1 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 16:59:08.63 HFInfwgB0 1/88


「……いきなりなに言い出してるの、和ちゃん」

「なに言ってるもなにも、相談に決まってるでしょ。
  そのためにわざわざ部活帰りの唯を捕まえて、近くの喫茶店に来てるんだし。
  ここなら軽音部のみんなが来る心配も無いでしょ?」

「まぁそうだけど……というか、相談したいことがあるから、って連れてきたのに、相談したいことって、そんなこと?」

「そりゃ唯にとっては“そんなこと”かもしれないけど、私にとっては死活問題なのよ」

「死活問題とまできましたか」



元スレ
和「私もムギを抱きしめたりしたいわ」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1284364748/

2 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:01:03.78 HFInfwgB0 2/88


「二学期が始まってからずっとなんだけど、どうもムギに目がいっちゃうの。あの子ホント可愛いわ」

「なんだかいつもの和ちゃんじゃない……」

「いつもは頑張って抑制しているからね。いつも冷静に見えるけど、心の中ではいつもこんなこと考えてるのよ」

「今までずっと?」

「いえ、ムギばかり見るようになってからね。どうも最近感情の抑制が出来なくなってきて……だから死活問題なの」

「いつ今みたいに口から言葉が出ちゃうか分からないってこと?」

「そういうこと」


3 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:02:00.20 HFInfwgB0 3/88


「私も自分が考えてることはおかしいと思うわ。だからこそ頑張って抑制しているんだもの」

「確かにそうだよね。和ちゃんがそんなこと考えてるだなんて誰も想像してないもんね」

「ええ。でもそんなことを考えて爆発寸前なのもまた事実なの。それだけムギが可愛いって事なんだけど」

「あっ、すいませ~ん。いちごショート追加で」

「あえての無視なのかどうかが気になるところね」


4 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:03:42.52 HFInfwgB0 4/88


「で、どうして突然ムギちゃんのことが可愛いだなんて思うようになったの?」

「突然じゃないわよ。だってムギって可愛いじゃない。
  ああもう、どうせだったら私もムギちゃんって呼びたいわ」

「それぐらいムギちゃんなら『どんとこいっ!』で終わると思うけど?」

「じゃあ抱きしめて髪の匂いとか嗅いでも大丈夫かしら!?」

「それはさすがに……どうだろう……」

「どうして!? あっ、言い方の問題か。
  髪の匂いじゃなくて髪の香りよね、ムギの場合」

「そういう問題じゃないよ、和ちゃん。ちょっと冷静になろうか」


5 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:05:12.52 HFInfwgB0 5/88


「そういえば……唯って平気で誰彼構わず、所気にせず抱きつくけど、ムギにもしたことあるの?」

「う~ん……あっ、そういえば去年の冬頃かな? ムギちゃんの手が暖かいって話になって、手を繋いで抱きついて胸に顔を埋めたりとかしたかな……?」

「なんですって!? なんて羨ましい! さすが唯ね! 計算された行動だわっ!」

「そんなことを大声で褒めないでよ。というかココ喫茶店だから恥ずかしいよ、和ちゃん」

「そうか……だったら私も、唯と同じ方法を取れば手も繋げるし抱きつくことも出来る……!」

「いやいや和ちゃん、今まだ九月で割りと暑いよ?」

「心頭滅却すれば火もまた涼しって言うし、いけるわよ」

「意味が分からないよ、和ちゃん」


7 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:06:52.11 HFInfwgB0 6/88


「どうして無理だって言うの?」

「そうだね……だって和ちゃんのキャラじゃないし……同じ方法は難しいんじゃない?」

「そっか……確かに、抱きついた時、私のメガネがあったらムギが痛いものね」

「そういう意味じゃないし。と言うか和ちゃんのキャラがメガネだけとか言ってないじゃん」

「じゃあどうすればムギを抱きしめられるの!?」ドンッ!

「落ち着いて。机叩かないで。あともう一回冷静になって。
  私が私らしくなくなるぐらい、今日の和ちゃんはおか――冷静じゃないよ」


8 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:09:48.36 HFInfwgB0 7/88


イチゴショートニナリマース

「そうね……ちょっと冷静さを欠いちゃってたわ。ごめんなさい。
  店員さんが来てくれなかったらあのままおかしくなりそうだったわ」

「今も十分おかしいけどね」

「唯に言われても仕方が無いと思えるぐらい、私も自覚あるわ。
  でもそれほどまでに、ムギが可愛すぎるのよ」

「……で、なんかウヤムヤになってたけど、何かきっかけがあってムギちゃんのことが可愛いって気付いたんだよね?
  だって同じクラスになったばかりの時とか、その前とか、そんなこと言ってなかったもん」

「言ってなかっただけで、その頃から内に秘めていたかもしれないわよ」

「えっ? そうなの?」

「いえ、違うけど」

「…………」


9 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:11:13.34 HFInfwgB0 8/88


「ごめんなさい。ちょっとした冗談のつもりだったの。
  ほら、私って冗談の一つも言えないでしょ?」

「そうだね。さっきのも笑えなかったもん」

「手厳しいわね。でも本当のことだし、仕方が無いわ。
  でももし、ここで笑える冗談の一つでも言えれば、私ももっとムギと近づけるし話せるようになると思うの」

「確かにそうかもね。軽音部って、なんかそういうところがあるし」

「でしょ? 確かにソレは私のキャラじゃないかもしれないけれど……でも、そんなものが関係なくなるぐらい、ムギと仲良くなりたいの、私は」

「…………」


10 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:11:57.03 HFInfwgB0 9/88


「……ねぇ、和ちゃん」

「ん?」

「和ちゃんってもしかして、ムギちゃんのことが好きなの?」

「? ええ、もちろん。そうじゃなければ、こんな相談を唯に持ちかけたりしないわ」

「えっと……そうじゃなくて……その、恋愛感情として好きなの?」

「え? ああ、それは無いわ」


11 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:13:53.46 HFInfwgB0 10/88


「別にソレ自体を否定するつもりも無いし、その趣味を持っている人を軽蔑するつもりもないわ。
  でも、私のこの感情は、恋愛感情じゃないの。
  ただ単純に、友人として、もっとムギと親密な関係になりたいだけなの」

「和ちゃん……」

「だから抱きしめて胸に顔を埋めて髪の香りを嗅いだりしたいの」

「ちょっと話の繋がりが分からないなぁ」


14 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:24:19.11 HFInfwgB0 11/88


「ほら、唯がよく私に抱きついたりするじゃない? ああいうのを、私もムギにしたいのよ。
  友人として、とは言ったけれど、確かに他の皆との今の関係よりも、一歩先に出た関係であることに変わりは無いわね」

「じゃあ、他の皆にはムギちゃんみたいなことしたくないの?」

「まさか。律だって抱きしめてオデコにキスしてみたいし、澪にだってあの胸に顔を埋めたりさらさらの髪を指で梳き続けたいと思ってるし、梓ちゃんのあの小柄な体を全身で圧迫するぐらい抱きしめて私の胸に逆に埋めさせてみたいとさえ思っているわ」

「あれ? 和ちゃんがただの変態さんにしか見えない」

「もちろん安心して。唯にだって、私に抱きついてきたタイミングで思いっきり抱きしめ返したいとさえ思ってるのよ」

「何がもちろんでどれに安心したら良いのか私には分からないよ」


15 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:25:30.90 HFInfwgB0 12/88


「えっと……じゃあもし、私も含めた皆が、さっき和ちゃんが言ったようなこと誰にでも何回でもしても良いって言われたらどうするの?」

「もちろん全員にするわよ? でも軽音部のメンバーで一人となると、断トツでムギね」

「…………」

「それでも、一番の友人は誰かって訊かれたなら、私は唯の名前を挙げると思うけど。そうじゃなかったら、こんな相談出来ないものね」

「和ちゃん……」


16 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:26:51.32 HFInfwgB0 13/88


「あくまでも、今の関心がムギに向いてるだけよ。
  それに、さっき言ったことと矛盾しちゃうけど、私は友情に一番も二番も無いと思ってる。
  だから私にとっては、唯も含めた皆が友達」

「そっか……」

「そうよ。で、今はその横並びの中で、一番輝いて見えてるのがムギなの。
  あの唯とは違ったポワポワとした雰囲気に時々見せる天然のような言動、常に皆を癒す軽音部の治療手(ヒーラー)……本当、可愛いわ」

「……というか、友達としてなら、本人に言えば良いんじゃないの?」

「確かにそれが一番手っ取り早いけれど、恥ずかしいじゃない」

「この期に及んで……?」


18 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:28:24.83 HFInfwgB0 14/88


「それになんだか……私って、軽音部との繋がり、結構薄いじゃない?」

「そうかな……?」

「そうよ。なんていうのかな……唯を経由して知り合ったせいか、私と皆の立場って、友人の友人、みたいな感じじゃない?」

「う~ん……後輩のあずにゃんはともかくとして、りっちゃんと澪ちゃんとムギちゃんは違うんじゃない? 同じクラスなんだし」

「同じクラスでも、友人の友人という立場は成り立つわ」

「ん~……マイナス思考になりすぎじゃないかな……?」

「じゃあいきなり、こんな相談を皆にして大丈夫だと思う?」

「それはさすがに無理だよ」


19 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:29:56.08 HFInfwgB0 15/88


「でしょ? そういう訳だから、この気持ちをどうしたら良いのか分からないのもあって、こうして唯に相談してるって訳」

「そっか~……まぁ、和ちゃんが私に相談って言うのも、なんだか珍しい気もするし、どうにかしてあげたいんだけど……」

「こんなキャラだから今まで誰かに相談なんてしてこなかったものね。
  と言うより、皆から相談される立場だから、誰にも相談なんてしたことが無かった、っていうのが正しいんだけど」

「……もしかして和ちゃん、寂しかった?」

「まさか。皆に頼られるのって、悪い気もしなかったし。
  それだけ私の力を認めてもらえてるって事でもあるんだもの。寂しくはなかったわ。元々、他人に頼られたい性格なんでしょう、私自身。
  だから、唯が気にすることじゃないわ。今まで私に頼りっぱなしだったのを気に病んでるんなら、気にしないで。
  それよりも、私のこの気持ちをどうにかすることだけを考えて欲しいの。

「……なんだか珍しい和ちゃんの相談事がこんなのだって思うと、ちょっと複雑かな?」


21 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:31:17.68 HFInfwgB0 16/88


「あら。こんなのとは心外ね。これでも本当に悩んでるのよ?
  今までみたいに、一人で解決出来る気もしないし、このまま一人でなんとかしようとしていたら暴走してしまいそうだったしね」

「暴走って……大げさだよ、和ちゃん」

「大げさなものですか。今みたいに自分を抑えていられないのよ?
  そうね……今みたいに落ち着く少し前の状態――喫茶店に入ったばかりの私が常に現れてる状態かな?」

「それは一大事だね。今までの和ちゃんの頑張りが全て水の泡になるところだったよ」

「それだけ崖っぷちだったのよ」


22 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:32:49.41 HFInfwgB0 17/88


「本当、唯みたいに人懐っこい性格に生まれてきてれば良かったのにな……そしたらいつでもムギに抱きつけたのに」

「そんな和ちゃんは私がイヤだよ……」

「あらどうして? もしかして唯、私が今の私らしくなかったら、友達になってくれなかったの?」

「それはないよ。和ちゃんは和ちゃんだし、どんな和ちゃんでも友達だったよ」

「嬉しいことを言ってくれるわね。さすが唯」

「えへへ~」

「本当、抱きしめたくなっちゃう」

「前言を撤回したくなっちゃうよ、和ちゃん」

「冗談よ」

「私も。冗談だよ」


23 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:34:14.86 HFInfwgB0 18/88


「それじゃあ、大好きな和ちゃんのために、ムギちゃんに抱きつくための方法を考えるよ」

「あら、別に良いわよ」

「え? どうして? その方法を一緒に考えて欲しいから、私に相談したんじゃないの?」

「違うわよ。あっ、あくまで唯に期待してない訳じゃないのよ?
  ただ私は、爆発し始めてたこの思いを打ち明けて、楽になりたかっただけなの。
  まぁ言ってしまえば、愚痴を聞いてもらったようなものね」

「ん~……でも和ちゃん、ムギちゃんともっと仲良くなりたいんだよね?」

「まぁ、仲良くはなりたいわね」

「軽音部との皆とも、なんか壁を感じてるんだよね?」

「確かにその通りだけど……唯、一体どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ。
  こうなったら私が、いつもお世話になってる和ちゃんのために、これから一晩中考えてそれら二つをどうにかする方法を考えてあげるよ!」フンス

「……あ、唯。ずっとケーキに手をつけてないけど、食べないの?」

「どうしてそこで話題を逸らそうとするのかな……ってケーキは食べるんだけどさっ」


27 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:43:40.76 HFInfwgB0 19/88


翌日・放課後



「という訳で和ちゃん、昨日の話、覚えてる?」

「ええ。昨日はああして止めたけれど、なんだかんだで今日一日、結構期待しちゃってたからね。
  お昼休みの間に今日急いでしないといけない生徒会の仕事、済ませちゃったわ」

「さすが和ちゃん! 準備万端だね!」

「そりゃそうよ。昨日唯があれだけ張り切ってくれたんだもの。期待していたことが出来るかと思うと、胸も躍っちゃうわ。
  で、どうやってムギに抱きつかせてくれて、軽音部の皆ともっと仲良くなれるの?」

「それはね……今部室にいる皆に、ババーンと! 昨日和ちゃんが私に話してくれたことを全部話しちゃいまーすっ!」

「さてと、明日でも大丈夫な仕事も今日中に片付けちゃいましょうか」


28 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:44:37.84 HFInfwgB0 20/88


「待って待って待って! どうしてどうしてどうしてなの和ちゃん!?」

「あのねぇ唯、どうしたもこうしたも、そもそも私はあんなことを皆に言えないからあなたに愚痴ったのよ?
  それを皆の前で言えって……考えた結果がそれとか、期待外れすぎるわよ」

「じゃあ和ちゃんは、どうして皆に昨日のこと言えないの?」

「皆が私を見る目が変わるからよ」

「それのどこがいけないの?」

「どこがって……」

「私ね、昨日必死に考えたの」


30 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:46:15.46 HFInfwgB0 21/88


「和ちゃんが昨日、そのことを私に話してくれたのは、私なら話しても大丈夫だと思ってくれたからでしょ?」

「まぁ、そうね。今までずっと我慢してきたものを吐き出しても、付き合いの長い唯なら受け入れてくれると思ったの」

「でしょ? そしてそれは、軽音部の皆も変わらないよ」

「いえ、でも……」

「壁を感じる? それは和ちゃんの勘違いだよ。
  部室にいる皆は――私の仲間は、そんなことで、私の大親友を嫌ったりしない。
  だってそもそも、皆にとっても、和ちゃんは大事な仲間なんだもの」

「……そうかしら?」

「そうだよっ。だからさ、話しても大丈夫!
  気を遣われるとか、そんなことは絶対に無い!
  見る目が変わったって、それは今より、和ちゃんを見る角度が変わるだけ!
  目は変わらないよっ!
  絶対……ぜ~ったい! 和ちゃんと友達のままでい続けてくれるよ!」


32 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:48:32.32 HFInfwgB0 22/88


「……本当、唯には敵わないなぁ……」

「和ちゃん……?」

「たぶん私、どこかで怯えてたんだと思う。皆に友達だと思われてなかったら、思われてても、それはちょっとしたことですぐに崩れてしまうものじゃないのかって。
  だから、あんなことを言ったんだと思う。
  でも……そうよね。私が軽音部の皆を友達だと思ってるなら、私を見る目なんて変わらないって、信じるべきよね。
  だって、友達なんだもの」

「…………」

「良いわ、唯。唯の考えの通り、皆に打ち明けてみる」

「和ちゃん……!」

「それにまぁ、絶対に無いって思うけど……信じてるけど……もし皆に、これがきっかけで本当に避けられるようになっても、勘違いしていた壁を本当に感じるようになっても、私には、唯がいるものね。
  ……そう思ったら皆に打ち明けることぐらい、どうってことないわ」


33 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:50:34.70 HFInfwgB0 23/88


「じゃあ早速行こう! 和ちゃん!」

「ええ。……あっ、そうだ、唯」

「ん?」

「話すときは、出来れば隣にいてね? やっぱり、不安なものは、不安だから」

「それぐらい、全然お安い御用だよ~」

「……ありがとう、唯」

「お礼を言われることじゃないよ。だってこれがきっかけで、和ちゃんが軽音部の皆と、もっと仲良しになれれば私も嬉しいもん」

「そうね……皆と今以上にもっと近づけて……勘違いして感じていた壁を感じなくなれば、それは……とても、素敵なことよね」

「うんっ!」


34 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:54:13.16 HFInfwgB0 24/88


「みんな、おまたせ~」

「おう、遅かったな」

「どうしたんだ? 掃除当番でもなかっただろ?」

「えへへ~、ちょっとね」

「ちょっとね、じゃありません! もうすぐ文化祭なのに遅れてくるなんて、唯先輩からやる気が感じられません!」

「はうっ、あずにゃんが怖いよ~」

「うふふ、すぐお茶の準備するから、ちょっと待っててね」

「ムギ先輩、遅れてきた唯先輩のお茶なんて準備する必要ありません! 今日はこれから早速合わせ練習です!」

「がーん!」

「あははっ、張り切ってるな~、梓は」

「当然です! 去年のようなことにはなりたくありませんから!」


35 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:55:20.34 HFInfwgB0 25/88


「確かに、今年で最後の文化祭だもんな。絶対に成功させたい気持ちも分かるよ」

「澪先輩……!」

「ああ~……でも今日はちょっと、練習始めるのを待って欲しいんだよ」

「なっ、唯先輩! そんなにお茶がしたいんですか!? 練習よりもお茶ですかっ!?」

「違うよ~……いや、うん、確かにお茶も飲みたいけど……今日はちょっと、皆とお話したいんだよ」

「いつもしてるじゃないですか!」

「私じゃなくて、和ちゃんが」

「和が?」

「うん。和ちゃん、入ってきて」


36 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:56:48.47 HFInfwgB0 26/88


「ごめんね、皆。練習の邪魔しちゃうみたいで。
  特に梓ちゃん、とても練習したがってるのに、私の我侭で練習を止めてしまって。
  ごめんなさい」

「あっ、いえ、そんな……真鍋先輩の用事なら、仕方ないです」

「ふふっ、今更苗字で呼ぶことも無いわ。
  軽音部の皆に呼ぶように、下の名前で呼んで頂戴」

「はぁ……分かりました。ま……の、和先輩」

「ありがとう、梓ちゃん」

「それで和、話ってのはなんなんだ?」

「ああ、そうね。ただでさえ練習時間を割いて話を聞いてもらうんだものね。早く済ましてしまわないと

「いや、それは別に構わないんだけど……もしかして、また部活関係のことか?」

「まさかまた律先輩が書類出し忘れてるんじゃ!」

「いや、今はまだ書類とか無いから。文化祭までなんだかんだで結構あるし」


38 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 17:58:14.68 HFInfwgB0 27/88


「そうね。だから今日来たのは、私個人のことよ」

「和個人?」

「ええ。ちょっと皆に聞いてもらいたいことがあるの」

「聞いてもらいたい事?」

「和ちゃん、逸る気持ちも分かるけど、まずはお茶飲まない? せっかくムギちゃんが準備してくれてるんだし」

「え?」

「うん。ちゃんと和ちゃんの分も用意してあるわよ」

「あれ? どうして私が来るって分かってたの?」

「う~ん……なんとなく、かな?」

(また乙女電波ってやつですか……)

「さすがムギね。思わず抱きしめたくなっちゃうわ」

「「「「え?」」」」


39 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:00:46.38 HFInfwgB0 28/88


「和ちゃん、嬉しさのあまり興奮してない? 本音が出てるよ」ボソッ

「あらいけない。自重しないとね」ボソッ

「ごめんなさい。とりあえず、お茶を頂くことにするわ」

「あ、あ~……うん」(聞き間違いかな?)

「そうだな」(聞き間違いだろ)

「とりあえず、立ち話もなんですしね」(聞き間違いですよね)

「好きなところに座ってちょうだい」(聞き間違えたのかな?)

「ありがと。でも席は、出来れば唯の隣がいいかも」

「おっ、それなら私の席と変わろうぜ~! 私はさわちゃんの席に座るから」

「ありがとう、律。そういうさり気ない優しさ、私は好きよ」

((((やっぱり聞き間違いじゃなかったかも))))


41 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:02:10.28 HFInfwgB0 29/88


(和ちゃん相当テンパってるな……嬉しさとか緊張とか、そういうのが混ざってるから、いつもみたいに言葉が自重出来てないや。
  ……まぁ手っ取り早いからこのままでいっか)

「ふ~……やっぱりムギの紅茶はおいしいわね」

「ふふっ、ありがとう。和ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわ」

「で、和。改めて、話ってのはなんなんだ?」

「そうね……本当、今更、って言われるかもしれないし、呆れられるかもしれないけれど……実は今まで、皆に対して思っていたことがあるの」

「思ってたこと?」

「なんだなんだ……もしかして、私たちがだらけ過ぎだとか、そういうのか?」

「そうじゃないわ。ただ、ね……私、微妙に軽音部の皆と壁を感じてるの」


42 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:04:08.75 HFInfwgB0 30/88


「壁?」

「そう、壁。
  なんていうのかな……私、皆と仲良くなったきっかけって、唯繋がりでしょ?
  そりゃ、そういう友達から友達って形で、友達は増えていくもんなんでしょうけど……やっぱり、皆とは妙に距離を感じじゃってね」

「え~っと……つまりはだ、和は私達と友達じゃないかもしれない、って思ってるってことか?」

「思ってる、のとはちょっと違うわね。
  だって私は、皆と友達だと思ってるし、そうでありたいとも思ってる。私の独りよがりで勝手な思い込みだったしても、そうであってほしいと思ってる。
  なら、その時点で友達でしょ?
  だから、そうじゃないの。
  そうじゃなくて、なんとなく、私が皆に遠慮しちゃってるの」

「なるほど……遠慮か……確かにそれなら、私だって和に感じてるかもな。律には出来ることでも、和には出来ないしな」

「でもそれって、それぞれのキャラだろ?」

「でも付き合いの長さってのもあると思うわ。ほら、私を叩いてってりっちゃんにお願いした時、私を叩くのかなり躊躇ったでしょ?」

「っつかそもそも、私はツッコミじゃないしな。そういうのは元々澪の専売特許みたいなものだし」

「勝手に人を軽音部のツッコミ代表みたいに言うなっ」


45 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:05:51.08 HFInfwgB0 31/88


「でもそれなら、和だってそうじゃないのか? 唯にしか出来ないこととか、唯に一番しやすいことってあるだろ?」

「そうね。確かに昨日唯に相談したのだって、唯に一番話しやすいと思ったからだもの」

「だろ? だから今のそれぞれの距離が、それぞれのキャラと付き合いの長さでピッタリなものなんだよ」

「でも私、皆ともっと仲良くなりたいの。
  唯にしか出来ないこととか、唯に一番しやすいことも、皆に同じぐらい出来るようになりたいの。
  軽音部の皆と、もっともっと、仲良くなりたいの」

「和ちゃん……!」

「ん~……私は今でも十分仲良しだと思うんだけど……っつか、和は具体的に何がしたいんだ?」

「そうね。まず第一に、皆に抱きつきたいわ」

「「「「」」」」


46 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:08:26.46 HFInfwgB0 32/88


「和ちゃん、それじゃ言葉足らずだよ」

「ああ、そうね。確かにこれだけだと、昨日唯がしてた勘違いをさせてしまうわね。
  ごめんなさい。正確に述べるなら、唯や皆がしているような、抱きつくようなスキンシップをしたいの。
  具体的には力強く抱きしめた後に、ムギならその髪を――」

「和ちゃん、ちょっと落ち着こうか。それ以上は口外しない方が良いよ」

「え? そうかしら?」

(口外しない方が良いって……)

(どんだけだよ)

(でもこういうの、ムギ先輩好きそうだなぁ)

「まあ!」キラキラ

(やっぱり……)


48 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:09:15.21 HFInfwgB0 33/88


「……」い、いや~……和からそんな言葉を聞くことになるとは、思わなかったな~……」

「そうね。律が言うように、私はそういうキャラだって、皆に固定されているものね。
  でも、本当の私は、割とこういう友達同士の触れ合いとか、頭の中で沢山考えてるのよ。
  ただ、面や口に出さないようにしているだけで」

「そ、そっか~……そうだったんだ~……」

「引いた?」

「いや、っつか、今もそうだけど、ビックリしてる」


49 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:12:30.53 HFInfwgB0 34/88


「ま、そういう訳で、私がしたい話というのは終わり」

「な、なるほど……! ……と、時に、和ちゃん!?」

「どうしたの? ムギ」

「の、和ちゃんは、女の子同士とか、好き?」

「そうね……唯にも言ったんだけど、否定するつもりは無いわ。
  ただ私は普通で、ただ友達同士のスキンシップがしたいだけなんだけど」

「ひ、人肌恋しいってやつですか!?」

(違うだろ……)

「そうね。……うん、きっとそうだわ」

(違ってなかった!)

「手っ取り早く、かつ、一番他人との繋がりと温かさを実感できるものだから、私は、その人を抱きしめたいと思ってるのかもしれないわね」

「そ、それ! 私もなの!」

「ムギも?」

「そう! 私も!」


50 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:18:10.50 HFInfwgB0 35/88


「私、昔からお金持ちのせいで、お嬢様だお嬢様だって言われて、他人とよく距離を置かれてて……他人との繋がりの温かさとか、距離の置き方とか、良く分からなかったの。
  そのせいで、昔は軽音部の中でも敬語を使ってたし」

「ああ……そう言えばムギ、最初はずっと敬語だったな」

「そうなの。でもね、今は違う。
  気がついたら敬語なんて使わなくなってた。皆と仲良しになれた。私が望んでた、理想だった友情関係が結べた。
  ……でもね、そしたら次は、私の距離の取り方が正しいのかどうか不安になって……」

「それで、正しいことがすぐに分かる――仲良くなれていることが実感できる、私が今求めてるような、そんなスキンシップを求めるようになったと?」

「そう! 特に私の場合、他の皆がその方法で仲良くしてるのを見るだけで、とっても幸せな気分になれるの!」

「そっか……きっとそういうのは、ムギの優しさよね」

(いや、たぶんただの趣味だよ)

(和先輩、それはたぶんムギ先輩のただの性的嗜好ですよ)


52 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:20:39.79 HFInfwgB0 36/88


「だからきっと私は、ムギを一番に抱きしめたいのと思ったのかもしれないわね」

「えっ!?」

「じつはこうして話すことになったきっかけって、ムギを抱きしめたいって思いが爆発した結果なの」

「そ、そうだったの!?」

「ええ。きっとムギに惹かれたのは、私と同じものを感じていたり持っていたりしたからかもしれないわね」

「じゃっ、じゃあ和ちゃん! 早速抱きしめあいましょう!?」

(ムギちゃんもぶっ飛びだしたなぁ~)

「そうね。でもさすがに、皆の前だと、さすがの私も恥ずかしいわ」

(そういう感情はまだ残ってるか)

「私はそうでもないわ!」

(ムギ先輩はもう色々と終わり始めている……)

「ふふっ、面白いわね、ムギは。
  でもお願い、隣の部屋で抱きしめあいましょう。
  二人きりの方が、回りも気にせず、もっと体温を感じられるでしょ?」

「そ、そうね!」


55 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:22:39.10 HFInfwgB0 37/88


ガチャッ

パタンッ

~~~~~~

「……で、だ。唯、和たちがいなくなったから改めて聞くが、さっきの和の話はマジなのか?」

「うん、本当だよ。昨日相談されたことをほぼそのまま言ってた」

「そうか……和も妙なことを心配するんだな」

「と言うか、軽音部ということは、私も入ってるんですか?」

「入ってるよ。あずにゃんとも仲良くなりたいって言ってたし」

「う~……私、和先輩とそんなに話したこと無いです」

「まぁ確かにな。っつか、梓がイヤだって言えば、和も無理強いはしないと思うぞ?」

「べ、別にそこまでイヤって訳でもありませんが……ただ、理由が知りたいんです」


57 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:24:42.34 HFInfwgB0 38/88


「理由、か……そうだな。たぶん、和は不安なんだと思う」

「不安、ですか?」

「うん。ほら、今の時期って、もうそろそろ生徒会の引継ぎとかで、色々と卒業を意識させられる時期だろ?
  私達はまだ文化祭も終わってないし、そんな気もしないけどさ」

「ああ~……なるほどな。それで不安が募って、今まで制御できてた感情が制御できなくなったと」

「と言うより、卒業したら私達と今まで通り会って話しが出来ないかもしれない、ってことに、不安を感じてるんじゃないのか?」

(卒業に対しての不安……そっか、私とおんなじなんだ……)

「でもその不安をぶつけてもらえるのが私達で良かったじゃん」

「ま、唯の言うとおりだな。それだけ私達と仲良くなりたがってたって証でもあるんだし」

「確かに。それに、あの和の内面が知れたのは、私としても嬉しいしな」


58 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:26:09.03 HFInfwgB0 39/88


「で、澪ちゃんとりっちゃんはどうするの?
  ムギちゃんみたいに、和ちゃんのお願い聞いてあげるの?」

「ま、私は聞いてあげても良いかな。
  それで和の抱えてる不安は無くなるんだし、それに、今よりもっと和と仲良くなれし、今まで世話になった恩も返せるもんな。
  ……まぁ確かに、結構恥ずかしくはあるけどさ」

「私も。た、確かに、抱きつくとか、そういうのは恥ずかしいけど……和が不安を感じるのも、分かるから。
  私だって、軽音部の皆と今みたいに仲良くなかったら、同じような不安を抱えてたと思うし」

「そっか……ありがとう」

「なんで唯がお礼言うんだよ。っつか、今日の唯はなんかしっかりしてるな」

「私だってしっかりする時はするよ。そうじゃなかったら、ずっと和ちゃんと一緒にいる意味がないじゃん。
  ずっとずっと、頼ってばかりじゃ親友でも幼馴染でもないもん」

「唯先輩がまともだ……」


59 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:27:01.12 HFInfwgB0 40/88


「む? 失礼なこと言うね、あずにゃんは。
  私だって、皆のためだったら色々と考えるんだよ。
  それで、その肝心のあずにゃんはどうするの?」

「私は……どうしましょう。正直、先輩方と違って、私は和先輩とそんなに話したことがありませんので……戸惑ってます」

「ま、そりゃそうだわな」

「梓の場合、無理はしなくて良いと思うぞ?
  和だって、それが分からないぐらい、不安に押しつぶされそうって訳でも無いだろうしな」


60 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:28:01.90 HFInfwgB0 41/88


~~~~~

「ごめんね、ムギ。我侭言って」

「ううん! そんなことないよ!
  それよりも和ちゃん! 抱きつくんだよね!? さぁ、ばっちこ~い!」キラキラ

「ふふっ……本当、唯の言った通り」

「え? 唯ちゃんの?」

「ええ。正直に話したら、ムギだったら『どんと来い』って言って受け入れてくれるって。
  それで、確かにその通りだなって」


61 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:29:34.46 HFInfwgB0 42/88


「たぶんムギは、軽音部の中で誰よりも真っ直ぐなのね」

「そ、そんなことないわ。真っ直ぐなら、唯ちゃんだってそうでしょ?」

「確かに唯も真っ直ぐだけど……そうね、そう言ったら、軽音部の皆が真っ直ぐね。
  ただその中で、ムギが一番真っ直ぐなんだと私は思うわ。
  誰よりも純粋で、友達思いで、影から皆を支えてる……それが、私から見たムギ」

「和ちゃん……」///

「ねえ、ムギ。
  手、繋いでも良い?」

「う、うん」///


63 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:30:56.54 HFInfwgB0 43/88


ソッ

(あっ……指と指が絡まって……)

「やっぱり……ムギの手は温かいわね」

「で、でも、まだ暑いこの季節じゃ、繋いでても辛くない?」

「そんなことはないわ。ムギの手は、ちょうど良い温かさよ」

「そ、そう……ありがとう……。
  で、でもほら、手が温かいと、心が冷たいって言うでしょ?
  だから私、あんまり好きじゃないの」///

「そんなのはただの迷信よ。現にムギは、心の温かさが手に出てるでしょ?
  きっと皆を支えてるから、熱を帯びてしまうのよ」


64 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:34:31.81 HFInfwgB0 44/88


「髪、触るわね」

「ど、どんとこい……!」///

「ふふっ、やっぱり、ムギってば可愛い」

ソッ

「繋いでない方の手だけで触ると、乱雑に触ってるみたいになってしまうわね。ごめんなさい」

「べ、別に良いよ……」///

「そう?
  まぁダメと言われても、この温かい手を離すのなんて無理だったんだけど」

「……」///

スンスン

「ひゃっ……の、和ちゃん……!?」///

「ああ、ごめんなさい。
  キレイな髪だったから、つい香りを嗅いで見たくなったの」


65 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:35:44.12 HFInfwgB0 45/88


「やっぱり、イヤだったわよね?」

「う、ううん! そんなことない……けど……。
  ……でも、突然されたら……恥ずかしいわ……」///

「恥ずかしがるムギも確かに可愛いけど、別に恥ずかしがることは無いわ。
  こんなに良い匂いしてるんですもの。
  やっぱり触りたくなる髪って、総じて香りも良いものなのね」

「そ、それはほら、香水を使ってるから……」///

「ムギの家のシャンプーとリンスの匂い、それと香水の匂い……これが、ムギの髪の香りなのね」

(の、和ちゃんの雰囲気のせいかしら……お、思ってたより……恥ずかしい……)///


68 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:38:40.75 HFInfwgB0 46/88


「ふふっ、さっきから顔を真っ赤にして。本当、ムギは可愛いわ」

「の、和ちゃんだって、可愛いよ。髪だって、私と違ってサラサラだし」///

「あら、ありがとう。ムギに褒められるなんて、嬉しいわ」

(ダメ……! 全然反撃になってないよ……! 恥ずかしがる気配がないんだもん……)///

「だからこうして――」

ギュッ!

「っ!!!」

「――抱きしめたくなっちゃうのよね」

(て、手が離れて……!/// 背中に手が回されて……!///)


69 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:39:23.18 HFInfwgB0 47/88


「ふふっ、動揺してるムギも、本当に可愛い」

ギュッ!

(さ、さらに強くだなんて……!///)

「……本当、ありがとう、ムギ」


70 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:41:05.14 HFInfwgB0 48/88


「の、和ちゃん……?」///

「私が勝手に不安を感じていただけなのに、それを解消してくれて。
  私と、友達でいてくれて」

「……和ちゃん……」

ギュッ…!

「……ううん。それを言ったら、私もよ。
  私と、友達でいてくれて、ありがとう。
  私に、我侭を言ってくれて、ありがとう」

「抱きしめ返してくれるのは嬉しいけど……我侭を言ってくれてって……ちょっと、おかしくない?」

「そんなことないよ。だって我侭を言い合えるのって、友達だからでしょ?
  友達じゃなかったら、我侭なんて言えないよ」


71 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:41:58.41 HFInfwgB0 49/88


「……そうね……確かにそうだわ。
  でも私、ムギの我侭を聞いてないんだけど?」

「それは……ふふっ、まぁ、またいずれ、ね」

「貸し一つ、ってことかしら?」

「ううん。貸し借りゼロよ。だって私も、こうして抱き合うようなスキンシップが取れて、今は満足してるんだもの。
  だから次、私が言う我侭は、友達としてのお願い、かな?」

「そう……本当、ありがとう、ムギ」

チュッ!


74 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:43:27.17 HFInfwgB0 50/88


「っ!!!」///

バッ!

「ああ、ごめんなさい。可愛らしい耳があったものだから、つい」

「つ、つい……?」

「キスしちゃった」

「~~~~~っっっっ!!!!!」///

ガチャッ!

バタンッ!

「……顔を真っ赤にして飛び出しちゃった。
  ……ちょっと、悪いことしちゃったかな……?」


76 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:45:55.83 HFInfwgB0 51/88


~~~~~

バタンッ!

ビクッ!

「む、ムギ先輩……?」

「ど、どした~? そんなに顔真っ赤にして~?」

「つ、次の方どうぞ!」///

「ここは病院かっ!?」

「というよりムギちゃん、本当にどうしたの? 和ちゃんに何された?」

「き、気にしないで!? ちょっ、ちょっと、恥ずかしかっただけだからっ!」///

((((どんだけ~!?))))


77 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:46:55.48 HFInfwgB0 52/88


「み、皆もほらっ、入ったら分かるから!」///

(いやいや……)

(ムギ先輩であれだけ恥ずかしがるって……)

(和ちゃん、何したんだろ……?)

(ちょっと入りづらくなったなぁ~……でもまぁ……)

チラッ

(……このままだと誰も入りそうに無いし。ここは――)

「よぅしっ! それなら次は、軽音部部長のりっちゃんが行って来るぜ!」


78 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:49:53.77 HFInfwgB0 53/88


~~~~~~

ガチャ

パタン

「あら律。どうしたの?」

「どうしたのってお前……ムギの次は私かなって思って」

「え? あ、もしかして、軽音部みんなで?」

「そうだよ。っつか、それが和の望みなんだろ?」

「それはそうだけど……良いの?
  これでも私、今上がりに上がってたテンションを下げて、いつもみたいな私になって皆の前に戻ろうとしてたのよ?」

「でもそれって、いつもの周りに気を遣ってる和だろ?
  まぁそれも和だし、それはそれで良いんだけど……今日ぐらいは、いつも思ってることをそのまま打ち明ける和、で良いんじゃないか?」

「……良いの?」

「良いも何も、私達は和の友達だぞ?
  だったら、友達の前でぐらい、たまには気を遣わずにいても良いんじゃないか?
  そりゃ、友情の前にも気遣いが必要なのは確かだから、あくまでも今日だけになっちゃうけど。
  っつか、今日だけじゃないと、和のあんな要望に応えてられないってのが本音だけど」

「全く……あなた達は」


79 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:53:04.83 HFInfwgB0 54/88


「あっ、でも梓は分からないぞ?
  澪は和の気持ちを知ってたから大丈夫だろうし、唯もまぁ大丈夫だろうケド……梓はそもそも、和とあんまり面識無いからな」

「確かにね。私が一方的に仲良くなりたがってるだけで、いきなり抱きつくなんてことしたら可哀想だものね」

「いやいやそうじゃなくて」

「え?」

「梓も、和とは仲良くなりたいと思ってるはずなんだよ。
  でもさ、やっぱいきなり階段を飛び越す勇気ってのは沸かないもんじゃん?
  だからたぶん無理だろうなって」

「……」ジッ

「? なんだ、人の顔ジッと見て」

「いえ。律ってなんだかんだ言って、一番部員のこと見てるなって思っただけ」

「うっ……! い、いきなり恥ずかしいこと言うなって……! 照れちまうだろっ///」

「でも本当のことよ。
  律ってば、なんだかんだ言って、さり気なく人をフォローするのが上手よね。
  そういうところ、本当軽音部の部長なんだなって思うわ

「……」カァッ///

「ま、その調子で申請書とか部長会議とかも、部長らしくして欲しいのだけれど」

「あっ、それは無理だわ」


80 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:55:45.30 HFInfwgB0 55/88


「だと思った」クスッ

「むっ、思ったとは失礼だな」

「何言ってるのよ。それだけ軽音部の皆と一緒にいたいって事でしょ?
  むしろ私だって、生徒会長って立場じゃなかったら羨ましく思うわ、そういうの。
  あなた達五人は、たぶん五人全員が揃うこの“軽音部”自体が、素直になれる場所なのよね」

「ま、確かにそうかもな。クラスの皆の前で出来ないことも、ココなら出来ちゃったりするし」

「そう言えば、今年の一年生が入ってこなかった理由として、五人の一体感があるから入り辛かったのかも、っていうのを、唯から聞いたわ。
  私、その言葉に思わず納得しちゃった。
  だって私も、今まで皆の前で素直になれなかったのは、きっとそういうのを感じてたからなんでしょうし」

「一体感、ねぇ……」

「そ。ま、それが悪いこととは言わないわ。
  チームワークが良すぎるってだけの話しだもの」


81 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:57:41.65 HFInfwgB0 56/88


「んまぁ、その話は良いや。今はとりあえず、和が私に抱きつくって話だろ?」

「ああ、そうね。でも律、少し勘違いしてるわよ」

「は? 勘違い?」

「そ。私、皆に抱きつきたいわけじゃないの」

「んな……! じゃあ私は友達じゃないって言うのか!?」

「違う違う。そうじゃなくて、私は皆それぞれの良いところに触れたいのよ。
  触れても許してもらえるところに触れてみたいの」

「良いところ……?」

「そ。
  例えば律なら、このおでことか」

ソッ

「っ!」ピクッ///


82 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 18:58:57.98 HFInfwgB0 57/88


「あら、驚かせちゃったかしら。指先でちょっと触れただけだったんだけど」

「い、いきなり触るからだよ!
  そ、それに私としては、抱き付かれるつもりで来てたから、その……心の準備が出来てなかったって言うか……」///

「そうね。ごめんなさい。
  ならまずは普通に抱きしめることにするわ」

「えっ?」

ギュッ

「~~~っ!!!」///

「うん。なんだかんだ言って、律ってば軽音部の中で一番女の子よね」

「は、はぁっ!?」///


85 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:01:15.98 HFInfwgB0 58/88


「と言うよりも、ギャップがあるせいかしら」

「ぎゃ、ギャップ……?」///

「そ。いつもは皆を引っ張っていく頼もしい子だけれど、こうして抱きしめたり、ふとしたところで女の子の部分を見ると、それが際立って見えるのよ。
  ほら、アイスに塩を混ぜると甘味が引き立つような感じ」

「わ、私はほら、塩アイスとか食べたことないし……」///

「ふふっ、そうして照れて、見当違いな反論する律も可愛いわ」

「か、可愛いとか言うなって! 日頃言われ慣れてないからムズ痒いんだよ」///

「皆も思ってるだろうけど言わないだけよ。
  だから今度、軽音部の皆と食べに行きましょ、塩アイス」

「お、おう……/// ってか、だからってなんだよ///」

「食べたこと無いんでしょ? だから食べましょうって話。
  私、軽音部の皆と遊んだことはあるけど、寄り道したことは無いから」

「ああ~……そう言えばそっか」


87 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:04:27.63 HFInfwgB0 59/88


「……うっし! 分かった。覚えておくよ、和」

「ありがと、律。絶対だからね?」

「おう! 絶対だ!」

「ふふっ、そうして抱きつかれながらも私の顔を見てくれる律って、やっぱり可愛いわ」

「だ、だからそういうのは――」

チュッ


88 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:05:30.60 HFInfwgB0 60/88


「――っ!!!」///

「それじゃ、約束通り、おでこにキスでもさせてもらうわ」

「……~~~~~~っ!!!」///

「でもこれって事後承諾かしら?
  って、律ってば顔を真っ赤にしちゃって。
  ほら離すから、許してちょうだい」パッ

「……――ぞ」

「ん?」

「ふ、不意打ちとか、卑怯だぞ~~~~!!!」///

ガチャ!

バタン!

「……ふふ、やっぱり可愛いわ、律ってば」


89 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:08:29.53 HFInfwgB0 61/88


~~~~~~

バタンッ!

ビクッ!

「お、おかえり、りっちゃん」

「はぁ……はぁ……はぁ……」///

「り、律……?」

「どうしたんでしょう? 律先輩……顔が真っ赤ですけど」

「きっと……私と同じことされたんだわ」///

「お、同じことって……?」

「それは……。…………。……ポッ」///

「無言で頬を染めるなっ! 余計に気になるだろ!」

「じゃ、じゃあ次は澪が行けば良いだろ!?」

「ん……! ……ま、まぁ、確かにそうだな。
  梓は行く必要ないし、唯もまぁ、昨日相談されてたみたいだしな。
  私以外選択肢に無いだろう」


90 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:09:44.50 HFInfwgB0 62/88


「いえ、別に私でも良いですよ。だって――」

「和ちゃん……!」ポーッ///

「……っ」カーッ///

「――中で何されたのかが気になりますし」

「それはでも、ほら、二人から聞きだすことも出来るだろ?
  もし私が戻ってきても聞き出せなかったら行けばいい」

「まぁ、そうですね。澪先輩がそこまで行きたいと言うのなら、私も止めません」

「や、別に行きたいとかそういうのじゃなくてだな……」


91 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:11:18.59 HFInfwgB0 63/88


「まぁ、澪先輩も気になりますもんね」

「さすがの私も、幼馴染として気になるかなぁ」

「唯先輩には聞いてません」

「ひどいっ!」

「まぁともかく、澪先輩が怖いと思わないのなら、行っても良いと思ってるのなら、行ってきてください」

「む~……なんか梓が妙にトゲトゲしいような気がする……」

(だってなんだか、私だけ除け者にされてる気がするんだもん)


92 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:12:31.46 HFInfwgB0 64/88


「まぁ良いや。ともかく行って来るよ。
  律もほら、いつまでも扉の前に立ってないで、席に座っておけ」

「お、おぅ……///」

「じゃ、行って来るよ」

ガチャ

パタン

「…………」

「…………」

「…………」///

「…………」///

「で、中で何されたんですか?」

「な、何されたって言うかだな……うん、抱きしめられたり、普通に会話したりだ」

「それでそんなに照れてるんですか?」

「ん……まぁ……っつか、梓に一つ聞きたいんだが……」

「なんですか?」

「私って、そんなに可愛いのか?」


93 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:13:58.90 HFInfwgB0 65/88


~~~~~~

「あら、次は澪なのね」

「おす、和」

「ん? 案外普通な反応ね。
  ムギや律を見てただろうから、てっきり顔を真っ赤にして照れて来たり、ビビりながら入ってくるものとばかり思ってたけど」

「さすがの私も、友人が友人にしたことに怖がったりしないさ。
  それに、和のことは信用してるからな。変なことはしてないって知ってるよ」

「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね」

「真実だからな。でも、これでも結構、緊張はしてるんだぞ?」

「ああ、そう言えば律が言ってたっけ。
  澪ってば緊張すると、逆に周囲には張り切ってるように見えるって」

「ま、確かにそうだな。今の私が緊張してるって分かるのは、たぶん律ぐらいだろう」

「幼馴染ってやつね」

「ああ。和と唯と同じ関係さ」


94 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 19:16:13.30 HFInfwgB0 66/88


「それに和とは、去年はクラスで二人きりの顔見知りだったからな。
  唯を除く軽音部の中では、一番仲が良いつもりだよ」

「確かにね。でもそう考えると、一年ぶりぐらいよね。二人きりで会話するのは」

「だな」

「今だから明かすけど、実はあの頃から、澪の髪がキレイだなって思ってたのよ?」

「うっ……あ、ありがとう……なんか、改めて和から言われると、照れくさいな」テレテレ

「ふふっ、照れた澪も可愛い」

「か、可愛いだなんて……」カァッ///

「と言うより、軽音部の皆の照れた表情が可愛いわね」


105 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:02:41.51 HFInfwgB0 67/88


「でもね、こうして抱きしめたいとか思ったのは最近だけれど、こうして――」

ソッ

サラッ

「――澪の髪に触ってみたいと思ってたのは、去年からずっとなの」

「そ、そうなのか……?」

「ええ。突然触って驚かせちゃったみたいだけど、ずっと指で梳いてみたかったの」

サラサラ

「ん……ま、まぁ、好きなだけ触ればいいさ」///

「ありがとう。そうだ、ついでだから胸も触っていい?」

「そ、それはさすがにダメだ!」///


106 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:04:00.36 HFInfwgB0 68/88


「やっぱりね」

「と言うか、それは友達でもさすがにしないことだろ!?」

「そうかしら? 唯の家にあるマンガとかだと、女の子同士で、おふざけ感覚で胸を触りあってたりとかしてたんだけど」

「そ、それは、そのマンガが特別なだけだ!」

「そう……ま、仕方が無いわね」

「ホッ」

「許可がもらえないなら、無理矢理触るしかないわね」

「えっ!? ちょっ!」

ムニ

「ひうっ!」


107 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:05:07.21 HFInfwgB0 69/88


「う~ん……やっぱり大きい」モミモミ

「ちょっ、和……」///

「ブラの硬い触感とその中にある柔らかい感覚がまた……」ムニムニ

「ちょっ……いい加減に……」///

「服の上からでも分かるこのボリューム……やっぱりはんそ――」

「だーーーっ!! いい加減にしろっ!」

ゴチンッ!


110 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:07:09.49 HFInfwgB0 70/88


「ごめんなさい。ちょっと調子に乗ってたわ」ヒリヒリ

「はぁ……はぁ……はぁ……」///

「やっぱりダメね。色々と歯止めがきかなくなってきてたわ。
  もし澪に止めてもらわなかったら、あのまま服をひん剥くかうなじにキスしてたところよ。
  そう考えるとお礼を言うべきかしら?」

「いや……良いけど……と言うか、私もぶっちゃってゴメンな?」

「何言ってるのよ。私が調子に乗ってたのは事実だし、それになんだか“手を上げても許してもらえる”って私のことを思ってくれてるのが嬉しいわ。
  何より、そういうのが澪らしくて、私は好きよ?」

「うう~……なんか、軽音部のツッコミ役みたいな認識でやだなぁ……」

「ツッコミ役というより、お姉さんかしら?
  引っ張る人をフォローするように皆をまとめる。
  澪ってそんな感じがするわ」

「そうか……?」

「そうよ。意外にしっかりしてるのが律だとするなら、本当にしっかりとしてるのが澪ね。
  本当、二人共バランスが良いわ」

「それを言うなら和だってそうだろ?
  いつもポワポワしてる唯を引っ張ってるけど、時たま唯の方が和よりしっかりしてたりするし」

「そうね。今日とかまさにその通りだわ」


112 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:08:11.45 HFInfwgB0 71/88


「で、和は満足したのか?」

「いえ。後は一回、強く抱きしめさせてもらえないかしら?」

「うっ……ま、まぁ、エッチなことしないなら、別に……」///

「そう……ありがとう」

ギュッ

「……うん。やっぱり澪もあったかい」

「そうか……?」///

「そうよ。軽音部は皆、あったかいわ」


113 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:09:28.51 HFInfwgB0 72/88


~~~~~~

「だから、そういうのは私に聞かないで下さい! 恥ずかしいです」///

「なんでだよ! 私だって聞くのは恥ずかしいんだぞ!?」

「だったら聞かないで下さい!」///

「でも和に言われて本当かどうか気になってるんだって!
  からかわれてるだけかもしれないだろ!?」

「知りませんよ! そんなことっ!」

ガチャ

「おまたせ」

パタン


114 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:10:18.91 HFInfwgB0 73/88


「あっ! 澪先輩! ちょっと律先輩を黙らせてください!」

「どうしたんだ? 律。また梓に迷惑掛けてたのか?」

「違うって! ただ、その……和にかわいいって言われてさ、本当かからかわれたのか、気になって……」

「なんだそんなことか……」

「私はさっきから可愛いって言ってるんだけど……」

「そうだよね。特に今のりっちゃんは可愛いよね」

「だそうだが?」

「でも梓が答えてくれないんだ!」

「だからどうして全員の答えを欲しがるんですか!」


115 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:12:07.72 HFInfwgB0 74/88


「それよりも澪ちゃん、私やりっちゃんと違って落ち着いてるわね?」

「ん……まぁな。確かに照れくさかったけど、やっぱり、和の不安は分かるからかな?」

「不安?」

「そ。あ、ムギが中に入ってる時に話してたんだっけ? 後で話すよ。
  それよりも梓、その様子だと中の様子が聞けなかっただろ? なら、次は梓の番だ」

「あっ……えと……」

「それとも、やっぱりイヤか?」

「い、いえそんな! それでは次、お邪魔させてもらいます!」ガタッ

「ああ。たぶん、梓が一番、今の和の気持ちを分かってやれるだろうからな」

「?」

「私達はまだ実感が無いけど、梓はもう、ウスウスと実感してるだろ?」

「? 何をですか?」

(もうそろそろ、この高校生活が終わるって事をだよ)


116 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:13:32.52 HFInfwgB0 75/88


「いや、なんでもないさ。良いからほら、律のことはまかせな」

「はぁ……ではよろしくお願いします」

ガチャ

パタン

「ああ……まだ梓に聞いてなかったのに……」

「まだそんなこと言うのか? ま、梓は照れてるだけで、律のことを可愛いって思ってくれてるよ。
  私だってそう思ってるんだし」

「……っつーか澪、なんかイヤに落ち着いてるな?
  入る前みたいに緊張してる訳でもないし」

「さあ、なんでだろうな」

「…………」

「ただまあ、何と言うか……ちょっと実感しちゃってさ」


117 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 20:14:42.18 HFInfwgB0 76/88


「? 何を?」

「文化祭が終わったら、私達も引退して、梓を一人きりにさせてしまうんだなってことをさ」

「……そうね」

「だから、ちょっと悲しくてな。
  今の和って、なんていうか、そういう悲しみを紛らわせようとしてる感じがしてな」

「確かに……それはあるかもな」

「でも、私達ともっと仲良くなりたいって言うのは本当だよ?」

「でも、時間が経てば経つほど、別れを意識してしまって不安になるのも本当……」

「…………」

「私が落ち着いてるのはな、そういう和の気持ちに、あてられたからだよ」


125 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:26:40.72 HFInfwgB0 77/88


~~~~~~

「し、失礼しま~す……」

「あら、梓ちゃん。まさか来てくれるとは思わなかったわ」

「いえ、そんな……でも私、和先輩のことあまり知らなくて……」

「確かに。私達って、本当に友達の友達みたいなものだものね。
  でもね、私はこれでも、梓ちゃんと仲良くなりたいって本当に思ってるのよ?」

「そ、それはその……ありがとうございます」


126 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:28:27.29 HFInfwgB0 78/88


「でも、どうして私と仲良くなりたいんですか?」

「そうね……憂と唯の共通の友人だからっていうのもあるけど、梓ちゃんもある意味、私と近いからかな」

「近い……ですか?」

「そう。ムギの場合は、友人かどうかっていう不安が私と同じだった。
  律はそうね……そういうわたしの気持ちを知って、あえて触れない優しさを見せてくれた。
  澪はね、私の気持ちを一番に理解してくれた。今まで実感がなかっただろうに、改めて実感させられて寂しくなるだろうに、それを我慢して、私のことを気遣ってくれた。
  唯は、そうやって皆が私の不安を解消してくれるって分かってたから、こんな場を作ってくれた」

「…………」

「だから梓ちゃんは、私と最も近いのよ。
  同じでも、気遣ってくれるのとも、理解しあおうとしてくれるのとも、助けようとしてくれるのでもない。
  背中合わせでもなく、隣同士にように、近いのよ」

「……よく、分かりません……」

「……そうね……難しく言いすぎたかしら?
  まぁ簡単に言ってしまえば、不安なのよ。卒業するのが」

「あ……(それって……)」


128 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:32:20.72 HFInfwgB0 79/88


「梓ちゃんの場合は、私たちが卒業するのが不安、って言葉に置き換えた方が良いかしら?」

(澪先輩や律先輩や唯先輩と話してた時、私が感じたことだ……)

「卒業して離れ離れになってしまう。そのことに不安を感じてるのよ。
  その不安が膨れ上がって、離れ離れになったらもう二度と会わないような気がして……だから、友達かどうかって不安に襲われちゃったのよ、私の場合は」

「そういうこと、ですか……」

「ええ、そういうこと。
  だから唯は、軽音部の皆との場を作ってくれたのね。
  そんな不安勘違いだよ、って教えてくれるために。
  そしてたぶん、梓ちゃんも同じ不安があるんだよって、私に教えるために」

「…………」

「今、学園祭が近いでしょ?
  梓ちゃんはソレに真っ直ぐになることで、不安を紛らわせようとしている。
  でもそれって、それが終われば一気に不安が押し寄せてくるって事でしょ?
  きっと唯は、そういうのを心配してるのよ」

「唯先輩が……」


129 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:34:02.33 HFInfwgB0 80/88


「そう。現に私は、生徒会長としての引継ぎが始まりだして、不安が爆発しちゃったの。
  だから今、こんなことになってるんだし」

「爆発って……」

「まぁ、別に涙を流したりとかじゃないわ。
  でも、もう二度と友達と友達でいられなくなるかもしれないって形で、不安が爆発しちゃって、唯に愚痴みたいな形で打ち明けちゃったの」

「でもそれを、解消してくれた……」

「そう。皆、私の要望に答えてくれた。我侭を聞いてくれた。友達として接し続けてくれた。優しいままでいてくれた。
  不安で不安で仕方が無いと、打ち明けたわけでもないのに、不安を解消してくれた。
  ……友達と友達でいられなくなるかもしれないなんていう、私の勘違いを、正してくれた。
  ずっとずっと、友達でいてくれると、暗に示してくれた。
  だからもう……いえ、まだ不安はあるけれど……きっと卒業するまで消えてくれないんだろうけど……それでも、頑張れるようにはなれた。
  友達と、ずっと友達でいられるって、分かったから」


130 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:36:09.04 HFInfwgB0 81/88


「……唯達はね、どうしたら梓ちゃんに、今のこの私と同じ気持ちを抱いてもらえるのか、ずっと考えてるのよ」

「私に、ですか……?」

「ええ。言ったでしょ? 私達は近いって。
  梓ちゃんだって、唯達軽音部の先輩が卒業するのは不安でしょ?
  ……いえ、どちらかというと、怖い、かな?」

「…………」

「その恐怖をどうにかしてあげたいって、唯達は思ってる。
  だから近い私の悩みを聞いて、放っておけなかったのよ。
  それぐらい、私と梓ちゃんは、近い。
  だから私は、梓ちゃんと仲良くなりたいのよ」

「……まだ意味が、分かりません」

「そうね……不安に押しつぶされそうになったら打ち明けてもらえる、梓ちゃんにとってのそんなお姉さんに、私はなりたいのよ。
  だって梓ちゃんは……私と一緒で、一人で抱え込んで頑張る子だから」

「……っ!」


132 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:39:01.50 HFInfwgB0 82/88


「軽音部の先輩はもとより、憂にだって相談できないでしょ? この不安に関しては。
  憂だって、唯のこととかで色々と抱えてるものね。
  友人としてそういうのが分かっちゃうと、相談できないでしょ?」

「でも……それは、和先輩だって、おんなじです」

「同じじゃないわよ。私はあなたや憂より、一つ年上なんだから」

「そんなの……年齢だけじゃないですかっ」

「後輩わね……先輩に迷惑を掛けても良いって言われたら、いくらでも迷惑をかけていいものよ。
  それに私と梓ちゃんは、これから友達になるんだもの。
  だったら別に良いじゃない。
  相手側が迷惑をかけても良いって言うんなら、いくらでも迷惑かけたら」

「……私、沢山甘えちゃいますよ?」

「構わないわよ。そういうのは、唯や憂で慣れてる。
  それに私は今日、皆に沢山甘えたもの。これから、梓ちゃんにだって甘えるもの。
  だから……思いっきり泣きなさい」


133 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:42:46.37 HFInfwgB0 83/88


ギュッ

「の、和先輩……」グスッ

「ほら、こうして強く抱きしめたら、多少なら皆に泣き声が聞こえることは無いでしょ?
  それと、制服が汚れることなら気にしなくて良いわ。
  だから……ね?」

「……はい」

ギュッ…!

「……今まで、よく頑張ってきたわね」ポンポン

「っ~~~!!!」

「偉いわね、梓ちゃんは」ナデナデ


135 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:44:56.69 HFInfwgB0 84/88


~~~~~~

「なんだかんだ言って、和ちゃんは世話焼きだからね。
  あずにゃん見たら、自分と近いって分かってくれると思ったんだよ」

「和と近い……?」

「うん」

「確かにそうだな……梓にとっての後輩は入ってきてないし、このまま私たちが卒業したら、梓は一人ぼっちだもんな」

「その不安が無いのは、確かにおかしいものね」

「私達で何とかしてあげたいけど……でも、私達だからこそ出来ないことってのもあるでしょ?
  だから、それを和ちゃんにお願いしたかったの」

「でもさ……和も不安だったんだろ?
  その、私達と友達じゃない――いや、卒業したら、私達と友達じゃなくなるかもしれないって」

「友達じゃないかもしれないって不安は、結局のところ、卒業したら疎遠になってしまうかもしれない、って不安が原因だもんな~……」

「でも、それを解消した後だったら、和ちゃんはあずにゃんのこと分かってくれると思ったんだよ。そして、支えてくれるとも……」

「世話焼き、だからか?」

「それに、可愛いしねっ」


137 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:46:21.37 HFInfwgB0 85/88


「卒業して、私達と今みたいに会えなくなるかもしれない……確かに、和ちゃんと梓ちゃんは同じよね」

「違うところは学年だけか」

「だから、近かったんだよ」

「なるほどな。ま、これで二人共友達になってくれれば」

「うん。あずにゃんも、私たちが卒業するまで不安に押し潰されることは無いと思う」

「後は……」

「そうだな……私達で、梓に出来ることを」

「考えること、だけね」

「うんっ! 和ちゃんにやったみたいに、私達じゃないと出来ないことを、ね」


139 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 21:48:07.08 HFInfwgB0 86/88


帰り道

「ありがとう、和ちゃん」

「なにが?」

「あずにゃんと友達になってくれて。これで、卒業まであずにゃんは大丈夫だよ」

「何言ってるのよ。お礼を言いたいのはこっちよ。
  私の愚痴を聞いてくれて、叶えてくれて、梓ちゃんと友達になれる機会まで作ってくれて……ホント、良いことだらけだったわ。
  あっ、でもちゃんと、あなた達軽音部で梓ちゃんに出来ること、考えておきなさいよ?
  このままだと、卒業と同時に梓ちゃん、悲しむだけだからね」

「うん。ちゃんと、それからのあずにゃんの支えになるようなこと、不安を解消できるようなこと、皆で考えとくよ」

「ええ。皆と梓ちゃんが、ずっと繋がってるって証明……ちゃんと、作ってあげなさいよね」

「もちろん!!」


151 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 23:11:57.47 HFInfwgB0 87/88


「あっ、そうだ和ちゃん」

「ん?」

ギュッ

「えへへ~……」

「どうしたの? 急に腕に抱きついてきたりして」

「だって、私だけ和ちゃんに抱きしめてもらってなかったんだも~ん」

「だって唯は、卒業してもずっと友達だって分かってるし、信じられるからね」

「と言うことは、皆は信じられなかったの?」

「そうよ。でも、今日の出来事で信じられたから、もう大丈夫よ。
  と言うより唯、そういうのが分かってて、私を無理矢理軽音部に連れて行ったんでしょ?」

「へへ~……バレた?」

「バレバレよ。でも――」

ギュッ!

「――ありがとね、唯」


152 : 以下、名... - 2010/09/13(月) 23:12:57.60 HFInfwgB0 88/88


「……ううん。こちらこそ、いつもありがとうだよ、和ちゃん」

「これからも、友達でいてくれる?」

「もちろん。私も――軽音部の皆も、和ちゃんと友達だよ」

「……ありがとう。それじゃあ私――」


「――明日からこうして、皆を抱きしめたりしていきたいわ」



終わり


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