―部室―
ザーザーザー
唯「雨、やまないね」
律「まだ梅雨なのかな」
唯「うん」
律「お茶、美味しいな」
唯「お菓子もね」
律「うん」
唯律「…………」
唯律「暇だー!」
澪「練習はどうした」
唯「」キッ
澪「そ、そんな目で見るなよ……」
唯「だってぇ」ぶー
梓「唯先輩、練習しますよ」
唯「もぉ、しょうがないなぁ」
梓「真面目にやってください!」
紬「うふふ」
律「じゃ、ぼちぼち始めますかっ」
澪「うん」
律「準備いいかー?」
梓「はいっ」
唯「大丈夫だよぉ」
律「よしいくぞっ……
ブツッ
唯律紬梓「!」
澪「ひっ!」
律「ん、なんだ!?」
紬「停電……みたいね」
唯「くらーい」
澪(く、暗いの怖いよ……)
澪「律ぅ」ギュッ
律「なんだっていきなり……」
ピカッ
唯「うひゃ」ギュッ
梓「雷のせいですね。くっつかないでください、唯先輩」
紬「あ、じゃあもしかして……」
梓「アンプが使えませんね」
澪「えっ、……本当だ」
律「ということは……」
唯「練習出来ないねぇ、こりゃ」
―――――――――――――
梓「結局、お茶ですか」
唯「だって、ヒドい雨で帰れないんだもーん」
律「傘持って来るの忘れちゃったしー」
梓「もー」ぶー
澪「雨止むまで結構かかりそうだな」
紬「ねぇ、みんなでしりとりしない?」
唯「へ?」
梓「しりとりって……、しりとりですか?」
紬「ええ♪」
律「うん、暇つぶしにいいんじゃないか?」
梓「まぁ、いいですけど」
唯「ただのしりとりじゃ、つまんないよ!」
律「じゃー、負けた奴は罰ゲームな!」
紬「罰ゲーム!」
唯「何するのぉ?」
律「んー、じゃあ、負けた奴は私のいうことをなんでも聞く!」
唯「えー」ぶー
澪「え、律が負けたらどうするんだ?」
律「私負けないもーん」
澪「まったく……」
梓「じゃあ、始めますか。お題はどうします? まさか何の制約もないなんてことないですよね?」
澪「え?」
梓「単純な一文字取りでいいですよね。固有名詞はありですか? 私は一般常識の範囲内だったら認めるのがセオリーだと思うんですけど」
唯「あずにゃん……」
梓「? なんですか?」
律「ご、ごめん梓……。そんなにしりとりに乗り気だとは」
梓「乗り気? このくらい普通でしょう」
澪(いったいどんなしりとりをして育ってきたんだ……)
唯(あずにゃん可愛い)
―――――――――――――
梓「じゃあルールの確認しますよ」
唯「ほーい」
梓「一般的な一文字しりとりで、使用していい単語は名詞であり、かつこの5人全員が知っているものに限る」
律「じゃ、固有名詞もありってことだな」
律「濁点と半濁点は取り去るだけで、付加させるのは禁止。拗音、促音は清音に戻すこと」
唯「よーおん? せーおん?」
梓「『ぢ』や『じ』と『づ』や『ず』の区別は付けない。……そんなところですか」
澪「最後の長音はどうする?」
梓「無視する方向でいきましょう。母音で縛られちゃいますし」
梓「あとはお題ですけど……」
律「何にする?」
唯「あ、じゃあ食べ物だけってのは?」
梓「陳腐ですね」
唯「ちんぽ?」
梓「黙ってろです」
紬「じゃあ、みんなの好きなものだけってのは?」
唯「好きなものかぁ」
律「いいんじゃん、それで」
梓「そういう、一人ひとりのさじ加減で決まるようなお題は避けたいところですけど、もうなんでもいいですよ」
律「決まりだな!」
唯「順番は?」
梓「ジャンケンしましょう」
─────────────
唯「じゃ、私からだねっ」
梓「今ジャンケンしたんですから、いちいち言わなくても分かりますよ」
澪(好きなもの好きなもの……)
唯「じゃあ……『ギー太』!」
律「うむ」
梓「無難ですね」
紬「次は私ね。……たー、たー」
紬「『たまご』」
律「んー? 玉子が好きなんて初耳だぞ?」
紬「た、たまご料理は大好きよ? ケーキにも使うし……」
梓「ギリギリセーフです」
律「次澪だぞー」
澪「こ、『こいぬ』!」
唯「あ、可愛いよねぇ。私も好きー」
律(逃げたな)
梓(『子○○』は卑怯ですね……)
梓「次は私ですね」
律(『ぬ』か……。『ぬいぐるみ』とかかな、やっぱ)
梓「ぬ……、ぬ……」
唯「お、あずにゃん」
紬「考えてるわねー」
梓(『沼』……ってバカバカ! 妖怪じゃあるまいし! こうなったら……)
梓「『ぬりえ』」
律「!」
唯「えー、あずにゃん、ぬりえ好きなのぉ?」
澪「ちょっと無理があるんじゃないか?」
梓「すっ、好きですよ、ぬりえ! 週4で塗ってますし!」
唯「ほんとかなぁ?」ジロジロ
梓「次、律先輩ですよ!」
律「あ、ああ」
律(くっそー、『ぬいぐるみ』でくると思ってたから『み』で考えてたよ……)
律「『え』か……」
律「!」ピカーン
律「『演奏』!」
梓「ほう」
唯「りっちゃんにしては……」
澪「うまいこと言ったな」
律「うまいことってなんだよっ。部長として演奏が好きなのは当たり前だろ?」
澪「さっきまで練習を嫌がってたのは誰だっけ?」
律「さぁ! 一周まわって唯だぞ!」
紬(流したわね)
梓(流しましたね)
唯「『憂』!」
澪「あー……」
紬「文句のつけようがないわね」
唯「えへへ」
梓(運が良いですね……)ギリギリ
紬「『い』ね……」
紬「『犬』」
唯「むむ」
律(安全策を取ったな、ムギ)
紬(ふふふ、『犬が好き』だなんて否定出来ないでしょう)
梓(はっ! また『ぬ』だ……。これは澪先輩厳しいかも……)
澪「『ぬいぐるみ』」
梓「!」
律「あー、それさっき梓が言うかと思ってたのにー」
梓(それがあったかー)
唯「澪ちゃん、ぬいぐるみ好きそうだもんねっ」
澪「うんっ」
梓「『み』……ですか」
梓「みー、みー」
唯(あずにゃん可愛い)
律「あまり悩んでると時間切れで失格にするぞー」
梓「そっ、そんなルールはないです!」
律「じゃあ追加なっ」
澪「悪くないルールだしな」
梓「くっ……」
梓(ヤバいヤバいっ、『み』なんて出てこないよ……)
律「んー?」
梓「み、『ミルク』!」
紬「うーん」
澪「それはちょっと厳しいんじゃ……」
梓「わ、私は身長が小さいから毎朝牛乳を飲んでるんです!」
唯「ああ! なるほどぉ」
律「仕方ない、セーフとしよう!」
梓(な、なんとか乗り切った……)
律「『く』だな!」
梓(それにしても……)
律「『果物』!」
澪「ありだな」
梓(曖昧な設定にしたばかりに、お題がお題としての役目を果たしてない……)
唯「和ちゃん!……だと『ん』が付いちゃうから……『和』!」
律「お、うまいこといったなぁ、唯!」
梓(またもや運のいい……)ギリギリ
澪「次はムギだけど……」
紬(どうしよう……、出てこないわ)
唯「あれ、ムギちゃん?」
紬(『かえる』……は嫌いだし、『カマキリ』もちょっと……)
梓「ギブアップですか!?」
梓(よしっ、負けろ!)
紬「かっ、『かんむり』!」
梓(チッ)
律「かんむり?」
紬「たまにうちでパーティーが開かれる時にね、着けるんだけど……」
律「あー」
唯「ムギちゃんすごーい」
澪(ものすごいセレブ生活の片鱗が見えた)
紬(かんむりなんて嘘だけど、どうせ分かんないわよね)
律「次、澪だぞー。『り』」
澪「『り』か……」
律「さぁ、澪ちゃんは答えられるのでしょーか!」
澪「あ…………」ピクッ
梓(? 澪先輩、なんか……)
唯「澪ちゃん、顔赤いよ?」
澪「…………」モジモジ
律「どうした?」
澪「あ、あの……、『――』」
紬「えっ?」
唯「聞こえないよぉ」
律「はっきり言え、はっきり」
澪「り、……『りつ』」
律「えっ……」
紬「はうっ」ブシュー
梓「ああっ! ムギ先輩が鼻血を!」
律「いや……、それって……」
澪「……なんだよ」モジモジ
律「あ、うん……」
唯「次、あずにゃ~ん」
梓「ま、待ってください! ムギ先輩が……」
紬「いいのよ、梓ちゃんっ。これこそ私の望んでいたものだから!」
梓(この人は……!)
梓「『つ』ですか……」
紬(これはっ)ピカーン
紬「ねぇ、梓ちゃんっ」
梓「? はい」
紬「うふふ」ドキドキ
梓(なんだあの人)
梓「じゃあ『月』でお願いします」
紬「!」
律「へっ? ああ、『月』ね……。『き』だな」
梓(はっ)ピカーン
梓「や、やっぱり『月見』でお願いします!」
律「? なんで急に変えて……あっ」
唯「?」
律「んっ……」
梓(気付きましたか)
紬(グッジョブよ、梓ちゃん!)
澪「あ……」
梓(澪先輩も気付いたみたいですね)
律「みみみ『み』かー! な、何があるかなー……」チラッ
澪「」ジー
律(うおおおっ、すっげーこっち見てる! ていうかなんで涙目なんだよ!)
梓(先ほどの澪先輩の発言はいわば律先輩への愛の告白!)
紬(ここで何と答えるかで、りっちゃんの澪ちゃんに対する返事が……!)
律「あー、いやぁ、思い付かないなー……」
澪(やっぱり……、気付いてないのかな……)
唯「あ! 私分かっちゃったっ!」
律「うっ!」ドキッ
梓(さぁ、来るかっ?)
紬(言ーえっ、言ーえっ)
唯「りっちゃん、最後の文字は『お』だよっ」ヒソヒソ
律(言われなくても気付いてるっつーの!)
律(……あーだめだ。他に何も思い浮かばないっ。もう言うしかないのか……)
律(って、あれ……? なんで私答えるのためらってんだ?)
澪「」ジー
唯「『み』で始まって『お』で終わる言葉だよっ」ヒソヒソ
律(澪は勇気を出して言ってくれたのに……、私は照れくさがって……)
唯「りっちゃん、目の前っ」ヒソヒソ
律(そうか、私は――)
律「……『みお』」
澪「!」
梓(き、来たっ!)
紬(っしゃあああっ!)ブッシュゥゥウ
唯「それだよぉ!」
澪「……律」
律「なっ、なんだよ!」
紬「澪ちゃん澪ちゃんっ。お題は何だったかしら?」
澪「好きな……もの……」
梓「律先輩っ、よく聞こえなかったのでもう一度言ってください!」
律「う……、うるさい」
梓(り、律先輩が……照れてる?)
律「なんだよ! ほら次行くぞ!」
唯「ほいほーい、『お』だねぇ」
澪「……えへへ」
紬(ああっ、嬉しそうな澪ちゃんっ! なんて可愛いのかしら!)
律「…………ふふっ」
梓(! 今、律先輩が笑ったような……)
唯「お、お……。あっ、『おなら』ぁ!」
紬(これはひょっとするとひょっとするかも……)
梓(律先輩にも可愛いとこあるんだなぁ……)
唯「あははっ! おならだってぇ!」キャイキャイ
紬「えっと……、『ら』ね」
梓(『おなら』が通った!?)
紬「『ライブ』なんてどうかしら?」
唯「おっけぃ!」
澪「『ぶ』かー」
澪(『部長』、なんちゃってね……。さすがに恥ずかしくて言えないや)
澪(……えへへ)
唯「澪ちゃーん?」
梓「時間切れで負けますよ?」
澪「へっ? あっ、じゃあ『ブーケ』」
紬「いいわねぇ、幸せの象徴って感じで♪」チラッ
律「な、なんだよ」
紬「んーん」
唯「なかなか終わらないねぇ、次はあずにゃんだよ」
梓「はい」
梓(私の好きなもの……)
梓「『軽音部』」
澪「お」
紬「あら……」
唯「ん」
梓「え、な、なんですかこの空気……」
紬「うふふ」
唯「えへへ~」ニヤニヤ
梓「ちょっ、やめてください!」
澪「なんか……、いいな」
紬「うん♪」
梓(は、恥ずかしい……。でも、こんな時だからこそ言えることだよね。律先輩も澪先輩も、みんな普段は言えないような想いも伝えられる……。好きなものしりとり、悪くないかも……)
唯「次、りっちゃんだよ」
律「『豚肉』」
梓(こっ、こいつ……!)
紬「んー?」
澪「確かに、律は豚肉が好きだもんな」
梓(なんだそのフォロー)
律「ま、まぁな」
唯「そっかぁ。じゃあ……、『クリスマスケーキ』!」
澪「うん」
律「唯らしいな」
梓「ムギ先輩です」
紬「ふふふ、『キーボード』」
律「ま、そりゃそうか」
澪「『ど』と来たか……」
梓「そろそろ続かなくなるんじゃないですか?」
紬(もし澪ちゃんが負けたら……)
─────────────
律『ルール通り、澪には私のいうことを聞いてもらうぞ!』
澪『う、うん……』
律『それじゃあ……』
澪『いやっ、そんな……』
─────────────
紬(負っけーろ! それ負っけーろ!)
澪「うーん……」
律「おいおい、でてこないのかー?」
紬(っし!)グッ
唯「澪ちゃん澪ちゃん!」
澪「?」
唯「」クイックイッ
紬(? 唯ちゃん、自分のことを指差して……)
唯「」ビシッビシッ
紬(私たちを……?)
澪「あっ」
紬「! まさかっ」
澪「『友達』!」
唯「そぉだよっ!」
紬(ああああ……)
梓(まったくこの人は余計なことを)
律「……ふぅ」
梓「『ち』ですか」
唯「ち~」
梓(……やば)
律「あと30秒ー」
梓「ちょっ、早いですよ!」
律「なかなか終わらないからなっ」
唯「あと20秒~」
梓「もうちょっと! ちょこっとだけ待って……」
梓(ちょこっと……?)
梓「あ、『チョコレート』で」
唯「なにっ!」
律「ベタだなー」
梓「答えられたらいいんです!」ふんす
律「『と』だろ……」
律(『鶏肉』……はあまり好きじゃないしな……)
唯「りっちゃん考えすぎー」
澪「律……」
梓「あと20秒です」
律「! 梓、卑怯だぞ!」
梓「19……18……17……」
律「こいつ……!」
紬(りっちゃんが負けたら……)
─────────────
律『うわぁ、負けたー』
唯『りっちゃん罰ゲームー』
律『罰ゲームって……』
梓『律先輩の言うことを聞くんでしたよね?』
律『うん。でも私が負けたしな……』
唯『どおするの?』
紬『じゃ、じゃあ代わりに澪ちゃんの言うことを聞くのはどう?』
律澪『ええっ!』
梓『いいですね、それ』
唯『じゃあ澪ちゃん! りっちゃんを好きにしていいよっ!』
澪『え……』
澪『じゃあ……』
─────────────
紬「よしっ」
唯「?」
梓「13……12……11」
律「まっ、待てって!」
澪「……」ゴクリ
唯「10秒前~」
律「おっおい、こいつら止めてくれよムギー」
紬「9876543210!」
律「はやっ!」
唯「というわけで~、りっちゃんの負けです!」
梓「いちいち言わなくても分かりますって」
紬「じゃあ罰ゲームね!」
澪「えっ、でも……」
梓「確か、負けた人は律先輩の言うことを聞くんでしたよね?」
律「うん。でも私が負けたしな……」
唯「どおするの?」
紬(き、きたっ)
紬「じゃ、じゃあ代わりに澪ちゃ 唯「私が命令するよ!」
紬「!」
律「えっ!」
澪「うん、いいんじゃないかな」
紬「えっ、ちょっ」
梓(えー……、そこは澪先輩が律先輩にー)
律「よし分かった! 唯の言うことを何でも聞いてやる!」
唯「やった~」
紬「くっ」ギリギリ
梓(ムギ先輩……)
唯「じゃあね~」
梓(諦めるのはまだ早いですよ)
唯「この4人の中の誰かとポッキーゲームー!」
律澪「!」
紬「それは……」
唯「えへへ~、面白いでしょ?」キャイキャイ
梓(無悪意っ……! その純真さゆえ生み出される悪魔的命令っ……!)
律「い、いやっ、それは……」
唯「さっき私のいうことをなんでも聞くって言ったよね?」
律「」ゾクッ
紬(唯ちゃん、ここに来てやっと良い仕事したわね)
澪「……」ジー
律「……分かった」
紬(よし……)
唯「じゃあ誰とやるの? りっちゃんの好きな人選んでねっ」
律「うっ……」
梓「さぁ! 指名してください!」
律「し、しょうがねえっ! やってやらぁ!」
澪「……」ゴクリ
律「…………み……」
紬「!」
律「……見ろ、みんな! 雨が止んだぞ!」
澪「へ?」
梓「まだ雨は……」
律「あっそうだ! 今日はちょっと用事があったんだった!」
律「じゃあな!」ダッ
紬「えっ」
バタンッ
梓「帰っ……た?」
唯「およ?」
澪「あ……れ?」
澪「え……、ちょっと」
唯「あらら」
梓「は、はは……」
紬「あー……」
澪「なぁ、ムギぃ……」
紬「あ、あはは……」
澪「うっ……」グスン
梓「…………」
紬「…………」
唯「…………」
~fin~