「あのさ、高木さん」
「なに?」
僕の隣の席に座る高木さんは、からかい上手。
そんなことは、わざわざ説明するまでもない。
しかし、今日の彼女は、少し様子がおかしい。
「もしかして、体調が悪いの?」
僕がそう尋ねた理由は、2つある。
ひとつは、顔色が悪いこと。
これに関しては、あまり自信がない。
女子の顔なんてジロジロ見れないからだ。
それでも、いつもより青白い気がした。
ふたつめの理由は、わりと自信がある。
それは彼女のアイデンティティに関わること。
高木さんの習性は、僕が1番が身に染みている。
高木は、からかい上手。
僕のことを、いつもからかってくる。
それなのに、今日は一度もからかわない。
それは、おかしい。
あまりにも、奇妙だ。
こっちはヒヤヒヤして身構えているのに。
今日の高木さんは、僕をからわない。
以上の理由から、体調を伺ってみたのだが。
「私は平気。大丈夫だから心配しないで?」
「でも……」
「西片って、たまに優しいよね」
そんな言葉と共に、不意に微笑まれて。
僕はそれ以上、言葉を紡げなくなる。
酸欠の魚のように、口をパクパク。
顔が熱い。
すごく恥ずかしくて、照れてしまう。
そんな僕を見て、高木さんは笑うだろう。
どうやら上手くからかわれてしまったらしい。
そう思って、抗議しようとすると。
「ぅぐっ……っ!」
「た、高木さん!?」
高木さんは、顔をしかめて、机に突っ伏した。
元スレ
高木さん「間接キスだね」西片「えっ?」
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「そんなに心配しなくても大丈夫だってば」
「でも……!」
「ちょっと休めば平気だから」
あの後。
僕はすぐさま、高木さんを保健室へ運んだ。
しかし、保健の先生は不在らしく。
なにも処置が出来ないまま無力感に苛まれる。
「やっぱり保健の先生を呼んでくるよ!」
「だから、大丈夫だってば」
「だけど……!」
「いいから、ここに居て?」
焦る僕に、そう諭す高木さん。
力なくベッドに横たわる彼女は。
ほんの少しだけ、不安そうな顔をした。
彼女のその表情を見て、冷静さを取り戻す。
今、僕は頼りにされている。
不安げな高木さんを1人にしてはおけない。
だから僕はベッドの傍の椅子に腰を下ろした。
「ありがとね、西片」
「へ?」
「保健室まで、おんぶしてくれて」
そう言われて、自らの振る舞いを省みる。
あの時は無我夢中で、必死だった。
だからつい、大胆な行動に出てしまった。
まさか、女の子をおんぶしてしまうなんて。
覚えているのは、甘い香りと、柔らかさ。
特に、おんぶの際に支えたおしりは、格別だ。
その代わりに、背中にはゴリゴリした感触が。
「西片」
「はいっ!?」
「今、失礼なこと考えたでしょ?」
「いえ! 全然!」
「西片のえっち」
体調が悪くても、高木さんはとても鋭かった。
「高木さん、すごい汗だよ」
いつものように僕をからかって。
少しだけ、笑顔になったけれど。
彼女の、可愛らしい丸い額には。
冷や汗で前髪が張り付いている。
僕は思わず、それを取ろうと手を伸ばして。
「西片……?」
「っ……なんでもない!」
即座に手を引っ込める。
危ないところだった。
この状況で女の子に手を伸ばすなんて。
誰がどう見たって、誤解される。
慌てふためく僕を見て、彼女はくすりと笑い。
「西片、手を出して」
「えっ?」
「こうしてると、落ち着く」
きゅっと、細い指先で僕の手を握る高木さん。
あまりのことに、反応が出来ずに硬直。
そして、伝わる彼女の指先の冷たさに気づく。
「高木さん、手が冷たい」
「ごめん、嫌だった?」
「そ、そんなことはないけど……」
「じゃあ、西片があっためて」
たぶん、今、僕の手は熱いくらいだろう。
頬の熱と同じように、火照っている筈だ。
だからすぐに高木さんの指先も温まった。
「ほんとにありがとね、西片」
僕でも彼女の役に立てたことが、嬉しかった。
「西片」
「なに、高木さん?」
しばらく、彼女の容態を見守っていると。
瞑っていた目を開けて、呼ばれた。
すぐに応じると、高木さんは身を起こした。
「起きても平気なの?」
「うん……それより、西片に頼みがあるの」
「僕に出来ることならなんでも言ってよ!」
弱っている高木さんからの頼み。
それがなんであれ、全力を尽くすつもりだ。
無力な僕には、そうすることしか出来ない。
「水をちょうだい」
「水だね! わかった! いま持ってくるよ!」
すぐに保健室の手洗い場へと向かい。
蛇口を捻って、水をコップに注いだ。
そして急いでベッドまで戻ってきた。
「はい、高木さん」
「ありがと」
コップを受け取った高木さん。
すると、なにやらゴソゴソして。
スカートのポケットから薬を取り出した。
それをこちらに見せて、苦笑する高木さん。
「これ、すごく苦い薬なんだ」
「なんの薬?」
「西片も飲んでみる?」
「え? 僕も?」
「一緒に飲めば、苦さも和らぐかも?」
なんだそれは。
そんなのおかしい。
だいたい、僕は健康だ。
薬なんて飲む必要はない。
しかしながら、なんとも意外だ。
高木さんが苦い薬を嫌いだなんて。
なんだか、幼い少女のようではないか。
そんな彼女を見て、僕は優越感を抱いた。
「はっはー! 高木さんは子供だなぁ!」
ドヤ顔をしつつ、彼女の手から薬を受け取る。
「大丈夫、西片? その薬、すごく苦いよ?」
「へーきへーき! 僕にかかれば余裕だよ!」
優越感に浸った今の僕に怖いものなどない。
本当は、コーヒーとか、苦いのは苦手だけど。
彼女を勇気付ける為に、ひと肌脱ぐとしよう。
「それじゃあ、せーので、一緒に飲も?」
「こっちはいつでもおーけーだよ!」
包みを開けて、飲む準備は万端。
「せーのっ!」
彼女の掛け声と一緒に。
僕は薬を一気飲みした。
粉っぽさが口中に広がる。
そこでふと、気づく。
自分の分の水を汲んでないことに。
そんな僕に、すかさず。
「はい、西片。お水」
気が効く高木さんが水をくれた。
「んぐっ……ぷはっ!」
それを飲み干してから、感謝を告げる。
「ありがとう高木さん、助かったよ」
「ふふっ。どういたしまして」
ニコニコ笑う彼女を見て、違和感を覚えた。
「ところで、高木さん」
「なに?」
「薬、そんなに苦くなかったよね?」
「えー? そう?」
苦いと聞いていた先程の薬。
飲んでみると、然程苦味を感じなかった。
そのことが気になって、追求しようとすると。
「ちなみにあの薬って、なんの……」
「そんなことより、西片」
「ん? どうしたの、高木さん」
高木さんは話を遮り、コップを指差した。
「間接キスだね」
「えっ?」
なんのことだかわからない。
このコップは、僕が水を汲んできたもの。
それを高木さんに渡して、あれ?
なんで今、このコップは僕の手にあるんだ?
たしか僕は、一緒に薬を飲んで。
水がないことに、焦っていたら。
高木さんが、コップを手渡してくれて。
「ええっ!?」
「あはは。ひっかかった」
冗談にも程があるよ。
というか、冗談になってないし。
コップを渡した高木さんの責任だし。
「西片」
「な、なに?」
「ちゃんと責任取ってね?」
どこまで本気なのか、さっぱりわからないし。
「なにはともあれ、元気になって安心したよ」
まったく、結局いつも通り、からかわれた。
それでも、あまり悪い気はしない。
彼女が元気になってくれて、本当に良かった。
「実はそんなことないんだけどね」
「へっ?」
そんなことないとは、どういう意味だろう。
怪訝に思って、彼女の様子を伺うと。
片手でお腹を押さえて、なんだか苦しそうだ。
「た、高木さん、大丈夫?」
「あはは……大丈夫じゃないかも」
苦笑いする高木さんは、酷く辛そうで。
先程までの笑顔はカラ元気であったと気づく。
きっと、僕を心配させまいと隠していたのだ。
こんなに悪化するまで気づけなかったなんて。
自分の不甲斐なさを、痛感した。
「やっぱり、保健の先生を……!」
「西川、待って!」
「た、高木さん……うわっ!」
保健室を飛び出そうとした僕の手を引き。
高木さんが引き留めた。
勢いあまって、彼女のベッドに倒れこむ。
「ご、ごめん……平気?」
「うん、大丈夫」
「す、すぐに退けるから」
「待って!」
彼女に覆い被さったまま。
僕は高木さんに抱きしめられた。
甘い香りと、胸にゴリゴリした感触が伝わる。
「西片……また失礼なこと考えてるでしょ?」
耳元でそんな囁きをされて、頭はパニック。
「そんなことは! いや、そんなことより!」
「いいから、じっとしてて?」
じっとしていろなんて、そんな無茶な。
「た、高木さん、マズイよ!」
「どうして?」
「こんなの誰かに見られたら!」
「見られたら、困るの?」
「そりゃあ困るよ!」
「なんで?」
「なんでって言われても……」
「西片は……私のこと、嫌い?」
極度の混乱状態でも最後の質問は聞き取れた。
「き、嫌いじゃ、ないよ」
「それなら、好き?」
なんだこの質問は。
一体全体、高木さんはどうしてしまったのか。
彼女らしくないと思っていると。
「ぷっ。西片、すごい顔」
おかしそうに噴き出す高木さん。
それを見て、身体中から力が抜ける。
今日のからかいは、僕にとって過激すぎた。
「か、勘弁してよ、高木さん」
「やだ」
「えっ?」
「西片の気持ちを聞くまで、離さない」
どうやら、今日の高木さんは、本気らしい。
「高木さん……?」
「ねぇ、西片」
彼女がどこまで本気なのか、尋ねる前に。
「さっきの薬、なんだったと思う?」
「さっきの薬?」
「私たちが飲んだあの薬が、もしも……」
高木さんが意味深に、一拍置いた、その時。
「っ……!?」
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるぅ~!
なんだ、今の音は。
この世のものとは思えぬ音色。
まるで、地獄の底から響いてくるような。
「下剤、だったとしたら?」
「……えっ?」
そんな、馬鹿な。
嘘だ。信じたくない。
しかし、それは紛れもなく現実であり。
「ふふっ。困ったね」
「た、高木さん……?」
「西片も私も、ここで漏らしちゃうね?」
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるぅ~!
またあの音だ。
しかし、今度は地獄から響いたわけではなく。
間違いなく、高木さんのお腹から、聞こえた。
「そんな……」
「あは。その顔」
愕然とする僕の頬に高木さんの指先が触れる。
「西片の……その顔が、見たかった」
「じょ、冗談はやめてよ」
「冗談なんかじゃないよ。その顔を見る為に、朝下剤を飲んでから、これまでずっと耐えてきたの」
そう語る彼女の口元はだらしなく緩み。
熱に浮かされた瞳は潤みきっていて。
思わず、僕は生唾を飲み込んだ。
「ごめんなさい」
「えっ?」
「私、西片に酷いことしちゃった」
「高木さん……」
一転してしょんぼりした高木さんが僕に問う。
「私のこと、嫌いになった……?」
弱りきった彼女の瞳が。
背に回される細腕の震えが。
その全てが、僕を打ち震えさせた。
「嫌いになんて、なるわけがない」
「でも、私は西片の優しさにつけ込んで……」
「いいんだ、高木さん」
自分を責める高木さんなんて、見たくない。
「君の悦びの為なら、僕は悦んで脱糞するよ」
君の悦びは、僕の悦び。故に謝る必要はない。
「西片……」
「高木さん……」
僕らは見つめ合って、暫しの時が流れた。
とても静かで、心地良いひととき。
しかし、それも長くは続かないだろう。
刻一刻と、運命の歯車は、進み続けている。
「西片、お願い」
「なんだい、高木さん」
「西片の気持ちを聞かせて」
僕の気持ち。
僕は、彼女をどう思っているか。
それは簡単なようで、とても難しい。
高木さんは僕の隣の席の女の子で。
いつも僕をからかって。
いつも僕はからかわれて。
それでも不思議と嫌ではなくて。
どこまでが本気なのかが知りたくて。
「私はね……西片のこと、好きだよ」
「えっ?」
思わず耳を疑った、その瞬間。
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~!
「ふふっ……ふははっ! フハハハハハッ!!」
「あ、あああ、あああ、あああああ!?!!」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
僕は漏らし、高木さんの哄笑が、響き渡った。
「ふぅ……愉しかった」
「うぅ……酷いよ、高木さん」
しばらく悦に浸っていた高木さん。
漏らした僕はシクシク涙を流した。
そんな僕の涙を人差し指を拭って。
「ごめんね、西片。お詫びに手を貸して?」
「へっ?」
「私のお尻が気に入ったみたいだから……」
特別だよと、僕の手をベッドの中に導いて。
柔らかな感触に、手のひらが包まれた。
モチモチで、ふにゃふにゃで、びちゃびちゃ。
そして僕は悟る。
高木さんの尻に触れて。
全てを尻……いや、知った。
高木さんも、漏らしている、と。
「フハッ!」
「水っぽくて、ごめんね?」
水っぽくてごめんだって?
謝る必要なんてない。
全てを尻、全て知った僕は、全てを許そう。
良きに計らえ。
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
今この時、この瞬間。
高木さんの愉悦は僕のものとなり。
僕の愉悦は高木さんのものとなる。
高い次元で僕らは深く、知り合い、尻合った。
「愉しかった?」
「最っ高だったよ!」
全能感と充実感が、胸いっぱいに広がる。
鼻腔をくすぐる便の香りはどちらのものか。
どっちでも良かった。最高の気分だった。
「悦んで貰えて、良かった」
心底ほっとした様子の彼女に、感謝を告げる。
「ありがとう、高木さん」
「感謝よりも聞きたい言葉があるんだけど?」
まるでからかうように、こちらを伺う彼女に。
「……好きだよ」
出来る限り、小さな声で、気持ちを伝えると。
「え? なに? 聞こえなーい!」
「もう、勘弁してよ!」
「あははっ! 勘便して、あげない」
改めてからかい上手であると思い知らされた。
【脱糞上手の高木さん】
FIN