ではないんだが…まあ色々とね、男としてと言いますか」
男?
大井っちの事かな。
別にこれくらいはいいじゃないか。
独り占めはよくないぞ。
提督「北上?」
北上「なら膝枕を要求しますよ~」
提督「だ~もわかったわかったやりゃいいんだろ。それならかまわないよ」
北上「えー」
提督「んだよ」
提督、胡座。
北上「正座じゃないのそこは」
提督「木の板の上で長時間正座かつ膝枕とか拷問かよ」
北上「それもそうか。ちぇーひ弱だなあ人間」
提督「繊細だと言ってくれ」
北上「いやその言い方もどうなのさ」
提督「…割れ物注意とか?」
北上「ガラス細工だったとは」
提督「デリケートなんだぜ」
北上「よいしょっと」
提督の少し固めの膝枕に頭を預け上を向き本を開く。
提督「お前はホント膝枕好きだな」
北上「知ってたの?あー大井っちか」
提督「私の膝は全然使ってくれないーって言ってたよ」
北上「大井っち余計なことばっかするからゆっくり寝れないんだよね…」
提督「本人に言ったらどうだ」
北上「なまじ悪気がないだけにこちらからは言い難い」
提督「善意って怖いな」
北上「てーとくから言っといてよ」
提督「なんで俺が。んな事言ったら嘘つけーって酸素魚雷が2発ほど飛んでくる」
2発という具体的な数字が出てくるあたり提督も慣れているというかなんというか。
ふと上を見ると提督の顔が見える。
北上「提督ってなんで髪染めてるのさ」
提督「カッコいいだろ?」
北上「…」
提督「北上?」
北上「…」
提督「…」
北上「…」
提督「きたかみさーん」
北上「鏡って知ってる?」
提督「お前ほんっと容赦ないよな」
提督「そんなに変か?それこそ海外じゃ金髪なんて珍しくないだろ」
北上「国によるけどね。でも天然の髪色を金髪というなら提督のそれはパツキンだよ。塗ってるどころか塗られてるレベルだよ」
提督「マジかよ…そんなに似合ってない?」
北上「見慣れたから特に変とは思はないけど、絶望的に似合ってない」
提督「マジかぁ…似合っててもおかしくないはずなんだがなぁ…」
妙な言い回しをする。なんでそんなに自分に自信を持てていたのか。
ハラリとページをめくる。
北上「本のページをめくるのはパンツをめくるのと似ているのかもしれない」
提督「何言ってんの。いやほんとマジで何言ってんの」
北上「普段は目に見えない所を自分の手で顕にしていくというのがたまらないと言いますか」
提督「それ一緒にするのは他の読書家に失礼なんじゃないのか」
北上「中身はこうじゃないかと予想しながらそれが当たっても外れても楽しめる感じがさ」
提督「凄い、俺女子にパンツめくりについて熱く語られてる」
北上「提督はどう思う?」
提督「んー、パンツは見慣れてるしなあ」
北上「…もしかして提督って既に枯れてたりする?」
提督「そんな!ことは、ない…はず」
北上「よし、こいつはまた今度読もう」
提督「当たりだったか」
北上「うん」
さて次の本はと。
提督「…」サラッ
北上「うわっ、なにさ提督~」
前髪をサラリとかき分けられた。
提督「改めて見るとまつげ長いなって」
北上「そりゃあ私だってオンナノコですから」
提督「どうせ大井だろ」
北上「マアネー」
提督「大井は結構化粧とかファッションこだわる方だからなあ。鎮守府じゃそういうの気にするやつ少ないし」
北上「戦場だしね。でも大井っちが私にこういうの気にするようにって言い出したのは最近だよ」
提督「そうなのか?」
北上「そだよ」
北上「最低限これくらいはしてください、ってさ。めんどくさいけど大井っちがやってくれるならいーかなーって」
提督「めんどくさがりだな」
北上「必要な事はやるよ。でもこれは別に必要じゃないでしょ?」
提督「そうか?オンナノコなんだろ?」
北上「猫が磨くのは爪だけだよ」
提督「毛繕いもしろってことだろ」
北上「えーやだーめんどくさいー」
提督「やっぱめんどくさがりじゃねえか」
北上「提督やってよ」
提督「俺?無茶言うな。三つ編みだってできねぇぞ」
北上「やってみると案外簡単なもんだよ」
提督「なら自分でやるんだな」
北上「ちぇー」
提督「この髪も、海に出たら焼けてしまうんだよな」
北上「バケツかぶりゃ元通りだけどね」
提督「バケツじゃ治らないものもあるよ」
北上「ん?艶とか?」
提督「艶は、どうだろ」
北上「キューティクル」
提督「たまに聞くけどキューティクルって結局なに」
北上「私達で言う艤装みたいなものらしいよ」
提督「武器なのか」
北上「シールドってこと」
提督「そっちか」
北上「どお?私の髪は。キューティクルあるかな」
提督「サラサラだよ。サラサラだとキューティクルあるってことなのか?」
北上「…さあ?」
提督「えぇ…」
北上「さっきの話だけど、こうやってさ」
提督「ん?」
北上「膝枕が好きっての。こうやって人に、ひっつくというかー擦り寄る?寄り添う感じが凄く安心するんだ」
提督「ほー。いよいよ猫みたいだな」
北上「アレはマーキングとかの意味もあるんだけどね」
提督「んじゃ今俺はマーキングされてんのか」
北上「…」
広げていた本を少し下にずらし提督の顔を見る。
提督「北上?」
今度は目が合った。
北上「マーキングかぁ」
提督「んだよ」
北上「じゃあさてーとくは、私のモノだね」
北上「ぐえ」
一瞬の間の後驚くほど速い仕草で開いていた本を顔に押し付けられた。
提督「バカ言うな。そんなことしたら大井にありったけの魚雷を撃たれちまう」
北上「あはは、そりゃ怖いや」ガバッ
提督「もういいのか?」
北上「上向きで本読むと手が疲れる」
提督「最初に気づけよそれ」
さて次の本次の本。
提督「今の本はどうだった?」
北上「これ?あー、えっとねえ」
なんだっけ、どんな内容だった?出だしは?登場人物は?
いやそんなことはいい。次の本だ次の本。
ガタンッ
提督「ん?」
北上「扉。救援かな」
そういえば救援が来たとしてあの扉をどうするか考えてなかったな。
吹雪「チェストー!!」バキィッ!
提督「えぇーー!?」
北上「うわぁ…」
吹雪「イチャコラしてるバカップルはここかぁ!」
提督「てめ何してんだよ派手にぶっ壊しやがって!お前だってこの部屋はこのまま残しとこうって言ってたじゃねえか!」
吹雪「まともに機能しなくなったらそんなもの思い出せない思い出と一緒ですよ!朽ちた過去に想い入れなんか持たずに思い出くらい自分の中でしっかり保存しといてください!」
提督「いやでももうちっとなんかこう、あるだろお!」
吹雪「あるのは仕事だけですよ!鍵がぶっ壊れてるあたり状況は察しますがそんなんじゃ仕事は減りません」
提督「んな殺生な!あーまてまて引っ張るないててて北上ー……」
北上「おぉ…」
嵐はあっという間に扉の向こうへ消えていった。
北上「せっかく貰った鍵だけど意味なくなっちゃったね」
静かになった事だし読書を再開しよう。
北上「なんだろこれ」
手に取った本に何かが挟まっている。
北上「写真か」
随分古い。
そこには
一面の麦畑と
その中で笑う一人の女性が写っていた。
その金髪の女性を、私は知らない。
知らないけれど、どこかで見た覚えがあった。
あの神社で。
麦畑と比較して見るに身長はそこそこ高い。
それこそ大男と並んでいても不思議じゃないくらいには。
私ならきっと麦に胸くらいまで覆われてしまうだろう。
写真は、ここか。
本の見開き。ここに挟まっていた。
そこには写真と同じ大きさの跡と
M.Hという文字があった。
イニシャルか?
なんだか見覚えが…
北上「あっ」
本の背表紙を見る。
下の方に、かすれて見えにくくなっているが同じM.Hの文字がある。
やっぱりこれは持ち主の、前の提督のイニシャルだ。
他の本にも書いてある。
M…提督も、今の提督も苗字はMだな。
あーいや、イニシャルだから苗字はHか。
イニシャルだけじゃどうしようもないか。
しかし何故この本に、この…
北上「『The Catcher in the Rye』。またこの本か」
あれ、そういえばあの時。図書室での時。
多摩姉が言っていた。
まるで一枚の写真のように、
小麦色に、金色で、
一人の女性が。
じゃあ多摩姉が見たのはこれの事か?
でも何故?ここにあったのなら多摩姉が見る機会はなさそうなものだ。
だとしたらここにない時、まだ前任者がここにいた時に見た?
わからない。
わからないから、調べるしかない。
本を片っ端から見て、何か他にもないかを。
北上「まだ何か挟まってるな」
こっちは栞か。
この本が好きだったのだろうか。
妙なマークが描かれているが特に情報になるものはなかった。
そんな事はいい、次の本だ。
早く、のんびりしてはいられない。
ここにある本全部だ。
機械的にページをめくっていく。
さっきまで広がっていた本の世界は、ただの文字の羅列になってしまった。
かまわないさ。私には目的があるんだ。
何かの本の前編を閉じ、私は棚に戻した。
っと、ここらでちょっと休憩にしようか。
谷風「いやあびっくりしたよ。丁度寝るとこだったからよかったものを、こんな時間に部屋に押しかけてくるなんてさ。一応私らの仲はあまり知られないようにしてるんじゃないのかい?」
北上「…」
時間は23時を過ぎたところ。
あれから無我夢中に本を漁った結果寝食を忘れてしまい、夕飯になっても現れない私を大井っちが血眼になって見つけ出してーまあ一悶着あった。
本に夢中になっていたと誤魔化し夕飯をさっさと済ませまた本を漁っていたらこんな時間。
でも明日を待つ余裕はなかった。
お馴染みの屋上。
北上「この写真の女性、誰か知ってる?」
谷風「ん~?血相変えてこの谷風さんを呼び出したと思えば最初の質問がそれかい」
北上「知ってる?」
谷風「知らないね。生憎だけど艦娘以外で女性に会ったことは無いね」
北上「これがね、物置小屋の本棚にあった本に挟まってたんだ」
谷風「あぁ、あの部屋か」
私が何を見て聞いてきたか察しがついたようだ。
北上「谷風」
谷風「なんだい」
北上「前任者について、話してほしい」
谷風「それはできないね」
即答だった。
常に囀りのやまないその口から飛び出た言葉とは思えないほど完全な否定。
北上「何故」
谷風「あんまし覚えてないからね。なにせ鳥頭だからさ」
北上「…」
そうヘラヘラと笑う。
私が猫なら今頃食ってかかっているだろう。
谷風「そう今にも食いかかるような顔をしないでおくれよ。冗談さジョーダン」
北上「…」
トリはトリでも妖怪サトリの方みたいだ。
谷風「覚えてないってのは嘘じゃないんだ。何せ私は自分の事で頭がいっぱいたったからね。自分の同族を見つけるために艦娘のことしか見てなかったんだ。
こう言っちゃなんだか悪い気もするけれど提督とは決して仲は良くなかったんだ。悪くもないだけで。まあそれは今の提督も同じなんだけどね」
北上「覚えてないから話せないって?そんな理由で」
谷風「それは違う」
北上「?」
谷風「私はね、同じ境遇の仲間を見つけるために止まり木としての鎮守府が必要だった。だからこの鎮守府に残った」
谷風「吹雪から聞いたろ?彼女は、そうだねえ。ある種の呪いみたいなものだね。前任者から受けた言葉でこの鎮守府に残った」
北上「な、なんであの時の話の内容知ってるのさ」
谷風「壁に耳あり障子に目ありってね。最もあの時は扉に耳があったようだけど」
北上「そこまで…」
谷風「内緒話をするには少々場所が開けすぎだよあそこは」
北上「次回から参考にさせてもらうよ」
谷風「そいつぁこまるね。盗み聞きしにくくなっちまう」
北上「悪びれもしないんだね」
それにしても呪いだなんて。
言い得て妙なのかもしれないけれど。
谷風「日向さんは読書という提督以外の拠り所があったからこの鎮守府に残った。もっともそれも提督の影響みたいだけどね」
あぁ、そう言えば以前そう言っていたっけ。
谷風「他にも何人か自分なりの理由があってここに残った。でもそれは決して提督の事を大切に思っていなかったわけじゃないんだ。それとは別問題なのさ。
私だってそうさ。大して関わりもなかったけれど、こんな変わり者をここに置いてくれた事に感謝してる」
言葉一つ一つから前任者への思いが伝わってくるようだ。
いつものように軽い口調だが、その一つ一つはとても重い。
谷風「提督がいなくなっても提督がいたからこそここに残った。そして、だから私達は提督に最も近かった吹雪に付いていくつもりだ」
北上「吹雪に?」
前任者の秘書艦でもあったという吹雪。
谷風「もしかしたら私達も気づかないうちに吹雪を提督の代わりの拠り所としちまってるのかもねえ。ま、そんなんだからさ、吹雪が君に話さなかった以上私達もこれ以上君には話せない。そういうことさ」
北上「義理堅いんだね」
私達とはつまりここに残った艦娘の事か。
吹雪や谷風、飛龍さんに日向さんに、他の人も。
谷風「お堅いだけだよ。ついでに口も硬い。残ったのはみんなそんなやつばかりさ」
北上「どうだかね」
谷風「ともあれ君の飼い主と前任の提督が何かしら繋がりがあるのは確かだろうね。随分と読書家だったけど海外の物まであったなら外人と繋がりがあってもおかしくない」
北上「無いと困るよ。この糸も繋がってないんじゃ本当に八方塞がりだ」
谷風「そうだねぇ。ならやっぱり提督、今の提督を調べるべきなのかな」
北上「今の?なんで?」
谷風「ここが少々特殊なのは知ってるだろう?ならその後釜になった彼にも何かしらの繋がりがあって然るべきじゃあないかな」
北上「繋がりねえ」
確かに提督は前任者に対して思わせぶりなところがある。
北上「君達が普通に話してくれりゃそれでいいんだけどね」
谷風「そいつは言わないでおくれよ。協力したいのは確かなんだからさ」
北上「よし、とりあえずは」
谷風「とりあえずは?」
北上「お風呂に入ろう」
谷風「まだ入ってなかったのかい」
北上「ずっと本読んでた」
谷風「よっしゃ!なら私も付き合おうしゃないか」
北上「え、なんでさ」
谷風「裸の付き合いって言うだろ?」
北上「まあいいけどさ」
谷風「親子水入らずなんて言うけど、裸の付き合いは友人お湯いりようって感じだね」
北上「水を差すとかもそうだけど言葉における水って悪いイメージだよね」
廊下を歩く。
私の横にはウミネコがいる。
裸の付き合いねぇ、猫は水は苦手なものだというのに奇妙な話だ。
北上「あ」
谷風「ん、どーしたんだい?」
北上「てーとくに鍵返さなきゃ」
谷風「鍵?鍵ってなんの」
北上「物置小屋の部屋の。まあ扉は吹雪がぶっ飛ばしちゃったから無用の長物なんだけどね」
谷風「ぶっ飛ばしちゃったかー。そこら辺は後で詳しく聞かせてくれるんだろうねえ」
北上「ありゃ、そこは覗き見してなかったんだ」
谷風「あはは、そんな覗き魔じゃあるまいに」
北上「あはは」
いや覗き魔だよお前は。
「だからなんで急に見せたんですか!!」
「そりゃお前には関係ないだろ!色々と大変だったんだぞ!」
谷風「うわー」
北上「うわー」
提督室、の前、よりももちっと遠く。
廊下にもそこそこ声が漏れていた。
谷風「あのバカップルはいつも元気なもんだねぇ」
北上「これ周りへの騒音はどうなのよ」
谷風「あまり想像したくないね」
北上「鳥さん鳥さん、あの家はいつもあんなに騒がしいのかい?」
谷風「そうさねえ、週に一、二回はああしてピーチクパーチクやってるよ」
「そう簡単に言うけどなあこっちも我慢したんだからな!」
「そんなの私だってそうですよ!」
北上「…いてっ」
谷風「ん?」
北上「あーいや、ちょっと鍵を強く握っちゃって」
谷風「なにやってんのさ…」
北上「ははは…さてお風呂行っちゃいましょーかねー」
谷風「鍵はいいのかい」
北上「今入ったら確実に巻き込まれるもん」
谷風「それもそうだね」
谷風「お風呂上がりのドライヤーは任せておきなっ」
北上「何故自信満々に」
谷風「浦風や磯風にやったげてんのさ。君の専属スタイリスト程じゃないだろうけど得意ではあるんだ」
専属スタイリストて…いや大井っちはそれくらいやっているか。
北上「ならお言葉に甘えちゃおっかな」
谷風「おうよ」
北上「谷風ってお風呂好きなの?」
谷風「そりゃもう。暇さえありゃ朝風呂に入ってるよ」
北上「そんなにか」
江戸っ子?おっさんっぽいとも言える。
谷風「最近は風呂が気持ちよくなってきたしね」
北上「それもそうだね」
谷風「湯冷めには気をつけなよ」
北上「大井っちにもう言われたよ」
谷風「流石だね」
北上「私は別にお風呂は好きでも嫌いでもないしね」
谷風「ほーん。嫌いでもないのかい、猫なのに」
北上「そっちこそ、鳥なのに」
お互いにニヤリと笑う。
秘密の友達との秘密の会話。
特別感というか背徳感というか、妙にこそばゆくて心地よい。
季節は、秋に差し掛かっていた。
966 : ◆rbbm4ODkU. - 2018/03/17 04:14:12.16 4BxzDs7d0 763/1821北上「我々は猫である」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521225718/
お待たせです。本当に。
大体ル級×6のせい
続き
北上「我々は猫である」