40 : 以下、名... - 2019/08/26 18:23:58.76 UP/72cx80 1/16


【おまけ】

以下のお話は、本来であれば2018年9月6日、
[トゥインクル・パーティー]北条加蓮&[笑顔のレセプション]高森藍子の登場記念、そして加蓮の誕生日記念(意図的な1日遅れ)として投下する予定だったものです。
当時はこの場所のサーバーダウンにより投下できずにいました。今回、ガシャ復刻記念として置いておきます。

またこのお話は、第57話『高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ある意味でヤバイカフェで」』(2人がカフェ巡りしてた話の1つ)の頃に書いたものです。
今とは色々違っている部分があります。ご了承くださいませ。

元スレ
北条加蓮「藍子と」高森藍子「雨上がりのカフェで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1566810143/

41 : 以下、名... - 2019/08/26 18:24:28.46 UP/72cx80 2/16

高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「また毎日が始まる日のカフェで」


――おしゃれなカフェ――

色々なお話も一段落して、ふと、話題が途切れた頃のことです。

加蓮ちゃんが、窓の外の景色をじーっと見ています。
何を見ているのか気になったけれど、なんだか話しかけるのが躊躇われます。
まるで、雪でできたとても綺麗なお菓子があって、つい触りたくなるけれど、そうしたら崩れちゃうような。

どこか憂いを帯びているような横顔。だけど目は、何かにうきうきしているように楽しそう。
遠くから見れば大人っぽいけれど、身を乗り出して近くで見たら、すごく可愛い女の子。あと、口を開いたら意地悪な人。
そういうのがぜんぶ加蓮ちゃんで、こうして座っているだけでもよく分かりますよね――

「~~~♪ ……どしたの藍子? 私をじーっと見て」
「あっ……。う、ううん。なんでもありません、加蓮ちゃん」

ばれちゃったっ。

42 : 以下、名... - 2019/08/26 18:25:00.10 UP/72cx80 3/16

「なになに? かまってくれないから寂しかったとかー?」
「違いますよ~っ。私が見ていたのは、」
「見てたのは?」
「……か、加蓮ちゃんは、何を見てるのかな? って、気になっただけですっ」

隠しごとをしています、って、顔に書いちゃった気分です。別に、ごまかすこともないのかもしれません。
カフェで、お話しないでいる時間、っていうのはそんなに珍しくありません。
そういう時、私はメニューをめくっていたり、外を眺めていたり、あるいは、加蓮ちゃんを見ていたり。
加蓮ちゃんだって、同じです。あ、私を見ているな、って気がつくことだってあるんですよ。

あれは、いつだったかな……。
夏の、ちょっと前くらいの頃、同じようにお互い話すことがなくなってしまって、それから。
加蓮ちゃんが、私をじいっと見つめてくるから、私もなんとなく、見つめ返しちゃって、無言のまま1時間くらいすぎていたことがありました。
沈黙がなくなったのは……。
加蓮ちゃんが「にらめっこみたいだね」って言った時、だったかな?

43 : 以下、名... - 2019/08/26 18:25:28.94 UP/72cx80 4/16

「あっ、思い出しました!」
「何を?」
「前に同じようなことがあった時、加蓮ちゃん、最後に「口の端にサンドイッチの卵がついている」って言って」
「あー、あったね……ぷくくっ」
「もうっ! ……い、今は何もついていませんよね?」
「ついてないついてない。嘘じゃないよ。ほら」

……いや、撮らなくていいです加蓮ちゃん。ドヤ顔でスマートフォンをこっちに向けなくてもいいです加蓮ちゃん。

「どうしてそんな、自信満々なんですか?」
「だって私だし?」
「あぁ。……加蓮ちゃんの、いじわるっ」
「だって私だし?」
「も~っ」
「それにさ、今は藍子が私を見つめて来てたでしょ? どしたの? 惚れた?」

何をいまさら。

44 : 以下、名... - 2019/08/26 18:25:58.81 UP/72cx80 5/16

「今日の加蓮ちゃんは、なんだか楽しそう」
「そう? んー、そうかも。熱が引いてないのかな……」
「熱?」
「いやだからさー、熱ってワードに過剰反応するのやめなさいよ。アンタも、モバP(以下「P」)さんも」
「え?」
「あれ?」
「……」
「……」

加蓮ちゃんの瞬きが4倍の速度になりました。私は……つい、苦笑いが。
これもまた、よくあることなんです。
おかしなところで、ずれてしまうというか。
加蓮ちゃんって、分かりにくいように見えて分かりやすいんですけれど、分かりやすいのに分からないことがあるんです。
おかしいですよね。もう結構長い間、こうしてここで一緒にいるのに。

「……なんか、ごめん」
「ふふっ、私こそごめんなさいっ」

気まずくなったら、とりあえず笑ってしまいましょう。
どこか呆れたような笑い息をもらした加蓮ちゃんは、まあねー、と頬杖をつきました。

45 : 以下、名... - 2019/08/26 18:26:28.65 UP/72cx80 6/16

「楽しいっていうより、浮かれてるかも」
「うふふ、なんとなく分かりますよ」
「すごかったよね。パーティー」
「アニバーサリー、楽しかったですねっ」
「ね、ね、藍子。私のステージ見ててくれた? 船の上で、きらめくドレスで――」
「はいっ。ばっちり見ていましたよ」
「ありがとう。しかもさ、誕生日まで祝ってもらってさー。……ふふふふっ」
「あはは、顔がとろけちゃってる……」

でも、しょうがないことかもしれません。
アニバーサリーパーティーの主役をもらった、って報告してきた時の加蓮ちゃんは、これまでとはぜんぜん違う――
美しい笑顔と、可愛い笑い声と、それから、とろけた顔と。
その上、誕生日のお祝いというサプライズまでもらっちゃったんですから、思い出しただけで頬が緩んでしまいますよね。

「何よ。ちゃっかりサプライズを仕掛けてきて! 何なのよ藍子は!」
「怒られたっ」
「私知ってるんだからね。最初はいいのかなー大丈夫かなーって傍観者ぶってた癖に、途中から誰よりもノリノリになってたこと」
「う、それは……。だって、加蓮ちゃんをお祝いするってお話だったから……ついテンションが上がってしまって。それに……」
「それに?」

一拍。
二拍。
……よくばって、三拍。
あ。加蓮ちゃんの目が、ぎゅう、って細まってる。

46 : 以下、名... - 2019/08/26 18:26:58.93 UP/72cx80 7/16

「なんていうか……。負けたくないな、って、思っちゃったんです」
「負けるって、誰に何を」
「プレゼントの中身とか、渡すタイミングとか、あとメッセージカードとか……。そういうミーティングを見ていると、みんな加蓮ちゃんが大好きなんだなって」
「うん。……な、なんか照れるね」
「そうしたら……。それに、負けたくない……なんて?」
「……そ、そっか、うん」

……そうですよね。冷静になって考えると、私って何を言っているんでしょうか。
いや、その……。加蓮ちゃんのことは……。
ほ、本当に何を言ってるんだろう私っ。沈黙が耳に痛いです。慣れてても、慣れてない気まずさですっ。
話題、話題を変えなきゃ……!

47 : 以下、名... - 2019/08/26 18:27:28.53 UP/72cx80 8/16

「そ、それより、どうして秘密のミーティングを加蓮ちゃんが知ってるんですかっ」
「あ、あぁー、それね。それ。ほら、Pさんがさ。その時の、ミーティング? の時のを録画してたみたいで」
「そ、そうだったんですね。……って撮影していたんですか!? あの時?」
「みたいだよー。だってさ、こういうと言い方悪くなるかもしれないけど、アイドルがアイドルの誕生日をお祝いするよー、って話だよ?」
「はあ」
「ファンのみんなだって見たいって思うじゃん。何かの特典に、とか言ってたっけ」
「……なるほど~」

人差し指を首の下に置いて、確かあれはー、と何かを思い出そうと天井をにらんでいる加蓮ちゃん。
少しだけ、ぽかんとしちゃいました。
でも、確かにそうですよね。
私はアイドルで、加蓮ちゃんもアイドルです。
逆にして考えてみれば、すぐにピンと来るお話です。
加蓮ちゃんと、アイドルのみんなでやる、秘密会議……うん。きっと、みんな見たいハズですよねっ。

「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん」
「なにー?」
「何か、秘密の作戦会議をする予定ってありませんかっ」
「…………アンタ何言ってんの? 暑さで頭やられた?」
「やられてませんっ」

ああ、加蓮ちゃんの目が冷たいです。

48 : 以下、名... - 2019/08/26 18:27:58.56 UP/72cx80 9/16

「忘れてください……」
「じゃあ忘れるね。……私以上にアンタの方が浮かれてない?」
「ふふ。もしかしたら、そうかも?」
「そんなに楽しかったんだ。Pさんのエスコート」
「私だって――って、そこじゃないですっ。そうじゃなくて、」
「ふーん。そこは違うって言い切れる? そうじゃないって断言できる? 私はただ案内しただけですーって神に誓える?」
「……………………」

にやにやしながら迫ってくる加蓮ちゃん。うぅ、逃げ場は。逃げ場はどこですか!?

49 : 以下、名... - 2019/08/26 18:28:28.91 UP/72cx80 10/16

……あれ? そういえば。

「……神に誓って、って、それ加蓮ちゃんが言うんですか」
「ああうん、まあ……。たまにはいいかなって」
「たまには」
「神様がなすりつけてきた不幸はまだ許せてないよ。不幸な子を今も生み出す神様なんてくたばっちゃえ、って今でも思ってる」
「あはは……」
「でもさ。なんだろ……。感謝してるんだよね」
「感謝、ですか?」

うん、と1つ頷いてから。

「パーティーの時の……主役のさ。主役っていうか、アイドルの……。きらめくステージに立って、輝く景色を見た時にさ。色々と思い出したんだ」
「……」
「初めてPさんに出会った時とか、ステージに上った時とか。あと……なんにもなかった昔の頃のこととか」
「……」
「……ふふっ。最近あんまり昔話ってしてなかったからねー。どう? 久々に重たいのいっとく?」
「……それはいいです」

途中まで聞き惚れていたのに、急に口元を歪めるあたり、やっぱりいつもの加蓮ちゃんです。

50 : 以下、名... - 2019/08/26 18:28:58.78 UP/72cx80 11/16

「なんてね。藍子が今聞きたいのは、そんな話じゃないでしょ?」
「……話すなら聞きますけれど、自分で自分を傷つけることはないと思いますよ?」
「そだね。ま、色々思い出したの。ステージの……歌い終わって、いっぱいの声援をもらって、それからちょっと落ち着いた頃だったかな」

指を1つずつ広げて、時間を数えて。

「昔の私は、本当に何もなかった。ちょっと楽しいことを見つけても、すぐに灰のようにさらさらと消えていく」
「……」
「誕生日だってクリスマスだって、なんにもなくて。……あぁ、一応お母さんのケーキくらいはあったかな? でも、それも全然おいしくなかった。ただ1日が過ぎてただけなの」
「……」
「今の私は……。Pさんが私を見つけてくれて、私はアイドルになれて、綺麗な衣装をもらえて、いっぱいのファンに応援してもらえて。あと――」
「……あと?」
「……あと……その……」
「……大丈夫、加蓮ちゃん。ここには、あなたと私しかいませんから」
「ん……。みんながいてくれて。藍子がいてくれて」
「はい」
「私が……。私が、こんなにみんなから……好きって言ってもらえるんだなって分かって」

あぁ……。
そうでしたね。
あのお話をしたのは、いつでしたっけ。
加蓮ちゃんを好きな人は、加蓮ちゃんが想像しているより、遥かにたくさんいる、って、私が言ったのは。
あの時は加蓮ちゃん、ピンと来ていない顔をしていましたけれど――

「そういういっぱいの楽しさと、幸せがさ。もし、神様からもらえたものなら……。たまには、感謝してもいいかなって思ったんだ」
「……そうだったんですね。加蓮ちゃん」

ふと、窓から陽の光が入ってきました。
懐かしい頃に憧憬を馳せる加蓮ちゃんの顔が、あたたかく照らされます。

51 : 以下、名... - 2019/08/26 18:29:30.38 UP/72cx80 12/16

きっと――もしかしたらまだどこかに残っているのかもしれない、加蓮ちゃんの凍りついた心は。
こうして何度も暖められて、溶かされていってるんだと思います。

9月のはじまりの日から、少し過ぎた今日。
なんでもない日かもしれないけれど、あの想い出の日、全身で受け止めた熱はまだ、確かにここにあるんです。

「うん……。……も、もうっ。シリアスモード終わり! 終わりー! なんかむずかゆいじゃん」
「じゃあ、おしまいっ」
「センチメンタルごっこも終わりー! 決めた。やっぱり今日から神様死んじゃえ派になる!」
「ああっ。いいお話だったのに!」
「ばーかばーか!」

せっかくの雰囲気が、一瞬でなくなっちゃいました。

52 : 以下、名... - 2019/08/26 18:30:01.47 UP/72cx80 13/16

ばーかばーか、とそこにいない誰かに言い続ける加蓮ちゃん。心なしか、ストレートヘアがちょっぴり荒ぶっているような気がします。
加蓮ちゃん……。向こうから店員さんがこっちを見ていますよ? 首を左に振って右に振って……あの、助けを求めても、今日のお客さんは私たちしかいませんよ……?
だ、だからと言って私を見ないでください! すがるような目を向けないでください!

「ふうっ」

あ。加蓮ちゃん、満足したみたい。

「あー、すっきりした。……ううん、まだ足りないかも。ねー藍子。この後カラオケにでも行かない?」
「え~。私、今日はずっとここでのんびりしようと思ってたのに……」
「そなんだ。じゃあそうしよー」

すみませーん、と加蓮ちゃんが手を振ります。こわごわとやってくる店員さん。なんだかごめんなさい……。

53 : 以下、名... - 2019/08/26 18:30:31.31 UP/72cx80 14/16

コーヒー2つとホットケーキを手早く頼んで、お願いね、と加蓮ちゃんがにっこり笑います。
あっ、店員さんもいつもの雰囲気になりました。
ごゆっくりくつろぎください、って。あれはなんとなく、社交辞令ではないような気がします。

「~♪ ……って、どしたの藍子。また私をじーっと見て」
「あっ」
「……?? あぁそっか。勝手に注文決めちゃってたね。コーヒーでよかった?」
「う、うん。それはいいんです。ただ……」
「ただ」

会話が途切れます。でも、今度は心地よい静けさです。
お話とお話の間に生まれるすきまの時間。今日は、加蓮ちゃんをずっと見ていたい。
ちょっとしたことで、にへら、って笑ったり。
さっきみたいに、芸術品のような美しい雰囲気になったり。
……小悪魔さんみたいに口元を歪めるのは、少しだけ、ほんの少しだけ控えてもらえると嬉しいかも?

54 : 以下、名... - 2019/08/26 18:30:59.05 UP/72cx80 15/16

「あっ、加蓮ちゃん。コーヒーが来ましたよ」
「ん。ありがとねー店員さん」
「はい、加蓮ちゃんっ」
「はい、藍子」
「……あれ?」
「……ん?」

コーヒーを受け取った私たちは、なぜかお互い相手に差し出していました。
どっちも同じコーヒーなのに。
また一瞬のすき間があって、すぐに、ぷっ、と噴き出してしまいます。

「乾杯でもしてみよっか」
「コーヒーなのに?」
「たまにはいいじゃん」
「ふふっ。じゃあ、かんぱ~い♪」

55 : 以下、名... - 2019/08/26 18:31:28.66 UP/72cx80 16/16

熱気に溢れた記念日と、笑顔がいっぱいの9月5日がすぎて、いつもの毎日が、また始まる。

それでも、過ぎ去った日は終わったお話ではありません。
感じたもの。大切にしたい想い出。それらをいっぱい抱きしめて、また私たちはここに来ます。


【おしまい】

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