上条「俺達はもう子供じゃ無いけど、…まだ大人でも無いんだな」
の続き


302 : VIPに... - 2011/03/27 00:10:25.31 tckOnERDO 208/519


 Bpart Prologue



「………ッ!」


「カミやん? どないしたん急に立ち止まって」

「何かあったのかにゃー?」


上条当麻はある日の放課後、土御門元春や青髪ピアスらと共に何処に立ち寄るでもなく、ぶらぶらと街を歩いていた。

そんな中、込み入った雑踏の中にとある少女の姿が目に入った。



「…………」



しかし、その姿はすぐに人混みに紛れて見えなくなってしまった。


「…カミやん?」

「何ボーっとしてるぜよ?」


その少女の事は、よく知っていた。

ここ学園都市の頂点である七人しか居ないlevel5の第三位。

学園都市で五指に入る名門・常盤台中学校のエース。

自分を好きだと言った少女。

そして…自分が傷つけてしまった、傷つける事しか出来なかった少女。

「誰か居たん?」

「……いや、気のせいだった」

「にゃー、ならさっさと歩くぜよ、道の真ん中に突っ立ってたら邪魔になるぜよ」

「ああ、すまん」


気のせいなはずが無い。

あの日以来、初めて彼女の姿を見たが、自分が彼女を見間違うはずが無かった。

彼女は変わらず日々過ごしているだろうか? その確認だけでもしたいとは思う。

だが、上条はむやみに近づいたりしない。

それが彼女の為だ。

そして、自分の為でもある。

(……大丈夫さ、あいつなら…な)

過去に犯した過ちに、胸を締め付けられながら上条は、彼女の強さを信じた。


御坂美琴。


かつての傷の一つである少女とは、上条は既に接点を無くしていた。

もう二度と会うつもりは無かった。

あの日、あの出来事があった時にそう決めた。

あの出来事から、既に二ヶ月が経っている。

306 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 00:53:24.67 tckOnERDO 209/519


 1

「ただいま、インデックス」


「お帰りなさいとうま!」



上条が帰宅すると、部屋の中で三毛猫のスフィンクスと戯れていたインデックスがパタパタと駆け寄りながら返事を返して来た。



「今日は少しおそかったね、どこか行っていたのとうま?」



鞄を受け取りながらインデックスは上条の帰宅が少し遅かった事の理由を尋ねる。



「ん? ああすまん、土御門達とちょっとぶらぶらしてたんだ」


冷蔵庫の前まで行き、中から飲み物を取り出しながら答える上条。


「むむ、だったら連絡くらいしてほしかったかも!」


受け取った鞄を所定の場所に置いてから上条の傍に再び近づいてきたインデックスが頬を膨らましながら不満を漏らした。


「…だってインデックスさんたら電話にあんまり出てくれないんですもの」


テーブルに取り出した飲み物を置き、台所のシンクの脇にある食器の置いてある籠から二つコップを取る。

一つは元から自分用に持っていた物で、もう一つは似たデザインで色違いのをインデックス用に購入してきた物だ。



「むむむ! またばかにして! でんわくらいもうきちんと使えるもん!」


「はいはい…インデックスたんはおりこうさんですねー」


「むきぃぃぃぃぃぃ!!」


飲み物をコップに注ぐ上条の隣でブンブン手を振り回して怒るインデックス。

どうやら上条の言い草が相当気にいらないらしい。

309 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 01:17:06.02 tckOnERDO 210/519



「すまんすまん、ちょっとからかい過ぎたな」



上条はインデックスの頭を撫でながら可笑しそうに微笑む。



「…もう、とうまのばか!」



口では抗議しているインデックスも上条の手には逆らわずに素直に受け入れる。


「ほら、インデックス」



飲み物を注いだコップをインデックスに渡し、上条も自分の分に口をつける。



「…インデックス? 飲まないのか?」



コップを受け取ったままで、それをじっと見つめるインデックス。



「………インデックス?」


「ふぇ!? …なにとうま?」


「飲まないのか?」



不自然な反応をするインデックス。


上条は妙に思いながらも取り敢えずは疑問に思った事をまず口に出した。

310 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 01:46:51.07 tckOnERDO 211/519


「う、ううん? のむよ?」



そう言うと、コップの中身を一気に飲み干すインデックス。



「……うぷ…、ごちそうさまなんだよ」



「…炭酸飲料の一気飲みとか罰ゲームじゃねえんだからさぁ…、インデックスさんはなんでそんな体を張った事してるの?」



涙目になりながら口に手を当てるインデックス。


それに上条は呆れながらため息をついた。



「…つーかなんか顔色悪くないか? 大丈夫かよ」



「…ちょっと気持ち悪いかも」



上条はやれやれといった具合に肩を落とす。気持ち悪くなるならやるなよ…、と体を使って表現しているらしい。



「気分悪くなったならベットで休んでろよ、夕飯出来たら呼ぶからさ」


「…うん」



短く返事をしてインデックスはベットに向かった。少しふらついている所をみて上条は、結構無理をしてやったんだな…、とさらに呆れてうなだれる。


取り敢えず夕飯はちょっと軽いやつにしよう。と上条は同情心いっぱいで献立を考え始めた。

311 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 02:16:48.92 tckOnERDO 212/519



「…ごちそうさまなんだよ」



上条当麻は、インデックスのその言葉に凄まじい衝撃を受けた。



「なっ…、なんですって!?」



その衝撃たるや、思わず椅子から跳ね上がり、顔つきがガ〇スの仮面みたいになる程だった。



「…その反応はちょっといらっと来るかも」


「どうしたんだインデックス!? さてはあれか魔術師の攻撃か!? きっとそうに違いないおのれ魔術師ーーー!!!!」


「……とうま?」



じとーっとした目を上条に向けるインデックス。しかし上条はあさっての方向に向かって変な事を口走っているのでそれに気づかない。



「くそ!? 一体何処から攻撃してきやがった!? 何が目的なんだ!? こんな異常な現象見た事ねぇぞ!? 俺のインデックスがこんなに少食なはずがな……」



がぶり。と頭を噛まれる事で上条当麻は無事に現実世界に帰還した。

312 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 02:43:11.13 tckOnERDO 213/519



「…おかえりとうま」


「………ただいま」



本日二度目の帰還の挨拶を交わし、改めて上条はインデックスと話を始めた。



「どうしたんだよインデックス、…お前が飯残すなんてはっきり言って前代未聞だぞ」


「そこはかとなくばかにしてるね、……ちょっと気持ち悪いだけだもん」



インデックスは体調不良らしい。そういえば顔色も先程よりも悪い。



「調子悪いって…大丈夫か? まさかさっきの一気飲みが原因って事は無いだろうからな、…風邪か?」


「………多分そうかも」


「う~ん…そっか、なら食えなくても無理無いか」


「…………」



上条は心配そうな声でインデックスを気使う。それから常備していた市販の風邪薬と水を用意して、インデックスの前に置いた。


「取り敢えずこれ飲んで今日はもう寝なさい。そうすりゃ明日には治ってるだろ」


「………うん、わかった」

313 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 03:31:25.75 tckOnERDO 214/519

その後、上条は風呂に入る為に浴室に向かって行った。

インデックスは渡された薬の前に座ったままで、上条が居なくなるの待っていた。

(……今のうちかな?)

インデックスは渡された薬を持って、トイレに入る。
(…えと、…たしかくすりは飲んじゃだめなんだよ)

インデックスは、最近新しく記憶した…とある本の情報に基づいて思考を巡らせる。

(…中身を流して…ふくろはテーブルに…)

粒状の薬をトイレに流して、その袋のみテーブルの上に置いておく、コップに入った水も半分程流して置いおく。

(……これでとうまはわたしがくすりを飲んだって思うよね)


そこで、インデックスは強烈な吐き気に襲われる。

「…っ…う……!」


急いでトイレに駆け込み、便器の前でしゃがみ込み、胃の中に入っていた物を吐き出してしまった。


「ハァ…ハァ…、…ケホ…とうまがおふろ入っている時でよかったかも」


戻してしまった為か…喉に焼けるような痛みを感じる。


(……でも、…どうしよう)

痛みと吐き気で涙目になりながらインデックスは考える。

(……とうまには………いえない)

インデックスの体調不良と食欲不振、吐き気などにははっきりとした原因があった。

(とうまは……絶対よろこんでくれない)


それはいわゆる、つわりと言われる物だった。


(とうまはあの時の事すごく後悔しているもん…………言えるはずない)


インデックスは妊娠していた。


(どうすればいいの……?)


あの日、あの夜の。

上条当麻の過ちによって授かった命だった。

322 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 11:36:58.40 tckOnERDO 215/519


 2

「………はぁ」



翌日の昼過ぎ、インデックスは気晴らしのつもりで近くにある公園まで散歩に来ていた。

その日は良く晴れて、心地の良い風の吹く、清々しい天気だった。

だが、インデックスの気分は天候のように晴れやかとはいえなかった。



(……わたし一人じゃどうすればいいのか分からないかも、……でも誰に相談すればいいの?)



当然、彼…上条当麻には言えない。


彼の担任である小萌にも言えない。彼女の立場から考えれば間違い無く彼に伝わってしまう。


それ以外の、彼を経由した人達も駄目だ。


……なら、誰が居るだろうか?


「………どうしよう」

323 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 11:57:00.21 tckOnERDO 216/519



「…あの、どうかしたの?」



ベンチに座って考え事をしていた最中に声を掛けられた。


インデックスは声の方に顔を向ける。


そこに居たのは顔見知りの少女だった。



「気分でも悪いの? …なんか辛そうだけど」


「…みこと…?」



その少女は、御坂美琴。


あの日を最後に会う事の無くなった、彼…上条当麻を想うもう一人の少女だった。

326 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 12:17:52.91 tckOnERDO 217/519



「…なんでみことが?」


「…ん? 私はただ単に学校が短縮授業だったからぶらついてただけだけど……って、そうじゃなくて」



インデックスの呟きに答える美琴だが、自分の事はどうでもいいとばかりに話を続ける。



「なんか調子悪そうだから声掛けたんだけど? もしかして迷惑だった?」



美琴の問い掛けに対してインデックスは首を横に振る。迷惑だなんて思っていない……ただ、驚いてしまった。


インデックスは上条と美琴の間で何があったのかは全て聴いている。


そして、美琴も同じように彼と自分に何があったのか聴いているはずだった。


その事があり、会ってもまさか話し掛けられるとは思って無かったのだ。


「……なんか平気そうね、もしかして勘違いした私?」


「…ううん? 少し気持ち悪いのはあってるかも、…でも心配するほどじゃないんだよ」

327 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 12:42:24.53 tckOnERDO 218/519



「そっか、心配する程じゃないならそれに越した事無いよね」



美琴は軽く息をはいてから答える。


その後に、すぐ近くにあった自販機の前まで向かう美琴。



「………ちぇいさーーー!!」



小刻みステップを踏んだと思うと、次の瞬間…鋭いい蹴りを自販機に食らわした。



「………おっ、二つ出て来た! もう一発やる手間が省けたわね」


「……どろぼうなんだよ」



出て来た缶ジュースを手に戻って来た美琴に対して、インデックスは咎めるように言う。



「大丈夫よ、先にお金はたっぷり払ってあるもん」



缶を渡しながら美琴が弁明する。



「水分でも取ればちょっと落ち着くでしょ、あげるから飲んでいいわよ?」


「…ちょっとふくざつだけれども一応ありがとうなんだよ」


美琴はインデックスの隣に座りジュースを飲みはじめる。

330 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 13:01:51.07 tckOnERDO 219/519



「……ん? 飲まないの?」


インデックスが缶ジュースを持ったまま動かないので美琴はちょっと不思議に思い聞いてみる。



「あ…えと、…その」


「…………もしかして、……開けられないとか?」


「………ぅ……うん」


「…うわー、そんな奴初めて見た」



ちょっと残念な子を見る目を向けながら、美琴はインデックスから缶を取り上げプルタブを開ける。



「…はい、こんくらい出来ないと笑い者になるわよ?」


「うぐ…、なにも言い返せないかも」



改めてジュースを受け取り、中身をちびちび飲みはじめる。


美琴はその姿を見ながら気になっていた事を聞いてみた。



「ところでさ」


「………ふぇ?」


「なんで私の名前知ってたの? どこかで会った事あったっけ?」


「………え…?」



インデックスは美琴の放った言葉の意味が理解出来なかった。

332 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/27 13:59:54.14 tckOnERDO 220/519


 行間1


「…で、止めたは良いがどうするつもりだよ? 目が覚めたらまた暴れ始めンじゃねェのか?」

「……その場合は拘束するしかないな、存在の重要度から言って超電磁砲よりもあの二人の方が遥かに重要だ、…上条当麻と禁書目録を無駄な危険に晒す訳にはいかない、可哀相だが…」

「………」

「……お待ちに…なって下さいまし……!」

「…白井黒子か、気を失っていると思ったんだがな」

「…貴方は…、たしか……いえ、今はそんな事どうでもいいですの……! お姉様を…拘束とは一体何故ですの!?」

「……テメェが知らねェ裏事情ってやつだ、悪ィが教えらンねェな」

「……そんな事……!! させる訳には参りません!!」

「………自分も反対させて戴きます」

「……あン?」

「彼女は裏の世界に引きずりこんで良い人じゃない、こんな事で堕ちるなんて事はあったはならないんです」

「……ならどうする? 都合良くあの二人に関する記憶でも消すのか? そんな芸当“学習装置”でも不可能だぞ」

「……いえ、……可能かもしれないですの」

「………第五位か」

「……はい、…お姉様とはあまり交流はありませんが、…交渉次第では上手く行くと思いますの」

「………本当か?」

「……はい」

「…わかった、その方向で行け…交渉には俺も参加してやるからよォ」

「……よろしいのですか?」

「…クソガキ共がウルセェンだよ、…たくっ、何が誰も傷つかねェようにだ」

「…そうか、だがまずは奴の考えを聴いてからだ、まだはっきりしてない所があるからな」

「……はい」

「…まァ、準備はしておけ…本当にそれで良いならな」

「………………」

340 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:45:00.17 4jCK+7DDO 221/519


 3

「……みことは…わたしの事、覚えてないの?」


「……う~ん…ゴメン、多分会うのは初めてだと思う」


「…………ッ!」



自分の事を知らない。


インデックスは美琴の放った言葉を信じられないと言った具合に、言葉を詰まらせた。

342 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:47:09.57 4jCK+7DDO 222/519



「………ほんとうに覚えてないの?」



同じ事を繰り返しただけの言葉をようやく絞り出したが、美琴の態度や雰囲気はその再確認の言葉を既に必要無い物にしていた。



「……? 一体何よ、私は何かあんたと約束でもしてたの? …こっちは全く身に覚えが無いんだけど?」



インデックスの様子を怪訝に思いながらも言葉を返す美琴。



「……そうじゃないけど、………でも……っ」

343 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:48:45.86 4jCK+7DDO 223/519



「…う~~ん? あんたみたいな妙な格好の子なんて一回見たら絶対忘れない自信あるんだけどな…、…むぅ?」



…そこで、二人の会話を無理矢理中断させるように声を掛けられる。



「これはこれは、お姉様と白いちb…コホン、あの人の所の修道女さんではありませんか。とミサカは突然二人の背後から声を掛けます」


「ひゃう!?」


「に゙ゃっ!?」

344 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:50:28.82 4jCK+7DDO 224/519



突然の事だったのでかなりのショックを受ける二人。


「あ…あんた声掛けるならもう少しまともに掛けなさいよ! 後ろからいきなりとか心臓に悪いっつーの!!」


「緊急的処置が必要と判断した為による行為でしたが取り敢えず謝罪しましょう。とミサカは大して悪いと思ってないのに謝罪の言葉を口にします。すいませんでしたお姉様」


「………相変わらずあんた達と話すの疲れるわね」

345 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:51:52.35 4jCK+7DDO 225/519



肩を落としてため息をはく美琴。それから御坂妹の言葉の中の、気になった部分について聞いてみた。



「ところで緊急的処置ってなによ? まさかいきなり話し掛けるのがそうだったとか言わないわよね?」


「そのまさかです。とミサカはお姉様の予測を覆します」


「………それ何の意味があんのよ?」


「黙秘します。とミサカは口元に指でばってんを作りながら口をつぐみます」


「…………やっぱ疲れる」

346 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:53:31.28 4jCK+7DDO 226/519



そう呟いて、美琴はうなだれながら追求を諦めた。





「…ところでお姉様、この白いのは実はミサカの友人なんです。とミサカは話し掛けた本題を切り出します」


「…へ? そうなの? ……ていうかあんたって友達居たの?」


「えっ、なにその失礼な発言。とミサカはちょっと傷つきました。しまいには泣くぞ畜生」


「はいはいわかったから、…で?」


「………まあ良いです、つまりこの白いのはミサカとお姉様を間違えてしまった訳です。とミサカはいじけながら説明します」

347 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:55:06.69 4jCK+7DDO 227/519


「…ふぇ? …でも…むぐっ」


御坂妹は何か言いかけたインデックスの口を塞ぎ、そして話を合わせろといった具合に目配せをした。



「う~ん? でもその子私の名前知ってたわよ?」


「…えーっと、それはあれです。え~……ミサカがみことと名乗っていたからです。とミサカはめんどくさいので適当な言い訳をします」


「いや言い訳になってないから、てか今考えたでしょそれ」


「……???」

348 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 00:56:00.36 4jCK+7DDO 228/519



「まあそういう事なのでこの白いのはミサカに任せてください。とミサカはボロがでる前に退散します。アデュー」


「ほぇ?」


「へっ?」


そう言って、御坂妹はインデックス担いで走り去る。その場に残された美琴はただ唖然としるしか無かった。


「…なんなの一体?」

349 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 01:00:25.11 4jCK+7DDO 229/519


 4

「ただいま~っと、………あれ…インデックス?」



夕方、上条が帰宅すると…いつもなら近寄って来るインデックスが珍しく近寄って来ないので不思議に思い、首を傾げる。



「インデックス? ………………どうしたんだボーっとして?」



部屋の隅で膝を抱え、何処を見るでもなくぼんやりしているインデックスに、上条は怪訝な顔をする。

350 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 01:01:33.80 4jCK+7DDO 230/519



彼女が家の中で何もせずにごろごろしてるのは基本動作の一つだが、こんな風にボーっとしているのは見た事が無い。



「………あ…、とうまお帰りなさい」


ようやく上条に気づいたインデックス。



「ただいま、…どうかしたのか? なんか変だぞ?」


「…そうかな? べつになんでもないかも」



立ち上がりながら言うインデックス、そうは言うが明らかに元気が無い。

352 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 01:12:44.42 4jCK+7DDO 231/519


「…インデックス?」


「ねえ、とうま」



インデックスは上条に向かい合うように立ち、瞳を伏せながら問い掛ける。



「…とうまは昔の記憶が無いんでしょ?」


「…ああ、そうだけど……どうしたいきなり?」


「………もし、その記憶の中にすごく大切な思い出があって、…でも、その思い出はすごく辛い物だったとしたら……とうまはどう思う?」

353 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 01:29:47.45 4jCK+7DDO 232/519

インデックスは御坂妹から彼女、御坂美琴の事を聞いた。


彼女が上条から拒まれ、その後に何があったかを、全て。


御坂美琴は、上条に拒絶された後、暴走し破壊に走ったという事。


それを止めたのが学園都市の第一位、一方通行だと言う事。


…一方通行が美琴を止めなければ、自分と彼は危険だったという事。


そして、再度の暴走を防ぐ為に…美琴の意識から自分と彼に関する事を、全て切り離し…隔離したという事(御坂妹の説明ではそのように言っていた)。


つまり、御坂美琴は彼と自分の事を忘れさせられたという事だった。

354 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 01:42:02.87 4jCK+7DDO 233/519



それは幸せなのだろうか?


それとも、辛い事なのだろうか?


インデックスは現在からおおよそ一年と数ヶ月分の記憶…思い出しかない。


過去の自分は幸福だったのだろうか?


それとも、自分が彼…上条当麻に出会う前のような、一人ぼっちで寂しい、辛い思い出ばかりだったのだろうか?


人づてにはどのように過ごしていたか、ある程度は聴いている。


だが、自分自身がどのように考え、どのよう感情を持って過ごしたかは、…分からない。

355 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 01:51:07.51 4jCK+7DDO 234/519



ならば、同じく過去の記憶を失ってしまった彼はどう考えるのだろうか?


自分には分からない答えを見つけているかもしれない。



「………とうまは思い出が無くても平気?」


「…………思い出、か」

356 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 02:11:36.53 4jCK+7DDO 235/519



「………さあな、平気かどうかは分かんねえよ」



上条はボリボリと頭を掻きながら、なんでもないように答えた。


「分かるはずねぇじゃん、だって辛いかどうかさえ覚えてねえんだろ?」


「…………」


「まあでも…、無いよりはあった方が良いと思うぞ?」


「………それは…なんで?」



上条は不安げな表情のインデックスに、当たり前の事を言うように、はっきりとした声で言った。



「大切なんだろ? その思い出は」


「…………ッ」

357 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 02:35:13.58 4jCK+7DDO 236/519



「失ってからじゃ分かんねえけど、失う前なら簡単な問題だな、大切なら絶対に失いたくないって思うはずだろ? どんなに辛い思い出でもな」


「…………」


「まああれだ、ぶっちゃけ上条さんにする質問じゃ無いですよインデックス? 記憶がぶっ飛んだら平気もクソも無いってのは確認済みだしな」


「………そっか…うん」



インデックスは何やら納得出来たようだった。上条の顔に真っ直ぐ瞳を向け、にっこりと微笑む。



「…ところで、なんでそんな事聴いて来たんでせう?」


「ないしょかも……ん…」


「…へ? イン…ん…っ!?」



インデックスはほうけた顔をした彼、上条当麻の唇に自らの唇を重ねた。

358 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 02:46:56.56 4jCK+7DDO 237/519





その翌日の朝、上条はテーブルの上にあったメモを見つけた。




そこにはこう書いてあった。



『 とうまへ  みことにあってあげて? それでたいせつなものをとりもどしてあげて?』




『 いままでありがとう   さよなら index 』



部屋の中には、上条当麻一人だけしかいなかった。

369 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 18:28:56.61 4jCK+7DDO 238/519


 行間(touma)

上条は走る。


「はぁ…っ…はぁ…っ!」


走り出してから既に、かなり経っている。


(……なんで…!)


もう体力の限界などとっくに過ぎた。


(なんでだよ……!?)


身体から悲鳴を上げるような痛みが込み上げてくる。


(…ずっと…笑ってたじゃねえか!! ちゃんとやり直せてたじゃねえか!!)


それを無視して、無理矢理脚を動かし続ける。


(そう思ってたのは………俺だけなのかよ!?)


大切なモノを失いたくない一心で…。


(…教えてくれよ……!!)


ひたすらに走った。


「…インデックス!!」

370 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 18:41:46.81 4jCK+7DDO 239/519





「……お待たせしました」


「……うん」



学園都市の第23学区。


そこにある空港の一角に、インデックスは居た。


彼女と話しているのは、神裂火織。


インデックスが昨晩、迎えに来て貰えるように頼んだ為、彼女はここに居た。離れた所にはステイルの姿もある。


二人共、彼女の理解者だ。



「…ありがとうかおり、いきなりだったのに来て貰って」

372 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 18:55:07.50 4jCK+7DDO 240/519



「それは構いませんよ、……只、事情だけは聞かせて貰えませんか?」


「…………それは……」


「……場所を変えましょうか、人の多い所では話しづらいようですし」


神裂の提案に頷くインデックス。
その表情は暗く沈んでおり、普段のような明るい雰囲気は全く無かった。

373 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 19:07:36.88 4jCK+7DDO 241/519



「……神裂」



ステイルが、二人から少し離れた所から声を掛ける。



「僕はここに残ってるよ、…ここに来る奴が居るだろうからね」


「……分かりました。では後で連絡します」


「……ああ頼むよ、…それと彼女の話が僕も知って良い事なら、…その時教えてくれ」


「…………」


「……はい」



それから、インデックスと神裂は空港を離れる為に歩き出す。

374 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 19:15:07.51 4jCK+7DDO 242/519



「………すている」


「……なんだい?」



去り際、インデックスはステイルにこう告げた。



「とうまに何もしないでね? ……わたしはへいきだから、…だから」


「………ッ」



とうまを傷つけないでね?



それだけ告げると、インデックスは神裂の進む方へと歩き出した。

375 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 19:17:14.97 4jCK+7DDO 243/519



「………やれやれだな」


ステイルは禁煙のロビーで、周りの事も憚らずに煙草に火を付ける。



「……まったく、なんて事を言うんだろうね…」



煙草の煙をゆっくりとした動作で吐き出し、それと共に…自身の想う心も口に出す。



「そんな事を言われて、…君にそんな事を言わせる奴を僕がただで済ますはずが無いだろう……!!」




「…約束を破ったな? ……上条当麻!!」

376 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 19:29:34.18 4jCK+7DDO 244/519


 6


「………話はこれでぜんぶかも」


インデックスと神裂は空港を出て、すぐ近くのファミレスに来ていた。



「…………………………………………………………」


「……かおり?」



インデックスの方を凝視したまま固まってしまっている神裂。


インデックスが声を掛けると、今度は肩がプルプルと震えだし、…次の瞬間。



「…あ…んの糞ド素人がああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!? なんて事しでかしてんだああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」



周りの迷惑も考えずに突如として叫びだした。

377 : VIPに... - 2011/03/29 19:51:19.02 4jCK+7DDO 245/519



「か…かおり!? 落ち着くんだよ!!」



わたわたと慌てながら神裂を落ち着かせようとするインデックス。通常とは逆のパターンなので珍しい光景である。



「フー…フー…、…ふぅ、すいません少し取り乱しました」



「すこしではなかったかも」


一応落ち着いた神裂だが、まだ怒りは収まってないらしい。叫んだ為に喉が渇いたのだろう、彼女は自分の頼んだ飲み物を手にする。…その手に持ったグラスにひび割れが出来いた。



「……あんまりとうまを責めないでほしいかも」


「……しかし!」



インデックスは神裂の怒りを咎める。


自分の為に怒ってくれていいるのは素直に嬉しいと思う。


だが、これは彼だけが悪い訳では無い。


少なくとも、インデックス自身はそう考えていた。

379 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 20:08:47.74 4jCK+7DDO 246/519



「……貴女はそれで良いのですか?」


「…うん、わたしもうとうまの事は赦してる」


「………そうですか」


神裂は納得はしていないようではあるが、ようやく怒りを静めた。


「……事情は分かりました。…ですが」


「………?」



神裂は、…恐らく間違いないと確信を持って口を開いた。



「貴女は本当にイギリスに
戻るつもりなのですか?」


「……ぇ…」


「いえ…違いますね、貴女は本当は何処に居たいのですか?」


「…………ッ」



その言葉は、インデックスの心を深く抉った。

380 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 20:41:24.92 4jCK+7DDO 247/519

「貴女は…あの少年の事を赦したと言いました。……なら、何故イギリスに戻る必要があるのです?」


「それは!! …っ…みことの為に…!!」


そこまで言って、インデックスは俯く。

唇を噛み締め、瞳に涙を浮かべながら。

何かに必死に堪えるように。


「………」


「……わたしがいなければ…きっととうまは……みことの事を助けるはずなんだよ……、だって……思い出が無くってしまう事は……とうまが一番辛いって知ってるはずだから……!!」


「………」


「みことだけじゃない…!! わたしも………とうまだって…、みことに忘れられてしまうのはすごく嫌だもん!! ……かおりだって……すているも!! わたしの思い出をころす事はすごく辛かったんでしょ!?」


「……っ…」


「だから……わたしは!!」



そこで、インデックスは頬に感じる痛みの為に言葉を止める。



「…ぁぅ……っ…!」


「…もう辞めなさい…!」



神裂は彼女の言葉を止める為に、その頬を叩いた。

381 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 20:59:31.15 4jCK+7DDO 248/519



「私が聞きたいのはそんな事ではありません…!!」


神裂は悲しげに顔を歪めながら、諭すようにインデックスに言葉を投げる。


「私が聞きたいのは!! 貴女がどうしたいかです!! ……そんな自分の幸福を投げ棄てるような言葉じゃない!!」


「……でも…っ」


「貴女はそれで良いのですか!? それで貴女は幸福になれるのですか!? 貴女は…彼が傍に居なくても辛くないのですか!?」



「………っ…う…」



神裂は、目の前に居る大切な友人を責める。


彼女の…その隠された本心を引き出す為に。

382 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 21:15:16.72 4jCK+7DDO 249/519


「…辛い思いをしてまで…自分の幸福を棄ててまで貴女が犠牲になる必要が何処にあるんです?」


「…う…っ…ひっ…ぅ…」



神裂の言葉を聴いて、泣き出してしまうインデックス。



神裂はもう一度、彼女に問い掛けた。



「もう一度聞きます。…貴女は本当にそれで良いのですか? 彼から離れて…貴女は幸福になれるのですか?」



「………わたし…は…」



インデックスはその問い掛けに答え始める。



「…とうまと……いっしょに…」



本当の、自分自身の想いをさらけ出す。



「ずっと…ぅ…くっ…、居たいよ……! ひっ…く…」



泣きながら。


押し殺そうと決めていた想いを…。



「…とうまが…いなきゃ……ふ…ぇ…、やだ…ょ…!」

383 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 21:44:19.26 4jCK+7DDO 250/519


 7


「………そうか、わかったよ。…じゃあ切るよ?」



ステイルが神裂からの連絡を終えるのと、彼が空港に留まった目的の少年を見つけたのはほとんど同時だった。



「……やっと来たか」


「…ステイル」


上条当麻。


ステイルは、この男に用がある為にインデックス達について行かなかった。


「取り敢えず聞こうか、何しに此処へ来た?」



上条は肩で息をしながらも、振り絞るように声を上げる。



「インデックスは何処だ……!!」


「…質問してるのは僕だ、……何しに此処に来た」



上条の表情が険しくなる。こういった問答をしている間すら惜しいといった、…まるで余裕の無い顔つきだ。



「……迎えに来た、…インデックスはイギリスに行かせない……!!」


「行かせない…か、おかしな事を言うね、彼女は元々イギリスが故郷だよ?」


「…いいからインデックスの居る場所を教えろよ!!」



上条は今にも飛び掛かりそうな勢いでステイルに噛み付いた。

386 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 21:59:24.85 4jCK+7DDO 251/519

「…ふん、ついて来い」


「…………」



ステイルがどこかに向かって歩き出したので、上条はその後ろについて行く。



……しばらく歩き、ステイルが立ち止まった場所は空港の外、その近くにある何かを建設中らしい作業現場だった。



「…さて、事前に人払いのルーンを貼ってあるからね、多少の事なら騒ぎにはならないだろう」


「……てめぇ、インデックスが居る所に行くんじゃねえのかよ?」



上条の言葉にステイルはつまらなさそうに答えた。



「誰が案内するなんて言った? 僕はただついて来いと言っただけだぞ」


「………てめぇ…!」

390 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 22:21:53.37 4jCK+7DDO 252/519



「…上条当麻」


「………」



ステイルを睨みつける上条。


その表情は獣のように険しい。



「…君がそんな顔をするなんて知らなかったよ。…今まで戦って来た奴らにもそんな顔を向けた事無いんじゃないか?」


「……いいからインデックスの居場所を教えろ!! てめぇは知ってんだろ!!」


「知ってるさ、僕らを呼んだのは彼女だからね。………だが」



言葉を一旦切るステイル。


…そして、上条に負けぬ程に険しい顔になって先を続けた。



「…逢わせると思うのかよ糞野郎」



その言葉と共に、ステイルの両手から炎が迸る。

391 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 22:40:51.29 4jCK+7DDO 253/519




両手に炎剣を振りかざし、ステイルは上条に飛び掛かる。



「……そう…かよ…!」



上条は右手を強く握り締め、同じくステイルに飛び掛かって行った。



「だったら…!! 殴り倒してでも聞き出すぞステイル!!」



二人共真正面からぶつかり合う。


上条はステイルの左手の炎剣に右手を突き出す。瞬間、炎剣は何か砕けるような音と共に消え失せる。



「僕は君に言ったはずだ!! “あの子の笑顔を死んでも守れ”と!!」


「…………ッ!」

392 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 22:57:44.19 4jCK+7DDO 254/519



炎剣の消えた左手で上条の右腕を掴む。


直ぐさま右手の炎剣を横に振るうが、上条は前に転がり込むように避わし、さらにステイルに体当たりするように身体をぶつけた。



「…ぐっ!! …だが君はあの子に何をした!? 君自身が守ると決めたあの子に何をした!? 言ってみろよ上条当麻!!」



バランスを崩された拍子に掴んでいた腕を外される。だが、懐に入ってきた上条の腹に、膝蹴りを入れて相手の動きを鈍らせた。



「が…っ…!? …く…そ…!」

393 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 23:17:20.22 4jCK+7DDO 255/519



「なんであの子を傷つけた!? なんであの子に涙を流させた!! ………なんであの子を汚すような真似をした!!」



炎剣を振り下ろして上条の身体を狙う。
それに対して上条は前転の要領で転がるように避ける。



「……っ……!」



ステイルは上条が離れた隙に、左手に炎剣を再び燃え上がらせる。



「答えろよ上条当麻!! お前はあの子を傷つけてまで共に居る事が赦されると思うのかを!! あの子が赦したからそれでお前の罪が消えたのかどうかを!!」


「…………っ…!!」

396 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 23:38:07.62 4jCK+7DDO 256/519



両手の炎剣を合わせ、一本の巨大な炎剣を生み出す。

それを突き刺すような体勢で、上条目掛けて身体ごと突進する。



「少なくとも僕は赦さない!! ほかの誰が赦しても、例え神が赦しても!! …僕だけはお前を絶対に赦さない!!」


「…ステイル…!!」


炎剣を携え突撃してきたステイルに、上条は右手を前に突き出してそれに備える。


次の瞬間、ステイルの炎剣と上条の右手がぶつかり合い、ステイルの炎剣は跡形も無く消え去った。



「……あの子に子供が出来た事に君は気づいているか!?」


「……な……」


ステイルの言葉に絶句する上条。


ステイルはそんな上条の顔面を全力で殴り飛ばした。


「あ…ぐ……っ…!?」


「…わかったかよ? ……君の罪は大きいんだ、……君が思っているより…ずっと!」

397 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/29 23:56:08.92 4jCK+7DDO 257/519

ステイルは殴られた反動で倒れ込んだ上条の胸倉を掴み、無理矢理に立させる。


「…もう一度聞くぞ上条当麻。お前は此処に何をしに来た?」


「………ぁ……」



呆けた反応をする上条を、ステイルはもう一度殴り飛ばす。


地面に転がるように倒れる上条。



「何度でも聞くぞ、…何をしに来た? あの子に逢ってそれからどうする?」


「…子…供…? …俺…の?」



また殴りつける。



「お前以外に誰が居る? 見苦しいからそんな確認なんかしないでくれ」


「…ぁ…、な…?」

398 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 00:23:26.14 k6ZZnnGDO 258/519

「…良かったな糞野郎」


「………」



ステイルは殺意を剥き出しにしながら言葉を続ける。


上条に掴み掛かり、何度も殴りながら。


「僕は今すぐにでも君を消し炭にしたい。…でもそれをやると…あの子は悲しむんだよ…」


「イ…ンデッ…がふっ!?」


「僕の前であの子を呼ぶな、それだけであの子が汚れる」



上条の囁きを拳で無理矢理中断させるステイル。殴り続ける彼の手も既に皮膚が擦り切れ、上条の血と彼自身の血によって、酷く汚れてしまっていた。



「だから僕は君を殺さない。あの子の瞳からは涙を流させない、それは僕だけは絶対に守るんだ……例え君に汚されて、それでも君しか見えていない愚かな娘でも…だ」


「………ぅ…ぐ…」



ステイルは上条を投げ棄てるように解放する。



「…失望したよ上条当麻、君が約束を破るなんて正直思っても無かった」


その言葉を最後にステイルはその場を後にした。



「……お…れ……は…」



残された上条は、しばらく倒れたまま動けなかった。

408 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:23:09.23 k6ZZnnGDO 259/519


 行間(14&18)

「…気は済みましたかステイル」


「……神裂」



作業現場を出てすぐの所で、ステイルは神裂に呼び掛けられた。


「…あの子は?」


「近くの店で待たせています。…貴方も今は彼女が居ない方が都合が良いでしょう?」



ステイルは煙草を懐から取り出して、それに火を付ける。



「まあ…ね、正直今僕がしているだろう顔も…あそこで転がっている奴の情けない顔も、あの子には見せたくないからね」


「……話したのですね?」



神裂の表情も曇る。

409 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:24:22.56 k6ZZnnGDO 260/519



「ああ、言ってやったよ。僕のような第三者が告げていい事じゃないだろうけど……敢えて告げさせて貰った」


「…それで良いと思います。もし貴方が言わなかったら私が彼に告げていましたから」



ステイルは煙草を根本近くまで吸い切ってから無造作に投げ捨てる。その吸い殻は地面に届く前に燃え上がり、灰になって辺りに霧散した。



「…彼はこの後どうするのでしょうか?」


「さあね、それは奴にしか分からないよ。…僕もこれ以上何か言う気も無いしね」



二本目の煙草を口元で揺らしながらステイルは歩き出す。



「取り敢えずあの子の所へ行こうか、折角休暇まで取って来たんだ、あの子に観光でも付き合って貰うとしよう」


「……ステイル」


「僕らが遊んでいる間に…あの馬鹿はやるべき事を見つけるだろうさ」

410 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:27:01.19 k6ZZnnGDO 261/519


 8

夕方、上条当麻は第七学区…そこにある、彼が普段からよく立ち寄る公園まで来ていた。



「………」



彼自身、何故ここに居るのかよく分かっていない。


ステイルとの一件の後、呆然としたまま歩きつづけ、気がついたらこの公園のベンチに座っていた。

411 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:28:26.45 k6ZZnnGDO 262/519



「……インデックス」



インデックスに子供が出来た。


ステイルははっきりとそう告げた。



「…俺…の…」



間違い無く、あの日に宿った命だ。


彼はあの日以来、彼女を抱いていない。


インデックスに、あの日の過ちを…傷つけた事実を思い起こさせるのが嫌だった為に。


…否、自身の過ちを思い出したくなかったからかもしれない。

412 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:29:46.72 k6ZZnnGDO 263/519



「………どうすりゃいいんだよ……」



彼女が自分に言わなかった理由はすぐに予測出来た。


多分、恐かったのだろう。


当たり前だ、…彼女の立場、性格…それに自分の立場や状況を考えれば、言い出せなくても無理は無い。


それ以上に、今…自分がしているであろう表情を見たくなかったのだろう。


きっと彼女は、自分にこう望んでいるはずだ。


二人の間に命が宿った事を、喜んで欲しい。…と。

413 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:30:50.01 k6ZZnnGDO 264/519



「………喜べって…、………ははっ…無理だっつの」


正直な所、彼の意見はそれだった。


喜びたくても…無理だった。



「俺……学生だぞ? …責任なんて……まだ取れねぇよ……」



上条はありふれた言い訳を口に出す。


自分の、本当に思い起こした理由を隠すように。

414 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:31:59.11 k6ZZnnGDO 265/519



(インデックスは……産むだろうな、…俺が何言っても)



自分はインデックスに、恐らくこう告げるはずだ。


堕ろせ、と。


それ以外に、上条は思いつかない。


産ませてやりたくとも、上条にはそれを支持する事は出来ない。


…だが、それを告げる勇気も無い。



(……どうすりゃ良いんだよ)

415 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:32:47.91 k6ZZnnGDO 266/519



そこで、上条の前を通り過ぎていく少女が居た。



「………ちぇいさーーー!!」


その少女は自販機に鋭い蹴りを入れて、中から缶ジュースを吐き出させる。



「…っ…御…坂!?」



その少女は御坂美琴。


あの日以来、二度と会わないと決めていた少女が目の前に居た。

416 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 15:45:33.82 k6ZZnnGDO 267/519



「………ん?」


「………ッ」



美琴が上条の声に反応し振り向いた。


上条は咄嗟に呼んでしまったが、その事をすぐに後悔した。



(……話し掛けてどうすんだよ……くそ…っ)


「…何か用?」



美琴はなんでもないような口ぶりで聞き返して来る。


「……いや…っ…」



上条は口ごもる。今、彼女に掛けるような言葉は何も持っていない。


黙ったまま眼を逸らす上条に、美琴が取った行動はこうだった。



「…ちぇいさーーー!!」



もう一度自販機に蹴りを入れる事だ。

417 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 16:01:49.30 k6ZZnnGDO 268/519



美琴の行動に理解が及ばない上条は、ただ目を点にして美琴の方を見る。



「……はい!」


「………へ?」



差し出された缶ジュースを見ながら上条はますます理解が追いつかなくなる。



「良いから受け取りなさいよ、口止め料よ口止め料!」


「………はぁ?」


「一応マナーが悪い事だと思うしね、学校にチクられても嫌だし、これあげるから黙っててくんない?」



上条は「んな事気にするなら初めからやんなよ…」と思いつつも缶ジュースを素直に受け取った。

418 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 16:17:23.95 k6ZZnnGDO 269/519

「ちょっと隣座らせてくんない?」


「…あ…ああ」



美琴の言葉に上条はベンチにスペースを開ける。


美琴はそこに座りながら缶ジュースを空け、上条を気にする様子もなく飲み始める。



「…………」



上条は訝しむ。


何故、目の前の少女はこんな自然な態度を取れるのか?



(……あれか? 私過去は振り返らない主義なの! …って感じなんですかね?)



上条はテレビなんかでよく聞くフレーズを思い浮かべる…が、どうも違う気がする。


取り敢えず、上条は声を掛ける事にした。

420 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 16:34:18.91 k6ZZnnGDO 270/519

「…その、久しぶりだな……御坂」


「………ん?」



上条の言葉で美琴が振り向く。



「……えーと、…元気だったか?」


「……ちょっと待った!」



美琴は上条の話を遮り、待ったをかける。



「…もしかして勘違いしてない?」


「……え?」


「昨日の子もそうだけど……私とそっくりだけどゴーグル掛けた子が居るんだけど、そっちと間違ってない?」


「…御坂妹の事か? たしかに瓜二つだけど、…お前は御坂美琴だろ?」


「…間違いじゃないの? ていうかあの子の事までなんか知ってるっぽい……」



美琴はベンチから立ち上がり後ずさるように上条から距離を取る。



「………御坂?」


「……………………もしかして、…ストーカー?」



上条は流石にその言い草には絶句した。

422 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 16:54:28.41 k6ZZnnGDO 271/519

「…………………………………えーと、冗談だよな?」



美琴がじりじりと距離を開けて行くので、上条も取り敢えず立ち上がって近づいて行く。



「…ちょ…! こっちくんな!!」



バチバチと電撃を出して威嚇する美琴。上条はどうにも美琴の自分に対する態度に違和感を覚える。



「……どうしたんだ御坂? …お前なんか変だぞ?」


「うっさいわね! 大体あんた何処の誰よ!? 私はあんたなんか知らないわよ!?」


「……なっ……!?」



自分を知らない?


御坂美琴が?



「……どういう事だ?」



上条はつかみ掛かるように美琴に一気に近づく。



「……!? …近づくなっつってんのよ!!」



触れられる前に美琴から電撃が放たれる。…それを右手で打ち消しながら、上条は美琴の腕を掴んだ。

423 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 17:05:38.54 k6ZZnnGDO 272/519



「…この…っ…離せばか!!」


腕を捕まれ、じたばたと抵抗する美琴。



「つかなんなのよあんたは!? なんで能力が!?」


「……御坂! 一体どうしたんだよ!? 俺が誰だか分かんねえのか!?」


「…しつこいわね! 知らないって言ってんでしょ!?」



なんとか逃れようとする美琴、それを上条は力任せに引き止める。



(一体なんなんだよ!? 御坂はどうしちまったんだ!?)

425 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 17:12:40.30 k6ZZnnGDO 273/519




「…ふぁ…っ…!?」


その時、美琴がバランスを崩し、倒れそうになる。



「………っ……!」



上条は、咄嗟に美琴が転ばないように支えるように美琴の身体に触れた。



左手は腰の辺りに。



右手は、彼女の頭に。



バキンッ



瞬間、何かを砕く音が辺りに響いた。

428 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 18:02:13.90 k6ZZnnGDO 274/519



「………!?」



上条は自分の右手、“幻想殺し”が発動した事を感じ取った。



「……………」



美琴は真っ直ぐに上条を見つめている。その顔には少しだけ驚きが混ざっているように見える。



(………何を…壊したんだ……?)

429 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 18:06:44.08 k6ZZnnGDO 275/519



上条は知らなかった。


御坂美琴の記憶の一部にブロックが掛かっていた事を。


その記憶は、自分とインデックスに関する記憶である事を。


そして、そのブロックは他者の異能による物だという事を。


上条当麻は、知らずにその幻想を殺してしまった。

430 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 18:12:20.17 k6ZZnnGDO 276/519



「………放して、平気だから」



上条は美琴の一言で意識を外に向けた。



「…あ…ああ、すまない」



ちゃんと立たせるような体勢にしてから美琴から手を離し、向かい合う。



「……御坂…さっきのは」


「…ん、気にする事ないわよ」


「…………」



上条は美琴の態度が急変した事に気づく。先程までの邪険な態度がまるで無い。

431 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 18:20:26.51 k6ZZnnGDO 277/519




「……お前、どうしたんだ? やっぱり俺が分からないのか?」


上条の問い掛けに美琴はなんでもなさそうに、少しだけ妖しく微笑んで告げた。


「…さっきのは冗談よ、只単に当麻と会ったのが久しぶりだったからちょっとからかってやろうと思って」


「………そう…なのか?」


「そうよ? もしかして本気にしたの?」


「……いや…ならいいんだ」


美琴の可笑しそうにする口ぶりに、上条は取り敢えずは納得した。

432 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 18:38:28.54 k6ZZnnGDO 278/519



「ところで、…当麻はまた何か悩みでもあったの?」



美琴の突然の問い掛けに上条は言葉を詰まらせる。



「…なんでもねえよ、気にするな」



「……ふ~ん? …そお?」



上条は言葉を濁して追求を避わす。


「ほんとに何でもねえよ、…心配ないからさ」


「じゃあその傷だらけの顔は何? 只の喧嘩ならそんなになるまでやらないでしょ当麻は?」


「……う…」



的確な突っ込みばかりする美琴に上条は口ごもるしかない。

433 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 18:50:21.86 k6ZZnnGDO 279/519



「…まあ良いわ、言いたくないみたいだし」


「………」



ようやく追求を辞めた美琴に、上条は少しだけ安堵する。



「あの時はあっさり喋ったのになぁ…、ちょっと悔しいかも?」


「………ッ!」



上条を横目に見ながら呟いた一言が再度、上条の胸を締め付けた。



「……御坂…」


「ゴメンゴメン♪、ちょっと意地悪だったよね」



そう言う彼女はただ笑顔だった。

434 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 19:03:07.85 k6ZZnnGDO 280/519



「…じゃあ私帰るね?」


「…ああ」



そう告げて美琴は歩き出す。



「………あ、そうだ」



少し離れた所から、美琴は上条に向き直る。



「これからはちょっとくらい会ってよね? 流石に二度と会わないとか馬鹿みたいだもん」


「……いいのか?」



美琴は上条の返事に対して、指先を向けて銃を撃つような仕草で返す。



「…当麻が居ないとストレス溜まる一方なのよ、だからたまには発散させてよね!!」



それだけ言って、美琴は駆け出した。



「……なんか、心配する程でもなかった…のか?」



残された上条は見えなくなるまで美琴の背中を見つめていた。

435 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/03/30 19:23:34.73 k6ZZnnGDO 281/519


 行間(mikoto2)


思い出した。


…思い出した!


彼…当麻の事を…!


やっぱりだ…。


当麻は私を助けてくれる。


邪魔した奴らの企みから私の思い出を取り返してくれた……!


当麻の事を忘れてたなんて…、例え心理掌握の能力とはいえ…自分自身が許せない。


でも…それはもう良い。


だって、当麻が思い出させてくれたもん。


だからそれは良い。


記憶は戻った……後は当麻を私の当麻にするんだ。


でも……今すぐ当麻の所に行っても駄目。


焦っては駄目だ。



無理矢理に押し通して…、またあの一方通行が出て来たらまずい。


だから慎重に動く。


周りには、…当麻以外には、私はまだ当麻の事を忘れている事にしよう。


そうすれば…目眩ましになるはずだ。


ゆっくり、確実に当麻を手に入れよう。


大丈夫だ、きっと上手く行く。


私は、学園都市に七人しか居ないlevel5の第三位。



御坂美琴なんだから。

461 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 18:41:06.80 +ibZkYUDO 282/519


 9

「…ただいま」


美琴と別れを告げた後、上条当麻は自身の部屋へと帰って来た。


彼は帰宅を告げる声を出すが、…当然返事は返って来ない。



「…インデックス」



彼女の名前を呟く。


今朝、彼女は何も言わずに…たった一枚のメモを残しただけでこの部屋から出て行ってしまった。


上条からすれば、あまりにも突然過ぎる別れだ。


当然追いかけた。


彼女の行く先は間違い無くイギリスだ。


なら、空港まで行けば必ず逢える。…必ず引き止められると思っていた。


だが、実際には逢う事すら出来なかった。


…代わりに分かった事は、彼女が妊娠したという事。


上条はインデックスに逢う事を躊躇ってしまった。


…どんな顔をして逢えば良いのか分からなかった。

462 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 18:58:37.69 +ibZkYUDO 283/519



上条は夕日に照らされる部屋の中で、ただ呆然と立ち尽くす。


その心にあるモノは、後悔。


そして、自分自身への落胆だった。


「…インデックス…!!」


彼一人しか居ない部屋の中は、ただ寂しく。…嫌な程静かだった。


彼女の名前を呼ぼうとも、その言葉に返って来る声など無い。


自分自身で、あの日から取り繕ったモノが幻想だったと知ってしまった少年は、ただ立ち尽くすしか出来なかった。


自ら幻想を殺し、それに隠されていた現実は、彼には荷が重い事実だった。


上条当麻は再び現実から逃げ出した。


その事が、彼の胸に深く突き刺っていた。

463 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 19:16:50.24 +ibZkYUDO 284/519


 10

「……っ……?」


インデックスは、誰かに呼ばれたような気がして、窓の外へと顔を振り向かせた。


だが、彼女の居る場所は地上から十数メートル放れた所だ。


そんな高い所の窓の外に人など居るはずもなく、彼女も気のせいだとすぐに思い、顔を前に向け直した。



「どうかしたのですか?」



そんな彼女に声を掛けるのは、今日自分をイギリスに連れて行って貰おうと頼み、この学園都市まで迎えに来て貰った神裂火織だ。



「…ううん、なんでもないかも」



彼女とインデックスは今、神裂とステイルが学園都市に数日滞在する為に宿を取った、そのホテルの一室に居た。


先程までステイルも同じ部屋に居たのだが、何やら用があると言い、外出していた。

464 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 19:37:39.59 +ibZkYUDO 285/519


「……とうま、どうしているかな?」



インデックスは…ふと彼の事を呟いた。



「…………」



その呟きに、神裂は何も言えない。



(……やはり、彼が居ないと救われませんか)



インデックスの想いの強さは、そういう事柄が苦手な神裂でも分かる程に強かった。


どれだけ傷ついても。


どれだけ辛い想いをしても。


彼女の想いは揺るがない。


(想いが強ければ…それだけ辛く、苦しくなる…ですか)


目の前の少女は…もうあの少年にしか幸福にする事が出来ないのだろう。


それが同時に彼女を傷つける事だとしても…。



(……少し、羨ましいですね)



そんな事を思いながら、神裂は少しだけ頬を緩めた。

465 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 19:58:37.87 +ibZkYUDO 286/519

「…彼に逢いたいですか?」



神裂はインデックスに問い掛ける。


答えなど聞かなくても分かるような問いだが、敢えて聞いた。



「………うん……でも…」



言い淀むインデックス。


何かを逡巡するように、その瞳は辺りをさ迷っている。



「……恐い、…ですか?」


「………うん」



その答えも神裂は予想していた。



「……とうまが…この子をどう思ったのか、……知るのが恐い…」


「……………」


当たり前だと、神裂は思う。


恐くないはずが無い。


はっきり言ってしまえば、彼女が宿した命は…望まれて宿った命では無いのだから。


それを考えれば、当たり前の事だ。


もし彼女の立場に自分が立ったとしても、自分だって同じような心境になると思う(…上手く想像は出来ないが)。


それに、彼女自身だってまだ幼いのだ。


これで不安や恐怖を感じるなという方が無理な話だろう。

466 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 20:24:07.22 +ibZkYUDO 287/519

「…大丈夫です。…彼ならきっと」



神裂は、目の前の少女に告げた。



「彼は、…貴女だけはもう傷つけたりしないですよ」



確信がある訳では無い。…ただそうであってほしいといった、神裂自身の願望でしかない。



「だから、恐がらなくても大丈夫です…きっと」



ただの慰めでも何でも良い。



「…だから、信じてあげなさい。…貴女自身が彼を」



彼女を笑顔にする為に。



「…ほんの少し待てば、彼は必ず貴女の所に来ますから」


「…………うん」



神裂はただ、彼女をいたわるように言葉を出す。


少しでも幸福になれるように、ただ言葉を紡ぐ。



「……ありがと、かおり」



今はこの位の事しか神裂には出来ない。

470 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 21:28:24.12 +ibZkYUDO 288/519


 11

「ただいま戻りましたのお姉様!」



白井黒子は、常盤台中学女子寮の自室に帰宅すると、いつもと同様にルームメイトたる愛しのお姉様、御坂美琴に帰宅の挨拶をした。


「…って、あら…お姉様?」



いつもならばおかえりの一言があるはずなのだが今日はそれが無い。


そのお姉様、御坂美琴は自分のベットに潜り込んでいた。…どうやら寝ているらしい。



(……お昼寝ですの? 珍しいですわね…?)

471 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 21:39:17.20 +ibZkYUDO 289/519



若干劣情に駆られつつも起こしては悪いと思い、物音を立てないように行動する。


机に鞄を置き、それから自分のベットに座り込む。



(……寝顔くらい鑑賞させて戴いてもばちは当たらないですわよね、…うぇっへっへっへ………!)



かなりアブない顔つきで寝ている美琴を見つめる白井。ぶっちゃけこの程度の行為で済ましている方が珍しかったりする。


………マ。


「……………へ…?」



美琴が寝言で何か呟いているのに気がついた白井は、妙に気になったので顔を近づけて耳を澄ませる。

472 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 21:57:36.92 +ibZkYUDO 290/519



(…ん~、何とおっしゃってますの?)



…ト……マ…。



「っひ!?!?」



白井はそれを聞いた瞬間、短く悲鳴を上げ、さらにバランスを崩して床に倒れてしまう。



「…………ん…」



物音に気づいて美琴が目を覚ます。ゆっくりと身体を起こし、口に手を当てて小さく欠伸をした後に、床に倒れている白井に目を向けた。



「…ん…、黒子帰ってきてたんだ……ていうか何してんのあんた?」

474 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/01 22:16:19.82 +ibZkYUDO 291/519

「…っ、いえっなんでもございませんの!」



そう取り繕いつつ慌てて立ち上がる白井。



「おっ…お姉様こそこんな時間にお休みになられてるなんて珍しいですわね!」


「そうだっけ? …まあ今日はちょっとはしゃぎ過ぎて疲れちゃったからね、横になってたらいつの間にか寝ちゃったのよね」



「そ…そうでしたの」



白井は胸の動悸を鎮めようとしながらも会話を続ける。


そして、ある程度落ち着きを取り戻してから質問した。

478 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 07:39:22.91 Fm1m3TsDO 292/519

「…大分幸せそうな寝顔でしたけれどもどんな夢を見ていたんですの?」



「…夢? ん~…、そうね…」


ごくり…、と白井は喉を鳴らした。


「…良い夢だったかな? うん、たぶんそうだわ」

「………」

そう語る美琴の表情は明るかった。


(……気のせい……ですわよね?)



白井は、自身の聴いた美琴の声を幻聴だと思う事にする。


だって、彼女は忘れているはずなのだ。

あの少年と白い少女の事を。


心理掌握が施した能力の、記憶を閉ざす壁はそう簡単に無くなる代物では無い。


もし、それが無くなっていたとしたらお姉様はこんなに穏やかな表情など出来るはずがない。


「…そうですの、それは良かったですわね」



あの記憶が蘇っているならば、お姉様はきっと辛い想いをしているはずなのだ。お姉様の夢、そこで放たれた…あの少年の名前は自分の聞き間違いのはずだ。


今のお姉様、御坂美琴は“当麻”という言葉は知らないのだから。

479 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 07:57:11.06 Fm1m3TsDO 293/519

(……その方が良いに決まってますの)



確かにその、自分達の取った行動は誉められる物では無いだろう。


だが、彼女を守るにはそれしかないと思った。


例え大切でも、例えその想いに縋ってしか生きられないのだとしても。


忘れてさえしまえば…その悲しみ、嘆きも共に忘れてしまうのだから。


…それが、白井黒子が選択した彼女の守り方。


酷く拙い、ただ…見えなくしただけの、ちっぽけな守り方。



(…お姉様が壊れてしまうよりマシですの)



それでお姉様が笑って暮らせるのならば…と。


白井はいつ壊れるとも知れない幻想で彼女を守っていた。


二度と壊れないようにと願いながら。

480 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 08:18:13.01 Fm1m3TsDO 294/519


 12

「……遅かったな」


学園都市の一角にあるビル…その屋上でステイルは背後に現れた人物に声を掛けた。


「…にゃ~、すまんな。何せ急な呼び出しだったもんでな?」


その人物は土御門元春。


イギリス清教から学園都市に潜り込んだスパイ。


…そしてその逆でもある人物だった。



「…それで、何の用だ?」



土御門が冷徹な口調で用を尋ねる。



「僕の用件は…君は分かっているだろうが敢えて言わせて貰うよ」


「………」


「…何故、報告しなかった」



報告。…当然だがそれはインデックスと上条当麻の事を言っている。


土御門はその事をイギリス側には報告していない。


だから、ステイル達はその事実を今日この日まで知る事が出来なかった。

481 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 08:43:17.67 Fm1m3TsDO 295/519



「報告する必要が無かった……では駄目か?」


「……ふざけているのか?」



ステイルは土御門を睨み付ける。


そんな答えで納得出来るはずが無い。



「あの子は必要悪の教会<ネセサリウス>でも重要な存在だ。それが理解出来ていないはず無いだろう!」


「………そうだな」


「なら何故報告をしない? 事実を知らなければこちらは動きようがないんだ、この件はお前の一存で報告を怠って良い物じゃ無い!」



土御門を睨みながらまくし立てるステイル。


一方土御門は、ただ冷静にステイルの言葉を聴いていた。

482 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 09:25:57.25 Fm1m3TsDO 296/519

「…やれやれだな」


肩すくませ、仕方なしと言った具合に土御門は告げた。


「…仕事と私事を混同するな、もっと冷静になれ」


「…っ…!!」


ステイルの表情が更に険しくなる。…それに構わず土御門は続ける。


「今回の事であの禁書目録が…10万3千冊を宿す魔導図書館が使い物に為らなくなったのか? …そんな事は無いだろう?」


「…………ッ」


「あれの中身が無事なら上は何も言わんさ、…入れ物が傷物になろうが何だろうが使えれば問題無いだろうからな」


「……この…っ!」


「お前があれにどういう感情を持っても何も言わん、…だがそれに振り回されて周りに当たるのは辞めるんだな」


「…………っ」


「もう一度言う。イギリス清教に報告する必要は無かった。…お前の意見はただの個人的な憤りだ」


「…………」


「…あれの管理は上条当麻の役目だ。お前が納得するしないは関係ない」


「……それを崩したのが奴でもか?」


「…崩れていないだろ? まだな…」


「……………」


「上条当麻をもう少し信用してやれ、これはあいつの問題だからな」

483 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 10:01:10.44 Fm1m3TsDO 297/519

「…随分と辛辣でしたね?」


「……海原か」



土御門がステイルと別れてすぐ、物陰から掛けられた言葉に土御門は立ち止まった。


「…何の用だ?」


海原は土御門の隣まで近づいてから口を開いた。


「…御坂さんの記憶が戻りました」


「……そうか」


海原は土御門の反応に意外そうな表情を作る。


「驚かないのですね? 良いんですか?」


「お前こそどうなんだ?」


「…自分はこれで良かったと思ってますよ。…あの場さえ凌げれば良かったですのでね」


「自分勝手な野郎だにゃー」


土御門はボリボリと頭を掻きながら言った。


「…一方通行には連絡しますか?」


「…どうせ「放っとけェ」の一言で切られるぜい? 必要無いにゃー」


「ではどうします?」


「カミやんに任せるぜよ、禁書目録に危害が加わらないなら俺は動く必要無いからにゃー」


「そうですか…なら自分は発破でも掛けて来ますよ」


それだけ言って海原はその場を離れる。


「海原はそれで良いのか?」


その背中に言葉を投げる土御門。


「…ええ、自分では力不足だとわかってますからね」



困ったように笑ってから、海原はそこを離れた。



「……どいつもこいつも面倒臭い奴らだにゃー」

489 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 19:52:25.00 Fm1m3TsDO 298/519


 13

翌日、上条当麻は登校の為に道を歩いていた。



「…………」



だが、その顔は酷く疲れた表情をしている。


昨晩、上条は寝付けなかった。


孤独(ひとり)で眠る夜が、あそこまで寂しく…胸を締め付けるものだとは知らなかった。


だが…その原因を作ったのは自分なのだ。


誰に文句を言える訳でも無い。

490 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 19:53:48.93 Fm1m3TsDO 299/519



(……本当に一人だったのって、そういや初めてだったか)



自分には過去の記憶が無い。…今の自分は、始めからインデックスと共に居た。今考えれば、自分は孤独感など今まで感じた事は無かった。


感じる暇すら無かった。



(……インデックスは、これをずっと感じて過ごしてたんだな……俺と出会うまで)

491 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 19:54:51.48 Fm1m3TsDO 300/519



インデックスが自分と出会うまで、どのように過ごしていたかは知らない。


知らないが、……最低でも一年間もの間、この感覚に耐えてきたのだ。



(…成る程な、妙に何処にでもついて来ようとするのも納得出来るな)



上条は素直に、これは堪えられるものじゃ無い…と感じた。


それは孤独(ひとり)に慣れていないだけなのか。


…それとも自分がただ弱いだけなのか。



「…孤独(ひとり)は、辛いもんだな」

492 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 19:55:59.92 Fm1m3TsDO 301/519


「……その意見には賛成ですよ、自分は慣れましたけどね」



突然掛けられた言葉に反応し、そちらの方を見る。



「……海原?」


「はい、その偽物の方です」



にっこりと微笑み、上条に返事を返す海原。



「…久しぶり…だよな? 何か用なのか?」


「ええそうです、…用が無ければわざわざ引き止めたりしませんよ」



「…そうだな」



少し刺を含む海原の返事に、上条は何も言わずに先を促す。

493 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 19:57:02.93 Fm1m3TsDO 302/519



「簡単に言えば、“約束”の事ですね」


「……っ…!」



約束。



かつて、目の前の魔術師と交わしたもの。




「今日はそれの確認です。…貴方は守れていますか?」



「………それは…」



言葉が詰まる。


上条はその約束を守れているとは言えない。



「…少し責めるような言い方になってしまいましたね……気にしないで下さい、貴方の今の状況は知ってますから」


「…………」

494 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 19:58:24.38 Fm1m3TsDO 303/519



海原の言葉を聞いて、目を逸らす上条。



「…ただ忠告します、貴方が向き合わなくてはいけないのは、……あの禁書目録だけでは無い」


「……御坂は…何も変わっていなかったぞ?」



上条は言い訳するように反論する。


昨日、久しぶりに会った御坂美琴は確かに妙ではあったが…普段とさして変わらぬように見えた。



「………ふぅ、相変わらずそちらの方面はからきしですか。…貴方の周りの女性は本気で可哀相ですね」

495 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 20:07:05.34 Fm1m3TsDO 304/519




「………何が言いたいんだよ?」


海原は上条の問い掛けに…笑みを消してから答える。


「…貴方の目は節穴だと言ってるんです」


「……何だよそれ…?」


「昨日の彼女の事が普段通りに見えたのなら、貴方は本気で残念な人ですよ、……本当に何の違和感も感じなかったのですか?」


「……それは…」



口ごもる上条。


確かに違和感は感じた。


だが、それを意識して何かしようとまでは考えなかった。

496 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 20:30:31.72 Fm1m3TsDO 305/519


「…例えば、貴方に会ってからすぐの彼女の態度と、最後の態度の違い」


「…………」


「……その合間に在った、貴方の右手が何かを破壊した音」


「………!」



海原の紐解くような言葉に上条は考えを巡らせる。



「……俺が何か異能を消したから態度が変わった?」


「そうです。…今まで分からなかったのは…まあ良いですよ」


「……俺は何を消したんだ?」



上条は海原に尋ねる。…目の前の男はどうやらそれが何か知っているようだ。



「…簡単ですよ、貴方の右手が殺したのは彼女の記憶の“蓋”です」


「…“蓋”?」


「…ええ、彼女があの禁書目録と…貴方の事を思い起こせないようにする為の物でした」


「………っ!!」


「…あの日、貴方が彼女を拒絶した日の少し後に我々が第五位の能力者に頼んで被せた、…貴方達三人を守る為の“蓋”でした」

497 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 20:52:07.45 Fm1m3TsDO 306/519


 14

「…ここまでで良いかも」


「…そうですか? まだ彼の寮からは少し遠いですが」


「…うん、ちょっと一人で考えたいから」


「……分かりました。では…何かあれば言って下さいね? まだ数日は学園都市に滞在しますから」


「うん、ありがとうかおり」


「…はい、ではまた今度」



インデックスは、上条の部屋を飛び出した翌日の昼に、結局は舞い戻って来ようと道を歩いていた。


やはり、彼と離れるのはどうしても嫌だった。


確かに、彼に逢い…自分から全てを話すのは恐い。
だけど、かつて自分自身が彼に言った事がある。


自分が本当はどうしたいのか?


神裂に言われて、それに気づいた物ではあるが、…自分が彼に諭した事を、自分で否定してしまうのは駄目だと彼女は気づいたのだ。

498 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 21:15:54.74 Fm1m3TsDO 307/519



(……とうまなら、大丈夫だよ…ね?)


彼は、既に自分が身篭っている事を知っている。


ステイルがそれを告げた。


それを聴いた瞬間、自分は酷く憤った。


何故、伝えてしまったのか? と、泣きながら彼らに当たり散らした。


それは…酷く見苦しい行為だったと思う。


只の癇癪。


…子供がするような、理屈を考えないヒステリーだ。


自分で伝える勇気が無かったのが悪いのに…ただ事実を知られるのが恐かったから、知られた後の彼が…どんな顔をするか分からないのが恐かったから。


それをただ、周りに怒りとしてぶつけた。


…まあ、直ぐさま羽交い締めにされて無理矢理おとなしくさせられたけれど。



(…おそるべし聖人かも)



昨日の行いを反省しつつ、あの二人に感謝する。



(……ありがとうかおり、…すている)

499 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 21:33:39.46 Fm1m3TsDO 308/519

(……ここから先は自分でしなきゃ)



だから、自分はイギリスへは行かないと思い直した。


…それもあの二人のおかげだ。


あの二人は、自分の気持ちを最優先に考えてくれた。


だからそれに応える為にも…彼に話さなくてはならない。


どんなに恐くても。


どんなに逃げたくても。


…どんな結果になっても。

(……とうま)


彼はどんな想いで一晩過ごしただろうか?


悩んでいるだろう。


それに、悔いているかもしれない。


でも、自分はそんな彼を受け止めなくてはいけない。

500 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 21:52:15.26 Fm1m3TsDO 309/519



「……見~っけ…」


ふと、横合いから声が聞こえた。



「………?」



インデックスは声の放たれた方に顔を向ける。



「……また会ったわね」



そこに居たのは御坂美琴。


「……みこと?」



インデックスは立ち止まる。…そこに美琴が近づいて来た。



「…いきなりだけど、ちょっと付き合ってくんない?」


「…えと、…みこと?」



突然の誘いに戸惑うインデックス。



「………あんたとはもうちょっと仲良くしたいかなってね。…だめ?」



そう言う美琴の顔は優しげな微笑みが作られていた。

509 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 22:57:48.94 Fm1m3TsDO 310/519


 15

夕方、上条は自分の部屋へと帰って来ていた。


海原の話では…美琴はあの日、かなりの錯乱状態だったらしい。


それこそ、人すら殺めかねない程に…。



「……そこまで追い詰めてたのかよ」



上条は、あの日の美琴の事を思い出す。


…確かに、彼女は自分に異常なまでに執着していた。


「……なんでそこまで…」



上条には理解出来なかった。


自分にそれほど魅力がある等到底思えない。


本気でこんな奴何処が良いんだ? と問い掛けたい位であった。

510 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 23:05:51.46 Fm1m3TsDO 311/519



そこで、ふとテーブルを見た。


そこには、昨日からそのままにしてあった…インデックスが残したメモがある。


「………」



それを手に取り、もう一度読む。



『とうまへ みことにあってあげて? それでみことの大切なものを取り戻してあげて?』


その部分を読み上げ、上条は目を伏せる。


「あいつ…自分がこんな事になってんのに……」

511 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 23:18:50.11 Fm1m3TsDO 312/519



昨日の時点では、インデックスが居なくなった事に気が動転してこのメモの内容をあまり考えていなかった。


さらに思い出す。


インデックスが出て行く前日…一昨日の会話の事を。


辛く、悲しい思い出。

だが…とても大切なモノ。


「…あれは、御坂の事だったんだな?」


海原が言っていた美琴に被せた記憶の“蓋”。


その事をインデックスは何かしらのきっかけで知ったのだろう。

512 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 23:31:37.31 Fm1m3TsDO 313/519

自分もインデックスも、過去の記憶を失っている。


その記憶(思い出)は…もう元に戻らない。


だが…美琴は違う。


自分の右手、幻想殺し<イマジンブレーカー>で触れれば元に戻る。


記憶(思い出)を取り戻せる。



だけど、自分は美琴に逢う事を避けていた。



二度と逢わないとまで誓っていた。



…それは何故だ?



インデックスが居たからだ。



インデックスを…自分が選んだからだ。



「……だから、…居なくなったのかよ……!」



きっと彼女は…こう考えたはずだ。


自分さえいなければ、全て丸く収まる…と。

513 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/02 23:53:43.14 Fm1m3TsDO 314/519

結果だけ言えば、美琴の記憶は取り戻した。


それは偶然だったが…きっと自分はわかっていても美琴の記憶を元に戻していたはずだ。


インデックスも…それを望んでいた。


だが、それは別の問題だ。


「…お前が出て行く必要が何処にあるんだよ? ……インデックス!!」


やはり、彼女に逢わなくてはいけない。


確かに自分はまだ迷っている。


彼女の宿した命に戸惑っている。


自分の罪と、再び向き合わなくてはいけない事に…恐れを為している。



「逃げるなよ上条当麻…!! もういい加減…子供でいるのを辞めろ!!」


「取り戻すんだろ!? ……だったら大人になれよ!!」



上条は自分自身に言い聞かせるように叫ぶ。


迷いを、恐怖を、自身の情けなさを殺す為に。


「いいぜ…? …それでもまだ迷うなら…恐いって言う自分が居るなら……!!」



まずはそのふざけた幻想(自分)をぶち[ピーーー]!!

517 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/03 00:26:27.51 kxBLfkjDO 315/519


 行間

「……彼女は大丈夫でしょうか?」

「…さあね」

「……やはりついて行った方が良かったでしょうか?」
「…さあね」

「………さっきから上の空ですがどうかしましたか?」

「…さあね」

「……………真面目に聞いていますか?」

「…さあね」

「………………すている=まぐぬすくんじゅうよんさいです」

「…かんざきかおりじゅうはっさいです」

「……………………………………………」

「………」

「…………表出ろやド素人がああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

「……ん、電話か」

「ぐっ!! ~ッ!!」

「……もしもし……なんだ君か」

「………………なに?」

「…っ、…どういう事か説明しろ……!」

「……ふー…、…どうかしたのですか?」

「……もう既に君の所に向かったぞ……!! …それも4時間も前にだ…!!」

「………っ…!?」

「……なら何故居ないんだ!! ……もう良い…切るぞ!」

「…何かあったのですね?」

「……ああ、……くそ!!」

「……今の電話は…上条当麻ですか?」

「…そうだ……そして、…あの子に逢わせろと言ってきた…!!」

「…それは…!?」

「……ああ…!! …あの子がどこかへ消えた…!!」

「………っ!?」

「…行くぞ神裂!! …あの子をさがす!!」

「……ええ!!」

526 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 19:07:03.90 OR1bFKpDO 316/519


 16

「……えと、話ってなにを話すのかな?」



インデックスは現在、美琴に連れられて第七学区にあるファミレスの中に居た。


「ん~…そうね、何から話そうかしら?」



美琴は自分用に頼んだデザートをフォークでつつきながら、気怠そうに返事をする。



「………」



インデックスは怪訝に思う。…なぜ美琴は自分をここに誘ったのだろう?


話では美琴は自分の事を忘れているはずなのだ。


一昨日、偶然再開したが…ただそれだけで見知らぬ人物を誘うとは思えない。

527 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 19:10:03.78 OR1bFKpDO 317/519


…それ以前に、美琴の雰囲気が出会ったばかりの人間に対する物ではないような気がする。


(……よく分からないかも)



ただ、少しだけ違和感のような物は感じる。


その程度の物だ。



「………あんたってさ、学生じゃないわよね? なんで学園都市に居るの?」


「えと、…それは…」


「それは?」


「……いろいろ事情があるとしか言えないかも」


「………ふ~ん」


デザートをいじりながら気の無い返事をする美琴。


口に運ぶでも無く、ただフォークで形を崩していく。

528 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 19:22:00.72 OR1bFKpDO 318/519



「………お姉様!」

二人の座る席の、少し離れた所から声が掛かる。



「………しらい?」


「………チ…ッ…」



声を掛けて来たのは白井黒子。


その白井の腕には風紀委員の腕章が付けられている。


どうやら風紀委員としての巡回中に偶然見掛けて声を掛けて来たらしい。



「……、黒子? こんな所でどうしたのよ?」


「…いえ、巡回していたらお姉様をこちらで見掛けたので挨拶をと思いまして」



横目でインデックスを見つつ、白井は答える。

529 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 19:35:35.69 OR1bFKpDO 319/519



「お姉様こそ……その、珍しい方とご一緒ですのね?」


「う~ん…まあシスターさんなんて確かに学園都市じゃ珍しいけど」



美琴は白井に目を向けて言葉を放つ。…その表情には若干だが鋭い物が混じっている。



(……なぜお姉様がこのシスターさんと一緒に居るんですの?)



白井は自身の心境を表に出さないように必死で笑顔を作る。


…意識しなければ、途端に焦りや恐れが顔に出る。
それほどに今の白井には余裕が無い。


自身が恐れている事態への懸念で、白井は今にも押し潰されそうだった。

530 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 19:56:54.15 OR1bFKpDO 320/519

「……お姉様はこのシスターさんとお知り合いでしたの?」


白井が質問する。


その質問は、確認の為の質問だ。



「……………まあね、知り合いって言っても一昨日会ったばかりだけど」


「……そうなんですの?」



美琴の言葉にいまいち納得が出来ない白井。



「…………」



一方インデックスは、…何か複雑な表情で押し黙っている。



「…どうかしたの黒子? 何か変な所でもある?」


「………いえ、そのような事はありませんが」



口ではそう言うが…白井は違和感を感じて仕方がなかった。



(……ぶっちゃけお姉様が知り合って間もない方と二人で遊ぶなんて考えられませんの。……失礼ですがお姉様って実はぼっちの気質がございますからね…!)



白井黒子のお姉様生態観察脳内記録から鑑みても…この状況は異常。…らしい。

531 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 20:15:46.60 OR1bFKpDO 321/519

「……ていうかあんた、風紀委員の仕事は良いの? こんな所で油売ってたらまた初春さんに文句言われるわよ?」



美琴は呆れるような口調で白井に告げる。



(…まるで早く行けと言わんばかりの言い方ですの)


「………って、なんで座るわけ……おいこら人の話聞けってのメニュー見始めんな!!」



美琴の言葉に反して居座る体勢万端の白井。


メニューをじっくりと眺めてから店員を呼び、紅茶とケーキを頼む。


その間も美琴が話聞けだの仕事真面目にやれだのいろいろ言って来たが取り敢えず右から左へ受け流す。


「…あんた私の話聞いてんの?」


「ムーディーですの」


「……は?」


「しらい…ふるいんだよ」

532 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 20:32:04.54 OR1bFKpDO 322/519

「……ところで、お二人は何をお話していたんですの?」


白井は確認の為にも話を切り出す。


(…わたくしの思い違いならばそれでよいのですが)


「……えと、まだたいした話はしてないかも」


インデックスの答えを聞いて、白井は思考を巡らせる。


(…このシスターさんは……お姉様の今の状況を理解しているのでしょうか…? ……分からない事が多過ぎてちょっとやりづらいですわね)



インデックスが美琴の記憶に関する事を聴いたのは御坂妹からである。


白井もインデックスと会うのはあの日以来久しぶりなので、その状況を把握しているはずもない。



(……さて、無理矢理居座ったは良いですけれどどうやって状況を把握致しましょうか?)

533 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 20:56:33.79 OR1bFKpDO 323/519


 16(mikoto)

………くそ…!


…これからって時に邪魔がまた入った。


こっちは今すぐにでもズタズタにしてやりたい所を必死に我慢して進めてるのに……!


………でも駄目。


焦るな。


まだ誰も知らないはずなんだ。


私が当麻の事を思い出した事は……まだ誰も。


黒子は多分怪しんでる。


それなりに長い付き合いだからそれぐらい分かる。


目の前のこの女も…私が記憶を無くしたままだと思ってるはずだ。


…どうせ私が当麻の事忘れてた事は教えて貰ってたんでしょ?


きっとそうだ…そうに決まってる。


…邪魔者が居なくなったと思って笑ってたんでしょ?


…………ふざけんな。

536 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 21:10:03.07 OR1bFKpDO 324/519

本当は今すぐにでも殺してやりたい。


…当然じゃない。


こいつは今まで当麻居てと幸せだったんだ。


私が一人で居る間、……ずっと当麻の傍に居たんだ。


私がどんなに望んでも。


どんなに泣いて叫んでも。


手に入れられなかったモノをコイツは手に入れたんだ。


…それはなんで私じゃないの?


なんでコイツなの?


私の方が絶対に当麻の事を好きなのに。


なんで当麻は、私には幸せをくれないの?


なんで?


なんで?


なんで?


………コイツが居るから?


コイツが居るから、私には何もくれないの?

537 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 21:26:40.17 OR1bFKpDO 325/519

私は当麻に記憶を蘇らせて貰った。


…偶然だった。


でもそんな事はどうでもいい。


確かに助けて貰ったんだから………当麻の手で。


もしかしたら…その偶然だって運命なのかもしれない。


でも足りない。


まだ足りない。


欲しい。


全部欲しい。


当麻を…。


コイツが手に入れた幸せを…。


それを……私の足りない所に埋めるんだ。


私の心の中の……。


抉られて、痛くて仕方ない傷に埋めるんだ。


そうすれば…私はもう淋しくない。


もう泣かなくて良いはずなんだ。


…だから。


……………消すんだ。


……誰にも知られずに。


コイツを。


その為に、今私は動いてる。

539 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 21:45:38.09 OR1bFKpDO 326/519


 16(index)

みことが話し掛けて来た時は……正直驚いた。


だって…彼女は、私達の事を忘れているはずだったから。


わたしは…とうまの所に行かくてはいけない。


…でも、みことの事も放ってはおけなかった。


みことはきっと傷ついている。


例え、その傷がなんの為についた物か分からなくても。


……その傷の痛みで、泣いている。


何故痛むのか分からないままに、泣いているはずだ。

541 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 21:55:19.58 OR1bFKpDO 327/519

とうまが前に言っていた。

『心にだって、思い出は残るだぜ?』


それを聴いたのはとうまが記憶喪失だって分かってから。


『そうじゃなかったら…記憶を無くしてないフリなんて出来ねぇよ』


彼は…優しく微笑んでそう言った。


本当に優しそうに。


少しだけ…淋しそうに。


きっと…それは本当なのだろう。


だったら、みことも同じはずだ。


思い出が、彼女を泣かせているはずだ。


それが何か分からないままに…。

543 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 22:12:24.85 OR1bFKpDO 328/519

それは残酷な事だと思う。

どうにかしてあげたかった。


…原因が自分にあるのなら尚更だった。


みことの記憶は、超能力によるもの…らしい。…よくはわからないけれど。


なら、話は簡単だ。


とうまに会わせればいい。


とうまなら…彼女を必ず救ってあげるはずだ。


思い出を取り戻す事も。


…その後の、彼女の苦しみを取り除く事も。


…彼が、どんな選択をするかは分からない。


でも…逃げてはいけないと思う。


はっきり言って、自分は彼の重荷にしかならない。


自分は、彼の傷そのものになってしまった。


もしかしたら、彼はみことの傍に居る事を選んでしまうかもしれない。


それでも…逃げてはいけないんだ。

544 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 22:29:00.41 OR1bFKpDO 329/519


 16.5

「……みこと」


「………なに?」


「……」


インデックスの呼びかけに一拍置いてから返事をする美琴。


「……みことは…だいじな事を忘れてるんだよ?」


「……ッ……!」


「………な…っ!?」


インデックスの言葉に訝しむ美琴。


(……何よコイツ、…何考えてんの?)


大事な事。


美琴にとって、それを指すモノは一つしかない。


(…どういうつもり?)


表情を隠すのも忘れ、険しい目つきになる。



一方、白井は…。


(ひいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!!? なに喋ってんですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?)


ムンクになった。

545 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/04 22:49:07.95 OR1bFKpDO 330/519

「……えと、…だから……」

「ちょっとストォォォォォォップですのぉぉぉ!!!!」


インデックスの台詞を掻き消すように白井の雄叫びのような全力の叫び声が店内に響いた。


「……~ッ!? …いきなりなんて声出すのよ!?」


「…はああ~、……これはちょっと予想外過ぎますの…!!」


「……あぅ…、耳がいたいかも…」


耳を押さえながら目を回すインデックス。


そんな彼女の袖を…白井は乱暴に掴んだ。



「…お…おほほほほ~~っ!! お姉様!? このシスターさんはちょーーーっと頭がイカれ…ケホン、体調が悪いようなので病院へ連れていきますわね!? それではご機嫌よーーー!!」



かなり不審な挙動と言動で言い訳する白井。美琴は何か言おうとしたが、白井はすぐに瞬間移動でその場から消えてしまった。


残された美琴は、…今まで抑えていた感情をさらけ出すように、その顔を歪める。



「…………くそ…また邪魔したわね……?」

573 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 07:40:46.37 iYACBZfDO 331/519


 17

「…くそっ! インデックスは何処に…!」



夕方になり、空が赤く染まる時刻になっても上条はインデックスを見つけられずにいた。



「あいつが行きそうな所は全部廻った…、やっぱり誰かに連れて行かれたのか!?」



そもそもインデックスが行きそうな所などこの学園都市には数える程しかない。


それらを全て見て廻った今は、既に手掛かりになるものは何も無い。

574 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 07:42:01.92 iYACBZfDO 332/519



「……インデックス!!」



それでもがむしゃらに街を走る。


それしか出来ないのなら、ただそれをやる。


上条は必死に走り続けた。

575 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 07:43:28.11 iYACBZfDO 333/519



「……当麻?」



走る最中、通り過ぎた道の分岐から声を掛けられる。


「っ! 御坂!?」



立ち止まって振り返ると、そこに居たのは御坂美琴だった。

576 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 07:44:33.41 iYACBZfDO 334/519



「…なに急いでんの? 凄い汗だけど」



訝しむように眉をひそめながら上条に近づく美琴。



「…なんか必死そうね、また何か危ない事でもしてんの?」



上条の顔を覗き込むように見ながら問い掛ける。


そして、顔と顔が触れそうになるギリギリまで接近する。

577 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 07:45:33.85 iYACBZfDO 335/519



「…い…いや…」



上条は、どんどん近寄ってくる美琴の顔を避けるように後ろに一歩下がる。



「……なによ?」


「…別にそこまで近づかなくても良いと思うのですが?」



「やなの?」


少し不満そうにする美琴。



「いやそうじゃなくて!」



上条は戸惑いつつも美琴の言葉を否定するが、二の句が継げずに吃ってしまう。

578 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 07:46:34.87 iYACBZfDO 336/519



「まあいいや、…それで当麻は何してんの? またトラブル?」


「………え…と…」



急な質問に上条はどうするか迷う。…インデックスを捜している事を美琴に告げるべきか、それとも言わずにおくか…。


それに、今は大しておかしな雰囲気は感じないが…美琴の方も気になる。


(……どうする?)




584 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 12:07:33.74 iYACBZfDO 338/519

(……どうする?)


1.まずはインデックスを捜さないと…!

2.この際だ、御坂にも手伝って貰おう。

3.……御坂の事が気になるな、……インデックスはひとまず神裂達に任せておこう。


安価>>593

593 : VIPに... - 2011/04/10 12:16:19.41 WYx1SD4c0 339/519

2

596 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 12:22:18.87 iYACBZfDO 340/519




…この際だ、御坂にも手伝って貰おう。



「……御坂、少し手を貸してくれないか?」



「…! ……なに?」



「……インデックスを探しているんだ、……良ければ手伝ってくれないか?」



その言葉を聞いた後、ほんの一瞬だったが美琴の顔つきが変わる。



「…………ふ~ん、まあいいけど」



微妙な反応で上条の提案を肯定する美琴。…しかし、それ以上は深く聞いて来なかった。

599 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 12:24:10.58 iYACBZfDO 341/519





「…すまない、御坂」



「………別に良いわよ、私もちょっと暇だったし」



「…そっか、助かる」



美琴は上条の言葉を聞き終える前に動き出す。



「じゃあ見つけたら連絡するからね! 当麻もちゃんと状況報告してよね!!」



「分かった! じゃあ頼んだぞ御坂!!」



二人は互いに別の方向に走り出した。



「………さぁてと、…………まずは黒子にお仕置きしなきゃ…!」



御坂美琴は顔つきが歪んで見える程の笑みを浮かべながら携帯電話を取り出す。


電話を掛ける相手はもちろん…白井黒子だ。


そこに、彼の捜す人物も居るだろう。

600 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 12:36:14.08 iYACBZfDO 342/519


 18b

「………つまり、貴女はお姉様の事を考えた上で全て語ろうとしたと?」


「…うん」



インデックスと白井の二人は、現在先程まで美琴と居た店とは別のファミレスに来ている。


白井はインデックスから事情を聞き、自分とは異なる考えでお姉様…御坂美琴をいたわる姿に胸を締め付けられる思いだった。



「……記憶(思い出)ですの、…確かにそうですわね」



あの時は仕方がなかった、…そういう事もあるが、やはり自分の判断は間違いだったのかもしれない。

602 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 12:45:19.20 iYACBZfDO 343/519



「……ですが、それを伝えた上で貴女はどうするつもりですの?」


白井はインデックスに尋ねる。


確かに自分は間違っていたかもしれない。


でも…それはもう過ぎてしまった事だ。


だから、その事は後でいくらでも反省する。


今は目の前の状況に集中しなければいけないのだ。



「…今のお姉様は、心を揺さぶられる事が無いので非常に安定してますの、……それを壊して…その後はどうしますの?」

603 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 12:55:04.18 iYACBZfDO 344/519

「……どうなるかはわからないかも」


「……」


「……でも、このままにはしておけないんだよ」


「………」



白井はインデックスの言葉を黙って聞く。



(……まるであの類人猿のようないきあたりばったりな答えですの)



少々げんなりしつつも、その言葉を否定はしない。



「…そうですわね、……このままにはして置けませんの」



白井はインデックスに向けて優しく微笑んだ。



「ありがとう…しらい」

604 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 13:11:31.62 iYACBZfDO 345/519

…prrrrr!


そこで、白井の携帯電話から電子音が鳴り響いた。


白井はスカートのポケットから携帯を取り出して、画面を見る。



「……お姉様」


「………みことから?」


インデックスの声に頷きながら、白井は通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。


「…もしもし、お姉様?」


『…黒子、あんた何処にいるの?』


美琴の声は…何か冷たいものを感じるような、…酷く平淡な声だった。


「先程お姉様とご一緒だった店からそんなに遠くない所ですの、…なにかご用でしょうか?」


『……そうね、ちょっと合流したいんだけど大丈夫?』


白井は携帯のマイクの部分を指で塞ぎ、インデックスに尋ねる。



「…お姉様とこれから会いますの……貴女は一旦ここから離れて下さいまし」

606 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 13:27:54.97 iYACBZfDO 346/519

「……っ!」


インデックスが声を上げようとするのを白井は手で制する。


『……黒子?』


「…はい、なんでもないですの! ではわたくしはこの場でお姉様をお待ちしますの、…店の名前は〇〇という所ですので」


『…ん、わかった…ちょっと待ってなさいね』



それで通話が切れる。



「しらい! なんでわたしは居ちゃ駄目なの!?」


「…念のためですの」


「……念のため?」


「……お姉様に誰も傷つけさせない為の判断ですの」


「………しらい」



白井はお姉様…御坂美琴を慕っている。


それは、例えどんな事になっても変わらない。


だがだからといって彼女の愚かな行いを見過ごす訳にも…起こさせる訳にもいかない。



「…ですから、貴女は離れていて下さいまし」

607 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 13:40:40.27 iYACBZfDO 347/519


 19b

「…お待ちしておりましたお姉様」


程なくして、白井の下に美琴が到着した。



「……あんた一人?」



美琴は挨拶など交わさずにそう尋ねた。



「はい、そうですが?」


「………ふ~ん」



美琴は白井の言葉に一応納得する。


「…お姉様は何か急用でしたの? 寮に帰れば二人で話す事なんていくらでも出来ますわよ?」


「…まあね、ちょっと急用だったけど……居ないなら後で良いかな」



「………?」



白井は美琴の言葉に再び違和感を覚えた。



(……用があったのはわたくしだけでは無い?)

609 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 13:58:16.97 iYACBZfDO 348/519

白井はその違和感の存在でほぼ確信を抱く。



(…お姉様は記憶が戻っている…?)



そう考えれば色々とつじつまが合う。


「……お姉様、つかぬ事をお聞きしますの」


確信を抱い上で、最後の確認をする。



「…お姉様は“上条当麻”という方をご存じですの?」


「…………」



上条当麻。


あの少年…お姉様の想い人であるあの類人猿の事。


知らないならばそれで良い、…今からゆっくりと思い出させれば良いのだから。

だが、既に思い出しているなら話は厄介な事になる。


…思い出していたなら、その状態でこんなに落ち着いた雰囲気を出しているという事だ。


それは、諦めているからとかの物ではきっと無い。


想像するだけで、嫌になりそうな事が起こる。


白井はただそれに戦慄する。

610 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 14:10:38.46 iYACBZfDO 349/519

「…………な~んだ」


美琴はつまらなそうに息を吐く。



「……お姉様?」


「……もうばれちゃったの? せっかく隠してたのに、……思い出した事」


「…………っ!!」



その言葉は白井の背筋に嫌な汗を流れさせるに十分だった。



「…ふぅ…じゃあもう強行手段しかないよね、……黒子…あのシスターの居場所教えなさい」


「………」



態度が一変した美琴の様子を見ながら、白井は必死に考える。



(…どうすれば、……お姉様が傷つかずに…誰も傷つけさせずに済む方法は………!!)

611 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 14:26:51.55 iYACBZfDO 350/519

「……ここじゃやりにくいかな、……黒子、ちょっと場所移動するわよ」


「……分かりました」


そして美琴と白井は空間移動でどこかに移動した。


…それを物陰から見ていた人物が居た。



「みこと…、しらい…!」


インデックスだ。


白井からは店を出るように言われていたが、…彼女は従わずに隠れて様子を伺っていた。



「どうしよう…! あのみことは少し危ないかも、…しらいが……!」


動揺しながらもインデックスは考える。


「……いかなきゃ」


インデックスはすぐにその考えに至った。


「わたしの事だもん…、だからいかなきゃ!!」



インデックスは既に夜の帳が覆う街を駆け出した。


誰も傷つかない為に。


誰も傷つけさせない為に。

612 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 14:48:19.97 iYACBZfDO 351/519


 20b

「……ここで宜しいでしょうか?」


「……ここは…いつもの公園か」


美琴達が移動してきたのは、彼とよく遭遇する…言ってみれば思い出の場所でもある所だった。


そこには今、美琴達以外誰も居ない。


既に夜となり、完全下校時刻も過ぎた時間だ、こんな時間に公園を歩き回る変わり者なんて滅多に居ないだろう。


「…一応聞いとくわよ? 居場所を言う気はある?」


「………それを聞いてどうするつもりですの?」


「…あー…もう」


美琴は白井の目の前に立ち、……そして、酷く冷たい眼をしながら白井の頬に平手で叩いた。


「……あぅ…!?」


乾いたような音が辺りに響き、白井の頬に痛みが走る。

613 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 14:57:18.05 iYACBZfDO 352/519



「…お…お姉様…!」


直ぐさま、今度は反対の頬を叩かれる。


「い…っ…!?」



白井の頬が赤くなっていき、徐々ににヒリヒリとした痛みが滲み出て来た。


「…どうするのかなんてあんたには関係無い。私は言う気があるのか、無いのか聞いてるんだけど?」


「…………」


白井は頬に手を当てながら美琴を見る。


(…お姉様)


白井はやはりと言った具合に口を開き、美琴に告げる。


「今のお姉様にお教えする訳にはまいりませんの!」

614 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 15:12:26.00 iYACBZfDO 353/519

白井がそれを告げた瞬間、美琴の身体から紫電が迸しり、白井の身体を電撃が駆け巡った。


「あ…ぐっ…あっ!?」



消し飛びそうになる意識をかろうじて保ち、美琴の顔を見る。


美琴は先程と同じく…酷くつまらなそうな顔だった。

「……まだ言う気にならない?」


「………ぐ…ぅ…!」


「…なんか言いなさいよ」


「あ…がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?」


先程よりも強い電撃を喰らい、堪らず叫び声を上げてしまった。


(…お姉…様…!!)


それでも白井は何も言わない。

616 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/10 15:27:03.32 iYACBZfDO 354/519

「……頑固ねぇ、……じゃあこれはどうかな?」


美琴はそう言うと、手に黒く長い、剣のような物を作り出した。



(……砂鉄の…剣!!)



二度の電撃の為に、地面に倒れ伏しながら…白井は恐怖に顔を歪ませる。


「……これで切ったり刺したりしたら……どうなるか位分かるわよね?」


「……お姉様…!!」


「………………………………………言え」



白井はその言葉に無言で返した。



「………馬鹿な黒子」



それから…美琴は手に持つ凶器を、白井の白く細い太ももに突き刺した。


だが…悲鳴は聞こえ無かった。

648 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 09:56:53.90 MDEfKviDO 355/519


「……ホント…馬鹿みたい、さっさと言えばこんな目に遭わないのに」



白井の太ももから、砂鉄の剣を引き抜き、美琴は呆れたように言う。



「ッッ!! ぅ…ぐ…!!」



…その傷口から鮮血が溢れ出す。激痛に顔を歪め、瞳から涙が滲み出る。



「…お姉…様…!!」



しかし、決して悲鳴を上げようとはしない。


「お姉様があのシスターさんの居場所を知りたがっているのは……何故ですの……?」



痛みに耐えながら、搾り出すように声を出す。


しかし、その声に美琴は何も返さない。


…だが解る。


美琴の…その冷たい表情は、そして自分に対しての仕打ちは…、彼女があのシスターをどう扱おうとしているのかを把握するには十分過ぎた。

649 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 09:58:29.22 MDEfKviDO 356/519


…それをしようとする理由も、自分には推測出来た。


「……何故……! どうしてそこまで……あの殿方にご執着なさるのですか!!」


「…………………………………うるさい」


「あぐ…っ…!!」



問い掛けは、その一言と…腹部への蹴りで返される。



「……あんたには関係無いでしょ黒子、…私が何をしようと…誰をどうしようと…!」



追い打ちを掛けるように、先程つけた傷口を踏み付ける。



「……ぅ…ぐ…!」


「…それなのに余計な事ばっかりして私を困らせて、…私の邪魔するような事をして! 私の想いをみんなで踏みにじって!!」


「…ぎ…ぃ…っ!!」



踏み付けた傷口からさらに血が滲む。…タイルの上に白井の血が広がり、血だまりが出来る。



(…お姉様…!!)



苦痛で顔を歪めながら必死に堪える白井。


自分が悲鳴を上げて、誰かにお姉様のこの行いを目撃される訳にはいかない。


だから、白井は必死に堪えていた。


堪えながら、どうすれば彼女を…敬愛するお姉様を止める事が出来るのかを考える。



「……お姉…様!!」

650 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 09:59:53.44 MDEfKviDO 357/519



「みこと!! …しらい!!」



…そこで、自分達を呼ぶ声が聞こえてきた。


声のした方向に二人は顔を向ける。


そこには息を切らして、額に汗をかいている…悲痛な表情の少女が居た。


その声の主は、インデックス。



「……な…っ!?」


「……………」



白井は驚愕の表情で、…美琴は微かな笑みを浮かべてインデックスを見る。



「…ハァ…ハァ…、やっと見つけたかも…!」

651 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 10:02:01.55 MDEfKviDO 358/519



「……なんだ、ほっとけば来たのね。…てっきり黒子がどこかに匿ってるのかと思ったんだけど」


「…っ……!!」



白井は歯噛みする。…美琴の言うように何処かに匿っておくべきだった。



「……しらい!! その傷……!?」



近寄りながら、白井がどのような状態なのかを確認したインデックスは、顔をさらに悲しげに歪める。



「……みことがやったの?」


確認するようにインデックスは美琴に問い掛ける。



「……だから何よ?」


「……どうして?」


「…白々しいわね、…自分でも分かってんでしょ?」


「…みこと」


「あんたを庇ったから少しお仕置きしただけよ、…黒子ったら強情だから全然あんたの居場所喋らなかったけど」


「………ッ」



美琴の言葉に胸を締め付けられる。


彼女…白井は自分がこうなりうると考えた上で一人で美琴と会ったのだ。



「……しらい」


「………ぅ…、…全…く…念のために行った事を……台なしにしないで下さいまし……!!」



これではわざわざ自分一人で美琴と話をしに来た意味が無い。

652 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 10:24:13.68 MDEfKviDO 359/519



「……みことは…もう思い出していたんだね?」


「………やっぱりあんたも知ってたのね、………そうよ、当麻に思い出させて貰ったわよ?」


「………」


「……だからさ、悪いけどあんた邪魔なの…あんたも当麻の事が好きなら分かるでしょ?」


「………みこと」


「あんたは良いわよね、…当麻とずっと一緒に居れて、……当麻に求められて、幸せを感じる事が出来てるんだから」


「………」


「私が当麻の事を思い出せなくなった事だって、…あんたは喜んだんでしょ? これで当麻を一人締め出来るって……心の中で私の事笑ってたんでしょ?」


「…違…っ…!」


「嘘つこうとすんじゃないわよ、…あんたがそんな余裕ぶっていられるのは当麻に選ばれたからだ…! 頭ん中では私の事蔑んでる癖に…!! 当麻から拒絶された惨めな奴って笑ってる癖に!!」


「そんな…!! わたしはそんな事!!」


「だったらその見下すような瞳を辞めろ!! 憐れみなんていらないのよ!! その瞳は私が負けたって…! 当麻から拒絶された可哀相な奴って言われてるようでムカつくのよ!!」


「………!」


「そんな瞳で私を見る位なら…! 当麻を私にちょうだいよ!! 私は当麻だけ居れば良いんだ…!! 他には何も要らない!!」

653 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 10:47:14.59 MDEfKviDO 360/519

「……みことは、本当にとうまの事が好きなんだね」


「…………」


「……とうまはずっとみことの事…気にしてたよ? 本当にこれで良かったのかなって…口には出さないけどずっと」


「…………」


「……わたしは確かにとうまに選んで貰えたよ? …でも……それはとうま自身の罪悪感もあるからなんだよ…とうまは関係無いように振る舞うけど、わたしには分かるもん」


「…………それがなんだって言うの? 結果的に当麻はあんたを選んでる、…当麻が何をしたかなんて関係無い、…あんたの言い方は当麻に抱かれた事があるって自慢してるようにしか聞こえないのよ…!!」


「……そうかもね、……でも聞いてほしいんだよ、…みことが悩んで悩んで…とうまが好きで好きでしょうがないのと同じで、……わたしもとうまの事が好きだから」


「…………」


「……みことには分からないの? ……とうまはみことの事も好きなんだよ?」


「………っ……!!」

654 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 11:13:58.17 MDEfKviDO 361/519



インデックスの言葉を聞いた美琴は奥歯を強く噛み締める。


当麻は自分の事も気に掛けていた。


…当麻は自分の事も好き。どれも、自分が聞きたくて仕方が無かった言葉。



…だが。



「………ふざけんな」



…ならば何故?



「ふざけんな…!!」



…どうして?



「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



なんで……自分には、彼は優しくしてくれないの?


美琴はあらん限りの力で叫ぶ。


「ふざけんじゃないわよ!! …なんであんたがそれを言うの? …私が聞きたいのは当麻からだ…!! あんたが言ったって!! あんたに慰められたってちっとも嬉しくない!!」


「…っ…みこと!!」


「さっきも言ったはずよね!? あんたは私を見下してるって!! あんたが居るから私は辛いんだって!! …あんたが本当に私を可哀相だと思うなら当麻の傍から消えろ!! それが出来ないなら下手くそな慰めなんて吐き出すな!! どんな言葉を使ったってあんたには私は救えないのよ…!!」

657 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 11:34:25.73 MDEfKviDO 362/519

「………もういい、あんたとこれ以上話す事なんて無い」


美琴の身体から紫電が弾け始める。


「…もうみんな私が思い出した事知ってるんでしょ? …だったらもう良い。…邪魔が入る前にあんたを殺す」



「……みこと」



辺りを電撃の光が照らす。


「後の事はその時考えれば良い、…こいつさえいなければどうにでもなる」



美琴自身でも制御しきれない程の電撃を身に纏いながら、インデックスを憎しみに満ちた瞳で睨み付ける。



「…っ!? お姉…様!!」


「……あんたは黙ってなさい」


制止しようとする黒子を一言で黙らせ、…さらに能力の出力を上げる。


人に当てれば、ほぼ間違い無く死ぬであろう程の威力だろう。

658 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 11:45:34.03 MDEfKviDO 363/519



「…………じゃあね」


「………っ…」



美琴から極大の電撃の槍が放たれる。


インデックスは瞳を閉じて…その必殺の一撃が自身に届くのに備えた。



…そのくらいしかインデックスに出来る事は無い。

659 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 11:55:29.90 MDEfKviDO 364/519

「…………?」


…しかし、インデックスが電撃に襲われる事は無かった。


確認出来たのは、誰かが駆けつける足音と…。


何かを破壊するような…、バキンッという辺りに響く音。



「…………大丈夫か、インデックス?」



そして、彼の…今はもう、愛してるとはっきりと言える彼の声だった。



「………とうま…!!」


「……………当…麻!!」


「すまない…少し遅れた」

661 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 12:09:51.46 MDEfKviDO 365/519

上条当麻の右手によって、美琴の放った電撃は跡形もなく消え失せた。


「…………怪我は…無いみたいだなインデックス」


「……うん、わたしは平気かも、…でもしらいが」



インデックスの指し示す方へと目を向けると、白井が倒れながら血を流しているのを確認する。


「……白井、…また迷惑かけたみたいだな」


「……まったくですの」



短くそれだけ会話をする。


…それから、もう一人…御坂美琴の方を向いた。



「……………御坂」


「…ぁ……う……!」



美琴は、まるで悪戯がばれた子供のように…震えながら上条から目を逸らしている。

665 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 13:02:50.07 MDEfKviDO 366/519

「………御坂」


「………」


上条の呼びかけに反応しない美琴。


ただ、泣きそうな顔のまま震えている。



「…………」



上条は、美琴のその様子に…自分自身のふがいなさを再度確認させられる。



彼女が白井を傷つけてしまったのも。


インデックスに悪意をぶつけ、殺そうとまでしたのも…。


…彼女自身がここまで壊れてしまったのも。



(……全部、俺のせいだ)



彼女なら、立ち直れる…、彼女は強いから大丈夫と決めつけて、突き放した自分のせいだ。



「……………」



ゆっくりと、上条は美琴に近づいて行く。



「……っ…ひ…」



美琴は俯いて小さく悲鳴を上げる。


…彼女はこれ以上、彼に拒絶される事を酷く恐れていた。


こんな所を見られてしまったのだ、…またあの嫌な想いをしなければいけないと、…また突き放されると思って。


だから、美琴は恐怖のあまり…震えるしかなかった。

667 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 13:13:07.48 MDEfKviDO 367/519

上条は美琴の目前まで、すぐに触れ合える程の距離まで近づいた。



「………っ……」



美琴は未だに何も出来ずに居る。


逃げる事も。


罵倒する事も。


そして上条は、少し間を置いてから口を開いた。



「………美琴」



彼女の名前を告げる為に。

668 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 13:39:06.68 MDEfKviDO 368/519

「……………!!」



それを聞いて顔を上げる美琴。


上条は、上を向いた美琴の顔を見つめる。


…酷く、思い詰めた顔に見えた。


そして、…今にも泣きそうな瞳をしていた。


しかし、それでもその顔は可愛いらしく、綺麗だと思えるものだった。


「…………悪かった」


「………」


「……俺は、お前の気持ちを完全に無視してた、……自分の事だけばっかりで……他の事に気づけなかった…」


「……当…麻」


「……お前が、…美琴が苦しんでる事も気づけないでいた、……赦されるとは思ってないけど……俺には謝る位しか出来ないから」


「………あ…ぅ…!?」



上条は腕を美琴の背中に回して、強く抱きしめた。



「……これ以上、壊れないでくれよ……お願いだから…!!」


「……当…麻…!」



上条は美琴を抱きしめたまま、彼女に願いを伝える。



「俺を殺したいなら殺しても良い…! だから…もう誰も傷つけないでくれ!」

669 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 13:57:13.46 MDEfKviDO 369/519

「…………ずるいよ」


美琴はようやく…その一言だけ呟いた。



「…私の事を選ぶつもりも無い癖に! ……なんであんたは優しくすんのよ…!!」


上条の背中に腕を回しながら、強く力を籠めながら……美琴は言葉を紡ぐ。



「……ずるいよ! ……ホントにずるい…!! ……なんでここまで来てから優しくなるの? …こんなんじゃ決意が鈍るじゃない…! 止まっちゃ駄目なのに……止まるしかないじゃん!! …ずるいよ!!」


「………美琴」



上条に抱きしめられながら、それに縋り付きながら……大粒の涙を、上条の肩に染み込ませる。



「馬鹿……!! ホントに馬鹿…!!」


「……そうだな」



それから、美琴は子供のように泣きじゃくり、…上条はそれを泣き止むまで美琴の傍を離れなかった。

672 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 14:23:01.15 MDEfKviDO 370/519


 route b epilogue

……数週間後。


「………じゃあ、インデックスを頼んだぞ神裂、…ステイル」


「…分かっています、心配しないで下さい」


「君に言われるまでもない」


「…………とうま」


「……インデックス」


「………やっぱり、とうまと一緒に居たいんだよ」


「…………俺もだよ」


「………とうま」


「…でも、今は仕方ないんだ……それはもう二人で沢山話し合ったろ?」


「……うん」


「……俺は今はただの…何の責任も取れない子供なんだ、…せめて学校を卒業して…自分自身で全部出来るようにしないと俺もお前も…幸せになんかなれないんだから」


「………うん」


「………だからさ、…少しの間だけ待っててくれインデックス。…必ず迎えに行くからさ」


「………とうま…!」


「…インデックスも…ちゃんと元気な赤ちゃん産んでくれよ?」


「………うん…!」


「………俺が学校を卒業して…自分の力だけでお前達を守れるようになったら………」


「………」


「…………結婚しような、インデックス!」


「…ふぇ…とーまぁぁ!!」


「……うお!? 人前!! みんな見てるから!? 上条さんは嬉しいけどちょっと恥ずかしいですよー!?」


「……バカップルですね」


「……やれやれだな」

675 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 14:56:21.78 MDEfKviDO 371/519

………

とある病院の一室にて。


「…………お姉様?」


「……黒子……その…」


「……停学が明けたのですか、……まあlevel5の超能力者にして常盤台中学のエースとなれば退学は当然無し、…それどころかかなり軽い罰で済むとは思っておりましたけれど」


「…………」


「………暗い顔ですの、お姉様には似合いませんの」


「…………黒子…ごめ…」


「謝罪ならもうとっくに戴いてますの、それよりもその辛気臭い雰囲気をどうにかして下さいまし! せっかくお姉様と久しぶりにお会い出来たというのに黒子は幻想をぶち殺された気分ですの!!」


「………うん…そっか…ゴメン」


「……まだちょっと無理がある笑顔ですがまあ良いですの……先程は少々意地が悪い事を言ってすいませんですの」


「…ううん、大丈夫」


「……辛かったらいつでも黒子に頼って下さいましね? お姉様」


「……うん、ありがと」


「……はぅ!?」


「っ!? 黒子!?」


「…あがががが!? 疼きますのぉぉ!! 助けて下さいましお姉様ああああああああああああ!!?」


「なに!? 一体どうしたの黒子ー!?」


「疼くんですの!! お姉様ああああああ!! 摩って下さいまし!! 黒子の指示した所を摩って下さいましぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「ええっ!? 何処!? 何処を摩れば良いの!?」


「お姉様に刺された傷の辺りを丹念にしっぽりとお願いしますのぉぉぉぉぉぉ!!」


「………………えぇー」


「……あー痛いですの痛いですのー傷が摩ってくれないと疼いて仕方ないですのー!!」


「………後で覚えてなさいよ…!」


「出来るもんならやってみろですの!!」

677 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 15:15:25.83 MDEfKviDO 372/519

……


「……ようカミやん! 何を黄昏れてるんだにゃー?」


「…ん、ちょっとな」


「……やっぱり淋しいか?」


「……そうだな」


「まあ、事の発端はカミやん自身だからな、多少の事は我慢するんだにゃー」


「わかってるさ…ただ、インデックスはどうなのかなってな」


「それなりに楽しくやってるみたいだぜい? つか連絡位取ってんダロ」


「…なぜか電話にはステイルが必ず出てインデックスに取り繋いで貰えない…」


「……姑息な嫌がらせですたい」


「…インデックス~」


「……そんなカミやんに朗報だにゃー、……これが何か分かる?」


「……!! イギリス行きの航空チケット!? すごいや土御門!! 世界で5番目位に愛してるー!!」


「…気持ち悪い事言わないで欲しいぜい、…ただしこれは成功報酬だぜい?」


「……へ…?」


「………期待してるぜい幻想殺し」


「………まじか」


「恋人に逢いたいならそれなりに苦労するべきだぜいカミやん?」

678 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 15:27:46.51 MDEfKviDO 373/519



「……ん、おーす」


「ん…あんた今帰り?」


「ああ、ちょっと補習の方をですね…」


「…相変わらずねー」


「お前こそちょっと遅くないか? もう少しで完全下校時刻だってのに」


「うん、ちょっと黒子の所行ってたから」


「…そっか」


「……あんたさ」


「…ん?」


「…どうして私の事まで気に掛けてたの? あの子の事が好きなら……私の事なんてほっとけば良かったのにさ」


「………んー」

679 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 15:46:38.71 MDEfKviDO 374/519



「……これ言ったら浮気にならねーかな?」


「………?」


「…うーん…聞きたいの?」


「そりゃあ…まあ…ねぇ」


「………えぇー」


「何よそれ!? そんな風にされたら余計に気になるじゃないの!!」


「ああはいはい…わかったよ、わかったからびりびりするの止めましょうね?」


「……う~!」


「…まああれだ……俺はお前の事も好きだったからだよ」


「………っ!」


「……あれ? 気づいてなかったの? てっきり伝わってるものかと…」


「…………言われてないわよ」


「……えー、上条さんとしては結構揺れてたんですが…?」


「………」


「恐いから睨まないで…」


「……はー、私もあんたの事鈍いだのなんだって馬鹿に出来ないって事か」


「……えーと、美琴さん?」


「……“だった”ねぇ」


「……ん?」


「…なんでもない! …じゃあまた今度ね!」


「ん? ああ、またな!」


………


「好き“だった”か…、こりゃ完全に失恋だわ」


「……やれやれね………………ばーか」

680 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 15:49:17.32 MDEfKviDO 375/519




   HAPPY END




683 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 15:57:06.67 MDEfKviDO 377/519

はい、これにてルートBが終了でございます。

まさか一本しかないHAPPYをいきなり選ぶとはなかなかやりますな。

残り二つはもう救いようのないBAD ENDですのに。

では…

1.まずはインデックスを捜さないと…!

×この際だ、御坂にも手伝って貰おう。(HAPPY END)

3.……御坂の事が気になるな、……インデックスはひとまず神裂達に任せておこう。

安価>>700
また遠めに取っておきます。
ではノシ

700 : VIPに... - 2011/04/17 16:51:30.63 U4DrodlAO 378/519

3なんだよ!
なんかエロそうなんだよ!

703 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 16:58:58.27 MDEfKviDO 379/519


18 C


……御坂の事が気になるな、……インデックスはひとまず神裂達に任せておこう。


「……いや、やっぱりそっちは後で大丈夫だ」


「ん…そうなの?」


「ああ、…それより御坂、今から少し話出来るか?」


「え…うっうん、平気」


「…そっか、ならどっか落ち着いて話が出来る所が良いな……近くの店でも入るか」



上条は辺りを見回しながら歩き出す。



「……………」



美琴は、その上条の後ろ姿を見ながら呟いた。



「……どういうつもり?」



それを耳にした上条は、立ち止まり、ただ一言だけ告げた。



「…大事な話があるんだ」



それから、再び歩き出す。


「………」



美琴は黙って上条について行った。

704 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 17:00:22.86 MDEfKviDO 380/519




「……それで? 大事な話って?」


上条と美琴の二人は近くにあった喫茶店にの中に入り、向かい合うように座る。

「…お前の事、全部聞いた。…あの時何があったのか全部」


「………………」



上条の言葉を黙って聞く美琴。



「そして…俺と会うまで俺とインデックスの事を忘れてた事も」


「……………………」



美琴は表情を全く動かさない。



「………すまなかった」



上条は謝罪する。


こんな事になったのは、…自分の責任だ。


美琴が傷ついたのも。


そのせいで記憶を閉ざされていた事も…。


全ては自分の決断が招いた事だ。


「…だから、すまなかった」

705 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 17:10:51.89 MDEfKviDO 381/519



「…………それだけ?」


謝罪の言葉を口にする上条に対して、美琴はそう呟く。


「……当麻は、謝る事しかしないよね、…私はそんなものが聞きたいんじゃないのに」


「………御坂」


「……謝れば…赦されるの……?」


「………ッ」



美琴の言葉は、どんな凶器よりも鋭く、上条の胸に突き刺さる。


「全部知ってるなら…、私が望む事も分かるでしょ?」


「…………御坂」


「……嫌、……名前で呼んで」



上条はそれを無言で返した。


そして……。

706 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 17:37:37.35 MDEfKviDO 382/519


 19 C

「……何か用かよ?」


一方通行は、自室のソファの上に寝そべりながら、携帯電話から聞こえる声に応答した。


『……上条当麻をロストしました、…勝手な願いですが捜索の手伝いをお願いします一方通行』


「……どういう事だ? あの野郎またなンか面倒な事に首突っ込ンでやがンのかよ?」


『……確かに面倒事でしょうが…相手は御坂さん…超電磁砲です』


「……第五位の“蓋”はどうした」


『…数日前に彼自身の手で壊されています』


「……チッ…面倒臭ェな」



一方通行は怠そうな動きで身体を起こす。



「…海原、テメェは土御門と一緒にあの白いチビを保護しとけ、…あの馬鹿は俺が捜す」


『…既にそのように動いています、ただ…まだ発見出来ていませんが』


「……急いで捜せ、発見が遅れたらその分死体になってる確率が上がると思え」


『…わかりました、……では彼の方はお願いします』

そこで通話は切れる。


いつも通りの澄ました感じの声だったが端々に焦りのようなものが感じられた。


「……馬鹿が」


一方通行は誰にでもなく毒づいた。


「…どいつもこいつも大馬鹿野郎だ」

707 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/17 17:57:31.51 MDEfKviDO 383/519


 19-2 C

……そして、美琴の身体から強力な…人体に直撃すればほぼ間違い無く感電死するであろうほどの電撃が撒き散らされる。


「…く…っ!?」


上条は咄嗟に右手を掲げ、その電撃を打ち消した。


それで上条自身は事なきを得たがそれ以外の所は黒く焦げて、煙りを上げる箇所もある。…完全下校時刻を回っていた為か、店の中でも人が周りに居ない事は不幸中の幸いだった。


「………御坂…!」


「…当麻が悪いのよ」



俯いたままでゆっくりと席から立ち上がる美琴。


その抑揚のない呟きは、上条の背中に冷たいものを感じさせた。



「……もういいや、私に辛く当たる当麻なんか…………」


「…………御…坂…?」


「……少し壊せば……、私に優しくなってくれるかな?」


「…………っ…!」


「………試してみよ。……どうせ今の当麻は優しくないし」

733 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 16:14:47.28 vvCDkAgDO 384/519

「っ…まずい!!」


上条は美琴のただならぬ雰囲気に、かなりの焦燥感を覚えた。


あまり人が居ないとはいえ…今二人が居る所は普通のファミレスだ。


先程の電撃では誰も被害に遭わなかったが…次もそうだという保障は無い。


(……ここに居るのはやばい…!!)


「………!」


上条はそう判断した瞬間に、先程の電撃で割れてしまっていたウインドウガラスを飛び越え、路上に出る。そしてすぐに、人気の無い方向へと走り出す。


「……ふ~ん? 久しぶりに追いかけっこするの?」


美琴は上条と同じく窓から路上に出て、上条の走る方向に顔を向ける。


「………♪」


自分の姿を見失わせないようにしているのだろう、上条は走る速度を緩めてこちらを振り返っていた。


「…いいわよ? 付き合ってあげる」


美琴は楽しそうに笑う。


「今日こそ捕まえてやるから覚悟しなさいよね…!」

734 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 16:39:38.81 vvCDkAgDO 385/519


 20 C

「………これは」


「……何かあったのかな?」


インデックスと白井の二人はあるファミレスまで足を運んで来ていた。


そのファミレスは、店内の一部が黒く焼け焦げ…ウインドウガラスも爆ぜるように砕け散っていた。


「……まさか…!」


「………しらい?」


白井は店内の惨状が誰の仕業なのかをすぐに推測した。


「……お姉様…!」


焼け焦げたテーブルや椅子はほぼ間違い無く電撃による物だ…。


そして、今の美琴の心理状態ならば…何かのきっかけでこのような行いをする可能性は極めて高いと思えた。


「…これは…みことがやったの?」


「………」


無言で頷く白井。…こんな事を…しかも店の中をこれほど破壊する威力で放てる人物はそれしか考えられなかった。


「………とうま!」


インデックスは彼の名前を口にした…、直感的に彼の身が危険だと思えて仕方ない。


「…多分、それで合ってますわね…!」


インデックス達が未だに二人で居るのは、美琴と再び話をする為だ。


インデックスから事情を聞いた白井が一人で行くのは危険と判断した為だった。

735 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 16:56:44.98 vvCDkAgDO 386/519

「……これはまずいですわね」


白井は美琴の心理状態がこれほどまでに危険な状態だとは予測していなかった。


(……話し合うだけならこのシスターさんと会わせても…わたくしがついていれば大丈夫だと思いましたが…!)


今、美琴はあの少年に揺さぶられてかなり危険な状態のはずだ、…そこにもう一つ起爆剤を投入するような真似は避けるべきだった。

「……インデックスさん? 今はお姉様と貴女が会うのは控えた方が良いと思いますの……ここはわたくし一人でお姉様を探して…………ってぇ!? 居ないですのーーー!!!?」


先程まで隣に居たインデックスはいつの間にか消えていた。


「…まさか一人でお姉様達を探しに!? た…たた大変ですの!!」


白井は慌ててインデックスを捜す…が、あのシスターは想像以上にすばしっこく、既に周辺には影も形も無かった。


「こ…こんちくしょーーー!!!! やる事増やさないで下さいましぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


白井の絶叫は虚しく響くだけで、誰も応答してくれなかった。

736 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 17:28:54.74 vvCDkAgDO 387/519


 20-2 C

「…ハァ…ハァ…! …くそ!」


上条は人気の無い裏路地を走りながら毒づく。


上条は本気で恐怖していた。


「………っ!? …上!!」


頭上からの気配を感じ取り、足を止めて右手を上にかざす。


直後、学園都市第三位の通称の由来となった一撃が上から下に向けて放たれた。


「………ッッ!!」


超電磁砲<レールガン>。


音速の三倍のスピードで放たれる、御坂美琴の能力の中でも最大の威力を持つ一撃。


…だが、その一撃も上条の右手、幻想殺し<イマジンブレーカー>が受け止めた瞬間に、何かを砕くような音と同時に消え失せる。


「……くっ…!?」


しかし、上条はそれで気を緩める事は出来ない。


超電磁砲を消した次の瞬間には、もう次の攻撃が襲ってくるはずだった。


上条は、逃げながら…既に三回、超電磁砲をフェイクにした連携を捌いている。


…それは、回を増す毎に正確な攻撃となって行く。


「痛…っ…う…!」


背後から飛んで来た物体を避け切れず、肩を掠める。


恐らく電磁力で金属製の物を操っているのだろう。…飛んできた物はマンホールの蓋だった。


「……ち…くしょう…!」


本気だ。


御坂美琴は…本気で自分を壊すつもりだ。


「……御坂…!!」


その事に、上条は本能的に恐怖を覚える。

737 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 17:50:02.14 vvCDkAgDO 388/519

「……さて…と、…次どんな風にやろっかな…♪」


上条の真上、地上から十数メートル程度のビルの屋上から下を見下ろしながら、ほくそ笑む美琴。


彼女は上条を攻撃しながら、努めて冷静に状況を分析する。


「…当麻の能力を消す力は右手首から先、…つまりそれ以外は何の能力も無い。……それが解っていればいくらでも対処できる」


足元に居る彼は、攻撃が止んだ事で、再び走り出す。


…しかしその動きは何処か痛々しい、…恐らく先程の攻撃を捌き切れなかったのだろう。


「…後、純粋にただの物体は消せない…と」


美琴は上条を追い詰めながら…確実に彼を倒す方法を思案する。


「…今までは頭に血が登ってまともに考えて無かったからね……そりゃ勝てないわよ」


過去の…彼との戦績を思い出しながら笑う。



「……今日…勝ったら少しは見直してね?」



「…当麻」

738 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 18:08:45.26 vvCDkAgDO 389/519


 21 C

「………ここは…?」


上条が逃げながら入り込んだ所は…人が出入りしなくなって久しい寂れた雑居ビルだった。


(……御坂…は、俺がここに入ったのに気づいたか?)


上条がわざわざ逃げ場の無いビルの中に入ったのは、…美琴の攻撃に人が巻き込まれる事を恐れた為と…もう一つ。


(…外を逃げ廻ってもじわじわ遠距離からなぶり殺しにされるだけだ…! なら多少危険でも近寄れる所じゃねえと…!)


上条は本気で掛かって来る美琴の攻撃に相当苦しめられていた。


今までのじゃれあいのような攻撃とは比較にならないほどの正確な戦法。…はっきり言って、完全に油断していた。


(…流石学園都市の第三位って事か)


今まで自分はこれを遇っていたと言うのが信じられなくなりそうだった。


…それほど、今の御坂美琴は全力を出している。

739 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 18:33:36.50 vvCDkAgDO 390/519

「…当麻」


背後からの声。


…それに上条は、身体を強張らせた。


「……随分あっさり追いついたな、…御坂」


振り返って上条は声を掛ける。


「…追いついた…ねぇ? …やっぱり当麻よりは私の方が頭良いよね」


にっこりと微笑みながら美琴は告げる。


「…当麻がこういう所に逃げ込むの分かってたから先に入ってたんだけど?」


「………っ!」


「私ね? 当麻の考えそうな事ならだいたい分かるよ? …私が暴れれば当麻は周りに被害がでないように絶対に人が居ないような所に逃げ込むとか…」


「………」


「私を止めるには近づく必要があるからなるべく狭い所を選ぶとか…ね?」


「…お見通しって訳かよ」


上条は自分の考えを完全に読まれていた事に驚愕する。


「うん、だって…当麻の事はずっと見てたもん!」


…美琴は無邪気に微笑む。


「ずっと見てたから、私は当麻の事ならだいたい分かる」


微笑みながら…静かに涙を流し始める。


「分かっちゃうのよ…! …当麻は…もう私の事を好きになってくれないって………!! …大事な話があるって言った時の当麻の顔は…私にそう言ってたもん!!」


「………御坂…!」


「だから壊す!! 今の当麻を壊して…!! 新しい当麻になって貰うんだ…!! 私の事を好きになってくれる当麻に!! 私に優しくしてくれる当麻に!! ……私をちゃんと見てくれる当麻に!!!!」

740 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 18:54:07.62 vvCDkAgDO 391/519

美琴が叫んだ直後、彼女の身体からこれまで見た事が無いほどの規模で、紫電がほとばしる。


電撃の槍。


彼女の中では最もシンプルな能力の使い方だ。


だが、…その一目でそれが相当危険な物だと解る。


彼女…御坂美琴の最大出力は10億ボルト。


右手で受け止めなければ、確実に絶命するだろう。


上条は右手を振りかざす。


電撃の槍は、超電磁砲の速度を遥かに凌駕する。…はっきり言って回避は不可能だ。


「…ぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」


美琴の叫び声と共にそれは放たれる。


「………ッッ!!」


放たれた電撃を右手で消す…だが。


「…ッ! …御…坂!!」


消した直後を狙って、畳み掛けるように再度電撃が放たれる。


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」


右手が消して、消されれば直ぐさま電撃を放つ。


それを繰り返す。

741 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 19:21:17.92 vvCDkAgDO 392/519

「…!! 御坂っ!! もう辞めろ!!」


上条は動けない。


動けば即座に電撃の餌食となる。


「…っ……御坂ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


あらん限りの声で叫ぶも、美琴はそれを聞こうとしない。


このまま彼女が攻撃を続ければ…どうなる?


…普通に考えれば、最後には身体に限界が来て身動きが取れなくなる程度だと思う。


…だが、今の彼女はそれで止まるのだろうか?


限界を超えてでも、命を削ってでも辞めないのではないだろうか?


「…………ッッ!! 御坂ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


「………一応心配はしてくれるんだ?」


美琴は叫ぶ事を辞めて、小さく呟く。


「…でも、もう遅いよ」


「………み…っ!」


上条の声は、肉に何かぶつかる音と、彼の頭部を襲う衝撃によって中断される。

「…だって、もう当麻の事壊しちゃったもん」


上条には既に、美琴の声は聞こえない。


彼は、上条当麻は頭部から血を流して倒れ伏した。


美琴は電撃の槍を放ちながら辺りに転がっていた鉄筋入りのコンクリートの塊を上条の頭部…左目の辺りに電磁力を使いぶつけた。


右手が塞がれた状態からのその一撃は、上条の意識を刈り取るには十分だった。

「………勝った」

美琴は呟く。

そして…。

「…………………あは…、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッ!!!!!」


泣き叫ぶように笑い声をあげる。


その瞳は未だ涙で濡れている。

744 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 20:12:37.40 vvCDkAgDO 393/519


 22 C

「…………」


上条と美琴が戦った雑居ビルに、一方通行が訪れた時には二人の姿は既にに無かった。


(…………この出血量、…致死量じゃあねェが…負傷箇所によってはかなり危険だな)


彼の足元に転がるコンクリートの塊に付着する血液を見て、おおよその推測をする。


「…………」


一方通行はその場を離れ、捜索を続行する。


この場所に居ないのならば長居は無用だ。


(…………あの馬鹿…幻想殺しが危険な可能性があるのになぜ学園都市は動いてねェ?)


雑居ビルから外に出て、携帯電話を取り出す。


(………解せねェな)


ボタンを操作して登録してある番号の一つに掛ける。


『…見つかったのか?』


電話の相手は繋がるとすぐにそう問い掛けてきた。


「…まだだ、戦闘の跡なら見つけたがな」


『……ならなんの用だ、こっちも禁書目録の捜索であまり余裕が無い、なるべく手短に頼むぞ』


電話の相手…土御門元春はいらついたように話す。…だが一方通行にとって電話の相手の心境など気に掛けるに値する事では無い。

745 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 20:15:18.49 vvCDkAgDO 394/519


「…今回の事、何故上は動いてねェ? 知ってるなら話せ」


『……』


沈黙する土御門。…しばらくしてから重たそうに口を開く。


『…俺も確信がある訳じゃ無いが……』


土御門は…それを言葉にする。


『                   』 


「………っ!!」


一方通行はそれを聞いた直後、赤い眼を空に向け…睨みつける。


「…クソ野郎が…!!」


…その先にあるのは、窓の無いビルだ。


そこは、学園都市統括理事長…アレイスターの居る所だ。

746 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 20:36:56.81 vvCDkAgDO 395/519


 22-2 C

「…とうま、…みこと!」


インデックスは街を走りながら、必死に二人を探していた。


どうして上手く行かないんだろうか?


彼も。


彼女も。


…そして自分も。


ただ、幸せになりたい。


そう願っただけなのに。


「……とうまぁ!!」


彼は、確かに過ちを犯した…。


でも…もう赦されても良いはずじゃないだろうか?


彼が傷つけたのは、自分と…彼を好きなもう一人の少女だ。


自分は、もう彼の事を赦している。


あの時の行いで、自分は身篭る事になった。


不安だし…恐いと正直に思う。


でも、同時に…嬉しく思えたのも事実だった。


彼と自分の子供。


確かに、彼が望んで出来た子では無い。


でも…それでも、彼の子供なのだ。


その事実だけは、自分には素晴らしい事に思える。


それは…おかしい事だろうか?


…自分は、そうは思わない。

747 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 20:59:55.20 vvCDkAgDO 396/519

「……みこと…!!」


彼女も、彼は必要な存在なのだろう。


しかし…気づくのが遅すぎた。


だから、彼女は壊れてしまった。


…自分にも、責任がある。


彼を、彼女から引き離したのは自分なのだから。


彼が自分を選んでくれた時、自分は嬉しくて仕方がなかった。


…でも、その陰で彼女は泣いていた。


自分はそれに気づきもしなかった。


…彼の傍に居られる事に浮かれて…気づこうとしなかった。


彼女は、今も泣いているの?


…わたしはどうすればいいの?


……とうまは、どうするの?


…何度も答えを探しても、正解と思える答えは出て来ない。


「……なんで、誰かが傷つかなくちゃいけないの?」


その問い掛けに答えられるのは、居るのだろうか?


…きっと、神さまだって分からないと思う。


「……わたしはもうシスター失格かも…?」


ふと出て来た考えにそう漏らす。


別に、…それでも良いと思う。


救いを差し延べられない者に…聖職者を語る資格は無いと思うから。


彼も、…彼女も救えない自分は聖職者とは言えないだろう。

748 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 21:28:28.54 vvCDkAgDO 397/519

「…ハァ…ハァ…、…とうま…もしかして部屋に戻って来てるかも…?」


走り続ける内に、いつの間にか上条の寮の近くまで戻って来ていたようだ。…目の前に彼と過ごした…彼との思い出に溢れた場所があった。


「………とうま」


最近になってようやく覚えたエレベーターの使い方。


…彼は面倒臭そうにしながらも根気よく教えてくれた。


「…………」


エレベーターを降りて、彼の部屋まで続くテラスを歩く、彼が学校に行った後は見えなくなるまで彼の姿をここで眺めていた。


…他にも沢山思い出がある。


自分にはここに来る前は一年分の記憶しか無い。


…だから、ここでの思い出は自分の思い出の大半を占めると言っても良い。


………否、そんな事が無くても…きっと大切だったと言えるはずだ。


それくらい、…自分はこの場所が好きだった。


そして、…彼とここで暮らすことが幸せだった。


「………とうま」


全部、…彼がくれたんだ。

……だから。


彼の部屋の扉を開ける。


大好きな、彼と出会った。


大好きな、彼に貰った自分の居場所。


…大好きな、彼と愛しあえた場所。


「……とう……ま」


「……お帰りなさい」


そこには、一人だけ人が居た。


「………みこと?」


…御坂美琴。


彼女は満面の笑みでインデックスを迎える。

754 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 21:52:52.69 vvCDkAgDO 398/519


 23 C

「………ぅ………?」



インデックスがうっすらと意識を取り戻すと…そこは薄暗く、窓も無いような小さな部屋だった。


(………ここ…は?)


意識がはっきりしない。


霞んで良く見えない瞳を擦ろうとする…が。


「………っ…!」


…自分が何か、手錠のような物で拘束されている事に気づく。


「…………なに…これ?」


インデックスは訳が分からない。


何故自分は意識を失っていたのか、…そして何故、身動きが取れない状態なのだろうか?

756 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 22:22:08.98 vvCDkAgDO 399/519

「………ん……ぁ…」


「………っ…?」


インデックスは何かくぐもるような…妙な囁きを耳にする。


…丁度インデックスの真後ろ辺り、…今向いている方向からは見えない位置から聞こえる。


「………」


身体をよじり、向きを変える。…ようやく見えるようになってきた瞳で……その声の元を見た。


「…っ…!! …あ…ぅ…!?」


直後、インデックスは…自分の見た光景を現実と認識するのを躊躇った。


「………ん………、…やっと起きたんだ?」


「…ぁ……あ…!?」


先程の声の主…御坂美琴がインデックスに語りかける。


インデックスは震えるように首を振る。


「……ああ、…ちょっとやり過ぎちゃったのよね」


美琴はインデックスの反応を見て、…何に困惑しているのかを察知する。


「……でも仕方ないじゃん、…こうでもしないと当麻は言う事聞いてくれないもん」


美琴はそれに擦り寄りながら、悪戯っぽく微笑む。


「………と…う…っ!!」


美琴の擦り寄るそれ…上条当麻は、…血だらけの状態で、…顔の半分が赤黒く…潰れたようになっていた。

瞬間…インデックスの悲痛な叫び声が部屋の中で響いた。

757 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 22:37:10.68 vvCDkAgDO 400/519

「とうま!? とうまぁ!! …う…とうま!!」


ボロボロと涙を流しながら、必死に名前を呼ぶ。


「………」


…だが、上条はなんの反応も示さない。


「…と…っ…ぅ……ま…!」


彼に近寄ろうと必死にもがく。…しかし、手錠は鎖で壁に繋がられてその場を動く事が出来ない。


「…あは♪ …良い気味よ」


インデックスの姿を嘲笑うように美琴が言う。


「…あんたは今まで幸せだったでしょ? ……だから交代よ」


…美琴は上条に絡み付くように肌を合わせる。


美琴は何も身につけておらず、上条も脱がされたのだろう…上半身は何も着ていない。

758 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 22:49:17.31 vvCDkAgDO 401/519

「…やっと捕まえた、……もう放さない」


美琴は上条の唇に…自分の唇を重ねる。


「……ちょっと血の味がするかな…? まあ仕方ない…か」


「ひっ…く…ぅ…とう…ま」


「……ちゃんと見てるのあんた? …見てくれないと何の為に連れて来たか分かんないんだけど?」


美琴の催促のような言葉。


…インデックスはもう美琴の考えを理解する事が出来ない。


「……まあいいや、こっちは勝手にやるから」


美琴はそう言って…再び上条に口づけをする。…今度は自分の舌を押し入れるように…強引な物を。

759 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/19 23:06:52.16 vvCDkAgDO 402/519

「……当麻……ん…!」


キスを続ける美琴に…上条の傷から滴る血がこびりつく。


…だが美琴はそれを気に留めもしない。


絡み合う内に、美琴の裸体は赤く染まり、錆臭い中に女の匂いが徐々に交ざっていく。


「……ぁ…ぅ…、ホントは…当麻にして貰いたいけど無理だもんね……ん…ぁ……!」


上条に跨がりながら自らの指で自身のそれを弄る。


「…ん…ぁ……当麻ぁ…!」


美琴の息が荒く、激しくなる…。


「…………」


…上条は何も言わない。


「……返事くらい……してよ……!」



上条の首を…強く絞める。


「…ぅ…が……ぁ…」


「……よかった、…まだ生きてるよね…♪」


「………ひ…ぁ…?」


インデックスはただ、その現実感の無い光景を眺める事しか出来ずにいる。

768 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 13:06:51.80 OktkxWBDO 403/519

「………当…麻…ん…」


「………ッ……」


美琴は上条の血に塗れた身体に、這うように自身の舌を滑らせる。


首筋…、鎖骨……、胸板。


「…当麻……ぅ…ん…」



上条の適度に筋肉の付いたその身体が、美琴の唾液によって濡らされていく。

769 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 13:13:00.80 OktkxWBDO 404/519


「………ぐ…っ…」



上条の身体には、細かい擦り傷や切り傷が無数にある。


汗と泥…血で汚れたそれらの傷にも美琴は唾液を染み込ませる。


上条が痛みの為か呻くように声を上げる。



「………ん…ぅ…ふ…ぅ……ぁ…、……当麻…!」



美琴は興奮したように彼の名前を呟く。


彼の汗の匂いが。


彼の男らしい身体つきが。


…彼と行為を及んでいるという状況が。


美琴の身体を疼かせる。

770 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 13:23:21.16 OktkxWBDO 405/519

「…とうま…みこと……!」


インデックスは瞳を覆いたくなる光景を目の当たりにしながらも、彼と…彼女に呼びかける。


「…お願いだから……やめて……!」


「………あは…♪」


美琴はその言葉を聞いてほくそ笑む。


「………ちょっとは私の気持ちわかってくれた?」


上条の胸元に頬を擦り寄せ…彼のモノをズボン越しに撫でる。


「………みこと…!」


「……止める訳無いじゃん、…せっかく捕まえたのに……馬鹿じゃないの?」

771 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 13:44:35.74 OktkxWBDO 406/519

「……とうま…!」


インデックスの言葉を聞き入れようとなど美琴はしない。


「………ずるいわよね、あんたは当麻と繋がった事があるんだから」


美琴は上条のベルトのバックルを外し、ズボンのチャックを下ろす。


「…でも…これで、やっとあんたに追い付ける。……………当麻」


…その中に美琴は手を滑り込ませる。


「…………これ…だよね?」


下着から…上条のそれを外に露出させて美琴は興味深そうに見つめる。


「………当麻」


初めて見る男性のモノに躊躇う事無く触れる。

772 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 14:01:38.40 OktkxWBDO 407/519

「………ぅ……」


上条が僅かに反応するのを美琴は見逃さない。


「……やっぱり気持ち良いのかな?」


…美琴はそれをぎこちない手つきで弄る。


「………っ……ぅ…」


「………ふーん」


美琴が弄ると、それは脈打つような反応をする。


次第にそれは大きく、硬く…そそり勃っていく。


「………見てよ、…別に当麻はあんたじゃなくても良いってさ…!」


「…………」


インデックスに向けて言葉を放つも、それにはインデックスは何も答えない。


…ただ美琴と、…彼に向けて悲しげな瞳を向ける。


「………つまんない奴」

773 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 14:26:13.61 OktkxWBDO 408/519

「……ん…もういいかな?」


「………………」


「………私のも……多分大丈夫……だよね?」


上条のモノに手を添えて…自身は腰を浮かせて、上条に跨がる。


「……ぁ…ん…!」


そして、上条のそれと自分の密所が触れるように、…繋がり易いようにする。


そのまま…美琴は少しずつ腰を沈める。


「…っ! …痛…っ…!」


何かが破れるような、膣に侵入させる事を拒むような痛みが美琴の身体を襲うが、…その痛みも、彼女にとって喜びを与える物だ。


「…あ…ぐっ………当麻…………ぅ…あ…!!」


喪失の痛みも、…彼によって与えられるのなら、性的な快楽とさして違いは無い。


「………当麻……!!」

774 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 14:39:01.82 OktkxWBDO 409/519

「……う…ん…、…全部…挿った」


「………ッ」


「…やっと…! やっと当麻と一つになれた……! ………当麻…!」


美琴の瞳から、涙が零れる。


痛みと。


喜びで…。


彼女の頬が濡れる。



「……当麻」


「………………」



物言わぬ彼と繋がりながら…。



彼女は…御坂美琴は再び告げる。





「…大好き、…当麻」

778 : しょーちゃん(愚者) ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 15:26:03.40 OktkxWBDO 410/519

「………もうやめて」


美琴の行いを眺めながら、インデックスは言う。


「……お願い……みこと………!」


だが、もう美琴はインデックスを意識していなかった。


「…あ…ぅ…! …い…ぎっ……!」


「………っ……ぅ…!」


掻き交ぜるように。

貪るように。


自分自身を汚すように。


痛みに引き攣る身体を無理矢理に動かす。


「…あぐ…っ…! …当麻……当麻ぁ…!!」


二人の繋がる部分から、愛液が混じる鮮血が溢れる。

血みどろの上条を、更に美琴の血が汚す。


「………お願い……だから……!」


インデックスはそれを見つめながら、決して届かない願いを呟き続ける。


「……とうまが…死んじゃう………お願いだから………みこと……!」

779 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 15:41:00.58 OktkxWBDO 411/519

「……あ…あん……ひ………ぐっ………当麻…! ………ん!」


乱暴に腰を振りながら、僅かに呻くだけの彼にキスをする。


痛みは徐々に薄れて、性的な刺激の方が強くなって行くのを美琴は感じていた。


「…ふ…ぁ…! …当…麻!」


「………っ……」


「…当麻…、…当麻! ……あふ…ん…!」


上条は何も言わない。


美琴にどんなに名前を呼ばれても…ただ、時折くぐもるような呻きをあげるだけだ。

781 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 15:55:01.89 OktkxWBDO 412/519

「……………ひ…っあ!? …あ! …すご……ん!!」


美琴の身体を一際大きな快楽の波が襲う。


「………っ…ぁ…!」


…それと同時に、上条も果てる。


脈打つように…美琴の身体の膣に放たれる。


「…あつ…い…、ん…! …………当麻……」


下腹部に熱を感じて、…美琴は動きを止めた。


「…ハァ…ハァ……ん、……………当麻」


そのまま上条に重なるようにもたれ掛かる。


繋がりが外れた二人のそれには…愛液と、美琴の血と、…彼の精液がこびりついている。

782 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 16:08:59.33 OktkxWBDO 413/519

「………………ス…」


「…………え……?」


美琴は、上条の囁く声を耳にする。


「…………当麻?」


上条を見下ろすように、少しだけ身体を起こして彼を見つめる。


…今、彼は何て言った?


………誰を、……誰の名前を呼んだ?


彼は、再びそれを囁く。


「……イ…ン…デックス…」美琴はそれを聞いて…。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」



「……ぁ……が…ぐ…」



彼の首を力の限り締め付けた。

783 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 16:15:26.98 OktkxWBDO 414/519

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

784 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 16:19:27.45 OktkxWBDO 415/519

なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?なんで私じゃ無いの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?どうしてあいつなの?

786 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 16:39:27.36 OktkxWBDO 416/519

「止めてみこと!! とうまが……とうまが!?」


「……………………………………っ!!」


美琴は奥歯を強く食いしばりながら、…あらん限りの力で首を絞める。


「…が…あ……ぐ…!」


「みこと!! とうまが死んじゃうよ!! お願いだから止めてよ!!!!」


インデックスは叫ぶ。


美琴の行為を辞めさせる為に必死で叫ぶ。



「お願いだから!! お願いだから!! ……みこと!!!!」


「…………………………………………五月蝿い」


美琴は上条の首から手を離す。


ゆっくりと立ち上がると……インデックスに向きあった。


「……………やっぱりあんたなの?」


「……みこ…うぐっ!」



美琴は、インデックスの顔を踏み付けるように蹴り飛ばす。


「……あんたが居るから当麻は私を呼んでくれないの?」

788 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 16:59:27.55 OktkxWBDO 417/519

もう一度。…倒れ伏しているインデックスの顔に蹴りを入れる。


「あぐっ! …み…こ…!」


口の中が切れたのか…、インデックスの口から血が垂れる。


「……………………………………」


美琴は何も言わず、何度も…何度もインデックスを執拗に蹴り飛ばす。


最初の数発は呻くように悲鳴を上げていたインデックスも、…何十発も顔を蹴られるうちに声を出せなくなった。


「……………………」


「………ぅ……」


床に、インデックスの血が滴る。


美琴の足にも血がこびりつく。


「…………と……ま」


顔の形が崩れるほどに痛めつけられ、口と鼻から血を垂らして…。


「…とうま…を…、病…院に……みこ…と…!」


それでも、彼女は…彼の身を案じていた。


「…………ムカつく……ホントにムカつく…!」


美琴は更にインデックスを踏み付けた。

790 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 17:13:25.45 OktkxWBDO 418/519

「………あんたさ、なんで顔守らないの? 手錠されてても腕で守るくらい出来るのに」


「……………」


インデックスは、美琴の言う通り、一度も顔を守っていなかった。


…インデックスの手は常に、…ある部分を必死に守っている。


「…………お腹なんか防いでも顔は守れないわよ?」


インデックスは顔を執拗に蹴られても自分の腹部から手をどけなかった。


「…………」



「………お腹……? ………………あんた、まさか」



「…………子供でも出来たの? ……当麻の子供が」

791 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 17:30:51.12 OktkxWBDO 419/519

美琴の言葉にインデックスは身体を強張らせる。


自身の腹部を…その中に宿る命を守るように、さらに腕で覆う。


「……くふっ、…あは……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!!!」


美琴は狂ったように、狂った自我をさらに狂わすように…叫び声のような笑い声を上げる。


「そっかぁ! そういう事だったんだ!? だったら仕方ないかな!? だって当麻ってそういう事に対して凄く真面目そうだし!! あはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」


インデックスは美琴の笑い声を聞きながら、恐怖する。…美琴はもう…止まらない、もう元に戻らない。


(………とうま)


「……じゃあ、それをどうにかすれば良いよね? ………その中にいるのを…さ!!」


彼女には、もう声は届かない。


(…助けて…とうま!!)

793 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 17:40:33.30 OktkxWBDO 420/519

………眠い。


……寝てる訳にはいかないはずなのに……。



意識が保てない……。



俺…は、…どうなった?


…………



なんで…、こんなに眠い?



眠いし……身体が動かない……。



俺は…………。



……やる事があったはすなのに。



必ずやらないといけない事があったはず……なのに。



……どうして、その事しら思い浮かばない…?



俺……は?

……………

794 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 17:48:37.13 OktkxWBDO 421/519

……マ…!


…………?


…ト………!


………声?


……誰…だ?


…と………ま…!


………なんで、聞こえてくるんだ?


……誰が…?


……とうま!


俺を……呼んでるんだ?


………眠い……。


…………………でも。


とうま!!


………呼んでる。


……そうだ……!


とうま……助けて!


インデックスが……!


俺を呼んでる……!!

795 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 17:58:03.24 OktkxWBDO 422/519

「う……が、がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


突然、背後から放たれた叫び声に美琴は驚き、そちらを振り向く。


「……っ!! 当麻!?」


美琴が振り向いたその先には、無理矢理手に嵌められていた手錠を外し、立ち上がる上条の姿だった。


「……ひっ…!?」


「…と…うま…!」



無理矢理に手錠を外した上条の右手は、肉が削れ……骨と思われる部分が露出していた。


「…イ…ンデック…ス…!!」

「…あ…ぅ……!?」

796 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 18:14:40.63 OktkxWBDO 423/519

「と…当麻…!?」


ふらふらと、覚束ない足取りで二人に近寄る上条。
全身血まみれで、顔の半分が醜く潰れ、…右手も肉が削げ落ちた姿で。


ゆっくりと、近づいて来る。


「…ひ……!?」


「………イン…デックス!!」


美琴は立ちすくみ、その場から動けない。


「……なん…で、…どうしてそこまで…!?」


「………」


「なんで私にはそうしてくれないの!? なんで私の名前は呼んでくれないの!? ……そこまでされてなんでこいつの為に動けるのよ!?」


「……………」


「私だって当麻の事好きなのに!! 私だって当麻の事ずっと呼んでるのに!! 私だって助けてって言ってるのに!!」


「……………」


「ちくしょう!! クソックソッ!! 私にも優しくしろ!! 私の事もちゃんと見ろ!! 私はここに居るのに!! 私はちゃんとここに居るのに!!」



「私の事も好きっ言ってよ!! 当麻!!」

797 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 18:44:30.26 OktkxWBDO 424/519

「………イン…デックス…を…放…せ……!!」


美琴の叫びに対して、上条の言葉はそれだった。


上条はの残る右目は…焦点が定まらず…何処に目を向けているのか判断出来ない。


…意識すらまともに保っているのか怪しく見える。


「…………………………………」


美琴は、そんな状態の上条を抱き寄せる。


「………なんで…言ってくれないのよ…?」


「………イ…ン……………………………」


上条の足から力が抜けて、倒れ込む。


美琴の手から滑り堕ちる上条の身体は………。

…驚く程冷たく感じた。

798 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 18:45:39.38 OktkxWBDO 425/519


「………とう…ま?」


「…………ぁ…う…?」


「………」


インデックスは近くに倒れた上条に触れる。


「……ぇ……?」


上条当麻は、もう動かない。


「…とうま……?」


上条当麻は、もう言葉を放たない。


「…と…っ…!! ……ぁ…?」


上条当麻は……もう笑わない。


「…あ…あ…、…………………あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?!?!?」


上条当麻は最後の力で立ち上がり…。


…そして、力尽きる。


後に残るのは、それを呆然と眺める御坂美琴と…。


叫び狂うインデックスの姿だった。

799 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 19:04:36.55 OktkxWBDO 426/519


 24 C

………それから数日後。


御坂美琴は特殊な施設に監禁されていた。


…あの日、その後の事はよく覚えていない。


しかし、はっきりと覚えている事が一つだけある。


…自分が、彼を殺したと言う事だ。


それ以外の事は…正直どうでもいい。


…彼以外の事なんてくだらなくて覚えていられない。

800 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 19:18:33.92 OktkxWBDO 427/519

「………少しはまともに喋れるよォになったかよ?」


監視する為に取り付けられた窓の向こうから声が聞こえてきた。


…一方通行。


かつて自分のクローンである妹達を大量に殺害した者が…ガラス越しにだがすぐ近くに居る。


でも、それも今となってはどうでもいい。


あの赤い眼を見ても、…なんの感情も湧いて来ない。

「………何か用?」


本当は話すのも億劫だが、一応対応する。


「……こっから出られるそォだ」


「……ふ~ん」


どうやらここから出ても良いらしい…どうでもいいが狭いのには飽きてきていたので丁度良いかもしれない。

801 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 19:30:06.52 OktkxWBDO 428/519

「…どうして出られンのか聞かねェのか?」


「……別にどうでもいいから」


「……………そォかよ」


何か言いたげな一方通行だったが…私がまともな返事をしないと判断したんだろう、…それだけで話を終わらせる。


「……海原、後はテメェで話せ……俺はもう手を引く」


一方通行が誰かと話している。


どうやらもう帰るつもりらしい…たった一言言う為だけにわざわざご苦労な事だ。


「…わかりました、では」


「…………じゃあな、糞っ垂れな第三位さんよォ」


「…………ふん」


一方通行と入れ違いに入ってきた人物は自分も知っている奴だった。

802 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 19:44:06.14 OktkxWBDO 429/519

「……言わなくても分かりますよね? …自分は偽物の方ですからね?」


そう笑い掛ける男。


…どうでもいい。


「……御坂さん、貴女の処分が決定したようです」


……処分、ねぇ。


「………ここに居たと言う記録は残さずに学校の方で謹慎処分を受けていたと言う事になるそうです。………つまり、今までの生活に戻れるという事です」


………そう、それで?


「……貴女は何もしていない、ちょっと校則を違反した位で後のお咎めは一切無しです…よかったですね」
……だから?


「………おかしいとは思わないんですか? ……仮にも人を殺したと言うのに」


……おかしいかもね、……でも思うだけよ。


ホントにどうでもいいもん。

803 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 19:54:27.63 OktkxWBDO 430/519

「……どうやら貴女はもう依然の彼女には戻れないみたいですね」

……だからなに?

「……残念です。…彼も哀しむと思いますよ」

…………………………………………………………………だから?

もう遅いでしょ?

もう当麻は居ないんだから……。

今更、謝って赦して貰えるの?

…違う、その前に誰に謝れば良いの?

当麻のお墓?

当麻の両親?

当麻の友達?


…それともあの女?

…違うよ。


だって…私が謝りたいのは当麻だけだもん。


……その当麻はもう居ないもん。

804 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 20:04:10.35 OktkxWBDO 431/519

「………一方通行が先程言っていた手を引くという言葉。…意味が分かりますか?」


…さあね。


「……貴女に何があったとしても…助ける事は無いと言ったんですよ」


……それが?


「…一方通行だけじゃありません、貴女を陰ながらに見守っていた人はみんな貴女から離れて行きます………残念ですが自分もです」


……だから、それが何?


「……もう良いです、……やはり貴女には彼の言葉しか届かないんですね」


…わかったるなら、ほっといてよ。


「……………さよならです、御坂さん」


…なんなの?


………なんなのよ。

805 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 20:16:20.53 OktkxWBDO 432/519

「……お姉様。とミサカは呼びかけます」


……今度はあんた?


「…ミサカは、お姉様の事が許せません。とミサカはミサカ達の意見を代表して告げます」


…………。


「確かにお姉様を止められなかった事は皆さん責任を感じています、…ですがお姉様が思い留まってくれさえすればこうは為らなかったのも事実です。とミサカは至極真っ当な意見を発言します」


そう…そうよね。


「……ミサカ達は言うならお姉様の分身です…ですからお姉様の気持ちも解らなくはありません。とミサカは自身の恋する乙女っぷりをアピールします」


…………。

806 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 20:25:45.23 OktkxWBDO 433/519

「だから尚更お姉様の事が許せません。とミサカは敵意を示します」


……そっか、そういえばあんた達も当麻の事…。


「……最後に聞かせて下さい。……何故こんな事になってしまったんですか? とミサカはお姉様に真面目に質問します」


……わかんないよ。


…私が悪いのは解るよ?


……でも、自分の気持ちをぶつける事がそんなにいけない事なの?


…私は、自分に正直にしたかっただけよ。


…素直に成れないまま終わるなんて絶対嫌だっただけ……。


「…そうですか。とミサカは一応納得します」

807 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 20:40:21.55 OktkxWBDO 434/519

……もう誰も来ないか。


まあ…別に良い。


周りに誰が居なくなろうと……どうだって良い。


…一つだけ、誰にも言っていない事がある。


私は当麻から生きる希望を貰ってる。


それは、まだ確証がある訳じゃない。


でもわかる。


自分に命が宿った事を確信してる。


…きっと、当麻だ。


当麻が私の子供になってくれる。


…だから平気だ。


たとえ私の周りに誰も居なくなっても。


みんなが私を赦さないと叫んでも。


私は強く生きていける。


絶対に耐えられる。


だから…大丈夫。


また逢えるよ。



………当麻。

819 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 21:54:47.16 OktkxWBDO 435/519



 第22次 幻想殺し関連報告書(最終)

〇月×日 幻想殺し、上条当麻の死亡を確認。

その後、殺害したとされるlevel5第三位 超電磁砲の身柄を拘束、身体検査<システム スキャン>とともに各種検査を実施。

身体検査の結果、超電磁砲の能力levelは0と測定。

これの原因究明の為、検査を続行するも原因は不明に終わる。

その後、超電磁砲の妊娠が発覚。

これによって導き出された仮説が、何らかの理由で胎児に幻想殺しが移動もしくは発生し、母体となっている超電磁砲の“自分だけの現実<パーソナル リアリティ>”に影響を及ぼしていると言う説が立てられる。

その仮説の証明の為に、学園都市統括理事長の許可の元、摘出手術を行い、これを成功させる。

母体である超電磁砲は、能力levelはlevel5に戻り、胎児が影響を及ぼしていたと証明した。

なお摘出した胎児は、超電磁砲のクローンである妹達の製造マニュアルを応用し成長促進、学習装置<テスタメント>による人格生成を執り行う予定となっている。

         以上。

820 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 22:12:31.75 OktkxWBDO 436/519



 route C epilogue

……一年後。

「……御坂さん卒業おめでとうございます!」


「おめでとうございます!」


「うん、ありがとう初春さんに佐天さん」


「あ~あ、来月には御坂さんも高校生かぁ、…なんかちょっと寂しいかも」


「え? なんで?」


「だって高校生と中学生って区切りがついたらちょっとよそよそしくなったりしませんか? そういうのってあたしはやだかな~って」


「佐天さんは考えすぎだと思いますよ?」


「う~ん……そうかな?」


「私は高校生になってもみんなで遊びたいけど? 佐天さんは嫌なの?」


「いっいやそういい意味で言ったんじゃないでしって!! 御坂さんが遠くに行っちゃうんじゃないかな~と心配になって!!」


「……………大丈夫よ、私は私でしょ?」


「………? はい」


「………うん、ちゃんと居るよ」


「……?」

821 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 22:30:22.18 OktkxWBDO 437/519

「…白井さんもくれば良かったのに」


「……黒子?」


「はい、昨日支部に居た時誘ったんですけど…」


「……白井さんも変わったよねー、前はあんなにお姉様ーお姉様ーってしつこいくらいにべったりだったのに」


「…あはは、まあそうですね」


「…ん、ちょっと色々あったからね、その内仲直りするわよ」


「色々っていうと…一年位前に御坂さんが能力使え無くなっちゃったあれの関係ですか?」


「……佐天さん! その話は……!」


「……大丈夫よ初春さん。いい加減私もすっぱり諦めてるし」


「………そうなんですか?」


「うん、…別にlevel5にこだわる必要は無いでしょ? 今のlevel3位の力でも別に不自由はないもん、…常盤代もちゃんと卒業出来たし」


「……はあ、なら良いですけど」


「…そんな事より、ほら! みんな食べましょ! 今日はこれでもかって位甘い物食べるって決めてたでしょ!?」


「………はい!」


「うわー、しばらく体重計は乗れないなぁ…」

824 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 22:48:31.13 OktkxWBDO 438/519


-常盤代中学女子寮-


「………黒子?」


「……何か用でしょうか?」


「……うん、ちょっと話し合いしたくて…ね」


「……なら」


「…………」


「…“お姉様の演技”をまずは辞めて下さいまし…! 見ていて不快ですの…!」


「……」


「………わたくしの前でお姉様の振りは必要無いでしょう…!」


「……そうですね…確かにその通りです。とミサカは素の喋り方に戻して会話をします」


「…………」


「……ミサカを目の敵にするのは筋違いではないですか? とミサカは睨みを効かせている貴女に問い掛けます」


「……確かにそうですわね」


「…まあ納得行かないのは理解しています。とミサカは貴女の心境を理解して同意します」


「……同意して下さるならほっといて貰えませんこと?」


「………」


「お姉様と同じ顔でわたくしの前に居て欲しくないんですの………黒子にとって、お姉様は一人だけなのですから」


「…………」


「……一年前に自殺して仕舞われた…御坂美琴お姉様だけが…!」

825 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 23:09:43.24 OktkxWBDO 439/519

「……ミサカだって好きでお姉様の振りをしている訳じゃないですよ。とミサカはちょっと愚痴ってみます」


「………もう良いですの、…何か用があったのではないのですか?」


「…はい、簡単に言えばもうちょっとミサカと仲良い振りしろよ。とミサカは無茶振りと思いつつ発言します」


「………ホントに無茶振りですの、先程の話の流れでそれを言いますか?」


「…………」


「…まあ、良いですの。……でもあの一年前の…お姉様の自殺の理由を聞かせて貰います…!」


「……マジですか。とミサカはちょっとどうするか考えます……うーん」


「…お姉様が自殺する数日前に言ってました……! 『私は何があっても生きていける』と…! そのような事を言える方が自殺なんてするとは思えません! …あの時何があったのです! 全て教えてくださいまし!」

826 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 23:29:53.01 OktkxWBDO 440/519

「………え…、マジですか運営? ……えー? セロリが多少なら話して良いって? ……えぇー? 何かあったら責任とれよなちくしょう」


「……?」


「……やれやれ、…お待たせしました、…じゃあちょっとだけお話します。とミサカは多少投げやりになりつつ説明を始めます」


「…………」


白井は妹達の一人である…御坂美琴のクローンから話を聞く。


要約するとこういう事だ。

まず美琴が上条当麻を殺害したと言う事。


次に美琴は上条の子供を妊娠していたと言う事。


そして…その子供は、無理矢理美琴の身体から摘出されたと言う事。(…本人には只の中絶手術だと言っていた)


自分の身体に宿った命に、生きる希望を見出だしていた美琴には…それは耐え難い事だった。


「………なん…ですの? ……それ?」


「…………」


「……………お姉様…!!」

829 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/22 23:50:18.64 OktkxWBDO 441/519


…イギリスのとある場所。
「…いないいない…ばー♪」

「あぅー」


「……元気そうだね?」


「あっ! すている!」


「…うん、君もその子も元気そうでなによりだよ」


「うん、すているもかおりもほかにもみんなが支えてくれるからね」


「……そうかい?」


「……ねえ、やっぱりきいちゃだめなのかな?」


「………なにをだい?」


「……この子の父親の事………」


「………………………」


「…みんな何も言わないけど…わたしだけじゃ子供は生まれないもん……」


「………そう…だね」


「……“わたしには一年前からの記憶しか無いから”、…知ってるなら教えてほしいかも」


「……………………」


「……すている?」


「……いや、すまない……僕は何も知らないんだ」

「……そっか」

「……でも」


「………?」


「…………とても優しい奴だった……って聞いた事がある」


「………」


「………優しい…黒髪の人かぁ」


「あーぅー」


「………」


「……すている」


「……ん?」


「ありがとう」

830 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/23 00:03:23.93 QnMwWzYDO 442/519

…時は更に過ぎ去り、数年後。

学園都市の一角に、とある少女が立っていた。


その少女は不幸だった。


…それは、自身の生まれの為か。


それとも…右手に宿る力の為か…。


「………禁書目録…?」


「うん、そうだよ」


その少女に向かい合うように…幼い少年が立っている。


禁書目録と呼ばれた…黒髪の少年はあどけない笑顔を見せる。


「………うさんくさっ」


「…しんじてない!?」


時は廻り、再び幻想殺しは禁書目録に出会う。


科学と魔術が再び交差する時、物語は始まる。

831 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/23 00:04:36.50 QnMwWzYDO 443/519




    BAD END

833 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/23 00:12:10.90 QnMwWzYDO 444/519

ルートC終了です。

…なんかもうぐだぐた。

とりあえず補足すると一方さん達が役立たずだったのは暗部に邪魔されてたとかそれは☆がもっと融通の効くそげぶを欲しがったからとか色々あるんだが…。

…まあ質問された事だけ補足します。

…ちなみにルートCは自分の考えうる限り最低最悪のBAD ENDを目指したものです。…ルートAはただ元から考えてたってだけのルートだ…これより悲惨とかちょっと俺には無理…。

832 : VIPに... - 2011/04/23 00:11:07.20 giHC4ceLo 445/519

BADENDなの美琴だけじゃん

834 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/23 00:15:01.19 QnMwWzYDO 446/519

>>832 …うーんやっぱりそう感じる?

一応インデックスもBADのつもり。

インデックスが記憶無いのはすているがやりました。

839 : VIPに... - 2011/04/23 00:47:09.50 UbAvNgVIO 447/519

美琴の死体はどうなったんだ?
貴重なLevel5だしやっぱ回収されてていとくんみたいになってるのかな

841 : VIPに... - 2011/04/23 00:57:05.58 QnMwWzYDO 448/519

>>839 …そうかもね。

入れ替わりは美鈴さんにも旅掛さんにも一応知らされてない。…気づいているかどうかはまた別だがそこまて深くやるつもりは無い。
つまり美琴の死体は所在不明。ついでに上条さんもだ。

840 : VIPに... - 2011/04/23 00:52:29.92 lLu/nyyxo 449/519

これは美琴が幻想殺しとして、上条さんが禁書として生まれ変わって再会したということ?

842 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/04/23 01:05:24.65 QnMwWzYDO 450/519

>>840 うんにゃそうじゃないお。
ただ単に幻想殺しと禁書目録は世代を変えても様々なものに巻き込まれるって描写。

禁書目録はもちろんインデックスの子供。…完全記憶能力を持っていた為にイギリス清教に魔導書叩きこまれた。
美琴の子供も言わずもがな。上条さんより扱いやすい幻想殺しとして学園都市に飼われてます。

つまり救いがねぇ…。




879 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:39:04.38 qwWJTIfDO 452/519


…まずはインデックスを捜さないと…!



「……御坂すまん、今は急いでるんだ」


「…え?」



上条はそれだけ言うと、再び街の中を駆け出して行った。



「……………………………………………………………………………ふん」



その場に残された美琴は、つまらなそうな顔つきでその後ろ姿を見ていた。



「……結局、当麻は私の事なんかどうでもいいって事?」



その言葉に反応する者は誰も居ない。


「……まあ、…まだいいわよそれで」


美琴は上条とは別の方向に歩きだす。


「…私もちょっとやる事あるしね」

880 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:41:07.67 qwWJTIfDO 453/519


 18 A

「………しらい? なにをそんなに怒っているの?」


「…貴女はホント~に空気読みませんわね、さっきのはガチで焦りましたの!」



インデックスは白井黒子に連れられて、夜の街を歩いていた。


二人は先程の美琴とのやり取りについて話している途中である。



「…まあ良いですの、貴女がそのように考えているとは以外でしたが」


「…そうなの? なにか変かな?」


「いいえ? むしろ殊勝な考えだと思いますわよ?」


インデックスの先程の行為…美琴の記憶に関する、彼女の考えを聞いた白井は素直にそう思った。


「…わたくしは間違っていたんでしょうか?」


白井は美琴の記憶を弄ぶような自身の判断に……今更ながら疑問を抱く。



「あの時は仕方がなかった…と、それで済ませてお姉様の傷を見えないように隠しだだけですものね……わたくし達は」

881 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:43:31.73 qwWJTIfDO 454/519




「……」



あの時はそれが最良だと考えていた。


しかし、その判断は最悪の結果を招いてしまったのかもしれない。



「…お姉様の付き人失格ですの」


「しらい…」



肩を落として呟く白井。


「…お姉様の気持ちを考えるなら…貴女の言うように全てを明かすべきですわね」


「……うん、そう思うかも」



白井は自らの誤りを認め、そう考えた。


インデックスと同様に、彼女の想いに同調する。



(今からでも…間に合いますわよね?)


(…お姉様)

882 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:44:48.21 qwWJTIfDO 455/519



Prrrrrr!


会話の途中、白井の携帯から電子音が鳴り響いた。



「………この番号は」



自身のメモリには登録されていない番号。


だが、白井はその番号には見覚えがあった。



「………もしもし」



通話ボタンを押して返答する。



『…お久しぶりです、白井黒子さん』



「…海原光貴…の偽物さんですわね?」



電話の相手は、あの時…美琴が暴走した時に姿を見せていた人物からだった。

883 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:46:31.64 qwWJTIfDO 456/519


 19 A

「…では土御門、あの子は無事なのですね?」


『ああ、今は白井という常盤台の学生と一緒に居るぜい』



土御門からの電話に応答しながら…、神裂火織はため息を漏らした。


そのため息は安堵の為。



『…今なら禁書目録を俺の方で保護出来るがどうする?』


「………」



土御門の問いに…しばし黙り込む。



(………あの子の身の安全を優先するならそうすべきですが)



…それでは彼女の意志を蔑ろにしてしまうのではないだろうか?

884 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:48:12.43 qwWJTIfDO 457/519



『……上条当麻はまだ禁書目録を探しているみたいだな……携帯も持たずに街を駆けずり回っているらしいから無事だと連絡しようにもその手段がないですたい』


『そう…ですか』



彼女…インデックスは彼が捜し回っている事に気づいているだろうか?


「…彼は」


『………』


「……彼は、自分がどうするべきか…答えを出したのですか?」


『…さてな、それは本人じゃないとわからんぜよ』



神裂の呟きに土御門はそう答える。



「…土御門」


『……なんだにゃー?』


「……あの子が幸せになる為には、…私達は動くべきですか?」


『………』

885 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:49:50.93 qwWJTIfDO 458/519



今、彼女が望む事は何だろうか?


神裂はそれを考えていた。


「私達があの子に出来る事は何でしょうか?」


『……心配なのは分かるんだがにゃー、ねーちんは思い詰めすぎだぜい?』


「………」


『…ステイルにも言ったがあいつを…上条当麻を信用してやれ、奴が禁書目録を裏切るような事はもう二度と無いはずだ』


「それは…そうですが」


『ねーちんが迷ってるなら俺から言うぜよ。後の事はカミやんに任せれば良いですたい、…ぶっちゃけ俺らが動くのは野次馬と変わらんにゃー』


「……………」


『まあどうするかは自由だぜい、ねーちんが最良だと思う行動をすれば良いですたい』

886 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:52:41.00 qwWJTIfDO 459/519


「……はい、そうですね……ではまた連絡します」



会話に区切りがついたので通話を終わらせる。


それから横に立っているステイルと目を合わせた。



「……で、どうするんだ神裂?」



「……様子を観ます」


「…そうか」



神裂の言葉を聞きながら煙草の煙を吐き出すステイル。



インデックスの無事が確認出来たからであろう、ステイルはゆったりとした動作で煙草を吸っている。



「ならまずは上条当麻を見つけようか、あれがどうするのか確認したいからね」


「ええ、そうですね」



神裂とステイルは動きだした。


彼と彼女を見守る為に。

887 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:54:14.33 qwWJTIfDO 460/519


(…もう私達がしても良い事はこのくらいでしょう、……あの子を守らなくてはならないのは上条当麻なんですから)


神裂はそう判断した。


確かに自分達が動けばインデックスの身体だけは守る事が出来る。


…でも、心はどうだ?



(…私達ではあの子は幸福に出来ない)



心だけは守れない。


それが分かっているからステイルも黙ってついて来ているのだろう。



「……上条当麻」


「……頼みますよ!」

888 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/08 07:56:52.57 qwWJTIfDO 461/519


 20 A

「……………」



一方通行は夜の学園都市を歩いていた。


それはただ単にコンビニに買い物に行くだけ、ただそれだけの用事なのだが…。



「…くそっ、面倒臭ェ野郎に」


「…一方…通行!」


一方通行が遭遇したのは、御坂美琴。



「………ッ」



美琴は一方通行と向かい合った途端、険しい顔つきになる。



「………はン…、随分つまンねェ顔をするようになったじゃねェか、超電磁砲<オリジナル>」


「…五月蝿い」



美琴の身体から紫電が弾ける。


美琴の顔には怒りと憎しみの他に…焦りの色が強く出ていた。



「……なんでいつも…! お前が出て来んのよ…!」


「…一方通行!!」

895 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/13 13:10:23.41 dLsNwJdDO 462/519


「…いつも、ねェ…」



美琴の反応で、一方通行はある事に気が付く。



「……なンでテメェはそンな反応をしやがンだ?」


「……ッ」


一方通行が美琴と係わったのは過去に二度しか無い。


一度目はあの実験の時。


そして二度目が、二ヶ月前の…美琴の暴走を止めた時だ。


…あの時の記憶は、目の前の奴は覚えていないはずだ。


そうなるようにわざわざ第五位に貸しまで作って記憶に蓋をしたのだから。

896 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/13 13:11:34.23 dLsNwJdDO 463/519



「…俺を邪険にすンのは当然だろォが、…その口ぶりが気にいらねェな」


「…………なんの事よ」


「ごまかそォとしてンじゃねェよ、…テメェ思い出したな?」


「…………」


たった一言。


ただそれだけで美琴の状態を見抜く。



「……チッ、その様子じゃテメェはあの時と同じみてェだな」



一方通行は美琴に一歩近づく。



「………ッ」



近づく一方通行を警戒してか、美琴も一歩後退する。



「胸糞悪りィし気も進まねェが……」



また一歩近づく。


近づきながら、首のチョーカーに付いたスイッチを切り替える。



「…今度こそ頭冷やして貰うぞ、…無理矢理にでもなァ…!」

897 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/13 13:29:15.87 dLsNwJdDO 464/519


 21 A

「……ではお姉様は全て思い出しているんですのね?」



白井黒子は、電話越しに語られる状況に…眩暈を覚えるような心境だった。


『…貴女をあまり深く係わらせない方が良いと判断して今まで伏せていましたが…そうも言ってられない状況かもしれないので』



電話を通して語る声は申し訳なさそうな声だが…あくまでも冷静で、落ち着いた印象を受ける。



「むしろもっと早く伝えて欲しかったですの…わたくし不安で胃に穴が空くと思いましたわ」


『…もっともですね、そこは謝罪しましょう』

898 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/13 13:49:28.39 dLsNwJdDO 465/519


「…それで、貴方はわたくしにどのように動いて貰いたいのですか?」


『……話が早くて助かります』


このタイミングで自分に連絡してきたという事は…そういう事なのだろう。


自分にやって貰いたい事があるのだ。…つまり、自分を利用しようとしているのだろう。



「事と次第によりますが敢えて利用されて差し上げますの、わたくしはどうすれば宜しいのですか?」



白井は電話越しに会話する人物…海原の偽物の事を信用などしていない。


わざわざ他人の姿を借りて本当の姿を隠しているのだ、そこは当然だろう。


だが…その行動までは否定したりは出来ない。



(…この男もお姉様の為に動いているようですわね)


その部分だけは、信用しても良い。

899 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/13 14:11:42.51 dLsNwJdDO 466/519


 22 A

「…さて」


白井黒子との会話を終えた海原…その姿を借りたアステカの魔術師、エツァリはこの先の行動について思案する。


(…禁書目録の方はこれで安全でしょう。…こっちは自分にはあまり関係無いですが…彼女に危害を加わえると御坂さんの立場が悪くなるでしょうからね)


彼が白井黒子に頼んだ事は…禁書目録を速やかに安全な所に待避させる事だ。


他の連中は見守る事にしたようだが…自分にはあれの想いなど知った事では無い。



「……彼が御坂さんを選んでくれていたのなら良かったのですが」



…それはもう叶わないだろう。


今、彼がこの学園都市を駆けているのは禁書目録の為だ。


自分が想う者、御坂美琴の為では無い。

900 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/13 14:49:20.50 dLsNwJdDO 467/519


「はたして、そう上手く行くかにゃー?」



背後からの声で、意識を内から外へ向ける。


声の主は、土御門元春。


「…貴方は彼の方を見ていたのでは?」


「そっちは他の奴に任せてきたぜい」


「そうですか…」


「……一方通行が超電磁砲と接触した」


「………!」


「どうやら戦闘に入ったらしいな、…一方通行に連絡しなかったのがまずかったかもな」


「……御坂さん」


「…俺はそっちにはあまり関わるつもりは無い。…だがお前はどうする?」


「………」


海原は土御門の問い掛けには答えない。


…そのまま彼の横を通り過ぎて目的の場所へと向かう。


金星の光は…太陽の下では感じる事は出来ない。


だが、それは存在しないのでは決して無い。


日が沈めば金星は輝く。


そして、今は夜だ。


光に紛れていた金星が、微かにだが輝く。


再び太陽が昇るまでの僅かな時間だが…彼は輝く事を決意した。


たとえ、その光が彼女に届かなくとも構わない。


それでも、自分の想いが変わる訳では無いのだから。

901 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/17 20:15:37.17 HFtiNHDDO 468/519


 23 A

夜の学園都市に鳴り響く音…そして瞬く光。


その源となる存在は学園都市第三位、御坂美琴。


彼女は自身の能力を最大限に駆使していた。


電磁力を使い、地面を平面的に移動するだけで無く、群立するビルや鉄柱などを利用してより多方面に、より複雑な動きを見せている。


さらに、もっと単純な…彼女の最もシンプルな能力の使い方である電撃。


それを使っての牽制。…電撃の光を使った目眩まし。

彼女…御坂美琴は自身の持つ全てを駆使していた。


それは、逃げる為にだ。


最強の能力者…学園都市の第一位、一方通行。


彼女にとって最悪の存在。


悪魔にも等しい憎むべき存在。


彼から逃げる事に、御坂美琴は必死だった。

902 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/17 20:36:08.07 HFtiNHDDO 469/519


迫りくるあれは、絶望だ。


追いつかれれば…自分の望みは叶わなくなる。


…嫌だ。


そんなの絶対に嫌だ。


もう忘れたくない。


もう失いたくない。


…もう、泣きたくない。


なのに…なんで邪魔するのよ。


そんなにいけない事なの?


当麻を好きでいる事が。


当麻の傍に居たいと想う事が。


そんなはず……無い。


絶対に無い。


ちがう、…駄目だとしても構わない。


たとえ誰に否定されても…誰も認めてくれなくとも。

私は、私の想いを貫くんだ。


だから……誰にも邪魔はさせない。

905 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/24 18:04:43.23 GgNrsegDO 470/519

「…いい加減諦めろ超電磁砲<オリジナル>」


「………っ…!」


一方通行は、美琴の進路を塞ぐように立ちはだかりながら告げた。



「テメェの力じゃ俺から逃げンのは不可能だ」



美琴が咄嗟に放った電撃を何も無い上空へと反射しながら、一方通行は舌打ちする。



「……これで8回だ」


「………」


「…俺のお情けで殺さなかった回数、気づいてねェとは言わせねェぞ」


…分かっている。


たった数分の間に…第一位と第三位、その実力の圧倒的な差を痛い程に感じている。


「……」


でも。


「………だから何?」


美琴は決して諦めようとはしなかった。

906 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/24 18:27:09.28 GgNrsegDO 471/519



「…逆に言えばあんたは8回、私を殺せなかった」


「………」


「それはなんでかしら?」


「……くだらねェ」


美琴の言葉をその一言で跳ね退ける一方通行。


それを聞いた美琴は、以前聞いた話に確信を得た。


「……妹達<シスターズ>」


「…………あン?」


「…あの子達とあんたが繋がりを持っているって話……どうやら本当らしいわね?」


妹達と一方通行の間にあの実験の時とは違う…新しい繋がりが出来ている。


以前のような殺す側と殺される側といったものでは無い、…何か絆のような繋がりが。


「…あの子達の一人から聞いた事がある、あんたはあの子達を傷つける事を極度に恐れている…ってね」


「………………」


「……なら、あの子達のオリジナルである私は? あの子達と同じ遺伝子、同じ顔を持っている私はどうかしら?」

907 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/24 18:38:30.99 GgNrsegDO 472/519


「………チッ……」


「……無理なんでしょ? だからこそ私はまだ生きている」


美琴は未だ追い詰められた状態だ。


だが、たった今述べた事が真実ならばいくらでも付け入る隙がある。


「……殺さずに止めようなんて思っているならあんたこそ諦めろ…!」








「私の想いはそんなに軽いものじゃない」

908 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/24 19:06:44.43 GgNrsegDO 473/519



「……そこまでです、御坂さん」


ふと、どこからか声が聞こえてきた。


「…………誰?」


声は近くに枝分かれしていた狭い路地の奥から聞こえてきたようだ。


微かにだが足音が近づいて来ている。


「…………海原か」


同じく声がした路地に顔を向けていた一方通行が声の主を言い当てる。


「…海原 ……海原光貴?」


その人物は美琴も知っている……だが。


「…流石です一方通行。今の自分は海原光貴の姿も声も借りていないのに見抜くとは」


「…はン、オマエのいけ好かねェ雰囲気だけあれば馬鹿でも分かるだろォよ」


路地の奥から姿を現したのは、褐色の肌をした男だった。


「一応自己紹介をしましょうか、…海原光貴の姿でしかお二人には接していませんでしたし」


(……こいつあの時の)


美琴は思い出す。


現れた男は以前…あの夏休みの最後の日に彼と対峙した男だ。


「自分の本当の名前はエツァリと言います」


「………」


「…御坂さん、貴女を止める為に…自分は今ここにいます」

909 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/24 19:32:38.65 GgNrsegDO 474/519



「……私を止める?」


この男はいきなり現れて何を言い出すのか。


「………また邪魔? …どいつもこいつも…!!」


美琴の顔がさらに憎悪で歪む。


「そんなに楽しい? 私の邪魔をすんの? …ねぇ?」


辺りに電撃による火花が爆ぜる。


美琴の怒りは爆発する寸前だった。


自分を慕っているはずの黒子に。


何故関わってくるのか理解が出来ない、出会いたくもない存在である一方通行に。


さらには自分がよく知らない男にまで。



「…うっとうしいのよ」


「………全員死ねば良いのに」

911 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:09:35.43 jCac9tMDO 475/519

「…………」



一方通行はもはや話は通じないと断して、前に出ようとした。


だがその歩みをエツァリは片手で制する。



「………退け」


「退きません、…ほんの少しでいい、彼女を説得する時間を下さい」



エツァリは視線を美琴に向けたままで一方通行に頼む。



「……人の話を聞くよォな状態に見えンのかよ?」


「…………」



一方通行の指摘を無言で返す。



「………チッ、好きにしろ」


一方通行はエツァリの意思は揺るがないだろうと思い、その場から少しだけ離れた。



「………ありがとう、一方通行」



エツァリは視線を動かさないままで、小さくその言葉を放った。

912 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:12:53.74 jCac9tMDO 476/519



「……勝手に話を進めてんじゃないわよ」



そのやり取りを見ていた美琴は、まるで全く面白くない芝居を見せられているような、…ただただ時間を無駄にしたような怒りが込み上げてきていた。



「説得? …私を? 何に対して?」


「…………」


「そんなに私が異常? …ううん違う、……なんであんたのような良く知りもしない奴からそんなもんされなきゃいけないの?」



バチバチと電撃を爆ぜさせながら美琴は続ける。





「私の前から消えろ、私はお前の指図も受けないし話も聞かない」





「私の前に立つな、私の視界に入り込むな」





「邪魔をするから私はそれを掃うだけだ、邪魔をしなければそんな事私はしない、…黒子も、あの女も、…一方通行も、私の邪魔をするから…私はそれを掃うだけなのに!」

913 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:14:55.00 jCac9tMDO 477/519



「………御坂さん…」



エツァリは彼女の名前を呼ぶ。



「…自分は貴女がおかしいとは思っていません」



「その感情は…人ならば誰だって持ちえるモノですから」


「…でも、その想いは貴女を傷つけている…今も傷つき続けている」


「その傷が疼くから貴女は苦しむ、…疼いて、掻きむしるから更に傷が広がって痛みが増すんです」


「……………」

914 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:16:24.89 jCac9tMDO 478/519



「自分達は…貴女にその傷の存在を忘れさせました」


「…勿論あの時はその場凌ぎのただの応急処置でした、…時期が来れば、もしくは彼の側からそれの対処をして貰うつもりで…実際に偶然ですがそうなりました」


「…………それが何?」



「…仕方なかったとはいえあれは失敗でしたね、記憶に蓋をした事も、…貴女がそれを取り戻したタイミングも最悪と言っていい」


「……………」


「…あれが無ければ、貴女はこんなに狂う事も無かったでしょう」


「……何? …もしかしてそれって謝ってるの?」


「…いいえ? 謝罪なんて無意味でしょう? …貴女はもうそんな事どうでもいいはずです」


「……………」


「これはただの自分の反省みたいなものです、…貴女に聞かせたい事はまた別にありますよ」


「……」

915 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:18:11.56 jCac9tMDO 479/519



「…簡単に言いましょう、彼を…上条当麻を諦めて下さい」


「………………」


「…貴女はもうとっくに気づいてるはずです、彼はもう貴女には振り向かない」


「貴女がしている事は…玩具を欲しいと駄々をこねて親を困らせているのとほとんど変わらない…買って貰えないとすでにわかっているのにただ甘えたいから我が儘に振る舞っている…少しだけ賢しい子供と同じだ」


「それだけならまだ可愛いで済むかもしれない、…でも貴女には力がある」


「簡単に人を傷つけてしまえる力が」


「…自分は貴女が傷つく所は見たくないし、貴女が人を傷つける所も見たくありません」


「……だから、諦めてくれませんか?」

916 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:19:42.96 jCac9tMDO 480/519



エツァリの言葉を聞き終えた美琴の反応は、このようなものだった。



「……ふ…ふふ」



顔を僅かに臥せ、息を吐くような微かな笑い声。


そして。



「…ふ…あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!」



それはすぐに狂ったような笑い声に変貌する。



「……やはり、聞き入れては貰えませんか」



その笑い声を聞きながらエツァリは落胆の声を上げる。

917 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:21:14.47 jCac9tMDO 481/519



「聞き入れる? 何を? さっきあんたがほざいたの馬鹿みたいな事を!? ……あはははははははははははははははははは!!!! なにそれ? 出来る訳無いじゃん!! 構って貰いたくて何が悪いの? 一緒に居たいと思って何がいけないのよ!? 我が儘の何処が悪い? 子供じみた駄々がなんで駄目なの!? そうさせてる奴が居るからそうしてるだけなのになんで私が責められるの!?」


「…………」


「なんとか言いなさいよ? …くっふふ…あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!」



…やはり自分では駄目なようだ。


偽りの仮面を脱ぎ捨て、本当の姿を晒して…自分の本心を紡いでも……彼女の心には届かない。



(……残念です、御坂さん)

918 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:22:35.04 jCac9tMDO 482/519




もう彼女を救う手段は自分の手元には無い。


…いや、きっと始めから無かったのだろう。


自分では彼女に遠すぎた。


自分の言葉は彼女には届かない。



(…わかっていた事ではありますけど、突き付けられると辛い物ですね)


「……本当に残念です、御坂さん」

919 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:23:32.96 jCac9tMDO 483/519


「…………一方通行」


「……なンだよ」


「…彼女を止めて下さい、もう十分です」


「…………けッ」


「…良いンだな? 次は第5位の甘っちょろいシケた蓋とは比較にならねェ………俺の能力で脳細胞に記録されたメモリを直接破壊すンぞ」


「構いません、寧ろそれが御坂さんの為になります」



「…彼女の思い出を」







「殺してあげて下さい」

921 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 17:43:37.26 jCac9tMDO 484/519


「……冗談じゃない」



エツァリの言葉に反応したのは美琴だった。



「思い出を…殺す?」



紫電を身体に纏わせて、その怒りを外側へと放出する。



「…ふざけんな、…………………ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」



叫びと共に、四方八方に電撃の槍が放たれる。



「嫌だ…!! 絶対に嫌!! もう亡くさないって決めたんだ!! もう失ったりしないって決めたんだ!! …例えどんな事をしたって私の心は殺させたりなんかするもんか!!」

923 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 18:12:01.48 jCac9tMDO 485/519



美琴は電磁力を操り、近くにあった街灯へと自身の身体を誘導する。



「あんたらの何処に私から思い出を奪う権利があるの? …これは私のモノだ!! 他の誰が好きにして良いモノじゃない!!」


張り付いた街灯を足掛かりに更に上へ、…ビルの側面を伝い…駆け上がるように移動する。



「私の大切なモノを奪うなら…!!」


「………ッ!!」


ビルの屋上に到達した美琴。


「……オマエ…ッ…!!」



…そこには事態を見守る影が一つあった。



「……あんたも失う覚悟を決めろ!!!!」

924 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 18:24:06.92 jCac9tMDO 486/519


美琴の動向を主に監視していたのは…他でもない彼女達だ。


今現在の一方通行との接触は、ただ偶発的に起きたものであるが、その事態を放置などしないだろう。


それは、誰かに従い行った事ではなく…彼女達自身が決めた事だ。


一方通行を介入させたのも彼女達の進言による所が大きい。


妹達<シスターズ>



御坂美琴の軍用クローン、彼女達の一体を、美琴は捉えていた。


一方通行の弱点となりうると確信した存在。


今の御坂美琴には、それ以外に思う事は無い。

926 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 18:47:47.97 jCac9tMDO 487/519



……………


一瞬で目の前が真っ白になった。


……何が起きた?


………身体が…痛い。


……私は…どうなった?


………



「……俺が甘かったみてェだな」



……声が聞こえる。



「まさかオマエが……こいつらに手を出すとは予想して無かったからなァ」



…声の主は……一方通行。


……そうだ、私はこいつから…逃げなくっちゃいけないんだった。


…だから、近くに居た妹を盾にしようとした。



「…俺がオマエの行く手を阻む理由……理解出来たかよ?」



…痛い、……身体が動かない。



「……オマエは周りが見えてねェ、…オマエが守ろォとしたもンまで…今のオマエはぶち壊す」



一方通行の背中に白い翼みたいなものが見える……天使? ……あんたが?




………笑えない。

927 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 19:11:09.81 jCac9tMDO 488/519

「……あ…ぐ…っ…?」


「…………」


それは一瞬だった。


美琴が妹達の一人に、攻撃を加える刹那…。


辺りに光が噴き出した。


否、…それは白い翼のようなものだ。


一方通行の身体から顕れたそれは、直後に美琴の身体を吹き飛ばし…ビルの屋上にたたき付けた。


「…………と………ま…」


一方通行は美琴を捩伏せ、傍らで見下ろしている。


「………助……け……」



目の前の少女は…ボロボロに痛めつけられた身体の痛みからか、大切なモノを失う恐怖からか……大粒の涙を流している。



「…………」



一方通行は哀れむような眼を彼女に向ける。


出来る事ならば…傷つけたくはなかった。


自身が守ると決めたモノと同じ姿をした少女を。



「………や…だ………と…ぅ……ま…!」


「…………」


…これ以上は見るに堪えない。



「………今、解放してやる………もう楽になれ」



一方通行は美琴の額に手を差し伸ばした。

928 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/05/30 19:24:20.63 jCac9tMDO 489/519



「…待って!!」


一方通行の手が美琴に触れる寸前で、それを制止する声が掛けられた。


一方通行はその声のした方へと眼を向ける。


そこに居るのは、白い修道服を着た銀髪碧眼の少女。

それに…。



「………白いチビガキと………テメェか」



「……一方通行」




上条当麻。


その二人が、必死な面持ちでこちらを見据えていた。

937 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/03 20:59:12.54 yr+Ec17DO 490/519


 行間(Final)


「インデックス…!」


「……っ…!」



上条は夜の学園都市を走り続けて、遂にインデックスを見つけ出した。

彼は、すぐさま彼女の元へと近づいていく。


「…よかった、……探したぞマジで……!」


「……とうま……あ!」



上条はインデックスの目の前まで来ると…倒れ込むようにへたり込んでしまった。



「…くそ…! …足に力が……くそ!」



ずっと宛ても無く走りつづけたのだ、彼の身体はとっくに限界だ。


「……わたしを…さがしてたの?」


「当然だろ!!」


「…っ」



インデックスの言葉に上条は間髪入れずに返す。


荒く息を吐きながら、まともに立ち上がる力すら尽きたはずなのに、…その一言だけは力強く。



「……もう…会えないかと思ったぞ……!」



彼がインデックスに向ける顔は、くしゃくしゃで涙が滲んだ泣き顔だった。


それでいて、心から安堵した微笑みにも見えた。

938 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/03 21:25:02.74 yr+Ec17DO 491/519


「………ッ」


インデックスは、上条が自分を探していた事を、素直に嬉しく思った。


彼は、全て知った上で自分を探してくれていた。


それだけで瞳の奥から込み上げていくものを感じる。

…でも。


「………とうま」


まだやる事がある、彼も……自分も。


「…おねがい、…もう少しだけ頑張って?」


インデックスは白井と離れて行動していた。


白井達の言う通りに、安全な所へと行く事は出来ない。…それでは何も解決しない。


だから、隙を見て抜け出してきたのだった。


「…美琴を」


インデックスが向かっている先で、時折まばゆい紫電が闇を照らしている。


「助けてあげなきゃ」


インデックスは美琴と一方通行が戦っている事までは知らない。


でも、彼女は今…苦しんでいる。


その苦しみを取り払うには

彼と……自分が行かなくてはいけないはずだから。

952 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/04 23:30:53.26 FX+LKULDO 492/519


 24 A

「…一方通行」


「………」



上条の呼ぶ声に、一方通行はただ無言で返す。


しゃがみ込んでいた体制から立ち上がり、向かい合うように身体の向きを変えた。



「……一応聞いといてやる…何しに来たンだテメェは?」



一方通行は上条に問い掛ける。



「……止めに来た、もう十分だろ…!」

953 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/04 23:33:11.20 FX+LKULDO 493/519



「……止めに…ねェ、……それはどっちに吐いた台詞だソレは?」


「…………」


「…俺に言ったンなら聞けねェな、超電磁砲<オリジナル>が危険なのはもう疑いよォがねェ、…それを放置する程俺は甘くもねェ」


「…ッ……!」



一方通行の言葉に上条は何も言い返せない、…ただ拳を強く握り絞めるしか出来ない。



「……とうま」



一方通行の傍らで倒れる美琴を抱き寄せるインデックスは二人のやり取りをただ見守る。


美琴は意識を失っているのか、何の反応もない。

954 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/04 23:34:43.39 FX+LKULDO 494/519



しばし、その場を沈黙が支配した。



「………頼む…!」



その沈黙を破ったのは、上条。



「………あン?」


「………これは…御坂の事は俺が悪いんだ…」


「…………」


「……だから、御坂の事は俺がなんとかしなくちゃいけない事なんだ…! だから…」



苦しそうな表情を浮かべて上条は言う。


「もう止めてくれ…! 一方通行!!」

955 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/04 23:36:06.73 FX+LKULDO 495/519



「……………」



上条の必死な言葉。


それを聞いた一方通行は、怠そうに息を吐いた。


「……ったく、くっだらねェな」


「………」


「…もともと俺はやりたくてやってる訳じゃねェ、…誰も止めらンねェから仕方なくやってるだけだ」


「…一方通行」


「テメェがキッチリとケツ拭くってンなら俺は何もしねェ……出来ンならなァ」


「………」



一方通行はかったるそうにその場から離れる。



「……この程度でうだうだしてンじゃねェっつの馬鹿が、…じゃあな元凶」



それを最後に言い残し、一方通行は夜の闇の中へと消えて行った。

956 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/04 23:37:31.37 FX+LKULDO 496/519




「…………」


「………とうま」


「………まずは御坂を病院に連れていくか」



インデックスが抱き寄せている美琴を、静かに受け取る。



「………元凶、か」



上条は美琴を抱えるように抱き上げながら呟く。



「……確かに…な」


「……とうま」


「…………行くか」



そして、夜に静けさが戻る。

957 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/04 23:55:24.67 FX+LKULDO 497/519


 25 A

…翌日、美琴が目を覚ましたのは病室のベッドの上だった。



(………………)



何故、自分がここに居るのか覚えていない。


記憶が途切れる前の最後の光景は…一方通行に捩伏せられて…夜の闇の中で光る紅い眼を見上げている所だ。



(………忘れて……ない)



自分の記憶は奪われていない。



(……当麻の事、ちゃんと覚えてる)

958 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/04 23:58:26.16 FX+LKULDO 498/519




…何故?


あの状況で…一方通行が自分の事を見逃した?


…判らない。


「……………!」



起き上がろうと身体を起こしてから気づいた。


自分のベッドにもたれ掛かって……静かに寝息を起てている人物に…。


「………」


…起きる気配は無い。





美琴は微笑む。





ただ…その顔に笑顔を作る。

960 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:27:38.33 Sw2Dw67DO 499/519


 routeA epilogue


病室を離れたのはほんの少しの間だった。


理由だってたいした事のないものだ。


油断した?


…違う。


本当にそんな事になるなんて思っていなかった。


目が覚めたら、話し合うつもりだった。


自分が元凶になった事。


二人の少女を傷つけてしまった事から。


もう逃げたりしないと、決めた。


決めていた。


誰も傷ついたりしない方法を探して、…必ずそれを選ぶって。


……なのに。

961 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:29:17.63 Sw2Dw67DO 500/519


「……御…坂…?」


「……………当麻…?」


「…イン…デック…ッ!!」



上条は目の前の光景を現実と受け止める事が出来ずにいた。


美琴の手の中には刃物が携えられていた。



何処にでもあるような、簡単な造りの果物ナイフ。



それは今、赤い液体を滴り落としながら鈍く光を反射している。



「……あ~あ、後は隠すだけだったのに」



彼女の足元には、…ナイフに附いたものと同じ色をした水溜まりが出来ている。


「……ぅ…ぁ……?」



その赤いものの中心に、…そこにあるモノをただ見つめる。



「…はぁ、…上手く行かないなぁ…ホント」

962 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:30:47.10 Sw2Dw67DO 501/519



それは、もう動かない。



もう何も語らない。



…もう、笑わない。



「……な…んで……」



決めたばかりなのに。



「……なんで…!!」



まだ、自分は何もしていない……償っていないのに。





「……………御坂あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」

963 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:31:53.89 Sw2Dw67DO 502/519




上条は叫ぶ。



悲しみよりも……怒りと憎しみが心を支配する。



「あぐっ!? 当…ま…がふっ…!!」



…否、感情をぶつける先があったから、……憎悪を言い訳にして、悲しみから逃げ出したのだ。

965 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:33:39.65 Sw2Dw67DO 503/519

…死んだ。
守ると決めていた存在は、突然…何も告げられずに。止められなかった。
自らの行いが原因で、狂ってしまった少女の愚行を。

何がいけなかった?


自分は…どうすればよかった?


どうしてこんな結末になった?



「…あ…が………ぅ…」


「畜生…畜生畜生!! インデックスが何したんだよ!? なんで…なんでだよ!!!!」



ひたすらに拳をたたき付ける。



「お前の事考えてたんだぞ!? 自分だって辛いはずだったのに…!!」



「なんでインデックスなんだよ!? …なんで俺じゃないんだよ!? ………俺が……俺が全部悪いはずなのに!!」

966 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:35:31.11 Sw2Dw67DO 504/519



「………あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」







その時、上条当麻は砕け散る。







何も出来なかった自分自身への怒りと憎しみを…大切なモノを奪ったモノへのそれに紛れ込ませて…ただひたすらにその現実から逃げた。










もう、以前の上条当麻へは戻れない。

967 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:37:03.27 Sw2Dw67DO 505/519




「…………もう、言って良いよな?」


しばらくして、その動きを止めた上条が呟く。



「…誰も傷つかない最高の結末、…か」



「はは…ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」




上条は…ずっと殴り続けて動かなくなったそれと…その近くにある、血だらけでもう動かないそれをみながら笑う。







「………あーあ」








「…不幸だ」

968 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:38:42.20 Sw2Dw67DO 506/519




    BAD END

969 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/05 01:40:58.10 Sw2Dw67DO 507/519

これにて全部終了です。


…やっと終った。

ラストだけで二ヶ月掛かるとかどんだけ。














983 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 19:48:16.45 ZDJ0QqaDO 510/519

乙センキューだ。

でもなんか1000まで行かない気がするからちょっとなんかやろうと思う。



…で、これを書こうとした段階の時に紙に書き出したものがなんか妙に笑える気がするから投下する。

注意としては、完全に話の内容がズレてる。

台本調でキャラの口調無視してる(ホントに話の骨組みのつもりで書いたから)

途中までしかない。

こんな所だな、では投下。

984 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 19:50:18.99 ZDJ0QqaDO 511/519

 1

黒子「どした?」

上条「……」

黒子「はよ言えや」

上条「インデックスの事犯っちゃった」

黒子「マジか」


 2

禁書「……」シクシク

上条「……えーと」

禁書「………」シクシク

上条「……うーん」

禁書「…とうま?」

上条「………」タタッ

禁書「…逃げた」

 3

黒子「今日はここ泊まれ」

上条「さーせん」

黒子「てめぇお姉様に言うなよな?」

上条「おk、あとインデックス見てきて」

黒子「パシってんじゃねーよKs」

985 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 19:51:58.69 ZDJ0QqaDO 512/519

 4

黒子「来た」

禁書「…とうまじゃねーし」

黒子「で? お前どうすんの?」

禁書「帰って来るの待ってる」

黒子「やめとけ、帰ってこねーから」

禁書「やだ」

黒子「駄々こねんな、奴の担任とこ行くぞ」

禁書「やだやだやだやだ!」

黒子「めんどいなお前」

 5

美琴「どこ行ってたん?」

黒子「ないしょ」

美琴「ふ~ん?」

黒子「……ふぅ」

 6

上条「……はー」

美琴「どした?」

上条「なんでもねーし」

美琴「うそつくな」

上条「…財布落としたー」

美琴「もっとましなうそ付けや」

上条「おうふ…」

986 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 19:53:30.56 ZDJ0QqaDO 513/519


 7

禁書「…まだ帰ってこねーし」

禁書「…………」

禁書「…とうま」グスン

 8

美琴「好き」

上条「…なんだってー」

美琴「好き」

上条「話聞いてた?」

美琴「嘘乙。好き」

上条「…無理」

美琴「……やだ、好き」

上条「困ったな、うーん」

 9

禁書「…帰ってこねーまだこねー」

黒子「お姉様も帰ってこねー」

禁書「あの野郎」

黒子「まさか」

987 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 19:55:09.52 ZDJ0QqaDO 514/519

 10

美琴「やらないか」

上条「なんと」

美琴「やらないか、むしろやれ」

上条「…えー」

美琴「じゃーちゅーして」

上条「…ちゅー」

美琴「……いまだぁ!!」

上条「いやーん///」

美琴「よいではないかよいではないか」

上条「やめろってばよ」

美琴「けち」

上条「帰る」

美琴「…一緒にいるって言ったのに?」

上条「うん」

美琴「…うそつき」

美琴「……うそつき」グスン

 11

上条「ただいま」

禁書「どこ行ってた」

上条「かくかくしかじか」

黒子「てめーなにしてんだこら」

上条「ごめんなさい」

黒子「ざけんなしね」

禁書「ゆるしてあげる」

黒子「えっ」

上条「えっ」

988 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 19:56:46.51 ZDJ0QqaDO 515/519


 12

美琴「うー」

美琴「…やっぱ好き」

美琴「…奪っちゃうか」


 13

小萌「一昨日の事Kwsk」

上条「かくかくしかじか」

小萌「カスが」

上条「でもゆるしてくれたよ?」

小萌「だから貴様はあほなのだ」

上条「えっ」

 14

美琴「当麻よこせ」

禁書「ざけんな」

美琴「あ"?」

禁書「あ"あ"ん?」

黒子「なにこれこわい」

989 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 19:58:37.52 ZDJ0QqaDO 516/519


 15

上条「なにしてんだ?」

禁書「女の」

美琴「戦い」

上条「…えぇ~」

禁書「…で」

美琴「どっちが良いの」

上条「インデックスで」

禁書「わーい」

美琴「…orz」

上条「帰るぞ」

禁書「おk、あばよ負け犬」

美琴「……」

美琴「……まだだ」



美琴「まだ終わらんよ」

 16

禁書「やらないか」

上条「無理」

禁書「けち」

上条「ごめん」

禁書「じゃあ行ってらっしゃいのちゅーは?」

上条「なにそれこわい」

 17

小萌「どうよ?」

上条「インデックスがこわいです」

小萌「しっかりしろカス」

上条「おk、わかた」

990 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 20:00:50.85 ZDJ0QqaDO 517/519


 18

美琴「よこせ」

禁書「またか」

美琴「じゃねーと殺す」

つ包丁

上条「おいやめろ」

ぶすり

上条「…ぐふ」

禁書「とうま!?」

美琴「えっ」



美琴「えっ?」

 19

禁書「…とうまー」グスン

美琴「……」シュン

冥土帰し「大丈夫だし」

禁書「……とうま!」

上条「オレ不死身だし」

美琴「………会わないで帰ろう」トボトボ

美琴「……ごめんなさい」

 20

美琴「……」ウジウジ

黒子「……」

美琴「………当麻」グスン

黒子「やつにたのむしかないな」

991 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 20:02:10.50 ZDJ0QqaDO 518/519


 21

黒子「よし、やれ」

上条「マジか」

美琴「………」ウジウジ

上条「わかた、ゴメンインデックス」

美琴「Ktkr」

 22

禁書「てめー裏切ったな」

上条「すまぬ」

禁書「ざけんな」

992 : しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk - 2011/06/06 20:06:13.22 ZDJ0QqaDO 519/519

ここまでだ。


どうだ全然内容違うだろう。

ぶっちゃけるとヤンデレールガンを特化させ過ぎたのがぐだぐだの原因です。

反省。

では梅をお願いします。

さらばノシ

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