主人公「おい、あまりひっつくなよ。胸が当たってるぞ」
幼馴染「えへへっ。主人公くんと一緒に登校♪うれしいな♪」
主人公「ったく、聞いちゃいない……」
クール先輩「おや、主人公に幼馴染じゃないか」
ツンデレ「げっ、主人公……」
主人公「よう、クール先輩。それにツンデレも」
ツンデレ「お、おはよう……って、馴れ馴れしいのよ! バカ!」
クール先輩「そう怒るなツンデレ。主人公と幼馴染も仲睦まじい様子で何よりだ」
幼馴染「も、もう/// クール先輩ったら」
主人公「オレたちはそんなんじゃねーっての」
クール先輩「あはは。……まったく、妬けることだね」
ツンデレ「ふんっ! オトコなんて大っ嫌い! 行きましょう! クール先輩」
主人公「じゃあな」
元気後輩「せーんぱいっ! おっはようございまーす!」バシッ
主人公「痛えっ! 背中を叩くんじゃねえよ!」
元気後輩「私に構ってくれない罰ですよーつーん」
ワイワイガヤガヤ。
男「……ふむ」
元スレ
男「友人キャラをなめんなよ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1565616015/
< 教室 >
女「うーっす、男。あれ、どしたん。何見てんの?」
男「ああ、主人公くんの予定だよ」
女「え? 何それキモい」
男「仕方なかろう。この先どうしても僕の助力が必要になってくるのだから」
女「ゴメン、何言ってんのかよくわかんない」
男「甘ったれるな!」バシッ!
女「わあ! 急に机を叩かないでよ! ビックリするでしょうが!」
男「お前なあ! ≪友人キャラ≫をなめんなよ!」
女「えっ、なんでわたし今キレられたの? ていうか、なに? 友人キャラ?」
男「ああ頭が痛い。昨日一日でいったい主人公くんは、何処まで進んだというのか…」
女「真剣にキモいよ、君……」
男「という訳で女さん」
女「なんでしょうか男さん」
男「僕は今から偵察に向かおうと思う」
女「陰でコソコソするってことっすか。やっぱキモいっす」
男「なんとでも言いたまえ。誰になんと言われようと僕には主人公くんを支える義務がある。我々十把一絡げの普通人は間違っても主人公やヒロインにはなれんのだ。わかったかそこのモブ女」
女「ぐぬぬ。モブ女と言われても言い返せない」
男「当たり前だ。例えば貴様に主人公くんの相手が務まると思うか。大体なんだ! その平々凡々とした面構えは!」
女「先生! 面構えは他の子たちと比べてもさほど変わらないと思います! 強いて言うなら髪型や目の色が違うくらいです!」
男「まあ言われてみれば確かに周りのみんなはどいつもこいつも同じようなツラをしているが……。しかしだな。それでもお前は主人公くんと恋人同士にはなれまいよ。何故ならば、そう。≪世界≫がそう決まっているからだ」
女「いや、別に主人公くんのこととか、普通に好きでもなんでもないし」
男「良かったな。負けヒロイン枠じゃなくて」
女「いやあんたさあ、マジでさっきから何言ってんの?」
男「≪世界観≫の説明だ」
女「だからキモいって」
男「では早速主人公くんの元に向かうが、その前に……」
女「ん。どした」
男「≪やあ、主人公くん。おはよう。今日も良い天気だね≫」
女「ひいっ! キモい! 急に爽やか系を装わないでよ!」
男「仕方なかろう。それが僕のキャラなんだから」
女「あんたのキャラはキモい系で統一されてるでしょうに」
男「それは君の前だけだろう。では行ってくるとしよう」
女「戻ってくんなよ」
男「という訳だ女さん」
女「なんで戻ってきたんすか男さん」
男「先日主人公くんは幼馴染さんとデートをしていただろう?」
女「知らないよ。勝手に話を進めないでよ」
男「そこでクール先輩と偶然会ったらしいんだ」
女「狭い町だからね、そういうこともあるんじゃない?」
男「その時に主人公くんは幼馴染さんと喫茶店で休憩をするところだったんだけど、そこで≪クール先輩も誘う≫という選択肢を選ばなかったらしいんだ」
女「なんだ選択肢って」
男「この場合は幼馴染さんの好感度が1上がって、代わりにクール先輩の好感度が1下がる。そしてクール先輩を攻略するための必須イベントである≪着替え中にバッタリ≫シナリオへ進むことが出来なくなるんだ。要するにクール先輩ルートは詰んだということだね。だからこれから僕はクール先輩以外のヒロインを選ぶよう主人公くんを導かなくてはならないんだ。わかったかい女さん」
女「あのう。自分、帰っていいすか」
男「ダメに決まってんだろ!」
女「そんな怒る?」
男「良いかモブ女。お前はお前で各ヒロインがどのような動きをしているかを事前に調べておくという重大な任務があるんだ。物語の裏側という訳だな」
女「めんどくせー。どこまでもめんどくせー」
男「さあわかったらとっとと行くぞ。この後で主人公くんがどんなルートへ進むか確かめておかなくてはいけないのだからねヌフフ」
女「もー! だからキモいって!」
< 公園 >
男「ここに来てしまったか……」
女「なんかまずいの?」
男「いや、前回の選択肢だと幼馴染さんルートが楽だったんだけど、そのためには商店街へ向かってもらわなくちゃいけなかったんだ」
女「ふーん。ここだとどうなるの?」
男「それはね……」
元気後輩「せーんぱいっ!」
主人公「うおっ! 急に抱き着くなっての!」
元気後輩「あれれー? 顔が赤くなってますよー?」
主人公「ばっ……ったく。あのよー、お前も女の子なんだからさ。そう軽々しく男に抱き着くんじゃねえよ」
元気後輩「あれま。冷たいですねえ先輩ったら」
男「とまあこうなる」
女「とまあこうなるじゃないでしょ!」
女「え?! 主人公くんって幼馴染さんのことが好きなんじゃないの? あんなのほぼ浮気っしょ! 浮気っしょったら浮気っしょ!」
男「そう急くな女さん。主人公くんは現在特定の恋人がいる訳じゃない。あの程度のスキンシップなら日常茶飯事さ」
女「ええー、主人公くんが女の子に人気あるのは知ってたけどさあ」
男「これがほんとの≪主人公補正≫」
女「うまくねえから。つーか主人公くんの名前が固有名詞になってるなら使うべきじゃねえから」
男「ほほう、メタ発言とは女さんもわかってるではないか。君にも≪モブ女≫としての自覚が芽生えつつあるようだね」
女「くっ殺せ……!」
< 主人公の家 >
女「ねえ男さん」
男「なんだい女さん」
女「何で他人ン家に聞き耳立ててんすか。普通に犯罪すよ」
男「仕方なかろう。夕飯時にまた選択肢が出るんだから。それによってまた好感度が上下してしまうんだ」
女「もう好きにしたら……」
男「……ほう。主人公くんはそっちに行ったか」
女「え、なになに」
男「さて、用事も済んだし、帰ろうか女さん」
女「えっ、えっ? いやいや。主人公くんはこれからどうなるの?」
男「やだなあ女さん、盗み聞きは犯罪だよ?」
女「ブッ飛ばすぞお前!」
――翌日――
< 教室 >
男「では僕はこれからクール先輩に会うため三年の校舎へと行ってくる」
女「はあ」
男「だから君は幼馴染さんと元気後輩さんの所へ行ってくれ」
女「なにゆえ」
男「二人の好感度が知りたいからに決まっているだろう!」バシッ!
女「わあ! わかったから机を叩かないでってば!」
男「ちなみにお前の斥候活動は本編で描かれないから、好きにするが良い」
女「はいはいわかりましたよ」
男「ではのちほど」
< 三年校舎 >
男「そういえばクール先輩の教室ってどこだっけ」
ツンデレ「あら。貴方は男さん……だったかしら?」
男「やあツンデレさん。奇遇だね(うおお、ビビった! キャラを作らなくては!)」
ツンデレ「こんなところでどうしたの? もしかして誰かを探しているとか?」
男「ええと、うん。まあ」
ツンデレ「あらそう。ではごきげんよう。わたくしはクール先輩に用事があるから」
男「ああクール先輩(こりゃ良いや。ついでに連れてってもらおう)。ツンデレさん、僕も一緒に行って良いかな」
ツンデレ「え? 貴方もクール先輩に何か御用?」
男「まあそんなとこ」
ツンデレ「そう。構わないけど、わたくしの後にしてちょうだいな」
男「はいはい(この子、主人公くん以外の男が相手だとナチュラルに冷たいなあ)」
< 三年教室 >
コンコン。
ツンデレ「クール先輩。いらっしゃいますか」
クール先輩(ドアの向こう)「ああ、ツンデレか」
クール先輩「ちょっと待っていてくれたまえ」
ガラガラッ。
クール先輩(下着姿)「やあ急に呼び出してすまな」
男「え」
クール先輩「え」
ツンデレ「え」
男・ク・ツ「ええええええええええええ!」
ガラガラピシャン!
クール先輩「すっ! すまない! てっきりツンデレだけだとばかり……」
男「い、いえっ! こちらこそ、なんつーか、スンマセンしたー!」ピュー
< 教室 >
男「なぜだ……なぜ僕がこんな目に遭うんだ……」ブツブツ...
女「良いじゃない。クール先輩の下着姿が見られたのなら」
男「良かないよ! おかげで今日は眠れそうにないよ! あのたわわな胸の谷間とか存外むっちりした太ももが目に焼き付いて離れないよ!」
女「わあキモい」
男「おかげで情報収集もロクにできなかったし……」
女「あ、それでこっちの情報だけど」
男「ああ、うん……」
女「真面目に聞きなさいよ! あんたが言い出したことでしょうが!」バシッ!
男「机を叩かないで!」
< 回想 >
幼馴染(うん、そうだよ。その日は主人公くんと映画に行く予定なの)
幼馴染(だけど偶然遅い時間のチケットしか取れなかったから、ちょっと緊張してる……なんちゃって///)
元気後輩(はい! 図書館で本を拾ってもらったときのことですよね!)
元気後輩(はいはいよく覚えてますよ。そこで先輩の手と私の手が……はうぅ///)
< 帰り道 >
男「あいつ何やってんだ……。同時にフラグを立てるなんて≪世界≫を見間違えてるんじゃないか? 誰か一人に絞らないとハッピーエンドにはたどり着けないというのに……。はあ。仕方あるまい。またそれとなく釘を刺しておくとしよう」
クール先輩「おや? 男くんではないか」
男「あっ先輩。どもっす」
クール先輩「ふむ? ちょうどよかった。少し付き合いたまえ」
男「はい……?」
< アクセサリショップ >
クール先輩「実は一週間後が妹の誕生日でね。プレゼントを選ぼうと思っているんだ」
男「はあ」
クール先輩「まあ私ではイメージが異なるかもしれんが、君の意見を参考にさせてほしい」
男「了解っす」
クール先輩「さて、まずは手始めにこの辺から……」ゴソゴソ
男「(それにしても主人公くんは誰を選ぶんだろうなあ)」
クール先輩「と、ところで男くん」
男「あっ、はい。なんすか」
クール先輩「先ほどはす、すまなったね。その、見苦しいものを見せてしまって」
男「ああ、いえいえそんなことは」
クール先輩「そのうえ買い物にまで付き合わせてしまっている。悪い先輩だ、私は」
男「いえ、そんなの全然……ん? 買い物?」
男「(そういえば≪一緒に買い物≫ってクール先輩ルート前半の必須イベントじゃ……?)」
クール先輩「ん。どうした男くん」
男「え、え、え」
クール先輩「ん?」
男「えええええええ?!」
クール先輩「わわっ、きゅ、急になんだというんだい?!」
男「ごめんなさいクール先輩ッ! 急用を思い出したので失礼しまーす!」ピュー
クール先輩「あっ……」
< 女の家 >
女「いや急になんなの」
女「来るなり黙って人のベッドにうずくまられても、ひたすらキモいだけなんだけど」
男「うう、怖いよう。友人キャラのアイデンティティが崩れつつあるよう」
女「別にクール先輩とあんたがくっついても良いんじゃないの? ほら、伝説の樹的世界じゃそういうのもあるみたいだし」
男「時代が違うだろ馬鹿野郎! 昨今の情勢を考えろ!」
女「ええー。なんでキレられたのわたし」
男「友人キャラと他のヒロインがくっついたりしたら非難ごうごうだぞ! ≪選ばれなかったヒロインもずっと自分を好きでいて欲しい≫というどこまでも自分本位かつ倒錯的思考がどれほど蔓延してると思ってんだ!」
女「キモいなあ」
男「うう、怖いよう。真っ二つに割られたディスクと怪文書が本社に送られてしまうよう」
女「なによ本社って……」
男「こうしちゃいられない!」ガバッ
女「わあ! どした!」
男「こうなっては仕方ない。僕が≪世界≫を改変してやる!」
女「なにそれキモい」
男「友人キャラをなめんなよ!」
男「という訳で準備してきました」
女「え、なにその大金」
男「隣町の金持ち系友人キャラに土下座して拝み倒したんだ。こっちの世界の主人公のためだと頼んだら快く協力してくれたよ」
女「ええー、引くわー。それであんた何しようっての」
男「言っただろう、世界の改変さ」
女「あー、そういえば言ってたね、そんなキモいこと」
男「第一案はとりあえずの処置として、いっそ僕とお前が付き合ってしまうことだったんだが」
女「お前そんなことしようとしたらわたしはクール先輩とお前を強引にくっつけるぞ!」
男「僕だってお前のようなキモい女は御免だ」
女「それわたしのやつ!」
男「という訳で第二案をこれから決行する。見ていてくれ、女さん」
女「うん……まあ頑張ったら? 適当に」
主人公「綺麗だな、元気後輩」
元気後輩「はっ、はい。こうして先輩とお花見が出来るなんて夢みたいです」
男「主人公くん!」
主人公「うわ、どうしたんだよ男。スーパーの袋なんか持って」
男「ここのフラグはもう回収した。君は今からツンデレさんの家へ行くんだ。彼女は今、風邪を引いて寝込んでいる。その材料でおかゆを作ってあげろ」
主人公「おっ、おい」
男「いいから!」
主人公「わあ!」
元気後輩「あ、あのう。男先輩、どうしたんですか?」
男「いいから!」
元気後輩「わあ!」
ツンデレ「おいしい……」
主人公「そ、そうか」
ツンデレ「わたくし、勘違いしていたのね。ずっと……貴方のこと……」
主人公「ツンデレ……」
男「主人公くん!」
主人公「だあ! なんだってんだよさっきから!」
男「次はクール先輩の所だ! ネックレスを買ってあげるんだぞ! 僕がフラグを回収しなかったから、あの人さっきからずっと同じショップで待ってるんだからな!」
ツンデレ「ちょっと貴方……」
男「いいから!」
ツンデレ「きゃあ!」
主人公「なにがどうなってんだよ……」
主人公「似合ってるよ、先輩」
クール先輩「そ、そうか。流石にいささか……面映ゆいね」
男「主人公くん!」
主人公「またかよ!」
男「最後は幼馴染さんだ! 髪型について聞かれるから≪短い髪が好き≫と答えるんだぞ!」
主人公「お前何がしたいんだよ!」
男「いいから!」
クール先輩「お、男くん? 突然どう……」
男「いいから!」
クール先輩「みゃっ?!」
主人公「そんな昔のこと気にしてたのか」
幼馴染「うん、だって主人公くんが似合ってるって言ってくれたんだもん」
主人公「バカだな。俺は髪型だけじゃなくて、お前だから似合ってると思ったんだよ」
幼馴染「えっ……? それって……」
主人公「あー、いや、そのなんつーか」
男「主人公くん!」
主人公「来ると思ってたよ!」
男「このイベントをこなすと帰り道で好感度が一番低いヒロインが現れて攻略対象から外れてしまう! だから帰りは自家用ジェットに乗ってくれ!」
主人公「自家用ジェットて……」
幼馴染「お、男くん? 一体どうしたの?」
男「いいから!」
主人公「お前さっきからそれで済ませすぎ!」
男「いいから!」
女「それで?」
男「いや大変だった……ある時は車で片道三時間かかるスキー場へ迎えに行って」
男「ある時は家の事情で貧乏な元気後輩ちゃんの借金を肩代わりするために、ヤのつく自営業のエライ人と直談判して」
男「ある時は≪娘と付き合うには私に勝たなくてはいけない≫という剣術道場師範であるクール先輩の父上を説得するために本来なら二か月みっちり修行しなくてはいけない代わりとして主人公くんそっくりな代役を立てたり」
男「ある時はデザイナーの修行でパリへと転校が決まりそうになるツンデレちゃんを引き留めるためにパリの学校を教員全員も含めて丸ごとこっちに移転させたり」
男「ある時は好感度に応じて≪他に主人公くんを好きな人がいるから≫という理由で攻略できなくなる幼馴染ちゃんのために、世界最高と名高い催眠術師にお願いして認識操作してもらったり」
男「本来なら同時成立不可能なイベントを強引に、とにかく金をバラまいてなんとかしたよ……」
女「世界ってお金さえあればなんとかなるもんなんだね」
男「それを言っちゃあおしまいよ」
女「ああおしまいね」
男「で、だ。その結果がアレだ」
幼馴染「はい、主人公くん。お弁当だよ」
元気後輩「先輩! 今日は元気後輩と一緒に帰りましょうね!」
ツンデレ「べっ、別にあんたに会いに来たわけじゃないんだからね!」
クール先輩「ふふ、みんな。主人公が困ってるじゃないか。もう少し弁えたらどうかな」
主人公「やっぱりこうなっちまったのか……」ヤレヤレ
女「ハーレムエンドすか」
男「し、仕方ないだろう。クール先輩だけ攻略しても、また選ばれなかった誰かが僕とフラグを立ててしまうかもしれなかったんだもの……」
女「ま、良いんじゃない。主人公くんらしいっちゃらしいしさ」
女「それでどうなの」
男「何がさ」
女「主人公くんもハッピーエンドを迎えたわけだし」
女「そろそろあんたからわたしに告白してくるんじゃないかなー、って」
男「ぐっ……」
女「あんた自分のことになるとからっきしね」
男「わ、悪かったな」
女「ふふっ。モブ女キャラをなめないでよね」
男「ちぇっ、結局全部お見通しだった、ってことか……」
男「ごほん。お、女……」
女「ふふっ……なあに?」
男「ぼ、僕と付き合ってくれないか?」
女「いやよ。キモい」
TRUE END